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特許7197056ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、成形品および成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、成形品および成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20221220BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20221220BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20221220BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L77/00
C08L15/00
C08K5/09
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022520732
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014331
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021054868
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021176307
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山中 悠司
(72)【発明者】
【氏名】鎗水 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】東原 武志
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊輔
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-056007(JP,A)
【文献】特開2019-108537(JP,A)
【文献】特開2008-087168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(X)カルボン酸およびカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種の分子量1000以下の化合物を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計配合量を100質量%としたとき、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の配合量が50質量%以上、60質量%以下であって、前記(B)アミノ基含有樹脂がポリアミド樹脂およびアミノ基含有ジエン系共重合体から選ばれた樹脂であって、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(X)カルボン酸およびカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種の分子量1000以下の化合物が、(X)テトラカルボン酸およびテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)アミノ基含有樹脂が、ポリアミド樹脂である請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記分散相において、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相内に(B)ポリアミド樹脂が二次分散相を形成する請求項3に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)アミノ基含有樹脂が、アミノ基含有ジエン系共重合体である請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記分散相が、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(B)アミノ基含有ジエン系共重合体の共連続構造からなる分散相である請求項5に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形して得たISO(1A)ダンベル試験片を、ISO178(2010)に従い測定した曲げ弾性率が1.0MPa以上、1500MPa以下である請求項1~6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項8】
下記式で定義される滞留増粘率が-30%以上、60%以下である請求項1~7のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物;
滞留増粘率(%) = ((V30-V5)/V5) ×100(%)
ここで、V5およびV30は、それぞれキャピラリーレオメーターを用いて温度300℃で5分および30分滞留させた後、温度300℃せん断速度122/sの条件で求めたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度(pa・s)を表す。
【請求項9】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、自動車用冷却水に触れる配管用のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である請求項1~8のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項11】
前記成形品が中空成形品である請求項10に記載の成形品。
【請求項12】
前記中空成形品が自動車用冷却水に触れる配管である請求項11に記載の成形品。
【請求項13】
請求項1~9のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を押出成形する、成形品の製造方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をブロー成形する、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、それを用いた成形品、および成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品としてエンジンルーム内のダクト、チューブ等の配管類を樹脂化し、軽量化による燃費向上を図る方法が普及している。そのような配管類の材料としては、現在、主としてポリアミド系材料が使用されている。しかし、近年は、エンジンルーム内の小スペース化やレイアウト最適化の観点から、配管類には従来以上の組付性や振動吸収性が求められている。このような要求を満たすためには、成形品設計の自由度が高いブロー成形や押出成形などの成形方法と、高柔軟な樹脂などの材料とを組み合わせて配管類を設計することが重要となる。加えて配管類と熱源の距離が近づくことにより、外部環境温度が高くなる傾向がある。
【0003】
このような背景の下、自動車の配管類に用いられる樹脂にはこれまで以上の耐熱性や耐薬品性に加えて、高柔軟性ならびにブロー成形性または押出成形性を満足することが求められる。
【0004】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気絶縁性、耐湿熱性など、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、電気・電子部品、通信機器部品、自動車部品などに幅広く利用されている。一方で、PPS樹脂を上記コンセプトに基づいて配管類に適用するためには、柔軟性および靱性と、ブロー成形性または押出成形性に劣る課題がある。
【0005】
このため、PPSをバリア層として内層に配し、柔軟なポリアミドを外層に配する多層設計により柔軟性と耐薬品性を両立したチューブ成形品が検討されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、本設計では内部を通る液体や気体に対しての耐久性は得られるものの、外部環境温度が高くなると外層のポリアミドが劣化してしまうため全ての要求を満たした設計ではない。
【0006】
上記要求特性を単一の材料で満たす材料が求められており、PPS、ポリアミド、エポキシ基含有エラストマーからなり、ポリアミドとエポキシ基含有エラストマーを適切に反応させることで、PPS樹脂を連続相としながら柔軟性を付与した樹脂組成物が検討されている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第1998/21030号
【文献】国際公開第2018/3700号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載された樹脂組成物は、材料特性に優れるものの、しばしば滞留増粘や顕著な高粘度化が生じ、成形時のプロセスウィンドウに制約が生じる場合があった。
【0009】
本発明は、柔軟で高い靱性を発現しながら、耐熱老化性および耐薬品性が飛躍的に向上し、かつ成形性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、成形時における樹脂組成物の滞留増粘の原因が樹脂組成物内に残存したエポキシ基であることを突き止め(X)カルボン酸および酸二無水物から選択される少なくとも1種の分子量1000以下の化合物が、アミノ基含有樹脂とエポキシ基含有エラストマーの適切な反応性を維持したままエポキシ基に作用し、滞留増粘を抑制することで優れたレオロジー特性および成形加工性が得られることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
1.(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(X)カルボン酸およびカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種の分子量1000以下の化合物を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計配合量を100質量%としたとき、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の配合量が20質量%以上、60質量%以下であって、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
2.前記(X)カルボン酸およびカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種の分子量1000以下の化合物が、(X)テトラカルボン酸およびテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種の化合物である1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
3.前記(B)アミノ基含有樹脂が、ポリアミド樹脂である1または2項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
