(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】背面帆布付き歯付き動力伝達ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 1/28 20060101AFI20221220BHJP
B29D 29/08 20060101ALI20221220BHJP
D04B 1/22 20060101ALI20221220BHJP
D04B 1/18 20060101ALI20221220BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20221220BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F16G1/28 G
B29D29/08
D04B1/22
D04B1/18
D06M15/55
D06M15/693
(21)【出願番号】P 2020532736
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(86)【国際出願番号】 US2018058905
(87)【国際公開番号】W WO2019118078
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-06-26
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ミン
(72)【発明者】
【氏名】ブランスデン,ナイジェル ピーター
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ガゴン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ショウン クシャン
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-536024(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185030(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/038854(WO,A1)
【文献】特表2009-533609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/28
B29D 29/08
D04B 1/22
D04B 1/18
D06M 15/55
D06M 15/693
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方面に歯付き面を有し、該一方面と反対側に平滑な背面を有するゴムベルト本体と、
前記歯付き面を覆う歯ジャケットと、
前記ベルト本体に埋め込まれた引張コードと、
前記背面上に設けられた背面ジャケットと、
を備え、
前記背面ジャケットは、シームレスのニットの帆布チューブを有し、
前記帆布チューブは、弾性糸および非弾性糸で編まれ、
前記弾性糸がポリウレタンを含み、前記非弾性糸がナイロンを含む
歯付き動力伝達ベルト。
【請求項2】
前記背面ジャケットが、前記帆布チューブ上にエポキシを含むコーティングをさらに有する、請求項1に記載の歯付き動力伝達ベルト。
【請求項3】
前記背面ジャケットが、前記帆布チューブ上にエポキシとラテックスゴムとを含むコーティングをさらに有する、請求項1に記載の歯付き動力伝達ベルト。
【請求項4】
前記シームレスのニットの帆布チューブを供給する工程と、
前記背面ジャケットを作るために、前記ニットの帆布チューブをコーティングで処理する工程と、
ベルト構築マンドレル上のベルトスラブに前記背面ジャケットを取り付ける工程と、
前記ベルトスラブを硬化させ、所望の幅に切断することにより、前記歯付動力伝達ベルトを形成する工程と、
を含む、請求項1に記載の歯付き動力伝達ベルトを製造する方法。
【請求項5】
前記処理する工程が、前記コーティングされた帆布チューブを無応力プロセスで乾燥させる工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記無応力プロセスが、前記コーティングされた帆布チューブをキャリア布上で乾燥させる工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記弾性糸および前記非弾性糸が、円形横編機に別々に供給される、請求項
4に記載の方法。
【請求項8】
