(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】壁面移動ロボット
(51)【国際特許分類】
B64C 25/32 20060101AFI20221220BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B64C25/32
B64C27/08
(21)【出願番号】P 2018214048
(22)【出願日】2018-11-14
【審査請求日】2021-10-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (刊行物名) 日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会2018 講演論文集(DVD) (公開者) 井上 文宏、本庄 慧、蟹澤 力也、牧野 伎、和田 麗、北洞 貴也 (発行日) 平成30年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501165628
【氏名又は名称】株式会社ティ・エス・プランニング
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 文宏
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】野島 昭二
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智
【審査官】藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0083183(KR,A)
【文献】国際公開第2017/183219(WO,A1)
【文献】特開2018-165131(JP,A)
【文献】特開2018-108818(JP,A)
【文献】特開2011-194937(JP,A)
【文献】特開2017-061298(JP,A)
【文献】特開2018-095077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 25/32;27/08;27/52
B62D 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔制御が可能な壁面移動ロボットであって、
機体と、
前記機体に設けられた、制御装置と、
前記機体に設けられた、有線又は無線通信によって前記制御装置を遠隔制御装置と接続させることが可能な通信装置と、
前記機体に設けられた、少なくとも3つのダクトファンと
、を備え、
前記少なくとも3つのダクトファンのうち、第1ダクトファン及び第2ダクトファンのそれぞれは、前記機体を推進させる推進方向が固定であり、
前記少なくとも3つのダクトファンのうち、第3ダクトファンは、前記推進方向が可変であ
り、
前記機体に設けられた、少なくとも前記機体に対して垂直な
前記第1ダクトファン及び前記第2ダクトファンの前記推進方向である前記第1方向に沿って転動可能な、少なくとも1つの転動可能な転動体と、
前記機体に設けられた、推進方向が可変な第4ダクトファンを、さらに備え
、
前記第1ダクトファンの軸方向、及び前記第2ダクトファンの軸方向のそれぞれは、前記第1方向に固定され、
前記第3ダクトファンの軸方向は、前記第1方向と
直交する第2方向に沿って傾斜可能であり、
且つ、前記第3ダクトファンは、前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向を回転中心として前記機体に対して回動可能に支持され、
前記第4ダクトファンの軸方向は、
前記第3方向に沿って傾斜可能であ
り、且つ、第4ダクトファンは、前記第2方向を回転中心として前記機体に対して回動可能に支持されていること
を特徴とする壁面移動ロボット。
【請求項2】
前記第1ダクトファン及び前記第2ダクトファンのそれぞれは、前記第3方向に互いに離間して、前記機体に対して固定支持され、
前記第3ダクトファンは、前記第1ダクトファン及び前記第2ダクトファンのそれぞれから前記第2方向に離間して、前記機体に対して回動可能に支持され、
前記第4ダクトファンは、前記第1ダクトファン及び前記第2ダクトファンと、前記第3ダクトファンとの間に位置し、前記第1ダクトファン、前記第2ダクトファン、及び前記第3ダクトファンのそれぞれから前記第2方向に離間して、前記機体に対して回動可能に支持されていること
を特徴とする請求項
1に記載の壁面移動ロボット。
【請求項3】
前記転動体は、全方向の転動が可能であること
を特徴とする請求項
