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  • 特許-インジェクタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】インジェクタ
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/04 20060101AFI20221220BHJP
   F02M 61/16 20060101ALI20221220BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F02M61/04 G
F02M61/16 G
F02M51/06 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018102499
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019206935
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 嵩之
(72)【発明者】
【氏名】村上 努
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-144693(JP,A)
【文献】特開平9-170515(JP,A)
【文献】実開平2-14876(JP,U)
【文献】特開2018-44494(JP,A)
【文献】特開昭56-44450(JP,A)
【文献】特公昭49-48891(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 51/00
F02M 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、
弁体と弁座シートからなる開閉弁と、
前記弁体のストローク方向に沿って配設されたコイルばねと、
前記弁体のストローク方向に対し直角且つ互いに所定の間隔を有して並設されており、気体燃料を通過させるための所定形状の開放部が形成された2枚の板ばねと、
前記弁座シートに対向する一端側に前記弁体を固定し、他端側にストッパラバーを固定しており、前記弁体とともに移動するように配置された可動鉄心と、
ロワープレートと、
前記可動鉄心と前記弁体との間に挟まれて配置される中空円柱状のインナーカラーと、
前記本体と前記ロワープレートとの間に挟まれて配置される中空円柱状のアウターカラーと、を備えた、ガスエンジンに気体燃料を供給する電磁駆動式の気体燃料用インジェクタにおいて、
前記コイルばねは前記弁体を閉弁方向に付勢し、
2枚前記板ばねは、前記インナーカラーおよび前記アウターカラーを挟んで配設されており、各前記板ばねの内周縁が前記インナーカラーによって固定され、各前記板ばねの外周縁が前記アウターカラーによって固定されており、
2枚の前記板ばねは、前記可動鉄心および前記弁体を浮遊状態である前記開閉弁の中間位置で支持するように、閉弁状態においては開弁方向に、開弁状態においては閉弁方向に前記弁体を付勢しており、
非通電時に前記コイルばねの荷重により前記弁体と前記弁座シートが密着した閉弁状態を維持することを特徴とする気体燃料用インジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンが要求する流量の燃料を噴射する電磁駆動式のインジェクタ、殊に、開閉弁(燃料調量バルブ)の弁体が弁ばねの弾性反発力により発生したばね荷重により弁座に押しつけられて閉弁時のシール性を確保する、常閉式のインジェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁コイルに通電して励磁させることにより可動鉄心を吸引して開閉弁を開弁させる電磁駆動式のインジェクタが用いられているが、開閉弁を作動させる電気信号は0.001~0.02秒程度の作動信号に設定されており、このようにきわめて短い作動時間の繰返しによって燃料を正確に制御する、という目的を達成させるために燃料噴射弁自身に高度の応答性が要求され、また近年はユーザーの高い品質へのニーズから非常に高い耐久性も要求されている。
【0003】
そして、インジェクタの弁体を閉弁のための弁ばねとして、固定鉄心と可動鉄心との間に装入したコイルばねを用いたものと、外側周縁部を固定して変位可能な中心に可動鉄心と弁体とを固着させた燃料通過可能な薄肉板状の板ばねを用いたものがあり、例えば実開昭61-105756号公報に提示されているように、天然ガス(CNG)などの気体燃料を噴射するインジェクタにおいては、液体燃料を噴射するインジェクタのように潤滑油が無いため、摺動部無しで浮遊状態に支持し直線動させることが可能な板ばねを用いた構造が耐久性及び応答性において有利であるとされている。
