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特許7196838位相変調データ生成装置、照明装置、およびプロジェクタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】位相変調データ生成装置、照明装置、およびプロジェクタ
(51)【国際特許分類】
   G09G 3/20 20060101AFI20221220BHJP
   G09G 5/00 20060101ALI20221220BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20221220BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20221220BHJP
   H04N 5/74 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G09G3/20 680C
G09G3/20 631U
G09G3/20 632F
G09G5/00 510B
G09G5/00 550X
G09G3/20 611A
G09G3/20 642E
G09G5/00 550H
G03B21/00 D
G03B21/14 Z
H04N5/74 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019519125
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2018015519
(87)【国際公開番号】W WO2018211878
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2017099851
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 謙一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 能久
【審査官】西島 篤宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208171(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0207466(US,A1)
【文献】特表2014-517337(JP,A)
【文献】特表2011-508911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G 3/00 - 5/42
G03B 21/00
G03B 21/14
H04N 5/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、光位相変調素子によって前記部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算する第1の演算部と、
前記第1の演算部によって計算された前記基本位相変調パターンデータを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記基本位相変調パターンデータに基づいて、前記目的照明像パターンを前記光位相変調素子によって再生可能な目的位相変調パターンデータを計算する第2の演算部と
を備え、
前記第2の演算部は、前記基本位相変調パターンデータに対して並進処理を行うことにより生成された複数の前記基本位相変調パターンデータのそれぞれに対して、前記所望の輝度分布に応じた一様な輝度の重み付け処理、または前記所望の輝度分布に応じた輝度比の重み付け処理を行った後、複数の前記基本位相変調パターンデータのそれぞれを重畳する処理を行う
位相変調データ生成装置。
【請求項2】
前記部分照明像パターンとして、前記光位相変調素子に対する照明像の全域を複数に分割することにより生成された複数の部分照明像パターンを含み、
前記第1の演算部は、前記基本位相変調パターンデータとして、前記複数の部分照明像パターンのそれぞれを再生可能な位相変調パターンデータを計算する
請求項1に記載の位相変調データ生成装置。
【請求項3】
前記複数の部分照明像パターンのそれぞれの輪郭部は、隣接する部分照明像パターン同士を連結した場合に輝度が一様となるような輝度勾配を有する
請求項2に記載の位相変調データ生成装置。
【請求項4】
前記基本位相変調パターンデータは、計算機合成ホログラムである
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の位相変調データ生成装置。
【請求項5】
光源と、
前記光源からの光の位相を変調する光位相変調素子と、
所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、前記光位相変調素子によって前記部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算する第1の演算部と、
