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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】透明材料加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/57 20140101AFI20221220BHJP
   B23K 26/55 20140101ALI20221220BHJP
【FI】
B23K26/57
B23K26/55
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019563963
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2018047072
(87)【国際公開番号】W WO2019135362
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018000508
(32)【優先日】2018-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【弁理士】
【氏名又は名称】深石 賢治
(72)【発明者】
【氏名】花田 修賢
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-097513(JP,A)
【文献】国際公開第2013/132819(WO,A1)
【文献】特表2010-515233(JP,A)
【文献】特開2007-245460(JP,A)
【文献】米国特許第6672552(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱に応じて硬化する透明材料を加工する透明材料加工方法であって、
硬化前の透明材料を配置する配置工程と、
前記配置工程において配置された前記硬化前の透明材料にレーザー光を照射して、当該硬化前の透明材料にキャビテーションバブルを発生させるレーザー光照射工程と、
前記レーザー光照射工程においてキャビテーションバブルが発生した硬化前の透明材料に対して硬化処理を行う硬化処理工程と、
を含む透明材料加工方法。
【請求項2】
前記配置工程において、前記硬化前の透明材料をレーザー光吸収体に接触させて配置し、
前記レーザー光照射工程において、前記配置工程において配置されたレーザー光吸収体に対して、前記硬化前の透明材料を介してレーザー光を照射して、当該硬化前の透明材料にキャビテーションバブルを発生させる、請求項1に記載の透明材料加工方法。
【請求項3】
前記レーザー光吸収体は、金属であり、
前記硬化処理工程において硬化処理が行われた透明材料の、前記キャビテーションバブルの発生の際に削り取られたレーザー光吸収体が付着した部分に対してメッキ処理を行うメッキ処理工程を更に含む請求項2に記載の透明材料加工方法。
【請求項4】
前記レーザー光照射工程において、前記レーザー光吸収体に対して、レーザー光を集光して照射する請求項2又は3に記載の透明材料加工方法。
【請求項5】
前記配置工程において、前記レーザー光照射工程において前記硬化前の透明材料に照射されるレーザー光の出射位置から当該硬化前の透明材料にかけて、固体及び液体の少なくとも何れかから構成される透明な物質を配置する請求項1~4の何れか一項に記載の透明材料加工方法。
【請求項6】
前記レーザー光照射工程において、前記配置工程において配置された前記硬化前の透明材料にレーザー光を照射して、当該硬化前の透明材料に、線状に連続したキャビテーションバブルを発生させる請求項1~5の何れか一項に記載の透明材料加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱に応じて硬化する透明材料を加工する透明材料加工方法及び透明材料加工装置、並びに透明材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリジメチルシロキサン(PDMS)に代表される熱硬化性透明材料は、高い透過性、化学的安定性、軽量かつ安価である等の優れた諸特性を有する。そのため、電子・電気等の工業分野における基板としての利用はもちろんのこと、バイオ及び医療分野でも、バイオチップ及び医療デバイスの材料として近年利用がされている。現在、これらの材料の微細加工技術には、鋳型を用いたモールディング又はフォトリソグラフィが主に用いられている。また、レーザーを用いた微細加工技術は、レーザー光を走査するだけで任意形状の微細加工を実現することができる。汎用レーザーを用いた透明材料の微細加工技術には、LIPAA法(例えば、特許文献1参照)及びLIBWE法(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-079245号公報
