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7197089電気化学キャパシタ電極用の黒鉛系多孔質炭素材料及びその製造方法、電気化学キャパシタ電極並びに電気化学キャパシタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電気化学キャパシタ電極用の黒鉛系多孔質炭素材料及びその製造方法、電気化学キャパシタ電極並びに電気化学キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/24 20130101AFI20221220BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20221220BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20221220BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20221220BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20221220BHJP
【FI】
H01G11/24
C01B32/20
C01B32/21
H01G11/32
H01G11/86
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018226766
(22)【出願日】2018-12-03
(65)【公開番号】P2020092124
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】加登 裕也
(72)【発明者】
【氏名】曽根田 靖
(72)【発明者】
【氏名】末松 俊造
(72)【発明者】
【氏名】堀井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大倉 数馬
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-305625(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002261(WO,A1)
【文献】特開2016-28014(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078073(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0331352(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 2/00-17/00
H01M 4/00-50/77
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学キャパシタ電極用の黒鉛系多孔質炭素材料であって、
菱面体晶と六方晶の結晶構造を有し、菱面体晶の含有割合が30重量%以上であり、
孔径2nm未満のミクロ孔の細孔容積が0.01~0.50cm/g、孔径2~50nmのメソ孔の細孔容積が0.20~0.80cm/gである、炭素材料。
【請求項2】
菱面体晶の含有割合が50重量%以上である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
比表面積が400~800m/gである、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
燃焼開始温度が空気中で500℃未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の黒鉛系多孔質炭素材料の製造方法であって、
原料黒鉛を準備する工程と、
前記原料黒鉛を、遊星型ボールミルを用いて、大気中で500rpm以上の回転数で乾式粉砕する工程と、を有する、方法。
【請求項6】
前記乾式粉砕を14~150分間行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
遊星型ボールミルの粉砕メディアとして、直径1~10mmのジルコニアボールを用いる、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記乾式粉砕工程の後で、前記遊星型ボールミルを用いて、湿式分散する工程をさらに有する、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素材料を含む、電気化学キャパシタ電極。
【請求項10】
