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特許7197086D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを製造する微生物およびそれを用いるアリトールおよびD-タリトールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを製造する微生物およびそれを用いるアリトールおよびD-タリトールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/02 20060101AFI20221220BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C12P19/02
C12N1/20 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018169761
(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公開番号】P2020039301
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-07-15
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02760
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02761
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02762
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02763
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】秋光 和也
(72)【発明者】
【氏名】吉原 明秀
(72)【発明者】
【氏名】大谷 耕平
(72)【発明者】
【氏名】何森 健
(72)【発明者】
【氏名】依田 三千代
(72)【発明者】
【氏名】木村 功
(72)【発明者】
【氏名】佐々原 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】稲津 忠雄
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】香川県産業技術センター 平成12年度 研究報告,2000年,p.93-94
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/02
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する能力を有するメイロジマ属(Meyerozyma)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、またはスポロボロマイセス属(Sporobolomyces)の微生物を用いて、原料であるD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する方法。
【請求項2】
D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する能力を有するメイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)、ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株(NITE P-02761)、ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株(NITE P-02760)、およびスポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株(NITE P-02762)からなる群より選択される微生物を用いて、原料であるD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する方法。
【請求項3】
前記微生物の菌体培養系に、原料であるD-アルロースを添加して培養することにより行なう、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物を培養して得られた菌体に、原料であるD-アルロースを添加して、酸素分圧を所定の割合に調整しインキュベーションする、請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
上記原料であるD-アルロースが、D-アルロースを含有する水溶液である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
上記D-アルロースを含有する水溶液中の酸素分圧が0~20%である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
メイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)、ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株(NITE P-02761)、ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株(NITE P-02760)、およびスポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株(NITE P-02762)から選ばれる、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する微生物。
【請求項8】
メイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)、ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株(NITE P-02761)、ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株(NITE P-02760)、およびスポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株(NITE P-02762)から選ばれる、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する微生物と培地とを含み、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造することのできる培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する微生物、およびそれを用いるD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリトールおよびD-タリトールは、糖アルコールに分類される単糖類で、自然界には殆ど存在しない希少糖アルコールである。その製造方法として原理的には、有機化学的手法によりD-アルロース、L-アルロースおよびD-タガトース等の単糖類を、金属触媒の下、高温高圧化で水素を用いて還元して製造することが可能である。また、本発明者等が特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4等に記載しているケトース3-エピメラーゼ等を用いる酵素反応により得られるD-アルロースを出発原料とし、上述の有機化学的手法により製造することが可能である。
【0003】
有機化学的方法では、アリトールおよびD-タリトールを高収率で製造できるものの、高圧オートクレーブを必要とし、多量の水素およびエネルギーを消費し、防災上からも高度な安全施設および管理を必要とする。
また、D-アルロースを水素を用いて還元した場合、得られる糖アルコールはアリトールおよびD-タリトールがほぼ等量の混合物となり(特許文献5)、それぞれを選択的に製造するためには分離精製をしなければならない。
【0004】
また、ケトース3-エピメラーゼ等を用いる酵素反応により得られるD-アルロースから、非特許文献1または非特許文献2に記載している酵素反応あるいは微生物反応によって、アリトールあるいはD-タリトールを、それぞれ高収率で製造することが可能である。その製造方法においては、使用する酵素の調製費および本酵素と共役させるギ酸脱水素酵素が高価であるという実情にあり、いずれもアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-125776号公報
【文献】特開平8-154696号公報
【文献】特開平11-056383号公報
【文献】WO2014/109254
【文献】WO2002/092545
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hinawai et al.,International Journal of Food Science and Technology, (Nov.2016)p.1-7
【文献】Sasahara et al.,Journal of Fermentation and Bioengineering,(1998)Vol.85,No.1,p.84-88
【文献】大島ら,香川県産業技術センター研究報告, (2003)No.4,p.70-73.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、生化学工業が急速に発達し、糖質化学や食品の分野において、従来、殆ど必要としなかった多種類の糖アルコールの需要が興りつつあり、新たな糖アルコールを容易に製造する方法の確立が望まれている。従来の有機化学的手法では高圧オートクレーブを必要とし、多量の水素およびエネルギーを消費するのみならず、防災上からも高度な安全施設および管理を必要とする。
本発明は、環境にやさしい生化学的手法により、アリトールおよびD-タリトールを選択的に高純度、高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、D-アルロースから所定割合のアリトールおよびD-タリトールを製造する微生物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために、微生物として酵母に着目して、アリトールおよびD-タリトールを生化学的手法により大量、安価に製造することを目的に鋭意研究した。
酵母は、広義には生活環の一定期間において栄養体が単細胞性を示す真菌類の総称である。広義の「酵母」は正式な分類群の名ではなく、いわば生活型を示す名称であり、系統的に異なる種を含んでいる。子のう胞子を形成するサッカロミケス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、デバリオミケス(Debaryomyces)などは子のう菌類に由来し,冬胞子(テリオスポアー(teliospore)を形成するロドスポリディウム(Rhodosporidium),レウコスポリディウム(Leucosporidium),その半数体のロドトルーラ(Rhodotorula),スポロボロミケス(Sporobolomyces)などは担子菌類に由来すると考えられている。
【0009】
本発明者等は、酵母としてリストに収載されている菌種から、D-アルロースから所定割合のアリトールおよびD-タリトールを製造する能力を有する微生物を取得すること、その微生物を用いたD-アルロースから所定割合のアリトールおよびD-タリトールを製造する方法を提供することを目的に鋭意研究した。具体的には、D-アルロースを含有する水溶液に接触させて、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを生産することができる微生物を選択した。その結果、メイロジマ属(Meyerozyma)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、ロドトルーラ属(Rhodotorula)、およびスポロボロマイセス属(Sporobolomyces)に属し、D-アルロースからのD-タリトール生産能を有する酵母が探索され、当該酵母を反応溶液の酸素分圧を調整することにより、水溶液中のD-アルロースを所定割合のアリトールおよびD-タリトールに、容易に変換することを見出し、この酵母により、アリトールおよびD-タリトールが高収率で製造されることを確認して本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、アリトールおよびD-タリトールの選択的製造方法に関するものであり、更に詳細には、メイロジマ属(Meyerozyma)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、ロドトルーラ属(Rhodotorula)、およびスポロボロマイセス属(Sporobolomyces)に属し、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトール生産能を有する酵母を用いて、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールの選択的製造方法に関するものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)~()のD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する方法を要旨とする。
