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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】核酸検出方法および検出用試薬
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6816 20180101AFI20221220BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C12Q1/6816 Z ZNA
C12Q1/34
C12N15/09 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019534524
(86)(22)【出願日】2018-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2018028598
(87)【国際公開番号】W WO2019026884
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2017148402
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅之
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-526526(JP,A)
【文献】特表2005-512031(JP,A)
【文献】Nat. Biotechnol., 2001, Vol.19, No.7, p.673-676
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸を含有する流体から標的核酸を検出する核酸検出方法であって、
第一核酸切断酵素と、第二核酸切断酵素とを備える検出用試薬を前記流体に混合する検出用試薬混合工程を備え、
前記標的核酸と、第一フラップ部位を有する第一核酸および第二核酸とが、複合体形成することで現れる第一侵入構造に付随する前記第一フラップ部位を前記第一核酸切断酵素で切断し、第三核酸を生成し、
前記第三核酸と、第二フラップ部位を有する第四核酸とが、複合体形成することで現れる第二侵入構造に付随する前記第二フラップ部位を前記第二核酸切断酵素で切断し、被切断物を生成し、
前記標的核酸がRNAであり、
前記第一核酸の少なくとも前記第一フラップ部位、前記第二核酸、前記第四核酸がDNAを含み、
前記第一侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性は、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性よりも小さく、前記第二侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性は前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性よりも小さく、
前記第一核酸切断酵素が5’-Nucleaseであり、前記第二核酸切断酵素がFEN-1である、核酸検出方法。
【請求項2】
前記第三核酸と、第二フラップ部位を有する第四核酸と、第五核酸とが複合体形成することで、前記第二侵入構造が現れ、
前記第五核酸がDNAを含む、請求項1記載の核酸検出方法。
【請求項3】
前記第一侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性は、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性に比して90%以下であり、前記第二侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性は前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して90%以下である、請求項1又は2に記載の核酸検出方法。
【請求項4】
前記第四核酸に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性が、前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して小さい、請求項1からのいずれか一項に記載の核酸検出方法。
【請求項5】
前記第四核酸に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第四核酸に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性が、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して小さい、請求項1からのいずれか一項に記載の核酸検出方法。
【請求項6】
前記第四核酸に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第四核酸に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性が、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して80%以下である、請求項に記載の核酸検出方法。
【請求項7】
前記第一核酸切断酵素の濃度が、前記第二核酸切断酵素の濃度に比して9倍以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の核酸検出方法。
【請求項8】
前記第一核酸切断酵素の濃度が、0.27mg/mL以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の核酸検出方法。
【請求項9】
前記第二核酸切断酵素の濃度が、0.12mg/mL以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の核酸検出方法。
【請求項10】
侵入構造を形成する前記第一核酸および前記第四核酸の少なくとも一方は蛍光標識されており、蛍光強度の変化で、前記侵入構造の切断を検出できる標的核酸確認工程をさらに有する、請求項1からのいずれか一項に記載の核酸検出方法。
【請求項11】
電気泳動により反応前後の移動度を比較することで前記被切断物を検出する標的核酸確認工程をさらに有する、請求項1からのいずれか一項に記載の核酸検出方法。
【請求項12】
前記検出試薬混合工程による、前記第一核酸切断酵素と前記第二核酸切断酵素とによる前記被切断物の生成は、微小空間において行われる、請求項10に記載の核酸検出方法。
【請求項13】
前記微小空間の高さが10nm~100μmである、請求項12に記載の核酸検出方法。
【請求項14】
前記微小空間が、10万~1000万個/cmの密度で設けられる、請求項12または13に記載の核酸検出方法。
【請求項15】
前記標的核酸確認工程は、前記微小空間において生成された前記被切断物を検出することで、前記標的核酸の検出が行われる、請求項12から14のいずれか一項に記載の核酸検出方法。
【請求項16】
前記第一核酸切断酵素と、前記第二核酸切断酵素とを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の核酸検出方法を実施するための検出用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸検出方法に関する。より詳細には検出対象となる核酸試料に対して複合体形成可能な検出核酸および核酸切断酵素存在下で、検出対象となる核酸の有無を検出する方法に関する。
本願は、2017年7月31日に、日本に出願された特願2017-148402号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子診断においてDNAを正確かつ迅速に検出・定量する手法は多く存在する(特許文献1-3、非特許文献1,2)。RNAを検出・定量する手法はあるが、逆転写反応など手間と時間を要する。また、逆転写反応のバイアスが掛かってしまう。そこで、少ない操作で短時間にRNA検出を可能にするために等温増幅反応の利用が考えられる。中でも、Flapendo nuclease 1(FEN-1)や5’-Nucleaseといった核酸切断酵素を用いるInvasive Cleavage Assay(ICA)は操作性や反応の安定性から有効な手法といえる。
【0003】
しかし、FEN-1を用いたICAだとDNA/DNA二本鎖上の侵入構造を認識して、フラップ部位の切断反応が生じるが、RNA/DNA二本鎖の場合は切断反応が極僅かしか生じない。一方、同じく核酸切断酵素である5’-Nucleaseを用いたICAではRNA/DNA二本鎖上の侵入構造を認識してフラップ部位の切断はできるが、DNA/DNA二本鎖の場合は切断活性が低下する。加えて、5’-NucleaseのDNA/DNA二本鎖時のフラップ切断活性はFEN-1に大きく劣る。
そのため、DNA/DNA二本鎖、RNA/DNA二本鎖が混在するような反応系に対して、どちらのフラップ部位も切断したい場合はFEN-1のみ、あるいは5’-Nucleaseのみを用いると全体として切断活性が低下してしまう。
