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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】距離計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/10 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
G01S15/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022005549
(22)【出願日】2022-01-18
(62)【分割の表示】P 2017245530の分割
【原出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2022040288
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
(72)【発明者】
【氏名】井奈波 恒
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-108121(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第966131(EP,A2)
【文献】国際公開第2016/159431(WO,A1)
【文献】特表2009-519613(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141370(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52 - G01S 7/64
G01S 15/00 - G01S 15/96
H04L 27/00 - H04L 27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波を発振する発振器と、
固有の符号をパルス信号として出力するパルス発生器と、
前記搬送波を変調し、前記パルス信号に対応する変調波を出力する変調器と、
前記変調波に対応する超音波を発振および受振する圧電素子と、
前記圧電素子が受振した前記超音波の反射波を復調して取得した前記符号を基にして距離を算出する制御部と、を備え、
前記変調器は、位相変調方式、振幅変調方式、および周波数変調方式のうち、少なくとも二つの変調方式を同時に用いて前記搬送波を変調し、
前記変調器は、前記二つの変調方式のうちの一つとして、前記振幅変調方式を用いて前記搬送波を変調し、かつ、前記パルス信号の各パルスに対応するバースト波に変換し、前記振幅変調方式で変換された変調波の振幅が小さくなる前記パルスに対応するバースト波のバースト長を、前記振幅が大きくなる前記パルスに対応するバースト波のバースト長に対して短縮する距離計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を発振する圧電素子を備えた距離計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、超音波を送信し、その反射波を受振して反射物体までの距離を測定する、いわゆるタイム・オブ・フライト(Time-Of-Flight、TOF)法による超音波距離測定装置が記載されている。
【0003】
この特許文献1には、パルス信号の周波数や位相等を変調することで識別信号(変調信号)を加えた超音波のバースト波を送信する超音波距離測定装置の距離測定方法が記載されている。
この距離測定方法によれば、識別信号を情報として含む超音波の反射波等を受振し、送信した変調信号との相関をとることで、受振した反射波(受振信号)の立ち上がり部分を精度よく検出し、距離を求めることが可能である。
【0004】
特許文献2には、距離計測装置(超音波ソナー)を車両に取り付け、当該超音波ソナーから送信される送信波の反射波を受振して車両周辺に存在する障害物を検知する車両周辺監視装置が記載されている。また、このような車両周辺監視装置において、車両周辺に存在する障害物の検知性能向上のニーズが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-249770号公報
