IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油技研工業株式会社の特許一覧

特許7197264アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法
<>
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図1
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図2
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図3
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図4
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図5
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図6
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図7
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図8
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図9
  • 特許-アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】アンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20221220BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20221220BHJP
   E21D 20/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
E04B1/41 503C
E04G21/12 105Z
E21D20/00 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017212514
(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公開番号】P2019085716
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 展生
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 晃輔
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-010333(JP,A)
【文献】特開昭57-174599(JP,A)
【文献】米国特許第04537535(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0147856(US,A1)
【文献】特開2010-248810(JP,A)
【文献】特開2017-165448(JP,A)
【文献】特開昭64-036899(JP,A)
【文献】特開2003-268883(JP,A)
【文献】米国特許第04395162(US,A)
【文献】米国特許第03593483(US,A)
【文献】米国特許第03426499(US,A)
【文献】米国特許第03385427(US,A)
【文献】特公昭54-035550(JP,B2)
【文献】特開昭56-022900(JP,A)
【文献】特開昭56-016797(JP,A)
【文献】特開昭64-072000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/41
E04G 21/12
E21D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形で坪量又は目付10~50g/m の水溶性樹脂シートからなりその長辺に沿い相互に表裏各片面での接合部位で重なった封筒貼りで接合された筒状胴部とその短辺側で窄まって接合された両端閉塞部とを有した筒状容器が、水との接触により硬化する硬化性組成物を詰込んだまま封入して緊張しているアンカー素子定着カプセルであって、
前記接合部位が、前記表裏各片面で重なり、貼り付けられており又は融着されていて、それによって接合され、
前記両端閉塞部が、少なくとも一方で折り返されていて、融着接合しており、
前記筒状容器が、前記水溶性樹脂シートの前記長辺に沿った縦目とこれに交わる横目とを有し、前記水溶性樹脂シートの引張強さが、前記縦目方向で6~30N/15mmであり、前記横目方向で2~15N/15mmであり、かつ前記縦目が前記横目より高い引張強さを有しており、
前記筒状容器が緊張して50~700mmの長さと8~50mmの径とを有し、
前記接合部位の幅が、2~5mmであることを特徴とするアンカー素子定着カプセル。
【請求項2】
複数の前記水溶性樹脂シートが、相互に前記表裏各片面での前記接合部位で重なって接合されていることにより、前記筒状容器が複数の前記接合部位を有していることを特徴とする請求項1に記載のアンカー素子定着カプセル。
【請求項3】
請求項1に記載のアンカー素子定着カプセルを前記水に浸漬し、前記水溶性樹脂シートを透過した前記水と前記硬化性組成物とを接触させてから、コンクリート、地盤、及び/又は岩盤に開けられた削孔に前記アンカー素子定着カプセルを挿入し、これにアンカー素子を突刺しながら前記削孔に挿入して前記硬化性組成物を硬化させることを特徴とするアンカー素子定着方法。
【請求項4】
請求項1に記載のアンカー素子定着カプセルを、先端に筒先と基端に開口とを有するシリンダカートリッジに入れた後、前記開口から前記水を入れて前記水溶性樹脂シートを溶解させ、押圧に応じて前記シリンダカートリッジ内を前記筒先に向かって移動する蓋体を前記開口から入れ、前記蓋体を押圧して前記硬化性組成物を前記筒先から押し出して、コンクリート、地盤、及び/又は岩盤に開けられた削孔に注入し、前記削孔にアンカー素子を挿入し前記硬化性組成物に突き刺して、前記硬化性組成物を硬化させることを特徴とするアンカー素子定着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート躯体や地盤の補強工事や、コンクリート躯体への工作物の取り付けに用いられるアンカー素子を定着させるアンカー素子定着カプセル及びこれを用いたアンカー素子定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバート、ダム堤体、トンネル、建物のような既存のコンクリート製人工構造物や、岩盤、自然崖のような地盤の耐震強度や耐久性を高めるために、せん断耐力を向上させる補強工事が行われている。また、コンクリート製人工構造物に、必要に応じて看板、柵、手すり、及び装飾パネルのような工作物を取り付ける工事が行われている。
