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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20221220BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20221220BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20221220BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/028 G
H01G9/145
H01G9/15
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020531329
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028020
(87)【国際公開番号】W WO2020017530
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2018135348
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 正郎
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-100559(JP,A)
【文献】特開2009-111174(JP,A)
【文献】特開2017-199929(JP,A)
【文献】特開2004-265941(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090241(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/028
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極箔と陰極箔とを対向させて成るコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子内に形成された電解質層と、
を備え、
前記電解質層は、
ドーパントと共役系高分子を含む固体電解質層と、
前記固体電解質層が形成された前記コンデンサ素子内の空隙部に充填された液体と、
を有し、
前記電解質層は、前記ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のモル比が、0.2以上6以下であること、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記カチオン成分は前記液体のみに含まれること、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記カチオン成分は前記固体電解質層及び前記液体の両方に含まれ、
前記カチオン成分のモル比は、前記固体電解質層及び前記液体に含まれる前記カチオン成分の両方の合算であること、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記電解質層には、前記官能基1molに対する前記カチオン成分のモル比が0.2以上3.5以下であること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記電解質層には、前記官能基1molに対する前記カチオン成分のモル比が0.2以上2.8以下であること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記ドーパントは、ポリスチレンスルホン酸であること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記液体は、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン又は両方を含むこと、
を特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
前記エチレングリコールは、前記液体中50wt%以上を含むこと、
を特徴とする請求項7記載の固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を利用した電解コンデンサは、陽極電極としての弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にして誘電体を拡面化することにより、小型で大きな容量を得ることができる。特に、誘電体酸化皮膜を固体電解質で覆った固体電解コンデンサは、小型、大容量、低等価直列抵抗であり、電子機器の小型化、高機能化、低コスト化に欠かせない。
【0003】
固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。近年は、誘電体酸化皮膜との密着性に優れたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の、π共役二重結合を有するモノマーから誘導された導電性高分子が固体電解質として急速に普及している。導電性高分子には化学酸化重合又は電解酸化重合の際に、有機スルホン酸等のポリアニオンがドーパントとして用いられ、高い導電性が発現する。
【0004】
但し、固体電解コンデンサは、コンデンサ素子に電解液を含浸させ、固体電解質層を有さない液体型の電解コンデンサと比べて、誘電体酸化皮膜の欠陥部の修復作用に乏しく、漏れ電流が増大する虞がある。そこで、陽極箔と陰極箔とを対向させたコンデンサ素子に固体電解質層を形成すると共に、コンデンサ素子の空隙に電解液を含浸させた所謂ハイブリッドタイプの固体電解コンデンサが注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-114540号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電解質と電解液とを併用した固体電解コンデンサは、ドーパントの脱ドープ反応により導電性が悪化し、固体電解コンデンサの等価直列抵抗(ESR)が上昇してしまう。この脱ドープ反応に伴うESR上昇に対し、特許文献1には、電解液中の溶質成分である酸成分と塩基成分のモル比を酸過剰にすることで、脱ドープ反応を抑制できるという報告がある。この報告では、酸成分であるドーパントと電解液中の酸成分とが平衡状態を保つため、脱ドープ反応が抑制されると推定している。
【0007】
