(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/10 20060101AFI20221220BHJP
H01G 9/12 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01G9/10 E
H01G9/12 A
(21)【出願番号】P 2019535638
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2018029364
(87)【国際公開番号】W WO2019031432
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017154969
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(74)【代理人】
【識別番号】100206933
【氏名又は名称】沖田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敦
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-335536(JP,A)
【文献】特開2008-177322(JP,A)
【文献】実開昭56-065639(JP,U)
【文献】特開2009-063593(JP,A)
【文献】特開平9-129519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/10
H01G 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子を収納するコンデンサケースと、
前記コンデンサケースの開口部を封止する封口板と、
を備え、前記封口板は、
ガスを透過する第1の部材とガスを封止する第2の部材が積層された積層体と、
前記積層体の少なくとも前記第1の部材の平面部の一部が押圧される押圧部と、
前記押圧部および前記押圧部の周囲の所定範囲に設定した薄肉部に重ならない位置で、前記積層体の前記第2の部材に形成されている貫通孔および該貫通孔を覆う前記第1の部材でガスを透過させて調圧するガス調圧部と、
前記貫通孔の開口部に設置されて、前記貫通孔に対してガスを透過させるとともに液体の侵入を阻止する液遮断部と、
を備えることを特徴とするコンデンサ。
【請求項2】
前記押圧部は、前記積層体に設置された端子部品を含み、
前記貫通孔は、前記端子部品の設置位置から2.0ミリメートル以上離れた範囲に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記押圧部は、開口部側に沿って折り返された前記コンデンサケースの端部側と前記第1の部材との接触部であり、
前記貫通孔は、前記端部の接触位置から前記積層体の中央方向に2.0ミリメートル以上離れた範囲に形成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のコンデンサ。
【請求項4】
前記第1の部材は、硬度が、JIS K6253の規格に準拠し、50Hs以上でかつ85Hs以下のゴム材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項
3のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項5】
コンデンサの製造方法であって、
コンデンサ素子をコンデンサケースに収納する処理と、
ガスを透過する第1の部材とガスを封止する第2の部材が積層された積層体の少なくとも前記第1の部材の平面部の一部が押圧される押圧部と、前記押圧部および前記押圧部の周囲の所定範囲に設定した薄肉部に重ならない位置で、前記積層体の前記第2の部材に形成されている貫通孔および該貫通孔を覆う前記第1の部材でガスを透過させて調圧するガス調圧部とを備える封口板
の前記貫通孔の開口部に、前記貫通孔に対してガスを透過させるとともに液体の侵入を阻止する液遮断部を設置する処理と、
前記封口版で前記コンデンサケースを封止する処理と、
前記貫通孔から所定距離以上離れた位置で前記第1の部材と接触するように前記コンデンサケースの端部を前記封口板に折り返す処理と、
を含むことを特徴とするコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサケースを密封するとともに、ケース内の圧力を調整する封口技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサなどのコンデンサは、コンデンサ素子と電解液との反応により水素ガスなどが発生することで内圧が徐々に上昇していく。コンデンサは、斯かる内圧がコンデンサケースの限界を超えた時の周囲への影響を抑えるために、コンデンサケースの所定位置を開放させる圧力弁を備えている。この圧力弁が作動した時がコンデンサの寿命である。
コンデンサの静電容量C(単位:〔F〕)は、陽極箔の陰極箔に対向する面の実効面積をS〔m2〕、陽極箔の表面に形成された酸化皮膜層の厚さをd〔m〕、酸化皮膜の比誘電率をεとすると、
8.854×10-12×ε・S/d ・・・(1)
となる。コンデンサは、高容量化が求められる一方、搭載される製品に対する容積の維持または小型化が求められる。大きさを維持しつつコンデンサを高容量化するため、電極箔の表面に形成する酸化皮膜層を薄くする、つまり、式(1)の厚さdを小さくする手法がとられている。ところで、コンデンサの耐圧は、酸化皮膜層の厚さに依存する。電極箔の酸化皮膜層を薄くするとその分陽極箔の耐圧は低下し、DC(Direct Current)電圧の印加により所謂漏れ電流(LC:Leakage Current)が増加する。陽極箔側において、漏れ電流が大きくなり、電極面に於ける電荷の移動が激しくなると、ファラデー則に則って、陰極箔側の反応量が大きくなり、陰極箔側において、水素ガスの発生量が増大し、ケースの内圧上昇につながる。
【0003】
