(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】密度を高めたMEMS素子
(51)【国際特許分類】
B81C 1/00 20060101AFI20221220BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20221220BHJP
H01L 29/84 20060101ALI20221220BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B81C1/00
B81B3/00
H01L29/84 A
H01L21/302 104C
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020178583
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2021-02-10
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ピューサ
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0167954(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0141779(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014224568(DE,A1)
【文献】特表2019-521518(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0299925(US,A1)
【文献】特表2010-508661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81C 1/00
B81B 3/00
H01L 29/84
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェハ内に可動回転子を備える微小電気機械デバイスを製造する方法であって、
a1)回転子本体および/または1以上の固定子電極から1以上の回転子電極を分離する分離領域の水平寸法を規定するように、第1エッチングマスクを前記回転子の上面にパターニングするステップと、
a2)前記第1エッチングマスクによって保護されていない前記回転子の領域に、プラズマエッチング工程で複数の第1溝をエッチングするステップと、
a3)前記複数の第1溝にセルフサポート材料を充填するステップと、
a4)前記1以上の回転子電極の水平寸法を規定するように、充填溝エッチングマスクを前記分離領域に隣接して前記回転子の上面にパターニングするステップと、
a5)前記充填溝エッチングマスクによって保護されていない前記回転子の領域に、前記1以上の充填溝をエッチングするステップと、
b1)プラズマエッチング工程において、少なくとも10の深さ/幅アスペクト比を有する1以上の充填溝を前記回転子にエッチングするステップと、
b2)前記1以上の充填溝に高密度領域が形成されるように、原子層堆積により前記1以上の充填溝内にシリコンより高い密度を有する高密度材料を堆積させることによって前記1以上の充填溝に前記高密度材料を充填するステップと、
c1)前記セルフサポート材料を前記複数の第1溝から除去し、回転子櫛構造体を前記シリコンウェハからリリースするステップとを含む
方法。
【請求項2】
前記高密度材料は、タングステン、タンタル、イットリウム、ネオジム、セリウム、ランタン、ジルコニウム、インジウム、ニオブ、モリブデンまたはハフニウムの炭化物である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高密度材料は、タングステン、タンタル、イットリウム、ネオジム、セリウム、ランタン、ジルコニウム、インジウム、ニオブ、モリブデンまたはハフニウムの窒化物であ
る
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記高密度材料は、タングステン、タンタルまたはイットリウムの酸化物である
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
シリコンウェハ内に可動回転子を備える微小電気機械デバイスであって、前記
可動回転子は、1以上の高密度領域
と1以上の回転子電極とを有し、前記回転子内の前記1以上の高密度領域は、シリコンより高い密度を有する少なくとも1つの高密度材料を含み、前記1以上の高密度領域は、前記回転子の1以上の充填溝に前記少なくとも1つの高密度材料を充填することによって前記シリコンウェハ内に形成されており、前記1以上の充填溝は、少なくとも10の深さ/幅アスペクト比を有し、前記1以上の充填溝は、原子層堆積(ALD)工程において前記充填溝内に前記高密度材料を堆積させることによって充填されており、前記微小電気機械デバイスは、1以上の回転子電極および1以上の固定子電極によって形成された容量性力トランスデューサを備え、