4.前記分散相において、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相内に(B)ポリアミド樹脂が二次分散相を形成する3項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
5.前記(B)アミノ基含有樹脂が、アミノ基含有ジエン系共重合体である1または2項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
6.前記分散相が、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(B)アミノ基含有ジエン系共重合体の共連続構造からなる分散相である5項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
7.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形して得たISO(1A)ダンベル試験片を、ISO178(2010)に従い測定した曲げ弾性率が1.0MPa以上、1500MPa以下である1~6項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
8.下記式で定義される滞留増粘率が-30%以上、60%以下である1~7項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
滞留増粘率(%) = ((V30-V5)/V5) ×100(%)
ここで、V5およびV30は、それぞれキャピラリーレオメーターを用いて温度300℃で5分および30分滞留させた後、温度300℃せん断速度122/sの条件で求めたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度(pa・s)を表す。
9.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、自動車用冷却水に触れる配管用のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である1~8項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
10.1~9項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
11.前記成形品が中空成形品である10項に記載の成形品。
12.前記中空成形品が自動車用冷却水に触れる配管である11項に記載の成形品。
13.1~9項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を押出成形する、成形品の製造方法。
14.1~9項のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をブロー成形する、成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弾性率が低く柔軟で高い靱性を発現しながら、耐熱老化性および耐薬品性が飛躍的に向上し、かつ成形性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる。これらの樹脂組成物からなる成形品は、はめ合わせて使用もしくは折り曲げて使用するチューブ・ホース類、とりわけ高温かつ振動下で使用される自動車エンジン周りのダクト、ホース等の成形品に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いられる(A)PPS樹脂とは、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【0015】
【化1】
【0016】
(A)PPS樹脂は、耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、さらには90モル%以上含む重合体が好ましい。また(A)PPS樹脂は、その繰り返し単位の30モル%以下が、下記式で表される繰り返し単位の内の少なくとも1種で構成されていてもよい。
【0017】
【化2】
【0018】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れた靱性を得る観点から、溶融粘度は高い方が好ましい。例えば、溶融粘度が30Pa・sを超えることが好ましく、50Pa・s以上がより好ましく、100Pa・s以上がさらに好ましい。溶融粘度の上限については溶融流動性保持の点から600Pa・s以下であることが好ましい。
【0019】
なお、本発明における(A)PPS樹脂の溶融粘度は、試験温度300℃、滞留時間5分、剪断速度1216/sの条件下、キャピラリーレオメーター(例えば、東洋精機製キャピログラフ(登録商標))を用いて測定した値である。
【0020】
また、(A)PPS樹脂は、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応を制御し、優れた溶融樹脂の靱性を得るために、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むことが好ましい。(A)PPS樹脂中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量は、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応を抑制する観点から、100ppm以上が好ましく、200ppmがより好ましい。含有量の上限としては、優れた相構造を得る観点から3000ppm以下が好ましく、2000ppm以下がより好ましい。
【0021】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の(A)PPS樹脂の配合量は、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計配合量を100質量%としたとき、20質量%以上60質量%以下であることが必要である。配合量が20質量%未満の場合は(A)PPSを連続相とすることが難しい。耐熱性や耐薬品性を得る観点から、配合量は25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより特に好ましい。また、配合量の上限値としては50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。配合量が60質量%を超えると、PPS樹脂に由来する剛性の寄与が大きくなり、柔軟性が低下してしまう。
【0022】
(A)PPS樹脂を製造する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、特許文献2(国際公開第2018/003700号)に記載の有機極性溶媒中でポリハロゲン化芳香族化合物とスルフィド化剤で脱塩重縮合する方法や、ジヨードベンゼンと硫黄を用いて溶融条件下で合成する方法などが挙げられる。
【0023】
本発明に用いる(B)アミノ基含有樹脂とは、アミノ基を含有する重合体である。アミノ基は、重合体を構成する繰り返し単位に含まれても良いし、重合体末端に含まれても良い。アミノ基含有樹脂の具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルイミドシロキサン共重合体、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの2種以上を併用しても良い。これらの中でも、柔軟性の観点から、ポリアミド樹脂またはポリエーテルイミドシロキサン共重合体がより好ましく、(A)ポリフェニレンスルフィドとの相溶性や、コスト面の観点から、ポリアミド樹脂が特に好ましい。
【0024】
ポリアミド樹脂(以下、PA樹脂と略すことがある)とは、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸とを主たる構成単位とする重合体である。
【0025】
ポリアミドの構成単位の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸;ε-アミノカプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム;テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、2-メチルペンタメチレンジアミンなどのジアミン;およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ダイマー酸などのジカルボン酸が挙げられる。
【0026】
本発明において、好ましいポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。
【0027】
中でもより柔軟性を得る観点から、アミド基1個当たりの炭素数が10~16の範囲である構成単位からなるポリアミド樹脂が好適である。かかるポリアミド樹脂としては、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)などが例示できる。
【0028】
ポリアミド樹脂の重合度には特に制限はないが、98%濃硫酸溶液(ポリマー1g、濃硫酸100ml)、25℃で測定した相対粘度が、1.5~7.0の範囲が好ましく、2.0~6.5の範囲がより好ましく、2.5~5.5の範囲がさらに好ましい。
【0029】
また、(B)アミノ基含有樹脂として、アミノ基を含有する熱可塑性エラストマーを用いることもできる。熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリオレフィン系共重合体、ジエン系共重合体、ポリウレタン系共重合体、ポリアミド系共重合体、ポリエステル系共重合体などが挙げられる。アミノ基は、熱可塑性エラストマーを構成する繰り返し単位に含まれても良いし、重合体末端に含まれても良い。(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応性や相溶性の観点からアミノ基含有ジエン系共重合体が好ましい。
【0030】
ここで、ジエン系共重合体とは、1対の共役二重結合を有する共役ジエン化合物を主たる構成単位とする共役ジエン系重合体である。共役ジエン化合物の代表例としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1-3ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、入手性および生産性の観点から、好ましくは1,3-ブタジエンおよびイソプレンが挙げられる。ジエン系共重合体は、1種の共役ジエン化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の共役ジエン化合物単位を含んでもよい。ここで、共役ジエン化合物単位とは、モノマーである共役ジエン化合物に由来する構成単位を表す。本発明におけるジエン系共重合体としては、共役ジエン単位の一部もしくはすべてが水添された重合体も含まれるものとする。すなわち、共役ジエン化合物に由来する構造単位が水添された構造を含む重合体もジエン系共重合体に含む。(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応性や相溶性の観点から、少なくとも一部に共役二重結合を有する重合体が好ましい。
