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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20221220BHJP
   H01M 10/28 20060101ALI20221220BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20221220BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/124 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/131 20210101ALN20221220BHJP
   H01M 4/02 20060101ALN20221220BHJP
   H01M 4/24 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
H01M10/04 W
H01M10/28 A
H01M10/30 Z
H01M50/119
H01M50/124
H01M50/107
H01M50/131
H01M4/02 Z
H01M4/24 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018230157
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020092064
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】高須 大
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183193(JP,A)
【文献】特開2011-054539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/39
H01M50/10-50/198
H01M50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄製の基体と、前記基体の表面を覆う被覆層と、を有する板材により形成されており、一方極の端子を兼ねる有底円筒状の電池用缶と、
他方極の端子が電気的に接続されており前記電池用缶の上端開口を封止している封口体と、
前記一方極及び前記他方極がセパレータを介して積層され渦巻き状に巻回されてなる円柱状の電極群であって、前記電池用缶内に電解液とともに収容されている電極群と、
を備え、
前記一方極の最外周部は、前記電極群の最外周に位置付けられており、前記電極群の径方向外側に位置する最外周第1領域と、前記電極群の径方向内側に位置する最外周第2領域とを含んでおり、
前記一方極の最外周第1領域は、フッ素樹脂の層を有しており、
前記フッ素樹脂の量は、0.3g/cm以上である、二次電池。
【請求項2】
前記フッ素樹脂の層は、前記電極群の最大径となる部分に少なくとも形成されている、請求項1に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関し、詳しくは、鉄製の電池用缶を含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機器の電源として用いられる電池の一種として二次電池が知られている。二次電池は、充電を繰り返すことにより、繰り返し使用することができる便利な電池である。このような二次電池の一種に、円筒型の二次電池がある。
【0003】
円筒型の二次電池は、セパレータを間に挟んだ状態で重ね合わされた正極及び負極が渦巻き状に巻回されて形成された電極群が、負極端子を兼ねる有底円筒状の電池用缶に電解液とともに収容され、この電池用缶の上端開口が、正極端子を備えた蓋板で密封されることにより形成される。
【0004】
ところで、上記した電解液は一般的に腐食性が高いことから、二次電池に用いられる電池用缶の素材としては、耐食性に優れるニッケルを用いることが理想である。
【0005】
しかしながら、ニッケルは、需要の増大にともない価格が高騰しているので、電池の製造コストを考慮すると、ニッケルの使用量は極力少なくすることが望ましい。
【0006】
そこで、ニッケルよりも廉価な鉄を基体とし、この基体にニッケルめっきが施された材料、例えば、ニッケルめっき鋼板を用いて有底円筒状の電池用缶を製造することが一般的に行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平08-055613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、二次電池を製造する場合に、電極群が電池用缶の中に挿入される過程で、電極群の最外周部と電池用缶の内周面とは擦れ合う。そうすると、電池用缶の内周面には傷がつき、基体の鉄が露出することがある。このように鉄が露出していると、電池を長期間放置した場合に、当該鉄が電解液中に溶出することがある。電解液中に溶出した鉄は、一部が正極の表面に析出する。正極に析出した鉄は、正極において充電電圧の低下を引き起こし、充電効率を下げて電池の容量を低下させる。この鉄の溶出が原因の容量低下は、不活性化による容量低下とは異なり、充放電を繰り返しても容量は回復しない。つまり、鉄の溶出は、二次電池の容量回復率の低下を招く。