1又は2に記載の壁面移動ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、壁面移動ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、建築ビルの老朽化や経年変化に伴う建物の外壁やタイル等の検査のために、様々なタイプのロボットが開発されている。そのようなロボットの1つとして、壁面移動ロボットが知られている(特許文献1)。特許文献1に記載された壁面移動ロボットは、例えば、壁面に吸着して壁面を移動し、壁面の検査、清掃、塗装、及び表面処理等の作業に従事する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
壁面移動ロボットは、作業が行われる壁面まで人によって運ばれる。平常時では、人は建物等に近づくことができる。しかし、災害時となると、倒壊の危険や不整地等があり、人は建物に容易に近づくことができない。このため、災害時には、人に代わって検査の拠点を作ることが可能なロボット(拠点ロボット)が期待されている。
【0005】
拠点ロボットのようなロボットに望まれることの1つは、例えば、倒壊危険地域や不整地等の人の立ち入りが困難な箇所を移動して目標物、例えば、建物に到達できること、である。そして、もう1つは、建物に到達した後、建物の壁面を自力で移動できること、である。特許文献1に記載された壁面移動ロボットは、建物の壁面を移動できる。しかし、例えば、人の立ち入りが困難な箇所を移動して建物の壁面に到達することはできない。
【0006】
この発明は、上記事情に鑑みて為されたもので、その目的は、人の立ち入りが困難な箇所であっても移動することが可能な壁面移動ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る壁面移動ロボットは、遠隔制御が可能な壁面移動ロボットであって、機体と、前記機体に設けられた、制御装置と、前記機体に設けられた、有線又は無線通信によって前記制御装置を遠隔制御装置と接続させることが可能な通信装置と、前記機体に設けられた、少なくとも3つのダクトファンと、を備え、前記少なくとも3つのダクトファンのうち、第1ダクトファン及び第2ダクトファンのそれぞれは、前記機体を推進させる推進方向が固定であり、前記少なくとも3つのダクトファンのうち、第3ダクトファンは、前記推進方向が可変であり、前記機体に設けられた、少なくとも前記機体に対して垂直な前記第1ダクトファン及び前記第2ダクトファンの前記推進方向である前記第1方向に沿って転動可能な、少なくとも1つの転動可能な転動体と、前記機体に設けられた、推進方向が可変な第4ダクトファンを、さらに備え、前記第1ダクトファンの軸方向、及び前記第2ダクトファンの軸方向のそれぞれは、前記第1方向に固定され、前記第3ダクトファンの軸方向は、前記第1方向と直交する第2方向に沿って傾斜可能であり、且つ、前記第3ダクトファンは、前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向を回転中心として前記機体に対して回動可能に支持され、前記第4ダクトファンの軸方向は、前記第3方向に沿って傾斜可能であり、且つ、第4ダクトファンは、前記第2方向を回転中心として前記機体に対して回動可能に支持されていることを特徴とする。
【0013】
第2発明に係る壁面移動ロボットは、第1発明において、前記第1ダクトファン及び前記第2ダクトファンのそれぞれは、前記第3方向に互いに離間して、前記機体に対して固定支持され、前記第3ダクトファンは、前記第1ダクトファン及び前記第2ダクトファンのそれぞれから前記第2方向に離間して、前記機体に対して回動可能に支持され、前記第4ダクトファンは、前記第1ダクトファン及び前記第2ダクトファンと、前記第3ダクトファンとの間に位置し、前記第1ダクトファン、前記第2ダクトファン、及び前記第3ダクトファンのそれぞれから前記第2方向に離間して、前記機体に対して回動可能に支持されていることを特徴とする。
【0015】
第3発明に係る壁面移動ロボットは、第1発明又は第2発明において、前記第3ダクトファンは、前記第3方向を回転中心としての回動が可能であり、前記第4ダクトファンは、前記第2方向を回転中心としての回動が可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明に係る壁面移動ロボットによれば、少なくとも3つのダクトファンのうち、第1ダクトファン及び第2ダクトファンのそれぞれは、機体を推進させる推進方向が固定であり、少なくとも3つのダクトファンのうち、第3ダクトファンは、推進方向が可変である。このように、推進方向が固定のダクトファンと、推進方向が可変のダクトファンとを、機体に設けることで、例えば、壁面移動ロボットを浮上させて、前進飛行させることができる。壁面移動ロボットを飛行させることで、例えば、人の立ち入りが困難な箇所を、飛行によって越えることができる。また、推進方向が可変のダクトファンの推進力によって壁面移動ロボットを壁面に押付けつつ、推進方向が固定のダクトファンの推進力によって壁面移動ロボットを壁面上で移動させることができる。
