(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】フィルム又は繊維製品用抗菌塗工液、抗菌製品、抗菌フィルム、及び抗菌繊維製品
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20221220BHJP
C08L 5/00 20060101ALI20221220BHJP
C08K 3/015 20180101ALI20221220BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20221220BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20221220BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20221220BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08J7/04 Z CEP
C08L5/00
C08K3/015
C08L1/02
D06M15/05
D06M11/83
C08K5/05
(21)【出願番号】P 2021125473
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(73)【特許権者】
【識別番号】397034316
【氏名又は名称】株式会社丸善
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】白川 寛
(72)【発明者】
【氏名】岸野 知功
(72)【発明者】
【氏名】佐柳 陽一
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-070158(JP,A)
【文献】特表2020-529447(JP,A)
【文献】特表2018-531881(JP,A)
【文献】特開平05-132644(JP,A)
【文献】特開2000-095625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/015
C08J 7/04
D06M 15/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム又は繊維製品の表面に塗布されるフィルム又は繊維製品用抗菌塗工液であって、
粉末抗菌剤と結晶セルロースと
水とアルコール類とセルロース以外の多糖類とを含有し、
前記粉末抗菌剤が、ゼオライト粒子、シリカゲル粒子、アルミナ粒子、又はリン酸塩粒子を担体とした銀担持抗菌剤であり、
前記結晶セルロースが、繊維性植物のパルプから得られたα-セルロースを、酸で部分的に解重合した後、可溶性部分を取り除いて得られるものである、フィルム又は繊維製品用抗菌塗工液。
【請求項2】
25℃における粘度が50cP以下である、請求項1に記載の抗菌塗工液。
【請求項3】
前記抗菌塗工液の全質量に対し、前記粉末抗菌剤の含有量が0.5質量%以上5質量%以下であり、前記結晶セルロースの含有量が0.01質量%以上2質量%以下である、請求項1又は2に記載の抗菌塗工液。
【請求項4】
前記アルコール類がメタノール及び/又はエタノールであり、前記多糖類がキサンタンガム及び/又はデキストリン類である、請求項
1~3のいずれか一項に記載の抗菌塗工液。
【請求項5】
熱可塑性樹脂を更に含有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗菌塗工液。
【請求項6】
フィルム又は繊維製品の表面に塗布されるフィルム又は繊維製品用抗菌塗工液であって、
粉末抗菌剤と結晶セルロースと水とアルコール類とセルロース以外の多糖類とを含有し、
前記結晶セルロースが、繊維性植物のパルプから得られたα-セルロースを、酸で部分的に解重合した後、可溶性部分を取り除いて得られるものである、フィルム又は繊維製品用抗菌塗工液。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の抗菌塗工液の硬化膜が表面に形成されている抗菌製品。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の抗菌塗工液の硬化膜が表面に形成されている抗菌フィルム。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の抗菌塗工液の硬化膜が表面に形成されている抗菌繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム又は繊維製品用抗菌塗工液、該抗菌塗工液を用いた抗菌製品、抗菌フィルム、及び抗菌繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