前記1以上の高密度領域は、前記
可動回転子内に前記1以上の回転子電極を形成し、前記1以上の回転子電極は、分離領域によって回転子本体および/または前記1以上の固定子電極から分離されている
微小電気機械デバイス。
【請求項6】
前記高密度材料は、タングステン、タンタル、イットリウム、ネオジム、セリウム、ランタン、ジルコニウム、インジウム、ニオブ、モリブデンまたはハフニウムの炭化物である
請求項5に記載の微小電気機械デバイス。
【請求項7】
前記高密度材料は、タングステン、タンタル、イットリウム、ネオジム、セリウム、ランタン、ジルコニウム、インジウム、ニオブ、モリブデンまたはハフニウムの窒化物である
請求項5に記載の微小電気機械デバイス。
【請求項8】
前記高密度材料は、タングステン、タンタルまたはイットリウムの酸化物である
請求項5に記載の微小電気機械デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微小電気機械(MEMS)デバイスに関し、より詳細には、可動構造体を有するシリコンMEMSデバイスに関する。さらに、本開示は、可動構造体の密度を高めるためにシリコンより重い材料を使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、微小電気機械(MEMS)デバイスはシリコン基板から製造される。各デバイスは、好ましくは、ウェハ1つ当たりのMEMSダイの数が最大になり得るように基板上の消費表面積をできるだけ小さくすべきである。しかしながら、小型化は、可動構造体の動きを測定することによって出力信号が生成される、加速度計およびジャイロスコープなどのデバイスには、新たな課題をもたらし得る。可動構造体のサイズが小さくなると、出力信号は、周囲環境に対してより感度が高くなる。非常に小さく軽量の構造体は、周囲の気体分子のブラウン運動から生じる望ましくない動きを受ける可能性がある。これは、出力信号中に熱ノイズを生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0178656号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱ノイズは、可動構造体の重量を増加させることによって低減することができる。重量増加(面積増加なし)は、例えば、より厚いシリコン基板から構造体を作製することによって達成することができる。しかしながら、より厚い基板で得ることができる重量増加はかなり限定され、厚い基板が使用される場合、製造工程中に小さい凹凸から時々生じ得る構造的ばらつきが通常大きくなる。
【0005】
また、重量は、可動構造体上に追加の材料を堆積させることによって増加させることができる。しかしながら、シリコン構造体の上により重い材料を加えることにより、構造体の重心がデバイスウェハの垂直中点からずれる。これによって、可動構造体のバランスが崩れ、可動構造体は、意図した測定方向とは異なる方向の加速度などの他軸の動きに対して感度が高くなり得る。
【0006】
あるいは、可動構造体の重量は、可動構造体の密度をある特定の領域において高めることで増加させることができる。特許文献1には、化学蒸着工程、スパッタリング工程または電気めっき工程において高密度金属が充填されるウェルを含むシリコン系MEMSデバイスが開示されている。この手法に関する課題は、狭く深いウェル内に高密度金属をコンフォーマルに堆積させることができないことである。したがって、ウェルは比較的広くなければならず、この方法は、熱ノイズの影響が最も大きい小型可動構造体に適さない。高密度金属がウェル内にコンフォーマルに充填されない場合、可動構造体の重心はウェハの垂直中点からずれる可能性があり、これは、上述した望ましくない他軸感度につながる。
【0007】
さらに、特許文献1の方法を狭いウェルに用いると、堆積した高密度金属に空隙が生じることがある。これにより、ウェル内の金属の全質量は減少する。また、空隙は、後処理中に開き、製造問題を引き起こす恐れがある。空隙の形成は、ピラミッド状または円錐状のウェルを用いることによって低減することはできるが、自動的に不均一な垂直質量分布を形成し、これも他軸感度につながるであろう。
【0008】
本開示の目的は、上記の欠点を緩和する方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の目的は、独立クレームに記載することを特徴とする方法および構成によって達成される。本開示の好ましい実施形態を従属クレームに開示する。
【0010】