【0031】
また、アミノ基含有ジエン系共重合体は、共役ジエン化合物単位以外の構成単位を含んでも良い。アミノ基含有ジエン系共重合体は、(a)ビニル芳香族重合体ブロック、(b)共役ジエン重合体ブロック、および(c)共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロックからなる群より選ばれる2種以上の重合体ブロックを有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0032】
前記(a)ビニル芳香族重合体ブロックを構成するビニル芳香族化合物としては、限定されるものではないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等のビニル芳香族化合物が挙げられる。これらの中でも、入手性および生産性の観点から、好ましくはスチレンである。(a)ビニル芳香族重合体ブロックは、1種のビニル芳香族単量体単位で構成されていてもよいし、2種以上のビニル芳香族単量体単位から構成されていてもよい。
【0033】
前記(b)共役ジエン重合体ブロックを構成する共役ジエン化合物としては、限定されるものではないが、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1-3ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、入手性および生産性の観点から、好ましくは1,3-ブタジエンおよびイソプレンが挙げられる。(b)共役ジエン重合体ブロックは、1種の共役ジエン単量体単位で構成されていてもよいし、2種以上の共役ジエン単量体単位から構成されていてもよい。上記の通り、共役ジエン単位の一部もしくはすべてが水添されていてもよいが、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応性や相溶性の観点から、(b)共役ジエン重合体ブロックの少なくとも一部に共役二重結合を有することが好ましい。
【0034】
前記(c)共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロックを構成する共役ジエン化合物およびビニル芳香族化合物としては、前記(a)ビニル芳香族重合体ブロックおよび(b)共役ジエン重合体ブロックに用いることができる化合物として例示したものを用いることができる。
【0035】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の(B)アミノ基含有樹脂の配合量は、(A)PPS樹脂100質量部に対し、1質量部以上、200質量部以下の範囲が好ましい。(B)アミノ基含有樹脂の配合量が1質量部以上の場合、靱性および柔軟性に優れる。(B)アミノ基含有樹脂の配合量を200質量部以下とすることで(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応を制御でき、ゲル化物の生成を抑制できるため、靱性の低下が発生せず好ましい。配合量の下限値は、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上、成形品の組み付け性を得る観点から30質量部以上が特に好ましい。配合量の上限値は150質量部以下がより好ましく、さらに好ましくは140質量部以下、耐熱性と耐薬品性を得る観点からさらに好ましくは130質量部以下、特に好ましくは120質量部以下である。
【0036】
本発明に用いる(C)エポキシ基を含有するエラストマーとは、具体的にはエポキシ基を含有する熱可塑性エラストマーのことを言う。熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリオレフィン系共重合体、ジエン系共重合体、ポリウレタン系共重合体、ポリアミド系共重合体、ポリエステル系共重合体などが挙げられる。(A)PPS樹脂との相溶性やコストの観点からポリオレフィン系共重合体が好ましい。
【0037】
エポキシ基を含有するポリオレフィン系共重合体としては、側鎖にグリシジルエステル、グリシジルエーテル、グリシジルジアミンなどを有するオレフィン系共重合体や、二重結合を有するオレフィン系共重合体の二重結合部分を、エポキシ酸化したものなどが挙げられる。中でもエポキシ基を有するモノマーが共重合されたオレフィン系共重合体が好適であり、特にα-オレフィンおよびα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを構成成分とするオレフィン系共重合体(C1)(以下、エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体(C1)と略すことがある)が好適に用いられる。
【0038】
α-オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、デセン-1、オクテン-1などが挙げられ、中でもエチレンが好ましく用いられる。またこれらは2種以上を同時に使用することもできる。
【0039】
α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどが挙げられ、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく用いられる。
【0040】
オレフィン系共重合体(C1)は、上記α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとのランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体いずれであってもよい。
【0041】
オレフィン系共重合体(C1)におけるα,β-不飽和酸のグリシジルエステルの共重合量は、目的とする効果への影響、重合性、ゲル化、耐熱性、流動性、強度への影響などの観点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上が特に好ましい。また、共重合量の上限値は、分子鎖のからみ合いを低減し、PPS樹脂組成物が優れた溶融時の靱性を得る観点から40質量%以下が好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0042】
オレフィン系共重合体(C1)は、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルに加え、さらにアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル;アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、芳香環がアルキル基で置換されたスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体などを共重合成分として含んでもよい。これらは2種以上を同時に使用することもできる。
【0043】
(B)アミノ基含有樹脂との反応を調整するために2種類以上の(C)エポキシ基を含有するエラストマーを併用することも可能である。
【0044】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量は、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計配合量を100質量%としたとき、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。配合量を20質量%以上とすることで、十分な柔軟性を得られ、所望の相構造を得ることができる。また、配合量の上限値としては70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、適度な粘度を得る観点から、50質量%以下が特に好ましい。配合量を70質量%以下とすることで、顕著な高粘度化により過度なせん断発熱が生じてポリマーの熱分解が生じることを抑制する。
【0045】
(C)エポキシ基を含有するエラストマーと共に(D)官能基を含有しないエラストマーをさらに配合することにより、より優れた靱性および柔軟性を得ることができるので好ましい。
【0046】
(D)官能基を含有しないエラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
【0047】
ポリオレフィン系エラストマーの具体例としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、ポリブテン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのオレフィン系共重合体が挙げられる。
【0048】
ジエン系エラストマーの具体例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ポリイソプレン、ブテン-イソプレン共重合体、およびSBS、SIS、SEBS、SEPSなどが挙げられる。
【0049】
中でもエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体が特に好ましい。
【0050】
(D)官能基を含有しないエラストマーは、所望の特性を得るために2種以上を併用して用いてもよい。
【0051】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の(D)官能基を含有しないエラストマーの配合量は、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(D)官能基を含有しないエラストマーの合計配合量100質量%に対する、全エラストマー((C)成分+(D)成分)の合計配合量(単位:質量%)を特定の範囲とすることで、飛躍的に柔軟性を向上させることができる。具体的には、全エラストマーの合計配合量は70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、成形性の観点から、55質量%以下であることがさらに好ましい。また、全エラストマーの合計配合量の下限は柔軟性を得る観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が特に好ましい。
【0052】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中において、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(D)官能基を含有しないエラストマーの配合比を特定の範囲とすることで、優れた柔軟性を維持しつつ靭性を向上させることができるので好ましい。この指標として、エポキシ基含有エラストマー比を用いる。ここで、エポキシ基含有エラストマー比とは、(A)PPS樹脂100質量部に対する(C)エポキシ基を含有するエラストマーの質量部をC、(A)PPS樹脂100質量部に対する(D)官能基を含有しないエラストマーの質量部をDとした時、C/(C+D)で求められる値と定義する。エポキシ基含有エラストマー比は、0.5以上1.0以下が好ましく、0.7以上1.0以下がより好ましい。エポキシ基含有エラストマー比がこのような範囲にある場合、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が十分に反応し、(C)エポキシ基を含有するエラストマーおよび(D)官能基を含有しないエラストマーの分散性が向上することで、優れた靭性が発現するとともに、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーが十分に反応し、高粘度化することで、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成しやすくなる結果、優れた耐熱性および耐薬品性が発現する傾向にある。