しかしながら、固体電解コンデンサの高温環境下(例えば、115℃以上)での使用や、固体電解コンデンサを基板等へ実装する際のリフローはんだ付け工程など、固体電解コンデンサに対し熱ストレスが与えられることがある。この熱ストレスは、たとえ電解液中の溶質成分が酸過剰であっても脱ドープ反応を促進させてしまう。そのため、固体電解コンデンサのESRは、熱ストレス負荷後急上昇してしまう。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、電解質として固体電解質と液体とを有する固体電解コンデンサにおいて、熱ストレス負荷後にもESRが急上昇し難い固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、固体電解コンデンサとして、カチオン成分の量を固定してアニオン成分の量を変化させたもの、およびカチオン成分の量を変化させてアニオン成分の量を固定したものを各々作製し、これらの固体電解コンデンサに熱ストレスを負荷するためにリフロー工程を行い、その熱ストレス負荷前後のESRを測定した。なお、図1の一番左側の結果(図1において「カチオンのみ」と記載)は、アニオン成分であるアゼライン酸を添加せずに、カチオン成分であるトリエチルアミンのみを添加したものである。この結果、図1に示すように、カチオン成分の量を固定した各固体電解コンデンサの熱ストレス負荷前後におけるESR変化はほぼ同様の傾向が見られたのに対し、アニオン成分の量を固定した固体電解コンデンサは、熱ストレス負荷前後でESR変化が大きいものや小さいものが見られた。本発明者らは、この結果より、熱ストレス負荷前後で生じるESRの変化は、pHの影響や酸塩基比の影響よりも、寧ろ電解質層に含有するカチオン成分の量によって決定されるとの知見を得た。
【0010】
そこで、本発明の固体電解コンデンサは、この知見に基づきなされたものであり、陽極箔と陰極箔とを対向させて成るコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子内に形成された電解質層と、を備え、前記電解質層は、ドーパントと共役系高分子を含む固体電解質層と、前記固体電解質層が形成された前記コンデンサ素子内の空隙部に充填された液体と、を有し、前記電解質層は、前記ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のモル比が、6以下であること、を特徴とする。
【0011】
前記カチオン成分は前記液体のみに含まれ、前記官能基1molに対する前記カチオン成分のモル比が、6以下であるようにしてもよい。
【0012】
前記カチオン成分は前記固体電解質層及び前記液体の両方に含まれ、前記固体電解質層及び前記液体に含まれる前記カチオン成分の両方を合算して前記官能基1molに対する前記カチオン成分のモル比が6以下であるようにしてもよい。
【0013】
前記電解質層には、前記官能基1molに対する前記カチオン成分のモル比が3.5以下であるようにしてもよい。
【0014】
前記電解質層には、前記官能基1molに対する前記カチオン成分のモル比が2.8以下であるようにしてもよい。
【0015】
前記ドーパントは、ポリスチレンスルホン酸であるようにしてもよい。
【0016】
前記液体は、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン又は両方を含むようにしてもよい。
【0017】
前記エチレングリコールは、前記液体中50wt%以上を含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、固体電解質と液体とを併用した固体電解コンデンサにおいて、共役系高分子の脱ドープ反応を抑制して良好なESRを実現でき、熱安定性が高いため、熱ストレス負荷後のESRの上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】液体に含まれるアニオン(酸)成分とカチオン(塩基)成分の比と、リフロー前後のESRの変化との関係を示すグラフである。
図2】エチレングリコールに係り、リフロー前後のESRと、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のmol比との関係を示すグラフである。
図3】エチレングリコールに係り、リフロー前後のESRと、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のmol比との関係を示すグラフである。
図4】エチレングリコールに係り、リフロー前後のESRと、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のmol比との関係を示す溶質種別のグラフである。
図5】γ-ブチロラクトンに係り、リフロー前後のESRと、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のmol比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサについて説明する。尚、固体電解コンデンサは、例えば巻回型又は積層型の形状を有する。本実施形態では、巻回型を例示して説明するが、本発明の固体電解コンデンサはこれに限定されるものではなく、またその他説明する実施形態にも限定されるものではない。
【0021】
固体電解コンデンサは、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う受動素子であり、固体電解質層と液体とが併用された所謂ハイブリッドタイプの固体電解コンデンサである。以下、ハイブリッドタイプの固体電解コンデンサを単に固体電解コンデンサと呼ぶ。
【0022】
巻回型の固体電解コンデンサは、円筒状のコンデンサ素子が有底筒状の外装ケースに挿入され、外装ケースの開口端部に封口ゴムが装着され、開口端部の加締め加工により封止されて成る。コンデンサ素子には、電解質層が形成されており、また陽極箔及び陰極箔には、各々陽極リード及び陰極リードが接続されており、陽極リード及び陰極リードは封口ゴムから引き出される。
【0023】
このような固体電解コンデンサにおいて、コンデンサ素子は、陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回して形成されている。陽極箔の表面には誘電体酸化皮膜層が形成されている。電解質層は固体電解質層と液体とを有する。固体電解質層は、少なくとも陽極箔表面の誘電体酸化皮膜層の一部を覆うように形成されている。液体は、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子の空隙部に充填されている。
【0024】
(電極箔)
陽極箔及び陰極箔は弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極箔に関して99.9%以上が望ましく、陰極に関して99%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。
【0025】