【0019】
第1発明に係る壁面移動ロボットによれば、第3ダクトファンは、第3方向を回転中心としての回動が可能である。これにより、壁面移動ロボットの飛行状態として、第2方向に沿った前進飛行、及び第2方向に沿った後退飛行のそれぞれを実現できる。
【0020】
第1発明に係る壁面移動ロボットによれば、推進方向が可変な第4ダクトファンを、さらに備えるので、壁面上において、第1方向に沿った移動に加えて、第1方向とは異なった方向への移動が可能となる。
【0021】
第1発明に係る壁面移動ロボットによれば、第1、第2ダクトファンのそれぞれの軸方向は、第1方向に固定され、第3ダクトファンの軸方向は、第2方向に沿って傾斜可能であり、第4ダクトファンの軸方向は、第3方向に沿って傾斜可能である。これにより、推進方向が固定のダクトファンと、推進方向が可変のダクトファンとを含む壁面移動ロボットの別の態様が具現化される。
また、第1発明に係る壁面移動ロボットによれば、第3ダクトファンは、第3方向を回転中心としての回動が可能である。これにより、壁面移動ロボットの飛行状態として、第2方向に沿った前進飛行、及び第2方向に沿った後退飛行のそれぞれを実現できる。さらに、第4ダクトファンは第2方向を回転中心として回動が可能である。これにより、壁面上において、第1方向に沿った移動に加えて、第3方向に沿って左右の移動が可能となる。
【0022】
第2発明に係る壁面移動ロボットによれば、第1、第2ダクトファンのそれぞれは、第3方向に互いに離間して機体に対して固定支持され、第3ダクトファンは、第1、第2ダクトファンのそれぞれから第2方向に離間して機体に対して回動可能に支持され、第4ダクトファンは、第1、第2ダクトファンと、第3ダクトファンとの間に位置し、第1~第3ダクトファンのそれぞれから第2方向に離間して機体に対して回動可能に支持されている。これにより、第1~第4ダクトファンのそれぞれの、1つの態様が具現化される。
【0024】
第3発明に係る壁面移動ロボットによれば、転動体は、全方向の転動が可能である。これにより、壁面移動ロボットは、壁面上において、全方向の移動が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、この発明の第1実施形態に係る壁面移動ロボットの一例を示す模式平面図である。
【
図2】
図2は、この発明の第1実施形態に係る壁面移動ロボットの一例を示す模式側面図である。
【
図3】
図3(a)~
図3(c)は、ダクトファンの推進力の方向を示す模式図である。
【
図4】
図4は、ダクトファンの推進力の方向を示す模式図である。
【
図6】
図6は、電流値と推進力との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る壁面移動ロボットの動きの一例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、この発明の第2実施形態に係る壁面移動ロボットの一例を示す模式平面図である。
【
図9】
図9は、第4ダクトファンの動きを示す模式平面図である。
【
図10】
図10は、第4ダクトファンの動きを示す模式平面図である。
【
図11】
図11は、第4ダクトファンの動きを示す模式平面図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係る壁面移動ロボットの動きの一例を示す模式平面図である。
【
図13】
図13(a)は、第3実施形態に係る壁面移動ロボットの第1例を示す模式側面図である。
図13(b)は、第3実施形態に係る壁面移動ロボットの第2例を示す模式側面図である。
【
図14】
図14(a)は、第3実施形態に係る壁面移動ロボットの第3例を示す模式平面図である。
図14(b)は、第3実施形態に係る壁面移動ロボットの第4例を示す模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施形態のいくつかを、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、機体に対して垂直な方向を第1方向yとし、第1方向yと交差、例えば直交する1つの平面方向を第2方向rとし、第1方向y及び第2方向rのそれぞれと交差、例えば直交する別の平面方向を第3方向pとする。また、各図において、共通する部分については、共通する参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、この発明の第1実施形態に係る壁面移動ロボットの一例を示す模式平面図である。
