(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】リグニン含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08H 8/00 20100101AFI20221220BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08H8/00
C08J3/20 Z CEP
(21)【出願番号】P 2017201814
(22)【出願日】2017-10-18
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2016250013
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】唐須 幸子
(72)【発明者】
【氏名】吉村 好生
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-208803(JP,A)
【文献】特開2016-204664(JP,A)
【文献】特開2012-170355(JP,A)
【文献】特開昭59-192093(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0120596(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28
C08J99/00
C08H 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)~(3)を有する、リグニン含有組成物の製造方法。
工程(1):草本系バイオマスを、ニーダーにより、粉砕する工程であって、
ニーダーの処理チャンバーの有効容量に対する仕込み時の草本系バイオマスの充填率が、120kg-dry/m
3以上であり、前記ニーダーのニーディングブレードが、内壁に突起物を有するシリンダ内で回転するニーダーであって、前記シリンダ内の突起物によって、円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なるニーダーである工程
工程(2):工程(1)で得られた草本系バイオマスと塩基性化合物と水とをニーダーにより50℃以上130℃以下で混合する工程であって、ニーダーの草本系バイオマスの充填率は、120kg-dry/m
3以上であり、前記ニーダーのニーディングブレードが、内壁に突起物を有するシリンダ内で回転するニーダーであって、前記シリンダ内の突起物によって、円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なるニーダーであり、仕込み時の草本系バイオマスの乾燥質量が、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、15質量%以上28質量%以下であり、仕込み時の塩基性化合物が、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、4質量%以上10質量%以下であり、草本系バイオマスに、塩基性化合物、及び水を添加し、ニーダーによる混合後、保持温度を28℃以上130℃以下、保持時間を200分以上360分以下で保持する工程
工程(3):工程(2)で得られた草本系バイオマスを、固形分とリグニンを含有する液分とに分離する工程
【請求項2】
前記工程(2)で、ニーダーの草本系バイオマスの充填率が120kg-dry/m
3以上400kg-dry/m
3以下で混合する、請求項1に記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)で、ニーダーにより、草本系バイオマスの充填率が120kg-dry/m
3以上200kg-dry/m
3以下で粉砕する、請求項1又は2に記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)におけるニーダー内の圧力が大気圧である、請求項1~
3のいずれかに記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)において、クリアランスの最小値が1.0mm以上10mm以下であるニーダーにより粉砕する、請求項1~
4のいずれかに記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項6】
リグニンを含有する液分からリグニン含有組成物を回収する工程を、前記工程(3)後に更に有する、請求項1~
5のいずれかに記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項7】
前記回収する工程がリグニンを含有する液分のPHを2以上4以下に調整し、析出したリグニン含有組成物を回収する工程である、請求項
6に記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項8】
得られるリグニンの変性度が45%以下である、請求項1~
7のいずれかに記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項9】
前記ニーダーが、内壁に突起物を有するシリンダと、前記シリンダの長軸方向に配置された回転軸と、前記回転軸に設けられたニーディングブレードと、前記回転軸をシリンダ内で回転させる駆動装置と、を備え、
前記ニーディングブレードが回転軸方向に複数設けられ、
前記突起物が、前記ニーディングブレードの回転軸の軸方向の間に、前記シリンダ内の円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なるように配置された、請求項1~
8のいずれかに記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項10】
前記ニーダーが、処理物を運搬する螺旋状旋回翼群のスクリューを更に備え、前記スクリューが前記ニーディングブレードの上流に設けられた、請求項
9に記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項11】
前記ニーダーが、前記シリンダ及び前記ニーディングブレードを有するニーダーを2以上備えた多段ニーダーである、請求項1~
10のいずれかに記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ニーダーの数が2以上5以下である、請求項
11に記載のリグニン含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、草本系バイオマスからリグニンの分離を行う、リグニン含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源の枯渇、環境問題への配慮などから、グルカン(C6糖成分を構成単位とする多糖)やキシラン(C5糖成分を構成単位とする多糖)、リグニンを含有する非可食バイオマスの有効活用が注目されている。
このバイオマスを原料として、糖やリグニン由来組成物を製造し応用する試みがなされている。
バイオマス原料から高収率でリグニンを分離する方法として、一般に、製紙会社などで主に使用されているクラフト蒸解法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のクラフト蒸解法では、水酸化ナトリウムや亜硫酸ナトリウム混液中での加熱により、リグニンは多大な化学変性を受けてしまう。化学変性によりリグニンの構造は大きく変化する。よって、植物中に存在するリグニンをそのままの構造で取り出すことは困難であるため、バイオマス活用の観点で、リグニンの具体的な利用対象を見出すことが難しかった。そして、リグニンの変性度を低く抑えつつ、高い収率(リグニン離脱率)でリグニン含有組成物を得る製造方法が求められている。
本発明は、高い収率で、変性度が低く抑えられたリグニンが得られる、リグニン含有組成物の製造方法の提供を課題とする。
【0005】
本発明は、
草本系バイオマスと塩基性化合物と水とをニーダーにより50℃以上130℃以下で混合する工程と、
