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特許7197050耐火被覆鋼材の製造方法及び耐火被覆鋼材
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  • 特許-耐火被覆鋼材の製造方法及び耐火被覆鋼材 図1
  • 特許-耐火被覆鋼材の製造方法及び耐火被覆鋼材 図2
  • 特許-耐火被覆鋼材の製造方法及び耐火被覆鋼材 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】耐火被覆鋼材の製造方法及び耐火被覆鋼材
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/12 20060101AFI20221220BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B05D3/12 B
B05D1/36 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022151817
(22)【出願日】2022-09-22
【審査請求日】2022-09-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】横林 優
(72)【発明者】
【氏名】八戸 翔太朗
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-143287(JP,A)
【文献】特開2003-311210(JP,A)
【文献】特開平4-24346(JP,A)
【文献】特開2006-36969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00-21/00
B05D 1/00-7/26
C09D 1/00-201/10
E04B 1/62-1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面にショットブラスト処理によって凹凸部を形成するブラスト工程と、
前記凹凸部の上に、前記凹凸部の最大高さよりも膜厚が薄くなるように、カチオン電着塗装によって樹脂塗膜を形成する電着塗装工程と、
前記樹脂塗膜の上に耐火塗料を塗布する耐火塗料塗布工程と、
を備えることを特徴とする耐火被覆鋼材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された耐火被覆鋼材の製造方法において、
前記鋼材が冷間圧延鋼材であることを特徴とする耐火被覆鋼材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載された耐火被覆鋼材の製造方法において、
前記電着塗装工程によって形成される樹脂塗膜の平均厚さを、前記ブラスト工程によって形成される前記凹凸部の最大高さの30~50%とする
ことを特徴とする耐火被覆鋼材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された耐火被覆鋼材の製造方法において、
前記ブラスト工程では、前記鋼材の表面に粒径1.2~1.4mmの鋼球を投射して、最大高さ40~60μmRzの前記凹凸部を形成し、
前記電着塗装工程では、前記凹凸部の上に厚さ15~30μmの樹脂塗膜を形成し、
前記耐火塗料塗布工程では、少なくとも前記電着塗装後の前記樹脂塗膜の表面に残った残存凹凸部が埋まる厚さに前記耐火塗料を塗布する
ことを特徴とする耐火被覆鋼材の製造方法。
【請求項5】
鋼材の表面にショットブラスト処理によって形成された凹凸部と、
前記凹凸部の上にカチオン電着塗装によって形成された、前記凹凸部の最大高さよりも膜厚の小さい樹脂塗膜と、
前記樹脂塗の上に塗布された耐火塗料の塗膜と、
を備えることを特徴とする耐火被覆鋼材。
【請求項6】
請求項5に記載された耐火被覆鋼材において、
前記鋼材は冷間圧延鋼材からなり、
前記耐火塗料は、少なくとも前記電着塗装後の樹脂塗膜の表面に残った残存凹凸部が埋まる厚さに塗布された