前記コーティングがエポキシ系コーティングである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティングがゴムラテックスを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ニットの帆布チューブを熱硬化する工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
油に濡れた環境で使用されるベルトドライブに取り付けるために、請求項1に記載のベルトを供給する工程を含む、請求項1に記載の歯付き動力伝達ベルトを使用する方法。
【請求項12】
前記ベルトを、油に濡れた環境の自動車のタイミングドライブに取り付ける工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、平滑な背面に布地を有する歯付き動力伝達ベルトに関し、より詳細には、ポリウレタンおよびナイロン糸で管状に編まれ、熱硬化され、エポキシ系の処理をされ、特に油に濡れた環境での使用に適した、閉じたメッシュ状の管状の背面帆布を有する歯付き動力伝達ベルトに関する。
【0002】
歯付き動力伝達ベルトは、2本以上の軸の間で機械的な動力や運動を伝達するために使用される。歯はスプロケットまたはプーリ上の対応する溝と噛み合い、その結果、運動とトルク伝達が同期する。典型的なタイミングベルトの構造は、ゴムベルト本体内に埋め込まれた高弾性の引張コードを含み、ベルトの一方面、すなわち歯のある側に規則的な横歯を有し、ベルトの背面側には滑らかな面を有している。この技術の代表は、米国特許第6,358,171号(Whitfield)である。一般に、ベルトの歯の表面を覆う織布がある。歯を覆う帆布は、一般的にはゴム引きされるか、またはRFLなどの接着促進剤で処理される。Whitfieldは、低温性能の必要性にも言及している。自動車タイミングベルトの低温性能のさらなる改善は有益である。
【0003】
歯付き動力伝達ベルトは、通常、潤滑剤なしで、乾燥環境で使用される。内燃機関のクランクケース内のような油に濡れた環境での使用は、耐熱性、耐油性、耐摩耗性、耐久性、および耐荷重に大きな課題がある。この技術の代表は、米国特許公開第2014/0080647号(Sakamoto他)であり、油または水の環境で使用するために、歯を覆う織布のためのエポキシおよびエポキシラテックス処理を開示している。オイルウェット性能のさらなる改善は有益である。
【0004】
歯付きベルトの滑らかな背面側に帆布を使用することは、当技術分野ではあまり一般的ではない。この技術の代表は、米国特許第6,572,505号(Knutson)、第6,632,151号、および第6,863,761号であり、繊維材料中の隙間を通して、下にあるゴム層の浸透を可能にするように選択された比較的開放された織り構造を有する外側シームレス管状ニット繊維材料を開示している。米国特許第8,568,260号(Baldovino他)は、油と共に使用するために、ベルトの背面側にも任意に歯の織布および耐性コーティング層を有する歯付きベルト構造を開示している。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、平滑な背面に帆布を有する歯付き動力伝達ベルトを提供するシステムおよび方法に関し、より詳細には、ポリウレタンおよびナイロン糸で管状に編まれ、熱硬化され、好ましくはエポキシまたはRFL処理などの処理をされた、閉じたメッシュ状のニットの背面布を有する、歯付き動力伝達ベルトを提供するシステムおよび方法に関する。得られたベルトは特に、油に濡れた環境での使用、または、例えば、自動車エンジンのタイミングドライブなどにおける低温耐久性の向上を意図している。
【0006】
本発明は、一方面に歯付き面を有し、歯付き面とは反対側に滑らかな背面を有するゴム製のベルト本体と、歯付き面を覆う歯ジャケットと、ベルト本体に埋め込まれた引張コードと、背面上に設けられた背面ジャケットと、を備えた歯付き動力伝達用ベルトに関し、背面ジャケットは、閉じたメッシュ状のニットの帆布チューブを有するものである。帆布チューブは、弾性糸および非弾性糸で編まれたものでもよく、これらは両方とも、円形横編機に別々に供給されてもよい。弾性糸はポリウレタンを含むことができ、非弾性糸は、ナイロンを含むことができる。背面ジャケットは、RFLタイプ、またはエポキシ系のコーティングである、布コーティングを有することができる。コーティングは、エポキシ及びラテックスゴムを含むことができる。
【0007】
また、本発明は、閉じたメッシュ状のニットの帆布チューブを供給する工程と、背面ジャケットを作るために、ニットの帆布チューブをコーティングで処理する工程と、ベルト構築マンドレル上のベルトスラブに背面ジャケットを取り付ける工程と、ベルトスラブを硬化させ、所望の幅に切断することにより、歯付き動力伝達ベルトを得る工程と、を含む、歯付き動力伝達ベルトを製造する方法に関する。
【0008】