前記混合する工程で得られた草本系バイオマスを、固形分とリグニンを含有する液分とに分離する工程と、
を有する、リグニン含有組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い収率で、変性度が低く抑えられたリグニンが得られる、リグニン含有組成物の製造方法の提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】
図2は、固定ブロックブレードの配置を示すニーダーの断面概略図である。
【
図3】
図3は、ニーダー1の概略構成を示す拡大図である。
【0008】
[リグニン含有組成物の製造方法]
本発明のリグニン含有組成物の製造方法は、
草本系バイオマスと塩基性化合物と水とをニーダーにより50℃以上130℃以下で混合する工程と、
前記混合する工程で得られた草本系バイオマスを、固形分とリグニンを含有する液分とに分離する工程と、
を有する。
【0009】
本発明の方法によって、高い収率で、変性度が低く抑えられたリグニンが得られる理由は定かではないが、次のように考えられる。
従来の方法では、高温での処理であるためにリグニン内部の有用な構造が分解、縮合するために変性する。それに対し、低温での処理では、リグニン内部構造が保持されるため変性度が低いリグニンを得られると考えられる。また、ニーダーなどの機械的効果により圧縮と緩和を繰り返すことによって、薬液をバイオマス内部まで浸透させることが出来るため、バイオマス濃度が高い条件でも高い収率でリグニンを分離することが可能である。
【0010】
本発明のリグニン含有組成物の製造方法は、例えば、
工程(1):草本系バイオマスを、粉砕する工程(以下、単に「工程(1)」ともいう)と、
工程(2):工程(1)で得られた草本系バイオマスと塩基性化合物と水とをニーダーにより50℃以上130℃以下で混合する工程(以下、単に「工程(2)」ともいう)と、
工程(3):工程(2)で得られた草本系バイオマスを、固形分とリグニンを含有する液分とに分離する工程(以下、単に「工程(3)」ともいう)と、
工程(4):リグニンを含有する液分からリグニン含有組成物を回収する工程(以下、単に「工程(4)」ともいう)と、
を有する。
以下、工程(1)で得られた草本系バイオマスを「一次処理バイオマス」ともいう。
以下、工程(2)で得られた草本系バイオマスを「二次処理バイオマス」ともいう。
【0011】
<工程(1)>
工程(1)は、草本系バイオマスを、粉砕する工程である。
【0012】
〔草本系バイオマス〕
本発明の方法では、植物系バイオマスとして草本系バイオマスが用いられる。一般的に、植物系バイオマスは、セルロース、へミセルロース、及びリグニン等を含有する。草本系バイオマスに対して、工程(1)の粉砕又は工程(2)の塩基性化合物との混合を行うことでリグニンの脱離効果が得られやすくなる。
【0013】
草本系バイオマスとしては、例えば、サトウキビバガス、ソルガムバガス等のバガス、スイッチグラス、エレファントグラス、コーンストーバー、イナワラ、ムギワラ、オオムギ、ススキ、芝、ジョンソングラス、エリアンサス、ケナフ、ネピアグラス、及びパームヤシ空果房が挙げられる。これらの中でも、原料調達の容易性の観点から、バガスが好ましく、サトウキビバガスがより好ましい。
草本系バイオマスの含水率は、例えば、野積状態で保管されている様な草本系バイオマスの含水率の範囲であってもよく、原料調達の容易性の観点から、好ましくは30質量%以上、好ましくは35質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0014】
〔工程(1)の粉砕機〕
工程(1)の粉砕は、粉砕機を用いて行うことが好ましい。
粉砕機としては、メディアレス粉砕機であっても、振動ミル等のメディア式粉砕機であってもよいが、メディア由来の金属などの成分の混入を防ぐため、メディアレス粉砕機が好ましい。
メディアレス粉砕機としては、例えば、カッターミル(カッティングミル)、ニーダー、ペレットミル、ハンマーミル、ピンミル、ローラミル、ロールミルが挙げられる。
カッターミルとしては、一軸破砕機が挙げられる。カッターミルの市販品としては、例えば、一軸式破砕機「UG03-480YG(F)L」(株式会社ホーライ製)が挙げられる。
ニーダーとしては、後述の工程(2)で例示するニーダーが好適に用いられる。
ペレットミルとしては、ディスクダイ式ペレットミル、ロータリーダイ式ペレットミル、スクリュー式ペレットミルが挙げられる。これらの中でも、バイオマス繊維の絡み合いが少なくアルカリとの混合性が向上するため、ディスクダイ式ペレットミルが好ましく、ダイスとローラを有するダイローラがより好ましい。
ペレットミルの市販品としては、ディスクペレッター「F40型」(株式会社ダルトン製)が挙げられる。
これらの中でも、生産性向上の観点から、カッターミル(カッティングミル)、ニーダー、ペレットミルが好ましく、高い収率で、変性度が低く抑えられたリグニンを得る観点から、及び、工程(2)を連続的に行う観点から、ニーダーがより好ましい。
【0015】
工程(1)で用いるニーダーは、粉砕性向上の観点から、好ましくは、後述の工程(2)で例示するニーダーである。
工程(1)のニーダーのクリアランスの最小値は、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは3.0mm以上、更に好ましくは5.0mm以上であり、そして、好ましくは10mm以下、より好ましくは9.0mm以下、更に好ましくは8.0mm以下である。
「クリアランスの最小値」とは、ニーダー内の、ニーディングブレード-内壁間、ニーディングブレード-突起物、ニーディングブレード-ニーディングブレード間等の間隔であって、当該間隙の最小値である。
工程(1)のニーダーは、粉砕性向上の観点から、好ましくは、ニーディングブレードが、内壁に突起物を有するシリンダ内で回転するニーダーであって、前記シリンダ内の突起物によって、円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なるニーダーである。
工程(1)のニーダーは、粉砕性向上の観点から、より好ましくは、内壁に突起物を有するシリンダと、シリンダの長軸方向に配置された回転軸と、回転軸に設けられたニーディングブレードと、回転軸をシリンダ内で回転させる駆動装置とを備え、ニーディングブレードが回転軸方向に複数設けられ、突起物がニーディングブレードの回転軸の軸方向の間にシリンダ内の円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なるように配置されたニーダーである。
【0016】
〔工程(1)の粉砕の条件〕
工程(1)の粉砕は、乾式粉砕であっても、湿式粉砕であってもよいが、生産性向上の観点から乾式粉砕であることが好ましい。
乾式粉砕とは、気体雰囲気下の粉砕処理であり、湿式粉砕とは分散媒として用いられる水などの液体雰囲気下での粉砕処理である。
【0017】
工程(1)でメディアレス粉砕機を用いる場合、メディアレス粉砕機の処理チャンバーの有効容量に対する仕込み時の草本系バイオマスの充填率は、裁断と開繊や揉み解しの観点から、好ましくは0.3kg-dry/m3以上、より好ましくは15kg-dry/m3以上、より好ましくは30kg-dry/m3以上、更に好ましくは60kg-dry/m3以上、更に好ましくは120kg-dry/m3以上であり、そして、好ましくは300kg-dry/m3以下、より好ましくは250kg-dry/m3以下、更に好ましくは200kg-dry/m3以下である。
上記の充填率とは、粉砕機の処理チャンバーの有効容量に対する仕込み時の草本系バイオマスの乾燥質量(単位:kg-dry/m3)を意味する。
【0018】
ニーダーの回転数は、裁断と開繊や揉み解しの観点から、好ましくは20rpm以上、より好ましくは30rpm以上、更に好ましくは70rpm以上であり、そして、好ましくは250rpm以下、より好ましくは200rpm以下、更に好ましくは150rpm以下である。
【0019】