【0009】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、鉄の溶出にともなう容量回復率の低下を抑制することができる二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、鉄製の基体と、前記基体の表面を覆う被覆層と、を有する板材により形成されており、一方極の端子を兼ねる有底円筒状の電池用缶と、他方極の端子が電気的に接続されており前記電池用缶の上端開口を封止している封口体と、前記一方極及び前記他方極がセパレータを介して積層され渦巻き状に巻回されてなる円柱状の電極群であって、前記電池用缶内に電解液とともに収容されている電極群と、を備え、前記電極群は、最外周部にフッ素樹脂の層を有しており、前記フッ素樹脂の量は、0.3g/cm以上である、二次電池が提供される。
【0011】
また、前記フッ素樹脂の層は、前記電極群の最大径となる部分に少なくとも形成されている、構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る二次電池は、電極群が、最外周部にフッ素樹脂の層を有しているので、電極群の最外周部が電池用缶の内周面と擦れたとしても電池用缶の被覆層に傷をつけることは十分に抑制でき、電池用缶の基体が露出することを防止できる。このため、電池を長期間放置しても電池用缶の基体から電解液中へ鉄が溶出することを抑えることができる。よって、本発明によれば、鉄の溶出にともなう容量回復率の低下を抑制することができる二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るニッケル水素二次電池を部分的に破断して示した斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るニッケル水素二次電池の横断面を示した断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る負極の中間製品の構成を示した斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る負極の構成を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る二次電池として、AAサイズの円筒型のニッケル水素二次電池(以下、電池という)2を例に挙げ、図面を参照して説明する。
【0015】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす電池用缶10を備えている。電池用缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。
【0016】
ここで、電池用缶10は、鉄製の基体と、この基体の表面を覆う被覆層とを備えた板材が、有底円筒状に加工されて形成される。鉄製の基体としては、一般的には、鋼板が用いられる。そして、この鋼板の表面を覆う被覆層としては、ニッケルめっき層が好適なものとして採用される。つまり、電池用缶10の材料としては、ニッケルめっき鋼板を用いることが好ましい。
【0017】
電池用缶10の開口には、封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14及び正極端子20を含み、電池用缶10を封口する。蓋板14は、導電性を有する円板形状の部材である。電池用缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は電池用缶10の開口縁37をかしめ加工することにより電池用缶10の開口縁37に固定されている。すなわち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して電池用缶10の開口を密閉している。
【0018】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有している。そして、蓋板14の外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状をなす金属製の正極端子20が電気的に接続されている。この正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、正極端子20には、図示しないガス抜き孔が設けられている。
【0019】
なお、上記した蓋板14及び正極端子20の材料についてもニッケルめっき鋼板を用いることが好ましい。
【0020】
上記した中央貫通孔16は、通常時、弁体18によって気密に閉じられている。一方、電池用缶10内にガスが発生し、そのガスの圧力が高まれば、弁体18はガスの圧力によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、その結果、電池用缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔(図示せず)を介して外部にガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池2のための安全弁を形成している。
【0021】
電池用缶10には、電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28を含んでいる。
【0022】
詳しくは、図2を参照すると、電極群22において、正極24及び負極26は、セパレータ28を間に挟んだ状態で電極群22の径方向でみて交互に重ね合わされている。
【0023】
ここで、電極群22の製造手順は以下の通りである。
まず、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28を準備する。そして、正極24及び負極26を、セパレータ28を介して重ね合わせた積層体を形成する。得られた積層体は、その一端側から巻芯を用いて渦巻状に巻回される。これにより円柱状の電極群22が得られる。
【0024】