【0003】
この補強工事は、コンクリート構造物を形成しているコンクリート躯体や地盤に、ドリルやコアボーリングマシンのような回転工具で円筒形の削孔を形成して、硬化性組成物であるアンカー素子定着剤とこれを収容した袋体とから形成されている長尺形状のアンカー素子定着カプセルを挿入し、そこへ鉄筋やアンカーボルトのようなアンカー素子を振動ドリルで打撃及び回転を加えながら打ち込んで固着させるものである。このような工事は、あと施工アンカー工法と呼ばれている。アンカー素子の打込みで袋体が破れることにより、アンカー素子定着剤はアンカー素子と削孔の内壁面との隙間に充填され、その後に硬化する。それによってアンカー素子がコンクリート躯体や岩盤等に定着し、既存のコンクリート構造物のせん断耐力を高めたり、これに工作物を取り付けたりすることができる。
【0004】
このようなアンカー素子定着カプセルとして、樹脂フィルムの端部のヒートシールによって閉止された樹脂製の袋体に、アンカー素子定着剤を収容したアンカー素子定着カプセルが、特許文献1に開示されている。このアンカー素子固定用樹脂カプセルに用いられている袋体は、丈夫な樹脂フィルムであり、運搬時にアンカー素子定着剤が袋体から遺漏しないので、取扱い性が良好である。アンカー素子定着剤としてドライモルタルのような水との接触により硬化する硬化性組成物を用いる場合、トレイのような容器に溜めた水へアンカー素子定着カプセルごと浸漬することにより、アンカー素子定着剤に吸水させるので、水を透過し難い樹脂フィルムの袋体はこれに適さない。また、袋体がアンカー素子の打込みによって破れ難く、アンカー素子の打込み抵抗が高いので、作業者に過度の負担を強いている。さらに樹脂フィルム製袋体の破片がアンカー素子定着剤に混入して、硬化したアンカー素子定着剤を脆性化させ、アンカー素子の定着力が低下する。
【0005】
一方、繊維布で形成された袋体に、アンカー素子定着剤を収容したアンカー素子定着カプセルが知られている。このような従来のアンカー素子定着カプセルは、例えば、図10に示すようなものである。矩形をなしている繊維布91の向い合う縁部で、それの内面91a同士が重ねられていることにより、繊維布91は、筒状部91b及び重合せ部91cを有している(同図(a))。さらに、筒状部91bと重合せ部91cとの境を一直線に縫い合わせている糸92と、繊維布91の上下端部で複数回巻かれた重畳部91dと、重畳部91dを巻き戻し不能に留めている金属製ステープラ93とによって、袋体94が形成されている(同図(b))。この袋体94に水硬性のアンカー素子定着剤95が収容されている。内面91a同士を重ね合わせて重合せ部91cを形成する手法は、合掌貼りと呼ばれ、筒状部91bから重合せ部91cが突き出るように形成するものである。
【0006】
従来のアンカー素子定着カプセル90の袋体94に用いられている繊維布91は、水を透過するので水硬性のアンカー素子定着剤を収容するのに適している。しかし、糸92に引っ張られていることに起因して歪な横断面を有する扁平な筒状部61bや、筒状部61bで外方へ突き出た重合せ部91c、及び角張った重畳部91dが、削孔の開口や内壁面に干渉するので、従来のアンカー素子定着カプセル90をスムーズに円筒形状の削孔に挿入できず、作業性を低下させている。
【0007】
また、袋体94が削孔に打ち込まれるアンカー素子によって破砕される際、糸92によって縫い合わされた箇所に応力が集中し、これに沿った重合せ部91cの境界のみで袋体94が裂ける。さらに、重合せ部91cが袋体94から流出したアンカー素子定着剤の流れを妨げる。そのため、アンカー素子定着剤がアンカー素子と削孔の内壁面との隙間に均一に充填されず、アンカー素子の定着力の低下を招来する。さらに、アンカー素子の原材料である鉄よりも酸化し難い金属であるニッケルや銅を含む金属製ステープラ93が、硬化したアンカー素子定着剤内に残留していると、アンカー素子に電解的な腐食である電食を引き起こすので、コンクリート構造物や岩盤のせん断耐力を長期間にわたって維持できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-117700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、運搬時の取扱性と削孔への挿入作業性とに優れ、アンカー素子の打込みによって容易に破砕する容器を有していることによってアンカー素子の打込み抵抗を低減したり、水との接触によって溶解する容器を有していることによってアンカー素子の打ち込みによる容器の破砕片を生じなかったりするとともに、硬化性組成物であるアンカー素子定着剤が削孔内に均一に充填されることにより高いアンカー素子定着力を得ることができ、金属製ステープラを有しないことにより長期間にわたってコンクリート構造物や岩盤のせん断耐力を維持できるアンカー素子定着カプセル、及びこれを用いたアンカー素子定着方法を提供することを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた、本発明のアンカー素子定着カプセルは、矩形で坪量又は目付10~50g/m の水溶性樹脂シートからなりその長辺に沿い相互に表裏各片面での接合部位で重なった封筒貼りで接合された筒状胴部とその短辺側で窄まって接合された両端閉塞部とを有した筒状容器が、水との接触により硬化する硬化性組成物を詰込んだまま封入して緊張しているものである。
【0011】
アンカー素子定着カプセルは、前記接合部位が、前記表裏各片面で重なり、貼り付けられており又は融着されており、それによって接合されていることが好ましい。
【0012】
アンカー素子定着カプセルは、前記両端閉塞部が、少なくとも一方で折り返されていて、融着接合していてもよい。
【0013】
アンカー素子定着カプセルは、前記筒状容器が、前記水溶性樹脂シートの前記長辺に沿った縦目とこれに交わる横目とを有していることが好ましい。
【0014】
アンカー素子定着カプセルは、例えば、前記水溶性樹脂シートの引張強さが、前記縦目方向で6~30N/15mmであり、前記横目方向で2~15N/15mmであり、かつ前記縦目が前記横目より高い引張強さを有しているというものである。