【文献】特開2009-136912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来の各技術には、以下のような問題がある。モールディングの場合、鋳型を作製し、射出成形等により微細加工を実現する。しかし、任意の加工形状を作成するには、新たに鋳型を作製する必要があり、生産性及びコストの面で問題がある。フォトリソグラフィは、微細加工を可能にするが光照射、エッチング、スパッタ等の工程を繰り返し行う多重ステップであり、深溝加工が困難である等の問題がある。深溝加工の場合、数十μmオーダーが限界であり、それ以上になると更なる多重ステップに繋がる。よって、モールディング及びフォトリソグラフィでは、ラピッドプロトタイピングが困難である。
【0005】
レーザーを用いた方法であるLIPAA法及びLIBWE法は、加工効率(速度)が低い。また、LIPAA法は、溝加工に関しては数μmオーダーの溝加工が限界であり、深溝加工の場合には複数のステップを要する等の問題点がある。
【0006】
本発明の一実施形態は、上記に鑑みてなされたものであり、材料の加工を簡易かつ高効率で行うことができる透明材料加工方法及び透明材料加工装置、並びに透明材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る透明材料加工方法は、熱に応じて硬化する透明材料を加工する透明材料加工方法であって、硬化前の透明材料を配置する配置工程と、配置工程において配置された硬化前の透明材料にレーザー光を照射して、当該硬化前の透明材料にキャビテーションバブルを発生させるレーザー光照射工程と、レーザー光照射工程においてキャビテーションバブルが発生した硬化前の透明材料に対して硬化処理を行う硬化処理工程と、を含む。
【0008】
本発明の一実施形態に係る透明材料加工方法では、レーザー光を照射することで、硬化前の透明材料に発生するキャビテーションバブルにより透明材料の加工が行われる。このため、本発明の一実施形態に係る透明材料加工方法によれば、材料の加工を簡易かつ高効率で行うことができる。
【0009】
配置工程において、硬化前の透明材料をレーザー光吸収体に接触させて配置し、レーザー光照射工程において、配置工程において配置されたレーザー光吸収体に対して、硬化前の透明材料を介してレーザー光を照射して、当該硬化前の透明材料にキャビテーションバブルを発生させることとしてもよい。この構成によれば、透明材料の加工部分にレーザー光吸収体が付着し、透明材料の加工部分に対するメッキ処理等を容易に行うことができる。
【0010】
レーザー光吸収体は、金属であり、透明材料加工方法は、硬化処理工程において硬化処理が行われた透明材料の、キャビテーションバブルの発生の際に削り取られたレーザー光吸収体が付着した部分に対してメッキ処理を行うメッキ処理工程を更に含むこととしてもよい。この構成によれば、透明材料における金属配線の形成等を簡易かつ高効率で行うことができる。
【0011】
レーザー光照射工程において、レーザー光吸収体に対して、レーザー光を集光して照射することとしてもよい。この構成によれば、レーザーの照射をより適切に行うことができ、キャビテーションバブルをより適切に発生させることができる。これにより、材料の加工をより適切に行うことができる。
【0012】
配置工程において、レーザー光照射工程において硬化前の透明材料に照射されるレーザー光の出射位置から当該硬化前の透明材料にかけて、固体及び液体の少なくとも何れかから構成される透明な物質を配置することとしてもよい。この構成によれば、照射されるレーザー光の経路における屈折率の変動を抑えることができる。これによって、適切に硬化前の透明材料にレーザー光を照射することができ、その結果、適切な材料の加工を行うことができる。
【0013】
