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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】圧延制御システムおよび圧延制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/20 20060101AFI20221220BHJP
   B21B 37/18 20060101ALI20221220BHJP
   B21B 37/46 20060101ALI20221220BHJP
   B21B 37/48 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B21B37/20 Z
B21B37/18 130A
B21B37/46 111
B21B37/48 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021571111
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020001065
(87)【国際公開番号】W WO2021144882
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 稔
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-112614(JP,A)
【文献】特開2016-221553(JP,A)
【文献】特開平11-197728(JP,A)
【文献】特開2016-093829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延スタンドと、
前記圧延スタンドの入側における被圧延材の速度を制御操作端とする速度制御と、前記圧延スタンドのロールギャップを制御操作端とするロールギャップ制御と、を行う圧延制御装置と、
を備える圧延制御システムにおいて、
前記圧延制御装置は、
前記圧延スタンドの出側における前記被圧延材の板厚を制御するための前記ロールギャップ制御であるロールギャップ-板厚制御を行う第1板厚制御部と、
前記板厚を制御するための前記速度制御である速度-板厚制御を行う第2板厚制御部と、
前記圧延スタンドの入側における被圧延材の張力を制御するための前記速度制御である速度-張力制御を行う第1張力制御部と、
前記張力を制御するための前記ロールギャップ制御であるロールギャップ-張力制御を行う第2張力制御部と、
圧延速度が境界値未満の場合は前記速度-張力制御および前記ロールギャップ-板厚制御を選択し、前記圧延速度が前記境界値以上の場合は前記ロールギャップ-張力制御および前記速度-板厚制御を選択する制御選択部と、
を備え、
前記制御選択部は、更に、前記圧延スタンドの起動時において前記圧延速度が前記境界値を越えて上昇する場合、前記圧延速度の越境時における前記速度-板厚制御での速度制御量の計算に前記越境前における前記速度-張力制御での速度修正量が反映されないように、当該速度修正量をゼロに設定して前記第2板厚制御部に出力し、
前記制御選択部は、更に、前記圧延スタンドの起動時において前記圧延速度が前記境界値を越えて上昇する場合、前記越境時における前記ロールギャップ-張力制御でのロールギャップ制御量の計算に前記越境前における前記速度-張力制御での速度修正量が反映されるように、当該速度修正量に応じたロールギャップ修正量を計算して前記第2張力制御部に出力する
ことを特徴とする圧延制御システム。
【請求項2】
前記制御選択部は、
前記第1張力制御部から出力された前記速度-張力制御での速度修正量を格納するホールド回路と、
前記圧延速度が前記境界値以上の場合にトリガ信号を出力するトリガ回路と、
前記トリガ信号が出力された場合、前記トリガ信号の出力のタイミングにおける前記速度-張力制御での速度修正量に基づいて、前記ロールギャップ修正量を計算するランプ回路と、
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の圧延制御システム。
【請求項3】
圧延速度を制御操作端とする速度制御と、圧延スタンドのロールギャップを制御操作端とするロールギャップ制御と、を行う圧延制御方法において、