図2は、この発明の第1実施形態に係る壁面移動ロボットの一例を示す模式側面図である。
【0028】
図1及び
図2に示すように、第1実施形態に係る壁面移動ロボット100は、遠隔制御が可能なロボットである。壁面移動ロボット100は、機体1と、着陸ギア2と、第1~第3ダクトファン11~13と、転動可能な転動体21と、第1回動機構31と、を含む。
【0029】
第1~第3ダクトファン11~13のそれぞれは、機体1に設けられている。第1、第2ダクトファン11及び12のそれぞれは、機体1を推進させる推進方向が固定である。第3ダクトファン13は、推進方向が可変である。第1ダクトファン11の軸方向、及び第2ダクトファン12の軸方向のそれぞれは、第1方向yに固定されている。第3ダクトファン13の軸方向は、第2方向rに沿って傾斜可能である。これにより、第1、第2ダクトファン11及び12のそれぞれでは推進方向が固定され、第3ダクトファン13では推進方向が可変とされる。なお、参照符号152及び153は、それぞれ、第2ダクトファン12及び13のテイルコーンを示している。軸方向は、例えば、テイルコーン152、153が延びる方向である。第1ダクトファン11もテイルコーン151を有するが、
図2においては、テイルコーン152によって隠れており、不図示となっている。第1、第2ダクトファン11及び12のそれぞれは、機体1に対して固定支持されている。第3ダクトファン13は、機体1に対して回動可能に支持されている。第3ダクトファン13は、例えば、第3方向pを回転中心として時計回り及び反時計回りに回動する。回動範囲は、例えば、180°である。第1、第2ダクトファン11及び12は、第3方向pに沿って互いに離間して、機体1に配置される。第3ダクトファン13は、第2方向rに沿って第1、第2ダクトファン11及び12のそれぞれから離間して、機体1に配置される。これにより、第1~第3ダクトファン11~13は、第1方向yから見て、例えば、第3ダクトファン13を頂点とした二等辺三角形状、又は正三角形状に配置される。
【0030】
転動体21は、壁面移動ロボット100の機首側に設けられており、第1方向yに沿って転動可能である。壁面移動ロボット100において、転動体21は、第1~第4転動体21a~21dを含む。
図1には、第1転動体21a及び第2転動体21bが示され、
図2には第1転動体21a及び第3転動体21cが示されている。また、第4転動体21dについては、
図1において第2転動体21bによって隠れ、
図2において第3転動体21cによって隠れており、不図示となっている。第1~第4転動体21a~21dは、それぞれ、第1~第4支持部材25a~25dに転動可能に支持されている。第1~第4支持部材25a~25dは、機体1に取り付けられている。なお、第4転動体21dを支持する第4支持部材25dについては、上述の理由から、不図示となっている。第1~第4転動体21a~21dのそれぞれが壁面と接したとき、第1~第4転動体21a~21dのそれぞれは、第1方向yに沿って転動する。第1ダクトファン11及び第2ダクトファン12は、第1~第4転動体21a~21dと、第3ダクトファン13との間に位置する。壁面移動ロボット100では、第1~第4転動体21a~21dは車輪を含む。転動体が車輪を含むとき、車輪は、少なくとも3つあればよい。また、転動体として、クローラを用いることもできる。クローラを用いた場合には、転動体は、少なくとも1つあればよい。
【0031】
第1回動機構31は、第3ダクトファン13を、第3方向pの回りに回動させる。第1回動機構31は、遠隔制御が可能である。第3ダクトファン13には、第1シャフト41が取り付けられている。壁面移動ロボット100では、第1回動機構31は、右側回動機構31aと、左側回動機構31bと、を含む。右側回動機構31aは、右側支持部材35aに取り付けられている。左側回動機構31bは、左側支持部材35bに取り付けられている。右側支持部材35a及び左側支持部材35bのそれぞれは、機体1に取り付けられている。第1シャフト41は、右側シャフト41aと左側シャフト41bと、を含む。右側回動機構31a及び左側回動機構31bのそれぞれは、右側シャフト41aと左側シャフト41bを介して、第3ダクトファン13を、第3方向pの回りに回動させる。例えば、このようにして、第3ダクトファン13は、機体1に対して回動可能に支持される。
【0032】
