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特許7197105多孔質導電体、素子接合体の製造方法、積層体及びその製造方法、プリコートベアチップ、並びに、電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】多孔質導電体、素子接合体の製造方法、積層体及びその製造方法、プリコートベアチップ、並びに、電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20221220BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20221220BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20221220BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20221220BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20221220BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20221220BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221220BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20221220BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20221220BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20221220BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221220BHJP
   B22F 9/30 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
H01B1/22 A
B22F1/102
B22F1/14 500
B22F3/11 Z
B22F7/04 E
B22F7/04 Z
B82Y30/00
B82Y40/00
C22C1/08 C
H01B1/00 J
H01B1/00 L
H01B1/00 M
H01B5/14 Z
H01B13/00 503Z
B22F9/30 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018019202
(22)【出願日】2018-02-06
(65)【公開番号】P2019139843
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2019-09-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】川名 泰仁
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】河本 充雄
【審判官】棚田 一也
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00, 1/22
B22F 1/14,1/102
B22F 3/11
B22F 5/14
B22F 7/04
B22F 9/30
H01B 5/14
H01B13/00
B82Y30/00
B82Y40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性の金属焼結体と、焼結性を有する金属粒子とを含む、多孔質導電体。
【請求項2】
前記金属粒子が一様に分布する、請求項に記載の多孔質導電体。
【請求項3】
接合に用いられる、請求項又はに記載の多孔質導電体。
【請求項4】
基材上に、請求項乃至のいずれか一項に記載の多孔質導電体を配置する工程と、
前記多孔質導電体上に、素子を配置する工程と、
前記多孔質導電体を、加圧しながら、前記金属粒子の焼結開始温度以上の温度で加熱することにより素子を接合する工程と、を有する、素子接合体の製造方法。
【請求項5】
基材上に、請求項乃至のいずれか一項に記載の多孔質導電体をパターン状に配置する工程と、
前記多孔質導電体上に、2個以上の素子を配置する工程と、
前記多孔質導電体を、加圧しながら、前記金属粒子の焼結開始温度以上の温度で加熱することにより、2個以上の素子を同時に接合する工程と、を有する、素子接合体の製造方法。
【請求項6】
基材上に、第1の多孔質導電体を配置する工程と、
前記第1の多孔質導電体上に第1の層を配置する工程と、
前記第1の層上、又は、基材の第1の層とは反対側の面上に、第2の多孔質導電体を配置する工程と、
前記第2の多孔質導電体上に第2の層を配置する工程と、
前記各多孔質導電体を、加圧しながら、前記金属粒子の焼結開始温度以上の温度で加熱することにより、各層を同時に接合する工程と、を有し、前記第1の多孔質導電体及び前記第2の多孔質導電体がそれぞれ請求項乃至のいずれか一項に記載の多孔質導電体である、積層体の製造方法。
【請求項7】
基材上に、第1の多孔質導電体層と、第1の層と、第2の多孔質導電体層と、第2の層とをこの順に有し、前記第1の多孔質導電体及び前記第2の多孔質導電体がそれぞれ請求項乃至のいずれか一項に記載の多孔質導電体である、積層体。
【請求項8】
半導体ウエハ上に、請求項乃至のいずれか一項に記載の多孔質導電体を備える、プリコートベアチップ。
【請求項9】
請求項乃至のいずれか一項に記載の多孔質導電体の焼結体を含む、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、多孔質導電体及びその製造方法、素子接合体の製造方法、積層体の製造方法、プリコートベアチップ及びその製造方法、並びに、電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を含有する分散液を、インクジェットなど各種の印刷法により、配線パターン状に直接印刷することで、光露光によるパターニングを必要としない、プリンタブルエレクトロニクスが注目されている。
数十nm以下の金属粒子は、粒子径が小さくなるにつれて、バルクの金属とは異なる種々の物理的、化学的特性を示すことが知られている。例えば、金属粒子の融点は、粒子径が小さくなると、バルクの金属の融点よりも低くなることが知られている。そのため、焼結時の温度を低温化する点から、粒子径の小さい金属粒子を用いることが検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、微細な粒子径を有し、かつ低温度での焼結性に優れる銅微粒子を含む銅微粒子分散液として、溶媒中に、保護剤として脂肪族モノカルボン酸で表面が被覆された銅微粒子が分散された特定の銅微粒子分散液が開示されている。
【0004】
本発明者らは特許文献2において、優れた耐酸化性と焼結性とを併せ持つ被覆銅粒子として、銅粒子と、銅粒子の表面に1nm当たり2.5~5.2分子の密度で配置される脂肪族カルボン酸を含む被覆層とを含む被覆銅粒子及びその製造方法を開示している。特許文献2によれば、特定の製造方法により、被覆銅粒子の表面において脂肪族カルボン酸が上記特定の密度で配置され、銅粒子表面に物理吸着して単分子膜を形成し、その結果、優れた耐酸化性と焼結性を有する被覆銅粒子が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-47365号公報
【文献】特開2016-69716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1などに記載されているように、金属粒子を用いて導電体を形成する場合、通常、当該金属粒子は溶媒に分散され、インク状ないしペースト状にして用いられる。
本発明者らは、取り扱い性を向上するために、金属粒子を含有するペーストのシート化について検討を行った。
【0007】