このようなガス発生によるケース内圧上昇に関し、コンデンサケース内に溜まったガスのみを外部に放出するためのガス透過部が封口板に形成された電解コンデンサがある(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、封口板はたとえば異なる性質の複数の部材を積層した積層体で形成されている。この封口板は、電解液の封止とともに発生したガスを透過することで、コンデンサの機能を維持させつつ、かつ高容量化したコンデンサの使用可能期間を延ばしている。
しかしながら、積層体を構成する部材のうち液体を封止する部材の剛性が足りない場合、発生したガスの内圧にガス調圧部が対抗できず、部材の異常変形やガス調圧部周囲の積層部分の剥離などが発生するおそれがある。このような積層体の剥離が発生すると、その剥離部分に電解液が侵入し、外部端子と封口板の境界面まで到達し、該境界面からコンデンサの外部への液漏れするおそれがある。
このように電解液が漏れ出た場合、コンデンサ周囲の基板や電子部品などに電解液が付着しそれらを破損させるおそれがあるなどの課題がある。
斯かる課題について特許文献1には開示がなく、解決することができない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、コンデンサの封口板に十分な剛性を備えることでガス調圧機能の維持を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のコンデンサの一側面は、コンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納するコンデンサケースと、前記コンデンサケースの開口部を封止する封口板とを備え、前記封口板は、ガスを透過する第1の部材とガスを封止する第2の部材が積層された積層体と、前記積層体の少なくとも前記第1の部材の平面部の一部が押圧される押圧部と、前記押圧部および前記押圧部の周囲の所定範囲に設定した薄肉部に重ならない位置で、前記積層体の前記第2の部材に形成されている貫通孔および該貫通孔を覆う前記第1の部材でガスを透過させて調圧するガス調圧部と、
前記貫通孔の開口部に設置されて、前記貫通孔に対してガスを透過させるとともに液体の侵入を阻止する液遮断部とを備える。
【0008】
上記コンデンサにおいて、前記押圧部は、前記積層体に設置された端子部品を含み、前記貫通孔は、前記端子部品の設置位置から2.0ミリメートル以上離れた範囲に形成されてよい。
上記コンデンサにおいて、前記押圧部は、開口部側に沿って折り返された前記コンデンサケースの端部側と前記第1の部材との接触部であり、前記貫通孔は、前記端部の接触位置から前記積層体の中央方向に2.0ミリメートル以上離れた範囲に形成されてよい。
【0009】
上記コンデンサにおいて、前記第1の部材は、硬度が、JIS K6253の規格に準拠し、50Hs以上でかつ85Hs以下のゴム材料であってよい。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のコンデンサ製造方法の一側面は、コンデンサ素子をコンデンサケースに収納する処理と、ガスを透過する第1の部材とガスを封止する第2の部材が積層された積層体の少なくとも前記第1の部材の平面部の一部が押圧される押圧部と、前記押圧部および前記押圧部の周囲の所定範囲に設定した薄肉部に重ならない位置で、前記積層体の前記第2の部材に形成されている貫通孔および該貫通孔を覆う前記第1の部材でガスを透過させて調圧するガス調圧部とを備える封口板の前記貫通孔の開口部に、前記貫通孔に対してガスを透過させるとともに液体の侵入を阻止する液遮断部を設置する処理と、前記封口版で前記コンデンサケースを封止する処理と、前記貫通孔から所定距離以上離れた位置で前記第1の部材と接触するように前記コンデンサケースの端部を前記封口板に折り返す処理とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のいずれかの効果が得られる。
【0013】
(1) ガス調圧部の機能低下を防止することで、コンデンサケース内の圧力上昇を抑制するとともに、コンデンサの寿命を延ばすことができる。
【0014】
(2) 積層体の剛性が低い範囲を避けてガス調圧部を形成することで、積層体の剥離や積層体内部への電解液の侵入または積層体外部への電解液の流出を防止できる。
【0015】
(3) 積層体への接触により生じる押圧部の周囲を避けて貫通孔を形成することで、剛性の低い薄肉部にガス調圧部が形成されるのを防止できる。
【0016】
そして、本発明の他の目的、特徴および利点は、添付図面および各実施の形態を参照することにより、一層明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施の形態に係る封口板の外観構成例を示す図である。
【
図3】封口板の端部を含む部分断面を示す図である。
【
図4】実施例1に係るコンデンサの開口部側の外観構成例を示す図である。
【
図5】コンデンサの内部構成例を示す断面図である。
【
図6】第2の実施の形態に係る封口板の構成例を示す図である。
【
図7】Aは実施例2に係る封口板の構成例を示す断面図であり、Bは開口部の構成を示す部分拡大図である。
【
図8】Aは実施例3に係る封口板の構成例を示す断面図であり、Bは開口部の構成を示す部分拡大図である。
【
図12】実験例3のコンデンサケースの膨張度合いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1の実施の形態〕
<封口板2の構成>
図1は、第1の実施の形態に係る封口板の外観構成例を示している。
図1に示す構成は一例であり、本発明が斯かる構成に限定されない。
【0019】
図1のAに示す封口板2は、コンデンサ素子などを収納するケースの開口部を封止する手段の一例であり、たとえば機能の異なる複数の部材を積層した積層体である。封口板2は、設置されるケースの開口形状に応じた形状に形成されており、たとえば円形の開口部に設置する場合には、その開口部と同径またはそれに近い径の円盤状に形成される。そのほか、ケースの開口部が多角形の場合には、形状や大きさに合わせて形成される。
封口板2は、たとえば積層体の平面部が同形状であるゴム層4および樹脂層6を備える。
【0020】