なお、第1回動機構31としては、右側回動機構31a及び左側回動機構31bのいずれか1つがあればよい。同様に、第1シャフト41としては、右側シャフト41aと左側シャフト41bのいずれか1つがあればよい。
【0033】
制御装置60は、機体1に設けられている。制御装置60は、例えば、第1~第3ダクトファン11~13、並びに第1回動機構31のそれぞれを制御する。
【0034】
通信装置70は、機体1に設けられている。通信装置70は、制御装置60と、遠隔制御装置160とを、有線又は無線通信によって接続する。なお、
図1においては、一例として、制御装置60と、遠隔制御装置160とを、無線通信によって接続する通信装置70が示されている。
【0035】
遠隔制御装置160は、例えば、有線又は無線送受信可能なフライト及びドライブコントローラ161を含む。なお、
図1においては、一例として、通信装置70と無線通信によって接続されるフライト及びドライブコントローラ161が示されている。操縦者は、フライト及びドライブコントローラ161を用いて、第1~第3ダクトファン11~13の推進力、及び第3ダクトファンの向き等を制御することで壁面移動ロボット100を、遠隔制御により操縦する。フライト及びドライブコントローラ161の一例は、例えば、プロポである。
【0036】
壁面移動ロボット100では、第1~第3ダクトファン11~13のそれぞれが稼働しているとき、第1、第2ダクトファン11及び12のそれぞれは、気流を、第1方向yに導く。第3ダクトファンは、気流を、第1方向yに対して第2方向rに沿って任意な角度で導く。これにより、以下に説明される飛行が可能となる。
【0037】
図3(a)~
図3(c)、及び
図4は、ダクトファンの推進力の方向(推進方向)を示す模式図である。なお、
図3(a)~(c)、及び
図4において、第1ダクトファン11は、第2ダクトファン12によって隠れている。
【0038】
<上昇、下降、及びホバーリング>
図3(a)に示すように、第3ダクトファン13の軸方向を、第1、第2ダクトファン11及び12のそれぞれの軸方向に一致させる。このとき、第1~第3ダクトファン11~13のそれぞれの推進力Tの方向は第1方向yで一致し、例えば、機体1に対して垂直方向に推進力Tが作用する。これにより、壁面移動ロボット100は、上昇、下降、及びホバーリングのいずれかを行える。
【0039】
<前進飛行>
図3(b)に示すように、第3ダクトファン13の軸方向を、第1、第2ダクトファン11及び12のそれぞれの軸方向からずらす。このとき、第3ダクトファン13の推進力Tの方向は、機体1に対して斜め、例えば対角線方向となり、機体1に対して対角線方向に推進力Tが作用する。これにより、壁面移動ロボット100は、前進飛行をすることができる。
【0040】
<壁面押付け>
図3(c)に示すように、第3ダクトファン13の軸方向を、第2方向rとする。このとき、第3ダクトファン13の推進力Tの方向は、機体1に対して水平な方向となり、機体1に対して水平方向に推進力Tが作用する。これにより、壁面移動ロボット100は、機体1を、第1~第4転動体21a~21d介して壁面に押付けることができる。
【0041】
<後退飛行>
また、第3ダクトファン13は、第3方向pを回転中心としての回動が可能である。回動角度の一例は、例えば、180°である。第3ダクトファン13は、例えば、機尾側水平位置から、機体1の下部(着陸ギア2側)を回って機首側水平位置までの回動、及びその反対回りの回動が可能である。このため、
図4に示すように、
図3(b)に示す前進飛行では機尾側を向いていた第3ダクトファン13の軸方向を、機首側に向けることができる。これにより、壁面移動ロボット100は、後退飛行をすることができる。後退飛行ができることによって、壁面移動ロボット100は、自力で壁面から離脱できる。
【0042】
<推進力実験>
図5は、実験装置を示す模式図である。
図6は、電流値iと推進力fとの関係を示す図である。
【0043】
ダクトファン1台の推進力を計測するため、
図5に示す実験装置を製作した。定盤に対してロードセルを設置し、ファン駆動時の推進力を連続計測した。操作プロポのスティック位置に対して、1台のファンに流れる電流値i[A/モータ数]と推進力f[N]との関係を
図6に示す。電流値iに対する推進力fの近似曲線は、双曲線となった。運用可能な電流値100Aでは、約70Nの力を得られることが確認できた。操作プロポの基準位置では、約40Nの力を出せるため、ダクトファン2台の推進力で、機体1(機体重量約60N)を浮上及びホバーリングさせることが可能である。また、3台のダクトファンを同時に駆動した結果は、ダクトファン1台の推進力のほぼ3倍となり、単純和で表すことができた。
【0044】
<壁面移動ロボットの動き>
図7は、第1実施形態に係る壁面移動ロボット100の動きの一例を示す模式図である。