処理する工程は、コーティングされた帆布をキャリア布上で乾燥させるなど、応力のないプロセスでコーティングされた帆布を乾燥させる工程を含むことができる。この方法は、ニットの帆布チューブを熱硬化させる工程を含むことができる。
【0009】
また、本発明は、ベルトドライブ上へのベルトの取り付けを含む、歯付き動力伝達ベルトを使用する方法に関する。ベルトドライブは、油に濡れた環境内に配置され得る。ドライブは、自動車のタイミングドライブであってもよく、油に濡れた環境でベルトを使用してもよい。
【0010】
上記では、以下の本発明の詳細な説明がより良く理解され得るように、本発明の特徴および技術的利点をかなり大まかに概説した。本発明の特許請求の範囲の主題を形成する、本発明のさらなる特徴および利点は、以下に記載される。開示された概念および特定の実施形態は本発明の同じ目的を実行するための他の構造を修正または設計するための基礎として容易に利用され得ることが、当業者によって理解されるべきである。また、当業者であれば、そのような同等の構成が、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱しないことを理解されたい。本発明の特徴であると考えられる新規な特徴は、その構成および動作方法の両方に関して、さらなる目的および利点とともに、添付の図面との関連で考慮すると、以下の説明からより良く理解されるであろう。しかしながら、各図は、例示および説明のみを目的として提供されており、本発明の限定を定義することを意図していないことが明確に理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付図面は、同様の番号が同様の部分を示すものであり、本発明の実施形態を示し、本明細書とともに、本発明の原理を説明するために用いられる。図面において:
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による歯付きベルトの部分断片図である。
【0013】
【
図2】本発明の方法の実施形態の工程を示している。
【0014】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態による歯付きベルトの部分的に断片化された側面図である。
図1を参照すると、本発明のベルト10は、本体にピッチPで離間して形成されたベルトの一方面に位置するベルト歯14を有する、ゴムベルト材料からなる本体12を有する。歯は、ベルト歯の周面に沿って配置された耐摩耗性帆布16で覆われている。ベルト本体には、螺旋状に巻かれたコードの引張部材18が埋め込まれている。ベルトの背面は、滑らかであり、歯付き側の反対側に位置し、特別な背面ジャケット20で覆われている。背面ジャケット20は、好ましくは、同時に円形編機に供給されるが、別々の糸供給源から供給される弾性糸と非弾性糸とから作られた、シームレスの管状のニットの背面帆布を含む。背面帆布は、好ましくは編成後に熱硬化される。布地は、好ましくは編成及び熱硬化の後、適切なコーティングで処理される。本明細書において、「帆布」は接着剤または他の適切なコーティングが適用される前のニット材料を指し、ベルトを構築するために、またはベルト上の所定の位置で使用するために準備が整った、処理された帆布は「ジャケット」と呼ばれる。
【0017】
ベルトの背面側のためのシームレスの管状のニットの帆布は、セルロースベースの糸または非セルロースベースの糸のような糸から作ることができる。セルロースベースの糸または繊維には、綿、リネン、ジュート、麻、アバカ、および竹を含む天然繊維、レーヨンおよびアセテートを含む人工繊維、ならびにこれらの組み合わせが含まれる。非セルロース系の糸または繊維には、ナイロン(ポリアミド)、ポリエステル(PET)、ポリエチレンナフタレート、アクリル、アラミド(芳香族ポリアミド)、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、液晶ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ポリケトン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、e-PTFE、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリベンゾビスオキサゾール(PBO)、羊毛、絹、およびこれらの組み合わせが含まれる。背面帆布のためのいくつかの好ましい糸または繊維のタイプには、ナイロン、綿、ポリエステル、アラミド、ポリウレタン(PET)、およびこのような材料のブレンドが含まれる。ナイロンは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11等を含む。