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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】溝加工装置及び溝加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/364 20140101AFI20221220BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20221220BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20221220BHJP
   G02B 26/12 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B23K26/364
B23K26/064 A
B23K26/082
G02B26/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021519463
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019132
(87)【国際公開番号】W WO2020230821
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019091044
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀行
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-178581(JP,A)
【文献】特開2014-161899(JP,A)
【文献】特開2002-28798(JP,A)
【文献】特開2016-203222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
G02B 26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームによって対象物の表面に溝を形成する溝加工装置であって、
前記レーザビームを出力する光源装置と、
前記光源装置から出力された前記レーザビームを反射するポリゴンミラーと、
前記ポリゴンミラーから反射された前記レーザビームの光路に設けられた光学系であって、前記ポリゴンミラーの一面から反射された前記レーザビームを通過させ、前記対象物の表面に集光させる集光部と、前記集光部の外側に設けられ、前記ポリゴンミラーの隣接する二面にまたがる角部から反射された前記レーザビームを通過させ、前記対象物の表面に集光させない非集光部と、を有する光学系と、
を備える、溝加工装置。
【請求項2】
前記非集光部は焦点を有さない、請求項1に記載の溝加工装置。
【請求項3】
前記非集光部は、前記ポリゴンミラーの前記角部から反射された前記レーザビームを発散させる、請求項1に記載の溝加工装置。
【請求項4】
前記非集光部を通過した前記レーザビームの光路に遮蔽板を備える、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の溝加工装置。
【請求項5】
レーザビームによって対象物の表面に溝を形成する溝加工方法であって、
光源装置により、前記レーザビームを出力する出力ステップと、
ポリゴンミラーにより、前記光源装置から出力された前記レーザビームを反射する反射ステップと、
前記ポリゴンミラーの一面から反射された前記レーザビームを集光部に通過させ、前記対象物の表面に集光する、集光部通過ステップと、
前記ポリゴンミラーの隣接する二面にまたがる角部から反射された前記レーザビームを、前記集光部の外側に設けられた非集光部に通過させ、前記対象物の表面に集光させない非集光部通過ステップと、
を備える溝加工方法。
【請求項6】
前記非集光部通過ステップでは、前記非集光部が焦点を有さない、請求項5に記載の溝加工方法。
【請求項7】
前記非集光部通過ステップでは、前記非集光部において、前記レーザビームを発散させる、請求項5に記載の溝加工方法。
【請求項8】
前記非集光部通過ステップにおいて前記非集光部を通過した前記レーザビームを、前記レーザビームの光路に設けた遮蔽板を用いて遮る遮蔽ステップを更に備える、請求項5から請求項7の何れか1項に記載の溝加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザにより対象物に溝を形成する溝加工装置及び溝加工方法に関する。本願は、2019年5月14日に、日本に出願された特願2019-091044号に基づき優先権を主張し、これらの内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