前記ロールギャップ制御は、前記圧延スタンドの出側における被圧延材の板厚を制御するための前記ロールギャップ制御であるロールギャップ-板厚制御と、前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の張力を制御するための前記ロールギャップ制御であるロールギャップ-張力制御と、を含み、
前記速度制御は、前記張力を制御するための前記速度制御である速度-張力制御と、前記板厚を制御するための前記速度制御である速度-板厚制御と、を含み、
前記圧延制御方法が、更に、
前記被圧延材の圧延速度が境界値未満の場合、前記速度-張力制御および前記ロールギャップ-板厚制御を選択し、
前記圧延速度が前記境界値以上の場合、前記ロールギャップ-張力制御および前記速度-板厚制御を選択し、
前記圧延スタンドの起動時において前記圧延速度が前記境界値を越えて上昇する場合、前記圧延速度の越境時における前記速度-板厚制御での速度制御量の計算に前記越境前における前記速度-張力制御での速度修正量が反映されないように、当該速度修正量をゼロに設定し、
前記圧延スタンドの起動時において前記圧延速度が前記境界値を越えて上昇する場合、前記越境時における前記ロールギャップ-張力制御でのロールギャップ制御量の計算に前記越境前における前記速度-張力制御での速度修正量が反映されるように、当該速度修正量に応じたロールギャップ修正量を計算する
ことを特徴とする圧延制御方法。
【請求項4】
前記圧延制御方法が、更に、
前記速度-張力制御での速度修正量を格納し、
前記圧延速度が前記境界値以上の場合にトリガ信号を出力し、
前記ロールギャップ修正量の計算が、前記トリガ信号が出力された場合における前記トリガ信号の出力のタイミングにおける前記速度-張力制御での速度修正量に基づいて行われる
ことを特徴とする請求項3に記載の圧延制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延制御システムおよび圧延制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延操業では、被圧延材の加工に関する実測値が目標値になるように各種の圧延制御が行われる。圧延制御としては、被圧延材の板厚を所望の板厚にするため、製品品質に影響する圧延機の出側における板厚を一定に保ついわゆる自動板厚制御(以下、「AGC」とも称す。)が例示される。圧延制御としては、また、製品品質の維持と操業安定性の確保のために、圧延機の入側と出側において被圧延材にかかる張力を一定に保ついわゆる自動張力制御(以下、「ATR」とも称す。)が例示される。
【0003】
日本特開2016-93828号公報は、被圧延材の圧延速度に応じてAGCとATRが切り替えられる圧延制御システムを開示する。この従来のシステムは、圧延速度が遅いときには第1の制御方法を選択し、圧延速度が速いときには第2の制御方法を選択する。第1の制御方法では、圧延機の入側張力が目標値となるように被圧延材の速度が制御されるATRと、出側板厚が目標値となるように圧延機のロールギャップが制御されるAGCと、が行われる。第2の制御方法では、入側張力が目標値となるようにロールギャップが制御されるATRと、出側板厚が目標値となるように被圧延材の速度が制御されるAGCと、が行われる。
【0004】
従来のシステムでは、第1の制御方法から第2の制御方法への切り替えの際に、切り替え前のATRにおける入側張力と目標値との偏差が調整される。具体的に、入側張力偏差が所定範囲内の場合、入側張力偏差がゼロに変更される。入側張力偏差が所定範囲外の場合、入側張力偏差から所定値を差し引いた値に入側張力偏差が変更される。これにより、入側張力偏差の調整が行われない場合に比べて、切り替え後のAGCの制御量が過多になるのを抑えることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本特開2016-93828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来のシステムでは、圧延速度の上昇に伴う制御方法の切り替えの際に、入側張力偏差が調整される。ただし、入側張力偏差の調整が行われたとしても、調整後の入側張力偏差は、切り替え後のAGCの制御量の計算に用いられることになる。そのため、切り替え直前の入側張力偏差が所定範囲を大きく外れる場合に、切り替え後のAGCの制御量が上限制約に抵触するおそれがある。そうすると、切り替え後のAGCの継続に支障をきたすおそれがある。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、圧延速度の上昇に伴ってATRからAGCへの切り替えが行われる場合に、切り替え後のAGCの継続が困難となる状況を回避することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上述の目的を達成するための圧延制御システムであり、次の特徴を有する。