【0004】
例えば、ある核酸を標的とした検出反応において検出シグナルを高効率で増幅したいとき、二種類の切断反応が混在する手法を用いる。すなわち、第一段階としてフラップの切断を生じ、第二段階として切断されたフラップと更に侵入構造を形成する検出用核酸が切断されるものであり、この切断産物を検出する手法である。第二段階目の反応が終了した後、フラップは再び第一段階あるいは第二段階の反応に使用できるため、第一段階のフラップを検出するよりも信号増幅は速くなる。
このとき検出対象がDNA、検出用核酸もDNAであればFEN-1のみを用いたICAで検出できる。しかし、検出対象がRNAの場合は検出用核酸がDNAであってもRNAであっても、先に記述した各々の酵素の特性により全体の切断活性は低下して検出に要する時間が増大する。また、前述のRNA/DNAに対して5’-Nucleaseはフラップ切断活性を有するものの、酵素の誤認識による副反応が存在する。そこで、検出時間短縮を企図して酵素量を増量すると副反応の発生頻度が上がってしまい、検出結果の正確な判定を困難なものにしてしまう。
【0005】
そのような状況を改善すべく、従来は同一の反応溶液内で実施される前述の第一段階と第二段階を分離する手法が報告されている(非特許文献3,4)。具体的には核酸切断酵素として5’-Nuclease、核酸は標的RNA、侵入構造を形成するのに必要な二種類のオリゴDNAという構成で第一段階のみが進行する反応溶液を調整する。第一段階をある程度進行させた後に、第二段階として検出用核酸を添加し、且つアレスターオリゴと名づけたオリゴRNAも同時に添加することで酵素の誤認識による副反応を抑制する仕組みである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4016050号公報
【文献】特許第4362150号公報
【文献】特許第4363988号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】The Journal of Biological Chemistry, 1999, 274, 21387-21394
【文献】The Journal of Biological Chemistry, 2000, 275, 24693-24700
【文献】RNA, 2003, 9, 1552-1561
【文献】RNA, 2004, 10, 1153-1161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、反応容器を途中で開放する手法は操作が煩雑になることに加え、外部からの試料混入などによる擬陽性を引き起こすリスクが高まり、試験の正確性を損なう恐れがある。そのため、RNA検出を迅速かつ正確に行うことが要求される場合には、操作が簡便であり、両構造が混在する反応系においても切断活性が維持され、副反応が抑制される手法が望ましい。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みたものであって、RNAを迅速に検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る核酸検出方法は標的核酸を含有する流体から標的核酸を検出する核酸検出方法であって、第一核酸切断酵素と、第二核酸切断酵素と、と備える検出用試薬を前記流体に混合する検出試薬混合工程を備え、前記標的核酸と、第一フラップ部位を有する第一核酸および第二核酸とが、複合体形成することで現れる第一侵入構造に付随する前記第一フラップ部位を前記第一核酸切断酵素で切断し、第三核酸を生成し、前記第三核酸と、第二フラップ部位を有する第四核酸とが、第五核酸上で複合体形成することで現れる第二侵入構造に付随する前記第二フラップ部位を前記第二核酸切断酵素で切断し、被切断物を生成する。
【0011】
前記課題は、以下の本発明[1]~[20]のいずれかによって解決される。
[1] 標的核酸を含有する流体から標的核酸を検出する核酸検出方法であって、第一核酸切断酵素と、第二核酸切断酵素とを備える検出用試薬を前記流体に混合する検出用試薬混合工程を備え、前記標的核酸と、第一フラップ部位を有する第一核酸および第二核酸とが、複合体形成することで現れる第一侵入構造に付随する前記第一フラップ部位を前記第一核酸切断酵素で切断し、第三核酸を生成し、前記第三核酸と、第二フラップ部位を有する第四核酸とが、複合体形成することで現れる第二侵入構造に付随する前記第二フラップ部位を前記第二核酸切断酵素で切断し、被切断物を生成し、前記標的核酸がRNAであり、前記第一核酸の少なくとも前記第一フラップ部位、前記第二核酸、前記第四核酸がDNAを含み、前記第一侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性は、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性よりも小さく、前記第二侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性は前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性よりも小さく、前記第一核酸切断酵素が5’-Nucleaseであり、前記第二核酸切断酵素がFEN-1である、核酸検出方法。
] 前記第三核酸と、第二フラップ部位を有する第四核酸と、第五核酸とが複合体形成することで、前記第二侵入構造が現れ、前記第五核酸がDNAを含む、[1]記載の核酸検出方法。
] 前記第一侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性は、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性に比して90%以下であり、前記第二侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性は前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して90%以下である、[1]又は[2]に記載の核酸検出方法。
] 前記第四核酸に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性が、前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して小さい、[1]から[]のいずれかに記載の核酸検出方法。
] 前記第四核酸に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第四核酸に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性が、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して小さい、[1]から[]のいずれかに記載の核酸検出方法。
] 前記第四核酸に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第四核酸に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性が、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して80%以下である、[]に記載の核酸検出方法。
] 前記第一核酸切断酵素の濃度が、前記第二核酸切断酵素の濃度に比して9倍以下である、[1]から[]のいずれかに記載の核酸検出方法。
] 前記第一核酸切断酵素の濃度が、0.27mg/mL以下である、[1]から[]のいずれかに記載の核酸検出方法。
] 前記第二核酸切断酵素の濃度が、0.12mg/mL以下である、[1]から[]のいずれかに記載の核酸検出方法。
10] 侵入構造を形成する前記第一核酸および前記第四核酸の少なくとも一方は蛍光標識されており、蛍光強度の変化で、前記侵入構造の切断を検出できる標的核酸確認工程をさらに有する、[1]から[]のいずれかに記載の核酸検出方法。
11] 電気泳動により反応前後の移動度を比較することで前記被切断物を検出する標的核酸確認工程をさらに有する、[1]から[]のいずれかに記載の核酸検出方法。
12] 前記検出試薬混合工程による、前記第一核酸切断酵素と前記第二核酸切断酵素とによる前記被切断物の生成は、微小空間において行われる、[10]に記載の核酸検出方法。
13] 前記微小空間の高さが10nm~100μmである、[12]に記載の核酸検出方法。
14] 前記微小空間が、10万~1000万個/cm2の密度で設けられる、[12]または[13]に記載の核酸検出方法。
15] 前記標的核酸確認工程は、前記微小空間において生成された前記被切断物を検出することで、前記標的核酸の検出が行われる、[12]から[14]のいずれかに記載の核酸検出方法。
16] 前記第一核酸切断酵素と、前記第二核酸切断酵素とを含む、[1]から[15]のいずれかに記載の核酸検出方法を実施するための検出用試薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、標的核酸を含有する流体から標的核酸、例えばRNAを迅速に検出する核酸検出方法を提供することができ、前記核酸検出方法を実施するための検出用試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す斜視図である。
