(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】試料分取キット、試料分取装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/14 20060101AFI20221220BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G01N15/14 K
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2021116357
(22)【出願日】2021-07-14
(62)【分割の表示】P 2016068247の分割
【原出願日】2016-03-30
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】勝本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】松本 真寛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和也
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-107099(JP,A)
【文献】特開2005-161125(JP,A)
【文献】特開2010-271168(JP,A)
【文献】特開2014-036604(JP,A)
【文献】特表2012-511155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロチップの試料液流路に着脱自在に連結され、かつ前記マイクロチップに試料を供給する収容部と、
前記マイクロチップの分取流路に着脱自在に連結され、かつ前記マイクロチップによって前記試料から分取された目標生体試料が収容される貯留部と、を備え、
前記収容部
と前記マイクロチップとの間の連結、及び前記貯留部と前記マイクロチップとの間の連結が相異なる密閉部を介して密閉連結される、試料分取キット。
【請求項2】
更に、前記マイクロチップの少なくとも1つのシース液流路に連結され、かつ前記マイクロチップにシース液を供給するシース容器を備える、請求項1記載の試料分取キット。
【請求項3】
更に、前記シース容器に連結され、かつ前記シース容器の圧力を調整する圧力調整部を備える、請求項2記載の試料分取キット。
【請求項4】
前記圧力調整部は、前記収容部に連結され、かつ前記収容部の圧力を調整する、請求項3記載の試料分取キット。
【請求項5】
前記圧力調整部は、前記貯留部に連結され、かつ更に前記貯留部内に負圧を発生させる、請求項3記載の試料分取キット。
【請求項6】
更に、前記試料を少なくとも1つの蛍光色素で標識する標識部を備える、請求項1記載の試料分取キット。
【請求項7】
前記標識部は、前記試料が前記マイクロチップに流入する前に、前記試料を少なくとも1つの蛍光色素で標識する、請求項6記載の試料分取キット。
【請求項8】
前記標識部は、前記マイクロチップに着脱自在に密閉連結される、請求項6記載の試料分取キット。
【請求項9】
前記標識部は、前記収容部に密閉連結される、請求項6記載の試料分取キット。
【請求項10】
少なくとも1つの前記蛍光色素は、分解性リンカを介して前記試料に結合されている、請求項6記載の試料分取キット。
【請求項11】
前記分解性リンカは、光分解性リンカである、請求項10記載の試料分取キット。
【請求項12】
試料液流路と分取流路とを有するマイクロチップと、
前記試料液流路に着脱自在に連結され、かつ前記マイクロチップに試料を供給する収容部と、
前記分取流路に着脱自在に連結され、かつ前記マイクロチップによって前記試料から分取された目標生体試料が収容される貯留部と、を備え、
前記マイクロチップは、試料から目標生体試料を分取し、
前記収容部
と前記マイクロチップとの間の連結、及び前記貯留部と前記マイクロチップとの間の連結が相異なる密閉部を介して密閉連結される、試料分取システム。
【請求項13】
更に、励起光を出射し、かつ前記マイクロチップの流路の領域に照射する光源と、
前記目標生体試料から発せられた蛍光を検出する光検出部と、
及び、
前記光検出部からの少なくとも1つの信号に基づいて分取情報を算出する回路と、を備える、請求項12記載の試料分取システム。
【請求項14】
更に、前記貯留部の温度を調整する温度制御部を備える、請求項12記載の試料分取システム。
【請求項15】
更に、前記貯留部に投入する薬剤の投入量を管理する、薬剤投入管理部を備える、請求項12記載の試料分取システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、試料分取キット、試料分取装置に関する。より詳しくは、目標生体試料の分取作業、貯留作業を密閉空間で一貫して実行可能な試料分取キット、及び当該試料分取キットを用いた試料分取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定の生体試料から目標生体試料を分取する方法として、当該目標生体試料の種類に応じて適宜選択されるものの、膜分離法、遠心分離法、電気的分離法、目標生体試料以外の生体試料を死滅させる方法、目標生体試料に磁気ビーズをラベルして分離する磁気ビーズ法、フローサイトメトリーなど、多種多様な方法が知られている。
前記磁気ビーズ法を用いて目標生体試料を分取する方法としては、非特許文献1に開示された方法が知られている。
この方法では、目標生体試料であるT細胞に対して磁気ビーズをラベルし、当該磁気ビーズに基づいて、目標生体試料を分取している。
【0003】
また、前記フローサイトメトリーを利用した分取装置としては、特許文献1に示されたものが知られている。特許文献1には、プラスチック製及びガラス製などのマイクロチップに形成された流路内にシースフローを形成して分析を行うマイクロチップ型の分取装置が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示される分取装置は、微小粒子を含む液体が通流されるサンプル流路と、該液体をサンプル流路内からチップ外の空間に排出するオリフィスとが基板層の貼り合わせによって形成され、オリフィス部のサンプル流路が基板層間に埋設された微細管の管腔によって構成されたマイクロチップと、オリフィスにおいて液体を液滴化して吐出させるための振動素子と、吐出される液滴に電荷を付与する荷電手段と、オリフィスよりも送液方向上流においてサンプル流路を通流する微小粒子に光を照射して微小粒子から発生する光を検出する光学検出手段と、チップ外の空間に吐出された液滴の移動方向に沿って、移動する液滴を挟んで対向して配設された対電極と、対電極間を通過した液滴を回収する二以上の回収手段と、を備え、光学検出手段からの光が照射される光照射部とオリフィス部との間のサンプル流路に、流路の断面形状が送液方向に従って四角形状から円形状に変化する変換流路が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Seitaro Terakura et al., 「Generation of CD19-chimeric antigen receptor modified CD8_ T cells derived from virus-specific central memory T cells」 BLOOD. 5 JANUARY 2012.VOLUME 119, NUMBER 1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、膜分離法、遠心分離法、電気的分離法、目標生体試料以外の生体試料を死滅させる方法、目標生体試料に磁気ビーズをラベルして分離する磁気ビーズ法などの従来の分取方法は、目標生体試料の分取の精製度が悪いとの課題があった。例えば、前記遠心分離法の場合には、細胞懸濁液から目標生体試料を分取する際、目標生体試料以外の試料が混入するおそれがあった。また、例えば、磁気ビーズ法に関しては、分取対象試料と磁気ビーズとを混合させる際、目標生体試料への磁気ビーズの接合が不十分であると、一定量の目標生体試料を分取することができないとの課題があった。
更に、特許文献1に記載されているようないわゆるフローサイトメータは液滴が空間を飛翔するため、分取対象である生体試料を含むミストによりフローサイトメータや周囲環境が汚染してしまうとの課題があった。また、分取機構が外部雰囲気に触れているため、外部雰囲気中の他の物質が分取後の生体試料に混入してしまうとの課題もあった。このため、免疫細胞治療等にフローサイトメータを用いることは難しいとの課題があった。