前記圧延制御システムは、圧延スタンドと、圧延制御装置とを備える。
前記圧延制御装置は、前記圧延スタンドの入側における被圧延材の速度を制御操作端とする速度制御と、前記圧延スタンドのロールギャップを制御操作端とするロールギャップ制御と、を行う。
前記圧延制御装置は、第1板厚制御部と、第2板厚制御部と、第1張力制御部と、第2張力制御部と、制御選択部と、を備える。
前記第1板厚制御部は、前記圧延スタンドの出側における前記被圧延材の板厚を制御するための前記ロールギャップ制御であるロールギャップ-板厚制御を行う。
前記第2板厚制御部は、前記板厚を制御するための前記速度制御である速度-板厚制御を行う。
前記第1張力制御部は、前記圧延スタンドの入側における被圧延材の張力を制御するための前記速度制御である速度-張力制御を行う。
前記第2張力制御部は、前記張力を制御するための前記ロールギャップ制御であるロールギャップ-張力制御を行う。
前記制御選択部は、圧延速度が境界値未満の場合は前記速度-張力制御および前記ロールギャップ-板厚制御を選択し、前記圧延速度が前記境界値以上の場合は前記ロールギャップ-張力制御および前記速度-板厚制御を選択する。
前記制御選択部は、更に、前記圧延スタンドの起動時において前記圧延速度が前記境界値を越えて上昇する場合、前記圧延速度の越境時における前記速度-板厚制御での速度制御量の計算に前記越境前における前記速度-張力制御での速度修正量が反映されないように、当該速度修正量をゼロに設定して前記第2速度制御部に出力する。
前記制御選択部は、更に、前記圧延スタンドの起動時において前記圧延速度が前記境界値を越えて上昇する場合、前記越境時における前記ロールギャップ-張力制御でのロールギャップ制御量の計算に前記越境前における前記速度-張力制御での速度修正量が反映されるように、当該速度修正量に応じたロールギャップ修正量を計算して前記第2張力制御部に出力する。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において更に次の特徴を有する。
前記制御選択部は、前記第1張力制御部から出力された前記速度-張力制御での速度修正量を格納するホールド回路と、前記圧延速度が前記境界値以上の場合にトリガ信号を出力するトリガ回路と、前記トリガ信号が出力された場合、前記トリガ信号の出力のタイミングにおける前記速度-張力制御での速度修正量に基づいて、前記ロールギャップ修正量を計算するランプ回路と、を含む。
【0010】
第3の発明は、上述の目的を達成するための圧延制御方法であり、次の特徴を有する。
前記圧延制御方法は、圧延速度を制御操作端とする速度制御と、圧延スタンドのロールギャップを制御操作端とするロールギャップ制御と、を行う方法である。
前記ロールギャップ制御は、ロールギャップ-板厚制御と、ロールギャップ-張力制御と、を含む。前記ロールギャップ-板厚制御は、前記圧延スタンドの出側における被圧延材の板厚を制御するための前記ロールギャップ制御である。前記ロールギャップ-張力制御は、前記圧延スタンドの入側における前記被圧延材の張力を制御するための前記ロールギャップ制御である。
前記速度制御は、速度-張力制御と、速度-板厚制御と、を含む。前記速度-張力制御は、前記張力を制御するための前記速度制御である。前記速度-板厚制御は、前記板厚を制御するための前記速度制御である。
前記圧延制御方法は、更に、
前記被圧延材の圧延速度が境界値未満の場合、前記速度-張力制御および前記ロールギャップ-板厚制御を選択し、
前記圧延スタンドの起動時において前記圧延速度が前記境界値以上の場合、前記ロールギャップ-張力制御および前記速度-板厚制御を選択し、
前記圧延速度が前記境界値を越えて上昇する場合、前記圧延速度の越境時における前記速度-板厚制御での速度制御量の計算に前記越境前における前記速度-張力制御での速度修正量が反映されないように、当該速度修正量をゼロに設定し、