図2図1のII-II線における断面図である。
図3A】前記マイクロ流体デバイスのマイクロウェルアレイの要部を示す平面図である。
図3B】前記マイクロ流体デバイスのマイクロウェルアレイの要部を示す図であり、図3AのIIIb-IIIb線における断面図である。
図4】前記マイクロ流体デバイスの使用例を説明するための図である。
図5】前記マイクロ流体デバイスの蛍光視野の撮影画像である。
図6】実施例において観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図7】比較例において観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図8】比較例において観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図9A】実施例2において観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図9B】実施例2において観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図9C】実施例2において観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図9D】実施例3おいて観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図9E】実施例4おいて観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図9F】実施例4おいて観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図10A】実施例において観測された前記マイクロ流体デバイスの蛍光視野(シグナル)の撮影画像である。
図10B】実施例において観測された前記マイクロ流体デバイスの蛍光視野(ノイズ)の撮影画像である。
図11】実施例において観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
図12】実施例において観測された蛍光強度の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る核酸検出方法について説明する。
本実施形態に係る核酸検出方法は、標的核酸を含有する流体20から標的核酸を検出する方法である。
【0015】
本実施形態に係る核酸検出方法は流体20に検出用試薬(微小液滴)23を混合する、検出試薬混合工程を備えている。
【0016】
本実施形態に係る検出用試薬23は、第一核酸切断酵素と、第二核酸切断酵素と、を有する。第一核酸切断酵素および第二核酸切断酵素は、特定の核酸の侵入構造に付随する特定のフラップ部位を切断する酵素である。本願実施形態の核酸検出方法を簡便にするために、例えばバッファー、および界面活性剤などを含んでもよい。通常、これらの試薬は適切な容器に入れて提供される。
【0017】
本実施形態において、フラップ部位とは分子内、あるいは分子間で核酸が会合した際、当該核酸の塩基配列の一部は塩基対形成によりハイブリダイゼーションするが、それ以外の3’末端もしくは5’末端のいずれか一方あるいは両方が塩基対形成しない部分のことをいう。このとき、塩基対形成しない部分は通常の核酸塩基の他に、蛍光物質や人工核酸塩基などの非天然の構造からなっていても良い。
【0018】
本実施形態において、核酸の侵入構造とは、特許文献1~3や非特許文献1、2などに示される特異な構造を表すものである。すなわち、核酸の侵入構造とは、検出対象となる標的核酸に対して二種類のオリゴヌクレオチドプローブがハイブリダイズして、基質複合体を形成した際に生じるフラップ部位を有する構造である。
【0019】
ハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブは、5’末端側からフラップ部位となる塩基配列と標的核酸と相補的な塩基配列を有するフラッププローブ(FP)と、FPのハイブリダイズする位置に隣接する部位にハイブリダイズする侵入プローブ(IP)と、からなる。IPの3’末端の少なくとも一塩基はFPと標的核酸がハイブリダイズしている5’部分と重複する塩基配列を有するものである。侵入構造のような特殊な構造を認識しフラップ部分を切断可能な酵素が存在すると、フラップ部位が切断される。
【0020】
本実施形態に係る核酸検出方法において、流体20に検出用試薬23を混合する検出試薬混合工程後、侵入構造が切断される反応が少なくとも二段階で発生する。
【0021】
第一段階では、第一フラップ部位を有する第一核酸が上記FPに相当し、第二核酸が上記IPに相当し、第一核酸と第二核酸が標的核酸にハイブリダイズして複合体形成することで第一侵入構造が形成されており、第一侵入構造に付随する第一フラップ部位が第一核酸切断酵素によって切断され、第三核酸が生成される。
【0022】
第二段階では、第一段階で生じた第三核酸が第二段階目の侵入構造におけるIPに相当し、第二フラップ部位を有し、且つ第三核酸がハイブリダイズ可能な塩基配列を有する第四核酸がFPに相当し、これらが複合体形成することで第二侵入構造が形成される。第二侵入構造に付随する第二フラップ部位が第二核酸切断酵素によって切断され、被切断物が生成される。このとき、第四核酸は第三核酸がハイブリダイズ可能な塩基配列を有しており、第一段階における標的核酸とFPを併せた機能を有するものであるが、第五核酸として第二段階における標的核酸を用いることで機能が分割されていてもよい。
【0023】
被切断物は、例えば電気泳動などの手段により反応前後の移動度を比較することで検出が可能なものである。また、第一核酸または第四核酸には、蛍光色素および当該蛍光色素の蛍光波長に対応した吸収波長を有する蛍光物質および消光物質が付加されており、切断反応により両者が離れることで起こる発光から、被切断物を確認することも可能である。
【0024】
被切断物を確認することで、流体20に標的核酸が含有されていることを検出することができる(標的核酸確認工程)。
【0025】
本実施形態に係る核酸検出方法において、第一侵入構造に対する第二核酸切断酵素の切断活性は、前記第一侵入構造に対する第一核酸切断酵素よりも小さく、第二侵入構造に対する第一核酸切断酵素の切断活性は前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性よりも小さいことを特徴とする。以下、この特徴について詳しく説明する。
【0026】
ここで、「切断活性」とは、酵素が侵入構造を認識してフラップ部を切断する切断性能のことであり、切断された核酸の量を検出することによって表すことができる。本実施形態においては、電気泳動により反応前後の移動度を比較するか、被切断物に起因する蛍光強度を測定することにより表すことができる。切断活性は、酵素の濃度や反応条件により調整可能である。また、反応条件および酵素の濃度を一定にした場合には、基質の濃度の増大に伴い、切断活性は最大値に向かって双曲線的に増加する。基質が低濃度である場合には、基質の濃度と切断活性は比例関係にある。低濃度とは、例えば、1mМ以下であり、10μМ以下であってもよく、10nМ以下であってもよく、500pМ以下であってもよい。そのため、酵素の濃度と切断活性とを近似するものとして扱うことができる。
【0027】
前記第一侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性は、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素に比して0%超90%以下であり、0%超80%以下がより好ましく、0%超70%以下が更に好ましく、0%超60%以下が特に好ましい。
一方、前記第二侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性は前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して0%超90%以下であり、0%超80%以下がより好ましく、0%超70%以下が更に好ましく、0%超60%以下が特に好ましい。
【0028】
第一核酸切断酵素は、前述の侵入構造を認識してフラップ部位を切断することが可能な酵素である。標的核酸がDNAであり、FPおよびIPがDNAである場合に形成されるDNA/DNA二本鎖構造に付随するフラップ部位に対して、第一核酸切断酵素は切断活性を有する。
また、標的核酸がRNAであり、FPおよびIPがDNAである場合に形成されるRNA/DNA二本鎖構造に付随するフラップ部位に対して、第一核酸切断酵素は切断活性を有する。
例えば、第一核酸切断酵素は、ポリメラーゼ様のヌクレアーゼが挙げられるが、その他のヌクレアーゼであってもよい。また、RNA/DNAの二本鎖構造における侵入構造を認識するように改変されたフラップエンドヌクレアーゼでも良い。
【0029】