ことを特徴とする耐火被覆鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、鉄骨造建築物に使用される耐火被覆鋼材の製造方法と、該製造方法によって製造される耐火被覆鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造建築物において、躯体を構成する鋼材の表面に発泡剤を含有させた耐火塗料を塗布し、その耐火塗料を火災時に発泡させて断熱層を形成する耐火被覆工法が公知である。その耐火塗料は、火災時に塗膜温度が250~300℃になるとポリ燐酸アンモニウム等の発泡成分が分解して炭化層を形成し、アクリル系、ポリウレタン系、酢酸ビニル系等の樹脂成分が溶融して二酸化炭素、アンモニア、水蒸気等のガスを発生させることにより炭化層を膨らませて、元の塗膜の20~50倍程度の厚さの断熱層を形成する。かかる耐火塗料は通常、建築物の施工現場において、組み上げられた鋼材の表面にスプレー、ローラー、刷毛等を用いて塗布される。
【0003】
耐火塗料が塗布される鋼材は、主として建築構造用圧延鋼材または一般構造用圧延鋼材である。それらの圧延鋼材には熱間圧延鋼材と冷間圧延鋼材の2種類があるが、工業化住宅等の躯体には冷間圧延による形鋼や鋼管が多用されており、その使用量は熱間圧延鋼材を大きく上回っている。
【0004】
熱間圧延鋼材は、圧延工程により表面に酸化皮膜(黒皮)が形成されて、その酸化被膜が防錆効果を発揮する。しかし、熱間圧延鋼材を常温下で再圧延して得られる冷間圧延鋼は、酸化皮膜のない平滑な表面に仕上がる。そのままでは錆びやすいので、建築用の冷間圧延鋼材にはカチオン電着塗装を施すなどして表面に樹脂塗膜を形成することが行われている。
【0005】
冷間圧延鋼材の平滑な表面に対してカチオン電着塗装の樹脂塗膜は良好に付着するが、その電着塗装面に対する耐火塗料の付着性は低い。そこで、耐火塗料の付着性を高めるために、電着塗装面の下地処理が必要になる。一般的な塗装工事では、塗料の付着性を高めるために下地面を目荒らしすることがあるが、電着塗装によって建築用鋼材の表面に形成される樹脂塗膜の厚さは15~20μmと極めて薄いので、目荒らしによって樹脂塗膜が広範囲に剥がれると防錆性能が失われてしまう。そのため従来は、耐火塗料の下地処理として電着塗装面に、二液性変性エポキシ樹脂や一液速乾エポキシシーラー等の下塗材をスプレー、ローラー、刷毛等で塗布することが多い。
【0006】
特許文献1には、耐火塗料を塗布するための下塗材として、水硬性セメント、合成樹脂エマルション、繊維剤及び/または中空状フィラーからなる水性防食プライマーを使用することが開示されている。また、特許文献2には、キレート変性エポキシ樹脂、ケチミン化合物、アニオン交換型化合物、有機溶剤等を含有する防錆性下塗材を使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-212472号公報
【文献】特開2006-36969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
建築用鋼材は通常、工場で所望の寸法に切断され、孔あけや溶接等の加工が行われてから施工現場に搬入される。そして多くの場合、鋼材に耐火塗料を塗布する作業は施工現場で鋼材を組み上げてから行われる。したがって施工現場では、下塗材の塗布と、それに続く耐火塗料の塗布を、いずれも人力作業で行うことになる。スプレーや刷毛塗り等による塗装作業を施工現場で二度にわたって行うのは、建築工事の施工効率を著しく低下させる要因になっている。
【0009】
本願が開示する発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、鉄骨造建築物に使用される冷間圧延鋼材に対して下塗材の塗布を省いても耐火塗料の付着性を好適に確保し得る耐火被覆鋼材の製造方法と、該製造方法によって製造される耐火被覆鋼材を提供することにより、建築工事の施工効率を大きく改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願が開示する発明に係る耐火被覆鋼材の製造方法は、鋼材の表面にショットブラスト処理によって凹凸部を形成するブラスト工程と、前記凹凸部の上に、前記凹凸部の最大高さよりも膜厚が薄くなるように、カチオン電着塗装によって樹脂塗膜を形成する電着塗装工程と、前記樹脂塗膜の上に耐火塗料を塗布する耐火塗料塗布工程と、を備えるものとして特徴付けられる。
【0011】
さらに、前記鋼材が冷間圧延鋼材である、ものとして特徴付けられる。
【0012】
前記耐火被覆鋼材の製造方法では、前記電着塗装工程によって形成される樹脂塗膜の平均厚さを、前記ブラスト工程によって形成される前記凹凸部の最大高さの30~50%とすると好ましい。
【0013】
また、前記ブラスト工程では、前記鋼材の表面に粒径1.2~1.4mmの鋼球を投射して、最大高さ40~60μmRzの前記凹凸部を形成し、前記電着塗装工程では、前記凹凸部の上に厚さ15~30μmの樹脂塗膜を形成し、前記耐火塗料塗布工程では、少なくとも前記電着塗装後の前記樹脂塗膜の表面に残った残存凹凸部が埋まる厚さに前記耐火塗料を塗布すると、より好ましい。