【文献】特開2011-112416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、超音波に識別信号を加えると、受振した反射波の立ち上がり部分の検出精度が向上する。そのため、距離計測装置の距離計測性能を向上させることができる。
しかし、特許文献2に例示されるように、例えば車載用途などにおいては、更なる計測性能の向上が要請される。
計測性能の向上としてはたとえば、他の距離計測装置の超音波と識別(いわゆる混信防止)性の向上や、当該識別信号を確実に検出するための冗長化、計測の領域(特に近距離計測における計測レンジ)の拡大、という計測性能の向上が要請される。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、距離計測の計測性能を向上させた距離計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る距離計測装置の特徴構成は、
搬送波を発振する発振器と、
固有の符号をパルス信号として出力するパルス発生器と、
前記搬送波を変調し、前記パルス信号に対応する変調波を出力する変調器と、
前記変調波に対応する超音波を発振および受振する圧電素子と、
前記圧電素子が受振した前記超音波の反射波を復調して取得した前記符号を基にして距離を算出する制御部と、を備え、
前記変調器は、位相変調方式、振幅変調方式、および周波数変調方式のうち、少なくとも二つの変調方式を同時に用いて前記搬送波を変調し、
前記変調器は、前記二つの変調方式のうちの一つとして、前記振幅変調方式を用いて前記搬送波を変調し、かつ、前記パルス信号の各パルスに対応するバースト波に変換し、前記振幅変調方式で変換された変調波の振幅が小さくなる前記パルスに対応するバースト波のバースト長を、前記振幅が大きくなる前記パルスに対応するバースト波のバースト長に対して短縮する点にある。
【0009】
上記構成によれば、十分な混信防止や冗長化に必要な固有の符号を識別信号として超音波に加える(付与する)場合に、変調器が複数の変調方式を同時に用いて搬送波を変調しているため、圧電素子が発振する超音波が、単位時間内に、すなわち、所定のバースト長あたりの情報量を増大させることができる。すなわち、当該超音波が伝送可能な情報量を増大させることができる。
したがって、上記構成によれば、識別信号の情報量を増大させて、距離計測の計測性能を向上させた距離計測装置を提供することができる。
【0010】
また、超音波が伝送可能な情報量を増大させることができるため、混信防止や冗長化に必要な情報量の識別信号を伝送するために要する伝送時間を短縮することができる。そのため、圧電素子が発振する超音波の発振時間を短縮して、計測可能な最短距離を短縮することができる。すなわち上記構成によれば、距離計測装置において、近距離計測における計測の領域を拡大するという距離計測の性能向上を達成することができる。
【0011】
また、上記構成によれば、位相変調方式、振幅変調方式、および周波数変調方式のうち、少なくとも二つの変調方式を用いて超音波が伝送可能な帯域幅を増大させて、距離計測の計測性能を向上させた距離計測装置を提供することができる。
【0012】
変調波の振幅が大きいほど、圧電素子が発振するバースト波の振幅が当該変調波の振幅に対応する大きさになるまでに要する時間が長くなる。いわゆる立ち上がり時間を要するためである。
そのため、変調波の振幅が小さい場合、圧電素子が発振するバースト波の振幅は速やかに立ち上がる。一方、変調波の振幅が大きい場合、圧電素子が発振するバースト波の振幅の立ち上がりは、変調波の振幅が小さい場合に比べて相対的に遅延する。
【0013】
そこで、振幅変調方式を用いて搬送波を変調する場合において、変調波の振幅が小さくなるパルスに対応するバースト波のバースト長を、振幅が大きくなるパルスに対応するバースト波のバースト長に対して相対的に短縮することで、超音波が単位時間あたりに伝送可能な情報量を増大させることができる。したがって距離計測の計測性能を向上させた距離計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】距離計測装置の概略構成の説明図
図2】振動波形の一例を示す図
図3】位相変調方式で変調した波形の説明図
図4】振幅変調方式で変調した波形の説明図
図5】周波数変調方式で変調した波形の説明図
図6】TOF法による距離計測の説明図
図7】誤検知の回避を説明する図
