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  • 特許-リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221220BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221220BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20221220BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20221220BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221220BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221220BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20221220BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20221220BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/36 E
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/058
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017553870
(86)(22)【出願日】2016-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2016085398
(87)【国際公開番号】W WO2017094719
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-10-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2015233583
(32)【優先日】2015-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】玉井 卓
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】須原 宏光
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-59514(JP,A)
【文献】特開2014-56813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62,4/133-134,4/13,4/36,10/052,10/0566,10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素を構成元素として含む材料を含む負極活物質と、バインダーとを少なくとも含む負極、及び正極を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記バインダーが、芳香族ビニルとエチレン性不飽和カルボン酸の共重合ポリマーであり、エチレン性不飽和カルボン酸の少なくとも一部がアルカリ金属塩であり、前記アルカリ金属塩を形成しているアルカリ金属が、1000質量ppm以上の量で前記共重合ポリマーに含まれ
前記芳香族ビニルは、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンからなる群より選択される1種または2種以上であり、
前記エチレン性不飽和カルボン酸は、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種または2種以上である、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
ケイ素を構成元素として含む材料が、金属ケイ素、ケイ素を含む合金、および酸化ケイ素から成る群より選択される、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
ケイ素を構成元素として含む材料の粒子表面の少なくとも一部に、ケイ素を構成元素として含む材料が露出している、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
ケイ素を構成元素として含む材料の50%粒子径が2.0μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
ケイ素を構成元素として含む材料が、50%粒子径が0.1~1.0μmである未被覆の金属ケイ素を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
アルカリ金属がNaである、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
負極がさらに炭素を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
正極が、下記式:
LiNi(1-x) (A)
(但し、0<x<0.5、0<y≦1.2、MはCo、Al、Mn、Fe、Ti及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)
によって表されるリチウムニッケル複合酸化物を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を搭載した車両。
【請求項10】
負極と、正極とを、セパレータを介して積層して電極素子を製造する工程と、
前記電極素子と電解液とを外装体に封入する工程と、
を含むリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記負極が、ケイ素を構成元素として含む材料を含む負極活物質と、バインダーとを含み、前記バインダーが、芳香族ビニルとエチレン性不飽和カルボン酸の共重合ポリマーであり、エチレン性不飽和カルボン酸の少なくとも一部がアルカリ金属塩であり、前記アルカリ金属塩を形成しているアルカリ金属が、1000質量ppm以上の量で前記共重合ポリマーに含まれ
前記芳香族ビニルは、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンからなる群より選択される1種または2種以上であり、
