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特許7196967高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法および高炉炉内コークスの置換方法
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  • 特許-高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法および高炉炉内コークスの置換方法 図1
  • 特許-高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法および高炉炉内コークスの置換方法 図2
  • 特許-高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法および高炉炉内コークスの置換方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法および高炉炉内コークスの置換方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20221220BHJP
   C21B 7/24 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C21B5/00 315
C21B7/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021132661
(22)【出願日】2021-08-17
【審査請求日】2022-09-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】松永 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】盛家 晃太
(72)【発明者】
【氏名】市川 和平
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-047397(JP,A)
【文献】特開昭64-065211(JP,A)
【文献】特開2018-003044(JP,A)
【文献】特開2016-030833(JP,A)
【文献】特開平05-295415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00
C21B 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減尺休風中の高炉において、高炉の立上げを行う際に、該高炉の出銑孔からバーナーを炉内に挿入し、前記バーナーを用いて炉内コークスを消費した後の炉内充填物の堆積形状を推定する高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法であって、
減尺休風中の炉内充填物の堆積形状を推定する工程と、
炉内底部の凝固層の形状を推定し、前記工程で推定された炉内充填物の堆積形状と、炉内底部の凝固層の形状から、炉内コークスの充填領域を推定する工程と、
前記バーナーを用いて消費される炉内コークス量を推定する工程と、
前記炉内コークス量から炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を推定する工程と、
を有する、高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法を用いた高炉炉内コークスの置換方法であって、
前記減尺休風中の炉内充填物の堆積形状と、前記炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状の変化を抑制するように高炉炉内にコークスを充填する、高炉炉内コークスの置換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法および高炉炉内コークスの置換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉では、炉頂から鉄鉱石やコークスを装入し、炉下部に設けられた羽口から高温の空気を吹込み、出銑孔から溶銑滓を排出するといった操業を行っている。羽口先で生成した高温のCO、Hといった還元性ガスが炉内を上昇する過程で、炉内を降下する鉄鉱石を昇温、還元、溶融することで、溶銑が製造される。定常操業時は炉内に高温空気を送風し続けるが、炉体の補修や操業トラブル対応等、非定常な事象に起因して一時的に高炉への送風を停止する、休風と呼ばれる措置をとることがある。このような場合、炉体からの抜熱や、羽口からの空気吸引に起因して炉内充填物の温度は低下する。
【0003】