この陽極箔及び陰極箔は、弁作用金属の粉体を焼結した焼結体、又は延伸された箔にエッチング処理を施したエッチング箔として、表面に多孔質構造を有する。多孔質構造は、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体間の空隙により成る。多孔質構造は、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流又は交流を印加する直流エッチング又は交流エッチングにより形成され、若しくは芯部に金属粒子等を蒸着又は焼結することにより形成される。陰極箔は、エッチング処理を行ってもよい。
【0026】
誘電体酸化皮膜層は、固体電解コンデンサの誘電体層であり、典型的には、陽極箔の表層に形成される酸化皮膜である。陽極箔がアルミニウム製であれば、誘電体酸化皮膜層は、多孔質構造領域を酸化させた酸化アルミニウム層である。この誘電体酸化皮膜層は、アジピン酸やホウ酸等の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加して形成される。陰極箔にも、必要に応じて薄い誘電体酸化皮膜層を形成してもよく、さらに金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物からなる層を蒸着法により形成したもの、あるいは表面に炭素を含有したものを用いても良い。陽極箔及び陰極箔の寸法は、製造する固体電解コンデンサの仕様に応じて任意に設定することができる。
【0027】
(固体電解質層)
固体電解質層は、共役系高分子とドーパントを含む。共役系高分子あるいは、ドーピングされた共役系高分子を導電性高分子とも言う。共役系高分子は、π共役二重結合を有するモノマー又はその誘導体を化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られる。共役系高分子にドープ反応を行うことで導電性高分子は高い導電性を発現する。
【0028】
共役系高分子としては、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレンなどが挙げられる。これら共役系高分子は、単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、更に2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0029】
上記の共役系高分子のなかでも、チオフェン又はその誘導体が重合されて成る共役系高分子が好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェン又はこれらの誘導体が重合された共役系高分子が好ましい。チオフェン誘導体としては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択された化合物が好ましく、チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。アルキル基やアルコキシ基の炭素数は1~16が適しているが、特に、EDOTと呼称される3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体、即ち、PEDOTと呼称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。また、3,4-エチレンジオキシチオフェンにアルキル基が付加された、アルキル化エチレンジオキシチオフェンでもよく、例えば、メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)などが挙げられる。
【0030】
ドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、アスコット酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ボロジサリチル酸、ビスオキサレートボレート酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。また、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。ドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、高分子又は単量体を用いてもよい。
【0031】
尚、ポリアニオンの数平均分子量は、1,000~2,000,000、好ましくは10,000~500,000である。数平均分子量が1,000未満では、得られる導電性高分子の導電性が不足するとともに、分散性が低下するため好ましくなく、数平均分子量が2,000,000を超えると、混合液の粘性が増加するため好ましくない。
【0032】
この固体電解質層は、例えば、モノマーと、ドーパントを放出する酸又はそのアルカリ金属塩と、酸化剤とを添加し、化学酸化重合が完了するまで攪拌し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換などの精製手段により酸化剤及び残留モノマーを除去することにより、混合液を得ることができる。酸化剤としては、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、アントラキノンスルホン酸鉄(III)等の三価の鉄塩、若しくは、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム等のペルオキソ二硫酸塩、などを使用することができ、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~60℃の範囲である。重合時間は、一般的には10分~30時間の範囲である。
【0033】
また、この固体電解質層は、例えば、モノマーと、ドーパントを放出する酸又はそのアルカリ金属塩を添加し、攪拌しながら電解酸化重合し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換などの精製手段により残留モノマーを除去することにより、混合液を得ることもできる。電解重合は、定電位法、定電流法、電位掃引法のいずれかの方法により行われる。定電位法による場合には、飽和カロメル電極に対して1.0~1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、1~10000μA/cm2の電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、飽和カロメル電極に対して0~1.5Vの範囲を5~200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~60℃の範囲である。重合時間は、一般的には10分~30時間の範囲である。
【0034】
