(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】昇圧コンバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
H02M3/155 W ZHV
H02M3/155 C
(21)【出願番号】P 2021548005
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037328
(87)【国際公開番号】W WO2021059336
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 敏和
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-106408(JP,A)
【文献】特開2017-153241(JP,A)
【文献】特開2008-131787(JP,A)
【文献】特開2012-105511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00-3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置と負荷とに対して互いに並列に接続され、それぞれ、上アームと下アームとリアクトルとを有すると共に前記蓄電装置側の電力を昇圧して前記負荷側に供給可能な複数の昇圧コンバータと、
それぞれの前記リアクトルの電流を検出する複数の電流検出器と、
それぞれの前記昇圧コンバータについて、対応する前記リアクトルの目標電流と、対応する前記電流検出器の検出値と、の差分が打ち消されるように制御する制御装置と、
を備える昇圧コンバータ装置であって、
前記制御装置は、それぞれの前記電流検出器について、異常の仮判定が確定時間に亘って継続したときに異常を確定し、
前記確定時間は、
異常を仮判定していない前記電流検出器の検出値の絶対値が大きいほど短くなるように設定され、または、
異常を仮判定していない前記電流検出器に対応する前記リアクトルの前記目標電流の絶対値が大きいほど短くなるように設定され、または、
前記蓄電装置の電流と異常を仮判定していない前記電流検出器の検出値とに基づいて推定される、異常を仮判定している前記電流検出器に対応する前記リアクトルの推定電流の絶対値が大きいほど短くなるように設定される、
昇圧コンバータ装置。
【請求項2】
請求項1記載の昇圧コンバータ装置であって、
それぞれの前記電流検出器は、対応する前記リアクトルの電流を検出する第1,第2電流センサを有し、
前記制御装置は、それぞれの前記電流検出器について、前記第1,第2電流センサの検出値の差分が閾値以上のときに異常を仮判定する、
昇圧コンバータ装置。
【請求項3】
請求項2記載の昇圧コンバータ装置であって、
それぞれの前記電流検出器は、前記第1電流センサの検出値を前記電流検出器の検出値とする、
昇圧コンバータ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちの何れか1つの請求項に記載の昇圧コンバータ装置であって、
前記制御装置は、前記負荷の目標供給電圧と供給電圧との差分が打ち消されるように前記複数の昇圧コンバータを介して前記蓄電装置側から前記負荷側に供給すべき目標供給電流を設定し、前記目標供給電流に基づいてそれぞれの前記リアクトルの前記目標電流を設定する、
昇圧コンバータ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちの何れか1つの請求項に記載の昇圧コンバータ装置であって、
前記制御装置は、前記複数の電流検出器のうちの1つの異常を確定すると、前記複数の昇圧コンバータの全てを駆動停止する、または、異常を確定した前記電流検出器に対応する前記昇圧コンバータだけを駆動停止する、
昇圧コンバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧コンバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の昇圧コンバータ装置としては、バッテリとモータとに対して互いに並列に接続され且つそれぞれ上アームと下アームとリアクトルとを有し且つそれぞれバッテリ側の電力を昇圧してモータ側に供給可能な第1,第2昇圧コンバータを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この昇圧コンバータ装置では、バッテリの電流が正の値で且つ第1昇圧コンバータのリアクトルの電流が正の値で且つ第2昇圧コンバータのリアクトルの電流が負の値のときには、第2昇圧コンバータの上アームのオン故障を判定する。