(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】浴室用防水パンの排水構造
(51)【国際特許分類】
E03C 1/20 20060101AFI20221220BHJP
E03C 1/28 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
E03C1/20 E
E03C1/20 A
E03C1/28 A
(21)【出願番号】P 2018214538
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2017222208
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501362906
【氏名又は名称】積水ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】宮下 卓也
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-129674(JP,A)
【文献】特開2015-068057(JP,A)
【文献】実開昭63-091569(JP,U)
【文献】米国特許第08918926(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12-1/33
A47K 3/02-4/00
E04H 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体層と、この発泡体層の上面を覆う表皮層と、を備えた浴室用防水パンの排水構造において、
上記浴室用防水パンの排水口の周縁部に形成された環状の支持鍔部と、上記支持鍔部の下面に沿う環状の受部を有する排水トラップと、上記支持鍔部の上面に沿う環状のフランジ部を有する締付フランジと、上記排水トラップと上記締付フランジとを連結する連結手段を備え、
上記排水トラップと上記締付フランジの連結状態において、上記受部と上記フランジ部が上記支持鍔部を挟持することにより、上記排水トラップが上記浴室用防水パンに支持されており、
上記表皮層は上記排水口において、上記支持鍔部の上面を覆う上面部と、この上面部から垂下して上記支持鍔部の内周面を覆う筒形状の垂下部を有することを特徴する浴室用防水パンの排水構造。
【請求項2】
上記排水トラップは上記排水口に入り込む第1筒部を有し、上記第1筒部の外周に上記受部が形成され、上記第1筒部の内周に上記連結手段の第1係合部が形成されており、
上記締付フランジは、上記排水トラップの上記第1筒部に入り込む第2筒部を有し、上記第2筒部の上端に上記フランジ部が径方向外側に突出して形成され、上記第2筒部の
外周に上記連結手段の第2係合部が形成され、
上記締付フランジの締め付け方向の回動に伴い、上記第1係合部と上記第2係合部の係合により、上記フランジ部が上記受部に近づくようになっており、
少なくとも上記フランジ部と上記支持鍔部との間には環状のパッキンが介在されていることを特徴とする請求項1に記載の浴室用防水パンの排水構造。
【請求項3】
上記第1係合部が、周方向に等間隔をおいて配置されるとともにそれぞれ螺旋を描くガイド突起からなり、上記第2係合部が、周方向に等間隔をおいて配置され上記ガイド突起に案内される係合突起からなることを特徴とする請求項2に記載の浴室用防水パンの排水構造。
【請求項4】
上記第1係合部が雌ネジからなり、上記第2係合部が雄ネジからなることを特徴とする請求項2に記載の浴室用防水パンの排水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室用防水パンの排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で断熱性を有する浴室用防水パンとして、発泡体層を備えた浴室用防水パンが種々開発されている。発泡体層は水密性および表面硬度に難があるため、発泡体層には表皮層を積層することも考案されている。
【0003】
特許文献1に開示された浴槽側防水パン(浴室用防水パン)は、浴槽を載せる底部材と、この底部材の周縁の立ち上がり部に連結された側壁部材とを有している。底部材と側壁部材は、熱可塑性樹脂からなる発泡体層を備えている。底部材の発泡体層の上面全域には、熱可塑性樹脂からなる表皮層が積層されている。
【0004】