【0015】
アンカー素子定着カプセルは、前記筒状容器が緊張して50~700mmの長さと8~50mmの径とを有していてもよい。
【0016】
アンカー素子定着カプセルは、前記接合部位の幅が、2~5mmであることが好ましい。
【0017】
アンカー素子定着カプセルは、複数の前記水溶性樹脂シートが、相互に前記表裏各片面での前記接合部位で重なって接合されていることにより、前記筒状容器が複数の前記接合部位を有していることが好ましい。
【0018】
アンカー素子定着カプセルは、前記透水性不織シートが、樹脂含浸紙及び/又は樹脂繊維混紡紙であってもよい。
【0019】
アンカー素子定着カプセルは、前記筒状容器が、脆弱部を備えた前記接合部位、それの接合縁、及び/又は前記透水性不織シートの前記長辺に沿った縦目を有していることが好ましい。
【0020】
本発明のアンカー素子定着方法は、上記に記載のアンカー素子定着カプセル内を前記水に浸漬し、前記水溶性樹脂シートを透過した前記水と前記硬化性組成物とを接触させてから、コンクリート、地盤、及び/又は岩盤に開けられた削孔に前記アンカー素子定着カプセルを挿入し、これにアンカー素子を突刺しながら前記削孔に挿入して前記硬化性組成物を硬化させる。
【0021】
本発明のアンカー素子定着方法は、上記に記載のアンカー素子定着カプセルを、先端に筒先と基端に開口とを有するシリンダカートリッジに入れた後、前記開口から前記水を入れて前記水溶性樹脂シートを溶解させ、押圧に応じて前記シリンダカートリッジ内を前記筒先に向かって移動する蓋体を前記開口から入れ、前記蓋体を押圧して前記硬化性組成物を前記筒先から押し出して、コンクリート、地盤、及び/又は岩盤に開けられた削孔に注入し、前記削孔にアンカー素子を挿入し前記硬化性組成物に突き刺して、前記硬化性組成物を硬化させるというものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアンカー素子定着カプセルは、筒状容器を形成しているシートが10~50g/mの坪量又は目付を有しているので、保管時、運搬時及び削孔挿入時の取扱いを良好とする適度の強度と、補強鉄筋の打込み抵抗の低減とを両立できる。また筒状容器が透水性不織シートで形成されている場合、アンカー素子の打込みによって破砕された不織シート片が硬化したアンカー素子定着剤の堅牢性を損なわないので、高いアンカー素子定着力を得ることができる。
【0023】
アンカー素子定着カプセルは、筒状容器が矩形の不織シートの長辺に沿って、互いに表裏各片面での貼合せによって形成された接合部位を有していると、アンカー素子の打込み時にこの接合部位の接合縁に沿って筒状容器が裂け、アンカー素子定着剤がアンカー素子と削孔内壁面との間に均一に充填されるので、アンカー素子の引抜き強度を各段に向上させることができる。
【0024】
アンカー素子定着カプセルは、両端の閉塞部が熱融着されていると、金属製ステープラが不要であるので、施工後にアンカー素子の電食を引き起こさない。
【0025】
アンカー素子定着カプセルは、不織シートが接合部位に沿った縦目と、これに交わりつつこれよりも強い引張強さを有する横目とを有していると、アンカー素子の打込み時に筒状容器が縦目に沿って複数箇所で裂けるので、打込み抵抗を一層低減させることができるとともに、硬化性組成物であるアンカー素子定着剤を速やかに、確実に、より均一にアンカー素子と削孔内壁面との隙間に充填することができる。
【0026】
本発明のアンカー素子定着方法は、アンカー素子定着カプセルがアンカー素子定着剤のような硬化性組成物を詰め込んで封入しているものであるので、これを傾けたり鉛直方向に立たせたりしても外形が変化せずに略円柱形を維持でき、コンクリート躯体の床面、壁面、及び天井の何れに開けられた削孔であっても、スムーズに挿入してアンカー素子を定着させることができる。
【0027】
アンカー素子定着方法は、筒状容器が水溶性樹脂シートで形成されていると、アンカー素子定着カプセルをシリンダカートリッジに入れてから、所要量の水をそこへ入れるだけで筒状容器が溶解し、硬化性組成物と所要量の水とを接触させることができるので、正確な施工を簡便に行うことができる。しかも水溶性樹脂シートが溶解するので、筒状容器の破砕片に起因するアンカー素子の定着力低下を招来しない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明を適用するアンカー素子定着カプセルの一形態を示す斜視図である。
図2】本発明を適用するアンカー素子定着カプセルの製造途中を示す斜視図である。
図3】本発明を適用するアンカー素子定着方法の一形態を示す模式部分断面図である。
図4】本発明を適用する別なアンカー素子定着カプセルの製造途中を示す斜視図である。
図5】本発明を適用する別なアンカー素子定着カプセルの製造途中を示す斜視図である。
図6】本発明を適用する別なアンカー素子定着カプセルの一形態を示す斜視図である。
図7】本発明を適用する別なアンカー素子定着カプセルをアンカー素子定着方法の前半工程を説明する斜視図である。
図8】本発明を適用する別なアンカー素子定着カプセルをアンカー素子定着方法の後半工程を説明する斜視図である。
図9】本発明を適用するアンカー素子定着カプセル及び本発明を適用外であるアンカー素子定着カプセルを用いたアンカー筋打設時挙動確認試験の結果を示す写真である。
図10】本発明を適用外である従来のアンカー素子定着カプセル、及びそれの製造途中を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0030】
本発明のアンカー素子定着カプセルの一形態の斜視図を図1に示す。アンカー素子定着カプセル1は、筒状容器10とこれに封入されたアンカー素子定着剤20とを有している。アンカー素子定着剤20は、例えば水で混錬されていないドライモルタルである。このようなアンカー素子定着剤20は吸水によって流動性を有する定着剤ペースト20aに変化した後、硬化して硬化体20bを生成する(図3(c)及び(d)参照)。アンカー素子定着カプセル1は、長尺の筒形をなしている筒状胴部11と、それの両端で窄まった上端部12及び下端部13とを有している。
【0031】