図8】複数の変調方式で変調した振動波形の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1から図8に基づいて、本発明の実施形態に係る距離計測装置100について説明する。
【0016】
〔概略の説明〕
図1は、距離計測装置100の概略構成を説明する模式図である。
距離計測装置100は、対象物9との距離を、変調された超音波の反射波を受振して計測する距離の計測装置である。
距離計測装置100は、例えば、車載用の障害物検出装置(図示せず)として用いられ、障害物としての対象物9の存在を認識し、また、対象物9との距離を把握して、それらの情報を運転者に通知するようになっている。
【0017】
距離計測装置100は、装置全体の動作を制御し、距離の演算を行う制御部1と、超音波を発振する圧電素子3と、圧電素子3が発振する超音波の基本波を発振する発振器4と、を備える。
さらに距離計測装置100は、発振器4が発振した基本波(搬送波)を変調して変調波を出力する変調器2と、圧電素子3が受振した反射波を復調して信号を取得する検波器5などと、を主要な機能部として備える。
【0018】
〔詳細の説明〕
〔距離計測装置の構成〕
以下の説明では主として図1を参照して説明し、必要に応じて他の図を参照する。
圧電素子3は、超音波を発振し、また、受振するデバイスである。
圧電素子3は、印加された電圧に応じて変位し、また、振動エネルギーなどの機械的な力を加えられると、その変位に応じて起電力を生じる振動子(図示せず)を備えた、いわゆる超音波振動子のユニットである。
圧電素子3の振動子は、所定の周波数(波長)で共振するため、通常は、発振する超音波の中心となる周波数(もしくは波長)と、受振可能な超音波の中心となる周波数(もしくは波長)は同じになる。
本実施形態の圧電素子3の共振周波数は40kHzである。
【0019】
本実施形態では、圧電素子3は、変調器2から印加される電圧の変化(変調波)に応じて超音波を発振するようになっている。また、圧電素子3は、外部の振動、例えば、圧電素子3が自ら発振した超音波を受振することができる。
【0020】
本実施形態で用いている圧電素子3は、変調器2から所定の(一定の)条件で変化する一定のエネルギー(本実施形態においては圧電素子3の固有振動数に対応する周波数で変化する、振幅が一定の電圧)が連続して印加された場合、図2に示すように、複数回数振動した後、すなわち、所定の遅延時間Td後に、一定の振幅Aに達する定常状態になる。
そのため、圧電素子3で大きな振幅を得たい場合には、大きな遅延時間Tdが必要である。一方、圧電素子3で相対的に小さい振幅を得たい場合には、遅延時間Tdは小さくなる。
【0021】
圧電素子3は、本実施形態では所定時間の連続的な振動(電圧を印加された振動)と停止を繰り返している。圧電素子3は振動を停止している場合に、外部の振動(超音波)を受振することができる。言い換えると、外部の振動を受振する際には、電圧の印加を停止する。
圧電素子3が受振した振動は、圧電素子3により電圧の信号に変換されて検波器5に送信される。
【0022】
発振器4は、圧電素子3を振動させるための基本波を発振する、周波数ジェネレーターである。発振器4が発振した基本波が、本実施形態では搬送波として用いられる。
本実施形態では、発振器4は、所定の振動数で振動する水晶振動子(図示せず)の基本振動を基にして、所定の周波数を生成し、搬送波として変調器2へ供給し、また、復調のための基本波として検波器5に供給している。
【0023】
検波器5は、圧電素子3が受振した振動を復調して信号を取得するための復調機能を有する機能部である。なお、本実施形態において、圧電素子3が受振した振動とは、超音波であり、特に圧電素子3が発振した超音波の反射波である。
【0024】
検波器5は、発振器4から供給される基本波をもとにして圧電素子3が受振した超音波を復調している。検波器5は、原則、復調として変調器2で行った変調と逆の操作を行っている。
【0025】
制御部1は、距離計測装置100全体を制御する機能部であり、中央演算装置であるCPU10を中核機構として有する。制御部1はさらに、パルス発生器15と、比較器17と、を主要な機能部として備える。
【0026】
パルス発生器15は、所定の符号を含む信号を生成する信号発生器である。パルス発生器15は、原則、距離計測装置100に固有の所定の符号(固有の符号列、識別信号、もしくは識別IDとなる符号列)を含む信号を生成するようになっている。
パルス発生器15は、本実施形態では、生成した信号を、変調器2へ供給(伝送)している。