前記第1の演算部によって計算された前記基本位相変調パターンデータを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記基本位相変調パターンデータに基づいて、前記目的照明像パターンを前記光位相変調素子によって再生可能な目的位相変調パターンデータを計算する第2の演算部と
を備え、
前記第2の演算部は、前記基本位相変調パターンデータに対して並進処理を行うことにより生成された複数の前記基本位相変調パターンデータのそれぞれに対して、前記所望の輝度分布に応じた一様な輝度の重み付け処理、または前記所望の輝度分布に応じた輝度比の重み付け処理を行った後、複数の前記基本位相変調パターンデータのそれぞれを重畳する処理を行う
照明装置。
【請求項6】
前記部分照明像パターンとして、前記光位相変調素子に対する照明像の全域を複数に分割することにより生成された複数の部分照明像パターンを含み、
前記第1の演算部は、前記基本位相変調パターンデータとして、前記複数の部分照明像パターンのそれぞれを再生可能な位相変調パターンデータを計算する
請求項5に記載の照明装置。
【請求項7】
前記複数の部分照明像パターンのそれぞれの輪郭部は、隣接する部分照明像パターン同士を連結した場合に輝度が一様となるような輝度勾配を有する
請求項6に記載の照明装置。
【請求項8】
前記基本位相変調パターンデータは、計算機合成ホログラムである
請求項5ないし7のいずれか1項に記載の照明装置。
【請求項9】
照明装置と、
前記照明装置からの照明光を強度変調して投影画像を生成する光強度変調素子と
を含み、
前記照明装置は、
光源と、
前記光源からの光の位相を変調する光位相変調素子と、
所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、前記光位相変調素子によって前記部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算する第1の演算部と、
前記第1の演算部によって計算された前記基本位相変調パターンデータを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記基本位相変調パターンデータに基づいて、前記目的照明像パターンを前記光位相変調素子によって再生可能な目的位相変調パターンデータを計算する第2の演算部と
を備え、
前記第2の演算部は、前記基本位相変調パターンデータに対して並進処理を行うことにより生成された複数の前記基本位相変調パターンデータのそれぞれに対して、前記所望の輝度分布に応じた一様な輝度の重み付け処理、または前記所望の輝度分布に応じた輝度比の重み付け処理を行った後、複数の前記基本位相変調パターンデータのそれぞれを重畳する処理を行う
プロジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光の位相を変調する位相変調パターンデータを生成する位相変調データ生成装置、位相変調パターンデータに基づいて光の位相を変調する照明装置、および照明装置からの照明光に基づいて映像を投影するプロジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
照明装置からの照明光を光強度変調素子によって強度変調して投影画像を生成するプロジェクタが知られている。また、プロジェクタにおいて、照明装置に光位相変調素子を用いることで画像に応じて変調された照明像パターンを生成し、その照明像パターンを光強度変調素子への照明光として利用する技術がある。光位相変調素子は、所望の照明像パターンを再生可能な位相変調パターンデータに基づいて駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-224451号公報
【発明の概要】
【0004】
上記位相変調パターンデータを生成するための計算コストは低いことが望ましい。
【0005】
光位相変調素子によって所望の輝度分布を持つ照明像を生成するための位相変調データを低い計算コストで計算することを可能にする位相変調データ生成装置、照明装置、およびプロジェクタを提供することが望ましい。
【0006】
本開示の一実施の形態に係る位相変調データ生成装置は、所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、光位相変調素子によって部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算する第1の演算部と、第1の演算部によって計算された基本位相変調パターンデータを記憶する記憶部と、記憶部に記憶された基本位相変調パターンデータに基づいて、目的照明像パターンを光位相変調素子によって再生可能な目的位相変調パターンデータを計算する第2の演算部とを備え、第2の演算部が、基本位相変調パターンデータに対して並進処理を行うことにより生成された複数の基本位相変調パターンデータのそれぞれに対して、所望の輝度分布に応じた一様な輝度の重み付け処理、または所望の輝度分布に応じた輝度比の重み付け処理を行った後、複数の基本位相変調パターンデータのそれぞれを重畳する処理を行うものである。
【0007】
