(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】固定子用または回転子用のコイル巻線
(51)【国際特許分類】
H02K 3/28 20060101AFI20221220BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H02K3/28 N
H02K3/04 E
(21)【出願番号】P 2019514737
(86)(22)【出願日】2017-10-02
(86)【国際出願番号】 EP2017075004
(87)【国際公開番号】W WO2018065375
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】102016118871.9
(32)【優先日】2016-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518160584
【氏名又は名称】シェフラー エルモテック スタトマット ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】サディク, サディク
(72)【発明者】
【氏名】ヴィトベール, キース エー.
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-084635(JP,A)
【文献】特開2009-033832(JP,A)
【文献】特開2013-251990(JP,A)
【文献】特許第110238(JP,C2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/28
H02K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械の固定子(10)または回転子の放射状に開いたスロット(16)に挿入するように構成されたコイル巻線(20)であって、
前記コイル巻線(20)が、互いに編み組まれた複数のワイヤ(22)からなり、前記複数のワイヤ(22)がそれぞれ相対する方向に数回折り曲げられることで、前記複数のワイヤ(22)のそれぞれの肢部(28、30)が、前記複数のワイヤ(22)の他のものの肢部に平行に配置され、前記複数のワイヤ(22)の前記肢部(28、30)が、前記スロット(16)を埋めることを意図されており、前記固定子(10)または前記回転子の端面を超えて突出する巻線オーバーハング(32、34)によってつながり、
前記巻線オーバーハング(32、34)が、巻線オーバーハング先端部(44、46)を間に配する2つの斜めに延びる巻線オーバーハング部(36、38、40、42)をそれぞれ有し、前記複数のワイヤ(22)が、前記コイル巻線(20)の長手方向(L)において相前後するように配置され、前記複数のワイヤ(22)が第1および第2グループ(G)に分けられ、1つのグループ(G)の前記複数のワイヤ(22)が電機機械の異なる相に関連付けられ、相毎に偶数本のワイヤが設けられ、
相毎に同じ数のワイヤが各グループに関連付けられ、1つのグループ(G)のワイヤが、少なくとも前記肢部(28、30)の区域で隣り合い、前記コイル巻線(20)の前記長手方向(L)において相前後するように配置され、前記第1グループ(G)の前記ワイヤの上向き肢部(28)が前記第2グループ(G)のワイヤの下向き肢部(30)に重なり、前記グループ(G)がそれぞれ少なくとも2つのワイヤグループ(D)を有し、各ワイヤグループ(D)が3本のワイヤ(22)を有し、前記第2グループ(G)の対応するワイヤグループ(D)が、前記第1グループ(G)の各ワイヤグループ(D)に関連付けられ、前記第1グループ(G)の前記ワイヤグループ(D)のワイヤの上向き肢部(28)が、前記第2グループ(G)の前記対応するワイヤグループ(D)のワイヤの下向き肢部(30)に重なり、1つのワイヤグループ(D)の前記ワイヤが、同じ相(A、B、C)を有し、前記長手方向(L)における前記コイル巻線の長さ全体にわたって分布するように、1つのワイヤグループ(D)の第1のワイヤの巻線オーバーハング(32、34)が、前記長手方向(L)に沿って当該ワイヤグループ(D)
の2本の
第2のワイヤの前記巻線オーバーハング(32、34)を越えて前記長手方向(L)に突出し、
前記複数のワイヤ(22)の順番が、それぞれのワイヤグループ(D)内でのみ入れ替わり、すなわち1つの相(A、B、C)内でのみ入れ替わることで、影響を及ぼし合う異なる相(A、B、C)に属するワイヤの影響が極力抑えられる、コイル巻線。
【請求項2】
前記固定子の円周方向(L)において、少なくとも1本の前記第1のワイヤの第1の巻線オーバーハング(32、34)が、前記2本の第2のワイヤの第2の巻線オーバーハング(32、34)を越えて軸線方向に突出し、前記少なくとも1本の第1のワイヤと前記2本の第2のワイヤが、前記肢部(28、30)の区域で前記円周方向(L)に隣り合って配置される、請求項1に記載のコイル巻線。
【請求項3】
前記巻線オーバーハング(32、34)が、ワイヤおよび/または前記コイル巻線に沿って均一に分布するように配置され
る、請求
項2に記載のコイル巻線。
【請求項4】
前記巻線オーバーハング(32、34)が、
実質的に前記長手方向(L)
に延びるかつ/または前記長手方向(L)
に平行に配置され
る接続部(48)を有し、前記接続部(48)
が、前記長手方向(L)
に平行な面に位置す
る、請求項
2に記載のコイル巻線。
【請求項5】
前記巻線オーバーハング(32、34)の前記巻線オーバーハング先端部(44、46)が
、前記長手方向(L)
に平行な面に位置
する、請求項
2に記載のコイル巻線。
【請求項6】
前記複数のワイヤ(22)がそれぞれ、下向き肢部(30)、下側巻線オーバーハング(34)、上向き肢部(28)および上側巻線オーバーハング(32)をそれぞれが備える複数の区画(50)