工程(1)における処理物の出口温度は、リグニン離脱率を高める観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは60℃以上、より更に好ましく70℃以上であり、そして、生産性の観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは130℃以下、より更に好ましくは100℃以下である。
【0020】
工程(1)における処理時間は、リグニン離脱率を高める観点から、好ましくは0.3分以上、より好ましくは3分以上、更に好ましくは5分以上、更に好ましくは10分以上であり、そして、好ましくは30分以下、より好ましくは25分以下、更に好ましくは17分以下である。
なお、処理時間とは、草本系バイオマスの粉砕に寄与する時間を意味する。
【0021】
工程(1)における装置内の処理圧力は、特に限定されるものでないが、生産コストの観点から、バイオマスの使用量に応じて0.001MPa以上1.0MPa以下の圧力範囲で行われることが好ましく、生産コストの観点から、好ましくは大気圧(0.1MPa)である。必要に応じて窒素等の不活性ガスで希釈した混合ガスを、少量ずつ流通させながら微加圧下で行うことも可能である。
工程(1)における処理物の平均繊維長は、処理効率の観点から、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下、更に好ましくは30mm以下であり、そして、処理効率の観点から、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは5mm以上である。
平均繊維長は、JIS 1級 150mm金尺(シンワ測定株式会社製)と共に撮影した写真を用いて、任意に選択した100本の繊維の長さの数平均値を算出して平均繊維長とする。
【0022】
<工程(2)>
工程(2)は、高い収率で、変性度が低く抑えられたリグニンを得る観点から、草本系バイオマスと塩基性化合物と水とをニーダーにより50℃以上130℃以下で混合する工程である。工程(2)で用いる草本系バイオマスは、工程(1)で得られた一次処理バイオマスが好ましい。工程(2)により、草本系バイオマスに適度な剪断力が加わるため、繊維の裁断が生じて、塩基性化合物が草本系バイオマスの内部組織まで浸透し、130℃以下の低温条件下であってもリグニンの離脱率を高めることができると考えられる。
工程(2)で用いられるニーダーは、工程(1)でニーダーが用いられる場合、工程(1)で用いられるニーダーと同一であっても異なっていてもよい。工程(1)及び工程(2)で用いられるニーダーが、多段ニーダーである場合には、工程(1)の粉砕と、工程(2)の塩基性化合物及び水の添加混合工程を連続的に行うことができることから好ましい。
【0023】
〔工程(2)の塩基性化合物〕
塩基性化合物は、経済性及び入手性の観点から、好ましくはアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。塩基性化合物は、より好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、更に好ましくは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種であり、より更に好ましくは水酸化ナトリウムである。
工程(2)における塩基性化合物の使用量は、リグニン脱離率の観点、及びコストの観点から、草本系バイオマスの乾燥質量100質量部に対し、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは30質量部以下、より更に好ましくは25質量部以下、より更に好ましくは20質量部以下、より更に好ましくは18質量部以下であり、そして、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、より更に好ましくは7質量部以上、より更に好ましくは10質量部以上、より更に好ましくは12質量部以上、より更に好ましくは14質量部以上である。
【0024】
〔工程(2)の水〕
工程(2)においては、草本系バイオマスと塩基性化合物との接触効率の観点から、水を使用する。水の使用量は、草本系バイオマスの乾燥質量100質量部に対し、反応性を向上させる観点から、好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上、更に好ましくは220質量部以上、より更に好ましくは250質量部以上であり、そして、生産性の観点から、好ましくは2,000質量部以下、好ましくは1,000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは300質量部以下である。
【0025】
〔工程(2)のニーダー〕
工程(2)では、草本系バイオマスを効率よく塩基処理する観点から、ニーダーが用いられる。
ニーダーとしては、ブレードによるニーディング(混練)機構を有する混練機が好ましい。
ブレードとしては、例えば、スクリュブレード、パドルブレード、リボンブレード、スクレーパブレード、カッタブレード、切欠き円板ブレード、ピンブレード等が挙げられる。
ニーダーとしては、連続式ニーダー、回分式ニーダーのいずれも用いることができるが、生産性の観点から、連続式ニーダーが好ましい。
なお、ニーダーとしては、例えば、単軸型ニーダー、複軸型ニーダーが挙げられる。
単軸型ニーダーとしては、リボンミキサー、コニーダー、ボテーター等が挙げられる。
複軸型ニーダーとしては、双腕式ニーダー、バンパリーミキサー等が挙げられる。バイオマスに剪断力を与え、裁断と開繊や揉み解しを行う観点から、コニーダー、スクリュー型ニーダー、双腕式ニーダーが好ましい。
【0026】
ニーダーは、好ましくは多段ニーダーである。これにより、裁断と開繊や揉み解しを行うことができ、工程(1)の粉砕と、工程(2)の塩基性化合物及び水の混合を連続的に行うことができる。
【0027】
本発明に用いられるニーダーは、裁断と開繊や揉み解しの観点から、好ましくは螺旋状旋回翼群を有する。螺旋状旋回翼群としては、スクリュー、ヘリカル、スパイラル等が挙げられ、なかでも裁断と開繊や揉み解しの観点から、スクリューが好ましい。螺旋状旋回翼群とは、螺旋の回転数が1以上である旋回翼である。螺旋の回転数は、裁断と開繊や揉み解しの観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、生産コストの観点から、好ましくは5以下、より好ましくは4以下である。
ニーダーのブレードは、裁断と開繊や揉み解しの観点から、好ましくはシグマ型、マスチケーター型、Z型、ダブルナーベン型、パドル型である。
これらの中でも、工程(1)のニーダーと同じニーダーが好ましい。
工程(2)のニーダーの市販品としては、「E.Gimmick」(株式会社大善製)、「ラボプラストミル」(株式会社東洋精機製作所)、卓上ニーダー「PNV-1型」(株式会社入江商会製)、「KEXエクストルーダ」(株式会社栗本鐵工所製)、二軸混練押出機「HK-25D(D41)型」(日本パーカーライジング株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
工程(2)において、ニーダーのクリアランスの最小値は、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは3.0mm以上、更に好ましくは5.0mm以上であり、そして、好ましくは15mm以下、より好ましくは12mm、好ましくは10mm以下である。
【0029】
工程(2)では、草本系バイオマスの裁断と開繊や揉み解し、高いリグニン離脱率を得る観点から、ニーディングブレードが、内壁に突起物を有するシリンダ内で回転するニーダーであって、シリンダ内の突起物によって、円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なるニーダーを用いることがより好ましい。
ニーダーは、好ましくは内壁に突起物を有するシリンダと、シリンダの長軸方向に配置された回転軸と、回転軸に設けられたニーディングブレードと、回転軸をシリンダ内で回転させる駆動装置とを備える。