また、バッテリの電流が正の値で且つ第2昇圧コンバータのリアクトルの電流が正の値で且つ第1昇圧コンバータのリアクトルの電流が負の値のときには、第1昇圧コンバータの上アームのオン故障を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の昇圧コンバータ装置では、第1,第2昇圧コンバータのオン故障を検出することができるものの、第1,第2昇圧コンバータのリアクトルの電流を検出する第1,第2電流検出器の異常検出方法については記載されていない。第1,第2電流検出器に異常が生じると、第1,第2昇圧コンバータを適切に制御できずに、第1,第2昇圧コンバータ間の過大な電流還流を伴って第1,第2昇圧コンバータのリアクトルの実電流の絶対値が過大になる可能性がある。こうしたことを踏まえて、バッテリなどの蓄電装置とモータなどの負荷とに対して互いに並列に接続された複数の昇圧コンバータを備える昇圧コンバータ装置において、それぞれのリアクトルの電流を検出する複数の電流検出器のそれぞれの異常を適切に検出可能な方法を考案することが求められている。
【0005】
本発明の昇圧コンバータ装置は、それぞれの電流検出器の異常を適切に検出可能な方法を考案することを主目的とする。
【0006】
本発明の昇圧コンバータ装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の昇圧コンバータ装置は、
蓄電装置と負荷とに対して互いに並列に接続され且つそれぞれ上アームと下アームとリアクトルとを有し且つそれぞれ前記蓄電装置側の電力を昇圧して前記負荷側に供給可能な複数の昇圧コンバータと、
それぞれの前記リアクトルの電流を検出する複数の電流検出器と、
それぞれの前記昇圧コンバータについて、対応する前記リアクトルの目標電流と、対応する前記電流検出器の検出値と、の差分が打ち消されるように制御する制御装置と、
を備える昇圧コンバータ装置であって、
前記制御装置は、それぞれの前記電流検出器について、異常の仮判定が確定時間に亘って継続したときに異常を確定し、
前記確定時間は、
異常を仮判定していない前記電流検出器の検出値の絶対値が大きいほど短くなるように設定され、または、
異常を仮判定していない前記電流検出器に対応する前記リアクトルの前記目標電流の絶対値が大きいほど短くなるように設定され、または、
前記蓄電装置および前記負荷のうちの何れかの電流と異常を仮判定していない前記電流検出器の検出値とに基づいて推定される、異常を仮判定している前記電流検出器に対応する前記リアクトルの推定電流の絶対値が大きいほど短くなるように設定される、
ことを要旨とする。
【0008】
本発明の昇圧コンバータ装置では、制御装置は、それぞれの電流検出器について、異常の仮判定が確定時間に亘って継続したときに異常を確定する。この場合、確定時間は、異常を仮判定していない電流検出器の検出値の絶対値が大きいほど短くなるように設定され、または、異常を仮判定していない電流検出器に対応するリアクトルの目標電流の絶対値が大きいほど短くなるように設定され、または、蓄電装置および負荷のうちの何れかの電流と異常を仮判定していない電流検出器の検出値とに基づいて推定される、異常を仮判定している電流検出器に対応するリアクトルの推定電流の絶対値が大きいほど短くなるように設定される。異常を仮判定していない電流検出器の検出値の絶対値や、異常を仮判定していない電流検出器に対応するリアクトルの目標電流の絶対値、異常を仮判定している電流検出器に対応するリアクトルの推定電流の絶対値が大きいほど、複数の昇圧コンバータ間の過大な電流還流を伴ってそれぞれのリアクトルの実電流の絶対値が過大になる可能性が高いと想定される。したがって、こうした傾向に確定時間を設定することにより、それぞれのリアクトルの電流の絶対値が過大になるまたは過大な状態が継続するのを抑制し、それぞれの電流検出器の異常を適切に検出(確定)することができる。ここで、「上アーム」および「下アーム」は、スイッチング素子とダイオードとが互いに並列に接続されて構成されている。
【0009】
本発明の昇圧コンバータ装置において、それぞれの前記電流検出器は、対応する前記リアクトルの電流を検出する第1,第2電流センサを有し、前記制御装置は、それぞれの前記電流検出器について、前記第1,第2電流センサの検出値の差分が閾値以上のときに異常を仮判定するものとしてもよい。こうした手法により、それぞれの電流検出器の異常を仮判定することができる。
【0010】
この場合、それぞれの前記電流検出器は、前記第1電流センサの検出値を前記電流検出器の検出値とするものとしてもよい。このとき、第1電流センサの異常により電流検出器の仮異常を判定しているときには、その電流検出器に対応する昇圧コンバータを適切に制御できずに、複数の昇圧コンバータ間の過大な電流還流を伴ってそれぞれのリアクトルの実電流の絶対値が過大になる可能性があることを踏まえて、確定時間は、比較的短い時間に設定される場合がある。これに対して、第2電流センサの異常により電流検出器の仮異常を判定しているときには、その電流検出器に対応する昇圧コンバータを適切に制御できるから、確定時間は、比較的長い時間に設定される。