電極群22は、上記のように製造されるため、正極24及び負極26の一端(巻き始め端)36、38が電極群22の中心側に位置付けられるとともに、正極24及び負極26の他端(巻き終わり端)40、42が電極群22の外周側に位置付けられている。電極群22の外周にはセパレータ28は巻回されておらず、負極26の最外周部50が電極群22の最外周部を形成している。つまり、負極26の最外周部50における電極群22の径方向外側の面(外面)52は、セパレータ28で覆われていない。また、負極26の最外周部50における電極群22の径方向内側の面(内面)54は、セパレータ28を介して正極24と対向している。つまり、負極26の最外周部50は、内面54でのみ正極24と対向している。
【0025】
更に、負極26においては、最外周部50よりも内側に内周部56が連続しており、この内周部56よりも更に内側の電極群22の巻回中心付近には、最内周部58が連続している。
【0026】
上記した内周部56は、負極26の外面52及び内面54の両方の面がセパレータ28を介して正極24と対向している部分であり、渦巻き状に巻回されて、電極群22の巻回中心付近まで延びている。
【0027】
上記した最内周部58は、電極群22の中心部に位置付けられており、その外面52がセパレータ28を介して正極24と対向している。なお、電極群22においては、巻芯を用いた巻回作業が終了すると巻芯は取り外されるので、当該巻芯が取り外された部分には貫通孔44が形成される。
【0028】
上記のように、電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部50)により形成されており、電池用缶10に収容された電極群22は、負極26の最外周部50が電池用缶10の内周面と接触している。これにより、負極26と電池用缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0029】
電池用缶10内には、電極群22の一部と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、図1に示すように、正極リード30は、その一端が正極24に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は上部絶縁部材32に設けられたスリット39の中を通されて延びている。また、電極群22と電池用缶10の底壁35との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0030】
更に、電池用缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、電極群22に含浸され、正極24と負極26との間での充放電の際の電気化学反応(充放電反応)を進行させる。このアルカリ電解液としては、KOH、NaOH及びLiOHのうちの少なくとも一種を溶質として含む水溶液を用いることが好ましい。
【0031】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0032】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極基材と、この正極基材の空孔内に保持された正極合剤とを含んでいる。
【0033】
このような正極基材としては、例えば、ニッケルめっきを施した発泡メタルのシート、発泡ニッケルのシート等を用いることができる。
【0034】
正極合剤は、正極活物質粒子と、結着剤と、導電剤とを含む。また、正極合剤には、必要に応じて正極添加剤が添加される。
【0035】
上記した結着剤は、正極活物質粒子を互いに結着させるとともに、正極活物質粒子を正極基材に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョン等を用いることができる。
【0036】
導電剤としては、例えば、一酸化コバルト等を挙げることができる。
また、正極添加剤としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化コバルト等を挙げることができる。
【0037】
正極活物質粒子としては、ニッケル水素二次電池用として一般的に用いられている水酸化ニッケル粒子が用いられる。この水酸化ニッケル粒子は、高次化されている水酸化ニッケル粒子を採用することが好ましい。
【0038】
上記したような正極活物質粒子は、ニッケル水素二次電池用として一般的に用いられている製造方法により製造される。
【0039】
ついで、正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、正極活物質粒子、水及び結着剤を含む正極合剤スラリーを調製する。調製された正極合剤スラリーは、例えば、ニッケルめっきが施された発泡メタルのシートに充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填された発泡メタルのシートは、圧延されてから裁断される。これにより正極24が製造される。
【0040】
次に、負極26について説明する。
負極26は、導電性を有する帯状の負極芯体62と、この負極芯体62に担持された負極合剤により形成された負極合剤層68と、この負極合剤層68における負極26の最外周部50に相当する部分の表面に配設されたフッ素樹脂85により形成されたフッ素樹脂層90とを備え、全体として帯状をなしている。ここで、フッ素樹脂層90は、負極合剤層68における負極26の最外周部50に相当する部分の表面の少なくとも一部にフッ素樹脂85を配設させることにより形成される。
【0041】
負極芯体62は、貫通孔が多数穿設された帯状の金属材であり、例えば、パンチングメタルシートを用いることができる。
