(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】エレベーターシステム及び検査端末
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
B66B5/02 C
(21)【出願番号】P 2022532224
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025333
(87)【国際公開番号】W WO2021260942
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-10-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智史
(72)【発明者】
【氏名】上西 一輝
(72)【発明者】
【氏名】黒川 弘海
(72)【発明者】
【氏名】野口 豊弘
(72)【発明者】
【氏名】照井 健弘
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-040763(JP,A)
【文献】特開2018-118810(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203561(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/029753(WO,A1)
【文献】特開2011-195253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00- 5/28
B66B 7/00- 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路を移動するかごと、
前記かごを吊り下げるロープと、
前記ロープが巻き掛けられた綱車と、
前記綱車を回転させる電動機と、
前記かごが前記昇降路の特定の区間を移動する時の前記綱車の回転量を演算する第1演算手段と、
第1基準値、第2基準値、及び第3基準値を記憶する記憶手段と、
前記第1基準値、前記第2基準値、及び前記第3基準値と前記綱車の溝部の直径、及び前記第1演算手段によって演算された回転量とに基づいて、前記ロープのうち前記かごが前記区間を移動する時に前記綱車に巻き掛けられる部分の直径を演算する第2演算手段と、
前記第2演算手段によって演算された直径に基づいて、前記ロープが劣化しているか否かを判定する判定手段と、
を備え、
前記第1基準値は、前記綱車の溝部の直径に対する基準の値であり、
前記第2基準値は、前記ロープの前記部分の直径に対する基準の値であり、
前記第3基準値は、前記かごが前記区間を移動する時の前記綱車の回転量に対する基準の値であるエレベーターシステム。
【請求項2】
前記第2演算手段によって演算された直径の時間変化率を演算する第3演算手段を更に備え、
前記判定手段は、前記第3演算手段によって演算された時間変化率に基づいて、前記ロープが劣化しているか否かを判定する請求項1に記載のエレベーターシステム。
【請求項3】
前記かごの位置を検出する検出手段を更に備え、
前記区間は、前記検出手段によって検出された位置に基づいて特定される請求項1又は請求項2に記載のエレベーターシステム。
【請求項4】
仮想的に分割された複数の区間を含む昇降路を移動するかごと、
前記かごを吊り下げるロープと、
前記ロープが巻き掛けられた綱車と、
前記綱車を回転させる電動機と、
前記かごが前記複数の区間のそれぞれを移動する時の前記綱車の回転量を演算する第1演算手段と、
第1基準値と前記複数の区間のそれぞれに対する第2基準値及び第3基準値とを記憶する記憶手段と、
前記複数の区間のそれぞれに対して、前記第1基準値、並びに対象区間に対する前記第2基準値及び前記第3基準値と前記綱車の溝部の直径、及び前記第1演算手段によって演算された、前記かごが当該対象区間を移動する時の前記綱車の回転量とに基づいて、前記ロープのうち前記かごが当該対象区間を移動する時に前記綱車に巻き掛けられる部分の直径を演算する第2演算手段と、
前記第2演算手段によって演算された直径に基づいて、前記ロープが劣化しているか否かを判定する判定手段と、
を備え、
前記第1基準値は、前記綱車の溝部の直径に対する基準の値であり、
前記複数の区間のそれぞれに対する前記第2基準値は、前記ロープのうち前記かごが前記複数の区間のそれぞれを移動する時に前記綱車に巻き掛けられる部分の直径に対する基準の値であり、
前記複数の区間のそれぞれに対する前記第3基準値は、前記かごが前記複数の区間のそれぞれを移動する時の前記綱車の回転量に対する基準の値であるエレベーターシステム。
【請求項5】
前記複数の区間のそれぞれに対して、前記第2演算手段によって演算された直径の時間変化率を演算する第3演算手段を更に備え、
前記判定手段は、前記第3演算手段によって演算された時間変化率に基づいて、前記ロープが劣化しているか否かを判定する請求項4に記載のエレベーターシステム。
【請求項6】
前記かごの位置を検出する検出手段を更に備え、
前記複数の区間のそれぞれは、前記検出手段によって検出された位置に基づいて特定される請求項4又は請求項5に記載のエレベーターシステム。
【請求項7】
前記ロープのうち前記第2演算手段によって演算された直径が最も小さい部分に対する前記判定手段の判定結果を表示するための表示器を更に備えた請求項4から請求項6の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項8】
取得手段を更に備え、
前記第1演算手段は、前記かごが特定のサービス外区間を移動する時の前記綱車の回転量を演算し、
前記記憶手段は、前記サービス外区間に対する第2基準値及び第3基準値を記憶し、
前記取得手段は、前記第1基準値、並びに前記サービス外区間に対する前記第2基準値及び前記第3基準値と前記第1演算手段によって演算された、前記かごが前記サービス外区間を移動する時の前記綱車の回転量とに基づいて、前記綱車の溝部の直径を取得し、
前記サービス外区間は、最上階の停止位置より上方又は最下階の停止位置より下方にある請求項4から請求項7の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項9】
前記複数の区間のそれぞれに対して、前記第1演算手段によって演算された回転量の前記第3基準値からの増加率を演算する第4演算手段と、
前記複数の区間の中から、前記第4演算手段によって演算された増加率が最も小さい区間を基準区間として特定する特定手段と、
前記第1基準値、並びに前記基準区間に対する前記第2基準値及び前記第3基準値と前記第1演算手段によって演算された、前記かごが前記基準区間を移動する時の前記綱車の回転量とに基づいて、前記綱車の溝部の直径を取得する取得手段と、
を更に備えた請求項4から請求項7の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項10】