【0011】
本発明の昇圧コンバータ装置において、前記制御装置は、前記負荷の目標供給電圧と供給電圧との差分が打ち消されるように前記複数の昇圧コンバータを介して前記蓄電装置側から前記負荷側に供給すべき目標供給電流を設定し、前記目標供給電流に基づいてそれぞれの前記リアクトルの前記目標電流を設定するものとしてもよい。
【0012】
本発明の昇圧コンバータ装置において、前記制御装置は、前記複数の電流検出器のうちの1つの異常を確定すると、前記複数の昇圧コンバータの全てを駆動停止する、または、異常を確定した前記電流検出器に対応する前記昇圧コンバータだけを駆動停止するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例としての昇圧コンバータ装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【
図2】ECU50により実行される異常検出ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図3】確定時間設定用マップの一例を示す説明図である。
【
図4】第1電流検出器41の電流センサ41aに異常が生じたときの様子を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施例としての昇圧コンバータ装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、
図1に示すように、モータ22と、インバータ24と、蓄電装置としてのバッテリ26と、第1,第2昇圧コンバータ40,42と、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)50とを備える。
【0016】
モータ22は、例えば同期発電電動機として構成されており、図示しないが、モータ22の回転子が駆動輪にデファレンシャルギヤを介して連結された駆動軸に接続されている。インバータ24は、モータ22に接続されると共に高電圧側電力ライン32に接続されている。モータ22は、ECU50によって、インバータ24の図示しない複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。高電圧側電力ライン32の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ33が取り付けられている。
【0017】
バッテリ26は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、低電圧側電力ライン34に接続されている。低電圧側電力ライン34の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ35が取り付けられている。
【0018】
第1昇圧コンバータ40は、高電圧側電力ライン32と低電圧側電力ライン34とに接続されており、2つのトランジスタT11,T12と、2つのダイオードD11,D12と、リアクトルL1と、を有する周知の昇降圧コンバータとして構成されている。トランジスタT11は、高電圧側電力ライン32の正極側ラインに接続されている。トランジスタT12は、トランジスタT11と、高電圧側電力ライン32および低電圧側電力ライン34の負極側ラインと、に接続されている。リアクトルL1は、トランジスタT11,T12同士の接続点と、低電圧側電力ライン34の正極側ラインと、に接続されている。第1昇圧コンバータ40は、ECU50によって、トランジスタT11,T12のオン時間の割合が調節されることにより、低電圧側電力ライン34の電力を昇圧して高電圧側電力ライン32に供給したり、高電圧側電力ライン32の電力を降圧して低電圧側電力ライン34に供給したりする。
【0019】
第2昇圧コンバータ42は、高電圧側電力ライン32(インバータ24側)と低電圧側電力ライン34(バッテリ26側)とに対して第1昇圧コンバータ40に並列に接続されている。第2昇圧コンバータ42は、第1昇圧コンバータ40と同様に、高電圧側電力ライン32と低電圧側電力ライン34とに接続されており、2つのトランジスタT21,T22と、2つのダイオードD21,D22と、リアクトルL2と、を有する周知の昇降圧コンバータとして構成されている。この第2昇圧コンバータ42は、ECU50によって、トランジスタT21,T22のオン時間の割合が調節されることにより、低電圧側電力ライン34の電力を昇圧して高電圧側電力ライン32に供給したり、高電圧側電力ライン32の電力を降圧して低電圧側電力ライン34に供給したりする。
【0020】
ECU50は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートを備える。
【0021】
