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特許7197037金属材料の製造仕様決定方法、製造方法、および製造仕様決定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】金属材料の製造仕様決定方法、製造方法、および製造仕様決定装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/26 20060101AFI20221220BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20221220BHJP
   B21B 37/00 20060101ALI20221220BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20221220BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20221220BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
B21B1/26 Z
B21B3/00 A
B21B37/00 221Z
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/02 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022014442
(22)【出願日】2022-02-01
(62)【分割の表示】P 2019006221の分割
【原出願日】2019-01-17
(65)【公開番号】P2022081474
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昇輝
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 由紀雄
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062398(WO,A1)
【文献】特開平08-240587(JP,A)
【文献】特開2010-106314(JP,A)
【文献】足立吉隆ほか,初歩的な人工知能によるDP鋼の高次元組織データ駆動型応力-ひずみ曲線の予測,鉄と鋼,日本,社団法人日本鉄鋼協会,2015年12月31日,Vol.102, No.1,p.47-55
【文献】松原博義ほか,コントロールド・ローリングによる高張力高靱性鋼板の製造,鉄と鋼,日本,社団法人日本鉄鋼協会,1972年11月01日,Vol.58, No.13,p.1848-1860
【文献】藤井英俊,ニューラルネットワークの材質予測への適用,西山記念技術講座 第180,181回,日本,社団法人日本鉄鋼協会,2004年06月11日,p.127-146
【文献】足立吉隆ほか,機械学習支援の材料情報統合システム,システム/制御/情報,一般社団法人システム制御情報学会,2017年05月10日,Vol.61, No.5,p.188-193
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-11/46
B21B 37/00-37/78
C22C 38/00
C22C 38/58
C21D 8/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得するステップと、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化するステップと
を含む前記金属材料の製造仕様決定方法。
【請求項2】
前記所定工程は、二次精錬工程であり、前記1つ以上の実績データは成分組成調整後の実績データを含む、請求項1に記載の製造仕様決定方法。
【請求項3】
前記金属材料は厚鋼板である、請求項1または2に記載の製造仕様決定方法。
【請求項4】
前記材料特性は一様伸びを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造仕様決定方法。
【請求項5】
前記予測モデルは、前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデル、または統計学習モデルを含む機械学習モデルである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造仕様決定方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造仕様決定方法を用いて決定された製造仕様で金属材料を製造する製造方法。
【請求項7】
金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得する通信部と、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化する探索処理部と
を有する製造仕様決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材等の金属材料の製造方法に関し、所望の特性を好適にする金属材料の製造仕様決定方法、かかる方法により決定された製造仕様で金属材料を製造する製造方法、および製造仕様決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクおよび建産機などの構造物に使用される鋼材に、該構造物の設計の合理化および鋼材使用重量の低減を目的として、高強度化および薄肉化した長尺材が適用されることが多くなってきている。このような鋼材においては、強度および靭性などの機械的性質および溶接性に優れていることに加えて、外力に対して構造物の構造安全性を担保するために衝撃エネルギー吸収能に優れることが要求される場合がある。