前記綱車の累積回転数に基づいて前記綱車の溝部の摩耗量を算出し、前記綱車の溝部の直径を取得する取得手段を更に備えた請求項1から請求項7の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項11】
前記第1演算手段は、前記かごが上方に移動する時の前記綱車の回転量を演算する請求項1から請求項10の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項12】
前記かごの積載荷重を測定する秤装置を更に備え、
前記第1演算手段は、前記かごのドアが開く前に前記秤装置によって測定された積載荷重と前記ドアが閉じた後に前記秤装置によって測定された積載荷重との差が特定の閾値を超える場合は、前記ドアが閉じた後に前記かごが移動しても前記綱車の回転量を演算しない請求項1から請求項11の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項13】
前記かごの積載荷重を測定する秤装置と、
前記かごのドアが開く前に前記秤装置によって測定された積載荷重と前記ドアが閉じた後に前記秤装置によって測定された積載荷重との差を検出する検出手段と、
前記第1演算手段によって演算された回転量を、前記検出手段によって検出された差に応じて補正する第1補正手段と、
を更に備えた請求項1から請求項11の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項14】
前記昇降路の温度及び湿度を測定する温湿度計と、
前記温湿度計によって測定された温度及び湿度に基づいて、前記第2演算手段によって演算された直径を補正する第2補正手段と、
を更に備えた請求項1から請求項13の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項15】
前記検出手段は、
前記かごが停止する乗場の高さに合わせて配置されたプレートと、
前記かごに設けられ、前記プレートを検出する検出器と、
を備えた請求項3又は請求項6に記載のエレベーターシステム。
【請求項16】
前記検出手段は、前記かごの絶対位置を連続的に検出するための検出器を備えた請求項3又は請求項6に記載のエレベーターシステム。
【請求項17】
前記検出手段は、
前記かごに連結された調速ロープと、
前記調速ロープが巻き掛けられた調速車と、
前記調速車の回転角を検出するエンコーダと、
前記エンコーダによって検出された回転角に基づいて、前記かごの位置を演算する第5演算手段と、
を備えた請求項3又は請求項6に記載のエレベーターシステム。
【請求項18】
前記ロープが劣化していると前記判定手段によって判定されると、前記かごを特定の確認位置に停止させる動作制御手段を更に備え、
前記確認位置は、前記ロープの前記部分を前記昇降路のピット又は前記かごの上から視認するための位置として予め設定された請求項1から請求項3の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項19】
前記かごを特定の確認位置に停止させる動作制御手段を更に備え、
前記確認位置は、前記ロープのうち前記第2演算手段によって演算された直径が最も小さい部分を前記昇降路のピット又は前記かごの上から視認するための位置として予め設定された請求項4から請求項6の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項20】
前記ロープが劣化していると前記判定手段によって判定されると、前記かごの運転を休止する運転制御手段を更に備えた請求項1から請求項17の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項21】
情報センターからネットワークを介して特定の開始信号を受信すると、前記かごを移動させて、前記第1演算手段に前記綱車の回転量を演算させる運転制御手段と、
前記判定手段による判定結果を前記情報センターに送信する通信手段と、
を更に備えた請求項1から請求項17の何れか一項に記載のエレベーターシステム。
【請求項22】
昇降路を移動するかごと、
前記かごを吊り下げるロープと、
前記ロープが巻き掛けられた綱車と、
前記綱車を回転させる電動機と、
を備えたエレベーター装置において、前記ロープを検査するための検査端末であって、
前記かごが前記昇降路の特定の区間を移動する時の前記綱車の回転量を演算する第1演算手段と、
第1基準値、第2基準値、及び第3基準値を記憶する記憶手段と、
前記第1基準値、前記第2基準値、及び前記第3基準値と前記綱車の溝部の直径、及び前記第1演算手段によって演算された回転量とに基づいて、前記ロープのうち前記かごが前記区間を移動する時に前記綱車に巻き掛けられる部分の直径を演算する第2演算手段と、
前記第2演算手段によって演算された直径に基づいて、前記ロープが劣化しているか否かを判定する判定手段と、
を備え、
前記第1基準値は、前記綱車の溝部の直径に対する基準の値であり、
前記第2基準値は、前記ロープの前記部分の直径に対する基準の値であり、
前記第3基準値は、前記かごが前記区間を移動する時の前記綱車の回転量に対する基準の値である検査端末。
【請求項23】
仮想的に分割された複数の区間を含む昇降路を移動するかごと、
前記かごを吊り下げるロープと、
前記ロープが巻き掛けられた綱車と、
前記綱車を回転させる電動機と、
を備えたエレベーター装置において、前記ロープを検査するための検査端末であって、
前記かごが前記複数の区間のそれぞれを移動する時の前記綱車の回転量を演算する第1演算手段と、
第1基準値と前記複数の区間のそれぞれに対する第2基準値及び第3基準値とを記憶する記憶手段と、
前記複数の区間のそれぞれに対して、前記第1基準値、並びに対象区間に対する前記第2基準値及び前記第3基準値と前記綱車の溝部の直径、及び前記第1演算手段によって演算された、前記かごが当該対象区間を移動する時の前記綱車の回転量とに基づいて、前記ロープのうち前記かごが当該対象区間を移動する時に前記綱車に巻き掛けられる部分の直径を演算する第2演算手段と、
前記第2演算手段によって演算された直径に基づいて、前記ロープが劣化しているか否かを判定する判定手段と、
を備え、
前記第1基準値は、前記綱車の溝部の直径に対する基準の値であり、
前記複数の区間のそれぞれに対する前記第2基準値は、前記ロープのうち前記かごが前記複数の区間のそれぞれを移動する時に前記綱車に巻き掛けられる部分の直径に対する基準の値であり、