第一核酸切断酵素の濃度は、第二核酸切断酵素の濃度に対して、9.0倍以下が好ましく、0.10倍以上9.0倍以下がより好ましく、0.6倍以上2.5倍以下がより好ましく、0.6倍以上1.3倍以下が更に好ましい。
第一核酸切断酵素の濃度が、9.0倍以下であると、検出のシグナル/ノイズ比を高められ、核酸検出が容易になる。特に、二段階目の切断反応における蛍光強度を維持しつつ、バックグラウンドの蛍光強度が抑制される。
ここで、酵素の濃度とは、mg/mLにより表される濃度のことを指す。
【0030】
第二核酸切断酵素は、前述の侵入構造を認識してフラップ部位を切断することが可能な酵素である。標的核酸がDNAであり、FPおよびIPがDNAである場合に形成されるDNA/DNA二本鎖構造に付随するフラップ部位に対しては、第二核酸切断酵素は第一核酸切断酵素と比較して高い切断活性を有する。
一方、標的核酸がRNAであり、FPおよびIPがDNAである場合に形成されるRNA/DNA二本鎖構造(例えば、RNAを標的核酸とした第一侵入構造)に付随するフラップ部位に対する切断活性は、第二核酸切断酵素は第一核酸切断酵素と比較して低い。活性の割合は、好ましくは100%より低く、より好ましくは90%より低く、より好ましくは80%より低く、より好ましくは70%より低く、より好ましくは60%より低く、より好ましくは50%より低く、より好ましくは40%より低く、より好ましくは30%より低く、より好ましくは20%より低く、より好ましくは10%より低いことが特徴である。
例えば、第二核酸切断酵素は、フラップエンドヌクレアーゼが挙げられるが、その他のヌクレアーゼであってもよい。また、DNA/DNAの二本鎖構造における侵入構造を認識するように改変されたポリメラーゼヌクレアーゼでも良い。
【0031】
第二核酸切断酵素の濃度は、第二核酸切断酵素の濃度に対して、0.1倍以上が好ましく、0.1倍以上10倍以下がより好ましく、0.4倍以上1.7倍以下がより好ましく、0.75倍以上1.7倍以下が更に好ましい。また、第二核酸切断酵素の濃度は、0.12mg/mL以下が好ましく、0.008mg/mL以上0.12mg/mL以下がより好ましく、0.03mg/mL以上0.06mg/mL以下が更に好ましい。
第二核酸切断酵素の濃度が、第一核酸切断酵素の濃度に対して0.1倍以上であると、検出に要する反応時間を短縮しつつ、ノイズを低減することができる。また、第二核酸切断酵素の濃度が、0.12mg/mL以下であることによっても、反応時間を短縮しつつ、ノイズを低減することができる。
【0032】
本実施形態に係る核酸検出方法は、侵入構造を認識し、切断反応が生じることで標的核酸の有無を検知する手法において高い効果を発揮する。例えば、切断対象となる核酸構造に対してそれぞれ活性が異なる酵素を同一の反応系に混合することで、検出シグナルが増強され、かつノイズが低減して検出時におけるシグナル/ノイズ比を高められることが可能となる。
【0033】
従来の核酸の検出方法では、酵素を用いた核酸切断反応では何らかの核酸構造に対する誤認識による望まない副反応が生じる場合がある。例えば、上記の標的核酸確認工程において、標的核酸が含有されていないにも関わらず、試薬のみで反応が起こり蛍光発光が起こってしまう場合がある。具体的には標的核酸がRNAのとき、一種類の核酸切断酵素、特には第一核酸切断酵素を用いた検出系において、第四核酸のフラップ部位を切断するという副反応が起こりやすい。そのため、検出時間の短縮を目的としてフラップ部位の切断反応を促進すべく反応系中への投入量を増してゆくと、前述の副反応が増大してしまう。それを回避するために第一核酸切断酵素の投入量を減じてしまうと検出に掛かる時間は増加してしまう。
【0034】
前述の副反応は、二種類の核酸切断酵素を用いた場合においても、同様に起こり得る。本実施形態に係る核酸検出方法においては、検出に係る時間を増大させることなく、前述の副作用を抑制し、かつ、検出時におけるシグナル/ノイズ比を高められることが可能となる。検出用試薬23中の第一核酸切断酵素の量を減じて、前述の副反応を抑制する。
さらに、検出用試薬23に第二核酸切断酵素を混合することで、前記二段階目の切断反応(第三核酸と第四核酸とからなる第二侵入構造に対する切断反応)の切断活性を高める。
第一核酸切断酵素の量を減じることで副反応を抑制し、一方、第二核酸切断酵素を混合することで検出時間の増大を阻止する。
【0035】
前記第四核酸に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性が、前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して小さい。
【0036】
前記第四核酸に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第四核酸に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性が、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して小さい。
【0037】
前記第四核酸に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第四核酸に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性が、前記第一侵入構造に対する前記第一核酸切断酵素の切断活性および前記第二侵入構造に対する前記第二核酸切断酵素の切断活性に比して80%以下であり、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下が更に好ましい。
【0038】
前記第一核酸切断酵素の濃度が、前記第二核酸切断酵素の濃度に比して9.0倍以下であり、0.1倍以上9.0倍以下がより好ましく、0.6倍以上2.5がより好ましく、0.6倍以上1.3倍以下が更に好ましい。
【0039】
前記第一核酸切断酵素の濃度が、0.27mg/mL以下であり、0.18mg/mL以下がより好ましく、0.148mg/mL以下がより好ましく、0.09mg/mL以下がより好ましく、0.074mg/mL以下がより好ましく、0.045mg/mL以下がより好ましく、0.037mg/mL以下が更に好ましい。また、前記第一核酸切断酵素の濃度が、0.003mg/mL以上であり、0.005mg/mL以上がより好ましく、0.01mg/mL以上がより好ましく、0.019mg/mL以上が更に好ましい。
【0040】
ここで、RNA/DNA二本鎖構造(例えば、RNAを標的核酸とした第一侵入構造)に付随するフラップ部位に対する切断活性は、第二核酸切断酵素は第一核酸切断酵素と比較して低い。そのため、検出用試薬23中に第二核酸切断酵素をさらに混合したとしても、第一核酸切断酵素による前記一段階目の切断反応(標的核酸と第一核酸と第二核酸とからなる第一侵入構造に対する切断反応)の切断活性に対する影響は少ない。
【0041】
さらに、本実施形態に係る核酸検出方法によれば、第一核酸切断酵素の量を減じることができ、第一切断酵素が第二侵入構造を切断してしまうことを抑制できる。そのため、検出時におけるシグナル/ノイズ比を高めて、より効果的に標的核酸を検出可能となる。
【0042】
二本鎖構造の形成は、通常の温度、pH、塩濃度、緩衝液等の条件下で行うことができるが、核酸切断反応を行う溶液と同一の溶液で行うことが好ましい。ハイブリッド形成は、緩衝作用のある塩を含む反応溶液の中で行われることが好ましい。反応溶液のpHが6.5~10.0の範囲、特にpH7.5~9.0の範囲にあることが好ましい。緩衝作用のある塩の濃度が5~250mMの範囲にあることが好ましく、特に10~100mMの範囲に有ることが好ましい。緩衝作用のある塩としては、カコジル酸塩、リン酸塩、トリス塩をあげることができるが、それら以外のものでも良い。
【0043】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩を含むことが好ましく、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩として、例えば塩化ナトリウム及び/又は塩化マグネシウムを含むことが好ましい。反応溶液の塩濃度としては1~100mMの範囲にあることが好ましく、特に5~50mMの範囲にあることが好ましく、特に10~30mMの範囲にあることが好ましい。
【0044】
反応全体における温度は15~90℃の範囲が好ましく、特に25~80℃の範囲が好ましく、特に35~70℃の範囲が好ましい。
【0045】
本実施形態に係る核酸検出方法における検出の標的となる核酸は、DNAまたはRNAであれば特に限定されず、天然のものであっても合成されたものであってもよい。天然の核酸としては、例えば、生物から回収されたゲノムDNA、mRNA、rRNA、hnRNA、miRNA、tRNAなどである。また、合成された核酸として、β-シアノエチルホスフォロアミダイト法、DNA固相合成法等の公知の化学的合成法により合成されたDNAや、PCR等の公知の核酸合成法により合成された核酸、逆転写反応により合成されたcDNA等がある。
【0046】