【0042】
負極合剤は、負極芯体62の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極芯体62の第1面64及び第2面66にも層状に担持されて負極合剤層68を形成している。
【0043】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子、導電剤、結着剤及び負極補助剤を含む。
【0044】
上記した結着剤は水素吸蔵合金粒子、導電剤等を互いに結着させると同時に水素吸蔵合金粒子、導電剤等を負極芯体に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、親水性若しくは疎水性のポリマー、カルボキシメチルセルロースなどの、ニッケル水素二次電池用として一般的に用いられている結着剤を用いることができる。
【0045】
また、負極補助剤としては、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸ナトリウム等を用いることができる。
【0046】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではなく、一般的なニッケル水素二次電池用の水素吸蔵合金を用いることが好ましい。より好ましくは、以下に示す一般式(I)で表される組成を有する水素吸蔵合金を用いる。
Ln1-xMgNiy-a-bAl・・・(I)
【0047】
ただし、一般式(I)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Ti及びZrから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、x、yは、それぞれ、0.05≦a≦0.30、0≦b≦0.50、0≦x<0.05、2.8≦y≦3.9で示される関係を満たしている。
【0048】
水素吸蔵合金の粒子は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットに、900~1200℃の不活性ガス雰囲気下にて5~24時間保持する熱処理を施す。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金の粒子を得る。
【0049】
ここで、水素吸蔵合金の粒子としては、その粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは、平均粒径が55.0~80.0μmのものを用いる。ここで、平均粒径とは、粒子径分布測定装置を用いてレーザー回折・散乱法により求めた体積平均粒径(MV)を意味する。
【0050】
導電剤としては、ニッケル水素二次電池の負極に一般的に用いられている導電剤が用いられる。例えば、カーボンブラック等が用いられる。
【0051】
次に、フッ素樹脂85により形成されるフッ素樹脂層90は、負極合剤層68における負極26の最外周部50に相当する部分の所定位置に設けられている。このため、電極群22の最外周部となる負極26の最外周部50が電池用缶10の内周面に当接しても、電池用缶10の内周面の被覆層すなわちニッケルめっき層に傷をつけない働きをする。
【0052】
フッ素樹脂85としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレンの共重合体(以下、FEPという)、パーフルオロアルコキシアルカン(以下、PFAという)等を用いることが好ましい。
【0053】
ここで、フッ素樹脂層90が形成される前の負極の中間製品60の形状について、図3を基に説明する。なお、図3においては、中間製品60の構成を理解し易くするため、負極合剤層68の厚さ等を誇張して表現している。また、図3においては、電極群22の巻回中心付近に位置付けられる最内周部58の図示は省略した。
【0054】
負極の中間製品60は、帯状をなしており、図3に示すように、負極芯体62と、負極芯体62の第1面64、及び、第1面64とは反対側の第2面66に担持された負極合剤により形成された負極合剤層68とを備えている。なお、第1面64は、負極26の外面52の側に位置し、第2面66は、負極26の内面54側に位置している。
【0055】
負極合剤層68は、第1面64の側に位置する第1負極合剤層70と、第2面66の側に位置する第2負極合剤層72とを含んでいる。
【0056】
第1負極合剤層70は、負極26の最外周部50に対応する位置に位置付けられている最外周第1領域74と、最外周第1領域74に連続する内周第1領域76とを含んでいる。
【0057】
第2負極合剤層72は、最外周第1領域74の反対側で、この最外周第1領域74と対応する範囲に位置する最外周第2領域78と、上記した内周第1領域76の反対側で、この内周第1領域76と対応する範囲に位置する内周第2領域80とを含んでいる。
【0058】
最外周第1領域74の厚さt1は、その他の部分、すなわち、最外周第2領域78、内周第1領域76及び内周第2領域80の厚さt2、t3、t4よりも薄い。なお、t2、t3、t4のそれぞれの厚さは同じ寸法とすることが好ましい。
【0059】
また、負極26の最外周部50における単位面積当たりの負極合剤の量が、負極26の内周部56における単位面積当たりの負極合剤の量の50%以上、80%以下の範囲に設定することが好ましい。
【0060】
負極26の最外周部50は、電池用缶10の内周面と対向する部分であり、且つ、正極24とは対向していない部分である(図2参照)。このため、負極26の最外周部50は、電池反応にあまり寄与しないので、負極合剤の量は他の部分に比べ少なく、他の部分よりも薄く形成される。
【0061】
