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特許7197246インクジェット印刷物の製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】インクジェット印刷物の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20221220BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221220BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20221220BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 127
B41J2/01 501
B41M5/00 120
C09D11/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018017500
(22)【出願日】2018-02-02
(65)【公開番号】P2019130869
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000205306
【氏名又は名称】大阪シーリング印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀尚
(72)【発明者】
【氏名】東 広樹
(72)【発明者】
【氏名】野田 真由美
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-044405(JP,A)
【文献】特開2015-143003(JP,A)
【文献】特開2013-129711(JP,A)
【文献】特開2014-140993(JP,A)
【文献】特開2011-167968(JP,A)
【文献】特開2007-185828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00- 5/52
B41J 2/01
B41J 2/165-2/215
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷用のコート材層を備える紙基材を準備する準備工程と、
前記紙基材の第1主面にコロナ放電処理を行う表面処理工程と、
前記コロナ放電処理された前記第1主面に、インクジェット法によりインクを付着させる印刷工程と、を備え、
前記準備工程の後、前記印刷工程の前に、前記紙基材を加熱する乾燥工程をさらに備え、
前記インクは、着色剤および水を含み、
前記水は溶媒全体の50質量%以上であり、
前記紙基材の化学パルプ含有量は40質量%以上であり、
前記印刷工程において付着する前記インクのドット径は、前記コロナ放電処理の放電量の増加とともに増加してピークを取った後、減少して一定値に安定する特性を有し、
前記表面処理工程では、前記ドット径が減少する前記放電量であり、かつ100W・分/m以上、200W・分/m以下の前記放電量で前記コロナ放電処理を行う、インクジェット印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記紙基材は、コート紙またはキャスト紙である、請求項1に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記印刷工程に供される前記紙基材の水分率は、4質量%以下である、請求項1または2に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記準備工程の後、前記紙基材を搬送機の上流に供給し、下流に向けて搬送する搬送工程をさらに備え、
前記表面処理工程では、前記搬送機によって搬送されている前記紙基材の前記第1主面に前記コロナ放電処理が行われ、
前記印刷工程では、前記搬送機によって搬送されている前記コロナ放電処理された前記第1主面に前記インクを付着させる、請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェット印刷物の製造方法。
【請求項5】
印刷用のコート材層を備える紙基材を、搬送機の上流に供給する紙基材供給部と、
前記紙基材供給部の下流に配置され、前記紙基材の第1主面にコロナ放電処理を行う表面処理部と、
前記表面処理部の下流に配置され、前記コロナ放電処理された前記第1主面に、インクジェット法によりインクを付着させる印刷部と、を具備し、
前記紙基材供給部の下流であって、かつ、前記印刷部の上流に配置され、前記紙基材を加熱する乾燥部をさらに備え、
前記インクは、着色剤および水を含み、
前記水は溶媒全体の50質量%以上であり、
前記紙基材の化学パルプ含有量は40質量%以上であり、
前記印刷部が付着させる前記インクのドット径は、前記コロナ放電処理の放電量の増加とともに増加してピークを取った後、減少して一定値に安定する特性を有し、
