(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】光学構造体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2019527084
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2018024946
(87)【国際公開番号】W WO2019004463
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2017128776
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】海老名 一義
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-184725(JP,A)
【文献】特表2009-532726(JP,A)
【文献】特開2014-071233(JP,A)
【文献】特開2012-123102(JP,A)
【文献】特開平07-064024(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0132920(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03000613(EP,A1)
【文献】特表2005-514672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録領域を含むエンボス面を有し、前記記録領域が凹凸構造を有するエンボス記録体を含む、エンボス層と、
前記記録領域の一部または全部を覆う光反射層と、を備え、
前記記録領域は、屈折ミラー領域と、前記屈折ミラー領域の近傍の回折領域とを含み、
前記屈折ミラー領域には、前記エンボス記録体を構成する複数の傾斜ミラーが整列し、前記回折領域は、回折構造を有し、
前記屈折ミラー領域は、複数の局所ミラー構造を有し、
前記回折領域は、複数の局所回折構造を有し、
前記局所回折構造と前記局所回折構造に近接する前記局所ミラー構造との各対が、1つの局所構造を形成し、
前記局所ミラー構造における傾斜ミラーの法線ベクトルの方位方向と前記局所回折構造の格子ベクトルの方位方向とがなす角が、前記局所構造において10°以内であり、
前記局所構造において、前記局所回折構造と、前記局所ミラー構造とが分かれており、
前記局所構造において、前記局所回折構造の回折光と前記局所ミラー構造の反射光とが混じり合い、
前記局所回折構造の前記回折光は、第1の色の光と前記第1の色とは異なる第2の色の光とを含む複数の色に色分散し、
前記局所ミラー構造の前記反射光は、前記第1の色の光と前記第2の色の光とを含む複数の色に色分散し、
前記局所回折構造は、円状を有し、
前記局所回折構造の
直径が、
10μm以上200μm以下であり、
前記エンボス層は、前記エンボス面とは反対側の面である平坦面を備え、
前記複数の傾斜ミラーが整列する方向、および、前記平坦面に直交する断面において、前記平坦面に対する法線ベクトルを対象軸として、前記回折光における前記第1の色の光と前記第2の色の光とが並ぶ順序が、前記反射光における前記第1の色の光と前記第2の色の光とが並ぶ順序とは逆である
光学構造体。
【請求項2】
前記局所ミラー構造と前記局所回折構造との中心間の距離は、10μm以上100μm以下である
請求項1に記載の光学構造体。
【請求項3】
前記局所ミラー構造の各傾斜ミラーは1μm以上の深さを有し、
前記回折構造は、0よりも高く114本/mm以下である空間周波数と、0.5μm以下である深さとを有する
請求項1または2に記載の光学構造体。
【請求項4】
前記記録領域において、前記局所ミラー構造と前記局所回折構造とが市松模様状に配置されている
請求項1から3のいずれか一項に記載の光学構造体。
【請求項5】
前記局所構造の面積に対する前記局所回折構造の面積の百分率が、50%以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の光学構造体。
【請求項6】
前記回折領域は、前記記録領域に分散した複数の離散回折領域であり、
前記屈折ミラー領域は、前記複数の離散回折領域の間の領域を含む
請求項1から3のいずれか一項に記載の光学構造体。
【請求項7】
各回折領域は、その回折領域と前記屈折ミラー領域の輪郭との間の距離が小さいほど、小さい面積を有する
請求項6に記載の光学構造体。
【請求項8】
前記エンボス面は、前記屈折ミラー領域よりも外側に、前記屈折ミラー領域の輪郭に沿って位置する複数の回折領域をさらに含む
請求項7に記載の光学構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の記述は、光学構造体に関する。また、本発明の実施形態の記述は、製法、用法、検証法などの方法に関する。さらに、本発明の実施形態の記述は、視認性、機能性、適用性、有益性に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣、身分証明(ID)、ブランドプロテクション(BP)などに用いられるセキュリティデバイスは、該セキュリティデバイスが貼付される対象物である安全を保障されるべき物品が真正であることを証明または識別することが可能である必要がある。装飾性および加飾性を備えるセキュリティデバイスも知られている。こうしたセキュリティデバイスとして、ホログラムや回折格子からなる光学構造体が広く用いられてきた。
【0003】
しかし、偽造技術の向上に対する対応策の要望や新たな装飾効果への要望などから、常に新しいセキュリティデバイスとしての光学構造体が求められている。近年、光学構造体を構成する技術の一つとして、サブミリオーダーの微小な凹凸形状によってレンズ構造を形成し、かつ、レンズ構造の表面において生じる屈折や反射によりエンボス記録体を構成する技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、少なくとも1つの自由曲面を備えた光学可変素子が提案されている。この光学可変素子によれば、文字、数字、幾何学的な図形、または、その他のオブジェクトの三次元的な形状が観察者によって視認される。光学可変素子の自由曲面は、拡大効果、縮小効果、または、歪み効果を生じさせるレンズ状である。
【0005】
また、特許文献2では、第一の包絡線をたどる多数の連続したエレメントを含む回折表面レリーフが提案されている。各エレメントは、ベース表面に実質的に平行であるエレメント表面と、互いに隣り合う2つのエレメント表面に隣接する側面とを含む。エレメントは150nmから800nmの光学的間隔を有する。包絡線は、100L/mm(本/mm)から2000L/mm(本/mm)の空間周波数と、450nm以上の光学的深度を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4611747号公報
【文献】特許第5431363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、サブミリオーダーの反射構造によって形成される反射構造面は、そのエンボス記録体を保護する観点から、観察者から見て透明保護層越しに観察されるように配置される。画像を観察するため照明光が反射構造面に入射する際には、入射した光は透明保護層と透明保護層の外部との境界面において屈折する。透明保護層に入射した光は、境界面における屈折の際に、透明保護層を構成する素材が持つ色分散、すなわち、透明保護層に入射した光における波長による屈折率の違いの影響を受ける。そのため、透明保護層から射出される光によって形成される像が着色してしまう。
【0008】
サブミリオーダーの反射構造やレンズ構造により構成したエンボス記録体が、無彩色によって表現される場合には、上述の着色により意図しない色味がエンボス記録体に生じる。これにより、エンボス記録体における画質を損ねてしまうことがある。
【0009】