本開示は、原子層堆積を用いて複数の高アスペクト比溝内に高密度材料を堆積させることによって可動シリコンMEMS構造体の密度を高めるという発想に基づく。本開示の方法および構成の利点は、可動MEMS構造体の密度が増加し得るように複数の溝をコンフォーマルに充填することができることである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下に、添付図面を参照しながら、好ましい実施形態によって本開示をより詳細に説明する。
【
図1】
図1は、回転子本体内に高密度領域を有するMEMS回転子を示す。
【
図2】
図2は、回転子本体内および回転子電極内に高密度領域を有するMEMS回転子を示す。
【
図3】
図3は、回転子本体内および回転子電極内に高密度領域を有するMEMS回転子を示す。
【
図4】
図4は、高密度材料から回転子電極を作製する方法を示す。
【
図5】
図5は、高密度材料から回転子電極を作製する方法を示す。
【
図6】
図6は、回転子本体内に高密度領域を設ける方法を示す。
【
図7】
図7は、高密度材料から回転子電極および/または固定子電極を作製する方法を示す。
【
図8】
図8は、高密度材料から回転子電極および/または固定子電極を作製する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示では、シリコンウェハ内に作製される微小電気機械(MEMS)デバイスについて説明する。シリコンウェハは、デバイスウェハとも呼び得る。MEMSデバイスを構成する微小機械構造体は、エッチング法およびコーティング法によってウェハ内に製造されてもよい。本明細書において、「シリコンウェハ」という用語は、シリコンからなる薄い基板を指し、これは、ウェハをエッチングおよびコーティングすることによって微小電気機械構造体が製造される構造体層(デバイス層とも呼び得る)を形成する。通常、この基板は、別個のはるかに厚いハンドルウェハまたはサポートウェハからの構造的支持を必要とする。
【0013】
本開示において、シリコンウェハと平行な平面を図示し、xy平面と呼ぶ。これは、デバイス面とも呼び得る。「水平」という用語は、この平面を指す。「垂直」という用語は、水平デバイス面に垂直な方向を指し、図のz軸として示す。「上」および「下」という用語は、z座標の差を指す。「高さ」および「深さ」という用語は、(z方向の)垂直距離を指し、「幅」および「長さ」は、(x方向またはy方向のいずれかの)水平距離を指す。
【0014】
「垂直」または「水平」などの用語は、MEMSデバイスの製造時または使用時のシリコンウェハの向きについて何も示唆していない。デバイスおよびシリコンウェハは、使用中または製造中に任意の適切な方向、例えば、本開示において「水平」と呼ぶ平面が垂直面になるように横に向けられてもよい。言いかえれば、「水平」および「垂直」という用語は、一方がシリコンウェハの表面と平行であり、他方がその表面に垂直である直交する二方向を規定しているに過ぎない。
【0015】
[デバイス例]
本開示では、シリコンウェハ内に可動回転子を備える微小電気機械デバイスについて説明する。回転子は、1以上の高密度領域を有する。回転子内の1以上の高密度領域は、シリコンより高い密度を有する少なくとも1つの高密度材料を含む。1以上の高密度領域は、シリコンウェハの1以上の充填溝に少なくとも1つの高密度材料を充填することによってシリコンウェハ内に形成されている。シリコンウェハの1以上の充填溝は、少なくとも10の深さ/幅アスペクト比を有する。1以上の充填溝は、原子層堆積(ALD)工程において充填溝内に高密度材料を堆積させることによって充填されている。各高密度領域の形状は、当該高密度領域が形成される充填溝の形状に一致する。
【0016】
本開示において、「回転子」という用語は、デバイスが使用されている時に動きを受けるように設計されたデバイス層内の可動部分を指す。この動きは、例えば、x軸、y軸、および/もしくはz軸のうちのいずれかに沿った線形平行移動、またはこれらの軸のうちの1以上を中心とする回転であってもよい。いくつかの動きは、例えばMEMSデバイスが加速度または角回転を受ける時に、外力によって引き起こされ得る。他の動きは、例えば、回転子に接続された容量性または圧電性力トランスデューサによって引き起こされ得る。他の力トランスデューサを使用して、回転子の動きを測定してもよい。用途によっては、回転子はプルーフマスまたはコリオリマスと呼ばれることがある。
【0017】
力トランスデューサは、例えば、回転子上に1セットの回転子電極と、固定子上に1セットの隣接する固定子電極とを含む容量性トランスデューサであってもよい。本明細書において、「固定子」という用語は、例えば、デバイスウェハの不動部分(すなわち、実際上、周囲のデバイスパッケージに対して静止していると考えることができる部分)を指す。あるいは、「固定子」という用語は、MEMSデバイスが囲まれる筐体またはパッケージの壁などの、デバイスウェハに隣接する他の固定構造体を指してもよい。回転子電極および固定子電極は、例えば、多数の互いに入り込んだフィンガー電極を含んでもよく、または、1つの固定子電極板と対をなし、かつ平行板測定のために平行に配置された単に1つの回転子電極板を含んでもよい。