(1)D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する能力を有するメイロジマ属(Meyerozyma)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、またはスポロボロマイセス属(Sporobolomyces)の微生物を用いて、原料であるD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する方法。
D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する能力を有するメイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)、ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株(NITE P-02761)、ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株(NITE P-02760)、およびスポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株(NITE P-02762)からなる群より選択される微生物を用いて、原料であるD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する方法。
)前記微生物の菌体培養系に、原料であるD-アルロースを添加して培養することにより行なう、上記(1)または(2)に記載の方法。
)前記微生物を培養して得られた菌体に、原料であるD-アルロースを添加して、酸素分圧を所定の割合に調整しインキュベーションする、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
)上記原料であるD-アルロースが、D-アルロースを含有する水溶液である、上記(3)または(4)に記載の方法。
)上記D-アルロースを含有する水溶液中の酸素分圧が0~20%である、上記()に記載の方法。
【0012】
また、本発明は、以下の()のD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する微生物、および()のD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造することのできる培養物を要旨とする。
)メイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)、ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株(NITE P-02761)、ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株(NITE P-02760)、およびスポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株(NITE P-02762)から選ばれる、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する微生物。
)メイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)、ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株(NITE P-02761)、ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株(NITE P-02760)、およびスポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株(NITE P-02762)から選ばれる、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する微生物と培地とを含み、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造することのできる培養物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来高純度で得ることの困難であったアリトールおよびD-タリトールを、生化学的方法によって容易に安価に製造する方法を提供することができる。D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する能力を有する微生物を用いて、D-アルロースを原料としてアリトールおよびD-タリトールを任意の割合で生産でき、それぞれを選択的に製造する場合にも分離精製を必要としない等、工業的製造法として優れたアリトールおよびD-タリトールの選択的製造方法を提供することができる。さらに、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造することのできる微生物およびD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造することのできるその培養物を提供することができる。
【0014】
D-アルロースにメイロジマ属等に属する酵母を作用させる製造方法では、該酵母を所定の酸素分圧下でD-アルロースに接触させることにより、アリトールおよびD-タリトールを同一溶液中で選択的に製造することができる。酵母菌の還元反応を用いて、アリトールおよびD-タリトールを製造する本発明の方法は、環境に優しい方法であるとともに、有機化学的手法で実現できなかった、アリトールおよびD-タリトールを選択的かつ効率的に生産できる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】酸素分圧によるアリトールおよびD-タリトールの生産を示す
図2】粗酵素液によるD-アルロースの還元反応生成物のクロマトグラム
