(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】鋼板の制御冷却方法及び制御冷却装置
(51)【国際特許分類】
B21B 45/02 20060101AFI20221220BHJP
B21B 37/74 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B21B45/02 320S
B21B45/02 320T
B21B37/74 A
(21)【出願番号】P 2020059267
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高見 円仁
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-300633(JP,A)
【文献】特開平06-218414(JP,A)
【文献】特開平11-033616(JP,A)
【文献】特開2011-212685(JP,A)
【文献】特開2013-123734(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118606(WO,A1)
【文献】特開2009-148809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
B21C 45/00-51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度予測モデルを用いて冷却装置の出側における鋼板の温度を予測し、予測された鋼板の温度に基づいて冷却装置の出側における鋼板の温度が目標温度になるように冷却装置から噴射される冷却水の流量を制御する鋼板の制御冷却方法であって、
前記冷却装置の入側及び出側における鋼板の温度を鋼板の長手方向に連続的に生成した仮想的な鋼板の制御単位である切板毎に測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定された冷却装置の入側における切板の温度、及び切板が冷却装置を通過した際の冷却水の流量設定値を用いて、前記温度予測モデルにより前記冷却装置の出側における鋼板の温度を切板毎に予測する予測ステップと、
前記測定ステップにおいて測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と前記予測ステップにおいて予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度とが全切板に亘って一致するように前記温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正する補正ステップと、
を含
み、
前記補正ステップは、前記測定ステップにおいて測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と前記予測ステップにおいて予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度との偏差を切板毎に算出し、全切板の偏差の合計値を合計偏差として算出し、算出された合計偏差に基づいて温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正するステップを含むことを特徴とする鋼板の制御冷却方法。
【請求項2】
前記補正ステップは、前記測定ステップにおいて測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と前記予測ステップにおいて予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度との偏差を切板毎に算出し、偏差と流量設定値との相関関係に基づいて温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼板の制御冷却方法。
【請求項3】
前記補正ステップは、前記測定ステップにおいて測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と前記予測ステップにおいて予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度との偏差を切板毎に算出し、全切板の偏差の合計値を合計偏差として算出し、算出された合計偏差と直近に冷却された鋼板について算出された合計偏差との和を算出し、算出された和に基づいて温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正するステップを含むことを特徴とする請求項1
又は2に記載の鋼板の制御冷却方法。
【請求項4】
温度予測モデルを用いて冷却装置の出側における鋼板の温度を予測し、予測された鋼板の温度に基づいて冷却装置の出側における鋼板の温度が目標温度になるように冷却装置から噴射される冷却水の流量を制御する鋼板の制御冷却装置であって、
前記冷却装置の入側及び出側における鋼板の温度を切板毎に測定する測定手段と、
前記測定手段によって測定された冷却装置の入側における切板の温度、及び切板が冷却装置を通過した際の冷却水の流量設定値を用いて、前記温度予測モデルにより前記冷却装置の出側における鋼板の温度を鋼板の長手方向に連続的に生成した仮想的な鋼板の制御単位である切板毎に予測し、前記測定手段によって測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度とが全切板に亘って一致するように前記温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正する制御手段と、
