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特許7196830燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04228 20160101AFI20221220BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20221220BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20221220BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20221220BHJP
   H01M 8/04828 20160101ALI20221220BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20221220BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20221220BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221220BHJP
【FI】
H01M8/04228
H01M8/00 A
H01M8/04303
H01M8/0432
H01M8/04828
H01M8/04858
H01M8/04537
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019237960
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021106138
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 朋也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 潤一
(72)【発明者】
【氏名】深見 竜也
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147047(JP,A)
【文献】特開2006-067691(JP,A)
【文献】特開2009-252593(JP,A)
【文献】特開2014-110118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04228
H01M 8/00
H01M 8/04303
H01M 8/0432
H01M 8/04828
H01M 8/04858
H01M 8/04537
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池にガスを供給するガス供給部と、
少なくとも前記燃料電池が発電した電力を蓄電可能な蓄電装置と、
前記蓄電装置における残存容量を検出する残存容量モニタと、
前記ガス供給部を駆動して前記ガスにより前記燃料電池の内部を掃気する掃気処理と、前記蓄電装置の残存容量を前記燃料電池が発電する電力で補う充電処理と、を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池システムの停止指示が入力されたときに、
前記燃料電池の状態に関わる温度が予め定めた閾値以下であることを含む低温条件が成立するか否かを判定し、
前記低温条件が成立する場合には、前記低温条件が成立しない場合に比べて、前記燃料電池の内部に滞留する水分を前記燃料電池の外部に排出させる程度が大きくなるように、前記掃気処理を実行し、
前記低温条件が成立する場合には、前記低温条件が成立しない場合に比べて、前記蓄電装置の目標残存容量の値を小さく設定して、前記充電処理を実行する
燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記蓄電装置の温度を検出する第1温度センサを備え、
前記制御部は、前記蓄電装置の温度が、予め定めた第1基準温度以下であり、且つ、前記蓄電装置の残存容量が、予め定めた基準値以下の場合には、前記低温条件が成立すると判断する
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池システムの環境温度を検出する第2温度センサを備え、
前記制御部は、前記環境温度が、予め定めた第2基準温度以下である場合には、前記低温条件が成立すると判断する
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記燃料電池システムの停止中に、前記燃料電池で凍結が生じる可能性が高まる条件として予め定めた凍結条件が成立したときに、
前記燃料電池システムを直前に停止した際に前記低温条件が成立すると判断していた場合には、前記低温条件が成立しないと判断していた場合に比べて、前記燃料電池の内部に滞留する水分を前記燃料電池の外部に排出させる程度が小さい停止中掃気処理を実行する
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池の温度を検出する第3温度センサを備え、
前記制御部は、前記燃料電池の温度が、予め定めた第3基準温度以下である場合には、前記凍結条件が成立すると判断する
燃料電池システム。
【請求項6】
燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池システムは、
燃料電池と、
前記燃料電池にガスを供給するガス供給部と、
少なくとも前記燃料電池が発電した電力を蓄電可能な蓄電装置と、
前記蓄電装置における残存容量を検出する残存容量モニタと、
を備え、
前記燃料電池システムの停止指示が入力されたときに、
前記燃料電池の状態に関わる温度が予め定めた閾値以下であることを含む低温条件が成立するか否かを判定し、
前記低温条件が成立する場合には、前記低温条件が成立しない場合に比べて、前記燃料電池の内部に滞留する水分を前記燃料電池の外部に排出させる程度が大きくなるように、前記ガス供給部を駆動して前記燃料電池の内部に滞留する水分を前記燃料電池の外部に排出させる掃気処理を実行し、
前記低温条件が成立する場合には、前記低温条件が成立しない場合に比べて、前記蓄電装置の目標残存容量の値を小さく設定して、前記蓄電装置の残存容量を前記燃料電池が発電する電力で補う充電処理を実行する