糸は、好ましくは良好な柔軟性、良好な耐熱老化性、および油、水、または他の環境暴露もしくは汚染に対して良好な耐性のある帆布を提供する。糸は、モノフィラメントまたはマルチフィラメント糸を含むステープルまたはフィラメント糸であってもよい。糸は、任意の所望の撚り、ブレンド、またはラップ構造のものであってもよい。好ましい帆布は、非常に高い伸びまたは伸長性を有するポリウレタンまたはゴム糸などの弾性糸と、ナイロン、PET、アラミドまたは綿などの合成または天然繊維糸またはブレンド糸などの別の非弾性糸とを組み合わせた2糸構造であってもよい。弾性糸および非弾性糸は別々に、すなわち別々の糸供給源、スプール、または送り出しから、編機に供給され、帆布の製造時に結合されて編まれる。次いで、個々の弾性糸および非弾性糸の供給速度および張力を別々に制御すると、ニットチューブの所望の伸びレベルを達成することができる。好ましいニットの帆布は、別々に編機に供給されるナイロン糸およびPU糸から作られる。ナイロン糸はナイロン66または他の適切なナイロンタイプであってもよい。ナイロン糸は、ステープル糸、モノフィラメント、またはマルチフィラメント糸であってもよい。
【0018】
さらに、弾性糸または繊維、セルロース糸または繊維、および他の糸を含む3本以上の糸構造を使用してもよい。第3の糸は、所望の耐摩耗性に従って選択することができる。この場合も、第1の糸はポリウレタンのような弾性糸であり、これは、布に高レベルの伸縮性を与える。第2および第3の糸または繊維は、異なる比率でブレンドされたセルロース糸または繊維と非セルロース糸または繊維との組み合わせであってもよく、2つの異なるタイプの糸または繊維のブレンドから構成することができる。繊維のタイプおよび比率は、良好な密着性および良好な耐摩耗性などの特性の所望の組み合わせを提供するために選択されてもよい。非弾性糸または繊維に対する弾性糸または繊維の比率は、例えば、2重量%~40重量%とすることができる。
【0019】
管状の背面帆布の編成パターンは、任意の適切な編成パターンであってよい。シームレスのニットのチューブパターンは、横編みによって、好ましくは糸が帆布の周りを連続的に走る丸編みによって製造されてもよい。ニットは、平編み又はリブ編みであってもよい。好ましくは、ニットが最小の多孔性を有する密な又はタイトなニットである。好ましくは、ニットの背面帆布が内側表面上にリブ構造を有する。1×1の横編みチューブが、1つの好ましい構造である。このようにタイトに編まれた背面帆布は、ベルト本体からベルトの外側背面へのゴムの流出を防止することができる。同時に、ニットの背面帆布の内側表面上のリブ構造は、本体ゴムと帆布との間の良好な機械的相互作用を可能にし、帆布とゴムとの間に良好な粘着力をもたらすことができる。オイルと接触して使用されるベルトの場合、ベルトの背面にゴムの浸透または露出がないことが好ましい。背面帆布自体はベルト本体のゴムコンパウンドよりも耐油性があってもよく、帆布-ゴム界面における油の進入を防止することにより、油環境におけるベルト耐久性を向上させることができる。
【0020】
背面帆布のためのこのニットチューブは、ニットチューブの収縮および/または形状をより均一にするために、熱硬化プロセスにかけられるのが有利である。ベルト構築中、ニットチューブは、歯ジャケット、ベルト本体、および引張コードのためのベルト構築材料で包まれた円筒形マンドレルの上に付与されるであろう。このベルト材料の積み重なったものをベルトスラブと呼ぶ。背面帆布は、取り付け後、ある程度の伸張を伴って、スラブ表面に密着すべきであり、熱硬化は帆布の伸張をより均一にすることができ、成形中の何らかの異常なゴムのストライクスルーを防止するのに役立ち、かくして、より均一なベルト背面の外観、より安定した摩擦係数(COF)等を達成するのに役立つ。また、熱硬化工程により、ベルト背面への油の通過を防止することで、耐油性が向上することが分かっている。これは、特にベルトの低温試験において明らかになっている。熱硬化条件は、帆布を製造するために使用される糸または繊維の熱特性を考慮して、適切に選択することができる。例えば、熱硬化は、加熱されたローラ上で行われてもよく、加熱は赤外線または蒸気熱によって行われてもよい。帆布が洗浄または染色される場合、洗浄工程または染色工程は、好ましくは熱硬化工程の前に行われる。熱硬化工程は、帆布のプレス工程または圧縮工程を含んでもよい。圧縮工程またはプレス工程は、単独で実施することができるが、プレス工程の有無にかかわらず、熱硬化工程を含むことがより好ましい。圧縮工程は、例えばロールの速度を制御することによって、チューブの幅を増大させ得る。
【0021】