筒状容器10は、不織繊維である紙と樹脂繊維との混紡シートである長辺と短辺とを有する矩形の透水性不織シート10aで形成されている。この透水性不織シート10aの表面である外側面10aと裏面である内側面10aとの縁部で、透水性不織シート10aの長辺に沿いつつ互いに表裏各片面(図2(a)参照)が熱融着で貼り合わされて接合されている。それにより、筒状容器10は接合部位14を有している。このような貼り合わせの手法は、封筒貼りと呼ばれる。封筒貼りが施されることにより、接合部位14はその両縁で接合縁14aを有している。
【0032】
筒状容器10を形成している透水性不織シート10aは、互いに複雑に重なり合った無数の繊維の集合体であり、繊維と繊維との間は水のような液体を透過させる空隙である。透水性不織シート10aの坪量又は目付は、10~50g/mであることが好ましく、15~40g/mであることがより好ましく、18~30g/mであることがより一層好ましく、18g/mであるとなお一層好ましい。透水性不織シート10aの坪量がこの範囲であることにより、手で取扱うのに十分で適度な強度と易破砕性とをアンカー素子定着カプセル1に付与することができる。水は、透水性不織シート10aに吸収されたり、浸透したり、透過したりする。
【0033】
透水性不織シート10aの密度は、0.15~0.45g/cmであることが好ましく、0.20~0.40g/cmであることがより好ましく、0.25~0.35g/cmであることがより一層好ましい。透水性不織シート10aの密度が上記の下限値未満であると、筒状容器10の強度が不足し、アンカー素子定着剤20を充填する際や(図2(d)参照)、アンカー素子定着カプセル1の運搬時・取扱時に筒状容器10が破損してしまう。一方、密度が上記の上限値を超えると、筒状容器10の透水性が不足して、アンカー素子定着剤20の吸水完了までに長時間を要したり、これに吸水させることができなかったりする。
【0034】
その結果、アンカー素子定着カプセル1の保管時、運搬時、及び削孔挿入時の作業性が向上するとともに、アンカー素子の打込み抵抗が低減する。また水の透過性に富むことから、水をアンカー素子定着剤20へ短時間で浸透させることができるので、アンカー素子定着カプセル1の水への浸漬時間を短縮できる結果、施工時間を短縮できる。さらにアンカー素子の打込みによって破砕した透水性不織シート10aに、定着剤ペースト20aが浸透した後、これと一体となって硬化する。それにより生成する定着剤ペースト20aの硬化体20bの堅牢性を損なうことがなく、高いアンカー素子定着力が得られる。
【0035】
アンカー素子定着カプセル1の上端部12と下端部13とで、上端閉塞部12aと下端閉塞部13aとが、夫々筒状胴部11の中心軸の延長方向へ突き出ている。両端閉塞部12a,13aは、透水性不織シート10aの短辺側である両端部12,13での折込みと幾重の折返しとそれに引き続く熱融着とによって接合されているものである。そのため、アンカー素子定着カプセル1は金属製ステープラを要しない。この折返しによって、両端閉塞部12a,13は、夫々略矩形をなしており、用時までアンカー素子定着剤20を筒状容器10から遺漏させない。
【0036】
両端閉塞部12a,13aの幅Wは、アンカー素子定着カプセル1の径Dよりも小さく、両端閉塞部12a,13aは、径D方向に突き出ていない。幅Wは、径Dよりも小さければ特に限定されないが、幅W:径D=0.8~0.99:1であることが好ましく、0.9~0.95:1であることがより好ましい。幅Wと径Dとの比がこの範囲であると、あと施工アンカー工法のように、アンカー素子定着カプセル1を用いる工事の際、コンクリート躯体31に開けられた削孔32の開口部に(図3(b)参照)、これらが接触したり引っ掛かったりしないので、筒状容器10が不意に破損しない。その結果、アンカー素子の挿入前に、水への浸漬により強度低下している筒状容器10からアンカー素子定着剤20が遺漏しない。
【0037】
上端部12は、上端閉塞部12aに連続しておりこれに向かって緩やかな曲面をなしつつドーム形に窄まった上端湾曲部12bを有している。上端湾曲部12bはそれの全周にわたって湾曲している。これと同様に下端部13も、下端閉塞部13aに連続しておりこれに向かって窄まったドーム形の下端湾曲部13bを有している。
【0038】
両端閉塞部12a,13aが筒状胴部11に向かって夫々巻かれるように幾重にも折り返されていることによって、アンカー素子定着剤20は緊縮し、筒状容器10内に密に詰め込まれている。それによりアンカー素子定着剤20による圧力が、筒状容器10に均等にかかっており、筒状胴部11及び両端湾曲部12b,13bはこの圧力に起因する応力によって緩みなく緊張している。筒状胴部11及び両端湾曲部12b,13bの内側面10bはアンカー素子定着剤20の粒子に密着している。その結果、アンカー素子定着カプセル1は、所謂合掌貼りで形成された袋体と異なって、上端部12と下端部13との間で、円断面を有する円柱形をなしている。さらに、密に詰め込まれたアンカー素子定着剤20はドライモルタルに含まれるセメント粒子や細骨材の相互の緊密な接触によって筒状容器10内で流動しないので、アンカー素子定着カプセル1を傾けたり、鉛直方向に立たせたり、水平方向に載置したりしても、アンカー素子定着カプセル1の外形が変化しない。
【0039】
筒状容器10におけるアンカー素子定着剤20の充填率の下限値は、90%であることが好ましく、95%であることがより好ましく、99%であることがより一層好ましい。充填率の上限値は、100%であることが好ましい。充填率がこの範囲であることにより、アンカー素子定着剤20の筒状容器10内での流動を抑制できる。なお充填率とは、アンカー素子定着剤20を筒状容器10に詰め込んだ際、筒状容器10の内空に対するアンカー素子定着剤20の嵩比である。
【0040】
このようにアンカー素子定着カプセル1は、向きにかかわらず、窄まった両端部12,13を有した円柱形を維持できるという保形性に富むので、床面、壁面、及び天井の何れに開けられた削孔であっても、円筒形の削孔にスムーズに挿入することができる。さらに接合部位14が筒状容器10の表面で突き出ておらず、かつ両端部12,13が夫々両端閉塞部12a,13aに向かって窄まるような両端湾曲部12b,13bを有しているので、削孔口と干渉せずにアンカー素子定着カプセル1を挿入することができる。しかも、両端部12,13が同形状をなしているので、作業者はアンカー素子定着カプセル1を何れの方向からでも削孔に挿入できる。このようにアンカー素子定着カプセル1は、削孔挿入時の作業性を向上させているので、例えば法面を覆う張コンクリートの補強工事現場のように、作業者の安定性確保が困難な施工現場での施工時間を短縮し、作業者の負担を軽減できる。
【0041】