ECU50には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。ECU50に入力される信号としては、例えば、モータ22の回転子の回転位置を検出する図示しない回転位置センサからのモータ22の回転子の回転位置θmや、モータ22の各相に流れる電流を検出する図示しない電流センサからのモータ22の各相の相電流Iu,Ivを挙げることができる。また、バッテリ26の端子間に取り付けられた電圧センサ26aからのバッテリ26の電圧Vbや、バッテリ26の出力端子に取り付けられた電流センサ26bからのバッテリ26の電流Ibも挙げることができる。さらに、コンデンサ33の端子間に取り付けられた電圧センサ33aからの高電圧側電力ライン32(コンデンサ33)の電圧VHや、コンデンサ35の端子間に取り付けられた電圧センサ35aからの低電圧側電力ライン34(コンデンサ35)の電圧VLも挙げることができる。加えて、第1昇圧コンバータ40のリアクトルL1に流れる電流を検出する第1電流検出器41の電流センサ41a,41bからのリアクトルL1の電流IL1a,IL1bや、第2昇圧コンバータ42のリアクトルL2に流れる電流を検出する第2電流検出器43の電流センサ43a,43bからのリアクトルL2の電流IL2a,IL2bも挙げることができる。また、図示しないが、イグニッションスイッチからのイグニッション信号や、シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサからのシフトポジションSP、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサからのアクセル開度Acc、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサからのブレーキペダルポジションBP,車速センサからの車速Vも挙げることができる。
【0022】
ECU50からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。ECU50から出力される信号としては、例えば、インバータ24の複数のスイッチング素子へのスイッチング制御信号や、第1昇圧コンバータ40のトランジスタT11,T12へのスイッチング制御信号、第2昇圧コンバータ42のトランジスタT21,T22へのスイッチング制御信号を挙げることができる。
【0023】
ECU50は、モータ22の回転子の回転位置θmに基づいてモータ22の電気角θeや回転数Nmを演算している。また、ECU50は、バッテリ26の電流Ibの積算値に基づいてバッテリ26の蓄電割合SOCを演算している。ここで、蓄電割合SOCは、バッテリ26の全容量に対するバッテリ26から放電可能な電力の容量の割合である。
【0024】
なお、実施例では、「昇圧コンバータ装置」としては、第1,第2昇圧コンバータ40,42と第1電流検出器41(電流センサ41a,41b)や第2電流検出器43(電流センサ43a,43b)とECU50とが該当する。また、それぞれの「昇圧コンバータ」について、「上アーム」としては、トランジスタT11およびダイオードD11や、トランジスタT21およびダイオードD21が相当し、「下アーム」としては、トランジスタT12およびダイオードD12や、トランジスタT22およびダイオードD22が相当する。
【0025】
こうして構成された実施例の電気自動車20では、走行制御として、例えば以下のようにモータ22や第1,第2昇圧コンバータ40,42の制御が行なわれる。モータ22の制御については、ECU50は、最初に、アクセルペダルポジションセンサからのアクセル開度Accと車体速センサからの車速Vとに基づいて走行に要求される(駆動軸に要求される)要求トルクTd*を設定する。続いて、設定した要求トルクTd*が駆動軸に出力されるようにモータ22のトルク指令Tm*を設定する。そして、モータ22がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ24の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0026】
第1,第2昇圧コンバータ40,42については、ECU50は、最初に、モータ22のトルク指令Tm*に基づいて高電圧側電力ライン32の電圧指令(目標電圧)VH*を設定する。続いて、電圧センサ33aからの高電圧側電力ライン32の電圧VHと電圧指令VH*との差分が打ち消されるように(電圧フィードバック制御により)、低電圧側電力ライン34(バッテリ26側)から第1,第2昇圧コンバータ40,42を介して高電圧側電力ライン32(インバータ24側)に供給すべき供給電流指令(目標供給電流)IL*を設定する。そして、供給電流指令IL*に第1,第2昇圧コンバータ40,42の分配率D1,D2を乗じてリアクトルL1,L2の電流指令(目標電流)IL1*,IL2*を演算する。ここで、分配率D1,D2の和は値1であり、分配率D1としては、例えば0.5が用いられる。