前記複数の区間のそれぞれに対する前記第3基準値は、前記かごが前記複数の区間のそれぞれを移動する時の前記綱車の回転量に対する基準の値である検査端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベーターシステム、及び検査端末に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、ロープを検査するための装置が記載されている。特許文献1に記載された装置は、投光器と受光器とを備える。投光器と受光器との間にロープが配置される。投光器から放射されたレーザ光はロープに当たる。また、受光器は、投光器から放射されたレーザ光を受ける。受光器から出力された信号に基づいて、ロープの外形が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された装置では、ロープが劣化していることを判定するために、投光器及び受光器といった追加機器が必要になるといった問題があった。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされた。本開示の目的は、追加の機器を要することなく、ロープが劣化していることを判定できるエレベーターシステムを提供することである。本開示の他の目的は、エレベーター装置に追加の機器を要することなく、ロープが劣化していることを判定できる検査端末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベーターシステムは、昇降路を移動するかごと、かごを吊り下げるロープと、ロープが巻き掛けられた綱車と、綱車を回転させる電動機と、かごが昇降路の特定の区間を移動する時の綱車の回転量を演算する第1演算手段と、第1基準値、第2基準値、及び第3基準値を記憶する記憶手段と、第1基準値、第2基準値、及び第3基準値と綱車の溝部の直径、及び第1演算手段によって演算された回転量とに基づいて、ロープのうちかごが上記区間を移動する時に綱車に巻き掛けられる部分の直径を演算する第2演算手段と、第2演算手段によって演算された直径に基づいて、ロープが劣化しているか否かを判定する判定手段と、を備える。第1基準値は、綱車の溝部の直径に対する基準の値である。第2基準値は、ロープの部分の直径に対する基準の値である。第3基準値は、かごが上記区間を移動する時の綱車の回転量に対する基準の値である。
【0007】
本開示に係るエレベーターシステムは、仮想的に分割された複数の区間を含む昇降路を移動するかごと、かごを吊り下げるロープと、ロープが巻き掛けられた綱車と、綱車を回転させる電動機と、かごが複数の区間のそれぞれを移動する時の綱車の回転量を演算する第1演算手段と、第1基準値と複数の区間のそれぞれに対する第2基準値及び第3基準値とを記憶する記憶手段と、複数の区間のそれぞれに対して、第1基準値、並びに対象区間に対する第2基準値及び第3基準値と綱車の溝部の直径、及び第1演算手段によって演算された、かごが当該対象区間を移動する時の綱車の回転量とに基づいて、ロープのうちかごが当該対象区間を移動する時に綱車に巻き掛けられる部分の直径を演算する第2演算手段と、第2演算手段によって演算された直径に基づいて、ロープが劣化しているか否かを判定する判定手段と、を備える。第1基準値は、綱車の溝部の直径に対する基準の値である。複数の区間のそれぞれに対する第2基準値は、ロープのうちかごが複数の区間のそれぞれを移動する時に綱車に巻き掛けられる部分の直径に対する基準の値である。複数の区間のそれぞれに対する第3基準値は、かごが複数の区間のそれぞれを移動する時の綱車の回転量に対する基準の値である。
【0008】
本開示に係る検査端末は、昇降路を移動するかごと、かごを吊り下げるロープと、ロープが巻き掛けられた綱車と、綱車を回転させる電動機と、を備えたエレベーター装置において、ロープを検査するための検査端末である。検査端末は、かごが昇降路の特定の区間を移動する時の綱車の回転量を演算する第1演算手段と、第1基準値、第2基準値、及び第3基準値を記憶する記憶手段と、第1基準値、第2基準値、及び第3基準値と綱車の溝部の直径、及び第1演算手段によって演算された回転量とに基づいて、ロープのうちかごが上記区間を移動する時に綱車に巻き掛けられる部分の直径を演算する第2演算手段と、第2演算手段によって演算された直径に基づいて、ロープが劣化しているか否かを判定する判定手段と、を備える。第1基準値は、綱車の溝部の直径に対する基準の値である。第2基準値は、ロープの部分の直径に対する基準の値である。第3基準値は、かごが上記区間を移動する時の綱車の回転量に対する基準の値である。
【0009】
本開示に係る検査端末は、仮想的に分割された複数の区間を含む昇降路を移動するかごと、かごを吊り下げるロープと、ロープが巻き掛けられた綱車と、綱車を回転させる電動機と、を備えたエレベーター装置において、ロープを検査するための検査端末である。検査端末は、かごが複数の区間のそれぞれを移動する時の綱車の回転量を演算する第1演算手段と、第1基準値と複数の区間のそれぞれに対する第2基準値及び第3基準値とを記憶する記憶手段と、複数の区間のそれぞれに対して、第1基準値、並びに対象区間に対する第2基準値及び第3基準値と綱車の溝部の直径、及び第1演算手段によって演算された、かごが当該対象区間を移動する時の綱車の回転量とに基づいて、ロープのうちかごが当該対象区間を移動する時に綱車に巻き掛けられる部分の直径を演算する第2演算手段と、第2演算手段によって演算された直径に基づいて、ロープが劣化しているか否かを判定する判定手段と、を備える。第1基準値は、綱車の溝部の直径に対する基準の値である。複数の区間のそれぞれに対する第2基準値は、ロープのうちかごが複数の区間のそれぞれを移動する時に綱車に巻き掛けられる部分の直径に対する基準の値である。複数の区間のそれぞれに対する第3基準値は、かごが複数の区間のそれぞれを移動する時の綱車の回転量に対する基準の値である。
【発明の効果】
【0010】
例えば、本開示に係るエレベーターシステムでは、第1演算手段が、かごが昇降路の特定の区間を移動する時の綱車の回転量を演算する。第2演算手段は、第1基準値、第2基準値、及び第3基準値と綱車の溝部の直径、及び第1演算手段によって演算された回転量とに基づいて、ロープのうちかごが上記区間を移動する時に綱車に巻き掛けられる部分の直径を演算する。判定手段は、第2演算手段によって演算された直径に基づいて、ロープが劣化しているか否かを判定する。本システムであれば、追加の機器を要することなく、ロープが劣化していることを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1におけるエレベーターシステムの例を示す図である。
【
図3】制御装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図4】S104の劣化判定処理の例を示すフローチャートである。
【
図5】綱車にロープが巻き掛けられた状態を示す図である。
【
図10】直径Dの取得例を示すフローチャートである。
【
図11】直径Dの他の取得例を示すフローチャートである。
【
図12】制御装置のハードウェア資源の例を示す図である。
【
