(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ケイ皮酸エステル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20221220BHJP
C07C 69/732 20060101ALI20221220BHJP
C07C 69/734 20060101ALI20221220BHJP
C07C 69/73 20060101ALI20221220BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/732 Z
C07C69/734 Z
C07C69/73
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019525566
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2018022904
(87)【国際公開番号】W WO2018230702
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2017118111
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】北川 尚美
(72)【発明者】
【氏名】廣森 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】三輪 祐典
【審査官】大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104262156(CN,A)
【文献】特開2003-334441(JP,A)
【文献】特開2008-044859(JP,A)
【文献】Riyong Huaxuepin Kexue,2008年,Vol.31, No.12,P.38-41,全文、特に要約、1.3、
図1b、表1-4
【文献】Hebei Daxue Xuebao, Ziran Kexueban,1992年,Vol.12, No.1,P.76-80,全文、特に要約、3.4、表1、
図1
【文献】Advanced Materials Research,2012年,Vols.554-556,P.772-777,全文、特に要約、第773頁第11-22行、表1
【文献】Fuel,2015年,Vol.139,P.11-17,全文、特に要約、2.1、2.2、3.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基あるいはアルコキシ基、または水酸基を表す。)
で示されるケイ皮酸誘導体化合物と一般式(2)
R
6OH (2)
(式中、R
6は、炭素原子数1~12のアルキル基、少なくとも1個の水酸基を有し、分岐していてもよい炭素原子数2~20のアルキレン基を表す。前記アルキル基及びアルキレン基はフェニル基で置換されていてもよい。)
で示されるアルコール化合物との混合物を均一相状態で、強酸性樹脂触媒の存在下、溶媒を用いずに反応させる
ケイ皮酸エステル誘導体の製造方法であって、前記混合物中、前記ケイ皮酸誘導体化合物と前記アルコールとのモル比が1:30~1:1000であることを特徴とするケイ皮酸エステル誘導体の製造方法(ただし、一般式(1)において、R
2がメトキシ基であり、R
3が水酸基を表す化合物と一般式(2)において、R
6がメチル基及びエチル基を表す化合物との反応は除く。)。
【請求項2】
前記ケイ皮酸誘導体化合物が、ケイ皮酸、フェルラ酸、またはカフェ酸である請求項1に記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記アルコール化合物が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、グリセロール、フェネチルアルコール、または単糖類である請求項1または2に記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記ケイ皮酸誘導体化合物がカフェ酸であり、アルコールがフェネチルアルコールである請求項1~3のいずれかに記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記強酸性樹脂触媒が、水膨潤型の多孔性強酸性樹脂を前処理でアルコール膨潤状態として使用する樹脂触媒である請求項1~4のいずれかに記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項6】