前記表面処理部は、前記ドット径が減少する前記放電量であり、かつ100W・分/m以上、200W・分/m以下の前記放電量で前記コロナ放電処理を行う、インクジェット印刷物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷物の製造方法および製造装置に関し、詳細には、印刷媒体である紙基材の改質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康や環境保全に対する意識の高まりにより、インクジェット印刷には、水性のインクが用いられる場合がある。一方、水性インクは、一般に印刷用紙として用いられるキャスト紙およびコート紙等に濡れ難い。そのため、隣り合うドット同士の隙間が大きくなり易く、印刷物にスジが生じる場合がある。
【0003】
そこで、インクジェット印刷専用紙として、表面にインクを吸収する層(インク受容層)を有する印刷用紙が上市されている。また、印刷媒体の表面にコロナ放電処理またはプラズマ処理等の表面処理を施して、表面の親水性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-93950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、インクジェット印刷専用紙は、一般に生産コストが高くなり易い。また、特許文献1のように表面処理を行う場合、表面の親水化の程度を制御する必要がある。表面が過度に親水化されると、インクの液滴は、印刷媒体の面方向に広がり易くなるためである。この場合、形成されるドットの外縁が不明確になったり、隣り合うドット同士が混ざり合ったりして、得られる文字や画像が不鮮明になり易い。特許文献1は、様々な印刷媒体に対してコロナ放電処理を行うことを教示している。しかし、どの程度の処理を行うべきかの検討は十分ではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の局面は、印刷用の紙基材を準備する準備工程と、前記紙基材の第1主面にコロナ放電処理を行う表面処理工程と、前記コロナ放電処理された前記第1主面に、インクジェット法によりインクを付着させる印刷工程と、を備え、前記インクは、着色剤および水を含み、前記印刷部が付着させる前記インクのドット径は、前記コロナ放電処理の放電量の増加とともに増加してピークを取った後、減少して一定値に安定する特性を有し、前記表面処理部は、前記ドット径が減少する前記放電量であり、かつ100W・分/m 以上、200W・分/m 以下の前記放電量で前記コロナ放電処理を行う、インクジェット印刷物の製造方法に関する。
【0007】
本発明の第二の局面は、印刷用の紙基材を、搬送機の上流に供給する紙基材供給部と、前記紙基材供給部の下流に配置され、前記紙基材の第1主面にコロナ放電処理を行う表面処理部と、前記表面処理部の下流に配置され、前記コロナ放電処理された前記第1主面に、インクジェット法によりインクを付着させる印刷部と、を具備し、前記インクは、着色剤および水を含み、前記印刷部が付着させる前記インクのドット径は、前記コロナ放電処理の放電量の増加とともに増加してピークを取った後、減少して一定値に安定する特性を有し、前記表面処理部は、前記ドット径が減少する前記放電量であり、100W・分/m 以上、200W・分/m 以下の前記放電量で前記コロナ放電処理を行う、インクジェット印刷物の製造装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スジとともに滲みが抑制されて、鮮明な文字および/または画像を備えるインクジェット印刷物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る製造装置の概略側面図である。
図2】実施例1~5および比較例1~3の評価結果を示すグラフである。
図3】実施例6~10および比較例4~6の評価結果を示すグラフである。
図4】実施例11~15および比較例7~9の評価結果を示すグラフである。
図5】参考例の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るインクジェット印刷物の製造方法は、印刷用の紙基材を準備する準備工程と、紙基材の第1主面にコロナ放電処理を行う表面処理工程と、コロナ放電処理された第1主面に、インクジェット法によりインクを付着させる印刷工程と、を備える。インクは、着色剤および水を含む。コロナ放電処理の放電量は、40W・分/m以上、300W・分/m以下である。
【0011】
通常、コロナ放電処理における放電量が多いほど被処理体の表面の親水性が高まり、水と被処理体との接触角は小さくなる。しかし、紙基材において、放電量と接触角との関係は、特異な挙動を示すことが判明した。すなわち、紙基材において、放電量が40W・分/m未満である場合には、放電量に従って接触角は小さくなる。一方、放電量が40W・分/m以上、300W・分/m以下の範囲においては、放電量に従って接触角はわずかに大きくなるものの、次第にほぼ一定となる。
【0012】
さらに、上記のように、放電量が40W・分/m以上、300W・分/m以下の範囲において、接触角はほぼ一定であるにもかかわらず、ドット径は、放電量に従ってわずかに小さくなる場合がある。メカニズムは不明であるが、紙基材においては、コロナ放電処理における放電量がある閾値を超えると、親水化が面方向ではなく、深さ方向に進行すると考えられる。これにより、インクが紙基材の内部に浸透し易くなって、ドット径が微減する。このように、インクが面方向に一定の範囲内で拡散するとともに、深さ方向に浸透することにより、スジとともに滲みが抑制されて、鮮明な文字および画像を得ることができる。なお、放電量が300W・分/mを超えても、接触角は大きく変わらない一方、紙基材が損傷する場合がある。例えば、紙基材がコート剤層を備える場合、コート剤層が劣化する場合がある。