【0014】
また、本願が開示する発明に係る耐火被覆鋼材は、鋼材の表面にショットブラスト処理によって形成された凹凸部と、前記凹凸部の上にカチオン電着塗装によって形成された、前記凹凸部の最大高さよりも膜厚の小さい樹脂塗膜と、前記樹脂塗の上に塗布された耐火塗料の塗膜と、を備えるものとして特徴付けられる。
【0015】
さらに、前記鋼材が冷間圧延鋼材からなり、前記耐火塗料は、少なくとも前記電着塗装後の樹脂塗膜の表面に残った残存凹凸部が埋まる厚さに塗布された、ものとして特徴付けられる。
【発明の効果】
【0016】
前述のように構成される耐火被覆鋼材の製造方法によれば、従来、建築用鋼材の電着塗装面に対して主に施工現場で行われていた二液性変性エポキシ樹脂、一液速乾エポキシシーラーその他の下塗り作業を省いて、電着塗装面の上に直接、耐火塗料を塗布することが可能になる。これにより、耐火被覆工法の施工性を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願が開示する耐火被覆鋼材の製造方法が施された塗装面の断面略図である。
図2】本願が開示する耐火被覆鋼材の製造方法の効果を確認するためのプルオフ試験に用いた引張試験装置の概略図である。
図3】前記プルオフ試験の試験結果を示す比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願が開示する耐火被覆鋼材の製造方法は、鉄骨造建築物に使用される形鋼、鋼管、棒材等の冷間圧延鋼材に適用されるものである。なお、この発明における「冷間圧延」には、熱間圧延との中間的な温度領域で行われる「温間圧延」も包含される。
【0019】
この発明に係る耐火被覆鋼材の製造方法は、冷間圧延加工によって製造された鋼材の表面にショットブラスト処理によって凹凸部を形成する「ブラスト工程」と、その凹凸部の上にカチオン電着塗装によって樹脂塗膜を形成する「電着塗装工程」と、前記2段階の工程によって形成された下地面上に耐火塗料を塗布する「耐火塗料塗布工程」と、を含んで構成される。基本的には、ブラスト工程及び電着塗装工程は鋼材の加工工場等で行い、加工後の鋼材を施工現場に搬入して組み上げた後、その施工現場で耐火塗料塗布工程を行うことを想定しているが、加工工場で耐火塗料塗布工程まで行うことも可能である。
【0020】
冷間圧延加工によって製造された鋼材の表面には通常、防錆油を塗布するなど適宜の下処理が施されており、その状態から鋼材が所望の寸法に切断され、孔あけや溶接等の加工が行われる。この耐火被覆鋼材の製造方法におけるブラスト工程は、それら切断、孔あけ、溶接等の加工が行われた鋼材に対して行われる。したがって、圧延加工後の鋼材に施されている下処理の種類や、鋼材表面の発錆状態等は、この発明においては特に問題にならない。
【0021】
ブラスト工程は、羽根車(インペラー)を高速回転させて、その遠心力により金属製の投射材(研磨材、研削材)を投射する、一般的なショットブラスト処理と同様の設備及び方法を用いて実施することができる。この処理方法は、比較的広範囲に大量の投射材を投射できるため、サイズの大きい建築用鋼材等の連続処理には好適である。このブラスト工程により、鋼材表面の錆や付着物が除去されるとともに、鋼材の表面近傍に残留圧縮応力が付与されて、疲労強度、耐摩耗性、耐応力腐食割れ性が向上する。
【0022】
そして、この発明が採用するブラスト工程では、鋼材の表面に粒径1.2~1.4mmの鋼球を投射して、鋼材の表面に最大高さ40~60μmRz程度の凹凸部を形成する。投射材を投射する速度、角度、時間等をこのように調整することで、後述の優れた効果を得ることができる。
【0023】
ブラスト工程に続いて行う電着塗装工程は、エポキシ樹脂系の水溶性塗料を溶かした槽内に加工後の鋼材を浸漬させ、直流電力をかけて樹脂塗膜を析出させる、一般的なカチオン電着塗装と同様の設備及び方法を用いて実施することができる。この処理方法も、ワークの形状や大きさを問わずに均一で厚い塗膜を隙間なく形成することができ、塗膜の防錆性や防食性にも優れるので、サイズの大きい建築用鋼材の連続的な処理にも好適である。
【0024】