回分式で反応を行い、強酸性樹脂触媒を繰り返し使用する請求項1~
5のいずれかに記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記強酸性樹脂触媒を充填したカラムに、ケイ皮酸誘導体化合物とアルコール化合物の混合物を均一相状態で通し、所定の温度で連続的に反応させる請求項1~
5のいずれかに記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケイ皮酸エステル化合物の製造方法に関する。さらに詳しく言えば、ケイ皮酸類とアルコール類とから酸性固体触媒を用い無溶媒系で、抗がん剤や紫外線吸収剤など医薬用途に有用なケイ皮酸エステル化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ皮酸類は植物に広く存在する芳香族不飽和カルボン酸である。そのアルコール類とのエステル体であるケイ皮酸エステルは、ケイ皮酸やアルコールの種類によって、様々な薬理活性を示す。
【0003】
例えば、次式(3)
【化1】
で示される化学構造において、R
7がメトキシ基、R
8が水酸基を表すフェルラ酸のエチルエステル体は、アルツハイマーなどの神経変性疾患の治療に効果があり(非特許文献1)、R
7及びR
8が水素原子を表すケイ皮酸のメチルエステルは、紫外線吸収剤や抗酸化剤としての効果が期待されている(特許文献1及び非特許文献2)。
【0004】
また、R
7及びR
8が水酸基を表すカフェ酸と2-フェニルエタノール(フェネチルアルコール)が結合した次式(4)
【化2】
で示されるカフェ酸フェネチルは、高い抗ガン作用を有し医薬品や食品への応用が期待されている(非特許文献3)。
【0005】
現在、このような薬理活性を持つエステル体は、プロポリスなどの天然物中から抽出されたものが利用されている。しかし、天然物中のエステル含有量が低く(アルコール抽出液中の含有量0.1%)分離が困難であること(非特許文献4)、エステルを含む天然物自体が希少であることなどから非常に高価となっている。
近年、リグノセルロース系バイオマスの分解物中にケイ皮酸類が抽出液中の15~30倍の濃度で含有していることに着目し、リグニン分解物を原料として安価に合成する手法が提案され、リグニン分解物中のケイ皮酸類とアルコール類とのエステル化によって、ケイ皮酸エステルを合成する方法が検討されている(非特許文献5~7)。
【0006】
これまで、エステル化触媒としては均相触媒(非特許文献2、8)、リパーゼ酵素(非特許文献9)などが検討されている。グルンベルガー(Grunberger)らは、p-トルエンスルホン酸を触媒として、カフェ酸とフェネチルアルコールのエステル化を行い、60℃、反応時間96時間で収率40%と報告している(非特許文献8)。また、リー(Lee)らは、反応速度や収率を高めるため、塩化チオニルを用いることでカフェ酸の求電子性を高めジオキサン中でフェネチルアルコールとのエステル化を行い、100℃、反応時間2時間で収率86%と報告している(非特許文献2)。しかし、塩化チオニルのような毒性の高い化合物を用いるため生成物を食品や化粧品に用いる際に、これらを除去するためのクロマト分離が必要となり、コスト負荷が大きくなるという問題がある。
【0007】
一方、シャー(Schar)らは、温和な条件で反応が進行するリパーゼ酵素を触媒として、ヘキサン中でフェルラ酸とエタノールのエステル化を行い、61℃、反応時間72時間で収率76%と報告している(非特許文献9)。ただし、リパーゼ酵素は、反応速度が遅く数日間という長い反応時間が必要であること、酵素の安定性が低く、反応物であるケイ皮酸類自体による活性低下や、用いる溶媒による活性低下が生じやすいことなどの問題があり、そのため、活性や安定性の高い酵素の探索や、酵素の活性低下を生じにくく反応物の溶解性の高い溶媒の探索が行われているのが現状である。
【0008】
本発明者らは、固体触媒である多孔性の強酸性樹脂が溶媒なしの50℃という温和な条件で脂肪酸エステル合成の高い活性を発現すること、活性低下なしに触媒の再利用が可能であることを報告している(非特許文献10)。したがって、ケイ皮酸類とアルコール類からのエステル合成にも適用できる可能性がある。
【0009】
なお、本発明に関連する先行文献として、フェルラ酸と各種アルコールとの反応について、特許文献2には、カチオン交換樹脂触媒を用い芳香族有機溶媒中で反応させる方法が、また特許文献3にはエステラーゼ触媒を用いて水性溶媒中で反応させる方法が開示されている。
