IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ FDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-アルカリ二次電池 図1
  • 特許-アルカリ二次電池 図2
  • 特許-アルカリ二次電池 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】アルカリ二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/28 20060101AFI20221220BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20221220BHJP
   H01M 50/159 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/164 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/571 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/534 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/16 20210101ALI20221220BHJP
   H01M 50/152 20210101ALN20221220BHJP
   H01M 50/133 20210101ALN20221220BHJP
【FI】
H01M10/28 Z
H01M10/30 Z
H01M50/159
H01M50/533
H01M50/164
H01M50/571
H01M50/131
H01M50/534
H01M50/16
H01M50/152
H01M50/133
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019030802
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020136179
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴岡 浩行
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-281226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/50-50/598
H01M50/10-50/198
H01M10/00-10/04
H01M10/06-10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して対向している正極及び負極を含んでいる電極群と、
上端に開口を有する外装缶であって、前記電極群を電解液とともに収容している外装缶と、
前記外装缶の開口に嵌め合わされている金属製の蓋板及び前記蓋板における前記外装缶の外側に位置する外面に電気的に接続されている正極端子を含む封口体と、
一方端部が、前記蓋板における前記外装缶の内側に位置する内面と電気的に接続されており、他方端部が、前記正極と電気的に接続されている、正極リードと、
前記蓋板の前記内面のうち前記蓋板が他の部材と接触している面を除いた範囲、及び、前記正極リードの全面のうち前記正極リードが他の部材と接触している面を除いた範囲を覆う被覆層であって、酸素の透過を抑制する被覆層と、
を備えており、
前記被覆層における最薄部の厚さがμm以上である、アルカリ二次電池。
【請求項2】
前記被覆層における最薄部の厚さが16μm以上である、請求項1に記載のアルカリ二次電池。
【請求項3】
前記被覆層における最薄部の厚さが20μmを超えている、請求項1に記載のアルカリ二次電池。
【請求項4】
前記被覆層は、ブロンアスファルトを含む、請求項1~3の何れかに記載のアルカリ二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ二次電池の一種として、水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素二次電池が知られている。このニッケル水素二次電池は、出力特性に優れていることから、各種機器の電源として使用されている。このようなニッケル水素二次電池としては、密閉型のニッケル水素二次電池が一般的である。この密閉型のニッケル水素二次電池は、一方端に開口を有し、他方端が負極端子を兼ねている外装缶と、この外装缶の中にアルカリ電解液とともに収容されている電極群と、上記した外装缶の開口を気密に閉塞する封口体とを備えている。
【0003】
上記した封口体は、外装缶の開口に嵌め合わされる蓋板であって、中央に通気孔が穿設されている蓋板と、この通気孔を塞ぐように配設されている弁体と、この弁体を収容し、蓋板に溶接されている正極キャップとを備えている。この正極キャップは、筒状の胴体部と、胴体部の一方端を閉塞する頂壁と、頂壁とは反対側の開口の周縁に設けられたフランジとを有しており、正極端子を兼ねている。なお、胴体部の側面にはガス抜き孔が設けられている。
【0004】
上記した弁体は、弾性材料、例えば、ゴム系材料により形成され、正極キャップの頂壁と蓋板との間に圧縮された状態で配設されており、所定の圧力まで通気孔の開口端を閉塞して電池の密閉性を保つ。この弁体は、電池内でガスが異常発生し、ガスの圧力が一定値を超えた場合、通気孔の開口端を開放してガスを放出し、電池が破裂することを防止する。つまり、この弁体は、安全弁として機能する。
【0005】
上記した電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含んでいる。電極群の最外部は負極により形成されている。この電極群の最外部に位置する負極が外装缶の内壁と接触することにより、負極と負極端子とは電気的に接続されている。一方、電極群の正極と蓋板との間には、例えば、金属製の帯状体で形成された正極リードが配設され、正極リードの一方端部が蓋板に溶接され、正極リードの他方端部が正極の一部に溶接されている。これにより、正極と正極端子とは、正極リード及び蓋板を介して電気的に接続されている。