【0030】
工程(2)において、ニーディングブレードと突起物とのクリアランスCnb-fbの最小値は、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは3.0mm以上、更に好ましくは5.0mm以上であり、そして、好ましくは15mm以下、より好ましくは12mm以下、好ましくは10mm以下である。
工程(2)において、ニーディングブレードと内壁とのクリアランスCnb-iの最小値は、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1.0mm以上、更に好ましくは1.5mm以上、更に好ましくは3.0mm以上、更に好ましくは5.0mm以上であり、そして、好ましくは15mm以下、より好ましくは12mm以下、更に好ましくは10mm以下である。
【0031】
ニーディングブレードは、例えば、スクリュブレード、パドルブレード、リボンブレード、スクレーパブレード、カッタブレード、切欠き円板ブレード、ピンブレード、ブロックブレード等が挙げられる。これらの中でも、草本系バイオマスの裁断と開繊や揉み解し、高い糖化率が得られるグルカン組成物を高い収率で得る観点から、ブロックブレードが好ましい。
突起物としては、例えば、固定ブロックブレード、固定円柱ブレード等の固定ブレードが挙げられる。これらの中でも、草本系バイオマスの裁断と開繊や揉み解し、高い糖化率が得られるグルカン組成物を高い収率で得る観点から、固定ブロックブレードが好ましい。
固定ブロックブレードは、各ニーディングブレードの移動経路の両脇に移動経路を挟み込むように設けられることが好ましい。
【0032】
工程(2)で用いるニーダーは、円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なる。これは、例えば、シリンダの内壁に設けられた突起物の配置によって実現される。例えば、突起物は、回転位相0°以上180°未満までの間に設け、回転位相180°以上から360°未満までの間には設けられない。そうすることで、突起物とニーディングブレードにより高い剪断力が付加される領域と、低い剪断力が付加される領域が、シリンダ内の略半分割して形成される。より具体的には、突起物は、例えば、シリンダ内壁の回転位相0°~180°(好ましくは0°~135°、より好ましくは0°及び90°)異なる2箇所の位置に設けられる。なお、回転位相0°はシリンダ内壁の任意の位置に設定できる。
【0033】
工程(1)又は工程(2)で用いるニーダーは、好ましくは、シリンダ及びニーディングブレードを有するニーダーを2以上備えた多段ニーダーである。
多段ニーダーにおいて、ニーダーの数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、好ましくは5以下、より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3である。多段ニーダーを用いる場合、例えば2本のシリンダを、直列に配置したり、又は直交するようにL字状に配置することができる。また、例えば3本のシリンダを用いる場合は、ニーダー側面から見て略3角形状に配設し、筒体の一端に供給口を他端に連通部を設け、3本のシリンダを連結して、草木系バイオマスが各シリンダ間を右側から左側に、左側から右側に、更に右側から左側へと流動するように圧送することが好ましい。
【0034】
以下、図面を用いて一実施形態に係るニーダーの具体例を説明する。なお、ここで説明するニーダーは一具体例であって当該範囲に権利が限定されるものではない。
図1は、ニーダー1の概略構成図である。
ニーダー1は、シリンダ2と回転軸3とニーディングブレード4と駆動装置5とを備える。
シリンダ2は、内壁に設けられた固定ブロックブレード21、原料投入部22と、シリンダ内を通過した処理物が排出される排出口23とを有する。以下、シリンダ2内の原料投入部22側を上流側、シリンダ2内の排出口23側を下流側と称することがある。
回転軸3は、シリンダ2の長軸方向に配置されている。回転軸3は、シリンダ2内に設けられた軸受(図示せず)によって両端が支承され、そのうちの一端は駆動装置5に接続されて回転できるようになっている。駆動装置5としては、例えば、ギャードモータ等が挙げられる。
【0035】
回転軸3には、ニーディングブレード4が設けられている。ニーディングブレード4は、回転軸3の軸方向に複数設けられる。ニーディングブレード4は、ブロック形状を有しており、回転方向に対して適宜の角度で傾斜させて配置される。隣接するもの同士は、取り付け向きを、180°位相をずらすように交差させて斜めに直交させてニーディングブレード4を設けることが好ましい。
回転軸3には、更に、処理物を運搬する螺旋状旋回翼群のスクリュー6が備えられる。スクリュー6は、回転軸3上のニーディングブレード4よりも、原料投入部22側(上流)に設けられる。
【0036】
シリンダ2の内壁には、複数の固定ブロックブレード21が設けられる。
固定ブロックブレード21は、ニーディングブレード4の回転軸方向の間に、シリンダ内の円周方向においてニーディングブレード4の回転する位相により付加される剪断力が異なるように配置されている。
固定ブロックブレード21について、
図2を用いて説明する。
図2は、固定ブロックブレード21の配置を示すニーダーの断面概略図である。
固定ブロックブレード21は、シリンダ2の内壁の回転位相0°の位置に第一固定ブロックブレード21a、及び、回転位相90°の位置に第二固定ブロックブレード21bが配される。このように配置されることで、ニーディングブレード4が回転軸3を中心に回転すると、シリンダ2内で、処理物に対してニーディングブレード4の回転する位相により異なる剪断力が付加される。すなわち、
図2に示すように、シリンダ内の回転位相の相違により、高剪断付加領域Hと、低剪断付加領域Lが形成される。
【0037】
ニーディングブレード4は、シリンダ2の内壁とのクリアランスC
nb-iを有する。
図2に示されるように、ニーディングブレード4と内壁とのクリアランスC
nb-iは、回転軸の中心から最も離れたニーディングブレード4の端部と、内壁との距離である。なお、当該距離は、回転軸の中心cと当該中心から最も離れたニーディングブレードの端部eとを結ぶ延長線上の内壁の位置と、端部eとの距離である。
【0038】
図3は、ニーダー1の概略構成を示す拡大図である。
図3に示されるように、固定ブロックブレード21は、ひとつのニーディングブレード4に対して、ニーディングブレード4の回転軌道を挟み込むように両脇に配置される。ニーディングブレード4は、固定ブロックブレード21とのクリアランスC
nb-fbを有する。
図3に示されるように、ニーディングブレード4と固定ブロックブレード21とのクリアランスC
nb-fbは、ニーディングブレード4と固定ブロックブレード21とが最接近する回転位相における距離である。
ニーダー1においては、2種のクリアランスが想定されるが、クリアランスの最小値とは、前述のC
nb-iとC
nb-fbとの内で最も小さな値を意味する。
【0039】
前述のニーダー1は、原料投入部22から、草本系バイオマスが投入される。草本系バイオマスは、処理物を運搬する螺旋状旋回翼群のスクリュー6により、回転軸方向から下流側へと搬送され、回転軸の下流に設けられたニーディングブレード4によって、粉砕処理が行われる。
草本系バイオマスは、ニーディングブレード4の回転によって、固定ブロックブレード21により形成された高剪断付加領域Lにおいては、高い剪断が付与され、圧縮される。一方で、草本系バイオマスは、固定ブロックブレード21の形成されていない低剪断付加領域Lにおいては、草本系バイオマスは拡張される。このように、草本系バイオマスが、シリンダ2内でニーディングブレード4の回転により処理されることで、圧縮と拡張を繰り返し、バイオマス中の繊維が開繊され、塩基性化合物の浸透が促進され、変性度が低いリグニンを、草本系バイオマスから高い収率で取り出すことができると考えられる。
【0040】