以前から、ポリゴンミラーを用いて、鋼板の表面を鋼板の通板方向に交差する方向(走査方向)にレーザビームで照射して、鋼板の表面に溝を周期的に形成することで、鉄損特性を改善する溝加工装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2002-292484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1A及び図1Bに示すように、溝加工装置のポリゴンミラー10に入射されるレーザビームLBは、点光源ではなく、所定の半径φを有している。
【0005】
図1Aに示すように、レーザビームLBがポリゴンミラー10の一面に収まるように入射されたときには、ポリゴンミラー10から反射されたレーザビームLBは、集光レンズ12を介して鋼板20の表面の一ケ所に集光され、鋼板20の表面の当該箇所に溝が形成される。
【0006】
一方、図1Bに示すように、ポリゴンミラー10の隣接する二面にまたがった角部にレーザビームLBが入射されたときには、レーザビームLBは、その隣接する二面のそれぞれから反射されるため、2つのレーザビームLB1及びLB2に分割さる。分割されたレーザビームLB1及びLB2は、集光レンズ12を介して鋼板20の表面に集光される。その結果、走査方向における溝の端部が、不十分なエネルギー密度のレーザビームLB1及びLB2で加工されることになる。そのため、溝の端部が浅くなり、均一な溝を形成することができない。また、分割されたレーザビームLB1及びLB2は、レーザビームLBとは異なる方向に照射される。そのため、鋼板20の表面の溝が形成されるべき位置とは異なる位置や、鋼板20の表面以外の別の装置等を、誤って加工してしまう虞もある。
【0007】
このような事態を回避するため、溝の端部に相当する部分にレーザビームLB1及びLB2を照射しないようマスク等の遮蔽板を設けることが考えられる。しかしながら、このような構成では遮蔽板自体が加工されてしまい、光学部品の汚染を招くという課題がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、光学部品を汚染することなく、均一な溝加工及び溝深さを実現する溝加工装置及び溝加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
(1)本発明の一実施形態に係る溝加工装置は、レーザビームによって対象物の表面に溝を形成する溝加工装置であって、前記レーザビームを出力する光源装置と、前記光源装置から出力された前記レーザビームを反射するポリゴンミラーと、前記ポリゴンミラーから反射された前記レーザビームの光路に設けられた光学系であって、前記ポリゴンミラーの一面から反射された前記レーザビームを通過させ、前記対象物の表面に集光させる集光部と、前記集光部の外側に設けられ、前記ポリゴンミラーの隣接する二面にまたがる角部から反射された前記レーザビームを通過させ、前記対象物の表面に集光させない非集光部と、を有する光学系と、を備える。
(2)上記(1)に記載の溝加工装置において、前記非集光部は焦点を有さなくてよい。
(3)上記(1)に記載の溝加工装置において、前記非集光部は、前記ポリゴンミラーの前記角部から反射された前記レーザビームを発散させてよい。
(4)上記(1)から(3)の何れか1項に記載の溝加工装置において、前記非集光部を通過した前記レーザビームの光路に遮蔽板を備えてよい。
(5)本発明の一実施形態に係る溝加工方法は、レーザビームによって対象物の表面に溝を形成する溝加工方法であって、光源装置により、前記レーザビームを出力する出力ステップと、ポリゴンミラーにより、前記光源装置から出力された前記レーザビームを反射する反射ステップと、前記ポリゴンミラーの一面から反射された前記レーザビームを集光部に通過させ、前記対象物の表面に集光する、集光部通過ステップと、前記ポリゴンミラーの隣接する二面にまたがる角部から反射された前記レーザビームを、前記集光部の外側に設けられた非集光部に通過させ、前記対象物の表面に集光させない非集光部通過ステップと、を備える。
(6)上記(5)に記載の溝加工方法において、前記非集光部通過ステップでは、前記非集光部が焦点を有さなくてよい。
(7)上記(5)に記載の溝加工方法において、前記非集光部通過ステップでは、前記非集光部において、前記レーザビームを発散させてよい。
(8)上記(5)から(7)に記載の何れか1項に溝加工方法において、前記非集光部通過ステップにおいて前記非集光部を通過した前記レーザビームを、前記レーザビームの光路に設けた遮蔽板を用いて遮る遮蔽ステップを更に備えてよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリゴンミラーの角部から反射されたレーザビームが光学系の非集光部を通るようにすることで、対象物の表面に溝が加工されることがなくなる。これにより、光学部品を汚染することなく、均一な溝加工及び溝深さを実現する溝加工装置及び溝加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】レーザビームがポリゴンミラーの一面に収まるように入射されたときに、ポリゴンミラーから反射されたレーザビームが鋼板の表面に集光される状態を示す模式図である。