初期電極密度が0.8g/cm以上である、請求項9に記載の電気化学キャパシタ電極。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の電極を備えた、電気化学キャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学キャパシタ電極用の黒鉛系多孔質炭素材料及びその製造方法、電気化学キャパシタ電極並びに電気化学キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学キャパシタは、電極(正極及び負極)の界面において、電極と電解質(電解液中イオン)との間で電子の授受を伴わない非ファラデー反応に起因して発現する容量、或いは電子の授受を伴うファラデー反応に起因して発現する容量を利用した蓄電デバイスである。電極と電解質との間のファラデー反応をベースとして充放電が行われるリチウムイオン電池などの二次電池に比べて、高エネルギー効率、急速充放電可能、長寿命、反応熱が少なく安全等の特徴がある。このような特徴から、電気化学キャパシタは、ハイブリッド自動車等の補助電源や回生電力貯蔵装置、二次電池の代替デバイスや太陽光発電のエネルギーバッファ等に用いられており、近年、特に注目されている。
【0003】
電気化学キャパシタは、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ及び擬似容量キャパシタ(レドックスキャパシタ)の3種類に大別される。電気二重層キャパシタでは、電極と電解液中イオンとの間で電子の授受が行われず(非ファラデー反応)、イオンの物理脱吸着のみで充放電が行われる。イオンが電極表面に吸着されると、電極と電解質との間に電気二重層が形成され、蓄電される。容量を高めるためには、電極表面積が大きいほど有利と言われており、電極材料(活物質)として、一般には、比表面積が大きい活性炭が用いられる。
【0004】
ハイブリッドキャパシタは、電極の一方、例えば正極では、電気二重層キャパシタと同様に、イオンの物理吸着のみで蓄電され、電極の他方、例えば負極では、ファラデー反応により蓄電される。イオンの物理吸着のみで蓄電される電極(例えば正極)では、電極材料(活物質)として、電気二重層キャパシタと同様の材料(活性炭)が用いられ、ファラデー反応が起こる電極(例えば負極)では、グラファイトやチタン酸リチウムなどのインターカレーション可能な材料が主に用いられる。ハイブリッドキャパシタの一種であるリチウムイオンキャパシタでは、正極に活性炭が用いられ、負極にリチウムイオンを吸蔵(インターカレーション)可能な炭素材料が用いられている。
【0005】
このように、電気化学キャパシタでは、イオンの物理吸着のみで蓄電される電極材料(活物質)として活性炭を用いることが一般的である。しかしながら、活性炭は、やしガラなどから製造した炭素材料を、水蒸気などの雰囲気中で加熱して賦活処理されたものであり、不純物を多く含むことや、賦活処理及びそのプロセス管理にコストがかかる等の問題がある。したがって、この問題を解決するために、活性炭の代わりに黒鉛系炭素材料を用いることが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、分極性電極、セパレータ、有機系溶媒及び集電極を備え、主要組成が活性炭からなる正極と機械粉砕黒鉛からなる負極とにより構成される分極性電極を有する電気二重層キャパシタが開示されており、該キャパシタは、特殊な材料でなく市場性のある材料からなり、また、賦活処理等の特殊な製造工程を要さない分極性電極を備えており、コンパクトで多くの電気量を蓄えることができるとされている。
【0007】
また、特許文献2には、窒素雰囲気中で、新規な表面が形成されるように黒鉛を粉砕することを特徴とする微粉化黒鉛の製法が開示されており、この微粉化黒鉛を成形してキャパシタ用電極とすると、キャパシタは高い初期放電効率を示すとされている。
【0008】
さらに、特許文献3には、母材に少なくとも黒鉛系炭素素材から剥離されたグラフェン様黒鉛と伝導素材とが分散された複合伝導素材であって、前記黒鉛系炭素素材は、菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し、前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による式:Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100により定義される割合Rate(3R)が、31%以上であることを特徴とする複合伝導素材が開示されている。ここで、P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度、P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度である。この文献によれば、このような黒鉛系炭素素材を用いることで、グラフェンに剥離しやすくなり、簡単に高濃度、高分散されたグラフェン溶液が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-157954号公報