【0018】
回転子は、ばねによって固定構造体から懸架されてもよい。固定構造体は、シリコンウェハ自体であってもよい。ばねは、回転子が形成される同じエッチング工程においてシリコンウェハ内に形成されてもよい。ばねは、ばねに撓み変形させる少なくとも1つの適切に薄い寸法を有するバーまたは梁であってもよい。この撓み変形により、回転子は動くことができる。回転子の動きは振動であってもよく、その場合、懸架ばねのばね定数は、振動振幅の1つの決定因子である。ばねは、懸架部とも呼び得る。
【0019】
図1は、MEMSデバイス内の回転子11の側面図を示す。回転子は、シリコン基板12内に形成されている。回転子は、複数の充填溝がエッチングされた第1水平領域141を有する。複数の充填溝には、ALD工程において高密度材料が充填され、シリコンウェハ12内の各第1水平領域141にわたって1セットの平行な高密度領域17(この場合、y方向に延在する)が形成されている。また、回転子11は、長さ/幅および高さ/幅アスペクト比の大きいフィンガー状回転子電極15がシリコンウェハ12内に形成された第2水平領域142を有する(長さは、図示したxz平面に垂直なy方向に測定され、幅は、x方向に測定され、高さは、z方向に測定される)。第2水平領域142は、灰色の柱として示した回転子電極を含む。回転子電極は、回転子櫛構造体を形成する。第2水平領域142は、また、回転子櫛構造体を回転子の本体から分離する、白色の開口部として示した1セットの分離領域も有する。分離領域は、回転子櫛同士も互いに分離する。また、これらの分離領域は、隣接する固定子櫛構造体から回転子櫛構造体を分離してもよい。明瞭さを保つために、本開示には隣接する固定子櫛構造体を形成し得る固定子電極を示していない。これらの固定子電極は、例えば、回転子電極と互いに入り込んでいてもよい。
【0020】
また、回転子は、回転子電極のない本体であってもよい。この場合、回転子の動きは、懸架ばね上に配置された圧電アクチュエータによって引き起こされ、感知されてもよい。その際、容量性電極および櫛構造体が必要なくてもよい。
【0021】
シリコンウェハ12の固定部分などの周囲の構造体も、回転子11を固定部分から懸架する懸架ばねも、
図1に示していない。
図1は、一定の縮尺ではない。
【0022】
深さ、形状、堆積方法および材料についての以下の考慮事項は、本開示に示すすべての実施形態に当てはまる。
【0023】
高密度領域17の垂直高さに一致する複数の充填溝の垂直深さは、
図1において文字Dで示している。各高密度領域は、
図1において同じ垂直高さDを有する。場合によっては、シリコンウェハ内に高さの異なる高密度領域を形成することが有益であり得るが、その際、余分なマスキングステップが必要となる。
【0024】
図1に示すように、高密度領域17の高さDは、シリコンウェハ12の厚さTとほぼ等しくてもよい。厚さTは、例えば50μmであってもよく、高さDは、40μm~50μmであってもよい。複数の充填溝は、
図1に示すxz平面に垂直なy方向に直線的に延在するように、xy平面内に矩形形状を有してもよい。あるいは、複数の充填溝は、xy平面内に任意の他の適切な形状を有してもよく、この形状は、回転子のバランス取りなどの設計制約、またはシリコンウェハ12の上面における電気配線の面積要件に基づいて選択されてもよい。
【0025】
高さDに通常一致する複数の充填溝の深さは、例えば20~100μmであってもよい。この深さは、ウェハ厚さTによって制限される。高密度領域17の幅Wも、
図1に示している。この幅は、10μm未満、5μm未満または2μm未満であってもよい。高密度領域の高さ/幅アスペクト比に一致し得る充填溝の深さ/幅アスペクト比D/Wは、例えば、10より大きく、15より大きく、または20より大きくてもよい。xy平面内における充填溝のパターニングが矩形以外である場合、対応するD/Wアスペクト比は、幅Wが溝パターンの最も狭い部分に一致するように算出されてもよく、充填溝の結果として得られるD/W値は、上に挙げたもののうちのいずれであってもよい。
【0026】
xy平面において、充填溝は、例えば、正方形、矩形もしくは円形のパターン、2つの矩形が互いに交差する十字パターン、または、これらのパターンの任意の組合せを有してもよい。異なるようにパターニングされた複数の充填溝が同じ回転子内に形成されてもよく、それらの充填溝のxy平面内における表面積は、一般に、重要になり得る設計上のあらゆる考慮事項を満たすように自由に最適化することができる。
【0027】
深さ/幅アスペクト比が大きい溝は、原子層堆積(ALD)によってコンフォーマルに充填することができる。コンフォーマルに充填するとは、
