(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/62 20220101AFI20221220BHJP
C08G 63/06 20060101ALI20221220BHJP
C08G 63/78 20060101ALI20221220BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C12P7/62
C08G63/06 ZBP
C08G63/78
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2019539535
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031776
(87)【国際公開番号】W WO2019044837
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2017164469
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)、「高伸張性不織布、高靭性骨ペースト、骨ステントを組み合わせた脆弱性骨折に対する新規治療技術開発と実用的な製品製造技術の確立」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】前原 晃
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/065253(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0342430(US,A1)
【文献】特表2015-523322(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0135480(US,A1)
【文献】特開平05-049487(JP,A)
【文献】特開2017-099385(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102371(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/033652(WO,A1)
【文献】特開平03-224492(JP,A)
【文献】培地の成分知っていますか?,駒 大輔 ほか,生物工学,2011年,第89巻、第4号,第195-199頁
【文献】AZIZI, N. et al.,Acid pretreatment and enzymatic saccharification of brown seaweed for polyhydroxybutyrate (PHB) prod,International Journal of Biological Macromolecules,2017年04月03日,Vol. 101,pp. 1029-1040
【文献】PASSANHA, P. et al.,The use of NaCl addition for the improvement of polyhydroxyalkanoate production by Cupriavidus necat,Bioresource Technology,2014年,Vol. 163,pp. 287-294
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C12N
C08G
C08L
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルの生産能を有する微生物を、炭素源及び窒素源を含む培養液中において培養することを含む、ポリエステルの製造方法であって、
製造されるポリエステルが、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が100万以上であり、
ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量(Mn)に対するポリエステルのポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn)が1.0~4.0であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルであり、
前記培養液のpHが4以上7.5以下であり、
培養が下記の条件(a)及び(b)を満たす、上記方法。
(a)培養液の浸透圧が培養期間中200mOsmol以上
500mOsm以下に維持されている:
(b)培養液の
NH
4
濃度が培養期間中
1.20g/L以上4.0g/L以下に維持されている:
【請求項2】
前記微生物が、Cupriavidus属、Alcaligenes属、Ralstonia属、Delftia属、Comamonas属、Hydrogenophaga属、 Burkholderia属、Escherichia属、Azotobacter属、Methylobacterium属、Paracoccos属、Pseudomonas属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Allochromatium属、Azorhizobium属、Bacillus属、Caulobacter属、Chromobacterium属、Ectothiorhodospira属、Klebsiella属、Nocardia属、Rhodobacter属、Rhodococcus属、Rhodospirillum属、Rickettsia属、Sinorhizobium属、Sphingomonas属、Synechocystis属、Thiococcus属、Thiocystis属、Vibrio属、及びWautersia属からなる群から選択される微生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微生物が、Cupriavidus necatorである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
培養温度が、15℃~45℃である、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
培養が、流加培養又は連続培養である、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素源が、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン若しくはそれらのけん化物、又はそれらの塩の少なくとも一種を含む、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルの生産能を有する微生物を、炭素源及び窒素源を含む培養液中において培養することを含む、ポリエステルの製造方法であって、
製造されるポリエステルが、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が100万以上であり、
ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量(Mn)に対するポリエステルのポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn)が1.0~4.0であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルであり、
前記培養液のpHが4以上7.5以下であり、
培養が、回分培養であり、
培養が下記の条件(a)及び(b)を満たす、上記方法。
(a)培養開始時における培養液の浸透圧が200mOsmol以上
700mOsm以下である:
(b)培養開始時における培養液の
NH
4
濃度が