前記エチレン性不飽和カルボン酸は、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選択される1種または2種以上である、リチウムイオン二次電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池を搭載した車両およびリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高い、自己放電が小さい、長期信頼性に優れている等の利点により、ノート型パソコンや携帯電話などにおいて実用化が進められている。さらに近年では、電子機器の高機能化に加え、電気自動車やハイブリッド車等のモータ駆動の車両の市場の拡大、家庭用及び産業用蓄電システムの開発の加速により、サイクル特性や保存特性等の電池特性に優れ、かつ、容量やエネルギー密度をさらに向上させた、高性能のリチウムイオン二次電池の開発が求められている。
【0003】
高容量のリチウムイオン二次電池を与える負極活物質として、ケイ素やスズ等およびその合金や金属酸化物等の金属系の活物質が注目を集めている。これらの金属系の負極活物質は、高容量を与える一方で、リチウムイオンが吸蔵放出される際の活物質の膨張収縮が大きいために、サイクル特性が低下するという課題がある。このため、このような充放電時の膨張収縮の大きい金属系の活物質を含む負極用の結着剤には、活物質の体積変化に耐え得る結着力の強いものを選択することが好適である。
【0004】
特許文献1には、ケイ素やスズ等の充放電時の体積変化の大きな活物質を含む負極に使用する結着剤としてポリアクリル酸が良好であることが記載されている。これは、ポリアクリル酸は、官能基として多くのカルボキシル基を有するために結着力が強く、さらに化学的にも安定なためである。さらに、特許文献1には、ポリアクリル酸の結着剤として、エチレン-アクリル酸共重合体を使用することで、ポリアクリル酸の柔軟性を改善し、膨張収縮による活物質粒子同士の結着構造の破壊を抑制できることが記載されている。この活物質粒子同士の結着構造の破壊の抑制によって、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル特性の改善をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2006/075446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のエチレン-アクリル酸共重合体を結着剤として用いた場合であっても、ケイ素を含む負極では、充放電を繰り返すことで容量維持率は低下しており、更なる改善の必要性が依然としてある。また、電池のエネルギー密度の向上のためにも、より少量添加で十分な強度を発現する結着剤が求められている。本発明の目的は、より高い結着性能を有するポリアクリル酸結着剤を使用することによって、上述した課題である不十分なサイクル特性が改善された、ケイ素材料を負極活物質に使用するリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリチウムイオン二次電池は、ケイ素を構成元素として含む材料と、共重合ポリマーとを少なくとも含む負極を有するリチウムイオン二次電池であって、前記共重合ポリマーが、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属塩に基づくモノマーユニットと、芳香族ビニルに基づくモノマーユニットとを含み、前記アルカリ金属塩を形成しているアルカリ金属が、1000質量ppm以上の量で前記共重合ポリマーに含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ケイ素を構成元素として含む材料を負極活物質として使用したリチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】フィルム外装電池の基本的構造を示す分解斜視図である。
図2図1の電池の断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池について、その構成ごとに詳細を以下で説明する。
【0011】
[負極]
本発明のリチウムイオン二次電池は、共重合ポリマーを含む結着剤と、構成元素としてケイ素を含む材料を含む負極活物質とを負極に含む。共重合ポリマーは、エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットを含むが、その少なくとも一部のカルボン酸はアルカリ金属塩である。このため、以降で共重合ポリマーに関して使用される用語「カルボン酸」は、特段の記載がない限りカルボン酸だけでなくカルボン酸アルカリ金属塩の意味も包含する。
【0012】
共重合ポリマーは、エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットと、芳香族ビニルに基づくモノマーユニットとを含む。
【0013】
エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、およびそれらのアルカリ金属塩などが挙げられ、1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
芳香族ビニルとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、1種または2種以上を用いることができる。芳香族ビニルに基づくモノマーユニットが共重合ポリマー中に含まれることで、電極合剤層と集電体との剥離強度を改善できる。
【0015】
共重合ポリマーにおいて、エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットの総数に対する芳香族ビニルに基づくモノマーユニットの総数の比率は、特に限定されないが、好ましくは0.1%以上である。
【0016】
共重合ポリマーは、エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットと、芳香族ビニルに基づくモノマーユニットに加えて、その他のモノマーユニットを有してもよい。その他のモノマーユニットとしては、エチレン性不飽和カルボン酸エステルなどのエチレン性不飽和カルボン酸誘導体、アクリロニトリルおよび共役ジエンなどの化合物に基づくモノマーユニットが挙げられる。
【0017】
エチレン性不飽和カルボン酸に基づくモノマーユニットの少なくとも一部のカルボン酸はアルカリ金属塩である。アルカリ金属としては、Li、Na、Kなどが挙げられる。このアルカリ金属塩を形成しているアルカリ金属は、好ましくは共重合ポリマーの1000質量ppm以上、より好ましくは10000質量ppm以上、最も好ましくは50000質量ppm以上の量で共重合ポリマー中に存在する。アルカリ金属は、好ましくは、共重合ポリマーに含まれるカルボン酸の物質量以下の量で共重合ポリマー中に存在する。アルカリ金属は、好ましくは共重合ポリマーの35質量%以下、より好ましくは25質量%以下の量で共重合ポリマー中に存在する。共重合ポリマーにカルボン酸アルカリ金属塩が存在することにより、電極を作製したときに、活物質同士の結着性を向上させるとともに、電極合剤層と集電体との剥離強度を改善できる。本発明のリチウムイオン二次電池では、ケイ素を構成元素として含む材料を負極活物質として使用する。ケイ素を構成元素として含む材料には通常、末端などにヒドロキシル基が存在する。このヒドロキシル基とカルボン酸アルカリ金属塩は、相互作用して結合を形成するために、結着剤としての機能が高まると推測される。このため、膨張収縮による活物質粒子同士の結着構造の破壊を抑制し、電池のサイクル特性を改善できる。