また、特許文献2における回折表面レリーフ、すなわち、サブミリオーダーの構造からなるエンボス記録体と、発色源としての回折構造とを組み合わせる場合においても、偽造防止の観点のみによって回折表面レリーフの構成が検討されていることがある。この場合には、上述のような意図しない色味が考慮されておらず、結果として、回折表面レリーフのエンボス記録体における画質を損ねてしまうことがある。
【0010】
また、レンズ構造などの表面に回折格子や多層膜を形成し、光回折や光干渉現象による発色を利用することで、上述した意図しない色味を中和する方式もある。しかしながら、傾斜ミラーを用いた場合には、回折光の射出角度と、傾斜ミラーによる反射光の角度、および、波長による色ずれの量、言い換えれば色分散の度合いとが一致しない。そのため、所望の効果を得ることができない。
【0011】
本発明の実施形態は、傾斜ミラーに生じる色分散を補償することを可能とした光学構造体とすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための光学構造体は、記録領域を含むエンボス面を有し、前記記録領域が凹凸構造を有するエンボス記録体を含む、エンボス層と、前記記録領域の一部または全部を覆う光反射層と、を備える。前記記録領域は、屈折ミラー領域と、前記屈折ミラー領域の近傍の回折領域とを含む。前記屈折ミラー領域には、前記エンボス記録体を構成する複数の傾斜ミラーが整列し、前記回折領域は、回折構造を有する。前記屈折ミラー領域は、複数の局所ミラー構造を有し、前記回折領域は、複数の局所回折構造を有する。前記局所回折構造と前記局所回折構造に近接する前記局所ミラー構造との各対が、1つの局所構造を形成し、前記局所ミラー構造における傾斜ミラーの法線ベクトルの方位方向と前記局所回折構造の格子ベクトルの方位方向は、前記局所構造で同様であることにより、前記局所ミラー構造が、前記局所回折構造にカップル化され、前記局所回折構造と、その局所回折構造にカップル化された前記局所ミラー構造とは分かれており、前記局所回折構造の回折光と、その局所回折構造にカップル化された前記局所ミラー構造の反射光とは混じり合う。
【0013】
上記光学構造体において、前記局所ミラー構造と前記局所回折構造との中心間の距離は、10μm以上100μm以下であってもよい。
上記光学構造体において、前記局所構造の前記局所ミラー構造における傾斜ミラーの法線ベクトルの方位方向と前記局所回折構造の格子ベクトルの方位方向とがなす角が、10°以内であってもよい。
【0014】
上記光学構造体において、前記局所ミラー構造の各傾斜ミラーは1μm以上の深さを有し、前記回折構造は、0よりも高く114本/mm以下である空間周波数と、0.5μm以下である深さとを有してもよい。
【0015】
上記光学構造体では、前記記録領域において、前記局所ミラー構造と前記局所回折構造とが市松模様状に配置されてもよい。
上記光学構造体において、前記局所構造の面積に対する前記局所回折構造の面積の百分率が、50%以下でもよい。
【0016】
上記光学構造体において、前記回折領域は、前記記録領域に分散した複数の離散回折領域であり、前記屈折ミラー領域は、前記複数の離散回折領域の間の領域を含んでもよい。
【0017】
上記光学構造体において、各回折領域は、その回折領域と前記屈折ミラー領域の輪郭との間の距離が小さいほど、小さい面積を有してもよい。
上記光学構造体において、前記エンボス面は、前記屈折ミラー領域よりも外側に、前記屈折ミラー領域の輪郭に沿って位置する複数の回折領域をさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態における光学構造体の例を正面視したときの構造を概念的に示す平面図。
【
図2】
図1のA-A線に沿う断面構造を概念的に示す図。
【
図3】本発明の光学構造体が備える記録領域の例における構造を概念的に示す平面図。
【
図4】本発明の光学構造体が備える記録領域の別の例における構造を概念的に示す平面図。
【
図5】本発明の光学構造体に照明光が入射した際の、傾斜ミラーと回折格子とによる光線の反射および回折の様子を概念的に示す図。
【
図6】本発明の第2実施形態における光学構造体の例を正面視したときの構造を概念的に示す平面図。
【
図7】記録領域の構造を拡大して概念的に示す平面図。
【
図8】本発明の第2実施形態の第1変形例における光学構造体の例を正面視したときの構造を概念的に示す平面図。
【
図9】本発明の第2実施形態の第2変形例における光学構造体の例を正面視したときの構造を概念的に示す平面図。
【
図10】本発明の第2実施形態の他の変形例における光学構造体の例を正面視したときの構造を概念的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明において適宜図面を参照するが、図面に記載された態様は本発明の例示であり、本発明はこれらの図面に記載された態様に制限されない。
【0020】
光学構造体は、エンボス記録体層と、光反射層とを備える。エンボス層は、エンボス層の片方の面、または両方の面にエンボス面を有する。エンボス面は、エンボス記録体が記録された記録領域を含む。エンボス記録体は、凹凸構造を有する。光反射層は、記録領域の一部または全部を覆う。また、光反射層は、エンボス面の一部または全部を覆ってもよい。記録領域は、屈折ミラー領域と回折領域とを含む。屈折ミラー領域には、エンボス記録体を構成する複数の傾斜ミラーが整列し、各傾斜ミラーは1μm以上の深さとできる。傾斜ミラーは、エンボス面に近似するベース平面に対して、1°以上45°以下の角度で傾斜することができる。回折領域は、回折格子を有する。回折領域の回折格子は、0よりも高く114本/mm以下の空間周波数と、0.05μm以上0.5μm以下の深さを有した構造とできる。以下、
図1から
図5を参照して、光学構造体の第1実施形態を詳しく説明し、
図6から
図9を参照して、光学構造体の第2実施形態を詳しく説明する。
【0021】
[本発明の第1実施形態]
図1から
図5を参照して、本発明の光学構造体の第1実施形態を説明する。
<光学構造体>
図1は、本発明の光学構造体の一例を概念的に示す平面図である。
図2は、本発明の光学構造体の一例における断面構造を示す断面図である。
図2は、
図1におけるA-A線に沿った断面構造を示している。
【0022】
図1が示すように、光学構造体1は、エンボス層の一つのエンボス面に、エンボス記録体を備えている。エンボス記録体が形成された領域は、記録領域2とできる。記録領域2は、局所ミラー構造3と局所回折構造4とから構成される局所構造5を複数含む。局所構造5は、1つの局所ミラー構造3と1つの局所回折構造4とから構成できる。局所構造5は、局所回折構造4と局所回折構造4にカップル化された局所ミラー構造3との対である。局所構造5の局所ミラー構造3における傾斜ミラーの法線ベクトルの方位方向と、局所回折構造4における格子ベクトルの方位方向とは、同様である。局所ミラー構造3の傾斜ミラーにおける法線ベクトルの方位方向は、エンボス面に近似するベース平面上に投影された法線ベクトルと同じ方向となる。格子ベクトルの方位方向は、エンボス面に近似するベース平面上に投影された格子ベクトルと同じ方向となる。局所構造5の局所ミラー構造3におけるミラーの法線ベクトルの方位方向と局所回折構造4における格子ベクトルの方位方向のなす角が、10°以内であれば、ミラーの法線ベクトルの方位方向と格子ベクトルの方位方向は同様とできる。局所構造5のコンフィグレーションによって、エンボス記録体を形成できる。
【0023】