前記圧延スタンドの起動時において前記圧延速度が前記境界値を越えて上昇する場合、前記越境時における前記ロールギャップ-張力制御でのロールギャップ制御量の計算に前記越境前における前記速度-張力制御での速度修正量が反映されるように、当該速度修正量に応じたロールギャップ修正量を計算する。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において更に次の特徴を有する。
前記圧延制御方法は、更に、前記速度-張力制御での速度修正量を格納し、前記圧延速度が前記境界値以上の場合にトリガ信号を出力する。
前記ロールギャップ修正量の計算は、前記トリガ信号が出力された場合における前記トリガ信号の出力のタイミングにおける前記速度-張力制御での速度修正量に基づいて行われる
【発明の効果】
【0012】
第1または3の発明によれば、圧延スタンドの起動時において圧延速度が境界値を越えて上昇する場合、圧延速度の越境時における速度-板厚制御での速度制御量の計算に越境前における速度-張力制御での速度修正量が反映されないように、当該速度修正量がゼロに設定される。そのため、圧延速度の越境時に計算された速度-板厚制御での速度制御量が上限制約に抵触するような状況に陥るのを回避することが可能となる。したがって、圧延速度の越境後に速度-板厚制御の継続が困難となる状況を回避することが可能となる。第1または3の発明によれば、また、圧延スタンドの起動時において圧延速度が境界値を越えて上昇する場合、越境時におけるロールギャップ-張力制御でのロールギャップ制御量の計算に越境前における速度-張力制御での速度修正量が反映されるように、当該速度修正量に応じたロールギャップ修正量が計算される。したがって、圧延速度の越境後に、圧延スタンドの入側における被圧延材の張力が大きく変動するのを抑えることが可能となる。
【0013】
第2または4の発明によれば、トリガ信号が出力された場合における当該トリガ信号の出力のタイミングにおける速度-張力制御での速度修正量に基づいてロールギャップ修正量を計算することができる
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る圧延制御システムの構成例を説明する図である。
図2】圧延スタンドでの圧延現象およびこれに関係するパラメータを示す図である。
図3図1に示した第1板厚制御部、第2板厚制御部、第1張力制御部および第2張力制御部の構成を示すブロック図である。
図4】AGCおよびATRにおける制御操作端と、制御状態量との関係を示す図である。
図5】圧延スタンドでの圧延現象における各種の影響係数を示す図である。
図6図1に示した制御選択部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
1.圧延制御システムの構成
図1は、実施の形態に係る圧延制御システムの構成例を説明する図である。図1に示される圧延制御システム100は、被圧延材10を圧延する圧延スタンドを備えている。圧延スタンドは、被圧延材10の圧延方向の前段に設けられた圧延スタンド20と、同圧延方向の後段に設けられた圧延スタンド21と、を含んでいる。圧延スタンド20および21は、タンデム圧延機を構成する。なお、タンデム圧延機を構成する圧延スタンドの総数は、3基以上でもよい。圧延スタンド20は、被圧延材10を挟む作業ロール20aおよび20bを有する。圧延スタンド21は、作業ロール21aおよび21bを有する。
【0017】
圧延は、一対の作業ロールにより被圧延材10を潰すことにより行われる。図2は、圧延スタンドでの圧延現象およびこれに関係するパラメータを示す図である。図2に示されるように、被圧延材10は、圧延スタンドの入側における張力Tb、および、同圧延スタンドの出側における張力Tfにより引っ張られ、荷重Pにより潰される。これにより、被圧延材の板厚Hは板厚hまで減少する。圧延現象により荷重P、先進率fおよび後進率bが生じる。圧延スタンドの入側における被圧延材10の速度Veは、後進率bと作業ロール速度Vを用いて表される。圧延スタンドの入側における被圧延材10の速度Voは、先進率fと作業ロール速度Vを用いて表される。
【0018】