図1に示すように、溝のいずれの部分にもギャップまたはエアポケットを残すことなく溝に高密度材料が充填されることを意味する。それによって、高密度材料は、各充填溝の垂直方向において均一に分布し、回転子の密度分布は、充填溝の配置および形状の点で計画された分布に一致する。
【0028】
高密度材料は、タングステン、タンタル、イットリウム、ネオジム、セリウム、ランタン、ジルコニウム、インジウム、ニオブ、モリブデンまたはハフニウムの炭化物であってもよく、例えば、WC、TaCx(xは0.4~1)、YC2、NdC2、CeC2、CeC2、ZrC、NbC、Nb2C、MoC、Mo2CまたはHfCであってもよい。あるいは、高密度材料は、タングステン、タンタル、イットリウム、ネオジム、セリウム、ランタン、ジルコニウム、インジウム、ニオブ、モリブデンまたはハフニウムの窒化物、例えば、WN、WN2、TaNまたはHfNであってもよい。あるいは、高密度材料は、タングステン、タンタルまたはイットリウムの酸化物、例えば、WO3、Ta2O5またはY2O3であってもよい。あるいは、高密度材料は、上に挙げた任意の元素の窒化物-炭化物混合物、酸化物-炭化物混合物もしくは窒化物-酸化物混合物、または上に挙げた材料のうちの2以上を含む複合材料であってもよい。
【0029】
上に挙げた材料のうちのいくつかは、非晶質構造体を有してもよい。このような材料から形成された高密度領域は、低い内部応力を示す。また、挙げた材料のうちのいくつかは、HFなどの通常のエッチング剤に対して金属ほど反応しない。これにより、例えば、以下により詳細に説明する高密度回転子電極の製造が可能になる。さらに、挙げた材料のうちのいくつかは、高密度領域と、隣接するシリコン面との間に強い接着性を与える。
【0030】
図2は、別の実施形態の回転子21の側面図を示す。参照番号21、22、25および241は、
図1の参照番号11、12、15および141に対応する。しかしながら、回転子21は、高密度領域27が、回転子電極25が形成される第2水平領域242にも存在している点で回転子11と異なる。言いかえれば、高密度領域27のうちの少なくともいくつかは、これらの高密度領域が回転子電極の一部を形成するように、回転子電極の寸法を規定する複数の充填溝に設けられている。高密度領域を有する回転子電極は、回転子基部29を含む。
図2に示すように、回転子電極のうちのいくつかは高密度領域を有してもよく、他の回転子電極はシリコンのみを含む。また、
図2に示すデバイスは、第1水平領域241にも高密度領域27を有する。あるいは、回転子は、回転子電極のみが高密度材料を含むように、第2水平領域にのみ高密度領域を有することができるであろう。
【0031】
図3は、別の実施形態の回転子31の側面図を示す。参照番号31、32および341は、
図2の参照番号21、22および241に対応する。回転子31は、第2水平領域342の高密度領域37が、対応する回転子電極35全体を形成する点で回転子21と異なる。言いかえれば、回転子電極は、
図2の29などの回転子基部を含まない。あるいは、回転子電極のうちのいくつかはシリコンからなってもよく、他の回転子電極は高密度材料からなる。前述同様、回転子は、第2水平領域342のみに、または両方の領域341および342に高密度領域を有してもよい。
【0032】
図1、
図2および
図3に示す回転子において、(
図1に示すように)DがTと等しくないことから、重心がウェハの垂直中点から僅かにずれる場合がある。回転子は、例えば、厚さがT-Dと等しいシリコンの追加の層を回転子の上に堆積させることによって、バランスを取り戻してもよい。あるいは、高密度領域に追加の複数のバランス溝(図示せず)をエッチングしてもよい。これらのバランス溝のエッチング中に高密度領域から除去される質量は、例えば(R
HD-R
Si)
*(T-D)
*Aと等しくてもよく、ここで、R
HDは高密度材料の密度であり、R
Siはシリコンの密度であり、Aは充填溝の水平面積である。
【0033】
回転子内の1以上の充填溝は、高密度材料を含むように1以上の回転子電極を規定してもよい。言いかえれば、1以上の高密度領域は、回転子内に1以上の回転子電極を形成してもよい。1以上の回転子電極は、分離領域によって回転子本体および/または1以上の固定子電極から分離されてもよい。回転子電極は、1セットの平行なフィンガー電極を含む回転子櫛構造体を形成してもよい。あるいは、回転子電極は、回転子板構造体を形成してもよい。回転子電極は、回転子の動きを検出するまたは回転子の動きを作動させるために使用可能な容量性トランスデューサを形成するように、隣接する固定子櫛構造体/固定子板構造体と対をなしてもよい。この場合、回転子電極に使用される高密度材料は、電気測定を容易にするために少なくとも部分的に導電性を有するべきである。回転子電極は、例えば、上記複数の充填溝に対して特定された高さ、幅、および高さ/幅アスペクト比のうちのいずれかを有してもよい。
【0034】