定期的に発生する季節性の食中毒をはじめ、細菌やウィルスによって引き起こされる体調不良を予防するため、食品包装や寝具等の日用品においても抗菌性や防カビ性が好まれるようになっている。
そのため食品等を入れるための紙器には抗菌処理がなされている(特許文献1)。既存の紙器表面への抗菌処理技術は印刷用塗工機によって抗菌塗工するものである。
【0003】
また高分子不織布等の繊維製品に抗菌性や防カビ性を付与する場合には、不織布繊維等の繊維に抗菌剤等を練り込む方法がとられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-203600号公報
【文献】特開平05-153874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙は透明性を有しないため、紙表面の抗菌性能(抗菌剤の分散性等)さえ担保出来ていれば塗膜の透明性が低くても製品としての紙器の価値が低下することはない。これに対して、食品包装等に用いる透明フィルムではフィルムの透明性に価値があり、内包される食品の外観を損なわないことが不可欠となる。
【0006】
この点において従来技術である紙器用の抗菌塗工では、抗菌剤等を含む塗工膜の厚さや表面の塗膜の平滑性に関する精密な制御は必要としない。そのため紙器用の抗菌塗工液では粉末抗菌剤の分散性保持に重きを置く結果、塗工液の粘性は高い傾向にある。これに対して透明なフィルムに抗菌塗工を行う場合は、透明性を保持するため塗膜の厚さはできる限り薄い方がよく、塗工液の粘性は低い方が好ましい。塗工液の粘性が低いと塗工時の塗工液の伸びもよく、乾燥性もよくなるため膜厚制御には有利になることが多い。しかし、塗工液の粘性を低くすると粉末抗菌剤を使用する場合には抗菌成分が短時間で沈降しやすくなる(分散性が悪くなる)。従って塗工機タンク内においても抗菌成分の沈降が生じるため、フィルム表面に安定して十分な量の抗菌剤を塗工することができないという大きな問題点を有している。
【0007】
そこで、抗菌剤等として水溶性のポリリジンや第4級アンモニウム塩を水性薬剤に添加して塗工液を作製し、フィルム表面に塗工して塗膜を形成する方法も考えられる。しかしながらこの方法では、銀ゼオライト等の安全性の高い粉末抗菌剤を使用した場合に比べて抗菌性能の持続期間が短いことや人体に対しての安全性に欠けるという別の問題点が生じることになる。
【0008】
また、従来の方法で高分子不織布等の繊維製品に抗菌性や防カビ性を付与する場合、不織布繊維等の繊維素材に抗菌剤等を練り込むため素材内部にも抗菌剤等が多く内在し、抗菌剤等の添加量をむやみに増やす結果となっている。実際に抗菌性や防カビ性を発現するのは繊維表面に存在する抗菌剤や防カビ剤であり、素材に内在する抗菌剤や防カビ剤は直接的に抗菌性や防カビ性の発現には寄与していない。そこで不織布等の繊維製品の表面に塗工液を紙と同様に印刷機を用いて塗工する方法も考えられるが、塗工液の粘性が高いと繊維表面で塗膜がムラになりやすく繊維間の空隙に目詰まりを生じる(通気性の阻害)という大きな問題も有することになる。
また、不織布は多重に繊維を重ねたものを無数の熱圧着箇所で繊維を固定することでシート状を保つため、熱圧着箇所が不織布繊維表面よりも低くなり、繊維と熱圧着箇所は凸凹関係にある。このため粘性が高いと塗工時に繊維よりも低い熱圧着箇所には塗工ローラーが当たらず抗菌塗工液も凹部へ及ばず抗菌処理されないという大きな問題も生じる。
【0009】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、粘性を低くしても粉末抗菌剤の分散性に優れ、透明性が確保された塗膜を与えるフィルム又は繊維製品用抗菌塗工液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、抗菌塗工液において粉末抗菌剤に結晶セルロースを組み合わせることで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的に以下のものを提供する。
【0011】
(1)フィルム又は繊維製品の表面に塗布されるフィルム又は繊維製品用抗菌塗工液であって、粉末抗菌剤と結晶セルロースとを含有する、フィルム又は繊維製品用抗菌塗工液。
【0012】
(2)25℃における粘度が50cP以下である、(1)に記載の抗菌塗工液。
【0013】
(3)前記抗菌塗工液の全質量に対し、前記粉末抗菌剤の含有量が0.5質量%以上5質量%以下であり、前記結晶セルロースの含有量が0.01質量%以上2質量%以下である、(1)又は(2)に記載の抗菌塗工液。
【0014】
(4)水を更に含有する、(1)~(3)のいずれかに記載の抗菌塗工液。