ゴム層4は、本開示の第1の部材の一例であり、封口板2が設置されるケース内の気体を透過させるが、液体を遮断する機能を備える。ゴム層4は、たとえばエチレンプロピレンゴムやブチルゴム、シリコンゴムなどのゴム材料が採用される。これらゴム材料は、所定の柔軟性や弾性を発揮するものであり、たとえばJIS(Japanese Industrial Standards:日本工業規格)K6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に準拠した硬度として、好ましくは50〔Hs〕以上~85〔Hs〕以下の範囲内の材料が採用される。このゴム層4の硬度は一例であり、この値の範囲よりも低い値または高いものを用いてもよい。また、硬度の値は、たとえば封口板2またはこの封口板2を用いるコンデンサの製造または使用地域で採用されるJIS以外の規格に対し、この範囲と同等な性質となる値が設定されればよい。
さらに、このゴム層4の硬度は、たとえばコンデンサが設置される周囲の環境や使用地域の違い、または硬度計測の試験方法、使用・製造地域で設定された規格などにより、採用する値の範囲を異ならせてもよい。
また、ゴム層4は、0.7~1.5〔mm〕の範囲内に設定される。0.7〔mm〕より薄いと、発生したガスの内圧によりガス調圧部が膨れやすくなり、ガス調圧部周囲の樹脂層6との積層部分が剥離しやすくなる場合がある。1.5〔mm〕より厚いと、封口板2が厚くなり、コンデンサ20の大型化につながる。
【0021】
樹脂層6は、本開示の第2の部材の一例であり、たとえば紙フェノール樹脂が用いられる。紙フェノール樹脂は、樹脂層6の基材であり、紙基材にフェノール系樹脂を含浸させた合成材料である。樹脂層6は、積層したゴム層4の形状を維持する封口板2の支持材として機能するほか、封口板2が設置されるケース内の気体および液体を遮断する。樹脂層6は、紙フェノール樹脂による単一の構成でよく、または図示しない他の材料を重ね合わせた積層の構成であってもよい。
【0022】
さらに、封口板2は、平板部の中央側に複数の外部端子8を備えており、コンデンサの陽極端子8a、陰極端子8bとして機能する。外部端子8は、たとえば図示しない「L」字形状に形成されており、外部機器の基板等と接触させるために封口板2から突出した部分と、封口板2の平面部に平行に配置される部分とを備えており、リベット10により封口板2の平面部分に固定される。リベット10は、通電可能な金属材料または表面に金属メッキが施されており、外部端子8と電気的に接続されている。この外部端子8およびリベット10は、封口板2平板部を押圧する押圧部材であり、この押圧によってゴム層4が押し潰される部分または、押し潰される可能性がある部分が本開示の押圧部の一例である。このリベット10は、たとえば
図1のBに示すように、外部端子8の一部を介して、リベット10の軸部を封口板2の平板面に貫通しており、この軸部よりも径大な押圧部が封口板2の平板面に圧着している。
そして封口板2の平板面には、外部端子8やリベット10の押圧部と重なる部分およびその周囲の所定範囲にリベット10の圧着による薄肉部Xが形成される。この薄肉部Xは、たとえば平面部に接触する外部端子8の形状と相似する形状となっている。薄肉部Xの形状は、たとえばゴム層4に対する外部端子8の接触形状が円形であれば、それに応じて円形またはそれに近い形状となる。薄肉部Xは、たとえばゴム層4を形成するゴム材料の硬度やリベット10の押圧力や押圧の深さなどの影響により形成範囲が異なる。
【0023】
そのほか封口板2には、樹脂層6側の平面部上に貫通孔12が形成されている。この貫通孔12は、一端側は外部に開放されており樹脂層6内にガスや液体が流入可能となっている。また他端側は積層されたゴム層4によって覆われている。この貫通孔12および開口端を覆うゴム層4の一部は、本開示のガス調圧部の一例であり、貫通孔12に侵入するガスや液体のうち、ガスのみがゴム層4を透過して封口板2を透過する。また封口板2は、ゴム層4が液体を遮断することで、この封口板2によって封止したケース内部のガス圧を調整する。
貫通孔12は、たとえば外部端子8やリベット10により生じるゴム層4の薄肉部Xと重ならない位置に形成される。そのほか、封口板2に外部端子8やリベット10以外の押圧部材によってゴム層4に薄肉部Xを形成する場合、その薄肉部Xに対しても重ならない位置に貫通孔12が形成される。
【0024】
<外部端子からガス調圧部の位置>
図2は、封口板の部分断面を示している。
封口板2には、たとえば
図2に示すように、外部端子8およびリベット10の貫通部分の周囲にゴム層4の薄肉部Xが広がる。薄肉部Xは、たとえば外部端子8やリベット10が接触する部分の厚さdxが最も小さくなり、その接触部から離間するのに応じて、押圧していない厚さd1となっていく。この薄肉部Xの厚さdxは、たとえば離間する距離に応じて比例的に変化する場合や、または押圧部分からの距離に応じて厚さの変化量が異なる場合も含む。
ガス調圧部として機能する貫通孔12は、薄肉部Xの範囲外に形成される。貫通孔12は、外部端子8またはリベット10の端部から所定距離L1として、1.5〔mm〕より離間した範囲内、より好ましくは、2.0〔mm〕以上離れた範囲内に形成される。つまり、薄肉部Xは、ゴム層4の材質や硬度、厚さd1の大きさ、リベット10の押圧力などのいずれかまたはこれらの2つ以上を組み合せた条件の影響を受ける。そこで、封口板2では、たとえば予め設定したゴム層4の条件に対する薄肉部Xの形成範囲を求めておき、その薄肉部Xの形成範囲よりも離間した範囲にガス調圧部を形成する。
【0025】
貫通孔12の形成処理では、たとえば封口板2の平面部にある一の外部端子8またはリベット10のみから離間させる所定距離L1を判断するのではなく、平面部にある全てまたは所定数の外部端子8またはリベット10から所定距離L1分離間しているか否かを判断する。これにより、封口板2の平板面のうち、たとえば陽極端子8aと陰極端子8bが対向する範囲は、これらの外部端子のいずれかまたは両方による薄肉部Xの範囲内となる可能性があり、貫通孔12が形成できない場合がある。