そこで、本技術では、目標生体試料の分取、目標生体試料の貯留を密閉空間で実行可能な試料分取キット、試料分取装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術は、マイクロチップの試料液流路に着脱自在に連結され、かつ前記マイクロチップに試料を供給する収容部と、前記マイクロチップの分取流路に着脱自在に連結され、かつ前記マイクロチップによって前記試料から分取された目標生体試料が収容される貯留部と、を備え、前記収容部と前記マイクロチップとの間の連結、及び前記貯留部と前記マイクロチップとの間の連結が相異なる密閉部を介して密閉連結される、試料分取キットを提供する。
この試料分取キットにおいて、更に、前記マイクロチップの少なくとも1つのシース液流路に連結され、かつ前記マイクロチップにシース液を供給するシース容器を備えていてもよい。
この試料分取キットにおいて、更に、前記シース容器に連結され、かつ前記シース容器の圧力を調整する圧力調整部を備えていてもよい。
この試料分取キットにおいて、前記圧力調整部は、前記収容部に連結され、かつ前記収容部の圧力を調整してもよい。
この試料分取キットにおいて、前記圧力調整部は、前記貯留部に連結され、かつ更に前記貯留部内に負圧を発生させてもよい。
この試料分取キットにおいて、更に、前記試料を少なくとも1つの蛍光色素で標識する標識部を備えていてもよい。
この試料分取キットにおいて、前記標識部は、前記試料が前記マイクロチップに流入する前に、前記試料を少なくとも1つの蛍光色素で標識してもよい。
この試料分取キットにおいて、前記標識部は、前記マイクロチップに着脱自在に密閉連結されていてもよい。
この試料分取キットにおいて、前記標識部は、前記収容部に密閉連結されていてもよい。
この試料分取キットにおいて、少なくとも1つの前記蛍光色素は、分解性リンカを介して前記試料に結合されていてもよい。
この試料分取キットにおいて、前記分解性リンカは、光分解性リンカであってもよい。
【0009】
また、本技術は、試料液流路と分取流路とを有するマイクロチップと、
前記試料液流路に着脱自在に連結され、かつ前記マイクロチップに試料を供給する収容部と、前記分取流路に着脱自在に連結され、かつ前記マイクロチップによって前記試料から分取された目標生体試料が収容される貯留部と、を備え、前記マイクロチップは、試料から目標生体試料を分取し、前記収容部と前記マイクロチップとの間の連結、及び前記貯留部と前記マイクロチップとの間の連結が相異なる密閉部を介して密閉連結される、試料分取システムをも提供する。
この試料分取システムにおいて、更に、励起光を出射し、かつ前記マイクロチップの流路の領域に照射する光源と、前記目標生体試料から発せられた蛍光を検出する光検出部と、及び、前記光検出部からの少なくとも1つの信号に基づいて分取情報を算出する回路と、を備えていてもよい。
この試料分取システムにおいて、更に、前記貯留部の温度を調整する温度制御部を備えていてもよい。
この試料分取システムにおいて、更に、前記貯留部に投入する薬剤の投入量を管理する、薬剤投入管理部を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本技術によれば、目標生体試料の分取、目標生体試料の貯留を密閉空間で実行可能であり、もって目標生体試料の分取の精製度を向上させることができ、また目標生体試料を含むミストによる試料分取装置等の汚染及び/又は分取された目標生体試料への他物質の混入を防止することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本技術に係る試料分取キットの第一実施形態の概念を模式的に示す模式概念図である。
【
図2】
図1に示す試料分取装置が備える分取部の一例を示す上面図である
【
図3】
図1に示す試料分取装置が備える分取部の一例を示す斜視図である。
【
図5】前記分取部に形成される主流路と分取流路の分岐部の構成を説明する図である。
【
図6】前記分取部に形成されるシース液バイパス流路のシース液インレット側端の構成を説明する図である。
【
図7】前記分取部に形成されるシース液バイパス流路の排出口側端の構成を説明する図である。
【
図8】
図2に示す分取部の圧力室の機能を説明する図である。
【
図9】主流路と分岐流路の分岐部において生じ得る分取対象試料及びシース液の流れを説明する図である。
【
図10】分取流路の排出口から導入されるシース液の流れを説明する図である。
【
図11】分取動作時の目標生体試料の引き込み位置を説明する図である。
【
図12】
図2に示す分取部の変形例を示す上面図である。
【
図13】
図1に示す試料分取キットが備える密閉部の一例を示す模式概念図である。
【
図14】本技術に係る試料分取キットの第二実施形態の概念を模式的に示す模式概念図である。
【
図15】本技術に係る試料分取装置の第一実施形態の概念を模式的に示す模式概念図である。
【
図16】
図15に示す試料分取装置の動作を示すフローチャートである。
【
図17】
図16に示す分取工程の詳細を示すフローチャートである。
【
図18】
図17に示す予備測定工程の詳細を示すフローチャートである。
【
図19】
図17に示す本測定工程の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第一実施形態に係る試料分取キット
(1)収容部
(2)分取部
(3)貯留部
(4)密閉部
(5)標識部
(6)生体試料収容部
(7)分離部
(8)シース容器
(9)廃棄部
2.第二実施形態に係る試料分取キット
(1)第二圧力調整部
3.第一実施形態に係る試料分取装置
(1)試料分取キット
(2)光照射部
(3)光検出部
(4)演算処理部
(5)位置制御部
(6)分解光照射部
(7)薬剤投入管理部
(8)培養部
(9)圧力調整部
(10)その他の構成
4.第一実施形態に係る試料分取装置の動作説明
(1)分離工程
(2)試薬結合工程
(3)分取工程
(3-1)バルブ切替第一工程
(3-2)予備測定工程
試料流入工程
蛍光強度情報取得工程
機械学習工程
閾値設定工程
(3-3)本測定工程
試料流入工程
パラメータ調整工程
(3-4)バルブ切替第二工程
(3-5)目標生体試料取得工程
(3-6)バルブ閉止工程
(4)内部処理工程
(5)培養工程
(6)濃縮工程
(7)保存工程
【0013】
<1.第一実施形態に係る試料分取キット>
図1を用いて、本技術に係る試料分取キットの第一実施形態について説明する。
本技術に係る試料分取キット1は、少なくとも、収容部11と、分取部12と、貯留部13とを備え、前記収容部11と、分取部12と、貯留部13は相互に密閉部14を介して連結されている。また、当該試料分取キット1は、必要に応じて、標識部15、分離部16、生体試料収容部17、シース容器18、廃棄部19を備えていてもよい。以下、各部について説明する。
【0014】
(1)収容部
本技術に係る試料分取キット1は、前記収容部11を備える。当該収容部11には、前記分取部12の対象となる分取対象試料が収容される。当該収容部11は、例えば、一端が開口した円筒状の筒体と、当該筒体に嵌合すると共に前記開口を閉塞する蓋部と、から形成されている。そして、前記蓋部には前記分取対象試料を前記筒体内に収容するための開口弁が複数形成されており、各開口弁は逆止弁の構成を採用している。このため、前記開口弁を介して分取対象試料が収容部11内に収容された状態では、当該分取対象試料が収容部11の外部へと出ないようになっている。また、前記開口弁の構成により、前記分取生体試料が外部雰囲気に対して密閉されている。
【0015】
前記分取対象試料としては特に限定されず、本技術に係る試料分取キットを用いて分取される目標生体試料を含む生体試料であれば差し支えない。分取対象試料の具体例としては、例えば、全血、全血に含まれる末梢血単核細胞や、リンパ球のみを含む細胞懸濁液など、患者由来の細胞が挙げられる。
【0016】
(2)分取部
本技術に係る試料分取キットは、前記分取対象試料から解析に要する目標生体試料を分取する分取部12を備え、当該分取部12では、従来のフローサイトメータと同様、内部にシースフローを形成し、分取を行う構成を採用している。
前記分取部12の具体的な構成に関しては特に限定されず、例えば、前記シースフローが形成されると共に前記分取対象試料が流れる流路を備えたマイクロチップの構成等が考えられる。
マイクロチップ型の分取部12の構成及び分取動作について、
図2~
図11を用いて説明する。
【0017】