【0003】
例えば構造物の一例である船舶において、かかる要求が高まっている。なぜならば、船舶同士の衝突および座礁に伴う船体損傷があると、積荷および燃料等が流出し海洋汚染等の被害を引き起こす虞があるためである。かかる被害を最小限に抑えるための技術として、船体の二重構造化等の構造面からの取り組みが行われている。しかし船舶の構造物全てに当該構造を施すことは、作業性および製造コストの面から現実的とはいい難い。そのため、船体用の鋼板自体にエネルギー吸収能を持たせて、船舶の衝突時に船体の破壊を防止することが望まれている。
【0004】
ここで特許文献1には、フェライト相の体積分率が板厚方向全域で75%以上、硬さがHv140以上160以下、平均結晶粒径が2μm以上40μm以下、板厚方向中央部におけるフェライト相の体積分率に対する板厚方向表層部におけるフェライト相の体積分率の割合が0.925以上1.000以下とすることにより、一様伸びを増加させて耐衝突性を向上させた鋼材が記載されている。
【0005】
また特許文献2には、オーステナイト単相域で累積圧下率30~98%の圧延を行った後に加速冷却を実施し、その後空冷あるいは焼き戻し処理を行い、フェライトの面積率が85%以上、フェライトの平均結晶粒径が5~40μm、フェライト粒内のセメンタイト粒子が個数密度で50000個/mm2以下である、衝突エネルギーの吸収能を向上させた鋼板が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、最終パス圧延(仕上圧延)後に加速冷却を行い、次いで一定温度に再加熱し再び加速冷却を行うことにより、フェライトの占積率、平均粒径および最大粒径、更には第2相のサイズを制御し、衝突吸収性を向上させた鋼材が記載されている。
【0007】
また、材料設計を自動的に実施することも提案されている。例えば特許文献4には、非金属材料の設計に係る作業負荷を軽減するため、予測モデルおよび最適化計算を用いて材料設計を行う手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5953952号
【文献】特許第4772932号
【文献】特許第4476923号
【文献】特許第4393586号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1~3に記載されている従来技術は、以下の問題がある。すなわち、特許文献1~3に記載の方法では、加熱、熱間圧延、加速冷却、および熱処理を組み合わせることにより所望の結晶粒および硬度を有する鋼板が製造されている。これらの鋼板の製造方法は実験室レベルでの実験結果および実機での実績データから半経験的に組織設計の指針が構築されているため、製造中に何らかの外乱(成分組成、寸法、および温度のバラつき等)が生じた場合、必ずしも所望の鋼材を得られない。また、高強度化、高延性化、および厚肉化等よりハイグレードな鋼材を新規に製造する場合、その指針を得るために実験室レベルでの実験および実機での試作を繰り返し実施しなければいけない。また特許文献4に記載の方法では、金属材料の製造については言及されておらず、また製造時の外乱に対する耐性については一切考慮されていなかった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、金属材料の製造時の外乱に対するロバスト性を高めることができる製造仕様決定方法、製造方法、および製造仕様決定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明の一実施形態に係る製造仕様決定方法は、
金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得するステップと、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を探索するステップと
を含む。
【0012】
また本発明の一実施形態に係る製造方法は、前記製造仕様決定方法を用いて決定された製造仕様で金属材料を製造する。
【0013】
また本発明の一実施形態に係る製造仕様決定装置は、
金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得する通信部と、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を最適化する探索処理部と
を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態に係る金属材料の製造仕様決定方法、製造方法、および製造仕様決定装置によれば、製造時の外乱に対するロバスト性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る製造仕様決定装置を含むシステムの全体概要を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る製造仕様決定装置のブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る予測モデルの作成処理を示すフローチャートである。
図4】ニューラルネットワークモデルの概要を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る最適化処理を示すフローチャートである。
図6】予測精度を示すグラフである。
図7】逆解析によって得られた予測結果の一例を示す。