レーザー光照射工程において、配置工程において配置された硬化前の透明材料にレーザー光を照射して、当該硬化前の透明材料に、線状に連続したキャビテーションバブルを発生させることとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態では、レーザー光を照射することで、硬化前の透明材料に発生するキャビテーションバブルにより透明材料の加工が行われる。このため、本発明の一実施形態によれば、材料の加工を簡易かつ高効率で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る透明材料加工方法に用いられる加工装置を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る透明材料加工方法を示すフローチャートである。
図3】熱硬化性透明材料及びレーザー光吸収体の配置、及びレーザー光の走査を模式的に示す図である。
図4】キャビテーションバブルの発生を模式的に示す図である。
図5】本発明の実施形態で加工された溝を示す図である。
図6】本発明の実施形態で加工された溝を示す図である。
図7】本発明の実施形態で加工された溝及びメッキを示す図である。
図8】本発明の実施形態で加工された溝を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面と共に本発明に係る透明材料加工方法、透明材料加工装置及び透明材料の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0019】
本実施形態に係る透明材料加工方法は、熱に応じて硬化する透明材料、例えば、熱硬化性透明材料を加工する方法である。加工対象となる熱硬化性透明材料としては、PDMS(シリコーン)、エポキシ、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、メラミン及びユリア等の熱硬化性透明樹脂がある。
【0020】
本実施形態に係る加工は、例えば、熱硬化性透明材料の表面に数~数十μm程度の幅の微細な溝を設けるものである。本実施形態に係る加工は、溝以外にも熱硬化性透明材料の表面に微細な窪みを設けるものであってもよい。また、本実施形態に係る加工は、設けられた溝に金属配線として用いることができる金属薄膜を形成するものであってもよい。
【0021】
図1に本実施形態に係る透明材料加工方法の実行に用いる加工装置1を示す。即ち、加工装置1は、上記の透明材料を加工する本実施形態に係る透明材料加工装置である。図1に示すように、加工装置1は、容器10と、レーザー光源20と、集光レンズ30と、自動ステージ40とを備えて構成される。
【0022】
容器10は、加工時に加工対象の熱硬化性透明材料100と加工に用いられるレーザー光吸収体200とを収容する容器である。容器10は、例えば、透明なものが用いられる。加工対象の熱硬化性透明材料100は、容器10に入れられた際の形状となるため、容器10の形状は、それに応じたものとされる。
【0023】
図1に示すように、容器10の下側にレーザー光吸収体200が入れられる。レーザー光吸収体200としては、金属板(例えば、銅板)が用いられる。但し、レーザー光吸収体200として金属以外のものが用いられてもよい。容器10のレーザー光吸収体200の上に、熱硬化前の熱硬化性透明材料100、即ち、液状の熱硬化性透明材料100が入れられる。容器10の内部では、板状のレーザー光吸収体200の一方の面上に熱硬化前の熱硬化性透明材料100が乗っている状態、即ち、熱硬化性透明材料100がレーザー光吸収体200に接触している状態となる。熱硬化性透明材料100のレーザー光吸収体200に接触している部分が、加工される部分となる。
【0024】
レーザー光源20は、熱硬化性透明材料100の加工に用いられるレーザー光300を出射する装置である。レーザー光源20によって出力されるレーザー光300の波長は、熱硬化前の熱硬化性透明材料100に対して透明な波長(熱硬化前の熱硬化性透明材料100を透過する波長)である。即ち、熱硬化性透明材料100は、熱硬化前にレーザー光300の波長に対して透明であればよい。レーザー光源20としては、従来のYAGレーザー等の汎用レーザーの光源等を用いることができる。
【0025】