ニーダーは、
図4に示されるように、複数設けられていることが好ましい。
図4は、3段ニーダーの概略構成図である。
3段ニーダーは、ニーダー1a~1cを有する。これらの各ニーダー1a~1cは、前述のニーダー1と同様の構成を有するため説明を省略する。ニーダー1aの排出口23aは、ニーダー1bの原料投入部22bと接続しており、ニーダー1bの排出口23bは、ニーダー1cの原料投入部22cと接続している。
ニーダー1a~1cは、ニーダー側面から見て略3角形状に配設し、3本の筒体を連結して、草木系バイオマスが各ニーダー間を右側から左側に、左側から右側に、更に右側から左側へと流動するように圧送することが好ましい。
このように多段ニーダーを用いることで、工程(1)の処理を十分に施すことができる、或いは、工程(1)の処理終了後、連続的に、後述の工程(2)の処理を行うこともできる。
前述のニーダーの市販品としては、「E.Gimmick」(株式会社大善製)が挙げられる。
【0041】
(工程(2)の処理の条件)
工程(2)における、ニーダーの草本系バイオマスの充填率は、裁断と開繊や揉み解しの観点から、好ましくは25kg-dry/m3以上、より好ましくは30kg-dry/m3以上、更に好ましくは60kg-dry/m3以上、更に好ましくは120kg-dry/m3以上であり、そして、好ましくは400kg-dry/m3以下、より好ましくは250kg-dry/m3以下、更に好ましくは190kg-dry/m3以下である。
【0042】
工程(2)のニーダーの回転数は、裁断と開繊や揉み解しの観点から、好ましくは20rpm以上、より好ましくは30rpm以上、更に好ましくは70rpm以上であり、そして、好ましくは250rpm以下、より好ましくは200rpm以下、更に好ましくは150rpm以下である。
【0043】
工程(2)における仕込み時の草本系バイオマスの乾燥質量と塩基性物質の合計量は、リグニン脱離率を高める観点から、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、上記観点及び経済性の観点から、好ましくは60質量%以下、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
工程(2)における仕込み時の草本系バイオマスの乾燥質量と塩基性物質の質量比(乾燥質量/塩基性物質)は、工程(3)でリグニン脱離率を向上させる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.08以上、より更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.13以上であり、そして、製造コストを低減する観点から、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.3以下、より更に好ましくは0.2以下、より更に好ましくは0.18以下である。
【0044】
工程(2)における仕込み時の草本系バイオマスの乾燥質量は、リグニン脱離率を高める観点から、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、好ましくは5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、上記観点及び経済性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは28質量%以下である。
【0045】
工程(2)における仕込み時の塩基性化合物は、リグニン脱離率を高める観点から、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、そして、上記観点及び経済性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは7質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
【0046】
工程(2)における仕込み時の水の割合は、リグニン脱離率を高める観点から、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、そして、上記観点及び経済性の観点から、好ましくは95質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0047】
工程(2)における温度は、高い収率でリグニンを得る観点から、50℃以上であり、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは75℃以上、より更に好ましくは80℃以上であり、そして、変性度が低く抑えられたリグニンを得る観点から、130℃以下であり、好ましくは110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下、より更に好ましくは85℃以下である。
工程(2)におけるニーダー内の圧力は、バイオマスの使用量に応じて0.001MPa以上1.0MPa以下の圧力範囲で行うことができ、変性度が低く抑えられたリグニンを得る観点から、好ましくは大気圧(0.1MPa)である。必要に応じて窒素等の不活性ガスで希釈した混合ガスを、少量ずつ流通させながら微加圧下で行うことも可能である。
【0048】
工程(2)におけるニーダーによる処理時間は、例えば、リグニン脱離率を高める観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、更に好ましくは5分以上であり、そして、好ましくは30分以下、より好ましくは10分以下、更に好ましくは8分以下である。
【0049】
さらに、工程(2)において、塩基性化合物の作用によるリグニンの脱離をより促進させる観点から、草本系バイオマスに、塩基性化合物、及び水を添加し、ニーダーによる混合後、28℃以上130℃以下で30分以上保持する工程(以下、単に「保持工程」ともいう)を有することが好ましい。なお、保持する際には、静置してもよく、必要に応じて攪拌してもよい。
保持温度は、保持時間を短縮する観点から、好ましくは28℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは60℃以上、より更に好ましくは70℃以上、より更に好ましくは80℃以上であり、熱源コストを削減する観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下である。
保持時間は、工程(3)でリグニン脱離率を向上させる観点、生産性や保管コスト等の観点から、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上、更に好ましくは90分以上、より更に好ましくは150分以上、より更に好ましくは200分以上であり、そして、好ましくは360分以下、より好ましくは300分以下、更に好ましくは280分以下、より更に好ましくは240分以下である。
【0050】
<工程(3)>
工程(3)は、工程(2)で得られた草本系バイオマスを、固形分とリグニンを含有する液分とに分離する工程である。
工程(3)は、例えば、処理効率の観点から、濾過、遠心分離等により固形分と液分とに分離することが好ましく、分離した固形分を水で洗浄することがより好ましい。
濾過に用いる装置としては、フィルタープレス、ベルトプレスなどの濾布などを濾材として用いる装置;スクリュープレス、シリンダープレスなどの金網などを濾材として用いる装置が挙げられる。それらの中でも、連続処理における処理効率の観点からスクリュープレス、シリンダープレスが好ましい。
遠心分離に用いる装置としては、デカンター、バスケット式遠心分離機などが用いられる。
上記の液分をそのまま、リグニン含有組成物として用いてもよいが、下記工程(4)を更に有することが好ましい。
【0051】
<工程(4)>
工程(4)は、リグニンを含有する液分からリグニン含有組成物を回収する工程である。
リグニンを含有する液分は、遠心分離、膜分離、乾燥などによりリグニン含有組成物を回収することができる。高収率で回収する観点から、リグニンを含有する液分を凍結乾燥、噴霧乾燥などでリグニン含有組成物を回収することが好ましい。