【0010】
さらに、種々の多孔性酸性樹脂触媒を用いたフェルラ酸とエタノールとの反応の報告(非特許文献11)、及びフェルラ酸とメタノールとの反応の報告(非特許文献12)がある。非特許文献11では、最適条件下(多孔性樹脂触媒3.9g、フェルラ酸0.04モル、エタノール20ml、還流温度6時間)で収率89.7%が達成され、非特許文献12では、最適条件下(触媒樹脂:フェルラ酸(質量比、以下同じ)=12:100、メタノール:フェルラ酸7:1、還流温度7時間)で収率82.6%が得られる旨の記載があるが、メタノール及びエタノール以外のアルコール用いた報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平5-246949号公報
【文献】特開平9-40613号公報
【文献】特開2009-89689号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Biochim.Biophys.Acta.,1822,748-752(2012)
【文献】Cancer Lett.,153,51-56(2000)
【文献】Nature,411,375-379(2001)
【文献】Molecules,20,9242-9262(2015)
【文献】J.Food Eng.,78,1298-1304(2007)
【文献】Anal.Chim.Acta,552,207-217(2005)
【文献】Agri.Food Chem.,63,4327-4334(2015)
【文献】Experiantia,44,230-232(1988)
【文献】J.Mol.Catal B:Enzym.,118,29-35(2015)
【文献】Fuel.,139,11-17(2015)
【文献】China Brewing.,213,12(2009)
【文献】China Surfactant Detergent&Cosmetics.,40,3(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の課題は、分離の容易な固体触媒として酸性樹脂を用い無溶媒系で種々のケイ皮酸誘導体化合物とアルコール化合物とから、有用な薬理活性を有するケイ皮酸エステル誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、固体触媒である酸性樹脂を用い無溶媒系で種々のケイ皮誘導体化合物とアルコール化合物とから高収率でエステルが合成可能であることを確認し本発明を完成した。本発明によれば、公知技術では分子量が大きいために多段階での合成が必要であったエステル体についても一段階で安価に製造することができる。
【0015】
本発明は以下のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法に関する。
[1] 一般式(1)
【化3】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基あるいはアルコキシ基、または水酸基を表す。)
で示されるケイ皮酸誘導体化合物と一般式(2)
【化4】
(式中、R
6は、炭素原子数1~12のアルキル基、少なくとも1個の水酸基を有し、分岐していてもよい炭素原子数2~20のアルキレン基を表す。前記アルキル基及びアルキレン基はフェニル基で置換されていてもよい。)
で示されるアルコール化合物を強酸性樹脂触媒の存在下、溶媒を用いずに反応させることを特徴とするケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
[2] 前記ケイ皮酸誘導体化合物が、ケイ皮酸、フェルラ酸、またはカフェ酸である前項1に記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
[3] 前記アルコール化合物が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、グリセロール、フェネチルアルコール、または単糖類である前項1または2に記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
[4] 前記ケイ皮酸誘導体化合物がカフェ酸であり、アルコールがフェネチルアルコールである前項1~3のいずれかに記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