【0053】
本発明に用いる(X)カルボン酸およびカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種の分子量1000以下の化合物(以下、(X)成分と略すことがある)とは、分子内にカルボン酸またはカルボン酸無水物の構造を有する非ポリマー性化合物である。本発明者らは、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に、(X)成分を添加することで、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの残存するエポキシ基の反応性と(B)アミノ基含有樹脂の反応性を調整し、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの適切な反応性を維持しながら、滞留増粘を抑制することで、優れた相構造および機械特性と、レオロジー特性および成形加工性を高いレベルで両立できることを見出した。
【0054】
(X)成分の分子量は、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと効率よく反応させる観点から、1000以下が必要であり、500以下が好ましい。分子量の下限は、化学的および物理的な安定性の面から100以上が好ましい。
【0055】
上記効果を奏するならば、(X)成分の構造は制限しないが、化学的および物理的な安定性の面から、芳香環を含有する化合物であることが好ましい。特に(A)PPS樹脂の反応性基と、(B)アミノ基含有樹脂のアミノ基と、(C)エポキシ基を含有するエラストマーのエポキシ基の反応性を好ましく調整する観点から、(X)成分はテトラカルボン酸およびテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。さらにテトラカルボン酸は、分子内で脱水縮合してテトラカルボン酸二無水物が生じ得る構造であることが好ましい。また、(X)成分を添加することで、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中にイミド基が生じることが、適切な反応制御が行われている観点で好ましい。これらの化合物は1種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。またテトラカルボン酸は、その一部が分子内で脱水縮合したテトラカルボン酸二無水物であってもよく、これらを併用してもよい。
【0056】
(X)成分の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-シクロヘキセン-1,2ジカルボン酸無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、メチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-トリメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,4-テトラメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,5-ペンタメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリテート酸無水物)、チオ-4,4’-ジフタル酸二無水物、スルホニル-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2-ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、および1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等で挙げられるテトラカルボン酸二無水物および、これらの酸無水物が水によって開環したテトラカルボン酸が挙げられる。工業的入手性やコストの観点からピロメリット酸二無水物またはピロメリット酸が好ましい。
【0057】
(X)成分の配合量は、用いる(X)成分の種類と、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの種類や量に依るため一概には規定できないが、(A)PPS樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上、3質量部以下添加することが好ましく、優れた成形加工性を得る観点から0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましい。配合量の上限としては、優れた耐熱性と耐薬品性を得る観点から2質量部以下が好ましい。
【0058】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲で必要に応じて、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、(X)成分、および(D)官能基を含有しないエラストマー以外のその他の成分を配合しても構わない。その他の成分とは、添加剤、前記以外の熱可塑性樹脂、充填剤などである。具体的には、特許文献2(国際公開第2018/003700号)に記載されたものなどを用いることができる。
【0059】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、高柔軟性を得る観点から、射出成形して得られるISOダンベル試験片(1A)を、ISO178(2010)に従い測定した曲げ弾性率が1.0MPa以上1500MPa以下であることが好ましい。曲げ弾性率は1200MPa以下が好ましく、振動吸収性を得る観点から1000MPa以下がより好ましく、優れた振動吸収性を得る観点から800MPa以下が特に好ましい。優れた成形品の組み付け性を得る観点から、曲げ弾性率は600MPa以下がさらに好ましい。高い柔軟性を得る観点からは、曲げ弾性率が低いほど好ましいが、成形品の形状保持の観点から、曲げ弾性率は10MPa以上が好ましい。曲げ弾性率が1.0MPaを下回る場合、例えば成形品を高温環境下で使用する場合の変形が大きく、形状保持が困難となるため好ましくない。
【0060】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の曲げ弾性率は、樹脂組成物の構成成分それぞれの曲げ弾性率とその配合量によって調整することができる。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計配合量を100質量%としたとき、(A)PPS樹脂の配合量を20質量%以上、60質量%以下とすることは、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の曲げ弾性率を上記の範囲とするために有効である。また、(B)アミノ基含有樹脂として柔軟な成分を用いることや、(C)エポキシ基を含有するエラストマーおよび/または(D)官能基を含有しないエラストマーの配合量を増やすことで曲げ弾性率を低くできる。例えば、(B)アミノ基含有樹脂として、アミド基1個当たりの炭素数が10~16の範囲である構成単位からなるポリアミド樹脂を用いることが好適である。かかるポリアミド樹脂としては、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)などが例示できる。他には、ソフトセグメントとの共重合によって得られるポリアミド系熱可塑性エラストマーを用いることも好適である。また、(B)アミノ基含有樹脂として、アミノ基含有ジエン系共重合体を用いることも柔軟性を得る観点から特に好ましい。
【0061】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、靱性を得る観点から、射出成形して得られるISOダンベル試験片(1A)を、ISO527-1,-2(2012)に従い測定した引張伸度が50%以上200%以下であることが好ましい。引張伸度は60%以上が好ましく、成形品の実用靱性を得る観点から70%以上がより好ましく、耐熱老化性試験や耐薬品性試験で劣化後も靱性を確保する観点から80%以上が特に好ましい。高い靱性を得る観点からは、引張伸度が高いほど好ましいが、引張伸度が200%を越える場合、柔軟性が高くなりすぎて、成形品を高温環境下で使用する場合に形状保持が困難となる場合があるため好ましくない。
【0062】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の引張伸度は、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(D)官能基を含有しないエラストマーを併用することで調整することができる。また、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとを適切に反応させることでも調整することができる。
【0063】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は、押出成形時の溶融樹脂の引き取り性の観点から、500Pa・sを超える範囲が好ましく、700Pa・s以上がより好ましい。また、ブロー成形時のドローダウンを抑制する観点から、溶融粘度は900Pa・s以上が特に好ましく、1300Pa・s以上がさらに好ましい。溶融粘度の上限については、溶融流動性保持の点から3000Pa・s以下であることが好ましく、溶融時の靱性を向上させて成形加工性を得る観点から2500Pa・s以下が好ましく、2000Pa・s以下が特に好ましい。溶融粘度が500Pa・sを下回る場合は、押出成形が困難となるほか、耐熱老化性が低下してしまうため好ましくない。
【0064】
なお、本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は、試験温度300℃、せん断速度122/sの条件下で、キャピラリーレオメーター(例えば、東洋精機製キャピログラフ(登録商標))を用いて測定した値である。なお、温度300℃で5分滞留後に測定した溶融粘度をV5、温度300℃で30分滞留後に測定した溶融粘度をV30とする。V5およびV30のいずれも、上記の好ましい範囲であることが好ましい。
【0065】
さらに本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、成形のプロセスウィンドウを広くし、成形性を向上する観点で、下記で定義される滞留増粘率が-30%以上、60%以下であることが好ましい。滞留増粘率の上限については50%以下がより好ましく、滞留時間が長い成形方法へ適用させる観点から40%以下であることが特に好ましく、30%以下がさらに好ましい。滞留増粘率の下限については、成形条件安定化の観点から-20%以上が好ましく、-10%以上がより好ましい。
【0066】
滞留増粘率(%) = ((V30-V5)/V5) ×100(%)