図1B】レーザビームがポリゴンミラーの隣接する二面にまたがって入射されたときに、隣接する二面からそれぞれ反射されたレーザビームが鋼板の表面に集光される状態を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る溝加工装置を鋼板の圧延方向から見た構成を示す模式図である。
図3】ポリゴンミラーの回転角度を説明するための模式図である。
図4】レンズのサイズを説明するための模式図である。
図5A】ポリゴンミラーの回転角度とレーザビームの照射状態とを表す模式図である。
図5B】ポリゴンミラーの回転角度とレーザビームの照射状態とを表す模式図である。
図5C】ポリゴンミラーの回転角度とレーザビームの照射状態とを表す模式図である。
図5D】ポリゴンミラーの回転角度とレーザビームの照射状態とを表す模式図である。
図5E】ポリゴンミラーの回転角度とレーザビームの照射状態とを表す模式図である。
図6】ポリゴンミラーの回転角度に応じて、鋼板の表面上のレーザビームのスポットが変化する様子を表す模式図である。
図7】本実施形態の変形例1に係る溝加工装置を鋼板の圧延方向から見た構成を示す模式図である。
図8】本実施形態の変形例2に係る溝加工装置を鋼板の圧延方向から見た構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本明細書及び図面において、同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0013】
図2に、本発明の実施形態に係る溝加工装置100を鋼板20の圧延方向から見た構成を模式的に示す。溝加工装置100は、加工対象物である鋼板20の表面にレーザにより溝を周期的に形成する装置である。鋼板20は、例えば、周知の方向性電磁鋼板材料からなる。溝加工装置100は、例えば、鋼板20の表面に形成する溝の長さ及び位置に基づいて鋼板20の幅方向(における位置が設定されるとともに、溝加工装置100の寸法に基づいて、鋼板20の長手方向における位置が設定されている。鋼板20の幅方向とは、走査方向であり、図2における紙面左右方向である。鋼板20の長手方向とは、例えば、鋼板20の圧延方向であり、図2における紙面奥行方向である。
【0014】
溝加工装置100は、図2に示すように、ポリゴンミラー10と、光源装置11と、コリメータ11Aと、レンズ13とを備えている。
【0015】
ポリゴンミラー10は、例えば正多角柱状をなし、正多角柱を構成する複数の側面に、それぞれ、複数(N枚)の平面鏡が設けられている。ポリゴンミラー10に対し、光源装置11からコリメータ11Aを介してレーザビームLBが一方向(水平方向)に入射されて平面鏡で反射される(反射ステップ)。
【0016】
ポリゴンミラー10は、モータ(図示せず)からの駆動によって回転軸O1周りに回転可能であり、ポリゴンミラー10の回転角度に応じて、平面鏡に対するレーザビームLBの入射角が順次変化する。これにより、レーザビームLBの反射方向が順次変化し、鋼板20の幅方向にレーザビームLBを走査することができる。
【0017】
なお、図1A図1B図2図3図5A図5E図7及び図8では、ポリゴンミラー10が八枚の平面鏡を有する例を示しているが、ポリゴンミラー10を構成する平面鏡の数は特に限定されない。
【0018】
光源装置11は、制御部(図示せず)の制御のもとで、所定の照射方式(例えば、連続照射方式又はパルス照射方式)でレーザビームを出力する(出力ステップ)。
【0019】
コリメータ11Aは、光ファイバケーブル15を介して光源装置11に接続されている。コリメータ11Aは、光源装置11から出力されたレーザビームの半径を調整し、調整後のレーザビームLBを出力する。レーザビームLBは、所定の半径φのレーザ径を有しており、当該レーザ径は円形をなしているが、楕円形であってもよい。その場合、コリメータ11Aとポリゴンミラー10の間に円柱レンズ又は円柱ミラーを挿入して一軸(例えば走査方向)のビーム半径を変更することにより、集光形状を楕円にすることができる。
【0020】
レンズ13は、ポリゴンミラー10から反射されたレーザビームの光路に設けられた光学系であり、一枚のガラスに研削、研磨等の加工を施すことにより製造される。レンズ13は、集光部13Aと、集光部13Aの外側(外周)に一体的に設けられた非集光部13Bとを有する。なお、以下の説明では、単一のレンズでレンズ13を構成する場合を例示するが、複数枚の組レンズを用いて、レンズ13を構成するようにしてもよい。レンズ13の代わりにミラーを採用してもよい。
