(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/06 20060101AFI20221220BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20221220BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20221220BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20221220BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221220BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08L9/06
C08K3/36
C08K5/09
C08K5/54
B60C1/00 A
B60C11/00 B
B60C11/00 D
(21)【出願番号】P 2021097864
(22)【出願日】2021-06-11
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】川口 玲
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/065983(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017449(WO,A1)
【文献】特開2012-246411(JP,A)
【文献】特開2019-199523(JP,A)
【文献】特開2019-052220(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135530(WO,A1)
【文献】特開2017-141405(JP,A)
【文献】特開2019-167412(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181968(WO,A1)
【文献】特開2016-011334(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050341(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189204(WO,A1)
【文献】特開2010-275489(JP,A)
【文献】国際公開第2020/175344(WO,A1)
【文献】特開平09-165471(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0226395(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
B60C 1/00 - 19/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部を備え、前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッドとその内周側に配置されるアンダートレッドとを有するタイヤであって、
前記キャップトレッドが、ジエン系ゴムと、シリカと、シランカップリング剤と、脂肪酸金属塩と、アルキルシランとを含有するタイヤ用ゴム組成物で
構成され、
前記ジエン系ゴムは、
特定共役ジエン系ゴムおよびポリブタジエンゴムの2種のみで構成され、前記特定共役ジエン系ゴムを60質量%~95質量%
、前記ポリブタジエンゴムを5質量%~40質量%含有し、前記特定共役ジエン系ゴムは、イソプレン80質量%~95質量%と芳香族ビニル5質量%~20質量%とを含み、活性末端を有し、重量平均分子量が500~15,000である重合体ブロックAと、1,3‐ブタジエンおよび芳香族ビニルを含み、活性末端を有する重合体ブロックBとからなり、前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBとを一続きにして形成された活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の前記活性末端にポリオルガノシロキサンを反応させてなるものであり、
前記シリカは、CTAB吸着比表面積が185m
2/g以上であり、前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記シリカの配合量が55質量部~90質量部であ
り、
前記アンダートレッドと前記キャップトレッドとの硬度差がJIS‐A硬度で5以内であることを特徴とするタイ
ヤ。
【請求項2】
前記シランカップリング剤が、分子中にテトラスルフィド結合を有することを特徴とする請求項
1に記載のタイ
ヤ。
【請求項3】
前記脂肪酸金属塩の配合量が前記シリカの配合量の2質量%~8質量%であることを特徴とする請求項1
または2に記載のタイ
ヤ。
【請求項4】
前記アルキルシランの配合量が前記シリカの配合量の0.1質量%~20質量%であることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のタイ
ヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にタイヤのキャップトレッドに用いることを意図したタイヤ用ゴム組成物に関し、このタイヤ用ゴム組成物をキャップトレッドに用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両走行時の低燃費性の観点から、タイヤの転がり抵抗を低減することが求められている。また、安全性の面から、ウェット性能(ウェット路面での制動性能)の向上が求められている。このような要求に対して、タイヤのトレッド部を構成するゴム成分に、シリカを配合して、低転がり抵抗性とウェット性能とを両立する方法が知られている。しかしながら、シリカはゴム成分との親和性が低く、また、シリカ同士の凝集性が高いため、ゴム成分に単にシリカを配合してもシリカが分散せず、転がり抵抗を低減する効果やウェット性能を向上させる効果が十分に得られないという問題があった。そこで、例えば特許文献1のように、分散性の高いシランカップリング剤を併用することが検討されている。しかしながら、シランカップリング剤を併用した場合、破断強度が低下して耐摩耗性が必ずしも十分に得られず、低燃費性能、ウェット性能、および耐摩耗性能をバランスよく両立できなくなることが懸念される。そのため、これら性能を高次元でバランスよく両立するための更なる対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、低燃費性能、ウェット性能、および耐摩耗性能をバランスよく両立することを可能にしたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明のタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部を備え、前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッドとその内周側に配置されるアンダートレッドとを有するタイヤであって、前記キャップトレッドが、ジエン系ゴムと、シリカと、シランカップリング剤と、脂肪酸金属塩と、アルキルシランとを含有するタイヤ用ゴム組成物で構成され、前記ジエン系ゴムは、特定共役ジエン系ゴムおよびポリブタジエンゴムの2種のみで構成され、前記特定共役ジエン系ゴムを60質量%~95質量%、前記ポリブタジエンゴムを5質量%~40質量%含有し、前記特定共役ジエン系ゴムは、イソプレン80質量%~95質量%と芳香族ビニル5質量%~20質量%とを含み、活性末端を有し、重量平均分子量が500~15,000である重合体ブロックAと、1,3‐ブタジエンおよび芳香族ビニルを含み、活性末端を有する重合体ブロックBとからなり、前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBとを一続きにして形成された活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の前記活性末端にポリオルガノシロキサンを反応させてなるものであり、前記シリカは、CTAB吸着比表面積が185m2/g以上であり、前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記シリカの配合量が55質量部~90質量部であり、前記アンダートレッドと前記キャップトレッドとの硬度差がJIS‐A硬度で5以内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のタイヤは、上述のようにキャップトレッドを構成するゴム組成物に粒子径が小さいシリカを配合することでウェット性能を向上することができる。また、シリカを配合するにあたって、シランカップリング剤だけでなく、脂肪酸金属塩およびアルキルトリアルコキシシランを併用しているので、シリカによるウェット性能の改善に加えて、低燃費性能や耐摩耗性能の改善を図ることができる。また、ジエン系ゴムが上述の特定共役ジエン系ゴムを含むことでもシリカの分散性を向上することができる。これらの協働により、低燃費性能、ウェット性能、および耐摩耗性能を高次元でバランスよく両立することができる。尚、本発明において、「CTAB吸着比表面積」は、ISO 5794に準拠して測定するものとする。
【0007】
本発明のタイヤにおいては、上述のようにジエン系ゴムがポリブタジエンゴムを5質量%~40質量%含有する。これにより、ゴム組成物のガラス転移温度を低減することができ、耐摩耗性を向上するには有利になる。
【0008】
本発明のタイヤにおいては、シランカップリング剤が、分子中にテトラスルフィド結合を有することが好ましい。また、脂肪酸金属塩の配合量がシリカの配合量の2質量%~8質量%であることが好ましい。また、アルコキシシランの配合量がシリカの配合量の0.1質量%~20質量%であることが好ましい。
【0009】
本発明のタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部を備え、トレッド部の踏面を構成するキャップトレッドとその内周側に配置されるアンダートレッドとを有するタイヤにおけるキャップトレッドに上述のタイヤ用ゴム組成物が使用される。このとき、アンダートレッドとキャップトレッドとの硬度差がJIS‐A硬度で5以内である。これにより、操縦安定性を良好に維持しながら、ウェット性能を向上することができる。尚、本発明において「JIS‐A硬度」は、JIS‐K6253に準拠して、Aタイプのデュロメータを用いて温度20℃の条件にて測定されるデュロメータ硬さである。
【0010】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましいが、非空気式タイヤであってもよい。空気入りタイヤの場合は、その内部に空気、窒素等の不活性ガスまたはその他の気体を充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のタイ
ヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用する空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0014】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8(ベルト層7の全幅を覆うフルカバー8aとベルト層7の端部を局所的に覆うエッジカバー8bの2層)が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0015】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層10が配され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層20が配され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層30が配されている。トレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム層(トレッド部1の踏面を構成するキャップトレッド11と、その内周側に配置されたアンダートレッド12)をタイヤ径方向に積層した構造を有する。
【0016】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、主として、このようなタイヤのキャップトレッド11に用いられるものである。そのため、本発明のタイヤ用ゴム組成物が使用されるタイヤは、トレッド部1(トレッドゴム層10)がキャップトレッド11とアンダートレッド12とで構成されていれば、他の部位の基本構造は上述の構造に限定されるものではない。
【0017】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、後述の特定共役ジエン系ゴムを必ず含む。ジエン系ゴム100質量%中の特定共役ジエン系ゴムの割合は60質量%~95質量%、好ましくは70質量%~85質量%である。後述の特定共役ジエン系ゴムを含むことで、後述のシリカの分散性を向上し、低燃費性を改善することができる。特定共役ジエン系ゴムの配合量が60質量%未満であるとウェット性能が低下する。特定共役ジエン系ゴムの配合量が98質量%を超えると低燃費性や耐摩耗性が低下する。
【0018】
特定共役ジエン系ゴムは、イソプレン80質量%~95質量%と芳香族ビニル5質量%~20質量%とを含み、活性末端を有し、重量平均分子量が500~15,000である重合体ブロックAと、1,3‐ブタジエンおよび芳香族ビニルを含み、活性末端を有する重合体ブロックBとからなり、これら重合体ブロックAと重合体ブロックBとを一続きにして形成された活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の活性末端にポリオルガノシロキサンを反応させて構成された共役ジエン系ゴムである。
【0019】
上記重合体ブロックAにおける芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。これらの芳香族ビニルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
重合体ブロックAの重量平均分子量(Mw)は、上記のように500~15,000であり、好ましくは1,000~12,000、より好ましくは1,500~10,000であるとよい。重合体ブロックAの重量平均分子量が500未満であると、所望の低転がり性能とウェット性能が発現しにくくなる。重合体ブロックAの重量平均分子量が15,000を超えると、所望の低転がり性能とウェット性能の指標となる粘弾性特性のバランスが崩れる可能性がある。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の値である。
【0021】
重合体ブロックAのイソプレン単位含有量は、上記のように80~95質量%であり、好ましくは85~95質量%であり、より好ましくは87質量%~95質量%であるとよい。また、重合体ブロックAの芳香族ビニル含有量は、上記のように5~20質量%であ
り、好ましくは5~15質量%、より好ましくは5~13質量%であるとよい。
【0022】
重合体ブロックAは、イソプレンおよび芳香族ビニル以外の単量体単位を含んでもよいが、イソプレンおよび芳香族ビニル以外の単量体単位の含有量は好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは6質量%以下であるとよい。イソプレンおよび芳香族ビニル以外の単量体単位としては、例えば1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、および1,3-ヘキサジエンなどのイソプレン以外の共役ジエン;アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどのα,β-不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、および無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸または酸無水物;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル;1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、および5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。
【0023】
重合体ブロックBにおける芳香族ビニルの具体例および好適な態様は重合体ブロックAと同様であり上述のとおりである。また、重合体ブロックBの1,3‐ブタジエン単位含有量は特に限定されないが、好ましくは55質量%~95質量%、より好ましくは55質量%~90質量%であるとよい。重合体ブロックBの芳香族ビニル単位含有量は特に限定されないが、好ましくは5質量%~45質量%、より好ましくは10質量%~45質量%であるとよい。
【0024】
重合体ブロックBは、1,3‐ブタジエン単位および芳香族ビニル単位以外に、更に、その他の単量体単位を有していてもよい。その他の単量体単位を構成するために用いられるその他の単量体としては、上述した「イソプレン以外の単量体のうち芳香族ビニル以外の例」のうち1,3‐ブタジエンを除いたものや、イソプレンなどが挙げられる。重合体ブロックBのその他の単量体単位の含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下であるとよい。