本発明はこのような着想に基づいてなされたものであり、焼結性を有する金属粒子を残しながらシート化が可能な導電性組成物、焼結性を有する金属粒子を含む多孔質導電体、及びその製造方法、当該多孔質導電体を用いた素子接合体、積層体、プリコートベアチップおよびその製造方法、並びに、電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る第1の導電性組成物は、第1金属粒子と、前記第1金属粒子の焼結開始温度よりも焼結温度が高い第2金属粒子とを含有する。
【0009】
前記第1の導電性組成物の一実施形態は、前記第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)と、前記第2金属粒子の焼結温度(Tp)との差(Tp-Ts)が5℃以上である。
【0010】
前記第1の導電性組成物の一実施形態は、前記第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)が、80℃以上200℃以下である。
【0011】
前記第1の導電性組成物の一実施形態は、前記第2金属粒子の一次粒径が、前記第1金属粒子の一次粒径よりも大きい。
【0012】
前記第1の導電性組成物の一実施形態は、前記第1金属粒子、及び、前記第2金属粒子が、
金属核粒子と、前記金属核粒子の表面に1nm当り、2.5~5.2分子の密度で配置された脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の分子とを含む被覆金属粒子である。
【0013】
前記第1の導電性組成物の一実施形態は、前記第2金属粒子が有する脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の分子の炭素原子数が、前記第1金属粒子が有する脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の分子の炭素原子数より大きい。
【0014】
本発明に係る第2の導電性組成物は、金属粒子を含有する導電性組成物であって、
前記金属粒子が金属核粒子と、前記金属核粒子の表面に1nm当り、2.5~5.2分子の密度で配置された脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の分子とを含む被覆金属粒子であり、
前記金属粒子の焼結開始温度(Ts)が80℃以上200℃以下であり、
前記金属粒子の焼結温度(Tp)との差(Tp-Ts)が20℃以上である。
【0015】
本発明に係る多孔質導電体は、多孔性の金属焼結体と、焼結性を有する金属粒子とを含む。
【0016】
前記多孔質導電体の一実施形態は、前記金属粒子が一様に分布する。
【0017】
前記多孔質導電体は、接合に用いることができる。
【0018】
本発明に係る多孔質導電体の製造方法は、
基材上に、前記第1の導電性組成物の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を、前記第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)以上、前記第2金属粒子の焼結温度(Tp)未満の温度で加熱する工程と、を有する。
【0019】
本発明に係る多孔質導電体の製造方法の一実施形態は、
基材上に、前記第2の導電性組成物の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を、前記金属粒子の焼結開始温度(Ts)以上、焼結温度(Tp)未満の温度で加熱する工程と、を有する。
【0020】
本発明に係る素子接合体の製造方法の一実施形態は、基材上に、前記多孔質導電体を配置する工程と、
前記多孔質導電体上に、素子を配置する工程と、
前記多孔質導電体を、加圧しながら、前記金属粒子の焼結開始温度以上の温度で加熱することにより素子を接合する工程と、を有する。
【0021】
本発明に係る素子接合体の製造方法の別の一実施形態は、基材上に、前記多孔質導電体をパターン状に配置する工程と、
前記多孔質導電体上に、2個以上の素子を配置する工程と、
前記多孔質導電体を、加圧しながら、前記金属粒子の焼結開始温度以上の温度で加熱することにより、2個以上の素子を同時に接合する工程と、を有する。
【0022】
本発明に係る積層体の製造方法の一実施形態は、基材上に、第1の多孔質導電体を配置する工程と、
前記第1の多孔質導電体上に第1の層を配置する工程と、
前記第1の層上、又は、基材の第1の層とは反対側の面上に、第2の多孔質導電体を配置する工程と、
前記第2の多孔質導電体上に第2の層を配置する工程と、
前記各多孔質導電体を、加圧しながら、前記金属粒子の焼結開始温度以上の温度で加熱することにより、各層を同時に接合する工程と、を有し、前記第1の多孔質導電体及び前記第2の多孔質導電体がそれぞれ前記多孔質導電体である。
【0023】
本発明に係る積層体の一実施形態は、基材上に、第1の多孔質導電体層と、第1の層と、第2の多孔質導電体層と、第2の層とをこの順に有し、前記第1の多孔質導電体及び前記第2の多孔質導電体がそれぞれ前記多孔質導電体である。
【0024】
本発明に係るプリコートベアチップの一実施形態は、半導体ウエハ上に、前記多孔質導電体を備える。
【0025】
本発明に係るプリコートベアチップの製造方法の一実施形態は、半導体ウエハ上に、前記第1の導電性組成物の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を、前記第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)以上、前記第2金属粒子の焼結温度(Tp)未満の温度で加熱する工程と、
前記半導体ウエハを切断する工程と、を有する。
【0026】
本発明に係るプリコートベアチップの製造方法の別の一実施形態は、半導体ウエハ上に、前記第2の導電性組成物の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を、前記金属粒子の焼結開始温度(Ts)以上、焼結温度(Tp)未満の温度で加熱する工程と、
前記半導体ウエハを切断する工程と、を有する。
【0027】
本発明に係る電子デバイスの一実施形態は、前記本発明に係る多孔質導電体、又は、当該多孔質導電体の焼結体を含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、焼結性を有する金属粒子を残しながらシート化が可能な導電性組成物、焼結性を有する金属粒子を有する多孔質導電体、及びその製造方法、当該多孔質導電体を用いた素子接合体、積層体、プリコートベアチップおよびその製造方法、並びに、電子デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、多孔質導電体の一例を示す、SEM像である。
図2図2は、製造例1及び製造例2で得られた被覆銀粒子の示差熱示差熱(DTA)分析結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例2で得られた銀ペースト2の示差熱示差熱(DTA)分析結果を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1の導電性組成物]
本発明の第1の実施形態に係る導電性組成物(第1の導電性組成物ということがある)は、第1金属粒子と、前記第1金属粒子焼結開始温度よりも焼結温度が高い第2金属粒子とを含有する。
【0031】
上記第1の導電性組成物は焼結温度が異なる2種類の金属粒子を含有するため、加熱温度を制御することにより、焼結温度が高い第2金属粒子はその状態を保ちながら、焼結開始温度の低い第1金属粒子のみを焼結することができる。そのため、上記導電性組成物の塗膜を形成し、特定の温度で加熱をすれば、第1金属粒子の焼結体と、焼結性を有する第2金属粒子を有するシート状の導電体を得ることができる。導電性組成物の塗膜中の第1金属粒子と、第2金属粒子は、通常、一様に分布しているため、第1金属粒子の焼結体は、バルク状ではなく、三次元状に連結し、多孔質な導電体が得られる。第2金属粒子は、当該第1金属粒子の焼結体の孔内や表面に付着し、あるいは包接しているため、導電体からの脱離は抑制されている。そのため得られる多孔性導電体は取り扱い性に優れ、例えば剥離性基材上に形成した場合、基材を剥離して、焼結性を有する金属ペーストのシートとして用いることも可能となる。また、当該多孔性導電体は、焼結性を有しているため、基材と素子とを接合する用途に用いることができる。また、多孔性導電体はクッション性を有し、第2金属粒子を焼結する2段階目の焼結時に加圧することにより、得られる導電体の厚みを調整することができる。例えば1つの基材上に、高さの異なる素子を設ける場合に、圧力を調整することにより、素子同士の高さを揃えることも可能となる。