を備え
、
前記制御手段は、前記測定手段によって測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度との偏差を切板毎に算出し、全切板の偏差の合計値を合計偏差として算出し、算出された合計偏差に基づいて温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正することを特徴とする鋼板の制御冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の制御冷却方法及び制御冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板や厚鋼板に代表される鋼板の冷却温度制御では、冷却開始前に水冷による鋼板の温度変化を温度予測モデルを用いて予測し、予測結果に基づいて冷却完了時に鋼板の温度が目標温度になるように冷却水バルブの使用パターン、冷却水量、及び鋼板搬送速度を算出した上で冷却を実施する。このため、水冷による鋼板の温度変化の予測精度が鋼板の温度制御の精度を左右する。冷却完了時の鋼板の温度が目標温度からかけ離れてしまうと、製品に必要な材料的特性が得られなくなるため、冷却完了時の鋼板の温度を高精度に制御することが求められている。また近年、生産効率を高めるために鋼板の長さは長くなる傾向にあり、鋼板の長手方向に亘って冷却完了時の温度を高精度に制御することが求められている。このような背景から、一般的な鋼板の冷却温度制御では、冷却中に鋼板の実績温度と予測温度との偏差である制御偏差を抑制するように冷却装置を操作するフィードバック制御が適用されている。しかしながら、実際には、冷却水をかけた後に鋼板の温度を測定するまでの時間遅れ、フィードバック制御の計算時間による時間遅れ、冷却水バルブの応答遅れ等があるため、フィードバック制御を鋼板の全長で実施することはできない。また一般に、フィードバック制御には、制御量の変動が急峻とならないように遅れ時間が設定されているため、制御偏差が大きいと制御偏差を十分に抑制するまでに多くの時間を要する。
【0003】
そこで、鋼板の実績温度と予測温度との偏差に基づいて温度予測モデルのパラメータを修正し、以降の温度予測計算に反映させることによって、フィードバック制御が適用されない区間の温度予測偏差を抑制することが行われている。特に、冷却開始前に測定した鋼板の温度、実績冷却水量、実績鋼板搬送速度等の実績データを用いて水冷による鋼板の温度変化を予測し、冷却完了後に測定した鋼板の実績温度との偏差を抑制するように温度予測モデルのパラメータを修正する技術はこれまでに幾つか提案されている。具体的には、特許文献1には、温度予測モデルにおける熱伝達係数の修正パラメータを圧延状態による非線形方程式で表現し、鋼板の実績温度と予測温度との偏差を抑制するように非線形方程式のパラメータを修正する技術が記載されている。また、特許文献2には、鋼板の実績温度に対する温度予測偏差を抑制するように総熱流束の修正係数を算出し、操業条件と修正係数を紐付けてデータベースに格納し、以後の操業時には近しい操業条件をデータベースで検索し、温度予測計算時はデータベースで検索した修正係数を反映させる技術が記載されている。また、特許文献3には、温度予測偏差を抑制するように鋼板の変態発熱量を算出し、鋼板が100%変態した際の変態発熱量と比較することにより鋼板の変態率を算出し、算出された変態率を使用して変態率方程式のパラメータを修正する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-44715号公報
【文献】特開2011-200914号公報
【文献】特開2013-766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1-3に記載の技術は、温度予測偏差を抑制するように温度予測モデルのパラメータを修正しているが、温度予測モデルにおいて用いた冷却水の設定流量と実績流量とが一致しない場合の対策を開示、示唆していない。温度予測モデルにおいて用いた冷却水の設定流量と実績流量は、冷却水に含まれる不純物が配管内壁や冷却水バルブに固着することによる流量低下、送水ポンプの経年変化による流量低下、冷却水バルブの変形による流量変化等の要因によって常に一致するとは限らない。各冷却水バルブの冷却水流量が一様に変化するのであれば、特許文献1-3に記載の技術によって冷却水の流量の偏差を抑制できるが、上述した要因による実績流量の変化は冷却水バルブ間で一様とはならない。また、冷却水の設定流量と実績流量の不一致は上述したフィードバック制御により抑制可能ではあるが、上述した理由により鋼板の全長でフィードバック制御を実行することはできない。そこで、冷却開始前に流量計を用いて冷却水の設定流量と実績流量とが一致するように、温度予測モデルにおける冷却水の設定流量及び実績流量を調整することがよく行われているが、人的コストや時間的コストの面から頻繁に調整作業を行うことはできない。