貫通孔12の開口径L2は、ガス調圧部として透過させたいガスの種類や封止するコンデンサケース内のガス発生量に基づいて設定すればよく、たとえば1.0〔mm〕に設定すればよい。
【0026】
<封口板端部からガス調圧部の位置>
図3は、封口板の端部を含む部分断面を示している。
この封口板2では、たとえば積層体の平面において、外周端から平面部の中央方向に向けて、所定距離L3離間した範囲内にガス調圧部である貫通孔12が樹脂層6に形成される。この所定距離L3には、たとえばコンデンサケースに対する加締め処理によりケースの先端部14側が折り返され、封口板に圧接する距離L4と、このケース先端側から所定距離L5が含まれる。ケース先端部14が折り返される距離L4は、たとえば1.5~4.0〔mm〕であり、またケース先端部からの距離L5は、たとえば1.5〔mm〕よりも大きい値、またより好ましくは、2.0〔mm〕以上の値が設定される。
ケース先端部14は、たとえばコンデンサケースと封口板2との接触状態を安定化させるとともに、封口板2の周面とケースとの接合部分に対する異物混入防止などのために、折り返され、所定の圧力を伴ってゴム層4を押し潰す。つまりゴム層4には、ケース先端部14により押圧部が形成されることで、その押圧部分およびその周囲の所定範囲に封口板2の薄肉部Xが形成される。つまりケースの先端部14は押圧部材の一例である。
【0027】
なお、貫通孔12の形成位置の決定では、たとえば薄肉部Xか否かを計測して管理してもよく、またはリベット10の押圧力やゴム層4を形成する材質やその硬度の情報に基づいて、予め実験室などで計測した情報を利用してもよい。
【0028】
<封口板2の製造工程>
【0029】
ここで、封口板2の製造工程の一例を説明する。
【0030】
(A)積層材の生成処理
この処理では、たとえば紙フェノール樹脂材を生成する。ここで生成される材料は、たとえばプリプレグ(Prepreg)と呼ばれる半硬化状態のものである。紙フェノール樹脂材の生成では、たとえば紙基材に架橋前のフェノール樹脂をアルコールなどに溶解したものを含浸させ、加熱や乾燥により半硬化状態にして生成する。そして形成されたプリプレグの紙フェノール樹脂材とゴム材料の平面部同士を重ね合わせて積層材を作る。そしてこの積層材を加熱圧着して一体化させる。これによりゴム層4と樹脂層6を備えた積層材が生成される。
(B)封口板の形成処理
この処理では、封口板2を所定の形状に成形する処理を行う。生成された積層材は、たとえばプレス加工によって封口板2の形状および寸法に打ち抜かれる。このとき、積層材は、たとえばプレス機の剪断刃によって切断される。
(C)ガス調圧部の形成処理
プレス加工によって成形された積層材は、たとえば外部端子8やリベット10の設置位置、および/または積層体の外周から中央方向に向けて予め設定された距離をとった範囲内に貫通孔12を複数個形成する。貫通孔12は、たとえば専用のドリルなどの工具を利用し、樹脂層6の平面部が露出した面から切削していき、ゴム層4が積層する部分までの厚さ分を削る。
(D)その他の処理
封口板2には、たとえば外部端子8をリベット10の一部を介して、積層体の中央側に貫通させる。リベット10の押圧力は、たとえば予め設定された値を利用すればよく、たとえば積層体またはゴム層4の厚さやゴム層4の硬度等に応じて設定されればよい。リベット10を利用した外部端子8の設置では、たとえば外部端子8を封口板2に密着させるため、ゴム層4が所定の厚さdxになるように押圧力を設定し、封口板2に外部端子8を設置すればよい。
【0031】
〔第1の実施の形態の効果〕
【0032】
斯かる構成によれば、以下のような効果が得られる。
【0033】
(1) 封口板に生じた薄肉部Xに重なる範囲に貫通孔を含むガス調圧部を形成しないのでゴム層の剛性が維持でき、コンデンサケースなどから貫通孔に負荷される内圧によりゴム層が異常に膨張するのを防止できる。
(2) 薄肉部Xによるゴム層の剛性低下を防止するため、ゴム層からガスを透過させるガス調圧機能を維持でき、コンデンサの寿命を伸ばすことができる。
(3) 薄肉部Xの範囲にガス調圧部を設けないことで、ゴム層と樹脂層で形成された積層体の一部の剥離や破損を防止できる。
(4) また、剛性が維持されたゴム層によって積層体の一部に剥離や損傷を生じさせず、剥離部分にコンデンサの電解液が侵入することや残留することがないので、ガス調圧部の機能低下を防止することができる。
(5) ガス調圧部から電解液の漏洩を防止でき、外部端子または外部端子が接続する基板や機器と電解液とが接触し、ショートするのを防止できる。
(6) ゴム材料の硬度や外部端子、リベットの大きさ、もしくは押圧力に対し、予め平板面上での薄肉部Xが生じる範囲を想定して、貫通孔の形成位置を設定することで、封口板の形成負荷が軽減できる。
【実施例1】
【0034】
図4は、実施例1に係るコンデンサの外観構成例を示している。
このコンデンサ20は、たとえば
図4に示すように、コンデンサ素子30(
図5)を内部に収納するケース22の開口部24が封口板2によって密閉される。封口板2は、ゴム層4がケース22の外部に露出し、樹脂層6がケース22の内側に配置される。
ケース22の開口部24側は、ケース22の端部が折り返されており、封口板2の外周面に沿って平面部を覆っている。そのほか、ケース22の側面には、ケース22内に配置される封口板2の周面に合せてケースの一部を凹ませた加締め部が形成され、ケース22内における封口板2を押圧し、または凹部内に封口板2を載置させて、封口板2の配置位置を固定している。
【0035】
封口板2には、たとえば陽極端子8aや陰極端子8bを挟んだ位置に貫通孔12が4つ形成されており、この貫通孔12を通過したガスをゴム層4を透過させてコンデンサ外に排出する。
【0036】
このケース22は、たとえば
図5に示すように有底筒状の容器であって、内部にコンデンサ素子30や図示しない電解液、その他のものを収納する収納部を備える。ケース22の底部には、たとえば図示しない所定形状の脆弱部が形成されており、ケース22内部の圧力が一定値以上と成った時にこの脆弱部が破損するように構成されている。この脆弱部は、たとえば封口板2が破損する値よりも低い圧力で破損するように設定されている。このようにコンデンサ20は、内部圧力の上昇に対して、予め意図した部分を破損させることで、コンデンサ自身やコンデンサが設置される機器に対して重大な損傷を与えるのを回避させている。
