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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/235 20060101AFI20221220BHJP
   C03B 5/43 20060101ALI20221220BHJP
   C03B 5/027 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C03B5/235
C03B5/43
C03B5/027
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020527424
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2019024065
(87)【国際公開番号】W WO2020004138
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2018122157
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】愛 陸朗
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/011837(WO,A1)
【文献】特開2010-112652(JP,A)
【文献】特開2013-095639(JP,A)
【文献】特開平11-240727(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185976(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00-5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁が耐火物でなるガラス溶解炉内に貯留された溶融ガラスを通電加熱しつつ、溶融ガラス上に連続供給したガラス原料を溶解させて新たな溶融ガラスを連続生成すると共に、溶融ガラスを前記ガラス溶解炉の流出口から炉外に流出させる連続生成工程と、該連続生成工程を実行可能な状態まで前記ガラス溶解炉を立ち上げる立上工程とを備えたガラス物品の製造方法であって、
前記立上工程が、空気燃焼バーナーにより前記ガラス溶解炉内の温度を常温から上昇させる第一昇温ステップと、該第一昇温ステップの開始後に酸素燃焼バーナーにより前記ガラス溶解炉内の温度を上昇させる第二昇温ステップと、前記第二昇温ステップの開始後に、前記ガラス溶解炉内の温度が前記ガラス原料を溶解させ得る温度まで上昇した後で、前記ガラス溶解炉内に前記ガラス原料の供給を開始する原料供給開始ステップとを含むことを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス原料が、無アルカリガラス原料であることを特徴とする請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記立上工程が、供給された前記ガラス原料を溶解させて貯留した溶融ガラスの通電加熱を開始する通電加熱開始ステップをさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記第二昇温ステップの開始後に、前記耐火物の電気抵抗率よりも前記ガラス溶解炉内に貯留した溶融ガラスの電気抵抗率が低くなった後で、前記通電加熱開始ステップを行うことを特徴とする請求項3に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記耐火物は、電気抵抗率が1400℃で800Ω・cm以上である耐火物を含むことを特徴とする請求項4に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
溶融ガラスの電気抵抗率が1400℃で2000Ω・cm未満であることを特徴とする請求項5に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記第二昇温ステップの開始後に、前記空気燃焼バーナーを停止させることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項8】
前記連続生成工程では、通電加熱のみで溶融ガラスを加熱することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶解炉を用いてガラス物品の元となる溶融ガラスを連続生成する工程と、当該工程を実行可能な状態までガラス溶解炉を立ち上げる工程とを備えたガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス板、ガラス管、ガラス繊維等に代表されるガラス物品は、ガラス原料を溶解させて生成した溶融ガラスを所定の形状に成形することにより製造される。ここで、特許文献1には、ガラス溶解炉を用いて溶融ガラスを連続生成する手法の一例が開示されている。