【0032】
第1の実施形態に係る導電性組成物は、少なくとも第1金属粒子と第2金属粒子を含有し、本発明の効果を損なわない範囲で更に他の成分を含有してもよいものである。以下、まず焼結温度等について説明し、次いで、導電性組成物の各成分について説明する。
【0033】
<焼結開始温度、及び焼結温度>
本発明において焼結開始温度及び焼結温度は、対象となる金属粒子を示差熱(DTA)分析することにより決定できる。
図3を参照してより具体的に説明する。図3は、後述する実施例2で得られた銀ペーストのDTA測定結果を示すグラフである。図3に示されるように、実施例2の銀ペーストは、一次粒径が20nmの銀粒子(第1金属粒子)の焼結に関連するピーク1と、一次粒径が90nmの銀粒子(第2金属粒子)の焼結に関連するピーク2とを有している。本発明において焼結開始温度(Ts)は、金属粒子が焼結を開始する温度を意味し、当該各ピークの立ち上がり部分の温度とする。また、本発明において焼結温度(Tp)は、当該ピークのピークトップの温度とする。図3の例では、第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)がピーク1の立ち上がり温度120~130℃であり、第2金属粒子の焼結温度Tpがピーク2のピークトップにおける温度230~240℃である。なお、本発明において焼結開始温度及び焼結温度は、温度差があることが示される程度の精度を有すれば十分である。図3の例では、2つの金属粒子の焼結開始温度の温度差(Tp-Ts)が少なくとも100℃あることがわかる。また、図3の例では、第1金属粒子と第2金属粒子とを混合した後に焼結開始温度を測定しているが、第1金属粒子のみを含むペーストと、第2金属粒子のみを含むペーストとを別々に測定して、焼結開始温度を決定してもよい。また、金属粒子は、ペースト状で測定してもよく、溶媒を含有しない粉体の状態で測定してもよい。DATの測定条件は、例えば、窒素又は大気雰囲気下で、昇温速度を10℃/min~20℃/minとし、室温~500℃程度まで測定すればよい。
【0034】
<第1金属粒子>
本発明において第1金属粒子は、後述する第2金属粒子よりも焼結開始温度が低いものの中から適宜選択すればよい。第1金属粒子は、後述する多孔質導電体において、金属焼結体となるものである。第1金属粒子は、市販品を用いてもよく、後述の方法等により調製してもよい。
第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)は特に限定されないが、80℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0035】
第1金属粒子の材質は、焼結後に電気伝導性を有する金属であればよく、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、鉄、クロム、スズ、ニッケル、亜鉛、鉛、インジウム、ビスマス、ゲルマニウム、アンチモン、コバルト、パラジウム、ロジウム、モリブデン、タングステン、チタン、ジルコニウム、ガリウム、ヒ素、ホウ素、ケイ素、及びこれらの合金が挙げられる。
電気伝導性の点から、中でも、銅、銀、金、及びニッケルより選択される1種以上の金属を含むことが好ましく、銀、又は銅であることがより好ましい。
【0036】
第1金属粒子は、本発明の効果を損なわない範囲で、金属酸化物、金属水酸化物、及びその他の不純物を含んでいてもよい。金属酸化物及び金属水酸化物の含有割合は、導電性の点から、第1金属粒子に対して5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更により好ましい。また、導電性の点から、第1金属粒子の金属の純度は、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更により好ましい。
【0037】
第1金属粒子の形状は、用途等に応じて適宜選択することができる。当該形上は、真球状を含む略球状、板状、棒状などが挙げられ、中でも、略球状であることが好ましい。なお、後述する被覆金属粒子の製造方法によれば、おおよそ球状に近似可能な略球状の金属核粒子が得られる。
第1金属粒子の粒径は、所望の焼結開始温度が得られる範囲で適宜選択すればよい。例えば、1nm以上500nm以下の範囲で選択することができ、5nm以上300nm以下が好ましく、10nm以上250nm以下であることがより好ましい。
なお、第1金属粒子の平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された任意の20個の金属核粒子の一次粒子径の算術平均値であり、例えば、解析ソフト(例えば、Win ROOF)を用いた円形分離による粒子計測により、測定することができる。
【0038】
(被覆層)
第1金属粒子は、酸化防止や、各種媒体に対する分散性の向上の点から、有機物化合物を含む被覆層により被覆された被覆金属粒子となっていてもよい。第1金属粒子を被覆する有機化合物は、当該用途に用いられる公知のものの中から適宜選択すればよい。本発明においては、分散性や耐酸化性の点から、脂肪族カルボン酸、又は脂肪族アルデヒドであることが好ましい。
【0039】
上記脂肪族カルボン酸は、脂肪族化合物に1個又は2個以上のカルボキシ基が置換された構造を有する化合物であり、脂肪族化合物に1個のカルボキシ基が置換された構造、即ち、脂肪族炭化水素基と、1個のカルボキシ基を有する化合物が好ましい。本発明においては、通常、第1金属粒子表面に、脂肪族カルボン酸のカルボキシ基が配置されて、第1金属粒子を被覆する。
【0040】
脂肪族カルボン酸を構成する脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝、又は環状構造を有する炭化水素基であって、不飽和結合を有していてもよい。本発明においては、金属核粒子表面に所定の密度で単分子膜を形成しやすい点から、分枝及び環状構造を有しない、直鎖脂肪族炭化水素基であることが好ましい。不飽和結合は、二重結合であってもよく三重結合であってもよいが、二重結合であることが好ましい。また、脂肪族炭化水素基が不飽和結合を有する場合、その個数は、1分子中に1~3個有することが好ましく、1~2個有することがより好ましく、1個であることが更により好ましい。
【0041】
本発明において脂肪族カルボン酸は、中でも、直鎖脂肪族炭化水素基の末端にカルボキシ基を有することが好ましい。
当該脂肪族カルボン酸において、脂肪族基の炭素原子数は、第1金属粒子の分散性や、耐酸化性の点から、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることが更により好ましい。一方、脂肪族基の炭素原子数が17以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましく、15以下であることが更により好ましい。
【0042】
好ましい脂肪族カルボン酸の具体例としては、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。脂肪族カルボン酸は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
また、第1金属粒子の被覆層として、前記脂肪族カルボン酸の代わりに、又は、前記脂肪族カルボン酸と組み合わせて、前記金属核粒子表面に脂肪族アルデヒドを配置してもよい。