図13】制御装置のハードウェア資源の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して詳細な説明を行う。重複する説明は、適宜簡略化或いは省略する。各図において、同一の符号は同一の部分又は相当する部分を示す。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1におけるエレベーターシステムの例を示す図である。
図1に示すエレベーターシステムは、エレベーター装置1を備える。エレベーター装置1は、ネットワーク2を介して情報センター3に接続される。
【0014】
ネットワーク2は、例えばIPネットワークである。IPネットワークは、通信プロトコルとしてIP(Internet Protocol)を用いた通信ネットワークである。ネットワーク2は、クローズドネットワークでも良いし、オープンネットワークでも良い。情報センター3は、多数のエレベーター装置を管理する。エレベーター装置1は、情報センター3が管理するエレベーター装置の一例である。
【0015】
エレベーター装置1は、かご11及びつり合いおもり12を備える。かご11は、昇降路13を上下に移動する。つり合いおもり12は、昇降路13を上下に移動する。かご11及びつり合いおもり12は、ロープ14によって昇降路13に吊り下げられる。ロープ14は、例えばワイヤロープである。
【0016】
巻上機15は、綱車16、電動機17、及びエンコーダ18(
図1では図示せず)を備える。ロープ14は、綱車16に巻き掛けられる。電動機17は、綱車16を回転させる。即ち、電動機17は、かご11を駆動する。エンコーダ18は、綱車16の回転角を検出する。エンコーダ18は、基準からの回転角に応じた信号を出力する。エンコーダ18は、綱車16の回転角を検出する検出器の一例である。巻上機15は、制御装置19によって制御される。制御装置19は、ネットワーク2を介して情報センター3と通信可能である。制御装置19が有する通信機能は、エレベーター装置1において別装置として備えられても良い。
【0017】
図1は、昇降路13の上方の機械室20に巻上機15及び制御装置19が設置される例を示す。巻上機15及び制御装置19は、昇降路13に設置されても良い。巻上機15及び制御装置19が昇降路13に設置される場合、巻上機15及び制御装置19は、昇降路13の頂部に設置されても良いし、昇降路13のピットに設置されても良い。
【0018】
かご11に秤装置21が設けられる。秤装置21は、かご11の積載荷重を測定する。
図1は、秤装置21がかご11の下部に設けられる例を示す。秤装置21は、ロープ14の端部に設けられても良い。
【0019】
昇降路13に、プレート22が設けられる。プレート22は、かご11が停止する各乗場23の高さに合わせて配置される。
図1は、上下に隣接する2つの乗場23、例えばn階の乗場23と(n+1)階の乗場23とを示す。以下においては、乗場を個別に特定する必要がある場合、n階の乗場に対して符号23-nを付す。同様に、プレートを個別に特定する必要がある場合、乗場23-nの高さに合わせて配置されたプレートに対して符号22-nを付す。例えば、プレート22-5は、5階の乗場23-5の高さに合わせて配置される。
【0020】
かご11に、プレート22を検出するための検出器24が設けられる。検出器24は、例えば光電センサである。
図1は、かご11がある階の乗場23に停止している例を示す。かご11の床面は、その階の乗場23の床面と同じ高さに配置される。かご11が
図1に示す高さに配置されていれば、検出器24は、当該乗場23の高さに合わせて配置されたプレート22を検出する。
【0021】
調速機25は、かご11の速度が特定の速度を超えた際に、かご11の移動を強制的に停止させるための装置である。調速機25は、かご11の速度が特定の第1速度を超えると、巻上機15に対する電源を遮断してかご11を電気的に停止させる。調速機25は、かご11の速度が特定の第2速度を超えると、非常止め(図示せず)を動作させてかご11を機械的に停止させる。第2速度は、第1速度より速い速度である。
【0022】
調速機25は、調速車26、調速ロープ27、連結部材28、及びエンコーダ29(
図1では図示せず)を備える。
【0023】
図1に示す例では、調速車26は、機械室20に回転自在に設けられる。調速車26は、昇降路13の頂部に設けられても良い。調速ロープ27は無端状である。調速ロープ27は調速車26に巻き掛けられる。連結部材28は、かご11に設けられる。調速ロープ27は、連結部材28を介してかご11に連結される。かご11が移動すると、調速ロープ27が移動する。調速ロープ27が移動すると、調速車26が回転する。エンコーダ29は、調速車26の回転角を検出する。エンコーダ29は、基準からの回転角に応じた信号を出力する。
【0024】
図2は、制御装置19の機能を説明するための図である。
図2に示すように、制御装置19は、記憶部40、通信部41、動作制御部42、演算部43、取得部44、演算部45、及び判定部46を備える。
【0025】
以下に、
図3から
図7も参照し、ロープ14を検査する方法について詳しく説明する。
図3は、制御装置19の動作例を示すフローチャートである。
【0026】
制御装置19では、ロープ14の検査を開始するための開始信号を受信したか否かが判定される(S101)。例えば、ロープ14の検査は、エレベーター保守員によって行われる。保守員は、携帯端末4を所持して、エレベーター装置1が備えられたビルを訪れる。携帯端末4は、例えばスマートフォンである。保守員は、携帯端末4から開始信号を送信する。他の例として、開始信号は、かご11に備えられた操作盤30から送信されても良い。開始信号は、情報センター3から送信されても良い。通信部41が開始信号を受信すると、S101でYesと判定される。
【0027】
S101でYesと判定されると、動作制御部42は、ロープ14を検査するための運転を開始する。具体的に、動作制御部42は、かご11を最下階の乗場23に停止させる(S102)。以下においては、かご11が1階から10階の各乗場23に停止する例について説明する。即ち、最下階は1階である。動作制御部42は、S102において、検出器24がプレート22-1を検出する位置にかご11を停止させる。
【0028】
次に、動作制御部42は、かご11を最上階の乗場23に移動させる(S103)。上述したように、最上階は10階である。動作制御部42は、S103において、検出器24がプレート22-10を検出する位置にかご11を停止させる。
【0029】
かご11が乗場23-1を出発した後、かご11が乗場23-2を通過する際に検出器24はプレート22-2を検出する。その後、かご11が乗場23-3を通過する際に、検出器24はプレート22-3を検出する。同様に、かご11が乗場23を通過する度に、検出器24はプレート22を検出する。
【0030】
そして、S103でかご11が乗場23-10に停止すると、ロープ14の劣化状態を判定するための処理が開始される(S104)。