【0006】
上記したようなニッケル水素二次電池においては、過充電が起こると正極から酸素ガスが発生するが、当該酸素ガスは、負極の水素吸蔵合金との反応によって水とすることができる。つまり、酸素ガスを負極の水素吸蔵合金で吸収できることから、電池内圧の上昇を抑えることができるので、ニッケル水素二次電池は密閉化が可能となっている。
【0007】
ところで、ニッケル水素二次電池を使用する環境によっては、周囲温度が上昇し、正極から酸素ガスが発生しやすくなることがある。正極からの酸素ガスの発生量が、負極での酸素ガスの吸収量を上回るとニッケル水素二次電池の外装缶の破裂が起こるおそれがある。このような事態を回避するため、ニッケル水素二次電池には、上記したような安全弁が設けられている。
【0008】
ところで、安全弁が作動すると、ガスとともにアルカリ電解液の一部も外装缶の外へ放出されてしまう。そうすると、電池の寿命が短くなるとともに、電池を収容している機器における電池周辺の部品にアルカリ電解液が付着し、斯かる部品が腐食されるおそれがある。そこで、安全弁が作動する事態となることを極力避けるべく、負極での酸素ガスの吸収を促進するための研究が種々行われている。例えば、特許文献1では、負極に白金などの貴金属触媒を添加し、酸素ガスの還元を促進する方法が開示されており、特許文献2では、水素吸蔵合金負極に撥水性層を設け、酸素ガスの負極上での吸収を促進させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭60-100382号公報
【文献】特開昭61-118963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
昨今、ニッケル水素二次電池は用途が益々拡大しており、例えば、緊急時の停電対策を目的としたバックアップ電源などに採用されている。
【0011】
バックアップ電源は、停電などの突発的で短い電力供給の遮断に備えて装備されているので、常時充電される連続充電方法が採用される。連続充電の場合、満充電に達してもなお充電し続けてしまうので過充電になりやすい。過充電になると上記したように正極から酸素ガスが発生するので、連続充電を採用する用途では、ほとんどの間、正極から酸素ガスが発生していることになる。
【0012】
また、ニッケル水素二次電池は、充電の際、電池反応により反応熱やジュール熱が発生し温度が上昇するので、内部の水素吸蔵合金は高温にさらされる。水素吸蔵合金は、高温にさらされると劣化が進行する。連続充電の場合、高温にさらされる期間が長いので、通常の使用態様に比べ水素吸蔵合金の劣化はより進行する。
【0013】
水素吸蔵合金が劣化していない状態では、酸素ガスが発生したとしても負極にて当該酸素ガスを十分吸収可能である。しかし、水素吸蔵合金の劣化が進行してくると、水素吸蔵合金自体の酸素ガスを吸収する能力が落ちてくるので、特許文献1や特許文献2のように酸素ガスの吸収を促進する処置が施されていても、酸素ガスの吸収が進行し難くなる。このため、連続充電の期間が長くなると酸素ガスは電池内で増加してくる。そうすると、電池内の構成部材は、酸素ガスにさらされる度合いが増す。
【0014】
電池内の構成部材のうち、蓋板及び正極リードをはじめほとんどの金属系の部品は、ニッケルめっきが施された鉄系材料により形成されている。通常の充電方法によれば、酸素ガスにさらされる度合いは少ないので、これら蓋板及び正極リードは、酸化に十分耐え得る。しかし、連続充電の場合、上記のように、酸素ガスにさらされる度合いが増加するので、蓋板及び正極リードは酸化され、錆が生じてしまう。特に、蓋板と正極リードとの溶接部及びその周辺は、溶接の影響でニッケルめっき層が薄くなっている可能性があり、錆やすい。このように、蓋板と正極リードとの溶接部に錆が生じると電池の内部抵抗値が上昇し、電池が放電不能となるおそれがある。
【0015】
また、上記のような酸化が進行すると蓋板には腐食による孔が生じ、この孔からアルカリ電解液が漏れるおそれもある。
【0016】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、連続充電を行った場合でも電池内部の金属部品の錆の発生を抑制するとともにアルカリ電解液の漏れを抑制することができるアルカリ二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明によれば、セパレータを介して対向している正極及び負極を含んでいる電極群と、上端に開口を有する外装缶であって、前記電極群を電解液とともに収容している外装缶と、前記外装缶の開口に嵌め合わされている蓋板及び前記蓋板における前記外装缶の外側に位置する外面に電気的に接続されている正極端子を含む封口体と、一方端部が、前記蓋板における前記外装缶の内側に位置する内面と電気的に接続されており、他方端部が、前記正極と電気的に接続されている、正極リードと、前記正極リードの前記一方端部と前記蓋板の前記内面とが重なる範囲を少なくとも覆う被覆層であって、酸素の透過を抑制する被覆層と、を備えており、前記被覆層における最薄部の厚さが3μm以上である、アルカリ二次電池が提供される。
【0018】
また、前記被覆層は、前記正極リードの全面のうち前記正極リードが他の部材と接触している面を除いた範囲を覆っている構成とすることが好ましい。
【0019】
また、前記被覆層は、前記蓋板の前記内面のうち前記蓋板が他の部材と接触している面を除いた範囲、及び、前記正極リードの全面のうち前記正極リードが他の部材と接触している面を除いた範囲を覆っている構成とすることが好ましい。
【0020】