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者等は、酵母としてリストに収載されている菌種をD-アルロースを含有する水溶液に接触させて、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを生産することができる微生物を選択した。本発明のD-アルロースからアリトールおよびD-タリトールへの生産能を有する微生物は、D-アルロースを含有する水溶液に接触して、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを生産し得る微生物であればよく、具体的には、メイロジマ属(Meyerozyma)、ロドスポリジウム属(Rhodosporidium)、ロドトルーラ属(Rhodotorula)、およびスポロボロマイセス属(Sporobolomyces)の酵母菌またはその変異株からなる群より選ばれる、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する微生物の、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する酵母が好適である。
【0017】
より具体的には、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトール生産能を有するメイロジマ属の酵母は、その能力を有するメイロジマ属の酵母であれば使用することができる。その能力を有するメイロジマ属のK-03株は、メイロジマ属の酵母として、NITEが提供するスクリーニング株(RD055403)を用いて、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールの選択的製造ができることを裏付けた。メイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株は、2018年8月16日付で千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8所在の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託し、受託番号NITE P-02763として寄託された。
【0018】
また、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトール生産能を有するロドスポリジウム属の酵母は、その能力を有するロドスポリジウム属の酵母であれば使用することができる。その能力を有するロドスポリジウム属のK-79株は、ロドスポリジウム属の酵母として、NITEが提供するスクリーニング株(RD008879)を用いて、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールの選択的製造ができることを裏付けた。ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株は、2018年8月16日付で千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8所在の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託し、受託番号NITE P-02761として寄託された。
【0019】
また、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトール生産能を有するロドトルーラ属の酵母は、その能力を有するロドトルーラ属の酵母であれば使用することができる。その能力を有するロドトルーラ属のK-74株は、ロドトルーラ属の酵母として、NITEが提供するスクリーニング株(RD008874)を用いて、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールの選択的製造ができることを裏付けた。ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株は、2018年8月16日付で千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8所在の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託し、受託番号NITE P-02760として寄託された。
【0020】
また、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトール生産能を有するスポロボロマイセス属の酵母は、その能力を有するスポロボロマイセス属の酵母であれば使用することができる。その能力を有するスポロボロマイセス属のK-14株は、スポロボロマイセス属の酵母として、NITEが提供するスクリーニング株を用いて、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールの選択的製造ができることを裏付けた。スポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株は、2018年8月16日付で千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8所在の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託し、受託番号NITE P-02762として寄託された。
これらの属名は、28S rRNA遺伝子D1/D2領域の遺伝子の解析により、最も近縁と考えられるものである。
【0021】
凍結酵母菌の復元は、クライオチューブに凍結保存された酵母菌を37℃の湯浴で3分間保持し急速解凍して行なった。チューブの周囲を70%エタノールで拭取り、クリーンベンチ内で溶解した酵母菌を含む内容物を復元用培地(グルコース10,0g、ペプトン5.0g、酵母エキス3.0g、麦芽エキス3.0gを含蒸留水1リットルに溶解し、15.0gの粉末寒天を添加し、オートクレーブで121℃、15分間滅菌処理によって調製した寒天平板培地、以下YM培地とする)に200マイクロリットルを滴下し、コンラージ棒で培地表面に塗抹する。シャーレ表面を乾燥させた後、28℃のインキュベーターで凡そ1週間培養し、出現した酵母菌のコロニーを光学顕微鏡で確認してから、白金耳を用いてYM培地に画線し、再び28℃のインキュベーター内で1週間程度培養した。さらに培養によってYM培地表面に出現したコロニーを再び白金耳で釣菌し、上記操作と同様にYM培地に画線し、この操作をさらに一度繰返し、純化されたコロニーを当該試験の使用菌株とし、YM斜面培地に画線し28℃で培養後、4℃の冷蔵庫で保存した。
【0022】