燃料電池システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池と蓄電装置とを備える燃料電池システムに関し、例えば特許文献1には、低温時のシステム停止時に、常温時のシステム停止時に比べて蓄電装置の充電量を多くすることにより、掃気処理や次回のシステム起動を確実に行なう構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-042313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、低温時には、蓄電装置の充電電力の制御上の上限値である充電許容電力が制限される場合があり、このような場合には、蓄電装置の充電量を多くするための充電時間が長期化し、システムの停止が完了するまでに要する時間が長くなる可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、燃料電池システムが提供される。この燃料電池システムは、燃料電池と、前記燃料電池にガスを供給するガス供給部と、少なくとも前記燃料電池が発電した電力を蓄電可能な蓄電装置と、前記蓄電装置における残存容量を検出する残存容量モニタと、前記ガス供給部を駆動して前記ガスにより前記燃料電池の内部を掃気する掃気処理と、前記蓄電装置の残存容量を前記燃料電池が発電する電力で補う充電処理と、を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池システムの停止指示が入力されたときに、前記燃料電池の状態に関わる温度が予め定めた閾値以下であることを含む低温条件が成立するか否かを判定し、前記低温条件が成立する場合には、前記低温条件が成立しない場合に比べて、前記燃料電池の内部に滞留する水分を前記燃料電池の外部に排出させる程度が大きくなるように、前記掃気処理を実行し、前記低温条件が成立する場合には、前記低温条件が成立しない場合に比べて、前記蓄電装置の目標残存容量の値を小さく設定して、前記充電処理を実行する。
この形態の燃料電池システムによれば、燃料電池システムの停止指示が入力されたときに、低温条件が成立して、蓄電装置の充電に比較的長い時間を要するときには、低温条件が成立しない場合に比べて目標残存容量の値を小さく設定して充電処理を実行することにより、充電処理の時間を短縮して、システム停止の完了までに要する時間を抑えることができる。さらに、低温条件が成立する場合には、燃料電池の内部に滞留する水分を燃料電池の外部に排出させる程度が大きくなるように、システム停止時に掃気処理を実行することにより、システム停止後に環境温度が低下した場合であっても、燃料電池内で液水が凍結することを抑えることができる。
(2)上記形態の燃料電池システムは、さらに、前記蓄電装置の温度を検出する第1温度センサを備え、前記制御部は、前記蓄電装置の温度が、予め定めた第1基準温度以下であり、且つ、前記蓄電装置の残存容量が、予め定めた基準値以下の場合には、前記低温条件が成立すると判断することとしてもよい。この形態の燃料電池システムによれば、蓄電装置の残存容量が基準値以下であっても、蓄電装置の温度が第1基準温度以下であれば、システム停止時に、蓄電装置を充電するための目標残存容量の値を小さく設定すると共に、水分を燃料電池の外部に排出させる程度が大きくなるように掃気処理を実行する。そのため、残存容量の値が小さい場合であっても、蓄電装置の充電に起因してシステム停止の完了までに要する時間が長期化することを抑えつつ、燃料電池の凍結を抑制することができる。また、蓄電装置の温度が第1基準温度以下であっても、蓄電装置の残存容量の値が基準値を超えているならば、水分を燃料電池の外部に排出させる程度を抑えて掃気処理を実行する。そのため、システム停止時に掃気処理を実行することによるエネルギ消費を抑えることができる。このようにシステム停止時の残存容量の値が大きいときには、システム停止時に行なう充電処理のための目標残存容量の値を大きく設定しても、充電量が抑えられることにより、蓄電装置の充電に起因してシステム停止の完了までに要する時間が長期化することを抑えることができる。そして、システム停止時の残存容量の値が大きいことにより、システム停止中には、必要に応じて燃料電池の凍結対策を実行することが可能になる。
(3)上記形態の燃料電池システムは、さらに、前記燃料電池システムの環境温度を検出する第2温度センサを備え、前記制御部は、少なくとも、前記環境温度が、予め定めた第2基準温度以下である場合には、前記低温条件が成立すると判断することとしてもよい。この形態の燃料電池システムによれば、環境温度が第2基準温度以下のときには、蓄電装置の温度および残存容量にかかわらず、低温条件が成立すると判断する。そのため、システム停止中に燃料電池が凍結する可能性が比較的高いときに、システム停止時に予め掃気処理を行なって、システム停止中には、燃料電池の凍結対策を行なう必要性が生じることを抑えることができる。その結果、燃料電池の凍結を抑制しつつ、燃料電池システムのエネルギ効率を向上させることができる。
(4)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記燃料電池システムの停止中に、前記燃料電池で凍結が生じる可能性が高まる条件として予め定めた凍結条件が成立したときに、前記燃料電池システムを直前に停止した際に前記低温条件が成立すると判断していた場合には、前記低温条件が成立しないと判断していた場合に比べて、前記燃料電池の内部に滞留する水分を前記燃料電池の外部に排出させる程度が小さい停止中掃気処理を実行することとしてもよい。この形態の燃料電池システムによれば、燃料電池システムを直前に停止した際に低温条件が成立しないと判断していた場合には、凍結条件が成立してから停止中掃気処理を実行することによって、燃料電池の凍結を抑えることができる。また、燃料電池システムを直前に停止した際に低温条件が成立すると判断していた場合には、燃料電池の内部に滞留する水分を燃料電池の外部に排出させる程度が大きくなるようにシステム停止時に実行した停止中掃気処理によって、燃料電池の凍結を抑えることができる。
(5)上記形態の燃料電池システムは、さらに、前記燃料電池の温度を検出する第3温度センサを備え、前記制御部は、前記燃料電池の温度が、予め定めた第3基準温度以下である場合には、前記凍結条件が成立すると判断することとしてもよい。この形態の燃料電池システムによれば、燃料電池の温度を用いて、燃料電池で凍結が生じる可能性が高まったことを判断することができる。
本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システムの制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】燃料電池車両の概略構成を表わすブロック図。
図2】燃料電池車両で実行され得る処理の概要を表わす説明図。
図3】停止時処理ルーチンを表わすフローチャート。
図4】蓄電装置の温度と充電許容電力Winとの関係を示す説明図。
図5】停止中掃気処理ルーチンを表わすフローチャート。
図6】停止時処理ルーチンを表わすフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
(A-1)燃料電池システムの全体構成:
図1は、本開示に係る第1実施形態としての燃料電池システム30を搭載する燃料電池車両20の概略構成を表わすブロック図である。燃料電池車両20は、車体22に、燃料電池100を備える燃料電池システム30に加えて、車両の駆動力を発生する駆動モータ170と、燃料電池車両20を駆動するための電力を供給可能な蓄電装置172と、制御部200と、を搭載する。燃料電池車両20では、燃料電池100および蓄電装置172の各々が単独で、あるいは、燃料電池100および蓄電装置172の双方から同時に、駆動モータ170を含む負荷に対して電力を供給可能となっている。燃料電池100と、駆動モータ170を含む負荷との間は、DC/DCコンバータ104および配線178を介して接続されており、蓄電装置172と、駆動モータ170を含む負荷との間は、DC/DCコンバータ174および配線178を介して接続されている。DC/DCコンバータ104とDC/DCコンバータ174とは、配線178に対して並列に接続されている。