脂肪族アルデヒドは、脂肪族化合物に1個又は2個以上のアルデヒド基が置換された構造を有する化合物であり、本発明においては、脂肪族化合物に1個のアルデヒド基が置換された構造、即ち、脂肪族炭化水素基と、1個のアルデヒド基を有する化合物が好ましい。本発明においては、通常、第1金属粒子表面に、脂肪族アルデヒドのアルデヒド基が配置されて、第1金属粒子を被覆する。金属核粒子表面にアルデヒド基が配置されることにより、脂肪族アルデヒドの還元作用による、金属核粒子表面の酸化抑制や、汚染物質の洗浄効果が得られる。更に検討の結果、基材表面の異物や酸化物を除去する効果を有するものと推定される。
【0044】
脂肪族アルデヒドを構成する脂肪族炭化水素基は、前記脂肪族カルボン酸と同様のものを選択することができる。
好ましい脂肪族アルデヒドの具体例としては、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、オクダデシルアルデヒド、ヘキサデセニルアルデヒドなどが挙げられる。脂肪族アルデヒドは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
上記被覆層は、中でも、前記脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の分子(以下、「脂肪族カルボン酸等」ということがある)が、第1金属粒子表面に1nm当り、2.5~5.2分子の密度で配置された被覆層であることが好ましい。当該被覆層を有することにより、第1金属粒子は優れた耐酸化性と焼結性を有する。当該被覆層の被覆密度は、分散性及び耐酸化性の点から、当該被覆密度が3.0~5.2分子/nmであることが好ましく、3.5~5.2分子/nmであることがより好ましい。
【0046】
被覆金属粒子表面における脂肪族カルボン等の被覆密度は以下のようにして算出することができる。まず、被覆金属粒子について、特開2012-88242号公報に記載される方法に従って、液体クロマトグラフィー(LC)を用いて表面に付着している有機成分を抽出し、成分分析を行う。また、TG-DTA測定(熱重量測定・示差熱分析)を行い、被覆金属粒子に含まれる有機成分量を測定する。次いでLCの分析結果と合わせて被覆金属粒子に含まれる脂肪族カルボン酸等の量を算出する。また、SEM画像観察により第1金属粒子の平均一次粒径を測定する。
以上の分析結果から、被覆金属粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸等の分子数は下記式(a)で表される。
[脂肪族カルボン酸等の分子数]=M/(M/N) ・・・(a)
ここで、Mは被覆金属粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸等の質量(g)であり、Mは脂肪族カルボン酸等の分子量(g/mol)であり、Nはアボガドロ定数である。2種以上の脂肪族カルボン酸等が含まれる場合には、各成分ごとに分子数を算出し、合計する。
第1金属粒子の形状を球体と近似して、被覆金属粒子の質量から有機成分量を差し引いて第1金属粒子の質量M(g)を求める。被覆金属粒子1g中の第1金属粒子数は下式(b)で表される。
[第1金属粒子数]=M/[(4πr/3)×d×10-21] ・・・(b)
ここで、MBは被覆金属粒子1gに含まれる金属粒子の質量(g)であり、rはSEM画像観察により算出した一次粒径の半径(nm)であり、dは金属の密度である(銅の場合d=8.94)。被覆金属粒子1gに含まれる第1金属粒子の表面積は式(b)から、下式(c)で表される。
[第1金属粒子の表面積(nm)]=[第1金属粒子数]×4πr ・・・(c)
以上から、脂肪族カルボン酸等による金属粒子の被覆密度(分子/nm)は、(a)式及び(c)式を用いて、下記式(d)で算出される。
[被覆密度]=[脂肪族カルボン酸等の分子数]/[第1金属粒子の表面積]・・・(d)
【0047】
脂肪族カルボン酸等と第1金属粒子との結合状態は、イオン性結合であっても物理吸着であってもよい。脂肪族カルボン酸等は、被覆金属粒子の焼結性の観点から、第1金属粒子の表面に物理吸着していることが好ましく、第1金属粒子の表面にカルボキシ基、又はアルデヒド基で物理吸着していることが好ましい。
【0048】
脂肪族カルボン酸等が第1金属粒子へ物理吸着していることは、被覆金属粒子の表面組成を分析することで確認できる。具体的には、被覆金属粒子について飛行時間型二次イオン質量分析法(Tof-SIMS)表面分析を行い、実質的に遊離の脂肪族カルボン酸等のみが検出され、金属原子と結合している脂肪族カルボン酸等が実質的に検出されないことで確認することができる。ここで、金属原子と結合している脂肪族カルボン酸等が実質的に検出されないとは、第1金属粒子に付着している脂肪族カルボン酸等の質量と当量の遊離の脂肪族カルボン酸等が検出されるシグナル量に対して、5%以下であること意味し、1%以下であることが好ましい。
【0049】
また、脂肪族カルボン酸等が、カルボキシ基、又はアルデヒド基で金属粒子の表面に物理吸着していることは、被覆金属粒子について、赤外吸収スペクトル測定を行い、実質的にC-O-金属塩由来の伸縮振動ピークのみが観測され、遊離のカルボン酸等(-C=O)に由来する伸縮振動ピークが実質的に観測されないことで確認することができる。
【0050】
被覆金属粒子の粒度分布の変動係数(標準偏差SD/平均一次粒径DSEM)の値は例えば、0.01~0.5であり、0.05~0.3が好ましい。特に、後述する被覆金属粒子の製造方法で製造されていることで、粒度分布の変動係数が小さく、粒子径の揃った状態とすることができる。被覆金属粒子の粒度分布の変動係数が小さいことで、分散性に優れ、高濃度の分散物を得ることが可能となると共に、焼結開始温度の異なる金属粒子の作りわけが容易となる。
【0051】
(被覆金属粒子の製造方法)
上記被覆金属粒子は、前記第1金属粒子となる金属を含む金属カルボン酸塩と、上記脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の分子を用い、特開2016-69716号公報の段落0031から段落0066まで、及び段落0085の記載を参考にして製造することが好ましい。即ち、被覆金属粒子の好ましい製造方法は、金属カルボン酸塩と、脂肪族カルボン酸等と、媒体を含む反応液を準備し、当該反応液中で生成する錯化合物を熱分解処理して、第1金属粒子の表面に肪族カルボン酸等が1nm当り2.5~5.2分子の密度で配置された被覆金属粒子を得ることができる。
以下、上記の製造方法についてより具体的に説明する。
【0052】
(1)反応液
上記反応液は、第1金属粒子となる金属を含む金属カルボン酸塩と、当該第1金属粒子の表面に被覆する脂肪族カルボン酸等と、媒体とを含有するものであり、好ましくは更にアミノアルコールを含有し、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよいものである。以下、反応液に含まれる成分について説明するが、脂肪族カルボン酸等については前記金属核粒子の表面に被複する脂肪族カルボン酸等と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0053】
(2)金属カルボン酸塩
前記金属カルボン酸塩におけるカルボン酸は、金属の種類や、金属カルボン酸塩の製造容易性などの観点から適宜選択することができる。カルボン酸としては、ギ酸、シュウ酸、クエン酸等が挙げられる。また金属の種類に応じて、カルボン酸の代わりに炭酸を用いてもよい、金属として銅を用いる場合には、金属カルボン酸塩としてギ酸銅を用いることが好ましい。また、金属として銀を用いる場合には、金属カルボン酸塩として、ギ酸銀、シュウ酸銀、炭酸銀、シュウ酸銀などが挙げられ、中でも熱分解温度が高いことから、シュウ酸銀を用いることが好ましい。金属カルボン酸塩を構成する金属については、前記第1金属粒子と同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0054】
反応液中の金属カルボン酸塩の含有割合は適宜調整すればよい。被覆金属粒子の製造効率などの点から、0.5~2.5モル/リットルであることが好ましく、1.5~2.5モル/リットルであることがより好ましく、2.0~2.5モル/リットルであることが更により好ましい。