を有し
、前記
2本の
第2のワイヤ(
22)の前記巻線オーバーハング(
32、
34)を
越えて前記長手方向(L)
を横
切るように突出する前記巻線オーバーハング(32、34)の前記巻線オーバーハング先端部(44、46)が、前記
第1のワイヤ
および前記2本の第2のワイヤの前記下側巻線オーバーハング(34)または前記上側巻線オーバーハング(32)
に設けられ
る、請求項
4に記載のコイル巻線。
【請求項7】
前記複数のワイヤ(22)がワイヤグループ(D)に細分され、前記ワイヤグループ(D)のうちの1つの前記ワイヤが、少なくとも前記肢部(28、30)の前記区域で隣り合い、前記コイル巻線の長手方向(L)において相前後するように配置され、肢部(28、30)の区域において前記長手方向(L)において後方にある、
当該ワイヤグループ(D)のワイヤの前記巻線オーバーハング(32、34)が、
当該ワイヤ
グループ(D)
の前記
2本の第2のワイヤの前記巻線オーバーハング(32、34)を越えて前記長手方向(L)を横切るように突出し、前記第1のワイヤが、前記長手方向(L)に平行に配置され前記巻線オーバーハング部(36、38、40、42)を接続する接続部(48)を有し、前記接続部(48)が、前記長手方向(L)に平行な面に位置する、請求項1に記載のコイル巻線。
【請求項8】
前記
複数のワイヤ(22)の数が
、前記ワイヤグループ(D)の数および/または
前記ワイヤグループ
(D
)毎の前記
複数のワイヤ(22)の数の倍数であ
る、請求項
1に記載のコイル巻線。
【請求項9】
前記
複数のワイヤ(22)
のそれぞれの端
部が、それぞれの上側巻線オーバーハング(32)の側に突出する
接続部(24、26)を有する、請求項
1に記載のコイル巻線。
【請求項10】
少なくとも1本の第1のワイヤの前記巻線オーバーハング(32、34)を越えて前記長手方向(L)を横切るように突出する前記巻線オーバーハング(32、34)が、ワイヤおよび/または前記コイル巻線に沿って均一に分布するように配置される、請求項2に記載のコイル巻線。
【請求項11】
少なくとも1本の第1のワイヤ(22)の前記巻線オーバーハング(32、34)を越えて前記長手方向(L)を横切るように突出する前記巻線オーバーハング(32、34)が、実質的に前記長手方向(L)に延びるかつ/または前記長手方向(L)に平行に配置される接続部(48)を有し、前記接続部(48)が、前記長手方向(L)に平行な面に位置する、請求項2に記載のコイル巻線。
【請求項12】
放射状に開いたスロット(16)を有する、電気機械用の固定子(10)または回転子において、
請求項1~
11のいずれか一項に記載のコイル巻線(20)が設けられ、前記
複数のワイヤ(22)の前記肢部(28、30)が
、前記放射状に開いたスロット(16)に配置され
る、固定子または回転子。
【請求項13】
放射状に開いたスロット(16)を有する、電気機械用の固定子(10)または回転子において、
請求項1~11のいずれか一項に記載のコイル巻線(20)が設けられ、前記スロット(16)の数が、前記コイル巻線(20)の前記複
数のワイヤ(22)の数の倍数に相当す
る、固定子または回転子。
【請求項14】
放射状に開いたスロット(16)を有する、電気機械用の固定子(10)または回転子において、
請求項1~11のいずれか一項に記載のコイル巻線(20)が設けられ、前記
複数のワイヤ(22)
がそれぞれ、下向き肢部(30)、下側巻線オーバーハング(34)、上向き肢部(28)および上側巻線オーバーハング(32)を備
え、前記
複数のワイヤ(22)の
第1のワイヤの少なくとも1つ
の下向き肢部(30)
と前記
複数のワイヤ(22)の
第2のワイヤの1つ
の上向き肢部(28)とが
、前記スロット(16)のそれぞれに配置され
る、固定子
または回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械の固定子または回転子の放射状に開いたスロットに挿入するためのコイル巻線に関し、コイル巻線は、スロットを埋めることになるワイヤの互いに平行に位置する肢部が固定子または回転子の端面を超えて突出する巻線オーバーハング(突出部)によってつながるように互いに編み組まれ相対する方向に数回折り曲げられた多数のワイヤからなり、各巻線オーバーハングは巻線オーバーハング先端部をそれぞれ間に配する2つの斜めに延びる巻線オーバーハング部を有し、ワイヤはコイル巻線の長手方向において互いが前後になるように配置される。本発明はさらに、この種のコイル巻線を備える固定子または回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機用の回転子または固定子は略円筒状または中空円筒状の本体を有し、放射状スロットが円周にわたって均一に分布するように配置され本体全体にわたって軸線方向に延び、異なる相に関連付けられた複数のワイヤを備えるコイル巻線がスロットに挿入される。
【0003】
コイル巻線は、固定子の円周方向に相当する長手方向に略沿って伸びている。ワイヤは相対する方向に数回折り曲げられているため、互いに平行であって長手方向において前後になるように位置する複数の肢部を各ワイヤが有する。肢部はそれぞれ屋根状オーバーハングによってつながるため、ワイヤは長手方向において略波形またはジグザグ形の外形を有する。平行な肢部はそれぞれスロットに挿入されるようになっている。各巻線オーバーハングは本体の端面を超えて突出する。
【0004】
固定子または回転子の円周方向に相当する長手方向においてワイヤが前後になるように配置され、肢部の区域で個々のワイヤは、長手方向を横切るとともに平行な肢部の長さの方向を横切る方向において重なることができる。その結果、肢部がスロットに挿入された状態で、前記肢部が固定子の内側径方向位置と隣の外側径方向位置とで交互になる。これらのワイヤは複数の相に関連付けられ、隣接するワイヤグループのそれぞれを、1つの相の複数のワイヤによって形成することができる。1つのスロットには1つの相のワイヤをそれぞれ配置するのが好ましい。