炉内の温度が低下すると、炉内溶融物は粘性上昇、さらには凝固するため、出銑孔からの排出が難しくなっていく。そのような状況で羽口から送風を行うと、還元溶融した溶銑滓が排出されないため炉下部における滞留量が増加する。滴下した溶銑滓による炉下部の昇温に伴い排出可能となることもあるが、温度上昇が不十分な場合は溶銑滓を排出しにくい状況が続き、溶銑滓滞留量がさらに増加する。滞留量の著しい増加により溶銑滓レベルが羽口に到達すると、羽口の溶損や、送風管の閉塞等のトラブルを引き起こす。そのような場合、炉内への送風が不可能となることから炉内への入熱がなくなり、炉冷事故に至る。
【0004】
ここで炉冷事故とは、高炉炉内の熱レベルが著しく低下して出銑孔からの溶銑滓排出が不可能となり、定常操業の継続が困難となることを指す。このような事故の際は、次のような手段で炉況の回復を図る。すなわち、ある1つの出銑孔とその直上の羽口の間の凝固物を酸素吹き付け等の手法で溶融排出して、溶融物の出口を確保してから、前記出銑孔と前記直上羽口2~3本の送風を行い、生成した溶融物をもって周囲の凝固層を徐々に融解しながら使用出銑孔、羽口数を定常操業に近づけていく。炉冷事故から定常操業への復帰には通例2~3か月かかるため、当然その間は溶銑製造量が著しく減少する。そのほか、復帰作業の過程で作業者が高温溶融物や有毒ガスにさらされる危険性も高い。そのため、炉冷事故は経済的にも安全的にも損失・リスクの非常に大きな操業上のトラブルであるといえる。
【0005】
前述の通り、休風からの立上げ操業時は炉内の熱レベルが低いため、前記炉冷事故に至るリスクが高まる。そのため、従来は休風前にコークス比を上げて炉内の熱レベルを高めておき、炉冷事故へ至るリスクを低減させてきた。しかし、休風期間が長くなるにつれて、次第にコークス比増による熱補償では熱レベルを維持できなくなる。そのような場合、図1のように、炉内充填物を、コークス比の高い条件で高炉朝顔部上端~羽口レベルまで減容してから休風し、休風からの立上げ前に再びコークス比の高い条件で原料を装入してから炉内への送風を再開するといった方法がとられる。このような休風は減尺休風と呼ばれる。減尺休風は、大規模な設備補修や高炉操業の長期休止の際に実施されるが、通常の休風に比して長い期間の休風となり、立上げ時の炉冷リスクは一層高くなる。
【0006】
こういった休風、あるいは減尺休風時の炉冷リスクを低下させる手段として、図1のように、送風前に出銑孔にバーナーを挿入して酸素や燃料を吹き込み、羽口~出銑孔間の熱レベルを十分に引き上げてから送風を開始する方法が提案されている(特許文献1)。また、炉下部の通気通液性を向上させるために、炉下部の粉化・強度低下したコークス(劣化コークス)を一部燃焼除去し、新しいコークスに置換する、といった方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-30833号公報
【文献】特開平5-295415号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】吉川文明、他5名、「高炉炉床部の耐火物浸食と凝固層分布の推定および操業への応用」、鉄と鋼、第73年(1987)第15号、p.2068-2075
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の手法は、高炉炉下部の熱レベルを向上させるために有効であるが、炉冷事故のリスク低減という目的から考えると、同時に特許文献2に記載のような、粉化・強度低下した劣化コークスを新しいコークスに置換する手法を併用することで、より一層の炉下部の通気通液性を確保でき、炉冷事故のリスクを低減できると考えられる。ただし、前記劣化コークスの置換を行う場合、特許文献2に記載の手法では、劣化コークスの周囲に存在するコークスが荷下がりするに過ぎないため、必ずしも処置前に存在したコークスよりも性状の良好なコークスに置換されるとは言い切れない。さらに、炉下部の一部のコークスを中途半端に消費することにより、その上部の充填物が局所的に降下し、その後装入される原料の積層構造が不均一になるため、炉上部の通気性悪化や原料の還元不良などの操業への悪影響の顕現が懸念される。
【0010】
本発明は、減尺休風中の高炉において、高炉の立上げを行う際に、バーナーを用いて炉内コークスを消費した後の炉内充填物の堆積形状の推定方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、前記推定方法を用いた高炉炉内コークスの置換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]減尺休風中の高炉において、高炉の立上げを行う際に、該高炉の出銑孔からバーナーを炉内に挿入し、前記バーナーを用いて炉内コークスを消費した後の炉内充填物の堆積形状を推定する高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法であって、
減尺休風中の炉内充填物の堆積形状を推定する工程と、