図1に戻り、圧延制御システム100の説明を続ける。圧延スタンド20は、作業ロール20aおよび20bにおける作業ロール速度Vを制御する速度制御装置30を有している。圧延スタンド20は、また、作業ロール20aと20bの間の間隔であるロールギャップSを制御するロールギャップ制御装置40を有している。圧延スタンド20と同様に、圧延スタンド21は、速度制御装置31およびロールギャップ制御装置41を有している。速度制御装置31は、圧延スタンド21の作業ロール速度Vを制御する。ロールギャップ制御装置41は、圧延スタンド21のロールギャップSを制御する。これらの制御装置は、圧延制御装置50に接続されている。圧延制御装置50の構成については後述される。
【0019】
圧延においては、被圧延材10の板厚が製品の品質上重要である。そのため、圧延スタンド21の出側には、被圧延材10の板厚を測定するための板厚計60が設けられている。また、圧延においては、製品の品質の維持と操業安定性の確保も重要である。そのため、圧延スタンド20と21の間には、張力計70が設けられている。板厚計60および張力計70は、圧延制御装置50に接続されている。なお、板厚計60と同様の構成を有する板厚計が、圧延スタンド20の入側および出側に設けられていてもよい。張力計70と同様の構成を有する張力計が、圧延スタンド20の入側および圧延スタンド21の出側に設けられていてもよい。
【0020】
2.圧延制御装置の構成
圧延制御装置50は、第1板厚制御部51と、第2板厚制御部52と、第1張力制御部53と、第2張力制御部54と、制御選択部55と、を備えている。
【0021】
第1板厚制御部51は、ロールギャップ-板厚制御(以下、「AGC_S」とも称す。)を行う。AGC_Sは、圧延スタンド21のロールギャップSを制御操作端として、圧延スタンド21の出側における被圧延材10の板厚(すなわち、図2に示した板厚h)を制御するためのAGCである。AGC_Sは、圧延速度が境界値TH未満の場合に行われる。
【0022】
第2板厚制御部52は、速度-板厚制御(以下、「AGC_Ve」とも称す。)を行う。AGC_Veは、圧延スタンド21の入側における被圧延材10の速度Veを制御操作端として、圧延スタンド21の出側における被圧延材10の板厚を制御するためのAGCである。AGC_Veは、圧延速度が境界値TH以上の場合に行われる。
【0023】
第1張力制御部53は、速度-張力制御(以下、「ATR_Ve」とも称す。)を行う。ATR_Veは、圧延スタンド21の入側における被圧延材10の速度Veを制御操作端として、圧延スタンド20と21の間(すなわち、圧延スタンド21の入側)における被圧延材10の張力を制御するためのATRである。ATR_Veは、圧延速度が境界値TH未満の場合に行われる。
【0024】
第2張力制御部54は、ロールギャップ-張力制御(以下、「ATR_S」とも称す。)を行う。ATR_Sは、圧延スタンド21のロールギャップSを制御操作端として、圧延スタンド20と21の間における被圧延材10の張力を制御するためのATRである。ATR_Sは、圧延速度が境界値TH以上の場合に行われる。
【0025】
図3は、第1板厚制御部51、第2板厚制御部52、第1張力制御部53および第2張力制御部54の構成を示すブロック図である。これらのブロック図は、AGC_S、AGC_Ve、ATR_SおよびATR_Veの制御構成の一例である。そのため、この制御構成以外の構成により制御系を構成することも可能である。例えば、図3においては各制御系が積分制御(I制御)により表されている。各制御系は、比例積分制御(PI制御)または微分比例積分制御(PID制御)により表されてもよい。
【0026】
図3に示されるように、第1板厚制御部51には、出側板厚偏差Δhが入力される。出側板厚偏差Δhは、圧延スタンド21の出側における被圧延材10の実績hfbと、その設定値(目標値)hrefとの差により表される(Δh=hfb-href)。第1板厚制御部51は、出側板厚偏差Δhに調整ゲインGSAGCおよび変換ゲイン(-(M+Q)/M)をかけたものを積分する(I制御)。この変換ゲインは、出側板厚偏差Δhをロールギャップ修正量ΔSに変換するためのゲインである。変換ゲインに含まれるMは圧延スタンドのミル定数であり、Qは被圧延材の塑性定数である。第1板厚制御部51は、積分値と、その前回値との偏差をとってロールギャップ制御量ΔΔSAGCとする。
【0027】