【0015】
(5)アルコール類とセルロース以外の多糖類とを更に含有する、(4)に記載の抗菌塗工液。
【0016】
(6)前記アルコール類がメタノール及び/又はエタノールであり、前記多糖類がキサンタンガム及び/又はデキストリン類である、(5)に記載の抗菌塗工液。
【0017】
(7)前記粉末抗菌剤が銀系抗菌剤である、(1)~(6)のいずれかに記載の抗菌塗工液。
【0018】
(8)熱可塑性樹脂を更に含有する、(1)~(7)のいずれかに記載の抗菌塗工液。
【0019】
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の抗菌塗工液の硬化膜が表面に形成されている抗菌製品。
【0020】
(10)(1)~(8)のいずれかに記載の抗菌塗工液の硬化膜が表面に形成されている抗菌フィルム。
【0021】
(11)(1)~(8)のいずれかに記載の抗菌塗工液の硬化膜が表面に形成されている抗菌繊維製品。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、粘性を低くしても粉末抗菌剤の分散性に優れ、透明性が確保された塗膜を与えるフィルム又は繊維製品用抗菌塗工液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例3に係るフィルム(上)及び不織布(下)の表面を走査電子顕微鏡で観察した時の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
<抗菌塗工液>
本発明に係るフィルム又は繊維製品用抗菌塗工液は、粉末抗菌剤と結晶セルロースとを含有する。これにより、粘性を低くしても粉末抗菌剤の分散性に優れ、透明性が確保された塗膜を与えることができる。この理由は必ずしも明らかではないが、抗菌塗工液中で結晶セルロースが層状にほぐれることにより、粉末抗菌剤の沈降が大幅に緩和されるためであると推察される。また、粉末の抗菌剤を使用することにより、長期間にわたる抗菌性と安全性が得られる。
【0026】
抗菌塗工液の25℃における粘度は、50cP以下が好ましく、25cP以下がより好ましく、8cP以下が更に好ましい。また、該粘度は、1cP以上が好ましい。50cP以下であると、塗膜が透明性を確保しやすく、塗工時の伸びや乾燥性も良好となりやすい。また、繊維製品に塗工した場合に通気性を阻害しにくく、不織布繊維の熱圧着箇所にも抗菌塗工しやすい。1cP以上であると、塗工時のハンドリングが容易になり膜厚も薄くできるため、抗菌処理後のフィルムや繊維製品においてシワが生じにくくなる。
なお、本明細書において、25℃における粘度は、後述の実施例における測定方法により測定される値を意味する。
【0027】
〔粉末抗菌剤〕
粉末抗菌剤の種類は特に限定されないが、例えば、銀系抗菌剤、銅系抗菌剤、亜鉛系抗菌剤等の無機系抗菌剤が挙げられる。なかでも、抗菌性及び防カビ性に優れることから、銀系抗菌剤を用いることが好ましい。銀系抗菌剤として、ゼオライト粒子、シリカゲル粒子、アルミナ粒子、リン酸塩粒子等を担体として、これらの担体粒子に銀化合物を担持させた銀担持抗菌剤のほか、炭酸銀等が挙げられる。粉末抗菌剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、粉末抗菌剤は防カビ性を有してもよい。
【0028】
銀担持ゼオライト粒子の例として、「ゼオミック」(シナネンゼオミック社製)が挙げられる。「ゼオミック」は、米国食品医薬品局(FDA)に食品接触物質(Food Contact Substance Notification FCN000047)として認可され、全食品の包装樹脂に適応できるという実績がある。
【0029】
粉末抗菌剤の含有量は、特に限定されないが、過小であると抗菌性を発現しにくい場合があり、過大であると抗菌塗工液の粘性が上がるため、抗菌塗工液を均一に塗工しにくくなる場合がある。また過大であると単位面積当たりの抗菌粒子の数が増えるため透明性が低下しやすい場合がある。よって、粉末抗菌剤の含有量は、抗菌塗工液の全質量に対し、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、該含有量は、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3.5質量%以下が更に好ましい。
【0030】
粉末抗菌剤の平均粒径は、特に限定されないが、走査電子顕微鏡を用いてJIS H 7804法に準じて測定した平均粒径が0.5μm以上4μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以上3μm以下である。粉末抗菌剤の平均粒径が0.5μm以上であると、抗菌剤の分散性が向上して塗膜を薄くでき、抗菌剤の添加量が少なくても抗菌剤全体としての表面積が大きくなるため、より効率よく抗菌性を発揮できる。粉末抗菌剤の平均粒径が4μm以下であると、良好な抗菌剤の分散性や塗膜の透明性が得られやすい。