透水性不織シート10aは、それの長辺に略平行な接合部位14に沿った縦目15と、これに交わる横目16とを有している。透水性不織シート10aの縦目15方向の引張強さは、横目16方向よりも高いことが好ましい。具体的に、縦目15方向の引張強さは、6~30N/15mmであることが好ましく、8~15N/15mmであることがより好ましい。横目16方向の引張強さは、2~15N/15mmであることが好ましく、4~10N/15mmであることがより好ましい。
【0042】
このように、透水性不織シート10aの縦目15が横目16よりも高い引張強さを有しているので、アンカー素子定着剤20の重量集中を特に生じ易い上、両端湾曲部12b,13bに充分な強度を付与できる。その結果、取扱時に不意にアンカー素子定着カプセル1が床面や地面に落下したとしても、筒状容器10は破損せず、アンカー素子定着剤20を遺漏させない。さらに透水性不織シート10aがこのような縦目15及び横目16を有しているので、削孔に挿入されたアンカー素子定着カプセル1の筒状容器10は、アンカー素子の打込みにより、縦目15に沿って破砕し易い。その結果、アンカー素子の打込み抵抗が低減されるので、作業者の負担を軽減できる。なお引張強さは、JIS P8113(2006)に準拠して求められる。
【0043】
アンカー素子定着カプセル1の上端湾曲部12bの上端から下端湾曲部13bの下端までの長さLが、50~700mmであると好ましく、80~600mmであるとより好ましい。またアンカー素子定着カプセル1の径Dが、8~50mmであると好ましく、10~45mmであるとより好ましい。長さL及び径Dは、コンクリート躯体に開けられる削孔の奥行及び径よりも幾分小さい値が選択される。例えば、80mmの長さL、10.8mmの径Dであるアンカー素子定着カプセル1は、奥行80mmで径12mmの削孔に挿入される。また240mmの長さL、25mmの径Dであるアンカー素子定着カプセル1は、奥行240~250mmで径30mmの削孔に挿入される。
【0044】
特に、80~240mmの長さLと10~18mmの径Dと有する小型のアンカー素子定着カプセル1は、透水性不織シート10aと、アンカー素子定着剤20との体積比が小さく、硬化したアンカー素子定着剤20の体積に対する透水性不織シート10aの破砕片の体積が相対的に大きくなる。アンカー素子定着カプセル1は筒状容器10の透水性不織シート10aが上記の坪量を有し、定着剤ペースト20aが速やかに浸透するので、小型であっても硬化したアンカー素子定着剤20の堅牢性を低下させない。
【0045】
アンカー素子定着カプセル1は、それの製造途中を示す図2を参照しつつ説明すると、次のようにして製造される。
【0046】
まず透水性不織シート10aの原反を所定の大きさに裁断して矩形の透水性不織シート10aを切り出す。図2(a)に示すように、これを例えば円筒形の治具(不図示)に巻き付けて丸めて、筒状容器10の外側面10aとなる表面と、内側面10aとなる裏面とを、透水性不織シート10aの長辺に沿った縁部同士で重ねる。
【0047】
この重ね部にヒートシーラーで熱と圧力とを加えて熱融着するという所謂封筒貼りを施すことにより、図2(b)に示すような接合部位14を形成する。それにより1枚の透水性不織シート10aで、上端部12及び下端部13で開口した円筒を作製する。この際、接合部位14の幅を2~5mmとすることが好ましく、3~4mmとすることがより好ましい。この範囲よりも狭いと接合部位14の強度が不足し、後の工程でアンカー素子定着剤20を筒状容器10に充填する際に、接合部位14が剥がれてしまう。この範囲よりも広いと透水性不織シート10aを必要以上に使用するので、不経済であるだけでなく、アンカー素子の突刺しによっても接合部位14が破砕し難くなり、硬化したアンカー素子定着剤の強度低下を招来してしまう。なお、接合部位14を形成した後、透水性不織シート10aを原反から裁断してもよい。
【0048】
図2(b)に示すように、下端部13の下端縁13cの向い合う部位同士を、円筒をなしている透水性不織シート10aの中心軸に向かって折り入れて下端折込み部13dを形成する。次いで同図(c)に示すように、下端縁13cの別な向い合う部位同士を重ね合わせて、上端部12に向って巻くように幾重にも折り返して下端部13の開口を閉じ、下端閉塞部13aを形成する。さらにヒートシーラーで熱と圧力とを加えて下端閉塞部13aを熱融着して、筒状容器10を作製する。
【0049】
続いて図2(d)に示すように、上端部12の開口から、所定量のアンカー素子定着剤20を筒状容器10に充填する。下端折込み部13dはアンカー素子定着剤20の荷重によって引き伸ばされて膨らみ、緩やかな曲面をなすので、下端湾曲部13bはそれの全周にわたって湾曲したドーム形となる。最後に、上端部12に同図(b)及び(c)の工程を下端部13と同様に施して、アンカー素子定着剤20を筒状容器10に封入する。ここで同図(c)の工程を上端部12に施す際、上端部12の折り返しを、筒状容器10内に充填されたアンカー素子定着剤20に突き当たり、かつ筒状胴部11及び両端湾曲部12b,13bが緊張するまで繰り返す。それによって、アンカー素子定着剤20が、筒状容器10内で流動不能に緊密に詰め込まれたまま封入される。これらの工程を経て、アンカー素子定着カプセル1が完成する。
【0050】
筒状容器10において、不織シート10aが液体を透過させる空隙を有していることにより、ヒートシーラーによって熱溶融した不織シート10a中の樹脂がこの空隙に入り込んだ後に冷却されて硬化する。空隙に入り込んだ樹脂は、両端閉塞部12a,13a及び接合部位14で、不織シート10a同士の接合面積を増大させていることに加え、アンカー効果を発現するので、両端閉塞部12a,13a及び接合部位14は強固に接合されている。それにより、筒状容器10に詰め込まれたアンカー素子定着剤20の圧力によって両端湾曲部12b,13bや接合縁14aへこれらを剥離させる応力が生じていても、両端閉塞部12a,13a及び接合部位14は剥離しない。その結果筒状容器10は、緊張状態を維持できる。
【0051】
アンカー素子定着カプセル1の使用方法を、コンクリート躯体補強工事の一例を示す模式断面図である図3を参照しつつ説明する。
【0052】
図3(a)にコンクリート躯体31に削孔32を形成する工程を示す。コンクリート躯体31の表面31aにコアボーリングマシン41をセットし、それの先端に取り付けられたコアドリル42を回転させて円筒形状の削孔32を形成する。削孔32は、水平方向、鉛直方向及び斜め方向に形成することができる。