図4は、S104の劣化判定処理の例を示すフローチャートである。劣化判定処理は、S102でかご11が乗場23-1を出発した直後から開始されても良い。
【0031】
昇降路13には、仮想的に分割された複数の区間が含まれる。この複数の区間は、上下に連続する。かご11は、当該複数の区間を移動する。例えば、上下に隣接する2つのプレート22の間が1つの区間である。最下階が1階で、最上階が10階であれば、昇降路13に9つの区間が存在する。以下においては、プレート22-nからプレート22-(n+1)までの区間を区間nと表記する。
【0032】
図4は、S202からS208に示す一連の処理が各区間に対して行われる例を示す。先ず、S201においてn=1に設定される。演算部43は、かご11が区間nを移動する時に綱車16が回転する量Δθnを演算する。例えば、かご11が区間1を移動する時に、区間1の起点において、検出器24はプレート22-1を検出する。検出器24がプレート22-1を検出した時の綱車16の回転角θ1がエンコーダ18によって検出される。演算部43は、エンコーダ18によって検出された回転角θ1を取得する(S202)。
【0033】
同様に、かご11が区間1を移動する時に、区間1の終点において、検出器24はプレート22-2を検出する。検出器24がプレート22-2を検出した時の綱車16の回転角θ2がエンコーダ18によって検出される。演算部43は、エンコーダ18によって検出された回転角θ2を取得する(S203)。演算部43は、S202で取得した回転角θ1とS203で取得した回転角θ2とに基づいて、かご11が区間1を移動する時の綱車16の回転量Δθ1を演算する(S204)。
【0034】
取得部44は、綱車16の溝部の直径Dを取得する(S205)。なお、直径Dの中点は、綱車16の回転軸上の点である。一例として、直径Dは、保守員によって実測される。保守員は、直径Dの測定値を携帯端末4から入力し、制御装置19に送信する。取得部44は、通信部41が携帯端末4から受信した値を直径Dとして取得する。
【0035】
図5は、綱車16にロープ14が巻き掛けられた状態を示す図である。
図5に示す例では、ロープ14は、綱車16に形成された溝の底に接触していない。かかる場合、直径Dは、溝の底とみなされる部分の直径である。また、
図5に示すように、綱車16の有効径は、ロープ14の直径をdとすると、D+d/2+d/2=D+dで表される。
【0036】
図6は、直径Dの測定例を示す図である。
図6は、綱車16に形成された溝のうちロープ14が巻き掛けられていない部分に検出子31を押し当てる例を示す。
図6に示す例では、基準面と検出子31の先端との距離L1に基づいて直径Dが測定される。
図7は、直径Dの他の測定例を示す図である。
図7は、基準面からのロープ14の突出量L2を測定し、直径Dを導く例を示す。
【0037】
取得部44によって直径Dが取得されると、演算部45は、ロープ14の直径dnを演算する(S206)。直径dnは、ロープ14のうち、かご11が区間nを移動する時に綱車16に巻き掛けられている部分の直径である。演算部45は、次式によって直径dnを演算する。
【0038】
【0039】
式(1)において、D´は、綱車16の溝部の直径Dに対する基準値である。基準値D´は、記憶部40に予め記憶される。式(1)において、Δθ´nは、かご11が区間nを移動する時の綱車16の回転量Δθnに対する基準値である。基準値Δθ´nは、記憶部40に予め記憶される。基準値Δθ´nに関しては、記憶部40に、区間毎の値が記憶される。即ち、記憶部40には、区間1に対する基準値Δθ´1、区間2に対する基準値Δθ´2、区間3に対する基準値Δθ´3、・・・、及び区間9に対する基準値Δθ´9が記憶される。
【0040】
式(1)において、d´nは、ロープ14のうちかご11が区間nを移動する時に綱車16に巻き掛けられている部分の直径dnに対する基準値である。基準値d´nは、記憶部40に予め記憶される。基準値d´nに関しては、記憶部40に、区間毎の値が記憶される。即ち、記憶部40には、区間1に対する基準値d´1、区間2に対する基準値d´2、区間3に対する基準値d´3、・・・、及び区間9に対する基準値d´9が記憶される。
【0041】
一例として、エレベーター装置1の据付時に測定された各値が、基準値D´、基準値Δθ´n、及び基準値d´nとして記憶部40に記憶される。基準値D´及び基準値d´nは、設計値であっても良い。その後、エレベーター装置1の改修時に測定された各値に基づいて、基準値D´、基準値Δθ´n、及び基準値d´nが更新されても良い。
【0042】
かご11が区間nを移動している時の綱車16の有効径は、D+dnである。したがって、かご11の移動量は、π(D+dn)×Δθnで表される。エレベーター装置1の据付時もロープ14の検査時も区間nの距離、即ちかご11の移動量は変化しない。したがって、次式が成立する。なお、式(1)は、次式から導かれる。
【0043】
【0044】
式(1)に示すように、演算部45は、S206において、記憶部40に記憶された基準値D´、基準値Δθ´1、及び基準値d´1と、S204で演算された回転量Δθ1及びS205で取得された直径Dとに基づいて、直径d1を演算する。
【0045】
次に、判定部46は、演算部45によって演算された直径dnに基づいて、ロープ14が劣化しているか否かを判定する(S207)。例えば、記憶部40に、劣化判定のための閾値ThAが記憶される。判定部46は、S206で演算された直径d1と閾値ThAとを比較する。判定部46は、S206で演算された直径d1が閾値ThAより小さければ、ロープ14が劣化していることを判定する。判定部46は、S206で演算された直径d1が閾値ThAより大きければ、ロープ14が劣化していることを判定しない。
【0046】
S207でロープ14の劣化判定が行われると、区間nに関する検査結果が記憶部40に記憶される(S208)。一例として、検査結果には、S206で演算された直径d1の情報が含まれる。他の例として、検査結果に、S207における判定結果が含まれる。
【0047】
ある区間に対する一連の処理が終了すると、当該一連の処理が全ての区間に対して行われたか否かが判定される(S209)。S209でNoと判定されるとnに1が加算される(S210)。例えばnの値が2になる。これにより、区間2に対して上記一連の処理が開始される。
【0048】
即ち、S202において、検出器24がプレート22-2を検出した時の綱車16の回転角θ2が取得される。S203において、検出器24がプレート22-3を検出した時の綱車16の回転角θ3が取得される。S204において、演算部43は、かご11が区間2を移動する時の綱車16の回転量Δθ2を演算する。
【0049】