コンデンサ素子30は、電極箔やセパレータを巻回した巻回素子であり、ケース22の収納部に収納可能な大きさおよび形状に形成される。コンデンサ素子30は、たとえば図示しない電極箔である陽極箔や陰極箔が絶縁体であるセパレータを介して積層された状態で所定の方向に巻回されている。この巻回端面に対向して封口板2の平板部分を配置する。
コンデンサ素子30は、一端側の巻回面に陽極箔および陰極箔からそれぞれタブ32a、32bが突出しており、このタブ32a、32bが封口板2の陽極端子8aまたは陰極端子8bに接続される。
<コンデンサの製造工程>
コンデンサ20の製造工程として、コンデンサ素子30は、タブ32a、32bと陽極端子8a、陰極端子8bが接続すると、ケース22の収納部内に収納される。
ケース22は、収納部内にコンデンサ素子30などを入れた後、開口部24側の先端部14を封口板2側に折り返して封止状態にする。
そのほかケース22は、たとえば封口板2の下部側に近い位置または封口板2に重なる位置に対して、外部から押圧して加締め溝を形成することで、封口板2とケース22を密着状態にさせる。ケース22の先端部14は、封口板2のゴム層4を押圧するように接触させる。これによりコンデンサの内部圧力が上昇しても、封口板2がケース22から離脱するのを阻止できる。
【0037】
コンデンサ20では、長時間の使用や使用環境などにより電解液が化学反応を起こしてガスが発生し、ケースの内部圧が上昇していく。封口板2は、この内部圧の上昇に対し、発生した水素ガスHGを貫通孔12内に取込み、ゴム層4を透過させて所定量ずつケース22外部に排出していく。
また、このケース22の内圧上昇により電解液が封口板2側に接触した場合、この電解液は貫通孔12内に侵入してもゴム層4によって堰き止められ、ケース22外部に流出するのを防止している。
【0038】
なお、
図5に示すコンデンサ20は、開口部24を上方に向けて配置する場合を示したがこれに限らない。コンデンサ20を利用する機器に従って、開口部24を横方向または下方向に向けて配置される場合も含まれる。
【0039】
<実施例1の効果>
【0040】
斯かる構成によれば、第1の実施の形態に示す効果に加えて、以下のような効果が得られる。
【0041】
(1) ケース22に対し、封口板2が隙間無く配置されるとともに、封口板2のゴム層4によって電解液が堰き止められるので、ケース22外部に電解液などが噴出するのを防止できる。
【0042】
(2) ケース22の先端部14を折り返して封口板2のゴム層4に圧接させることで、封口板2の端面側周囲がケース22と強固に一体化できる。
【0043】
(3) 封口板2とケース22との一体化とともに、貫通孔12およびゴム層4によるガス圧調整部によってケース22の内圧の上昇が抑えられるので、コンデンサ20の寿命を延ばすことができる。
【0044】
〔第2の実施の形態〕
図6は、第2の実施の形態に係る封口板の構成例を示している。
図6に示す構成は一例であり、本発明が斯かる構成に限定されない。また、
図6において、
図1ないし
図3と同一部分には同一の符号を付している。
この封口板2は、第1の実施の形態や実施例1に示す構成とともに、以下のような構成を備える。
封口板2は、たとえば
図6に示すように、ガス調圧部である貫通孔12内に液体の侵入を阻止する液遮断栓40が挿入されている。この液遮断栓40は、本発明の液遮断部の一例であり、コンデンサ素子と電解液との反応により生じた反応ガスは透過し、電解液などの液体成分は浸透しないポリプロピレンやセラミックなどのプラスチックまたは樹脂材料で構成される。また液遮断栓40は、たとえば所定の形状に成形されており、貫通孔12内部に挿入されたものでもよく、または貫通孔12内に液状やゲル状の樹脂材料を充填し、貫通孔12の内部形状に合わせて成形されたものでもよい。
【0045】
液遮断栓40は、貫通孔12の内部全体に充填または挿入されればよく、または少なくともコンデンサ素子が配置されるケース22内に向いた貫通孔12の開口部を塞げばよい。これにより、貫通孔12の開口部に向けて流動してきた電解液や凝縮した水分などは、液遮断栓40によって貫通孔12の内部に侵入することができない。
液遮断栓40は、封口板2の製造時に形成されればよく、たとえば貫通孔12を形成後に樹脂材料の充填または挿入を行う。また液遮断栓40は、封口板2にリベット10を設置した後や、封口板2をケース22に設置する前段階で樹脂材料の充填または挿入を行ってもよい。
また、 コンデンサの製造処理では、上記第1の実施の形態で示した封口板2の製造工程に加え、液遮断部の設置処理として、貫通孔12内に固形の液遮断栓40を挿入するほか、液状やゲル状の樹脂材料を充填する処理を行えばよい。
【0046】
<第2の実施の形態の効果>
斯かる構成によれば、第1の実施の形態および実施例1と同様の効果が得られるとともに、以下のような効果が期待できる。
(1) 液遮断栓40により貫通孔12内に電解液などの水分を侵入させないことで、貫通孔12の内壁やゴム層4の表面に付着した水滴によるガス調圧機能の低下が防止できる。
(2) 貫通孔12の開口部に液遮断栓40を配置することで、水滴によりガス調圧部の入口部分が遮断されるのを防止できる。
(3) 封口板2が下向き、または傾斜する状態に設置されるなど、コンデンサの設置状態に関わらず、液遮断栓40によってケース22内の電解液を貫通孔12内に侵入させないことで、封口板2のガス調圧機能を維持することができる。
【実施例2】
【0047】
図7は、実施例2に係る封口板の構成例を示している。
この封口板2では、たとえば
図7のAに示すように、貫通孔12の開口部から一部を突出させる液遮断栓50を用いている。この液遮断栓50は、たとえば一端側が貫通孔12内に挿入され、他端側が貫通孔12の開口部から突出して配置されている。
液遮断栓50は、たとえば
図7のBに示すように、貫通孔12内に挿入された遮断部52と、開口部から突出した液体分離部54を備える。
【0048】