図2~4を参照して、分取部12の構成を詳しく説明する。
前記分取部12は、大別して、前記密閉部14を介して前記収容部11に連結されると共に前記分取対象試料が流入される流路と、当該流路内の圧力を調整し、目標生体試料を分取する第一圧力調整部と、を備える。
【0018】
すなわち、分取対象試料は、分取対象試料インレット111から分取対象試料流路112に導入される。また、シース液インレット113からはシース液が導入される。シース液インレット113から導入されたシース液は、2本のシース液流路114,114に分流されて送液される。分取対象試料流路112とシース液流路114,114は合流して主流路115となる。分取対象試料流路112を送液される分取対象試料層流Sと、シース液流路114,114を送液されるシース液層流Tと、は主流路115内において合流し、分取対象試料層流がシース液層流に挟み込まれたシースフローを形成する(後述の
図5C参照)。
【0019】
また、シース液インレット113から導入されたシース液は、シース液流路114とは別に形成されたシース液バイパス流路118にも送液される。シース液バイパス流路118の一端はシース液インレット113に接続しており、他端は後述する分取流路116の主流路115への連通口近傍に接続している(
図4参照)。シース液バイパス流路118のシース液導入端は、シース液インレット113及びシース液流路114,114を含むシース液の通流部位のいずれかの箇所に接続されていればよいが、好ましくはシース液インレット113に接続される。2つのシース液流路114が幾何学的に対称になる中心位置(すなわち、本実施形態ではシース液インレット113)にシース液バイパス流路118を接続することで、2つのシース液流路114へシース液が等流量分配されるようにできる。
図4中符号156は、主流路115への分取流路116の連通口を示し、符号181は、シース液バイパス流路118を送液されるシース液の分取流路116への排出口を示す。
【0020】
図2中符号115aは、励起光が照射され、分取対象試料から発せられる蛍光及び散乱光の検出が行われる検出領域を示す。分取対象試料は、主流路115に形成されるシースフロー中に一列に配列した状態で検出領域115aに送流され、前記励起光により照射される。
【0021】
主流路115は、検出領域115aの下流において、3つの流路に分岐している。主流路115の分岐部の構成を
図5に示す。主流路115は、検出領域115aの下流において、分取流路116及び廃棄流路117,117の3つの分岐流路と連通している。このうち、分取流路116は、目標生体試料が取り込まれる流路である。前記分取対象試料内に含まれる目標生体試料以外の試料(以下、「非目標生体試料」とも称する)は、分取流路116内に取り込まれることなく、2本の廃棄流路117のいずれか一方に流れる。
【0022】
シース液バイパス流路118は、分取流路116の主流路115への連通口156の近傍に位置して設けられた排出口181に接続されている(
図4参照)。シース液インレット113から導入されるシース液は、排出口181から分取流路116内に導入され、連通口156に分取流路116側から主流路115側へ向かうシース液の流れを形成する(この流れについては詳しく後述する)。
【0023】
分取部12は3層の基板層からなり、分取対象試料流路112、シース液流路114、主流路115、分取流路116及び廃棄流路117は、1層目の基板層a
1と2層目の基板層a
2により形成されている(
図4参照)。一方、シース液バイパス流路118は、2層目の基板層a
2と3層目の基板層a
3により形成されている。基板層a
2、a
3に形成されたシース液バイパス流路118は、基板層a
1、a
2に形成された分取対象試料流路112、シース液流路114及び主流路115と連絡することなく、シース液インレット113と分取流路116の排出口181とを接続している。シース液バイパス流路118のシース液インレット113側端及び排出口181側端の構成をそれぞれ
図6及び
図7に示す。
【0024】
なお、分取部12の基板層の層構造は、3層に限定されない。また、シース液バイパス流路118の構成も、分取対象試料流路112、シース液流路114及び主流路115と交わることなく、シース液インレット113と分取流路116の排出口181とを接続し得る限り、図に示した構造に限定されない。
【0025】
目標生体試料の分取流路116内への取り込みは、前記第一圧力調整部31によって分取流路116内に負圧を発生させ、この負圧を利用して目標生体試料を分取流路116内に吸い込むことによって行われる。第一圧力調整部31は、ピエゾ素子などの圧電素子とされる。第一圧力調整部31は、前記分取流路116に対応する位置に配置されている。より具体的には、第一圧力調整部31は、分取流路116において内空が拡張された領域として設けられた圧力室161に対応する位置に配置されている(
図3及び
図4参照)。圧力室161は、分取流路116において連通口156及び排出口181の下流に設けられる。
【0026】
圧力室161の内空は、
図2に示されるように平面方向(分取流路116の幅方向)に拡張されるとともに、
図4に示されるように断面方向(分取流路116の高さ方向)にも拡張されている。すなわち、分取流路116は、圧力室161において幅方向及び高さ方向に拡張されている。換言すると、分取流路116は、圧力室161において分取対象試料及びシース液の流れ方向に対する垂直断面が大きくなるように形成されている。
【0027】
第一圧力調整部31は、印加される電圧の変化に伴って伸縮力を発生し、分取部12の表面(接触面)を介して分取流路116内に圧力変化を生じさせる。分取流路116内の圧力変化に伴って分取流路116内に流動が生じると、同時に、分取流路116内の体積が変化する。分取流路116内の体積は、印加電圧に対応した第一圧力調整部31の変位量によって規定される体積に到達するまで変化する。より具体的には、第一圧力調整部31は、電圧を印加されて伸張した状態においては、圧力室161を構成する変位板311(
図4参照)を押圧して圧力室161の体積を小さく維持している。そして、印加される電圧が低下すると、第一圧力調整部31は収縮する方向へ力を発生し、変位板311への押圧を弱めることによって圧力室161内に負圧を発生させる。
【0028】
第一圧力調整部31の伸縮力を効率良く圧力室161内へ伝達するため、
図4に示すように、分取部12の表面を圧力室161に対応する位置において陥凹させ、該陥凹内に第一圧力調整部31を配置することが好ましい。これにより、第一圧力調整部31の接触面となる変位板311を薄くでき、変位板311が第一圧力調整部31の伸縮に伴う押圧力の変化によって容易に変位して、圧力室161の容積変化をもたらすようにできる。
【0029】
図4及び
図5中、符号156により、主流路115への分取流路116の連通口を示す。主流路115内に形成されたシースフロー中を送流される目標生体試料は、連通口156から分取流路116内に取り込まれる。主流路115から分取流路116への目標生体試料の取り込みを容易にするため、連通口156は、
図5Cに示すように、主流路115内に形成されるシースフロー中の分取対象試料層流Sに対応する位置に開口されていることが望ましい。連通口156の形状は、特に限定されないが、例えば
図5Aに示すような平面に開口する形状や、
図5Bに示すように2本の廃棄流路117の流路壁を切り欠いて開口とする形状を採用できる。
【0030】
分取部12は、主流路115等が形成された基板層を貼り合わせて構成できる。基板層への主流路115等の形成は、金型を用いた熱可塑性樹脂の射出成形により行うことができる。熱可塑性樹脂には、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン及びポリジメチルシロキサン(PDMS)などの従来マイクロチップの材料として公知のプラスチックを採用できる。
【0031】
次に、
図8~11を用いて、前記分取部12の分取動作を説明する。
【0032】
前記第一圧力調整部31により分取流路116内へ引き込まれた目標生体試料は、
図8Aに示すように、圧力室161内に取り込まれる。図中、符号Pは、圧力室161内に取り込まれた目標生体試料を示し、符号162は、圧力室161への目標生体試料Pの取込口を示す。目標生体試料Pを含む分取対象試料及びシース液の流れは、内空が拡張された圧力室161に流入する際に噴流(ジェット)となり、流路壁面から剥離する(
図8A中矢印参照)。このため、目標生体試料Pは、取込口162から離れて、圧力室161の奥まで取り込まれる。