【0005】
固定子の効率、ひいては電動機の効率はとりわけ固定子のワイヤ配置、すなわちコイル巻線の種類に左右される。まず、できるだけ密なコイル巻線が望ましい。次に、ワイヤ同士が接触しないようにすること、または異なる相のワイヤが互いに悪影響を及ぼさないようにすることが望ましい。
【0006】
ワイヤは場合によってより高い巻線オーバーハングを有して、長手方向において連続する2つの肢部の間で前記ワイヤが長手方向において前に位置するワイヤを飛び越えることができ、肢部の区域でのワイヤの順番が次の区画で入れ替わることが基本的に先行技術により既知である。より大きく飛び越すことができるようにするには、たとえば2本以上のワイヤを飛び越すには、巻線オーバーハングの高さをその分増やす必要があり、その結果、固定子または回転子の全体の高さが増加してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、回転子または固定子の全体の高さが低く、ワイヤの順番を所望の仕方で入れ替えることのできるコイル巻線を提供することである。さらに本発明の目的は、寸法が元のままで固定子または回転子の効率を向上することができるコイル巻線を提供することである。さらに別の目的は、この種のコイル巻線を備え、全体の高さが低く、効率ができるだけ高い固定子または回転子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主要点は請求項1および14の特徴部分に明記される。改良点は、請求項2から13、15および16の内容である。
【0009】
上記目的を達成するため、電気機械の固定子または回転子の放射状に開いたスロットに挿入するためのコイル巻線が設けられ、コイル巻線は、スロットを埋めることになるワイヤの互いに平行に位置する肢部が固定子または回転子の端面を超えて突出する巻線オーバーハングによってつながるように互いに編み組まれ相対する方向に数回折り曲げられた多数のワイヤからなり、各巻線オーバーハングは巻線オーバーハング先端部をそれぞれ間に配する2つの斜めに延びる巻線オーバーハング部を有し、ワイヤはコイル巻線の長手方向において互いが前後になるように配置される。少なくとも1本のワイヤの、コイル巻線の長さ全体にわたって長手方向において分布する巻線オーバーハングは、巻線オーバーハングに続く肢部の区域で当該ワイヤが、巻線オーバーハング前方で最初に続く少なくとも1本のワイヤの少なくとも前に位置するように、長手方向において後に続く当該少なくとも1本のワイヤの巻線オーバーハングを超えて長手方向に対して横方向に突出する。したがって、コイル巻線の全体の長さにわたってワイヤの順番が入れ替わる。この入れ替えは、すぐ隣に位置するワイヤ同士や固定子または回転子の1つのスロットに位置するワイヤ同士が互いに悪影響を及ぼさないように行うのが好ましい。
【0010】
巻線オーバーハングに続く肢部の区域でワイヤが、巻線オーバーハング前方で最初に続く少なくとも1本のワイヤの少なくとも前に位置するように、長手方向において後に続く当該少なくとも1本のワイヤの巻線オーバーハングを超えて長手方向に対して横方向に突出する巻線オーバーハングを各ワイヤが少なくとも1つ有することが好ましい。
【0011】
巻線オーバーハングに続く肢部の区域でワイヤが、巻線オーバーハング前方で最初に続く少なくとも1本のワイヤの少なくとも前に配置されるように、長手方向において後に続く当該少なくとも1本のワイヤの巻線オーバーハングを超えて長手方向に対して横方向に突出する巻線オーバーハングが、ワイヤおよび/またはコイル巻線に沿って均一に分布するように配置されるのが好ましく、これによりワイヤの順番の入れ替えの均一な分布が生じる。
【0012】
巻線オーバーハングに続く肢部の区域でワイヤが、巻線オーバーハング前方で最初に続く少なくとも1本のワイヤの少なくとも前に配置されるように、長手方向において後に続く当該少なくとも1本のワイヤの巻線オーバーハングを超えて長手方向に対して横方向に突出する巻線オーバーハングは、長手方向に略沿って延在および/または長手方向に対して平行に配置された接続部を有することができ、接続部は特に長手方向に対して平行な面に位置する。この種の接続部があると、所望の数のワイヤを飛び越えることができ、固定子または回転子の全体の高さは、飛び越え幅、すなわち飛び越えられたワイヤの数とは無関係である。これによりワイヤは他のワイヤを所望の数分飛び越えることができるため、ワイヤの順番を自由に入れ替えることが可能である。そのため、各相のワイヤが互いに悪影響を及ぼさないように配置されることでこのタイプのコイル巻線で固定子の効率ができる限り高くなるように、ワイヤ、特に肢部の順番を適合させることができる。
【0013】
各ワイヤは接続部を少なくとも1つ有するため、肢部の区域でワイヤの順番が規則的に入れ替わる。個々のワイヤが規則的に飛び越えるようにするのが好ましく、すなわち肢部の区域でワイヤの順番が規則的な反復パターンで入れ替わることで、接続部が均一に分布する。この場合、個々の接続部が交差したり接触したりしないようにワイヤの飛び越えが選択される。飛び越えの分布および1つの接続部で飛び越えられるワイヤの数は、固定子または回転子の効率ができるだけ高くなるように、たとえばワイヤの数、スロットの数または相の数および分布によって選択されるのが好ましい。
【0014】