回転子電極の密度を高めることは、第2水平領域242が回転子の全水平表面積の比較的大きい部分を覆う用途、回転子電極が回転軸から最も遠く離れた回転子の一部である用途、または第1水平領域の回転子の水平面に複数の充填溝を形成することができない用途において、特に役立ち得る。
【0035】
[方法例]
次に、高密度領域を有するデバイス構造体を製造する例示的方法について説明する。この方法は、プラズマエッチング工程において、少なくとも10の深さ/幅アスペクト比を有する1以上の充填溝を回転子にエッチングするステップ(このステップはb1と呼び得る)と、次に、1以上の充填溝に高密度領域が形成されるように、原子層堆積により1以上の充填溝内に高密度材料を堆積させることによって1以上の充填溝に高密度材料を充填するステップ(このステップはb2と呼び得る)とを含む。
【0036】
プラズマエッチング工程は、深掘り反応性イオンエッチング工程(DRIE)、または、例えば水酸化カリウム(KOH)もしくは水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)で行われるウェットエッチング工程であってもよい。
【0037】
高密度領域は、回転子本体(例えば、それぞれ
図1、
図2および
図3の第1水平領域141、241および341に対応する)および/または回転子電極(それぞれ
図2および
図3の第2水平領域242および342に対応する)に製造されてもよい。
図2および
図3が示すように、これらの2つの手法を組み合わせて、回転子本体および回転子電極の両方に高密度領域を有する構造体を形成することができる。
図1~
図3と異なり、
図4、
図5、
図7および
図8は、回転子(中央)と、デバイスウェハ内の周囲の固定構造体(端部)との両方を示す。
図6は、回転子のみを示す。
【0038】
本明細書において、「回転子本体」という用語は、回転子電極構造体を含まない回転子の水平領域を指す。回転子本体は、第1水平領域141、241および341と部分的または完全に同一の広がりを有してもよいが、高密度領域が存在しない領域を有してもよい。シリコンウェハは、例えば、充填溝のない回転子本体と、高密度材料からなる回転子電極とを含んでもよい。
【0039】
図4は、高密度材料から形成される回転子電極、例えば、
図2および
図3に示した上記回転子電極を作製するために用いることができる方法を示す。ステップb1およびb2を図に示している。順序は、左上の図から始まり、左の列に沿って下へ進み、次に、右上の図から続き、右の列を下へ進む。ハンドルウェハ48上にデバイスウェハ41を含むシリコン・オン・インシュレータ(SOI)・ウェハをステップa0aに示す。回転子はデバイスウェハ41内に形成され、デバイスウェハ41は、以下、シリコンウェハと呼ぶ。
【0040】
シリコンウェハ41上に光抵抗性材料420を堆積させ(ステップa0b)、この材料をパターニングして、第1エッチングマスク42を回転子の上面に形成する(ステップa1)。第1エッチングマスク42は、回転子本体および/または1以上の固定子電極から1以上の回転子電極を分離する分離領域の水平寸法を規定する。次に、第1エッチングマスク42によって保護されていない回転子の領域に、プラズマエッチング工程で複数の第1溝43をエッチングする(ステップa2)。第1エッチングマスク42を任意選択で除去した(ステップa2b)後、複数の第1溝43にセルフサポート材料440を充填する(ステップa3)。次に、シリコンウェハ上に別のマスク材料450を堆積させ(ステップa3a)、パターニングして(ステップa4)、1以上の回転子電極の水平寸法を規定するように、充填溝エッチングマスク45を分離領域に隣接して回転子の上面に形成する。次に、充填溝エッチングマスク45によって保護されていない回転子の領域に、1以上の充填溝46をエッチングし(ステップa5およびa5a)、その後、ステップb1およびb2を行うことができる。この方法は、高密度材料が充填溝にしか残らないように、例えばプラズマエッチング工程において、シリコンウェハの上面から高密度材料を除去する任意選択の次のステップ(ステップb2a)を含んでもよい。その後、セルフサポート材料を複数の第1溝から除去し(ステップc1)、その結果、ここで複数の第1溝の空きスペースが分離領域になる。そして、シリコンウェハ41をハンドルウェハ48に付着させている接着層の除去を行うことによって、高密度回転子電極47をシリコンウェハからリリースすることができる(ステップc1)。1以上の回転子電極47は、示したxz平面からy方向に離れたポイント(図示せず)において回転子本体に取り付けられている。
【0041】