本実施形態に係る核酸検出方法における検出の標的となる核酸は、特に限定されるものではなく、動物、植物、微生物、培養細胞等の生物から抽出された核酸であってもよく、核酸増幅反応により増幅された核酸であってもよい。増幅産物が2本鎖核酸である場合には、熱変性処理や化学変性処理等により1本鎖化した後に用いることができる。このような核酸増幅反応としては、例えば、PCR法、LAMP法、SMAP法、NASBA法、RCA法等が挙げられる。また、動物等からの核酸の抽出は、フェノール/クロロホルム法等の公知の手法により行うことができる。
【0047】
(第一実施形態の効果)
本実施形態に係る核酸検出方法によれば、本実施形態に係る核酸検出方法においては、検出に係る時間を増大させることなく、検出時におけるシグナル/ノイズ比を高められることが可能となる。特に、RNAを標的核酸とした場合に、高い効果を発揮する。
また、本実施形態に係る核酸検出方法によれば、微小液滴である検出用試薬23を流体20に一度だけ混合するだけで、容易に核酸の検出を行うことができる。
RNA検出が簡便、迅速に行えるようになることで、診察実施日に病院内での検査が可能となる。これにより治療や投薬量についての方針が素早く決定できるため患者の重症化を未然に防ぐことができる。また、通院回数を減らすことで医療側の人手不足や医療費削減に貢献するものと考えられる。
【0048】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態に係る核酸検出方法について、図1から図3を参照して説明する。なお、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法等は適宜調整されている。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0049】
第二実施形態に係る核酸検出方法は、従来の生化学的あるいは分子生物学的な手法に見られるチューブやウェルがプレート上に配された容器を用いて行う。この他に、近年、半導体回路の製造技術に用いられているエッチング技術やフォトリソグラフィ技術等を用いて形成された、種々の形態の微細な流路構造を有するマイクロウェルアレイが検討されており、これらのマイクロウェルアレイのウェルを微小体積の流体中で種々の生化学的又は化学的反応をさせるための化学反応容器として用いることも可能である。マイクロウェルは一つのアレイ上に無数に存在し、一つのマイクロウェルに一つの検出対象が入るようにする。検出対象の有無を蛍光発光などで確認できるようにすると、発光が観察されたウェルの数を数え上げることで検出対象を定量できる仕組みである。
第二実施形態に係る核酸検出方法は、マイクロウェルアレイを化学反応容器として用いる。
【0050】
まず、本実施形態に係る核酸検出方法において用いる解析デバイスとして、リキッドバイオプシーを用いたデジタルカウント法に用いられるマイクロ流体デバイス1について説明する。
図1は、マイクロ流体デバイス1を示す斜視図である。
図2は、図1のII-II線における断面図である。
図3は、マイクロ流体デバイス1のマイクロウェルアレイ4の要部を示す図である。
また、図3Aはその平面図であり、図3B図3AのIIIb-IIIb線における断面図である。なお、マイクロ流体デバイス1は、リキッドバイオプシーに限らず、タンパク質や、DNA、RNA、ウイルス生体分子、細菌などの測定にも使用可能である。
【0051】
図1から図3に示すように、マイクロ流体デバイス1は、複数のウェル(微小空間)3が形成されたマイクロウェルアレイ4を備えている。
図1および図2に示すように、マイクロウェルアレイ4は、板状の底部層11と、底部層11の上に重ねて形成された板状の壁部層12と、を備えている。マイクロウェルアレイ4の複数のウェル3は、図3Aに例示するように、アレイ状に配列されている。図3Aでは、ウェル3は、横方向(図3Aにおいて左右方向)に間隔をあけて複数並んでいる。また、横方向に並んだ複数のウェル3からなる横配列ウェル群30は、縦方向(図3Aにおいて上下方向)に複数並んでいる。縦方向に隣り合う横配列ウェル群30は、互いに縦方向にウェル3が重ならないように横方向にずれて配置されている。
【0052】
複数のウェル3が開口するマイクロウェルアレイ4の面(開口面6)は平坦となっている。複数のウェル3は、例えばマイクロウェルアレイ4の開口面6の全体に形成されてもよいが、本実施形態では、マイクロウェルアレイ4の開口面6のうち周縁領域7を除く領域(ウェル形成領域8)に形成されている。ウェル形成領域8の周縁形状は任意であってよいが、本実施形態では長方形となっている。
【0053】
図2及び図3に示すように、ウェル3は、底を有する穴である。本実施形態では、ウェル3は円筒状に形成され、底面9を有している。マイクロウェルアレイ4のウェル3の形状や大きさに特に制限はないが、例えば、微小液滴中で種々の生化学的な反応を行う場合には、1個~数個の生体分子21又は担体を収容可能な形状と大きさを有していることが好ましい。担体は例えばビーズであってもよく、担体には試料である生体分子21が結合されていてもよい。
【0054】
なお、ウェル3の形状は、円筒形に限られず、任意であってよく、例えば円筒形、複数の面により構成される多面体(例えば、直方体、六角柱、八角柱等)、逆円錐形、逆角錐形(逆三角錐形、逆四角錐形、逆五角錐形、逆六角錐形、七角以上の逆多角錐形)等であってもよい。ここで、逆円錐形及び逆角錐形とは、それぞれ円錐及び角錐の底面がウェル3の開口部となるようなウェル3の形状を意味する。ウェル3の形状が逆円錐形や逆角錐形である場合には、例えば円錐や角錐の頂部を切り取り、ウェル3の底面9を平坦にしてもよい。他の例として、ウェル3の底面9を、ウェル3の開口部に向けて凸又は凹となる曲面状に形成してもよい。また、ウェル3の形状は、例えば上述の形状を二つ以上組み合わせたような形状であってもよい。
【0055】
例えば、ウェル3の形状は、一部が円筒形であり、残りが逆円錐形であってもよい。また、逆円錐形、逆角錐形の場合、円錐や角錐の底面がウェル3の入り口(開口部)となるが、逆円錐形、逆角錐形の頂上から一部を切り取った形状であってもよい。この場合、マイクロウェルの底部は平坦になる。
【0056】
図3Bに示すように、本実施形態では、ウェル3の形状が円筒形であり、ウェル3の底部は、平坦であるが、曲面(凸面や凹面)としてもよい。ウェル3の底部を曲面とすることができるのは、逆円錐形、逆角錐形の頂上から一部を切り取った形状の場合も同様である。
【0057】
図3Bに示すように、ウェル3が円筒形の場合、生体分子21を含む水性液体を封入する目的のためには、ウェル3の最大径、高さWhは例えば10nm~100μm、好ましくは100nm~20μm、さらに好ましくは1μm~20μmであってもよい。ウェル3の寸法は、ウェル3に収容する水性液体の量や、生体分子21を付着させたビーズ等の担体の大きさとウェル3の寸法の好適な比等を考慮して、1つのマイクロウェルに1つ、もしくは数個の生体分子21が収容されるように、適宜決定する。
【0058】
マイクロウェルアレイ4の材質は、酵素反応を阻害しないものであることが好ましい。
あるいは、マイクロウェルアレイ4の材質(材料)表面に、酵素反応を阻害しない物質をコーティングすることも可能である。例えば、界面活性剤、リン酸脂質、その他の高分子化合物、またはこれらの混合物をコーティングしてよい。界面活性剤の例としては、非イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、Tweenやglycerоl、Triton-X100等が挙げられる。また、高分子化合物の例としては、Pоlyethyleneglycоl(PEG)やDNA、蛋白質、BSAが挙げられる。
また、マイクロウェルアレイ4の材質(材料)表面には、フッ素系のコート剤、シリコン系のコート剤をコーティングしてもよい。これらのコート剤をコーティングすることにより、表面を疎水的に改変することができる。上記のようにコーティングする結果、水溶液、バッファー、試薬、酵素、核酸、その他の反応系に含有される物質が表面に付着するのを抑制し、誤検出を防止することができる。
【0059】
本実施形態に係るマイクロウェルアレイ4を用いた核酸検出方法の検出対象は、例えば血液等の生体から採取した試料やPCR産物等であってもよく、人工的に合成された化合物等であってもよい。例えば、生体分子21であるDNAを検出対象とする場合、ウェル3は、DNAが1分子入るような形状と大きさであってもよい。
【0060】
マイクロウェルアレイ4は、ウェル3の密度が、例えば10万~1000万個/cmであり、好ましくは10万~500万個/cmであり、さらに好ましくは10万~100万個/cmである。ウェル3の密度がこのような範囲であると、所定数のウェル3に試料である水性液体を封入させる操作が容易である。また、実験結果を解析するためのウェル3の観察も容易である。
【0061】
例えば、セルフリーDNAの変異を測定する場合において、検出対象の変異の野生型に対する存在割合が0.01%程度である場合、例えば、100万~200万個のウェルを使用することが好適である。
【0062】