また、反応液中の脂肪族カルボン酸等の含有割合は、反応液中の金属カルボン酸に対して2.5~40モル%であることが好ましく、5.0~20モル%であることがよりこのましい。上記上限値以下であれば、粘度の上昇が抑制される。一方、上記下限値以上とすることで、十分な反応速度が得られ、生産性が向上し、粒度の変動率が小さくなる傾向がある。
【0055】
(3)アミノアルコール
上記反応液中に、金属カルボン酸塩と錯形成可能なアミノアルコールを含有することが好ましい。金属カルボン酸塩とアミノアルコールとが錯形成することで、後述する溶媒への溶解性が向上する。
アミノアルコールは、少なくとも1つのアミノ基を有するアルコール化合物であってあればよい。アミノアルコールは、モノアミノモノアルコール化合物であることが好ましく、アミノ基が無置換のモノアミノモノアルコール化合物であることがより好ましい。またアミノアルコールは、単座配位性のモノアミノモノアルコール化合物であることもまた好ましい。
【0056】
アミノアルコールの沸点は特に制限されないが、熱分解処理の反応温度よりも高いことが好ましく、具体的には沸点が、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。沸点の上限値は特に制限されないが、例えば、400℃以下であり、300℃以下であることが好ましい。
【0057】
更にアミノアルコールは、極性の観点から、SP値が11.0以上であることが好ましく、12.0以上であることがより好ましく、13.0以上であることが更に好ましい。アミノアルコールのSP値の上限値は、18.0以下であればよく、17.0以下が好ましい。
なお、本発明においてSP値は、Hildebrandの定義による溶解パラメータを用いるものとし、各化合物のSP値は適宜文献値を参照することができる。
【0058】
好ましいアミノアルコール具体例としては、2-アミノエタノール(沸点:170℃、SP値:14.54)、3-アミノ-1-プロパノール(沸点:187℃、SP値:13.45)、5-アミノ-1-ペンタノール(沸点:245℃、SP値:12.78)、DL-1-アミノ-2-プロパノール(沸点:160℃、SP値:12.74)、N-メチルジエタノールアミン(沸点:247℃、SP値:13.26)等が挙げられる。
【0059】
アミノアルコールの含有割合は、反応速度等の点から適宜調整すればよく、反応液中の金属イオンに対して1.5~10倍モルであることが好ましく、1.5~7倍モルであること画よりこのましい。アミノアルコールの含有割合が上記下限値以上であれば、金属カルボン酸塩の溶解性に優れて、反応性に優れている。一方、上記上限値以下であれば、被覆金属粒子への汚染が抑制される。
【0060】
(4)媒体
反応液を構成する媒体は、金属カルボン酸塩の金属の還元を阻害しないものの中から、適宜選択して用いることができる。当該媒体は、通常、有機溶媒である。媒体は、少なくともアミノアルコールと相溶性の低い主媒体を有し、必要に応じて、アミノアルコールと相溶可能な補助媒体を有していてもよい。
主媒体としては、中でも、使用するアミノアルコールのSP値と、当該主媒体のSP値の差(ΔSP値)が4.2以上であるものを選択することが好ましい。上記ΔSP値が4.2以上であると、形成される被覆金属粒子の粒度分布の幅がより狭い、粒子径の揃った被覆金属粒子が得られる。中でも、反応場の形成性と被覆金属粒子の品質の観点から、ΔSP値4.5以上が好ましく、5.0以上がより好ましい。ΔSP値の上限は特に限定されないが、11.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましい。
主媒体のSP値は、アミノアルコールよりも小さいことがより好ましい。主媒体のSP値は11.0以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましい。主媒体のSP値の下限は特に制限されないが、7.0以上であることが好ましい。
【0061】
また、主媒体の沸点は、熱分解処理の温度よりも高いことが好ましい。具体的に主媒体の沸点は120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。沸点の上限値は特に制限されないが、沸点は、通常400℃以下であり、300℃以下であることが好ましい。
さらに主媒体は、水と共沸混合物を形成可能な有機溶剤であることもまた好ましい。水と共沸混合物を形成可能であると、熱分解処理によって反応液中に生成した水を容易に反応系から除去することができる。
【0062】
このような好ましい主媒体としては、エチルシクロへキサン(沸点:132℃、SP値:8.18)、C9系シクロへキサン[丸善石油製、商品名:スワクリーン#150](沸点:149℃、SP値:7.99)、n-オクタン(沸点:125℃、SP値:7.54)等が挙げられる。媒体は、1種単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0063】
アミノアルコールと相溶可能な補助媒体としては、SP値が主媒体よりも大きいことが好ましく、アミノアルコールと相溶する程度に大きいことがより好ましい。また補助媒体の沸点は、前記主媒体と同様であることが好ましく、また、補助媒体は水と共沸混合物を形成可能な有機溶媒であることが好ましい。
このような好ましい補助媒体としては、EO(エチレンオキサイド)系グリコールエーテル、PO(プロピレンオキサイド)系グリコールエーテル、ジアルキルグリコールエーテルなどのグリコールエーテルを挙げることができる。より具体的には、メチルジグリコール、イソプロピルグリコール、ブチルグリコール等のEO系グリコールエーテル;メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、ブチルプロピレングリコール等のPO系グリコールエーテル、ジメチルジグリコール等のジアルキルグリコールエーテルなどが挙げられる。
【0064】
主媒体、及び、補助媒体は、各々独立に、1種単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
2種以上を併用して用いる場合、主媒体のSP値、補助媒体のSP値は、各々独立に、モル容積の加重平均値を用いるものとする。
【0065】
反応液に含まれる溶媒量は、金属カルボン酸塩の濃度が0.5~2.5モル/リットルとなるように調整することが好ましく、1.5~2.5モル/リットルとなるように調整することがより好ましい。反応液中の金属カルボン酸塩の濃度が1.0モル/リットル以上であると、生産性がより向上し、2.5モル/リットル以下であると、反応液の粘度の上昇が抑制され、良好な撹拌性が得られる。
【0066】
(5)錯化合物
反応液中に生成する錯化合物としては、金属イオンと、配位子としてカルボン酸及びアミノアルコールを含むことが好ましい。配位子としてアミノアルコールを含むことで、錯化合物の熱分解温度が低下する。例えば、ギ酸銅の熱分解温度は約220℃であるが、ギ酸銅がアミノアルコールとともに錯化合物を形成することで、その熱分解温度は110~120℃程度となる。
反応液中に生成した錯化合物は、熱分解処理によって還元された金属を生成する。熱分解処理の温度は、上述の通りアミノアルコールが配位した錯化合物の熱分解温度を考慮して適宜調整すればよい。熱分解処理の温度を低く設定することにより、脂肪族カルボン酸とアミノアルコールとの脱水反応による酸アミドの生成が抑制され、得られる被覆金属粒子の洗浄性が向上する傾向がある。
【0067】
錯化合物の熱分解処理により還元された金属が生成して成長し、得られた金属核粒子の表面に反応液中に存在する脂肪族カルボン酸等が吸着することで、脂肪族カルボン酸等で表面が被覆された被覆金属粒子が得られる。金属核粒子の表面への脂肪族カルボン酸の吸着は、物理吸着であることが好ましい。これにより被覆金属粒子の焼結性が向上する。錯化合物の熱分解処理において金属酸化物の生成を抑制することで、脂肪族カルボン酸の物理吸着が促進される。
【0068】
被覆金属粒子の製造方法において、生成する被覆金属粒子の粒度分布を制御する因子としては、例えば、脂肪族カルボン酸等の種類と添加量、金属カルボン酸塩の濃度及び媒体の比率(主溶剤/補助溶剤)等で決定される。被覆金属粒子の大きさを制御する因子は、金属核発生数を支配する昇温速度、すなわち反応系への投入熱量とミクロ反応場の大きさと関係する攪拌速度を適切に保つことで揃えることができる。