また、S206において、演算部45は、基準値D´、基準値Δθ´2、及び基準値d´2と、既に取得されている直径D、及びS204で演算された回転量Δθ2とに基づいて、直径d2を演算する。S207において、判定部46は、演算部45によって演算された直径d2に基づいて、ロープ14が劣化しているか否かを判定する。例えば、判定部46は、S206で演算された直径d2が閾値ThAより小さければ、ロープ14が劣化していることを判定する。S208において、区間2に関する検査結果が記憶部40に記憶される。
【0050】
そして、仮想的に分割された上記複数の区間のそれぞれに対して、回転量Δθnの演算、直径dnの演算、ロープ14の劣化判定、及び検査結果の記録が行われる。全ての区間に対して上記一連の処理が行われ、S209でYesと判定されることにより、劣化判定処理は終了する。
【0051】
本実施の形態に示す例であれば、エレベーター装置1に追加の機器を要することなく、ロープ14が劣化していることを判定できる。このため、本エレベーターシステムは、特に既設のエレベーター装置1への適用が容易である。
【0052】
ロープ14は、曲げ回数が多い程早く劣化する。このため、ロープ14の劣化は全長に亘って一様に進行する訳ではない。本実施の形態に示す例では、予め設定された区間毎に、ロープ14の劣化を判定できる。このため、ロープ14のうち劣化の進行が早い部分を容易に特定することができる。
【0053】
本エレベーターシステムでは、S209でYesと判定された後に、以下に示すような動作が行われても良い。
【0054】
例えば、少なくとも何れか一つの区間において、ロープ14が劣化しているとS207で判定されると、動作制御部42は、その後のかご11の運転を休止しても良い。
【0055】
他の例として、本エレベーターシステムは、検査結果を報知する機能を備えても良い。例えば、通信部41がS101で携帯端末4から開始信号を受信すると、通信部41は、検査結果を携帯端末4に送信する。これにより、携帯端末4の表示器4aに、検査結果が表示される。通信部41がS101で操作盤30から開始信号を受信した場合、通信部41は、検査結果を操作盤30に送信しても良い。これにより、操作盤30の表示器30aに、検査結果が表示される。通信部41がネットワーク2を介して情報センター3から開始信号を受信した場合、通信部41は、検査結果を情報センター3に送信しても良い。これにより、情報センター3に備えられた表示器3aに、検査結果が表示される。
【0056】
通信部41が送信する検査結果には、一部の区間の検査結果しか含まれていなくても良い。例えば、通信部41は、検査結果を送信することにより、ロープ14のうちS206で演算された直径dnが最も小さい部分に対する判定部46の判定結果を表示器4a、3a、或いは30aに表示させても良い。
【0057】
以下に、本エレベーターシステムが採用可能な他の機能について説明する。エレベーターシステムは、以下に示す複数の機能を組み合わせて採用しても良い。
【0058】
制御装置19は、演算部47を更に備えても良い。上述したように、S206で演算された直径dnは、S208で記憶部40に記憶される。記憶部40には、検査の度に直径dnが蓄積される。演算部47は、S206で直径dnが演算されると、今回演算された直径dnと過去に演算された直径dnとに基づいて、直径dnの時間変化率を演算する。例えば、n=1であれば、演算部47は、S206で直径d1が演算されると、今回演算された直径d1と前回演算された直径d1とに基づいて、直径d1の時間変化率を演算する。n=2であれば、演算部47は、S206で直径d2が演算されると、今回演算された直径d2と前回演算された直径d2とに基づいて、直径d2の時間変化率を演算する。同様に、演算部47は、上記複数の区間のそれぞれに対して、直径dnの時間変化率を演算する。
【0059】
図8は、演算部47の機能を説明するための図である。
図8は、ロープ14の直径の時間変化を示す。
図8に示すように、ロープ14の使用が開始された直後の期間P1では、ロープ14の初期伸びが発生するため、ロープ14の直径の時間変化率は大きくなる。期間P1後の期間P2では、ロープ14の直径の時間変化率は、期間P1における時間変化率より小さくなる。そして、期間P2が経過した後の期間P3において、ロープ14の直径の時間変化率は再び大きくなる。
【0060】
判定部46は、演算部47によって演算された時間変化率に基づいて、ロープ14が劣化している否かを判定しても良い。例えば、判定部46は、演算部47によって演算された時間変化率が特定の閾値ThBより大きければ、ロープ14が劣化していると判定する。期間P1においてロープ14が劣化していると判定することを防止するため、判定部46は、ロープ14が一定期間以上使用されている場合のみ、直径の時間変化率に基づく劣化判定を行っても良い。
【0061】
判定部46は、S206で演算された直径dnが閾値ThCより小さく且つ演算部47によって演算された時間変化率が閾値ThBより大きい場合に、ロープ14が劣化していると判定しても良い。閾値ThCは、閾値ThAより大きい値である。なお、制御装置19が演算部47を備える場合でも、判定部46は、S206で演算された直径dnが閾値ThAより小さければ、ロープ14が劣化していることを判定する。
【0062】
本実施の形態では、ロープ14の検査のためにかご11を最下階の乗場23から最上階の乗場23に移動させる例について説明した。これは一例である。動作制御部42は、ロープ14の検査のためにかご11を最上階の乗場23から最下階の乗場23に移動させても良い。動作制御部42は、ロープ14の検査のために、かご11を上記複数の区間の一部だけ移動させても良い。例えば、かご11を乗場23-5から乗場23-6に移動させ、区間5に対してのみロープ14の検査を実施しても良い。
【0063】
本実施の形態では、演算部43が、かご11が上方に移動する時の綱車16の回転量Δθnを演算する例について説明した。これは好適な例である。本実施の形態に示す例では、かご11とつり合いおもり12とがロープ14によって吊り下げられる。ロープ14のうち綱車16からかご11側に延びる部分の張力とつり合いおもり12側に延びる部分の張力とは、かご11の重量とつり合いおもり12の重量とが一致していなければ同じにならない。上記2つの張力に差があれば、ロープ14のうち綱車16から送り出される部分に、当該差に起因する伸縮が発生する。
【0064】
本実施の形態に示す例では、かご11に設けられた検出器24によってかご11の位置が検出される。このため、かご11が下方に移動する場合は、検出器24が上記伸縮の影響を受けてしまう。かご11が上方に移動する時に検出された回転角θnに基づいて回転量Δθnの演算を行うことにより、上記伸縮の影響を受けずに回転量Δθnを演算できる。
【0065】
本実施の形態では、かご11の位置を検出する手段として、プレート22と検出器24とを備える例について説明した。当該手段として、かご11の絶対位置を連続的に検出するための検出器を備えても良い。他の例として、調速機25を当該手段として採用しても良い。かかる場合、制御装置19に演算部48が更に備えられる。演算部48は、エンコーダ29によって検出された調速車26の回転角に基づいてかご11の位置を演算する。何れの例においても、当該手段によって検出された位置に基づいて、上記複数の区間のそれぞれが特定される。