【0031】
〔結晶セルロース〕
結晶セルロースは、例えば、繊維性植物のパルプから得られたα-セルロースを、酸で部分的に解重合した後、可溶性部分を取り除き、適宜、不溶性部分を結晶化して得られるものである。
【0032】
結晶セルロースの例としては、旭化成株式会社製の「セオラスPH-101、PH-102、PH-200、PH-301、PH-302、KG-802、KG-1000、UF-702、UF-711」、株式会社伏見製薬所製の「コンプレッセル」等が挙げられる。結晶セルロースは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
結晶セルロースの含有量は、抗菌塗工液の全質量に対し、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。また、該含有量は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。0.01質量%以上であると、粘性を低くしても優れた抗菌剤の分散性が得られやすい。2質量%以下であると、塗工液の粘性が上昇せず、塗工液の作製時及び塗工時のハンドリングが良好となりやすい。
【0034】
〔分散媒とセルロース以外の多糖類〕
例えばフィルムを用いた製品は製品売価が低い傾向にあり、製造効率をあげるため毎分40m以上の送りスピードで薬剤塗工されるケースが一般的である。このように製造効率を上げなければ利益が出にくい製品については、高速での塗膜形成技術が必要となり、塗工液の良好な乾燥性が求められる。乾燥性を向上させる方法としてはアルコール類などの沸点の低い溶媒を使用する方法がよく知られているが、結晶セルロースは水溶媒中でなければ均一に分散しない。この理由は、結晶セルロースは水中で撹拌されることで結晶セルロースの結晶領域と非結晶領域の間に水が入り込み層状にほぐれるからである。従って、塗工液の乾燥性を向上させる目的で有機溶媒を利用することは難しい。
本発明者らは、結晶性セルロースに加えて、キサンタンガムやデキストリン類等のセルロース以外の多糖類を用いることで、アルコール類を含む水溶液中でも安定して結晶セルロースが層状に分散することを見出した。
すなわち、本発明に係る抗菌塗工液は、水とアルコール類とセルロース以外の多糖類とを更に含むことが好ましい。これにより、粉末抗菌剤の分散性と塗工液の乾燥性を両立させやすい。
【0035】
分散媒としては、従来塗工液に使用される各種の分散媒を使用できるが、特に、結晶セルロースを配合することによる本発明の効果がより良好に得られる点から、水が好ましい。また、より良好な塗工液の乾燥性が得られる点から、水とアルコール類を併用することがより好ましい。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられるが、乾燥性に優れる点から、メタノール、エタノールが好ましい。アルコール類は、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
水の含有量は特に限定されないが、例えば、抗菌塗工液の全質量に対し、50質量%以上であり、70質量%以上である。また、該含有量は、例えば、99質量%以下である。
【0037】
抗菌塗工液におけるアルコール類の含有量は、水100質量部に対して、0質量部であってもよいが、5質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が更に好ましい。また、該含有量は、水100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。上記数値範囲内であると、粉末抗菌剤の分散性と塗工液の乾燥性を両立させやすい。
【0038】
セルロース以外の多糖類としては、例えば、キサンタンガム、デキストリン類(たとえば、ポリデキストロース、難消化性デキストリンなど)、デンプン類(たとえば、デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、α化デンプン、リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプンなど)、ガラクトマンナン(たとえば、ローカストビーンガム、グァーガム、タラガムなど)、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、カラギナン(たとえば、カッパ型、イオタ型、ラムダ型など)、タマリンドシードガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、マクロホモプシスガム、寒天、ゼラチン、ペクチン(たとえば、HMペクチン、LMペクチンなど)、アルギン酸、アルギン酸塩(たとえば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウムなど)、プルラン、カードラン、トラガントガム、ガティガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、カラヤガム、ファーセレラン、キチン、ウェランガム、および大豆多糖類などをあげることができる。