【0009】
燃料電池システム30は、燃料電池100に加えて、水素タンク110を含む水素ガス供給系120と、コンプレッサ130を含む空気供給系140と、を備える。また、燃料電池システム30は、燃料電池100の温度を所定範囲に保つための冷媒を燃料電池100内に流通させる図示しない冷媒循環系を、さらに備えている。水素ガス供給系120および空気供給系140は、「ガス供給部」とも呼ぶ。水素ガス供給系120、空気供給系140、および冷媒循環系に備えられ、燃料電池100の発電に伴って駆動される各部は、燃料電池補機とも呼ぶ。
【0010】
燃料電池100は、単セルが複数積層されたスタック構成を有している。本実施形態の燃料電池100は、固体高分子形燃料電池であるが、他種の燃料電池を用いてもよい。燃料電池100を構成する各単セルでは、電解質膜を間に介して、アノード側に燃料ガスである水素が流れる流路(以後、アノード側流路とも呼ぶ)が形成され、カソード側に酸化ガスである空気が流れる流路(以後、カソード側流路とも呼ぶ)が形成されている。
【0011】
燃料電池100には、燃料電池100の温度を測定可能なFC温度センサ105が設けられている。FC温度センサ105は、例えば、既述した冷媒の流路に設けられて、燃料電池100内を循環した後に燃料電池100から排出される冷媒の温度を検出する温度センサとすることができる。あるいは、FC温度センサ105として、燃料電池100の内部温度を直接検出するセンサを用いてもよい。FC温度センサ105は、「第3温度センサ」とも呼ぶ。
【0012】
水素ガス供給系120が備える水素タンク110は、水素を含有する燃料ガスを貯蔵する装置である。具体的には、例えば、高圧の水素ガスを貯蔵するタンク、あるいは、水素吸蔵合金を内部に備えて水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることによって水素を貯蔵するタンクとすることができる。水素ガス供給系120は、水素タンク110から燃料電池100に到る水素供給流路121と、未消費の水素ガスを含むアノードオフガスを水素供給流路121に循環させる循環流路122と、アノードオフガスを大気放出するための水素放出流路123と、を備える。水素ガス供給系120において、水素タンク110に貯蔵された水素ガスは、水素供給流路121の開閉バルブ124の流路開閉と、減圧バルブ125での減圧を経て、減圧バルブ125の下流に設けられたインジェクタ126から、燃料電池100のアノード側流路に供給される。循環流路122を循環する水素の圧力は、循環ポンプ127によって調節される。インジェクタ126および循環ポンプ127の駆動量は、燃料電池100が出力すべき目標電力に応じて、制御部200によって調節される。
【0013】
なお、循環流路122を流れる水素ガスの一部は、循環流路122から分岐した水素放出流路123に設けられて開閉状態が制御される開閉バルブ129を経由して、大気放出される。これにより、循環流路122内を循環する水素ガス中の水素以外の不純物(水蒸気や窒素など)を流路外に排出することができ、燃料電池100に供給される水素ガス中の不純物濃度の上昇を抑制することができる。上記した開閉バルブ129の開閉のタイミングは、制御部200によって調節される。
【0014】
空気供給系140は、酸素を含有する酸化ガス(本実施形態では空気)を燃料電池100に供給する。空気供給系140は、コンプレッサ130の他に、第1の空気流路141、第2の空気流路145、第3の空気流路146、分流弁144、空気放出流路142、および調圧弁143を備える。第1の空気流路141および第2の空気流路145により、コンプレッサ130が取り込んだ空気が、燃料電池100に供給される。第2の空気流路145の一部は、燃料電池100内においてカソード側流路を形成している。第3の空気流路146は、第1の空気流路141に接続されて、燃料電池100を経由することなく空気を導くバイパス流路である。分流弁144は、第1の空気流路141が第2の空気流路145および第3の空気流路146に分岐する箇所に設けられており、第2の空気流路145および第3の空気流路146に流入する空気の分配割合を変更する。第2の空気流路145あるいは第3の空気流路146を経由した空気は、空気放出流路142を介して大気放出される。空気放出流路142には、既述した水素放出流路123が接続されており、水素放出流路123を介して放出される水素は、大気放出に先立って、空気放出流路142を流れる空気によって希釈される。調圧弁143は、第2の空気流路145において、カソード側流路よりも下流側に設けられており、調圧弁143の開度を調節することにより、燃料電池100におけるカソード側流路の背圧を変更することができる。コンプレッサ130の駆動量、調圧弁143の開度、および分流弁144の開弁状態は、制御部200によって調節される。
【0015】
蓄電装置172は、充放電可能であって、少なくとも、燃料電池100が発電した電力を充電することができる。蓄電装置172においては、充電電力の上限としての充電許容電力Winが定められている。すなわち、充電許容電力Winは、蓄電装置172を充電する制御を行なう際に、蓄電装置172の劣化を抑える等の目的のために用いられる充電電力の上限値である。本実施形態の蓄電装置172は、充電許容電力Winが温度依存性を有するものであり、温度が低いほど充電許容電力Winが小さくなる。蓄電装置172は、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池とすることができる。ただし、蓄電装置172は、上記のような2次電池に限らない。
【0016】
蓄電装置172には、残存容量モニタ173および温度センサ175が設けられている。残存容量モニタ173は、蓄電装置172の残存容量等の動作状態を検出する。蓄電装置172の残存容量は、蓄電装置172がどの程度充電されているかを示す指標である。残存容量モニタ173は、例えば、蓄電装置172における充電および放電の電流値と時間とを積算することにより、残存容量を推定することとすればよい。あるいは、蓄電装置172の電圧を用いて残存容量を導出することとしてもよい。残存容量モニタ173は、残存容量を示す信号を制御部200に出力する。温度センサ175は、蓄電装置172の温度を検出し、検出信号を制御部200に出力する。なお、温度センサ175は、蓄電装置172の温度を直接検出する他、例えば、外気温と、蓄電装置172における充放電量に基づく発熱量とから、蓄電装置172の温度を推定することとしてもよい。温度センサ175は、「第1温度センサ」とも呼ぶ。
【0017】
DC/DCコンバータ104は、制御部200の制御信号を受けて、燃料電池100の出力状態を変更する機能を有している。具体的には、DC/DCコンバータ104は、燃料電池100から上記負荷に向けて電流および電圧を取り出して、DC/DCコンバータ104におけるスイッチング制御によって、燃料電池100から取り出す電流および電圧を制御する。また、DC/DCコンバータ104は、燃料電池100が発電した電力を駆動モータ170等の負荷に供給する際に、燃料電池100の出力電圧を、上記負荷で利用可能な電圧に昇圧する。