【0018】
共重合ポリマーは、その他の結着剤と組み合わせて使用することもできる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。前記のもの以外にも、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。また、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を組み合わせて使用することもできる。
【0019】
負極活物質には、構成元素としてケイ素を含む材料(以下、ケイ素材料とも呼ぶ)を少なくとも一部に使用する。ケイ素材料としては、金属ケイ素、ケイ素を含む合金、組成式SiO(0<x≦2)として表されるケイ素酸化物などが挙げられる。これらのケイ素材料は粉末で使用することができる。
【0020】
ケイ素材料の粒径を小さくした場合、膨張収縮時の1粒子当たりの体積変化が小さくなるので、その際に起こる応力も小さくなる。その結果、ケイ素材料粒子自体の割れや、ケイ素材料粒子付近の電極破壊を低減できる。また、粒径が小さいことで、表面積が増加し、且つ、粒子表面から深部へのLiの拡散距離が短くなるため、抵抗が小さくなる。以上のことから、ケイ素材料粒子は小さい方が良い。一方で、ケイ素材料の粒径を小さくした場合、剥離強度が低くなるので、従来の結着剤ではより多くの量を添加する必要がある。このため、結着剤による抵抗が増加し、ケイ素材料を入れる目的であるエネルギー密度向上には不利になってしまう。しかしながら、本発明において使用するポリアクリル酸結着剤は、少量添加で高い強度を得ることができるので、添加量を一定にして粒径を小さくしても剥離強度を維持できる。即ち本発明では、結着剤の添加量の増加を伴わずに、ケイ素材料の粒径を小さくすることによって電池のサイクル特性をさらに改善できる。このため、ケイ素材料粉末の50%粒子径(メジアン径)D50は、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下、最も好ましくは1.0μm以下である。また、ケイ素材料の粒子の50%粒子径(メジアン径)D50は、好ましくは、1nm以上である。50%粒子径は、体積基準の粒子径分布の中央値である。体積基準の粒子径分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定できる。
【0021】
ケイ素材料の粒子表面を炭素などで被覆して活物質に用いる場合がある。しかしながら本発明では、好ましくは表面の少なくとも一部、より好ましくは表面の全面にケイ素材料が露出しているものを使用する。即ち、ケイ素材料は、被覆処理をせずに使用することが好ましい。電極合剤層を形成したときに、共重合ポリマーに含まれるカルボン酸アルカリ金属塩と、ケイ素材料に存在するヒドロキシル基を相互作用させて、結着剤と活物質の結着性を高めるためである。
【0022】
ケイ素材料を、その他の活物質と組み合わせて使用することもできる。特に、ケイ素材料は、炭素とともに使用することが好ましい。炭素とともに使用することでケイ素による膨張収縮の影響を緩和して、電池のサイクル特性を改善することができる。炭素としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、グラフェン、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、またはこれらの複合物等が挙げられる。ここで、結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる負極集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくい。
【0023】
ケイ素材料と組み合わせて使用することができるその他の負極活物質として、ケイ素以外の金属、金属酸化物も挙げられる。金属としては、例えば、Li、Al、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La、またはこれらの2種以上の合金等が挙げられる。また、これらの金属又は合金は1種以上の非金属元素を含んでもよい。金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはこれらの複合物等が挙げられる。また、金属酸化物に、窒素、ホウ素および硫黄の中から選ばれる1種または2種以上の元素を、例えば0.1~5質量%添加することもできる。こうすることで、金属酸化物の電気伝導性を向上させることができる。
【0024】
使用する負極活物質の総量と共重合ポリマーの比率は、十分な結着力の観点から、負極活物質100質量部に対して、共重合ポリマーを0.1質量部以上とすることが好ましく、0.5質量部以上とすることがより好ましい。高エネルギー密度化の観点から、負極活物質100質量部に対して、共重合ポリマーを50質量部以下とすることが好ましく、30質量部以下とすることがより好ましい。負極活物質は、リチウムを吸蔵放出し得る物質である。本明細書において、例えば結着剤など、リチウムを吸蔵放出しない物質は、負極活物質には含まれない。
【0025】
負極には、インピーダンスを低下させる目的で、導電材を追加して含んでもよい。追加の導電材としては、鱗片状、線維状の炭素質微粒子等、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0026】
負極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、およびそれらの合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0027】
負極は、通常の方法に従って作製することができる。一態様においては、負極活物質と、共重合ポリマーと、任意成分として導電材とを溶剤に混合してスラリーを調製し、これを負極集電体に塗布し、乾燥することで負極を作製できる。塗布は、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法等によって実施できる。
【0028】
[正極]