また、前記被覆層は、ブロンアスファルトを含む構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るアルカリ二次電池は、セパレータを介して対向している正極及び負極を含んでいる電極群と、上端に開口を有する外装缶であって、前記電極群を電解液とともに収容している外装缶と、前記外装缶の開口に嵌め合わされている蓋板及び前記蓋板における前記外装缶の外側に位置する外面に電気的に接続されている正極端子を含む封口体と、一方端部が、前記蓋板における前記外装缶の内側に位置する内面と電気的に接続されており、他方端部が、前記正極と電気的に接続されている、正極リードと、前記正極リードの前記一方端部と前記蓋板の前記内面とが重なる範囲を少なくとも覆う被覆層であって、酸素の透過を抑制する被覆層と、を備えており、前記被覆層における最薄部の厚さが3μm以上である。これにより、連続充電により過充電状態となって酸素ガスが外装缶内に充満したとしても蓋板や正極リードといった金属部品が酸化することを抑えることができる。このため、本発明によれば、連続充電を行った場合でも電池内部の金属部品の錆の発生を抑制するとともにアルカリ電解液の漏れを抑制することができるアルカリ二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る円筒型ニッケル水素二次電池を部分的に破断して示した斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るニッケル水素二次電池の封口体の部分を拡大して示した断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る酸素ブロック層の形状を概略的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明が適用されるアルカリ二次電池について、例えば、円筒型ニッケル水素二次電池(以下、電池という)2に本発明を適用した場合を例に図面を参照して説明する。
【0024】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。この外装缶10はニッケルめっき鋼製の板材を加工して形成される。外装缶10は、導電性を有しており、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の中には、電極群22が収容されている。
【0025】
この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28により形成される。詳しくは、電極群22は、セパレータ28を間に挟んだ状態で重ね合わされた正極24及び負極26が渦巻状に巻回されて形成される。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0026】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。このアルカリ電解液としては、一般的なニッケル水素二次電池に用いられるものが用いられる。例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0027】
セパレータ28の材料としては、一般的なニッケル水素二次電池に用いられるものが用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維製不織布を用いることが好ましい。
【0028】
正極24は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の正極基材と、前記した空孔内及び正極基材の表面に保持された正極合剤とを含む。
【0029】
このような正極基材としては、例えば、発泡ニッケルを用いることができる。
正極合剤は、正極活物質粒子、導電材、正極添加剤及び結着剤を含む。この結着剤は、正極活物質粒子、導電材及び正極添加剤を結着させると同時に正極合剤を正極基材に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。
【0030】
正極活物質粒子は、水酸化ニッケル粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。
導電材としては、例えば、コバルト酸化物(CoO)、コバルト水酸化物(Co(OH))等のコバルト化合物及びコバルト(Co)から選択された1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
正極添加剤は、正極の特性を改善するために、必要に応じ適宜選択されたものが添加される。主な正極添加剤としては、例えば、酸化イットリウムや酸化亜鉛が挙げられる。
【0032】
正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、正極活物質粒子の集合体である正極活物質粉末、導電材、正極添加剤、水及び結着剤を含む正極合剤スラリーを調製する。得られた正極合剤スラリーは、例えば発泡ニッケルに充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填された発泡ニッケルは、ロール圧延されてから裁断される。これにより、正極合剤を保持した正極24が製造される。
【0033】
次に、負極26について説明する。
負極26は、帯状をなす導電性の負極芯体を有し、この負極芯体に負極合剤が保持されている。
【0034】
負極芯体は、貫通孔が分布されたシート状の金属材であり、例えば、パンチングメタルシートを用いることができる。負極合剤は、負極芯体の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極芯体の両面上にも層状にして保持されている。
【0035】