0.55g/L以上4.78g/L以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの微生物はその生体内にエネルギー源・炭素源貯蔵物質としてポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を蓄積する。炭素源が十分にあり、窒素、リン、硫黄、酸素、マグネシウム等の栄養素が制限されるとPHAの蓄積が起きることがよく知られている。PHAは熱可塑性のポリエステルであり、生分解性・生体適合性のプラスチックとして注目され、多くの研究がなされてきた(非特許文献1)。PHAを構成するモノマーユニットは100種類以上知られており、もっとも代表的なものは(R)-3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと略す)からなるポリ-3-ヒドロキシブチレート(以下、P(3HB)と略す)である(非特許文献1)。非特許文献1においては、培養の後半においてはPHAの分子量が低下することが一般的であることが示されている。
【0003】
P(3HB)の製造研究に関する総説である非特許文献2においても、リンを制限した培養中において、P(3HB)の蓄積時に分子量が低下していくことが記載されている。
【0004】
分子量を増大させる方法としては、PHA合成系・分解系を持たない大腸菌 Escherichia coli XL1-BlueへP(3HB)合成細菌Cupriavidus necatorから取り出したP(3HB)生合成遺伝子(phaCAB)を導入し、その遺伝子組換え菌をpH6で培養し超高分子量P(3HB)を製造する方法がある(非特許文献3)。
【0005】
P(3HB)を生産する野生株のP(3HB)の重量平均分子量Mwは一般的には50万~150万程度とも20万~200万程度、さらには1万~300万程度ともいわれ、野生型の微生物では菌体内に多数の分解酵素を有するためMw300万以上になる超高分子量体P(3HB)の合成が難しいとされる。また、P(3HB)は微生物がエネルギー源・炭素源貯蔵物質として蓄積しているため、炭素源が枯渇した場合に分解して使用することは多くの微生物で調べられている。しかし、PHAの合成と分解が同時に起きていることを示す例も示されている。PHAの合成と分解が同時に起きていることの生理学的意義はまだ解明されていない。またPHA生産野生株ではPHAの合成と分解がこのように同時に起こってしまうため、超高分子量体PHA合成が難しい要因の一つである。
【0006】
P(3HB-co-4HB)の製造研究も多数行われており、P(3HB)生産野生株であるCupriavidus necatorに4-ヒドロキシブチレート(4HB)、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどの炭素源を与えて培養することでP(3HB-co-4HB)が生産される。
【0007】
P(3HB)生産野生株ではなく、大腸菌を遺伝子組換えしてP(3HB-co-4HB)やP(4HB)を生産する方法も報告されている。当初はアセチルCoAからP(3HB)を生産するのに必要なCupriavidus necator由来のβ-ケトチオラーゼ(PhaA)、アセトアセチルCoAレダクターゼ(PhaB)、PHA重合酵素(PhaC)の各遺伝子phaA,phaB,phaCに加えて、Clostridium kluyveri由来のコハク酸分解経路の遺伝子(sucD、4hbD、orfZ)を導入することで、コハク酸から4HB-CoAを供給し、大腸菌にてグルコースを炭素源として分子量Mwが約180万のP(3HB-co-4HB)が生産されたが、PHA中の4HB比率は1.3~1.5%と低いものであった(非特許文献4)。
【0008】
また、P(3HB-co-4HB)の生産にε-カプロラクトンまたはそのけん化物である6-ヒドロキシヘキサノエート(またはその塩)を利用した報告もある。ε-カプロラクトンを炭素源としてCupriavidus necatorを培養した場合、PHA含量26から38%、4HB比率30%から36%のP(3HB-co-4HB)を蓄積したという報告があるが(非特許文献5)、分子量の記載はない。
【0009】
また、Cupriavidus necatorのPHA分解酵素欠損株にAeromonas属のPHA重合酵素遺伝子を導入する遺伝子組み換え菌では、フラスコ培養において重量平均分子量Mw300万以上の超高分子量体P(3HB-co-3HH)が生産できるが、ジャーファーメンター培養ではMw200万程度にとどまることが示されている(特許文献1)。
さらに、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのポリ乳酸の良溶媒を添加した培地において遺伝子組み換え細菌を培養することによって、乳酸と3HBの共重合体の分子量が向上したことが知られている(特許文献2)。
【0010】
さらに、特許文献3には、PHAを生産可能なCupriavidus属微生物の細胞中のPHA合成酵素の比活性を0.1U/mg-protein以下に制御することにより、分子量のPHAを合成する微生物及び高分子のPHAの製造方法が記載されている。特許文献3の微生物及び方法を用いることにより重量平均分子量400万以上のPHAを工業的に効率よく生産することができることが記載されている。特許文献4には、特定の微生物を、δ-バレロラクトンおよび/またはε-カプロラクトンを使用して培養すること、またはグリコール酸を使用して培養することにより、遊離のヒドロキシ基を有するPHAを生産することが記載されている。特許文献3及び4においては、培養中において培養液の浸透圧および窒素原子濃度を制御することについては記載がない。また特許文献5には、50~99モル%のβ-ヒドロキシブチレート繰返し単位と1~50モル%のβ-ヒドロキシバレレート繰返し単位とを含み、50,000以上の重量平均分子量を有するβ-ヒドロキシブチレート共重合体が記載されている。特許文献5においては、培養中において培養液の浸透圧を制御することについては記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公報WO2014/065253号
【文献】特開2017-29082号公報
【文献】国際公報WO2012/102371号
【文献】国際公報WO2017/033652号
【文献】特開平5-15383号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Alistair J. Anderson et al.,Microbiological Reviews,Vol.54,No.4,450-472,1990
【文献】Editors:M.Fontanille,A.Guyot,Recent Advances in Mechanistic and Synthetic Aspects of Polymerization.Book.NATO ASI Series,Vol.215,293-314,1987
【文献】S.Kusaka et al.,Applied Microbiology and Biotechnology,Vol.47,140-143,1997
【文献】Henry E.Valentin et al.,Journal of Biotechnology Vol.58,33-38,1997
【文献】Sung Chul Yoon et al.,Korean Journal of Applied Microbiology and Biotechnology,Vol.28,No.2,71-79,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
PHAの共重合体化と高分子量化はPHAの物性を改善することが期待される。P(3HB)は硬くてもろい物性であるが、3-ヒドロキシバレレート(3HV)ユニットを共重合体化しても共結晶化してしまうために、あまり物性の改善は見込めない。しかし、4HBユニットや3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)ユニットなど、3HBユニットとは共結晶化しない第二成分ユニットからなる共重合PHAはその第二ユニット成分の比率を変化させることで大幅な物性の改善が見込める。特に、側鎖を持つ3HBユニットや他の3-ヒドロキシアルカン酸からなるPHAがリパーゼ分解性を示さないのに対して、3HBと比較して側鎖を持たない4HBユニットを共重合体化させたP(3HB-co-4HB)は、PHA分解酵素だけでなくリパーゼによる酵素分解も受けることが知られており、生体内での分解性の向上が見込まれ、医療材料として期待されている。しかし、従来からよく用いられてきた4HBユニット前駆体である1,4-ブタンジオールやγ-ブチロラクトンや4HBを使用したPHA生産野生株を使用した製造法では、重量平均分子量Mw171万を超えるP(3HB-co-4HB)共重合体を得る方法は知られていない。