【0004】
ところが、前記板ばねにより弁体を付勢する構成のインジェクタにおいては、板ばねの弾性反発力によるばね荷重により閉弁時のシール性が確保されるが、板ばねを構成する素材の経年劣化等を原因として板ばねの弾性反発力の低下による伴うバネ荷重の減少により開閉弁のシール性が不充分な状態となり、閉弁時における燃料漏れの問題が生じやすくなる。
【0005】
そこで、前記弁体のストローク方向に沿ってコイルばねを設置して閉弁時に板ばねとコイルばねの2つのばねが協働することにより二重のばね荷重で閉弁状態を維持することにより弁ばねのばね荷重により弁体の閉弁状態を長期間にわたって確保できるようにしたインジェクタが特開2009-91998号公報に提示されている。
【0006】
また、一般的に気体燃料を噴射するインジェクタは、液体燃料と同じエンジン出力を得ようとすると、液体燃料より大きな燃料通過断面積を必要とするため、弁体の変位量が大きくなる。そのため板ばね構造を用いると板ばねにかかる応力の関係から必然的にインジェクタ本体が大型になってしまうが、特開2008-144693号公報に提示されているように弁体を浮遊状態である開閉弁の中間で支持し、戻しばねとしてコイルばねを用いることによって、板ばね構造の利点を損なわず大型化を防ぐことができることが知られている。
【0007】
しかしながら、前記従来の板ばね構造は、1枚のばね体により構成されていることから弁体を中央部の1点のみで支えていることになり様々な外乱によって作動が不安定になる傾向があり、開閉弁時に可動鉄心に備えたストッパラバーまたは弁体に備えたバルブラバーへ局所的な力が加わってしまうことになると前記ストッパラバーまたはバルブラバーが偏摩耗し、それに伴って弁体の変位量が増加、板ばねにかかる応力が大きくなるため、インジェクタの機能が損なわれてしまう、という事態が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開昭61-105756号公報
【文献】特開2009-91998号公報
【文献】特開2008-144693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、弁体が変位する時の傾きを物理的に抑制し、また作動を安定化して前記ストッパラバーまたはバルブラバーなどの偏摩耗を阻止して弁体の変位量の増加を解消して板ばねにかかる応力を減少して弁体の応答性を損なうことなく閉弁時のシール性を長期間に亘って確保できるようにする常閉式のインジェクタを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明である気体燃料用インジェクタは、本体と、弁体と弁座シートからなる開閉弁と、前記弁体のストローク方向に沿って配設されたコイルばねと、前記弁体のストローク方向に対し直角且つ互いに所定の間隔を有して並設されており、気体燃料を通過させるための所定形状の開放部が形成された2枚の板ばねと、前記弁座シートに対向する一端側に前記弁体を固定し、他端側にストッパラバーを固定しており、前記弁体とともに移動するように配置された可動鉄心と、ロワープレートと、前記可動鉄心と前記弁体との間に挟まれて配置される中空円柱状のインナーカラーと、前記本体と前記ロワープレートとの間に挟まれて配置される中空円柱状のアウターカラーと、を備えた、ガスエンジンに気体燃料を供給する電磁駆動式の気体燃料用インジェクタにおいて、
前記コイルばねは前記弁体を閉弁方向に付勢し、2枚前記板ばねは、前記インナーカラーおよび前記アウターカラーを挟んで配設されており、各前記板ばねの内周縁が前記インナーカラーによって固定され、各前記板ばねの外周縁が前記アウターカラーによって固定されており、2枚の前記板ばねは、前記可動鉄心および前記弁体を浮遊状態である前記開閉弁の中間位置で支持するように、閉弁状態においては開弁方向に、開弁状態においては閉弁方向に前記弁体を付勢しており、非通電時に前記コイルばねの荷重により前記弁体と前記弁座シートが密着した閉弁状態を維持することを特徴とする。
【0011】
また、本発明において、前記複数の板ばねが、前記弁体のストローク方向に沿って互いに所定の間隔を有して配置されていることにより、各板ばねに生じる弁体の開閉時に係る応力を確実に且つ均等に分散させて減少させることができる。
【0012】