【0018】
DC/DCコンバータ174は、蓄電装置172の充放電を制御する充放電制御機能を有しており、制御部200の制御信号を受けて蓄電装置172の充放電を制御する。この他、DC/DCコンバータ174は、出力側の目標電圧を制御部200の制御下で設定することにより、蓄電装置172の蓄電電力の引出と駆動モータ170への電圧印加とを行い、電力引出状態と駆動モータ170にかかる電圧レベルを可変に調整する。なお、DC/DCコンバータ174は、蓄電装置172において充放電を行なう必要のないときには、蓄電装置172と配線178との接続を切断する。
【0019】
制御部200は、論理演算を実行するCPUやROM、RAM等を備えたいわゆるマイクロコンピュータで構成される。制御部200は、水素ガス供給系120や空気供給系140が備える既述したセンサの他、アクセル開度センサ180、外気温センサ185、シフトポジションセンサ、車速センサ、および外気温センサ等、種々のセンサから検出信号を取得して、燃料電池車両20に係る種々の制御を行なう。なお、図1では、制御部200が実行する機能の一部を表わす機能ブロックを示している。具体的には、制御部200は、機能ブロックとして、少なくとも掃気制御部210および残存容量制御部220を備える。これらの機能ブロックの動作は、後に詳しく説明する。
【0020】
図1では、制御部200によって、燃料電池車両20全体を制御することとなっているが、異なる構成としてもよい。例えば、制御部200は、燃料電池システム30の動作に係る制御を行なう制御部や、燃料電池車両20の走行に係る制御を行なう制御部や、走行に関わらない車両補機の制御を行なう制御部など、複数の制御部によって構成し、これら複数の制御部間で、必要な情報をやり取りすることとしても良い。
【0021】
(A-2)燃料電池車両で実行される処理:
図2は、燃料電池車両20で実行され得る処理の概要を表わす説明図である。燃料電池車両20には、燃料電池システム30の始動および停止に係る指示を使用者が行なうための、図示しない起動スイッチが設けられている。図2では、起動スイッチにおいて燃料電池システム30を始動させるための始動指示が入力されたタイミングを、「ON」と表わし、燃料電池システム30を停止させるための停止指示が入力されたタイミングを、「OFF」と表わしている。以下では、図2に基づいて、燃料電池車両20で実行され得る各処理の内容を順次説明する。
【0022】
起動スイッチから始動指示が入力されると、燃料電池システム30の制御部200は、「始動処理」を実行する。図2では、「始動処理」が実行される期間を(a)として示している。「始動処理」は、始動指示の入力から、燃料電池100において発電が開始されるまでの間に実行される処理である。「始動処理」は、例えば、アノード側流路への水素の供給とカソード側流路への空気の供給とを開始するための処理や、燃料電池100と駆動モータ170等の負荷とを接続する処理を含むことができる。これにより、燃料電池100から駆動モータ170等の負荷への電力供給が可能になる。
【0023】
「始動処理」が終了して、燃料電池システム30において燃料電池100の発電が開始されると、燃料電池車両20は走行可能な状態になる。図2では、燃料電池車両20が走行可能となる走行可能期間を、(b)として示している。この走行可能期間においては、既述したように、燃料電池100と蓄電装置172とのうちの少なくとも一方を駆動用電源として用いた走行が行なわれる。このとき、燃料電池車両20の制御部200では、蓄電装置172の残存容量が、予め定めた下限値以上になるように、燃料電池システム30および駆動モータ170の駆動状態が制御される。
【0024】
その後、起動スイッチにおいて燃料電池システム30を停止させるための停止指示が入力されると、燃料電池システム30の制御部200は、「終了処理」を実行する。図2では、「終了処理」が実行される期間を(c)として示している。「終了処理」は、「充電処理」と「停止時掃気処理」と「システム停止処理」とを含むことができる。制御部200は、後述するように、「終了処理」として、「通常モード終了処理」あるいは「冬モード終了処理」を実行することができる。「通常モード終了処理」と「冬モード終了処理」とは、「充電処理」および「停止時掃気処理」の内容が異なっている。「通常モード終了処理」および「冬モード終了処理」については、後に詳しく説明する。
【0025】
「充電処理」は、蓄電装置172の残存容量を、燃料電池300が発電する電力で補う処理であり、燃料電池100によって蓄電装置172を充電するための処理である。「充電処理」は、停止指示が入力されてから、当該停止指示の後に始動指示が再び入力されて燃料電池100の発電が開始されるまでの間に、燃料電池システム30で実行される種々の処理を実行するために必要な電力を、蓄電装置172において確保するための処理とすることができる。そのため、上記停止指示が入力されたときに、蓄電装置172の残存容量が、蓄電装置172によって上記必要な電力を賄うために十分である場合には、上記「充電処理」において、実質的な充電の動作を行なわないこととしてもよい。「充電処理」は、制御部200の残存容量制御部220が実行する(図1参照)。「充電処理」に係る具体的な動作については、後に詳しく説明する。
【0026】
「停止時掃気処理」は、燃料電池100の発電停止時に、アノード側流路とカソード側流路の双方を、各々の反応ガス(燃料ガスまたは酸化ガス)で掃気して、流路内の水分を除去するための処理である。「停止時掃気処理」は、制御部200の掃気制御部210が実行する(図1参照)。「停止時掃気処理」において制御部200は、アノード側流路については、開閉バルブ124およびインジェクタ126を開弁すると共に、循環ポンプ127を駆動し、さらに、開閉バルブ129を所定のタイミングで開弁する。また、カソード側流路については、カソード側流路に空気が供給されるように分流弁144の切り替え状態を維持しつつ、コンプレッサ130を駆動する。これにより、アノード側流路を、燃料ガスである水素で掃気すると共に、カソード側流路を、酸化ガスである空気で掃気して、燃料ガスの流路内の水分および酸化ガスの流路内の水分を除去することができる。反応ガスの流路から水分を除去することにより、燃料電池システム30の停止中、すなわち、燃料電池システム30が停止した後であって燃料電池システム30が次回に始動されるまでの間に、反応ガス流路内で液水が滞留すること、および、滞留した液水が凍結することを抑えることができる。なお、「停止時掃気処理」では、アノード側流路に水素が供給され、カソード側流路に空気が供給されるため、燃料電池100では発電が可能である。ただし、「停止時掃気処理」に伴って燃料電池補機等で消費される電力の方が発電量を上回る場合には、「停止時掃気処理」は、蓄電装置172に蓄えられた電力を消費する処理となる。
【0027】
「終了処理」において、「充電処理」と「停止時掃気処理」とは、いずれを先に行なってもよい。ただし、「充電処理」を「停止時掃気処理」よりも先に行なう場合には、「掃気処理」に先立って蓄電装置172を充電することにより、「停止時掃気処理」で要する電力を蓄電装置172において確保することが容易になる。