【0027】
パルス発生器15は、所定のビット長で、所定のビット配列の、二進数の符号を含む信号を生成する。
所定のビット長としては例えば、8ビットのビット長を選択できる。
所定のビット配列としては任意の配列を選択してよい。
【0028】
パルス発生器15は、所定のビット長における各ビットを、パルス信号(パルスのオンオフ)で出力している。パルス発生器15が所定のタイミングでパルスを発した場合(パルスオン)、当該所定のタイミングにおけるパルスは二進数の1を意味し、所定のタイミングでパルスを発しない場合(パルスオフ)、当該所定のタイミングはゼロを意味する。
パルス発生器15は、ビット長が8ビットの場合は、8回のパルスのオンないしオフの組み合わせの信号を出力するようになっている。
【0029】
以下では、パルス発生器15が所定のタイミングでパルスを発した状態を符号1とする。また、パルス発生器15が所定のタイミングでパルスを発しない状態を符号ゼロとする。
また、単に、パルス、と称する場合は、符号1もしくは符号ゼロのいずれかを意味する。
また、パルス信号、と称する場合は、複数のパルスの組み合わせを意味する。
【0030】
比較器17は、検波器5から取得した信号に含まれる符号とパルス発生器15の符号とを比較して一致もしくは不一致を判定するための演算ユニットである。
比較器17は、当該判定した結果(以下、判定結果と称する)をCPU10に送信する。
【0031】
CPU10は、制御部1における、パルス発生器15および比較器17以外の機能を実行する機能部であり、演算ユニットである。
【0032】
CPU10は、比較器17から取得した判定結果と、当該判定結果を取得したタイミングをもとにして対象物9との距離を算出するようになっている。
また、CPU10は、さらに、所定の条件下、制御部1として、変調器2に対して変調のプロトコルを指示している。
【0033】
本実施形態において変調のプロトコルとは、いわゆる変調方式と、パルス発生器15が生成する各パルスに対応するバースト波のバースト長の設定を意味する。CPU10は、制御部1として、変調器2に対して、変調方式や、バースト長の設定などの、変調のプロトコルを指示することができるようになっている。
【0034】
変調器2は、発振器4が発振する基本波を変調(以下、単に変調、と称する場合がある)し、圧電素子3に変調波を送信する変調回路(図示せず)であって、圧電素子3を駆動するための電圧を生じさせる回路(図示せず)を有するものである。
【0035】
変調器2は、本実施形態では、発振器4が発振する基本波を搬送波とし、パルス発生器15が発振する信号に応じて当該基本波を変調し、信号情報を含む変調波を生成している。そして変調器2は、圧電素子3に対し、当該変調波を電圧の波として、すなわち、位相や振幅の強弱を変化させた電圧を印加し、圧電素子3を駆動している。圧電素子3は、変調器2から印加された電圧に応じて振動し、変調された超音波、すなわち、信号情報を含む超音波を発振する。
【0036】
変調器2は、本実施形態では、制御部1の指示により、複数の変調のプロトコルを切替えて、もしくは、組み合わせて変調することができる。
変調器2は、複数の変調のプロトコルの切替として、複数の変調方式を切替えて、変調することができる。
変調器2は、複数の変調方式として、少なくとも位相変調方式、振幅変調方式、および周波数変調方式を切替えて使用することができる。
【0037】
変調器2は、複数の変調方式を同時に用いて(組み合わせて、もしくは重畳して)、変調することができる。
本実施形態では、変調器2は、位相変調方式、振幅変調方式、および周波数変調方式のうち、少なくとも二つの変調方式を同時に用いて変調することができる。
【0038】
なお、本実施形態に言う位相変調方式とは、デジタル信号を、搬送波の位相を変化させて表して変調する、すなわち位相変調して伝送する方式の事をいい、PSK(phase-shift keying)とも呼ばれる。
【0039】
図3に、位相変調方式で変調した場合の波形の一例を示す。
本実施形態では、図3に示すように、搬送波と同じ位相が二進数の1を表し、搬送波とπだけずれた位相が二進数のゼロを表している。
【0040】
また、本実施形態に言う振幅変調方式とは、デジタル信号を搬送波の振幅の違いで表して変調する、すなわち振幅変調する方式をいい、ASK(amplitude shift keying)とも呼ばれる。