言いかえれば、ステップa3、a3aおよびa4においてセルフサポート材料440により形成された仮壁44間に複数の充填溝46をエッチングすることによって、シリコンウェハ内に高密度回転子電極47を形成することができる。セルフサポート材料は、仮壁材料とも呼び得る。本明細書において、「セルフサポート」という用語は、この材料が、シリコン壁で支持されていない場合でも自重で(または、製造工程中に当該材料に影響を及ぼし得るであろう他の要因から)崩壊も変形もすべきでないことを指す。例えばステップb1に示すように、仮壁44は、複数の充填溝46がエッチングされる場合でも、複数の第1溝43の位置によって規定された位置に立ったままである。中壁44は、支持されていない壁を示す。1以上の回転子電極が多数のフィンガー電極を含む実用的実施形態では、セルフサポート仮壁44の大部分は、通常支持されていないであろう。
【0042】
セルフサポート材料440は、例えば二酸化ケイ素であってもよく、例えば、前駆体としてオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)が使用される化学蒸着工程において堆積させてもよい。あるいは、セルフサポートエッチングマスク材料は、化学蒸着工程またはスピンオングラス工程において堆積する二酸化ケイ素または窒化ケイ素であってもよい。また、セルフサポートエッチングマスクの材料は、金属、例えば、PVD工程において堆積するアルミニウム、または原子層堆積によって堆積する酸化アルミニウムAl2O3であってもよい。他の代替物としては、蒸着またはスプレーコーティングによって堆積する、ポリイミドなどのポリマーまたはフォトレジストが挙げられる。
【0043】
実際には、セルフサポート材料に必要な物理的特性は、シリコンウェハにエッチングされる微小機械構造体の寸法、特に第1溝43の寸法に依存する。複数の第1溝43がx方向に比較的広い場合、比較的可撓性を有しかつ/または展性を有する材料440であってもロバストな仮壁44を形成することができる。より狭い寸法では、仮壁44が処理中に変形しないことを確実にするように、より剛性を有しかつ/またはより頑丈な材料440が必要となる。
【0044】
複数の充填溝46は、ステップb1に示すように、薄いシリコン基部49が各回転子電極47の底部を形成するようにシリコンウェハ41をほぼすべて貫通してエッチングしてもよい。次に、高密度材料470は、下にある基部49上に堆積する。基部49が薄い場合、または基部49がステップc1の後に除去される場合には、高密度材料とシリコン回転子との間の接着は、高密度回転子櫛構造体が回転子本体に取り付けられているポイントにおいて当該高密度回転子櫛構造体の重量を確実に支持するために、十分に強くするべきである。
【0045】
図4はSOIウェハ上で行う工程を示すが、別の方法でハンドルウェハに付着させたシリコンウェハに対しても、僅かな変更を加えて同じ工程を用いることができる。シリコンウェハは、例えば、ハンドルウェハとシリコンウェハとの間に空きスペース(またはキャビティ)ができるようにハンドルウェハ上方に懸架してもよい。
【0046】
図5は、少なくとも第2水平領域の下にキャビティ52を有するシリコンウェハ51内に高密度回転子電極を製造する工程をより詳細に示す。シリコンウェハ51は、キャビティ壁の外側のハンドルウェハ58上に位置する。この場合、キャビティ上方に可動回転子が形成され、可動回転子は、デバイス使用時に部分的にキャビティ内およびキャビティ外に動き得る。
図5の参照番号540、550、570および54~59は、それぞれ
図4の参照番号440、450、470および44~49に対応する。
図5のステップa3の前に行うステップも、
図4のステップa0a~a2bに対応する。キャビティ52の存在は、これらのステップに影響を及ぼさない。複数の第1溝は、
図4のステップa2においてシリコンウェハ41を貫通してエッチングするのと全く同じように、シリコンウェハ51を貫通してエッチングする。
図5のステップb1~b2aも、
図4のステップb1~b2aに直接対応する。
【0047】
セルフサポート材料540は、先の例において言及した材料のうちのいずれであってもよい。しかしながら、考えられる材料の範囲は、選択された堆積方法によって制限される可能性があり、その逆も同様である。
図5は、第1溝の深さ-幅アスペクト比が大きい場合にセルフサポート壁54がとり得る形状を概略的に示し、セルフサポート材料540は蒸着工程において堆積させる。一方、
図4に示した形状は、セルフサポート材料を原子層堆積によって堆積させる場合にセルフサポート壁がとる形状に対応する。
【0048】
通常、蒸着工程では第1溝の底部よりも上部が速く充填されるため、とがった断面を有する空きスペースが複数の第1溝に形成されている(ステップa3)ことが
図5から分かる。次に、複数の充填溝56をエッチングする際(ステップb1)、同じとがった断面は、セルフサポート壁54内に保持される。このことは、セルフサポート材料540に利用可能な材料選択または堆積方法を時々制限することがある。壁54は、下からの追加的支持なしでステップb2aにおいて高密度領域57の重量の一部を保持するために、十分な構造的完全性を有するべきである。しかしながら、一旦(例えばステップc1aにおいて)高密度回転子電極の形成が完了すると、取付ポイントは別のy座標に位置することから、全重量は