[5] 前記強酸性樹脂触媒が、水膨潤型の多孔性強酸性樹脂を前処理でアルコール膨潤状態として使用する樹脂触媒である前項1~4のいずれかに記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
[6] 前記ケイ皮酸誘導体化合物と前記アルコールとのモル比が、1:1~1:1000である前項1~5のいずれかに記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
[7] 回分式で反応を行い、強酸性樹脂触媒を繰り返し使用する前項1~6のいずれかに記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
[8] 前記強酸性樹脂触媒を充填したカラムに、ケイ皮酸誘導体化合物とアルコール化合物の混合物を通し、所定の温度で連続的に反応させる前項1~6のいずれかに記載のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
公知技術のエステル合成法としては、上記の均相触媒やリパーゼ酵素などが挙げられる。しかし、均相触媒を用いる場合は反応速度が速いものの、触媒の再利用ができない、生成物を食品や化粧品に用いる際に、毒性の高い触媒を除去するためのクロマト分離が必要などの問題がある。また、リパーゼ酵素を用いる場合は、酵素を固定化することで触媒の再利用が可能であるものの、反応速度が遅く数日間という長い反応時間が必要であること、酵素の安定性が低く、反応物自体であるケイ皮酸類やアルコール類による活性低下や、難溶性であるケイ皮酸類を溶解させるための溶媒による活性低下が生じやすいため、活性や安定性の高い酵素の探索や、酵素の活性低下を生じにくく、反応物の溶解性の高い溶媒の選択が必要である。
本発明によれば、固体触媒である酸性樹脂を用いることで、無溶媒系で種々のケイ皮酸エステル誘導体とアルコール化合物からのエステル合成が可能である。また、公知技術では、分子量が大きいために多段階での合成が必要であったエステル体に関しても、本発明の方法によれば一段階で合成が可能となり、医薬用途などに有用なエステル体の安価な合成が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のケイ皮酸エステル誘導体を製造する製造装置(連続フロー型)の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のケイ皮酸エステル誘導体の製造方法は、一般式(1)
【化5】
(式中、R
1~R
5は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基あるいはアルコキシ基、または水酸基を表す。)で示されるケイ皮酸誘導体化合物と一般式(2)
【化6】
(式中、R
6は、炭素原子数1~12のアルキル基、少なくとも1個の水酸基を有し、分岐していてもよい炭素原子数2~20のアルキレン基を表す。前記アルキル基及びアルキレン基はフェニル基で置換されていてよい。)
で示されるアルコール化合物を強酸性樹脂触媒の存在下、溶媒を用いずに反応させることを特徴とする。
【0019】
一般式(1)で表されるケイ皮酸誘導体化合物のうち、ケイ皮酸は融点133℃の粉末であり、フェルラ酸は融点170℃の粉末であり、カフェ酸は融点211~213℃の粉末であるので、溶媒を用いずに反応させるためには、反応させるアルコール化合物の種類やその投入量、反応温度の調整で均相状態になる反応条件を選択して適用する。なお、前記一般式(1)のケイ皮酸誘導体化合物と前記一般式(2)のアルコール化合物とのエステル化反応を阻害しない溶媒を適時用いてもよい。前記反応混合物以外に他の溶媒を用いる場合は、エステル化反応後に溶媒を除去する必要があり、生産性、コストダウンの点で、他の溶媒を用いない系が好ましい。
【0020】
前記ケイ皮酸誘導体化合物のうち、好ましくはケイ皮酸、フェルラ酸、カフェ酸、p-クマル酸またはシナピン酸を好適に用いることができる。中でも、ケイ皮酸、フェルラ酸、カフェ酸が特に好ましい。
また、前記アルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、グリセロール、フェネチルアルコール、または単糖類を好適に用いることができる。
【0021】