特許文献1の浴槽側防水パンの底部材には、浴槽からの排水管を通す排水口が形成されており、底部材の下面には、排水管からの排水を受ける排水トラップが取り付けられている。しかし、特許文献1には、排水トラップを床部材の発泡体層に取り付ける構造が明示されていない。
【0005】
FRP製の浴室用防水パンでは、排水口の周縁部が支持鍔部として提供されており、締付フランジを用いて排水トラップを浴室用防水パンに取り付けている。詳述すると、排水トラップは排水口に入り込む第1筒部と、この第1筒部の外周に形成され上記支持鍔部の下面に沿う環状の受部を有している。締付フランジは、排水トラップの第1筒部に入り込んで第1筒部と螺合する第2筒部と、この第2筒部の上端から径方向外側に突出して上記支持鍔部の上面に沿う環状のフランジ部とを有している。
上記締付フランジを締め付け方向に回し、排水トラップの受部と締付フランジのフランジ部とで上記支持鍔部を挟持することにより、排水トラップを浴室用防水パンに取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したFRP製の浴室用防水パンの排水構造によれば排水トラップを安定して支持することができるが、この排水構造を、特許文献1に開示された発泡体層を有する浴室用防水パンにそのまま適用することはできない。発泡体層の上面に表皮層が積層された支持鍔部は、上下方向の剛性が弱く、支持鍔部を排水トラップの受部と締付フランジのフランジ部とで挟んだ状態で、排水トラップを安定して支持することができないからである。
【0008】
上記排水構造を特許文献1の浴室用防水パンに適用するためには、発泡体層の発泡倍率を低下させて支持鍔部の剛性を高める必要があるが、そうすると重量の増大およびコスト高を招く。また、浴室用防水パンの排水口に支持鍔部の役割を担う射出成形品を後付けで固定することも考えられるが、コスト高を招く。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、発泡体層と、この発泡体層の上面を覆う表皮層と、を備えた浴室用防水パンの排水構造において、
上記浴室用防水パンの排水口の周縁部に形成された環状の支持鍔部と、上記支持鍔部の下面に沿う環状の受部を有する排水トラップと、上記支持鍔部の上面に沿う環状のフランジ部を有する締付フランジと、上記排水トラップと上記締付フランジとを連結する連結手段を備え、
上記排水トラップと上記締付フランジの連結状態において、上記受部と上記フランジ部が上記支持鍔部を挟持することにより、上記排水トラップが上記浴室用防水パンに支持されており、
上記表皮層は上記排水口において、上記支持鍔部の上面を覆う上面部と、この上面部から垂下して上記支持鍔部の内周面を覆う筒形状の垂下部を有することを特徴する。
【0010】
上記構成によれば、排水口において表皮層の垂下部により支持鍔部の剛性、特に上下方向の剛性を高めることができるので、発泡倍率を下げたり別個に射出成形品を用いたりすることなく、低コストで排水トラップを安定して支持することができる。
【0011】
好ましくは、上記排水トラップは上記排水口に入り込む第1筒部を有し、上記第1筒部の外周に上記受部が形成され、上記第1筒部の内周に上記連結手段の第1係合部が形成されており、上記締付フランジは、上記排水トラップの上記第1筒部に入り込む第2筒部を有し、上記第2筒部の上端に上記フランジ部が径方向外側に突出して形成され、上記第2筒部の外周に上記連結手段の第2係合部が形成され、上記締付フランジの締め付け方向の回動に伴い、上記第1係合部と上記第2係合部の係合により、上記フランジ部が上記受部に近づくようになっており、少なくとも上記フランジ部と上記支持鍔部との間には環状のパッキンが介在されている。
【0012】
連結手段の一態様では、上記第1係合部が、周方向に等間隔をおいて配置されるとともにそれぞれ螺旋を描くガイド突起からなり、上記第2係合部が、周方向に等間隔をおいて配置され上記ガイド突起に案内される係合突起からなる。
連結手段の他の態様では、上記第1係合部が雌ネジからなり、上記第2係合部が雄ネジからなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発泡体層の発泡倍率を低下させず、別個に射出成形品を必要とせずに、排水口の支持鍔部の剛性を高めることができ、これにより、浴室用防水パンを軽量に維持し製造コストを上げずに、排水トラップを安定して支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る浴槽側防水パンの平面図である。