第1板厚制御部51同様、第2板厚制御部52には、出側板厚偏差Δhが入力される。第2板厚制御部52は、出側板厚偏差Δhに調整ゲインGVAGCおよび変換ゲイン(-1/href)をかけたものを積分する(I制御)。この変換ゲインは、出側板厚偏差Δhを速度修正量ΔVeに変換するためのゲインである。第2板厚制御部52は、積分値を速度Veで除した値(ΔVe/Ve)と、その前回値との偏差をとって速度制御量Δ(ΔVe/Ve)AGCとする。
【0028】
第2張力制御部54には、入側張力偏差ΔTbが入力される。入側張力偏差ΔTbは、圧延スタンド21の入側における被圧延材10の張力の実績Tbfbと、その設定値(目標値)ΔTbrefとの差により表される(ΔTb=Tbfb-Tbref)。第2張力制御部54は、入側張力偏差ΔTに調整ゲインGSATRおよび変換ゲイン((M+Q)・kb/M)をかけたものを積分する(I制御)。この変換ゲインは、入側張力偏差ΔTbをロールギャップ修正量ΔSに変換するためのゲインである。変換ゲインに含まれるkbは、圧延スタンドの入側における被圧延材の張力の変動による荷重Pの変動が、同圧延スタンドの出側における被圧延材の板厚に及ぼす影響係数である。第2張力制御部54は、積分値と、その前回値との偏差をとってロールギャップ制御量ΔΔSATRとする。
【0029】
第2張力制御部54同様、第1張力制御部53には、入側張力偏差ΔTbが入力される。第1張力制御部53は、入側張力偏差ΔTに調整ゲインGVATRおよび変換ゲイン(-Ve・kb/h)をかけたものを積分する(I制御)。この変換ゲインは、入側張力偏差ΔTbを速度修正量ΔVeに変換するためのゲインである。第1張力制御部53は、積分値を速度Veで除した値(ΔVe/Ve)と、その前回値との偏差をとって速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATRとする。
【0030】
図1に戻り、圧延制御装置50の内部機能の説明を続ける。制御選択部55は、圧延速度に応じて上述したAGCとATRの組み合わせを切り替える。具体的に、圧延速度が境界値TH未満の場合には、AGC_SとATR_Veの組み合わせを選択する。圧延速度が境界値TH以上の場合には、AGC_VeとATR_Sの組み合わせを選択する。
【0031】
制御選択部55においてこのような切り替えが行われる理由について、図4および5を参照しながら説明する。図4は、AGCおよびATRにおける制御操作端と、制御状態量との関係を示す図である。図4に示されるように、制御操作端であるロールギャップ修正量ΔSが操作されると、それに応じて速度Veが変化し、入側張力偏差ΔTbが発生する。これを抑制するためには、速度Veを変更する必要がある。ただし、制御操作端である速度Veを操作すれば、それに応じて圧延スタンドの出側における板厚hが変動する。影響係数C1は、圧延スタンドの入側における圧延現象系が及ぼす影響係数である。影響係数C1に含まれるTrは1次遅れ定数である。1次遅れ定数Trに含まれるEはヤング率であり、bは板幅である。
【0032】
図5は、圧延スタンドでの圧延現象における各種の影響係数を示す図である。図5の1段目に示す影響係数C2は、ロールギャップ修正量ΔSが出側板厚偏差Δhに及ぼす影響係数である。2段目に示す影響係数C3は、ロールギャップ修正量ΔSが入側張力偏差ΔTbに及ぼす影響係数である。3段目に示す影響係数C4は、速度修正量ΔVeが出側板厚偏差Δhに及ぼす影響係数である。4段目に示す影響係数C4は、速度修正量ΔVeが入側張力偏差ΔTbに及ぼす影響係数である。
【0033】
影響係数C4およびC5は、分母に速度Veを含む。そのため、影響係数C4およびC5は、圧延速度が高速域にあると小さくなる。また、速度Veは一時遅れ定数Trの分母にも含まれる(図4参照)。そのため、圧延速度が高速域にあると一時遅れ定数Trが小さくなる。そして、一時遅れ定数Trは、影響係数C2およびC3の分母に含まれている。そのため、圧延速度が高速域にあると影響係数C2およびC3が大きくなる。
【0034】
まとめると、圧延速度が高速域にあると、影響係数C4およびC5が小さくなり、影響係数C2およびC3が大きくなる。また、影響係数C2は出側板厚偏差Δhの減算要素である。したがって、圧延速度が高速域にあるときには、ロールギャップ修正量ΔSに応じて入側張力偏差ΔTbが変わりやすいことが分かる。一方、速度修正量ΔVeが変化したところで入側張力偏差ΔTbおよび出側板厚偏差Δhはそれほど変化しないことが分かる。また、ロールギャップ修正量ΔSが変化したところで出側板厚偏差Δhはそれほど変化しないことも分かる。