固体電解質層の形成方法としては特に限定されず、例えば、導電性高分子の粒子又は粉末を含む分散液をコンデンサ素子に含浸させ、導電性高分子を誘電体酸化皮膜層に付着させ、固体電解質層を形成することもできる。コンデンサ素子への含浸の促進を図るべく、必要に応じて減圧処理や加圧処理を施してもよい。含浸工程は複数回繰り返しても良い。導電性高分子の分散液の溶媒は、必要に応じて乾燥により蒸散させて除去される。必要に応じて加熱乾燥や減圧乾燥を行ってもよい。
【0035】
導電性高分子の分散液の溶媒としては、導電性高分子の粒子または粉末が分散するものであれば良く、例えば水や有機溶媒又はそれらの混合物が用いられる。有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒; メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類; 酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類; ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物;エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類;3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物; アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物などを好適に例示できる。
【0036】
共役系高分子とドーパントとから成る導電性高分子を含む分散液にカチオン成分を添加してもよい。導電性高分子を含む分散液に添加するカチオン成分としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニアなどの無機アルカリや、エチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリエチルアミンのような脂肪族アミン、アニリン、ベンジルアミン、ピロール、イミダゾール、ピリジンのような芳香族アミンもしくはこれらの誘導体、N-メチル-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等の窒素含有化合物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、カルシウムアルコキシド等の金属アルコキシド、ジメチルスルホキシドなどの有機アルカリが挙げられる。これらのカチオン成分は、単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0037】
更に、導電性高分子の分散液に多価アルコールを含んでいてもよい。多価アルコールとしては、ソルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、グリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。多価アルコールは沸点が高いために乾燥工程後も固体電解質層に残留させることができ、ESR低減や耐電圧向上効果が得られる。更に、他の化合物を含んでもよい。例えば、有機バインダー、界面活性剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の慣用の添加物を添加してもよい。
【0038】
(液体)
液体は、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子の空隙に充填される。固体電解質層が膨潤化する程度まで液体を含浸させてもよい。液体の含浸工程では、必要に応じて減圧処理や加圧処理を行っても良い。液体は、後述の溶媒として列記した各種のうち1種又は2種以上の混合である。この液体は、溶媒として用いられ、後述の溶質や添加剤を含んでいてもよい。後述の溶質を含む液体を電解液とも言う。
【0039】
まず、溶媒としてはプロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒が挙げられ、単独又は2種類以上が組み合わせられる。また、溶質としては、アニオン成分やカチオン成分が含まれる。溶質は、典型的には、有機酸の塩、無機酸の塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物の塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を別々に液体に添加してもよい。
【0040】
溶媒であるプロトン性の有機極性溶媒としては、一価アルコール類、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類などが挙げられる。一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール、ポリエチレングリコールやポリオキシエチレングリセリンなどの多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。なかでも、溶媒はエチレングリコールが好ましい。エチレングリコールにより、導電性高分子の高次構造の変化が起こり、初期のESR特性が良好であり、さらには高温特性も良好となる。エチレングリコールは、液体中50wt%以上であればなおよい。
【0041】
溶媒である非プロトン性の有機極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、オキシド系などが代表として挙げられる。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。オキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0042】
溶質としてアニオン成分となる有機酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、レゾルシン酸、フロログルシン酸、没食子酸、ゲンチシン酸、プロトカテク酸、ピロカテク酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等のカルボン酸や、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジアゼライン酸、ボロジ安息香酸、ボロジマレイン酸、ボロジ乳酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジ(2-ヒドロキシ)イソ酪酸、ボロジレゾルシン酸、ボロジメチルサリチル酸、ボロジナフトエ酸、ボロジマンデル酸及びボロジ(3-ヒドロキシ)プロピオン酸等が挙げられる。
【0043】