【0028】
「システム停止処理」は、燃料電池システム30を停止する処理である。「システム停止処理」は、「充電処理」および「停止時掃気処理」の終了後に実行される。「システム停止処理」において制御部200は、水素供給流路121の開閉バルブ124、インジェクタ126が備える開閉弁、および、水素放出流路123の開閉バルブ129を閉弁する。これにより、アノード側流路を含むインジェクタ126から開閉バルブ129までの流路(以下では、このような流路全体も、アノード側流路と呼ぶ場合がある)が封止されて、水素ガスが封入された状態となる。また、制御部200は、コンプレッサ130を停止すると共に、調圧弁143を閉弁する。これにより、カソード側流路を含むコンプレッサ130から調圧弁143までの流路(以下では、このような流路全体も、カソード側流路と呼ぶ場合がある)が封止されて、空気が封入された状態になる。上記のように流路の封止が行なわれると、燃料電池100では、アノード側流路に封入された水素と、カソード側流路に封入された空気中の酸素と、を用いて発電が行なわれる。アノード側流路に封入される水素は、カソード側流路に封入される空気中の酸素に対して過剰であるため、カソード側流路内の酸素が消費されると、燃料電池100の発電は停止する。その結果、カソード側流路内に封入されるガスの大部分は窒素となる。燃料電池100の発電停止を、例えば燃料電池100の電圧低下等により検出すると、制御部200は、燃料電池100と、蓄電装置172や燃料電池補機等の負荷との間の接続を遮断して、燃料電池システム30を停止する。
【0029】
燃料電池システム30の停止時に、燃料電池100の発電が停止されると、燃料電池100では、アノード側流路とカソード側流路との間で、電解質膜を介してガスがクロスリークする。これにより、アノード側流路内のガスとカソード側流路内のガスの組成が次第に近づき、アノード側流路内の水素濃度が次第に低下する。
【0030】
制御部200は、燃料電池システム30の停止中に、「停止中掃気処理」を実行する場合がある。図2では、「停止中掃気処理」が実行される期間を(d)として示している。「停止中掃気処理」に係る具体的な制御については、後に詳しく説明する。
【0031】
燃料電池システム30において、その後、起動スイッチから始動指示が入力されると、再び、既述した「始動処理」が実行される。
【0032】
(A-3)システム停止以後の動作:
以下では、起動スイッチから停止指示が入力されたときの動作について、さらに詳しく説明する。
【0033】
図3は、本実施形態の制御部200で実行される停止時処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、燃料電池システム30の稼働中に、制御部200において実行される。本ルーチンが起動されると、制御部200のCPUは、起動スイッチから停止指示が入力されたか否かを判断する(ステップS100)。制御部200は、起動スイッチから停止指示が入力されるまで、ステップS100の判断を繰り返す。
【0034】
停止指示が入力されたと判断すると(ステップS100:YES)、制御部200のCPUは、第1温度センサである温度センサ175から蓄電装置172の温度を取得すると共に、残存容量モニタ173から蓄電装置172の残存容量を取得する(ステップS110)。そして、取得した蓄電装置172の温度と残存容量とを用いて、予め定めた低温条件が成立するか否かを判定する(ステップS120)。
【0035】
低温条件とは、燃料電池100が凍結する可能性が高まっていることを判断するための条件として、予め設定されている。本実施形態では、低温条件は、燃料電池100の状態に関わる温度が予め定めた閾値以下であることを含む条件として設定されている。具体的には、本実施形態では、ステップS120において、蓄電装置172の温度が、予め定めた第1基準温度以下であり、且つ、蓄電装置172の残存容量が、予め定めた基準値以下の場合には、低温条件が成立すると判断する。本実施形態では、上記第1基準温度は、前記燃料電池の状態に関わる温度として、燃料電池100が凍結する可能性が高まっていることを間接的に判定するための温度であり、さらに、蓄電装置172の充電のために比較的長時間を要する程度に蓄電装置172の温度が低下していることを判定するための温度として設定されている。上記第1基準温度は、例えば、-20℃から-5℃の範囲で設定することができる。
【0036】
また、上記残存容量の基準値は、燃料電池システム30の停止後、次回に燃料電池システム30が起動されて燃料電池100が発電を開始するまでの間に、燃料電池システム30で要する電力を蓄電装置172によって賄うことができるか否かを判定するための値として設定されている。上記した次回に燃料電池システム30が起動されて燃料電池100が発電を開始するまでの間に、燃料電池システム30で要する電力は、後述する「停止中掃気処理」で要する電力を含むことができる。上記残存容量の基準値は、例えば、40%から50%の範囲で設定することができる。
【0037】
図4は、蓄電装置172の温度と、蓄電装置172の充電許容電力Winとの関係を示す説明図である。図4を用いて、上記第1基準温度についてさらに説明する。充電許容電力Winは、蓄電装置172の充電電力の上限として定められている値であって、蓄電装置172の充電性能を示す値である。充電許容電力Winが大きいほど、充電性能が高いことを示し、より速い充電が可能になる。図4に示すように、充電許容電力Winは、蓄電装置172の温度の影響を強く受ける。図4では、蓄電装置172の温度上昇に伴う充電許容電力Winの上昇の程度が比較的小さく充電許容電力Winが相対的に小さい温度範囲(図4の範囲(I))と、蓄電装置172の温度上昇に伴う充電許容電力Winの上昇の程度が比較的大きい温度範囲(図4の範囲(II))との境界の温度を、温度t1としている。また、図4では、蓄電装置172の温度上昇に伴う充電許容電力Winの上昇の程度が比較的大きい温度範囲(図4の範囲(II))と、充電許容電力Winが比較的高いレベルで安定する温度範囲(図4の範囲(III)との境界の温度を、温度t2としている。上記した第1基準温度は、例えば、温度t1以上の温度に設定すればよく、温度t1以上温度t2以下の範囲で設定してもよい。図4に示すグラフは一例であり、充電許容電力Winにおける蓄電装置172の温度の影響は、蓄電装置172がリチウムイオン電池である場合に特に顕著になる。ただし、ニッケル水素電池など他種の蓄電装置であっても、充電許容電力Winについて同様の傾向を示す蓄電装置であれば、同様にして第1基準温度を設定することができる。
【0038】
ステップS120において低温条件が成立すると判定すると(ステップS120:YES)、制御部200のCPUは、「冬モード終了処理」を実行して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。また、ステップS120において低温条件が成立しないと判定すると(ステップS120:NO)、制御部200のCPUは、「通常モード終了処理」を実行して(ステップS130)、本ルーチンを終了する。
【0039】