背面帆布のためのシームレスチューブは、(好ましくは熱硬化後に製造されるような)生機を使用することが好適であり、また生機は、コーティングまたは処理でコーティングすることができる。ニットチューブは非常に伸縮性があり、柔軟性が高い傾向があるため、従来のベルト織物よりも処理が難しくなる。1つの好適な方法は、ディッピング、ロールコーティング、またはスプレーによって、液状の処理溶液を背面帆布に直接塗布することである。湿った帆布は、その後、従来の連続的な帆布乾燥オーブンを通過させることが可能なライナー布上に帆布を置くことによって乾燥させることができる。
図2は、このような乾燥プロセスを示している。
図2では、処理された管状の帆布20の切断された一片が、連続オーブン22を通って搬送する支持布24上に置かれている。代替的に、長い長さまたは連続した長さの処理された管状の帆布を支持布上で乾燥させ、次いで所望の長さに切断することができる。このように、背面帆布処理は、帆布に応力を加えることなく乾燥させることができる。帆布の伸び、形状およびニット構造の均一性、および所望の幅または周長を維持するために、応力を最小化することは重要である。適切な帆布処理はベルト本体ゴムに対する帆布の密着性を向上させ、本体ゴムのストライクスルーを低減させ、および/または耐油性を向上させることができる。
【0022】
別の処理オプションとして、非常に伸縮性のあるニット布地を処理する問題を回避するために、編成前に糸を処理することが挙げられる。しかしながら、ここでは、布地の一体性が向上し、ゴムのストライクスルーやオイルの浸透に対する耐性が向上すると考えられるため、後編み処理が好ましい。
【0023】
任意の適切な処理を背面帆布に施すことができる。例えば、シームレスニットチューブは、レゾルシノール-ホルムアルデヒド-ラテックス(RFL)タイプのコーティング、エポキシ系またはエポキシ+ゴム-ラテックスタイプのコーティング、ゴムセメント、またはナノ材料ベースのコーティング、または複数のコーティングの組み合わせで処理することができる。
【0024】
例示的なエポキシおよびエポキシ-ラテックスタイプの処理は、米国公開特許第2014/0080647に記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。1つまたは複数の連続したコーティングまたは処理が適用されてもよい。例えば、最初にRFL処理を施した後に、エポキシ樹脂を対面する帆布に塗布してもよい。エポキシ処理は、帆布の一方面または両面に適用することができる。エポキシまたはエポキシゴム処理用組成物に含まれるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ビスフェノールAエポキシ樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、数平均分子量が300以上であることが好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは150~1500g/eqである。ここで、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)で測定した値をポリスチレンに換算した値である。エポキシゴム処理剤組成物を希釈する溶媒は水であればよく、エポキシ樹脂は水溶性であってもよい。代わりに有機溶媒を使用してもよい。
【0025】
エポキシゴム処理組成物に含まれる硬化剤は、それによってエポキシ樹脂を硬化させることができるものであれば、いかなるものであってもよい。硬化剤の例としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノールノボラック系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ジシアンジアミド系硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤の1つを単独で、または2つ以上の組み合わせで使用してもよい。例えば、好ましくは、触媒硬化剤であるイミダゾール系硬化剤を用いることができる。触媒硬化剤は、エポキシ環の触媒直接反応によってエポキシ樹脂を重合する。また、硬化剤は、水に可溶であってもよく、エポキシ樹脂の場合と同様に処理液に溶解していてもよい。エポキシ樹脂は、硬化剤による硬化または硬化プロセス中にネットワーク構造が形成され得るように、3つ以上の官能基(エポキシ基)を有することが好ましい。
【0026】
エポキシゴム処理組成物に含まれるゴム成分は特に限定されないが、ベルト本体背面ゴムとの密着性を向上させる観点から、ゴム成分がニトリルゴム(NBR)、水添ニトリルゴム(HNBR)、水添カルボン酸ニトリルゴム(HXNBR)であることが好ましく、ゴム本体成分もNBR系である場合は特に好ましい。ゴムはゴムラテックスであってもよい。すなわち、エポキシゴム処理には、好ましくは、NBRラテックス、HNBRラテックス、またはHXNBRラテックスが用いられる。