【0033】
目標生体試料を主流路115から圧力室161内にまで引き込むため、圧力室161の容積の増大量は、連通口156から引込口162までの分取流路116の容積(
図4参照)よりも大きくされることが好ましい。また、圧力室161の容積の増大量は、目標生体試料Pを含む分取対象試料及びシース液の流れを取込口162において流路壁面から剥離させるために十分な負圧を発生するような大きさとされることが好ましい。
【0034】
このように、目標生体試料Pを分取流路116において内空が拡張された圧力室161の奥にまで取り込むようにすることで、分取流路116内の圧力が逆転して正圧になった場合にも、目標生体試料Pが圧力室161から主流路115側へ再流出することを防止できる。すなわち、
図8Bに示すように、分取流路116内が正圧となった場合にも、分取対象試料及びシース液が取込口162の近傍から広く流出していくため、取込口162から離れた位置まで取り込まれた目標生体試料Pそのものの移動量は小さくなる。このため、目標生体試料Pは、再流出することなく、圧力室161内に保持される。
【0035】
前記圧力室161内には、前記非目標生体試料又はこれを含む分取対象試料及びシース液が分取流路116内に侵入しないようにすることが好ましい。しかしながら、
図9に示すように、主流路115を送液される分取対象試料及びシース液の流れ(図中実線矢印参照)は大きな運動量を持つため、連通口156から分取流路116に流入してしまう場合がある。連通口156から分取流路116に流入した分取対象試料及びシース液の流れは、分取流路116内で方向を変え、分取流路116の流路壁に沿って主流路115側に流出する(図中点線矢印参照)。
【0036】
分取流路116から流路壁に沿って主流路115側に流出する分取対象試料及びシース液の流れは流路壁に拘束されるため遅く、連通口156における非目標生体試料又はこれを含む分取対象試料及びシース液の滞留を引き起こす。この滞留は、目標生体試料及び非目標生体試料の分取動作を高速に行うための障害となる。
【0037】
これに対して、本技術に係る試料分取キット1では、シース液バイパス流路118により排出口181から分取流路116内に導入されるシース液が、非分取動作時において非目標生体試料又はこれを含む分取対象試料及びシース液が分取流路116に侵入するのを抑制するために作用する。すなわち、シース液インレット113から導入されるシース液は、排出口181から分取流路116内に導入され、連通口156に分取流路116側から主流路115側へ向かうシース液の流れ(以下「逆流」とも称する)を形成する(
図10A参照)。そして、この逆流が、主流路115から分取流路116に侵入しようとする分取対象試料及びシース液の流れと拮抗することで、分取対象試料及びシース液の分取流路116への侵入が阻止される。
【0038】
逆流は、主流路115から分取流路116に侵入しようとする分取対象試料及びシース液の流れの運動量(勢い)に見合った運動量を持つことが好ましい。逆流の運動量は、シース液バイパス流路118へのシース液の送液量を調節することで制御でき、該送液量はシース液バイパス流路118の流路径を調節することで制御できる。また、送液量の調節は、シリンジポンプなどの送液手段や、シース液バイパス流路118に設けた弁などによって行うこともできる。
【0039】
シース液インレット113から導入されるシース液のシース液流路114への流量と、シース液バイパス流路118への流量との流量比は、両流路の流路抵抗比により決定される。このため、シース液インレット113へのシース液の導入圧力が変動しても、上記流量比が変動せず、安定した動作が可能である。また、検出領域115aにおける分取対象試料の通流速度を変えるため、シース液流量の変更が必要になった場合にも、シース液流路114への流量とシース液バイパス流路118への流量とを個別に制御する必要がない。
【0040】
逆流の運動量は、主流路115から分取流路116への分取対象試料及びシース液の侵入を完全に抑制可能な大きさとすることが好ましい。ただし、逆流は、必ずしも上記侵入を完全に抑制するものである必要はなく、ある程度軽減するものであればよい。上述のように、分取流路116から流路壁に沿って主流路115側に流出する分取対象試料及びシース液の流れが生じると、連通口156における非目標生体試料又はこれを含む分取対象試料及びシース液の滞留の要因となる。
図10Bに示すように、主流路115から分取流路116への分取対象試料及びシース液の侵入をある程度軽減できれば、滞留の要因となる分取流路116から流路壁に沿って主流路115側に流出する分取対象試料及びシース液の流れの抑制が可能である。
【0041】
なお、連通口156における非目標生体試料又はこれを含む分取対象試料及びシース液の滞留を抑制することで、目標生体試料及び非目標生体試料が流路壁に付着することも防止できる。
【0042】
逆流は、目標生体試料の分取流路116への引き込み時にも、連通口156に形成されている(
図11A参照)。このため、分取動作時には、逆流を上回る引き込み圧で目標生体試料を分取流路116内に引き込む必要がある(
図11B参照)。圧力室161の容積の増大量は、逆流を上回る引き込み圧を発生させるために十分な大きさとされる。
【0043】
さらに、目標生体試料は、
図11Bに示すように、分取流路116において排出口181を過ぎる位置まで引き込まれる必要がある。分取流路116への引き込みが不十分であると、シース液バイパス流路18により排出口181から分取流路116内に導入されるシース液によって形成される逆流によって目標生体試料が主流路115に再流出してしまう場合がある。
【0044】
排出口181を超える位置まで目標生体試料を十分に引き込むため、圧力室161の容積の増大量は逆流の流量よりも大きくし、負圧により主流路115から分取流路116内に吸引される分取対象試料及びシース液の流量が逆流の流量よりも大きくなるようにする。
このようにして形成された分取部12により、所望量の目標生体試料が前記圧力室161へと取り込むことができた後は、前記圧力室161に連結され、且つ、前記貯留部13に連結された分取流路末端119へと目標生体試料が流れるようになっている(
図2参照)。
尚、前記第一圧力調整部31による前記圧力室161の圧力変化を行うことを考慮し、当該圧力室161と前記分取流路末端119とは開閉バルブなどによって連結されていることが好ましい。
【0045】
ここで、
図2に示す分取部12では、前記シース液バイパス流路118に対して、シース液インレット113が繋がる構成となっているが、本技術に係る分取部では、前記シース液バイパス流路118をシース液インレット113とは繋げず、
図12に示すように、導入路118Aを別に設けるようにしてもよい。この場合、前記シース液インレット113からシース液を導入する一方、前記導入路118Aからは、シース液とは別の溶液(例えば、培養液など)を導入することが可能となる。そして、前記導入路118Aから導入された溶液は、前記分取流路116、圧力室161及び分取流路末端119を通過する。
このため、前記圧力室161の下流側では、シース液が混入する可能性もあるが、前記導入路118Aによりシース液よりも培養液が多く存在する環境となるため、前記分取部12による分取回収後の目標生体試料にとっては良い環境を自動的に作成することができる。更に、後述する貯留部13がガス透過性を具備しており、当該貯留部13を目標生体試料の培養に適した環境(例えば、CO2濃度5%、温度37℃、湿度90~95%)としておくことにより、前記分取部12による分取工程が比較的長時間であったとしても、分取回収される目標生体試料の品質低下を避けることができる。
また、
図12に示すような構成とした場合、前記シース液バイパス流路118の流量を個別制御することが可能となるため、交換可能なマイクロチップ型の分取部12において、当該分取部12間で設計上の差(例えば、流路幅や高さのばらつきが大きい場合など)があったとしても、前記シース液バイパス流路118の流量制御によって、分取部12間の設計上の差を考慮した分取条件の最適化を実施することができる。
【0046】
(3)貯留部
本技術に係る試料分取キット1は、目標生体試料が収容される貯留部13を備える。この貯留部は、例えば、目標生体試料が収容される袋状に形成されており、前記密閉部14を介して前記分取部12の分取流路末端119に連結される開口弁を備える。前記開口弁は所謂逆止弁の構成を採用しており、前記開口弁を介して目標生体試料が貯留部13に収容された状態では、当該目標生体試料が貯留部13の外部へと出ないようになっている。また、前記開口弁の構成により、前記目標生体試料が外部雰囲気と接触しないようになっている。