【0025】
前記重合体ブロックAと前記重合体ブロックBとを一続きにして形成された活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖は、生産性の観点より、重合体ブロックA-重合体ブロックBで構成され、重合体ブロックBの末端が活性末端であることが好ましいが、重合体ブロックAを複数有していてもよいし、その他の重合体ブロックを有していてもよい。例えば、重合体ブロックA-重合体ブロックB-重合体ブロックA、および重合体ブロックA-重合体ブロックB-イソプレンのみからなるブロックなどの、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖が挙げられる。上記活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖における重合体ブロックAと重合体ブロックBとの質量比(重合体ブロックA、Bが複数ある場合は、それぞれの合計質量を基準とする)は、(重合体ブロックAの質量)/(重合体ブロックBの質量)として、好ましくは0.001~0.1、より好ましくは0.003~0.07、更に好ましくは0.005~0.05であるとよい。
【0026】
ポリオルガノシロキサンは、下記式(1)により表され、下記式(1)中、R1 ~R8 は、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X1 およびX4 は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X2 は、炭素数1~5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4~12の基であり、複数あるX2 は互いに同一であっても相違していてもよい。X3 は、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、X3 が複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数である。
【0027】
【0028】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分は上述の特定共役ジエン系ゴムの他に、ポリブタジエンゴムを配合することができる。ポリブタジエンゴムを併用する場合、その配合量は、ジエン系ゴム100質量%中に好ましくは5質量%~40質量%、より好ましくは15質量%~30質量%である。このようにポリブタジエンゴムを併用することで、ゴム組成物のガラス転移温度を低減することができ、耐摩耗性を向上するには有利になる。ポリブタジエンゴムの配合量が5質量%未満であると耐摩耗性が低下する。ポリブタジエンゴムの配合量が40質量%を超えるとウェット性能が低下する。
【0029】
ゴム成分がポリブタジエンゴムを含む場合、ポリブタジエンゴムは変性ポリブタジエンゴムであることが好ましい。変性ポリブタジエンゴムを用いることで、転がり抵抗をより小さくするのに有利になる。変性ポリブタジエンゴムは、シリカと反応性がある官能基を有することが好ましい。このような官能基として、例えばヒドロキシ基、ヒドロキシシリル基、アルコシキ基、カルボキシ基、アミノ基等を挙げることができる。変性ポリブタジエンゴムは、通常の方法で製造してもよいし、市販品の中から適宜選択して使用してもよい。
【0030】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のジエン系ゴムに対して、充填剤としてシリカが必ず配合される。本発明で使用されるシリカのCTAB吸着比表面積は185m2 /g以上、好ましくは190m2 /g~210m2 /gである。このように粒子径の小さいシリカを用いることで、ウェット性能を向上することができる。シリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。シリカは、市販されているものの中から適宜選択して使用することができる。また通常の製造方法により得られたシリカを使用することもできる。
【0031】
シリカの配合量は、上述のジエン系ゴム100質量部に対して、55質量部~90質量部、好ましくは70質量部~80質量部である。このように適度な量のシリカを配合することで、低燃費性能、ウェット性能、および耐摩耗性能をバランスよく両立するには有利になる。シリカの配合量が55質量部未満であると耐摩耗性が低下する。シリカの配合量が90質量部を超えると低燃費性が悪化する。
【0032】
本発明のゴム組成物は、シリカ以外の他の充填剤を配合することができる。他の無機充填剤としては、例えば、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられる材料を例示することができる。
【0033】
本発明のタイヤ用ゴム組成物では、上述のシリカを配合するにあたって、シランカップリング剤を必ず併用する。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上することができる。シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。これらのなかでも、特に、分子中にテトラスルフィド結合を有するものを好適に用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの配合量に対し、好ましくは15質量%以下、より好ましくは3質量%~12質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の15質量%を超えるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることができない。