負極合剤は、水素吸蔵合金の粒子、負極添加剤、導電材及び結着剤を含む。ここで、水素吸蔵合金は、負極活物質である水素を吸蔵及び放出可能な合金である。水素吸蔵合金の種類としては、特に限定はされないが、希土類元素、Mg及びNiを含む希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が好適なものとして用いられる。上記した結着剤は水素吸蔵合金の粒子、負極添加剤及び導電材を互いに結着させると同時に負極合剤を負極芯体に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては親水性もしくは疎水性のポリマーを用いることができ、導電材としては、カーボンブラック、黒鉛、ニッケル粉等を用いることができる。
【0036】
負極添加剤は、負極の特性を改善するために、必要に応じ適宜選択されたものが添加される。
【0037】
負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤と、水とを準備し、これらを混練して負極合剤ペーストを調製する。なお、必要に応じて負極添加剤を更に添加しても構わない。得られた負極合剤ペーストは負極芯体に塗着され、乾燥させられる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極芯体はロール圧延を施されて水素吸蔵合金の充填密度を高められた後、所定形状に裁断され、これにより負極26が製造される。
【0038】
以上のようにして製造された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、これにより電極群22が形成される。
【0039】
上記したような電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、その開口に封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14、弁体18及び正極キャップ20を含む。
【0040】
蓋板14は、ニッケルめっき鋼製の板材を加工して製造された導電性を有する円板形状の部材であり、電池2の内側に位置する内面14aと、この内面14aとは反対側である電池2の外側に位置する外面14bとを有している。また、蓋板14の中央には、内面14aから外面14bにかけて貫通する通気孔としての中央貫通孔16が設けられている。この中央貫通孔16は、通常、後述する弁体18により閉塞されている。外装缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、蓋板14及び絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。
【0041】
蓋板14の外面14bには、ニッケルめっき鋼製の板材を加工して製造された正極キャップ20が電気的に接続されている。この正極キャップ20は、弁体18を収容する部品であるとともに、電池2における正極端子となる部品である。
【0042】
この正極キャップ20は、図2に示すように、円筒形状の胴体部40と、胴体部40の基端41の開口45の周縁に設けられた円環状のフランジ42と、基端41とは反対側の先端部43を閉塞するように設けられた頂壁44とを有している。また、図2から明らかなように、胴体部40の下部には側方へ開口するガス抜き孔46が穿設されている。この正極キャップ20は、弁体18を覆うように配設され、フランジ42の部分が蓋板14の外面14bに溶接されている。ここで、正極キャップ20の胴体部40の内径は、蓋板14の中央貫通孔16の直径よりも大きい。
【0043】
弁体18は、一般的なニッケル水素二次電池に用いられているものが用いられる。好ましくは、例えば、ゴム系材料で形成された円柱状又は段付きの円柱状の弁体が用いられる。
【0044】
ゴム系材料で形成された弁体18は、弾性変形が可能であり、ある程度圧縮された状態で正極キャップ20の中に収容されている。これにより、弁体18は、頭部52が正極キャップ20の頂壁44の内面に当接し、全体的に蓋板14に向けて押圧される。そして、弁体18の本体部54の基端面58が中央貫通孔16を覆い気密に閉塞する。つまり、弁体18は、所定の圧力で中央貫通孔16を塞いでいる。
【0045】
電池2が過充電等されて、外装缶10内にガスが異常発生して電池2内のガスの圧力が上昇し、その圧力が所定の圧力を超えると、弁体18は圧縮されて変形し、中央貫通孔16が開かれる。その結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極キャップ20のガス抜き孔46を介して外部にガスが放出される。ガスの放出により電池2内のガスの圧力が下がると弁体18は元の形状に戻り再度電池2を密閉する。
【0046】
次に、図1から明らかなように、外装缶10内には、電極群22と蓋板14との間に正極リード30が配設されている。正極リード30は、ニッケルめっき鋼製の帯状体であり、その一方端部38が蓋板14の内面14aに溶接され、その他方端部が正極24の一部に溶接されている。このように、正極24に溶接された正極リード30が、正極端子(正極キャップ20)と接続されている蓋板14にも溶接されることにより、正極24と正極端子(正極キャップ20)とは、これら蓋板14及び正極リード30を介して互いに電気的に接続される。
【0047】
なお、蓋板14と電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は上部絶縁部材32に設けられたスリット39を通って延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0048】
本発明においては、蓋板14の内面14a及び正極リード30の表面の所定位置には、酸素の透過を抑制する被覆層としての酸素ブロック層60が設けられている。この酸素ブロック層60は、酸素の透過を阻止できる材料により形成される。このような材料としては、例えば、気密性を保持するために用いられるシール剤が好適なものとして挙げられる。また、このシール剤は、アルカリ電解液と接する可能性があるので、アルカリ雰囲気において劣化しないシール剤であることがより好ましい。このようなシール剤としては、例えば、ブロンアスファルトが挙げられる。このブロンアスファルトは、有機溶剤(例えば、トルエン)に溶かしてペースト状にしたものが用いられる。また、ブロンアスファルトの他に、ゴム系材料を採用しても同様な効果が得られる。好ましいゴム系材料としては、耐アルカリ性を有するゴム系材料が挙げられ、具体的には、エチレンプロピレンジエンゴムが挙げられる。なお、ゴム系材料の場合、塩素や硫黄といった添加物を含むものは、金属材料の錆の発生を促進させるおそれがあるので、塩素や硫黄を添加剤として含むものは避けるべきである。なお、酸素ブロック層60を形成する材料として、上記したようなシール剤に限定されるものではなく、金属部分をコーティングできる耐アルカリ性の材料であれば特に限定されない。