この発明が採用する電着塗装工程では、ブラスト工程で形成された凹凸部の上に、厚さ15~30μmの樹脂塗膜を形成する。つまり、電着塗装工程によって形成される樹脂塗膜の平均厚さを、ブラスト工程によって形成された凹凸部の最大高さよりも小さくなるように調整する。目安としては、電着塗装工程による樹脂塗膜の平均厚さを、ブラスト工程による凹凸部の最大高さの30~50%とするのが好ましい。電着塗装工程における塗装条件をこのように設定すれば、ブラスト工程で形成された鋼材表面の凹凸部が半分程度しか埋まらないので、電着塗装後の樹脂塗膜の表面には最大高さ20~30μm程度の凹凸部が残って、梨地状の仕上がりになる。以下、樹脂塗膜の表面に残った凹凸部を「残存凹凸部」と呼ぶ。
【0025】
耐火塗料塗布工程は、ブラスト工程及び電着塗装工程による下地処理が施された鋼材を施工現場に搬入して組み上げた後、施工現場で行うことを想定している。ただし、加工工場等で耐火塗料塗布工程まで連続して行うことができる場合もある。その場合は、耐火塗料が塗布された鋼材を施工現場に搬入して組み上げた後、施工現場での接合作業等によって耐火塗料が剥離した箇所にのみ、手作業で追加的に耐火塗料を塗布し直す、といった施工方法を採ることができる。
【0026】
電着塗装後の樹脂塗膜の上に塗布する耐火塗料の膜厚は、例えば1~8mm程度を目安とするが、少なくとも樹脂塗膜の表面に残った残存凹凸部が完全に埋まる厚さであれば特に制限はない。耐火塗料の主材はアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などであり、この耐火塗料による塗膜は鋼材の防錆性能をさらに高める作用をなす。
【0027】
以上に述べた耐火被覆鋼材の製造方法によれば、図1に示すように、ブラスト工程で鋼材1の表面に形成される凹凸部11の最大高さRに対し、その上に電着塗装工程で形成される樹脂塗膜2の厚さTが相対的に小さいので、樹脂塗膜2の表面に梨地状の残存凹凸部21が残り、その残存凹凸部21が、その上に塗布される耐火塗料3の付着性を向上させる作用をなす。ブラスト工程で形成する凹凸部11の最大高さRを40μmRz未満にすると、電着塗装後の樹脂塗膜2の表面に残る残存凹凸部21の最大高さが小さくなって、耐火塗料3の付着性が十分に得られない。一方、ブラスト工程で形成する凹凸部11の最大高さRが60μmRzを超えると、凸部の頂上部分では電着塗装時に連続した樹脂塗膜2が形成されにくくなって、耐火塗料3の付着性や防錆性が低下してしまう。これらを踏まえて、この発明では、ブラスト工程で形成される凹凸部11の最大高さRが40~60μmRz、電着塗装工程で形成される樹脂塗膜2の厚さTが15~30μm、さらに好ましくは、電着塗装工程で形成される樹脂塗膜2の平均厚さがブラスト工程で形成される凹凸部11の最大高さRの30~50%、となるように、各工程の処理条件を設定することを推奨する。
【実施例
【0028】
この発明が採用する耐火被覆鋼材の製造方法の効果を確認するため、電着塗装面に耐火塗料を塗布した以下3種類の試験体1~3について、プルオフ試験による対比検証を行った。そのプルオフ試験に用いた引張試験装置の概略を図2に、試験結果を図3に、それぞれ示す。
【0029】
試験体には、冷間圧延加工された75×75×3.2mmの角形鋼管10を使用した。カチオン電着塗装による樹脂塗膜2の厚さはいずれも15~20μmに設定し、耐火塗料3の塗膜の厚さは4mmとした。塗布した耐火塗料3の硬化後に、図2に示すような引張試験装置9を耐火塗料3の塗膜の表面に接着して、耐火塗料3の塗膜を強制的に引き剥がした。その結果を図3に示す。
【0030】
[試験体1]ブラスト処理を行っていない平滑な表面の角形鋼管10にカチオン電着塗装を行い、その樹脂塗膜2上に直接、耐火塗料3を塗布したもの。
[試験体2]ブラスト処理を行っていない平滑な表面の角形鋼管10にカチオン電着塗装を行い、その樹脂塗膜2上に二液性変性エポキシ樹脂塗装による下塗り(図示せず)を行った後、耐火塗料3を塗布したもの。背景技術欄に記載した従来一般の下地処理方法に相当。
[試験体3]ブラスト処理を行って表面に最大高さ40~60μmRzの凹凸部を形成した角形鋼管10にカチオン電着塗装を行い、その樹脂塗膜2の上に直接、耐火塗料3を塗布したもの。この発明の実施例に相当。
【0031】
図2の比較表に貼付した画像において、円形にくり抜かれた孔部が引張試験装置9によって引き剥がされた部分であり、その孔部内の白い部分は電着塗装面に残留した耐火塗料3の塗膜、黒い部分は耐火塗料3が失われて露出した電着塗装面の樹脂塗膜2である。
【0032】
この比較表から把握されるように、ブラスト処理を行なっていない平滑な表面に電着塗装を行った試験体1では、耐火塗料3の大部分が電着塗装面から剥離してしまったが、ブラスト処理を行なってから電着塗装を行った試験体3では、従来一般の下地処理を行った試験体2とほぼ同程度に耐火塗料3が残存した。また、試験体3では、ブラスト処理によって凹凸部を形成したことによる電着塗装面の剥離も認められなかった。この試験により、ブラスト処理と電着塗装との組み合わせ効果が確認された。