本発明のこれらの酵母は、固定化しての利用が可能であり、種々の固定化方法によって活性の高い固定化酵素を得ることができる。本酵素は、公知の固定化手段、例えば担体結合法、架橋法、ゲル包括法、マイクロカプセル化法等を利用して固定化酵素として、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造することができる。
【0023】
本発明の製造方法では、まず、これら酵母を通常栄養培地で培養し、望ましくは、振トウ、通気攪拌などの好気的条件下で培養し増殖させる。培養中に、または得られた生菌体を用いて、水溶液中のD-アルロースをアリトールおよびD-タリトールに変換させ、生成したアリトールおよびD-タリトールを採取する。このように、D-アルロースの還元に用いる酵母は、培養液中のそれを利用することができる。具体的には、メイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)、ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株(NITE P-02761)、ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株(NITE P-02760)、およびスポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株(NITE P-02762)から選ばれる、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造する微生物と培地とを含む、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造することのできる培養物を利用することができる。
また、培養液から分離された生菌体およびこれを乾燥した菌体を利用することもできる。
【0024】
培養方法としては、メイロジマ属の酵母が必要とする栄養源、例えば、炭素源、窒素源、無機塩などを含有する栄養培地、望ましくは、微酸性乃至中性の液体培地に、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールの生産能を有する酵母を植菌し、温度約30℃で48時間乃至60時間、好気的条件下で培養すればよい。とりわけ、炭素源としてD-アルロースが最適であり、その他、D-グルコース、D-ソルボース、D-ソルビトールなども炭素源として好適である。炭素源とともに他の各種栄養源を含有する液体培地で好気的に培養するのが望ましい。
【0025】
前述のような培養方法によって得られた生菌体を、D-アルロースを含有する水溶液と接触、望ましくは、振トウ、通気攪拌、酸素の圧入などの所定の条件下で接触させ、D-アルロースをアリトールおよびD-タリトールに変換させる。メイロジマ属の酵母を用いて通常の好気的培養条件(20%酸素分圧)下で反応を行うと、D-アルロースの98w/w%がD-タリトールに変換する。
【0026】
一方、反応液の酸素分圧を好気的培養条件より低減化させると、D-アルロースからアリトールへの変換速度を速くすることができ、酸素分圧の低下に伴いD-アルロースからD-タリトールに転換する割合が減少するとともに、アリトールの生産量が増加する。例えば、メイロジマ属の酵母による1%酸素分圧の酸素低減下の反応では、原料のD-アルロースに対し、それぞれアリトール18w/w%およびD-タリトール27w/w%の収率で得られ、アリトールおよびD-タリトールを、安価に供給する工業的製造方法として好適である。
【0027】
以上述べた各種の方法により生成され蓄積したアリトールおよびD-タリトールを含有する水溶液は、適当な分離方法、例えば、遠心分離、ろ過などの方法によって菌体などの不溶物と分離され、採取される。
【0028】
このようにして製品化された、アリトールおよびD-タリトールは、試薬用途のみならず、食品工業、医薬品工業、化学工業などの工業用途に、その原料または中間体などとして有効に利用できる。
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
[洗浄菌体反応液の調製]
D-アルロース-YP培地(1%D-アルロース、0.5%ポリペプトン、0.3%酵母エキス、)またはD-アルロース-Mori’s Basal Medium(1%D-アルロース、0.4%カザミノ酸、0.1%酵母エキス、0.1%リン酸一カリウム、0.05%硫酸マグネシウム七水和物、0.01%塩化カルシウム二水和物、pH5.2)を調製後、0.2μmメンブランフィルターにて濾過滅菌した。
【0030】
酵母として、下記表1に示すメイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)、ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株(NITE P-02761)、ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株(NITE P-02760)、およびスポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株(NITE P-02762)の酵母をそれぞれ用いて、同培地2mlに酵母を一白金耳植菌し、30℃、48~144時間前培養を行った。培養液50μlを同培地10mlに植菌し、30℃、72時間培養、得られた培養液を遠心分離し、50mM MES緩衝液(pH6.5)にて2度洗浄して得られた菌体を洗浄菌体とした。洗浄菌体は適宜、希釈し600nmにおける濁度を測定した。
【0031】
洗浄菌体反応におけるアリトールの生産の反応液組成は、1%D-アルロース、0.5%エタノール、洗浄菌体濃度(600nm=60.0)、50mM MES緩衝液(pH6.5)にて行った。酸素分圧1%における条件下、反応液量2mlをL字試験管にてモノード振とう(160rpm)にて、30℃、 120時間で転換反応を行った。経時的試料を採取後、高速液体クロマトグラフィー分析に供した。
【0032】
[高速液体クロマトグラフィーによる分析]
糖の転換反応液を高速液体クロマトグラフィー(日立製作所LaChrom:カラム、日立製作所GL-C611;溶離液、10-4M水酸化ナトリウム、60℃;流速、1ml/min;検出、日立製作所L-3350)で分析したところ、その溶出位置は、標準物質として用いたアリトール(19.2分)およびD-タリトール(21.8分)とそれぞれ同一であった。
表1は、高速液体クロマトグラフィー分析結果であり、各酵母による反応時間120時間での、D-アルロース、アリトール、およびD-タリトールの反応割合を示す。