これらは1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。なかでも、良好な懸濁安定性を示し、アルコール類を含む水溶液中でも安定して結晶セルロースが層状に分散しやすい点から、キサンタンガム、デキストリン類が好ましい。
【0039】
セルロース以外の多糖類の含有量は、結晶セルロース100質量部に対して、0質量部であってもよいが、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上が更に好ましい。また、該含有量は、40質量部以下が好ましく、35質量部以下がより好ましい。上記数値範囲内であると、粉末抗菌剤の分散性と塗工液の乾燥性を両立させやすい。
【0040】
〔熱可塑性樹脂〕
本発明に係る抗菌塗工液は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。これにより、抗菌塗工液の硬化膜を塗布対象の表面に形成することができる。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、塗布後に熱等を加えて抗菌塗工液の硬化膜を形成することができるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。「ポリ酢酸ビニル系樹脂」とは、構成モノマーとして酢酸ビニルモノマーを90モル%以上含む樹脂を意味する。「ポリ乳酸系樹脂」とは、構成モノマーとして乳酸モノマーを90モル%以上含む樹脂を意味する。「(メタ)アクリル系樹脂」とは、構成モノマーとして(メタ)アクリル酸モノマーを90モル%以上含む樹脂を意味する。「ポリエチレン系樹脂」は、構成モノマーとしてエチレンモノマーを90モル%以上含む樹脂を意味する。「ポリプロピレン系樹脂」は、構成モノマーとしてプロピレンモノマーを90モル%以上含む樹脂を意味する。(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、アクリルメチル基等のアクリル基にアルキル基を付加させた構造や、カルボキシル基の水素をアルキル基又はヒドロキシアルキル基で置換された構造にすることができる。
【0042】
熱可塑性樹脂の含有量は、特に限定されないが、例えば、抗菌塗工液の全質量に対し、1質量%以上10質量%以下である。
【0043】
〔水溶性樹脂〕
本発明に係る抗菌塗工液は、水溶性樹脂を含んでもよい。水溶性樹脂は、所定の粘性を有するため、抗菌塗工液に粘性が付与され、例えば、印刷機の印刷用ロールに濡れやすくなる。
【0044】
水溶性樹脂は、塗料において従来使用されているいずれの水溶性樹脂であってもよく、ポリビニルアルコール樹脂、エポキシ樹脂、水溶性ワニス、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂(SB樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、ブタジエン樹脂、又はこれらの混合物等が挙げられる。水溶性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
〔用途〕
本発明に係る「抗菌塗工液」の用途は特に限定されるものでないが、中でも、低い粘性及び抗菌性が要求される種々の用途、例えば、フィルムや繊維製品等に好適に適用できる。
【0046】
<抗菌製品>
本発明は、以上の抗菌塗工液の硬化膜が表面に形成されている抗菌製品を包含する。
【0047】
抗菌製品としては、抗菌性が要求される製品であれば特に限定されないが、例えば、抗菌フィルムや抗菌繊維製品が挙げられる。
抗菌フィルムは、ベースとなるフィルムの抗菌性を付与すべき少なくとも一方の面に、本発明に係る抗菌塗工液の硬化膜を形成して得られるものである。ベースフィルムとしては特に限定されず、従来公知のものが挙げられるが、例えば生分解性の高分子フィルムやコロナ処理がされた炭化水素系フィルムも含まれる。抗菌フィルムとしては、例えば、食品包装等に用いられる透明フィルムが挙げられる。