本開示の一実施の形態に係る照明装置は、光源と、光源からの光の位相を変調する光位相変調素子と、所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、光位相変調素子によって部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算する第1の演算部と、第1の演算部によって計算された基本位相変調パターンデータを記憶する記憶部と、記憶部に記憶された基本位相変調パターンデータに基づいて、目的照明像パターンを光位相変調素子によって再生可能な目的位相変調パターンデータを計算する第2の演算部とを備え、第2の演算部が、基本位相変調パターンデータに対して並進処理を行うことにより生成された複数の基本位相変調パターンデータのそれぞれに対して、所望の輝度分布に応じた一様な輝度の重み付け処理、または所望の輝度分布に応じた輝度比の重み付け処理を行った後、複数の基本位相変調パターンデータのそれぞれを重畳する処理を行うものである。
【0008】
本開示の一実施の形態に係るプロジェクタは、照明装置と、照明装置からの照明光を強度変調して投影画像を生成する光強度変調素子とを含み、照明装置は、光源と、光源からの光の位相を変調する光位相変調素子と、所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、光位相変調素子によって部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算する第1の演算部と、第1の演算部によって計算された基本位相変調パターンデータを記憶する記憶部と、記憶部に記憶された基本位相変調パターンデータに基づいて、目的照明像パターンを光位相変調素子によって再生可能な目的位相変調パターンデータを計算する第2の演算部とを備え、第2の演算部が、基本位相変調パターンデータに対して並進処理を行うことにより生成された複数の基本位相変調パターンデータのそれぞれに対して、所望の輝度分布に応じた一様な輝度の重み付け処理、または所望の輝度分布に応じた輝度比の重み付け処理を行った後、複数の基本位相変調パターンデータのそれぞれを重畳する処理を行うものである。
【0009】
本開示の一実施の形態に係る位相変調データ生成装置、照明装置またはプロジェクタでは、所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、光位相変調素子によって部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算し、計算された基本位相変調パターンデータを記憶部に記憶する。
【0010】
本開示の一実施の形態に係る位相変調データ生成装置、照明装置またはプロジェクタによれば、目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算し、計算された基本位相変調パターンデータを記憶部に記憶するようにしたので、光位相変調素子によって所望の輝度分布を持つ照明像を生成するための位相変調データを低い計算コストで計算することが可能となる。
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施の形態に係る位相変調データ生成装置の基本構成例を示すブロック図である。
図2】第1の実施の形態に係る照明装置およびプロジェクタの基本構成例を示すブロック図である。
図3】CGHの並進処理の一例を示す説明図である。
図4】CGHに一様な輝度の重み付けを行う場合の重み付け重畳処理の一例を示す説明図である。
図5】CGHに任意輝度の重み付けを行う場合の重み付け重畳処理の一例を示す説明図である。
図6】位相変調データ生成装置による事前処理の一例を示す流れ図である。
図7】位相変調データ生成装置による利用中処理の一例を示す流れ図である。
図8】部分照明像パターンの第1の変形例を示す説明図である。
図9】部分照明像パターンの第2の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
0.比較例
1.第1の実施の形態
1.1 概要
1.2 位相変調データ生成の具体例
1.3 効果
2.その他の実施の形態
【0013】
<0.比較例>
一般的なプロジェクタでは、均一な光密度の照明光を、液晶パネルやDMD(デジタルミラーデバイス)といった空間光強度変調素子(空間光強度変調パネル)に照射し、所望の光密度の画像を投影する。空間光強度変調素子には2次元的に複数の変調素子が配置される。各変調素子では、書き込まれた信号に応じて光の反射もしくは透過率を制御する。各変調素子に書き込む強度変調信号は、投影する画像から計算する。一般的なプロジェクタでは、空間光強度変調素子にて均一な照明光が強度変調され、投射用の光学系を通じて、所望の画像が投影される。
【0014】
しかし、このような一般的なプロジェクタでは、映像の暗い領域において、空間光強度変調素子が光を完全に遮断できない分、黒浮きと呼ばれる光漏れを起こし、コントラストの低下を招く。また、映像の暗い領域でも、照明光を照らすため、投影の際に利用されない無駄な電力を消費していた。
【0015】