図7に示すように、第3ダクトファン13の傾斜角度を、第1、第2ダクトファン11及び12の軸方向(第1方向y)に一致させる。この後、第1~第3ダクトファン11~13のそれぞれを稼働させ、第1~第3ダクトファン11~13の推進力Tを上げていき、壁面移動ロボット100を浮上させる。
【0045】
次に、第3ダクトファン13を傾斜させ、壁面移動ロボット100を前進飛行させる。これにより、壁面移動ロボット100は、例えば、不整地200上を飛行しながら移動し、目標物、例えば、建物300の壁面301を目指す。壁面移動ロボット100の飛行状態は、第3ダクトファン13の傾斜角度を調整することで制御できる。
【0046】
壁面301が近づいてきたら、第3ダクトファン13の推進力Tを調整しながら、傾斜角度を、徐々に第1方向yへ戻して飛行速度を下げていく。壁面301に到達したら、第3ダクトファン13の傾斜角度を第1方向yとして、壁面移動ロボット100をホバーリングさせる。この後、第3ダクトファン13の傾斜角度を、第1方向yから第2方向rへ向かうように調整する。第3ダクトファン13の傾斜角度が、第2方向rと、例えば、一致したら、第3ダクトファン13の推進力Tを調整して、壁面移動ロボット100を壁面301に押付ける。
【0047】
押付ける力が十分になったら、第1、第2ダクトファン12及び13の推進力Tを上げて、壁面移動ロボット100を壁面301に沿って上昇させる。上昇時、第1~第4転動体21a~21dは、壁面301と接しながら、第1方向yに沿って転動する。壁面移動ロボット100が目標位置TPに近づいてきたら、第1、第2ダクトファン12及び13の推進力Tを落とし、上昇速度を下げていく。目標位置TPに到達したら、第1、第2ダクトファン12及び13の推進力Tを調整し、壁面移動ロボット100を停止させる。また、第1、第2ダクトファン12及び13の推進力Tを調整することで、壁面移動ロボット100を壁面301に沿って下降させることもできる。
【0048】
このように壁面移動ロボット100は、人の立ち入りが困難な箇所、例えば、不整地200があっても、不整地200の上空を飛行して、目標物、例えば、建物300の壁面301に到達することができる。そして、建物300の壁面301上を、自力で移動できる。このような壁面移動ロボット100は、例えば、災害時において、人に代わって検査の拠点を作ることが可能なロボット(拠点ロボット)に有用である。なお、壁面移動ロボット100は、平常時においても、運用できることは言うまでもない。
【0049】
このような第1実施形態よれば、人の立ち入りが困難な箇所であっても、飛行によって移動でき、かつ、壁面上を自力で移動できる壁面移動ロボット100を提供できる。
【0050】
(第2実施形態)
図8は、この発明の第2実施形態に係る壁面移動ロボットの一例を示す模式平面図である。なお、第2実施形態以降の実施形態においては、制御装置60、通信装置70、及び遠隔制御装置160の図示は、省略する。
【0051】
図8に示すように、第2実施形態に係る壁面移動ロボット100bは、第4ダクトファン14と、第2回動機構32と、をさらに含むことが、壁面移動ロボット100と異なる。
【0052】
第4ダクトファン14は、機体1に設けられている。第4ダクトファン14の軸方向は、第3方向pに沿って傾斜可能である。これにより、第4ダクトファン14では推進方向が可変とされる。第4ダクトファン14は、機体1に対して回動可能に支持されている。第4ダクトファン14は、例えば、第2方向rを回転中心として時計回り及び反時計回りに回動する。回動範囲は、例えば、180°である。第4ダクトファン14は、第1、第2ダクトファン11及び12と、第3ダクトファン13との間に、第1~第3ダクトファン11~13のそれぞれから離間して機体1に配置される。また、第4ダクトファン14は、第1方向yから見て、例えば、第3ダクトファン13と、第2方向rに沿って同一直線上に配置される。
【0053】
第2回動機構32は、第4ダクトファン14を、第2方向rを回転中心として回動させる。第2回動機構32は、遠隔制御が可能である。第4ダクトファン14には、第2シャフト42が取り付けられている。壁面移動ロボット100bでは、第2回動機構32は、右側回動機構32aと、左側回動機構32bと、を含む。右側回動機構32aは、右側支持部材36aに取り付けられている。左側回動機構32bは、左側支持部材36bに取り付けられている。右側支持部材36a及び左側支持部材36bのそれぞれは、機体1に取り付けられている。第2シャフト42は、右側シャフト42aと左側シャフト42bと、を含む。右側回動機構32a及び左側回動機構32bのそれぞれは、右側シャフト42aと左側シャフト42bを介して、第4ダクトファン14を、第2方向rの回りに回動させる。例えば、このようにして、第4ダクトファン14は、機体1に対して回動可能に支持される。