記録領域2は、エンボス記録体が形成された領域である。エンボス記録体は、局所構造5のコンフィグレーションによって絵柄を記録できる。記録する絵柄は、ランドマーク、肖像、コード、文字、数字、符号(sign)、マーク、シンボル、モチーフ、幾何学模様、万線模様とできる。記録領域2は、一つの屈折ミラー領域または複数の屈折ミラー領域を含む。また、記録領域2は、複数の回折領域を含む。回折領域は、屈折ミラー領域の近傍に配置される。回折領域と屈折ミラー領域との間のギャップは、0.1μm以上100μm以下であってよい。なお、回折領域と屈折ミラー領域との間のギャップは、それぞれの領域の外形のうちもっとも近接する点の間の距離とできる。屈折ミラー領域は、複数の局所ミラー構造3を含む。回折領域は、複数の局所回折構造4を含む。局所ミラー構造3と局所回折構造4との対が、1つの局所構造5を形成する。エンボス記録体は、複数の局所構造5を含む。記録領域2は、複数の局所構造5を有する。回折領域は、記録領域2に離散的に形成できる。離散的に形成された各回折領域は、それぞれを局所回折構造4とできる。さらに、離散的に形成された各回折領域は、複数の局所回折構造4を有していてもよい。屈折ミラー領域は、記録領域2に離散的または連続的に形成できる。各局所回折構造に近接する屈折ミラー領域のミラー構造は、その局所回折構造とカップル化された局所ミラー構造とできる。
【0024】
図2が示すように、本発明の光学構造体1は、エンボス層20と、光反射層21と、接着層22とを備えることができる。エンボス層20は、エンボス層20の対向する2つの面における一方の面に、凹凸構造を有する。凹凸構造は、エンボス記録体を構成する。エンボス層20において、記録領域2を含む面がエンボス面である。言い換えれば、エンボス記録体を含む面がエンボス面である。エンボス層20の片面または両面を、エンボス面とできる。エンボス記録体は、エンボス面の一部または全面に形成されている。エンボス記録体が形成された領域が、記録領域2である。エンボス層20のエンボス面の一部または全面にエンボス記録体が形成されている。
【0025】
光反射層21は、エンボス層20のエンボス面を被覆している。
図2では、光反射層21は、エンボス面の全体を覆っているが、エンボス面の一部を覆ってもよい。接着層22は、光反射層21に付着している。
【0026】
光学構造体1は、接着層22を有しなくてもよい。光学構造体1は、接着層22を有してもよいし、有しなくてもよい。接着層22の有無は、光学構造体1の適用により決定できる。光学構造体1は、エンボス層20、光反射層21、および、接着層22とは別の機能層を備えてもよい。エンボス層20のエンボス記録体は、局所ミラー構造3と、局所回折構造4とを有する局所構造5を複数備える。機能層は、不可視の機能層または可視の機能層とできる。機能層は、オバート、コバート、または、その両方とできる。コバートはリーダーで検証できる。オバートは、肉眼での検証、ツールを用いた検証とできる。検証に用いるツールは、ルーペ、ブラックライト、偏光板とできる。機能層は、可変インキ印刷、不可視インキ印刷、マイクロ文字印刷、万線模様印刷、液晶層とできる。不可視インキ印刷は、蛍光インキで形成された印刷である蛍光インキ印刷、赤外吸収インキで形成された印刷である赤外吸収インキ印刷とできる。液晶層は、コレステリック液晶層、ネマチック液晶層とできる。
【0027】
エンボス記録体の局所構造5のコンフィギュレーションによって、光学構造体1は像を表示できる。光学構造体1の像は、光学構造体1に可視光を入射することで表示できる。光学構造体1に可視光を入射することで、エンボス記録体に記録された絵柄の像が表示される。表示される像は、ランドマーク、肖像、コード、文字、数字、符号(sign)、マーク、シンボル、モチーフ、幾何学模様、万線模様とできる。なお、図示されているように、局所構造5のコンフィギュレーションでは、第1方向に沿って並ぶ複数の局所ミラー構造3と複数の局所回折構造4とは、第1の並びである。第1方向に直交する第2方向に沿って並ぶ複数の局所ミラー構造3と複数の局所回折構造4とは、第2の並びである。第1の関係と第2の関係とは、互いに異なってよい。第1の並びと第2の並びとは、互いに等しくてもよい。
【0028】
以下、光学構造体1を構成する各層について、より詳しく説明する。
(エンボス層20)
エンボス層20は、光透過性を有してもよい。エンボス層20は、透明または半透明であってよい。エンボス層20は、有色または無色とできる。エンボス層20を形成する母材は、樹脂とできる。母材の樹脂は、熱可塑樹脂または硬化樹脂とできる。未硬化の母材の樹脂は、可溶性とできる。未硬化の母材の樹脂を溶解する溶剤は、極性溶剤、非極性溶剤、両極性溶剤とできる。また、溶剤は、混合溶剤とできる。
【0029】
エンボス層20を形成する母材は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン系樹脂、変性オレフィン系樹脂とできる。オレフィン系樹脂は、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂とできる。変性オレフィン系樹脂は、酸変性ポリプロピレン(PP)樹脂、酸変性ポリエチレン(PE)樹脂とできる。これらの材料は、易加工性と柔軟性とを有する。これらの材料を用いて製造した仕上がり品、すなわち光学構造体1の風合いがよい。
【0030】
また、エンボス層20を形成するための材料は、透明樹脂でもよい。透明樹脂は、ポリカーボネート樹脂、メタクリルスチレン(MS)樹脂であってよい。これらの樹脂は、加工が比較的容易である。これらの樹脂は、耐衝撃性に優れる。そのため、エンボス層20が割れにくくなる。透明樹脂は、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂でもよい。これらの樹脂をエンボス層20に適用することによって、耐擦性に優れたエンボス層20を得ることができる。
【0031】
また、光学構造体1は、エンボス層20におけるエンボス面とは反対の面に透明保護層を含んでいてもよい。透明保護層は、光透過性であってもよい。この場合、透明保護層は、エンボス層20の下地としての役割を果たすとともに、エンボス層20を保護する役割を果たす。これにより、光学構造体1の強度を高めることができる。また、透明保護層によって光学構造体1の強度が高められるため、エンボス層20の厚さを薄くすることも可能である。透明保護層は、フィルム、コート層、コートされたフィルムとできる。
【0032】
透明保護層は、光透過性の素材で形成されてもよい。光透過性の素材は、均質なポリマーまたは複合体を母材とできる。その複合体は、異種のポリマーの均一な複合体、異種のポリマーの不均一な複合体とできる。均質なポリマー、または、異種のポリマーの複合体は、1つのポリマーが連続相であり、他方のポリマーは分散相とできる。また、1つのポリマーが連続相であり、他方のポリマーも連続相とできる。透明保護層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、アクリル、ウレタン、ウレタンアクリレート、エポキシ、フッ素ポリマー、シリコーン、エラストマーであってよい。透明保護層は、硬くてもよい。また、透明保護層は、クッション性を有してもよい。透明保護層は、耐熱性や耐薬品性を有してもよい。透明な素材は、シクロオレフィン(COP)であってよい。シクロオレフィンは、色分散や複屈折が少なく、光学的な諸特性に優れる。また、透明保護層の光透過性の素材は、粉体を含んでもよい。粉体は、無機粉体、ポリマー粉体とできる。無機粉体は、シリカ粒子やアルミナ粒子とできる。ポリマー粉体は、アクリル粉体、シリコーン粉体、フッ素粉体、エポキシ粉体、ウレタン粉体、ウレタンアクリレート粉体、メラミン粉体とできる。
【0033】
(光反射層21)
光反射層21は、エンボス層20を透過した光を反射する層である。
図1および
図2に示す例では、光反射層21は、エンボス層20におけるエンボス面の全てを被覆している。光反射層21は、エンボス面の一部を被覆してもよい。
【0034】
エンボス面の一部を被覆する光反射層21は、エンボス層20の凸部の底面および頂面のみを被覆し、凸部の側面を被覆していない層であってよい。あるいは、エンボス面の一部を被覆する光反射層21は、局所構造5によって構成される画像パターンと同一または異なる画像パターンを形成するようにエンボス面を被覆してもよい。
【0035】