【0003】
同文献に開示された手法では、ガラス溶解炉内に貯留された溶融ガラスを電極により通電加熱しつつ、溶融ガラス上に連続供給したガラス原料を溶解させて新たな溶融ガラスを連続生成すると共に、溶融ガラスをガラス溶解炉の流出口から炉外に流出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-183031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガラス溶解炉を稼働させるに際しては、溶融ガラスの連続生成が可能な状態まで炉を立ち上げることが必要となる。炉を立ち上げる形態の一例としては、天然ガス等の気体燃料と空気とを混合させて燃焼させる空気燃焼バーナーを用いた形態を挙げることが可能である。
【0006】
同形態では、最初に、空気燃焼バーナーの火力によりガラス溶解炉内の温度を常温から上昇させていく。そして、炉内の温度がガラス原料を溶解させ得る温度(以下、溶解可能温度と表記)まで上昇すると、炉内にガラス原料の供給を開始する。これに伴ってガラス原料を溶解させて溶融ガラスを炉内に貯留していく。最後に、電極により炉内に貯留された溶融ガラスの通電加熱を開始する。
【0007】
しかしながら、上記の形態によるガラス溶解炉の立ち上げでは、炉で生成しようとする溶融ガラスが溶解可能温度の高いガラスである場合、例えば無アルカリガラスであるような場合に、下記のような問題があった。
【0008】
すなわち、この場合においては、当然に無アルカリガラス用のガラス原料(以下、無アルカリガラス原料と表記)を炉内に供給することが必要となる。そして、この無アルカリガラス原料は他のガラス原料と比較して溶解可能温度が高いという性質がある。このことに起因して、空気燃焼バーナーの火力では、炉内の温度を安定して無アルカリガラス原料の溶解可能温度まで上昇させることができず、無アルカリガラス原料を十分に溶解させることができない不具合があった。
【0009】
そこで、上記の不具合への対策として、空気燃焼バーナーに代えて、より火力の高い酸素燃焼バーナー(気体燃料と酸素とを混合させて燃焼させるバーナー)を用いることが想定される。この酸素燃焼バーナーを用いた場合には、炉内の温度を安定して無アルカリガラス原料の溶解可能温度まで上昇させ得る。ところが一方で、炉内の温度を常温から上昇させる際に、炉壁が局所的に加熱されてしまい、炉壁を構成する耐火物(煉瓦)が熱応力に起因して破損してしまう場合があった。
【0010】
このように、空気燃焼バーナーに代えて酸素燃焼バーナーを用いることは、上記の不具合への有効な対策とはなり得ていないのが現状であり、ガラス溶解炉を好適に立ち上げるための新たな対策を講じる必要が生じていた。上記の事情に鑑みなされた本発明は、ガラス物品を製造するに際し、ガラス溶解炉を用いて溶解可能温度が高いガラスでなる溶融ガラスを連続生成するにあたって、炉の好適な立ち上げを可能とすることを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための本発明は、炉壁が耐火物でなるガラス溶解炉内に貯留された溶融ガラスを通電加熱しつつ、溶融ガラス上に連続供給したガラス原料を溶解させて新たな溶融ガラスを連続生成すると共に、溶融ガラスをガラス溶解炉の流出口から炉外に流出させる連続生成工程と、連続生成工程を実行可能な状態までガラス溶解炉を立ち上げる立上工程とを備えたガラス物品の製造方法であって、立上工程が、空気燃焼バーナーによりガラス溶解炉内の温度を常温から上昇させる第一昇温ステップと、第一昇温ステップの開始後に酸素燃焼バーナーによりガラス溶解炉内の温度を上昇させる第二昇温ステップとを含むことに特徴付けられる。
【0012】
本方法における立上工程では、空気燃焼バーナーによりガラス溶解炉内の温度を常温から上昇させる第一昇温ステップの開始後に、酸素燃焼バーナーにより炉内の温度を上昇させる第二昇温ステップを行う。これにより、炉壁を構成する耐火物を熱応力に起因した破損から保護しつつ、炉内の温度を安定してガラス原料の溶解可能温度まで上昇させることが可能となる。なお、耐火物を破損から保護できるのは、空気燃焼バーナーで予め加熱した状態の炉内を酸素燃焼バーナーで加熱することにより、炉壁の局所的な加熱が回避されるためである。以上のことから、本方法によれば、ガラス物品を製造するに際し、ガラス溶解炉を用いて溶解可能温度が高いガラスでなる溶融ガラスを連続生成するにあたって、炉の好適な立ち上げが可能となる。
【0013】
上記の方法において、ガラス原料が、無アルカリガラス原料であることが好ましい。
【0014】
無アルカリガラス原料は、溶解可能温度が高いので、上記の効果が顕著となる。