また、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩としては、例えばアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウム塩としては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。アミン塩としては、一級アミン、二級アミン、三級アミンの塩が挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミン等、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0044】
さらに、液体には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリエチレングリコールやポリオキシエチレングリセリンなどの多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、p-ニトロベンジルアルコールなど)、リン酸エステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。添加剤の添加量は特に限定されないが、固体電解コンデンサの特性を悪化させない程度に添加することが好ましく、例えば液体中60wt%以下である。上記添加剤の中でも、耐電圧向上を目的として、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、特にポリエチレングリコールや、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物を添加したり、コンデンサ中のガス吸収を目的としてニトロ化合物を添加することが好ましい。
【0045】
(電解質層成分比)
まず、以下説明する、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオンのモル比とは、ドーパントが有する官能基のうち、ドープ反応に寄与することが可能である官能基1molに対するカチオンのモル比である。ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基のすべてが、共役系高分子のドープ反応に関与している必要はなく、例えば、ドープ反応に寄与できる官能基の一部がドーピングされ、残りの部分がドーピングされていなくてもよい。また、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基のすべてがドーピングされていてもよい。即ち、ドーパントが有する官能基のうち、ドープ反応に関与している官能基ではなく、ドープ反応に寄与することが可能な官能基1molに対するカチオン成分のモル比が重要である。以下、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基をドープ能官能基と呼称する。また、カチオン成分を単にカチオンとも言う。
【0046】
電解質層において、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比を6以下とする。この範囲であると、熱ストレス負荷後も固体電解コンデンサのESRが低く抑えられる。熱ストレス負荷とは、リフロー工程時や、高温環境下での固体電解コンデンサの使用時などの、固体電解コンデンサへ熱ストレスがかかる状況全般のことを指す。
【0047】
これに限定されるわけではないが、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比を6以下とするとESRが低く抑えられるのは、次の理由によるものと推測される。即ち、カチオン成分は、ドーパントを中和し、導電性高分子をバイポーラロンからポーラロンに移行させ、導電性高分子の導電性を向上させ、固体電解コンデンサのESRを低下させる。また、熱ストレスは、カチオン成分によるドーパントの中和作用を促進することで、導電性高分子をバイポーラロンからポーラロンに移行させる第1現象と、カチオン成分のドーパントへの作用を促進することで、ドーパントの脱ドープ反応が起こりやすくする第2現象とを生じさせる。そして、第1現象と第2現象のバランスは、ドープ能官能基1molに対するカチオン成分のモル比が関係すると推測される。
【0048】
この結果、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比が3.5超且つ6以下であれば、熱ストレス負荷による第2現象が比較的抑制されて熱ストレス負荷による第1現象の影響が残り、導電性高分子をバイポーラロンからポーラロンへ移行させているものと考えられる。一方、この当該モル比が6超となると、第2現象が大きく優位となり、その結果、熱ストレス負荷後のESRが大きくなってしまう。
【0049】
特に、液体の溶媒中にエチレングリコールが含まれる場合、電解質層において、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比を3.5以下とすることが好ましい。当該モル比が2.8超且つ3.5以下であれば、熱ストレス負荷による第1現象の影響が大きくなり、熱ストレス負荷後で固体電解コンデンサのESRの上昇が、3.5超且つ6以下の範囲と比べて低く抑制され、その結果、熱ストレス負荷後も固体電解コンデンサのESRを更に低く維持できる。更に、液体の溶媒中にエチレングリコールが含まれる場合、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比は2.5超且つ2.8以下が好ましい。当該モル比が2.5超且つ2.8以下であれば、熱ストレス負荷による第1現象と第2現象とが拮抗し、熱ストレス負荷前後で固体電解コンデンサのESRの変化が無く、その結果、熱ストレス負荷後も固体電解コンデンサのESRを更に低く維持できる。
【0050】
更に、液体の溶媒中にエチレングリコールが含まれる場合、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比は2.5以下が好ましい。当該モル比が2.5以下となると、熱ストレス負荷による第1現象が第2現象よりも優位に働き、熱ストレス負荷後のESRが熱ストレス負荷前のESRと比較して同等又は低く抑えられる。
【0051】
また、液体の溶媒中にγ-ブチロラクトンが含まれる場合、電解質層において、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比を1.4以下とすることが好ましい。当該モル比が1.4以下であれば、熱ストレス負荷による第1現象と第2現象とが拮抗し、熱ストレス負荷前後で固体電解コンデンサのESRの変化が無く、その結果、熱ストレス負荷後も固体電解コンデンサのESRを更に低く維持できる。
【0052】