このため、温度予測モデルにおいて用いた冷却水の設定流量と実績流量とが一致していない場合であっても、多くの労力を要することなく鋼板の温度を精度よく目標温度に冷却可能な技術の提供が期待されていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、温度予測モデルにおいて用いた冷却水の設定流量と実績流量とが一致していない場合であっても、多くの労力を要することなく鋼板の温度を精度よく目標温度に冷却可能な鋼板の制御冷却方法及び制御冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鋼板の制御冷却方法は、温度予測モデルを用いて冷却装置の出側における鋼板の温度を予測し、予測された鋼板の温度に基づいて冷却装置の出側における鋼板の温度が目標温度になるように冷却装置から噴射される冷却水の流量を制御する鋼板の制御冷却方法であって、前記冷却装置の入側及び出側における鋼板の温度を鋼板の長手方向に連続的に生成した仮想的な鋼板の制御単位である切板毎に測定する測定ステップと、前記測定ステップにおいて測定された冷却装置の入側における切板の温度、及び切板が冷却装置を通過した際の冷却水の流量設定値を用いて、前記温度予測モデルにより前記冷却装置の出側における鋼板の温度を切板毎に予測する予測ステップと、前記測定ステップにおいて測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と前記予測ステップにおいて予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度とが全切板に亘って一致するように前記温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正する補正ステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る鋼板の制御冷却方法は、上記発明において、前記補正ステップは、前記測定ステップにおいて測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と前記予測ステップにおいて予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度との偏差を切板毎に算出し、偏差と流量設定値との相関関係に基づいて温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正するステップを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る鋼板の制御冷却方法は、上記発明において、前記補正ステップは、前記測定ステップにおいて測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と前記予測ステップにおいて予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度との偏差を切板毎に算出し、全切板の偏差の合計値を合計偏差として算出し、算出された合計偏差に基づいて温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正するステップを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る鋼板の制御冷却方法は、上記発明において、前記補正ステップは、前記測定ステップにおいて測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と前記予測ステップにおいて予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度との偏差を切板毎に算出し、全切板の偏差の合計値を合計偏差として算出し、算出された合計偏差と直近に冷却された鋼板について算出された合計偏差との和を算出し、算出された和に基づいて温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正するステップを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る鋼板の制御冷却装置は、温度予測モデルを用いて冷却装置の出側における鋼板の温度を予測し、予測された鋼板の温度に基づいて冷却装置の出側における鋼板の温度が目標温度になるように冷却装置から噴射される冷却水の流量を制御する鋼板の制御冷却装置であって、前記冷却装置の入側及び出側における鋼板の温度を鋼板の長手方向に連続的に生成した仮想的な鋼板の制御単位である切板毎に測定する測定手段と、前記測定手段によって測定された冷却装置の入側における切板の温度、及び切板が冷却装置を通過した際の冷却水の流量設定値を用いて、前記温度予測モデルにより前記冷却装置の出側における鋼板の温度を切板毎に予測し、前記測定手段によって測定された前記冷却装置の出側における鋼板の温度と予測された前記冷却装置の出側における鋼板の温度とが全切板に亘って一致するように前記温度予測モデルにおける冷却水の流量設定値を補正する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る鋼板の制御冷却方法及び制御冷却装置によれば、温度予測モデルにおいて用いた冷却水の設定流量と実績流量とが一致していない場合であっても、多くの労力を要することなく鋼板の温度を精度よく目標温度に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である鋼板の制御冷却方法が適用される熱延鋼板の冷却ラインの構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態である制御冷却処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、実績温度、従来例、発明例1~4を計算開始から切板番号500までの区間図示した図である。
【
図4】
図4は、実績温度、従来例、発明例1~4を切板番号3000から切板番号3500までの区間図示した図である。
【
図5】