更に、本発明において、前記複数の板ばねが2枚である場合には少ない部品で且つ簡単な構成で効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、弁体が変位する時の傾きを物理的に抑制し、また作動を安定化して前記ストッパラバーまたはバルブラバーなどの偏摩耗を阻止して弁体の変位量の増加を解消して板ばねにかかる応力を減少して損傷を防止して弁体の応答性を損なうことなく閉弁時のシール性を長期間に亘って確保できる常閉式のインジェクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明における実施の形態におけるインジェクタの閉弁状態を示す縦断面部分図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の好ましい実施の形態を実施するためのガスエンジンに燃料を供給する電磁駆動式のインジェクタ1の弁体21と弁座シート22からなる開閉弁2を中心とした縦断面部分の概略を示すものであり、インジェクタ1は、電磁コイル3およびロワープレート4、可動鉄心5を備え、可動鉄心5の下側(下流側)には先端にバルブラバー211を備えた弁体21が配置されており、可動鉄心5と弁体21が弁ストローク方向に対し直角に配置された一対の薄板円盤状の板ばね6,6により浮遊状態で支持されている。
【0017】
そして、各板ばね6は、燃料を通過させるための所定形状の開放部を備えて周縁部がノズル91を形成する本体9側に固定され、上側(上流側)に可動鉄心5を支持し下側(下流側)に弁体21を支持しながら、中央部が弾性変形で上下に往復変位するようになっており、コイルばね7の荷重によって下方向に押し付けられ弁体21のバルブラバー211が弁座シート22のシール面221に密着し閉弁状態となる。
【0018】
尚、本実施の形態では前記板ばね6,6は、前記可動鉄心5と弁体21との間に挟まれて配置される中空円柱状のインナーカラー8に内周縁が固定されるとともに、本体9とロワープレート4との間に挟まれて配置される中空円柱状のアウターカラー10に外周縁が固定されることにより本体9と可動鉄心5に連動する弁体21間に架設されることにより支持されて互いに所定の間隔を有して弁ストローク方向に直角に並設されている。
【0019】
また、弁体21の上方には従来例と同様にコイルばね7が弁ストローク方向に沿って設けられ、開閉弁2の弁体21を閉弁方向に付勢するように上下に圧縮状態とされて配設されている。
【0020】
尚、図面中、符号51は可動鉄心5の上流側に配置されて、開弁時に可動鉄心5(弁体21)が上昇したときに可動鉄心5が固定鉄心11の底部へ衝突する際の衝撃を吸収するために備えられているストッパラバーである。
【0021】
以上の構成を有する本実施の形態は、従来のこの種のインジェクタと同様に、電磁コイル3に通電して励磁させることにより可動鉄心5を吸引して前記コイルばね7と板ばね6,6の付勢力に抗して開閉弁2を開放するものであるが、本実施の形態では、弁体21が複数(2枚)の且つ所定の間隔を有して配置した板ばね6,6により支持されている。
【0022】
従って、前記従来の弁体を中央部の1点のみで支える1枚の板ばねを用いた板ばね構造と異なり、所定の間隔を有して配置された2枚の板ばね6,6により支えられるので様々な外乱によって作動が不安定になることもなく、開閉弁時に前記バルブラバー211(またはストッパラバー51)が偏摩耗することもなく、弁体21の変位量が増加、板ばね6,6にかかる応力が大きくなることもないことから、インジェクタ1の機能が損なわれてしまう、という事態が生じることがない。
【0023】
殊に、本実施の形態では板ばね6,6がそれらの内周縁61と外周縁62をインナーカラー8とアウターカラー10を介して所定位置に固着されていることから板ばね6,6が弁ストローク方向に沿って直角に且つ互いに所定の間隔を有してそれぞれ所定位置に確実に支持されることになり、ばね作動が確実で且つ組み立て時にも簡単で且つ迅速に製造することができる。
【0024】
尚、本実施の形態では、部品点数の削減や構成の簡易化から2枚の板ばね6,6を用いたが、板ばねは複数枚であれば良く、採用するインジェクタ1の容量、更には板ばね6,6の材質や厚みなどにより適宜、選択して使用する。
【符号の説明】
【0025】
1 インジェクタ、2 開閉弁、3 電磁コイル、4 ロワープレート、5 可動鉄心、6 板ばね、7 コイルばね、8 インナーカラー、9 本体、10 アウターカラー、11 固定鉄心、21 弁体、22 弁座シート、51 ストッパラバー、61 内周縁、62 外周縁、91 ノズル、211 バルブラバー、221 シール面
図1