【0066】
エレベーター装置1は、温湿度計32を更に備えても良い。かかる場合、制御装置19は、補正部49を更に備える。温湿度計32は、昇降路13の温度及び湿度を測定する。補正部49は、温湿度計32によって測定された温度及び湿度に基づいて、S206で演算部45によって演算された直径dnを補正する。判定部46は、補正部49によって補正された直径dnに基づいて、S207においてロープ14が劣化しているか否かを判定する。
【0067】
図9は、補正部49の機能を説明するための図である。
図9に示す実線は、
図8に示す実線と同一である。
図9に示す破線は、温度と湿度とを考慮した場合のロープ14の直径の時間変化を示す。ロープ14の中心部に備えられた麻等の繊維は吸湿する。このため、湿度が高くなるとロープ14の直径は大きくなる。また、ロープ14が備える鋼製の素線は、温度が高くなると膨張する。このため、ロープ14の直径は、温度及び湿度が高い程大きくなり、温度及び湿度が低い程小さくなる傾向がある。補正部49は、この傾向に応じて、演算部45によって演算された直径dnを補正する。制御装置19が補正部49を備えることにより、温度及び湿度を考慮した劣化判定が可能となる。このため、判定精度を更に向上させることができる。
【0068】
本実施の形態では、エレベーター装置1で通常サービスが行われていない時にロープ14の検査を行う例について説明した。これは好適な例である。ロープ14の検査は、通常サービスが行われている時に実施されても良い。かかる場合、制御装置19は、検出部50を更に備える。
【0069】
通常サービスでは、乗客を目的階に運ぶための運転が行われる。一例として、S102でかご11が乗場23-1に停止し、乗客が登録した呼びに応じてS103で乗場23-10に移動する場合を考える。S102でかご11が乗場23-1に停止すると、かご11のドア33が開く。この時、ドア33が開く前のかご11の積載荷重W1が秤装置21によって測定される。その後にドア33が閉じると、ドア33が閉じた後のかご11の積載荷重W2が秤装置21によって測定される。検出部50は、積載荷重W1と積載荷重W2との差を検出する。
【0070】
乗客が乗場23-1でかご11から降りると、かご11の積載荷重が変化する。同様に、乗場23-1で乗客がかご11に乗ってくると、かご11の積載荷重が変化する。かご11はロープ14に吊られているため、かご11の積載荷重が変化すると、かご11の位置が変わってしまう。このような理由から、演算部43は、検出部50によって検出された差が特定の閾値ThDを超える場合、回転量Δθnを演算しなくても良い。即ち、検出部50によって検出された差が閾値ThDを超える場合は、ロープ14の劣化判定は行われない。なお、閾値ThDは、記憶部40に予め記憶される。
【0071】
他の例として、制御装置19は、検出部50に加え、補正部51を更に備えても良い。上述したように、検出部50は、積載荷重W1と積載荷重W2との差を検出する。補正部51は、検出部50によって検出された差に応じて、演算部43によって演算された回転量Δθnを補正する。例えば、補正部51は、かご11が上方に移動する場合、積載荷重W2より積載荷重W1が大きければ、検出部50によって検出された差に応じた補正値を演算部43によって演算された回転量Δθnに加算する。補正部51は、かご11が上方に移動する場合、積載荷重W1より積載荷重W2が大きければ、検出部50によって検出された差に応じた補正値を演算部43によって演算された回転量Δθnから減算する。
【0072】
また、劣化判定処理が終了した後に、動作制御部42は、かご11を特定の確認位置に停止させる運転を実施しても良い。確認位置は、保守員がロープ14の特定の部分をかご11の上から目視で確認するための位置である。例えば巻上機15が昇降路13の頂部に配置されていると、保守員は、ロープ14のうち綱車16に巻き掛けられている部分を目視できない場合がある。かかる場合、保守員は、例えば上記運転を開始するための確認信号を携帯端末4から送信する。
【0073】
一例として、劣化判定処理において、n=3の時にロープ14が劣化しているとS207で判定された場合を考える。かかる場合、通信部41が確認信号を受信すると、動作制御部42は、ロープ14のうちかご11が区間3を移動する時に綱車16に巻き掛けられる部分がかご11の上から視認できるように、かご11を停止させる。動作制御部42は、ロープ14のうち演算部45によって演算された直径dnが最も小さい部分がかご11の上から視認できるように、かご11を停止させても良い。これにより、保守員は、ロープ14の劣化状態を容易に確認できる。なお、確認位置は、ロープ14の特定の部分を昇降路13のピットから視認するための位置であっても良い。
【0074】
本実施の形態では、取得部44が、保守員による実測値を直径Dとして取得する例について説明した。取得部44は、保守員による実測値以外の値を直径Dとして取得しても良い。一例として、最上階のかご11の停止位置より上方或いは最下階のかご11の停止位置より下方に、特定のサービス外区間が設定される。サービス外区間は、通常サービスにおいてかご11が移動しない区間である。
【0075】
図10は、直径Dの取得例を示すフローチャートである。動作制御部42は、かご11に当該サービス外区間を移動させる(S301)。以下の説明では、サービス外区間を区間0(n=0)として表記する。次に、演算部43は、かご11がサービス外区間を移動した時の綱車16の回転量Δθ0を演算する(S302)。なお、かご11の位置を検出する方法は、どのような方法であっても良い。
【0076】
次に、取得部44は、次式によって綱車16の溝部の直径Dを取得する(S303)。式(3)は、式(1)と同様に式(2)から導かれる
【0077】
【0078】
上述したように、D´は、綱車16の溝部の直径Dに対する基準値である。式(3)において、Δθ´0は、かご11がサービス外区間を移動する時の綱車16の回転量Δθ0に対する基準値である。基準値Δθ´0は、記憶部40に予め記憶される。式(3)において、d´0は、ロープ14のうちかご11がサービス外区間を移動する時に綱車16に巻き掛けられている部分の直径d0に対する基準値である。基準値d´0は、記憶部40に予め記憶される。
【0079】
上述したように、通常サービスにおいて、かご11はサービス外区間を移動しない。このため、ロープ14のうちかご11がサービス外区間を移動する時に綱車16に巻き掛けられる部分は、他の部分と比較して殆ど劣化していない。このため、取得部44は、式(3)において、d0=d´0とする。即ち、取得部44は、S303において、記憶部40に記憶された基準値D´、基準値Δθ´0、及び基準値d´0と、S302で演算された回転量Δθ0とに基づいて、直径Dを演算する。そして、演算部45は、取得部44によって取得された直径Dに基づいて、S206においてロープ14の直径dnを演算する。