正極活物質としては、リチウムを吸蔵放出し得る材料であれば特に限定されず、いくつかの観点から選ぶことができる。高エネルギー密度化の観点からは、高容量の化合物を含むことが好ましい。高容量の化合物としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO)またはニッケル酸リチウムのNiの一部を他の金属元素で置換したリチウムニッケル複合酸化物が挙げられ、下式(A)で表される層状リチウムニッケル複合酸化物が好ましい。
【0029】
LiNi(1-x) (A)
(但し、0≦x<1、0<y≦1.2、MはCo、Al、Mn、Fe、Ti及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)
【0030】
高容量の観点では、Niの含有量が高いこと、即ち式(A)において、xが0.5未満が好ましく、さらに0.4以下が好ましい。このような化合物としては、例えば、LiαNiβCoγMnδ(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)、LiαNiβCoγAlδ(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6好ましくはβ≧0.7、γ≦0.2)などが挙げられ、特に、LiNiβCoγMnδ(0.75≦β≦0.85、0.05≦γ≦0.15、0.10≦δ≦0.20)が挙げられる。より具体的には、例えば、LiNi0.8Co0.05Mn0.15、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.8Co0.1Al0.1等を好ましく用いることができる。
【0031】
また、熱安定性の観点では、Niの含有量が0.5を超えないこと、即ち、式(A)において、xが0.5以上であることも好ましい。また特定の遷移金属が半数を超えないことも好ましい。このような化合物としては、LiαNiβCoγMnδ(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、0.2≦β≦0.5、0.1≦γ≦0.4、0.1≦δ≦0.4)が挙げられる。より具体的には、LiNi0.4Co0.3Mn0.3(NCM433と略記)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM523と略記)、LiNi0.5Co0.3Mn0.2(NCM532と略記)など(但し、これらの化合物においてそれぞれの遷移金属の含有量が10%程度変動したものも含む)を挙げることができる。
【0032】
また、式(A)で表される化合物を2種以上混合して使用してもよく、例えば、NCM532またはNCM523とNCM433とを9:1~1:9の範囲(典型的な例として、2:1)で混合して使用することも好ましい。さらに、式(A)においてNiの含有量が高い材料(xが0.4以下)と、Niの含有量が0.5を超えない材料(xが0.5以上、例えばNCM433)とを混合することで、高容量で熱安定性の高い電池を構成することもできる。
【0033】
上記以外にも正極活物質として、例えば、LiMnO、LiMn(0<x<2)、LiMnO、LiMn1.5Ni0.5(0<x<2)等の層状構造またはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoOまたはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;及びLiFePOなどのオリビン構造を有するもの等が挙げられる。さらに、これらの金属酸化物をAl、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La等により一部置換した材料も使用することができる。上記に記載した正極活物質はいずれも、1種を単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0034】
正極用結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。前記のもの以外にも、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。SBR系エマルジョンのような水系の結着剤を用いる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を用いることもできる。上記の正極用結着剤は、混合して用いることもできる。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、正極活物質100質量部に対して、2~10質量部が好ましい。
【0035】
正極活物質を含む塗工層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電材を添加してもよい。導電材としては、鱗片状、線維状の炭素質微粒子等、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0036】
正極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、およびそれらの合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。特に、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄・ニッケル・クロム・モリブデン系のステンレスを用いた集電体が好ましい。
【0037】
正極は、正極集電体上に、正極活物質と正極用結着剤を含む正極合剤層を形成することで作製することができる。正極合剤層の形成方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。予め正極合剤層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を形成して、正極集電体としてもよい。
【0038】
[電解液]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電解液としては特に限定されないが、電池の動作電位において安定な非水溶媒と支持塩を含む非水電解液が好ましい。
【0039】
非水溶媒の例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;プロピレンカーボネート誘導体、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等のエーテル類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類等の非プロトン性有機溶媒、及び、これらの化合物の水素原子の少なくとも一部をフッ素原子で置換したフッ素化非プロトン性有機溶媒等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の環状または鎖状カーボネート類を含むことが好ましい。