【0014】
PHA生産野生株は必要に応じて蓄積したPHAを分解利用し細胞内にPHA分解酵素を持っているため、超高分子量PHAを合成することは難しいとされ、また培養期間を通してPHAの分子量が次第に減少していくことは一般的な現象だと理解されている。
【0015】
PHAを医療材料として用いる場合にはエンドトキシン除去を始めとする高度な精製技術が用いられるが、一般的に精製を高度に行うほどPHAは分解し分子量は低下していく傾向がある。また加熱溶融など熱処理を加えることでも分子量低下は進行するため、精製後や製品化後PHAの分子量が高分子量体の必要が有る場合には、精製前の培養段階において十分に高分子量体であることが求められる。医療材料でなく一般工業品向けであっても、ある程度の精製工程は必ず必要であり、精製後PHAの物性向上にはより高分子量体であることが求められている。よって培養段階で従来よりも高分子量体PHAが得られる方法が求められてきた。
【0016】
本発明は、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含み、高分子量であり、かつ分子量分布が狭い(即ち、Mw/Mnが小さい)ポリエステルの製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステルの生産能を有する微生物を培養することによってポリエステルを製造する際に、培養液の浸透圧を200mOsmol以上900mOsm以下に維持し、培養液の窒素原子濃度を0.30g/L以上に維持することによって、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含み、重量平均分子量が100万以上であり、かつ分子量分布が狭いポリエステルを製造できることを見出した。本発明は、上記の知見に基づいて完成したものである。
【0018】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1) 重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルの生産能を有する微生物を、炭素源及び窒素源を含む培養液中において培養することを含む、ポリエステルの製造方法であって、
製造されるポリエステルが、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が100万以上であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルであり、
前記培養液のpHが4以上7.5以下であり、
培養が下記の条件(a)及び(b)を満たす、上記方法。
(a)培養液の浸透圧が培養期間中200mOsmol以上900mOsm以下に維持されている:
(b)培養液の窒素原子濃度が培養期間中0.30g/L以上に維持されている:
【0019】
(2) 前記微生物が、Cupriavidus属、Alcaligenes属、Ralstonia属、Delftia属、Comamonas属、Hydrogenophaga属、 Burkholderia属、Escherichia属、Azotobacter属、Methylobacterium属、Paracoccos属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Allochromatium属、Azorhizobium属、Bacillus属、Caulobacter属、Chromobacterium属、Ectothiorhodospira属、Klebsiella属、Nocardia属、Rhodobacter属、Rhodococcus属、Rhodospirillum属、Rickettsia属、Sinorhizobium属、Sphingomonas属、Synechocystis属、Thiococcus属、Thiocystis属、Vibrio属、及びWautersia属からなる群から選択される微生物である、(1)に記載の方法。
(3) 前記微生物が、Cupriavidus necatorである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 培養温度が、15℃~45℃である、(1)から(3)の何れか一に記載の方法。
(5) 培養が、流加培養又は連続培養である、(1)から(4)の何れか一に記載の方法。
(6) 前記炭素源が、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン若しくはそれらのけん化物、又はそれらの塩の少なくとも一種を含む、(1)から(5)の何れか一に記載の方法。
(7) 重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルの生産能を有する微生物を、炭素源及び窒素源を含む培養液中において培養することを含む、ポリエステルの製造方法であって、
製造されるポリエステルが、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が100万以上であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルであり、
前記培養液のpHが4以上7.5以下であり、
培養が、回分培養であり、
培養が下記の条件(a)及び(b)を満たす、上記方法。
(a)培養開始時における培養液の浸透圧が200mOsmol以上900mOsm以下である:
(b)培養開始時における培養液の窒素原子濃度が0.30g/L以上である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含み、分子量が100万以上であり、かつ分子量分布が狭い(即ち、Mw/Mnが小さい)ポリエステルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施例1で製造したPHAの分子量分布を示す。
【
図2】
図2は、比較例7で製造したPHAの分子量分布を示す。
【
図3】
図3は、実施例4で製造したPHAの分子量分布を示す。
【
図4】
図4は、実施例2で製造したPHAの
1H-NMRを示す。
【
図5】
図5は、実施例2で製造したPHAの
13C-NMRを示す。
【
図6】
図6は、実施例6で製造したP(3HB)の
1H-NMRを示す。
【
図8】
図8は、比較例17で得られた培養3日目の培養液から抽出精製したPEG化P(3HB)の
1H-NMRを示す。
【
図10】
図10は、比較例17の5日目の培養液から抽出精製したPEG化P(3HB)の
1H-NMR拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[ポリエステルの製造方法]
本発明において製造されるポリエステルは、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が100万以上であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルである。
【0023】