酸素分圧1%下で、メイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)、ロドスポリジウム エスピー(Rhodosporidium sp.)K-79株(NITE P-02761)、ロドトルーラ エスピー(Rhodotorula sp.)K-74株(NITE P-02760)、およびスポロボロマイセス エスピー(Sporobolomyces sp.)K-14株(NITE P-02762)の酵母は、いずれもD-アルロースをアリトール及びD-タリトールに変換したが、中でも最もアリトールの生産性が高かったのはメイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)であった。
【0033】
【表1】
【実施例2】
【0034】
メイロジマ属の酵母としてメイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)を用いて、好気的培養条件(20%酸素分圧)下と低酸素分圧下でそれぞれの反応を行い、それらの反応物の組成変化を観察した。
実施例1と同じ操作で得られた洗浄菌体を、1%D-アルロース、0.5%エタノール、洗浄菌体濃度(600nm=60.0)、50mM MES緩衝液(pH6.5)の反応液組成を有する洗浄菌体反応液に使用した。
【0035】
好気的培養条件(20%酸素分圧)下での反応は、洗浄菌体反応液において液量2mlをL字試験管に入れて行った。低酸素分圧下での反応は、洗浄菌体反応液において液量0.5mlで行った。小試験管(容積14.5ml)に反応液を入れダブルゴム栓を付し、窒素ガスで置換した。これに所定の酸素濃度となるようエアタイトシリンジで窒素ガスを酸素ガスに置換した。これら全ての操作は氷冷中で行った。
糖の転換反応は30℃、120rpmで5日間行った。転換終了後、反応液は高速液体クロマトグラフで分析した。生産されたアリトールおよびD-タリトールは、株式会社伏見製薬所製希少糖キット(糖アルコール)のアリトール(Lot.No.060323)およびD-タリトール(Lot.No.071031)を標準物質として、その測定値と比較した。
【0036】
その結果、図1に示すように酸素分圧の低下に伴いD-アルロースからD-タリトールに転換する割合が減少し、アリトールの生産量が増加した。
好気的培養条件(20%酸素分圧)下でのD-タリトールの生産は、1%D-アルロースを転換用基質として用いた場合、3日間の反応で98w/w%がD-タリトールに変換した。一方、嫌気的条件(1%酸素分圧)下では、1%D-アルロースは、5日間の反応で18w/w%がアリトールに、27w/w%がD-タリトールに変換され、5w/w%のD-アルロースが残存していた。
【実施例3】
【0037】
D-アルロース-YP培地で培養したメイロジマ エスピー(Meyerozyma sp.)K-03株( NITE P-02763)菌体を遠心分離により集菌し、得られた生菌体を50mM MES緩衝液(pH6.5)で2度洗浄した。洗浄菌体5gを200mlの50mM MES緩衝液(pH6.5)に懸濁し、フレンチプレスLAB2000((株)エスムデー)を用い、氷冷下180MPaで5分間循環処理した。処理液を遠心分離し、回収した上清を粗酵素液とした。
【0038】
D-アルロース-YP培地での培養後に調製した洗浄菌体2gに海砂2g、脱気後アルゴン置換した2mlの50mM MES緩衝液(pH6.5)を加え、アルゴンガスの気流下、氷冷した乳鉢乳棒で酵母を摩砕した。摩砕物を遠心分離し得られた上清を回収し、嫌気的調製粗酵素液とした。なお、全ての操作はアルゴンガス気流下で行った。
【0039】
非特許文献3に基づき、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールの生成に係る酵素活性を測定した。すなわち0.1M MES緩衝液(pH7.0)を500μl、1.5mMNADHあるいはNADPHを50μl、1.8MD-アルロース400μlを混合後、適時希釈した粗酵素液50μlを添加し30℃で反応させた。D-アルロース還元酵素活性は、酵素反応に伴う補酵素NADHあるいはNADPHの酸化を340nmにおける吸光度の減少速度を測定することにより求め、表に示した。なお、通常の測定条件での酵素活性測定を好気的反応条件、反応液全てを脱気後、アルゴンガス置換し、嫌気的調製粗酵素液を用いた活性測定を嫌気的反応条件とした。その結果を表2に示す。いずれの補酵素を用いた活性測定においても、好気的反応および嫌気的反応条件の間で還元酵素活性に差異は認められなかった。
【0040】
【表2】
【0041】
また、0.4mlの5mM NAD(P)Hおよび0.4mlの1.8M D-アルロースを含む0.1M MES緩衝液 pH6.5に粗酵素液あるいは嫌気的調製粗酵素液0.2mlを添加し、好気的条件および嫌気的条件下において30℃で18時間反応させ、溶液中のアリトールおよびD-タリトール含量を高速液体クロマトグラフで分析した。その結果を図2に示した。補酵素としてNADHおよびNADPHを使用した場合、好気的な反応と嫌気的な反応にいずれも差異はなかったが、NADHではアリトールに相当する溶出位置にNADPHでは認められなかったショルダーピークが認められた。D-タリトールの生成にはNADHおよびNADPH双方の補酵素が作用するが、アリトールの生成にはNADHのみが作用することが示唆された。
【0042】
このように、本発明の製造方法によって得られた製品は、食品工業、医薬品工業、化学工業などの原料や中間体などとして、有効に利用することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、従来の有機化学的手法では所定の割合で得ることの困難であった、アリトールおよびD-タリトールを、生化学的方法によって容易に製造する方法を確立するものである。特に、メイロジマ属に属する酵母を用いて、酸素分圧を調整することで、D-アルロースからアリトールおよびD-タリトールを選択的に製造できることを見出したことは、今後、希少糖アルコールを応用するに当たり極めて有利である。
原料となるD-アルロースは、本発明者等が発明した特許文献1、2等に記載しているケトース3-エピメラーゼ等を用いる酵素反応により、生化学的方法によって大量生産が可能になったケトヘキソースである。そのため、本発明の製造方法を、この大量生産されるD-アルロースに適用すれば、アリトールの大量生産が可能となる。
したがって、本発明の方法は、アリトールおよびD-タリトールの工業的製造法として好適であり、大量、安価な供給を容易にし、希少糖類としての試薬用途のみならず、従来予想すらできなかった食品工業、医薬品工業、化学工業など広範な工業用途への利用の道を拓くものである。
図1
図2