マイクロウェルアレイ4において、各ウェル3は、基板上に親水性材料または疎水性材料を積層して親水層または疎水層を形成する工程と、前記親水層または疎水層を掘削して複数のウェルを形成する工程から作製することができる。ただし、本実施形態を実現できる条件であれば、ウェル3は基板と同一材料とされて、成型加工や切削加工によって形成されてもよい。
【0063】
マイクロウェルアレイ4は、基板上に形成されていてもよい。基板は、電磁波透過性を有するものであってもよく、有さないものであってもよい。ここで、電磁波としては、X線、紫外線、可視光線、赤外線等が挙げられる。マイクロウェルアレイが電磁波透過性を有する基板上に形成されていた場合には、マイクロウェルアレイ上で行った実験結果を解析するために、電磁波を利用することが可能になる。例えば、電磁波を照射した結果生じる蛍光、燐光等を基板側から計測することができる。蛍光、燐光等の検出には、例えば蛍光顕微鏡等を利用することができる。この場合、電磁波は、例えば基板側から照射してもよいし、例えばウェルの入り口側から照射してもよい。
【0064】
例えば、マイクロウェルアレイ4において、可視光領域である400~700nmの波長範囲にピークを有する蛍光を検出する場合には、少なくとも上記可視光領域の光に対して良好な透過性を有する基板を用いればよい。
【0065】
電磁波透過性を有する基板としては、例えば、ガラス、樹脂等が挙げられる。
樹脂基板としては、例えば、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、COC(シクロオレフィンコポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等が挙げられる。これらの樹脂は各種添加剤を含んでいてもよく、複数の樹脂が混合されていてもよい。
【0066】
実験結果の検出に蛍光や燐光を利用する観点から、上記の基板は、自家蛍光を実質的に有さないものであることが好ましい。ここで、自家蛍光を実質的に有さないとは、基板が実験結果の検出に使用する波長の自家蛍光を全く有さないか、有していても実験結果の検出に影響を与えないほど微弱であることを意味する。例えば、検出対象の蛍光に比べて1/2以下、1/10以下程度の自家蛍光の強さであれば、実験結果の検出に影響を与えないほど微弱であるといえる。
【0067】
電磁波透過性を有し、かつ自家蛍光を全く発しない素材としては、例えば、石英ガラスが挙げられる。自家蛍光が微弱であり、電磁波を用いた実験結果の検出に支障がない素材としては、低蛍光ガラス、アクリル樹脂、COC(シクロオレフィンコポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)等が挙げられる。
【0068】
マイクロウェルアレイ4は、射出成形やインプリントによる樹脂成形のみでウェル3を複数構成したものであってもよい。
【0069】
生体分子21の検出に用いる蛍光としては、核酸に標識可能な蛍光分子や、例えば蛍光分子を内包した蛍光ビーズや、DNAの二重らせんに特異的に入り込み、蛍光を発するSYBR Green等のインターカレーター等に由来するものが挙げられる。
【0070】
ウェル3に収容された生体分子21から発せられる蛍光の観察は、例えば、蛍光顕微鏡を用いて、マイクロウェルアレイ4の基板側から行うことができる。この蛍光観察により、所定の蛍光を発するウェル3の個数を数えることで、目的分子の数を特定することができる。
【0071】
生体分子21は、例えば、そのままウェル3に収容する方法の他、ウェル3に収容する前に、目的分子を特異的に標識する蛍光標識で処理しておくとよい。あるいは、対象分子を特異的に認識するビーズを用いて、対象分子を補足した後に、ビーズをウェル3に収容し、対象分子を特異的に標識し得る蛍光標識と接触させて、目的分子をウェル3内で蛍光標識してもよい。
【0072】
基板の厚みは、適宜決定することができるが、例えば基板側から蛍光顕微鏡を用いて蛍光を観察する場合には、例えば0mm超5mm以下、0mm超2mm以下、あるいは0mm超0.6mm以下であることが好ましい。
【0073】
マイクロウェルアレイ4を使用した生体分子21の観察には、蛍光以外にも、例えば濁度等を利用することもできる。濁度は、例えば400~1000nm程度の波長の光の透過性により測定することができる。
【0074】
親水性部分を形成する樹脂(以下「親水性樹脂」という場合がある。)としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、樹脂の構成成分の分子が、親水性を発現する親水性基を有するものが挙げられる。親水性基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン基、スルホニル基、アミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基等が挙げられる。
【0075】
より具体的には、シロキサンポリマー;エポキシ樹脂;ポリエチレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリアクリルアミド樹脂;ポリビニルピロリドン樹脂;ポリアクリル酸共重合体等のアクリル樹脂;カチオン化ポリビニルアルコール、シラノール化ポリビニルアルコール、スルホン化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリビニルブチラール樹脂;ポリエチレンポリアミド樹脂;ポリアミドポリアミン樹脂;ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体等のポリアルキレンオキサイド誘導体;無水マレイン酸共重合体;エチレン-酢酸ビニル共重合体;スチレン-ブタジエン共重合体;上記の樹脂の組み合わせ等の中から、適宜選択して使用することができる。親水性樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよく、電子線やUV光等の活性エネルギー線により硬化する樹脂であってもよく、エラストマーであってもよい。
【0076】
なお、親水性部分(親水性部分の材質)は、JIS R3257-1999に規定された静滴法に準じて測定した接触角が70度未満とされることも可能である。
【0077】
また、前述する基板が存在する場合には、基板と疎水層とを密着させる機能も有していてもよい。例えば、熱硬化性のシランカップリング剤等を基板に塗布し、熱硬化させてシロキサンポリマーを形成することにより、親水層を形成してもよい。
【0078】
疎水性部分を形成する樹脂(以下「疎水性樹脂」という場合がある。)としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、ノボラック樹脂;アクリル樹脂;メタクリル樹脂;スチレン樹脂;塩化ビニル樹脂;塩化ビニリデン樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルフォン樹脂;フッ素樹脂;シリコーン樹脂;ユリヤ樹脂;メラミン樹脂;グアナミン樹脂;フェノール樹脂;セルロース樹脂;上記の樹脂の組み合わせ等の中から、JIS R3257-1999に規定された静滴法に準じて測定した接触が70度以上であるものを適宜選択して使用することができる。疎水性樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよく、電子線やUV光等の活性エネルギー線により硬化する樹脂であってもよく、エラストマーであってもよい。
【0079】
疎水性部分は、例えばレジストで形成されていてもよい。レジストは、微細構造を形成しやすい観点から、フォトレジストであってもよい。フォトレジストは、例えば、感光性のノボラック樹脂であってもよい。
【0080】
図1および図2に示すように、マイクロウェルアレイ4には、マイクロウェルアレイ4とともにマイクロ流体デバイス1の流路2を構成する蓋部材5が設けられている。蓋部材5は、板状又はシート状に形成された部材であり、マイクロウェルアレイ4の開口面6に対向して配置されている。マイクロウェルアレイ4と蓋部材5との間には、流路2として機能する隙間が存在している。
【0081】
蓋部材5は、その厚さ方向に貫通する複数の貫通孔15を有する。各貫通孔15は、マイクロ流体デバイス1の流路2に連通し、流路2内に流体を供給する入口や、流体を排出する出口として機能する。本実施形態において、蓋部材5は二つの貫通孔15A、15B(第一貫通孔15A及び第二貫通孔15B)を有する。二つの貫通孔15A、15Bは、長方形とされたウェル形成領域8のうち互いに向かい合う二つの角部に対応する位置に配されている。各貫通孔15は、小孔部16と、貫通方向から見た大きさが小孔部16よりも大きな大孔部17と、を有している。
【0082】
(第二実施形態の効果)
本実施形態に係る核酸検出方法によれば、第一実施形態同様、検出用試薬23を流体20に一度だけ混合するだけで検出に係る時間を増大させることなく、検出時におけるシグナル/ノイズ比を高められることが可能となる。さらに、ウェル(微小空間)3を用いて、効果的に検出結果を可視化することができる。
【0083】