【0080】
図11は、直径Dの他の取得例を示すフローチャートである。
図11に示す例では、制御装置19は、演算部52及び特定部53を更に備える。上述したように、S101でYesと判定されると、かご11は最下階の乗場23-1から最上階の乗場23-10に移動する。かご11が乗場23-10に停止すると、先ず、S401においてn=1に設定される。演算部43は、S204と同様に、かご11が区間nを移動する時の綱車16の回転量Δθnを演算する(S402)。n=1であれば、演算部43は回転量Δθ1を演算する。
【0081】
次に、演算部52は、S401で演算された回転量Δθnの基準値Δθ´nからの増加率を演算する(S403)。n=1であれば、演算部52は、S403において回転量Δθ1の基準値Δθ´1からの増加率を演算する。ある区間に対して増加率の演算が行われると、全ての区間について当該増加率が演算されたか否かが判定される(S404)。S404でNoと判定されるとnに1が加算される(S405)。例えばnの値が2になる。これにより、S403において回転量Δθ2の基準値Δθ´2からの増加率が演算される。そして、上記複数の区間のそれぞれに対して、S403において増加率の演算が行われる。
【0082】
S404でYesと判定されると、特定部53は、上記複数の区間の中から、S403で演算された増加率が最も小さい区間を基準区間として特定する(S406)。以下の説明では、特定部53によって特定された基準区間を区間m(n=m)として表記する。特定部53によって基準区間が特定されると、取得部44は、次式によって綱車16の溝部の直径Dを取得する(S407)。式(4)は、式(3)と同様に式(2)から導かれる。
【0083】
【0084】
式(4)において、Δθ´mは、かご11が基準区間を移動する時の綱車16の回転量Δθmに対する基準値である。式(4)において、d´mは、ロープ14のうちかご11が基準区間を移動する時に綱車16に巻き掛けられている部分の直径dmに対する基準値である。
【0085】
ロープ14のうち、かご11が基準区間を移動する時に綱車16に巻き掛けられている部分は、劣化が最も進行していない部分である。このため、取得部44は、式(4)において、dm=d´mとする。即ち、
図11は、ロープ14のうち劣化が最も進行していない部分を利用して、綱車16の溝部の直径Dを取得する例を示す。取得部44は、S407において、記憶部40に記憶された基準値D´、基準値Δθ´m、及び基準値d´mと、演算部43によって演算された回転量Δθmとに基づいて、直径Dを演算する。そして、演算部45は、取得部44によって取得された直径Dに基づいて、S206においてロープ14の直径dnを演算する。
【0086】
他の例として、取得部44は、綱車16の累積回転数に基づいて綱車16の溝部の摩耗量を算出し、その算出結果から直径Dを取得しても良い。エレベーター装置1の据付時或いは改修時からの綱車16の累積回転数は、記憶部40に記憶される。取得部44は、綱車16の溝部の摩耗量を算出する際に、ロープ14の張力、及び溝の形状等を考慮しても良い。
【0087】
なお、保守員による実測値以外の値が直径Dとして採用されている場合は、上記複数の区間の全てにおいてロープ14が劣化していることがS207で判定されると、判定部46は、綱車16の溝部の摩耗が進行していることを判定しても良い。
【0088】
本実施の形態では、ロープ14の検査機能をエレベーター装置1の制御装置19が備える例について説明した。ロープ14の検査機能は、他の検査端末に備えられても良い。例えば、符号40~53に示す各部は、携帯端末4に備えられても良い。符号40~53に示す各部は、情報センター3のサーバ(図示せず)に備えられても良い。
【0089】
本実施の形態において、符号40~53に示す各部は、制御装置19が有する機能を示す。
図12は、制御装置19のハードウェア資源の例を示す図である。制御装置19は、ハードウェア資源として、例えばプロセッサ61とメモリ62とを含む処理回路60を備える。記憶部40の機能は、メモリ62によって実現される。メモリ62として、半導体メモリ等が採用できる。制御装置19は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61によって実行することにより、符号41~53に示す各部の機能を実現する。
【0090】
図13は、制御装置19のハードウェア資源の他の例を示す図である。
図13に示す例では、制御装置19は、例えばプロセッサ61、メモリ62、及び専用ハードウェア63を含む処理回路60を備える。
図13は、制御装置19が有する機能の一部を専用ハードウェア63によって実現する例を示す。制御装置19が有する機能の全部を専用ハードウェア63によって実現しても良い。専用ハードウェア63として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらの組み合わせを採用できる。
【0091】
検査装置のハードウェア資源は、
図12或いは
図13に示す例と同様である。例えば、検査装置は、ハードウェア資源として、プロセッサとメモリとを含む処理回路を備える。検査装置は、メモリに記憶されたプログラムをプロセッサによって実行することにより、符号41~53に示す各部の機能を実現する。検査装置は、ハードウェア資源として、プロセッサ、メモリ、及び専用ハードウェアを含む処理回路を備えても良い。検査装置が有する機能の一部或いは全部を専用ハードウェアによって実現しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示に係るエレベーターシステムは、かごがロープで吊り下げられたシステムに適用できる。
【符号の説明】
【0093】
1 エレベーター装置、 2 ネットワーク、 3 情報センター、 3a 表示器、 4 携帯端末、 4a 表示器、 11 かご、 12 つり合いおもり、 13 昇降路、 14 ロープ、 15 巻上機、 16 綱車、 17 電動機、 18 エンコーダ、 19 制御装置、 20 機械室、 21 秤装置、 22 プレート、 23 乗場、 24 検出器、 25 調速機、 26 調速車、 27 調速ロープ、 28 連結部材、 29 エンコーダ、 30 操作盤、 30a 表示器、 31 検出子、 32 温湿度計、 33 ドア、 40 記憶部、 41 通信部、 42 動作制御部、 43 演算部、 44 取得部、 45 演算部、 46 判定部、 47 演算部、 48 演算部、 49 補正部、 50 検出部、 51 補正部、 52 演算部、 53 特定部、 60 処理回路、 61 プロセッサ、 62 メモリ、 63 専用ハードウェア