本発明においては、図4に示すように、最外周第1領域74の部分にフッ素樹脂層90が形成されている。なお、図4においては、負極26の構成を理解し易くするため、負極合剤層68の厚さ等を誇張して表現している。
【0062】
ここで、最外周第1領域74の部分のフッ素樹脂層90を構成するフッ素樹脂85の量をAとする。そして、Aについては、フッ素樹脂層90が形成される部分の単位面積当たりの質量で表した場合に、0.3g/cm以上とすることが好ましい。つまり、フッ素樹脂層90を最外周第1領域74に形成する場合には、最外周第1領域74の単位面積当たり0.3g以上となる量のフッ素樹脂85を用いてフッ素樹脂層90を形成する。
【0063】
上記したAが0.3g/cm以上となる量のフッ素樹脂85を塗布してフッ素樹脂層90を形成した場合、得られるフッ素樹脂層90の厚さが、電池用缶10の内周面の被覆層(ニッケルめっき層)に傷をつけないために十分な厚さとなる。また、フッ素樹脂は、摩擦係数が低く滑り性に優れているので、電極群22を電池用缶10に挿入する際に、挿入のし易さに貢献する。
【0064】
上記したAが0.3g/cm未満となると、十分な厚さのフッ素樹脂層90が得られず、電極群22が電池用缶10の内周面と擦れた場合に、電池用缶10の内周面の被覆層(ニッケルめっき層)に傷をつけてしまうおそれがある。
【0065】
また、上記したAが4.0g/cmを超えると、得られるフッ素樹脂層90の厚さが、厚くなりすぎ、放電特性が低下するおそれがある。
【0066】
よって、Aの値は、0.3g/cm以上、4.0g/cm以下とすることが好ましい。Aの値を上記範囲とすることにより、電極群22の最外周部で電池用缶10の内周面の被覆層(ニッケルめっき層)に傷をつけることを抑制する効果及び放電特性の低下を抑制する効果が得られる。
【0067】
負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記のような水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電剤と、結着剤と、水とを準備し、これらを混練して負極合剤のペーストを調製する。次いで、得られたペーストを負極芯体の両面に塗着する。このとき、図3に示すように、最外周第1領域74の厚さを、他の部分、すなわち、最外周第2領域78、内周第1領域76及び内周第2領域80の厚さよりも薄くする。その後、ペーストの乾燥処理を施す。乾燥後は、負極芯体62に担持された負極合剤に圧延処理を施す。このようにして、負極の中間製品60を得る。
【0068】
次に、負極の中間製品60の最外周第1領域74に所定量のフッ素樹脂の分散液を塗布する。フッ素樹脂の分散液を負極の中間製品60に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、刷毛、スポンジローラー、ドクターブレード等により塗布する方法を用いることが好ましい。
【0069】
そして、上記した塗布工程の後に、乾燥処理を施す乾燥工程を設けることにより、分散液の水分を蒸発させる。その結果、図4に示すように、負極合剤層68の上に、フッ素樹脂85が残り、フッ素樹脂層90が形成される。
【0070】
なお、上記したフッ素樹脂の分散液の塗布工程では、20℃以上、25℃以下の環境下でフッ素樹脂の分散液を負極の中間製品60に塗布することが好ましい。
【0071】
更に、塗布工程の後の乾燥工程では、塗布工程を経た負極の中間製品60を40℃以上、80℃以下の温度環境下で5分間以上、15分間以下保持し、フッ素樹脂の分散液の水分を蒸発させることが好ましい。乾燥温度が40℃未満では、フッ素樹脂の分散液の水分の蒸発が良好に進行せず、フッ素樹脂を設計した量に保持することが難しくなる。一方、80℃を超えると、フッ素樹脂や他の構成材料が変質するおそれがある。このため、乾燥工程の乾燥温度は上記した範囲に設定することが好ましい。また、乾燥工程での保持時間が5分未満ではフッ素樹脂の分散液が十分に乾燥しない。一方、少なくも15分間保持すれば分散液の乾燥は完了する。このため、乾燥工程の保持時間は上記した範囲に設定することが好ましい。
【0072】
上記したように、フッ素樹脂の分散液の塗布工程と乾燥工程を経た負極の中間製品60は所定形状に裁断される。これにより、負極合剤層68上の所定位置にフッ素樹脂層90が形成された負極26が得られる。
【0073】
ここで、本発明で用いる負極26の全体厚みは、0.100mm以上、0.550mm以下とすることが好ましい。全体厚みが0.100mmより薄い場合には、極板一枚に充填された水素吸蔵合金の量が少なく、必要な電池容量を得るのが困難となる。一方、全体厚みが0.550mmより厚い場合、電池の構成部材に占める負極の体積が大きくなり、電池用缶10へ電極群22を収容することが困難になるからである。
【0074】
以上のようにして製造された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、これにより電極群22が形成される。得られた電極群22の最外周部には、負極26の最外周部50が位置付けられており、負極26の最外周部50の所定位置にはフッ素樹脂層90が存在している。
【0075】
このようにして得られた電極群22は、電池用缶10内に収容される。引き続き、当該電池用缶10内には所定量のアルカリ電解液が注入される。その後、電極群22及びアルカリ電解液を収容した電池用缶10は、正極端子20を備えた封口体11により封口され、本発明に係る電池2が得られる。得られた電池2は、初期活性化処理が施され、使用可能状態とされる。
【0076】