【0015】
上記の方法において、立上工程が、ガラス溶解炉内にガラス原料の供給を開始する原料供給開始ステップと、供給されたガラス原料を溶解させて貯留した溶融ガラスの通電加熱を開始する通電加熱開始ステップとをさらに含むことが好ましい。
【0016】
原料供給開始ステップ後に供給されたガラス原料を確実に溶解させて炉内に貯留できるので、通電加熱開始ステップを確実に行うことができ、貯留した溶融ガラスの通電加熱を確実に開始できる。これにより、さらに好適な炉の立ち上げが可能となる。
【0017】
上記の方法において、第二昇温ステップの開始後に、耐火物の電気抵抗率よりもガラス溶解炉内に貯留した溶融ガラスの電気抵抗率が低くなった後で、通電加熱開始ステップを行うことが好ましい。
【0018】
このようにすれば、通電加熱の対象である溶融ガラスではなく耐火物に電流が流れてしまい、耐火物が損傷してしまうような虞を的確に排除できる。
【0019】
上記の方法において、耐火物は、電気抵抗率が1400℃で800Ω・cm以上である耐火物を含むことが好ましい。
【0020】
このようにすれば、電気抵抗率が十分に高い耐火物を含むことで、通電加熱開始ステップ後にて、耐火物(炉壁)よりも溶融ガラスに電流が流れやすくなることから、耐火物が損傷する虞を排除する上で有利となる。
【0021】
上記の方法において、溶融ガラスの電気抵抗率が1400℃で800Ω・cm未満であることが好ましい。
【0022】
このようにすれば、通電加熱開始ステップ後にて、溶融ガラスの電気抵抗率が耐火物(炉壁)の電気抵抗率と比較して確実に低くなることから、耐火物(炉壁)が損傷する虞を排除する上で一層有利となる。
【0023】
上記の方法において、第二昇温ステップの開始後に、ガラス溶解炉内の温度がガラス原料を溶解させ得る温度(溶解可能温度)まで上昇した後で、原料供給開始ステップを行うことが好ましい。
【0024】
このようにすれば、原料供給開始ステップ後に供給されたガラス原料が、供給直後に溶解し始めることから、ガラス原料に含まれる成分が当該原料の溶解前に揮発して消失してしまうような事態の発生を的確に回避することが可能となる。
【0025】
上記の方法において、第二昇温ステップの開始後に、空気燃焼バーナーを停止させることが好ましい。
【0026】
このようにすれば、酸素燃焼バーナーと比較して大幅に火力が低く、炉内の温度を上昇させる上で貢献度の低い空気燃焼バーナーについて、これを第二昇温ステップの開始後に停止させることで、ガラス物品の製造コストが不当に嵩むことを回避できる。
【0027】
上記の方法において、連続生成工程では、通電加熱のみで溶融ガラスを加熱することが好ましい。
【0028】
このようにすれば、バーナーの燃焼を併用する場合と比べ、ガラス溶解炉内の雰囲気が乾燥する。このため、雰囲気中の水分が溶融ガラスに溶け込むのを防止でき、得られるガラス物品におけるβ‐OH値を低減できる。これにより、得られるガラス物品を加熱した際のコンパクションを低下させることができ、ディスプレイ用のガラス基板に好適なガラス物品を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ガラス物品を製造するに際し、ガラス溶解炉を用いて溶解可能温度が高いガラスでなる溶融ガラスを連続生成するにあたって、炉の好適な立ち上げが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における連続生成工程を示す縦断側面図である。
図2】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における連続生成工程を示す横断平面図である。
図3】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における立上工程を示す縦断側面図である。
図4】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における立上工程を示す縦断側面図である。
図5】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における立上工程を示す縦断側面図である。
図6】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における立上工程を示す縦断側面図である。
図7】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における立上工程を示す縦断側面図である。
図8】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における立上工程を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1及び図2は、ガラス溶解炉1(以下、単に炉1と表記)にて連続生成工程を実行する態様を示している。