図8】実施例と比較例との比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造仕様決定装置10を含むシステムの全体概要を示す模式図である。以下、本実施形態において設計対象の金属材料は、厚鋼板である例について説明するが、金属材料は厚鋼板に限られない。図1に示すように本実施形態に係るシステムは、転炉1と、連続鋳造機2と、加熱炉3と、厚鋼板4と、圧延機5と、加速冷却装置6と、製品厚鋼板7と、製造仕様決定装置10とを含む。厚鋼板の製造工程において、まず原料の鉄鉱石は、石灰石およびコークスとともに高炉に装入され、溶融状態の銑鉄が生成される。高炉で出銑された銑鉄に対して転炉1において炭素等の成分調整が行われ、二次精錬により最終的な成分調整がなされる。連続鋳造機2では、精錬された鉄鋼を鋳造して鋳片(スラブ)と呼ばれる中間素材を製造する。その後、加熱炉3における加熱工程によりスラブを加熱し、圧延機5による熱間圧延工程、加速冷却装置6による冷却工程を経て、製品厚鋼板7が生成される。なお冷却工程の後に、適宜、酸洗工程、冷間圧延工程、焼鈍工程、および鍍金工程等の処理工程を経てもよい。
【0018】
概略として、本システムに係る製造仕様決定装置10は、厚鋼板の製造中において各種製造仕様の最適化を行う。製造仕様の最適化は、転炉1による成分組成調整、連続鋳造機2によるスラブ寸法、鋳造速度、二次冷却の調整、加熱炉3によるスラブ加熱温度、スラブ在炉時間、スラブ抽出温度の調整、圧延機5による製品寸法、圧延条件、温度条件の調整、および加速冷却装置6による冷却調整を含む。製造仕様決定装置10は、所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データと、予測モデルとに基づき逆解析を行い、冷却後の製品厚鋼板7の材料特性の推定値を導出する。そして製造仕様決定装置10は、かかる推定値が要求される材料特性(所望の値)と漸近するように、必要な制御量をフィードフォワード演算し、転炉1、連続鋳造機2、加熱炉3、圧延機5、加速冷却装置6に指示値を与える。つまり本発明の一実施形態に係る製造仕様決定装置10は、金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得し、かかる1つ以上の実績データと予測モデルに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように所定工程後に係る製造仕様を最適化するものである。例えば、当該所定工程は、二次精錬工程であってもよく、少なくとも1つ以上の実績データは、転炉1による成分組成調整の実績データであってもよい。また例えば、材料特性は、金属材料の一様伸びを含んでもよい。一様伸びを含めることにより、外力に対して構造物の構造安全性を担保するための衝撃エネルギー吸収能の要求を満足させる場合等に製造仕様決定装置10を利用可能である。また例えば材料特性は、所望の厚鋼板規格を満たすように降伏応力、引張応力、靱性値、表面硬度、断面硬度の群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0019】
図2に、本発明の一実施形態に係る製造仕様決定装置10のブロック図を示す。製造仕様決定装置10は、厚鋼板の材料特性推定処理を行うことにより製造仕様を最適化する。製造仕様決定装置10は、装置本体200、入力部300、記憶部400、出力部500、および通信部600を含む。装置本体200は、入力部300、記憶部400、出力部500、および通信部600とバス205を介して通信することで必要な情報の送受信を行い、情報処理を行う。なお図2では、装置本体200と入力部300、記憶部400、出力部500、および通信部600とは、バス205を介した有線により接続されているが接続の態様はこれに限られず、無線により接続されていてもよく、あるいは有線と無線とを組み合わせた接続態様であってもよい。装置本体200の詳細の各構成については後述する。
【0020】
入力部300は、例えばキーボード、ペンタブレット、タッチパッド、マウス等、本システムの管理者の操作を検出可能な任意の入力インターフェースを含む。入力部300は、装置本体200への各種処理の指示に係る操作を受け付ける。
【0021】
記憶部400は、例えばハードディスクドライブ、半導体ドライブ、光学ディスクドライブ等であり、本システムにおいて必要な情報を記憶する装置である。例えば記憶部400は、過去に製造した厚鋼板に係る製造仕様の実績値(以下、「製造仕様実績」という。)を記憶する。また記憶部400は、製造仕様実績に対応する冷却後の厚鋼板の材料特性の実績値(以下、「材料特性実績」という。)を記憶する。
【0022】
出力部500は、例えば液晶ディスプレイおよび有機ELディスプレイ等、任意のディスプレイを含む。出力部500は、出力データおよび信号に基づく画面を表示可能である。
【0023】
通信部600は、転炉1、連続鋳造機2、加熱炉3、圧延機5、加速冷却装置6から送信された実績データを受信し、装置本体200に出力する。また通信部600は、装置本体200から出力された、最適化された製造仕様に係るデータを転炉1、連続鋳造機2、加熱炉3、圧延機5、加速冷却装置6に送信する。
【0024】
図2に示すように装置本体200は、演算処理部201と、ROM202と、RAM204とを備える。ROM202はプログラム203を記憶している。また演算処理部201と、ROM202と、RAM204とは、バス205によりそれぞれ接続されている。
【0025】
演算処理部201は、例えば汎用プロセッサ、および特定の処理に特化した専用プロセッサ等、1つ以上のプロセッサを含む。演算処理部201は、ROM202からプログラム203を読み込んで、一時記憶部であるRAM204を用いて特定の機能を実現する。演算処理部201は、装置本体200全体の動作を制御する。