【0041】
非水溶媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
支持塩としては、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩が挙げられる。支持塩は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。低コスト化の観点からはLiPFが好ましい。
【0043】
電解液は、さらに添加剤を含むことができる。添加剤としては特に限定されるものではないが、ハロゲン化環状カーボネート、不飽和環状カーボネート、及び、環状または鎖状ジスルホン酸エステル等が挙げられる。これらの化合物を添加することにより、サイクル特性等の電池特性を改善することができる。これは、これらの添加剤がリチウムイオン二次電池の充放電時に分解して電極活物質の表面に皮膜を形成し、電解液や支持塩の分解を抑制するためと推定される。
【0044】
[セパレータ]
セパレータは、正極および負極の導通を抑制し、荷電体の透過を阻害せず、電解液に対して耐久性を有するものであれば、いずれであってもよい。具体的な材質としては、ポリプロピレンおよびポリエチレン等のポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンならびにポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびコポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド(アラミド)等が挙げられる。これらは、多孔質フィルム、織物、不織布等として用いることができる。
【0045】
[絶縁層]
正極、負極、およびセパレータの少なくとも1つの表面に絶縁層を形成しても良い。絶縁層の形成方法としては、ドクターブレード法、ディップコーティング法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。正極、負極、セパレータの形成と同時に絶縁層を形成することもできる。絶縁層を形成する物質としては、酸化アルミニウムやチタン酸バリウムなどとSBRやPVDFとの混合物などが挙げられる。
【0046】
[リチウムイオン二次電池の構造]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、例えば、図1および図2のような構造を有する。このリチウムイオン二次電池は、電池要素20と、それを電解質と一緒に収容するフィルム外装体10と、正極タブ51および負極タブ52(以下、これらを単に「電極タブ」ともいう)とを備えている。
【0047】
電池要素20は、図2に示すように、複数の正極30と複数の負極40とがセパレータ25を間に挟んで交互に積層されたものである。正極30は、金属箔31の両面に電極材料32が塗布されており、負極40も、同様に、金属箔41の両面に電極材料42が塗布されている。なお、本発明は、必ずしも積層型の電池に限らず捲回型などの電池にも適用しうる。
【0048】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は図1および図2のように電極タブが外装体の片側に引き出された構成であってもよいが、リチウムイオン二次電池は電極タブが外装体の両側に引き出されたものであってもいい。詳細な図示は省略するが、正極および負極の金属箔は、それぞれ、外周の一部に延長部を有している。負極金属箔の延長部は一つに集められて負極タブ52と接続され、正極金属箔の延長部は一つに集められて正極タブ51と接続される(図2参照)。このように延長部どうし積層方向に1つに集めた部分は「集電部」などとも呼ばれる。
【0049】
フィルム外装体10は、この例では、2枚のフィルム10-1、10-2で構成されている。フィルム10-1、10-2どうしは電池要素20の周辺部で互いに熱融着されて密閉される。図1では、このように密閉されたフィルム外装体10の1つの短辺から、正極タブ51および負極タブ52が同じ方向に引き出されている。
【0050】
当然ながら、異なる2辺から電極タブがそれぞれ引き出されていてもよい。また、フィルムの構成に関し、図1図2では、一方のフィルム10-1にカップ部が形成されるとともに他方のフィルム10-2にはカップ部が形成されていない例が示されているが、この他にも、両方のフィルムにカップ部を形成する構成(不図示)や、両方ともカップ部を形成しない構成(不図示)なども採用しうる。
【0051】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
本実施形態によるリチウムイオン二次電池は、通常の方法に従って作製することができる。積層ラミネート型のリチウムイオン二次電池を例に、リチウムイオン二次電池の製造方法の一例を説明する。まず、乾燥空気または不活性雰囲気において、正極および負極を、セパレータを介して対向配置して、電極素子を形成する。次に、この電極素子を外装体(容器)に収容し、電解液を注入して電極に電解液を含浸させる。その後、外装体の開口部を封止してリチウムイオン二次電池を完成する。
【0052】
[組電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を複数組み合わせて組電池とすることができる。組電池は、例えば、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を2つ以上用い、直列、並列又はその両方で接続した構成とすることができる。直列および/または並列接続することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。組電池が備えるリチウムイオン二次電池の個数については、電池容量や出力に応じて適宜設定することができる。
【0053】
[車両]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池またはその組電池は、車両に用いることができる。本実施形態に係る車両としては、ハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バス等の商用車、軽自動車等)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)が挙げられる。なお、本実施形態に係る車両は自動車に限定されるわけではなく、他の車両、例えば電車等の移動体の各種電源として用いることもできる。
【実施例
【0054】
[実施例1]
<負極>