【0053】
図3(b)にアンカー素子定着カプセル1を削孔32に挿入する工程を示す。水51を入れたトレイ52に、アンカー素子定着カプセル1を、気泡53が出なくなるまで浸漬し、筒状容器10を透過して浸入した水51を、アンカー素子定着剤20に吸収させる。それにより、アンカー素子定着剤20を流動性と粘性とを有する定着剤ペースト20aへと変化させる。アンカー素子定着カプセル1を水51から取り出した後、例えば上端部12側から削孔32に挿入する。透水性不織シート10aが上記の坪量を有しかつ樹脂を含む紙であることによって、水51への浸漬時間が短く済む上、容易に破れたり、繊維が水中に分散したりしない。また、アンカー素子定着カプセル1が水51から取り出されても、筒状容器10は手で取り扱うことができる程度の強度を保持できる。
【0054】
図3(c)に土木補強アンカー素子である補強鉄筋の打込み工程を示す。補強鉄筋43はそれの中心軸に対して略垂直な面をなしている基端と、筒状容器10を突き破り易いように鋭く尖った先端とを、有している。規格に示されているアンカー素子の定着長を満足できるように、補強鉄筋43の全長は削孔32の奥行よりも若干短い。
【0055】
補強鉄筋43の基端に振動ドリル44で打撃と回転とを加えながら、削孔32に補強鉄筋43を打ち込む。まず補強鉄筋43の先端に最初に接し、定着剤ペースト20aの内圧によって緊張した下端部13の下端湾曲部13bが補強鉄筋43によって突き破られて破断する。透水性不織シート10aの接合部位14に沿った縦目方向の引張強さが横目方向の引張強さよりも高いことにより、筒状容器10は、応力集中し易い接合縁14aで、速やかにかつ一直線に裂ける。定着剤ペースト20aは、下端湾曲部13bの裂け目に加えて、2つの接合縁14aの夫々の裂け目から均等に噴出する。筒状容器10は、回転と打撃とが加えられた補強鉄筋43によって粉々に破砕される。
【0056】
筒状容器10は、接合部位14及び/又は接合縁14aで筒状容器10の長手方向に沿った脆弱部を有していてもよい(不図示)。脆弱部は、透水性不織シート10aにわずかに切り込まれたミシン目や、それの一部の厚さを低減した肉薄部であってよい。脆弱部が設けられていることにより、より速やかにかつより細かく筒状容器10を破砕することができる。
【0057】
噴出した定着剤ペースト20aは、補強鉄筋43の回転に随伴して補強鉄筋43に纏わり付きながら、破砕された筒状容器10の透水性不織シート10a片に速やかに染み込みつつ、削孔32の内壁面と補強鉄筋43との隙間に流れ込む。それにより定着剤ペースト20aの流れは妨げられない。このようにして、補強鉄筋43と削孔32の内壁面との隙間に、定着剤ペースト20aが満遍なく充填される。
【0058】
図3(a)~(c)に示す工程を経たコンクリート躯体31を同図(d)に示す。定着剤ペースト20aの硬化により生成した硬化体20bが削孔32の開口を塞いでいるとともに、削孔32の内壁面と補強鉄筋43との間に密に充填されている。補強鉄筋43は、コンクリート躯体31に定着している。アンカー素子定着カプセル1は、両端閉塞部12a,13aの形成に金属製のステープラを用いていないので、補強鉄筋43に電食を生じさせない。そのため補強鉄筋43は、錆を生じることなく、長期間にわたってコンクリート躯体31のせん断耐力が維持される。
【0059】
なお、アンカー素子は補強鉄筋に限られず、表面にねじ山を有していることにより、ナットを螺合可能なアンカーボルトであってもよい。それによれば、例えば看板、柵、手すり、及び装飾パネルのような工作物を、コンクリート躯体に取り付けて固定することができる。
【0060】
図4にアンカー素子定着カプセル1の別な形態の製造途中の斜視図を示す。アンカー素子定着カプセル1の筒状容器10は、複数枚の透水性不織シート10a,10bが封筒貼りされることにより、複数の接合部位14を有していてもよい。この場合、例えば、同図(a)に示すように、透水性不織シート10a,10bの長辺側の縁部同士が向き合うように夫々アーチ形に曲げる。第1の透水性不織シート10aの内側面10aと第2の透水性不織シート10bの内側面10bとを対向させつつ、第1の透水性不織シート10aの外側面10aと、第2の透水性不織シート10bの内側面10bとの長辺側の縁部同士を重ね、かつ第1の透水性不織シート10aの内側面10aと第2の透水性不織シート10bの外側面10bとを重ねて、それらの重ね部に封筒貼りを施す。それにより、同図(b)に示すように、複数の接合部位14を形成することができる。
【0061】
また、複数の接合部位14を図5に示すように形成してもよい。アーチ形に曲げた第1の透水性不織シート10aの内側面10aと、これよりも大きい径のアーチ形に曲げた第2の透水性不織シート10bの内側面10bとを対向させつつ、第1の透水性不織シート10aの外側面10aと、第2の透水性不織シート10bの内側面10bとの一部同士を重ねて封筒貼りする。
【0062】
図4及び5に示すように、複数の接合部位14を有するアンカー素子定着カプセル1によれば、アンカー素子の打込みによって裂ける接合縁14a数が増加するので、アンカー素子定着剤20の吸水により生成する定着剤ペースト20aがより速やかに流出し、かつより均一にアンカー素子と削孔32の内壁面との隙間に充填される。また、筒状容器10の易破砕性が向上し、アンカー素子の打込み抵抗を一層低減することができる。なお図4及び5で、筒状容器10が接合部位14を2箇所で有する例を示したが、筒状容器10が有する接合部位14の数はこれに限られず、3箇所であっても、それ以上であってもよい。
【0063】
透水性不織シート10aは、エンボス加工されていてもよい。それによれば、透水性不織シート10aの比表面積が増大し、エンボス加工された箇所同士が熱融着によって強固に張り付くので、熱融着により形成される接合部位14や両端閉塞部12a,13aの強度を向上させることができる。
【0064】
透水性不織シート10aは、不織繊維と樹脂とを含んでいることが好ましい。不織繊維は、水の透過性と伸縮性に乏しく水濡れによる易破壊性の増大の観点から、紙であることが好ましい。また樹脂は、不織繊維である紙の表面を被覆していたり、繊維状をなして紙に混入や混紡されていたり、紙に含浸されていたりすることが好ましい。樹脂は、透水性不織シート10aを熱融着可能とする観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0065】