本発明の特徴の一つは、上記の通り、製造されるポリエステルのポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量(Mw)が100万以上であるという高分子量であることにある。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は好ましくは125万以上であり、より好ましくは138万以上であり、よりさらに好ましくは180万以上であり、特に好ましくは190万以上である。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は、200万以上、210万以上、220万以上、230万以上、240万以上、250万以上、260万以上、270万以上、280万以上、290万以上、300万以上、310万以上、320万以上、330万以上、340万以上、350万以上、360万以上、370万以上、380万以上、390万以上、または400万以上でもよい。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量の上限は特に限定されないが、一般的には、2000万以下であり、1000万以下、800万以下、700万以下、600万以下、または500万以下でもよい。
【0024】
ポリエステルは、好ましくは、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量(Mn)が30万以上である。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量は、35万以上、40万以上、45万以上、50万以上、55万以上、60万以上、65万以上、70万以上、75万以上、80万以上、85万以上、90万以上、95万以上、100万以上、110万以上、120万以上、または130万以上でもよい。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による数平均分子量の上限は特に限定されないが、一般的には、1000万以下であり、500万以下、400万以下、300万以下、または200万以下でもよい。
【0025】
Mnに対するMwの比率(Mw/Mn)は特に限定されないが、例えば1.0~10.0、1.0~6.0、1.0~4.0であり、更に小さい方が好ましく、好ましくは1.0~3.3であり、より好ましくは1.0~3.0であり、さらに好ましくは1.0~2.9であり、1.0~2.5でもよい。
本発明においては、PHA分解酵素を有するPHA生産野生株であっても、培養後半において顕著な分子量低下を引き起こさずに高分子量体かつ分子量分布の狭いPHAを製造することができる。
【0026】
ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量の測定は、後記する実施例に記載した方法と同様に行うことができる。
【0027】
本発明において製造されるポリエステルは、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含む。即ち、ポリエステルは、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位のみを含むものでもよいし、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位と、その他の重合単位とを含むものでもよい。3-ヒドロキシブチレート単位以外のその他の重合単位としては、例えば、4-ヒドロキシブチレート単位を挙げることができ、さらにラクテート(LA)、グリコレート(GA)、3-ヒドロキシプロピオネート(3HP)、3-ヒドロキシバレレート(3HV)、5-ヒドロキシバレレート(5HV)、5-ヒドロキシヘキサノエート(5HH)、6-ヒドロキシヘキサノエート(6HH)、又は3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)、あるいは炭素数7以上のヒドロキシアルカノエート等に由来する重合単位でもよい。
【0028】
3-ヒドロキシブチレート単位以外と4-ヒドロキシブチレート単位とを含むポリエステルとしては、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位のみを含むポリエステルでもよいし(即ち、重合単位は、3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位のみからなる)、あるいは、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位を含み、さらに上記以外の別の重合単位を含んでいてもよい。上記した別の重合単位としては、ラクテート(LA)、グリコレート(GA)、3-ヒドロキシプロピオネート(3HP)、3-ヒドロキシバレレート(3HV)、5-ヒドロキシバレレート(5HV)、5-ヒドロキシヘキサノエート(5HH)、6-ヒドロキシヘキサノエート(6HH)、又は3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)、あるいは炭素数7以上のヒドロキシアルカノエート等を挙げることができる。
【0029】
本発明において、3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位はそれぞれ次式で表される。
3-ヒドロキシブチレート単位:-OCH(CH3)CH2C(=O)-
4-ヒドロキシブチレート単位:-OCH2CH2CH2C(=O)-
【0030】
ポリエステルが、3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位とを含むポリエステルである場合、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は特に限定されないが、好ましくは3モル%~40モル%であり、より好ましくは10モル%~40モル%であり、さらに好ましくは14モル%~40モル%である。全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、15モル%以上、16モル%以上、17モル%以上、18モル%以上、19モル%以上、または20モル%以上でもよい。20.2モル%以上、20.6モル%上、21モル%以上、22モル%以上、23モル%以上、24モル%以上、25モル%以上、26モル%以上、27モル%以上、又は28モル%以上でもよい。全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、35モル%以下、34モル%以下、33モル%以下、32モル%以下、31モル%以下、30モル%以下、29モル%以下、28モル%以下、27モル%以下、27モル%以下、26モル%以下、または25モル%以下でもよい。
【0031】
全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、後記する実施例に記載した方法に準じて測定することができる。
【0032】
ポリエステルは、ランダムポリマー、ブロックポリマー、交互ポリマー、またはグラフトポリマーの何れでもよいが、好ましくはランダムポリマーである。
【0033】
P(3HB)生産能を有する微生物としては、Cupriavidus属、Alcaligenes属、Ralstonia属、Delftia属、Comamonas属、Hydrogenophaga属、 Burkholderia属、Escherichia属、Azotobacter属、Methylobacterium属、Paracoccos属、Pseudomonas属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Allochromatium属、Azorhizobium属、Bacillus属、Caulobacter属、Chromobacterium属、Ectothiorhodospira属、Klebsiella属、Nocardia属、Rhodobacter属、Rhodococcus属、Rhodospirillum属、Rickettsia属、Sinorhizobium属、Sphingomonas属、Synechocystis属、Thiococcus属、Thiocystis属、Vibrio属、Wautersia属に属する微生物を使用することができる。上記の中でも、Cupriavidus属は好ましく、Cupriavidus necatorがより好ましい。一例としては、Cupriavidus necator H16株(ATCC17699)を使用することができる。
【0034】