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の滞留時間が5分の場合の溶融粘度(V5)は、樹脂組成物を構成するポリマーのポリマー鎖の絡み合いに起因する。例えば、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーのそれぞれについて、高粘度のものを選択することで、溶融粘度V5を増加させることが可能である。また、溶融粘度V5は、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとして高官能基量のものを選択することや、溶融混練時のせん断発熱を高めて、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応を促進することによっても、増加させることが可能である。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度(V5)に対する、滞留時間が30分の場合の溶融粘度(V30)の変化を抑制する手段としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において、(C)エポキシ基を含有するエラストマー中の未反応で残存するエポキシ基量を減らすことが、効果的な調整方法である。その具体的な手段としては、例えば(C)エポキシ基を含有するエラストマーとして、低官能基量の化合物を選択することや、溶融混練時に(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応を促進してエポキシ基を消費することが挙げられる。特に(X)成分を添加することで効率的に未反応で残存するエポキシ基量を減らすことができる。溶融粘度(V30)の調整により、滞留増粘率の絶対値を小さくすることが成形時のプロセスウィンドウを広くする観点で好ましい。
【0067】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の破断時引取速度は、キャピラリーレオメーターを用いた溶融張力測定において、引取速度を増加させた際に、ストランドが破断する時の引取速度であり、PPS樹脂組成物の溶融時の靱性の指標である。このため、押出成形時に溶融樹脂の引き取り性を良好にする観点から、破断時引取速度は50m/min以上が好ましく、60m/min以上がより好ましく、成形時のプロセスウィンドウを広くする観点で80m/min以上が特に好ましく、100m/min以上がさらに好ましい。さらに、滞留時間が長い成形方法へ適用させる観点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をキャピラリーレオメーター内で30分滞留させた後の破断時引取速度も上記範囲であることが好ましい。本測定は200m/minが測定限界となり、200m/minであっても特段問題はないため、破断時引取速度の上限は定めない。破断時引取速度が50m/minを下回る場合は、PPS樹脂組成物の溶融時の靱性が低下し、押出成形時に樹脂破れが生じやすく、プロセスウィンドウが狭くなるため好ましくない。
【0068】
破断時引取速度を高めるためには、樹脂組成物を構成するポリマーのポリマー鎖の絡み合いと、(A)PPS樹脂を含む相と、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを含む相間の界面の安定性のバランスが重要となる。例えば、(A)PPS樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応性や、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応性が高いと、ポリマー鎖の絡み合いが増し、溶融粘度や溶融張力が増加した結果、破断時引取速度が低下する傾向を示す。一方で、優れた相構造が得られると、相間の界面強度が向上し、破断時引取速度が増加する傾向を示す。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に(X)成分を添加することで、これらのバランスを高め、優れた破断時引取速度を得ることができる。また、滞留増粘率の絶対値を小さくすることで、滞留後も優れた破断時引取速度を維持することができる。なお、相構造についての詳細は後述するが、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、(A)PPS樹脂が連続相を形成し、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成することが重要である。
【0069】
なお、本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の破断時引取速度は、キャピラリーレオメーター(例えば、東洋精機製キャピログラフ(登録商標))を用いて、試験温度300℃、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mm、押出速度50mm/min、ダイス-プーリー間距離350mm、引取速度10m/minの条件でストランドを引き取り、引取速度を加速度380m/minで増加させた際に、ストランドが破断するときの引取速度である。なお、本装置の測定限界は200m/minであり、引取速度が200m/minに到達しても破断しない場合は破断なしとした。
【0070】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、その成形品を透過型電子顕微鏡により観察したモルフォロジーにおいて、(A)PPS樹脂が連続相を形成し、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成する必要がある。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の(A)PPS樹脂の配合量が、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計配合量を100質量%としたとき、20質量%以上60質量%以下という比較的少ない配合量であるにもかかわらず、(A)PPS樹脂が連続相となることで、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、高柔軟性かつ高靭性であるのみならず、PPS樹脂に由来する優れた耐熱老化性や耐薬品性などを発現することが可能となる。ここで、「(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが、分散相を形成する」とは、一つの分散相中に(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとを共に含む分散相を形成することを表している。一つの分散相中に(B)成分と(C)成分とを共に含んでいれば、それ以外の成分が含まれていてもよく、例えば(B)成分と(C)成分とが反応した反応物が含まれていてもよいし、(A)成分が一部含まれていてもよい。また、(B)成分と(C)成分とを共に含む分散相が存在すれば、(B)成分のみの分散相がさらに存在していてもよいし、(C)成分のみの分散相がさらに存在していてもよい。さらに、分散相の中は(B)成分と(C)成分の共連続構造であってもよい。また、(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成し、その中に(B)アミノ基含有樹脂が二次分散相を形成している構造や、(B)アミノ基含有樹脂の分散相の中に(C)エポキシ基を含有するエラストマーが二次分散相を形成する構造であってもよい。このような分散構造を海/島/湖構造、またはサラミ構造ともいう。
【0071】
このような相構造を形成するためには、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとを適切に反応させる必要がある。この反応を経ることで、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の、(A)PPS樹脂の溶融粘度に対して、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーが反応した成分の溶融粘度が大きくなる。それによって、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中の(A)PPS樹脂の質量分率が少ない場合でも、(A)PPS樹脂を連続相とすることが可能となる。
【0072】
より優れた耐熱老化性やおよび靱性を得る観点から、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとが一つの分散相中に含まれていることが好ましい。このような相構造を形成するためには、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの相溶性を高めることが重要である。
【0073】
相溶性を高める組み合わせとして、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとして、エポキシ基を含有するポリオレフィン系共重合体を用い、(B)アミノ基含有樹脂として、アミド基1個当たりの炭素数が10~16の範囲である構成単位からなるポリアミド樹脂を用いることが好ましい。この場合(C)エポキシ基を含有するポリオレフィン系共重合体の分散相に(B)ポリアミド樹脂が二次分散相を形成する構造が得られやすい。このような分散構造を有することにより、ポリアミド樹脂に由来する耐薬品性低下の顕在化を抑制し、優れた耐薬品性が得られやすい。
【0074】
また、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとして、エポキシ基を含有するポリオレフィン系共重合体を用い、(B)アミノ基含有樹脂として、アミノ基含有ジエン系共重合体を用いることも柔軟性を得る観点で好ましい。この場合、相溶性に特に優れる組み合わせのため、(B)アミノ基含有樹脂と、(C)エポキシ基を含有するポリオレフィン系共重合体の共連続構造からなる分散相が得られ、優れた靱性が得られやすい。さらに相溶性を向上するためには、アミノ基含有ジエン系共重合体として(a)ビニル芳香族重合体ブロックおよび(b)共役ジエン重合体ブロックを含むブロック共重合体を用いることが好ましい。該ブロック共重合体の構成単位の内(b)共役ジエン重合体ブロックの割合を増やすことが、相溶性を向上するために特に好ましい。
【0075】
(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応が適切でない場合としては、例えば、これらの成分が過剰に反応したことでゲル化が生じ、溶融加工性や成形加工性が著しく悪化する他、しばしば(B)アミノ基含有樹脂が分散相を形成できなくなる場合がある。そうすると、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の耐熱性や耐薬品性の劣化を引き起こすことがある。この過剰反応を抑制するためには、(X)成分の添加により(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応性を調整することや、後述する溶融混練時に押出機のシリンダー温度を適正化することや切り欠き部を有する撹拌スクリューを使用することが有効である。