ここで、電解質層に含まれるカチオン成分とは、液体由来、固体電解質層由来を問わず、電解質層内に含まれるカチオン成分の総量である。具体的には、固体電解質層にカチオン成分を含有させ、液体にカチオン成分を含有しない場合、電解質層に含まれるカチオン成分とは、固体電解質層由来のカチオン成分であり、固体電解質層由来のカチオン成分の総量を、ドープ能官能基1molに対して規定する。また、固体電解質層にカチオン成分を含有させず、液体にカチオン成分を含有させた場合、電解質層に含まれるカチオン成分とは、液体由来のカチオン成分であり、液体中のカチオン成分は、ドープ能官能基1molに対して規定する。さらに、固体電解質層及び液体の双方にカチオン成分を含有させた場合、電解質層に含まれるカチオン成分とは、固体電解質層由来のカチオン成分及び液体由来のカチオン成分の総量を、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対して規定する。また、電解質層にカチオン成分が含まれず、カチオン成分がゼロでもよい。
【0053】
ドープ能官能基は、特に限定されず、無機酸やスルホ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基などが挙げられる。ここで、共役系高分子に電子を受け入れやすいアクセプター、もしくは電子を与えやすいドナーを少量添加することで導電性を発現する。共役系高分子にアクセプターやドナーを加えると、アクセプターの場合には共役系高分子からπ電子が引き抜かれて負の荷電単体(正孔、ホール)が、ドナーの場合は電子が供給されて負の荷電担体ができ、導電性を発現する。
【0054】
尚、電解質層中には、アニオン成分とカチオン成分が等量で含有されていても、アニオン成分に比べてカチオン成分が過剰に含有されていても、カチオン成分に比べてアニオン成分が過剰に含有されていてもよい。即ち、電解質層中の酸成分と塩基成分のモル比は何れでもよい。電解質層に含まれるカチオン成分が、ドープ能官能基1molに対して規定されれば、アニオン成分とカチオン成分が等量、カチオン成分過剰、又はアニオン成分過剰の何れであっても、熱ストレス負荷後も固体電解コンデンサのESRが低く抑えられる。
【0055】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等があげられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【実施例
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0057】
電解質層中のカチオン成分とアニオン成分の量を変化させて実施例1乃至26並びに比較例1及び2の固体電解コンデンサを作製し、リフロー工程又は高温環境下放置による熱ストレス負荷を与え、この熱ストレス負荷前後のESRを測定した。各固体電解コンデンサの共通点は次の通りである。
【0058】
即ち、陽極箔は、アルミニウム箔であり、エッチング処理により拡面化し、化成処理により誘電体酸化皮膜を形成した。陰極箔は、プレーン箔即ちエッチング未処理のアルミニウム箔とした。これら陽極箔と陰極箔の各々にリード線を接続し、マニラ系セパレータを介して陽極箔と陰極箔を対向させて巻回した。これにより、直径6.1mm×高さ6.3mmのコンデンサ素子が作製された。このコンデンサ素子は、リン酸二水素アンモニウム水溶液に10分間浸漬されることで、修復化成が行われた。
【0059】
次に、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を準備し、各実施例及び比較例に応じてカチオン成分を添加した。実施例16乃至20及び比較例2のカチオン成分として水酸化ナトリウムを用い、実施例21乃至24はカチオン成分としてトリエチルアミンを用いた。この分散液にコンデンサ素子を浸漬し、コンデンサ素子を引き上げ、150℃で30分間乾燥させた。浸漬及び乾燥を複数回繰り返した。これにより、コンデンサ素子に固体電解質層を形成した。
【0060】
また、エチレングリコールに対して、アニオン成分となるアゼライン酸やカチオン成分となるトリエチルアミンを添加して液体を作製した。そして、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を液体に浸漬した。このコンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した。
【0061】
各固体電解コンデンサは、電圧印加によってエージング処理した。作製した各固体電解コンデンサの定格容量は47μFであった。これら固体電解コンデンサに対して、常温である20℃にて熱ストレス負荷前のESRを測定した。その後、実施例1乃至24、実施例26並びに比較例1及び2は、熱ストレス負荷による影響を確認するためにピーク温度260℃のリフロー工程を行い、常温にて放置後、このリフロー工程による熱ストレス負荷後のESRを測定した。また、実施例25は、150℃で60時間放置し、常温にて放置後、この高熱環境下での放置による熱ストレス負荷後のESRを測定した。
【0062】
ここで、ドーパントとして用いたPSSは全種の固体電解コンデンサで同じある。作製した各固体電解コンデンサは、下記表1に示すように、固体電解質層に含まれるカチオン成分の量、電解液(液体)に含まれるアニオン成分の量、及び電解液(液体)に含まれるカチオン成分の量が異なる。従って、下記表1に示すように、各固体電解コンデンサは、ドープ能官能基1molに対する電解質層に含まれるカチオン成分のmol比が異なる。その成分比を、各固体電解コンデンサのリフロー前後のESRも共に、下記表1に示す。表1中の「電解液」は「液体」のことを指す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、実施例1乃至12、実施例26及び比較例1までは、固体電解質層にカチオン成分を未添加とし、液体中のアニオン成分の量を固定し、液体中のカチオン成分をアニオン成分に対して未添加から等量を経て過剰となるように変化させた。実施例13乃至15までは、固体電解質層にカチオン成分を未添加とし、液体中のカチオン成分の量を固定し、液体中のアニオン成分をカチオン成分に対して未添加から過剰となるように変化させた。実施例16乃至20及び比較例2までは、固体電解質層のカチオン成分の量を固定し、液体中のアニオン成分の量を固定し、液体中のカチオン成分をアニオン成分に対して未添加から等量を経て過剰となるように変化させた。実施例21乃至24までは、固体電解質層のカチオン成分の量を変化させ、液体中のアニオン成分及びカチオン成分を未添加とした。
【0065】
ここで、実施例8-2を除き、コンデンサ素子に含浸させた液体(電解液)の量は、全実施例及び比較例において同じである。実施例8-2は、電解液の量を実施例8の2倍量としたこと以外は実施例8と同じである。即ち、実施例8-2の電解液100gに対するアニオン成分量およびカチオン成分量はともに17mmolであり、実施例8と同一である。ただし、実施例8の電解質層中全体のドープ能官能基1molに対するカチオン成分のmol比は2.8であるが、電解液量を2倍とした実施例8-2の電解質層中全体のドープ能官能基1molに対するカチオン成分のmol比は5.6となる。実施例25は実施例8と作製方法は同様であるが、熱ストレスを負荷するためにリフロー工程ではなく、150℃で60時間放置した。