なお、Cupriavidus necator H16株野生株では3HB、3HV、4HB、5HVなどは十分PHAに取り込み可能であるが、基質特異性の異なるPHA重合酵素遺伝子を導入した遺伝子組換え菌を用いれば他のヒドロキシ酸もPHAに重合可能である。従って、Cupriavidus necator H16株野生株だけではなく、上記した通り、他のCupriavidus属、Alcaligenes属、Ralstonia属、Delftia属、Comamonas属、Hydrogenophaga属、 Burkholderia属、Escherichia属、Azotobacter属、Methylobacterium属、Paracoccos属、Pseudomonas属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Allochromatium属、Azorhizobium属、Bacillus属、Caulobacter属、Chromobacterium属、Ectothiorhodospira属、Klebsiella属、Nocardia属、Rhodobacter属、Rhodococcus属、Rhodospirillum属、Rickettsia属、Sinorhizobium属、Sphingomonas属、Synechocystis属、Thiococcus属、Thiocystis属、Vibrio属、Wautersia属などPHAを重合する能力を有する遺伝子組換え微生物を使用することも可能である。
【0035】
本発明においては、P(3HB)の生産能を有する微生物を、炭素源及び窒素源を含む培養液中において培養する。
培養液のpHは4以上7.5以下である。pHは7.0未満、6.5以下、6.4以下、6.3以下、6.1以下でもよく、4.5以上、5.0以上、5.1以上、5.2以上、5.3以上、5.4以上、5.5以上でもよい。
【0036】
培養温度は、一般的には15℃~45℃であり、好ましくは20℃~40℃であり、より好ましくは25℃~38℃である。
培養方式は、回分培養、流加培養または連続培養のいずれでもよい。
【0037】
本発明においては、培養条件は、下記の条件(a)及び(b)を満たす。
(a)培養液の浸透圧が培養期間中200mOsmol以上900mOsm以下に維持されている:
(b)培養液の窒素原子濃度が培養期間中0.30g/L以上に維持されている:
条件(a)及び(b)を満たす培養条件を採用することにより、高分子量であり、かつ分子量分布が狭い(即ち、Mw/Mnが小さい)ポリエステルを製造できることが判明した。
【0038】
「(a)培養液の浸透圧が培養期間中200mOsmol以上900mOsm以下に維持されている」という記載、並びに「(b)培養液の窒素原子濃度が培養期間中0.30g/L以上に維持されている」という記載における「維持されている」とは、培養期間中の大部分(例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の期間において、培養液の浸透圧及び培養液の窒素原子濃度が上記した条件を満たしていればよく、必ずしも全ての培養期間(即ち、培養期間の100%の時間)に渡って常に培養液の浸透圧及び培養液の窒素原子濃度が上記した条件を満たしていることを必要とするわけではない。例えば、培養期間のうちの短時間(例えば、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、1時間以内、30分以内、20分以内、10分以内、または5分以内など)であれば、培養液の浸透圧、及び/又は培養液の窒素原子濃度は、上記した条件の範囲外になる状況が存在していてもよいものとする。また、培養液の浸透圧、及び/又は培養液の窒素原子濃度は、上記した条件の範囲外になる状況は、本発明の効果を損なわない限り、1回の培養工程の間に、複数回存在していてもよい。
【0039】
培養期間中の培養液の浸透圧は、好ましくは200mOsmol以上900mOsm以下であり、より好ましくは200mOsmol以上800mOsm以下であり、さらに好ましくは200mOsmol以上700mOsm以下であり、さらに一層好ましくは200mOsmol以上600mOsm以下であり、特に好ましくは200mOsmol以上500mOsm以下である。浸透圧の下限は、200mOsmol以上であればよく、210mOsmol以上、220mOsmol以上、230mOsmol以上、240mOsmol以上、250mOsmol以上、又は300mOsmol以上でもよい。浸透圧の上限は、900mOsm以下であればよく、800mOsm以下、700mOsm以下、600mOsm以下、500mOsm以下、又は400mOsm以下でもよい。
【0040】
培養期間中の培養液の窒素原子濃度は0.30g/L以上であり、好ましくは0.40g/L以上、0.42g/L以上、0.50g/L以上、0.55g/L以上、0.63g/L以上、又は0.78g/L以上でもよい。窒素原子濃度の上限は特に限定されないが、一般的には、15.6g/L以下、又は7.8g/L以下である。
培養期間中の培養液のNH4
+濃度としては、好ましくは0.39g/L以上であり、0.40g/L以上、0.51g/L以上、0.54g/L以上、0.64g/L以上、0.70g/L以上、0.81g/L以上、又は1.00g/L以上でもよい。NH4
+濃度の上限は特に限定されないが、一般的には、20.0g/L以下、又は10.0g/L以下である。
【0041】
本明細書中において後記する通り、本発明においては、浸透圧に関する上記条件(a)と窒素原子濃度に関する上記条件(b)とを同時に満たすことにより、増殖連動的にPHAを蓄積させることができ、これにより高分子量のPHAを蓄積できることが判明した。浸透圧と窒素原子濃度を制御することにより、高分子量のPHAを蓄積できたことは本発明により初めて見出された知見である。
【0042】
浸透圧の測定方法は、特に限定されないが、後記する実施例に記載する氷点降下法により測定することができる。
培養液の窒素原子濃度の測定方法も特に限定されないが、後記する実施例に記載するアンモニウムイオン定量法により定量し、アンモニウムイオン濃度から、下記式により窒素原子濃度に換算すればよい。
アンモニウムイオン濃度(g/L)×14/18=窒素原子濃度(g/L)
【0043】
培地成分は、使用する微生物が資化し得る物質であれば特に制限はなく、PHA重合の連鎖移動に寄与する物質以外の物質であることは好ましい。
炭素源としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸または酪酸などの有機炭素源、二酸化炭素などの無機炭素源、酵母エキス、糖蜜、ペプトンおよび肉エキスなどの天然物、アラビノース、グルコース、マンノース、フラクトースおよびガラクトースなどの糖類、またはソルビトール、マンニトールおよびイソシトールなどを使用することができる。なお、メタノール、エタノール又はブタノールなどの短鎖アルコール類は連鎖移動剤になる可能性があるので、炭素源としては、メタノール、エタノール及びブタノール以外のものが好ましい。
【0044】
窒素源としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩(塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム)、硝酸塩などの無機窒素化合物および/または、たとえば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物を使用することができる。
【0045】
回分培養においては、炭素源が枯渇するより先に窒素源が枯渇して増殖非連動的なPHA生産に移行しなければよく、例えばフラスコ培養条件では硫酸アンモニウムを2g/L以上で添加することが好ましい。また流加培養や連続培養においては、窒素原子濃度で0.30g/L以上(又は0.42g/L以上、又は0.55g/L以上)、浸透圧200mOsm以上を維持することが望ましい。
また回分培養においては、炭素源他、硫酸アンモニウムや塩化ナトリウムなどの塩の添加により培養前の浸透圧は増加するが、培養開始時の浸透圧が200mOsm以上あればよく、培養終了時に炭素源や他のミネラル成分の消費によって浸透圧が200mOsm未満に低下していても良い。