【0033】
連続生成工程では、炉1内(溶融ガラス)の温度が操業温度(例えば1450℃~1550℃)に維持された状態の下、炉1内に貯留された溶融ガラス2を電極3によって通電加熱しつつ、溶融ガラス2の表面2a上に連続供給した無アルカリガラス原料4を順次に溶解させて新たな溶融ガラス2を連続生成すると共に、溶融ガラス2を流出口5から炉1外に流出させる。この連続生成工程では、電極3による通電加熱のみで溶融ガラス2を加熱する。
【0034】
連続生成工程で生成した無アルカリガラスでなる溶融ガラス2は、成形工程等を含む下流側工程に送り、下流側工程にて溶融ガラス2を成形する等の過程を経てガラス物品(例えば、ガラス板、ガラス管、ガラス繊維等)を製造する。
【0035】
ここで、「無アルカリガラス」とは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスであり、具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスを意味する。なお、アルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。また、本実施形態において、無アルカリガラスでなる溶融ガラス2の電気抵抗率は1400℃で800Ω・cm未満である。
【0036】
本実施形態に用いる炉1は、平面視で矩形状をなす断面形状を有する。この炉1は、炉1内での無アルカリガラス原料4の流れ方向Tにおける上流端に位置する前壁1aと、下流端に位置する後壁1bと、一対の側壁1c,1dと、天井壁1eと、底壁1fとを有する。炉壁1a~1fのうち、電極3が配置される底壁1fは、1400℃での電気抵抗率が800Ω・cm以上である高電気抵抗耐火物(例えば高ジルコニア電鋳耐火煉瓦やデンスジルコン焼成レンガ)を含む。本実施形態の底壁1fは、耐食性に優れる高耐食性耐火物(例えばジルコニア系電鋳耐火煉瓦)をさらに含む。高耐食性耐火物は、電極3を囲繞するように配置され、高電気抵抗耐火物は、高耐食性耐火物の相互間に配置される。高電気抵抗耐火物は、1400℃での電気抵抗率が1000Ω・cm以上であることがより好ましい。一方、耐火物に要するコストが増大するのを防止する観点では、高電気抵抗耐火物の1400℃での電気抵抗率が50000Ω・cm以下であることが好ましい。なお、高電気抵抗耐火物は、底壁1f全体に電流が流れるのを防止できるように配置されればよく、本実施形態の配置に限定されない。
【0037】
前壁1aには、無アルカリガラス原料4を炉1内に供給するためのスクリューフィーダー6が並列に複数基(本実施形態では、三基)配置されている。各スクリューフィーダー6は、前壁1aに形成された開口部1aaに対して隙間なく挿入されている。なお、スクリューフィーダー6から供給される無アルカリガラス原料4には、清澄剤として酸化スズが添加されている。
【0038】
ここで、本実施形態では、無アルカリガラス原料4の供給にスクリューフィーダー6を用いているが、スクリューフィーダー6以外のバッチチャージャーを用いてもよい。バッチチャージャーの一例として、振動フィーダーやプッシャー、ブランケットチャージャー等を用いてもよい。炉1内の密閉性を向上させる観点からは、スクリューフィーダー6又は振動フィーダーを用いることが好ましい。また、本実施形態では、複数基のスクリューフィーダー6を用いているが、スクリューフィーダー6の数は一基のみであってもよい。
【0039】
後壁1bには、溶融ガラス2を流出させるための流出口5が配置されている。
【0040】
側壁1cと側壁1dとの各々には、一基の空気燃焼バーナー7と一基の酸素燃焼バーナー8との対でなるバーナー対9が配置されており、本実施形態では、側壁1cに三対のバーナー対9が配置され、側壁1dに二対のバーナー対9が配置されている。なお、本実施形態で、空気燃焼バーナー7と酸素燃焼バーナー8とを対にして配置するが、空気燃焼バーナー7と酸素燃焼バーナー8の数が異なってもよい。また、空気燃焼バーナー7及び酸素燃焼バーナー8は、天井壁1eに配置してもよい。本実施形態の連続生成工程の実行中には、合計五対のバーナー対9の各々において、空気燃焼バーナー7と酸素燃焼バーナー8との両者は、いずれも稼働が停止した状態となるが、連続生成工程の実行中に、空気燃焼バーナー7及び/又は酸素燃焼バーナー8を稼働させてもよい。
【0041】
空気燃焼バーナー7は、天然ガス等の気体燃料と空気とを混合させて燃焼させるバーナーである。これに対して、酸素燃焼バーナー8は、気体燃料と酸素とを混合させて燃焼させるバーナーである。
【0042】