上記貯留部13の構成は一例に過ぎず、前記目標生体試料が外部雰囲気に触れない構成であれば、公知の構成を採用することができる。
【0047】
(4)密閉部
本技術に係る試料分取キット1は、前記収容部11と分取部12の間、当該分取部12と貯留部13の間に密閉部14が設けられ、各部が相互に密閉連結されている。以下、前記密閉部14の構成の一例について、
図13を用いて説明する。
【0048】
前記密閉部14は、大別して、前記収容部11の開口弁(又は前記分取部12の流路)に連結される雄部材141と、当該雄部材141に封止材143を介して密閉接続される雌部材142と、を備える。
前記雄部材141は、内部に貫通孔141aが形成され、全体が略円筒状に形成されている。更に、当該雄部材141には前記貫通孔141aの軸線に沿って突出した凸部141bと、前記貫通孔141aの軸線と垂直な方向に突出した連結菅141cと、を備える。当該連結菅141cの内部にも貫通孔が形成されており、当該貫通孔は前記貫通孔141aと連通している。すなわち、前記雄部材141は、内部が中空状に形成されている。
このように形成された雄部材141は、例えば、前記凸部141bが前記収容部11の開口弁(又は前記分取部12の流路)に挿入され、雄部材141内に設けられた貫通孔が前記収容部11の内部(又は前記分取部12の流路)に連通するようになっている。
【0049】
一方、前記雌部材142は、内部に貫通孔142aが形成された略円筒状に形成されている。そして、当該雌部材142の一端(
図13の紙面上奥側の一端)は、前記分取部12の流路(又は前記貯留部13の開口弁)に挿入され、雌部材142内に設けられた貫通孔142aが前記分取部12の流路(又は前記貯留部13の内部)に連通するようになっている。
また、前記封止材143は、円形状の孔143aが形成された環状に形成され、前記円形孔143aの内径は、前記雄部材141の貫通孔141aの内径及び前記雌部材142の貫通孔142aの内径と同一又は僅かに小さく形成されている。
【0050】
このように構成された前記雌部材142は、前記封止材143及び連結部材144を介して前記雄部材141に連結される。当該連結部材144は貫通孔144aを備えた環状に形成されており、前記貫通孔144aの内径は前記雄部材141に係る連結菅141cの外径及び前記雌部材142の外径と同一又は僅かに大きく形成されている。
この連結部材144を用いて、前記雄部材141及び雌部材142を連結する際、前記雄部材141と雌部材142との間に前記封止材143を内在させ、これによりこれら雄部材141及び雌部材142が密閉連結される。その結果、前記密閉部14を介して、各部11,12,13が密閉連結されることになる。
【0051】
その一方で、前記雄部材141及び雌部材142は、前記連結部材144を介して密閉連結されるものの、前記連結部材144は一定の作業により着脱自在であり、その結果、前記雄部材141及び雌部材142は互いに容易に着脱自在になっている。すなわち、前記密閉部14を介して連結された収容部11、分取部12、貯留部13が相互に容易に着脱自在となっている。
【0052】
尚、
図13に示す構成は一例に過ぎず、試料分取キットに使用される通常の密閉構造(公知の無菌コネクタなど)を採用することができる。又は、前記各部11,12,13から管状部材を突出させるように構成し、各部11,12,13から突出した管状部材同士を溶着させた密閉構造を構成するようにしても差し支えない。
【0053】
(5)標識部
本技術に係る試料分取キット1は、必要に応じて、前記分取対象試料を蛍光色素で標識する標識部15を備えていてもよい。
この標識部15は、前記分取部12において分取対象試料から目標生体試料が分取される前に当該分取部12内を流入する分取対象試料に対して蛍光色素を標識する。また、当該標識部15は、前記密閉部14を介して前記分取部12に着脱自在に連結されていることが好ましい。
尚、
図1では、標識部15は前記分取部12に密閉連結されているが、当該標識部15により分取対象試料を標識することが可能な構成であればよく、例えば、分取対象試料が収容された収容部11に密閉連結されている構成であっても差し支えない。
【0054】
前記標識部15が前記分取対象試料に対して標識する蛍光色素の種類及び数は特に限定されるものではなく、FITC(fluorescein isothiocyanete:C21H11NO5S)、PE(phycoerythrin)、PerCP(periidinin chlorophyll protein)、PE-Cy5及びPE-Cy7などの公知の色素を、必要に応じて適宜選択して使用することができる。更に、各分取対象試料が複数の蛍光色素で修飾されていてもよい。
【0055】
ここで、本技術に係る試料分取キット1が使用される医療環境では、蛍光色素の残存を認めない場合もあり得る。このため、可及的に蛍光色素を排除することが望ましい。
それ故、前記目標生体試料から蛍光色素を排し易くするため、蛍光色素は分解性リンカを介して前記分取対象試料に結合されていることが好ましい。 分解性リンカは、特定の外部からの刺激で分解する接続分子である。例えば、特定の波長の光で分解されるリンカ、酵素で分解されるリンカ、温度で分解されるリンカ等がある。
前記分解性リンカは特に限定されないが、目標生体試料にダメージ等を与えないようにする点で、光分解性リンカを用いることが好ましい。
【0056】
光分解性リンカは、特定の波長によって分解される構造を持つ分子である。
例えば、以下のものを挙げることができる:メトキシノトロベンジル基、ニトロベンジル基(特開2010-260831号公報)、パラヒドロキシフェナシル基(テトラヘドロンレターズ、1962年、1巻、1頁)、7-ニトロインドリン基(ジャーナルオブアメリカンケミカルソサイエティーズ、1976年、98巻、843頁)、2-(2-ニトロフェニル)エチル基(テトラヘドロン、1997年、53巻、4247頁)及び(クマリン-4-イル)メチル基(ジャーナルオブアメリカンケミカルソサイエティーズ、1984年、106巻、6860頁)等。
【0057】
(6)生体試料収容部
前記分取対象試料を末梢血単核細胞とした場合、当該末梢血単核細胞は生体試料としての全血を分離することにより得られる。この全血の分離工程と分取対象試料である末梢血単核細胞を収集する工程とを密閉空間にて一貫して行うことができれば、前記分取対象試料に対して他の物質が混入するといった課題をより確実に解決することができる。
このため、本技術に係る試料分取キット1では、必要に応じて、生体試料を収容するための生体試料収容部16を備えることができる。
【0058】
前記生体試料収容部16の構成としては特に限定されず、例えば、生体試料が収容される袋状に形成されており、前記密閉部14を介して前記収容部11に連結される開口弁を備える。前記開口弁は所謂逆止弁の構成を採用しており、前記開口弁を介して生体試料が生体試料収容部16に収容された状態では、生体試料が外部雰囲気と接触しないようになっている。
この構成は一例に過ぎず、生体試料収容部16の構成としては公知の構成を採用することができ、生体試料を全血として場合には、いわゆる血液バッグの構成を採用することができる。
【0059】
(7)分離部
本技術に係る試料分取キット1は、必要に応じて、前記生体試料から分取対象試料を分離する分離部17を備えることができる。当該分離部17は、本技術に係る試料分取キット1において必須な構成ではなく、例えば、外部の分離装置を用いて前記生体試料を分離するようにしても差し支えない。
前記分離部17の構成としては特に限定されず、公知の構成を採用することができ、例えば、所謂スパイラル流路の構成をなし、前記生体試料収容部16に収容された生体試料が前記スパイラル流路へと流入するようにしてもよい。その結果、前記生体試料から分取対象試料が分離されるようになっている。
そして、分離された分取対象試料は、前記収容部11へと流入されるようになっている。ここで、前記分離部17に関しても、前記密閉部14を介して前記収容部11に密閉連結されていることが好ましい。
更に言えば、前記生体試料収容部16に関しても、前記密閉部14を介して前記分離部17に密閉連結されていることが好ましい。
【0060】
(8)シース容器
本技術に係る試料分取キット1では前述の如く、前記分取部12は、シースフローを形成し、前記分取対象試料からの目標生体試料の分取を行っている。