抗菌繊維製品は、例えば、繊維製品のベースとなる繊維の表面に、本発明に係る抗菌塗工液の硬化膜を形成して得られるものである。繊維の種類等は特に限定されないが、例えば、生分解性の不織布やコロナ処理がされた炭化水素系不織布が含まれる。繊維製品としては、衣類、タオル、マスク、ソファー、クッション、寝具、カーテン、靴、鞄等が挙げられる。
【0048】
〔抗菌製品の製造方法〕
本発明に係る抗菌製品の製造方法は、抗菌塗工液をフィルムや繊維製品等の表面に塗布する塗布手順と、抗菌塗工液を硬化させる硬化手順とを含む。
【0049】
[塗布手順]
抗菌塗工液の塗布は、フィルムや繊維製品等の表面に抗菌効果が付与される限りにおいて、その方法は特に限定されない。例えば、含浸、印刷用ロール等による転写、スプレーによる散布等が挙げられる。
【0050】
[硬化手順]
抗菌塗工液の硬化は、熱風乾燥、活性エネルギー線照射といった従来公知の種々の方法で行われてよい。このうち、活性エネルギー線(例えば、遠赤外線)照射は、フィルムや繊維製品等の損傷を抑制できる点で好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0052】
<実施例1>
蒸留水13gにメタノール4.3gを混合した後、結晶セルロース0.023gとキサンタンガム0.002gとデキストリン0.006gを加えて高速ミキサーでよく撹拌した。銀ゼオライト0.34gを加えてさらに撹拌し、ポリ酢酸ビニル樹脂水分散液(固形分濃度30wt%)を2.5g添加してよく撹拌することで抗菌塗工液を得た。このようにして得られた抗菌塗工液の25℃における粘度は14.78cPであった。
次にグラビア印刷機の全面印刷用ロールを用いて、抗菌塗工液をセロハンフィルムの表面に塗布し、120℃の熱風をフィルムに2秒間吹き付けることで、抗菌被膜を塗工したセロハンフィルムを得た。同様に、抗菌塗工液を不織布の表面に塗布し、120℃の熱風を2秒間吹き付けることで、抗菌被膜を塗工した不織布を得た。
【0053】
<実施例2>
蒸留水13gにメタノール4.3gを混合した後、結晶セルロース0.023gとキサンタンガム0.002gとデキストリン0.006gを加えて高速ミキサーでよく撹拌した。銀ゼオライト0.34gを加えてさらに撹拌し、ポリ乳酸樹脂水分散液(固形分濃度30wt%)を2.5g添加してよく撹拌することで抗菌塗工液を得た。このようにして得られた抗菌塗工液の25℃における粘度は10.35cPであった。
次に、実施例1と同様にして、抗菌被膜を塗工したセロハンフィルム及び不織布を得た。
【0054】
<実施例3>
蒸留水13gにメタノール4.3gを混合した後、結晶セルロース0.023gとキサンタンガム0.002gとデキストリン0.006gを加えて高速ミキサーでよく撹拌した。銀ゼオライト0.34gを加えてさらに撹拌し、変性ポリアクリル樹脂水分散液(固形分濃度30wt%)を2.5g添加してよく撹拌することで抗菌塗工液を得た。このようにして得られた抗菌塗工液の25℃における粘度は4.39cPであった。
次に、実施例1と同様にして、抗菌被膜を塗工したセロハンフィルム及び不織布を得た。
【0055】
<実施例4>
蒸留水13gにメタノール4.3gを混合した後、結晶セルロース0.0115gとキサンタンガム0.001gとデキストリン0.003gを加えて高速ミキサーでよく撹拌した。銀ゼオライト0.34gを加えてさらに撹拌し、変性ポリアクリル樹脂水分散液(固形分濃度30wt%)を2.5g添加してよく撹拌することで抗菌塗工液を得た。このようにして得られた抗菌塗工液の25℃における粘度は2.91cPであった。
次に、実施例1と同様にして、抗菌被膜を塗工したセロハンフィルム及び不織布を得た。
【0056】
<実施例5>
蒸留水17.3gに結晶セルロース0.023gを加えて高速ミキサーでよく撹拌した後、銀ゼオライト0.34gを加えてさらに撹拌し、変性ポリアクリル樹脂水分散液(固形分濃度30wt%)を2.5g添加してよく撹拌することで抗菌塗工液を得た。このようにして得られた抗菌塗工液の25℃における粘度は1.52cPであった。
次に、実施例1と同様にして、抗菌被膜を塗工したセロハンフィルム及び不織布を得た。
【0057】
<実施例6>
蒸留水13gにメタノール3.5gを混合した後、結晶セルロース0.023gとキサンタンガム0.002gとデキストリン0.006gを加えて高速ミキサーでよく撹拌した。銀ゼオライト0.7gを加えてさらに撹拌し、変性ポリアクリル樹脂水分散液(固形分濃度30wt%)を25g添加してよく撹拌することで抗菌塗工液を得た。このようにして得られた抗菌塗工液の25℃における粘度は48.2cPであった。
次に、実施例1と同様にして、抗菌被膜を塗工したセロハンフィルム及び不織布を得た。
【0058】
<比較例1>