【0026】
演算処理部201は、情報読取部206と、前処理部207と、予測モデル作成部208と、結果保存部209と、情報読取部210と、特性推定部211と、最適化処理部212と、表示・伝達部213とを備える。演算処理部201は、入力部300の操作に基づき予測モデル作成処理の指示を受けた場合は、情報読取部206と、前処理部207と、予測モデル作成部208と、結果保存部209とを機能させて、予測モデルを作成する。また演算処理部201は、入力部300の操作に基づき推定処理の指示を受けた場合は、情報読取部210と、特性推定部211と、最適化処理部212と、表示・伝達部213とを機能させて、製造仕様の最適化処理を実行する。ここで最適化処理部は最適化処理により解を探索する探索処理部とも称することとする。
【0027】
次に本発明の一実施形態に係る製造仕様決定装置10によって実行される情報処理について説明する。本システムでは厚鋼板の製造仕様を最適化するために、まず厚鋼板の材料特性および製造仕様を結びつける予測モデルを作成する。ここで本実施の形態では予測モデルとして、ニューラルネットワークモデルを作成するものとする。図3に、予測モデル作成処理に係るフローチャートを示す。演算処理部201は、入力部300の操作に基づき予測モデル作成処理の指示を受けた場合、図3に示すフローチャートに係る処理を実行する。
【0028】
予測モデル作成指示を受けた場合、演算処理部201の情報読取部206は、製造仕様実績を記憶部400から読み込む。また情報読取部206は、読み込んだ製造仕様実績に対応する材料特性実績を記憶部400から読み込む。具体的には情報読取部206は、圧延材のIDに基づき、厚鋼板にかかる各種情報を特定する(ステップS201)。
【0029】
次に前処理部207は、ステップS201で入力された製造仕様実績を、予測モデル作成処理用に加工する(ステップS202)。具体的には前処理部207は、製造仕様実績を0~1の間で正規化すると共に欠損データおよび異常データのノイズ除去を行う。
【0030】
続いて予測モデル作成部208は、予測モデルを作成する。具体的には予測モデル作成部208は、ニューラルネットワークモデルに用いられるハイパーパラメータを設定し(ステップS203)、かかるハイパーパラメータを用いたニューラルネットワークモデルによる学習を行う(ステップS204)。
【0031】
ハイパーパラメータの最適化を行うために、予測モデル作成部208は、まず学習用データ(数万程度の製造仕様実績)に対して、ハイパーパラメータの内のいくつかを段階的に変更したニューラルネットワークモデルを作成する。そして予測モデル作成部208は、検証用データに対する予測精度が最も高くなるようなハイパーパラメータを設定する。
【0032】
ハイパーパラメータは、隠れ層の数、各々の隠れ層におけるニューロン数、各々の隠れ層におけるドロップアウト率(ニューロンの伝達をある一定の確率で遮断する)、各々の隠れ層における活性化関数を含むが、これに限定されない。またハイパーパラメータの最適化手法は特に限定されず、パラメータを段階的に変更するグリッドサーチ、パラメータをランダムに選択するランダムサーチ、またはベイズ最適化による探索を用いてもよい。
【0033】
図4に、本システムにおけるニューラルネットワークモデルの処理フロー図を示す。本実施の形態に係るニューラルネットワークモデルは、入力側から順番に、入力層301と、中間層302と、出力層303とを含む。
【0034】
入力層301には、0~1の間で正規化された製造仕様実績が格納される。格納される製造仕様実績の説明変数は厚鋼板の材料特性に関わる変数が選択されることが望ましいが、その数および材料特性との相関の高さは任意である。
【0035】
中間層302は1つ以上の隠れ層を含み、各々の隠れ層には一定以上のニューロンが配置されている。中間層302内に構成される隠れ層の数は特に限定されないが、経験的に隠れ層が多すぎると予測精度が低下することから、隠れ層は10層以下であることが望ましい。また、隠れ層に配置されるニューロンの数は好ましくは入力される説明変数の1倍~20倍の範囲となることが好ましい。
【0036】
あるニューロンから続く隠れ層へのニューロンの伝達には重み係数による変数の重み付けとともに、活性化関数を介して行われる。活性化関数にはシグモイド関数、ハイパボリックタンジェント関数、またはランプ関数を用いてもよい。
【0037】
出力層303は中間層302より伝達されたニューロンの情報が結合され、最終的な材料特性の推定値として出力される。かかる処理により出力された推定値と、実測値である材料特性実績とに基づき、ニューラルネットワークモデル内の重み係数が徐々に最適化されることで学習が行われる。
【0038】
ニューラルネットワークモデルの重み係数が学習された後、予測モデル作成部208は、ステップS202で作成した評価用データをニューラルネットワークモデルに入力して、評価用データに対する推定結果を得る。
【0039】
続いて結果保存部209は、学習用データ、評価用データ、ニューラルネットワークモデルのパラメータ、並びに学習用データおよび評価用データに対するニューラルネットワークモデルの出力結果を、記憶部400に記憶させる。また結果保存部209は、学習用データ、評価用データ、ニューラルネットワークモデルのパラメータ、並びに学習用データおよび評価用データに対するニューラルネットワークモデルの出力結果を出力部500に伝達し、出力部500により表示させる(ステップS205)。出力部500は、例えば推定結果を表形式により出力する。