本発明では、固体触媒として公知の多孔性強酸性イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂、または強酸性イオン交換樹脂と記載することがある。)が用いられる。陽イオン交換樹脂は、不溶性担体として樹脂骨格が種々の化学構造を有するものを使用できる。具体的には、例えば、ジビニルベンゼン等で架橋されたポリスチレン、及びポリアクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、フェノール樹脂等の合成高分子や、セルロース等の天然に生産される多糖類の架橋体等が挙げられる。中でも合成高分子が好ましく、架橋ポリスチレンが更に好ましい。架橋の程度(度合)はモノマー全量に対するジビニルベンゼンの使用量で左右され、例えば、1~30質量%の範囲から選択される。その際、架橋度が低いほど分子サイズの大きな反応物が内部に拡散しやすくなるが、官能基濃度が小さくなるため、エステル化反応の高い触媒活性を発現するには最適値が存在する。
【0022】
本発明では、用いる樹脂の種類は特に限定されないが、例えばダイヤイオンPKシリーズ(三菱化学社製)、ダイヤイオンSKシリーズ(同前)、RCP160M(同前)、アンバーライトシリーズ(ダウケミカル社製)及びアンバーリストシリーズ(同前)等を挙げることができる。これらは、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体の骨格を持ち、交換基がスルホン酸基であり、PK208LH、PK212LH、PK216LHがポーラス型、SK104Hがゲル型、RCP160Mがハイポーラス型の構造を持つ。ゲル型は、粒子内部が均一な架橋高分子である。ポーラス型は、ゲル型樹脂に物理的な穴(細孔)をあけた構造を持つ樹脂である。ハイポーラス型は、架橋度が高く、ポーラス型よりも比表面積や細孔容積が大きい構造を持つ樹脂である。
強酸性陽イオン交換樹脂としてはスルホン酸基型以外にカルボキシル基を有する樹脂も適用できる。
【0023】
多孔性強酸性樹脂触媒は、樹脂の官能基がいずれの樹脂も工場出荷時に触媒活性を示すH+型(≧99mol%)であるが水膨潤状態にあるため、前処理として反応物であるアルコール膨潤状態とする処理を行うことが好ましい。この前処理は、本発明者らが提案している手法(Fuel.,139,11-17(2015))に従い、内径11mmのガラスカラム(Kiriyame Glass Work Co.,Tokyo,ILC-C-11)に樹脂を充填し、洗出液の含水率が5質量%未満となるまで、2.5cm3/分でアルコールを通液して行うことができる。
【0024】
前記ケイ皮酸誘導体化合物に対する前記アルコール類のモル比は、1:1より大きく、反応温度において均一相に調整できる比であればよい。例えば、ケイ皮酸誘導体化合物と前記アルコール類のモル比は、反応比及び生産コストの点を鑑み、1:1~1:1000、好ましくは1:1~1:200、さらに好ましくは1:1~1:100で用いることができる。
反応温度おいて均一相に調整できないアルコール類を使用した場合は、ケイ皮酸類が析出し樹脂の孔を覆ってしまい、触媒活性点への反応物の接触が制限され、反応効率の低下を招いてしまう。また、連続フローの通液ができず、生産性の点から好ましくない。
【0025】
多孔性強酸性樹脂触媒は、エステル化合成反応と樹脂再生処理の操作を繰り返して用いることができる。すなわち、樹脂の再利用が図れる。例えば、エステル化実験後の樹脂を吸引ろ過により回収し、購入時の前処理と同様に、樹脂をカラムに充填して、反応物であるメタノールを通液することで樹脂を洗浄し再生することができる。これにより、樹脂内部あるいは樹脂表面に残存する反応物や生成物を取り除くことができる。
【0026】
[多孔性強酸性樹脂触媒を充填した連続フロー型エステル化反応]
本発明では、前記一般式(1)で示されるケイ皮酸誘導体化合物と前記一般式(2)で示されるアルコール化合物とのエステル化反応を、多孔性強酸性樹脂触媒を充填した連続フロー型触媒相にフローさせて行うことができる。連続フロー型エステル化反応のプロセスを実施する装置例の概要を
図1に示す。図中、1はアルコールタンク、2は膨潤化用ポンプ、3はエステル化カラム、4は原料(ケイ皮酸誘導体化合物)タンク、5は原料供給用ポンプ、6は製品タンク、7はアルコール除去器である。
【0027】
多孔性強酸性樹脂触媒を充填した連続フロー型カラム(塔)に、ケイ皮酸誘導体化合物とアルコール化合物の均一混合物を所定の温度で通液することで、反応操作を簡易かつ迅速に実施することができる。なお、本明細書では、このフロー式を連続フローと記載する場合がある。反応混合物の樹脂層への通液速度は、例えば、樹脂1リットル当たり、0.1~100ml/分程度が好ましい。この通液速度が樹脂1リットル当たり、0.1ml/分未満である場合、エステル化率は向上するが、生産性の低下を招く。また、通液速度が樹脂1リットル当たり、100ml/分を超える場合は、反応混合物と触媒との反応が抑制され、反応後のエステル体の収率の低下を招くおそれがある。