集光レンズ30は、レーザー光源20から出射されたレーザー光300を集光して出射するレンズである。集光レンズ30から出射されるレーザー光300は、熱硬化性透明材料100を介してレーザー光吸収体200に照射される。その際、レーザー光吸収体200の位置(表面)が、レーザー光300の焦点位置とされる。このようにレーザー光300がレーザー光吸収体200に照射されるように、レーザー光源20及び集光レンズ30は、位置決めされて配置される。また、レーザー光源20及び集光レンズ30以外の光学系が配置されていてもよい。集光レンズ30としては、従来の対物レンズとして用いられているレンズを用いることができる。例えば、集光レンズ30として、倍率が20倍、NA(開口数)が0.35の対物レンズを用いることができる。レーザー光源20及び集光レンズ30は、容器10に収容された熱硬化前の透明材料にレーザー光300を照射するレーザー光照射装置を構成する。なお、レーザー光照射装置は、上記以外の構成を取ることとしてもよい。
【0026】
自動ステージ40は、レーザー光300の照射位置、即ち、熱硬化性透明材料100の加工位置を位置決めできるステージである。自動ステージ40には、容器10が載せられる。自動ステージ40としては、従来のXYZ軸の全軸方向に駆動する自動ステージを用いることができる。自動ステージ40は、容器10に収容された熱硬化前の透明材料における、レーザー光源20及び集光レンズ30によってレーザー光300が照射される位置が移動するように、容器10を移動させる移動手段である。なお、レーザー光300の照射位置の位置決めは、自動ステージ40、即ち、容器10が移動するのではなく、レーザー光300の出射位置が移動して行われてもよい。また、それらの両方が移動されてもよい。即ち、上記の移動手段は、容器10に収容された熱硬化前の透明材料における、レーザー光照射装置によってレーザー光が照射される位置が移動するように、容器10及びレーザー光照射装置の少なくとも何れか一方を移動させるものであればよい。以上が、本実施形態に係る透明材料加工方法の実行に用いる加工装置1である。
【0027】
引き続いて、図2のフローチャートを用いて、本実施形態に係る透明材料加工方法を説明する。まず、容器10内に熱硬化前の熱硬化性透明材料100及びレーザー光吸収体200が配置される(S01、配置工程)。当該配置は、例えば、作業者によって行われる。この際、図1に示すように、熱硬化性透明材料100はレーザー光吸収体200に接触させて配置される。例えば、図3の上側の図に示すようにレーザー光吸収体200が配置された容器10内に、熱硬化前の熱硬化性透明材料100が流し込まれることで当該配置が行われる。
【0028】
続いて、レーザー光源20から出射されて集光レンズ30によって集光されたレーザー光300が、熱硬化性透明材料100を介してレーザー光吸収体200に対して照射される(S02、レーザー光照射工程)。レーザー光300のレーザー光吸収体200に対する照射によって、照射位置の熱硬化性透明材料100にキャビテーションバブルが発生する。レーザー光吸収体200の照射位置は、自動ステージ40によって移動される。即ち、レーザー光300は、レーザー光吸収体200上を走査する(移動する)。レーザー光300の走査は、熱硬化性透明材料100の加工領域に対して行われ、作業者の操作又は予めの設定等によって行われる。
【0029】
図4に示すように各照射位置には、それぞれキャビテーションバブル400が発生する。図3の上側の図に示すように直線状にレーザー光300を走査させたとすると、図3の下側の図に示すように熱硬化性透明材料100には直線状(ライン状)の連続したキャビテーションバブル400が発生する。
【0030】
キャビテーションバブル400は、熱硬化性透明材料100に持続して存在する。レーザー光300の照射後、キャビテーションバブル400が発生した熱硬化性透明材料100に対して容器10ごと熱処理(硬化処理)が行われて、熱硬化性透明材料100が熱硬化される(S03、硬化処理工程)。熱処理は、従来の熱硬化性透明材料100に対する熱処理と同様に行われる。
【0031】
熱硬化後の熱硬化性透明材料100のキャビテーションバブル400の部分は、窪みとなっている。即ち、熱硬化性透明材料100には、鋳型となるキャビテーションバブル400の形状を反映した微細加工がなされる。上記の例のように直線状の連続したキャビテーションバブル400が発生した場合には、熱硬化性透明材料100には直線状の溝が形成される。
【0032】