【0040】
演算処理部201は、入力部300の操作に基づき製造仕様の最適化処理の指示を受けた場合、製造仕様の最適化処理を実行する。なお演算処理部201が最適化処理を行うためのトリガーは入力部300の操作に限られない。例えば所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを通信部600が受信したことをトリガーに、最適化処理を行ってもよい。図5は、製造仕様の最適化処理を示すフローチャートである。
【0041】
はじめに情報読取部210は、推定の対象となる厚鋼板について、最適化処理前に予め定めた製造仕様、および所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを読み取る(ステップS601)。また、情報読取部210は、記憶部400に記憶されているニューラルネットワークモデルに係る各種データを取得する。
【0042】
次に特性推定部211は、ステップS601で読み取った製造仕様、所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データ、および予測モデルを用いて逆解析を実施し、製造仕様の最適化を行う。具体的には特性推定部211は、当該厚鋼板に係る圧延後の材料特性を推定する(ステップS602)。続いて、最適化処理部212は、予測モデルにより推定された当該厚鋼板に係る圧延後の材料特性の推定値と目標とする材料特性の値(所望の値)との比較を行う(ステップS603)。推定値と所望の値との差の絶対値が一定の閾値以上、またはある一定の収束回数に満たない場合、最適化処理部212は、ステップS601で読み取った製造仕様の一部を変更し、再度ステップS602にて予測モデルによる材料特性の推定を行う。最適化処理はこれらの処理を繰り返し、最適化される製造仕様を探索する。最適化の手法は特に限定されないが、例えば制約付きの最小二乗法等を用いることができる。
このように、所定工程後に確定した少なくとも1以上の実績データを用いて逆解析を再度実施し最適化することで、当初の製造仕様を再調整したより適切な製造仕様が得られることになる。
【0043】
上記製造仕様の変更は、後述する好適範囲内で変更されるが、加えてプロセス上の制約が考慮される。例えば、スラブ厚>製品厚、スラブ加熱温度>圧延入側鋼板温度>圧延中の鋼板温度>圧延仕上温度>冷却入側温度>冷却出側温度が挙げられるが、製造プロセス上矛盾しない制約条件であれば特に限定されない。
【0044】
推定値と所望の値との差の絶対値がある一定の閾値以内あるいは、ある一定の収束回数に達した場合は、ステップS603を抜け、最適化された製造仕様が出力部500により表示される(ステップS604)。最適化された製造仕様は通信部600を介して転炉1、連続鋳造機2、加熱炉3、圧延機5、加速冷却装置6のうち、上記の所定工程後のプロセスに対して伝送が行われる。そして最適化された製造仕様により、厚鋼板が製造される。
【0045】
次に、本発明の材料特性推定において製造仕様決定装置10から伝送される製造仕様について具体的に説明する。なお、以下の説明は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明は以下の説明によって何ら限定されるものではない。
【0046】
[成分組成]
本発明の厚鋼板の製造に用いる鋼素材は、例えば以下の成分組成を有する。
質量%で、
C:0.05~0.16%、
Si:0.10~0.50%、
Mn:0.80~2.50%、
P:0.05%以下、
S:0.02%以下、
Cu:1.0%以下、
Ni:2.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Mo:1.0%以下、
Nb:0.1%以下、
V:0.1%以下、
Ti:0.1%以下、
B:0.005%以下、
Ca:0.005%以下、および
W:0.05%以下。
【0047】
上記成分組成における各成分量の限定理由を以下に説明する。なお、以下の説明における「%」は、特に断らない限り「質量%」を表すものとする。
【0048】
・C:0.05~0.16%
Cは、基地相(マトリクス)の硬さを増加させ、強度を向上させる効果を有する元素である。前記効果を得るためには、C含有量を0.05%以上とすることが必要である。一方、C含有量が0.16%を超えると、基地相の硬度が過度に上昇し、伸びが劣化する。このため、C含有量は0.16%以下とする。好ましくは、C含有量は、0.07~0.15%である。
【0049】
・Si:0.10~0.50%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中に固溶して固溶強化により基地相の硬さを増加させる元素である。前記効果を得るためには、Si含有量を0.10%以上とする必要がある。一方、Si含有量が0.50%を超えると、基地相の硬度が過度に上昇し、延性、靭性が低下するとともに、局所変形に伴うボイドの発生起点となる介在物量が増加する。このため、Si含有量は0.50%以下とする。好ましくは、Si含有量は、0.20~0.40%である。
【0050】
・Mn:0.80~2.50%
Mnは、基地相の硬さを増加させ、強度を向上させる効果を有する元素である。前記効果を得るためには、Mn含有量を0.80%以上とする必要がある。一方、Mn含有量が2.50%を超えると、溶接性が低下することに加えて、基地相の硬度が過度に上昇する。このため、Mn含有量は、2.50%以下とする。好ましくは、Mn含有量は、1.00~2.30%である。
【0051】
・P:0.05%以下