【0027】
次に、電流センサ41a,43aからのリアクトルL1,L2の電流IL1a,IL2aと電流指令IL1*,IL2*との差分が打ち消されるように(電流フィードバック制御により)第1,第2昇圧コンバータ40,42のデューティ指令Du1*,Du2*を設定する。そして、デューティ指令Du1*,Du2*を用いて第1,第2昇圧コンバータ40,42のトランジスタT11,T12,T21,T22のスイッチング制御を行なう。
【0028】
次に、こうして構成された実施例の電気自動車20に搭載される昇圧コンバータ装置の動作、特に、第1電流検出器41の異常検出処理について説明する。
図2は、ECU50により実行される異常検出ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、第1電流検出器41の異常を検出(確定)していないときに繰り返し実行される。
【0029】
図2の異常検出ルーチンが実行されると、ECU50は、最初に、第1電流検出器41の電流センサ41a,41bからのリアクトルL1の電流IL1a,IL1bを入力し(ステップS100)、入力したリアクトルL1の電流IL1a,IL1bの差分(電流IL1aから電流IL1bを減じた値の絶対値)として電流差分ΔIL1を演算する(ステップS110)。
【0030】
続いて、ECU50は、電流差分ΔIL1を閾値ΔIL1refと比較する(ステップS120)。ここで、閾値ΔIL1refは、第1電流検出器41(電流センサ41a,41bのうちの何れか)に異常が生じているか否かを判定するのに用いられる閾値であり、電流センサ41a,41bの製造誤差などを考慮して設定される。電流差分ΔIL1が閾値ΔIL1ref以下のときには、ECU50は、第1電流検出器41が正常である、即ち、電流センサ41a,41bの何れも正常であると判定して(ステップS130)、本ルーチンを終了する。
【0031】
ステップS120で電流差分ΔIL1が閾値ΔIL1refよりも大きいときには、ECU50は、第1電流検出器41の異常、即ち、電流センサ41a,41bのうちの何れかの異常を仮判定し(ステップS140)、前回の電流差分(前回ΔIL1)を閾値ΔIL1refと比較する(ステップS150)。この処理は、第1電流検出器41の異常の仮判定の開始直後であるか否かを判断する処理である。
【0032】
ステップS150で前回の電流差分(前回ΔIL1)が閾値ΔIL1ref以下のときには、ECU50は、第1電流検出器41の異常の仮判定の開始直後であると判断し、仮判定の継続時間Ttを値0にリセットしてからその計時を開始する(ステップS160)。一方、前回の電流差分(前回ΔIL1)が閾値ΔIL1refよりも大きいときには、ECU50は、第1電流検出器41の異常の仮判定の開始直後でない(仮判定の継続中である)と判断し、ステップS160の処理を実行しない。
【0033】
続いて、ECU50は、電流センサ43aからのリアクトルL2の電流IL2aを入力し(ステップS170)、入力したリアクトルL2の電流IL2aの絶対値と確定時間設定用マップとを用いて、第1電流検出器41の異常を確定するための確定時間Tcを設定する(ステップS180)。ここで、確定時間設定用マップは、リアクトルL2の電流IL2aと確定時間Tcとの関係として予め設定され、図示しないROMに記憶されている。
図3は、確定時間設定用マップの一例を示す説明図である。確定時間Tcは、図示するように、リアクトルL2の電流IL2aの絶対値が大きいほど短くなるように設定される。この理由については後述する。
【0034】
そして、ECU50は、第1電流検出器41の異常の仮判定の継続時間Ttを確定時間Tcと比較し(ステップS190)、第1電流検出器41の異常の仮判定の継続時間Ttが確定時間Tc未満のときには、第1電流検出器41の異常を確定することなく、ステップS100に戻る。こうしてステップS100~S120,S140~S190の処理を繰り返し実行して、ステップS190で第1電流検出器41の異常の仮判定の継続時間Ttが確定時間Tc以上に至ると、第1電流検出器41の異常を検出(確定)して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。第1電流検出器41の異常を検出(確定)すると、第1,第2昇圧コンバータ40,42を駆動停止する。なお、第1,第2昇圧コンバータ40,42を駆動停止しても、高電圧側電力ライン32の電圧VHが低電圧側電力ライン34の電圧VL以下に至ると、モータ22の駆動用に、第1,第2昇圧コンバータ40,42のダイオードD11,D21を介してバッテリ26側からインバータ24側に電流(電力)が供給される。
【0035】
ここで、