【0021】
集光部13Aは、ポリゴンミラー10の一枚の平面鏡から反射されたレーザビームLBの光路に位置する。集光部13Aは、半径rc、焦点距離fの集光光学系を構成する。ポリゴンミラー10から反射されたレーザビームLBが集光部13Aを通過し、鋼板20の表面に集光される(集光部通過ステップ)ことで、鋼板20の表面に溝が形成される。
【0022】
非集光部13Bは、ポリゴンミラー10の隣接する二面の平面鏡にまたがる角部から分割して反射されたレーザビームLB1及びLB2の光路に位置し、分割されたレーザビームLB1及びLB2を通過させる(非集光部通過ステップ)。非集光部13Bは、内円が半径rc(=集光部13Aの半径)、外円が半径r0のドーナツ型の平板状の平面光学系である。非集光部13Bは、焦点距離が無限遠であるため、焦点を有さない。よって、非集光部13Bを通過したレーザビームLB1及びLB2は鋼板20の表面に照射されるが、集光しないことからエネルギー密度が高くならず、鋼板20の表面には溝が形成されない。また、レーザビームLB1及びLB2が鋼板20の表面に照射されない場合であっても、鋼板20から外れたレーザビームLB1及びLB2が、鋼板20の周りにある装置等を誤って加工してしまうことがない。
【0023】
また、レーザビームLBを鋼板20の表面に照射して溝を形成する溝加工方法では、地鉄を溶融除去して溝を形成するため、溝を深くすると、表面の溶融突起の発生確率が高くなる。このため、溝加工装置100は、溶融物を吹き飛ばすためのアシストガスを噴射する供給ノズル(図示せず)を備えるようにしてもよい。
【0024】
次に、図3を参照して、ポリゴンミラー10の回転角度について説明する。
本実施形態において、ポリゴンミラー10の回転角度θ(°)は、ポリゴンミラー10を構成する平面鏡毎に、基準位置に対する中心角によって定義するものとする。図3に示すように、ポリゴンミラー10の回転軸O1から平面鏡101に垂線PLを下した位置を基準位置(θ=0°)とする。ポリゴンミラー10の回転角度θは、基準位置(θ=0°)に対して、各平面鏡上に入射したレーザビームLBの中心LBcの位置がなす角度(中心角)である。図3において、基準位置(θ=0°;垂線PL)に対して反時計回りの角度を正の角度、時計回りの角度を負の角度としている。
【0025】
各平面鏡における基準位置(θ=0°)と、隣接する平面鏡との境目とのなす角度θ0は180°/Nである。一枚の平面鏡における回転角度θは-θ0≦θ≦+θ0の範囲で定義される。よって、図3において、平面鏡101における回転角度θ=+θ0と、平面鏡101と反時計周り方向で隣接する平面鏡102における回転角度θ=-θ0は、ポリゴンミラー10上の同一の位置を示している。
【0026】
本実施形態において、入射するレーザビームLBが、ポリゴンミラー10の一面(一枚の平面鏡)に収まる最大の角度を臨界角θcと定義する。すなわち、臨界角θcは、レーザビームLBがポリゴンミラー10の隣接する二面の平面鏡にまたがった角部で分割されることなく一枚の平面鏡で全反射されるときに、レーザビームLBの中心LBcが位置する最大の角度である。ポリゴンミラー10の外接円C1の半径(外接半径)をR、ポリゴンミラー10に入射されるレーザビームLBの半径をφとすると、臨界角θcは式(1)のように定義される。
【0027】
θc=sin-1[(R×sinθ0-φ)/R] …(1)
【0028】
ポリゴンミラー10の回転角度θを用いてレンズ13のサイズを定義することができる。図4に示すように、平面鏡101上の基準位置(θ=0°)と集光部13Aとの距離をLとすると、集光部13Aの半径rc及び非集光部13Bの外円の半径r0は、それぞれ、式(2)及び式(3)のように与えられる。
rc=L×tan2θc+φ/cos2θc …(2)
r0=L×tan2θ0+φ/cos2θ0 …(3)
【0029】
例えば、溝加工装置100が以下の仕様で設計されているとする:
レーザビームLBの半径φ:6mm;
ポリゴンミラー10を構成する平面鏡の数N:8;
外接半径R:140mm.
これにより、θ0=22.5°、臨界角θc=19.9°となる。
距離L=50mmとすると、式(2)及び式(3)より、rc=49.4mm、r0=58.5mmとなる。
【0030】
次に、図5A図5E及び図6を参照して、ポリゴンミラー10の回転角度とレーザビームLBの照射状態との関係について説明する。
【0031】
図5A図5Eは、ポリゴンミラー10が時計回りに平面鏡101の回転角度θ=0°から隣接する平面鏡102の回転角度θ=0°まで回転したときのレーザビームLBの照射状態を示す。
【0032】