【0013】
以下、本実施形態の各工程について説明する。
(1)準備工程
印刷用の紙基材を準備する。
【0014】
(紙基材)
紙基材は、パルプを含む原料を抄紙して得られる。紙基材には、印刷用紙および板紙等が含まれる。印刷用紙は、書籍、雑誌等の印刷用として製造された紙であり、ここでは、ラベル、タグ、シール等に用いられる紙を含む。板紙は、パルプ、古紙などを原料として製造されて厚い紙の総称であり、例えば、段ボール紙等が含まれる。
【0015】
パルプは、木材、あるいは、竹、葦等の非木材から、機械的または化学的処理によって抽出されたセルロース繊維の集合体である。パルプは、化学パルプおよび機械パルプに大別される。化学パルプは、木材および/または非木材から、セルロース繊維以外の部分(リグニン)を薬液と蒸気で溶解して得られる。機械パルプは、木材および/または非木材をそのまま機械ですり潰すことにより得られ、セルロース繊維以外の部分も含まれる。
【0016】
印刷用紙は、大きくは、キャスト紙、コート紙およびインクジェット印刷専用紙を含む塗工印刷用紙および非塗工印刷用紙に分けられる。
非塗工印刷用紙は、抄紙工程および乾燥工程の後、顔料および/または各種コート剤の塗布が行われていない印刷用紙である。非塗工印刷用紙は、JIS P 0001に従えば、化学パルプの含有量によって、印刷用紙A、B、CおよびDのグレードに分けられる。印刷用紙A(いわゆる上質紙)は化学パルプ含有量が100%であり、印刷用紙Bは化学パルプ含有量が70%以上であり、印刷用紙Cは化学パルプ含有量が40%以上70%未満であり、印刷用紙D(いわゆるザラ紙)は化学パルプ含有量が40%未満である。
【0017】
塗工印刷用紙のうちコート紙は、広義には、例えば鉱物性顔料および接着剤を混合して得られるコート剤が、非塗工印刷用紙の少なくとも片面に塗工された印刷用紙である。塗工印刷用紙は、JIS P 0001に従えば、コート剤の塗布量によって、アート紙、狭義のコート紙および微塗工紙に分けられる。アート紙は、非塗工印刷用紙の片面に20g/m前後のコート剤が塗布された印刷用紙である。狭義のコート紙は、非塗工印刷用紙の片面に10g/m前後のコート剤が塗布された印刷用紙である。微塗工印刷用紙は、非塗工印刷用紙の両面における塗工量が12g/m以下の印刷用紙である。
【0018】
塗工印刷用紙のうちキャスト紙(キャストコート紙、ミラーコート紙とも称される)は、上記のようなコート剤を非塗工印刷用紙の少なくとも片面に塗布した後、例えば、光沢クロムメッキされている平滑なキャストドラムに密着させながら加熱乾燥させることにより得られる。キャスト紙は、優れた光沢を有している。
【0019】
インクジェット印刷専用紙は、通常、比表面積の大きな填料(例えば、クレー、タルク、炭酸カルシウム、尿素ホルマリン樹脂等)が内添されているか、あるいは、多孔質微粒子を含むインク受容層を備えている。噴射されたインクは、これら粒子の隙間に浸透することにより、紙の内部に取り込まれる。そのため、インクにじみは起こり難い。
【0020】
紙基材は、インクの吸収性に優れる点で、非塗工印刷用紙またはインクジェット印刷専用紙であってもよい。ただし、本実施形態によれば、広義のコート紙やキャスト紙のようにコート剤層を備える紙基材を用いる場合にも、インクの滲みを抑制することができる。
【0021】
紙基材の単位面積当たりの質量は特に限定されず、例えば、50g/m~200g/mである。
【0022】
紙基材はパルプを含むため、水分を含みやすい。パッケージされる直前の紙基材の水分率は、例えば4~8質量%程度であるが、水分を吸収すると10質量%程度にまで増加する場合がある。インクの滲みを抑制する観点から、印刷工程に供される紙基材の水分率は6質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることが好ましい。上記水分率は、紙用の水分計(例えば、株式会社島津製作所製、MOC63u等)により測定できる。
【0023】
(2)表面処理工程
紙基材の第1主面にコロナ放電処理を行う。
コロナ放電処理により、第1主面に極性基(例えば、ヒドロキシ基、カルボニル基等)が付加されて、親水性が向上する。よって、インクの第1主面に対する濡れ性が向上する。コロナ放電処理は、第1主面に加えて、第1主面の反対側の第2主面にも行ってよい。
【0024】
このとき、コロナ放電処理の放電量を、40W・分/m以上、300W・分/m以下にする。これにより、親水化は、紙基材の面方向だけでなく、深さ方向にも進行する。インクのスジおよび滲みを抑制する効果がさらに高まる点で、コロナ放電処理の放電量は100W・分/m以上であることが好ましい。一方、紙基材の損傷を防止する観点から、コロナ放電処理の放電量は、200W・分/m以下であることが好ましい。特に、コロナ放電処理の放電量が100W・分/m以上、200W・分/m以下であると、インクのスジおよび滲みを抑制する効果が高まり、紙基材の損傷が防止されるとともに、コストの点でも有利である。
【0025】