「終了処理」は、既述したように、「充電処理」と「停止時掃気処理」と「システム停止処理」とを含むことができる。そして、「通常モード終了処理」と「冬モード終了処理」とは、「充電処理」および「停止時掃気処理」の内容が異なっている。
【0040】
本実施形態では、低温条件が成立するときの「冬モード終了処理」では、低温条件が成立しないときの「通常モード終了処理」に比べて、燃料電池100の内部に滞留する水分を燃料電池100の外部に排出させる程度が大きくなるように、停止時掃気処理が実行される。燃料電池100の外部に水分が排出される程度を大きくするには、例えば、「通常モード終了処理」の停止時掃気処理に比べて、「冬モード終了処理」の停止時掃気処理を、長時間実行することとすればよい。あるいは、「通常モード終了処理」の停止時掃気処理に比べて、「冬モード終了処理」の停止時掃気処理において、燃料電池100に供給する少なくとも一方の反応ガスの流量を多くすればよい。「通常モード終了処理」に比べて「冬モード終了処理」における水分排出を多くする程度は、例えば、後述するように、「冬モード終了処理」を実行した後に、燃料電池システム30の停止中に環境温度が低下した場合であっても、後述する停止中掃気処理を不要にできるように、適宜設定すればよい。上記のような終了処理に含まれる掃気処理に係る制御は、制御部200の掃気制御部210が実行する(図1参照)。
【0041】
また、本実施形態では、低温条件が成立するときの「冬モード終了処理」では、低温条件が成立しないときの「通常モード終了処理」に比べて、蓄電装置172の目標残存容量の値を小さく設定して、充電処理が実行される。「冬モード終了処理」に比べて「通常モード終了処理」における充電量を多くする程度は、例えば、後述するように、「通常モード終了処理」を実行した後に、燃料電池システム30の停止中に環境温度が低下した場合に、蓄電装置172から供給される電力を用いて停止中掃気処理を実行可能となるように、適宜設定すればよい。上記のような終了処理に含まれる充電処理に係る制御は、制御部200の残存容量制御部220が実行する(図1参照)。
【0042】
本実施形態では、燃料電池システム30の停止時に「冬モード終了処理」を実行した場合と「通常モード終了処理」を実行した場合とを比べると、システム停止中における「停止中掃気処理」(図2参照)に係る制御にも違いがある。以下では、「停止中掃気処理」についてさらに説明する。「停止中掃気処理」は、燃料電池システム30の停止時であって、燃料電池100で凍結が生じる可能性が高まる条件として予め定めた凍結条件が成立したときに、燃料電池100内の反応ガス流路で液水が凍結することを抑えるために実行される。本実施形態の燃料電池システム30では、システム停止時に全ての機能が完全に停止するのではなく、制御部200の一部の機能等が働き続けて、燃料電池100の温度の監視を行なっており、必要に応じて、「停止中掃気処理」として、反応ガス流路の掃気を行なう。このような掃気処理に係る制御は、制御部200の掃気制御部210が実行する(図1参照)。
【0043】
図5は、本実施形態の制御部200で実行される停止中掃気処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、「終了処理」が完了して、燃料電池システム30が停止された後、燃料電池システム30の停止中に、制御部200において実行される。
【0044】
本ルーチンが起動されると、制御部200のCPUは、FC温度センサ105から燃料電池100の温度を取得する(ステップS200)。そして、制御部200は、取得した燃料電池100の温度が、予め定めた基準となる燃料電池温度(以下、第3基準温度と呼ぶ)以下であるか否かを判断する(ステップS210)。燃料電池100の温度が第3基準温度以下であれば、燃料電池100で凍結が生じる可能性が高まる条件として予め定めた凍結条件が成立すると判断される。第3基準温度は、氷点に近いが氷点よりも高い低温であることを示す温度として、予め設定されている。第3基準温度は、例えば、5~10℃に設定することができる。制御部200は、燃料電池100の温度が第3基準温度以下であると判断されるまで、ステップS200およびステップS210の処理を繰り返し実行する。
【0045】
燃料電池100の温度が第3基準温度以下であると判断すると(ステップS210:YES)、制御部200のCPUは、燃料電池システム30を直前に停止した際に低温条件が成立していたか否か、すなわち、直前の停止時に冬モード終了処理を行なったか否かを判断する(ステップS220)。直前の停止時に冬モード終了処理を行なっていない場合、すなわち、通常モード終了処理を行なった場合には(ステップS220:NO)、制御部200のCPUは、停止中掃気処理を実行して(ステップS230)、本ルーチンを終了する。また、直前の停止時に、冬モード終了処理を行なった場合には(ステップS220:YES)、制御部200のCPUは、停止中掃気処理を実行することなく、本ルーチンを終了する。
【0046】
以下では、「停止中掃気処理」についてさらに説明する。「停止中掃気処理」において、制御部200は、燃料電池システム30を一時的に起動して、水素タンク110内の水素を用いたアノード側流路の掃気を行なう。具体的には制御部200は、開閉バルブ124およびインジェクタ126を開弁し、循環ポンプ127を駆動し、開閉バルブ129を所定のタイミングで開弁することにより、水素タンク110内の水素を用いてアノード側流路を掃気する。このとき、制御部200は、コンプレッサ130を駆動し、分流弁144を切り替えて、第1の空気流路141を流れる空気の全量を第3の空気流路146に流す。これにより、水素放出流路123を介して燃料電池システム30から排出される水素が希釈される。
【0047】
燃料電池システム30の停止後、燃料電池100の温度が低下するにしたがって、燃料電池100内の流路に封止されるガス中の水蒸気が凝縮して液水になる場合がある。「停止中掃気処理」を実行することにより、アノード側流路内で液水が凝縮する場合であっても、この液水が凍結する温度に降温する前にアノード側流路から液水を除去し、アノード側流路内における凍結の発生を抑えることができる。なお、本実施形態では、「停止中掃気処理」として、アノード側流路の掃気だけを行なっているが、コンプレッサ130を用いてカソード側流路の掃気だけを行なってもよく、アノード側流路とカソード側流路との両方を掃気してもよい。
【0048】
以上のように構成された本実施形態の燃料電池システム30によれば、燃料電池システム30の停止指示が入力されたときに、予め定めた低温条件が成立する場合には、低温条件が成立しない場合に比べて、燃料電池100の内部に滞留する水分を燃料電池100の外部に排出させる程度が大きくなるように、掃気処理(停止時掃気処理)を実行する。そしてさらに、上記低温条件が成立する場合には、低温条件が成立しない場合に比べて、蓄電装置172の目標残存容量の値を小さく設定して、充電処理を実行する。このように、低温条件が成立して、蓄電装置172の充電に比較的長い時間を要するときには、低温条件が成立しない場合に比べて目標残存容量の値を小さく設定して充電処理を実行することにより、充電処理の時間を短縮して、システム停止の完了までに要する時間を抑えることができる。また、低温条件が成立する場合には、燃料電池100の内部に滞留する水分を燃料電池100の外部に排出させる程度が大きくなるように、掃気処理を実行することにより、システム停止中に環境温度が低下した場合であっても、燃料電池100内で液水が凍結することを抑えることができる。