Pは、不可避的不純物として鋼に含まれる元素である。Pは、粒界に偏析し、母材および溶接部の靱性を低下させるなど、悪影響を及ぼすため、できるだけ低減することが好ましいが、0.05%以下の含有は許容できる。このため、P含有量は0.05%以下とする。一方、P含有量の下限は限定されないが、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、P含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
【0052】
・S:0.02%以下
Sは、不可避的不純物として鋼に含まれる元素である。Sは、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在し、破壊の発生起点となるなど、悪影響を及ぼす元素であるため、できるだけ低減することが好ましいが、0.02%以下の含有は許容できる。このため、S含有量は0.02%以下とする。S含有量は0.01%以下とすることが好ましい。一方、S含有量の下限は限定されないが、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、S含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
【0053】
・Cu:1.0%以下
Cuは、基地相の硬さを増加させるとともに、鋼板の耐候性を向上させる効果を有する元素であり、所望の特性に応じて任意に添加することができる。しかし、Cu含有量が1.0%を超えると溶接性が損なわれ、鋼材製造時に疵が生じやすくなる。従って、Cuを添加する場合は、1.0%以下とする。より好ましくは、Cu含有量は、0.01~0.8%である。
【0054】
・Ni:2.0%以下
Niは、低温靭性および耐候性を向上させ、またCuを添加した場合の熱間脆性を改善する効果を有する元素であり、所望する特性に応じて任意に添加することができる。しかし、Ni含有量が2.0%を超えると溶接性が損なわれ、また、鋼材コストが上昇する。従って、Niを添加する場合は、2.0%以下とする。より好ましくは、Ni含有量は、0.01~1.5%である。
【0055】
・Cr:1.0%以下
Crは、基地相の硬さを増加させ、また耐候性を向上させる効果を有する元素であり、所望する特性に応じて任意に添加することができる。しかし、Cr含有量が1.0%を超えると溶接性と靭性が損なわれる。従って、Crを添加する場合は、1.0%以下とする。より好ましくは、Cr含有量は、0.01~0.8%である。
【0056】
・Mo:1.0%以下
Moは、基地相の硬さを増加させる効果を有する元素であり、所望する特性に応じて任意に添加することができる。しかし、Mo含有量が1.0%を超えると溶接性と靭性が損なわれる。従って、Moを添加する場合は、1.0%以下とする。より好ましくは、Mo含有量は、0.001~0.8%である。
【0057】
・Nb:0.1%以下
Nbは、熱間圧延時におけるオーステナイトの再結晶を抑制して細粒化するとともに、熱間圧延後の空冷過程において析出することで強度を上昇させる効果を有する元素であり、所望する特性に応じて任意に添加することができる。しかし、Nb含有量が0.1%を超えるとNbCが多量に析出し、靭性が損なわれる。従って、Nbを添加する場合は、0.1%以下とする。より好ましくは、0.001~0.08%である。
【0058】
・V:0.1%以下
Vは、Nbと同様、熱間圧延時におけるオーステナイトの再結晶を抑制して細粒化するとともに、熱間圧延後の空冷過程において析出することで強度を上昇させる効果を有する元素であり、所望する特性に応じて任意に添加することができる。しかし、V含有量が0.1%を超えるとVCが多量に析出し、靭性が損なわれる。従って、Vを添加する場合は、0.1%以下とする。より好ましくは、V含有量は、0.001~0.08%である。
【0059】
・Ti:0.1%以下
Tiは、窒化物形成傾向が強く、Nを固定して固溶Nを低減するため、母材および溶接部の靭性を向上させる効果を有する。また、Bを添加する場合には、Tiを合わせて添加することにより、TiがNを固定し、BがBNとして析出してしまうことを抑制できる。その結果、Bの焼入れ性向上効果を助長して、強度をさらに向上させることができる。そのため、所望する特性に応じて任意に添加することができる。しかし、Ti含有量が0.1%を超えるとTiCが多量に析出し、靭性が損なわれる。従って、Tiを添加する場合は、0.1%以下とする。より好ましくは、Ti含有量は、0.001~0.08%である。
【0060】
・B:0.005%以下
Bは、微量の添加でも焼入れ性を著しく向上させ、強度を上昇させる効果を有する元素であり、所望する特性に応じて添加することができる。しかし、B含有量が0.005%を超えるとその効果が飽和するだけでなく、溶接性を低下させる。従って、Bを添加する場合は、0.005%以下とする。より好ましくは、B含有量は、0.0001~0.004%である。
【0061】
・Ca:0.005%以下
Caは、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制して、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性向上に寄与するため、所望する特性に応じて添加することができる。しかし、Ca含有量が0.005%を超えるとその効果が飽和するだけでなく、鋼の清浄度が低下し、表面疵が多発し表面性状が低下する。従って、Caを添加する場合は、0.005%以下とする。より好ましくは、Ca含有量は、0.0001~0.004%である。
【0062】
・W:0.05%以下