本連続フロー型カラム(塔)を用いたケイ皮酸エステル誘導体の製造方法では、反応混合物以外に他の溶媒を用いないで、反応させるアルコール化合物の種類及びその投入量、反応温度を調整することにより、反応混合物を均相状態にして反応させる。本発明では、エステル化反応を阻害しない溶媒を適時カラム移動相として用いてもよい。
【0028】
本発明のエステル化反応では、反応物と強酸性樹脂触媒との接触は、バッチ法(回分系)及び連続フロー法(流通系)で行うことができる。装置の形態としては、処理槽を設けたもの、循環系や向流系で樹脂移送するものなどが挙げられる。接触方法としては、流通(イオン交換樹脂の充填層に通液する方法)、撹拌(撹拌槽を用いる方法)、流動(流動層反応器)、振とう(振とう型反応器)などが挙げられる。供給原料の導入口、生成物質の回収口が一定のカラム通液型、展開床(エクスパンデッドベッドカラム)、回分型などを用いることもできる。
【0029】
[種々の樹脂を用いた回分式エステル化反応]
本発明では、固体触媒として前記公知の多孔性強酸性イオン交換樹脂が用いられる。
ケイ皮酸誘導体化合物として、フェルラ酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.,Osaka,≧95%)を用い、アルコール類としてメタノール(Wako PureChemical Industries, Ltd.,1st grade)を用いた実験について説明する。溶媒を用いない本実験は、フェルラ酸(粉末)をメタノールに溶解し、均一相となる、例えば50℃の反応温度で行った。
【0030】
実験装置(図示せず)は、一般的なガラス反応器、振盪機、恒温槽からなる。反応溶液は、フェルラ酸:メタノールのモル比を1:20となるように調整した。この反応溶液20gをガラス反応器に入れ、恒温槽(Yamato Scientific Ltd.,shaking bath, BW400, immersion constant-temperature unit, BF200)中で、反応温度50℃となるように予熱し、その後同様に予熱したアルコール膨潤状態の樹脂を反応系全体の33質量%となるように投入し、150spm(strokes per minute)で振盪した。また、比較のため、一般的な均一相触媒として硫酸を用いた実験も同様に行った。硫酸濃度は、触媒活性基濃度が基準となるPK208LHと揃え、2.2質量%とした。
【0031】
前記多孔性強酸性イオン交換樹脂を触媒とする反応では、バルク液相中に存在する反応物が樹脂内に取り込まれた後、生成物に変換される。そのため、反応物や生成物が樹脂内に残存している可能性がある。そこで、物質収支を確認するために、反応後の樹脂内に含まれる成分を樹脂外に溶出させる洗浄操作を行った。この操作は、エステル化実験後の樹脂5gを吸引ろ過で回収した後、反応物であるアルコール50cm3を加え、室温で6時間、150spmで振盪して行い、樹脂内に残存する生成物あるいは反応物をバルク液相側に溶出させた。操作は、バルク液相中に反応物あるいは生成物が検出されなくなるまで行った。各実験で所定時間ごとに反応液0.05g程度を採取して、メタノールで適切に希釈したものをサンプルとし、反応物と生成物の濃度を、UV検出器を備えたHPLCシステム(Waters Corp.,Milford,MA,USA)を用いて測定した。
【0032】
[樹脂の再利用実験]
本発明では、エステル合成と樹脂再生の操作を繰り返し行うことにより樹脂の再利用が可能である。例えば、回分式エステル化実験後の樹脂を吸引ろ過により回収し、前処理と同様に、樹脂をカラムに充填して、反応物であるメタノールを通液することで樹脂を洗浄し再生できる。これにより、樹脂内部あるいは表面に残存する反応物や生成物を取り除くことができる。
【0033】
各実験では、エステル化の転化率は、次式(1)を用いて算出できる。
[数1]
式中、C
FA,0は初期フェルラ酸濃度、C
FA,tは反応時間tでのフェルラ酸濃度である。
【0034】
[異なる薬理活性を持つエステルの合成実験]