【0049】
さらに、本実施形態によれば、低温条件が成立しないときには、低温条件が成立する場合に比べて目標残存容量の値を大きく設定して充電処理を実行するが、低温条件が成立しないときには、蓄電装置172の温度が高く、蓄電装置172の充電に要する時間が比較的短くて済むため、目標残存容量の値を大きく設定して充電処理を実行しても、システム停止の完了までに要する時間が過度に長くなることがない。また、低温条件が成立しないときには、停止時掃気処理によって燃料電池100の外部に排出される水分が比較的少なくても、蓄電装置172の充電量が大きく確保されているため、システム停止中に、停止中掃気処理を、必要に応じて支障無く実行することができる。このように停止中掃気処理を行なうことで、システム停止中に環境温度が低下した場合であっても、燃料電池100内で液水が凍結することを抑えることができる。さらに、低温条件が成立しない場合には、システム停止中に凍結が生じる低温になる可能性が比較的低いと考えられるため、目標残存容量の値を小さく設定して停止時掃気処理を行なうことにより、過度の掃気処理の実行を抑えることができる。
【0050】
上記のように、本実施形態によれば、低温条件が成立する場合であっても、成立しない場合であっても、システム停止の完了までに要する時間を抑えつつ、システム停止後、次回にシステムを起動して燃料電池100の発電が進行するまでの間の燃料電池100の凍結を抑えることができる。
【0051】
なお、停止中掃気処理に要するエネルギは、一般に、低温条件成立時の停止時掃気処理を行なうことによりエネルギ消費量が増加する量に比べて、大きい。また、リチウムイオン電池のような、充電許容電力Winが温度依存性を有する蓄電装置では、一般に、電池の劣化防止の観点から、低温時の放電制限に比べて、低温時の充電制限の方が厳しく設定されている。そのため、蓄電装置172の温度が低く低温条件が成立する際には、冬モード終了処理を採用した場合に、停止時掃気処理が長期化することでシステム停止の時間が長引く程度よりも、通常モード終了処理を採用した場合に、充電処理が長期化することでシステム停止時間が長引く程度の方が、大きくなる。そのため、本実施形態の構成を採用することにより、システム停止に要する時間を、全体として短縮することができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、蓄電装置172の残存容量が基準値以下であっても、蓄電装置172の温度が第1基準温度以下であれば、システム停止時に冬モード終了処理を採用して、目標残存容量の値を小さく設定すると共に、水分を燃料電池100の外部に排出させる程度が大きくなるように停止時掃気処理を実行する。そのため、システム停止時における蓄電装置172の残存容量の値が小さい場合であっても、蓄電装置172の充電に起因してシステム停止の完了までに要する時間が長期化することを抑えつつ、冬モード終了処理の停止時掃気処理によって、燃料電池100の凍結を抑制することができる。また、蓄電装置172の温度が第1基準温度以下であっても、蓄電装置172の残存容量の値が基準値を超えているならば、システム停止時に通常モード終了処理を採用して、水分を燃料電池の外部に排出させる程度を抑えて停止時掃気処理を実行する。そのため、システム停止時に停止時掃気処理を実行することによるエネルギ消費を抑えることができる。このようにシステム停止時において蓄電装置172の残存容量の値が大きいときには、通常モード終了処理を採用して、システム停止時に行なう充電処理のための目標残存容量の値を大きく設定しても、蓄電装置172を充電すべき程度が小さいため、蓄電装置172の充電に起因してシステム停止の完了までに要する時間が長期化することを抑えることができる。そして、システム停止時における蓄電装置172の残存容量の値が大きいことにより、システム停止中には、必要に応じて燃料電池100の凍結対策を実行することが可能になる。
【0053】
また、本実施形態によれば、燃料電池システム30の停止中に凍結条件が成立したときに、燃料電池システム30を直前に停止した際に低温条件が成立しないと判断していた場合には、停止中掃気処理を実行し、燃料電池システム30を直前に停止した際に低温条件が成立すると判断していた場合には、停止中掃気処理を実行しない。そのため、燃料電池システム30を直前に停止した際に低温条件が成立しないと判断していた場合には、凍結条件が成立してから停止中掃気処理を実行することによって、燃料電池の凍結を抑えることができる。また、燃料電池システム30を直前に停止した際に低温条件が成立すると判断していた場合には、システム停止時に冬モード終了処理として行なった停止時掃気処理によって、燃料電池の凍結を抑えることができる。
【0054】
なお、燃料電池システム30を直前に停止した際に低温条件が成立すると判断していた場合には(ステップS220:YES)、低温条件が成立しないと判断していた場合(ステップS220:NO)に比べて、燃料電池100の内部に滞留する水分を燃料電池100の外部に排出させる程度が小さい停止中掃気処理を実行すればよく、上記実施形態とは異なる動作を行なってもよい。例えば、低温条件が成立すると判断していた場合(ステップS220:YES)には、低温条件が成立しないと判断していた場合(ステップS220:NO)に比べて、掃気時間を短くして停止中掃気処理を実行してもよく、あるいは、燃料電池100に供給するガスの流量を少なくして停止中掃気処理を実行してもよい。ただし、「燃料電池100の内部に滞留する水分を燃料電池100の外部に排出させる程度が小さい停止中掃気処理の実行」は、上記実施形態のように、停止中掃気処理を実行しない構成を含むものとする。
【0055】
燃料電池100の凍結を抑えるためには、低温条件の非成立時に、通常モード終了処理の充電処理で用いる目標残存容量の値は、充電処理以後の終了処理で要する電力と、停止中掃気処理で要する電力と、始動処理で要する電力と、の合計を超える量の電力を、蓄電装置172から得られるように設定することが望ましい。上記合計の電力は、上記各処理の条件に基づいて予め予測することができるため、目標残存容量の値は、予め算出して制御部200に記憶しておくこととしてもよい。
【0056】
B.第2実施形態:
図6は、本開示の第2実施形態としての燃料電池システム30の制御部200において、実行される停止時処理ルーチンを表わすフローチャートである。第2実施形態の燃料電池システム30は、第1実施形態の燃料電池システム30と同様の構成を有しており、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。第2実施形態の燃料電池システム30は、図2に示したように、第1実施例と同様に、始動処理、終了処理、および停止中掃気処理を行なう。第2実施形態の燃料電池システム30では、低温条件成立に係る判断の動作が、第1実施形態とは異なっている。
【0057】