【0049】
酸素ブロック層60を形成する方法としては、例えば、上記したブロンアスファルトを有機溶剤に溶かしてペースト状にしたものを刷毛、ブレード、ローラ等で蓋板14や正極リード30といった金属部材36の所定範囲に塗布し、乾燥させることにより酸素ブロック層60を形成する方法を採用することが好ましい。
【0050】
酸素ブロック層60を形成する範囲は、酸素ガスにより酸化されやすい箇所をカバーできる範囲とすることが好ましい。蓋板14及び正極リード30において酸化されやすい箇所は、ニッケルめっき層が変質したり薄くなったり剥がれが生じたりしている部分である。このような部分は、溶接作業の影響により生じることがほとんどである。つまり、蓋板14及び正極リード30が重なり合った溶接部Wが、ニッケルめっき層が変質したり薄くなったり剥がれが生じたりしている部分となる可能性が高い。よって、少なくとも、正極リード30が蓋板14に重なり溶接されている溶接部Wを覆う範囲に酸素ブロック層60を形成する。
【0051】
好ましくは、上記した溶接部Wを含む、正極リード30の全体に酸素ブロック層60を形成する。詳しくは、正極リード30の全面のうち、正極リードが他の部材、例えば、蓋板14や正極24と接触している面を除いた範囲に被覆層としての酸素ブロック層60を形成する。
【0052】
より好ましくは、蓋板14の内面14aの全体及び正極リード30の表面を覆う範囲に酸素ブロック層60を形成する。詳しくは、蓋板14の内面14aのうち、蓋板14が他の部材、例えば、正極リード30と接触している面を除いた範囲、及び、正極リード30の全面のうち、正極リードが他の部材、例えば、蓋板14や正極24と接触している面を除いた範囲に被覆層としての酸素ブロック層60を形成する。これにより、酸素ガスにさらされる可能性がある範囲を酸素ブロック層60で覆うことができる。
【0053】
蓋板14及び正極リード30のニッケルめっき層には、ピンホールが存在する場合があり、このピンホールを基点に酸化が進み、錆が生じることがある。このようなピンホールの位置は特定できないので、酸素ガスにさらされる可能性がある範囲の全体を覆うことがより好ましい態様となる。
【0054】
ここで、蓋板14には、中央貫通孔16が設けられているが、この中央貫通孔16の内周面にも酸素ブロック層60を設けることが好ましい。中央貫通孔16の内周面に酸素ブロック層60を設けることにより、中央貫通孔16の内周面を基点とする錆の発生を抑制することができ、より好ましい。
【0055】
また、酸素ブロック層60の厚さは、3μm未満であると、酸素の透過を十分に阻止することができず、錆の発生が抑えられない。好ましくは、酸素ブロック層60の厚さは9μm以上に設定する。これにより、酸素の透過をより確実に阻止することができ、錆の発生を抑えられるからである。酸素ブロック層60の厚さは、厚いほど酸素の透過を阻止できるので好ましいが、あまり厚くしても上記効果は飽和してくる。よって、酸素ブロック層60の厚さは、9μm以上、80μm以下とすることが好ましく、より好ましくは、9μm以上、16μm以下とする。
【0056】
ここで、酸素ブロック層60は、全体として厚さが均一であることが理想である。しかしながら、酸素ブロック層60の形成条件等により厚さが不均一になることがある。設定した厚さが小さい場合、例えば、3μm程度の場合、部分的に3μmを下回り、極端に薄い部分が形成されることがある。このような場合、斯かる極端に薄い部分を起点として錆が発生することがある。
【0057】
よって、図3に示すように、金属部材36の表面上に形成された酸素ブロック層60については、最も薄い最薄部62の厚さTを3μm以上に設定する。
【0058】
酸素ブロック層60において、極端に薄い部分、例えば、厚さが3μm未満の部分が生じていると、酸素ブロック層60の外観は、色合いに濃淡が生じ、いわゆるムラがある状態となる。つまり、ムラが生じていると、厚さが3μm未満の極端に薄い部分が生じており、最薄部62の厚さTが3μm以上という条件を満たしていないことの目安になる。
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、封口体11における蓋板14及び正極リード30の表面の適切な部位に酸素ブロック層60が存在するので、電池2を連続充電した際に、過充電状態となって酸素ガスが発生したとしても蓋板14及び正極リード30が酸化され、錆が生じることは有効に防止することができる。このため、錆に起因する内部抵抗値の上昇やアルカリ電解液の漏れを抑制することができ、より高品質の電池を提供することができる。
【0060】
[実施例]
1.ニッケル水素二次電池の製造
参考例1
(1)封口体の製造
まず、ニッケル水素二次電池に一般的に用いられている、エチレンプロピレンジエンゴム製の弁体18を準備した。この弁体18は、図2に示すように、円柱状の頭部52と、頭部52よりも縮径された本体部54とを含んでいる。頭部52の中心軸線C1と、本体部54の中心軸線C2とは一致している。つまり、頭部52と本体部54とは同軸上にある。このため、弁体18は、全体として段付きの円柱形状をなしている。
【0061】
次に、厚さ0.2mmのニッケルめっき鋼板に対し、打ち抜き加工及びプレス加工を施し、フランジ付き円筒体形状の正極キャップ20を製造した。詳しくは、図2に示すように、正極キャップ20は、円筒形状の胴体部40と、胴体部40の基端41の開口45の周縁に設けられた円環状のフランジ42と、基端41とは反対側の先端部43を閉塞するように設けられた頂壁44とを有している。胴体部40の下部には側方へ開口するガス抜き孔46が穿設されている。そして、フランジ42の半径は4.9mmとした。