本発明に係る電池2は、そこに含まれる負極26が、電極群22の最外周部に相当する最外周第1領域74にフッ素樹脂層90を有しているので、電極群22を電池用缶10に挿入する際に、電極群22が電池用缶10の内周面に当接しても、電池用缶10の内周面のニッケルめっき層に傷を付けることを抑制できる。よって、電池用缶10の基体が露出することは防止され、長期間放置しても電池用缶10の基体から鉄が電解液中に溶出することを防止できる。このため、本発明に係る電池2は、鉄の溶出にともなう容量回復率の低下を抑制することができる優れた電池となる。
【0077】
ここで、電極群22の最外周部に相当する負極26の最外周第1領域74にフッ素樹脂層90が存在しているが、このフッ素樹脂層90を構成するフッ素樹脂85の量は、0.3g/cm以上、4.0g/cm以下である。この程度のフッ素樹脂85の塗布量では、負極26の最外周第1領域74は、ミクロ的に見れば表面が覆われている部分と覆われていない部分とが存在する。電極群22は、電池用缶10に挿入された後、巻回された方向とは逆方向に戻ろうとして径が広がる。このため、電極群22は電池用缶10の内周面に圧力を加える。その結果、負極26における最外周第1領域74のフッ素樹脂85で覆われていない部分が電池用缶10の内周面に押し付けられて接触し、負極26と電池用缶10との電気的接続が図られる。
【0078】
なお、上記した実施形態においては、フッ素樹脂層90は、負極の中間製品60に形成したが、本発明はこの態様に限定されるものではなく、電極群22を形成してから、電極群22の最外周部にフッ素樹脂の分散液を塗布し、フッ素樹脂層90を形成しても構わない。
【0079】
また、上記した実施形態においては、フッ素樹脂層90を負極26の最外周第1領域74の全体に設けたが、本発明はこの態様に限定されるものではなく、電極群22の最大径となる部分に少なくとも形成されていればよい。
【0080】
また、フッ素樹脂層90については、電池用缶10の内面側に設けても同様な効果が得られる。
【0081】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)正極の製造
【0082】
所定量の硫酸ニッケルを、アンモニウムイオンを含む1Nの水酸化ナトリウム水溶液に加え、混合水溶液を調製した。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に10Nの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させた。ここでの反応中のpHは13~14に安定させた。これにより水酸化ニッケル粒子(正極活物質粒子)を生成させた。
【0083】
得られた水酸化ニッケル粒子を10倍の量の純水で3回洗浄した後、脱水及び乾燥処理を行った。これにより、水酸化ニッケル粒子の集合体である水酸化ニッケル粉末を得た。なお、得られた水酸化ニッケル粒子につき、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置を用いて粒径を測定した結果、斯かる水酸化ニッケル粒子の体積平均粒径(MV)は8μmであった。
【0084】
次に、上記したようにして得られた水酸化ニッケル粉末10質量部に、一酸化コバルトの粉末0.01質量部と、カルボキシメチルセルロースの粉末0.003質量部と、水5質量部とを添加して混練し、正極合剤スラリーを調製した。
【0085】
ついで、この正極合剤スラリーを正極基材としてのシート状の発泡メタルに充填した。ここで、発泡メタルとしては、面密度(目付)が約300g/m、多孔度が95%、厚みが約2mmであるものを用いた。なお、この発泡メタルにはニッケルめっきが施されている。
【0086】
発泡メタルに充填された正極合剤スラリーを乾燥後、圧延成形し、その後、所定の寸法に裁断した。これにより、AAサイズ用の正極24を得た。
【0087】
(2)負極の製造
La、Sm、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合して混合物を得た。この混合物を不活性ガス(アルゴンガス)雰囲気中で高周波誘導溶解炉にて溶解し、得られた溶湯を鋳型に流し込み、室温まで冷却して合金インゴットを得た。そして、当該合金インゴットにアルゴンガス雰囲気中にて1000℃で10時間保持する熱処理を施して均質化した後、アルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により粒径分布を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は65μmであった。
【0088】
また、得られた水素吸蔵合金について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて組成分析を行ったところ、水素吸蔵合金の組成は、La0.194Sm0.776Mg0.03Ni3.30Al0.20であった。
【0089】
ついで、得られた水素吸蔵合金の粉末10質量部に、カルボキシメチルセルロースの粉末を0.005質量部、カーボンブラックの粉末を0.05質量部及び水を2.5質量部添加して、これらを混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0090】
この負極合剤ペーストを負極芯体としてのパンチングメタルシートの第1面(表側の面)及び第2面(裏側の面)に塗布した。このパンチングメタルシートは、直径1mmの貫通孔が多数あけられた冷間圧延鋼板(SPCC鋼板)製の帯状体であり、厚さが60μmであり、その表面にはニッケルめっきが施されている。なお、パンチングメタルシートの貫通孔内にも負極合剤ペーストは充填されている。
【0091】