【0027】
歯カバージャケット16は、その目的に適した任意の公知の構造とすることができる。例えば、歯ジャケットの帆布は、ナイロン、ポリエステル、PTFE、PEEK、PPSまたはアラミド糸またはそれらの組み合わせ、ならびに背面帆布について上述した材料のいずれかを含むことができる。歯の帆布は、織布であってもよいし、ニットであってもよいし、不織布であってもよい。糸は、ストレッチのためにテクスチャード加工がされてもよい。有用な織り方としては、平織り、綾織り、サテンなどがある。帆布は、歯の形成を容易にするために、ベルトの長手方向が伸縮方向となるように配向されていてもよい。帆布は、偏倚して配向されていてもよい。いくつかの好ましい帆布には、2×2の綾織りのナイロン66の伸縮帆布、またはアラミドナイロンブレンド帆布が含まれる。
【0028】
歯の帆布は、背面帆布について上述した処理のいずれかを含む、当技術分野で知られている任意の適切な処理で処理することができる。好ましい帆布処理には、米国公開特許第2014/0080647号(Yamada他)に記載されている、任意のRFL処理を有するエポキシまたはエポキシゴム処理が含まれ、参照により本明細書に組み込まれる。このような処理は、歯面被覆の耐摩耗性及び耐油・耐水性を向上させるとともに、高温・高負荷環境下や油・水環境下で使用しても満足できる耐久性を有する歯付ベルトを提供することを目的としている。
【0029】
歯面帆布の外面は、耐油性または摩擦改質コーティングがさらにコーティングされていてもよく、このコーティングには、例えば、フルオロ樹脂、バインダー、エポキシ、硬化剤、ラテックス、および他のコーティング成分のうちの1つ以上を含有していてもよい。このようなコーティングは、ベルトの側面および/または背面にも適用することができる。このようなコーティングの例には、米国特許第6,419,775号(Gibson他)、米国特許第8,388,477号(Baldovino他)に開示されているものが含まれ、これらの内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
歯またはベルト本体ゴム12には、任意の適切なゴム組成物を使用することができる。さらに、所望に応じて、歯、引張コード層、および背面に同じまたは異なる化合物を使用してもよい。米国特許第6,358,171号(Whitfield)には、歯ゴムまたはベルト本体ゴムのための例示的なゴム化合物が記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。このように、ベルト本体ゴム組成物は、HNBR等のニトリル基含有共重合ゴムを含んでいてもよく、ゴムはゴムのガラス転移を低下させる第3のモノマーを含んでいてもよい。ゴム組成物はまた、約0.5~約50重量部のゴム(PHR)の繊維強化材を含んでもよい。米国特許第9,140,329号には、歯ゴムまたはベルト本体ゴムのための他の例示的なゴム化合物が記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。そこに記載されているように、ベルト本体ゴム組成物は、HNBRまたはHXNBRゴム、レゾルシノール、およびメラミン化合物を含むことができる。
【0031】
ベルト本体のゴム組成物は、充填剤、可塑剤、分解防止剤、加工助剤、硬化剤、凝固剤、相溶化剤などの当技術分野で知られている成分をさらに含んでいてもよい。
【0032】
ベルト用の引張コード18は当技術分野で知られている任意のものとすることができるが、好ましくは、ガラス繊維、PBO、アラミド、炭素繊維、または2つ以上のハイブリッドを含む。引張コードは、好ましくは、油に濡れた環境での使用のための耐油性の高い接着処理を含む。例えば、接着処理は、ニトリル含有ラテックスもしくはゴム、または他の耐油性材料をベースにしたものであってもよい。
【0033】
本発明の歯付きベルトは、ベルトを製造する公知の方法に従って製造することができる。最も一般的なアプローチは、様々な材料を溝付きマンドレルに取り付けることであり、最初に歯カバージャケット、次いで引張コードおよび本体ゴム、そして最後に背面ジャケットを取り付ける。ベルトスラブを有するマンドレルは、次に、材料を一緒に圧迫するために加熱および加圧することができる加圧可能なシェルに挿入され、ゴムを歯の溝の中に流し込み、歯ジャケットを歯の溝の形状に押し込む(「フロースルー法」)。別の方法として、歯は、歯ジャケットをマンドレル上に配置する前に、歯を充填するゴムで、おおよその溝の形状に予成形することができる(「予成形法」)。これらの方法の他の変形も可能である。布で裏打ちされたベルトを作るための主な追加の特徴は、ゴムで裏打ちされたベルトのために行われるような、ベルトの背面側を寸法通りに研削することができないため、所望の最終的なベルトの厚さを得るために、ゴム層を慎重に測定しなければならないことである。