この遮断部52は、少なくとも貫通孔12の開口部側を塞いで、貫通孔12内への電解液の侵入を阻止する部分である。遮断部52とゴム層4との間には、たとえば液遮断栓50の長さや挿入量に応じた空間部が形成される。
液体分離部54は、貫通孔12の開口部、またはこの開口部に設置される遮断部52上に液体が滞留するのを防止する機能部の一例である。この液体分離部54は、遮断部52に対し、ケースの内側に延伸して形成されている。すなわち、液体分離部54は、封口板2の表面よりも突出して形成されることで、ケース内で発生した水滴を樹脂層6の表面から離間させ、滞留し難くさせる。また、液遮断栓50は、液体分離部54が樹脂層6よりも突出することで、ケース内に対する表面積を多くとることができる。これにより、ケース内で生じた水滴が樹脂層6の表面に付着しても、貫通孔12内の遮断部52側へのガスの透過経路を確保することができる。
【0049】
なお、遮断部52と液体分離部54は、貫通孔12の開口部分を境界として機能分けしたものであり、液遮断栓50の挿入量によってそれぞれの長さが決まる。また、液遮断栓50は、遮断部52と液体分離部54が一体に形成したものに限られず、別部材で構成され、貫通孔12の開口部で一体化してもよい。
【0050】
液遮断栓50の全体の長さは、たとえば貫通孔12の深さ、つまり樹脂層6の厚さに対して短く形成されてもよく、または同等の長さ、もしくは貫通孔12よりも長く形成してもよい。貫通孔12の内部では、たとえば液遮断栓50の先端部をゴム層4に接触させてもよく、または液遮断栓50とゴム層4との間に空間部を形成するように挿入量を調整すればよい。
なお、貫通孔12に対する液遮断栓50の挿入処理では、液体分離部54が貫通孔12の外部に形成されればよい。
【0051】
〔実施例2の効果〕
斯かる構成によれば、上記実施の形態と同様の効果が得られるとともに、以下のような効果が期待できる。
(1) 貫通孔12から液遮断栓50の一部を突出させることで、封口板2の表面に付着した液体が液遮断栓50の全体を覆い難くなり、貫通孔12を通じたガス調圧部の機能を確保することができる。
(2) 貫通孔12に対して液遮断栓50の一部を突出した状態にすればよく、樹脂材料の充填量や液遮断栓50の挿入量の調整および管理などが不要であり、加工処理の簡易化が図れる。
【実施例3】
【0052】
図8は、実施例3に係る封口板の構成例を示している。
この封口板2では、たとえば
図8のAに示すように、貫通孔12の開口部を覆うように、液遮断膜60が設置されている。この液遮断膜60は、本発明の液遮断部の一例であり、気液分離機能を有する樹脂材料であって、少なくとも貫通孔12の開口部と、その周縁部分の所定範囲を覆う面積で形成されている。この液遮断膜60は、たとえば樹脂層6の表面に図示しない接着剤などの固定手段により密着されている。
液遮断膜60は、たとえば
図8のBに示すように、貫通孔12の開口部を覆う遮断部62と、この遮断部62と一体に形成され、開口部の周囲を覆う液体分離部64を備える。
なお、遮断部62と液体分離部64は、貫通孔12の開口部を境界として機能分けしたものである。液遮断膜60は、遮断部62と液体分離部64が別部材で構成され、貫通孔12の開口部で一体化したものでもよい。
【0053】
液遮断膜60は、たとえば図示しないケース内側に向けられる面が平面状に形成されてもよく、またはケース内側に向けて中央部分を頂点に突出させるように傾斜状に形成してもよい。この場合、液遮断膜60は、たとえば一面側は樹脂層6の表面に対して平行に形成されるとともに、反対面側は貫通孔12の開口部中心側に向けて膜の厚さを異ならせればよい。これにより、樹脂層6との間は密着状態を維持するとともに、遮断部62上に水滴が滞留するのを防止できる。
【0054】
〔実施例3の効果〕
斯かる構成によれば、上記実施の形態と同様の効果が得られるとともに、以下のような効果が期待できる。
(1) 貫通孔12の開口部およびその周縁部分を液遮断膜60で覆うことで、封口板2の表面に付着した液体が貫通孔12を塞ぐのを防止でき、貫通孔12を通じたガス調圧部の機能を確保することができる。
(2) 貫通孔12を基準に液遮断膜60を貼付けることで、貫通孔12に対する電解液などの水分の侵入を防止でき、加工処理の簡易化が図れる。
<実験例1>
【0055】
次に、封口板のガス圧調整性能についての実験例を示す。
図9は、実験例1の結果を示す図である。
この実験では、封口板2のガス調圧部の形成位置とその調整機能との関係を測定する。具体的には、封口板2の外部端子8と貫通孔12との距離(L1)によって、ガス調圧部が正常に機能するか否かを判断している。
この実験で用いたコンデンサは、サイズがφ30×40〔L〕、定格が450〔V〕、390〔μF〕、電解紙がクラフト紙であり、電解液がエチレングリコールを主溶媒としている。そして封口板2は、外部端子8のゴム層4との接触部のうち最外周部分と貫通孔12との間の距離(L1)を、それぞれ1.0〔mm〕、1.5〔mm〕、2.0〔mm〕、3.0〔mm〕に設定したものをそれぞれ5個ずつ用意した。
また、試験条件は、周囲環境下105〔℃〕で450〔WV〕の電圧を印加し、実験開始時0〔時間〕、開始後500〔時間〕、1000〔時間〕、2000〔時間〕、5000〔時間〕後の電解液の液漏れ状況を観測した。
【0056】
全ての条件において、実験開始時は、電解液の液漏れはなく、異常なしとなっている。
(1) 外部端子と貫通孔との距離(L1)が1.0〔mm〕の場合
500〔時間〕経過時に、用意したコンデンサの5個中2個について、封口板2のゴム層4の外部端子8周辺に液漏れが確認された。
1000〔時間〕経過時に、残りのコンデンサの3個中3個について、封口板2のゴム層4の外部端子8周辺に液漏れが確認された。
(2) 外部端子と貫通孔との距離(L1)が1.5〔mm〕の場合
実験開始から1000〔時間〕経過まで電解液が漏れることはなく、異常なしとなった。しかし、2000〔時間〕経過時に、用意したコンデンサの5個中1個について、封口板2のゴム層4の外部端子8周辺に液漏れが確認された。また5000〔時間〕経過時に残りのコンデンサの4個中2個について、封口板2のゴム層4の外部端子8周辺に液漏れが確認された。