次に、本実施形態に係るマイクロウェルアレイ4を備えたマイクロ流体デバイス1を用いた核酸検出方法について説明する。図4から図5は、マイクロ流体デバイス1の使用例を説明するための図である。
【0084】
はじめに、標的核酸である生体分子21を含有する流体20と、封止液と、を準備する。流体20は、生体分子21及び溶媒流体22から構成されており、さらに検出用試薬23が混合されている。封止液は、例えばオイルである。
【0085】
次に、マイクロ流体デバイス1を、流路2における流体20及び封止液の流れが水平方向になるように、かつ、ウェル3の開口が鉛直方向において上側を向くように配置する。
続いて、ピペットを用いて、流体20をマイクロ流体デバイス1の第一貫通孔15Aから流路2に注入する。図4は、流体20を注入し終わったところを示している。
【0086】
その後、封止液をマイクロ流体デバイス1の第一貫通孔15Aから流路2に注入し、流路2を封止液で満たす。すなわち、流路2内の流体20を封止液に置換する。これにより、各ウェル3内の流体20が封止液によって封止される。封止を行った後に、マイクロ流体デバイス1を加熱することによって内部で生化学反応が起こる。流体20中に標的核酸が含有されている場合、二段階の侵入構造の切断反応により、被切断物が生成される。その被切断物を検出することで、生体分子21がウェル3内に格納されていることを検出する。
【0087】
反応後にマイクロウェルアレイ4のウェル3内において測定対象となるシグナルとしては、蛍光や、発光、燐光等が挙げられる。これらの波長域は、可視光や、紫外線、赤外線等の電磁波として観測可能なものを対象とできる。このため、このような波長域を測定できる測定機器を有している検出機器を、本実施形態に係る検出機として利用可能である。
具体的に、本実施形態では、反応を検出するための検出機として蛍光顕微鏡を使用している。
【0088】
マイクロウェルアレイ4が光を通すように構成されている場合、マイクロ流体デバイス1は、蛍光顕微鏡でマイクロウェルアレイ4側から観察できるように配置される。蛍光顕微鏡で観察した画像は、例えば図5のように示される。図5の例では、蛍光顕微鏡により蛍光を観察している。
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例
【0090】
以下に示す実施例および比較例においては、表1に示す配列を用いて以下の試薬量および条件でInvasive Cleavage AssayによるRNA検出を行った。
表1の第一核酸の下線部分は第一フラップ部位を表す。第四核酸の下線部分は第二フラップ部位を表す。また第四核酸のFは蛍光色素を表し、Qは消光物質を表す。
【0091】
実施例では標的RNA上において第一核酸と第二核酸がハイブリダイズして、第一核酸切断酵素が第一フラップ部位を切断することで第三核酸が生成する。第三核酸は第四核酸上にハイブリダイズした状態で第二核酸切断酵素により第二フラップ部位が切断されて遊離する。これにより消光物質から蛍光物質が離れて蛍光発光を観測できるようになる。
【0092】
【表1】
【0093】
〔実施例1〕
本実施例では、第一核酸切断酵素および第二核酸切断酵素を含む検出用試薬を用いて核酸の検出を行った。
【0094】
(条件)
一反応あたり全量が10μLとなるように標的RNA(30pM,0pM)と第一核酸(1μM)、第二核酸(1μM)、第四核酸 (2μM)、3-モルフォリノプロパンスルフォン酸(pH7.9, 10mM)、MgCl(10mM)、Tween 20(0.05%v/v)、第一核酸切断酵素として5’-Nuclease(分子量:92290)(0.09mg/mL)と、第二核酸切断酵素としてFlapendo Nuclease 1(分子量:36960)(0.03mg/mL)、および蒸留水からなる反応液を調製した。標的RNAの濃度が異なる二種類の反応液を用意した。
【0095】
(手順)
反応液を微量試験チューブに入れ、リアルタイムPCR装置において65℃で60分間加熱したときの蛍光強度変化(励起:490nm、発光:520nm)を測定した。
【0096】
(結果)
結果を図6に示す。標的RNAの濃度が高い方が、蛍光強度の立ち上がりが速くなっていることが観測できた。
【0097】
〔比較例1〕
本実施例では、第二核酸切断酵素を含み、第一核酸切断酵素を含まない検出用試薬を用いて核酸の検出を行った。
【0098】
(条件)
第一核酸切断酵素を含まず、第二核酸切断酵素としてFlapendo Nuclease 1(0.03mg/mL)を混合していること以外の条件は、実施例1と同様である。
【0099】
(手順)
実施例1の手順と同様である。
【0100】
(結果)
結果を図7に示す。標的RNAの濃度によって、蛍光強度の変化は観測されなかった。
【0101】
〔比較例2〕
本実施例では、第一核酸切断酵素を含み、第二核酸切断酵素を含まない検出用試薬を用いて核酸の検出を行った。
【0102】
(条件)
第二核酸切断酵素を含まず、第一核酸切断酵素として5’-Nuclease(0.09mg/mL)を混合していること以外の条件は、実施例1と同様である。
【0103】
(手順)
実施例1の手順と同様である。
【0104】
(結果)
結果を図8に示す。標的RNAの濃度が高い(30pM)方が、蛍光強度の立ち上がりが速くなることが観測できた。
【0105】
実施例1は、核酸切断酵素が1種類のとき(比較例1および比較例2)と比較して、標的RNAの濃度が同一の条件において、蛍光強度の立ち上がりが速くなっている。
実施例1の結果において、RNAを標的核酸とした場合において、第一核酸切断酵素および第二核酸切断酵素を含む検出用試薬23を用いることで、検出のシグナル/ノイズ比を高められることが可能であることが示されている。また、第一核酸切断酵素および第二核酸切断酵素を含む検出用試薬23を用いることで、蛍光強度の立ち上がりが速くなっており、検出時間の増大を阻止できることが示されている。
【0106】
〔実施例2〕
本実施例では、第一核酸切断酵素と第二核酸切断酵素の活性比が、標的RNAの検出におけるシグナル/ノイズ比に与える影響を確認した。
【0107】
(条件)
反応液に含まれる第一核酸切断酵素5’-Nucleaseの濃度比0.10eq.(0.003mg/mL)、0.17eq.(0.005mg/mL)、0.33eq.(0.010mg/mL)、0.63eq.(0.019mg/mL)、1.23eq.(0.037mg/mL)、1.5eq.(0.045mg/mL)、2.46eq.(0.074mg/mL)、3.0eq.(0.09mg/mL)、4.93eq.(0.148mg/mL)、6.0eq.(0.18mg/mL)、9.0eq.(0.27mg/mL)、12.0eq.(0.36mg/mL)、15.0eq.(0.45mg/mL)を変えた13種類の反応液を要したことおよび、標的RNAの濃度を30pM及び/又は300pMとしたこと以外は、実施例1と条件は同一である。第二核酸切断酵素は、実施例1同様、Flapendo Nuclease 1(0.03mg/mL)である。
【0108】
(手順)
実施例1の手順と同様である。
【0109】
(結果)
結果を図9A~Cに示す。標的RNAの濃度が30pMおよび300pMの場合、第一核酸切断酵素の濃度比によるシグナルの立ち上がりの変化は見られなかった。標的RNAの濃度が0pMの場合、第一核酸切断酵素の濃度比が増加するに従って、立ち上りが速くなっていることが確認できた。
これは、第一核酸切断酵素の量が少ないことで副反応を抑制し、ノイズを減少させたためである。さらに、第二核酸切断酵素を混合することで検出時間の増大を阻止したためである。また、第一侵入構造に対する活性が高くない第二核酸切断酵素を混在させることで、検出反応は維持されて、シグナル/ノイズ比(標的RNAの濃度が30pMまたは300pMの場合と0pMの場合の蛍光強度の差)が高まる。特に、第一核酸切断酵素5’-Nucleaseの濃度比が0.10倍、0.17倍、0.33倍、0.63倍、1.23倍、1.5倍、2.46倍、3.0倍、4.93倍、6.0倍、9.0倍の場合に、好適なシグナル/ノイズ比となり、0.10倍、0.17倍、0.33倍、0.63倍、1.23倍、1.5倍、2.46倍、3.0倍、4.93倍、6.0倍の場合に、更に好適なシグナル/ノイズ比となることが示されている。
【0110】
〔実施例3〕
本実施例では、第二核酸切断酵素の濃度に拠らず、第一核酸切断酵素と第二核酸切断酵素の活性比が、標的RNAの検出におけるシグナル/ノイズ比に与える影響を確認した。
【0111】
(条件)
反応液に含まれる第一核酸切断酵素5’-Nucleaseの濃度比を0.63eq.(0.037mg/mL)、1.23eq.(0.074mg/mL)、2.46eq.(0.148mg/mL)を変えた3種類の反応液を要したことおよび、標的RNAの濃度を30pM及び/又は300pMとし、第二核酸切断酵素Flapendo Nuclease 1を0.06mg/mLとしたこと以外は、実施例1と条件は同一である。
【0112】
(手順)
実施例1の手順と同様である。
【0113】
(結果)
結果を図9Dに示す。標的RNAの濃度が30pMおよび300pMの場合、第一核酸切断酵素の濃度比によるシグナルの立ち上がりの変化は見られなかった。標的RNAの濃度が0pMの場合、第一核酸切断酵素の濃度比が増加するに従って、立ち上りが速くなっていることが確認できた。