図6の停止時処理ルーチンは、図3に示す第1実施形態の停止時処理ルーチンに代えて実行される。図6では、図3と共通する工程には同じステップ番号を付している。以下では、第1実施形態とは異なる点について説明する。
【0058】
第2実施形態の制御部200のCPUは、起動スイッチから停止指示が入力されたと判断すると(ステップS100:YES)、第1温度センサである温度センサ175から蓄電装置172の温度を取得し、残存容量モニタ173から蓄電装置172の残存容量を取得し、さらに、外気温センサ185から、燃料電池システム30の環境温度である外気温を取得する(ステップS115)。外気温センサ185は、「第2温度センサ」とも呼ぶ。そして、制御部200のCPUは、取得した蓄電装置172の温度および残存容量と外気温とを用いて、予め定めた低温条件が成立するか否かを判定する(ステップS125)。
【0059】
第2実施形態では、ステップS125において、予め定めた第1低温条件と第2低温条件とのうちの、少なくともいずれか一方を満たす場合には、低温条件が成立すると判定する。第1低温条件は、第1実施形態の低温条件と同じであって、蓄電装置172の温度が、予め定めた第1基準温度以下であり、且つ、蓄電装置172の残存容量が、予め定めた基準値以下の場合には、第1低温条件を満たすと判断する。第2低温条件は、環境温度である外気温のみに基づく条件であり、外気温が、予め定めた第2基準温度以下である場合には、第2低温条件を満たすと判断する。第2低温条件では、外気温が、燃料電池100の状態に関わる温度として用いられている。
【0060】
上記第2基準温度は、燃料電池システム30の停止中に、停止中掃気処理を実行する必要が生じる可能性が高いと判断するための温度として設定されている。第2基準温度は、例えば、システム停止中に燃料電池100で凍結が生じる可能性が高い温度として設定することができ、図5の停止中掃気処理ルーチンにおける第3基準温度以下に設定することができる。環境温度が第3基準温度以下であれば、システム停止中に燃料電池100の温度が第3基準温度以下に低下する可能性が高いと考えられるためである。ただし、第2基準温度を第3基準温度よりも高い温度に設定することも可能である。第2基準温度は、システム停止中に燃料電池100が凍結する可能性が特に高い0℃以下の温度に設定してもよい。
【0061】
第2実施形態の燃料電池システム30によれば、第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、第2実施形態では、環境温度が第2基準温度以下のときには、蓄電装置172の温度および残存容量にかかわらず、低温条件が成立すると判断する。そのため、システム停止中に停止中掃気処理を行なう必要が生じる可能性が高いときに、予め停止時掃気処理を行なって、停止中掃気処理を不要にすることができる。既述したように、停止中掃気処理に要するエネルギは、一般に、低温条件成立時の停止時掃気処理を行なうことによりエネルギ消費量が増加する量に比べて、大きい。したがって、第2実施形態によれば、燃料電池100の凍結を抑制しつつ、燃料電池システム30のエネルギ効率を向上させることができる。
【0062】
C.他の実施形態:
(C1)上記第1実施形態では、第1低温条件を満たすときに低温条件が成立すると判定し、第2実施形態では、第1低温条件と第2低温条件とのうちの少なくとも一方を満たすときに低温条件が成立すると判定しているが、異なる基準で低温条件の成立を判定してもよい。例えば、第2低温条件のみを用いて、蓄電装置172の残存容量の値は低温条件の判定に用いないこととしてもよい。ただし、蓄電装置172の残存容量の値を低温条件の判定に用いない場合には、例えば、冬季に屋内駐車場に燃料電池車両20を駐車する場合には、蓄電装置172の温度が比較的低くても、比較的高い外気温が検出される場合がある。このような場合に、外気温に基づいて通常モード終了処理が選択されると、蓄電装置172の充電に比較的長時間を要する可能性がある。そのため、燃料電池車両20の駐車場所等にかかわらず、燃料電池100の凍結を抑えつつシステム停止時の完了までの時間を抑える効果を得るには、低温条件の判定のために、蓄電装置172の残存容量の値を用いることが望ましい。
【0063】
(C2)上記第2実施形態では、外気温センサ185が検出した環境温度が第2基準温度以下のときに、第2低温条件が成立すると判断したが、異なる構成としてもよい。例えば、過去数日の平均気温、過去数日の平均最低気温、過去数年の同じ日付の日の平均気温、等を示すデータを、例えば通信により取得して、これらの温度が予め定めた値以下のときに、第2低温条件が成立すると判断してもよい。
【0064】
(C3)上記各実施形態では、システム停止中に、第3温度センサであるFC温度センサ105が検出した燃料電池100の温度が、第3基準温度以下になると、凍結条件が成立すると判断したが、異なる構成としてもよい。例えば、環境温度である外気温が、予め定めた判定温度以下に低下した時に、凍結条件が成立すると判断してもよい。あるいは、外気温が判定温度以下に低下することに加えて、さらに、外気温が判定温度以下に低下してからの経過時間が、予め定めた基準時間を超えたときに、凍結条件が成立すると判断してもよい。
【0065】
(C4)上記各実施形態では、通常モード終了処理によりシステムを停止した後のシステム停止中に凍結条件が成立したときには、燃料電池100の凍結対策として、停止中掃気処理を実行しているが、異なる構成としてもよい。例えば、燃料電池100を加温するためのヒータ等の加温装置を設け、システム停止中に凍結条件が成立したときには、上記加温装置を用いた加温を行なってもよい。システム停止時に通常モード終了処理を実行する場合には、蓄電装置の目標残存容量の値を大きく設定して充電処理を実行するため、上記加温のためのエネルギを確保可能となり、実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
(C5)燃料電池システム30は、車両の駆動用電源として用いる他、車両以外の移動体の駆動用電源として用いてもよい。あるいは、燃料電池システム30は、定置型の発電装置としてもよい。
【0067】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
20…燃料電池車両、22…車体、30…燃料電池システム、100…燃料電池、104…DC/DCコンバータ、105…FC温度センサ、110…水素タンク、120…水素ガス供給系、121…水素供給流路、122…循環流路、123…水素放出流路、124…開閉バルブ、125…減圧バルブ、126…インジェクタ、127…循環ポンプ、129…開閉バルブ、130…コンプレッサ、140…空気供給系、141…第1の空気流路、142…空気放出流路、143…調圧弁、144…分流弁、145…第2の空気流路、146…第3の空気流路、170…駆動モータ、172…蓄電装置、173…残存容量モニタ、174…DC/DCコンバータ、175…温度センサ、178…配線、180…アクセル開度センサ、185…外気温センサ、200…制御部、210…掃気制御部、220…残存容量制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6