図3のように確定時間Tcを設定する理由について説明する。
図4は、第1電流検出器41の電流センサ41aに異常が生じたときの、高電圧側電力ライン32の電圧指令VH*と電圧VH、リアクトルL1の電流指令IL1*と実電流IL1actと電流IL1a、リアクトルL2の電流指令IL2*と実電流IL2actと電流IL2a、の様子を模式的に示す説明図である。図中、電圧VHは、電圧センサ33aの検出値であり、電流IL1a,IL2aは、電流センサ41a,43aの検出値である。また、
図4では、第2電流検出器43が正常であるとき、即ち、電流センサ43aによりリアクトルL2の実電流IL2actを電流IL2aとして検出する場合を示した。
【0036】
図示するように、電流センサ41aに異常が生じてリアクトルL1の電流IL1aが電流指令IL1*に対して十分に大きい値になると(時刻t1)、リアクトルL1の実電流IL1actが小さくなるように第1昇圧コンバータ40が制御される。すると、リアクトルL1の実電流IL1actの低下に伴って高電圧側電力ライン32の電圧VHが電圧指令VH*に対して低下し、供給電流指令IL*ひいてはリアクトルL1,L2の電流指令IL1*、IL2*が増加する。これにより、リアクトルL2の実電流IL2actが増加するように第2昇圧コンバータ42が制御され、実電流IL2actおよび電流IL2aが増加する。また、リアクトルL1の電流指令IL1*が未だ電流IL1aよりも小さいために、リアクトルL1の実電流IL1actが更に低下するように第1昇圧コンバータ40が制御され、実電流IL1actが更に低下する。このリアクトルL1,L2の実電流IL1act,IL2actのずれにより、第1,第2昇圧コンバータ40,42間で電流還流が発生する。そして、リアクトルL2の電流IL2actの絶対値が大きいほど、第1,第2昇圧コンバータ40,42間の過大な電流還流を伴ってリアクトルL1,L2の実電流IL1act,IL2actの絶対値が過大になる可能性が高いと想定される。実施例では、これを踏まえて、
図3に示したように、電流センサ43aにより検出されるリアクトルL2の電流IL2aの絶対値が大きいほど短くなるように確定時間Tcを設定するものとした。これにより、リアクトルL1,L2の実電流IL1act、IL2actの絶対値が過大になるまたは過大な状態が継続するのを抑制し、第1電流検出器41の異常を適切に検出(確定)することができる。
【0037】
なお、第1電流検出器41の異常を仮判定するときとしては、電流センサ41aに異常が生じたときと、電流センサ41bに異常が生じたときとがある。ここで、電流センサ41aにより検出されるリアクトルL1の電流IL1aは、第1昇圧コンバータ40の制御に用いられ、電流センサ41bは、電流センサ41aが正常であるか否かの判定に用いられる。したがって、電流センサ41aに異常が生じたときには、上述したように、第1昇圧コンバータ40を適切に制御できずに、第1,第2昇圧コンバータ40,42間の過大な電流還流を伴ってリアクトルL1,L2の実電流IL1act、IL2actの絶対値が過大になる可能性があり、確定時間Tcが比較的短い時間に設定される場合がある。これに対して、電流センサ41bに異常が生じたときには、第1昇圧コンバータ40を適切に制御できるから、確定時間Tcは、比較的長い時間に設定される。
【0038】
以上説明した実施例の電気自動車20に搭載される昇圧コンバータ装置では、第1電流検出器41の電流センサ41a,41bからのリアクトルL1の電流IL1a,IL1bの差分としての電流差分ΔIL1が閾値ΔIL1refよりも大きいときに第1電流検出器41の異常を仮判定し、第1電流検出器41の異常の仮判定の継続時間Ttが確定時間Tc以上のときに第1電流検出器41の異常を確定する。この場合、リアクトルL2の電流IL2aの絶対値が大きいほど短くなるように確定時間Tcを設定する。これにより、第1電流検出器41の異常を適切に検出(確定)することができる。
【0039】
なお、実施例では、
図2の異常検出ルーチンを用いて、第1電流検出器41の異常検出処理について説明したが、第2電流検出器43の異常検出処理についても同様に行なうことができる。
【0040】
実施例の電気自動車20に搭載される昇圧コンバータ装置では、ECU50は、第1電流検出器41の異常を仮判定しているときに、リアクトルL2の電流IL2aの絶対値に基づいて確定時間Tcを設定するものとした。しかし、ECU50は、第1電流検出器41の異常を仮判定しているときに、リアクトルL2の電流指令IL2*の絶対値に基づいて確定時間Tcを設定するものとしてもよい。この場合、例えば、
図3の確定時間設定用マップの横軸を「リアクトルL2の電流IL2aの絶対値」から「リアクトルL2の電流指令IL2*の絶対値」に置き換えたものが用いられる。電流センサ43aからのリアクトルL2の電流IL2aと電流指令IL2*との差分が打ち消されるように第2昇圧コンバータ43が制御されるから、リアクトルL2の電流指令IL2*の絶対値を用いる場合でも、実施例と同様の効果を奏することができる。なお、第2電流検出器43の異常を仮判定しているときについても同様に考えることができる。