特許文献1(特開2016-224451号公報)には、2つの空間光変調素子を用いるプロジェクタに関する技術が開示されている。この技術では、2つの空間光変調素子のうち、前段の空間光変調素子で、投影する画像に応じて動的に輝度分布が異なる照明像を再生し、後段の空間光変調素子に照射する。これによって、後段の空間光変調素子で利用されない光を低減し、無駄な電力を削減する。黒浮きの低減やピーク輝度も高められ、結果として、投影像の輝度のダイナミックレンジが拡大し、画質が向上する。
【0016】
一方で、前段の空間光変調素子で、動的に空間的な光密度が異なる照明像パターンを生成するためには、そのための変調パターンデータが必要である。例えば、空間光位相変調素子を利用する場合、データは位相変調量を2次元的に格納した位相変調パターンデータとなる。この位相変調パターンデータは、一般に計算機合成ホログラム(Computer Generated Hologram:CGH)と呼ばれる。CGHの計算は計算コストが高い処理であるが、近年のCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の性能向上に伴い計算が可能となってきた。しかし、プロジェクタ製品に高度な演算を行う演算装置を搭載することは、製造コストの増大を招くため、計算コストの削減が求められる。
【0017】
<1.第1の実施の形態>
[1.1 概要]
(位相変調データ生成装置の概要)
図1は、本開示の第1の実施の形態に係る位相変調データ生成装置1の基本構成例を示している。
【0018】
位相変調データ生成装置1は、位相変調データ生成のための事前処理を行うための構成として、部分照明像パターンデータ供給部10と、位相分布演算部11と、CGHテーブル記憶部12とを備えている。また、位相変調データ生成装置1は、事前処理で生成された位相変調データを利用する利用中処理を行うための構成として、画像データ供給部20と、目的照明像演算部21と、位相分布演算部22と、CGHデータ供給部23とを備えている。
【0019】
位相分布演算部11は、所望の輝度分布を持つ目的照明像パターン112を生成することが可能な部分照明像パターン101に基づいて、空間光位相変調素子2によって部分照明像パターン101を再生可能な基本位相変調パターン102のデータを計算する第1の演算部となっている。基本位相変調パターン102は、CGHである。
【0020】
CGHテーブル記憶部12は、位相分布演算部11によって計算された基本位相変調パターン102のデータを記憶する記憶部となっている。
【0021】
位相分布演算部22は、CGHテーブル記憶部12に記憶された基本位相変調パターン102のデータに基づいて、目的照明像パターン112を空間光位相変調素子2によって再生可能な目的位相変調パターン113のデータを計算する第2の演算部となっている。
【0022】
位相分布演算部22は、CGHテーブル記憶部12に記憶された基本位相変調パターン102のデータに対して、後述する並進処理、重み付け重畳処理、回転処理、反転処理、および拡大縮小処理のうち少なくとも1つの処理を行うことで、目的位相変調パターン113のデータを計算する。
【0023】
空間光位相変調素子2は、光の回折状態を動的に制御可能な回折素子である。空間光位相変調素子2としては、液晶分子を用いたLCOS(Liquid Crystal On Silicon)-SLM(Spatial Light Modulator)や、DMDのように微小鏡面を機械的に動かし、光路長を制御するデバイス等が利用できる。
【0024】
図6は、位相変調データ生成装置1による事前処理の一例を示している。
位相変調データ生成装置1では、まず、事前処理として、部分照明像パターンデータ供給部10おいて、空間光位相変調素子2に対する照明像の全域を任意形状で複数に分割した部分照明像パターン101を決定(ステップS01)し、供給する。部分照明像パターン101を再生するための基本位相変調パターン102のCGHを位相分布演算部11において予め計算する。この際に、CGHの生成にはGerchberg-Saxton法(GS法)等の従来の任意の位相回復アルゴリズムを利用する。ここで計算したCGHのデータをテーブル(CGHテーブルと呼称)として、CGHテーブル記憶部12に保持しておく(ステップS02)。CGHテーブルのデータ形式は、2次元の画像データや数値勾配のベクトル形式、極座標表現、および圧縮形式など任意である。CGHテーブル記憶部12に保持するCGHテーブルが再生する部分照明像パターン101の形状や、保持するCGHテーブルの数量は任意である。
【0025】
図7は、位相変調データ生成装置1による利用中処理の一例を示している。
プロジェクタでの実際の利用時(利用中処理)においては、画像データ供給部20から、入力画像111のデータとして、プロジェクタで投影する投影画像のデータを供給する(ステップS201)。入力画像111は例えば動画像の各フレームの画像データである。
【0026】