【0034】
【実施例】
【0035】
本発明によるニットチューブは、ナイロン66糸と、円形横編機に供給されたポリウレタン弾性糸とを使用して調製された。編成パラメータを表1に示す。編成後、チューブを洗浄し、表1に示すパラメータで熱硬化した。熱硬化は、蒸気熱を使用した2本ロールミルで行った。かくして、帆布は熱硬化の間にプレスされた。
【0036】
【0037】
次に、ニットチューブを所定の長さに切断し、表2に示すように、各種接着処理で処理した。対照として、従来のナイロン66で織られた伸縮性帆布を使用した。表2のEP-1の処理は、エポキシ+NBRラテックス+硬化剤処理であり、従来のオーブンで1.5m/分および145~165℃の条件で、キャリア帆布上に浸漬乾燥することによって塗布した。表2のEP-2処理は、EP-1と同じであるが、浸漬工程を2パス行い、その後同様の乾燥工程を行った。NBR RFL-1および-2の処理は、NBRラテックスによる従来のRFL処理であり、これもまた、2.5m/分のオーブン速度および160~170℃で、1パス処理および2パス処理の両方を実施した。VP RFLの処理は、典型的なビニルピリジン(VP)ラテックスを用いた2パス処理であり、1.7m/分、190℃で乾燥させた。表2の生機チューブに対して、結果として得られた処理されたチューブの外周(OC)として示されるように、処理プロセスは、その高い伸縮性にもかかわらず、チューブの寸法を維持することができた。表2から、25mm幅の帆布サンプルでの0.372Kgの特定の荷重での縦糸および横糸の伸びは、処理によって減少することが分かる。従って、この処理は、ニットチューブの寸法安定性を向上させる。ベルトに使用されるような最終形態の処理された帆布は、ジャケットと呼ばれることがある。
【0038】
【0039】
表2の対照帆布、未処理帆布および処理帆布を、表3に示す歯付きベルトの実施例のための背面ジャケットとして使用した。表3の各ベルトについて、表2の対照帆布を歯カバージャケットとして使用し、HNBRゴム化合物をベルト本体として使用し、従来のガラス繊維引張コードを引張部材として使用した。ベルトは従来の方法で作られ、まず、歯カバージャケットを溝付きマンドレルに取り付け、次に、引張コード(S撚り、Z撚りの両方とも)を螺旋状に巻き付け、次いで、ベルト本体ゴムの圧縮層をつけ、最後に、管状の背面帆布をつける。次いで、完成したスラブを、溝付きマンドレル上で、蒸気熱および圧力を用いて加圧ゴムスリーブ内で硬化させてゴムを軟化させ、歯を形成し、材料を硬化させた。硬化したベルトスラブをマンドレルから取り出し、試験のために所望の幅のベルトに切断した。
【0040】
他の予備的な一連の実験では、ベルトは、帆布加工またはハンドリング工程において様々なバリエーションの管状帆布によって作製された。これらの実験から、熱硬化が、不要なゴムのストライクスルーを減少させ、かくしてベルトの背面に所望のジャケット面を保持するのに重要であることが示された。また、熱硬化工程をスチーム予熱で行い、2本の加熱ローラ間でプレスまたは成形することにより、均一性とストライクスルーの低減という点で、最も優れたベルト外観を得ることができた。
【0041】
表3に実施例のベルトの特性と試験結果を示す。ジャケットの密着性については、ジャケットをベルトの背面側から剥離し、180°で引っ張ることによって試験した。報告されていない他のベルト特性としては、コード引き抜き接着、歯ジャケット接着、歯のせん断強度及び引張強度を含み、全ての実施例においてほぼ同等であったことに留意されたい。
【0042】
このニットチューブを用いた他の試験において、RFLおよびエポキシ-ラテックス処理としての処理を試験したところ、エポキシ-NBRラテックスは、NBRラテックスに基づくRFLよりも優れた耐油性を示しただけではなく、より優れた耐冷間クラック性を示した。
【0043】
高温/低温試験は、以下のようなベルトについて実施した。高温/低温試験レイアウト30は
図3に示されており、400Nの自重張力36の下で、それぞれ8mmピッチで46本の溝を有する駆動プーリ33および従動プーリ32と、直径60mmの滑らかなアイドラ35および直径57.2mmのテンションアイドラ34と、を有している。試験ベルト31は、幅24mmであり、8mmピッチの歯を146個有するものとした。ベルトは、110℃、3000RPMで250時間運転することによって、試験機上で最初に調整される。次に、ベルトを-40℃で15時間浸漬する。次いで、-40℃での試験サイクル(各サイクルは、300RPMで5秒間、2000RPMで30秒間、その後25分間停止することで構成されている)を開始し、クラックまたは故障が観察されるまで継続する。最初のクラックが発生するまでのサイクル数を表3に報告する。