光反射層21は、堆積層、または、塗布層とできる。堆積層は、金属層、シリコン酸化物層、金属化合物層とできる。金属層は、金属を堆積した層とできる。シリコン酸化物層は、シリコン酸化物を堆積した層とできる。金属化合物層は、金属化合物を堆積した層とできる。塗布層は、高光沢インキによって形成できる。金属層は、アルミニウム、ニッケル、スズ、亜鉛、銀、金、または、これらの合金であってよい。高光沢インキは、鱗片状の金属片を含むインキであってよい。金属化合物層は、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属フッ化物を堆積した層とできる。金属化合物層の金属は、アルミニウム、チタン、亜鉛、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムとできる。
【0036】
(任意の層)
光学構造体1は、エンボス層20および光反射層21以外に、接着層22やその他の層を更に含んでいてもよい。接着層22は、カードや紙などに光学構造体1を接着して使用する場合に、光学構造体1に接着力を付与するために設けられる層である。上述したように、接着層22を、エンボス層20のエンボス面を被覆する光反射層21のなかで、エンボス層20に接する面とは反対側の面にコートすることができる。接着層22を形成するための材料は、感熱接着剤、感圧接着剤であってよい。
【0037】
光学構造体1は、エンボス層20、光反射層21、および、接着層22以外の層として、印刷層、保護層、中間層を備えてよい。光学構造体1は、光学構造体1の用途に応じて、適宜各種の機能層を備えることができる。
【0038】
(局所構造のコンフィギュレーション)
図1、
図3、および、
図4を参照して、記録領域2におけるエンボス記録体における局所構造5のコンフィギュレーションについて説明する。
【0039】
エンボス層20は、エンボス面にエンボス記録体を備えている。エンボス記録体は、屈折ミラー構造と、回折構造とを備えている。局所構造5は、回折構造からなる局所回折構造4と、局所回折構造4とカップル化された屈折ミラー構造からなる局所ミラー構造3からなる。複数の局所構造5は、エンボス記録体を構成する。屈折ミラー構造は、傾斜した傾斜ミラーを含む。屈折ミラー構造は、傾斜ミラーと対向する側面を有してもよい。各傾斜ミラーは、入射した平行光を、平行光として反射できる。傾斜ミラーは、平面とできる。また、傾斜ミラーはわずかにカーブした曲面としてもよい。傾斜ミラーの曲率半径は、100mm以上とできる。傾斜ミラーは、完全鏡面、透光鏡面または粗鏡面でもよい。傾斜ミラーにおける表面粗さRaは、0.1μm以上1μm以下とできる。回折構造とは、回折格子を含む構造である。回折構造は、光を回折する。回折格子が回折する単一波長の回折光の方向は、一方向または複数方向である。回折格子が回折する単一波長の回折光の方向は、回折格子ベクトルの方向と、回折格子に入射する光の方向で定まる。
【0040】
局所回折構造4の回折光と、その局所回折構造4に近接し、カップル化された局所ミラー構造3からの反射光は、混じり合う。混じり合った光は、回折光の色分散と、反射光の色分散とを打ち消し合う。
【0041】
先に参照した
図1が示すように、記録領域2には、複数の局所構造5が配列されている。第1方向に沿って並ぶ複数の局所構造5において、各局所構造5内において局所ミラー構造3と局所回折構造4とは互いに同様の並びとできる。
図1が示す例において、第1方向はX方向である。X方向において、局所ミラー構造3と局所回折構造4とが交互に並んでいる。エンボス層20の平坦面と平行な平面において、第1方向に直交する方向が第2方向である。
図1が示す例において、第2方向はY方向である。複数の局所構造5において、X方向に沿って並ぶ複数の局所構造5が1つの行を構成している。複数の局所構造5において、Y方向に沿って並ぶ複数の局所構造5が1つの列を構成している。Y方向において互いに隣り合う2つの行では、各局所構造5内において局所ミラー構造3と局所回折構造4との位置が互いに異なっている。
【0042】
すなわち、記録領域2のなかで、第1の行と第2の行とがY方向において互いに近接する。Y方向において、第1の行に含まれる局所ミラー構造3は、第2の行に含まれる局所回折構造4と互いに近接する。また、Y方向において、第1の行に含まれる局所回折構造4は、第2の行に含まれる局所ミラー構造3と互いに近接する。このように、記録領域2において、複数の局所構造5が配置され、記録領域2において、局所ミラー構造3と局所回折構造4とが、市松模様状に配置されている。
【0043】
ここで、
図1では、局所ミラー構造3と局所回折構造4とのそれぞれは、輪郭線によって正方形状に区画されている。しかしながら、輪郭線は、各領域の外形を明確に示すために便宜的に図示されているに過ぎない。そのため実際には、輪郭線は必ずしも存在する必要はない。各構造3,4の外形は、
図1が示す例に制限されない。各構造3,4の外形は、多角形であってよい。多角形は、三角形、四角形、五角形、六角形であってよい。四角形は、長方形、平行四辺形、台形、菱形であってよい。
【0044】
図3は、各構造3,4の外形が長方形の例を示している。
図4は、各構造3,4の外形が六角形の例を示している。
図3が示す例では、局所構造5は、局所構造5ごとに異なる局所ミラー構造3の占める面積の比率を有し得る。また、局所構造5ごとに異なる局所回折構造4の占める面積の比率を有し得る。局所構造5ごとに局所ミラー構造3と、局所回折構造4の面積の比率が異なってもよい。光学構造体1の用途や、光学構造体1に表示させたい画像などに応じて、各局所構造5内に占める局所ミラー構造3の比率と、局所回折構造4の比率とは、任意に設定することができる。各局所構造5内において、局所回折構造4が占める比率は、10%以上50%以下とできる。言い換えれば、局所構造5の面積に対する局所回折構造4の面積の百分率は、10%以上50%以下とできる。
【0045】
図4に示す例では、局所構造5の外形が、六角形状である。局所構造5は、局所ミラー構造3と局所回折構造4とから構成されている。局所構造5において、局所ミラー構造3と局所回折構造4とは、局所構造5を等分している。記録領域2において、複数の局所構造5が、ハニカム状に配列されている。なお、各局所ミラー構造3と各局所回折構造4とが、六角形の形状を有してもよい。そして、局所ミラー構造3と局所回折構造4とが、1つ以上の方向において交互に配列され、かつ、ハニカム状に配列されてもよい。このように、記録領域2の外形に応じて、局所ミラー構造3と局所回折構造4とを適宜配列することができる。
【0046】
局所ミラー構造3および局所回折構造4の長辺および短辺の各々の長さは、目視によって容易に識別できない程度の長さとできる。長辺および短辺は、200μm以下であってよく、40μm以下であってよい。ここで、長辺および短辺は以下のように定義することができる。まず、各構造の輪郭上の2点を結ぶ線分のうち、長さが最大である線分を長辺に定める。ついで、この長辺に平行な辺を有し、かつ、各構造の輪郭に外接する矩形を描く。そして、矩形の短辺を各構造の外形における短辺に定める。
【0047】
以上のように、光学構造体1において、エンボス層20のエンボス面は、エンボス記録体を備えている。そして、エンボス記録体が含む局所ミラー構造3と局所回折構造4とが交互に配列されることによって、光学構造体1が、所望の文字、図形、記号、その他のマークを表示する。
【0048】
(記録領域2)
図2を参照して、記録領域2が備えるエンボス記録体について説明する。