【0076】
(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応が適切でないその他の場合としては、例えば、これらの成分の反応が不十分であり(A)PPS樹脂が連続相を形成できない場合が挙げられる。反応が不十分となる例としては、溶融混練時に複数回に分けて混練を行う場合やサイドフィーダー等を用いて、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応を意図的に回避する場合や、添加剤の作用により(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応性が低下し、(B)アミノ基含有樹脂と反応しなくなる場合が挙げられる。
【0077】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において(B)アミノ基含有樹脂を含む分散相の数平均分散粒子径は、優れた靱性と耐熱老化性を発現する上で、2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることが特に好ましく700nm以下であることがさらに好ましい。分散相の数平均分散粒子径の下限は10nm以上が好ましい。
【0078】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において(C)エポキシ基を含有するエラストマーを含む分散相の数平均分散粒子径は、優れた靱性と柔軟性を発現する上で、1000nm以下であることが好ましく、700nm以下であることがさらに好ましい。分散相の数平均分散粒子径の下限は5nm以上が好ましい。このような分散径を得るためには(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーを適切に反応させることが有効となる。
【0079】
また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、前述の通り、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとともに(D)官能基を含有しないエラストマーを配合することができる。この場合、(D)官能基を含有しないエラストマーもまた分散相を形成する。この分散相の数平均分散粒子径は、優れた靱性と柔軟性を発現する上で、2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましい。分散相の数平均分散粒子径の下限は10nm以上が好ましい。このような分散径を得るためには(A)PPS樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーを適切に反応させることが有効となる。
【0080】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、(C)エポキシ基を含有するエラストマーからなる分散相内に(B)ポリアミド樹脂が二次分散相を形成する相構造をとることが好ましい。二次分散相の数平均分散粒子径は、優れた靱性、柔軟性、耐熱老化性および耐薬品性を発現する上で、1000nm未満であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることが特に好ましい。二次分散相の数平均分散粒子径の下限は5nm以上が好ましい。このような二次分散相を得るためには(B)ポリアミド樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーを適切に反応させることが有効となる。
【0081】
なお、これらの相分離構造における各分散相の数平均分散粒子径は、以下の方法により求められる。例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレット、ブロー成形品、射出成形品などから、ウルトラミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その超薄切片について、四酸化ルテニウム等で染色を行ったサンプルと、無染色のサンプルとを、透過型電子顕微鏡にて5000~10000倍の倍率にて観察する。得られた画像から任意の異なる分散相を10個選び、それぞれの分散相について長径および短径を求めて平均値を取り、それらの平均値の数平均値を分散相の数平均分散粒子径として算出することができる。分散相を構成する成分の同定は、無染色のサンプルにおける相のコントラスト差と、四酸化ルテニウム等で染色を行ったサンプルにおける相のコントラスト差を比較することで決定することができる。
【0082】
上述した相構造を形成した本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、優れた耐熱老化性が発現するという観点から、温度170℃×1000hrの耐久処理後の引張伸度保持率が40%以上であることが好ましい。引張伸度保持率は、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、70%以上がいっそう好ましい。なお、引張伸度保持率とは、170℃×1000hr耐久処理前の引張伸度に対する170℃×1000hr耐久処理後の引張伸度の比率のことである。
【0083】
さらに、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は耐薬品性に優れる特徴を有している。そのため、例えば、自動車のエンジンやモーターの冷却に用いられるエチレングリコールを主成分とした冷却水が触れる配管として好適に用いられる。LLC(ロングライフクーラント)、例えば、トヨタ自動車製トヨタスーパーロングライフクーラント(品番08889-01005)とイオン交換水とを質量比1:1で混合した液中に、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形して得たISO(1A)ダンベル試験片を150℃×1000hrの条件で完全浸漬を行った後の引張伸度保持率が80%以上であることが好ましい。引張伸度保持率は90%以上がより好ましい範囲として例示できる。なお、当該引張伸度保持率とは、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形して得た試験片をLLCに浸漬処理する前の引張伸度に対する、上記の浸漬処理後の引張伸度の比率のことである。
【0084】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法については、特に制限は無く、単軸、二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、およびミキシングロールなど公知の溶融混練機に原料を供給し、樹脂温度が(A)PPS樹脂の融解ピーク温度+5℃~100℃になるように溶融混練する方法などを代表例として挙げることができる。中でも二軸押出機による溶融混練が好ましい。なお、ここでの樹脂温度は、押出機から吐出される樹脂の温度を直接測定した値またはダイス先端の温度である。
【0085】
二軸押出機の、スクリュー長さL(mm)とスクリュー直径D(mm)の比(L/D)としては、10以上が望ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。二軸押出機のL/Dの上限は通常は60である。L/Dが10未満の場合は、混練が不足し、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において前述した所望の相構造が得られ難くなる傾向がある。
【0086】
溶融混練の際、原料の混合順序は特に制限がなく、全ての原材料を上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を上記の方法により溶融混練し、これとさらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を押出機の元込め位置から供給して溶融混練すると同時に、押出機の途中からサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。サイドフィーダーを用いる際は、優れた相構造を得る観点から、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応や(A)PPS樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応が適切に行われるように、原材料を供給する位置を選択することが好ましい。例えば、本発明で用いられる(X)成分の添加方法に制限はないが、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応性を好ましく調整するため、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーを元込め位置から供給して反応させた後に、(X)成分をサイドフィーダーを用いて添加することが適切な反応制御の観点で特に好ましい。
【0087】
(B)アミノ基含有樹脂と、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの過剰反応による押出ガットのゲル化やそれに伴う靭性の低下を抑制することが好ましく、これを達成するためのスクリューの構成として、切り欠き部を有する撹拌スクリューを使用することが好ましい一例としてあげられる。ここで「切り欠き」とは、スクリューフライトの山部分を一部削ってできたものをいう。切り欠き部を有する撹拌スクリューは樹脂充填率を高くすることが可能である。溶融樹脂は、撹拌スクリューを連結させたニーディング部を通過する際に、押出機シリンダー温度の影響を受けやすい。切り欠き部を有する撹拌スクリューを使用することで、混練時のせん断により発熱した溶融樹脂が効率的に冷却されるので、混練時の樹脂温度を低下させることが可能となる。また、切り欠き部を有する撹拌スクリューは、従来の樹脂をすりつぶす手法とは異なり、撹拌および掻き混ぜを主体とする混練を行うことができるため、混練時のせん断発熱を抑制し、前述した所望の相構造を得られやすくなる。
【0088】
切り欠き部を有する撹拌スクリューとしては、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、混練性向上の観点から、スクリュー直径をD(mm)とするとスクリューピッチの長さは0.1D~0.3Dの範囲であり、かつ切り欠き数が1ピッチあたり10~15個である切り欠き部を有する撹拌スクリューであることが好ましい。ここで「スクリューピッチの長さ」とは、スクリューが360度回転したときの、スクリューの山部分間のスクリュー長さをいう。
【0089】
切り欠き部を有する撹拌型スクリューについては、当該スクリューの長さが、スクリューの全長L(mm)の3%以上になるように導入することが好ましく、さらには5%以上になるように導入することがより好ましい。その上限としてはスクリューの全長の20%以下が好ましく15%以下がより好ましい。
【0090】