【0062】
また、厚さ0.2mmのニッケルめっき鋼板に対し、打ち抜き加工を施し、中央に中央貫通孔16が設けられている円板状の蓋板14を製造した。
【0063】
次に、弁体18を正極キャップ20の内部に収容するとともに、この正極キャップ20を蓋板14の外面14b上に重ね、フランジ42の部分と蓋板14の外面14bとを溶接した。このとき、弁体18は蓋板14の中央貫通孔16を塞ぐ位置に配設した。このようにして封口体11を製造した。
【0064】
(2)AAサイズの円筒型ニッケル水素二次電池の組み立て
一般的なAAサイズのニッケル水素二次電池に用いられる正極24及び負極26を準備した。これら正極24及び負極26の間にポリプロピレン繊維製不織布により形成されたセパレータ28を挟み、正極24及び負極26の重合わせ体を形成した。そして、この重合わせ体を渦巻状に巻回し、電極群22を製造した。
【0065】
ここで、正極24には、予めニッケルめっき鋼製の薄板により形成した正極リード30の他方端部を溶接しておいた。この正極リード30は、電極群22の一方端から突出するような位置に配設されている。
【0066】
得られた電極群22を、AAサイズ用の有底円筒形状の外装缶10内に水酸化ナトリウム水溶液からなるアルカリ電解液とともに収容した。
【0067】
次いで、封口体11における蓋板14の内面14aと正極リード30の一方端部38とを重ね合わせ、溶接した。これにより、正極24と正極端子(正極キャップ20)とが、蓋板14及び正極リード30を介して電気的に接続された。
【0068】
その後、蓋板14の内面14aのうち蓋板14と正極リード30の一方端部38とが接触している面を除いた範囲にシール剤を塗布するとともに、正極リードの全面のうち、正極リード30の一方端部38と蓋板14とが接触している面及び正極リード30と正極24とが接触している面を除いた範囲にシール剤を塗布し、酸素ブロック層60を形成した。つまり、蓋板14と正極リード30の一方端部38とが重ね合わされた溶接部Wを覆う範囲を含む正極リード30のほぼ全面及び蓋板14の内面14aのほぼ全体にわたり、酸素ブロック層60を形成した。ここで、シール剤としては、ブロンアスファルトをトルエンに溶かしてペースト状にしたものを用いた。
【0069】
このとき、酸素ブロック層60の厚さが5μmとなるようにシール剤を刷毛で塗布した。シール剤を塗布後、乾燥処理を施し、酸素ブロック層60を得た。その後、酸素ブロック層60の外観を観察した。その結果、ムラは認められなかった。ムラの有無に関しては、表1の塗布ムラの有無の欄に記載した。
【0070】
その後、封口体11を、絶縁パッキン12を介して外装缶10の上端開口にかしめ固定した。このようにしてAAサイズの電池2を製造した。なお、製造した電池2の定格容量は2300mAhである。また、製造した電池2の寸法は、高さ50mm、直径14mmである。
上記した手順を繰り返し、電池2を3個製造した。
【0071】
(3)初期活性化処理
得られた電池2に対し、温度25℃の環境下にて、0.1Cの電流で16時間の充電を行った後に、0.2Cの電流で電池電圧が0.5Vになるまで放電させる充放電作業を2回繰り返し、初期活性化処理を行った。このようにして、電池2を使用可能状態とした。
【0072】
参考例2
正極リード30の全面のうち、正極リード30の一方端部38と蓋板14とが接触している面及び正極リード30と正極24とが接触している面を除いた範囲にのみシール剤を塗布し、酸素ブロック層60を形成したこと、及び、酸素ブロック層60の厚さが5μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。つまり、参考例2では、正極リード30の全面のうち他の部材と接触していない面にのみ酸素ブロック層60が形成されている。
なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0073】
参考例3
蓋板14と正極リード30の一方端部38とが重ね合わされた溶接部Wを覆う範囲にのみシール剤を塗布し、酸素ブロック層60を形成したこと、及び、酸素ブロック層60の厚さが5μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。
なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0074】
実施例1
酸素ブロック層60の厚さが9μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0075】
参考例4
正極リード30の全面のうち、正極リード30の一方端部38と蓋板14とが接触している面及び正極リード30と正極24とが接触している面を除いた範囲にのみシール剤を塗布し、酸素ブロック層60を形成したこと、及び、酸素ブロック層60の厚さが9μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。つまり、参考例4では、正極リード30の全面のうち他の部材と接触していない面にのみ酸素ブロック層60が形成されている。
なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0076】
参考例5
蓋板14と正極リード30の一方端部38とが重ね合わされた溶接部Wを覆う範囲にのみシール剤を塗布し、酸素ブロック層60を形成したこと、及び、酸素ブロック層60の厚さが9μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。
なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0077】
実施例2