巻線オーバーハングに続く肢部の区域でワイヤが、巻線オーバーハング前方で最初に続く少なくとも1本のワイヤの少なくとも前に配置されるように、長手方向において後に続く当該少なくとも1本のワイヤの巻線オーバーハングを超えて長手方向に対して横方向に突出する巻線オーバーハングの巻線オーバーハング先端部は、長手方向に対して平行な面に位置するのが好ましく、他の巻線オーバーハングは前記面から離れた面に配置される。巻線オーバーハングに続く肢部の区域でワイヤが、巻線オーバーハング前方で最初に続く少なくとも1本のワイヤの少なくとも前に配置されるように、長手方向において後に続く当該少なくとも1本のワイヤの巻線オーバーハングを超えて長手方向に対して横方向に突出する巻線オーバーハングの巻線オーバーハング先端部の面の肢部からの距離は、他の巻線オーバーハング先端部の面の肢部からの距離よりも長い。
【0015】
下向き肢部、下側巻線オーバーハング、上向き肢部および上側巻線オーバーハングをそれぞれ備える複数の区画をワイヤが有するのが好ましい。巻線オーバーハングに続く肢部の区域でワイヤが、巻線オーバーハング前方で最初に続く少なくとも1本のワイヤの少なくとも前に配置されるように、長手方向において後に続く当該少なくとも1本のワイヤの巻線オーバーハングを超えて長手方向に対して横方向に突出する巻線オーバーハングの巻線オーバーハング先端部のそれぞれが、ワイヤの下側巻線オーバーハングまたは上側巻線オーバーハングに設けられる。
【0016】
したがって、固定子または回転子の端面のうちの一方のみにおいてワイヤが飛び越えられるため、固定子または回転子の端面のうちの他方では全体の高さに影響がない。しかし、規則的な飛び越えすなわち接続部を端面の両方、すなわち上側巻線オーバーハングと下側巻線オーバーハングとに設けることも可能である。
【0017】
好ましくは、長手方向に対して垂直であり、肢部の長さの方向に対して垂直である方向において、ワイヤの上向き肢部は別のワイヤの下向き肢部の後ろに位置する。
【0018】
たとえば、ワイヤは第1グループおよび第2グループに分けられ、それぞれのグループではワイヤが少なくとも肢部の区域で隣り合い、コイル巻線の長手方向において前後になるように配置され、第1グループのワイヤの上向き肢部が第2グループのワイヤの下向き肢部の後ろに位置する。
【0019】
各グループは、電動機の異なる相に関連付けられたワイヤを有する。したがって、各相のワイヤ数が偶数であり、各相同数のワイヤが各グループに関連付けられる。重なる2本のワイヤの肢部は同じ相に関連付けられている。これにより、異なる相のワイヤが1つのスロット内においてすぐ隣に位置することおよび互いに悪影響を及ぼすことを防いでいる。
【0020】
ワイヤがワイヤグループに細分されるのが好ましく、1つのワイヤグループのワイヤが少なくとも肢部の区域で隣り合い、コイル巻線の長手方向において前後になるように配置され、1つのワイヤアセンブリのうち肢部の区域で長手方向において後方にあるワイヤの巻線オーバーハングがワイヤアセンブリの他のワイヤの巻線オーバーハングを超えて長手方向に対して横方向に突出し、長手方向に対して平行に配置されて巻線オーバーハング部を接続する接続部を後方のワイヤが巻線オーバーハングに有し、巻線オーバーハングに続く肢部の区域で後方のワイヤが、少なくとも他のワイヤの1つの前に位置するように、特にワイヤグループのうち長手方向において先頭にあるワイヤを形成するように接続部が配置される。
【0021】
1つのワイヤグループのワイヤは同じ相を有するのが好ましい。したがって、ワイヤの順番はそれぞれのワイヤグループ内でのみ、すなわち1つの相内でのみ入れ替わるため、異なる相のワイヤ同士の影響が極力抑えられる。1つの相内でワイヤの順番が入れ替わることで、コイル巻線のパワーまたはこの種のコイル巻線を備える固定子の力がいっそう強まる。結果としてパワーを弱める過電流の発生が極力抑えられるからである。
【0022】
たとえば、各ワイヤグループは少なくとも3本のワイヤを有し、ワイヤグループ内でのワイヤの順番は、特定の、特に反復性のパターンで入れ替えられる。
【0023】
ワイヤの数は、ワイヤグループの数および/またはワイヤグループ毎のワイヤ数の倍数であることが好ましく、これによりワイヤの反復パターンが生じる。コイル巻線が固定子または回転子を数周回する場合でも、同じ相のワイヤ、すなわち同じワイヤグループのワイヤまたは少なくとも同じ相のワイヤが1つのスロット内に位置するようにワイヤの入れ替えが選択されるのが好ましく、これにより、1つのスロット内で異なる相のワイヤが悪影響を及ぼすことはない。しかし、基本的に、1つのスロットに同じワイヤが位置していなければならないわけではない。1つのスロット内のワイヤが同じ相であれば足りる。
【0024】
グループそれぞれがワイヤグループを少なくとも2つ有するのが好ましく、第1グループのワイヤグループに、第2グループの対応するワイヤグループがいずれも関連付けられ、第1グループのワイヤグループのワイヤの上向き肢部が、第2グループの対応するワイヤグループのワイヤの下向き肢部にそれぞれ重なる。このワイヤ配置によって、1つのスロットには必ず同じ相のワイヤが位置するため、1つのスロット内で異なる相のワイヤ同士が悪影響を及ぼすのを防ぐことができる。
【0025】
ワイヤは各端に接続部を有し、接続部が上側巻線オーバーハングの側に突出しているのが好ましい。
【0026】
上記目的を達成するため、電気機械用の固定子または回転子がさらに提供され、固定子または回転子は放射状に開いたスロットを有する。回転子または固定子は上述のコイル巻線を有し、ワイヤの肢部がスロット内に配置される。
【0027】
スロット数はコイル巻線のワイヤ数の倍数に相当するのが好ましく、これにより円周方向に規則的なワイヤのパターンが生じる。その結果、コイル巻線の長さが十分にあれば、コイル巻線を固定子または回転子に数回巻き付けることも可能であり、1つのスロット内には同じワイヤグループおよび/または同じ相のワイヤが位置するため、1つのスロット内で異なる相のワイヤ同士が悪影響を及ぼすのを防ぐことができる。
【0028】