【0054】
なお、第2回動機構32としては、右側回動機構32a及び左側回動機構32bのいずれか1つがあればよい。同様に、第2シャフト42としては、右側シャフト42aと左側シャフト42bのいずれか1つがあればよい。
【0055】
壁面移動ロボット100bにおいて、転動体21は、第1~第4マルチ方向転動体22a~22dを含む。
図8には、第1、第2マルチ方向転動体22a及び22bが示されている。
図8において、第3、第4マルチ方向転動体22c及び22dのそれぞれは、第1、第2マルチ方向転動体22a及び22bによって隠れており、不図示となっている。第1~第4マルチ方向転動体22a~22dは、それぞれ、第1~第4転動体21a~21dと同様に、第1~第4支持部材25a~25dに支持されている。なお、第3、第4支持部材25c及び25dについては、上述の理由から、不図示となっている。壁面移動ロボット100bでは、第1~第4マルチ方向転動体22a~22dは、全方向移動車輪を含む。全方向移動車輪は、ベースローラー23と、フリーローラー24と、を含む。ベースローラー23は、第3方向pの回りに自由回転する。フリーローラー24は、ベースローラー23の回転軸方向と直交する第2方向rの回りに自由回転する。これにより、全方向移動車輪は、第1方向yと第3方向pとで規定される平面上で、全方向に転動することができる。なお、マルチ方向転動体が全方向移動車輪を含むとき、全方向移動車輪は、少なくとも3つあればよい。また、マルチ方向転動体は、全方向に転動しなくても、少なくとも第1方向y及び第3方向pに沿って転動可能であればよい。また、マルチ方向転動体として、第1方向yと第3方向pとで規定される平面上で回動可能なクローラを用いることもできる。クローラを用いた場合には、マルチ方向転動体は、少なくとも1つあればよい。
【0056】
壁面移動ロボット100bでは、第1~第4ダクトファン11~14のそれぞれが稼働しているとき、第1、第2ダクトファン11及び12のそれぞれは、気流を、第1方向yに導く。第3ダクトファン13は、気流を、第1方向yに対して第2方向rに沿って任意な角度で導く。第4ダクトファン14は、気流を、第1方向yに対して第3方向pに沿って任意な角度で導く。これにより、壁面移動ロボット100と比較して、以下に説明される移動が、さらに可能となる。
【0057】
図9~
図11は、第4ダクトファン14の動きを示す模式平面図である。
図9には、第4ダクトファン14の軸方向を、第1方向yと一致させた状態が示されている。この場合、例えば、壁面移動ロボット100bは、第1、第2、第4ダクトファン11、12、及び14の3台を用いて、空中に維持させることができる。さらに、第3ダクトファン13の軸方向を、第1、第2、第4ダクトファン11、12、及び14のそれぞれの軸方向からずらすことで、壁面移動ロボット100bは、前進飛行、後退飛行、ホバーリング、並びに壁面301への押付けを行える。
【0058】
図10及び
図11には、第4ダクトファン14の軸方向を、第1~第3ダクトファン11~13のそれぞれの軸方向からずらした状態が示されている。この場合、例えば、壁面移動ロボット100bは、空中上において全方向への移動が可能となる。また、壁面301上においては、第3方向pに沿った動き、及び第1方向yと第3方向pとで規定される平面上での斜め方向の動きが可能となる。
【0059】
図12は、第2実施形態に係る壁面移動ロボットの動きの一例を示す模式平面図である。
図12には、壁面移動ロボット100bの代表的な動きの1つとして、壁面301上での第3方向pに沿った移動の状態が示されている。また、
図12は、
図8と同様に、壁面移動ロボット100bを上方から見た模式平面として示している。
【0060】
図12に示すように、壁面移動ロボット100bは、第3方向pに沿って紙面左側方向、及び紙面右側方向のそれぞれへの移動が可能である。第4ダクトファン14は、第2方向rを回転中心としての回動が可能である。回動角度の一例は、例えば、180°である。第4ダクトファン14は、例えば、第1ダクトファン11側水平位置から、機体1の下部(着陸ギア2側)を回って第2ダクトファン12側水平位置までの回動、及びその反対回りの回動が可能である。これにより、
図12に示すように、壁面移動ロボット100bは、第3ダクトファン13によって壁面301に押付けられた状態で、第4ダクトファン14を、第1ダクトファン11側に向けるか、第2ダクトファン12側に向けるかで、壁面301上を第3方向pに沿って左右に移動させることができる。また、特に図示はしないが、壁面移動ロボット100bは、壁面301上を、斜めに移動することもできる。