図2が示すように、エンボス層20は、エンボス面と、エンボス面とは反対側の面である平坦面とを備えることができる。エンボス層20のエンボス面が有するエンボス記録体のうち、傾斜ミラーが整列する区域は、局所ミラー構造3となる。局所ミラー構造3は、マイクロ構造の局所的に平坦な傾斜したミラーである傾斜ミラーを複数備えている。傾斜ミラーは、エンボス層20のエンボス面に近似するベース平面に対して、所望の角度で傾いている。また、局所ミラー構造3の傾斜ミラーの法線ベクトルは、一定の方向とできる。そのため、局所ミラー構造3は、局所ミラー構造3に含まれる傾斜ミラーの法線ベクトルが一定の傾斜ミラーの単一体(Unity)とできる。局所ミラー構造3において、各傾斜ミラーは、規則的に配置することができる。各傾斜ミラーは、規則的なピッチで整列してもよい。局所ミラー構造3において、各傾斜ミラーが等ピッチで整列されてもよいし、不等ピッチで整列されてもよい。ただし、局所ミラー構造3のピッチが細かすぎると局所ミラー構造3において光の回折が発生する。これにより、意図しない色が観察者によって認識され易くなってしまう。そのため、光の回折が生じる程度に細かいピッチは、光学構造体1にはそぐわない。傾斜ミラーの整列するピッチは、1μm以上20μm以下とすることができる。局所ミラー構造3における傾斜ミラーのエンボス層の厚み方向の最大幅である傾斜ミラーの深さが第1深さ23である。第1深さ23は、局所ミラー構造3における回折を防止する観点や製造性の観点から、1μm以上20μm以下とすることができる。光学構造体1において、このような屈折ミラー構造によりエンボス記録体が構成される。
【0049】
これに対し、局所回折構造4は、回折構造からなる。一つの局所回折構造4は、離散的な回折領域のひとつとできる。その一つの局所回折構造4は、局所回折構造4内で所定の格子ベクトルを有する。局所回折構造4は、局所ミラー構造3と近接する。上述の実施形態では、局所回折構造4は、局所ミラー構造3に近接し、かつ、局所ミラー構造3と対として局所構造5を構成している。局所回折構造4は、局所ミラー構造3で発生する色ずれの補正を行う。言い換えれば、局所回折構造4は、局所ミラー構造3の色分散を補償する。エンボス層20や透明保護層などの屈折率や色分散、局所ミラー構造3におけるミラーの屈折角度などに応じて、回折構造の格子ベクトルを決定できる。また、回折構造の格子ベクトルは、エンボス面に近似するベース平面と平行とできる。また、回折構造の格子ベクトルは、エンボス面に近似するベース平面と非平行としてもよい。回折構造の格子ベクトルがエンボス面に近似するベース平面と非平行の際には、そのベース面とその格子ベクトルとのなす角として傾角を有する。格子ベクトルの空間周波数と傾角によって、第1の波長を有する光線の射出角と、第1の波長とは異なる第2の波長を有する光線の射出角との差が設定できる。また、格子ベクトルは、回折構造が溝状の場合は、一方向となる。回折構造が、交差格子の場合には、格子ベクトルは、離散的に複数となる。複数の格子ベクトルのうち、ひとつの方位方向が傾斜ミラーの方位方向と同様であれば、局所ミラー構造を、局所回折構造とカップル化できる。なお、回折格子の深さは、第2深さ24である。第2深さ24は、回折格子における回折効率などの点から、0.05μm以上0.5μm以下とすることができる。
【0050】
(色ずれ低減について)
次に、光学構造体1において、色ずれが相殺される、言い換えれば色分散が補償される理由を説明する。まず、光源が光学構造体1の斜方にあり、かつ、観察者が光学構造体1の正面、言い換えれば、観察者がエンボス層20のエンボス面と対向する方向から光学構造体1を観察する場合を想定する。
【0051】
図5が示すように、入射光30は光学構造体1に対して、言い換えれば、エンボス層20の平坦面に対して斜めに入射する。入射した光線は、空気とエンボス層20の平坦面、すなわち入射面との界面で屈折する。そして、入射した光線は、光学構造体1において絵柄を形成する局所ミラー構造3の傾斜ミラーに到達する。この時、光学構造体1に入射した光線において、光の波長ごとに屈折率が異なることから、屈折の角度も光の波長ごとに異なる。そのため、局所ミラー構造3において、色分散が生じる。
【0052】
波長ごとに異なる角度で屈折した入射光30の光線は、それぞれ局所ミラー構造3内の傾斜ミラーにおいて反射することによって、観察者の瞳に達する。この時、観察者の瞳の位置に対して光線が到達する位置が違うことによって、一部の光線だけが観察者に認識される場合がある。これにより、観察者は、局所ミラー構造3によって表示される画像が着色していると知覚する。言い換えれば、観察者は、局所ミラー構造3が特定の色を呈していると認識する。本実施形態の光学構造体1によれば、屈折による色分散に対し、これとは逆の方向の色分散を有する回折格子を局所ミラー構造3の近傍に配置する。言い換えれば、局所回折構造4の回折光の色分散の順序と、局所ミラー構造3で屈折された反射光の色分散の順序は、平坦面に対する法線ベクトルを対称軸とし反対である。これにより、局所ミラー構造3における色ずれを、局所回折構造4から射出される光によって相殺できる。結果として、光学構造体1によれば、局所ミラー構造3における着色現象を軽減できる。
【0053】
より具体的に説明するために、エンボス層20の平坦面における法線ベクトルに対して45°の角度から、光学構造体1に白色光を入射させた場合の屈折による色分散について、以下に述べる。入射光30を白色光とし、この白色光中に含まれる特定色の光線として、例えば青色の光線としてF線(波長486.133nm)を設定し、赤色の光線としてC線(波長656.273nm)を設定する。更に、本例では、エンボス層20の素材として、シクロオレフィン樹脂(ZEONEX E48R、日本ゼオン株式会社製)(ZEONEXは登録商標)を用いる。なお、光学構造体1が透明保護層を備える場合には、透明保護層の素材もエンボス層20の素材と同じ素材とできる。
【0054】
F線に対する屈折率を第1屈折率nFとし、C線に対する屈折率を第2屈折率nCとする。上述したシクロオレフィン樹脂(ZEONEX E48R)を用いた場合には、F線の屈折率である第1屈折率nFは1.5378であり、C線の屈折率である第2屈折率nCは1.5283である。このように、シクロオレフィン樹脂(ZEONEX E48R)において、青色の光線(F線)の屈折率が、赤色の光線(C線)の屈折率に比べて高い。すなわち、シクロオレフィン樹脂(ZEONEX E48R)において、青色の光線を屈折させる力が、赤色の光線を屈折させる力よりも強いことを示している。
【0055】
なお、以下に述べる角度は、入射面の法線ベクトルに対する角度、すなわち、入射面の法線ベクトルと光線とが形成する角度である。入射面の法線ベクトルに対して45°だけ傾いて入射した光線は、入射面において屈折される。そして、青色の光線(F線)は、27.38°の角度でシクロオレフィン樹脂中を伝播する。赤色の光線(C線)は、27.56°の角度でシクロオレフィン樹脂中を伝播する。これらの光線は、傾斜ミラーに達する。エンボス層20における傾斜ミラーの角度を27.47°に設定することによって、観察者の正面、言い換えれば、観察者と平坦面とが対向する方向に、各光線を含む反射光31を反射することができる。入射面から射出する際の各光線の屈折を考慮すると、最終的には、青色の光線(F線)が0.14°の角度で射出し、赤色の光線(C線)が-0.14°の角度で射出する。すなわち、青色の光線と赤色の光線とにおける角度の差が0.28°である状態で、青色の光線と赤色の光線とを射出させることができる。
【0056】
青色の光線における角度と、赤色の光線における角度との違いは、観察距離を30cmに設定した場合に、青色の光線と赤色の光線との間に約1.48mmのずれを生じさせる。そのため、観察者の瞳の位置と、青色の光線の位置と、赤色の光線の位置との関係によって、波長が選択された場合に色身を知覚することとなる。この屈折よる色ずれを相殺するため、目視では確認不能な小さい領域に回折格子を配置する。なお、観察距離とは、観察者の瞳と、エンボス層20の平坦面との間の距離である。
【0057】
回折格子については、回折格子の空間周波数が74.41本/mmであることによって、前述の条件で白色光を光学構造体1に入射させた場合に、一次回折光の青色の光線(F線)と赤色の光線(C線)との角度の差が0.28°となる。この場合には、回折格子の格子間隔は13.44μmである。この回折格子を、エンボス層20の平坦面に対して24.8°傾けて設置することにより、言い換えれば、傾度を24.8°に設定することにより、一次回折光(回折光32)を局所ミラー構造3において反射された光と同じ方向に射出することができる。これにより、屈折ミラー構造の反射光の青色の光線と、回折格子における回折光の赤色の光線とが同じ方向に射出するので、色ずれを減ずること、言い換えれば、局所ミラー構造3における色分散を補償することができる。