キャビテーションバブル400のサイズ(形状)は、レーザー光300の照射条件(例えば、レーザー光300のパワー及び照射時間)によって制御することができる。通常、レーザー光300のパワー及び照射時間のそれぞれを大きくすると、キャビテーションバブル400のサイズは大きくなる。当該制御をμmオーダーで行うことが可能である。これらの制御は、例えば、レーザー光300の波面を制御する光学系(例えば、空間光変調器又はアキシコンレンズ)をレーザー光300の光路上に設けることでも行われる。
【0033】
熱硬化後の熱硬化性透明材料100は、容器10から取り出される。レーザー光吸収体200として金属を用いた場合、上記の窪み(溝)には当該金属の微粒子が付着する。これを除去する場合には、熱処理後、塩酸等の溶媒による超音波洗浄が行われる(S04)。
【0034】
一方で、金属微粒子を除去せず、熱硬化性透明材料100の窪み部分(溝)、即ち、加工部分にメッキ処理が行われてもよい(S05、メッキ処理工程)。メッキ処理は、例えば、従来と同様に熱硬化性透明材料100をメッキ処理液に浸すことで行うことができる。これによって、加工された窪み(溝)のみに金属配線として用いることができる金属薄膜を堆積することができる。即ち、加工領域への選択的な金属配線が可能になる。以上が、本実施形態に係る透明材料加工方法である。
【0035】
上述したように、本実施形態では、レーザー光300の照射によって、熱硬化前の熱硬化性透明材料100にキャビテーションバブル400が発生し、熱硬化性透明材料100の加工が行われる。本実施形態によれば、モールディング及びフォトリソグラフィと比べて少ない工程数での微細加工が可能となり、ラピッドプロトタイピングが可能となる。具体的には、本実施形態によれば、リソグラフィ工程にかかる時間を5~10分の1程度に減少することができる。また、本実施形態では、汎用レーザーが使用可能であることから、リソグラフィに必要なクリーンルーム等の高額設備を必要としない。
【0036】
また、本実施形態では、熱硬化前の熱硬化性透明材料100に発生するキャビテーションバブル400による加工を行うため、既に硬化している固体材料に対して加工を行うLIPAA法及びLIBWE法と比べると高効率(高速)で加工を行うことができる。例えば、本実施形態によれば、LIPAA法及びLIBWE法と比べると容易に深溝加工を実現することができる。具体的には、LIPAA法及びLIBWE法では、溝加工に関しては1度のレーザー照射で数μmオーダーの溝加工が限界であるが、本実施形態ではそれ以上の深溝加工を容易に実現することができる。このように本実施形態によれば、材料の加工を簡易かつ高効率で行うことができる。また、本実施形態に係る透明材料加工方法によって加工された熱硬化性透明材料100は、本実施形態に係る透明材料である。
【0037】
また、本実施形態のように、配置工程において、熱硬化前の熱硬化性透明材料100をレーザー光吸収体200に接触させて配置し、レーザー光照射工程において、レーザー光吸収体200に対して、熱硬化前の熱硬化性透明材料100を介してレーザー光を照射して、当該熱硬化前の熱硬化性透明材料100にキャビテーションバブル400を発生させることとしてもよい。この構成によれば、熱硬化性透明材料100の加工部分に、キャビテーションバブル400の発生によって削り取られたレーザー光吸収体200が付着し、熱硬化性透明材料100の加工部分に対するメッキ処理等を容易に行うことができる。但し、熱硬化性透明材料100の加工にレーザー光吸収体200を必ずしも用いる必要はない。レーザー光吸収体200を用いない場合、熱硬化前の熱硬化性透明材料100の加工対象となる部分にレーザー光を照射して、当該加工対象となる部分にキャビテーションバブルを発生させればよい。
【0038】
また、本実施形態のようにレーザー光吸収体200として金属板を用いて、メッキ処理を行って、加工された熱硬化性透明材料100に金属薄膜を形成することとしてもよい。この構成によれば、熱硬化性透明材料100における金属配線の形成等を簡易かつ高効率で行うことができる。例えば、LIBWE法では、加工領域への金属配線を行うためには新たな工程を必要とするが、本実施形態では当該新たな工程に比べて容易に金属配線の形成を行うことができる。但し、金属薄膜を形成する必要がない場合には、メッキ処理を行う必要はなく、例えば、上述したように超音波洗浄等によって加工部分の金属の微粒子を除去してもよい。また、この場合、レーザー光吸収体200として金属以外のものが用いられてもよい。