本実施形態では、連続する波のうち、相対的に大きな振幅が二進数の1を表し、相対的に小さな振幅が二進数のゼロを表している。
【0041】
図4に、振幅変調方式で変調した場合の波形の一例を示す。
図4では、二進数の1を表す相対的に大きな振幅に対して、当該振幅を100パーセントとした場合に、50パーセントの振幅を二進数のゼロを表す場合の目標振幅として変調制御し、100パーセントと50パーセントの平均値である75パーセント以下の振幅である場合に、二進数のゼロを表しているものとする場合を図示している。
【0042】
また、本実施形態に言う周波数変調方式とは、デジタル信号を搬送波の周波数の違いで表して変調する、すなわち周波数変調する方式をいい、FSK(frequency shift keying)とも呼ばれる。
【0043】
図5に、周波数変調方式で変調した場合の波形の一例を示す。
本実施形態では、搬送波と同じ周波数が二進数の1を表し、搬送波よりも所定の大きさだけ周波数変化した場合に二進数のゼロを表すことができる。たとえば、図5の場合には、搬送波と同じ周波数が二進数の1を表し、搬送波よりも周波数が所定の大きさだけ小さい場合が二進数のゼロを表している。
【0044】
以下では、変調器2が、位相変調方式と振幅変調方式との二つの変調方式を同時に用いて変調する方式で変調する場合を例示して説明していく。
【0045】
変調器2は、複数の変調のプロトコルの切替として、パルス発生器15が生成する各パルスに対応し、バースト波のバースト長を切替て変調することができる。
すなわち、本実施形態において振幅変調方式でゼロを表す場合は、バースト長を短くすることで、相対的に小さな振幅を得るようになっている。
【0046】
〔動作の説明〕
〔障害物の検知動作の基本的な説明〕
以下では、距離計測装置100による、障害物91の検知と距離の計測動作について説明する。
本実施形態では、距離計測装置100は、いわゆるタイム・オブ・フライト(Time-Of-Flight、TOF)法により、距離を計測する。
図6には、TOF法による距離計測の基本的な概念を説明するグラフを図示している。
【0047】
図6のグラフの横軸は時間の経過を意味している。
図6のグラフの縦軸は振幅の大きさを意味している。
ラインEは、圧電素子3の振動の振幅の包絡線(エンベロープ)である。
本実施形態において、圧電素子3は、上述のように、変調された超音波を発振している。この変調された超音波の発振の具体例については後述する。
【0048】
圧電素子3は、所定の間隔毎に変調器2に発振時間T1だけ駆動される。
図6には、圧電素子3が、発振時間T1だけ変調器2に駆動されて振動(強制振動)した後、慣性による振動を残響時間T2だけ継続(いわゆる残響)し、その後、外部からの振動を受振している場合を図示している。
【0049】
図6の図示の場合、圧電素子3は、圧電素子3の駆動が開始されてから時間Tp後に、所定の閾値Thを超える大きさの振動ピークP1を受振している。この振動ピークP1が、通常、障害物91(図1参照)からの反射波のピークである。
なお、閾値Thは、道路90からの小さな反射波(例えば道路の凹凸に伴う反射波)と、障害物91からの反射波を識別するための値である。
本実施形態では、閾値Thを超えるピークを有する反射波が、障害物91からの反射波であると定義している。一方、閾値Thを超えないピークを有する反射波は、一般に道路90の凹凸により生じる反射波であると定義している。
【0050】
TOF法で障害物91との距離を計測する場合、振動ピークP1の開始点を、反射波の受振の開始点と認識すればよい。
振動ピークP1の開始点は、図6では、時間Tpから、時間ΔTだけさかのぼったポイントで図示している。通常、時間ΔTの長さは、発振時間T1に等しい。言い換えると、圧電素子3が発振した超音波の反射波の受振に要した時間Tfは、時間Tpから発振時間T1を差分して求めることができる。
【0051】
たとえば図6の場合には、圧電素子3の駆動が開始された時点(ゼロ)から、振動ピークP1を示す時間Tpに達した時点より時間ΔTだけさかのぼった時点までの時間が時間Tfに対応する。もしくは、発振時間T1に達した時点から、振動ピークP1を示す時間Tpに達した時点までの時間も時間Tfと同じ時間長さである。
【0052】
圧電素子3が受振した反射波は、検波器5で復調され、取り出された信号は、制御部1の比較器17に送信される。