【0058】
局所回折構造4の長辺の長さを40μm以下とすることによって、各構造3,4の大きさが目視による解像度以下とすることができる。また、局所回折構造4の配置間隔を40μm以下としてもよい。対となる局所ミラー構造3と局所回折構造4とにおいて、局所ミラー構造3の反射光と、局所回折構造4の回折光とが、同一点から一体に射出された光線として観察者に知覚される。
【0059】
なお、入射角がより大きい場合として、例えば、入射角が85°である場合を想定することができる。この場合には、傾斜ミラーの傾斜角度は40.53°であり、青色の光線(F線)における射出角度は、0.23°であり、赤色の光線(C線)における射出角度は-0.23°である。これに対応する回折格子の空間周波数は、113.30本/mmであり、格子間隔は8.83μmである。回折格子の面を35.8°傾ける、言い換えれば、傾度を35.8°に設定する。これによって、回折格子の一次回折光により色ずれを相殺することができる。言い換えれば、回折格子の一次回折光により、屈折ミラー構造の屈折された反射光の色分散を補償することができる。
【0060】
また、入射角がより小さい場合として、例えば、入射角が10°である場合を想定することができる。この場合には、傾斜ミラーの傾斜角度は6.50°であり、青色の光線(F線)の射出角度は0.03°であり、赤色の光線(C線)の射出角度は-0.03°である。これに対応する回折格子の空間周波数は、17.29本/mmであり、格子間隔は57.84μmである。回折格子の面を5.9°傾ける、言い換えれば、傾度を5.9°に設定する。これによって、回折格子の一次回折光により色ずれを相殺することができる。言い換えれば、回折格子の一次回折光により、屈折ミラー構造で屈折された反射光の色分散を補償することができる。
【0061】
しかしながら、上述した入射角がより小さい場合のように、ほぼエンボス層20の平坦面に対して正面から入射光が入射する場合には、入射面での屈折が殆ど生じない。そのため、屈折ミラー構造における色ずれは少ない。言い換えれば、屈折ミラー構造で屈折された反射光の色分散は少ない。実用上は、入射角の範囲は0°以上90°以下である。各入射角に応じて回折格子の空間周波数と傾角とを設定することによって、屈折による屈折ミラー構造で屈折された反射光の色を、回折光によって相殺することができる。
【0062】
(本発明の光学構造体の製造方法)
次に、本発明の光学構造体1の製造方法を説明する。
エンボス層20を形成するための材料、すなわち、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などは、エンボス層20を形成する方法に、押出し成型方法などに適用することができる。具体的には、所望の凹凸形状を有した冷却ロールの表面に溶融樹脂を接触させ、表面の凹凸形状を溶融樹脂に転写する。その後、溶融樹脂を冷却することによって溶融樹脂を固化させる。これにより、エンボス層20を形成することができる。冷却ロールの表面に形成する凹凸形状は、エンボス面の形状の雄型または雌型とできる。つまり、冷却ロールの表面に形成する凹凸形状は、エンボス記録体に記録されるエンボス形状により決定できる。言い換えれば、冷却ロールの表面に形成する凹凸形状は、局所ミラー構造3に含まれる傾斜ミラーの形状、整列状態、および、局所回折構造4に含まれる回折構造の形状と、局所構造のコンフィグレーションに応じて決定できる。
【0063】
また、光学構造体1がエンボス層20の下地として透明保護層を含む場合には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるキャリア上に、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を塗布する。そして、塗布された樹脂層に、所望の凹凸形状を形成した金属製のスタンパを密着させる。熱硬化性樹脂を用いた場合には、樹脂層にスタンパを密着させた状態で樹脂層を加熱する。これに対して、光硬化性樹脂を用いた場合には、樹脂層にスタンパを密着させた状態で樹脂層に光を照射する。そして、樹脂が硬化した後、硬化した樹脂層からスタンパを剥離することにより、エンボス層20を形成することができる。
【0064】
金属のスタンパを形成する方法には、スタンパの表面を構成する金属製の表面上にエンボス記録体を直接形成する方法とできる。金属の表面上にエンボス記録体を直接形成する方法は、バイトで金属のスタンパ表面を削り、エンボス記録体を形成する方法であってよい。または、金属の表面上にエンボス記録体を直接形成する方法は、感光材を使用した露光プロセスによって、金属製の表面を選択的にエッチングする方法であってよい。または、金属の表面上にエンボス記録体を直接形成する方法は、レーザー光などによるアブレーションを利用して、金属製の表面を加工する方法であってよい。
【0065】
また、より微細な凹凸形状を有する金属製のスタンパを製造する方法には、以下の方法とできる。スタンパを製造するときには、まず、フォトレジストの塗布によって形成した均一な膜厚のフォトレジスト層に、ステッパー装置や電子線描画装置などで所望のパターンを描画する。次いで、フォトレジスト層を現像する。これにより、原版を得ることができる。そして、電鋳などの方法によって、原版が転写された金属製の層を得ることによって、金属製のスタンパを得ることができる。金属製のスタンパに形成する凹凸形状は、所望の画像を表示し、かつ、傾斜ミラーにおける色ずれの補正を行うために選択した所定の光学距離などに基づき適宜決定すればよい。言い換えれば、スタンパに形成する凹凸形状は、局所ミラー構造3に含まれる傾斜ミラーの形状、および、局所回折構造4に含まれる回折構造の形状に応じて決定される。
【0066】
次に、エンボス層20上に、単一の層、または、複数の層を堆積することによって、光反射層21を形成する。光反射層21を形成する方法は、気相堆積法、銀鏡処理法であってよい。気相堆積法は、蒸着法、スパッタ法であってよい。光反射層21を形成するための材料は、金属、誘電体であってよい。金属は、アルミニウムであってよい。なお、エンボス面の一部のみを被覆する光反射層21、すなわち、パターニングされた光反射層21は、以下の方法によって形成することができる。例えば、まず、気相堆積法によって連続膜、言い換えればエンボス面の全体を覆う連続膜を形成する。その後、薬品などにより連続膜の一部を溶解し、これにより、連続膜の一部をエンボス面から除去することによって、パターニングされた光反射層21を得ることができる。
【0067】
上述のようにして、光学構造体1を作製することができる。これにより、傾斜ミラーに生じる色ずれを抑制し、発色の安定した光学構造体1を提供することが可能となる。
【0068】
[本発明の第2実施形態]
図6から
図9を参照して、本発明の光学構造体の第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1実施形態と比べて、傾斜ミラーが配置される領域と、回折格子が配置される領域との関係が異なっている。そのため以下では、こうした相違点を詳しく説明する一方で、第2実施形態において第1実施形態と共通する構成には、第1実施形態と同一の符号を付すことによって、その詳しい説明を省略する。
【0069】
第2実施形態の光学構造体において、回折領域は、複数の回折領域のうちの離散回折領域である。複数の離散回折領域は、記録領域に分散している。屈折ミラー領域は、複数の回折領域の間の領域を含む。以下、
図6を参照して、第2実施形態の光学構造体についてより詳しく説明する。
【0070】
図6が示すように、光学構造体1は記録領域2を備えている。記録領域2は、1つの屈折ミラー領域41と、複数の回折領域42とから構成されている。屈折ミラー領域41は、上述した屈折ミラー構造を含み、回折領域42は、上述した回折構造を含む。