【0069】
<第2金属粒子>
本発明において第2金属粒子は、前記第1金属粒子よりも焼結開始温度が高いものの中から適宜選択すればよい。第2金属粒子は、後述する多孔質導電体において、焼結性を有する金属粒子となるものである。
第2金属粒子の材質や、好ましく用いられる被覆層などの構成は、前記第1金属粒子と同様のものとすることができるので、ここでの説明は省略する。以下、第1金属粒子と第2金属粒子の違いについて説明する。
【0070】
第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)と、前記第2金属粒子の焼結温度(Tp)との差(Tp-Ts)は、0より大きい値であり、第1金属粒子を選択的に焼結できる温度に制御可能であればよい。本発明においては、第1金属粒子を選択的に焼結しやすい点から、Tp-Tsが5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更により好ましい。
前記第2金属粒子の焼結温度(Tp)は、特に限定されないが、130℃以上400℃以下であることが好ましい。
【0071】
第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)と、前記第2金属粒子の焼結温度(Tp)との温度差は、金属粒子の材質や粒径、被覆層の厚みや有機化合物の種類などを適宜選択することにより調整できる。
一例として、第2金属粒子として、第1金属粒子の一次粒径よりも大きい一次粒径を有する金属粒子を用いることにより、Tp-Ts>0とすることができる。この場合、第1金属粒子の平均一次粒径(R)と第2金属粒子の平均一次粒径(R)との差(R-R)が20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることが更により好ましい。R-Rが20nm以上であることにより、第1金属粒子及び第2金属粒子がそれぞれ粒度分布を有する場合であっても、焼結開始温度に差を設けることができ、後述する多孔性の金属焼結体と、焼結性を有する金属粒子とを含む多孔質導電体の製造が可能となる。
【0072】
また、別の一例として、第1金属粒子及び第2金属粒子が、前記被覆金属粒子である場合には、第2金属粒子の被覆層を構成する脂肪族カルボン酸又は脂肪族アルデヒドの炭素原子数(C)が、第1金属粒子の被覆層を構成する脂肪族カルボン酸又は脂肪族アルデヒドの炭素原子数(C)より大きいことにより、Tp-Ts>0とすることができる。この場合、炭素原子数の差(C-C)が4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、6以上であることが更により好ましい。
【0073】
本発明において、第1金属粒子と第2金属粒子との配合割合は特に限定されないが、多孔質導電体としたときの機械強度と、素子等の接合性を両立する点から、質量比で、第1金属粒子:第2金属粒子が、1:99~99:1であることが好ましく、10:90~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20であることが更により好ましい。
【0074】
<溶媒>
本発明の導電性組成物は、通常、前記第1金属粒子及び前記第2金属粒子を分散する溶媒を含有する。
溶媒は、導電性組成物の印刷法などに応じて、公知の溶媒の中から適宜選択することができる。
例えば、導電性組成物がスクリーン印刷用やインクジェット印刷用の場合、溶媒として、炭化水素系溶媒;高級アルコール系溶媒;セロソルブ、セロソルブアセテート、カルビトール等、アルキレンオキサイドを有する溶媒;グリセリン;脂肪酸;脂肪族アルデヒド等を好適に用いることができる。なお本発明において溶媒は少なくとも25℃において液体である。
スクリーン印刷用の導電性組成物の固形分濃度は、例えば、40~95質量%とすることができる。また、インクジェット印刷用の導電性組成物の固形分濃度は、例えば、40~90質量%とすることができる。ここで導電性組成物の固形分とは、溶媒を除く各成分の総量を意味する。
【0075】
<他の成分>
導電性組成物は、必要に応じて更に他の成分を含有してもよい。他の成分としては例えば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤、ポリエステル系分散剤、ポリアクリル酸系分散剤等の分散剤、ポリメタクリル酸系増粘剤等の増粘剤等が挙げられる。
【0076】
また、本発明において導電性組成物は、更に金属粉を含有してもよい。当該金属粉は、前記金属核粒子よりも粒子径の大きい金属粉を用いることが好ましい。この場合、被覆金属粒子は、金属粉の焼結剤としての機能を有し、粒径の大きな金属粒子同士を焼結させるため、導電性が得られやすい。金属粉の粒径は特に限定されないが、通常、0.5μm超であり、1μm以上5μm以下であることが好ましい。
金属粉の材質は、前記金属核粒子で例示したものと同様のものとすることができる。金属粒子の材質は、前記金属核粒子と同一であってもよく、異なっていてもよい。
当該金属粉を用いる場合、導電性組成物中の金属核粒子と、金属粉との質量比(被覆金属粒子:金属粉)は用途等に応じて適宜選択すればよい。焼結性と導電性との点から、20:80~80:20が好ましく、30:70~70:30がより好ましく、40:60~60:40が更により好ましい。
【0077】
本発明の導電性組成物は、後述する多孔質導電体製造用の導電性組成物として好適に用いることができる。
【0078】
[第2の導電性組成物]
本発明の第2の実施形態に係る導電性組成物(第2の導電性組成物ということがある)は、金属粒子を含有する導電性組成物であって、
前記金属粒子が金属核粒子と、前記金属核粒子の表面に1nm当り、2.5~5.2分子の密度で配置された脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の分子とを含む被覆金属粒子であり、
前記金属粒子の焼結開始温度(Ts)が80℃以上200℃以下であり、
前記金属粒子の焼結温度(Tp)との差(Tp-Ts)が20℃以上である。
【0079】
上記第2の導電性組成物は、焼結温度と焼結開始温度との差(焼結温度幅ということがある)が20℃以上の比較的温度幅が広い金属粒子を含有するため、温度を制御することにより、金属粒子の一部はその状態を保ちながら、一部の金属粒子のみを焼結することができる。そのため、上記導電性組成物の塗膜を形成し、特定の温度で加熱をすれば、多孔性の焼結体と、焼結性を有する金属粒子を有するシート状の導電体を得ることができる。焼結しない金属粒子は、焼結した金属粒子の焼結体の孔内や表面に付着し、あるいは包接しているため、導電体からの脱離は抑制されている。そのため得られる多孔性導電体は取り扱い性に優れ、例えば剥離性基材上に形成した場合、基材を剥離して、焼結性を有する金属ペーストのシートとして用いることも可能となる。また、当該多孔性導電体は、焼結性を有しているため、基材と素子とを接合する用途に用いることができる。また、多孔性導電体はクッション性を有し、2段階目の焼結時に加圧することにより、得られる導電体の厚みを調整することができる。例えば1つの基材上に、高さの異なる素子を設ける場合に、圧力を調整することにより、素子同士の高さを揃えることも可能となる。
【0080】
第2の実施形態に係る導電性組成物は、少なくとも金属粒子を含有し、本発明の効果を損なわない範囲で更に他の成分を含有してもよいものである。以下このような第2の導電性組成物について説明するが、前記第1の実施形態に係る導電性組成物と共通するものについては、詳細な説明は省略する。
【0081】
<焼結開始温度及び焼結温度>
金属粒子の焼結開始温度(Ts)及び焼結温度(Tp)は、第1の実施形態と同様にDTA分析により測定することができる。
【0082】
<金属粒子>
本実施形態において金属粒子は、金属核粒子と、前記金属核粒子の表面に1nm当り、2.5~5.2分子の密度で配置された脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の分子とを含む被覆金属粒子であり、前記金属粒子の焼結開始温度(Ts)が80℃以上200℃以下であり、前記金属粒子の焼結温度幅(Tp-Ts)が20℃以上である。