回収は、PH調整した後、実施してもよい。
PHの調整は、例えば酸やイオン交換樹脂を添加することにより行うことができる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの各種無機酸を用いることができる。
調整後のPHは、リグニンを効率良く得る観点から、好ましくは9以下であり、好ましくは7以下、更に好ましくは4以下であり、そして、好ましくは2以上、より好ましくは3以上である。
【0052】
上記方法により、本発明の製造方法における目的物であるリグニン含有組成物が得られる。リグニン含有組成物は、草本系バイオマス由来のリグニンを含有する組成物として得ることができる。リグニン含有組成物は、リグニンを主成分とする組成物である。「主成分」とは、草本系バイオマスを構成する主な成分であるグルカン、キシラン、及びリグニンのうち、最も高い濃度の成分を意味する。
【0053】
リグニン含有組成物は、少なくともリグニンを含み、グルカンとキシランとを更に含んでもよい。
リグニン含有組成物のリグニンの含有量(以下、「リグニン含有量」ともいう)は、リグニン含有組成物の乾燥質量中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、生産性の観点から、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0054】
リグニン含有組成物中のリグニンのアルカリニトロベンゼン酸化によるアルデヒド収率は、好ましくは20%以上、より好ましくは23%以上、更に好ましくは25%以上であり、そして、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは27%以下である。
【0055】
リグニン含有組成物中のリグニンの変性度は、好ましくは42%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下であり、そして、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、更に好ましくは1.5%以上である。
リグニンの変性度は実施例に記載の方法により測定する。
【0056】
前述した実施形態に関し、本発明は更に以下の草本系バイオマスの処理方法及びリグニン含有組成物の製造方法を開示する。
<1> 草本系バイオマスと塩基性化合物と水とをニーダーにより50℃以上130℃以下で混合する工程(工程(2))と、
前記混合する工程で得られた草本系バイオマスを、固形分と液分とに分離する工程(工程(3))と、
を有する、草本系バイオマスの処理方法。
<2> 前記分離する工程において、リグニンを含有する液分を得る、リグニン含有組成物の製造方法。
<3> 草本系バイオマスと塩基性化合物と水とをニーダーにより50℃以上130℃以下で混合する工程(工程(2))と、
前記混合する工程で得られた草本系バイオマスを、固形分とリグニンを含有する液分とに分離する工程(工程(3))と、
を有する、リグニン含有組成物の製造方法。
【0057】
<4>草本系バイオマスが、好ましくはバガスであり、より好ましくはサトウキビバガスである、<1>~<3>のいずれかに記載の方法。
<5>草本系バイオマスを、粉砕する工程(工程(1))を前記混合する工程(工程(2))前に更に有する、<1>~<4>のいずれかに記載の方法。
<6>草本系バイオマスの含水率が、好ましくは30質量%以上、好ましくは35質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である、<5>に記載の方法。
<7>工程(1)で粉砕機が用いられる、<5>又は<6>に記載の方法。
<8>工程(1)で粉砕機が、メディアレス粉砕機である、<7>に記載の方法。
<9>粉砕機が、好ましくは、カッターミル(カッティングミル)、ニーダー、ペレットミルから選ばれる少なくとも1種である、<7>又は<8>に記載の方法。
<10>工程(1)の粉砕機が、好ましくはニーダーである、<7>~<9>のいずれかに記載の方法。
<11>工程(1)のニーダーのクリアランスの最小値が、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは3.0mm以上、更に好ましくは5.0mm以上であり、そして、好ましくは10mm以下、より好ましくは9.0mm以下、更に好ましくは8.0mm以下である、<10>に記載の方法。
<12>工程(1)のニーダーが、好ましくは、ニーディングブレードが、内壁に突起物を有するシリンダ内で回転するニーダーであって、前記シリンダ内の突起物によって、円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なるニーダーである、<10>又は<11>に記載の方法。
<13>工程(1)のニーダーが、より好ましくは、内壁に突起物を有するシリンダと、シリンダの長軸方向に配置された回転軸と、回転軸に設けられたニーディングブレードと、回転軸をシリンダ内で回転させる駆動装置とを備え、ニーディングブレードが回転軸方向に複数設けられ、突起物がニーディングブレードの回転軸の軸方向の間にシリンダ内の円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なるように配置されたニーダーである、<10>~<12>のいずれかに記載の方法。
<14>工程(1)でメディアレス粉砕機を用い、メディアレス粉砕機の処理チャンバーの有効容量に対する仕込み時の草本系バイオマスの充填率が、好ましくは0.3kg-dry/m3以上、より好ましくは15kg-dry/m3以上、より好ましくは30kg-dry/m3以上、更に好ましくは60kg-dry/m3以上、更に好ましくは120kg-dry/m3以上であり、そして、好ましくは300kg-dry/m3以下、より好ましくは250kg-dry/m3以下、更に好ましくは200kg-dry/m3以下である、<5>~<13>のいずれかに記載の方法。
<15>ニーダーの回転数が、好ましくは20rpm以上、より好ましくは30rpm以上、更に好ましくは70rpm以上であり、そして、好ましくは250rpm以下、より好ましくは200rpm以下、更に好ましくは150rpm以下である、<10>~<14>のいずれかに記載の方法。
<16>工程(1)における処理物の出口温度が、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは60℃以上、より更に好ましく70℃以上であり、そして、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは130℃以下、より更に好ましくは100℃以下である、<5>~<15>のいずれかに記載の方法。
<17>工程(1)における処理時間が、好ましくは0.3分以上、より好ましくは3分以上、更に好ましくは5分以上、更に好ましくは10分以上であり、そして、好ましくは30分以下、より好ましくは25分以下、更に好ましくは17分以下である、<5>~<16>のいずれかに記載の方法。
<18>工程(1)における処理物の平均繊維長が、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下、更に好ましくは30mm以下であり、そして、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは5mm以上である、<5>~<16>のいずれかに記載の方法。
【0058】
<19>工程(2)の塩基性化合物は、好ましくはアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、更に好ましくは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種であり、より更に好ましくは水酸化ナトリウムである、<1>~<18>のいずれかに記載の方法。