【0035】
上述した関係は、圧延速度が低速域にあるときに正反対の内容になる。つまり、圧延速度が低速域にあると、ロールギャップ修正量ΔSが変化したところで入側張力偏差ΔTbはそれほど変化しない。一方、入側張力偏差ΔTbおよび出側板厚偏差Δhは、速度修正量ΔVeに応じて変わり易い。出側板厚偏差Δhは、ロールギャップ修正量ΔSに応じて変わり易い。
【0036】
以上のことから、圧延速度が低速域にあるときは、ロールギャップSの変動がAGCに有効であることが分かる。したがって、圧延速度が境界値TH未満の場合には、ロールギャップSを制御操作端とするAGC(すなわち、AGC_S)を行う。同時に、速度Veを制御操作端とするATR(すなわち、ATR_Ve)を行う。反対に、圧延速度が境界値TH以上の場合には、速度Veを制御操作端とするAGC(すなわち、AGC_Ve)を行う。同時に、ロールギャップSを制御操作端とするATR(すなわち、ATR_S)を行う。
【0037】
3.制御選択部の構成の特徴
圧延速度が境界値TH未満の場合に行われるATR_Veは、圧延スタンドの起動から行われる。そのため、この起動の状況によっては、ATR_Veでの速度修正量ΔVeが大きな値を示す場合がある。このような状況下において圧延速度が境界値THを上回ると、AGCとATRの組み合わせの切り替えに伴って、AGC_Veでの速度制御量Δ(ΔVe/Ve)AGCの計算に、この速度修正量ΔVeが用いられることになる。そうすると、速度制御量Δ(ΔVe/Ve)AGCが上限制約に抵触するおそれがある。
【0038】
そこで、実施の形態では、制御選択部55を次のように構成する。図6は、制御選択部55の構成を示すブロック図である。図6に示されるように、制御選択部55は、トリガ回路55aと、スイッチ55bおよび55cと、RAMP回路55dおよび55eと、リミッタ55fと、HOLD回路55gと、パルス発生器55hと、を備えている。
【0039】
トリガ回路55aは、圧延速度が境界値TH以上の場合にトリガ信号を出力する。トリガ信号が出力されると、スイッチ55bがONからOFFに切り替わる。つまり、トリガ信号の出力前においては、第1板厚制御部51から出力されたロールギャップ制御量ΔΔSAGCが、ロールギャップ制御装置40に入力される。トリガ信号の出力後においては、この入力がスイッチ55bによって遮断される。
【0040】
トリガ信号の出力前においては、また、第1張力制御部53から出力された速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATRが、RAMP回路55dに入力される。RAMP回路55dには、速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATRの計算に用いられた速度修正量ΔVeも入力される。RAMP回路55dに入力された速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATRは、リミッタ55fに入力される。リミッタ55fは、リミッタ55fに入力された速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATRが上限制約に抵触する場合、上限制約を速度制御装置30に入力する。そうでない場合、リミッタ55fは、速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATRを速度制御装置30に入力する。
【0041】
また、トリガ信号が出力されると、スイッチ55cがOFFからONに切り替わる。そうすると、第2板厚制御部52から出力された速度制御量Δ(ΔVe/Ve)AGCがリミッタ55fに入力される。ここで、トリガ信号が出力されると、RAMP回路55dには、スイッチ55cを介してゼロが入力される。そのため、RAMP回路55dは、トリガ信号の出力前に第1張力制御部53から出力された速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATR、および、この速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATRの計算に用いられた速度修正量ΔVeをリセットする。そうすると、トリガ信号の出力後は、RAMP回路55dからリミッタ55fに何も出力されない。