【0041】
実施例の電気自動車20に搭載される昇圧コンバータ装置では、ECU50は、第1電流検出器41の異常を仮判定しているときに、リアクトルL2の電流IL2aの絶対値が大きいほど短くなるように確定時間Tcを設定するものとした。しかし、ECU50は、第1電流検出器41の異常を仮判定しているときに、電流センサ26bからのバッテリ26の電流Ibから電流センサ43aからのリアクトルL2の電流IL2aを減じてリアクトルL1の推定電流IL1esを演算し、このリアクトルL1の推定電流IL1esに基づいて確定時間Tcを設定するものとしてもよい。この場合、例えば、
図3の確定時間設定用マップの横軸を「リアクトルL2の電流IL2aの絶対値」から「リアクトルL1の推定電流IL1esの絶対値」に置き換えたものが用いられる。
図4に示したように、電流センサ43aにより検出されるリアクトルL2の電流IL2a(実電流IL2act)の絶対値が大きいほどリアクトルL1の実電流IL1actの絶対値が大きくなるから、リアクトルL1の推定電流IL1esの絶対値を用いる場合でも、実施例と同様の効果を奏することができる。なお、第2電流検出器43の異常を仮判定しているときについても同様に考えることができる。
【0042】
実施例の電気自動車20に搭載される昇圧コンバータ装置では、ECU50は、第1電流検出器41の異常を検出(確定)すると、第1,第2昇圧コンバータ40,42を駆動停止するものとした。しかし、ECU50は、第1電流検出器41の異常を検出すると、第1昇圧コンバータ40だけを駆動停止する、即ち、第2昇圧コンバータ42の駆動を継続するものとしてもよい。こうすれば、第1電流検出器41の異常を検出しても、高電圧側電力ライン32の電圧VHを低電圧側電力ライン34の電圧VLに対して高くすることができる。このとき、第1昇圧コンバータ40のトランジスタT11はオフであるから、トランジスタT11を介して高電圧側電力ライン32から低電圧側電力ライン34に電流は流れない。このため、第1,第2昇圧コンバータ40,42間で電流還流は発生しない。なお、第2電流検出器43の異常を検出(確定)したときについても同様に考えることができる。
【0043】
実施例の電気自動車20に搭載される昇圧コンバータ装置では、バッテリ26側とインバータ24側とに対して互いに並列に接続された第1,第2昇圧コンバータ40,42を備えるものとした。しかし、バッテリ26側とインバータ24側とに対して互いに並列に接続された3つ以上の昇圧コンバータを備えるものとしてもよい。
【0044】
実施例の電気自動車20では、蓄電装置として、バッテリ26が用いられるものとした。しかし、蓄電装置として、キャパシタが用いられるものとしてもよい。
【0045】
実施例では、昇圧コンバータ装置は、走行用のモータ22を備える電気自動車20に搭載されるものとした。しかし、昇圧コンバータ装置は、走行用のモータに加えてエンジンも備えるハイブリッド自動車に搭載されるものとしてもよい。また、昇圧コンバータ装置は、自動車以外の車両や船舶、航空機などの移動体に搭載されるものとしてもよい。さらに、昇圧コンバータ装置は、建設設備などの移動しない設備に搭載されるものとしてもよい。
【0046】
実施例の主要な要素と課題を発明の概要の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、トランジスタT11,T12,T21,T22とダイオードD11,D12,D21,D22とリアクトルL1,L2を有する第1,第2昇圧コンバータ40,42が「複数の昇圧コンバータ」に相当し、第1,第2第1電流検出器41,43が「複数の電流検出器」に相当し、ECU50が「制御装置」に相当する。
【0047】
なお、実施例の主要な要素と課題を発明の概要の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が発明の概要の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、発明の概要の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、発明の概要の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は発明の概要の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0048】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、昇圧コンバータ装置の製造産業などに利用可能である。