酸素ブロック層60の厚さが16μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0078】
参考例6
正極リード30の全面のうち、正極リード30の一方端部38と蓋板14とが接触している面及び正極リード30と正極24とが接触している面を除いた範囲にのみシール剤を塗布し、酸素ブロック層60を形成したこと、及び、酸素ブロック層60の厚さが16μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。つまり、参考例6では、正極リード30の全面のうち他の部材と接触していない面にのみ酸素ブロック層60が形成されている。
なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0079】
参考例7
蓋板14と正極リード30の一方端部38とが重ね合わされた溶接部Wを覆う範囲にのみシール剤を塗布し、酸素ブロック層60を形成したこと、及び、酸素ブロック層60の厚さが16μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。
なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0080】
実施例3
酸素ブロック層60の厚さが80μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0081】
参考例8
正極リード30の全面のうち、正極リード30の一方端部38と蓋板14とが接触している面及び正極リード30と正極24とが接触している面を除いた範囲にのみシール剤を塗布し、酸素ブロック層60を形成したこと、及び、酸素ブロック層60の厚さが80μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。つまり、参考例8では、正極リード30の全面のうち他の部材と接触していない面にのみ酸素ブロック層60が形成されている。
なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0082】
参考例9
蓋板14と正極リード30の一方端部38とが重ね合わされた溶接部Wを覆う範囲にのみシール剤を塗布し、酸素ブロック層60を形成したこと、及び、酸素ブロック層60の厚さが80μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。
なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0083】
参考例10
酸素ブロック層60の厚さが3μmとなるようにシール剤を、ローラを用いて塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラは認められなかった。
【0084】
(比較例1)
蓋板14及び正極リード3にシール剤を塗布せず、酸素ブロック層60を形成しなかったことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。
【0085】
(比較例2)
酸素ブロック層60の厚さが3μmとなるようにシール剤を塗布したことを除いて、参考例1と同様にして、使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。なお、酸素ブロック層60のムラを観察した結果、ムラが認められた。
【0086】
2.ニッケル水素二次電池の評価
(1)連続充電試験
参考例1~10、実施例1~3及び比較例1、2の電池について、70℃の環境下にて、0.1Cの充電電流を流し、連続充電を行った。連続充電継続中において、1ヶ月毎に電池の放電容量を測定した。そして、測定した放電容量が初期の放電容量の60%を下回った時点で電池の寿命に達したものとし、そこで連続充電を終了させた。その後、電池を25℃の室温まで冷却した。
【0087】
(2)電池の破壊検査
次に、連続充電試験が終了した電池を解体し、内部から蓋板14と正極リード30の接合体を取り出した。そして、かかる接合体について錆の発生状態を目視観察した。錆の有無を確認し、製造した3個の電池のうち錆が発生していた電池の個数を数え、1個でも錆が発生した電池が存在した場合は「有」とし、錆が発生した電池が存在していなかった場合は「無」として、その結果を表1に示した。なお、酸素ブロック層60を有する参考例1~10、実施例1~3及び比較例2については、酸素ブロック層60を剥がした後の状態を観察した。
【0088】
更に、蓋板14の内面14a及び正極リード30の全面のうち他の部材と接触していない面の合計の表面積に対する、錆が発生している部分の表面積の百分率を求めた。その結果を錆発生比率として表1に示した。錆発生比率が100%の場合、蓋板14の内面14a及び正極リード30の全面に全体的に錆が発生していることを示し、錆発生比率の値が低いほど錆の発生が少なく、錆発生比率が0%の場合、錆が発生していないことを示す。
【0089】
【表1】
【0090】
3.考察
表1より、シール剤を塗布せず、酸素ブロック層を形成していない比較例1の電池では、錆が生じており、その錆は蓋板14の内面14a及び正極リード30の全体にわたっている。これは、連続充電により過充電状態となり、酸素ガスが発生し、その酸素ガスにより金属部分が腐食され錆が発生したものと考えられる。
【0091】
また、シール剤を塗布し、厚さ3μmの酸素ブロック層60を形成した比較例2の電池においても、錆が生じており、その錆は蓋板14の内面14a及び正極リード30の全体にわたっている。この比較例2においては、酸素ブロック層60にムラが生じており、極端に薄い部分が生じていた。この薄い部分の厚さは3μm未満であると考えられる。このことから、酸素ブロック層60の厚さが3μmとなるように塗布しても、シール剤の塗布ムラにより3μm未満の極端に薄い部分が生じると、酸素ガスによる金属部分の腐食を抑えることができず、錆が発生してしまうことがわかる。このため、酸素ブロック層60の最薄部の厚さは3μm以上とすべきであることがわかる。