前記工程で推定された炉内充填物の堆積形状と、炉内底部の凝固層の形状から、炉内コークスの充填領域を推定する工程と、
前記バーナーを用いて消費される炉内コークス量を推定する工程と、
前記炉内コークス量から炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を推定する工程と、
を有する、高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法。
[2]前記[1]に記載の高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法を用いた高炉炉内コークスの置換方法であって、
前記減尺休風中の炉内充填物の堆積形状と、前記炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状の変化を抑制するように高炉炉内にコークスを充填する、高炉炉内コークスの置換方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、減尺休風中の高炉において、高炉の立上げを行う際に、バーナーを用いて炉内コークス(劣化コークス)を消費した後の炉内充填物の堆積形状を推定できる。
【0014】
本発明によれば、劣化コークス消費に伴う炉内充填物の堆積形状の変化を推定し、その推定結果を参照して高炉炉内にコークスを充填することで、高炉炉内コークス置換に伴う炉内充填物の堆積形状の変化を緩和しながら、減尺休風中の炉内コークス(劣化コークス)を新しいコークスに置換して炉下部の通気、通液性を向上させることができるようになり、休風状態の高炉を安定的に定常操業状態まで立ち上げることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】減尺休風中の高炉炉内充填物の堆積形状と、高炉の出銑孔からバーナーを炉内に挿入した状態の一例を示す模式図である。
図2】本実施例において推定した炉内コークスの充填領域を示す図である。
図3】本実施例において推定した炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、高炉において実施されるものである。高炉とは、鉄鉱石や焼結鉱などの酸化鉄を含む主原料と、コークスをはじめとした炭素や水素を含む還元材を用いて溶銑を製造する工業炉を指す。炉頂から主原料と還元材を層状に装入し、羽口部から酸素を含む熱風と、微粉炭をはじめとした還元材を炉内に送り、羽口近傍で還元材がガス化することで生成したCOやHが炉上部へ流通する過程で、炉頂から装入された主原料を昇温、還元、溶融し、溶銑が生成される。生成された溶銑は炉内を滴下して炉床部に溜まり、高炉下部側面に設置された出銑孔から炉外へ排出される。高炉の内容積や、原料装入機構、羽口の本数等、高炉の設備設計は炉体ごとに異なることが多いが、本発明は前記設備設計の差異にかかわらず適用できるものである。
【0017】
また、高炉操業では、炉頂から装入される主原料や還元材、羽口部から吹込まれる還元材として様々なものを用いる。主原料としては鉄鉱石、焼結鉱、ペレット、スクラップ、還元鉄などが、炉頂から装入する還元材としては塊コークスやそれよりも小さい小粒コークス、フェロコークスなどが、羽口部から吹込まれる還元材としては微粉炭、粉コークス、プラスチック、天然ガスをはじめとした炭素原子や水素原子の少なくともどちらか一方を含む可燃性ガス、液体化石燃料などが考えられるが、本発明は使用する前記原料や還元材の種類にかかわらず適用できるものである。
【0018】
本発明では、減尺休風中の高炉炉内充填物の堆積形状(以後、初期堆積形状ともいう)、炉内底部の凝固層の形状(凝固層形状)、炉内コークス(劣化コークス)の消費挙動、劣化コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を推定することで、劣化コークス消費前後における炉内充填物の堆積形状変化を推定できることを見出した。また、前記堆積形状変化の推定結果に基づいて新たに充填するコークスの量や充填位置を適宜決定することで、減尺休風中に炉内に充填されていたコークスと、減尺休風から立ち上げる際に新たに充填するコークスの置換前後での炉内充填物の堆積形状変化を抑制することができることを見出した。
【0019】
<高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法>
本発明の高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法は、減尺休風中の炉内充填物の堆積形状を推定する工程と、前記工程で推定された炉内充填物の堆積形状と、炉内底部の凝固層の形状から、炉内コークスの充填領域を推定する工程と、バーナーを用いて消費される炉内コークス量を推定する工程と、前記炉内コークス量から炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を推定する工程と、を有する。