透水性不織シート10aの材料である紙は、セルロース繊維を主成分として含有している不織繊維であることが好ましく、具体的に、上質紙、中質紙、クラフト紙、ケント紙、模造紙、クレープ紙、ヒートロン紙、コーン抄紙、和紙、及びティーバッグ用紙並びにろ紙(JIS P0001(1998)に準拠)を挙げることができる。これらの原材料は、針葉樹を原材料とするパルプ・広葉樹を原材料とするパルプ等の木材パルプ、ミツマタ・ワラ・バガス・ヨシ・ケナフ・クワ等の非木材パルプ及び古紙パルプの何れか一つを用いてもよいし、複数を混合して形成してもよい。また紙は、レーヨン紙やアセテート紙のような化繊紙であってもよい。
【0066】
透水性不織シート10aの材料である樹脂として、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリトリブチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66及びアラミドのようなポリアミド樹脂;アクリロニトリルを主成分とするポリアクリル樹脂が挙げられる。これらの樹脂が、透水性不織シート10aに10~60質量%含まれていることが好ましく、20~50質量%含まれていることが好ましい。樹脂の含有率がこの範囲よりも低いと、透水性不織シート10aを十分に熱融着できず、筒状容器10にアンカー素子定着剤20を詰め込む際や、アンカー素子定着カプセル1を輸送したり取り扱ったりする際に、両端閉塞部12a,13aや接合部位14が剥がれてしまう。一方、含有率がこの範囲よりも高いと、鉄筋の打込みによって筒状容器10が破壊し難くなり、打込み抵抗が増大してしまう。
【0067】
アンカー素子定着剤20として、ドライモルタルの他、無収縮グラウト、セメント、ポリマーセメントモルタル、ポリマーモルタル、及びポリマー含浸モルタルを挙げることができる。
【0068】
筒状容器10の材料として透水性不織シート10aを挙げたが、これに代えて、水に溶解する水溶性樹脂シートを用いてもよい。溶解性のシート及びメッシュを形成する溶解性樹脂として、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、マンナン、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン、大豆蛋白、小麦蛋白、グルテリン、グルカゴン、及びゼラチンが挙げられる。
【0069】
このような水溶性樹脂シートからなる筒状容器10を用いて作製されたアンカー素子定着カプセル2の例を、図6に示す。同図に示すアンカー素子定着カプセル2の筒状容器10は、矩形をなした水溶性樹脂シート10cによって形成されている。この水溶性樹脂シート10cは、ポリビニルアルコール製である。そのため水溶性樹脂シート10cは、水との接触により溶解する。水溶性樹脂シート10cの好ましい坪量又は目付や密度は透水性不織シート10aと同様である。水溶性樹脂シート10cは、向かい合う二つの長辺に沿いつつ互いに表裏各片面で熱融着されて貼り合わされている。熱融着部位は、一体の幅で貼り合わされた接合部位14である。筒状容器10は、水溶性樹脂シート10cの向かい合う短辺の夫々に沿いつつそれの裏面同士で熱融着された上端閉塞部12a及び下端閉塞部13aを有している。
【0070】
このアンカー素子定着カプセル2は、次のように製造される。接合部位14及び下端閉塞部13aをヒートシールにより形成する。筒状容器10の開口した上端からアンカー素子定着剤20を筒状容器10に入れる。水溶性樹脂シート10cの上端開口部近傍の裏面がアンカー素子定着剤20の上端面に密着するように扱かれて、筒状容器10の上端開口が閉じられた後、この上端開口の縁に沿いつつそれの全周にわたって、ヒートシールを施す。それにより、アンカー素子定着剤20が筒状容器10内で流動不能に緊密に詰め込まれたまま封入される。その結果、上端部12及び下端部13で互いに同様の形状をなした上端湾曲部12b及び下端湾曲部13bが形成され、上端部12、略円柱形をなした筒状胴部11、及び下端部13にわたって緊張したアンカー素子定着カプセル2が製造される。
【0071】
水溶性樹脂シート10cからなる筒状容器10を有するアンカー素子定着カプセル2を用いたアンカー素子定着方法における前半工程の一例を、図7に示す。同図(a)に示すシリンダカートリッジ60は、円筒形をなし基端に開口63を有している筒体62と、筒体62の先端で開口63から離反する方向へ突き出ている筒先61とを、有している。筒先61は筒体62の内空につながっており、筒体62の内空と外界とを連通させている。筒先61の外周面に雄ねじが設けられており、雌ねじを内周面に有するキャップ61aが筒先61の雄ねじと螺合している。まずアンカー素子定着カプセル2を、シリンダカートリッジ60の開口63から入れる。
【0072】
次いで、図7(b)に示すように、ボトル54に収容された水51を開口63から筒体62へ入れる。水51の量は、アンカー素子定着剤20の種類及び量に応じて予め決められている。ボトル54に、アンカー素子定着剤20に応じて決められた分量の水51が収容されていることが好ましい。それによれば、作業者は都度水51を計量することなく、ボトル54内の水51の全量を筒体62入れるだけで足り、不慣れな作業者であっても簡便に確実な作業をすることができるので均質な施工が可能で、施工管理を簡素化できるとともに、施工効率を向上させることができる。
【0073】
水51と水溶性樹脂シート10cからなる筒状容器10とが接触することにより、筒状容器10が水51を吸収して溶解する。このとき、水51が筒状容器10の全体にわたって均一に吸収されるので、水51が筒体62内の一部に偏在しない。そのため粉状のドライモルタルであるアンカー素子定着剤20が、水51を均一に吸収する。このように、アンカー素子定着カプセル2によれば、水51をシリンダカートリッジ60に入れるだけで、水51をアンカー素子定着剤20に吸収させて定着剤ペースト20aを調製することができる。それによりアンカー素子定着カプセルを水へ一定時間浸漬することを要しないので、アンカー定着の作業を速やかに行うことができる。
【0074】
図7(c)に定着剤ペースト20aの撹拌工程を示す。撹拌機70は、先端部で突き出た二つの撹拌羽73を有する回転ロッド72と、この回転ロッド72の基端に接続しており、回転ロッド72を撹拌羽73ごと回転ロッド72の中心軸周りに回転させる回転工具71とを有している。撹拌羽73は、向かい合った直線状の二辺、並びにこの二辺の一端同士及び他端同士を繋いでいる弧状の二辺を有する小判形をなした板部73bと、弧状の二辺でこの弧に沿って夫々突き出た突出部73dと、板部73bで点対称に開けられた開口部73aと、開口部73aに一部でつながって突出部73dと離反方向に迫り出した舌片部73cとを有している。撹拌羽73は、開口部73aを挟んだ板部73bの中心を貫通した回転ロッド72に溶接によって固定されている。二つの撹拌羽73は、舌片部73cを向かい合わせつつ互いに交差するように回転ロッド72に直列に固定されている。