ワイヤ毎に下向き肢部、下側巻線オーバーハング、上向き肢部および上側巻線オーバーハングを備える区画の数は、ワイヤの少なくとも1つの下向き肢部と2つ目のワイヤの1つの上向き肢部とが各スロットに配置されるように選択される。したがって、円周方向における肢部の均一な分布がスロット内に生じる。
【0029】
ワイヤは平角線であるのが好ましく、これによりスロット内で場所を取らずにワイヤを挿入することができる。
【0030】
本発明のさらなる特徴、詳細および利点は、特許請求の範囲における記載および例示的実施形態について図面を参照しながらの下記説明から集めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】先行技術のコイル巻線を備える固定子の図である。
【
図2】
図1から抜き出された固定子用の先行技術のコイル巻線の図である。
【
図3】本発明に係るコイル巻線の一実施形態の概略図である。
【
図4】
図3から抜き出されたコイル巻線の1つのワイヤグループのワイヤの図である。
【
図5】
図3から抜き出されたコイル巻線の詳細図である。
【
図6】
図5から抜き出された詳細図の区域における、
図4から抜き出されたワイヤの詳細図である。
【
図7】固定子のスロットに対する、
図3から抜き出されたコイル巻線のワイヤの関連表である。
【
図8】本発明に係る別のコイル巻線の概略図である。
【
図9】固定子のスロットに対する、
図8から抜き出されたコイル巻線のワイヤの関連表である。
【
図10】本発明に係るさらに別のコイル巻線の概略図である。
【
図11】固定子のスロットに対する、
図10から抜き出されたコイル巻線のワイヤの関連表である。
【
図12】本発明に係るさらにもう一つのコイル巻線の概略図である。
【
図13】固定子のスロットに対する、
図12から抜き出されたコイル巻線のワイヤの関連表である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、コイル巻線20を備える固定子10を全体として表している。固定子10は、回転子(図示せず)のための略円筒状の収容スペース14を有する本体12を備える。収容スペース14の周縁にわたり均一に分布するように配置され、収容スペース14から放射状に外側へ本体12内に延在し、固定子10の全長にわたり軸線方向に延在する複数のスロット16を本体12が有する。
【0033】
図2に表されたコイル巻線20は複数のワイヤ22を有し、本明細書に示される実施形態では6本のワイヤ22を有し、それぞれのワイヤ22は各端部に接続部24、26を有する。互いに平行に位置し、巻線オーバーハング32、34によって互いにつながった肢部28、30を有するように、各ワイヤ22は相対する方向に数回折り曲げられている。肢部28、30はどれも長手方向Lにおいて互いが前後になるように配置されている。各巻線オーバーハング32、34は、巻線オーバーハング先端部44、46をそれぞれ間に配する2つの斜めに延びる巻線オーバーハング部36、38、40、42を有する。
【0034】
少なくとも肢部28、30の区域でコイル巻線20が固定子10に挿入されている状態で固定子10の円周方向Uに略相当するコイル巻線20の長手方向Lにおいて、互いが前後になるようにワイヤが配置される。3つの相A、B、Cがワイヤに関連付けられるのが好ましい。そこで、各相A、B、Cにそれぞれ2本のワイヤ22が関連付けられる。肢部28、30の長さの方向に対して垂直であり、長手方向Lに対して垂直である方向において、あるワイヤ22の上向き肢部28がどれも、別のワイヤ22の下向き肢部30に重なるようにワイヤ22の数が選択される。本明細書に示される実施形態においては、最初の3本のワイヤ22と残り3本のワイヤ22とがどれも重なる。相A、B、Cのうち同じ相のワイヤ22が肢部28、30の区域においてそれぞれ重なるのが好ましい。
【0035】
図1から見て取れるように、肢部28がスロット16に挿入されており、巻線オーバーハング3、34がスロット16を超えて、つまり固定子10を超えて軸線方向に突出している。あるワイヤ22の上向き肢部28が別のワイヤ22の下向き肢部30とそれぞれ重なるため、少なくとも2つの肢部28、30、特に1つ目のワイヤ22の上向き肢部28と2つ目のワイヤ22の下向き肢部30とが各スロット16に配置される。各スロット16には同数のワイヤ22が配置されるため、スロット16内で円周方向Uにおけるワイヤ22の均一な分布がもたらされる。
【0036】
コイル巻線20の長さが十分にあれば、コイル巻線20を複数の巻回により固定子10に挿入することも可能である。しかし、巻回数にかかわらず、同数の上向き肢部28と下向き肢部30とが各スロット16に配置されるようにコイル巻線20の長さが選択される。
【0037】
ワイヤ22の数および相A、B、Cの数は、ちょうどスロット16の数のように所望の数に変更可能であり、スロット16と各相A、B、Cのワイヤ22が円周方向において必ず均一に分布するようにすればよい。
【0038】
基本的に、コイル巻線20の小区域内で各ワイヤ22の位置を入れ替えることは既知であり、巻線オーバーハング28、30の区域でワイヤ22がそれぞれ別のワイヤ22を飛び越える。
【0039】
この飛び越えは、たとえばワイヤ22の巻線オーバーハング部36、38、40、42を長めに設計することにより得られるため、それぞれの巻線オーバーハング32、34によってつながった肢部28、30の距離は特にスロット16の距離の分だけ長くなる。同時に、飛び越えられるワイヤ22の巻線オーバーハング部36、38、40、42は短めに設計されるため、それぞれの巻線オーバーハング32、34によってつながった肢部28、30の距離距離は特にスロット16の距離の分だけ短くなる。
【0040】
1本のワイヤ22が複数のワイヤ22を飛び越えることが望ましい場合、それぞれの巻線オーバーハング32、34をその分だけ延長する必要があり、その結果、軸線方向における固定子の全体の高さが増す。
【0041】