両バーナー7,8の各々は、図2に二点鎖線で示すように、側壁1c(側壁1d)側から対向する側壁1d(側壁1c)側に向かって火炎7a,8aを噴射することが可能である。なお、酸素燃焼バーナー8の火力は、空気燃焼バーナー7の火力と比較して大きくなっている。一方、空気燃焼バーナー7が噴射する火炎7aは、酸素燃焼バーナー8が噴射する火炎8aよりも平面視で幅広となっている。なお、本実施形態において、空気燃焼バーナー7は、稼働を停止させた状態の下で側壁1c(側壁1d)から取り外すことが可能となっている。酸素燃焼バーナー8も稼働を停止させた状態の下で側壁1c(側壁1d)から取り外し可能としてもよい。
【0043】
底壁1fに配置された電極3は棒状に形成されている。この電極3は、底壁1fから炉1内に進出した進出位置(図1で電極3が位置した位置)と、炉1内から退避した退避位置(後に言及する図3で電極3が位置した位置)との間を移動することが可能である。この電極3は、例えばモリブデンで構成されている。
【0044】
連続生成工程の実行中には、進出位置に位置して炉1内の溶融ガラス2に浸漬された状態にある電極3により溶融ガラス2を加熱する。この電極3に印加する電圧を調節することで、電極3により発生させるエネルギー(溶融ガラス2に付与する熱エネルギー)を調節することが可能である。そして、電極3が溶融ガラス2を加熱するのに伴い、溶融ガラス2の表面2a上の無アルカリガラス原料4が間接的に加熱されて溶解する。これにより、新たな溶融ガラス2が順次に生成されていく。
【0045】
ここで、本実施形態では、棒状の電極3により溶融ガラス2を加熱しているが、棒状の電極3に加えて、又は、棒状の電極3に代えて、一対の側壁1c,1dの各々に配置された板状の電極や、ブロック状の電極により溶融ガラス2を加熱するようにしてもよい。
【0046】
本実施形態では、上記の連続生成工程を実行可能な状態まで炉1を立ち上げるにあたり、下記の立上工程を実行する。
【0047】
立上工程では、空気燃焼バーナー7により炉1内の温度を常温(特に冷やしたり熱したりしない温度、例えば20℃±15℃)から上昇させる第一昇温ステップ(図3)と、酸素燃焼バーナー8により炉1内の温度を上昇させる第二昇温ステップ(図4)と、炉1内に無アルカリガラス原料4の供給を開始する原料供給開始ステップと(図5)、無アルカリガラス原料4を溶解させて貯留した溶融ガラス2の通電加熱を開始する通電加熱開始ステップ(図7)とを行う。
【0048】
最初に、立上工程を実行するための準備として、第一昇温ステップの開始前に、図3に示すように、電極3を退避位置に位置させた上で、電極3の上方を炉1の底壁1f上に載置した第一ガラス板10で覆う。このようにして、第一ガラス板10により電極3を保護する。この第一ガラス板10で電極3が覆われた状態は、炉1内の温度の上昇に伴って第一ガラス板10が溶解するまで継続する。これにより、炉1内のガスと電極3との接触を防止し、電極3の酸化を可及的に回避する。なお、第一ガラス板10と電極3との相互間に形成される空間は、ブロック状に形成された多数のガラス(図示省略)で充填している。
【0049】
ここで、本実施形態では、電極3と炉1内とを仕切るに際し、第一ガラス板10で電極3の上方を覆っているが、この限りではない。第一ガラス板10に代えて、例えばカレットで電極3の上方を覆ってもよい。第一ガラス板10及びカレットには、無アルカリガラスからなるガラス板及びカレットを用いることが好ましい。
【0050】
さらに、第一昇温ステップの開始前には、流出口5を第二ガラス板11で覆う。このようにして、第二ガラス板11により流出口5と炉1内とを仕切る。この流出口5と炉1内とが仕切られた状態は、炉1内の温度の上昇に伴って第二ガラス板11が溶解するまで継続する。これにより、炉1内と流出口5との間で酸素等のガスの往来を防止し、流出口5に含まれる白金の酸化を可及的に回避する。第二ガラス板11には、無アルカリガラスからなるガラス板を用いることが好ましい。
【0051】
ここで、本実施形態においては、第一昇温ステップの開始前に、電極3の上方を第一ガラス板10で覆うと共に、流出口5を第二ガラス板11で覆っているが、この限りではなく、これらを第一昇温ステップの開始時に行ってもよい。
【0052】
以上のようにして、立上工程を実行する準備が完了すると、次いで、図3に示すように、空気燃焼バーナー7を稼働させて火炎7aを噴射させることで、第一昇温ステップを開始する。なお、本実施形態において、第一昇温ステップの開始時には、炉1内への無アルカリガラス原料4の供給は開始されておらず、上記の第一ガラス板10および第二ガラス板11を除いて、炉1内に溶融ガラス2及び無アルカリガラス原料4が存在しない状態となっている。
【0053】
第一昇温ステップの開始後、炉1内の温度(天井壁1eの雰囲気温度)が700℃~900℃の範囲内における任意の温度まで上昇すると、第一昇温ステップから第二昇温ステップへの切り換えを行う。例えば、空気燃焼バーナー7の稼働を順次停止させると共に、酸素燃焼バーナー8の稼働を順次開始させる。最初の酸素燃焼バーナー8の稼働の開始をもって第二昇温ステップの開始となる。