【0044】
高温/低温試験の結果、背面帆布の無い対照ベルト(比較例1)は、約20サイクルで背面ゴムのクラックが発生しているのがわかる。背面側に従来のジャケットを追加することで、比較例2の寿命(弱点である、ジャケットの継ぎ目にクラックが発生する時期)を延ばすことができる。実施例3、実施例6、および実施例7の本発明のベルトは、多くの改良が示されており、クラックが現れるまでにはるかに長く走行し、継ぎ目クラックを発生させるジャケットの継ぎ目または接合部を有さない。実施例3および実施例7は、比較例2の継ぎ目クラックの寿命の2倍を示している。比較例2は、実施例3および実施例7とほぼ同じサイクル数で、継ぎ目位置から離れたところで追加のクラックが発生していることに留意すべきである。
【0045】
冷間試験は、以下のようなベルトについて実施した。冷間試験レイアウト40は
図4に示されており、400Nの張力下で、19本の溝を有する駆動プーリ43と、22本の溝を有する2つの従動プーリ42と、直径60mmの滑らかなテンショナ44と、を有している。試験ベルト41は、幅10mmであり、9.525mmピッチの歯を116個有するものとした。ベルトを最初に-30℃で15時間浸漬する。次いで、-30℃での100回の試験サイクル(各サイクルは、200RPMで30秒間、その後25分間停止することで構成されている)を開始し、クラックまたは故障が観察されるまで継続する。結果を表3に報告する。
【0046】
【0047】
従来のナイロン伸縮帆布を使用するには、両端部を糸で一緒に縫い合わせることによって(典型的には真っ直ぐな縫製接合で)チューブを作ることを必要とする。このような帆布は、ベルト背面側のクラックの程度を軽減させることができるが、クラックが始まる可能性が最も高い縫製接合の弱さのために、全体的に良好な性能を達成することはできない。接合部はクラックの程度を最小化するために歯の上に配置されてもよいが、接合部は依然として最も弱い位置であり、クラックを生じる可能性が最も高い場所である。同様に、斜めの縫製接合(対角線上)を使用すると、クラックが発生する接合部も形成され、ジャケット損失率が高くなり、製造工程での対処がより困難になる。一方、シームレスチューブは、縫製接合なしで作ることができる。従って、ベルトの周りの全ての位置において、縫い目で発生するような弱点がなく、同じ完全性と耐久性を有することになる。ニットで作られたシームレスチューブは、全方向への伸びが良く、伸縮性に優れているため、従来のナイロンストレッチ帆布よりも耐クラック性に優れている可能性がある。
【0048】
本発明の実施形態によるシームレスチューブ背面を有する歯付きベルトは、ベルト背面からの摩擦損失が低く、良好な耐摩耗性と安定したCOFを有する。ニット構造と適切な処理により、バックベルト表面へのゴムのストライクススルーを最小限に抑えることができ、バックゴムへのオイルの移動を防止することができる。したがって、本発明のベルトは、内燃機関のクランクケース内などの油に濡れた環境での使用に適している。また、ゴム材料を好適に選択した本発明のベルトは、良好な高温および低温性能を示す。
【0049】
本発明およびその利点を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換、および変更が本明細書においてなされ得ることを理解されたい。さらに、本願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、およびステップの、特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者であれば、本発明の開示から容易に理解できるように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たすか、または実質的に同じ結果を達成する、現在存在するか、または後に開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、またはステップが、本発明に従って利用されてもよい。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、そのようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、またはステップを含むことが意図される。本明細書に開示された発明は、本明細書に特に開示されていない要素が存在しない場合に適切に実施され得る。