図3は所望の方法でワイヤの順番を入れ替えることのできるコイル巻線20を表しており、固定子10の全体の高さは、飛び越えられるワイヤ22の数にはほとんど無関係である。
【0042】
本実施形態において、コイル巻線20は18本のワイヤ22を有し、90個のスロットと10個の極とを備える固定子10用に設計されている。
【0043】
全部で3つの異なる相A、B、Cがワイヤ22に関連付けられている。後で詳述されるとおり、固定子10が円周方向Uにおいて全部で3巻回を有するように、つまり、各スロット16にワイヤ22の肢部28、30が合計6つ位置するようにコイル巻線20が設計される。
【0044】
基本的な概念はワイヤ22およびスロット16の数が異なるコイル巻線20または固定子10にも適用可能であることは自明である。巻回数および相A、B、Cの数も、後述の境界状態の条件で所望の数に変更可能である。
【0045】
基本的に、ワイヤ22はそれぞれが9本のワイヤからなる2つのグループGに細分され、各グループGはそれぞれが3本のワイヤ22からなるワイヤグループDを3つ有する。1つのグループDのワイヤ22は相A、B、Cのうちの同じ相に関連付けられ、各グループGは相A、B、Cの1つに応付けられたワイヤグループDを各相につき1つ有する。したがって、いずれも3本のワイヤ22からなり、3つの相A、B、Cにそれぞれ関連付けられたワイヤグループDが6つできる。
【0046】
下記において、第1相のワイヤ22をA1からA6としても表し、第2相のワイヤ22をB1からB6としても表し、第3相のワイヤ22をC1からC6としても表す。ワイヤA1~A3、B1~B3、C1~C3は第1グループGに属する。ワイヤA4~A6、B4~B6、C4~C6は第2グループGに属する。
【0047】
1つのワイヤグループDのワイヤ22は長手方向Lにおいてそれぞれ隣接するように配置され、ワイヤ22は少なくとも肢部28、30の区域で互いが前後になるように配置される。1つのグループGのワイヤグループDは互いが前後になるように配置され、ワイヤグループDの相互の順番は変わらない。第2グループGのワイヤグループDは長手方向において第1グループGにすぐ続き、第2グループGのワイヤグループDの順番は第1グループGのワイヤグループDの順番に対応する。
【0048】
基本的に、ワイヤ22の距離および巻線オーバーハング部36、38、40、42の長さは、長手方向Lを横切るとともに、肢部28、30の長さの方向を横切る方向において、第1グループのワイヤグループDの下向き肢部30がそれぞれ、相A、B、Cのうち同じ相を有する第2グループのワイヤグループDの上向き肢部28に重なるように選択される。したがって、相A、B、Cのうち同じ相の肢部28、30またはワイヤ22が必ず重なる。
【0049】
1つのグループGの9つの下向き肢部30と、それに重なる他のグループGの9つの上向き肢部28とが、スロット16に挿入された状態で、固定子10の極を1つ形成する(
図7も参照)ため、スロットが90個ある場合には合計10個の極ができる。
【0050】
スロットの数はワイヤ22の数の倍数または1つのグループGのワイヤ22の数の倍数であるため、固定子10にコイル巻線20が複数回巻回されている場合でも、1つのスロット16内には相A、B、Cのうち1つの相のワイヤ22のみが存在する。このため、1つのスロット16内に相A、B、Cのうち異なる相のワイヤ22が存在することによる悪影響が防止される。
【0051】
本明細書に示される実施形態においては、コイル巻線20が完全に3巻回されて固定子10または固定子10のスロット16に挿入されるように、コイル巻線20の長さが選択される。したがって、各スロット内には、相A、B、Cのうち同じ相のワイヤ22がそれぞれ6本存在する。
【0052】
個々のワイヤ22の外形は、以下、ワイヤA1、A2、A3に関して
図4から
図6で説明する。ワイヤA4~A6、B1~B6、C1~C6はそれぞれ類似の外形を有する。
【0053】
上側巻線オーバーハング32におけるワイヤA1、A2、A3の順番がワイヤグループD内で変化するため、長手方向LにおけるワイヤA1、A2、A3の順番はそれぞれ、長手方向Lに連続する上向き肢部28の区域において変動する。そのために、上向き肢部28の区域で長手方向Lにおいて後方にあるワイヤA1、A2、A3が、続く下向き肢部30の区域で長手方向において、それぞれのワイヤグループDのワイヤA1、A2、A3のうち他の2本の前に配置されるように、当該ワイヤを上側巻線オーバーハングに配置する。
【0054】
上向き肢部28、上側巻線オーバーハング32、下向き肢部30および下側巻線オーバーハング34からなるワイヤグループDの区画50毎にこのパターンが繰り返されるため、1つのワイヤグループD内の肢部28、30の区域におけるワイヤ22の順番が、コイル巻線20の長さ全体にわたって繰り返し入れ替わる。したがって、ワイヤA1、A2、A3からなるワイヤグループDについて、連続する区画50において、A1-A2-A3、A2-A3-A1、A3-A1-A2という反復性の順番が生じる。
【0055】
18本のワイヤ22を有する従来のコイル巻線20では、1本のワイヤ22が9スロット目毎に位置する。本明細書に示される実施形態では、長手方向Lにおいて後方にあるワイヤ22がそれぞれさらに2つのスロット16を飛び越え、言い換えると、最後のスロット16から11番目のスロット16に飛び、このワイヤグループDの飛び越えられた2本のワイヤ22はそれぞれ1つ少ない数のスロット16を飛び越え、言い換えると、それぞれ8番目のスロット16に飛ぶ。1つのワイヤグループDのワイヤ22がそれぞれ交互に上記の飛び越しを行うため、ワイヤの3区画を過ぎた後で再び帳尻が合うことにより、1つのグループDのワイヤ22が常に長手方向Lにおいてすぐ隣に位置し、ワイヤグループDの相互の順番は変わらない。
【0056】