【
図3】上記浴槽側防水パンの排水構造を示す拡大断面図である。
【
図4】上記排水構造において締付フランジを排水トラップに係合する直前の状態を示す
図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
浴室ユニットが納められる建物内の空間の床スラブもしくは浴室ユニット用基礎には、
図1、
図2に示すように、浴槽側防水パン1(浴室用防水パン)と洗い場側防水パン2(浴室用防水パン)が隣接して設置されている。浴槽側防水パン1には浴槽3が設置されている。本実施形態では、浴槽側防水パン1に本発明が適用されている。
【0016】
浴槽側防水パン1は、架台4に載せられて支持されている。架台4は、浴槽側防水パン1の長方形の長辺と平行なフレーム4aと、このフレーム4aに一端が連結されるとともに長方形の短辺と平行な2本のフレーム4bを有している。フレーム4aの両端部および中央部と、フレーム4bの中央部には、床スラブに載る支持脚4cが固定されている。
【0017】
浴槽側防水パン1は平面長方形をなし、底部11とその周縁部に全周にわたって形成された立ち上がり部12a,12bとを有している。
底部11には、浴槽3の脚部を載せるための低い凸部11aが形成されている。底部11には洗い場側防水パン2寄りに排水口15が形成されている。排水口15の周縁部は他の部位より薄肉をなし、後述する環状の支持鍔部16として提供されている。
【0018】
浴槽側防水パン1において、長方形の一方の長辺に対応する立ち上がり部12aは、洗い場側防水パン2に接続され、他方の長辺および2つの短辺に対応する立ち上がり部12bは、浴室を画成する壁パネル5を支持するようになっている。
【0019】
図3に示すように、浴槽側防水パン1は、熱可塑性樹脂製の発泡体層10aとこの発泡体層10aの上面に積層された熱可塑性樹脂製の表皮層10bにより構成されている。本実施形態では、最初にポリスチレン(PS)、HIPS、ABS等のスチレン系樹脂シートを真空成形することにより、上述した浴槽側防水パン1の上面形状に対応した表皮層10bを得る。なお、表皮層10bの厚さは、例えば1~4mm、好ましくは1~3mm、より好ましくは1~2mmである。
その後で、発泡金型内に表皮層10bをセットし、ビーズ発泡成形により発泡ポリスチレン(EPS)製の発泡体層10aを得る。この発泡成形の過程で、発泡体層10aと表皮層10bが熱溶着されるので、両者を貼り合わせる工程を省くことができる。なお、これら発泡体層10aと表皮層10bを接着剤により貼り合わせてもよい。
【0020】
表皮層10bは底部11の上面、立ち上がり部12a、12bの内側面および上面を覆っている。
図3、
図4に示すように、表皮層10bは排水口15において、支持鍔部16の上面を覆うとともに、支持鍔部16の内周を覆っている。以下、表皮層10bにおいて、支持鍔部16の上面を覆う部位を上面部10xと称し、支持鍔部16の内周を覆う部位を垂下部10yと称す。垂下部10yは円筒形状をなし上面部10xと略直角をなして連なっている。この表皮層10bの垂下部10yにより、支持鍔部16は発泡体層10aと表皮層10bの上面部10xで構成する場合に比べて剛性、特に上下方向の剛性を格段に高めることができる。
【0021】
図3、
図4に示すように、浴槽側防水パン1の排水構造8は、上述した浴槽側防水パン1の支持鍔部16と、それぞれ樹脂の射出成形品からなる浴槽側排水トラップ20、共通排水トラップ30、締付フランジ40とを備えている。
【0022】
排水トラップ20は、排水口15に入り込む筒部21(第1筒部)と、筒部21の下端に連なる底部22と、筒部21の中間高さの外周に形成された環状の受部23と、この受部23から洗い場側に延びた延出部24とを有している。受部23は支持鍔部16の下面に沿う。
【0023】
上記受部23の上面には環状の低い隆起部25が形成されており、この隆起部25と筒部21との間に形成された浅い溝には、シール材(図示しない)が充填されるようになっている。
【0024】
排水トラップ20の底部22には、中央に主排水口22aが形成され、その横にスリット形状の複数の副排水口22bが形成されている。排水口22aには、浴槽3の底部に接続された排水管(図示しない)の先端が挿入される。