平面鏡101の回転角度θが、-θc≦θ≦+θc位置にあるとき、平面鏡101に入射したレーザビームLBは、平面鏡101から下方(鋼板20の表面に向かう方向)に反射され、集光部13Aを通り、鋼板20の表面に集光する。特に、回転角度θ=0°の位置にあるときには、図5Aに示すように、平面鏡101に入射されたレーザビームLBは、平面鏡101から鉛直方向(鋼板20の表面に対して垂直な方向)に反射され、集光部13Aの中心を通り、鋼板20の表面に集光する。そのため、平面鏡101の回転角度θが、-θc≦θ≦+θcの位置にあるときには、レーザビームLBが鋼板20の表面に集光された状態が保持されたまま、ポリゴンミラー10の回転に伴い、レーザビームLBが反射される位置が変化することになる。これにより、鋼板20の表面に、幅方向(走査方向)に向かって溝が形成される。
【0033】
平面鏡101が回転角度θ=+θcの位置に達すると、図5Bに示すように、平面鏡101から反射されたレーザビームLBは、集光部13Aの第1端部131を通り、鋼板20の表面に集光する。
【0034】
図5Cに示すように、平面鏡101が回転角度θ=+θ0の位置を越したとき、及び、平面鏡102が回転角度θ=-θ0より手前の位置にあるときは(すなわち、レーザビームLBが、隣接する二面の平面鏡101及び102にまたがる角部に入射されたとき)、入射されたレーザビームLBは、2つの平面鏡101及び102のそれぞれで反射され、2つのレーザビームLB1及びLB2に分割される。2つのレーザビームLB1及びLB2は、非集光部13Bを通り、鋼板20の表面や周りにある装置等を照射する。
【0035】
平面鏡102が回転角度θ=-θcの位置に達すると、図5Dに示すように、平面鏡102から反射されたレーザビームLBは、集光部13Aの第1端部131とは反対側にある第2端部132を通り、鋼板20の表面に集光する。
【0036】
平面鏡102の回転角度が、-θc≦θ≦+θcの位置になると、平面鏡102に入射したレーザビームLBは、平面鏡102から下方(鋼板20の表面に向かう方向)に反射され、集光部13Aを通り、鋼板20の表面に集光する。特に、平面鏡102が回転角度θ=0°の位置に達すると、図5Eに示すように、平面鏡102に入射されたレーザビームLBは、平面鏡102から鉛直方向に反射され、集光部13Aの中心を通り、鋼板20の表面に集光する。
【0037】
一枚の平面鏡101に着目すると、回転角度θの範囲が-θc≦θ≦+θcにあるとき、平面鏡101から反射されたレーザビームLBは、集光部13Aを通り、鋼板20の表面に集光する。一方、回転角度θの範囲が-θ0≦θ<-θc又は+θc<θ≦+θ0にあるとき、平面鏡101と隣接する平面鏡にまたがった角部から反射されたレーザビームLB1及びLB2は、非集光部13Bを通り、鋼板20の表面を照射するが、集光されることはなく、エネルギー密度も高くならない。
【0038】
図6は、ポリゴンミラー10が、平面鏡101の回転角度θ=0°の位置から隣接する平面鏡102の回転角度θ=0°の位置まで時計回りに回転したときに(図5A図5E参照)、鋼板20の表面上におけるレーザビームのスポットの変化を表している。図6に示す点線は、レーザビームの走査方向を表している。
【0039】
図6に示すように、平面鏡101の回転角度θの範囲が0≦θ≦+θcにあるとき(図5A及び図5B参照)、平面鏡101から反射されたレーザビームLBは、鋼板20の表面に微小な円形のスポットS1で集光される。回転角度θが大きくなるにつれ、スポットS1は一方向(図6の左側)に移動する。
【0040】
平面鏡101の回転角度θの範囲が+θc<θ≦+θ0にあるとき、及び、平面鏡102の回転角度θの範囲が-θ0≦θ<-θcにあるとき、上述のように、レーザビームLBは2つのレーザビームLB1及びLB2に分割される。2つのレーザビームLB1及びLB2は非集光部13Bを介して鋼板20の表面を照射し、それぞれに対応する2つのスポットS2及びS3を形成する。レーザビームLB1及びLB2は、鋼板20の表面に集光されないため、スポットS2及びS3の各々は、スポットS1よりも面積が大きい。
【0041】
平面鏡101の回転角度θの範囲が+θc<θ<+θ0にあるときは、平面鏡101から反射されたレーザビームLB1の光量が、平面鏡102から反射されたレーザビームLB2の光量よりも多いため、スポットS2はスポットS3よりも面積が大きい。
【0042】
平面鏡101が回転角度θ=+θ0の位置にあるとき、及び、平面鏡102が回転角度θ=-θ0の位置にあるとき(図5C参照)は、レーザビームLB1の光量とレーザビームLB2の光量は等しいため、スポットS2の面積とスポットS3の面積は同一である。
【0043】
平面鏡102の回転角度θの範囲が-θ0<θ<-θcにあるとき、平面鏡102から反射されたレーザビームLB2の光量が、平面鏡101から反射されたレーザビームLB1の光量よりも多いため、スポットS3はスポットS2よりも面積が大きい。
【0044】