図6の例では、各回折領域42の輪郭は、記録領域2と対向する平面視において、円状である。複数の回折領域42は、互いに同じ大きさである。屈折ミラー領域41の輪郭が、記録領域2の輪郭である。
【0071】
複数の回折領域42は、X方向に沿って等間隔で並び、かつ、Y方向に沿って等間隔で並んでいる。X方向において複数の回折領域42が並ぶ間隔と、Y方向において複数の回折領域42が並ぶ間隔とは、互いに等しい。複数の回折領域42は、さらに、第1配列方向D1に沿って等間隔で並び、かつ、第1配列方向D1と直交する第2配列方向D2に沿って等間隔で並んでいる。第1配列方向D1は、X方向と45°の角度で交差する方向である。
【0072】
屈折ミラー領域41は、記録領域2において、複数の回折領域42の間の隙間を埋めることができる。言い換えれば、記録領域2で、回折領域42は、屈折ミラー領域41に囲まれることができる。回折領域42は、離散的に配置されており、屈折ミラー領域41は、連続させることができる。言い換えれば、屈折ミラー領域41と複数の回折領域42とは、記録領域2において、屈折ミラー領域41を海とし、回折領域42を島とする海島構造を形成できる。各回折領域42は、屈折ミラー領域41の一部と近接している。各回折領域42の局所回折構造は、その局所回折構造に近接し、カップル化された局所ミラー構造と対をなす。局所回折構造と、その局所回折構造とカップル化された局所ミラー構造との対は、局所構造である。
【0073】
以下、
図7を参照して、屈折ミラー領域41が含む局所ミラー構造、および、回折領域42が含む局所回折構造を、より詳しく説明する。
図7(a)は、屈折ミラー領域41が含む局所ミラー構造、および、回折領域42が含む局所回折構造の一例を示している。
図7(b)は、屈折ミラー領域41が含む局所ミラー構造、および、回折領域42が含む局所回折構造の他の例を示している。なお、
図7は、
図6において二点鎖線で囲まれる領域である領域Bを拡大して示している。また、
図7では、回折領域42の外形が楕円状である場合を例示している。
【0074】
図7(a)が示すように、屈折ミラー領域41が局所ミラー構造3を含み、かつ、回折領域42が局所回折構造4を含んでいる。エンボス面と対向する平面視において、局所ミラー構造3の大きさと、局所回折構造4の大きさとは互いに等しくてよい。局所ミラー構造3において、エンボス面に近似するベース平面上に投影された傾斜ミラーの法線が延びる方向が、ミラー法線ベクトルの方位方向Vmである。ミラー法線ベクトルの方位方向Vmは、屈折ミラー領域41の全体において一定であることができる。局所回折構造4において、回折格子を構成する溝が延びる方向と直交する方向が、格子ベクトルの方位方向である。回折格子ベクトルの方位方向Vgは、回折領域42の全体において一定であることができる。ミラー法線ベクトルの方位方向Vmと回折格子ベクトルの方位方向Vgとは、ほぼ平行である。局所ミラー構造3と局所回折構造4とは、分かれている。
【0075】
図7(b)が示すように、
図7(a)に示される例と同様、屈折ミラー領域41が局所ミラー構造3を含み、かつ、回折領域42が局所回折構造4を含んでいる。エンボス面と対向する平面視において、局所ミラー構造3の大きさと、局所回折構造4の大きさとは互いに等しくてよい。
図7(b)が示す例において、局所回折構造4における回折格子ベクトルの方位方向Vgと、回折領域42のなかで、局所回折構造4よりも紙面における上方の領域での回折格子ベクトルの方位方向Vgとは、互いに異なっている。そのため、局所回折構造4は、回折領域42のなかで、1/2以下の面積を占めている。屈折ミラー領域41に含まれる傾斜ミラーは、傾斜ミラーが紙面の右側から左側に向けて延びる途中で屈曲している。そのため、屈折ミラー領域41のなかで、傾斜ミラーの屈曲部を挟んで右側の領域におけるミラー法線ベクトルの方位方向Vmと、左側の領域におけるミラー法線ベクトルの方位方向Vmとは互いに異なっている。
【0076】
局所回折構造4と、局所ミラー構造3とのカップリング(カップル化)は、実質的に光学的に定めることができる。局所ミラー構造3のミラーの法線ベクトルの方位方向と局所回折構造4の格子ベクトルの方位方向は、同様であれば、局所回折構造4に、局所ミラー構造3は、実質的に光学的にカップリングできる。局所ミラー構造3のミラーの法線ベクトルの方位方向と局所回折構造4の格子ベクトルの方位方向とがなす角が10°以内であれば、その方位方向が同様とできる。局所回折構造4と、その局所回折構造4にカップル化された局所ミラー構造3の対は、局所構造5とできる。また、カップル化される局所回折構造4の回折格子は、0よりも高く114本/mm以下の空間周波数とできる。局所回折構造4と、局所ミラー構造3とのカップリングは、一意に定まらなくてもよい。
【0077】
局所回折構造4と、その局所回折構造4にカップル化された局所ミラー構造3とは、同等の大きさとすることができる。局所回折構造4の外形は、円状とすることができる。局所回折構造4の直径は、概ね10μm以上200μm以下とすることができる。局所ミラー構造3の外形は、円状とすることができる。局所ミラー構造3の直径は、概ね10μm以上100μm以下とすることができる。局所回折構造4の中心と、その局所回折構造4にカップル化された局所ミラー構造3の中心との間の距離は、10μm以上100μm以下とすることができる。局所ミラー構造3と局所回折構造4とは近接している。言い換えれば、局所ミラー構造3と局所回折構造4との中心間の距離は、10μm以上100μm以下である。
【0078】
記録領域2において、屈折ミラー領域41の面積は、回折領域42の面積の総和よりも大きい。言い換えれば、屈折ミラー領域41の面積を1に設定する場合に、回折領域42の面積の総和は1よりも小さい。屈折ミラー領域41の面積と、回折領域42の面積の総和との比は、各回折領域42の大きさを変更することによって、任意に変更することができる。
【0079】
ある回折領域42の面積が大きいほど、その回折領域42から射出される光線の強度は高くなる。言い換えれば、ある回折領域42の面積が小さいほど、その回折領域42から射出される光線の強度は低くなる。そのため、屈折ミラー領域41における色分散を補償する度合いを、各回折領域42の面積によって調節できる。すなわち、回折領域42の面積が、屈折ミラー領域41における色分散が完全に補償される面積よりも小さいことによって、屈折ミラー領域41における色分散の一部のみが、回折領域42から射出される回折光によって補償される。このように、屈折ミラー領域41の面積に対する回折領域42の面積の総和の比を変えることによって、記録領域2が呈する色を変えることができる。
【0080】
[本発明の第1変形例]
本発明の第2実施形態の第1変形例において、各回折領域は、その回折領域と屈折ミラー領域の輪郭との間の距離が小さいほど、小さい面積を有する。以下、
図8を参照して、第1変形例をより詳しく説明する。
【0081】
図8が示すように、記録領域2は、連続的な屈折ミラー領域41Aと、複数の離散的な回折領域42Aとから構成されている。第1変形例では、異なる面積を有した離散的な回折領域42Aを記録領域2に含むことができる。この点で、上述した第2実施形態の光学構造体1と異なっている。言い換えれば、第1変形例は、複数の回折領域42の大きさが、異なることができる。つまり、記録領域2は、異なる大きさの回折領域42を含む。
【0082】
より詳しくは、第1配列方向D1に沿って並ぶ複数の回折領域42Aが、1つの第1列を構成している。記録領域2には、第1配列方向D1に直交する第2配列方向D2において並ぶ複数の第1列が含まれている。各第1列において、記録領域2の輪郭、言い換えれば屈折ミラー領域41Aの輪郭からの距離が小さい位置に配置された回折領域42Aほど、回折領域42Aの面積が小さい。
【0083】