図57に示していない取付ポイントにおいて回転子本体によって保持される。
【0049】
一旦ステップb2において高密度回転子電極57が形成されると、高密度材料が充填溝にしか残らないように高密度材料の余分な層をステップb2aのプラズマエッチング工程において除去してもよい。次に、セルフサポート材料を複数の第1溝から除去し(ステップc1)、その結果、この領域が分離領域になる。複数の充填溝56は、好ましくは、適切な厚さの基部59が各充填溝の下にできるような深さまでエッチングするべきである(ステップb1)。この基部59は、セルフサポート材料の除去後、高密度領域の下に残る。この場合、基部59は、セルフサポート材料を除去した後、キャビティ52内で等方性エッチングを行うことによって高密度回転子櫛構造体57から完全に除去してもよい(ステップc1a)。
【0050】
図6は、回転子本体内に高密度領域を設ける方法を示す。ステップb1およびb2を再び示しており、参照番号65、66および670は、それぞれ
図4の参照番号45、46および470に対応する。この場合、複数の充填溝66は回転子本体内に形成する。複数の充填溝66には、原子層堆積工程において高密度材料670を充填する。
図4のように、高密度材料670のうちの回転子全体に積層された部分を除去し、そして工程が完了すると、高密度領域68は、最終ステップb4において回転子本体の一部を形成する。
【0051】
図6に示す工程は、引き続き、各高密度領域68の境界に沿って複数の第2溝をエッチングし、次に、下にあるウェハから高密度領域をリリースすることができるであろう。その後、先の例のように、高密度領域は高密度回転子電極を形成することができるであろう。しかしながら、高い精度および再現性が得られるように、これらの第2垂直溝のエッチングを制御するマスクを高密度領域68の境界と位置合わせすることは、通常難しい。
【0052】
図7は、
図3に示した回転子電極などの高密度回転子電極と、さらに任意選択で、同じ高密度材料からなる隣接する固定子電極とを作製する方法を示す。例えば
図6の領域68と同様に、シリコン・オン・インシュレータ・ウェハ内に高密度領域78を形成する。次に、分離溝マスク73によって保護されていない領域に1以上の分離溝74をエッチングする。複数の分離溝は、隣接する電極構造体を互いに分離してもよい。その後、少なくとも回転子の下にある領域から絶縁層77を除去する。この場合、回転子電極75は、
図7において唯一の可動部分であるが、回転子は、
図1、
図2および
図3に関して上述した構造体のうちのいずれも含むことができるであろう。デバイスウェハに固定されたままの高密度領域76は、例えば、x方向の平行板測定用の固定子電極に用いられてもよい。あるいは、固定子電極は、フィンガー状回転子電極75と互いに入り込んだフィンガー電極にすることができるであろうが、この選択肢は
図7に示していない。
【0053】
用途によっては、高密度領域がシリコンの層間に挟まれている回転子電極を意図的に製造することが好ましい場合がある。
図8は、この工程を、デバイスウェハ81がハンドルウェハ88に付着しているSOIウェハ内でどのように行い得るかについて示す。
【0054】
図8のステップb2は、
図6のステップb2に対応し、参照番号870は、
図6の670に対応する。
図8のb2に続くステップは、
図6のb2に続くステップと異なる。シリコンウェハ上に溝マスク材料890を堆積させ(ステップd1)、パターニングして溝マスク89を形成する(ステップd2)。ステップd2に示すように、溝マスク89は、各高密度領域を覆い、また、高密度領域と、隣接するシリコン領域との各境界にわたって僅かな距離だけ延在する。
【0055】
次に、DRIE工程において複数の第2垂直溝82をエッチングし(ステップd3)、溝マスク89および他の残りのマスクを除去する(ステップd4およびd5)。ここでは、各高密度回転子電極87は、シリコン壁85が両側の側面に位置する高密度領域を中央に有する。言いかえれば、高密度回転子電極87内の高密度領域は、2つのシリコン壁85に挟まれている。
図1に示したSOIウェハでは、その後、デバイスウェハ81をハンドルウェハ88に付着させる接着層をエッチング除去することによって、回転子櫛構造体をリリースする。懸架されたシリコンウェハ内で同じ工程を行う場合は、リリースステップは必要ないかもしれない。任意選択の隣接する固定子電極89も、同様のシリコン壁が側面に位置してもよい。
【0056】
いくつかの高密度材料は、シリコンウェハ内での複数の深い垂直溝のDRIEエッチング、または等方性リリースエッチングに使用されるエッチング液に反応する場合がある。他の高密度材料は、そのようなエッチング液に反応しない。
図4および
図5に示した工程において、高密度材料470/570は、好ましくは、セルフサポート壁44/54を除去するために使用されるエッチング液に反応すべきではない。