【0092】
一方、シール剤を塗布し、厚さ5μm~80μmの酸素ブロック層60を形成した参考例1~9、実施例1~3の電池においては、錆の発生比率が80%以下に抑えられており、比較例1及び2よりも錆の発生を抑制できていることがわかる。
【0093】
また、酸素ブロック層60を形成する部位が、正極リードと蓋板との溶接部である第1パターン、正極リードのみである第2パターン及び正極リードの全体及び蓋板の内面である第3パターンを比較した場合、錆発生比率は、第1パターンが最も高く、第2パターンが中程度であり、第3パターンが最も低い。このことから、第3パターンが錆の発生を最も抑制できるので、酸素ブロック層60を形成する部位は、第3パターンとすることが好ましいといえる。
【0094】
ここで、酸素ブロック層60を形成する部位が、正極リードの全体及び蓋板の内面である第3パターンにおいて、酸素ブロック層60の厚さを5μmとした参考例1では、錆発生比率が50%であった。これに対し、酸素ブロック層60の厚さを9μmとした実施例1、酸素ブロック層60の厚さを16μmとした実施例2及び酸素ブロック層60の厚さを80μmとした実施例3は、いずれも錆発生比率が0%であり、錆の発生は無く、蓋板14の内面14a及び正極リード30は金属光沢を維持しており、ほぼ初期の状態であった。これは、連続充電により過充電状態となり、酸素ガスが発生したとしても、蓋板14の内面14a及び正極リード30は、酸素ブロック層60により確実に保護され、酸素ガスによる腐食を受けなかったものと考えられる。このように、蓋板の内面14a及び正極リード30は、初期の状態を維持できているので、内部抵抗値の上昇や腐食にともなう漏液は回避できていることは明らかである。このことから、酸素ブロック層60を形成する部位が正極リードの全体及び蓋板の内面である第3パターンを採用し、且つ、酸素ブロック層60の厚さを9μm以上とすることがより好ましいといえる。
【0095】
また、参考例10のように、酸素ブロック層60の厚さがムラ無く3μmで均一に形成されている場合は、ムラの有る比較例2よりも錆の発生が抑えられるといえる。このことからも、酸素ブロック層60の最薄部の厚さは3μm以上とすべきであるといえる。
【0096】
以上より、本発明に係るニッケル水素二次電池は、連続充電のような過充電状態になりやすい状況でも、酸素ガスの影響を受けにくく、錆の発生を抑制することができる。このため、本発明によれば、錆の発生にともなう不具合を抑制すること、例えば、内部抵抗値の上昇やアルカリ電解液の漏れを抑制することが可能な高品質の電池を供給することができる。
【0097】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されることはなく、種々の変形が可能であって、例えば、電池の種類は、ニッケル水素二次電池に限定されず、ニッケル-カドミウム二次電池等であってもよい。また、電池の形状は円筒型に限定されず、角型であってもよい。
【0098】
<本発明の態様>
本発明の第1の態様は、セパレータを介して対向している正極及び負極を含んでいる電極群と、上端に開口を有する外装缶であって、前記電極群を電解液とともに収容している外装缶と、前記外装缶の開口に嵌め合わされている蓋板及び前記蓋板における前記外装缶の外側に位置する外面に電気的に接続されている正極端子を含む封口体と、一方端部が、前記蓋板における前記外装缶の内側に位置する内面と電気的に接続されており、他方端部が、前記正極と電気的に接続されている、正極リードと、前記正極リードの前記一方端部と前記蓋板の前記内面とが重なる範囲を少なくとも覆う被覆層であって、酸素の透過を抑制する被覆層と、を備えており、前記被覆層における最薄部の厚さが3μm以上である、アルカリ二次電池である。
【0099】
本発明の第1の態様によれば、連続充電により電池内に酸素ガスが発生したとしても、蓋板や正極リードは、被覆層に保護され、酸素ガスによる酸化が抑制されるので、錆の発生にともなう不具合が起こることを防止することができる。
【0100】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記被覆層は、前記正極リードの全面のうち前記正極リードが他の部材と接触している面を除いた範囲を覆っている、アルカリ二次電池である。
【0101】
本発明の第2の態様によれば、正極リードの表面のうち酸素ガスにさらされる可能性がある部分を全体的に被覆層で覆うので、より確実に錆の発生を抑制することができる。例えば、正極リードのニッケルめっきにピンホールが発生していたとしても、錆の発生を抑制できる。
【0102】
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記被覆層は、前記蓋板の前記内面のうち前記蓋板が他の部材と接触している面を除いた範囲、及び、前記正極リードの全面のうち前記正極リードが他の部材と接触している面を除いた範囲を覆っている、アルカリ二次電池である。
【0103】
本発明の第3の態様によれば、蓋板及び正極リードの表面のうち酸素ガスにさらされる可能性がある部分を全体的に被覆層で覆うので、より確実に錆の発生を抑制することができる。例えば、蓋板や正極リードのニッケルめっきにピンホールが発生していたとしても、錆の発生を抑制できる。
【0104】
本発明の第4の態様は、上記した本発明の第1の態様~第3の態様の何れかにおいて、前記被覆層は、ブロンアスファルトを含む、アルカリ二次電池である。
【0105】
本発明の第4の態様によれば、ブロンアスファルトは、酸素を透過し難く、耐アルカリ性も有していることから、アルカリ二次電池内において、安定的に蓋板及び正極リードの錆の発生を抑制できる。
【符号の説明】
【0106】
2 ニッケル水素二次電池
10 外装缶
12 絶縁パッキン
11 封口体
14 蓋板
18 弁体
20 正極キャップ(正極端子)
24 正極
26 負極
28 セパレータ
42 フランジ
60 酸素ブロック層(被覆層)
図1
図2
図3