【0025】
上記排水トラップ20と、洗い場側防水パン2の排水構造の排水トラップ2a(一部のみ示す)の下側には、共通排水トラップ30が取り付けられている。
共通排水トラップ30は、排水管を経て主排水口22aから排出された浴槽3の湯水を受け止め、浴槽側防水パン1の底部11から排水口22bを経て排出された湯水を受け止め、洗い場側防水パン2の排水トラップ2aを経て排出された洗い場側の湯水を受け止める。この共通排水トラップ30で受け止められた排水は1つの出口部から他の排水管へと排出される。
【0026】
締付フランジ40は、上記排水トラップ20の筒部21の内側に入り込む筒部41(第2筒部)と、この筒部41の上端から径方向外側に突出する環状のフランジ部42とを有している。筒部41の外周にはフランジ部42に隣接してOリング51を支持する支持溝41aが形成されている。また、フランジ部42の外周縁には環状のパッキン52を支持する支持溝42aが形成されている。
【0027】
排水トラップ20と締付フランジ40は、バヨネット式ロック構造R(連結手段)により互いに連結されるようになっている。すなわち、排水トラップ20の筒部21の内周には、螺旋を描き底部近傍まで延びる複数(4つ)のガイド突起29(第1係合部)が等間隔をなして形成されている。他方、締付フランジ40の筒部41の下端外周には等間隔をおいて複数(本実施形態では4つ)の係合突起49(第2係合部)が形成されている。
【0028】
図4に示すように締付フランジ40を下降させ、その筒部41を排水トラップ20の筒部21に挿入した状態で、締め付け方向に回すことにより、係合突起49がガイド突起29に案内され、締付フランジ40が下方に移動する。やがて、パッキン52が浴槽側防水パン1の支持鍔部16の上面に当たり、排水トラップ20の環状の受部23が支持鍔部16の下面に当たる。
【0029】
さらに締付フランジ40を回し、その回動角度が略90°に達すると、係合突起49がガイド突起29の下端に達し、排水トラップ20と締付フランジ40の連結が完了する。この連結状態では、パッキン52が弾性変形して支持鍔部16の上面を押圧しており、排水トラップ20の受部23と締付フランジ40のフランジ部42が、浴槽側防水パン1の支持鍔部16を、パッキン52の弾性力で挟持する。このようにして、排水トラップ20が浴槽側防水パン1に取り付けられる。
【0030】
支持鍔部16は表皮層10bの垂下部10yにより補強されており、剛性、特に上下方向の剛性を高められているので、受部23と上記フランジ部42の挟持により、排水トラップ20を安定して支持することができる。
【0031】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の形態を採用することが可能である。
連結手段は、排水トラップ20の筒部21の内周に形成された雌ネジと、締付フランジの筒部41の外周に形成された雄ネジにより構成してもよい。この構造は、
図3、
図4において、ガイド突起29を雌ネジに置換し、係合突起を雄ネジに置換することにより、容易に想到し得るので、図示を省略する。排水口15、排水トラップ20および締め付けフランジ40は円形状以外であってもよい。表皮層10bは排水口15の縁の裏面にも設けられてよい。
図示のパッキン52の代わりに断面コ字形をなす環状のパッキンを用いてもよい。このパッキンは支持鍔部16の上面と下面と内周面を覆うようにして配置される。
上記実施形態では浴槽側防水パンに本発明を適用したが、洗い場側防水パンに本発明を適用してもよい。
本願における浴室は、シャワーのみが可能な浴室(シャワー室)をも含む。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、浴室用防水パンの排水構造に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 浴槽側防水パン(浴室用防水パン)
8 排水構造
10a 発泡体層
10b 表皮層
10x 上面部
10y 垂下部
15 排水口
16 支持鍔部
20 排水トラップ
21 筒部(第1筒部)
23 受部
29 ガイド突起(第1係合部)
40 締付フランジ
41 筒部(第2筒部)
42 フランジ部
49 係合突起(第2係合部)
52 パッキン
R バヨネット式ロック構造(連結手段)