【0034】
本発明のタイヤ用ゴム組成物では、上述のシリカを配合するにあたって、可塑剤成分としてアルキルシランが必ず配合される。アルキルシランを配合することにより、シリカの凝集や、ゴム組成物の粘度上昇を抑制し、転がり抵抗およびウェット性能をより優れたものにすることができる。アルキルシランとしては、例えばモノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシランが挙げられる。なかでもアルキルトリアルコキシシランが好ましく、アルキルトリエトキシシランがより好ましい。アルキルトリエトキシシランとしては、炭素数7~20のアルキル基を有するものが好ましい。炭素数7~20のアルキル基として、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基が挙げられる。なかでもジエン系ゴムとの相溶性の観点から、炭素数8~10のアルキル基がより好ましく、オクチル基、ノニル基がさらに好ましい。アルキルシランの配合量は、シリカの質量に対して、好ましくは0.1質量%~20質量%、より好ましくは1質量%~5質量%であるとよい。アルキルシランの配合量が0.1質量%未満であると転がり抵抗が悪化する。アルキルシランの配合量が20質量%を超えるとウェットグリップが低下する。
【0035】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、可塑剤成分として脂肪酸金属塩が必ず配合される。脂肪酸金属塩を配合することにより、シリカの凝集や、ゴム組成物の粘度上昇を抑制し、転がり抵抗およびウェット性能をより優れたものにすることができる。脂肪酸金属塩としては、カプリル酸、ウンデシレン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、アラギン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の各種脂肪酸と、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩が挙げられる。脂肪酸金属塩は、単独または複数を組み合わせて配合することができる。脂肪酸金属塩の配合量は、シリカの質量に対して、好ましくは2質量%~8質量%、より好ましくは3質量%~6質量%であるとよい。脂肪酸金属塩の配合量が2質量%未満であると、転がり抵抗が悪化する。脂肪酸金属塩の配合量が8質量%を超えると、ウェットグリップが低下する。
【0036】
本発明のゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など、一般的にタイヤ用ゴム組成物に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また、混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0037】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は主としてキャップトレッド11に用いられるものであるので、タイヤに使用する場合に併用されるアンダートレッド12を構成するゴム組成物の配合については特に限定されない。但し、本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用したキャップトレッド11はアンダートレッド12よりも高硬度であることが好ましく、キャップトレッド11とアンダートレッド12との硬度差がJIS‐A硬度で好ましくは5以内、より好ましくは3以内であるとよい。このように、本発明のタイヤ用ゴム組成物をキャップトレッド11に使用するにあたって、アンダートレッド12との硬度差を十分に小さくすることで、操縦安定性を良好に維持しながらウェット性能を向上することができる。キャップトレッド11とアンダートレッド12との硬度差が大きすぎると操縦安定性を良好に維持することが難しくなる。尚、本発明のタイヤ用ゴム組成物をアンダートレッド12の硬度は特に限定されないが、例えばJIS‐A硬度で56~63に設定することができる。
【0038】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
表1に示す配合からなる13種類のタイヤ用ゴム組成物(従来例1、比較例1~7、実施例1~5)を調製するにあたり、それぞれ硫黄および加硫促進剤を除く成分を1.7Lのバンバリーミキサーで5分間混練し、145℃に達したとき放出しマスターバッチとし、得られたマスターバッチに硫黄および加硫促進剤を加えて70℃のオープンロールで混練することにより各タイヤ用ゴム組成物を得た。
【0040】
得られたタイヤ用ゴム組成物を用いてリュプケサンプル(厚さ12.5mm、直径29mmの円柱状)の形状に加硫した試験片を作成した(加硫温度:160℃、加硫時間:20分)。得られた試験片を用いて、JIS K6253に準拠し、デュロメータのタイプAにより温度20℃のゴム硬度を測定し、アンダートレッドの硬度との硬度差を算出し、表1の「硬度差」の欄に示した。尚、すべての例においてアンダートレッドは共通のゴムを使用し、アンダートレッドについても上述の試験片を作成し、同様の方法で硬度を測定し、アンダートレッドの硬度からキャップトレッドの硬度を減算した値を硬度差とした。
【0041】
得られたタイヤ用ゴム組成物(従来例1、比較例1~7、実施例1~5)をそれぞれトレッドゴムに使用し、タイヤサイズが235/60R18であり、
図1の基本構造を有する空気入りタイヤ(試験タイヤ)を製造した。尚、トレッドゴム以外の各部については、すべての試験タイヤで共通とした。各試験タイヤについて、下記に示す方法により、ウェット性能、低燃費性能、耐摩耗性能の評価を行った。