【0042】
したがって、トリガ信号の出力後は、第2板厚制御部52から出力された速度制御量Δ(ΔVe/Ve)AGCのみがリミッタ55fに入力される。トリガ信号の出力後、リミッタ55fは、リミッタ55fに入力された速度制御量Δ(ΔVe/Ve)AGCが上限制約に抵触する場合、上限制約を速度制御装置30に入力する。そうでない場合、リミッタ55fは、速度制御量Δ(ΔVe/Ve)AGCを速度制御装置30に入力する。
【0043】
HOLD回路55gは、第1張力制御部53から出力された速度修正量ΔVeを格納する。速度修正量ΔVeは、パルス発生器55hからのパルス出力信号に関連付けて格納される。トリガ信号が出力されると、この出力のタイミングにおける速度修正量ΔVeがHOLD回路55gからRAMP回路55eに入力される。RAMP回路55eは、RAMP回路55eに入力された速度修正量ΔVeと同等のロールギャップ修正量ΔSを計算して出力する。このロールギャップ修正量ΔSは、速度修正量ΔVeに所定の調整ゲインをかけることにより計算される。
【0044】
トリガ信号の出力後は、第2張力制御部54から出力されたロールギャップ制御量ΔΔSATRが、スイッチ55cを介してロールギャップ制御装置40に入力される。トリガ信号が出力されたタイミングにおいては、RAMP回路55eにおいて計算されたロールギャップ修正量ΔSが、ロールギャップ制御量ΔΔSATRに加算される。つまり、トリガ信号が出力されたタイミングにおいては、ロールギャップ修正量ΔSが加算されたロールギャップ制御量ΔΔSATRが、ロールギャップ制御装置40に入力される。
【0045】
4.効果
以上説明した実施の形態によれば、圧延速度が境界値THを越えたタイミングにおいて、第1張力制御部53から出力された速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATR、および、この速度制御量Δ(ΔVe/Ve)ATRの計算に用いられた速度修正量ΔVeがリセットされる。そのため、圧延速度が境界値THを越えたタイミング以降は、第2板厚制御部52から出力された速度制御量Δ(ΔVe/Ve)AGCのみがリミッタ55fに入力される。そのため、速度制御量Δ(ΔVe/Ve)AGCが上限制約に抵触するような状況に陥るのを回避することが可能となる。したがって、圧延速度が境界値THを越えたタイミング以降にAGCの継続が困難となる状況を回避することが可能となる。
【0046】
ここで、圧延速度が境界値THを越える直前において、張力Tbを緩めるような速度修正量ΔVeが第1張力制御部53から出力されている場合を考える。このような速度修正量ΔVeを無視すると、圧延速度が境界値THを越えた直後の張力Tbが、引っ張り気味の値になってしまう。この点、実施の形態によれば、圧延速度が境界値THを越えたタイミングでの速度修正量ΔVeと同等のロールギャップ修正量ΔSが、ロールギャップ制御量ΔΔSATRに加算される。したがって、圧延速度が境界値THを越えたタイミング以降に張力Tbが大きく変動するのを抑えることも可能となる。
【0047】
5.その他の実施の形態
上記実施の形態では、第1板厚制御部51などを圧延制御装置50の機能として説明した。しかしながら、これらの機能を複数の制御装置において別々に実現してもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、圧延制御装置50において行われる処理をタンデム圧延機に適用する例を説明した。しかしながら、この処理は、シングルスタンド圧延機に適用することも可能である。この場合は、圧延スタンドの前段または後段に設けられたテンションリールの速度を速度制御装置によって制御し、この圧延スタンドのロールギャップをロールギャップ制御装置によって制御すればよい。
【符号の説明】
【0049】
10 被圧延材
20,21 圧延スタンド
30,31 速度制御装置
40,41 ロールギャップ制御装置
50 圧延制御装置
51 第1板厚制御部
52 第2板厚制御部
53 第1張力制御部
54 第2張力制御部
55 制御選択部
60 板厚計
70 張力計
100 圧延制御システム
H,h 板厚
S ロールギャップ
Tb,Tf 張力
Ve,Vo 速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6