このため、本技術に係る試料分取キット1では、必要に応じて、前記分取部12に用いるシース液を収容するシース容器18を備えていてもよい。
このシース容器18は、例えば、シース液が流入する管状部材を備え、当該管状部材が前記分取部12のシース液インレット113と連通するようになっている。その結果、シース液が前記分取部12の流路内に流入され、シースフローが形成されるようになっている。
当該シース容器18は、必要に応じて、前記分取部12に対して着脱自在に連結されていることが好ましく、前記密閉部14を介して前記分取部12に密閉連結されている方がよい。
【0061】
尚、シース容器18の構成は特に限定されず、公知の構成を採用することができる。また、前記シース容器18からシース液を排出する構成も特に限定されず、例えばアクチュエータ等の駆動源を用いるようにしても差し支えない。更に、本技術に係る試料分取キット1において、前記シース容器18は必須の構成ではなく、例えば、前記収容部11に一体に形成されている構成であってもよい。
【0062】
(9)廃棄部
本技術に係る試料分取キット1では、前記分取部12にて分取対象試料から目標生体試料を分取する際、前記非目標生体試料を排除する必要がある。また、前記分取部12にてシースフローを形成して目標生体試料の分取を行っているため、非目標生体試料を含む分取対象試料及びシース液を排除する必要がある。
このため、本技術に係る試料分取キット1では、目標生体試料以外の生体試料やシース液(以下、「廃棄物」ともいう)を廃棄するための廃棄部19を備えていてもよい。
また、例えば、廃棄部19が廃棄物で満たされた場合には、当該廃棄部19自体を排除する必要がある。このため、廃棄部19は、前記分取部12に対して前記密閉部14を介して着脱自在に連結されていることが好ましい。
【0063】
更に、本技術に係る試料分取キット1が前記生体試料収容部16を備えている場合、前記生体試料収容部16内の生体試料が分取対象試料以外の試料を含む場合がある。かかる場合、前記分離部17によって、分取対象試料以外の試料が分離される可能性がある。このような分取対象試料以外の試料を廃棄するため、前記廃棄部19が前記密閉部14を介して前記分離部17に着脱自在に密閉連結されていることが好ましい(
図1参照)。
尚、廃棄部19に設けられる、分取対象試料以外の試料が流れる廃棄路は、分取対象試料や目標生体試料が流れる流路(以下、「正規流路」ともいう)と連結されている場合には、各廃棄路と正規流路との間には開閉自在なバルブを設けることが好ましい。
【0064】
以上のような本技術に係る試料分取キット1によれば、前記収容部11、前記分取部12、前記貯留部13が密閉部14を介して密閉連結されている。このため、目標生体試料の分取、目標生体試料の貯留を密閉空間で実行することができ、もって目標生体試料の分取の精製度を向上させることができ、また目標生体試料を含むミストによる試料分取キット自体の汚染及び/又は分取された目標生体試料への他物質の混入を防止することができる。
その結果、本技術に係る試料分取キット1は、目標生体試料の純度が要求される免疫細胞治療等の臨床に適用することができる。
【0065】
<2.第二実施形態に係る試料分取キット>
図1等に示す本技術に係る試料分取キット1では、前記圧力調整部31が分取部12の一部を構成するようになっている。
これに対して、
図14に示す第二実施形態に係る試料分取キット101では、圧力調整部が分取部12の一部として設けられておらず、別に設けられている。
以下では、第一実施形態に係る試料分取キット1と異なる構成、すなわち前記圧力調整部の構成を中心に説明し、圧力調整部の構成以外の第一実施形態に係る試料分取キット1と共通する構成については同一の符号を付してその説明を割愛する。
【0066】
(1)圧力調整部
本技術に係る試料分取キット101では、前記収容部11、分取部12、貯留部13が相互に密閉連結されている。このため、前記貯留部13内が目標生体試料により満たされることにより貯留部13内の圧力が高まると、これに伴って前記分取部12内部の圧力も高まる可能性がある。その結果、前記分取部12による目標生体試料の分取に影響を与える可能性がある。
このため、本技術に係る試料分取キット101では、前記貯留部13内の圧力を調整する圧力調整部32を備えている。以下の説明において、説明の便宜上、前記第一圧力調整部31と区別できるよう、圧力調整部32を「第二圧力調整部32」を称す。
【0067】
前記第二圧力調整部32の構成は特に限定されず、公知の構成を採用することができる。例えば、前記第一圧力調整部31と同様、前記貯留部13内に負圧を発生させる構成であってもよく、具体的にはピエゾ素子などの圧電素子が挙げられる。
また前述の如く、前記収容部11、分取部12、貯留部13が相互に密閉連結されているため、前記貯留部13や分取部12内の圧力上昇に起因して、前記収容部11内の圧力が上昇する可能性もある。その結果、前記分取部12への分取対象試料の流入等が阻害される可能性もある。
このため、
図14に示されるように、前記第二圧力調整部32は、収容部11から流出される分取対象試料の流量を調整することにより、該収容部11内の圧力調整を行う構成であることが好ましい。加えて、前記シース容器18から流出されるシース液の流量を調整することにより、該シース容器18内の圧力調整を行う構成であることが好ましい。
尚、
図14に示す試料分取キット101では、第一実施形態に係る試料分取キット1と同様、前記分取部12が圧力調整部31を備える構成であってもよく、圧力調整部が二つ設けられている構成であってもよい。
【0068】
以上のような第二実施形態に係る試料分取キット101であっても、前記収容部11、前記分取部12、前記貯留部13が密閉部14を介して密閉連結されている。このため、目標生体試料の分取、目標生体試料の貯留を密閉空間で実行することができ、もって目標生体試料の分取の精製度を向上させることができ、また目標生体試料を含むミストによる試料分取キット自体の汚染及び/又は分取された目標生体試料への他物質の混入を防止することができる。
その結果、本技術に係る試料分取キット101は、目標生体試料の純度が要求される臨床に適用することができる。
【0069】
更に、前記第二圧力調整部32を備えているため、前記貯留部13内の圧力が高まったとしても、前記分取部12及び収容部11内の圧力を調整することができるため、分取対象試料の流出入、目標生体試料の分取を適切に行うことができる。
【0070】
<3.第一実施形態に係る試料分取装置>
本技術は、前記試料分取キット1を用いた試料分取装置をも提供する。以下、
図15を用いて、本技術に係る試料分取装置201を説明する。
図15に示されるように、前記試料分取装置201は、大別して、試料分取キット1と、光照射部21と、光検出部22と、演算処理部23と、を備え、必要に応じて、位置制御部24、分解光照射部25、薬剤投入管理部26、培養部27、圧力調整部28を備えていてもよい。以下、各部について説明する。
【0071】
(1)試料分取キット
本技術に係る試料分取装置201は、目標生体試料の分取、貯留を行う試料分取キット1を備える。
尚、当該試料分取キット1の構成は、
図1に示す試料分取キット1の構成と同一であるため、その説明を省略する。
【0072】
(2)光照射部
本技術に係る試料分取装置201は、前記分取対象試料に対して光を照射する光照射部21を備える。
具体的には、光照射部21は、前記分取部12の主流路115上に設けられる検出領域115aを通流する分取対象試料に光(励起光)を照射する。
光照射部21は、例えば、励起光を出射する光源と、前記主流路115を通流する分取対象試料に対して励起光を集光する対物レンズ等を含んで構成される。光源は、分析の目的に応じてレーザダイオード、SHGレーザ、固体レーザ、ガスレーザ及び高輝度LEDなどから適宜選択される。光照射部21は、必要に応じて、光源及び対物レンズ以外の光学素子を有していてもよい。
【0073】
(3)光検出部
本技術に係る試料分取装置201は、励起光が照射された分取対象試料から発せられた蛍光及び散乱光を検出する光検出部22を備える。
光検出部22は、具体的には、分取対象試料から発せられた蛍光及び散乱光を検出して、電気信号へと変換する。そして、当該電気信号を前記演算処理部23へと出力する。
当該光検出部22の構成は特に限定されず、公知の構成を採用することができ、更に電気信号への変換方法に関しても特に限定されない。
【0074】
(4)演算処理部
本技術に係る試料分取装置201は、前記光検出部22で変換された電気信号が入力される演算処理部23を備える。