【0033】
このように、本願が開示する耐火被覆鋼材の製造方法は、建築用鋼材に対して工場で連続的に行うことのできるブラスト工程と電着塗装工程とを組み合わせることで、電着塗装面に対する耐火塗料の付着性を確保したものである。工場の設備環境等によっては、ブラスト工程、電着塗装工程に続いて耐火塗料塗布工程までを連続的に行うこともできる。この製造方法を採用すれば、耐火塗料の下塗材を塗布する工程を省いて、電着塗装面に直接、耐火塗料を塗布することが可能になるので、耐火被覆工法にかかる施工性を大幅に改善することができる。また、この製造方法は、ブラスト処理が施されている熱間圧延鋼材に対しても、ブラスト工程後に電着塗装工程を追加するだけで、耐火塗料の付着性を確保することができる。
【0034】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の詳細な種類、形状、質、数値条件等を、例示形態と実質的に同等程度以上の作用効果が得られる範囲内で、適宜、改変することができる。
【0035】
本明細書に開示した実施形態その他の事項は、以下の付記に示す技術的思想として把握することもできる。
(付記1)
鋼材の表面にショットブラスト処理によって凹凸部を形成するブラスト工程と、
前記凹凸部の上に、前記凹凸部の最大高さよりも膜厚が薄くなるように、カチオン電着塗装によって樹脂塗膜を形成する電着塗装工程と、
前記樹脂塗膜の上に耐火塗料を塗布する耐火塗料塗布工程と、
を備えることを特徴とする耐火被覆鋼材の製造方法。
(付記2)
付記1に記載された耐火被覆鋼材の製造方法において、
前記鋼材が冷間圧延鋼材であることを特徴とする耐火被覆鋼材の製造方法。
(付記3)
付記2に記載された耐火被覆鋼材の製造方法において、
前記電着塗装工程によって形成される樹脂塗膜の平均厚さを、前記ブラスト工程によって形成される前記凹凸部の最大高さの30~50%とする
ことを特徴とする耐火被覆鋼材の製造方法。
(付記4)
付記3に記載された耐火被覆鋼材の製造方法において、
前記ブラスト工程では、前記鋼材の表面に粒径1.2~1.4mmの鋼球を投射して、最大高さ40~60μmRzの前記凹凸部を形成し、
前記電着塗装工程では、前記凹凸部の上に厚さ15~30μmの樹脂塗膜を形成し、
前記耐火塗料塗布工程では、少なくとも前記電着塗装後の前記樹脂塗膜の表面に残った残存凹凸部が埋まる厚さに前記耐火塗料を塗布する
ことを特徴とする耐火被覆鋼材の製造方法。
(付記5)
鋼材の表面にショットブラスト処理によって形成された凹凸部と、
前記凹凸部の上にカチオン電着塗装によって形成された、前記凹凸部の最大高さよりも膜厚の小さい樹脂塗膜と、
前記樹脂塗の上に塗布された耐火塗料の塗膜と、
を備えることを特徴とする耐火被覆鋼材。
(付記6)
付記5に記載された耐火被覆鋼材において、
前記鋼材は冷間圧延鋼材からなり、
前記耐火塗料は、少なくとも前記電着塗装後の樹脂塗膜の表面に残った残存凹凸部が埋まる厚さに塗布された
ことを特徴とする耐火被覆鋼材。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本願が開示する発明は、鉄骨造建築物の耐火被覆工法に使用される鋼材の製造方法として利用することができるほか、その他の様々な金属材料に対する様々な塗料の塗装下地処理方法としても利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 鋼材
11 凹凸部
2 樹脂塗膜
21 残存凹凸部
3 耐火塗料
【要約】
【課題】鉄骨造建築物の耐火被覆工法に使用される冷間圧延鋼材に対して、下塗材の塗布を省いても耐火塗料の付着性を好適に確保し得る耐火被覆鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼材1の表面にショットブラスト処理によって凹凸部を形成するブラスト工程と、鋼材に形成された凹凸部の上にカチオン電着塗装によって梨地状の樹脂塗膜2を形成する電着塗装工程と、を行った後、樹脂塗膜2の上に耐火塗料3を塗布する。ブラスト工程で鋼材1の表面に形成される凹凸部の最大高さRに対し、その上に電着塗装工程で形成される樹脂塗膜2の厚さが相対的に小さいので、樹脂塗膜2の表面にも梨地状の残存凹凸部が残り、その残存凹凸部が、その上に塗布される耐火塗料3の付着性を向上させる。
【選択図】図1
図1
図2
図3