Wは、基地相の硬さを増加させ、また耐候性を向上させるので、所望する特性に応じて添加することができる。しかし、W含有量が0.05%を超えると溶接性の劣化、あるいは合金コストの上昇を招く。従って、Wを添加する場合は、0.05%以下とする。より好ましくは、W含有量は、0.0001~0.03%である。
【0063】
本発明で圧延される厚鋼板の成分組成は、上記成分を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としてO(酸素)およびNが含有される場合は、O含有量を0.0050%以下に、またN含有量を0.0050%以下に抑制することが好ましい。すなわち、Oの含有量が0.0050%を超えると、鋼板表面での介在物の存在割合が大きくなるため、介在物を起点としたき裂が発生しやすくなり、伸びが低下する虞がある。同様に、Nの含有量が0.0050%を超えると、鋼板表面での介在物の存在割合が大きくなるため、介在物を起点としたき裂が発生しやすくなる虞がある。
【0064】
[板厚]
本実施形態における「鋼板」は、本技術分野における通常の定義に従い、厚さ6mm以上の鋼板を指すものとしているが、製造される鋼材の断面積および断面形状も特に限定されない。製造される鋼材として薄板を用いてもよいし、形鋼・棒・管形状としてもよい。
【0065】
[製造方法]
本発明の一実施形態においては、上述した成分組成を有する鋼素材に対し、下記の処理を順次施すことによって厚鋼板とする。
(1)転炉/製錬
(2)連続鋳造
(3)加熱
(4)熱間圧延
(5)冷却
【0066】
[転炉/製錬]
上述した組成は、鋳造を開始するまでの溶鋼段階で、常法を用いて調整することにより実施される。例えば、各合金元素は、転炉工程および/または二次精錬工程で溶鋼へ添加することによって、鋼中に含有させることができる。その際、純金属および/または合金を用いることができる。
【0067】
[連続鋳造]
上記転炉工程および/または二次精錬工程にて調整された溶鋼は垂直曲げ型または湾曲型連続鋳造機を用いて連続鋳造することにより、スラブへと成形される。その際、二次冷却設備の冷却条件および鋳造速度を変更することによって、所望の温度/形状のスラブが形成される。
【0068】
[加熱]
上記成分組成を有するスラブを、900~1200℃に加熱する。加熱温度が900℃未満であると、次の熱間圧延工程におけるスラブの変形抵抗が高くなり、熱間圧延機への負荷が増大し、熱間圧延が困難になる。そのため、加熱温度は900℃以上とする。加熱温度は950℃以上とすることが好ましい。一方、加熱温度が1200℃を超えると、鋼板の中間部の結晶粒が粗大化して靱性が低下するだけでなく、スラブ表面の酸化が著しくなり、地鉄-スケール界面の凹凸が鋭くなるため、製品後も表面の凹凸が残りやすくなる。このような表面の凹凸は、応力集中により延性破壊の発生起点となる虞がある。そのため、加熱温度は1200℃以下とする。好ましくは、1150℃以下とする。なお、連続鋳造などの方法によってスラブを製造した場合、当該スラブは、冷却することなく直接加熱工程に供してもよく、冷却したのちに加熱工程に供してもよい。また、加熱方法は特に限定されないが、例えば、常法に従い、加熱炉で加熱することができる。
【0069】
[熱間圧延]
次いで、加熱されたスラブを熱間圧延して厚鋼板とする。その際、製品鋼板の基本性能である靭性を確保するため、鋼板の中間部において、オーステナイト粒の微細化を通じてフェライト粒を微細化する必要がある。そこで、熱間圧延における累積圧下率を50%以上とする。すなわち、累積圧下率が50%未満の場合は、鋼板の中間部のフェライト粒が微細化せず、局所的に脆性が低い領域が発生し、脆性き裂が発生しやすくなる。熱間圧延工程に関する他の条件は特に限定されない。
【0070】
[冷却]
次に、熱間圧延終了後の厚鋼板を冷却する。前記冷却工程では、室温まで冷却することが好ましい。なお、前記冷却は、任意の方法、例えば、空冷または加速冷却により行うことができる。
【0071】
(実施例)
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
本実施形態に係るシステムにて、製品板厚が15mmで、かつ優れた一様伸びを示す厚鋼板の製造仕様の最適化を実施した。事前学習として、まず学習用データに対して、ニューラルネットワークモデルによる学習を実施し、製造仕様実績と材料特性実績とを結びつけた。
【0073】
製造仕様実績として、成分組成(C,Si,Mn,P,S,Ni,Cr,V,Ti,Nb)、スラブ寸法(厚・幅・長さ)、圧延寸法(厚・幅・長さ)、スラブ加熱温度、制御圧延時における圧下率、制御圧延温度、仕上げ圧延温度、圧延後の冷却速度情報が考慮された。材料特性実績として、冷却後厚鋼板の幅中央部から板幅方向が引張方向と一致するように採取したJIS Z 2201 1B号の全厚試験片を用いて引張試験を実施し、降伏応力(YS)および全厚伸びを求め、学習に供された。学習データ数は欠損データ等のノイズを除去した計470のサンプルを用いた。ニューラルネットワークに使用されるハイパーパラメータはガウス確率分布に基づくベイズ最適化により探索され、以下のように設定された。
・エポック数 (学習の繰り返し回数):813
・隠れ層におけるニューロン数:328
・Dropout比率(ニューロンの伝達を遮断する確率):0.3
・隠れ層の層数:8
・学習重み係数の最適化手法:Adam
【0074】
予測精度のグラフを図6に示す。学習精度の検証は交差検証法(cross validation)により行われた。モデル予測誤差はσ2.44%となった。目標の材料特性として、引張強さは440MPa以上を合格とした。伸び特性は30%を目標とした。
【0075】