【0039】
また、本実施形態のように、レーザー光300を集光レンズ30によって集光して照射することとしてもよい。この構成によれば、レーザー光の照射をより適切に行うことができ、キャビテーションバブル400をより適切に発生させることができる。これにより、熱硬化性透明材料100の加工をより適切に行うことができる。但し、レーザー光300のパワーによっては、レーザー光300の集光は必ずしも行われる必要はない。集光が行われない場合には、レーザー光300のビーム径を反映した加工スケールになる。
【0040】
なお、本実施形態では、加工対象を熱硬化性透明材料としたが、熱に応じて硬化する透明材料であれば熱硬化性透明材料以外を加工対象としてもよい。熱硬化性透明材料は加熱によって硬化するが、熱硬化性透明材料とは逆に冷却によって硬化する材料(例えば、ガラス)を加工対象としてもよい。また、本実施形態では、熱硬化性透明材料100とレーザー光吸収体200とが鉛直方向で接触している例を示したが、この接触に限らずどのように接触していてもよい。
【0041】
図5に本実施形態によって熱硬化性透明材料100(PDMS)に形成された溝の例を示す。図5(a)は当該溝の上面図、図5(b)は当該溝の断面図である。レーザー光300の照射条件によるが、図5(b)に示されるように溝の深さと幅とのアスペクト比がおよそ1:1になっている。図6に本実施形態によって熱硬化性透明材料100(PDMS)に形成された溝のレーザー顕微鏡像(倍率:100倍)の例を示す。本例は、レーザー光300のパワーが1μJ/pulseであり、走査の速度が5000μm/sである例である。アスペクト比は同様におよそ1:1になっている。図7(a)は、本実施形態によって熱硬化性透明材料100(PDMS)に形成された溝の反射顕微鏡像(倍率:20倍)を、図7(b)は、メッキがされた溝の反射顕微鏡像(倍率:20倍)である。上記の図5図7にも示されるように本実施形態によれば、熱硬化性透明材料100(PDMS)の加工が適切に行えている。
【0042】
引き続いて、本実施形態の変形例について説明する。上述した実施形態は、熱硬化性透明材料100の表面に沿った溝を設けるものであった。本発明の実施形態による加工は、上記のような熱硬化性透明材料100に溝を設けるものに限られず、熱硬化性透明材料100に貫通孔又は貫通していない穴(深溝)を形成する場合にも用いることができる。
【0043】
その場合、レーザー光300を照射する部分(レーザー光300の焦点位置)は、熱硬化性透明材料100に形成される貫通孔又は貫通していない穴に相当する部分となる。例えば、図1図3及び図4において、鉛直方向(紙面の上下方向)にレーザー光300を照射する部分を走査(移動)させる。具体的には、集光したレーザー光300を光軸に対して水平方向に下から上げる。このような走査は、レーザー光源20及び集光レンズ30によるレーザー光300の出射位置をレーザー光の光軸に沿って移動させる、又は自動ステージ40をレーザー光の光軸に沿って移動させることで実現することができる。
【0044】
また、レーザー光300を熱硬化前の熱硬化性透明材料100に照射する前に、即ち、配置工程において、レーザー光300の出射位置から当該熱硬化前の熱硬化性透明材料100にかけて、固体及び液体の少なくとも何れかから構成される透明な物質を配置することとしてもよい。例えば、熱硬化前の熱硬化性透明材料100の上にガラス板を配置し、その上に水の膜を乗せ、水の膜にレーザー光300の出射位置である集光レンズ30を接触させる。この構成では、出射されるレーザー光300は、水及びガラス板を経由して熱硬化前の熱硬化性透明材料100に入射する。
【0045】
上記の構成は、レーザー光300の経路の屈折率を考慮したものである。例えば、熱硬化前の熱硬化性透明材料100であるPDMSの屈折率は、1.41程度である。上記のガラス板及び水の膜を設けない場合、レーザー光300は、空気を経由して熱硬化前の熱硬化性透明材料100に入射する。空気の屈折率は、約1であるため、熱硬化前の熱硬化性透明材料100との屈折率の差が大きくなる。ガラス板の屈折率は、1.45程度、水の屈折率は、1.3程度であるため、熱硬化前の熱硬化性透明材料100との屈折率の差を小さくすることができる。即ち、この構成によれば、照射されるレーザー光300の経路における屈折率の変動を抑えることができる。これによって、適切に熱硬化前の熱硬化性透明材料100にレーザー光300を照射することができ、その結果、適切な材料の加工を行うことができる。