負極活物質として、黒鉛と、50%粒子径1.0μmの未被覆の金属ケイ素(Si)を使用し、負極結着剤に、カルボン酸塩として1000質量ppm以上のNaを含む、芳香族ビニルおよびエチレン性不飽和カルボン酸の共重合ポリマーを使用した。質量比が黒鉛/Si/結着剤=90/7/3となるよう、それぞれ計量して、水と混合した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布した後に乾燥し、さらに真空下で100℃の熱処理を行うことで負極を作製した。
【0055】
<電極剥離強度評価>
作製した負極を1cm幅の短冊状に切断し、固定台に両面の粘着テープで固定した。固定した電極の端の集電体を、ピンセットを用いて電極合剤層からわずかに剥がし、剥がした集電体部分を引張試験機に取り付けた。その後、引張試験機を作動し、固定台に対して90°の角度に一定速度で引っ張り、その際にかかる応力から電極剥離強度を測定した。
【0056】
<正極>
正極活物質として、LiNi0.8Co0.15Al0.05を用いた。この正極活物質と、導電材としてのカーボンブラックと、正極結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを、90:5:5の質量比で計量した。そして、これらをN-メチルピロリドンと混合して、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミ箔に塗布した後に乾燥し、さらにプレスすることで、正極を作製した。
【0057】
<電極積層体>
作製した正極の3層と負極の4層を、セパレータとしてのアラミド多孔質フィルムを挟みつつ交互に重ねた。正極活物質に覆われていない正極集電体および負極活物質に覆われていない負極集電体の端部をそれぞれ溶接した。さらに、その溶接箇所に、アルミニウム製の正極端子およびニッケル製の負極端子をそれぞれ溶接して、平面的な積層構造を有する電極積層体を得た。
【0058】
<電解液>
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)をEC/DEC=30/70(体積比)の配合比で混合して得た溶媒に、LiPFを支持塩として添加し、支持塩濃度が1.0mol/Lの電解液を作製した。
【0059】
<注液>
電極積層体を外装体としてのアルミニウムラミネートフィルム内に収容し、外装体内部に電解液を注入した。その後、チャンバー内にて真空含浸(圧力:10kPa(abs))を行い、外層体を封止することで電池を得た。
【0060】
<電池評価>
得られた電池のサイクル試験を次のようにして行った。CC-CV充電(上限電圧4.2V、電流1C、CV時間1.5時間)と、CC放電(下限電圧3.0V、電流1C)を、いずれも45℃で50サイクル実施した。50サイクル後の容量維持率として、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合を表1に示した。
【0061】
[実施例2]
未被覆のSiの50%粒子径を0.05μmとした以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、同様に負極の剥離強度評価および電池評価を実施した。
【0062】
[実施例3]
未被覆のSiの50%粒子径を0.1μmとした以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、同様に負極の剥離強度評価および電池評価を実施した。
【0063】
[実施例4]
未被覆のSiの50%粒子径を0.5μmとした以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、同様に負極の剥離強度評価および電池評価を実施した。
【0064】
[実施例5]
未被覆のSiの50%粒子径を2.0μmとした以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、同様に負極の剥離強度評価および電池評価を実施した。
【0065】
[実施例6]
未被覆のSiの50%粒子径を3.0μmとした以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、同様に負極の剥離強度評価および電池評価を実施した。
【0066】
[実施例7]
未被覆のSiの50%粒子径を5.0μmとした以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、同様に負極の剥離強度評価および電池評価を実施した。
【0067】
[実施例8]
未被覆のSiではなく、炭素被覆したSiを使用した。炭素被覆したSiの50%粒子径は、1.0μmであった。その他は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、同様に負極の剥離強度評価および電池評価を実施した。
【0068】
[比較例1]
負極結着剤として、Naを含まない芳香族ビニルおよびエチレン性不飽和カルボン酸の共重合ポリマーを使用した。その他は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、同様に負極の剥離強度評価および電池評価を実施した。
【0069】
[比較例2]
負極結着剤に、カルボン酸塩として1000質量ppm以上のNaを含むエチレン性不飽和カルボン酸の単独重合ポリマーを使用した。その他は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、同様に負極の剥離強度評価および電池評価を実施した。
【0070】
実施例1~8および比較例1、2における負極材料と、電極剥離強度および電池評価の結果を以下の表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
この出願は、2015年11月30日に出願された日本出願特願2015-233583を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0073】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によるリチウムイオン二次電池は、例えば、電源を必要とするあらゆる産業分野、ならびに電気的エネルギーの輸送、貯蔵および供給に関する産業分野において利用することができる。具体的には、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器の電源;電気自動車、ハイブリッドカー、電動バイク、電動アシスト自転車等を含む電動車両、電車、衛星、潜水艦等の移動・輸送用媒体の電源;UPS等のバックアップ電源;太陽光発電、風力発電等で発電した電力を貯める蓄電設備;等に、利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
10 フィルム外装体
20 電池要素
25 セパレータ
30 正極
40 負極
図1
図2