コロナ放電が生じる電極の先端から紙基材までの距離は特に限定されないが、1mm~20mmが好ましい。
【0026】
インク液滴とコロナ放電処理後の第1主面とがなす角度(接触角)は、例えば、15度以上、22度以下である。これにより、インク液滴は、第1主面に適度に濡れ広がりつつも、滲みは抑制される。
【0027】
(3)印刷工程
紙基材のコロナ放電処理された第1主面に、インクジェット法によりインクを付着させて、第1主面に、文字および/または画像を印刷する。印刷には、従来公知のインクジェットプリンタを使用することができる。
【0028】
(インク)
インクは、着色剤および水を含む。
水は、インクの主溶媒であり、溶媒全体の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上を占める。
【0029】
インクは、水以外の溶媒として、水溶性の有機溶剤を含んでいてもよい。水溶性の有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の低級アルキルエーテル等が挙げられる。水溶性の有機溶剤の含有割合は、インクジェットヘッド内での乾燥を防止する観点から、溶媒全体の10質量%以上であることが好ましい。水溶性の有機溶剤の含有割合は、印刷後に速やかに乾燥できる点で、40質量%以下であることが好ましい。
【0030】
着色剤としては特に限定されないが、例えば、自己分散顔料および樹脂分散顔料等の顔料、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料および食品用色素等の水溶性染料が挙げられる。着色剤の濃度も特に限定されないが、例えば、インクの1~8質量%である。
【0031】
インクは、添加剤として、例えば、樹脂粒子、ワックス、pH調節剤、金属封鎖剤、防カビ剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、湿潤剤、界面活性剤および防錆剤等を含んでいてもよい。
【0032】
(4)乾燥工程
準備工程の後、印刷工程の前に、紙基材を加熱する乾燥工程を備えてもよい。これにより、紙基材の水分率が低く(例えば、4質量%以下)なって、インクが紙基材の内部に浸透し易くなる。よって、滲みがさらに抑制され得る。
【0033】
乾燥工程は、準備工程の後、表面処理工程の前に行われてもよいし、表面処理工程の後、印刷工程の前に行われてもよい。あるいは、乾燥工程は、印刷工程とともに実行されてもよい。
【0034】
紙基材を加熱する方法は特に限定されず、遠赤外線ヒータ、温風ヒータ等のヒータを用いて、熱伝導、対流あるいは輻射により直接的に紙基材を加熱してもよい。これらヒータは、紙基材の第1主面側および/または第2主面側に配置される。あるいは、紙基材が載置される架台を加熱することにより、間接的に紙基材を加熱してもよい。架台を加熱する原理も特に限定されない。例えば、上記のようなヒータを用いて、熱伝導、対流あるいは輻射により架台を加熱してもよい。架台が金属材料または導電性を有する樹脂により形成される場合には、IH(Induction Heating:誘導加熱)により生じたうず電流を架台に流すか、あるいは、架台に直接的に電流を流して、発生したジュール熱により、架台を加熱してもよい。
【0035】
(5)その他
生産性の観点から、上記の各工程は、インライン方式で行われてもよい。インライン方式では、搬送機によって搬送されている紙基材の第1主面に対してコロナ放電処理が行われ、引き続き、搬送機によって搬送されているコロナ放電処理された第1主面に対してインクが付与される。この場合、例えば、準備工程の後、紙基材を搬送機の上流に供給し、下流に向けて搬送する搬送工程が付加される。
【0036】
[製造装置]
インクジェット印刷物を製造する方法は、例えば、印刷用の紙基材を搬送機の上流に供給する紙基材供給部と、紙基材供給部の下流に配置され、紙基材の第1主面にコロナ放電処理を行う表面処理部と、表面処理部の下流に配置され、コロナ放電処理された第1主面に、インクジェット法によりインクを付着させる印刷部と、を具備する製造装置により実施される。製造装置は、紙基材供給部の下流であって、かつ、印刷部の上流に配置され、紙基材を加熱する乾燥部をさらに備えてもよい。
【0037】
以下、図1を参照しながら、インクジェット印刷物を製造する装置について説明する。図1は、インクジェット印刷物の製造装置の構成の一例を概略的に示す側面図である。製造装置100は、インクジェット印刷物を製造するための製造ラインを構成している。製造装置100において、紙基材10は、製造ラインの上流から下流に搬送される。
【0038】
(a)紙基材供給部
製造装置100の最上流には、供給リール121に捲回された紙基材10を備える紙基材供給部120が設けられている。紙基材供給部120は、供給リール121を回転させて、紙基材10を搬送機110に供給する。搬送機110は、例えば、複数の搬送ローラ111と、搬送ローラ111で張架される搬送ベルト112とを備える。少なくとも1本の搬送ローラ111が回転駆動することにより、搬送ベルト112が回転し、紙基材10が搬送される。
【0039】
(b)表面処理部
紙基材10は、搬送機110により表面処理部130に搬送される。
表面処理部130は、コロナ放電装置131を備える。表面処理部130では、紙基材10のコロナ放電装置131に対向する第1主面10Xが、コロナ放電処理される。