【0046】
なお、本変形例のようにレーザー光300の出射位置、即ち、集光レンズ30を鉛直方向に移動させる場合であっても、移動させる長さが短ければ、例えば、1500μm程度であれば、水の表面張力で集光レンズ30に水が接触したままとなる。
【0047】
また、レーザー光300の経路に設けられる透明な物質は、ガラス板及び水に限られず、屈折率の変動を抑える固体及び液体の少なくとも何れかから構成される透明な物質であればよい。また、当該透明な物質は、上記のように固体(ガラス板)及び液体(水)の組み合わせであってもよい。また、当該透明な物質は、加工装置1に含まれていてもよい。
【0048】
また、変形例を含む本実施形態では、発生したキャビテーションバブル400が、移動等せずに安定して熱硬化前の熱硬化性透明材料100に位置するように熱硬化前の熱硬化性透明材料100の粘度を調整することとしてもよい。
【0049】
図8に本実施形態及び変形例によって熱硬化性透明材料100であるPDMSに形成された溝の例を示す。図8では、熱硬化性透明材料100は、レーザー光吸収体200である銅板の上にのっている。レーザー光吸収体200との境目に形成された溝110は、上述した実施形態によって形成されたものである。レーザー光吸収体200から垂直に延びる溝(貫通孔)120は、上述した変形例によって形成されたものである。即ち、T字型に溝110,120が形成されている。このような溝110,120は、流路として用いることができる。レーザー光吸収体200の溝120が延びる方向の長さ(レーザー光吸収体200の厚さ)は、1500μm程度であり、この長さ全体にわたって溝120(即ち、貫通孔)が形成されている。なお、図8におけるレーザー光吸収体200の当該方向の長さは、173.8μmである。
【0050】
溝120の幅は、およそ7.4μmである。溝120における長さと幅とのアスペクト比は、およそ202(1500/7.4)である。このように本方法によれば、アスペクト比が200以上の溝を熱硬化性透明材料100の貼り合わせ等の方法によらずに形成することができる。
【0051】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る透明材料加工方法は、熱に応じて硬化する透明材料を加工する透明材料加工方法であって、硬化前の透明材料をレーザー光吸収体に接触させて配置する配置工程と、配置工程において配置されたレーザー光吸収体に対して、硬化前の透明材料を介してレーザー光を照射して、当該硬化前の透明材料にキャビテーションバブルを発生させるレーザー光照射工程と、レーザー光照射工程においてキャビテーションバブルが発生した硬化前の透明材料に対して硬化処理を行う硬化処理工程と、を含む。
【0052】
本発明の一実施形態に係る透明材料加工方法では、レーザー光を照射することで、硬化前の透明材料に発生するキャビテーションバブルにより透明材料の加工が行われる。このため、本発明の一実施形態に係る透明材料加工方法によれば、材料の加工を簡易かつ高効率で行うことができる。
【0053】
レーザー光吸収体は、金属であり、透明材料加工方法は、硬化処理工程において硬化処理が行われた透明材料に対してメッキ処理を行うメッキ処理工程を更に含むこととしてもよい。この構成によれば、透明材料における金属配線の形成等を簡易かつ高効率で行うことができる。
【0054】
レーザー光照射工程において、レーザー光吸収体に対して、レーザー光を集光して照射することとしてもよい。この構成によれば、レーザーの照射をより適切に行うことができ、キャビテーションバブルをより適切に発生させることができる。これにより、材料の加工をより適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
1…加工装置、10…容器、20…レーザー光源、30…集光レンズ、40…自動ステージ、100…熱硬化性透明材料、200…レーザー光吸収体、300…レーザー光、400…キャビテーションバブル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8