(3) 外部端子と貫通孔との距離(L1)が2.0〔mm〕の場合
実験開始から5000〔時間〕経過しても、コンデンサに電解液が漏れることはなく、異常なしとなった。
(4) 外部端子と貫通孔との距離(L1)が3.0〔mm〕の場合
実験開始から5000〔時間〕経過しても、コンデンサに電解液が漏れることはなく、異常なしとなった。
【0057】
この実験例1の結果から、外部端子の設置位置から1.5〔mm〕のまでの範囲には、リベット10の押圧によって生じた薄肉部Xがあり、この薄肉部X部分に貫通孔12があると、コンデンサへの印加開始から2000〔時間〕が経過するまでに電解液が封口板2のゴム層4の外部端子8周辺から漏れ出る。これは、ケース22内で発生したガスは、貫通孔12を塞ぐゴム層4を封口板2の外側に向かって膨らむように押圧するが、貫通孔12が薄肉部X部分にあると、貫通孔12を覆う部分のゴム層4の厚さも薄くなるため、膨らみやすくなる。そうすると、貫通孔12を覆う部分のゴム層4は樹脂層6から離れる方向に膨らむため、ゴム層4の伸びが許容量を超えると、貫通孔12の周辺からゴム層4が樹脂層6と剥離する。剥離が外部端子8まで到達すると、電解液の液出経路が形成される。つまり、電解液が貫通孔12から剥離したゴム層4と樹脂層6の間および外部端子8と封口板2との境界面を通って、外部に漏れ出すことにより、液漏れが生じる。
従って、本願発明のように、封口板2は、外部端子の設置位置から2.0〔mm〕以上離間させた範囲にガス調圧部を形成することで、貫通孔12を覆うゴム層4の厚さは薄くならないため、ケース内部に生じる水素ガスの内圧によってもゴム層4が外側に向かって膨らまず、ゴム層4と樹脂層6との剥離を抑制し、液漏れを生じさせずにコンデンサを5000〔時間〕以上利用可能にすることができる。
<実験例2>
【0058】
次に、封口板のガス圧調整性能についての実験例を示す。
図10は、実験例2の結果を示す図である。
この実験では、封口板2のガス調圧部の形成位置とその調整機能との関係を測定する。具体的には、封口板の平面部とケース先端部を折り返して接触した部分と、貫通孔12との距離(L5)によって、ガス調圧部が正常に機能するか否かを判断する。
この実験例2で用いたコンデンサの定格やサイズ、試験条件は、実験例1と同様である。
また、封口板2に形成した貫通孔の位置は、加締め後のゴム層のケース先端部との距離(L5)を、それぞれ1.0〔mm〕、1.5〔mm〕、2.0〔mm〕、3.0〔mm〕に設定したものをそれぞれ5個ずつ用意した。
【0059】
この実験の結果を
図10に示す。
全ての条件において、実験開始時は、電解液の液漏れはなく、異常なしとなっている。
(1) ケース先端部と貫通孔との距離(L5)が1.0〔mm〕の場合
500〔時間〕経過時に、用意したコンデンサの5個中2個について、封口板2のゴム層4の貫通孔12を覆う部分に液漏れが確認された。
1000〔時間〕経過時に、残りのコンデンサの3個中3個について、封口板2のゴム層4の貫通孔12を覆う部分に液漏れが確認された。
貫通孔が電解液で満たされたため、これ以降の計測結果はない。
(2) ケース先端部と貫通孔との距離(L5)が1.5〔mm〕の場合
実験開始から500〔時間〕経過まで電解液が漏れることはなく、異常なしとなった。しかし、1000〔時間〕経過時に、用意したコンデンサの5個中1個について、封口板2のゴム層4の貫通孔12を覆う部分に液漏れが確認された。また2000〔時間〕経過時に残った全てのコンデンサについて、封口板2のゴム層4の貫通孔12を覆う部分に液漏れが確認された。
(3) ケース先端部と貫通孔との距離(L5)が2.0〔mm〕の場合
実験開始から5000〔時間〕経過しても、コンデンサに電解液が漏れることはなく、異常なしとなった。
(4) ケース先端部と貫通孔との距離(L5)が3.0〔mm〕の場合
実験開始から5000〔時間〕経過しても、コンデンサに電解液が漏れることはなく、異常なしとなった。
【0060】
この実験例2の結果から、ケース先端部から1.5〔mm〕のまでの範囲には、ケース先端部による加締めによって生じた薄肉部Xがあり、この薄肉部Xに貫通孔12があると、コンデンサへの印加開始から2000〔時間〕が経過するまでに電解液が封口板2のゴム層4の貫通孔12を覆う部分から漏れ出る。これは、ケース22内で発生したガスは、貫通孔12を塞ぐゴム層4を封口板2の外側に向かって膨らむように押圧するが、貫通孔12が薄肉部X部分にあると、貫通孔12を覆う部分のゴム層4の厚さも薄くなるため、膨らみやすくなる。そうすると、貫通孔12を覆う部分のゴム層4は樹脂層6から離れる方向に膨らむため、ゴム層4の伸びが許容量を超えると、ゴム層4の貫通孔12を覆う部分は、ひび割れが生じ、電解液が外部に漏れ出すことにより、液漏れが生じる。また、前述同様、ゴム層4の伸びが許容量を超えると、貫通孔12の周辺からゴム層4が樹脂層6と剥離し、剥離が外部端子8や封口板2の外周まで到達すると、電解液の液出経路が形成されることがある。
また、実験例1の結果と比較すると、封口板のゴム層を押圧する押圧部材が外部端子またはケース先端部かの違いに依らず、貫通孔までの距離や経過時間に対する液漏れの結果が同一またはそれに近いものとなった。すなわち、封口板のガス調圧部は、薄肉部Xが形成される距離に依存する。
従って、本願発明のように、封口板は、外部端子のゴム層との接触部およびケースの先端部の接触位置から2.0〔mm〕以上離間させた範囲にガス調圧部を形成することで、ケース内部に生じる水素ガスの排出機能が維持でき、コンデンサを5000〔時間〕以上利用可能にすることができる。
<実験例3>
【0061】
次に、ガス調圧機能の状態についての実験例を示す。
図11は実験例3の計測結果を示しており、
図12はコンデンサケースの膨張度合いを示している。
この実験では、ガス調圧機能とコンデンサケース内の膨張状態との関係を測定する。具体的には、コンデンサケースの膨張状態から封口板2のガス調圧機能の効果の判断と、液遮断部によるガス調圧機能の維持について判断する。
【0062】