これは、第一核酸切断酵素の量が少ないことで副反応を抑制し、ノイズを減少させたためである。さらに、第二核酸切断酵素を混合することで検出時間の増大を阻止したためである。また、第一侵入構造に対する活性が高くない第二核酸切断酵素を混在させることで、検出反応は維持されて、シグナル/ノイズ比(標的RNAの濃度が30pMまたは300pMの場合と0pMの場合の蛍光強度の差)が高まる。これらと実施例2の結果より、第二核酸切断酵素の濃度に拠らず、良好なシグナル/ノイズ比となることが示されている。特に、第一核酸切断酵素5’-Nucleaseの濃度比が0.63倍、1.23倍、2.46倍の場合に、好適なシグナル/ノイズ比となることが示されている。
さらに、第一核酸切断酵素5’-Nucleaseの濃度比が0.63倍、1.23倍の場合には、標的RNAの濃度に拠らず好適なシグナル/ノイズ比となることが示された。これにより、第一核酸切断酵素5’-Nucleaseの濃度比が0.6倍以上1.3倍以下の場合、様々な濃度の標的核酸を好適なシグナル/ノイズ比で検出することができ、第二核酸切断酵素の濃度が0.03mg/mL以上0.06mg/mL以下であると、更に好適である。
【0114】
〔実施例4〕
本実施例では、第一核酸切断酵素と第二核酸切断酵素の活性比が、標的RNAの検出におけるシグナル/ノイズ比に与える影響を確認した。本実施例では、第一核酸切断酵素の濃度を0.63eq.と固定し、第二核酸切断酵素の濃度の種類を変えて実験した。
【0115】
(条件)
反応液に含まれる第一核酸切断酵素5’-Nucleaseの濃度比0.63eq.とし、第二核酸切断酵素Flapendo Nuclease 1を、0.008mg/mL、0.015mg/mL、0.06mg/mL、0.12mg/mL、0.24mg/mLとし、第二核酸切断酵素の濃度に合わせて第一核酸切断酵素5’-Nucleaseを、0.005mg/mL、0.01mg/mL、0.037mg/mL、0.074mg/mL、0.148mg/mLとした5種類の反応液を要したことおよび、標的RNAの濃度を30pM及び/又は300pMとしたこと以外は、実施例1と条件は同一である。
【0116】
(手順)
実施例1の手順と同様である。
【0117】
(結果)
結果を図9E、Fに示す。標的RNAの濃度が30pMおよび300pMの場合、第二核酸切断酵素の濃度によるシグナルの立ち上がりの変化は見られなかった。標的RNAの濃度が0pMの場合、第二核酸切断酵素の濃度が増加するに従って、立ち上りが速くなっていることが確認できたが、第二核酸切断酵素の濃度0.06mg/mL以上では大きな違いは確認できなかった。
これは、第一核酸切断酵素の量が少ないことで副反応を抑制し、ノイズを減少させたためである。さらに、第二核酸切断酵素を混合することで検出時間の増大を阻止したためである。また、第一侵入構造に対する活性が高くない第二核酸切断酵素を混在させることで、検出反応は維持されて、シグナル/ノイズ比(標的RNAの濃度が30pMまたは300pMの場合と0pMの場合の蛍光強度の差)が高まる。これらと実施例2の結果から、第二核酸切断酵素の濃度に拠らず、第一核酸切断酵素と第二核酸切断酵素の濃度比が一定の範囲内にあれば、良好なシグナル/ノイズ比になることが示された。特に、第二核酸切断酵素の濃度が、0.008mg/mL、0.015mg/mL、0.03mg/mL、0.06mg/mL、0.12mg/mLの場合に、好適なシグナル/ノイズ比となり、0.03mg/mL、0.06mg/mLの場合に、更に好適なシグナル/ノイズ比となることが示されている。しかし、第二核酸切断酵素と第一核酸切断酵素の濃度比が同じであっても、第一核酸切断酵素および第二核酸切断酵素の濃度が増加し過ぎると、シグナル/ノイズ比が良好でなく、第二核酸切断酵素の濃度が0.24mg/mLの場合には、十分なシグナル/ノイズ比が得られなかった。
【0118】
〔実施例5〕
本実施例では、ウェル3による蛍光シグナル確認における、シグナル/ノイズ比の改善の効果を確認した。
【0119】
(条件)
一反応あたり全量が20μLとなるように標的RNA(0pM、30pM)と第一核酸(1μM)、第二核酸(1μM)、第四核酸 (2μM)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン-塩酸緩衝液(pH9.0、10mM)、MgCl(10mM)、Tween 20(0.05%v/v)、濃度比を変えた第一核酸切断酵素である5’-Nuclease(0.045、0.09、0.18、0.27、0.36、0.45mg/mL)、第二核酸切断酵素であるFlapendo Nuclease 1(0.03mg/mL)および蒸留水からなる反応液を用意した。
【0120】
(手順)
反応液をマイクロ流体デバイス1の第一貫通孔15Aに送液し、その後、封止液としての検出反応試薬と混ざり合わないFC-40(Sigma)を、第一貫通孔15Aを通じて80μl送液することで、各ウェル3内に試薬を分割して封入した。これを66℃のホットプレート上で15分間加熱し、インベーダー反応を実施した。次に、蛍光顕微鏡(キーエンス製)を使用し、NIBAの蛍光フィルタを用いて各微小孔の蛍光を検出した。
【0121】
(結果)
結果を図10に示す。露光時間は、1000msecとした。図10Aは標的RNAの濃度が30pMの場合であり、ウェル3におけるノイズとは異なる強度の蛍光シグナルを確認することができた。図10Bは標的RNAが0pMのときの結果であり、ウェル3におけるノイズの蛍光強度が低いことが見て取れる。
【0122】
〔比較例3〕
副反応の程度を確かめるために、標的RNAが存在しない条件で第四核酸と第一核酸および第一核酸切断酵素である5’-Nucleaseが混合された反応液が示す挙動を観察した。
【0123】
(条件)
一反応あたり全量が10μLとなるように第一核酸(1μM)、第四核酸(2μM)、3-モルフォリノプロパンスルフォン酸(pH7.9、10mM)、MgCl(10mM)、Tween 20(0.05%v/v)、第一核酸切断酵素として5’-Nuclease(0.09mg/mL)、および蒸留水からなる反応液を調製した。
【0124】
(手順)
反応液を微量試験チューブに入れ、リアルタイムPCR装置において65℃で60分間加熱したときの蛍光強度変化(励起:490nm、発光:520nm)を測定した。
【0125】
(結果)
図11に結果を示す。蛍光強度は、標的RNAが無い状態でも、時間経過に従って上昇してゆくことが観測できた。この結果から、少なくとも第一核酸と第四核酸がノイズ(標的RNAが無くても蛍光強度が上昇)の増加に寄与していることが確認された。
【0126】
〔比較例4〕
副反応の程度を確かめるために、標的RNAが存在しない条件で第四核酸と第一核酸および第二核酸切断酵素であるFEN-1が混合された反応液が示す挙動を観察した。
【0127】
(条件)
反応あたりの全量が10μLとなるように第一核酸(1μM)、第四核酸(2μM)、3-モルフォリノプロパンスルフォン酸(pH7.9、10mM)、MgCl(10mM)、Tween 20(0.05%v/v)、第二核酸切断酵素としてFlapendo Nuclease 1(0.03mg/mL)および蒸留水からなる反応液を調製した。
【0128】
(手順)
反応液を微量試験チューブに入れ、リアルタイムPCR装置において65℃で60分間加熱したときの蛍光強度変化(励起:490nm、発光:520nm)を測定した。
【0129】
(結果)
図12に結果を示す。蛍光強度は、標的RNAが無い状態でも時間経過に従って上昇してゆくことが観測できた。しかし、図11と比較してノイズとしての寄与は少ないものであることが確認された。この結果からも、少なくとも第一核酸と第四核酸がノイズ(標的RNAが無くても蛍光強度が上昇)の増加に寄与していることが確認された。
ノイズの増加に影響を与える要素は、第一核酸、第四核酸と酵素であり、第一核酸切断酵素の方が第二核酸切断酵素よりもその影響が大きい。標的核酸の検出に係る時間を早めようとして第一核酸切断酵素の量を増やすことが容易に考えられるが、逆に第一核酸切断酵素の量を減じることで、検出時におけるシグナル/ノイズ比を高めることができ、より効果的に標的核酸を検出可能となる。一方で、第二核酸切断酵素を混合することで検出時間の増大を阻止することもできる。
【0130】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によれば、標的核酸を含有する流体から標的核酸を迅速に検出する核酸検出方法を提供することができ、前記核酸検出方法を実施するための検出用試薬を提供することが可能である。
【符号の説明】
【0132】
1 マイクロ流体デバイス
3 ウェル(微小空間)
4 マイクロウェルアレイ
5 蓋部材
6 開口面
7 周縁領域
8 ウェル形成領域
9 底面
15 貫通孔
15A 第一貫通孔
15B 第二貫通孔
16 小孔部
17 大孔部
20 流体
23 検出用試薬(微小液滴)
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10A
図10B
図11
図12