図5は、実績温度、従来例、発明例1~4を切板番号4500から切板番号5000までの区間図示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である鋼板の制御冷却方法について説明する。
【0015】
〔熱延鋼板の冷却ラインの構成〕
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態である鋼板の制御冷却方法が適用される熱延鋼板の冷却ラインの構成について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態である鋼板の制御冷却方法が適用される熱延鋼板の冷却ラインの構成を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態である鋼板の制御冷却方法が適用される熱延鋼板の冷却ライン1(以下、冷却ライン1と略記)は、矢印で示す搬送方向に搬送される鋼板に冷却水を噴射することによって鋼板の温度を目標温度まで冷却するラインであり、冷却水バルブ2a~2o、温度計3a,3b、計算機4、及び制御盤5を備えている。
【0017】
冷却水バルブ2a~2oは、鋼板の表面及び裏面に対向配置され、制御盤5からの制御信号に従って鋼板の表面及び裏面に向けて冷却水を噴射することにより鋼板を冷却する。
【0018】
温度計3a,3bはそれぞれ、冷却ライン1の入側及び出側に配置され、冷却水バルブ2a~2oの制御周期以下の周期で冷却ライン1の入側及び出側における鋼板の温度を測定する。温度計3a,3bはそれぞれ、測定した鋼板の温度を示す電気信号を計算機4に出力する。
【0019】
計算機4は、コンピュータ等の情報処理装置によって構成されている。計算機4は、後述する制御冷却処理を実行することにより鋼板の温度を目標温度まで冷却する。具体的には、計算機4は、温度計3a,3bによって測定された冷却ライン1の入側及び出側における鋼板の温度に基づいて、制御盤5を介して冷却水バルブ2a~2oから噴射される冷却水の流量を制御することによって鋼板の温度を目標温度まで冷却する。
【0020】
このような構成を有する熱延鋼板の冷却ライン1では、計算機4が以下に示す制御冷却処理を実行することにより、温度予測モデルにおいて用いた冷却水の設定流量と実績流量とが一致していない場合であっても、多くの労力を要することなく鋼板の温度を精度よく目標温度に冷却する。以下、
図2を参照して、本発明の一実施形態である制御冷却処理を実行する際の計算機4の動作について説明する。
【0021】
なお、本明細書中において、温度予測モデルとは、冷却水、大気、ロール等と鋼板との間の熱交換を記述した数式モデルのことを意味する。温度予測モデルの入力変数には、鋼板の初期温度及び冷却水バルブ2a~2oから噴射される冷却水の流量(流量設定値)が含まれ、温度予測モデルの出力変数は、冷却ライン1の出側における鋼板の温度である。
【0022】
〔制御冷却処理〕
図2は、本発明の一実施形態である制御冷却処理の流れを示すフローチャートである。
図2に示すフローチャートは、鋼板の切板(鋼板の長手方向に連続的に生成した仮想的な鋼板の制御単位)が温度計3aを通過したタイミングで開始となり、制御冷却処理はステップS1の処理に進む。
【0023】
ステップS1の処理では、計算機4が、温度計3a,3b及び周知のトラッキング技術を利用して冷却ライン1の入側及び出側における各切板iの温度を測定する。なお、iは各切板に割り当てられた固有の識別情報を示す。これにより、ステップS1の処理は完了し、制御冷却処理はステップS2の処理に進む。
【0024】
ステップS2の処理では、計算機4が、各切板iが冷却水バルブ2a~2oを通過した時点の各冷却水バルブkの流量設定値Qi
kを取得する。なお、kは各冷却水バルブに割り当てられた固有の識別情報を示す。これにより、ステップS2の処理は完了し、制御冷却処理はステップS3の処理に進む。
【0025】
ステップS3の処理では、計算機4が、温度予測モデルを利用して、ステップS1の処理において取得した冷却ライン1の入側における各切板iの温度とステップS2の処理において取得した各切板iが通過した時点の冷却水バルブkの流量設定値Qi
kとから冷却ライン1の出側における各切板iの温度を予測する。なお、この処理では、冷却水による熱流束を冷却水の設定流量f(V)の関数で表すものとすると、冷却水バルブkから噴射される冷却水の流量を補正する流量補正係数Wkを用いて、冷却水による熱流束をf(V,Wk)として各切板iの温度を予測する。初回の制御冷却処理では、流量補正係数Wkは初期値に設定されている。これにより、ステップS3の処理は完了し、制御冷却処理はステップS4の処理に進む。
【0026】
ステップS4の処理では、計算機4が、各冷却水バルブkから噴射される冷却水の流量変動を冷却ライン1の出側における各切板iの温度予測計算に反映させるために、鋼板が冷却ライン1を通過した後、各冷却水バルブkの流量補正係数Wkを補正する。具体的には、まず、計算機4は、ステップS1の処理において測定された冷却ライン1の出側における各切板iの温度とステップS3の処理において計算された冷却ライン1の出側における各切板iの温度との偏差ΔTiを切板i毎に算出する。次に、計算機4は、算出された偏差ΔTiと冷却水バルブkの流量設定値Qi
kとの相関関係を算出する。詳しくは、計算機4は、冷却水バルブkについて、流量設定値Qi