<20>工程(2)における塩基性化合物の使用量が、草本系バイオマスの乾燥質量100質量部に対し、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは30質量部以下、より更に好ましくは25質量部以下、より更に好ましくは20質量部以下、より更に好ましくは18質量部以下であり、そして、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、より更に好ましくは7質量部以上、より更に好ましくは10質量部以上、より更に好ましくは12質量部以上、より更に好ましくは14質量部以上である、<1>~<19>のいずれかに記載の方法。
<21>工程(2)の水の使用量が、草本系バイオマスの乾燥質量100質量部に対し、好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上、更に好ましくは220質量部以上、より更に好ましくは250質量部以上であり、そして、好ましくは2,000質量部以下、好ましくは1,000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは300質量部以下である、<1>~<20>のいずれかに記載の方法。
<22>工程(2)において、ニーダーのクリアランスの最小値が、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは3.0mm以上、更に好ましくは5.0mm以上であり、そして、好ましくは15mm以下、より好ましくは12mm、好ましくは10mm以下である、<1>~<21>のいずれかに記載の方法。
<23>工程(2)のニーダーは、好ましくはニーディングブレードが、内壁に突起物を有するシリンダ内で回転するニーダーであって、シリンダ内の突起物によって、円周方向においてニーディングブレードの回転する位相により付加される剪断力が異なるニーダーである、<1>~<22>のいずれかに記載の方法。
<24>工程(2)のニーダーが、好ましくは内壁に突起物を有するシリンダと、シリンダの長軸方向に配置された回転軸と、回転軸に設けられたニーディングブレードと、回転軸をシリンダ内で回転させる駆動装置とを備える、<1>~<23>のいずれかに記載の方法。
<25>工程(2)における、ニーダーの草本系バイオマスの充填率が、好ましくは25kg-dry/m3以上、より好ましくは30kg-dry/m3以上、更に好ましくは60kg-dry/m3以上、更に好ましくは120kg-dry/m3以上であり、そして、好ましくは400kg-dry/m3以下、より好ましくは250kg-dry/m3以下、更に好ましくは190kg-dry/m3以下である、<1>~<24>のいずれかに記載の方法。
<26>工程(2)のニーダーの回転数が、好ましくは20rpm以上、より好ましくは30rpm以上、更に好ましくは70rpm以上であり、そして、好ましくは250rpm以下、より好ましくは200rpm以下、更に好ましくは150rpm以下である、<1>~<25>のいずれかに記載の方法。
<27>工程(2)における仕込み時の草本系バイオマスの乾燥質量と塩基性物質の合計量は、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である、<1>~<26>のいずれかに記載の方法。
<28>工程(2)における仕込み時の草本系バイオマスの乾燥質量が、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、好ましくは5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは28質量%以下である、<1>~<27>のいずれかに記載の方法。
<29>工程(2)における仕込み時の塩基性化合物が、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは7質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である、<1>~<28>のいずれかに記載の方法。
<30>工程(2)における仕込み時の水の割合が、草本系バイオマス、塩基性化合物、及び水の総量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である、<1>~<29>のいずれかに記載の方法。
<31>工程(2)における温度が、50℃以上であり、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは75℃以上、より更に好ましくは80℃以上であり、そして、130℃以下であり、好ましくは110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下、より更に好ましくは85℃以下である、<1>~<30>のいずれかに記載の方法。
<32>工程(2)において、ニーダーによる混合後、28℃以上130℃以下で30分以上保持する、<1>~<31>のいずれかに記載の方法。
<33>工程(2)における保持温度が、好ましくは28℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは60℃以上、より更に好ましくは70℃以上、より更に好ましくは80℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下である、<1>~<32>のいずれかに記載の方法。
<34>工程(2)における保持時間が、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上、更に好ましくは90分以上、より更に好ましくは150分以上、より更に好ましくは200分以上であり、そして、好ましくは360分以下、より好ましくは300分以下、更に好ましくは280分以下、より更に好ましくは240分以下である、<1>~<33>のいずれかに記載の方法。
【0059】
<35>リグニンを含有する液分からリグニン含有組成物を回収する工程(工程(4))を更に有する、<1>~<34>のいずれかに記載の方法。
<36>工程(4)において、PHを、好ましくは9以下、好ましくは7以下、更に好ましくは4以下、そして、好ましくは2以上、より好ましくは3以上へ調整する、<35>に記載の方法。
【0060】
<37>リグニン含有組成物のリグニンの含有量が、リグニン含有組成物の乾燥質量中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である、<1>~<36>のいずれかに記載の方法。
<38>リグニン含有組成物中のリグニンのアルカリニトロベンゼン酸化によるアルデヒド収率が、好ましくは20%以上、より好ましくは23%以上、更に好ましくは25%以上であり、そして、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは27%以下である、<1>~<37>のいずれかに記載の方法。
<39>リグニン含有組成物中のリグニンの変性度が、好ましくは42%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下であり、そして、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、更に好ましくは1.5%以上である、<1>~<38>のいずれかに記載の方法。
【実施例】
【0061】
以下の実施例、参考例及び比較例において、「%」は特に説明のない場合、「質量%」を意味する。
【0062】
〔バイオマス中のリグニン含有量の測定〕
バイオマス試料300mg(乾燥質量)に72%硫酸3mLを加え、30℃の温浴中で1時間静置した。