【文献】特開2010-126418号公報
【文献】国際公開第2016/002261号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、電気化学キャパシタの性能向上を目的として、黒鉛系炭素材料を電極材料(活物質)に用いることが提案されている。一方、キャパシタには、貯蔵電力の大電力化及びコンパクト化の要求に応じて、より一層の大容量化が望まれている。しかしながら、従来の黒鉛系炭素材料は、キャパシタの大容量化を図るには、十分ではなかった。したがって、本発明は、大容量化が可能な電気化学キャパシタ電極用の黒鉛系炭素材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、今般、電気化学キャパシタ電極用の黒鉛系炭素材料において、結晶構造中の菱面体晶の含有割合並びにミクロ孔及びメソ孔の細孔容積が、キャパシタの大容量化を図る上で重要であること、及び遊星型ボールミルを用いて、黒鉛を所定の条件で乾式粉砕することにより、大容量化が可能な黒鉛系多孔質炭素材料を得ることができるとの知見を得て、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、下記(1)~(11)の態様を包含する。なお、本明細書において、「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち、「X~Y」は、「X以上Y以下」と同義である。
【0013】
(1)電気化学キャパシタ電極用の黒鉛系多孔質炭素材料であって、
菱面体晶と六方晶の結晶構造を有し、菱面体晶の含有割合が30重量%以上であり、
孔径2nm未満のミクロ孔の細孔容積が0.01~0.50cm/g、孔径2~50nmのメソ孔の細孔容積が0.20~0.80cm/gである、炭素材料。
【0014】
(2)菱面体晶の含有割合が50重量%以上である、上記(1)の炭素材料。
【0015】
(3)比表面積が400~800m/gである、上記(1)又は(2)の炭素材料。
【0016】
(4)燃焼開始温度が空気中で500℃未満である、上記(1)~(3)のいずれかの炭素材料。
【0017】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの炭素材料の製造方法であって、
原料黒鉛を準備する工程と、
前記原料黒鉛を、遊星型ボールミルを用いて、大気中で500rpm以上の回転数で乾式粉砕する工程と、を有する、方法。
【0018】
(6)前記乾式粉砕を14~150分間行う、上記(5)の方法。
【0019】
(7)遊星型ボールミルの粉砕メディアとして、直径1~10mmのジルコニアボールを用いる、上記(5)又は(6)の方法。
【0020】
(8)前記乾式粉砕工程の後で、前記遊星型ボールミルを用いて、湿式分散する工程をさらに有する、上記(5)~(7)のいずれかの方法。
【0021】
(9)上記(1)~(4)のいずれかの炭素材料を含む、電気化学キャパシタ電極。
【0022】
(10)初期電極密度が0.8g/cm以上である、上記(9)の電気化学キャパシタ電極。
【0023】
(11)上記(9)又は(10)の電極を備えた、電気化学キャパシタ。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、大容量化が可能な電気化学キャパシタ電極用の黒鉛系多孔質炭素材料及びその製造方法が提供される。また、本発明によれば、大容量化が可能な電気化学キャパシタ電極及び該電極を備えた電気化学キャパシタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】粉砕時間と炭素材料の重量比容量の関係を示す図である。
図2】粉砕時間と炭素材料の面積比容量の関係を示す図である。
図3】粉砕時間と炭素材料の菱面体晶含有割合(χRh)の関係を示す図である。
図4】粉砕時間と炭素材料の燃焼開始温度の関係を示す図である。
図5】炭素材料の菱面体晶含有割合(χRh)と面積比容量の関係を示す図である。
図6】セル容量測定時の電流密度と炭素材料の面積比容量の関係を示す図である。