この演算処理部23は、入力される電気信号に基づいて分取対象試料、及び当該分取対象試料内に含まれる目標生体試料の光学特性を判定する。
更に、当該演算処理部23では、分取対象試料から目標生体試料を分取するための閾値、要求個数以上の目標生体試料が分取されたか否かを判定するための閾値、前記標識部15によって標識される蛍光色素による蛍光強度に基づいて目標生体試料を選別するための閾値等を算出するためのゲーティング回路を備える。
このゲーティング回路の構成により、分取対象試料から目標生体試料を分取するための閾値が算出された場合には、これを分取のための電気信号に変換し、当該分取信号を前記分取部12が備える第一圧力調整部31に出力する。
尚、前記演算処理部23の構成は特に限定されず公知の構成を採用することができる。更に、前記演算処理部23のゲーティング回路により行われる演算処理方法も公知の方法を採用することができる。
【0075】
(5)位置制御部
本技術に係る試料分取装置201は、必要に応じて、位置制御部24を備えていてもよい。
前記分取部12が前記構成からなる場合、前記励起光は前記分取部12の検出領域115aに照射される必要があり、前記位置制御部24は、試料分取キット1と前記光照射部21との相対的位置関係を制御する。
当該位置制御部24の構成としては特に限定されず公知の構成を採用することができ、例えば駆動源となるアクチュエータなどが挙げられる。
【0076】
(6)分解光照射部
本技術に係る試料分取装置201は、必要に応じて、分解光照射部25を備えていてもよい。
前記試料分取キット1が前記標識部15を備え、分取対象試料が光分解性リンカを介して蛍光色素を標識される構成である場合、使用環境に応じて、前記分取対象試料から蛍光色素を排除する必要がある。
前記分解光照射部25は、前記光分解性リンカに対して所定の光を照射する。その結果として、分取対象試料から蛍光色素を排除することができる。
ここで、分解性リンカに照射する光の波長は、各光分解性リンカに対応する波長であればよい。例えば、メトキシニトロベンジルの場合、346nmで分解効率が最も良く、これを1とすると、364nmでは0.89、406nmでは0.15、487nmでは0.007の分解効率となる。300nm以下の波長は、分取対象試料にダメージを与える可能性があるので使用しないことが好ましい。また、分取対象試料、特に目標生体試料にダメージを与えない、例えば、30mW/cm^2,100sec.→3J/cm^2等で照射することが好ましい。照射量として、前記目標生体試料が細胞である場合、その種にもよるが、500J/cm^2でDNAにダメージが生じて細胞成長を阻害すると言われている(Callegari, A. J. & Kelly, T. J. Shedding light on the DNA damage checkpoint. Cell Cycle 6, 660-6 (2007))。また、42J/cm^2では細胞毒性が生じない、という報告もある(Masato T, et al, Optical cell separation from three-dimensional environment in photodegradable hydrogels for pure culture techniques, Scientific Reports 4, Article number. 4793(2014))。
【0077】
(7)薬剤投入管理部
本技術に係る試料分取装置201は、必要に応じて、薬剤投入管理部26を備えていてもよい。
前記試料分取キット1の貯留部13に貯留された目標生体試料は、必要に応じて、活性化・遺伝子導入を行う必要があり、前記薬剤投入管理部26は、前記貯留部13に対して目標生体試料を活性化するための薬剤や当該目標生体試料に対して遺伝子を導入するための薬剤を投入する。又は、貯留された目標生体試料の状態に応じて各薬剤の投入量等を管理する。
前記薬剤としては、活性化には各種サイトカイン(インターロイキン-2(IL-2)、IL-7、IL-15、IL-21など)や各種抗体(抗CD3抗体、抗CD28抗体など)など、遺伝子導入には、目的遺伝子を発現するプラスミドが導入された各種ウイルスベクター(アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなど)の公知の薬剤を用いることができ、貯留される目標生体試料の種類や状態に応じて適切なものと選択することができる。更には、公知の薬剤を複数種類組み合わせて用いることもできる。
【0078】
(8)培養部
本技術に係る試料分取装置201は、必要に応じて、培養部27を備えていてもよい。
当該試料分取装置201の用途に応じ、前記試料分取キット1により分取された目標生体試料の数量を増加させる必要が考えられる。すなわち、前記培養部27では、前記貯留部13に貯留された目標生体試料を培養する。
具体的には、前記貯留部13内の温度制御を行い、当該貯留部13内に収容される目標生体試料を増加する。
尚、前記培養部27における温度調整方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができ、例えば貯留部13に発熱体を設け、前記培養部27から前記発熱体に対して温度上昇/下降を制御する電気信号を出力するようにしてもよい。
【0079】
(9)圧力調整部
本技術に係る試料分取装置201は、必要に応じて、圧力調整部28を備えていてもよい。
前述の如く、前記試料分取キット1では前記収容部11、分取部12、貯留部13が相互に密閉連結されているため、前記貯留部13における圧力変化が収容部11及び/又は分取部12における圧力変化を引き起こす可能性がある。前記圧力調整部28は、前記貯留部13内の圧力を調整する。
具体的には、前記貯留部13内に負圧を発生させる構成であり、ピエゾ素子などの圧電素子が挙げられる。
更に、圧力調整部28は、収容部11から流出される分取対象試料の流量を調整することにより、該収容部11内の圧力調整を行う構成であることが好ましい。加えて、前記シース容器18から流出されるシース液の流量を調整することにより、該シース容器18内の圧力調整を行う構成であることが好ましい。
すなわち、前記圧力調整部28は、
図14に示す試料分取キット101が備える第二圧力調整部32と同一の構成を採用している。
【0080】
(10)その他の構成
本技術に係る試料分取装置201は、前記分離部17を備えた試料分取キット1を備えており、当該試料分取キット1により生体試料から分取対象試料が分離されるようになっている。
しかし、前記分離は試料分取キット1により行う構成でなくともよく、本技術に係る試料分取装置201は前記分離を行う分離部(図示外)を備える構成であってもよい。
すなわち、前記分離部は、例えば、公知の遠心分離装置であって、前記試料分取キット1全体或いは当該試料分取キット1が備える生体試料収容部16を遠心分離する構成であってもよい。
【0081】
<4.第一実施形態に係る試料分取装置の動作説明>
上記試料分取装置201の動作について、
図16~19を用いて説明する。
【0082】
(1)分離工程
先ず、本技術に係る試料分取装置201では、前記試料分取キット1により、又は当該試料分取キット1と別に設けられた分離部により、前記生体試料から分取対象試料を分離する。当該分離工程S1の方法としては特に限定されず、遠心分離法を用いることができる。
【0083】
(2)試薬結合工程
分離工程S1により分取対象試料が分離された後、分取対象試料が収容された収容部12に対して、標識部15により蛍光抗体試薬を流入させ、当該試薬を分取対象試料に結合させる(試薬結合工程S2)。
尚、蛍光色素の種類及び数は特に限定されるものではなく、FITC(fluorescein isothiocyanete:C21H11NO5S)、PE(phycoerythrin)、PerCP(periidinin chlorophyll protein)、PE-Cy5及びPE-Cy7などの公知の色素を、必要に応じて適宜選択して使用することができる。更に、各分取対象試料が複数の蛍光色素で修飾されていてもよい。
また前述の如く、前記蛍光色素は、分解性リンカ、特に光分解性リンカを介して分取対象試料に結合されていることが好ましい。
【0084】
(3)分取工程
試薬結合工程S2により、分取対象試料に対して蛍光色素が標識された後、光学特性に基づいて分取対象試料から目標生体試料を分取する分取工程S3が行われる。
この分取工程S3の詳細について、
図17を用いて説明する。尚、
図17に示す工程が一例に過ぎない。
【0085】