【0020】
(減尺休風中の炉内充填物の堆積形状を推定する工程)
減尺休風中の炉内充填物の堆積形状を推定する工程では、減尺休風中の炉内充填物の堆積形状(初期堆積形状)を推定する。初期堆積形状の推定方法としては、たとえば減尺休風中の高炉の炉頂から距離計を用いて、炉内充填物表面までの距離を数点測定し、その結果から初期堆積形状を推定する方法が考えられる。前記距離計としては、特に限定されないが、非接触式の距離計、例えばレーザー距離計が挙げられる。そして、前記距離計を用いて、炉内充填物表面までの距離を数点測定することで3次元的に堆積形状を推定できる。ただし、初期堆積形状の推定方法はこれに限定されず、本発明の技術は、初期堆積形状の推定方法の如何に依らず実施することができる。
【0021】
(炉内コークスの充填領域を推定する工程)
炉内コークスの充填領域を推定する工程では、上記初期堆積形状を推定する工程で推定された炉内充填物の堆積形状(初期堆積形状)と、炉内底部の凝固層の形状から、炉内コークスの充填領域を推定する。減尺休風中の高炉には、炉内底部において成長した凝固層が存在する。本工程では、この炉内底部に存在する凝固層の形状を推定する。炉内底部の凝固層の形状の推定方法としては、境界要素法による手法が考えられ、たとえば非特許文献1に記載の手法が考えられる。非特許文献1に記載の手法は、凝固層界面を銑鉄の凝固温度(1150℃)の等温線と仮定し、境界要素法による伝熱計算を行い、実炉において熱電対により測定された炉底の温度の実測値と境界要素法による温度の計算結果の誤差が最小となるような凝固界面を逐次計算して算出する方法である。このように算出した凝固界面から炉内底部の凝固層の形状を推定できる。なお、高炉の羽口より下の炉底部には、高炉周方向および高さ方向の複数位置に熱電対が設置されていることが一般的である。
【0022】
上述のようにして、炉内底部の凝固層の形状を推定した後、炉内コークスの充填領域を推定する。炉内コークスの充填領域の推定方法としては、上述のように推定された初期堆積形状と、炉内底部の凝固層の形状から、前記凝固層の形状以外の領域を、炉内コークスの充填領域と推定することができる。
【0023】
(バーナーを用いて消費される炉内コークス量を推定する工程および前記炉内コークス量から炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を推定する工程)
バーナーを用いて消費される炉内コークス量を推定する工程では、高炉の出銑孔から炉内に挿入されたバーナーにより消費される炉内コークス量を推定する。この推定方法としては、たとえば前記バーナーから炉内に吹き込まれる燃焼ガスのコークス充填層(炉内コークスの充填領域)における流路と、燃焼ガスの組成を用いて、バーナーから吹込んだガスが全てコークスと反応すると仮定して推定する方法が考えられる。ただし、燃焼ガスの温度は炉内を上昇しながら徐々に低下するため、コークス充填層中で反応が進行する温度よりも低くなる可能性がある。また、反応が進行する温度であっても、その温度によって反応速度は変化する。そのため、燃焼ガスと炉内コークスとの間の伝熱と、各種反応の反応速度の温度依存性を考慮したうえで、炉内コークス(劣化コークス)の消費挙動を推定することが望ましい。
【0024】
出銑孔から挿入するバーナーに用いるガスとしては、ガスそのもの、あるいはガスの燃焼後に炉内コークスを反応消費するようなものであればよい。本発明者らは、前記ガスとしてLNG、酸素を用いたが、本発明に記載の技術において使用できるガス種はこれらに限るものではない。
【0025】
上述のようにして、バーナーを用いて消費される炉内コークス量(炉内コークス消費領域)を推定した後、炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を推定する工程において、前記推定した炉内コークス量をもとに、炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を推定する。炉内コークス消費後の堆積形状は、図3に示すように、炉内コークス(劣化コークス)が燃焼ガスによって消費されることで生じた空洞領域をもとに、前記空洞領域以外の領域を、炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状と推定することができる。
【0026】
<高炉炉内コークスの置換方法>