ここで、圧電素子3が発振する超音波の反射波は、所定の符号を含む情報を有している。したがって、検波器5で復調され、取り出された信号は、パルス発生器15が生成した所定の符号を含んでいる。そこで、制御部1は、比較器17の判定結果が一致であれば、当該反射波が、圧電素子3が発振した超音波の反射波であると認識し、障害物91の存在を検知することができる。そして、制御部1は、時間Tfを求め、時間Tfと、音速とから、障害物91との距離を認識することができる。
【0053】
〔誤検知の回避について〕
比較器17の判定結果が不一致である場合について補足する。
図7は、図6に示したラインEに加えて、振動ピークP2を有する超音波の入射が、ラインEfとして、重畳して図示されている。このラインEfは、例えば他の車両などに搭載された、別の距離計測機が発した超音波もしくはその反射波を、圧電素子3が受振したものである。
【0054】
図7に示す場合、振動ピークP2を有する超音波には、所定の符号を含む信号が含まれていない。したがって、振動ピークP2が閾値Thを超える場合にも、比較器17が不一致の判定をするため、制御部1は、圧電素子3が受振した振動ピークP2を有する超音波は、圧電素子3が発振した超音波の反射波ではないと認識することができる。
このように、所定の符号を含む超音波を発振し、また受振するようにすることで、制御部1は、誤検知を回避することができ、距離計測装置100の計測性能を向上させることができる。
【0055】
〔最短計測可能距離について〕
本実施形態で用いているTOF法による距離計測の、最短計測可能距離について補足する。
図6からわかるように、TOF法による距離計測は、反射波を少なくとも発振時間T1および残響時間T2を経過した後に受振することを要する。つまり、超音波を利用したTOF法による最短計測可能距離は、音速に、発振時間T1と残響時間T2との和を乗じた値の半分の距離である。
したがって、例えば発振時間T1を短くすれば、最短計測可能距離をより短い距離にすることができ、近距離計測を可能として、計測可能な距離範囲を拡大(距離計測装置100の計測の領域を拡大)することができる。
【0056】
〔超音波の変調について〕
本実施形態では、圧電素子3は、図8に例示するように、位相変調方式と振幅変調方式とを同時に用いて変調された超音波を発振している。
本実施形態では、パルス発生器15が8ビットの符号を含む信号を発振しており、圧電素子3が、8ビットの符号の情報を含む変調された超音波を発振している場合を例示して説明する。
【0057】
図8には、パルス発生器15が、最上位ビットから順に、[11111000]の8ビットの符号を含むパルス信号を発信しており、変調器2が、上位ビットから下位ビットの順に、ビットごとに交互に振幅変調方式と位相変調方式とに振り分けて変調して表し、圧電素子3(図1参照)が、当該変調された変調波に対応する超音波を発振している場合の振動の波形Wを例示している。
さらに、図8には、変調器2が、振幅変調方式でゼロを表す場合に、当該部分のバースト長を、振幅変調方式で1を表す部分の半分のバースト長で変調している場合を例示している。
【0058】
図8からわかるように、本実施形態では、変調器2が複数の変調方式として、少なくとも位相変調方式および振幅変調方式を同時に用いて搬送波を変調しているため、短時間でより大きな送信ビット数(長い符号列)の送信が可能になる。
【0059】
このように短時間でより大きな送信ビット数の送信が可能であるため、識別信号、もしくは識別IDなどを多数設定することが可能となり、例えば、他の距離測定器との混信のリスクを低減することができる。
【0060】
また、本実施形態では、短時間でより大きな送信ビット数の送信が可能であるため、同一の送信ビット数(同じ符号列)であれば、発振時間T1をより短縮することができる。そのため、発振時間T1を短くして、距離計測装置100の計測の領域を拡大することもできる。
【0061】
以上のようにして、距離計測の計測性能を向上させた距離計測装置を提供することができる。
【0062】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、圧電素子3の共振周波数を40kHzとしたが、圧電素子3の共振周波数はこれに限られず、人の可聴域を超える20kHz以上の音域(周波数帯)で任意に設定可能である。
【0063】
(2)上記実施形態では、変調器2が、位相変調方式と振幅変調方式との二つの変調方式を同時に用いて変調する場合を説明した。