【0054】
第一昇温ステップから第二昇温ステップへの切り換え後、炉1内の温度が無アルカリガラス原料4を溶解させ得る温度(以下、溶解可能温度と表記)まで上昇すると、図5に示すように、スクリューフィーダー6を稼働させて炉1内への無アルカリガラス原料4の供給を開始することで、原料供給開始ステップを行う。無アルカリガラス原料4は、一部又は全部がカレットであってもよい。
【0055】
なお、原料供給開始ステップは、炉1内の温度が溶解可能温度まで上昇している限りで、第一昇温ステップから第二昇温ステップへの切り換えの完了と同時に行ってもよい。一方で、炉1内の温度が溶解可能温度まで上昇する以前の任意の時点で原料供給開始ステップを行ってもよい。ただし、無アルカリガラス原料4に含まれる成分が当該原料4の溶解前に揮発して消失するような虞を回避する観点からは、炉1内の温度が溶解可能温度まで上昇してから原料供給開始ステップを行うことが好ましい。
【0056】
原料供給開始ステップ後には、図6に示すように、炉1内に供給された無アルカリガラス原料4が順次に溶解し、炉1内に溶融ガラス2が貯留されていく。これにより、炉1内で溶融ガラス2の表面2aの高さ位置が次第に上昇していく。なお、図6にて二点鎖線で示すように、炉1内と電極3とを仕切っていた第一ガラス板10、及び、炉1内と流出口5とを仕切っていた第二ガラス板11は、炉1内の温度の上昇に伴って順次に溶解する。
【0057】
そして、溶融ガラス2の表面2aの高さ位置が予め定めた基準位置に到達した後で、且つ、炉1内の温度の上昇に伴って各炉壁1a~1fを構成する耐火物の電気抵抗率よりも溶融ガラス2の電気抵抗率が低くなった後、図7に示すように、電極3を退避位置から進出位置に移動させる。そして、電極3に電圧を印加することで通電加熱開始ステップを行う。この時点における炉1内(溶融ガラス)の温度は、例えば1300℃~1600℃の範囲内である。なお、「耐火物の電気抵抗率よりも溶融ガラスの電気抵抗率が低くなる」とは、炉内の温度における耐火物の電気抵抗率よりも、炉内の温度における溶融ガラスの電気抵抗率が低い状態を意味する。
【0058】
その後、図8に示すように、溶融ガラス2の表面2aの高さ位置が連続生成工程を実行する際の位置まで到達すると共に、炉1内の温度が操業温度で略均一になると、炉1内の温度を維持するため、酸素燃焼バーナー8の稼働を順次停止させていく。全ての酸素燃焼バーナー8の稼働を停止させると立上工程が完了する。そして、炉1にて連続生成工程の実行が開始される。
【0059】
以下、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法による主たる作用・効果について説明する。
【0060】
上記のガラス物品の製造方法では、立上工程において、空気燃焼バーナー7により炉1内の温度を常温から上昇させる第一昇温ステップの開始後に、酸素燃焼バーナー8により炉1内の温度を上昇させる第二昇温ステップを行う。これにより、各炉壁1a~1fを構成する耐火物を熱応力に起因した破損から保護しつつ、炉1内の温度を安定して無アルカリガラス原料4の溶解可能温度まで上昇させることが可能となる。この作用により、原料供給開始ステップ後に供給した無アルカリガラス原料4を確実に溶解させて炉1内に貯留できるので、通電加熱開始ステップについても確実に行うことができる。その結果、ガラス物品を製造するに際し、炉1を用いて無アルカリガラスでなる溶融ガラス2を連続生成するにあたって、炉1の好適な立ち上げが可能となる。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0062】
上記の実施形態では、ガラス原料が、無アルカリガラス原料であったが、他の溶解可能温度が高いガラス原料を用いてもよい。例えば、ガラス原料の溶解可能温度は900℃以上とすることができ、1000℃以上であることが好ましく、1100℃以上がより好ましい。このようなガラス原料として、例えばアルミノシリケートガラスのガラス原料やソーダライムガラスのガラス原料を採用できる。
【0063】
上記の実施形態では、溶融ガラスの電気抵抗率が1400℃で800Ω・cm未満であるが、これに制限されない。1400℃での溶融ガラスの電気抵抗率は、例えば2000Ω・cm以下とすることができ、800Ω・cm未満であることが好ましい。
【符号の説明】
【0064】
1 ガラス溶解炉
1a 前壁
1b 後壁
1c 側壁
1d 側壁
1e 天井壁
1f 底壁
2 溶融ガラス
3 電極
4 無アルカリガラス原料
5 流出口
7 空気燃焼バーナー
8 酸素燃焼バーナー
10 第一ガラス板
11 第二ガラス板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8