第2配列方向D2に沿って並ぶ複数の回折領域42Aが、1つの第2列を構成している。言い換えれば、各回折領域42Aは、複数の回折領域42Aが第1配列方向D1に沿って並ぶ第1列と、複数の回折領域42Aが第2配列方向D2に沿って並ぶ第2列との上に位置している。記録領域2には、第1配列方向D1に沿って並ぶ複数の第2列が含まれている。各第2列において、第1端部から第2端部に向かう方向に沿って、回折領域42Aの面積が次第に大きくなる。
図7に示す例では、各第2列において、紙面の下方に位置する端部が第1端部であり、第1端部よりも紙面の上方に位置する端部が第2端部である。
【0084】
第1変形例では、記録領域2のなかにおいて、回折領域42Aが位置する部位に応じて、回折領域42Aの面積が異なっている。そのため、記録領域2には、回折領域42Aから射出される回折光によって、屈折ミラー領域41Aでの色分散が補償される度合いが互いに異なる区域が含まれる。
【0085】
しかも、第1変形例では、第1配列方向D1に沿って延びる各第1列において、記録領域2からの距離が小さい位置に配置された回折領域42Aほど(すなわち、紙面の左上ほど)、回折領域42Aの面積が小さい。そのため、第1列では、記録領域2の輪郭からの距離が小さいほど、屈折ミラー領域41Aにおける色分散が補償される度合いが小さく、かつ、記録領域2の輪郭からの距離が大きいほど、屈折ミラー領域41Aにおける色分散が補償される度合いが大きい。それゆえに、第1列では、第1配列方向D1に沿って色分散が補償される度合いが徐々に変わることによって、屈折ミラー領域41Aが呈する色を第1配列方向D1に沿って徐々に変えることができる。
【0086】
また、第2配列方向D2に沿って延びる各第2列において、紙面の下方から上方に向かって回折領域42Aの面積が大きくなる。そのため、第2列では、紙面の下方ほど、屈折ミラー領域41Aにおける色分散が補償される度合いが小さく、かつ、紙面の上方ほど、屈折ミラー領域41Aにおける色分散が補償される度合いが大きい。それゆえに、第2列では、紙面の下方から上方に向かう方向に沿って色分散が補償される度合いが徐々に変わることによって、屈折ミラー領域41Aが呈する色を徐々に変えることができる。
【0087】
[本発明の第2変形例]
本発明の第2実施形態の第2変形例において、エンボス面は、屈折ミラー領域よりも外側に、かつ、屈折ミラー領域の輪郭に沿って位置する複数の回折領域をさらに含む。以下、
図9を参照して、第2変形例をより詳しく説明する。
【0088】
図9が示すように、複数の回折領域42Bは、第1回折領域42B1、第2回折領域42B2、および、第3回折領域42B3から構成されている。第1回折領域42B1は、屈折ミラー領域41Bによって第1回折領域42B1における周方向の全体が囲まれた回折領域42Bである。第2回折領域42B2は、屈折ミラー領域41Bによって第2回折領域42B2における周方向の一部が囲まれた回折領域42Bである。第3回折領域42B3は、屈折ミラー領域41Bによって囲まれていない回折領域42Bである。
【0089】
第2変形例において、記録領域2は、屈折ミラー領域41B、第1回折領域42B1、第2回折領域42B2のなかで、屈折ミラー領域41Bからはみ出ていない区域によって構成されている。すなわち、第3回折領域42B3は、記録領域2よりも外側に位置する回折領域42Bである。
【0090】
第1配列方向D1に沿って延びる各第1列は、2つの第3回折領域42B3と、2つの第3回折領域42B3によって挟まれる第1回折領域42B1とを少なくとも含んでいる。複数の第1列には、第3回折領域42B3および第1回折領域42B1に加えて、第2回折領域42B2を含む第1列が含まれる。第2回折領域42B2を含む第1列は、1つの第2回折領域42B2のみを含んでもよいし、2つの第2回折領域42B2を含んでもよい。第1列が2つの第2回折領域42B2を含む場合には、複数の第1回折領域42B1は、2つの第2回折領域42B2によって挟まれる。複数の第3回折領域42B3は、屈折ミラー領域41Bの輪郭に沿って間隔を空けて位置している。
【0091】
また、第2配列方向D2に沿って延びる各第2列は、2つの第3回折領域42B3と、2つの第3回折領域42B3によって挟まれる第1回折領域42B1とを少なくとも含んでいる。複数の第2列には、第3回折領域42B3および第1回折領域42B1に加えて、第2回折領域42B2を含む第2列が含まれる。第2回折領域42B2を含む第2列は、1つの第2回折領域42B2のみを含んでもよいし、2つの第2回折領域42B2を含んでもよい。第2列が2つの第2回折領域42B2を含む場合には、複数の第1回折領域42B1は、2つの第2回折領域42B2によって挟まれる。
【0092】
各第1列において、第1回折領域42B1の面積は、記録領域2の輪郭からの距離が小さいほど小さい。第1列が第2回折領域42B2を含む場合には、第2回折領域42B2の面積は、第2回折領域42B2に近接する第1回折領域42B1の面積よりも小さく、かつ、第2回折領域42B2に近接する第3回折領域42B3の面積よりも大きい。
【0093】
各第2列において、第1端部から第2端部に向かう方向に沿って、回折領域42Bの面積が次第に大きくなる。
図8に示す例では、各第2列において、紙面の下方に位置する端部が第1端部であり、第1端部よりも紙面の上方に位置する端部が第2端部である。
【0094】
第2変形例では、記録領域2において、上述した第1変形例に準じた効果を得ることができる。加えて、第2変形例では、記録領域2よりも外側に第3回折領域42B3が位置している。第3回折領域42B3は、屈折ミラー領域41Bによって囲まれていないため、第3回折領域42B3から射出される光は、屈折ミラー領域41Bにおける色分散を補償する光とできない。言い換えれば、第3回折領域42B3から射出される光は、屈折ミラー領域41Bから射出される光によって相殺されない。そのため、第2変形例では、記録領域2よりも外側において、記録領域2の輪郭に沿って第3回折領域42B3に由来する虹色の光が射出される。言い換えれば、記録領域2よりも外側において、記録領域2の輪郭に沿って第3回折領域42B3に由来する光であって、互いに異なる波長ごとに分光された複数の特定色を有する光線が射出される。
【0095】
なお、各第1列および各第2列は、第3回折領域42B3を1つのみ含んでもよい。また、第2変形例において、全ての回折領域42Bの面積が、互いに等しくてもよい。
【0096】
[本発明の他の変形例]
本発明の第2実施形態は、以下のように変更することができる。
離散的な各回折領域の輪郭は、円状でなくてもよい。すなわち、
図10(a)が示すように、離散的な回折領域42Cの輪郭は、菱形状でもよい。なお、
図10(a)に示す例では、菱形の内角が90°であるが、菱形の内角は90°でなくてもよい。
図10(b)が示すように、離散的な回折領域42Dの輪郭は、三角形状でもよい。
図10(c)が示すように、離散的な回折領域42Eの輪郭は、正方形状でもよい。
図10(d)が示すように、離散的な回折領域42Fの輪郭は、台形状でもよい。また、回折領域の輪郭は、平行四辺形状でもよい。なお、離散的な回折領域42Aの輪郭の形状は、異なる形状でもよい。また、離散的な回折領域42Aの輪郭の形状は、同一形状であっても、その形状の向き、例えば頂点の向きなどが異なってもよい。また、
図9の例では、複数の離散的な回折領域の大きさを変えているが、複数の離散的な回折領域の配置間隔を変えてもよい。
【0097】
なお、
図10が示す4つの例は、上述した第1変形例の構成と組み合わせることが可能であり、また、上述した第2変形例の構成と組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0098】
1…光学構造体、2…記録領域、3…局所ミラー構造、4…局所回折構造、5…局所構造、20…エンボス層、21…光反射層、22…接着層、23…第1深さ、24…第2深さ、30…入射光、31…反射光、32…回折光、41,41A,41B…屈折ミラー領域、42,42A,42B,42C,42D,42E,42F…回折領域、42B1…第1回折領域、42B2…第2回折領域、42B3…第3回折領域。