その後、イオン交換水84mLを用いて、ガラス製耐圧ビンに移し、120℃1時間、オートクレーブにて加熱処理した。処理後、耐圧瓶内の黒色沈殿をあらかじめ質量を測定しておいたガラスろ過器(柴田科学株式会社 1GP16)を用いて吸引ろ過した。得られた沈殿物は100℃の水約300mL、次いで25℃の水約300mLで洗浄後、80℃送風乾燥機中で一昼夜乾燥した。得られた乾燥粉体の灰分量を後述の手法により測定し、乾燥粉体質量から灰分量を差し引いた質量を酸不溶性リグニン量とした。ろ液は光路長1mmセルを用いて205nm吸光度を測定した。ブランクの吸光度(72%硫酸とイオン交換水の混合液(3/84v/v)の205nm吸光度)を差し引いて、カバ由来のリグニンのモル吸光係数113L/g・cm(参照 日本木材学会編 木質科学実験マニュアル)を用いて、ろ液中に溶存している試薬リグニン相当量を算出し、その量を酸可溶性リグニン量とした。酸不溶性リグニンと酸可溶性リグニン両者の合計量を用いて、下記式(7)から、バイオマス試料中のリグニン含有量(%)を求めた。
リグニン含有量(%)=[{酸不溶性リグニンと酸可溶性リグニン両者の合計(g)}/バイオマス試料質量(g(0.3g))]×100 ・・・(7)
【0063】
〔バイオマス中の灰分量の測定〕
電気炉(アズワン社、ROP-001)で空のるつぼを600℃まで加熱後、デシケーター中で放冷し、るつぼの風袋を秤量した。次にサンプル250mg(乾燥質量)をるつぼに加え、600℃で4時間強熱した。デシケーター中で放冷後、秤量し、風袋質量から増加した質量を灰分量とした。
【0064】
〔バイオマスのリグニン脱離率〕
工程(3)で得られた固形分のリグニン脱離率を上記方法を用いた、リグニンの残存率から下記式により求める。
リグニン脱離率(%)=100-工程(3)のリグニン残存率(%)
なお、バイオマス原料のリグニン含有量は実施例1~3及び6、比較例1~5において24.0%、 実施例4~5及び7~10において20.9%であった。
【0065】
〔リグニンのアルカリニトロベンゼン酸化によるアルデヒド収率〕
リグニン変性度は、参考資料(「リグニン化学研究法」、ユニ出版株式会社、1994年発行)に記載のアルカリニトロベンゼン酸化法を用いて、アルデヒド収率を指標に評価した。具体的には下記の方法により測定した。
リグニン含有試料50mgを秤量した。リグニン含有試料、2M 水酸化ナトリウム水溶液7mL、ニトロベンゼン0.4mLを20mLのバイアルに入れ、900rpmで撹拌しながら170℃で2.5時間加熱した。反応終了後冷却し、10mLのジエチルエーテルで3回抽出し、ニトロベンゼン還元物と余分なニトロベンゼンを除去した。残った水層側に濃塩酸を加えてPH1に調整し、さらに10mLのジエチルエーテルで3回抽出した。このジエチルエーテル抽出液を減圧下で留去し、酸化混合物を得た。この混合物をジクロロメタン20mLでメスアップした。この溶液のうち2mLをミリポアHVHP膜(日本ミリポア株式会社製、孔径0.45μm)でろ過し、ガスクロマトグラフィ(GC)に供した。
ガスクロマトグラフィの条件は、「AgilentJ&W GCカラム DB-5」(アジレント・テクノロジー株式会社製)を装着したGC装置(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。リグニン含有試料量は1.0μL、ヘリウム流速は10mL/分、抽入口温度200℃、スプリット比10:1とした。温度条件は、60℃で1分間保持した後、60~250℃まで5℃/分で昇温し、250℃で10分保持した。定量は、バニリン、シリンガアルデヒド、パラヒドロキシベンズアルデヒドの試薬を用い、濃度に対するピーク面積で検量線を作成し、サンプル中の各アルデヒド収量を求めた。
次式でアルデヒド収率(%)を算出し、リグニン変性度の指標とした。アルデヒド収率が高いほど、低変性なリグニンであることを示している。
アルデヒド収率(%)=(バニリン、シリンガアルデヒド、パラヒドロキシベンズアルデヒドのアルデヒド量を合算したアルデヒド収量/仕込みリグニン含有試料中のリグニン質量)×100
なお、バイオマス原料のアルデヒド収率は実施例1~3及び6、比較例1~4において26.2%、実施例4~5及び7~10において27.5%であった。
【0066】
〔リグニン変性度〕
リグニン変性度(%)は、以下の式により算出した。
リグニン変性度(%)=(1-工程(4)で回収したリグニンのアルデヒド収率/草本系バイオマス原料のアルデヒド収率)×100
【0067】
参考例1
〔工程(1)〕
草本系バイオマス原料として、サトウキビバガス[サトウキビの搾りかす、グルカン含有量38.4%、キシラン含有量21.4%、リグニン含有量24.0%対乾燥原料換算、水分含有率50%対全量]を、ディスクペレッター「F40型」(株式会社ダルトン製、ダイローラ)にて、ダイス仕様φ3 35-3(ダイス穴径3mm 総厚み35mm φ3mm部厚み3mm)を用い、主軸回転数80rpmにて、表1に記載の充填率、処理速度、処理時間で処理し、一次処理バイオマス(平均繊維長:8mm)を得た。
〔工程(2)〕
48%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を、水酸化ナトリウムの濃度が原料バガスの乾燥質量100質量部に対して16質量部、また、バイオマスの乾燥質量を25%となるよう、85℃の温水で希釈し、一次処理バイオマスと水酸化ナトリウム水溶液を「ラボプラストミル」(株式会社東洋製作所製)で湿式混合処理した。その後、混合物を密閉容器に移し、オイルバスを用いて85℃に4時間静置した。
〔工程(3)〕
次に、工程(2)で得られた二次処理バイオマスに水を添加し、バイオマスの乾燥質量が5%となるように希釈した。次に、SUS316製平織金網400メッシュで濾過により固形分と液分に分離し、濾液の電気導電率が100ms/m以下となるまで、純水で水洗を行った。濾液と洗浄液を集め、リグニンを含有する液分を回収した。
〔工程(4)〕
液分に1.0M 塩酸を添加しPH2にした。
得られた懸濁液を、「CR 20GIII」(日立工機株式会社製)により10000rpmで20分間遠心分離した後、得られた沈殿物を乾燥させ、リグニン含有組成物を得た。リグニンの脱離率及び変性度を測定し表1に示した。
【0068】
参考例2、3及び5~7、実施例4及び8~10、比較例1~4
表1に示す条件とした以外は参考例1と同様の手順でリグニン含有組成物を得た。工程(1)後の一次処理バイオマスの平均繊維長は、参考例2~3及び6~7、比較例1~4では8mmであり、実施例4及び8~10、参考例5では15mmであった。リグニンの脱離率及び変性度を測定し表1に示した。
【0069】
なお、表1中の装置条件は、以下のとおりである。
実施例4及び8~10、参考例5の工程(1)はE.Gimmickを用いて2段(2台)で処理し、実施例4の工程(2)はE.Gimmickを用いて1段(1台)で処理した。
比較例1、3、4の工程(2)は装置を用いずに水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した処理である。
<ダイローラ>
装置概要:株式会社ダルトン製、ディスクペレッター「F40型」
<E.Gimmick>
装置概要:株式会社大善製、E.Gimmick D20型
ニーダー段数:3台(3段)
シリンダ径:200mm
ブレード径:185mm
クリアランスの最小値:7.5mm(ニーディングブレード最大径と内壁間)
L/D(ニーディング部全長L/シリンダの内径D):5.2
固定ブロックブレード:位相0°、90°
<ラボプラストミル>
装置概要:株式会社東洋精機製作所、混練押出装置「ラボプラストミル」(バッチ式ニーダー)
クリアランスの最小値:1.5mm
<卓上ニーダー>
装置概要:株式会社入江商会製、PNV-1型(双椀ニーダー)
攪拌翼:Σ翼
クリアランスの最小値:2mm
<エクストルーダ>
装置概要:日本パーカーライジング株式会社製、二軸混練押出機「HK‐20D」
クリアランスの最小値:2.5mm
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
表に示すように、実施例の方法により、リグニンを高い収率で得られ、且つ、変性度の低いリグニン含有組成物が得られる。
【符号の説明】
【0075】
1:ニーダー
2:シリンダ
21:固定ブロックブレード
22:原料投入部
23:排出口
3:回転軸
4:ニーディングブレード
5:駆動装置
6:スクリュー
c:回転軸の中心
e:ニーディングブレードの端部