本発明の高炉炉内コークスの置換方法は、上述の高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法を用いるものであり、具体的には、減尺休風中の炉内充填物の堆積形状(初期堆積形状)と、前記炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状をもとに、これらの堆積形状の変化を抑制するように、高炉炉内に新たなコークスを充填し、減尺休風中の炉内コークスを新たなコークスと置換するものである。すなわち、新たに充填するコークスの量や位置は、炉内充填物の初期堆積形状を再現するように充填されることが望ましい。コークスを新たに充填する方法としては、たとえば通常操業時と同様に炉頂から充填する方法や、羽口部からベルトコンベアを炉内に挿入し、このベルトコンベアにより充填する方法が考えられるが、新たなコークスを充填する位置と炉内充填物との高度差が大きいほど、充填される新しいコークスの細粒化が進む可能性が高まるため、できるだけ炉内充填物との高度差が小さい位置から新たなコークスを炉内に充填することが望ましい。
【0027】
以上に説明したように、本発明に記載の手法を用いれば、減尺休風中の炉内に存在する炉内コークス(劣化コークス)消費に伴う堆積形状の変化を推測し、その推測結果を参照して高炉内にコークスを充填することで、高炉内コークス置換に伴う堆積形状の変化を緩和しながら、劣化コークスを新しいコークスに置換して炉下部の通気、通液性を向上させることができるようになり、休風状態の高炉をより安定的に定常操業状態まで立ち上げることができる。
【実施例
【0028】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。
【0029】
長期間減尺休風状態にある商用高炉について、上述の実施形態に基づいて劣化コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を推定し、その後新しいコークスを充填してから、羽口からの送風を開始し、当該高炉の立上げ操業を行った。
【0030】
まず、減尺休風中の当該高炉炉頂部から非接触式の距離計(本実施例ではレーザー距離計)を使用して測定された炉内充填物までの距離データから、炉内充填物の初期堆積形状を推定した。さらに、当該高炉炉底部に設置された温度計のデータを用いて、前記実施形態に記載の手法により当該高炉炉内底部の凝固層形状を境界要素法により推定した。これらの手法から、炉内コークスの充填領域を推定した結果を図2に示す。なお、図2(a)は、推定した炉内コークスの充填領域を斜め上方から示した図であり、図2(b)は、図2(a)の出銑孔(2th)の垂直断面図(模式図)を示している。
【0031】
続いて、当該高炉炉底部の出銑孔からバーナーを挿入して燃焼ガスを炉内に吹き込むことを想定し、前記燃焼ガスの吹込みによる炉内コークス(劣化コークス)消費に伴う、炉内充填物の堆積形状の変化を、前記実施形態に記載の手法により推定した。劣化コークス消費後の炉内充填物の堆積形状の推定結果を図3に示す。なお、図3(a)は、推定した劣化コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を斜め上方から示した図であり、図3(b)は、図3(a)の出銑孔(2th)の垂直断面図(模式図)を示している。図2図3を比較すると、出銑孔の近傍から上方に向かって、劣化コークスが消費されて、すり鉢状の空洞が形成されたことが分かった。また、図2図3の推定結果の比較により、空洞の体積から、空洞を充填するために必要な新しいコークスの重量を計算した。
【0032】
前記重量の推定結果を基に、出銑孔からバーナーを挿入して炉内の劣化コークスを消費し、前記空洞に羽口から新しいコークスを充填した後、羽口レベルより上の部分に炉頂からコークス、主原料を装入した。その後羽口より送風を開始し立上げ操業を行ったところ、出銑孔からの溶銑滓排出は順調に行われ、溶銑滓が排出できずに羽口レベルまで炉内の残銑滓が滞留するといった重大なトラブルを引き起こすことなく、定常操業状態に復帰することができた。
【0033】
以上の結果から、本発明により、高炉内コークス置換に伴う堆積形状の変化を緩和しながら、劣化コークスを新しいコークスに置換して炉下部の通気、通液性を向上させ、減尺休風状態の高炉を安定的に定常操業状態まで立ち上げることができることが分かった。
【符号の説明】
【0034】
1 高炉炉体
2 羽口(送風羽口)
3 出銑孔
4 コークス
5 凝固層
6 バーナー
【要約】
【課題】減尺休風中の高炉において、高炉の立上げを行う際に、バーナーを用いて炉内コークスを消費した後の炉内充填物の堆積形状の推定方法を提供する。
【解決手段】高炉炉内充填物の堆積形状の推定方法は、減尺休風中の高炉において、高炉の立上げを行う際に、該高炉の出銑孔からバーナーを炉内に挿入し、前記バーナーを用いて炉内コークスを消費した後の炉内充填物の堆積形状を推定するものであり、減尺休風中の炉内充填物の堆積形状を推定する工程と、前記工程で推定された炉内充填物の堆積形状と、炉内底部の凝固層の形状から、炉内コークスの充填領域を推定する工程と、前記バーナーを用いて消費される炉内コークス量を推定する工程と、前記炉内コークス量から炉内コークス消費後の炉内充填物の堆積形状を推定する工程と、を有する。
【選択図】なし
図1
図2
図3