kによって偏差ΔTiを最小二乗法で線形回帰して以下に示す数式(1)を構築する。そして、計算機4は、式(1)の傾きAkが所定値x以上である場合、流量補正係数Wkを流量補正係数Wk’(=Wk-α)に補正し、式(1)の傾きAkが所定値x未満である場合には、流量補正係数Wkを流量補正係数Wk’(=Wk+α)に補正する。但し、αは所定の定数を示す。なお、流量設定値Qi
kが変わらない冷却水バルブkについては、このステップS4の処理は実行しないものとする。これにより、ステップS4の処理は完了し、制御冷却処理はステップS5の処理に進む。
【0027】
【0028】
ステップS5の処理では、計算機4が、熱延鋼板に噴射される冷却水の全流量の短期的な変動を冷却ライン1の出側における各切板iの温度予測計算に反映させるために、冷却水を噴射している全冷却水バルブについて、流量補正係数Wkを一律に補正する。具体的には、まず、計算機4は、ステップS4の処理において算出された偏差ΔTiを用いて全切板の偏差ΔTiの合計値を合計偏差ΣΔTiとして算出する。次に、計算機4が、熱延鋼板の冷却中に冷却水を噴射した冷却水バルブについて、合計偏差ΣΔTiが所定値y以上である場合、流量補正係数Wkを流量補正係数Wk’(=Wk×(1+β))に補正し、合計偏差ΣΔTiが所定値y未満である場合には、流量補正係数Wkを流量補正係数Wk’(=Wk×(1-β))に補正する。但し、βは所定の定数を示す。これにより、ステップS5の処理は完了し、制御冷却処理はステップS6の処理に進む。
【0029】
ステップS6の処理では、計算機4が、ステップS4及びステップS5の処理における流量補正係数Wkの補正処理が他の熱延鋼板における流量補正係数Wkの補正処理と同傾向であるか否かを判定し、判定結果に基づいてステップS4及びステップS5の補正処理を抑制又は促進するように流量補正係数Wkを補正する。具体的には、まず、計算機4は、ステップS5の処理において算出した合計偏差ΣΔTiを直近で冷却した複数の熱延鋼板についてのΣΔTiと合わせた合計偏差ΣΣΔTiを算出する。次に、計算機4は、複数の熱延鋼板に対して冷却水を噴射した冷却水バルブについて、合計偏差ΣΣΔTiが所定値z以上である場合、流量補正係数Wkを流量補正係数Wk’(=Wk×(1+γ))に補正し、合計偏差ΣΣΔTiが所定値z以上である場合、流量補正係数Wkを流量補正係数Wk’(=Wk×(1-γ))に補正する。但し、γは所定の定数を示す。これにより、ステップS6の処理は完了し、制御冷却処理はステップS7の処理に進む。
【0030】
〔実施例〕
本実施例では、熱延鋼板の温度予測シミュレーションを行った。具体的には、本シミュレーションでは、接続された92個のコイルの先端部から連続的に生成した所定長さの5000切板(先端部から順に切板番号1~5000)の冷却実績に対して、従来の温度予測計算(従来例)、
図2に示すステップS4,S5,S6の処理をそれぞれ単独で実施した温度予測計算(発明例1~3)、
図2に示すステップS4~S6の処理を全て実施した温度予測計算(発明例4)を行った。ステップS4~S6の各計算における定数は、x=10℃、α=0.050、y=10℃、β=0.02、z=10℃、γ=0.0とした。また、流量補正係数の初期値は全て1とした。
【0031】
図3は、実績温度(線L1)、従来例(線L2)、発明例1(線L3)、発明例2(線L4)、発明例3(線L5)、及び発明例4(線L6)を計算開始から切板番号500までの区間図示したものである。
図3に示すように、流量補正係数の初期値を1としているため、はじめは従来例と発明例1~4とが一致している。また、切板番号200までの区間では、実績温度と発明例1~4の大小が交互に現れているため、流量補正係数の修正方向も交互となり、従来例と発明例1~4はあまり変わらない。
【0032】
しかしながら、切板番号200~480の区間では、発明例1~4より実績温度の方が20℃程度高めになっている熱延鋼板が続くため、予測温度が高くなるようにステップS5の処理において流量補正係数をマイナス方向に連続して修正していることがこの区間における発明例2(線L4)からわかる。一方で、各冷却水バルブの設定流量の違いによる温度予測誤差の傾向があまりないため、ステップS4の処理による補正はあまり実施されていない(発明例1(線L3))。また、切板番号430付近では、直近の複数の熱延鋼板にわたって同じ符号の偏差が続くため、ステップS6の処理による補正が行われている(発明例3(L5))。
【0033】
図4は、実績温度(線L1)、従来例(線L2)、発明例1(線L3)、発明例2(線L4)、発明例3(線L5)、及び発明例4(線L6)を切板番号3000から切板番号3500までの区間図示したものである。
図4に示すように、ステップS4~S6の各処理による補正が進んでおり、発明例1~3は従来例より精度が良いことがわかる。また、
図5は、実績温度(線L1)、従来例(線L2)、発明例1(線L3)、発明例2(線L4)、発明例3(線L5)、及び発明例4(線L6)を切板番号4500から切板番号5000までの区間図示したものである。ステップS5及びステップS6の処理による補正が有効に働き、発明例2,3が実績温度に追従している一方、バルブの流量変化が小さく、ステップS4の処理による補正が行われていないため、発明例1は実績温度の変化に追従できていない。以上の結果をまとめると以下に示す表1のようになり、発明例1~3でも従来例より精度向上しているが、発明例4が最も精度が良いことがわかる。以上の結果より、本発明の実施による温度予測精度向上の効果が確認された。
【0034】
【0035】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1 熱延鋼板の冷却ライン
2a~2o 冷却水バルブ
3a,3b 温度計
4 計算機
5 制御盤