したがって、3本のワイヤA1、A2、A3からなるワイヤグループDの場合、肢部28、30の区域におけるワイヤA1、A2、A3の順番は3区画または6極を過ぎた後で繰り返しとなる。固定子10は合計10個の極を有するため、各区画において第2巻回および第3巻回がそれぞれ異なる順番のワイヤ22で始まることにより、相A、B、Cの各ワイヤ22は各スロット16に一度だけ配置されるが、1つのスロット16には常に相A、B、Cのうち1つの相のワイヤのみが配置される。個々のスロット内でのワイヤ22の分布は
図7から収集可能である。
【0057】
相A、B、Cのうち異なる相のワイヤ22が存在することによる渦電流などによる悪影響が防止されるため、上述の分布は固定子10の性能向上につながる。
【0058】
固定子10の全体の高さを減らすため、1つのワイヤグループDの他の2本のワイヤ22を飛び越えるワイヤ22の上側巻線オーバーハング32は、
図4および
図6に示されているようにいずれも異なる形状をしている。本明細書に示される実施形態において、長手方向Lに略沿って延びる、または長手方向Lに対して平行に延びる接続部48が、巻線オーバーハング部36、38の間にさらに設けられる。隣接する巻線オーバーハング部36、38が少し伸長され、接続部48がその下にある巻線オーバーハング32の巻線オーバーハング先端部44を超えて軸線方向に、すなわち長手方向Lに対して横方向に突出している。この場合、長手方向Lにおける接続部48の長さは、巻線オーバーハング32が接続する肢部28、30の距離が、隣接する2つの肢部28、30の間の2つのスロット16間の距離の2倍分長くなるように選択されるため、このワイヤグループの他の2本のワイヤ22は接続部48によって飛び越えられる。
【0059】
あるいは、接続部48を曲げることも可能であり、接続部48は長手方向L略沿って延びる。
【0060】
図4および
図6から見て取れるように、各接続部48は縦軸Lに対して平行な面に位置する。飛び越えられた巻線オーバーハング32の巻線オーバーハング先端部44は、接続部48の面から離れた面に位置し、接続部48の面の肢部28、30からの距離は、巻線オーバーハング先端部44の面の肢部28、30からの距離より長い。したがって、上側巻線オーバーハング32の巻線オーバーハング先端部44は2つの平行な面に配置される。
【0061】
平たい接続部48を有する巻線オーバーハング32とすることにより、1つのワイヤグループD内でワイヤ22の順番を所望の順番に入れ替えることが基本的に可能となり、固定子10の全体の高さは飛び越えられたワイヤ22の数には無関係である。接続部48が必ず互いに接触または交差しないようにしておけばよい。
【0062】
基本的に、各ワイヤグループDのワイヤ22の数および各グループGのワイヤ22の数は所望の形で変更可能である。特に、個々のワイヤグループは必須ではない。相の異なるワイヤグループDが設けられる場合、グループG同士はワイヤグループGを同数有し、ワイヤグループD毎のワイヤ数が同数であることが好ましい。相A、B、Cのうち異なる相のワイヤ2が存在することによる悪影響を避けるため、1つのスロット16には相A、B、Cのうち同じ相のワイヤ22のみを挿入するのが好ましい。
【0063】
基本的に、1つのワイヤグループD内または1つのグループG内でのワイヤ22の順番の入れ替えはコイル巻線20の長さ全体にわたって繰り返されるため、ワイヤ22の順番に反復パターンが生じる。このパターンは、固定子の1つのスロット16に相A、B、Cのうち同じ相のワイヤのみが配置されるように選択されるのが好ましく、1つのスロット16には絶えず変わるワイヤ22が位置するのが好ましい。
【0064】
図3から
図7は90個のスロットを備える固定子10用のコイル巻線2を表し、固定子は3つの相A、B、Cを有し、相A、B、Cのうち1相につき3本のワイヤ22を有する。したがって、円周方向において巻回毎に合計10つの極、すなわち5つの極対ができる。この場合、1つの極対は、1本のワイヤ22の上向き肢部28から、円周方向において後に続く当該ワイヤ22の上向き肢部28までの区画に相当する。
【0065】
コイル巻線2が合計3巻回される場合、各スロット16にはワイヤが6本位置する。スロット数は、ワイヤグループDの数、極対数および相A、B、Cの相毎のワイヤ22の数それぞれの倍数になっているため、1つのスロット16内のワイヤ22は相A、b、Cのうち同じ相を有する(特に
図7参照)。
【0066】
本発明の根本的な概念は、上述の原則に則るかぎり、相毎のワイヤ22の数が異なる相A、B、Cの数またはスロット16の数を異にした固定子10または回転子にも適用可能である。
【0067】
別の例を
図8および
図9で説明する。
図8から見て取れるように、コイル巻線2は同様に、3つの相A、B、Cがありそれぞれにつきワイヤ3が3本のワイヤグループDを2つ有する。しかし、
図3から
図7による例示的実施形から外れ、この巻線はスロット16を54個有する固定子用である。
【0068】
図8および下記の例では、上向き肢部28、下向き肢部30の区域の番号1~54が、肢部28、309が挿入される連番のスロットを表し、
図8において、前記肢部はそれぞれ数字の右側に配置されている。
【0069】
分かりやすくするために相AのワイヤA1、A2、A3、A4、A5、A6のみが示されている。しかし、下記の説明は相Bおよび相Cのワイヤ22についても同様にあてはまる。
【0070】
本例示的実施形態において、スロット16の数もワイヤグループDの数、極対数および相A、B、Cの相毎のワイヤ22の数それぞれの倍数になっているため、1つのスロット16内には相A、B、Cのうちの1つの相のワイヤのみが配置される。相Aのワイヤ22に関し、スロット内での分布が
図9に表されている。ただし1巻回のみが示されている。「A」はいずれもスロット16内の下方の位置を表し、「B」はその上のワイヤ22の位置を表す。
【0071】