目的照明像演算部21では、入力画像111のデータから、目的照明像パターン112を計算する(ステップS202)。目的照明像演算部21では、複数の部分照明像パターン101に対して並進処理、重み付け重畳処理、回転処理、反転処理、および拡大縮小処理のうち少なくとも1つの処理を行うことで表現可能な、目的照明像パターン112を計算する。位相分布演算部22では、CGHテーブル記憶部12からCGHテーブルを呼び出し、部分照明像パターン101を再生可能な基本位相変調パターン102のデータに対して、後述する並進処理、重み付け重畳処理、回転処理、反転処理、および拡大縮小処理のうち少なくとも1つの処理を行うことで、目的照明像パターン112を再生可能な目的位相変調パターン113のCGHデータを計算する。図7では、並進処理を行った(ステップS20)後、重み付け重畳処理を行った場合(ステップS20例を示している。目的照明像演算部21では、全ての部分照明像パターン101に対する処理が終了したか否かを判断する(ステップS205)。全ての部分照明像パターン101に対する処理が終了していないと判断した場合(ステップS205;N)には、ステップS03の処理に戻る。全ての部分照明像パターン101に対する処理が終了したと判断した場合(ステップS205;Y)には、処理を終了するここでの位相分布演算部22による計算は、計算コストが大きい位相回復アルゴリズムを使用すること無く、計算する。その後、目的位相変調パターン113のCGHデータに基づいて空間光位相変調素子2を駆動することで、目的照明像パターン112が再生される。
【0027】
(照明装置、およびプロジェクタの概要)
図2は、第1の実施の形態に係る照明装置およびプロジェクタ30の基本構成例を示している。
【0028】
プロジェクタ30は、空間光位相変調素子2と、空間光強度変調素子3と、光源31と、デコーダ32と、記憶装置33と、演算装置34と、光位相変調素子駆動回路35と、光強度変調素子駆動回路36とを備えている。
【0029】
プロジェクタ30における照明装置は、少なくとも、光源31と、空間光位相変調素子2と、記憶装置33と、演算装置34と、光位相変調素子駆動回路35とを含んでいる。
【0030】
空間光位相変調素子2は、光源31からの光の位相を変調する。光源31は、例えばレーザ光源である。
【0031】
プロジェクタ30は、位相変調データ生成装置1を含んでいてもよい。
【0032】
記憶装置33は、少なくとも位相変調データ生成装置1におけるCGHテーブル記憶部12に記憶されたCGHテーブルを記憶している。記憶装置33は、不揮発記憶装置もしくは揮発性記憶装置、それらを組み合わせたものでもよい。
【0033】
演算装置34は、位相変調データ生成装置1における位相分布演算部11と、目的照明像演算部21と、位相分布演算部22と、CGHデータ供給部23とを含んでいてもよい。演算装置34は、例えば、CPU、GPU、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)のうち少なくとも1つを含んでいる。
【0034】
CGHテーブルは予め記憶装置33に格納されているものとする。プロジェクタ30では、入力された映像信号に対してデコーダ32によって復号や伸張を行い、例えば動画像の各フレームの画像データを取得する。空間光強度変調素子3は、光強度変調素子駆動回路36によって画像データに基づいて駆動される。
【0035】
また、画像データは、演算装置34に入力される。演算装置34では、画像データとCGHテーブルとに基づいて、目的照明像パターン112を再生可能な最終的なCGHデータである目的位相変調パターン113のデータを計算する。空間光位相変調素子2は、光位相変調素子駆動回路35によって演算装置34で生成されたCGHデータに基づいて駆動される。これにより、空間光位相変調素子2によって、所望の輝度分布を持つ目的照明像パターン112が再生される。
【0036】
もし、空間光位相変調素子2による照明像だけで、実使用上、必要な画質が得られるのであれば、後段の空間光強度変調素子3は無くてもよい。空間光強度変調素子3を利用することで、少なくとも1つの部分照明像パターン101で構成された目的照明像パターン112を、高解像度に強度変調し、投影画像の解像度を向上させることができる。空間光位相変調素子2には、従来のプロジェクタにおいて利用していた均一輝度照明光等、一定の輝度分布を持つ均一照明パターン121の照明光を照射する。そして、空間光位相変調素子2による位相変調および回折によって生成された照明像を照明光として空間光強度変調素子3へ照射する。空間光強度変調素子3は、照明光を強度変調して投影画像を生成する。空間光強度変調素子3によって生成された投影画像は、図示しない投影光学系によってスクリーン等の投影面に投影される。
【0037】
[1.2 位相変調データ生成の具体例]
位相分布演算部22は、CGHテーブル記憶部12に記憶された基本位相変調パターン102のデータ(CGH)に対して、以下で説明する並進処理、重み付け重畳処理、回転処理、反転処理、および拡大縮小処理のうち少なくとも1つの処理を行うことで、目的位相変調パターン113のデータを計算する。
【0038】
(並進処理)