【0046】
無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩、ニッケル塩、クロム塩、ホウ素化合物およびヨウ素化合物等からそれぞれ選択され、より具体的には、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0047】
そのほかの有機栄養源としては、例えばグリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸;ビタミンB1、ビタミンB12、ビタミンC等のビタミン等が挙げられる。
【0048】
本発明の好ましい態様によれば、炭素源は、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン若しくはそれらのけん化物、又はそれらの塩の少なくとも一種を含む。炭素源としてはさらに、糖、油脂、脂肪酸、アミノ酸およびペプチドの少なくとも一種を含んでいてもよい。
本発明においては、好ましくは、浸透圧を維持するために、NaClなどの無機塩;(NH4)2SO4などの窒素含有無機塩;糖類又は短鎖脂肪酸などの炭素源;ε-カプロラクトンなどの資化性有機溶媒炭素源;DMSOなどの有機溶媒など、水に可溶であり、浸透圧の増加に寄与し、後述する連鎖移動剤になりにくい成分を使用することが好ましい。
【0049】
ε-カプロラクトンを培養に添加すると、ε-カプロラクトンは開環され、6-ヒドロキシヘキサノエート(6HH)になり、CoAが付加されて6HH-CoAとなり、β酸化系でアセチルCoAが抜けて4HB-CoAが残り、PHAに取り込まれると4HBユニットになる。PHA重合酵素の基質特異性から6HH-CoAはPHAには取り込まれにくく、P(3HB-co-4HB)が蓄積される。
4HB-CoAもβ酸化を受ければ、アセチルCoAも生成する。
【0050】
伸長中のPHA重合酵素の酵素-S-PHA複合体にヒドロキシ基を有する化合物が入り込み、酵素とPHAポリマー鎖間のチオエステルを切断し、PHAポリマー鎖は酵素から連鎖移動剤に移動しPHA重合が停止する反応は、ラジカル重合に倣い連鎖移動反応と言われている。4HBやジオール類はヒドロキシ基を持つ化合物であり、γ-ブチロラクトンも開環して4HBになるため、これらヒドロキシ基を持つ化合物はPHA重合時の連鎖移動剤として働き、PHAの重合を停止させてしまう可能性がある。特にジオール類は末端の2つのヒドロキシ基のどちらでも連鎖移動に関与することが可能なため、特にPHA重合の停止を引き起こしやすく、高分子量体PHAが得られにくいと考えられる。
【0051】
ε-カプロラクトンが開環すると6HHが生成し、やはりヒドロキシ基をもつ化合物になる。4HB-CoAはPHA重合酵素の基質に容易になりえるが6HH-CoAは基質になりにくいのと同様に、6HHの方が4HBよりもおそらく連鎖移動剤としても働きにくいために、ε-カプロラクトンを使用した場合により高分子量体PHAが得られるものと考えられる。同様の理由により、δ-バレロラクトンやδ-カプロラクトンを用いた場合にもPHAの組成や組成比は異なるが高分子量体PHAが得られるものと考えられる。
【0052】
微生物による物質生産には、増殖連動的生産と増殖非連動的生産とがある。
増殖連動的なPHA生産では、PHA以外の菌体成分が増殖していると同時にPHAも蓄積する。増殖連動的PHA生産では、アセチルCoAはPHA合成と菌体増殖の両方で取り合いになり、アセチルCoAは余剰になりにくい。増殖連動的PHA生産の間は、PHAの分解による遊離のヒドロキシ酸の発生も抑えられ、連鎖移動反応も起きにくいと推測され、分子量が相対的に高くなるものと推測される。
【0053】
増殖非連動的なPHA生産では、菌体成分の増殖が停止した後に、PHAの蓄積が起き、PHA含量が増加していく。菌体増殖が停止しているため、過剰のアセチルCoAはPHA生産に使用される。増殖非連動的なPHA生産の間では、一旦PHAの形に取り込まれた成分を再度分化して遊離ヒドロキシ酸を菌体内外に排出しているようである。培養の後半において窒素源が枯渇した場合、増殖連動的生産から増殖非連動的生産に移行し、連鎖移動反応も頻繁に起き、合成と分解が同時に起こりやすい状態(分子量が低下しやすい状態)になるものと推測される。
【0054】
本発明においては、増殖連動的にPHAを蓄積させた場合に、栄養制限状態で増殖非連動的にPHAを蓄積させる場合よりも優位に高分子量のPHAを蓄積することが発見された。即ち、本発明のポリエステルの製造においては、菌体の増殖とPHAの蓄積を分けた栄養制限による増殖非連動的なPHA生産ではなく、菌体の増殖とPHAの蓄積が同時に起きる増殖連動的なPHA生産であることが望ましい。
【0055】
なお、本発明では、Cupriavidus necatorを窒素源が十分あり浸透圧を一定以上確保して培養する場合、増殖連動的なPHA生産が見られることを発見した。これまでCupriavidus necator H16株(ATCC17699)のP(3HB)やP(3HB-co-4HB)の生産において、連鎖移動剤(例えばポリエチレングリコール(PEG))を培地に添加した場合、PHAの分子量が低下することは知られていた。窒素制限などによる増殖非連動的なPHA生産において、4HBを炭素源としたP(3HB-co-4HB)生産へのPHAカルボキシ末端へのPEGの結合が観察された(Macromolecules (1996),29(1),10-17)。しかし、フルクトースを炭素源としたP(3HB)生産へのP(3HB)とPEGとの結合を示すデータは得られておらず、PEGとPHA重合酵素が相互作用し、PEGではなく水による連鎖移動によってPHAの重合停止頻度を増加させたためP(3HB)の分子量が低下したのかもしれないという主張があった(Macromolecules(1996),29(24),7753-7758)。
【0056】
本発明において、Cupriavidus necator H16株でPEG存在下に増殖連動的P(3HB)生産させた場合、P(3HB)とPEGとの直接結合がNMR解析で判明した(本明細書の比較例17、表26、
図8~
図10)。増殖非連動的なP(3HB)生産ではPEGによる連鎖移動が起きていても、菌体内のPHA分解酵素等の影響によって末端のP(3HB)とPEG間のエステル結合が素早く切断され、結果としてPEG分子がP(3HB)末端に結合していない状態のみが観察されていたと推察されるが、連鎖移動剤を添加しなければ高分子量体が得られる増殖連動的なP(3HB)生産条件ではおそらくPHAの分解が抑制され、連鎖移動剤であるPEG添加によって分子量低下が観察されると同時に、P(3HB)とPEGとの結合が分解されずに残っているため
1H-NMRで直接観察できたものと考えられる。
【0057】
本発明の方法における培養時間は特に限定されないが、一般的には24時間以上であり、48時間以上、72時間以上、96時間以上、又は120時間以上である。培養時間の上限は特に限定されないが、一般的には、240時間以下であり、216時間以下、又は192時間以下でもよい。
【0058】
本発明の方法に従って培養することにより得られた培養液から、ろ過及び遠心分離などの通常の固液分離手段によって菌体を分離回収し、この菌体を洗浄、乾燥して乾燥菌体を得ることができる。この乾燥菌体から、常法により、たとえば、クロロホルムのような有機溶剤で、生成されたポリエステルを抽出し、この抽出液に、例えば、ヘキサンのような貧溶媒を加えることによってポリエステルを沈澱させ、回収することができる。
【0059】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
[Cupriavidus necator H16株による共重合ポリエステルの製造]
<実施例1>
Cupriavidus necator H16株(ATCC17699)を使用してPHAを製造した。