U1、U2、U3、U4、U5、U6およびE1、E2、E3、E4、E5、E6はそれぞれワイヤA1、A2、A3、A4、A5、A6の電気的接続を示す。
【0072】
図8から見て取れるように、本実施形態でも、相A、B、Cそれぞれにつき長手方向Lにおいていずれも末尾のワイヤ22が、相A、B、Cそれぞれにつき長手方向Lにおいて前記末尾のワイヤの前に配置されるワイヤ22を上側巻線オーバーハング32で飛び越すため、後に続く下向き肢部30の区域では当該ワイヤ22がこれら2本のワイヤ22の前に配置される。
【0073】
個々のワイヤは下側巻線オーバーハング34では飛び越されない。したがって、本実施形態は
図3から
図7に表される実施形態に略相当し、スロット16および巻回の数のみが異なる。
【0074】
図10および
図11に示される例示的実施形態はスロット16を48個備える固定子で用いるためのものである。この巻線も3つの相A、B、Cを有し、各ワイヤグループDの相A、B、Cはそれぞれワイヤ22を2本だけ有する。したがって、前述の例示的実施形態では18本のワイヤ22がそれぞれ設けられている一方、ここではワイヤが合計12本だけ設けられている。よって、8つの極すなわち4つの極対ができる。
【0075】
図8および
図9と同様に、相AすなわちワイヤA1、A2、A3、A4の電気的接続はU1、U2、U3、U4およびE1、E2、E3、E4でそれぞれ表される。
【0076】
前述の例示的実施形態から外れ、1つの相のワイヤが上側巻線オーバーハング32および下側巻線オーバーハング34の両方において互いを飛び越す。したがって、1つのワイヤグループD内の相Aのワイヤ22の順番がいずれも上向き肢部28内および下向き肢部30内で同一になっている。ワイヤA2は上向き肢部28で長手方向LにおいてワイヤA1の前に配置され、ワイヤA1は下向き肢部30でワイヤA2の前に配置される。
【0077】
スロット16内での相Aのワイヤ22の分布は
図11に示されている。
【0078】
図12および
図13に示されるコイル巻線2も同様にスロット16を48個備える固定子用である。
図10および
図11に示される例示的実施形態から外れ、各ワイヤグループDの3つの相A、B、Cはそれぞれワイヤ22を4本有する。したがって、合計24本のワイヤが設けられ、4つの極すなわち2つの極対ができる。
【0079】
相AすなわちワイヤA1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、A8の電気的接続はU1、U2、U3、U4、U5、U6、U7、U8およびE1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、E8でそれぞれ表される。
【0080】
図12から見て取れるように、上向き肢部28の区域で長手方向Lにおいて後方にある1つ目のワイヤ22が、この区域で長手方向において前記1つ目のワイヤのすぐ前に配置される2つ目のワイヤ22を飛び越える。さらに、この区域で長手方向において3つ目のワイヤ22が、この区域で先頭にある4つ目のワイヤ22を飛び越える。したがって、上向き肢部28の区域でA1-A2-A3-A4の順番だとすると、長手方向Lにおいて隣接する下向き肢部30の区域ではA2-A1-A4-A3の順番になる。
【0081】
前述の例示的実施形態と同様に、上側巻線オーバーハング32および下側巻線オーバーハング34でそれぞれこの変化が同じように生じる。この変化は、いずれもワイヤA1とワイヤA2との間およびワイヤA3とワイヤA4との間で生じる。したがって、前述の実施形態と同様に、上向き肢部28の区域でのワイヤA1、A2、A3、A4の順番が同一、具体的にはA1-A2-A3-A4となり、ワイヤA1とワイヤA2との順番およびワイヤA3とA4との順番はそれぞれ下向き肢部30の区域で入れ替わる。
【0082】
説明した例示的実施形態から外れ、ワイヤ22の数、スロット16の数、相A、B、Cの数および相A、B、Cの相毎のワイヤ22の数を変えることが可能である。同様に、1つのワイヤグループDの相A、B、Cのうちある相のワイヤ22が、上向き肢部28または下向き肢部30の区域で長手方向Lにおいて前記ワイヤの前に配置されるワイヤであって当該ワイヤグループDの相A、B、Cのうち同じ相のワイヤを、所望の本数飛び越えることも可能である。必ず相A、B、Cのうち同じ相のワイヤ22のみがワイヤグループD内で飛び越えられるように、言い換えれば、1つのワイヤグループDの相A、B、Cの各相内のワイヤ22の順番のみが入れ替わるようにさえしておけばよい。
【0083】
1つのスロットには相A、B、Cのうち1つの相のワイヤのみが配置されるようにワイヤ22の順番を入れ替えるのが好ましい。
【0084】
特許請求の範囲、明細書および図面において明らかにされる特徴および利点は、構造の詳細、物理的配置および方法手順を含むその全てが、本発明そのものおよび非常に幅広い種類の組み合わせの両方にとって不可欠なものとなり得る。
【符号の説明】
【0085】
10 固定子
12 本体
12 本体
12 本体
14 収容スペース
16 スロット
20 コイル巻線
22 ワイヤ
24 接続部
26 接続部
28 上向き肢部
30 下向き肢部
32 上側巻線オーバーハング
34 下側巻線オーバーハング
36 巻線オーバーハング部
38 巻線オーバーハング部
40 巻線オーバーハング部
42 巻線オーバーハング部
44 上側巻線オーバーハング先端部
46 下側巻線オーバーハング先端部
48 接続部
A,B,C 相
A1,A2,A3 ワイヤグループのワイヤ
A4,A5,A6 ワイヤグループのワイヤ
B1,B2,B3 ワイヤグループのワイヤ
B4,B5,B6 ワイヤグループのワイヤ
C1,C2,C3 ワイヤグループのワイヤ
C4,C5,C6 ワイヤグループのワイヤ
D ワイヤグループ
G ワイヤのグループ
L 長手方向
U 円周方向