【0083】
本実施形態の金属粒子の材質は、前記第1金属粒子と同様のものを適宜選択して用いることができる。中でも、焼結温度幅を大きくする点から、金、銀、銅、又はニッケル粒子であることが好ましい。金属粒子の被覆層は前記第1金属粒子と同様とすることができる。
金属粒子の焼結温度幅(Tw)は20℃以上であればよく、焼結を制御しやすい点から30℃以上200℃以下であることが好ましく、40℃以上180℃以下であることがより好ましい。焼結開始幅が20℃以上であれば、後述する多孔性の金属焼結体と、焼結性を有する金属粒子とを含む多孔質導電体の製造が可能となる。
【0084】
第2の導電性組成物に含まれうる他の成分は、前記第1の導電性組成物と同様のものが挙げられる。
【0085】
[多孔質導電体及びその製造方法]
本発明に係る多孔質導電体は、多孔性の金属焼結体と、焼結性を有する金属粒子とを含む。
上記多孔質導電体は、焼結性を有する金属粒子を有しながら、用途に応じて所望の成形体とすることができるため、取り扱い性に優れ、例えば剥離性基材上に形成した場合、基材を剥離して、焼結性を有する金属ペーストのシートとして用いることも可能である。また、当該多孔性導電体は焼結性を有しているため、基材と素子とを接合する用途に用いることができる。また、多孔性導電体はクッション性を有し、焼結性を有する金属粒子を焼結する2段階目の焼結時に加圧することにより、得られる導電体の厚みを調整することができる。
【0086】
上記本発明の多孔質導電体は、前記本発明に係る導電性組成物を用いて製造することができる。前記第1の導電性組成物の場合、前記第1金属粒子が多孔性の金属焼結体となり、前記第2金属粒子が焼結性を有する金属粒子となる。第1金属粒子と第2金属粒子は導電性組成物中で一様に分布しているため、得られる多孔質導電体は金属粒子が一様に分布する。
また、前記第2の導電性組成物の場合、金属粒子の一部が金属焼結体となり、残りの金属粒子が、焼結性を有する金属粒子となる。
【0087】
一例として、シート状の多孔質導電体は、基材上に前記本発明に係る導電性組成物の塗膜を形成し、前記第1の導電性組成物の場合、当該塗膜を前記第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)以上、前記第2金属粒子の焼結温度(Tp)未満で加熱することにより製造することができる。
また前記第2の導電性組成物の場合、当該塗膜を前記金属粒子の焼結開始温度(Ts)以上で、且つ、焼結温度幅(Tp-Ts)の範囲内の温度で加熱すればよい。
【0088】
基材の材質は、用途等に応じて適宜選択することができる。例えば、ポリイミド等の樹脂;ガラス;シリカ、アルミナ等のセラミックス;ステンレス、銅、チタン等の金属;シリコン等の半導体などが挙げられる。基材の形状は、特に限定されず、フィルム状や板状のものに限られるものではない。板状の基材を用いる場合はその厚みは特に限定されないが、例えば、0.01~5mmとすることができる。また、基材として剥離性基材を用いてもよい。この場合、得られた導電体を剥離性基材から剥がして使用することができる。
【0089】
導電性組成物を塗布方法は特に限定されず、公知の印刷方法の中から適宜選択して用いることができる。印刷方法としては、例えば、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンス法等が挙げられ、所望のパターン状に印刷してもよい。導電性組成物の塗膜の厚みは特に限定されず、導電体の用途等に応じて、例えば、熱処理後の厚みが1~100μmとなるようにすることができる。
【0090】
焼結時間は、特に限定されず、例えば1~120分間とすることができ、1~60分間であることが好ましい。
また、焼結時の雰囲気は、金属粒子の材質等に応じて適宜選択することができる。例えば、金属粒子として銀や金などの比較的酸化しにくい材質を用いる場合には、低酸素雰囲気下であっても大気中であってもよい。また、金属粒子として銅などの比較的酸化しやすい材質を用いる場合は、低酸素雰囲気であることが好ましい。低酸素雰囲気は、炉内の空気を、窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換することや、減圧することで得られる。
【0091】
<多孔質導電体の用途>
本発明の多孔質導電体は、この状態で導電体として使用することも可能である。一方、導電性及び機械強度に優れる点から、更に焼結性を有する金属粒子を焼結することが好ましい。
当該金属粒子の焼結は、当該金属粒子の焼結開始温度以上で行うこと以外は、前記と同様の焼結条件で焼結を行うことができる。
【0092】
また、当該金属粒子の焼結時に、多孔質導電体上に素子を配置し、当該素子から多孔質導電体へ加圧することにより、素子と得られる導電体との素子接合体を得ることができる。加圧時の圧力により、導電体の膜厚を所望に調整することができる。当該圧力の大きさは特に限定されないが、例えば、0.01MPa以上50MPa以下、好ましくは0.1MPa以上30MPa以下の範囲で任意に設定することができる。例えば、一つの基材に高さの異なる2個以上の素子を接合する場合、高いほうの素子に大きな圧力をかけることで、得られる素子接合体において、基材から素子の上端までの厚みを一定に揃えることも可能である。また、2個以上の同一の素子であっても、一括加圧する場合には、各素子にかかる圧力にばらつきが生じ、接合強度にばらつきが見られることがあったが、本発明の多孔質導電体は、クッション性を有するため、十分な圧力をかけることにより、各素子に圧力を均一化することができる。このように本発明の多孔質導電体は、2個以上の素子を一括加圧する場合にも好適に用いることができる。
【0093】
また、多孔性導電体の別の使用方法として、例えば、基材上に、前記本発明の多孔質導電体(1)を配置する工程と、
前記多孔質導電体(1)上に第1の層を配置する工程と、
前記第1の層上、又は、基材の第1の層とは反対側の面上に、前記本発明の多孔質導電体(2)を配置する工程と、
前記多孔質導電体(2)上に第2の層を配置する工程と、
前記各多孔質導電体を、加圧しながら、前記金属粒子の焼結開始温度以上の温度で加熱することにより、各層を同時に接合する工程と、を有する、積層体の製造方法が挙げられる。
当該積層体の製造方法において、例えば、前記第1の層と前記第2の層として、それぞれ所望の回路が形成された基板を用いることにより、多層基板を得ることができる。また、例えば、第1の層を、公知の金属板、金属箔、金属繊維、又はこれらの組み合わせとし、第2の層を半導体素子とすることで、例えば、電気伝導性、熱伝導性、応力緩和性、マイグレーション耐性等の物性を付与することができる。なお当該積層体は、更に第3以降の層を有していてもよい。
【0094】
また、多孔性導電体の別の使用方法として、半導体ウエハの一方の面に前記本発明にかかる多孔質導電体を備える、プリコートベアチップが挙げられる。当該プリコートベアチップは、焼結能力を有しているため、基材上の任意の位置に半導体ウエハを接合することができる。
【0095】
当該プリコートベアチップの製造方法は特に限定されないが、一例として、半導体ウエハ上に、前記本発明にかかる導電性組成物の塗膜を形成する工程と、前記塗膜を、前記第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)以上、前記第2金属粒子の焼結温度(Tp)未満で加熱する工程と、前記半導体ウエハを切断する工程(ダイシング工程)とを有する方法が挙げられる。本発明の多孔性導電体は、焼結性を有する金属粒子を残しながら、半導体ウエハへの密着性に優れているため、半導体ウエハに多孔性導電体を設けた後に、当該半導体ウエハをダイシングする場合であっても、膜強度を担保することができる。
【0096】
また本発明によれば、前記本発明に係る多孔質導電体、又は、当該多孔質導電体の焼結体を含む、電子デバイスを提供することができる。
【実施例