蒸留水13gにメタノール4.3gを混合した後、銀ゼオライト0.34gを加えて撹拌し、変性ポリアクリル樹脂水分散液(固形分濃度30wt%)を2.5g添加してよく撹拌することで抗菌塗工液を得た。このようにして得られた抗菌塗工液の25℃における粘度は3.10cPであった。
次に、実施例1と同様にして、抗菌被膜を塗工したセロハンフィルムを得た。
【0059】
<比較例2>
蒸留水17.3gに銀ゼオライト0.34gを加えて撹拌し、変性ポリアクリル樹脂水分散液(固形分濃度30Wt%)を2.5g添加してよく撹拌することで抗菌塗工液を得た。このようにして得られた抗菌塗工液の25℃における粘度は1.20cPであった。
次に、実施例1と同様にして、抗菌被膜を塗工したセロハンフィルムを得た。
【0060】
<比較例3>
水10gに分散剤0.1gと銀ゼオライト0.34gを加えて撹拌し、アクリル樹脂水分散液(固形分濃度30wt%)を2.5g添加してよく撹拌することで抗菌塗工液を得た。このようにして得られた抗菌塗工液の25℃における粘度は163cPであった。
次に、実施例1と同様にして、抗菌被膜を塗工したセロハンフィルムを得た。
【0061】
以下に、実施例及び比較例で使用した材料について説明する。
銀ゼオライト:株式会社シナネンゼオミック製、平均粒径2~3μm
結晶セルロース:旭化成株式会社製 セオラスUF-F702
キサンタンガム:株式会社キミカ製 EC
デキストリン:三晶株式会社製 MALTRIN QD M440
分散剤:日信化学工業株式会社製 サーフィノール
【0062】
(抗菌塗工液の粘度の測定)
抗菌塗工液の25℃における粘度の測定は、コーンプレート型粘度計(ブルックフィールド社製 LV)を用い、コーンスピンドルはCPA-40Zを使用した。測定温度を25℃とし、測定用サンプル0.5mLをシリンジで測り取り、測定中は粘度計内部のトルク値が10%から100%の範囲を外れないように条件設定し、粘度を測定した。粘度の単位はcP(センチポアズ)で示した。
【0063】
(フィルムの透明性の評価)
実施例及び比較例で得られた各セロハンフィルムについて、フィルム越しに1m離れた人の顔が認識できるか否かで透明性を評価し、結果を表1に示した。評価基準は、下記の通りとした。
◎:フィルム越しに1m離れた人の顔がはっきりと認識できる場合
〇:フィルム越しに1m離れた人の顔が認識できる場合
△:フィルム越しに1m離れた人の顔がぼやけるがよく見ると認識はできる場合
×:フィルム越しに1m離れた人の顔がぼやけて認識できない場合
【0064】
(抗菌剤の分散性の評価)
実施例及び比較例で得られた各抗菌塗工液を50mLの透明なガラス容器に20mLとり、8時間静置後、透明なガラス容器をゆっくりと傾けてガラス容器の底を確認することで塗工液の沈降具合(抗菌剤の分散性)を評価し、結果を表1に示した。評価基準は、下記の通りとした。
◎:ガラス容器の底を光に照らして内部がはっきりと確認できる場合
〇:ガラス容器の底を光に照らして内部がはっきりではないが確認できる場合
×:ガラス容器の底から内部が確認できない場合
【0065】
【0066】
表1の結果から、粉末抗菌剤と結晶セルロースとを含有する抗菌塗工液を用いた実施例1~6は、粘性を低くしても粉末抗菌剤の分散性に優れ、透明性が確保された塗膜を与えることが明らかとなった。
【0067】
(抗菌性の評価)
実施例で得られた各セロハンフィルム及び不織布について抗菌性の評価を行った。
セロハンフィルムについては、JIS Z 2801のフィルム密着法に準拠した。使用したセロハンフィルムの厚さは30μmであった。実施例1~6の抗菌活性値はいずれも4以上であり、良好な抗菌性が得られることが明らかとなった。
不織布については、JIS L 1902の菌液吸収法に準拠した。使用した不織布は、ポリエステル不織布(目付40g)、ポリ乳酸不織布(目付30g)であった。実施例1~6の抗菌活性値はいずれも4以上であり、良好な抗菌性が得られることが明らかとなった。
【0068】
(抗菌被膜を塗工したセロハンフィルム及び不織布の表面観察)
実施例3で得られたフィルム及び不織布の表面を、走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製のSU3500)を使用して、低真空モード(30Pa)、加速電圧10kV、倍率100倍、COMP画像により観察した。結果の
図1に示されている通り、白点で示される粉末抗菌剤が良好に分散していることが明らかとなった。
【要約】
【課題】粘性を低くしても粉末抗菌剤の分散性に優れ、透明性が確保された塗膜を与えるフィルム又は繊維製品用抗菌塗工液を提供すること。
【解決手段】フィルム又は繊維製品の表面に塗布されるフィルム又は繊維製品用抗菌塗工液であって、粉末抗菌剤と結晶セルロースとを含有する、フィルム又は繊維製品用抗菌塗工液である。
【選択図】なし