【0040】
(c)印刷部
紙基材10は、コロナ放電処理された後、搬送機110により印刷部140に搬送される。
印刷部140は、インクジェットプリンタ141を備える。印刷部140では、紙基材10のコロナ放電処理された第1主面10Xに、インクジェットプリンタ141によりインクが付与されて、インクジェット印刷物20が得られる。
【0041】
(d)乾燥部
製造装置100は、乾燥部を備えていてもよい。乾燥部は、紙基材供給部120の下流であって、かつ、印刷部140の上流に配置される。図示例では、乾燥部(加熱装置160)は、表面処理部130における搬送機110の内部に収容されており、搬送機110を加熱することにより、間接的に紙基材10を加熱する。
【0042】
(e)回収部
最後に、印刷部140からインクジェット印刷物20を搬出し、より下流側に配置されている回収部150に搬送する。回収部150は、インクジェット印刷物20を捲き取る回収リール151を内蔵しており、インクジェット印刷物20は回収リール151に巻き取られて回収される。
【0043】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
上質紙にコート剤が塗布された塗工印刷用紙(キャスト紙、水分率5.7質量%、86.5g/m、厚み91μm)、および、ブラック(K、着色剤:カーボンブラック)、シアン(C、着色剤:フタロシアニン顔料)、マゼンタ(M、着色剤:キナクリドン)、イエロー(Y、着色剤:有機顔料)の4色のインクを準備した。
【0045】
各インクに含まれる顔料は、いずれも1~8質量%であった。各インクは、溶媒として、水を50~80質量%含み、水溶性の有機溶剤は10~40質量%であった。また、各インクは、粘度調整剤としてプロピレングリコールを適量含み、pH調整剤としてトリエタノールアミンを適量含む。
【0046】
上記塗工印刷用紙を架台に載置して、その第1主面に、放電量43.7W・分/mの条件でコロナ放電処理を行った。次いで、上記塗工印刷用紙をインクジェットプリンタにセットして、その第1主面に上記各インクの液滴をそれぞれ付着させて、4色のドットを形成した。インクの液滴量は、いずれも5ピコリットル(pl)とした。
【0047】
形成されたドットの中から、各色10個ずつ選出して直径を測定し、平均化された数値を各色のドットの直径とした。結果を図2に示す。なお、ブラックのインクとコロナ放電処理後の第1主面との接触角は、15.8度であった。
【0048】
[実施例2]
コロナ放電処理の放電量を87.4W・分/mにしたこと以外は、実施例1と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図2に示す。ブラックのインクとコロナ放電処理後の第1主面との接触角は、15.3度であった。
【0049】
[実施例3]
コロナ放電処理の放電量を121.8W・分/mにしたこと以外は、実施例1と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図2に示す。ブラックのインクとコロナ放電処理後の第1主面との接触角は、15.1度であった。
【0050】
[実施例4]
コロナ放電処理の放電量を153.8W・分/mにしたこと以外は、実施例1と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図2に示す。ブラックのインクとコロナ放電処理後の第1主面との接触角は、15.5度であった。
【0051】
[実施例5]
コロナ放電処理の放電量を192.3W・分/mにしたこと以外は、実施例1と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図2に示す。ブラックのインクとコロナ放電処理後の第1主面との接触角は、14.2度であった。
【0052】
[比較例1]
コロナ放電処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図2に示す。ブラックのインクと第1主面との接触角は、26.6度であった。
【0053】
[比較例2]
コロナ放電処理の放電量を21.9W・分/mにしたこと以外は、実施例1と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図2に示す。ブラックのインクとコロナ放電処理後の第1主面との接触角は、18.1度であった。
【0054】
[比較例3]
コロナ放電処理の放電量を304.5W・分/mにしたこと以外は、実施例1と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図2に示す。
【0055】
[実施例6~実施例10]
インクの液滴量を7plにしたこと以外は、それぞれ実施例1~実施例5と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図3に示す。
【0056】
[比較例4~比較例6]
インクの液滴量を7plにしたこと以外は、それぞれ比較例1~比較例3と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図3に示す。
【0057】
[実施例11~実施例15]