KH2PO4 2.72g/L、Na2HPO4 4.26g/L、NaHCO3 0.3g/L、(NH4)2SO4 2g/L、MgSO4・7H2O 0.2g/L、酵母エキス 0.2g/L、ミネラル溶液3.5mLからなる滅菌された培地1に、フルクトースを14.24g/Lにて加えた培地にて試験管振とう培養を30℃24時間行い、前前培養液を得た。
【0061】
ミネラル溶液:FeC6H5O7・xH2O 6g/L、ZnSO4・7H2O 2g/L、CuSO4・5H2O 0.1g/L、MnCl2・4H2O 1g/L、KI 0.1g/L、(NH4)6Mo7O24・4H2O 0.1g/L、CoCl2・6H2O 0.1g/L、H3BO3 0.2g/L、NaCl 5g/L、CaCl2・2H2O 4g/Lを水に溶解させたもの。
【0062】
上記培地1にフルクトースを14.24g/Lにて加えた培地、あるいはフルクトース8.86g/Lとε-カプロラクトン5.38g/Lにて加えた培地100mLが入った500mL容積の三角フラスコに上記の前前培養液1mLを植菌し、30℃、150rpmにて48時間から96時間培養し、培養主母(前培養液)とした。
【0063】
上記培地1の(NH4)2SO4を12.5g/Lに変更した培地を3L容ジャーファーメンターに2L用意、滅菌し、培養主母100mLを植菌し、42質量%フルクトース溶液にNaClを12.4g/Lにて溶解させた糖溶液とε-カプロラクトンを滅菌フィルター(PTFE 0.2μmポア)を介して無菌的に流加開始した。炭素源の流加速度や流加比率は任意に設定することができるが、炭素源を菌体が消費しきれず培養槽内に過剰に残存し菌体増殖が停止するのを避けるために、糖溶液の流加速度は1~2g/h程度(0.5~1g/h・L)、ε-カプロラクトンの流加速度は0.2~0.5g/h(0.1~0.25g/h・L)程度と低流速で培養開始し、菌体の増殖に合わせて段階的あるいは連続的に流加速度を増加させた。通気量は0.2~0.3L/min、攪拌速度は500~700rpm、培養温度は36℃、培養pH下限は6.0にて制御し、12.5%アンモニア水をpH調整用アルカリに使用した。4HB前駆体炭素源(実施例1ではε-カプロラクトン):フルクトースの重量比率は約0.5とした。培養開始後140.2時間で培養終了した。
【0064】
培養中、あるいは培養後、菌体と培養上清を遠心分離により回収し、菌体は-20℃にて凍結後、凍結乾燥に供した。
凍結乾燥菌体中はPHA組成分析、PHA分子量解析に用いた。
PHA組成分析は、メチルエステル化後にガスクロマトグラフィーにてPHAを構成するモノマーユニットに由来するメチルエステル体等を分析することで行った。
PHAの分子量解析は凍結乾燥菌体からクロロホルム抽出したPHAをゲルパーミエーションクロマトグラフィー法にて行った。実施例1のPHAの分子量分布を
図1に示す。
培養上清は浸透圧測定とアンモニア濃度測定に供した。
【0065】
<実施例2>
ジャー培養での培地にNaClを2.5g/Lで添加し、(NH4)2SO4を10g/Lに変更した培地を使用し、流加炭素源として42質量%フルクトース溶液とε-カプロラクトンを使用し、培養時間を140.2時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0066】
<実施例3>
ジャー培養における炭素源として42質量%フルクトース溶液とε-カプロラクトンを使用し、培養時間を100時間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0067】
<比較例1>
ジャー培養での培地で(NH4)2SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、培養時間を122.5時間とした以外は実施例3と同様に行った。
【0068】
<比較例2>
ジャー培養での培地で(NH4)2SO4を4g/Lに変更した培地を使用し、培養時間を125.5時間とした以外は実施例3と同様に行った。
【0069】
<比較例3>
ジャー培養でのpH調整用アルカリとして4N NaOHを使用し、培養時間を173.3.時間とした以外は実施例3と同様に行った。
【0070】
<比較例4>
ジャー培養での培地で(NH4)2SO4を10g/Lに変更し、培養時間を140.5時間とした以外は比較例3と同様に行った。
【0071】
<比較例5>
ジャー培養での培地で(NH4)2SO4を7.5g/Lに変更し、培養時間を165.5時間とした以外は比較例3と同様に行った。
【0072】
<比較例6>
ジャー培養でのpH下限制御をpH6.5に変更し、培養時間を122時間とした以外は比較例5と同様に行った。
【0073】
<比較例7>
ジャー培養でのpH下限制御をpH7に変更し、培養時間を137.7時間とした以外は比較例5と同様に行った。比較例7のPHAの分子量分布を
図2に示す。
【0074】
<比較例8>
ジャー培養でのpH下限制御をpH7.5に変更し、培養時間を149時間とした以外は比較例5と同様に行った。
【0075】
<参考例1>
フラスコ前培養とジャー培養における炭素源として42質量%フルクトース溶液とγ-ブチロラクトンを使用し、培養時間を105時間とした以外は実施例3と同様に行った。
【0076】
<参考例2>
4HB前駆体(参考例2ではγ-ブチロラクトン):フルクトースの重量比率は約0.6とした以外は参考例1と同様に行った。
【0077】
<比較例11>
ジャー培養での培地で(NH4)2SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、pH調整用アルカリとして2N NaOHを使用し、培養時間を165時間とした以外は参考例1と同様に行った。
【0078】
<比較例12>
フラスコ前培養とジャー培養における炭素源として42質量%フルクトース溶液と1,4-ブタンジオールを使用し、4HB前駆体(比較例12では1,4-ブタンジオール):フルクトースの重量比率は約0.7とし、培養時間を208.5時間とした以外は実施例3と同様に行った。
【0079】
<比較例13>
4HB前駆体(比較例13では1,4-ブタンジオール):フルクトースの重量比率は約0.5とした以外は比較例12と同様に行った。
【0080】
<比較例14>
ジャー培養での培地で(NH4)2SO4を7.5g/Lに変更した培地を使用し、pH調整用アルカリとして2N NaOHを使用し、培養時間を189.5時間とした以外は比較例13と同様に行った。
【0081】
<実施例4>
フラスコ前培養とジャー培養における炭素源として42質量%フルクトース溶液を使用し、培養時間を185.2時間とした以外は実施例1と同様に行った。実施例4のPHAの分子量分布を
図3に示す。
【0082】
<実施例5>
フラスコ前培養とジャー培養における炭素源として42質量%フルクトース溶液を使用し、培養時間を185.9時間とした以外は実施例2と同様に行った。
【0083】
<実施例6>
フラスコ前培養とジャー培養における炭素源として42質量%フルクトース溶液を使用し、培養時間を150時間とした以外は実施例3と同様に行った。
菌体からPHAを抽出精製する方法は以下のように行った。スクリューキャップ付きガラス製三角フラスコにて、凍結乾燥菌体4~10g程度を400mLのクロロホルムに懸濁し、30℃にて24~48時間抽出した。得られた粘調の溶液をろ紙にてろ過し、菌体残渣をとり除いた。得られた清澄液をエバポレーターにて100~200mL程度に濃縮し、5倍量の貧溶媒であるヘキサンにてPHAを析出させた。得られた白色沈殿物をエタノールにて洗浄後、真空乾燥させ、精製PHAを得た。
【0084】
<比較例15>
フラスコ前培養とジャー培養における炭素源として42質量%フルクトース溶液を使用し、培養時間を84時間とした以外は比較例2と同様に行った。
【0085】
<比較例16>
フラスコ前培養とジャー培養における炭素源として42質量%フルクトース溶液を使用し、ジャー培養での培地で(NH4)2SO4を4g/Lに変更した培地を使用し、培養時間を92.6時間とした以外は比較例5と同様に行った。
【0086】
<比較例17(PEG200添加の培養:PEG化P(3HB)の製造>