ここで、負極合剤ペーストの厚さは、最外周第1領域74となる部分の厚さを0.14mm、最外周第2領域78、内周第1領域76及び内周第2領域80となる部分の厚さをそれぞれ0.25mmとした。
【0092】
ついで、負極合剤ペーストを乾燥させた後、パンチングメタルシートに担持された負極合剤をロール圧延し、その後、所定のサイズに裁断した。これにより、負極の中間製品60を得た。
【0093】
次に、負極の中間製品60の最外周第1領域74に対し、25℃の温度環境下でフッ素樹脂としてPTFEを含む分散液を刷毛により塗布する塗布工程を経た後、当該分散液の水分を蒸発させる乾燥処理を施した。乾燥処理は、負極の中間製品を60℃の環境下で15分間保持することにより行った。これにより、負極26を得た。
【0094】
ここで、上記した塗布工程では、フッ素樹脂を含む分散液は、最外周第1領域74に所定量を塗布した。詳しくは、以下の通りである。
【0095】
最外周第1領域74に塗布する分散液の量を所定量Bとすると、この所定量Bの分散液の中には、最外周第1領域74の単位面積当たりの質量で表わした場合に0.3g/cmとなる量のフッ素樹脂を含有させた。よって、乾燥処理後は、最外周第1領域74の単位面積当たりの質量で表わした場合に0.3g/cmとなる量のフッ素樹脂により形成されたフッ素樹脂層90が形成された。
【0096】
ここで、最外周第1領域74において、所定量Bの分散液を用いてフッ素樹脂層90を形成した場合に、得られたフッ素樹脂層90のフッ素樹脂の量Aが0.3g/cmとなっているか確認するため、以下の確認作業を行った。
【0097】
まず、負極の中間製品60の質量(以下、基本質量という)を計測した。その後、最外周第1領域74にフッ素樹脂の分散液を所定量Bだけ塗布した後、当該中間製品60を60℃の環境下で15分間保持する乾燥処理を施した。乾燥後の中間製品60について質量(以下、B塗布後質量という)を計測した。その後、B塗布後質量から基本質量を減算し、フッ素樹脂層90の総質量を求めた。そして、フッ素樹脂層90の総質量と最外周第1領域74の面積とから、最外周第1領域74の単位面積当たりの質量で表わした場合のフッ素樹脂の量Aを計算した。その結果、フッ素樹脂の量Aは0.3g/cmであることを確認した。
【0098】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
セパレータ28を2枚準備するとともに、上記のようにして得られた正極24及び負極26を準備した。そして、セパレータ28、正極24、セパレータ28、負極26の順序でこれらを積層して積層体を形成した。次いで、最下層のセパレータ28の一方の端に巻芯を配置し、負極26を外側にした状態で斯かる積層体を渦巻き状に巻回し、電極群22を製造した。ここでの電極群22の製造に使用したセパレータ28はスルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維製不織布であり、その厚みは0.15mm(目付量53g/m)であった。次いで、得られた渦巻状の電極群22をニッケルめっきが施されたSPCC鋼板製の有底円筒状の電池用缶に収容した(収容工程)。
【0099】
その後、正極の所定位置に予め接合されている正極リードを封口体に接合した。
【0100】
一方、KOH、NaOH及びLiOHを溶質として含む水溶液であるアルカリ電解液を準備した。このアルカリ電解液は、KOH、NaOH及びLiOHの質量混合比が、KOH:NaOH:LiOH=11.0:2.6:1.0である。また、このアルカリ電解液の規定度は、8Nである。
【0101】
ついで、収容工程を経て、電極群22が収容された有底円筒形状の電池用缶10の中に、準備したアルカリ電解液を2g注入した。その後、封口体11で電池用缶10の開口を塞ぎ、公称容量1000mAhのAAサイズの電池2を組み立てた。
【0102】
(実施例2)
PTFEの代わりにPFAを含む分散液を用いたことを除き、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を製造した。
【0103】
(比較例1)
負極の中間製品60の最外周第1領域74に対し、フッ素樹脂の分散液の塗布を行わず、フッ素樹脂層を設けなかったことを除き、実施例1と同様にしてニッケル水素二次電池を製造した。
【0104】
2.電池の評価
(1)容量回復率の測定
初期活性化処理済みの実施例1及び比較例1の電池について、25℃の環境下にて、1000mAの充電電流で、電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電するいわゆる-ΔV制御での充電を行った後、1時間休止し、その後、200mAの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電した。この充放電操作を第1充放電操作という。
【0105】
第1充放電操作が終了した各電池について、25℃の環境下にて、100mAの充電電流を16時間流して充電を行った後、1時間休止し、その後、200mAの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電した。この充放電操作を第2充放電操作という。
【0106】
第2充放電操作が終了した各電池について、25℃の環境下にて、3ヶ月間放置した。
3ヶ月間放置した後の各電池について、25℃の環境下にて、1000mAの充電電流で、電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電するいわゆる-ΔV制御での充電を行った後、1時間休止し、その後、200mAの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電する充放電サイクルを3回繰り返した。この充放電操作を第3充放電操作という。