この実験例3では、サイズがφ30×40〔L〕、定格が450〔V〕、390〔μF〕、電解紙がクラフト紙であり、電解液がエチレングリコールを主溶媒としたコンデンサを用いている。そして封口板2は、貫通孔12と外部端子8との距離(L1)が約8.2〔mm〕であり、貫通孔12とケース先端部間距離(L5)を約4.2〔mm〕としている。さらに、この封口板2は、実験側の構成として、樹脂層6に中空の貫通孔12を備えたもの(第1の実施の形態)、貫通孔12の内部に液遮断部40としてシリコン樹脂を封入したもの(第2の実施の形態)、貫通孔12の開口部およびその周縁部分をPP(ポリプロピレン)テープで覆ったもの(実施例3)を準備している。
また、封口板2は、実験比較例として、貫通孔12を備えないもの(比較例1)や、貫通孔12の内部に電解液が侵入したもの(比較例2)を準備した。
各条件において、コンデンサは5個ずつ用いている。
そして、試験条件は、周囲環境下105〔℃〕で450〔WV〕の電圧を印加し、実験開始時0〔時間〕、開始後250〔時間〕、500〔時間〕経過後のケースの膨張量を計測し、5個の平均値を算出する。
【0063】
この実験の結果を
図11に示す。
(1) 貫通孔12にシリコン樹脂を封入した第2の実施の形態に示す構成では、250〔時間〕経過後のケース膨張量が0.53〔mm〕であり、500〔時間〕経過後のケース膨張量が0.58〔mm〕となった。
(2) 貫通孔12の開口部をPPテープで覆った実施例3に示す構成では、250〔時間〕経過後のケース膨張量が0.6〔mm〕であり、500〔時間〕経過後のケース膨張量が0.6〔mm〕となった。
(3) 貫通孔12の開口部が開放された第1の実施の形態に示す構成では、250〔時間〕経過後のケース膨張量が0.52〔mm〕であり、500〔時間〕経過後のケース膨張量が0.52〔mm〕となった。
(4) 貫通孔を備えない封口板を利用した比較例1では、250〔時間〕経過後のケース膨張量が0.67〔mm〕であり、500〔時間〕経過後のケース膨張量が0.74〔mm〕となった。
(5) 貫通孔12の内部に電解液が侵入した状態の比較例2では、250〔時間〕経過後のケース膨張量が0.65〔mm〕であり、500〔時間〕経過後のケース膨張量が0.7〔mm〕となった。
【0064】
時間経過に応じたケースの変化状態を
図12に示す。
斯かる計測結果は、たとえば
図12に示すように、貫通孔12を備えた構成のうち、実施例3(計測結果(2))と第1の実施の形態(計測結果(3))では、コンデンサに電圧を印加して実験開始から250時間経過後について、時間経過に関わらず、ケースの膨張量は同じ大きさに維持されている。すなわち、貫通孔12を含むガス調圧機能によりケース内で発生したガスが排出されることで、ケースの膨張が抑えられている。
【0065】
第2の実施の形態(計測結果(1))では、250〔時間〕から500〔時間〕の間にケースの膨張が進んでいるが、ガス調圧機能を備えない比較例1、2(計測結果(4)、(5))に比べてケースの膨張量は小さい値となっている。この結果から、膨らみ量が大きいほどガスが透過せず、内圧が上昇し、ケースの底部が膨らむことが示されている。
【0066】
第1の実施の形態(計測結果(3))と比較例1(計測結果(4))とを対比すると、貫通孔12およびゴム層4を含むガス調圧機能によって、ケース内部のガスの放出ができ、ケースを膨張させないことが示されている。
また、ガス調圧部を備える第2の実施の形態(計測結果(1))および実施例3(計測結果(2))と、比較例2(計測結果(5))とを対比すると、貫通孔12内に電解液が侵入することでガス調圧機能が低下または機能しないことが明らかとなった。
【0067】
斯かる実験例3から、封口板2にガス調圧部を備えることで、コンデンサの動作によって発生するガスによりケースの膨張が抑えられることが明らかとなった。また、ガス調圧機能を構成する貫通孔12に対し、電解液などの水分が侵入することで、ガス調圧機能の低下が生じるおそれが確認できた。
従って、本願発明のように、コンデンサの使用条件や設置環境、設置状態により、封口板2に対して電解液が侵入するおそれがある場合には、ガス調圧部に対して液遮断部を備えることが望ましい。
【0068】
〔他の実施の形態〕
【0069】
以上説明した実施形態について、その特徴事項や変形例を以下に列挙する。
【0070】
(1) 上記実施の形態では、ガス調圧部である貫通孔12の開口形状が円形の場合を示したがこれに限らない。貫通孔12は、円形以外の多角形状に形成されてもよい。
(2) 封口板2に形成された複数の貫通孔12について、全て同じ径で形成される場合に限らない。貫通孔12は、たとえば配置される位置や数に応じて開口径を異ならせてもよい。
(3) 貫通孔12は、たとえばゴム層4を形成するゴム材料の硬度に応じて、開口数や開口位置、開口径を設定してもよい。
(4) 上記実施の形態では、封口板2の製造処理において、樹脂層6のみを削ることで貫通孔12を形成する場合を示したがこれに限らない。貫通孔12の形成処理では、ゴム層4の表面側の一部まで削ってもよい。これにより貫通孔12内にガスを透過しない樹脂層6を残留させないことで、ガス調圧部の機能を発揮することができる。
【0071】
以上説明したように、本発明の最も好ましい実施の形態等について説明した。本発明は、上記記載に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載され、または発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能である。斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のコンデンサおよびその製造方法によれば、封口板の平面部に形成された薄肉部を回避してガス調圧部を形成することで、封口板によるガス透過機能を維持するこができ、コンデンサの寿命を維持させるなど、有用である。
【符号の説明】
【0073】
2 封口板
4 ゴム層
6 樹脂層
8 外部端子
8a 陽極端子
8b 陰極端子
10 リベット
12 貫通孔
14 ケース先端部
20 コンデンサ
22 ケース
24 開口部
30 コンデンサ素子
32a、32b タブ
40、50 液遮断栓
52、62 遮断部
54、64 液体分離部
60 液遮断膜