図7】セル容量測定時の電流密度と炭素材料の容量保持率の関係を示す図である。
図8】湿式分散処理の有無による、炭素材料の電流応答の影響を示す図である。
図9】遊星型ボールミルの回転数による影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
黒鉛系多孔質炭素材料
本発明の炭素材料は黒鉛系多孔質材料である。純粋な黒鉛は、完全な結晶構造を有しており、通常は細孔を有していない。また、活性炭は非晶質部分を多く含む。これに対して、本発明の炭素材料は、その結晶構造が黒鉛の結晶構造を僅かに残す程度に微細化されるとともに、ミクロ孔やメソ孔を有する多孔質である。したがって、この炭素材料は、結晶構造および細孔構造の観点から、純粋な黒鉛や活性炭とは明確に区別される。後述するように、この黒鉛系多孔質炭素材料は、遊星型ボールミルを用いて、黒鉛を所定の条件で乾式粉砕することで作製することができる。製法に基づく表現をすれば、本発明の炭素材料は、黒鉛由来の材料でありながらも、その結晶構造及び細孔構造が、純粋な黒鉛と同一ではない。
【0027】
本発明の炭素材料は、菱面体晶と六方晶の結晶構造を有する。黒鉛の結晶構造には六方晶と菱面体晶が知られているが、一般的な結晶構造は六方晶である。なお、六方晶はABABAB・・・の順に積層された結晶構造であり、菱面体晶はABCABC・・・の順に積層された結晶構造である。
【0028】
また、本発明の炭素材料は、菱面体晶の含有割合が30重量%以上である。菱面体晶の含有割合を高くすることで、面積比容量が高くなる。その詳細なメカニズムは確かではないが、菱面体晶は六方晶に比べてイオンの吸着密度が高いのではないかと推測している。菱面体晶の含有割合は、好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。含有割合の上限は、特に限定されるものではないが、典型的には70重量%以下、より典型的には60重量%以下である。
【0029】
本発明の炭素材料は、孔径2nm未満のミクロ孔の細孔容積が0.01~0.50cm/g、孔径2~50nmのメソ孔の細孔容積が0.20~0.80cm/gである。ミクロ孔及びメソ孔の細孔容積が前記範囲内のとき、キャパシタ容量が高くなる。その詳細なメカニズムは確かではないが、ミクロ孔及びメソ孔の細孔容積を制御することで、電解質イオンが効率的に炭素材料に吸着されるのではないかと考えている。すなわち、一般的に、電気二重層形成によるイオン吸着量を高めるためには、電極表面積が大きいほど有利と言われている。しかしながら、実際には、電気二重層形成のメカニズムは複雑であり、単純に表面積が大きければよいというものではない。電極表面の微細構造が影響を及ぼすと考えられる。多孔質電極材料の場合には、電解質イオンが容易に細孔内にアクセスできることが望ましく、そのためには、電極材料の細孔径や細孔容積が重要なファクターと考えられる。本発明においては、炭素材料のミクロ孔やメソ孔の細孔容積を制御することで、電解質イオンが細孔内に容易にアクセスできるのではないかと考えている。ミクロ孔の細孔容積は、好ましくは0.10~0.30cm/g、メソ孔の細孔容積は、好ましくは0.40~0.80cm/gである。なお、本明細書において、細孔とは、その一部又は全部が炭素材料により囲まれた気孔を指し、一端が外部と連通した開気孔であってもよく、両端が外部と連通した開気孔であってもよい。
【0030】
炭素材料は、その比表面積が400m/g以上であるのが好ましい。ミクロ孔及びメソ孔の細孔容積を制御した上で、さらに比表面積を高めることで、キャパシタの大容量化の効果をより優れたものとすることができる。一方で、比表面積が過度に高いと、細孔容積が大きくなり過ぎ、電極密度が下がることがある。したがって、比表面積は、典型的には2000m/g以下、より典型的には1200m/g以下であり、800m/g以下であってもよい。
【0031】
炭素材料は、その燃焼開始温度が空気中で500℃未満であるのが好ましい。結晶性の高い純粋な黒鉛は、その燃焼開始温度が600℃である。これに対して、本発明の炭素材料は、結晶性、菱面体晶の含有割合並びにミクロ孔及びメソ孔の細孔容積を制御することで、燃焼開始温度が著しく低温化される。燃焼開始温度は、好ましくは450℃以下である。
【0032】
黒鉛系多孔質炭素材料の製造方法
本発明の黒鉛系多孔質炭素材料の製造方法は、黒鉛を準備する工程と乾式粉砕する工程とを有する。
【0033】
<原料黒鉛準備工程>