【0107】
第3充放電操作が終了した各電池について、25℃の環境下にて、100mAの充電電流を16時間流して充電を行った後、1時間休止し、その後、200mAの放電電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電した。この充放電操作を第4充放電操作という。
【0108】
上記した第2充放電操作の際に放電容量を測定した。その結果を放置前放電容量とした。
また、上記した第4充放電操作の際に放電容量を測定した。その結果を放置後放電容量とした。
【0109】
そして、次の式(II)により容量回復率を求め、その結果を表1に示した。
容量回復率[%]=(放置後放電容量/放置前放電容量)×100・・・(II)
【0110】
(2)鉄析出量の分析
容量回復率の測定が終了した各電池を分解し、電池内部から正極を取り出した。取り出した正極を、洗浄せずに、縦2cm、横2cmの大きさの正方形状に切断し、サンプルを得た。
得られたサンプルを蛍光X線分析装置にセットし、鉄の蛍光X線を検出し、その強度から鉄の量を測定した。このとき、蛍光X線分析装置の測定視野内の鉄の量をfとし、測定視野内の正極の質量をpとした場合に、鉄の析出量を、以下の式(III)により求めた。得られた結果を正極上の鉄析出量として表1に示した。
正極上の鉄析出量[%]=(f/p)×100・・・(III)
【0111】
【表1】
【0112】
(3)考察
電極群22の最外周部にフッ素樹脂層を有していない比較例1の電池においては、正極上の鉄析出量が0.256%であった。
【0113】
これに対し、電極群22の最外周部にフッ素樹脂層を有している実施例1及び2の電池においては、正極上に鉄析出量が0.128%及び0.136%であり、比較例1に比べ鉄の析出量が少ないことがわかる。
【0114】
このことから、電池用缶10の内周面に接する電極群22の最外周部(負極の最外周第1領域74)にフッ素樹脂の層が存在していると、電池用缶10の内周面の被覆層(ニッケルめっき層)に傷がつかず、長期間放置しても電池用缶の基体から鉄が溶出することを少なく抑える効果が得られているといえる。
【0115】
また、3ヶ月放置後の容量回復率についても、フッ素樹脂層を有していない比較例1の電池の容量回復率が95.2%であるのに対し、フッ素樹脂層を有している実施例1及び2の電池の容量回復率は96.4%及び96.3%であり、実施例1及び2の電池は、比較例1の電池よりも容量回復率が改善されていることがわかる。
【0116】
このことから、電極群22の最外周部にフッ素樹脂層を設けることにより、電池用缶の基体からの鉄の溶出が抑えられ、その結果、鉄の溶出にともなう容量回復率の低下を抑制することができるといえる。
【0117】
なお、本発明は、上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上記実施例では、ニッケル水素二次電池について説明したが、この態様に限定されるものではく、鉄を基体に使用する電池用缶を含む二次電池であって、ニッケルカドミウム二次電池、リチウムイオン二次電池等の他の二次電池に本発明を適用しても同様の効果が得られる。
【0118】
また、上記した実施形態及び実施例では、電池用缶に接続される側の極を負極とし、封口体に接続される側の極を正極としたが、本発明はこの態様に限定されるものではなく、電池用缶に接続される側の極を正極とし、封口体に接続される側の極を負極としてもよい。
【0119】
また、上記した実施形態及び実施例では、負極の最外周部を他の部分よりも薄くした態様としたが、本発明はこの態様に限定されるものではなく、負極の最外周部の厚さを他の部分と同じ厚さとしても構わない。
【0120】
<本発明の態様>
本発明の第1の態様は、鉄製の基体と、前記基体の表面を覆う被覆層と、を有する板材により形成されており、一方極の端子を兼ねる有底円筒状の電池用缶と、他方極の端子が電気的に接続されており前記電池用缶の上端開口を封止している封口体と、前記一方極及び前記他方極がセパレータを介して積層され渦巻き状に巻回されてなる円柱状の電極群であって、前記電池用缶内に電解液とともに収容されている電極群と、を備え、前記電極群は、最外周部にフッ素樹脂の層を有しており、前記フッ素樹脂の量は、0.3g/cm以上である、二次電池である。
【0121】
これにより、本発明の第1の態様によれば、電極群の最外周部が電池用缶の内周面と擦れたとしても電池用缶の被覆層に傷をつけることは十分に抑制でき、電池用缶の基体が露出することを防止できる。このため、電池用缶の基体からの鉄の溶出を抑えることができ、鉄の溶出にともなう容量回復率の低下を抑制できるという作用効果が得られる。
【0122】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記フッ素樹脂の層は、前記電極群の最大径となる部分に少なくとも形成されている二次電池である。
【0123】
これにより、本発明の第2の態様によれば、電極群において、電池用缶の内周面に特に当接し易い部分にフッ素樹脂の層が存在するので、電池用缶の被覆層に傷をつけることをより確実に抑制できるという作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0124】
2 ニッケル水素二次電池(電池)
22 電極群
24 正極
26 負極
28 セパレータ
62 負極芯体
68 負極合剤層
70 第1負極合剤層
72 第2負極合剤層
74 最外周第1領域
76 内周第1領域
78 最外周第2領域
80 内周第2領域
85 フッ素樹脂
90 フッ素樹脂層
図1
図2
図3
図4