CGHの並進(シフト)処理例について述べる。空間光位相変調素子2上の2次元座標を(x,y)とし、空間光位相変調素子2上に位相分布θ(x,y)のCGHを書き込んだ状態を想定する。ここにレーザ光等の振幅がA(x,y)の平面波を入射した場合、空間光位相変調素子2の直後の電場分布f(x,y)は、以下の式(1)で表される。
【0039】
【数1】
【0040】
式(1)では、入射光の持つ時間や位置による位相項は無視している。照明像上の2次元座標と電場分布を、それぞれ(ξ,η)およびF(ξ,η)とし、回折がフラウンホーファー回折に倣うとすると、以下の式(2)が成り立つ。
【0041】
【数2】
【0042】
F(ξ,η)は、f(x,y)を2次元フーリエ変換した形となる。FT[]をフーリエ変換の演算子とする。ここから、(ξ,η)面上にて照明像を(n,m)並進させるためには、離散フーリエ変換の公式から、以下の式(3)となる。
【0043】
【数3】
【0044】
N,Mは標本数である。f(x,y)の標本数は空間光位相変調素子2の解像度であるため、それぞれをWIDTH,HEIGHTとすると、以下の式(4)となる。
【0045】
【数4】
【0046】
つまり、CGH上の座標(x,y)と並進量(n,m)から求めた位相を加算することにより、CGHの並進処理を行うことができる。
【0047】
図3に、CGHの並進処理の一例を示す。
図3の左側には、GS法によって生成された基本位相変調パターン130(CGH)と、その基本位相変調パターン130による回折像131(2次元フーリエ変換後の強度)とを示す。回折像131は、中央に矩形状の輝度の高い領域がある照明像となっている。図3の右側には、並進処理後の位相変調パターン140(CGH)と、その並進処理後の位相変調パターン140による回折像141(2次元フーリエ変換後の強度)とを示す。
【0048】
(重み付け重畳処理)
続いて、CGHの重み付け重畳処理について述べる。目的の輝度分布に応じた照明像を再生すべく、CGHテーブルに並進処理を施した、個々のCGHを重畳する。重畳処理では、以下の式(5)のようにフーリエ変換の線形性を用いる。
【0049】
【数5】
【0050】
ここで、f(x,y)およびg(x,y)は、各々異なるCGHであるθ(x,y)およびφ(x,y)を書き込んだSLM等の空間光位相変調素子2による位相変調直後の電場分布である。入射レーザ光の強度分布を一様に1とすると、式(1)より、f(x,y)およびg(x,y)は、以下の式(6)で表される。
【0051】
【数6】
【0052】
さらに重み付けを一様としてa=b=1とすると、再生像FT[f(x,y)]およびFT[g(x,y)]を重畳させるためのCGHは、以下の式(7)で表される。
【0053】
【数7】
【0054】
C(x,y)は、画素毎に異なる実数のスケール因子である。ここから、重畳後のCGHをψ(x,y)として、以下の式(8)を求めることができる。
【0055】
【数8】
【0056】
θ(x,y)およびφ(x,y)を再生像面上にてα:βの強度比で重畳する場合、電場の振幅比は√α:√βとなる。従って式(5)におけるaおよびbは、以下の式(9)で表される。
【0057】
【数9】
【0058】
重畳後のCGHをψ’(x,y)とすると、以下の式(10)となる。
【0059】
【数10】
【0060】
図4は、CGHに一様な輝度の重み付けを行う場合の重み付け重畳処理の一例を示している。図4では、ψ(x,y)の計算を複素平面上にて図示している。図5は、CGHに任意輝度の重み付けを行う場合の重み付け重畳処理の一例を示している。図5では、ψ’(x,y)の計算を複素平面上にて図示している。
【0061】
座標(x,y)における重畳後のCGHの位相は、一様な重み付け、つまり部分照明像パターン101の一様輝度での重畳の際は、図4に示したように、単位円上の各々の点を足し合わせた後の偏角が、ψ(x,y)となる。一方で、任意輝度の重み付けの際は、図5に示したように、各々の原点からの距離をスケールさせた後に足し合わせ、偏角を取ったものがψ’(x,y)となる。空間光位相変調素子2へ書き込む際には、例えば空間光位相変調素子2が8bit表示デバイスの場合は0~2πの位相を、0~255の整数に正規化および量子化する。
【0062】
(その他の計算)
部分照明像パターン101の反転処理および回転処理は、CGHテーブルの反転処理および回転処理が利用可能である。反転処理として、左右反転処理、上下反転処理および左右上下反転処理が可能である。部分照明像パターン101の拡大縮小は、フーリエ変換の相似性より、CGHテーブルの拡大縮小処理によって実現可能である。
【0063】
(部分照明の形状の他の例)
図8は、部分照明像パターン101の第1の変形例を示している。
図8の左側には、第1の変形例に係る部分照明像パターン151を示す。図8の右側には、部分照明像パターン151によって目的照明像パターンを生成する場合の照明像分割パターン152を示す。例えば図8の左側に示したような二等辺直角三角形状の部分照明像パターン151を再生する基本位相変調パターンデータに対して左右上下反転処理を行うことで、図8の右側に示した照明像分割パターン152の1または複数の任意の分割領域を再生できる。
【0064】