【0042】
ウェット性能
各試験タイヤをリムサイズ18×7.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとし、排気量2,500ccの試験車両に装着し、湿潤路面において時速100kmからの制動距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、従来例1を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほど制動距離が短く、ウェット性能が優れていることを意味する。
【0043】
低燃費性能
各試験タイヤをリムサイズ18×7.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を210kPaとし、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)を用いて、JATMAイヤーブック2009年版記載の当該空気圧における最大負荷荷重の85%に相当する荷重を負荷してドラムに押し付けた状態で、速度80km/hで走行させたときの転動抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、従来例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど転動抵抗が小さく、低燃費性能に優れることを意味する。
【0044】
耐摩耗性能
各試験タイヤを、リムサイズ18×7.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとし、排気量2,500ccの試験車両に装着し、乾燥路面を20,000km走行した後の溝深さを測定することにより、耐摩耗性を測定した。評価結果は、従来例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、耐摩耗性が優れることを意味する。
【0045】
【0046】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・共役ジエン系ゴム1:日本ゼオン社製 NS560
・共役ジエン系ゴム2:日本ゼオン社製 NS540
・BR1:ポリブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol BR1220
・BR2:ポリブタジエンゴム、JSR社製 BR54
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製 シーストKHA
・シリカ1:Solvay社製 ZEOSIL 1165MP(CTAB吸着比表面積:156m2/g)
・シリカ2:EVONIK社製 ULTRASIL 9100GR(CTAB吸着比表面積:202m2/g)
・シランカップリング剤:信越化学社製 KBE‐846
・アルキルシラン:アルキルトリエトキシシラン(n-オクチルトリエトキシシラン)、信越化学社製 KBE‐3083
・脂肪酸金属塩:SKRUKTOL社製 HT207
・アロマオイル:出光興産社製 ダイアナプロセス NH‐70S
・老化防止剤:LANXESS社製 VULKANOX 4020
・ワックス:NIPPON SEIRO社製 OZOACE‐0015A
・亜鉛華:ZM Silesia社製 Zinc Oxide
・ステアリン酸:IOI Acidchem社製 PALMAC 1600
・加硫促進剤:大内新興化学社製 ノクセラー TOT‐N
・硫黄:鶴見化学工業社製 サルファックス5
【0047】
表1から明らかなように、実施例1~5のタイヤは、従来例1に対して、ウェット性能、低燃費性能、耐摩耗性能を向上し、これら性能をバランスよく両立した。
【0048】
一方、比較例1のタイヤは、特定共役ジエン系ゴム1の配合量が少ないため、ウェット性能が低下した。比較例2のタイヤは、特定共役ジエン系ゴム1の配合量が多いため、低燃費性能および耐摩耗性能が低下した。比較例3のタイヤは、シリカの粒子径が大きいため、ウェット性能が低下した。比較例4のタイヤは、シリカの配合量が少ないため、耐摩耗性能が低下した。比較例5のタイヤは、シリカの配合量が多いため、低燃費性能が悪化した。比較例6のタイヤは、脂肪酸金属塩を含まないため、ウェット性能および低燃費性能が悪化した。比較例7のタイヤは、アルキルシランを含まないため、ウェット性能および低燃費性能が悪化した。
【符号の説明】
【0049】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
10 トレッドゴム層
11 キャップトレッド
12 アンダートレッド
20 サイドゴム層
30 リムクッションゴム層
CL タイヤ赤道
【要約】
【課題】低燃費性能、ウェット性能、および耐摩耗性能をバランスよく両立することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムと、シリカと、シランカップリング剤と、脂肪酸金属塩と、アルキルシランとを含有するタイヤ用ゴム組成物において、ジエン系ゴムとしてイソプレン80質量%~95質量%と芳香族ビニル5質量%~20質量%とを含み、活性末端を有し、重量平均分子量が500~15,000である重合体ブロックAと、1,3‐ブタジエンおよび芳香族ビニルを含み、活性末端を有する重合体ブロックBとからなり、重合体ブロックAと重合体ブロックBとを一続きにして形成された活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の活性末端にポリオルガノシロキサンを反応させてなる特定共役ジエン系ゴムを60質量%~95質量%使用し、シリカとしてCTAB吸着比表面積が185m
2 /g以上のものを55質量部~90質量部使用する。
【選択図】
図1