【0066】
また、図2は、表1のリフロー前後のESRと、ドープ能官能基1molに対するカチオン成分のmol比との関係を示すグラフである。図2中、第1系列は、リフロー前のESRの変化を表し、液体中のアニオン成分を固定した実施例1乃至12(実施例8-2を除く)、実施例26及び比較例1を含む系列である。第2系列は、第1系列のリフロー後のESRの変化を表し、液体中のアニオン成分を固定した実施例1乃至12(実施例8-2を除く)及び比較例1を含む系列である。第3系列は、リフロー前のESRの変化を表し、固体電解質層中のカチオン成分の量を固定した実施例16乃至20及び比較例2を含む系列である。第4系列は、第3系列のリフロー後のESRの変化を表し、固体電解質層中にカチオン成分の量を固定し、液体中のアニオン成分の量を固定した実施例16乃至20及び比較例2を含む系列である。第5系列は、リフロー前のESRの変化を表し、液体中のアニオン成分及びカチオン成分の量を固定した実施例21乃至24を含む系列である。第6系列は、第5系列のリフロー後のESRの変化を表し、液体中のアニオン成分及びカチオン成分の量を固定した実施例21乃至24を含む系列である。
【0067】
図3は、表1のリフロー前後のESRと、ドーパントとして寄与する官能基1molに対するカチオン成分のmol比との関係を示すグラフである。図3中、第1系列は、リフロー前のESRの変化を表し、電解質層中のカチオン成分を固定し、液体中のアニオン成分を変化させた実施例13乃至15を含む系列である。図3中、第2系列は、第1系列のリフロー後のESRの変化を表し、電解質層中のカチオン成分を固定し、液体中のアニオン成分を変化させた実施例13乃至15を含む系列である。
【0068】
表1の実施例1乃至12(実施例8-2を除く)、実施例26及び比較例1、及び図2の第2系列からわかるように、固体電解コンデンサは、リフロー後のESRが、アニオン成分の量ではなく、カチオン成分の増加に応じて高くなっていることが確認できる。表1の実施例13乃至15、図3からわかるように、固体電解コンデンサは、リフロー後のESRが、アニオン成分の量を変化させても、カチオン成分の量を固定すると変化しないことが確認できる。
【0069】
また、図2の第1系列乃至第4系列との対比によりわかるように、第1系列と第2系列、及び第3系列と第4系列とは、カチオン成分量の変化に対するリフロー前後のESRの変化の挙動が各々類似しており、固体電解質層由来のカチオン成分であるか、液体由来のカチオン成分であるかに関わらず、電解質層中のカチオン成分の総量によってESRが変化することが確認できる。
【0070】
そして、表1、図2及び図3に示されるように、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比が2.5以下であれば、リフロー後のESRがリフロー前のESRよりも同等又は低下することが確認できる。また、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比が2.5超且つ2.8以下であれば、熱ストレス負荷前後で固体電解コンデンサのESRの変化が無く、その結果、熱ストレス負荷後も固体電解コンデンサのESRを更に低く維持できることが確認できる。また、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比が2.8超且つ3.5以下であれば、熱ストレス負荷後での固体電解コンデンサのESRの上昇が抑制され、その結果、熱ストレス負荷後も固体電解コンデンサのESRを更に低く維持できることが確認できる。また、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比が3.5超且つ6以下であれば、カチオン成分の増加とともに熱ストレス負荷後のESRが高くなってはいくものの、それでも比較例1と比べて40%程度に抑えられていることが確認できる。
【0071】
また、実施例8-2は、電解液100gに対するアニオン成分量およびカチオン成分量はともに17mmolであり、実施例8と同一であるが、電解液量を実施例8の2倍としており、電解質層中全体のドープ能官能基1molに対するカチオン成分のmol比は、実施例12と同じ5.6となっている。この実施例8-2の熱ストレス負荷後のESRは、表1に示すように、実施例12と同等である。この結果より、電解液量又はカチオン成分の濃度が変化しても電解質層中のカチオン成分の総量が同一であれば、熱ストレス負荷前後のESRが同等になることが確認できる。
【0072】
また、表1に示されるように、実施例8および実施例25は、作製方法は同様であるが、熱ストレス負荷方法が異なる。実施例8はリフロー工程を行い、実施例25はリフロー工程を行わずに150℃で60時間放置したものである。実施例8および実施例25の熱ストレス負荷後のESRはほぼ同等であり、熱ストレス負荷の方法や負荷される温度が異なっていても、熱ストレスを負荷する時間により同様の結果が得られることが確認できる。
【0073】
尚、図2において、第3系列および第5系列において、ドープ能官能基1molに対するカチオン成分のモル比が2.5以下で熱ストレス負荷前後でのESRが同等である理由は、固体電解質層形成時の乾燥工程で熱ストレスを与えることにより、カチオン成分のドーパントへの作用が促進され、導電性高分子の導電性が向上したと考えられる。
【0074】
更に、実施例27乃至32並びに比較例3乃至5の固体電解コンデンサを作製し、リフロー工程による熱ストレス負荷を与え、この熱ストレス負荷前後のESRを測定した。その結果を溶質種及び成分比と共に下記表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、実施例27乃至32並びに比較例3乃至5は、実施例1乃至26並びに比較例1及び2と比べて溶質種が異なる。実施例27、実施例28及び比較例3は、アニオン成分として安息香酸が用いられ、カチオン成分としてジエチルアミンが用いられている。実施例29、実施例30及び比較例4は、アニオン成分として1,6-デカンジカルボン酸が用いられ、カチオン成分としてエチルジメチルアミンが用いられている。実施例31、実施例32及び比較例5は、アニオン成分としてフタル酸が用いられ、カチオン成分としてトリメチルアミンが用いられている。実施例27乃至32並びに比較例3乃至5は、固体電解質層にカチオン成分を未添加とし、液体中のアニオン成分の量を固定し、液体中のアニオン成分を同一溶質種のグループごとに変化させている。その他の固体電解コンデンサの作製方法等は、実施例1乃至26並びに比較例1及び2と全て共通である。