【0061】
(第3実施形態)
図13(a)は、第3実施形態に係る壁面移動ロボットの第1例を示す模式側面図である。
図13(b)は、第3実施形態に係る壁面移動ロボットの第2例を示す模式側面図である。
図13(a)及び
図13(b)に示す模式側面は、例えば、
図2に示した模式側面と対応する。
【0062】
図13(a)に示すように、第3実施形態に係る壁面移動ロボット100cが、第1実施形態に係る壁面移動ロボット100と異なるところは、バンパー170を、さらに備えていることである。
【0063】
バンパー170は、例えば、機体1の、着陸ギア2の取り付け部分と反対側に位置した部分に取り付けられる。バンパー170は、壁面移動ロボット100cが、橋梁の床版下面や桁下面、あるいは建物の天井下に入ったとき、これらと、第1~第3ダクトファン11~13を含む機体1との接触を防止するものである。
【0064】
また、バンパー170は、壁面移動ロボット100cが、床版下面、桁下面、及び天井等と、万が一、接触してしまった際には、その衝撃を柔らげるようにすることもできる。この場合、バンパー170は、
図13(b)に示すように、伸縮可能な緩衝部材とする。伸縮可能な緩衝部材とするには、例えば、バンパー170は、ばね材171等にて、機体1に支持すればよい。これにより、床版下面、桁下面、及び天井等に接した状態で、第1、第2ダクトファン11及び12の推進力Tをばね材171等で吸収しつつ、壁面移動ロボット100cを、安全に停止させることができる。
【0065】
図14(a)は、第3実施形態に係る壁面移動ロボットの第3例を示す模式平面図である。
図14(b)は、第3実施形態に係る壁面移動ロボットの第4例を示す模式平面図である。
図14(a)及び
図14(b)に示す模式側面は、例えば、
図1に示した模式平面と対応する。
【0066】
また、
図14(a)に示すように、バンパー170は、鋼材172を、例えば、井桁状に組み上げる、あるいは
図14(b)に示すように、鋼材172を、例えば、メッシュ状に組み上げて構成されることが好ましい。バンパー170を井桁状、あるいはメッシュ状とすることで、バンパー170には、気流の通り道を確保することができる。これにより、バンパー170が壁面移動ロボット100cに取り付けられたとしても、壁面移動ロボット100cが飛行中において、第1~第3ダクトファン11~13へ吸入される気流が妨げられ難くなる、という利点を得ることができる。なお、鋼材171は、ワイヤ状のものであってもよい。
【0067】
このように、壁面移動ロボット100cには、バンパー170が、さらに備えられていてもよい。このような壁面ロボット100cによれば、床版下面、桁下面、及び天井等に接触した際に起こり得る墜落を防止することができる。なお、第3実施形態は、第2実施形態と組み合わせることも可能である。
【0068】
以上、この発明の実施形態のいくつかを説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。例えば、これらの実施形態は、適宜組み合わせて実施することが可能である。また、この発明は、上記いくつかの実施形態の他、様々な新規な形態で実施することができる。したがって、上記いくつかの実施形態のそれぞれは、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、この発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1:機体
2:着陸ギア
11~14:第1~第4ダクトファン
y:第1方向
r:第2方向
p:第3方向
T:推進力
TP:目標位置
21a~21d:第1~第4転動体
22a~22d:第1~第4マルチ方向転動体
25a~25d:第1~第4支持部材
31:第1回動機構
31a:右側回動機構(第1回動機構)
31b:左側回動機構(第1回動機構)
32:第2回動機構
32a:右側回動機構(第2回動機構)
32b:左側回動機構(第2回動機構)
35a、36a:右側支持部材
35b、36b:左側支持部材
41:第1シャフト
41a:右側シャフト(第1シャフト)
41b:左側シャフト(第1シャフト)
42:第2シャフト
42a:右側シャフト(第2シャフト)
42b:左側シャフト(第2シャフト)
60:制御装置
70:通信装置
100、100b、100c:壁面移動ロボット
151~153:テイルコーン
160:遠隔制御装置
161:フライト及びドライブコントローラ
170:バンパー
171:ばね材
172:鋼材
200:不整地
300:建物
301:壁面