まず、原料黒鉛を準備する。原料黒鉛として、天然黒鉛及び人造黒鉛のいずれも使用可能である。また、天然黒鉛として、鱗片状黒鉛や土状黒鉛など公知の黒鉛を使用することができる。原料黒鉛は、その粒度が、特に限定されるものではないが、例えば、結晶粒径(モード径)が10~100μmである。
【0034】
<乾式粉砕工程>
次に、前記原料黒鉛を、遊星型ボールミルを用いて、大気中で500rpm以上の回転数(回転速度)で乾式粉砕する。遊星型ボールミルは、試料とジルコニアボール等の粉砕メディアを封入した粉砕容器を、高速で自転及び公転させる装置であり、自転及び公転の組み合わせにより、強力な衝撃力が試料に加わる。その結果、試料が強力に粉砕されるとともに、メカノケミカル的な作用が加わる。
【0035】
本発明において、回転数を500rpm以上とすることで、結晶構造中の菱面体晶の含有割合並びにミクロ孔及びメソ孔の細孔容積を所定範囲内とすることができ、その結果、大容量化が可能な黒鉛系多孔質炭素材料を得ることが可能となる。回転数は、好ましくは550rpm以上、より好ましくは600rpm以上である。一方で、回転数が過度に高いと、コンタミネーション量が増加し、炭素材料の特性劣化の恐れがある。したがって、回転数は、好ましくは900rpm以下、より好ましくは800rpm以下である。
【0036】
また、本発明において、乾式粉砕を大気中で行う。大気中で粉砕を行うことで、不活性ガス等を導入するための高価な設備が不要となる。したがって、簡易な手法で炭素材料を得ることができ、製造コスト低減の効果がある。その上、大気中で粉砕を行うことで、一部の含酸素官能基を導入することができ、炭素材料の親水性を高める効果がある。
【0037】
遊星型ボールミルの粉砕容器や粉砕メディアとして鋼製のものを用いると、鉄等のコンタミネーション量が増加する場合がある。したがって、粉砕時のコンタミネーション抑制の観点から、粉砕容器及び粉砕メディアとして、ジルコニア製のものを用いることが好ましい。粉砕メディアは、好ましくは、直径1~10mmのジルコニアボールである。また、原料黒鉛と粉砕メディアの割合は、特に限定されるものではないが、例えば、重量比で、原料黒鉛1に対して、粉砕メディア10~80である。
【0038】
乾式粉砕は、好ましくは14~150分間行う。粉砕時間を14分間以上とすることで、結晶構造中の菱面体晶の含有割合並びにミクロ孔及びメソ孔の細孔容積を所定範囲内とすることができる。一方、粉砕を過度に長時間行うと、コンタミネーション量増加の恐れがある。したがって、粉砕時間は、好ましくは150分間以下である。
【0039】
<湿式分散工程>
必要に応じて、乾式粉砕工程の後で、前記遊星型ボールミルを用いて、湿式分散してもよい。湿式分散することで、電流応答に優れる炭素材料を得ることができる。また、湿式分散することで、粉砕メディアや粉砕容器内壁面に付着した炭素材料を効率よく回収することができ、製造コスト低減の効果がある。
【0040】
湿式分散は、例えば、次のようにして行うことができる。すなわち、乾式粉砕後に、粉砕容器中の粉砕粉に10~20ccの蒸留水やIPAなどの分散媒を加える。次に、遊星型ボールミルを1~10分間作動させて、分散液を得る。その後、得られた分散液を濾過して、湿式分散処理した炭素材料を得る。
【0041】
このような本発明の製造方法により、結晶構造中の菱面体晶の含有割合並びにミクロ孔及びメソ孔の細孔容積が所定範囲内にあり、大容量化が可能な黒鉛系多孔質炭素材料を得ることができる。このような黒鉛系多孔質炭素材料及びその製造方法は、従来公知なものではない。例えば、特許文献1や特許文献2には、黒鉛を、遊星型ボールミルで粉砕して、電気二重層キャパシタ用電極材料を得ることが開示されているが、これらの文献は、炭素材料の菱面体晶の含有割合やミクロ孔やメソ孔の細孔容積に着目したものではない。また、これらの文献は、遊星型ボールミルの回転速度を500rpm以上に高めることを意図していない。特に、特許文献2では、実施例において、回転数250rpmで遊星型ボールミル処理が行われており、このような回転数の低い処理では、大容量化の効果に劣る炭素材料しか得られないと推察される。
【0042】
特許文献3では、黒鉛系炭素素材の菱面体晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)との割合Rate(3R)を31%以上とすることで、高濃度、高分散されたグラフェン溶液が得られるとされているが、ミクロ孔及びメソ孔の細孔容積に着目したものでなく、ましてや、それにより大容量化の効果が得られることを開示するものでない。実際、特許文献3では、実施例において、黒鉛系炭素素材を活物質として電気化学キャパシタへ適用した場合の効果は検証されていない。
【0043】