インクの液滴量を12plにしたこと以外は、それぞれ実施例1~実施例5と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図4に示す。
【0058】
[比較例7~比較例9]
インクの液滴量を12plにしたこと以外は、それぞれ比較例1~比較例3と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を図4に示す。
【0059】
図2~4のグラフからわかるように、コロナ放電処理の放電量を40W・分/m以上にすることにより、放電量が40W・分/m未満の場合よりも、塗工印刷用紙に付着したドットの径が大きくなる。ただし、ドット径はある一定以上に大きくならず、ピーク時よりも小さな値で安定化する。さらに放電量を300W・分/mより大きくしても、ドット径の変化は小さい。また、放電量を300W・分/mより大きくすると、コート剤層の表面に荒れが生じることが懸念される。放電量を大きくするためには、放電装置を大型化したり、処理速度を低下させる必要が生じる。そのため、放電量を300W・分/mより大きくすると、高コストになり、加えて生産性が低下する場合もある。
【0060】
実施例1~15と同様の条件で文字および画像をそれぞれ印刷したところ、得られた印刷物は、いずれもスジとともに滲みが抑制されて、非常に鮮明であった。
【0061】
[実施例16]
搬送機(搬送ベルト)で搬送される塗工印刷用紙に対して、コロナ放電処理およびインクジェット印刷をこの順に連続して行ったこと以外は、実施例2と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例17]
コロナ放電処理の前に加熱処理を行ったこと以外は、実施例16と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を表1に示す。なお、加熱処理は、塗工印刷用紙を、70℃に加熱された金属製の搬送機に載置することにより行った。この結果、インクジェット印刷に供される直前の塗工印刷用紙の水分率は、3.6質量%であった。
【0063】
【表1】
【0064】
[実施例18、実施例19]
インクの液滴量を7plにしたこと以外は、それぞれ実施例16および実施例17と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
[実施例20、実施例21]
インクの液滴量を12plにしたこと以外は、それぞれ実施例16および実施例17と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
[実施例22]
搬送機(搬送ベルト)で搬送される塗工印刷用紙に対して、コロナ放電処理およびインクジェット印刷をこの順に連続して行ったこと以外は、実施例3と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を表4に示す。
【0069】
[実施例23]
上記塗工印刷用紙を70℃に加熱された架台に載置して、加熱処理しながらコロナ放電処理を行ったこと以外は、実施例22と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を表4に示す。この結果、インクジェット印刷に供される直前の塗工印刷用紙の水分率は、3.6質量%であった。
【0070】
【表4】
【0071】
[実施例24、実施例25]
インクの液滴量を7plにしたこと以外は、それぞれ実施例22、実施例23と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
[実施例26、実施例27]
インクの液滴量を12plにしたこと以外は、それぞれ実施例22、実施例23と同様にして第1主面にドットを形成し、評価した。結果を表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
[参考例]
紙基材に替えて、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルムに対して、実施例1~実施例5、比較例1および比較例2と同様にしてドットを形成し、評価した。結果を図5に示す。
【0076】
水を含むインクは樹脂フィルム製の基材に濡れ難いため、コロナ放電処理を行わずにインクジェット印刷を施すと、得られる印刷物にはスジが生じていた。一方、紙基材と同様の条件でコロナ放電処理を施すと、親水性が過度に高まり、ドット径は非常に大きくなった。その結果、得られる印刷物には滲みが発生しており、不鮮明であった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る製造方法および製造装置は、鮮明な文字および/または画像を備えるインクジェット印刷物が得られるため、紙基材を印刷媒体とする種々の用途に使用できる。
【符号の説明】
【0078】
100:製造装置
110:搬送機
111:搬送ローラ
112:搬送ベルト
120:紙基材供給部
121:供給リール
130:表面処理部
131:コロナ放電装置
140:印刷部
141:インクジェットプリンタ
150:回収部
151:回収リール
160:乾燥部(加熱装置)
10:紙基材
10X:第1主面
20:インクジェット印刷物
図1
図2
図3
図4
図5