本実施例では既に成分組成およびスラブサイズが確定された出鋼スラブに対して、ニューラルネットワークモデルによる材料特性の推定が行われ、推定される材料特性が目標の材料特性に漸近するように、続く加熱炉以降のプロセスについて必要な制御量を演算した。具体的には降伏応力および全厚伸びのそれぞれについて推定値と目標値の差を求め、両者の差の合計が最小値となるように逐次最小二乗法を用いて演算した。収束までの繰り返し回数は500回とした。演算によって求められた各説明変数は加熱炉3、圧延機5、加速冷却装置6に指示値として与えられた。
【0076】
比較例では製品板厚を同じく15mmとし、ニューラルネットワークモデルを用いずに好適範囲で製造した以外は実施例と同様にして圧延を行った。
【0077】
図7に実施例での説明変数上下限と逆解析によって得られた予測結果を示す。図7中、スラブ厚、スラブ幅、スラブ長さ、および成分組成(C,Si,Mn,P,S,Ni,Cr,V,Ti)が、製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データに相当する。当該実績データに基づき、他の製造仕様、すなわち圧延厚、圧延幅、圧延長、加熱炉温度、制御圧延時の圧下率、制御圧延温度、仕上げ圧延温度、冷却速度を最適化することで製造仕様を再調整した。最適化の結果、説明変数の上下限範囲内で最大化できる伸び特性は26.9%と推定された。図8に逆解析によって得られた最適化された製造仕様にて実際に製造を行った際の降伏応力(YS)と一様伸び(EL)との関係を示す。本実施例の方法を用いると、比較例よりも、降伏応力を維持しつつ、高い一様伸びの厚鋼板を得ることができた。
【0078】
上記実施例に示すように、本発明の一実施形態に係る製造仕様決定方法によれば、高い一様伸びを有する耐衝撃性に優れた鋼板の製造指針を精度よく予測し、目標の材料特性を有する厚鋼板を製造できるため、生産性の向上および鋼材開発スピードの向上に大いに寄与することができる。また、製造工程の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを用いて製造仕様を最適化するため、製造工程中に外乱が生じた場合でも、製造工程中の状況変化を考慮した製造仕様を得ることができる。換言すると、本発明の一実施形態に係る製造仕様決定方法によれば金属材料の製造時の外乱に対するロバスト性を高めることができる。また、本発明の一実施形態に係る製造仕様決定方法によれば、実験および実機での試作を繰り返し実施して試行錯誤することなく、目標の材料特性を有する厚鋼板を製造できるため、生産性の向上および鋼材開発スピードの向上に大いに寄与することができる。従って、本発明の一実施形態に係る製造仕様決定方法は、例えば、耐衝撃性に優れる鋼板、特に、船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクおよび建産機などの、構造上の安全性が強く求められる溶接構造物に好適に用いることができる。
【0079】
本発明を諸図面および実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形および修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形および修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段およびステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0080】
例えば、本発明は、上述した製造仕様決定装置10の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムまたはプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得る。本発明の範囲には、これらも包含されると理解されたい。
【0081】
例えば本実施の形態に係る製造仕様決定装置10において予測モデルを作成する例を示したが、これらを他の情報処理装置により実現してもよい。この場合、かかる情報処理装置が予測モデルを作成するために必要な製造仕様実績と材料特性実績を集約し、予測モデルを作成する。また、情報処理装置が、作成した数理モデルを製造仕様決定装置10に伝送する。
【0082】
また例えば本実施の形態に係る製造仕様決定装置10は、予測モデルを作成するアルゴリズムとしてニューラルネットワークを適用したが、これに限られず任意のアルゴリズムを適用可能である。例えば予測モデルを作成するアルゴリズムとして、局所回帰、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、またはランダムフォレスト等の統計手法および機械学習手法を適用することができる。換言すると予測モデルは、製造仕様と材料特性の実績データに基づき学習された深層学習モデル、または統計学習モデルを含む機械学習モデルであってよい。
【符号の説明】
【0083】
1 転炉
2 連続鋳造機
3 加熱炉
4 厚鋼板
5 圧延機
6 加速冷却装置
7 製品厚鋼板
10 製造仕様決定装置
200 装置本体
201 演算処理部
202 ROM
203 プログラム
204 RAM
205 バス
206 情報読取部
207 前処理部
208 予測モデル作成部
209 結果保存部
210 情報読取部
211 特性推定部
212 最適化処理部(探索処理部)
213 表示・伝達部
300 入力部
301 入力層
302 中間層
303 出力層
400 記憶部
500 出力部
600 通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8