これに対して、本発明の製造方法では、遊星型ボールミルを用いて、黒鉛を所定の条件で乾式粉砕するという簡易な手法で、大容量化が可能な電気化学キャパシタ電極用の黒鉛系多孔質炭素材料を得ることができる。
【0044】
電気化学キャパシタ用電極
本発明の電気化学キャパシタ用電極は、上記黒鉛系多孔質炭素材料を活物質として用いて、公知の方法で製造することができる。例えば、炭素材料に、バインダー、導電材及び溶媒を加え、混練してスラリーを作製し、このスラリーを集電体の表面に塗布及び乾燥させて、電極を作製することができる。バインダーとしては、特に制限されず、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)やスチレンブタジエンゴム(SBR)などを用いることができ、また、溶媒としては、蒸留水や有機溶媒などを用いることができる。さらに、導電材として、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラックを用いることができる。集電体は電流を外部へ取り出すための部材であり、例えば、アルミニウム(Al)箔などが用いられる。所望の形状の電極を得るために、スラリー塗布後に、電極を打ち抜いてもよい。また、高密度の電極を得るために、スラリー塗布後に、プレスを施してもよい。プレス圧は、例えば、100~500MPaである。電極は、その厚さが、例えば、0.01~0.10mmである。
【0045】
本発明の電気化学キャパシタ用電極は、上記黒鉛系多孔質炭素材料を用いることで、その電極密度を高めることが可能である。電極密度は、好ましくは0.8g/cm以上、より好ましくは0.9~1.3g/cmである。このような電気化学キャパシタ用電極は、高密度であるとともに、用いられる黒鉛系多孔質炭素材料の面積比容量が高いため、キャパシタの大容量化に大きく寄与する。
【0046】
電気化学キャパシタ
本発明の電気化学キャパシタは、主として、正極、負極及び電解液から構成される。電解液は、正極と負極の間に、正極及び負極を含浸するように設けられる。また、必要に応じて、正極と負極の間に、抄造シート、不織布、微多孔質膜などのセパレータを設けてもよい。さらに、スペーサー、ワッシャー及びガスケットなどの他の部材を設けてもよい。正極、負極、電解液、セパレーター及び他の部材をセルケースに封入してキャパシタとする。キャパシタの形状は、特に限定されるものではなく、コイン型、ラミネート型、円筒型又は角型などの公知の形状を採用可能である。また、複数個のキャパシタを接続してキャパシタモジュールを構成することも可能である。このようなキャパシタモジュールは、自動車等に用いられる超大容量電気化学キャパシタの用途に適する。
【0047】
電気化学キャパシタは、典型的には電気二重層キャパシタである。その場合には、正極及び負極の両方又はいずれか一方に、上記電気化学キャパシタ用電極が用いられる。電解液としては、水系、有機系、イオン液体などの公知の電解液を用いることができる。水系電解液としては、例えば硫酸水溶液が挙げられ、有機系電解液としては、例えばテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート/炭酸プロピレン(TEABF/PC)溶液などが挙げられる。
【0048】
電気化学キャパシタは、ハイブリッドキャパシタであってもよい。その場合には、正極及び負極のいずれか一方の電極、例えば正極に上記電気化学キャパシタ用電極が用いられ、他方の電極、例えば負極には、黒鉛やチタン酸リチウムなどの公知の活物質を集電体上に設けられたものが用いられる。電解液としては、水系や有機系などの電解液を用いることができる。水系電解液としては、例えば硫酸水溶液が挙げられ、有機系電解液としては、例えばテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート/炭酸プロピレン(TEABF/PC)溶液やヘキサフルオロリン酸リチウム/炭酸エチレン/炭酸ジエチレン(LiPF/EC/DEC)溶液などが挙げられる。
【0049】
本発明の電気化学キャパシタは、上記黒鉛系多孔質炭素材料を電極に用いることで、大容量化の効果がある。典型的には、電流密度0.1A/gで定電流充放電させたときの重量比容量が7.0~15.0F/g、面積比容量が5.0~8.0μF/cmである。
【実施例1】
【0050】
本発明を、以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0051】
例1(比較)
(1)黒鉛系多孔質炭素材料の作製
<黒鉛準備工程>