また(B)アミノ基含有樹脂と、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの過剰反応による押出ガットのゲル化やそれに伴う靭性の低下を抑制する方法の一例としては、押出機のシリンダー温度を(A)PPS樹脂の融点よりも低い温度に低下させて溶融混練する方法が好ましく例示できる。このように押出機のシリンダー温度を(A)PPS樹脂の融点よりも低い温度に低下させることにより、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの過剰反応を抑制するとともに、溶融混練時の溶融粘度を増加させることができ、撹拌を効率的に行うことができる。その結果、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応を効率よく行うことができ、(A)PPS樹脂が連続相を、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成する相構造を得られやすくなる。
【0091】
具体的には、押出機のシリンダー温度は、用いる(A)PPS樹脂の融点によるため一概には言えないが、230℃以上285℃以下が好ましい範囲として例示できる。また、押出機のシリンダーブロックの内、30~80%が上記温度範囲であることが好ましく、50~80%が上記温度範囲であることがより好ましい。さらに、上述した切り欠き部を有する撹拌型スクリューによる冷却および撹拌を効率的に行う観点から、切り欠き部を有する撹拌型スクリューが組み込まれている箇所に対応するシリンダーブロックを上記温度範囲とすることが特に好ましい。
【0092】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の成形方法としては、例えば押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられる。特に、本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、溶融樹脂の引取性が良好であり、肉厚の制御が行いやすいため、押出成形用途またはブロー成形用途として有用である。
【0093】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、靱性、柔軟性、耐熱性および耐薬品性に優れる特徴を活かして、特許文献2(国際公開第2018/003700号)に記載の多くの成形品に好適である。中でも、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体や、高温環境下に晒される自動車の燃料関係・排気系・吸気系、冷却系の各種パイプ、ダクト、チューブや、ガス給湯器やヒートポンプ式給湯器、温水暖房機等に用いられる配管として有用である。中でも、本発明の樹脂組成物からなる成形品は柔軟性に優れる特徴を活かして、組付性や振動吸収性が発現しやすい形状である中空成形品に好適である。特に本発明の樹脂組成物からなる成形品は、ポリアミド樹脂に比較して耐薬品性に優れるため、自動車のエンジンやモーターの冷却に用いられるエチレングリコールを主成分とした自動車用冷却水に触れる配管として用いるのにも有用である。また本発明の樹脂組成物からなる成形品は、ガラス繊維等で補強されたゴム配管に比べて金属イオンの溶出が少ないため、燃料電池車の冷却配管としても有用である。
【実施例
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでは無い。各実施例および比較例における評価は、次の方法により行った。
【0095】
(1)射出成形
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットについて、住友重機械製射出成形機SE75-DUZを用い、シリンダー温度を310℃とし、金型温度140℃として、ISO(1A)ダンベル試験片を射出成形した。
【0096】
(2)初期の機械特性
前記、射出成形したISO(1A)ダンベル試験片について、温度23℃条件下、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、ISO527-1,-2(2012)に従い、支点間距離114mm、引張速度50mm/minの条件で引張特性を評価した。次いで、ISO178(2010)に従い、支点間距離64mm、速度2mm/minの条件で曲げ特性を評価した。
【0097】
(3)170℃×1000hr耐久処理後の機械特性(耐熱老化性)
前記、射出成形したISO(1A)ダンベル試験片を、温度170℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて1000hr処理した後、室温で24hr放冷した。この処理を耐久処理と呼ぶ。
【0098】
次いで、温度23℃条件下、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、ISO527-1,-2(2012)に従い、支点間距離114mm、引張速度50mm/minの条件で、前記耐久処理後のダンベル試験片の引張特性を評価した。初期の引張伸度に対する170℃×1000hr耐久処理後の引張伸度の比率を引張伸度保持率(%)とした。
【0099】
(4)150℃×1000hrLLC浸漬処理後の機械特性(耐薬品性)
前記、射出成形したISO(1A)ダンベル試験片について、市販のLLC(トヨタ自動車社製“トヨタスーパーロングライフクーラント(品番08889-01005)”)とイオン交換水とを質量比1:1で混合した液中に温度150℃×1000hrの条件で完全浸漬した後、室温で24hr放冷した。この処理をLLC浸漬処理と呼ぶ。
【0100】
次いで、温度23℃条件下、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、ISO527-1,-2(2012)に従い、支点間距離114mm、引張速度50mm/minの条件で、前記浸漬後のダンベル試験片の引張特性を評価した。初期の引張伸度に対するLLC浸漬処理後の引張伸度の比率を引張伸度保持率(%)とした。
【0101】
(5)分散相および分散相内の二次分散相の数平均分散粒子径
前記、射出成形したISO(1A)ダンベル試験片の中央部を樹脂の流れ方向に対して垂直方向に切断し、その断面の中心部から、温度-20℃の条件下で厚さ0.1μm以下の薄片をウルトラミクロトームを用いて切削した。その後、当該薄片を四酸化ルテニウムにより染色したサンプルと無染色のサンプルを調製した。日立製作所製H-7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50~60万倍)を用いて、これらのサンプルの任意の異なる10箇所を1000~10000倍に拡大して写真撮影を行った。Scion Corporation製画像解析ソフト「Scion Image」を用いて、電子顕微鏡写真中に存在する各成分の分散粒子について、任意の異なる分散粒子を10個選び、それぞれの分散相について長径および短径を求めて平均値を取り、それらの平均値の数平均値を数平均分散粒子径とした。なお、分散相を構成する成分の同定は、無染色のサンプルにおける相のコントラスト差と、四酸化ルテニウム染色されたサンプルにおける相のコントラスト差を比較することで決定した。
【0102】
(6)溶融粘度測定、滞留増粘率測定
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットについて、東洋精機製キャピログラフ(登録商標)を用いて温度300℃で5分滞留後、温度300℃せん断速度122/s、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mmの条件下で溶融粘度(V5)を測定した。続けてさらに温度300℃で25分滞留後(合計30分滞留後)に同様の測定を行い、溶融粘度(V30)を測定し、以下の式より滞留増粘率を求めた
滞留増粘率(%) = ((V30-V5)/V5) ×100 。
【0103】
(7)破断時引取速度測定
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットについて、東洋精機製キャピログラフ(登録商標)を用いて、試験温度300℃で5分滞留後、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mm、押出速度50mm/min、ダイス-プーリー間距離350mm、引取速度10m/minの条件でストランドを引き取り、引取速度を加速度380m/minで増加させた際に、ストランドが破断するときの引取速度を破断時引取速度とした。続けてさらに温度300℃で25分滞留後(合計30分滞留後)に同様の測定を行い、滞留後の破断時引取速度を求めた。
【0104】
(8)ブロー成形性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、ブロー成形機に供し、シリンダー温度320℃、金型温度60℃の条件にて、肉厚2mm、外径40mm、長さ200mmの中空体を成形した。この際、ブロー成形性を以下の通り評価した。
best:肉厚の偏肉がほとんどない成形品が得られた。
good:成形品は得られたが肉厚の偏肉が生じていた。
bad:パリソンのドローダウンが生じて成形できなかった。
【0105】
(9)押出成形性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、真空水槽を具備した押出成形機を用いて、シリンダー温度300℃で以下1~3の条件で成形し、外径18mm、長さ100mmの中空体を得た。
条件1:スクリュー回転数40rpm、引取速度2m/min
条件2:スクリュー回転数40rpm、引取速度5m/min
条件3:スクリュー回転数20rpm、引取速度5m/min
この際、押出成形性を以下の通り評価した。
best:全ての条件で成形可能
better:条件1、2で成形可能であったが、条件3でチューブ破れが生じた。
good:条件1で成形可能であったが、条件2、3でチューブ破れが生じた。
bad:全ての条件でチューブ破れが生じた。
その後、押出成形性がbestおよびbetterの結果であった樹脂組成物については、シリンダー温度300℃、引取速度5m/minの条件にてスクリュー回転数を任意に調節して肉厚2mm、外径18mm、長さ100mmの中空体を成形した。
【0106】
(10)ニップルへのはめ込み試験
前記(9)項において、引取速度5m/minの条件で得られた肉厚2.0mm、外径18mm、長さ100mmの中空成形体について、以下1~3の条件でそれぞれ処理を行った。
条件1:成形後、室温で放冷した。
条件2:170℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて1000hr処理した後、室温で24hr放冷した。
条件3:市販のLLC(トヨタ自動車社製“トヨタスーパーロングライフクーラント(品番08889-01005)”)とイオン交換水とを質量比1:1で混合した液中に150℃×1000hrの条件で完全浸漬した後、室温で24hr放冷した。
【0107】
その後、各条件で処理した中空成形体について、オートグラフ試験機を用いて、治具で固定したニップルに、中空成形体を上から500mm/minの速度で15mm押し込み、中空成形体のひび割れの有無を確認し、以下の通り評価した。
best:全ての条件でひび割れなく挿入できた。
better:条件1でひび割れなく挿入できたが、条件2、3でひび割れが生じた。
good:挿入できたが、全ての条件でひび割れが生じた。
bad:成形体が固く、ニップルに挿入できなかった。
【0108】