ケイ皮酸誘導体化合物として、カフェ酸(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,1stgrade)、ケイ皮酸(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,specialgrade)を用い、アルコール類として、メタノール、エタノール(Nihon Alcohol Hanbai Co.,Ltd.,Tokyo,99%)、フェネチルアルコール(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,specialgrade)を用いて、上記と同様に溶媒を使用せず反応物同士が溶解する均一相の条件でエステルの合成実験を行った。
【実施例】
【0035】
以下、参考例及び実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。なお、以下の実施例においては特に断わりがない限り、当業者に公知の一般的な方法に従った。
【0036】
参考例1:回分式(バッチ法)エステル化反応
固体触媒である樹脂として、三菱化学株式会社製のPK208LHを用いた。本系では、溶媒を用いない条件とするため、反応温度を50℃に設定し、ケイ皮酸類(1)とアルコール類(2)を溶解して均一相とした。 ここで、ケイ皮酸類としてフェルラ酸を、アルコール類(2)としてメタノール(MeOH)を用い、ケイ皮酸類(1):アルコール類(2)を1:20(モル比)で混合した。なお、樹脂は、触媒活性を示すH+型(≧99モル%)であるが、工場出荷時にエステル化の反応副生物である水で膨潤状態にあるため、反応物であるアルコールで膨潤化させた後、実験に使用した。膨潤化は、内径 11mmのガラス製カラムに樹脂を充填し、洗出液の含水率が10質量%未満となるまで、2.5cm/分でアルコール類(2)を通液することで行った。
本実験(回分式)は、あらかじめ反応温度を50℃となるように予熱して、均一に溶解させた反応溶液20gをガラス反応器に入れ、同様に予熱しておいたアルコール膨潤状態の樹脂を反応系全体の33質量%となるように投入し、撹拌速度150spmで振盪した。反応中、所定時間毎に反応液から少量を採取し、メタノールで適切に希釈しHPLC(Waters Corp.,Milford,MA,USA)システムで反応の収率を追跡し決定した。反応時間12時間で収率100%(転化率100%)であった。
【0037】
参考例2:
アルコール類(2)としてエタノール(EtOH)を用い、反応時間を76時間にした以外は参考例1と同様にして、反応を追跡したところ、収率100%(転化率100%)であった。
【0038】
実施例1:
アルコール類(2)として多価アルコールであるエチレングリコールを用い、ケイ皮酸類(1):アルコール類(2)を1:30(モル比)、反応時間を96時間とした以外は実施例1と同様にして、反応を追跡したところ、収率94%であった。
【0039】
実施例2:
ケイ皮酸類(1)としてフェルラ酸を用い、アルコール類(2)として2-エチルヘキサノールを用い、ケイ皮酸類(1):アルコール類(2)を1:55(モル比)、反応時間を120時間とした以外は実施例1と同様にして反応を追跡したところ収率100%(転化率100%)であった。
【0040】
実施例3:
ケイ皮酸類(1)としてカフェ酸を用い、ケイ皮酸類(1):メタノール(2)を1:50(モル比)、反応時間を24時間とした以外は実施例1と同様にして、反応を追跡したところ、収率100%(転化率100%)であった。
【0041】
実施例4:
ケイ皮酸類(1)としてカフェ酸を用い、アルコール類(2)としてエタノール(EtOH)を用い、ケイ皮酸類(1):アルコール類(2)を1:50(モル比)、反応時間を48時間とした以外は実施例1と同様にして、反応を追跡したところ、収率100%(転化率100%)であった。
【0042】
実施例5:
ケイ皮酸類(1)としてカフェ酸を用い、アルコール類(2)としてフェネチルアルコールを用い、ケイ皮酸類(1):アルコール類(2)を1:80(モル比)、反応時間を120時間とした以外は実施例1と同様にして、反応を追跡したところ、収率100%(転化率100%)であった。
【0044】
参考例1~2及び実施例1~
5の結果をまとめて表1に示す。
【表1】
【0045】
表1に示すように、ケイ皮酸類(1)とアルコール類(2)を種々の反応条件で実施させた実施例1~5のいずれの場合においても、転化率は、ほぼ100%であり、可逆反応であるエステル化を完全に進行させることができた。
【符号の説明】
【0046】
1 アルコールタンク
2 膨潤化用ポンプ
3 エステル化カラム
4 原料タンク
5 原料(ケイ皮酸誘導体化合物)供給用ポンプ
6 製品タンク
7 アルコール除去器