しかしながら、変調器2が、位相変調方式と振幅変調方式との二つの変調方式に加えて、さらに、周波数変調方式を同時に用いて変調してもよい。より多くの変調方式を同時に用いることで、短時間でより大きな送信ビット数の送信が可能になる。
【0064】
(3)上記実施形態では、変調器2が、振幅変調方式でゼロを表す場合に、当該部分のバースト長を、振幅変調方式で1を表す部分の半分のバースト長で変調している場合を説明した。
しかしながら、振幅変調方式でゼロを表す場合にも、当該部分のバースト長を、振幅変調方式で1を表す部分と同じバースト長としてもよい。
【0065】
(4)上記実施形態では、所定のビット長として、8ビットのビット長を選択した。
しかしながら、ビット長の設定は任意であり、混信防止に必要なビット長を選択することができる。例えばビット長を16ビットとしてもよい。
【0066】
(5)上記実施形態では、パルス発生器15が8ビットで発信した信号を、変調器2が、上位ビットから下位ビットの順に、ビットごとに交互に振幅変調方式と位相変調方式とに振り分けて変調する場合を例示した。
しかしながら、変調器2が、上位4ビットを位相変調方式で変調して表し、下位4ビットを振幅変調方式で変調して表すようにしてもよい。
【0067】
(6)上記実施形態では、符号を表す場合に、たとえば位相変調方式の場合に搬送波と同じ位相が二進数の1を表し、搬送波とπだけずれた位相が二進数のゼロを表し、符号の最小単位が2値である場合を例示した。
しかしながら、符号の表し方は上記例示に限られない。符号は二進数以外にも他の位取り記数法、たとえば十進数を用いることができる。また、各変調方式において二値を超える変調を行うこともできる。
【0068】
具体的にはたとえば、位相変調方式の場合、搬送波と同じ位相で十進数のゼロ(0)を表し、以後、搬送波とπ/4だけずれた位相が十進数の1を、π/2だけずれた位相が十進数の2を、3π/4だけずれた位相が十進数の3を表すようにして、四値で表してもよい。この場合、十進数ではなく、上記実施形態と同様に、二進数で表してもよい。例えば、搬送波と同じ位相で二進数の00を表し、以後、搬送波とπ/4だけずれた位相が二進数の01を、π/2だけずれた位相が二進数の10を、3π/4だけずれた位相が二進数の11を表すようにすることができる。
【0069】
同様に、振幅変調方式や周波数変調方式の場合も、二進数以外の他の位取り記数法を採用し、また、二値を超える変調を行うこともできる。例えば振幅変調方式の場合には、振幅の階調として四段階設定し、二進数の00、01、10、11の四値、ないし、十進数の0、1、2、3の四値を表すこともできる。また、さらに多段階を設定し、4値を超えて表すこともできる。同様に周波数変調方式の場合にも、搬送波に対して多段階の大きさの周波数変化を設定し、多値を表すこともできる。
【0070】
(7)上記実施形態では、パルス発生器15は、所定のビット長で、所定のビット配列の、二進数の符号を含む信号を生成し、当該ビット長としては例えば、8ビットのビット長を選択しており、所定のビット配列としては任意の配列を選択してよいことを説明した。この場合、任意の配列として、誤り検出用のパリティビットを含むことができる。
たとえば、8ビットのビット長の場合は、最上位ビットを1とし、最下位ビットは誤り検出用のパリティビットとして用いてもよい。誤り検出としては、例えば奇数パリティ方式を使用することができる。
また、上記実施形態ではより大きな送信ビット数の送信を可能としているため、パリティビットを採用する以外にも、誤り訂正ビットを採用したりするなどして、識別性を向上させることもできる。
【0071】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、距離計測装置に適用できる。
【符号の説明】
【0073】
1 :制御部
2 :変調器
3 :圧電素子
4 :発振器
5 :検波器
9 :対象物
10 :CPU(制御部)
15 :パルス発生器(制御部)
17 :比較器(制御部)
90 :道路(対象物)
91 :障害物(対象物)
100 :距離計測装置
A :振幅
E :ライン
Ef :ライン
P1 :振動ピーク
P2 :振動ピーク
T1 :発振時間
T2 :残響時間
Td :遅延時間
Th :閾値
W :波形
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8