平面鏡102の回転角度θの範囲が-θc≦θ≦0であるとき(図5D及び図5E参照)、平面鏡102から反射されたレーザビームLBは、鋼板20の表面に微小な円形のスポットS1で集光される。回転角度θが0°に近づくにつれ、スポットS1は一方向(図6の左側)に移動する。
【0045】
以上により、本実施形態によれば、レーザビームLBがポリゴンミラー10の隣接する二面にまたがる角部から分割されて反射されたとき、分割されたレーザビームLB1及びLB2が非集光部13Bを通過することで、鋼板20の表面に集光せず、エネルギー密度を高めないようにすることで、鋼板20の表面に溝を形成しない。これにより、従来のように、走査方向における溝の端部が浅くなるようなことがなく、均一な溝加工及び溝深さを実現することができ、鉄損特性の優れた製品を生産することができる。また、鋼板20の周りにある装置等を誤って加工することがない。
【0046】
上述の図2図6の実施形態では、レンズ13の非集光部13Bが焦点を有さない平面光学系であるとしたが、分割されたレーザビームLB1及びLB2を発散させる光学系(図7)を採用してもよい。
【0047】
図7に、本実施形態の変形例1としての溝加工装置200を鋼板20の圧延方向から見た構成を示す。溝加工装置200は、図2及び図5A図5Eに示した溝加工装置100のレンズ13に代えて、レンズ17を備える。
【0048】
レンズ17は、ポリゴンミラー10から反射されたレーザビームの光路に設けられた光学系であり、一枚のガラスに研削、研磨等の加工を施すことにより製造される。レンズ17は、集光部17Aと、集光部17Aの外側(外周)に一体的に設けられた非集光部17Bとを有する。
【0049】
集光部17Aは、レンズ13の集光部13Aと同様、ポリゴンミラー10の一枚の平面鏡から反射されたレーザビームLBの光路に位置し、焦点距離fの集光光学系を構成する。
【0050】
非集光部17Bは、ポリゴンミラー10の角部から分割して反射されたレーザビームLB1及びLB2の光路に位置し、分割されたレーザビームLB1及びLB2を通過させる。非集光部17Bは、周辺部に向かって厚く、ポリゴンミラー10側の面がポリゴンミラー10側に向かって凹状の球面、鋼板20側の面が平面となっている。なお、非集光部17Bの鋼板20側の面も鋼板20に向かって凹状の球面としてよい。集光部17A及び非集光部17Bの境界部分は、わずかに平坦部が存在してもよい。ポリゴンミラー10の角部から反射されたレーザビームLB1及びLB2は、非集光部17Bを介して発散され、鋼板20の表面に照射される。
【0051】
これにより、レーザビームLB1及びLB2が非集光部17Bを通過することによって鋼板20の表面に形成されたスポットは、図6に示すスポットS2及びS3よりも面積が大きくなる。したがって、図2図6の実施形態よりも、鋼板20の表面へのレーザビームLB1及びLB2の照射強度が弱く、鋼板20の表面に溝が形成されにくくなる。よって、一層均一な溝加工及び溝深さを実現することができる。
【0052】
また、図8に、本実施形態の変形例2としての溝加工装置300を鋼板20の圧延方向から見た構成を示す。溝加工装置300は、図8に示すように、非集光部13Bを通過したレーザビームLB1及びLB2の光路に、マスク等の遮蔽板19を備えている(遮蔽ステップ)。これにより、レーザビームLB1及びLB2が遮蔽板19により遮られている。非集光部13Bを通過したレーザビームLB1及びLB2は、図1Bの集光レンズ12を通過したレーザビームLB1及びLB2よりも照射強度が弱い。よって、非集光部13Bを通過したレーザビームLB1及びLB2を遮蔽板19に照射したとしても、遮蔽板19の損傷は少ない。
【0053】
さらに、図7のレンズ17と図8の遮蔽板19とを組み合わせた構成を採用すると、遮蔽板19の損傷を一層抑制することができる。
【0054】
なお、本実施形態における記述内容は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、溝加工装置を構成する光学系として、レンズの代わりにミラーを採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、光学部品を汚染することなく、均一な溝加工及び溝深さを実現する溝加工装置及び溝加工方法を提供することができる。そのため、本発明は、産業上の利用可能性が極めて大である。
【符号の説明】
【0056】
10 ポリゴンミラー
11 光源装置
11A コリメータ
13、17 レンズ
13A、17A 集光部
13B、17B 非集光部
15 光ファイバケーブル
19 遮蔽板
20 鋼板
100、200、300 溝加工装置
101、102 平面鏡
C1 外接円
LB レーザビーム
O1 回転軸
PL 垂線
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8