【0097】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0098】
<SEM画像観察>
測定装置:日本電子製FE-EPMA JXA-8500F
測定条件:加速電圧 15~20kV
観察倍率 ×1,500~×30,000
【0099】
<平均一次粒子径及び変動率の計算>
測定装置:日本電子製FE-EPMA JXA-8500F
平均一次粒子径:サンプル20点の平均値
変動率:サンプル20点の標準偏差/平均値で計算される値
【0100】
<焼結実験>
オーブン装置:丸祥電器SPM100-16V
焼成条件:100℃ 1h保持後、任意℃(150~300℃) 1h保持
雰囲気:不活性ガス(窒素)又は大気
【0101】
<TG-DTA測定>
(銅粒子測定条件)
METTLER TOREDO社製
測定温度:室温(25℃)~500℃
昇温条件:20℃/min
雰囲気:窒素又は大気
(銀粒子測定条件)
測定装置:リガク社製 TG8120
測定温度:25℃~500℃
昇温速度:10℃/min
測定雰囲気:窒素又は大気
【0102】
(製造例1)
被覆銀粒子Ag1の製造
スターラーバー、温度計、および還流冷却管を備えた300mLガラス製ナスフラスコを100℃のオイルバス内に設置した。
上記フラスコ内に、シュウ酸銀無水物30g(0.1モル)と、ウンデカン酸(関東化学社製)6g(0.3当量/シュウ酸銀無水物)と、媒体(補助媒体)としてのトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)10g(0.5当量/シュウ酸銀無水物)と、媒体(主媒体)としての石油系炭化水素(C9アルキルシクロヘキサン混合物)(ゴードー社製「スワクリーン150」)54g(4.3当量/シュウ酸銀無水物)とを仕込んだ。窒素雰囲気下、上記フラスコ内の内容物をオイルバスで加温しながら、液温度が50℃になるまで、攪拌しながら混合した。
上記混合物に対して、錯化剤として3-アミノ-1-プロパノール(東京化成社製)52g(7.0当量/シュウ酸銀無水物)をゆっくり滴下した。滴下終了後、フラスコの内容物をオイルバスで加温して、液温度が85℃付近になるまで、攪拌しながら混合し、さらにこの温度での加熱攪拌を続けた。滴下終了後から3時間後にオイルバスの過熱を停止して反応を終了し、反応液を室温まで自然冷却した。
室温まで冷却した上記反応液に対して、メタノール(関東化学社製)160gを添加し、混合した。得られた混合液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)80gと、アセトン(関東化学社製)80gとを添加し、混合した。得られた混合液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。これらの操作(メタノールおよびアセトンの添加とデカンテーション)をさらにもう一回繰り返した。
得られた沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)80gとイソ酪酸3-ヒドロキシー2,2,4―トリメチルペンチル1.7gとを添加し、混合した。これをナスフラスコに入れ、回転式エバポレータに設置し、内容物を減圧乾燥(真空乾燥)した。減圧乾燥(真空乾燥)後、室温まで自然冷却した後、ナスフラスコ内を窒素置換しながら減圧解除した。以上のようにして、18gの銀色の被覆銀粒子Ag1を得た。被覆銀粒子Ag1は脂肪族カルボン等の被覆密度が4.46分子/nm、焼結温度が182℃であった。
【0103】
(製造例2)
被覆銀粒子Ag2の製造
製造例において、ウンデカン酸をオレイン酸(関東化学社製)6g(0.2当量/シュウ酸銀無水物)に変更した以外は製造例と同様にして、18gの被覆銀粒子Ag2得た。被覆銀粒子Ag2は脂肪族カルボン等の被覆密度が4.08分子/nm、焼結温度が235℃であった。
【0106】
【表1】
【0108】
(実施例2)
一次粒径が約20nmの銀粒子と、一次粒径が約90nmの銀粒子と、平均一次粒径が約2μmの銀粉を含有する銀ペースト2(導電性組成物)を得た。得られた銀ペースト2を、開口部が9mm四方×厚みが0.05mmのメタルマスクを用いてガラス基材上に塗工し、次いで、大気条件下、150℃で60分間加熱した。加熱終了後、フィルム状の銀色多孔質導電体2が得られた。
得られた多孔質導電体2は、多孔性の金属焼結体と、焼結性を有する金属粒子を含んでいた。
当該多孔質導電体2をAu(金)メッキされた素子同士に挟み込み、大気雰囲気下、多孔質導電体2の厚み方向に5MPaの圧力をかけながら、250℃で10分間加熱焼結し、素子同士を接合し素子接合体を得た。
【0110】
(実施例4)
製造例1の被覆銀粒子Ag1を5.0g、粒子径が約1μmの銀粉を5.0g(三井金属社製、SL01)、イソ酪酸3-ヒドロキシー2,2,4―トリメチルペンチルを0.5g添加し混練して、銀色粘稠体の銀ペースト3(導電性組成物)を得た。
得られた銀ペースト3を、開口部が9mm四方×厚みが0.05mmのメタルマスクを用いてガラスプレート上に塗工し、次いで、大気条件下、150℃で60分間加熱した。加熱終了後、フィルム状の銀色多孔質導電体4が得られた。得られた多孔質導電体4は、多孔性の金属焼結体と、焼結性を有する金属粒子を含んでいた。
当該多孔質導電体4をAu(金)メッキされた素子同士に挟み込み、大気雰囲気下、多孔質導電体4の厚み方向に5MPaの圧力をかけながら、250℃で10分間加熱焼結し、素子同士を接合し素子接合体を得た。
【0112】
(参考例2)
前記実施例2の銀ペースト2を、開口部が9mm四方×厚みが0.05mmのメタルマスクを用いてガラスプレート上に塗工し、次いで、大気条件下、300℃で60分間加熱した。加熱終了後、フィルム状の銀色多孔質導電体6が得られた。得られた多孔質導電体6は焼結性を有する金属粒子を含んでいなかった。
当該多孔質導電体6をAu(金)メッキされた素子同士に挟み込み、大気雰囲気下、多孔質導電体6の厚み方向に5MPaの圧力をかけながら、250℃で10分間加熱焼結し、素子同士を接合し素子接合体を得た。
【0113】
<接合強度評価>
実施例2、4及び参考例で得られた素子接合体について、下記の測定条件によりダイシェアテストを行い、接合強度を評価した。結果を表2に示す。
(測定条件)
測定装置:ボンドテスター Conder Sigma(XYZTEC社製)
測定条件:シェア高さ10μm、シェア移動速度25μm/s
【0114】
(評価結果)
実施例1~2及び4で得られた素子接合体の接合強度は20MPa以上を示し良好な接合状態を発現できていることが分かった。一方、参考例で得られた接合品の接合強度は20MPa以下であった。
実施例1~2及び4に示されるように、第1金属粒子と、前記第1金属粒子よりも焼結開始温度が高い第2金属粒子とを含有する導電性組成物を前記第1金属粒子の焼結開始温度(Ts)以上、前記第2金属粒子の焼結温度(Tp)未満で加熱した多孔質導電体を用いることにより、優れた接合強度を有する素子接合体が得られた。
参考例1、2に示されるとおり、実施例1と同様の銀ペースト1および2を使用した場合であっても、Tp温度以上で加熱した場合には、良好な接合状態が得られなかった。
【0115】
【表2】
【0119】
(実施例6)
前記実施例2の銀ペースト2を12mm×16mmで厚みが0.25mmtのメタルマスクを用いてAMB基板上に塗工した。塗工されたAMB基板を真空条件下、100℃で20分間乾燥し、銀色の多孔質導電体が形成されたAMB基板を得た。その多孔質導電体形成AMB基板上に2.0mm四方で厚みが0.5mmのAuメッキされた素子を6個設置したものを、大気雰囲気下で厚み方向に10MPaの力をかけながら、250℃で10分間加熱焼結して、AMB基板と素子とを接合し、素子接合体を得た。
【0120】
(評価)
実施例6で得られた接合品に関して、6個の素子中、任意に選んだ4個の素子の接合強度を評価した。結果を表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】

表3に示されるように、6つの素子を一括加圧した場合であっても、各素子は十分な接合強度を有しており、各素子に対してほぼ均一な力で加圧接合が可能であることが明らかとなった。
図1
図2
図3