図17に示されるように、本技術に係る試料分取装置201における分取工程S3は、バルブ切替第一工程S31、予備測定工程S32、本測定工程S33、バルブ切替第二工程S34、目標生体試料取得工程S35、バルブ閉止工程S37を含む。各工程について、以下に説明する。
【0086】
(3-1)バルブ切替第一工程
本技術に係る試料分取装置201において、前記分取部12に設けられた正規流路と前記廃棄部19に設けられた廃棄路との間に前記バルブが設けられている場合、当該バルブを開き、分取部12において目標生体試料を含む分取対象試料全てが廃棄部19へと流入するようにする(バルブ切替第一工程S31)。
【0087】
(3-2)予備測定工程
予備測定工程S32に関しては、
図18を用いて説明する。
図18に示されるように、予備測定工程S32は、少なくとも、蛍光強度情報取得工程S322、機械学習工程S323、閾値設定工程S324を含む。
すなわち、前記バルブ切替第一工程S31によりバルブが開かれた状態で、前記収容部11から分取対象試料を前記分取部12内の流路に導入する(S321)。そして、前記光検出部22により分取対象試料の蛍光強度情報を取得する(蛍光強度情報取得工程S322)。更に、前記蛍光強度情報に基づいて、分取対象試料の由来情報・過去の事例情報を援用して前記演算処理部23に機械学習させる(機械学習工程S323)。
そして、前記演算処理部23にて、分取対象試料がどのような群にわかれるかを推定する。その後、前記蛍光強度情報取得工程S322により得られた蛍光強度に対して、分取対象試料から目標生体試料を分取するための閾値、要求個数以上の目標生体試料が分取されたか否かを判定するための閾値、前記標識部15によって標識される蛍光色素による蛍光強度に基づいて目標生体試料を選別するための閾値などを設定する(閾値設定工程S324)。
このようにして、閾値設定工程S324が終了することにより、予備測定工程S32が終了する。
【0088】
(3-3)本測定工程
前記予備測定工程S32が終了した後、本測定工程S33が行われる。
本測定工程S33では、
図19に示されるように、前記バルブ切替第一工程S31によりバルブが開かれた状態で、前記収容部11から分取対象試料を前記分取部12内の流路に導入する(S331)。そして、前記分取部12が備える第一圧力調整部31のパラメータ(ピエゾ振幅、前記目的生体試料が前記検出領域115aから分岐部に移動するまでの時間:遅れ時間など)の調整を行う(S332)。各パラメータの調整が終了することにより、本測定工程S33が終了する。
【0089】
(3-4)バルブ切替第二工程
前記本測定工程S33により、第一圧力調整部31のパラメータが適正に設定された後、前記バルブの切替を行う(バルブ切替第二工程S34)。このバルブ切替第二工程S34により、目標生体試料が前記貯留部13へと流入することが可能となる。
【0090】
(3-5)目標生体試料取得工程
バルブ切替第二工程S34の後、前記収容部11から分取対象試料を前記分取部12内の流路に導入する。そして、前記分取部12、光照射部21、光検出部22、演算処理部23により、目標生体試料を分取し、前記貯留部13へと貯留する(目標生体試料取得工程S35)。
かかる際、前記演算処理部23にて算出された閾値に基づいて、前記貯留部13内の目標生体試料の数が要求数に達しているか否かの判定が行われる。当該判定工程S36において、目標生体試料の数が要求数よりも少ない場合には(S36のNO)、再度目標生体試料取得工程S35を行う。この動作は、目標生体試料の数が要求数に達するまで行われる。
一方、目標生体試料の数が要求数よりも多い場合には(S36のYES)、次のバルブ閉止工程S37に進む。
【0091】
(3-6)バルブ閉止工程
目標生体試料の数が要求数に達した場合には、前記分取部12から貯留部13への分取対象試料の混入を防ぐため、前記バルブを閉止する(バルブ閉止工程S37)。このバルブ閉止工程S37が終了することにより、前記分取工程S3が終了する。
【0092】
(4)内部処理工程
前記分取工程S3が終了した後、内部処理工程S4が行われる。この内部処理工程S4では、前記薬剤投入管理部26による、前記貯留部13に対する所定の薬剤の投入等が行われ、前記目標生体試料の活性化や、当該目標生体試料への遺伝子導入などが行われる。
【0093】
(5)培養工程
更に、前記内部処理工程S4が行われた後、培養工程S5が行われる。具体的には、前記培養部27により、前記貯留部13の温度調整が行われ、前記目標生体試料の培養が行われる。
【0094】
(6)濃縮工程
培養工程S5が行われた後は、前記貯留部13内に貯留され、培養された目標生体試料を濃縮する作業が行われる(濃縮工程S6)。尚、目標生体試料を濃縮する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
【0095】
(7)保存工程
前記濃縮工程S6が行われた後、濃縮された目標生体試料を保存する工程が行われる(保存工程S7)。尚、目標生体試料の保存方法は特に限定されず、目標生体試料の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0096】
以上のような本技術に係る試料分取装置201によれば、前記収容部11、前記分取部12、前記貯留部13が密閉部14を介して密閉連結されている。このため、目標生体試料の分取、目標生体試料の貯留を密閉空間で実行することができ、もって目標生体試料の分取の精製度を向上させることができ、また目標生体試料を含むミストによる試料分取キット自体の汚染及び/又は分取された目標生体試料への他物質の混入を防止することができる。
その結果、本技術に係る試料分取装置201は、目標生体試料の純度が要求される臨床に適用することができる。
【0097】
なお、本技術に係る試料分取装置は、以下のような構成も取ることができる。
(1)
分取対象試料が収容された収容部と、
前記分取対象試料から目標生体試料を分取する分取部と、
前記目標生体試料が収容される貯留部と、を備え、
前記収容部と、分取部と、貯留部と、が密閉連結される、試料分取キット。
(2)
前記分取部は、前記分取対象試料が通流する流路を備え、
前記分取部の流路内の圧力及び/又は前記貯留部内の圧力を調整する圧力調整部を更に備える、(1)記載の試料分取キット。
(3)
更に、前記分取対象試料を蛍光色素で標識する標識部と、を備え、
前記標識部が、前記収容部と分取部の少なくともいずれか一方に密閉連結される、(1)又は(2)に記載の試料分取キット。
(4)
前記蛍光色素は、分解性リンカを介して前記分取対象試料に結合される、(1)~(3)のいずれかに記載の試料分取キット。
(5)
更に、前記分取対象試料が含まれる生体試料が収容される生体試料収容部と、前記生体試料から分取対象試料を分離する分離部と、を備え、
前記生体試料収容部が前記分離部に、当該分離部が前記収容部に密閉連結される、(1)~(4)のいずれかにの試料分取キット。
(6)
分取対象試料が収容された収容部、前記分取対象試料から目標生体試料を分取する分取部及び前記目標生体試料が収容される貯留部を備え、前記収容部、分取部及び貯留部が密閉連結された試料分取キットと、
前記分取対象試料に励起光を照射する光照射部と、
前記分取対象試料から発せられる蛍光を検出する光検出部と、
前記光検出部の検出結果に基づいて分取情報を算出する演算処理部と、
を備える、試料分取装置。
(7)
前記演算処理部は、前記分取対象試料の光学特性情報に基づいて光学特性の閾値を設定するゲーティング回路を備える、(6)記載の試料分取装置。
(8)
前記分取部は、前記分取対象試料が通流する流路を備え、
前記分取部の流路内の圧力及び/又は前記貯留部内の圧力を調整する圧力調整部を備える、(6)又は(7)に記載の試料分取装置。
(9)
前記分取対象試料には、分解性リンカを介して蛍光色素が結合され、
前記分解性リンカを分解する分解部を更に備える、(6)~(8)のいずれかに記載の試料分取装置。
(10)
前記試料分取キットは、前記分取対象試料が含まれる生体試料が収容される生体試料収容部と、前記生体試料から分取対象試料を分離する分離部と、を備えており、且つ、前記生体試料収容部が前記分離部に、当該分離部が前記収容部に密閉連結される、(6)~(9)のいずれかに記載の試料分取装置。
(11)
更に、前記貯留部の温度調整を行う培養部を備える、(6)~(10)のいずれかに記載の試料分取装置。
(12)
更に、前記貯留部に対する薬剤投入を制御する薬剤投入管理部を備える、(6)~(11)のいずれかに記載の試料分取装置。
【符号の説明】
【0098】
1、101 試料分取キット
11 収容部
12 分取部
13 貯留部