原料として、結晶粒径42μm、比表面積10m/g以下の天然黒鉛を準備した。なお、結晶粒径は、粒度分布において出現比率が最も大きい粒子径(モード径)である。また、比表面積は窒素吸着等温線からBET法により算出した。
【0052】
<乾式粉砕工程>
次に、上記原料黒鉛を乾式粉砕して、炭素材料を作製した。まず、原料黒鉛1gとジルコニアボール75gを、空気中で遊星型ボールミルの粉砕容器に封入した。その際、ジルコニアボールとして直径1mmのものを、粉砕容器として内容積45ccのジルコニア製容器を用いた。その後、遊星型ボールミルの回転数を700rpmとし、5分間の粉砕を行って炭素材料を得た。なお、回転数は遊星型ボールミルの公転回転数(架台回転数)であり、公転回転数と自転回転数の比(自転公転比)は、1:2に固定した。
【0053】
(2)電極の作製
得られた炭素材料を用いて電極を作製した。まず、炭素材料170mgを秤量し、これにカーボンブラック(CB、デンカブラック)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)を加え、さらに、蒸留水を滴下及び混練してスラリーを作製した。この際、炭素材料が85重量%、CBが5重量%、CMCが5重量%及びSBRが5重量%となるようにした。次に、ドクターブレードを用いて、得られたスラリーをAl集電体上に塗布した。その後、直径10mmの円盤状に打ち抜き、20kNでプレスし、さらに120℃で1晩真空乾燥して、厚さ約0.03~0.05mmの炭素電極(フィルム電極)を作製した。
【0054】
(3)セルの作製
得られた炭素電極(フィルム電極)を正極及び負極に用いて、2極式コインセルを作製した。まず、炭素電極、セパレータ、炭素電極、スペーサー、ワッシャー及びガスケットの順に積層して積層体とした。また、電解液として、1mol/Lのテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート/炭酸プロピレン(TEABF/PC)溶液を準備した。前記積層体を電解液とともにケースとキャップからなるセル容器に封入して、2032型コインセルを作製した。
【0055】
(4)評価
得られた炭素材料、電極及びセルについて、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0056】
<結晶粒径>
レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により、炭素材料の結晶粒径を測定した。なお、結晶粒径は、粒度分布において、出現比率が最も大きい粒子径(モード径)である。
【0057】
<比表面積>
炭素材料の比表面積を、窒素吸着等温線からBET法により算出した。
【0058】
<細孔容積>
炭素材料のミクロ孔(孔径2nm未満)及びメソ孔(孔径2~50nm)の細孔容積は、窒素吸着等温線から急冷固定密度汎関数理論(QSDFT)法及びBarrett-Joyner-Halenda(BJH)法により、それぞれ測定した。
【0059】
<結晶構造>
炭素材料の菱面体晶の含有割合χRhをX線回折法により求めた。具体的には、X線回折パターンにおける菱面体晶の(101)面のピーク強度(IRh)と六方晶の(101)面のピーク強度(I)を用いて、式:χRh=IRh/(IRh+2/3×I)により求めた。
【0060】
<燃焼開始温度>
炭素材料の燃焼開始温度を、空気中の熱重量測定法により測定した。
【0061】
<電極密度>
電極の重量と厚みを測定し、電極密度を算出した。
【0062】
<容量>
セルの容量を測定し、重量比容量及び面積比容量を算出した。セル容量測定の際、0~2.5Vの電圧範囲で、電流密度0.1~50A/gの定電流充放電を行った。その後、得られた容量と炭素材料の重量及び比表面積を用いて、重量比容量(単位重量当たりの容量)と面積比容量(単位面積当たりの容量)を算出した。なお、重量比容量は両極あたりの容量であり、面積比容量は単極あたりの容量である。
【0063】
例2(比較)
炭素材料を作製する際、粉砕時間を10分間とした以外は、例1と同様にして、炭素材料、電極及びセルの作製と評価を行った。
【0064】
例3
炭素材料を作製する際、粉砕時間を14分間とした以外は、例1と同様にして、炭素材料、電極及びセルの作製と評価を行った。
【0065】
例4
炭素材料を作製する際、粉砕時間を75分間とした以外は、例1と同様にして、炭素材料、電極及びセルの作製と評価を行った。
【0066】
例5
炭素材料を作製する際、粉砕時間を150分間とした以外は、例1と同様にして、炭素材料、電極及びセルの作製と評価を行った。
【0067】
例6(比較)