使用するニップルの形状はホースニップルとし、ニップルの接続部における最大の外径は17mmである。
【0109】
各実施例および比較例に用いた原材料について、以下に示す。
【0110】
[参考例1](A)PPS樹脂:A-1
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム2.24kg(27.3モル)、およびイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0111】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.32kg(70.20モル)およびNMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.8℃/分の速度で200℃から235℃まで昇温し、235℃で40分反応した。その後0.8℃/分の速度で270℃まで昇温し、270℃で70分反応した後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0112】
内容物を約35リットルのNMPで希釈してスラリーとして、85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄および濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾別して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾別し、さらに得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾別して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。このような方法で製造されたPPS樹脂をA-1とした。得られたPPS樹脂はナトリウムを50ppm含んでいた。また、試験温度300℃、5分滞留後、せん断速度1216/sで求めた溶融粘度は170Pa・sであった。
【0113】
[参考例2](A)PPS樹脂:A-2
洗浄時に酢酸の代わりに酢酸カルシウムを用いたこと以外は参考例1と同様に重合および洗浄を行った。このような方法で製造されたPPS樹脂をA-2とした。得られたPPS樹脂はカルシウムを500ppm含んでいた。また、試験温度300℃、5分滞留後、せん断速度1216/sで求めた溶融粘度は230Pa・sであった。
【0114】
(B)アミノ基含有樹脂
B-1:相対粘度(98%濃硫酸溶液(ポリマー1g、濃硫酸100ml)、25℃で測定した。)が2.7のナイロン610(東レ製“アミラン(登録商標)”)を用いた。
B-2:ナイロン12(アルケマ製“リルサミド”AESNOTL)を用いた。
B-3:アミン変性スチレン-ブチレン/ブタジエン-スチレンブロック共重合体(旭化成製“タフテック(登録商標)”MP10)を用いた。
【0115】
(C)エポキシ基を含有するエラストマー
C-1:グリシジルメタクリレート共重合量が6質量%のエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト(登録商標)”7M)を用いた。
【0116】
(D)官能基を含有しないエラストマー
D-1:エチレン・1-ブテン共重合体(三井化学製“タフマー(登録商標)”TX-610)を用いた。
【0117】
(X)カルボン酸およびカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種の分子量1000以下の化合物(以下、(X)成分と略すことがある)
X-1:ピロメリット酸(東京化成製、分子量254g/mol)を用いた。
X-2:ピロメリット酸無水物(東京化成製、分子量218g/mol)を用いた。
X-3:4,4’-オキシジフタル酸無水物(東京化成製、分子量310g/mol)を用いた。
X-4:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(東京化成製、分子量322g/mol)を用いた。
X-5:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(東京化成製、分子量294g/mol)を用いた。
X-6:ジカルボン酸化合物である、テレフタル酸(東京化成製、分子量166g/mol)を用いた。
X-7:モノカルボン酸化合物である、2-ナフトエ酸(東京化成製、分子量172g/mol)を用いた。
【0118】
[実施例1~2、比較例1~5](一括元込めの場合)
表1に示す割合で各原料をドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3カ所、切り欠き部を有するスクリューの割合0%))の元込め位置から全ての原料を一括で投入し、表1に示すシリンダー温度でスクリュー回転数300rpmにて溶融混練した。押出機の先端から吐出されたストランドをストランドカッターによりペレット化した。その後、120℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法で各種特性評価を行った後、前述した方法でブロー成形性、押出成形性およびニップルへのはめ込み試験を行った。
【0119】
[実施例3~15](サイドフィードを用いる場合)
サイドフィード用の原料ブレンドとして(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100質量部の内20質量部と(X)成分を表2~4に示す割合でドライブレンドした。次いで、メインフィード用の原料ブレンドとして(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100質量部の内80質量部とその他の原料を表2~4に示す割合でドライブレンドした。次いで、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45)へメインフィード用の原料ブレンドを元込め位置から投入し、サイドフィード用の原料ブレンドを日本製鋼所製サイドフィーダーを用いて投入し、表2~4に示すシリンダー温度とスクリューアレンジでスクリュー回転数300rpmにて溶融混練した。押出機の先端から吐出されたストランドを、ストランドカッターによりペレット化した。なお、表において「通常」のスクリューアレンジとは、ニーディング部3カ所、切り欠き部を有するスクリューの割合0%のアレンジである。また、「切り欠き」のスクリューアレンジとは、ニーディング部3カ所、切り欠き部を有するスクリューの割合10%のアレンジである。その後、120℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法で各種特性評価を行った後、前述した方法でブロー成形性、押出成形性およびニップルへのはめ込み試験を行った。
【0120】
【表1】
【0121】
組成に着目し、上記表1における実施例と比較例の結果を比較して説明する。
【0122】
比較例1では、(A)PPS樹脂が連続相を形成しているものの、(A)PPS樹脂の配合量が多いため、曲げ弾性率は1500MPaを超え、柔軟性は不十分であった。そのためニップルへのはめ込み試験で挿入できなかった。
【0123】
比較例2では、(A)PPS樹脂の配合量が少なく、(C)エポキシ基を含有するエラストマーが連続相を形成するため、170℃1000hr処理後の引張伸度保持率に代表される耐熱老化性が著しく低下した。また、破断時引取速度も低く、各種成形性不良が顕著であった。
【0124】
比較例3では、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの溶融混練を高いシリンダー温度および樹脂温度で行ったため、過剰反応が生じ、(A)PPS樹脂が連続相を形成できないばかりか、破断時引取速度も低く、各種成形性不良が顕著であった。
【0125】
比較例4、5では、(A)PPS樹脂の配合量が少ないのにも関わらず連続相を形成した結果、優れた柔軟性、耐熱老化性および耐薬品性を両立できたが、(X)成分を添加しなかったため、破断時引取速度が低く、滞留増粘率が高いことにより、押出成形性不良が顕著であった。
【0126】
実施例1、2では、(X)成分を添加した結果、優れた柔軟性、耐熱老化性および耐薬品性を有すると共に、破断時引取速度に優れ、滞留増粘率が低く、良好な押出成形性を示し、ニップルへのはめ込み試験において成形品のひび割れが発生しなかった。
【0127】
【表2】
【0128】
製造方法に着目し、上記表2における実施例の結果を比較して説明する。
【0129】
実施例3では、実施例2に比して(X)成分をサイドフィードで添加した結果、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応が十分に進行し、優れた破断時引取速度と低い滞留増粘率を維持しつつ溶融粘度を増加することができ、優れた押出成形性に加えて優れたブロー成形性が得られた。
【0130】
実施例4、5においては、実施例3に比してシリンダー温度やスクリューアレンジを好ましく変更することで初期の機械物性である引張伸度が向上した。
【0131】
【表3】
【0132】
用いたポリマーの種類に着目し、上記表3における実施例の結果を比較して説明する。
実施例6、7においては、(A)PPS樹脂の種類や(B)アミノ基含有樹脂の種類を変更しても実施例3と同様に優れた特性が得られた。
実施例8においては、(B)アミノ基含有樹脂としてジエン系共重合体を用いたことで柔軟性が飛躍的に向上した。
【0133】
【表4】
【0134】
(X)成分に着目し、上記表4における実施例と比較例の結果を比較して説明する。
実施例9~13においては、(X)成分の種類や配合量を変更しても、実施例3と同様に優れた特性が得られた。
【0135】
一方、(X)成分の代わりにジカルボン酸化合物またはモノカルボン酸化合物を添加した実施例14、15においては、比較例5に比して、優れた破断時引取速度と低い滞留増粘率を発現した結果、良好な押出成形性が得られた一方で、実施例3に比して、溶融粘度(V5)が低く、(B)アミノ基含有樹脂からなる一次分散相の数平均分散粒子径も大きく、初期の機械物性である引張伸度や耐熱老化性が低かった。そのため、ブロー成形性、押出成形性およびニップルへのはめこみ試験のいずれも実施例3に劣る結果であった。これは、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの反応がジカルボン酸やモノカルボン酸の添加によって阻害されたためである。
【要約】
(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(X)カルボン酸およびカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種の分子量1000以下の化合物を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計配合量を100質量%としたとき、(A)成分の配合量が20質量%以上、60質量%以下であって、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。本発明は、高柔軟性、高靱性、耐熱老化性および耐薬品性を両立すると共に成形加工性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれを用いた成形品を得ることができる。