図9は、部分照明像パターン101の第2の変形例を示している。
部分照明像パターン101には輝度の勾配があっても良い。図9の上側には、第2の変形例に係る部分照明像パターン161を示す。部分照明像パターン161は、基本形状を正方形とし、その正方形の輪郭をシグモイド関数で輝度勾配を付け、ぼかした例を示している。また、図9には、1つの部分照明像パターン161による輝度分布162と、部分照明像パターン161を2つ連結した場合の輝度分布163とを示す。2つ連結した場合の輝度分布163では、連結した部分の境界における輝度は略一定となる。
【0065】
[1.3 効果]
以上のように、本実施の形態によれば、目的照明像パターン112を生成することが可能な部分照明像パターン101に基づいて、部分照明像パターン101を再生可能な基本位相変調パターン102のデータを計算し、計算された基本位相変調パターン102のデータをCGHテーブル記憶部12に記憶するようにしたので、所望の輝度分布を持つ照明像を生成するための目的位相変調パターン113のデータを低い計算コストで計算することが可能となる。これにより、プロジェクタ30の演算装置34に関わる製造コストを低減させることができる。プロジェクタ30における動画像の再生フレームレートの向上にも寄与する。
【0066】
なお、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
【0067】
<2.その他の実施の形態>
本開示による技術は、上記実施の形態の説明に限定されず種々の変形実施が可能である。
【0068】
例えば、本技術は以下のような構成を取ることもできる。
(1)
所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、光位相変調素子によって前記部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算する第1の演算部と、
前記第1の演算部によって計算された前記基本位相変調パターンデータを記憶する記憶部と
を備える
位相変調データ生成装置。
(2)
前記記憶部に記憶された前記基本位相変調パターンデータに基づいて、前記目的照明像パターンを前記光位相変調素子によって再生可能な目的位相変調パターンデータを計算する第2の演算部、
をさらに備える
上記(1)に記載の位相変調データ生成装置。
(3)
前記第2の演算部は、前記記憶部に記憶された前記基本位相変調パターンデータに対して、並進処理、重み付け重畳処理、回転処理、反転処理、および拡大縮小処理のうち少なくとも1つの処理を行うことで、前記目的位相変調パターンデータを計算する
上記(2)に記載の位相変調データ生成装置。
(4)
前記基本位相変調パターンデータは、計算機合成ホログラムである
上記(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の位相変調データ生成装置。
(5)
光源と、
前記光源からの光の位相を変調する光位相変調素子と、
所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、前記光位相変調素子によって前記部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算する第1の演算部と、
前記第1の演算部によって計算された前記基本位相変調パターンデータを記憶する記憶部と
を備える
照明装置。
(6)
前記記憶部に記憶された前記基本位相変調パターンデータに基づいて、前記目的照明像パターンを前記光位相変調素子によって再生可能な目的位相変調パターンデータを計算する第2の演算部、
をさらに備える
上記(5)に記載の照明装置。
(7)
前記第2の演算部は、前記記憶部に記憶された前記基本位相変調パターンデータに対して、並進処理、重み付け重畳処理、回転処理、反転処理、および拡大縮小処理のうち少なくとも1つの処理を行うことで、前記目的位相変調パターンデータを計算する
上記(6)に記載の照明装置。
(8)
前記基本位相変調パターンデータは、計算機合成ホログラムである
上記(5)ないし(7)のいずれか1つに記載の照明装置。
(9)
照明装置と、
前記照明装置からの照明光を強度変調して投影画像を生成する光強度変調素子と
を含み、
前記照明装置は、
光源と、
前記光源からの光の位相を変調する光位相変調素子と、
所望の輝度分布を持つ目的照明像パターンを生成することが可能な部分照明像パターンに基づいて、前記光位相変調素子によって前記部分照明像パターンを再生可能な基本位相変調パターンデータを計算する第1の演算部と、
前記第1の演算部によって計算された前記基本位相変調パターンデータを記憶する記憶部と
を備える
プロジェクタ。
【0069】
本出願は、日本国特許庁において2017年5月19日に出願された日本特許出願番号第2017-099851号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願のすべての内容を参照によって本出願に援用する。
【0070】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9