炭素材料として、電気二重層キャパシタの電極材料として一般に用いられる市販の活性炭を用いた。それ以外は例1と同様にして、電極及びセルの作製と評価を行った。
【0068】
例1~6において、得られた評価結果を表1に示す。なお、表1に示される重量比容量及び面積比容量は、セル容量測定時の電流密度が0.1A/gのときの値である。
【実施例2】
【0069】
粉砕時間の影響をより詳細に調べるべく、粉砕時間を0~750分の間で変化させた以外は、実施例1と同様にして、炭素材料、電極及びセルの作製と評価を行った。ここで、粉砕時間0分の試料は原料黒鉛のことである。また、粉砕時間5、10、14、75及び150分の試料は、実施例1の例1~5と同じである。
【0070】
得られた評価結果を表2に示す。なお、表2に示される重量比容量及び面積比容量は、セル容量測定時の電流密度が10A/gのときの値である。また、得られた結果を基に、粉砕時間と、炭素材料の重量比容量、面積比容量、菱面体晶含有割合(χRh)及び燃焼開始温度の関係を求めた。これらの関係を図1~4に示す。さらに、菱面体晶含有割合(χRh)と面積比容量の関係を図5に示す。
【0071】

【表1】
【0072】


【表2】
【0073】
表1に示されるように、黒鉛を用いた炭素材料である例1~例5は、乾式粉砕時の粉砕時間が長くなるにつれ、ミクロ孔及びメソ孔の細孔容積が大きくなった。また、表1、表2及び図1~4に示されるように、炭素材料は、粉砕時間が長くなるにつれ、菱面体結晶の含有割合、重量比容量及び面積比容量が増加する傾向にあり、特に、粉砕時間を14分間以上とすることで、急増していた。また、図5から分かるように、菱面体晶含有割合と面積比容量の間には強い相関があり、菱面体晶含有割合30重量%以上で、面積比容量が5μF/cm以上となった。
【0074】
さらに、図4に示されるように、炭素材料は、粉砕時間が長くなるにつれ、燃焼開始温度が低下した。特に、粉砕時間を14分間以上で、燃焼開始温度が500℃未満と著しく低下した。
【0075】
一方で、電極密度は、粉砕時間によらずほぼ一定の値であった。例3~5(実施例)は、その電極密度が、活性炭を用いた例6(比較例)より高く、面積比容量も、例6より高くなった。
【実施例3】
【0076】
実施例1の例5及び例6について、セル容量測定時の電流密度を0.1~50A/gに変化させたときの電流密度と面積比容量及び容量保持率の関係を図6及び7に示す。ここで、容量保持率は、電流密度0.1A/gのときの面積比容量に対する各電流密度の面積比容量の比率である。
【0077】
図6及び図7に示されるように、例5(実施例)は、電流密度によらず、その面積比容量が例6(比較例)より非常に高かった。このことは、例5が、例6に比べて、抵抗が小さく、高速応答性に優れることを示す。
【実施例4】
【0078】
例7
乾式粉砕時に、直径5mmのジルコニアボールを用い、遊星型ボールミルの回転数を500rpmとし、60分間の粉砕を行った以外は例1と同様にして、炭素材料、電極及びセルの作製と評価を行った。
【0079】
例8
乾式粉砕後に湿式分散工程を設けた以外は、例7と同様にして、炭素材料、電極及びセルの作製と評価を行った。ここで、湿式分散処理は、以下のようにして行った。
【0080】
<湿式分散工程>
乾式粉砕後に、遊星型ボールミル粉砕容器中の粉砕粉に10ccの蒸留水を加えた。回転数500rpmで1分間の遊星型ボールミル処理を行った後、1/6分間の休止を行った。前記ボールミル処理と休止を10回繰り返して、分散液を得た。得られた分散液を濾過して、炭素材料を得た。
【0081】
例7及び例8において、セル容量測定時の電流密度を0.1~50A/gに変化させたときの重量比容量の変化を図8に示す。
【0082】
図8に示されるように、湿式分散処理を行った例8は、湿式分散処理を行わなかった例7に比べて、重量比容量が大きく、その差は電流密度が高いほど大きかった。このことから、湿式分散処理を行うと、電流応答に優れることが分かる。
【実施例5】
【0083】
例9
乾式粉砕時の遊星型ボールミルの回転数を500~900rpmの範囲内で変えた以外は、例5と同様にして、炭素材料、電極及びセルの作製と評価を行った。得られた結果を図9に示す。
【0084】
図9に示されるように、回転数700rpm以下では、回転数が高くなるにつれ重量比容量が高くなった。一方で、回転数800rpm以上では重量比容量がそれほど大きくはならなかった。これは、回転数が過度に高く、コンタミネーション量が増加したためと考えられる。この結果から、回転数700rpmが最適であることが分かる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9