【0077】
図4は、表2のリフロー前後のESRと、ドープ能官能基1molに対するカチオン成分のmol比との関係を示すグラフである。図3中、第1系列は、リフロー前のESRの変化を表し、実施例27、実施例28及び比較例3を含む系列である。第2系列は、第1系列に含まれる実施例27、実施例28及び比較例3のリフロー後のESRの変化を表す。第3系列は、リフロー前のESRの変化を表し、実施例29、実施例30及び比較例4を含む系列である。第4系列は、第3系列に含まれる実施例29、実施例30及び比較例4のリフロー後のESRの変化を表す。第5系列は、リフロー前のESRの変化を表し、実施例31、実施例32及び比較例5を含む系列である。第6系列は、第5系列に含まれる実施例31、実施例32及び比較例5のリフロー後のESRの変化を表す。
【0078】
表2及び図4からわかるように、固体電解コンデンサは、アニオン成分及びカチオン成分の種類に関係なく、電解質層中のカチオン成分の総量によってESRが変化することが確認できる。
【0079】
そして、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比が2.5超且つ2.8以下であれば、熱ストレス負荷前後で固体電解コンデンサのESRの変化が無く、その結果、熱ストレス負荷後も固体電解コンデンサのESRを更に低く維持できることも確認できる。また、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比が3.5超且つ6以下であれば、カチオン成分の増加とともに熱ストレス負荷後のESRが高くなってはいくものの、それでも各比較例と比べて大幅に抑えられていることが確認できる。
【0080】
以上より、固体電解コンデンサは、熱ストレス負荷後のESRが、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対する、電解質層中のカチオン成分の量に関係し、カチオン成分のモル比が6以下であれば熱ストレス負荷後のESRは良好となり、カチオン成分のモル比が3.5以下であれば熱ストレス負荷後のESR上昇を抑制することができ、カチオン成分のモル比が2.8以下であれば熱ストレス負荷後のESRは低く維持され、カチオン成分のモル比が2.5以下であれば熱ストレス負荷後のESRが熱ストレス負荷前のESRよりも低く抑えられるものである。そして、この効果は、カチオン成分とアニオン成分の種類に依らないものである。
【0081】
更に、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子の空隙に充填される液体に含まれる溶媒をエチレングリコールからγ-ブチロラクトンに代えて、実施例33乃至実施例41並びに比較例6及び7の固体電解コンデンサを作製した。実施例33乃至実施例41並びに比較例6及び7の固体電解コンデンサの共通点は、液体がγ-ブチロラクトンを含む他は、実施例1乃至26並びに比較例1及び2の共通点と同じである。即ち、γ-ブチロラクトンに対して、アニオン成分となるアゼライン酸やカチオン成分となるトリエチルアミンを添加して液体を作製し、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)によって固体電解質層を形成している。
【0082】
実施例33乃至実施例41並びに比較例6及び7の固体電解コンデンサについて、電圧印加によってエージング処理した後、常温である20℃にて熱ストレス負荷前のESRを測定した。その後、実施例33乃至実施例41並びに比較例6及び7の固体電解コンデンサについて、熱ストレス負荷による影響を確認するためにピーク温度260℃のリフロー工程を行い、常温にて放置後、このリフロー工程による熱ストレス負荷後のESRを測定した。
【0083】
ここで、実施例33乃至実施例41並びに比較例6及び7の固体電解コンデンサは、下記表3に示すように、電解液(液体)に含まれるアニオン成分の量、及び電解液(液体)に含まれるカチオン成分の量が異なり、従ってドープ能官能基1molに対する電解質層に含まれるカチオン成分のmol比が異なる。その成分比を、各固体電解コンデンサのリフロー前後のESRも共に、下記表3に示す。表3中の「電解液」は「液体」のことを指す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示すように、実施例33乃至実施例41並びに比較例6及び7までは、固体電解質層にカチオン成分を未添加とし、液体中のアニオン成分の量を固定し、液体中のカチオン成分をアニオン成分に対して未添加から等量を経て過剰となるように変化させた。図5は、表3のリフロー前後のESRと、ドープ能官能基1molに対するカチオン成分のmol比との関係を示すグラフである。図5中、第1系列は、リフロー前のESRの変化を表し、液体中のアニオン成分を固定した実施例33乃至実施例41並びに比較例6及び7を含む系列である。第2系列は、第1系列のリフロー後のESRの変化を表し、液体中のアニオン成分を固定した実施例33乃至実施例41並びに比較例6及び7を含む系列である。
【0086】
表3及び図5の第2系列からわかるように、液体がγ-ブチロラクトンを含んでいても、固体電解コンデンサは、リフロー後のESRが、カチオン成分の増加に応じて高くなっていることが確認できる。そして、表3、図5に示されるように、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比が6以下であれば、カチオン成分の増加とともに熱ストレス負荷後のESRが高くなってはいくものの、それでも比較例7と比べて75%程度に抑えられていることが確認できる。更に、表3、図5に示されるように、ドープ能官能基1molに対するカチオンのモル比が1.4以下であれば、熱ストレス負荷前後で固体電解コンデンサのESRの変化が無く、その結果、熱ストレス負荷後も固体電解コンデンサのESRを更に低く維持できることが確認できる。
【0087】
以上より、固体電解コンデンサは、液体に含まれる溶媒の種類に関わらず、熱ストレス負荷後のESRが、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対する、電解質層中のカチオン成分の量に関係し、カチオン成分のモル比が6以下であれば熱ストレス負荷後のESRは良好となるものである。
【0088】
本実施例では多価アルコール等の添加剤を含まない導電性高分子の分散液を用いたが、これに限定されるものではない。導電性高分子の分散液に多価アルコールを添加しても、熱ストレス負荷前後でのESRの変化の傾向は多価アルコールを添加していない場合と同等である。本実施例で用いた導電性高分子の分散液に多価アルコールを添加してESRの値を一桁程度低下させることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5