フラスコ前培養とジャー培養における炭素源として42質量%フルクトース溶液を使用し、ジャー培養での培地にNaClを2.5g/L、PEG200を20ml/Lで添加し、培養時間を130.9時間とした以外は実施例1と同様に行った。培養3日目の培養液と5日目の培養液を回収し、菌体を遠心分離により回収し、-20℃にて凍結後、凍結乾燥に供した。
【0087】
[分析方法の説明]
<PHA分子量測定(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法)>
PHA分子量の測定は以下のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により行った。
凍結乾燥菌体に由来するPHAが約0.5mg/mlとなるようにクロロホルムを加え、60℃で4時間抽出溶解させた後、室温に戻し、孔径0.2μmのPTFEフィルターでろ過して不溶物を除き、測定サンプルとした。GPC条件は以下の通りである。
【0088】
装置:島津製作所製 HPLC Prominenceシステム
カラム:昭和電工製 Shodex K-806L(2本直列)
カラム温度:40℃
移動相:クロロホルム(1ml/min)
検出器:RI(40℃)
スタンダード:Shodexポリスチレン分子量スタンダード(687万~1270)
注入量:60μl
分析時間:30分
【0089】
<PHA組成分析(GC法)>
菌体に含まれるPHAの組成分析は以下のように行った。得られた乾燥菌体約10mgをスクリューキャップ付き試験管に量りとり、クロロホルム2mLと内部標準入りメタノール硫酸混液(内部標準:安息香酸0.5g/L、硫酸3.7質量%)2mLを混合し、121℃、90分加熱処理をして室温まで冷却し、PHAをメチルエステル化した。反応終了後純水を1ml加え、激しく撹拌した後、遠心分離を行い有機溶媒層を得た。この有機溶媒層を硫酸ナトリウムにて脱水後ガスクロマトグラフィーで分析することにより、PHA成分含量を算出した。GC条件は以下の通りである。
【0090】
ガスクロマトグラフィー分析条件
装置:島津GC-2025
キャピラリーカラム:DB-1 (0.25mm(id)×60m、Film厚1μm)
キャリアガス:He(3.23ml/min)
カラム温度: 125℃ 6.5min - rate25℃/min-260℃
メイクアップ流量:30mL/min
H2流量:40ml/min
Air流量:400ml/min
インジェクション:250℃
検出器:FID(260℃)
スプリット:1:20
注入量:1μL
分析時間:21.5分
【0091】
<アンモニウムイオン定量方法(CE法)>
培養上清中のNH4
+濃度定量は以下のように行った。培養液を遠心分離し得られた培養上清をそのまま、もしくは適切に希釈し、アジレントテクノロジー社製キャピラリー電気泳動装置7100型にて、和光純薬工業社製陽イオン混合標準液III(NH4
+濃度25mg/L)を標品としてNH4濃度を算出した。
【0092】
<浸透圧測定方法(氷点降下法)>
培養上清の浸透圧は以下のように氷点降下法を利用した方法にて測定した。浸透圧測定装置(アドバンスインスツルメンツ社製。アドバンス浸透圧計3250)を使用して培養上清の浸透圧値(mOsm/kg H2O、略してmOsmと記載する)を測定した。キャリブレーションは100mOsm、1500mOsm標準液にて行う、ローレンジモード(0~2000mOsm用)で行った。
【0093】
[ポリマーの分析]
<1H-NMRおよび13C-NMR>
実施例6で得られた精製PHA(P(3HB))の化学構造を核磁気共鳴分光装置(日本分光ECA500)を使用し解析した。精製したPHAを1.5質量%濃度でCDCl3に溶解し、測定サンプルとした。1H-NMRスペクトルは500MHzにて室温で計測した。13C-NMRスペクトルは125MHzにて室温で計測した。
【0094】
実施例2で製造したPHAの
1H-NMRを
図4に示し、
13C-NMRを
図5に示す。
実施例6のP(3HB)だけの
1H-NMRを
図6に示し、
図6の拡大図を
図7に示す。
比較例17で得られた培養3日目の培養液から抽出精製したPHAの
1H-NMRを
図8及び
図9に示す。
図9は
図8の拡大図である。同培養5日目の培養液から抽出精製したPHAの
1H-NMR拡大図を
図10に示す。PEG200存在下でのCupriavidus necator H16(ATCC17699)野生株の増殖連動的なP(3HB)生産で得られたP(3HB)の
1H-NMR解析により、P(3HB)とPEGとの直接結合を示す結果が得られた。
【0095】
<実施例7~20(フラスコ培養)>
Cupriavidus necator H16株(ATCC17699)を使用してフラスコ培養にてPHAを製造した。
上記培地1にフルクトース8.86g/Lとε-カプロラクトン5.38g/Lにて加えた培地(実施例7~19、ただし硫酸アンモニウムと塩化ナトリウム濃度は表に記載の量)、又はフルクトース8.86g/Lとε-カプロラクトン6.46g/Lにて加えた培地(実施例20、ただし硫酸アンモニウム濃度は表に記載の量)、それぞれ100mLが入った500mL容積の三角フラスコに上記前培養培地1mLを植菌し、30℃、150rpmにて表に記載の時間で培養した。培養開始前のpHは6.8~7.5程度であり、培養終了時には5.7~6.2程度と弱酸性となっていた。培養中のpHは5.7~7.5程度であった。培養終了後、遠心分離にて菌体を回収し、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。また、GC法によるPHAの含量と組成分析の結果や浸透圧測定結果を合わせ下記表27に示す。
【0096】
実施例7~20のフラスコ培養(回分培養)においては、培養開始時においては、培養液の浸透圧が200mOsmol以上900mOsm以下であり、かつ培養液の窒素原子濃度が0.30g/L以上であるという条件を満たしている。培養液の浸透圧が200mOsmol以上900mOsm以下であり、かつ培養液の窒素原子濃度が0.30g/L以上であるという条件を満たす培養期間においては、重量平均分子量が100万以上であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルが製造されている。また、実施例7~20のフラスコ培養(回分培養)においては、培養開始時の浸透圧が200mOsm以上である一方、培養終了時には炭素源や他のミネラル成分の消費によって浸透圧が200mOsm未満に低下している場合も想定されるが、その場合においても重量平均分子量が100万以上であり、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位を少なくとも含むポリエステルが製造される。
【0097】
[結果]
上記した実施例1~6、比較例1~8及び11~16、参考例1及び2の分析結果を以下に示す。
Frc:フルクトース
ECL:ε-カプロラクトン
GBL:γ-ブチロラクトン
BD:1,4-ブタンジオール
E/F:ε-カプロラクトン/フルクトース比
G/F:γ-ブチロラクトン/フルクトース比
B/F:1,4-ブタンジオール/フルクトース比
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
実施例1~6、比較例1~8及び11~17、参考例1及び2の培養時間毎の分析結果を以下に示す。
DCW:Dry Cell Weight
RB: Residual Biomass
E/F:ε-カプロラクトン/フルクトース比
G/F:γ-ブチロラクトン/フルクトース比
B/F:1,4-ブタンジオール/フルクトース比
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
<実施例21>
上記培地1にδ-バレロラクトンを5.53g/Lとフルクトースを8.86g/Lを加えた培地で30℃、4日間、150pmにてフラスコ培養した場合、Mw1008万、Mn325万、Mw/Mn3.1のPHAが得られた。
【0127】
<実施例22>
上記培地1にδ-カプロラクトンを5.25g/Lとフルクトース8.86g/Lを加えた培地で30℃、4日間、150pmにてフラスコ培養した場合、Mw630万、Mn200万、Mw/Mn3.1のPHAが得られた。