【0075】
撹拌羽73を回転ロッド72ごと筒体62内へ挿入する。回転工具71を動作させると、回転ロッド72及び撹拌羽73が回転する。シリンダカートリッジ60内の定着剤ペースト20aは、撹拌羽73と接触して掻き回されて撹拌される。その結果、溶解せずに残存する筒状容器10の水溶性樹脂シート10cは、完全に溶解してその破砕片は定着剤ペースト20a内に残らない。撹拌時間は20~60秒間であることが好ましく、20~40秒間であることがより好ましい。なお、定着剤ペースト20aを撹拌する際、開口63から定着剤ペースト20aが遺漏しないように、開口63を上方へ、筒先61を下方へ夫々向けてシリンダカートリッジ60を垂直に固定してもよい。
【0076】
掻き回されることによって定着剤ペースト20a中のモルタル粒子は分散し、水51と均一に混合される。定着剤ペースト20aは、流動性を有しているので、シリンダカートリッジ60から定着剤ペースト20aを押し出して削孔に注入する際(図8(c)参照)の押し出し抵抗を格段に減じることができ、作業者の負担を軽減できる。
【0077】
次いで図7(d)に示すように、筒体62及び開口63の内径よりもわずかに小さな円盤形をなしている蓋体64を、開口63に嵌める。蓋体64は、筒先61に向かった押圧に応じて、筒体62内を移動することができる。次いで、基端側にキャップ61aと同一の雌ねじを、先端に開口した吐出口を、夫々有するノズル61bに、注入チューブ61cを接続する。注入チューブ61cと吐出口に向かって漸次窄まったノズル61bの先端部とを留め具61dで締付けて固定する。さらに、キャップ61aを取り外して、注入チューブ61cが接続されたノズル61bを、筒先61に螺合させて取り付ける。
【0078】
図7(e)に示す注入ガン80は、シリンダカートリッジ60の筒体62よりも幾分大きな径を有する湾曲した軒樋形をなしており筒体62を支持する筒体支持部82と、筒体支持部82の先端に立設し筒体62の先端側を支持する先端側支持部81と、筒体支持部82の基端に設けられた基端部85と、基端部85に固定された操作部84と、筒体支持部82上で先端側支持部81と基端部85との間を移動可能なピストン83と、一端でピストン83に連結し基端部85及び操作部84を貫通してその先へ延び他端で折り返すように湾曲した送出しロッド86とを、有している。
【0079】
先端側支持部81は、筒先61と接触せずかつ筒体62の先端側に接触してシリンダカートリッジ60を支持できるように、2本の爪を有している。操作部84は、作業者の掌と親指とで把持される把持部84bと、作業者の親指以外の指が掛けられるトリガー84aとを有している。トリガー84aと送出しロッド86とは、例えばラチェット機構を介して接続されている。トリガー84aが引かれて把持部84b側に移動することにより、送出しロッド86は先端側支持部81へ向かって送り出され、ピストン83が筒体支持部82上を移動する。ピストン83は、注入ガン80にセットされたシリンダカートリッジ60の開口63から筒体62内へ移動して蓋体64を押圧できるように、筒体62及び開口63より幾らか小さい径の円盤形をなしている。
【0080】
蓋体64を開口63に嵌め、送出しロッド86を先端側支持部81から離反する方向へ引いてピストン83を基端部85側へ移動させる。シリンダカートリッジ60を、筒先61が先端側支持部81の2本の爪の間で突き出るように、注入ガン80にセットする。次いでトリガー84aを複数回引いて、ピストン83が蓋体64に当接するまで先端側支持部81側へ移動させる。
【0081】
アンカー素子定着カプセル2を用いたアンカー素子定着方法における後半工程の一例を図8に示す。同図は注入方式によって、落石防護網を固定する支柱を張コンクリートに取り付ける工程を示している。
【0082】
図8(a)に示す張コンクリート33は、法面34へのコンクリート張工によって形成され、法面34を略均一な厚さで覆っている。そのため、張コンクリート33の表面33aは、傾斜している。作業者は、表面33aにコアボーリングマシン41をセットし、それの先端に取り付けられたコアドリル42を回転させて円筒形状の削孔35を形成する。
【0083】
図8(b)に示すように、作業者は注入チューブ61cを削孔35に挿し込み、トリガー84aを引く。定着剤ペースト20aが押し出されて注入チューブ61cから削孔35内に注入される。作業者は、削孔35から定着剤ペースト20aがわずかに溢れるまで、これを注入する。
【0084】
図8(c)にアンカー素子の打込工程を示す。アンカー素子であるアンカーボルト45は、それの中心軸に対して略垂直な面をなしている基端(同図(d)参照)と、定着剤ペースト20aで満たされた削孔35へ挿入し易いように鋭く尖った先端とを、有している。アンカーボルト45の先端から中程まで、複数のリブ45aが出っ張っている。アンカーボルト45の基端部の表面に雄ねじ45bが設けられている。この雄ねじ45bに、落石防護網の支柱を固定するナット46が螺合される(同図(d)参照)。アンカーボルト45の全長は、規格に示されているアンカーボルトの定着長を満足する。
【0085】
作業者は、アンカーボルト45の基端部を手47で握って削孔35内の定着剤ペースト20aに突き刺すように挿し込む。適度な流動性を有する定着剤ペースト20aと、アンカーボルト45の鋭利な先端とによって、作業者は然程、力を要さずとも、アンカーボルト45を定着剤ペースト20aで満たされた削孔35に打込むことができる。作業者は、削孔35内でアンカーボルト45を所定の角度となるように手47で支持する。凝結終結に達すると、定着剤ペースト20aは硬化を開始するので、アンカーボルト45は作業者の支持を要さず所定の角度を保ったまま、削孔35内に定着する。
【0086】
図8(a)~(c)に示す工程を経た張コンクリート33を同図(d)に示す。定着剤ペースト20aの硬化により生じた硬化体20bが削孔35の開口を塞いでいるとともに、削孔35の内壁面とアンカーボルト45との間に密に充填されている。しかも、アンカー素子定着カプセル2の筒状容器10の破砕片が硬化体20bに残存していないので、硬化体20bは、極めて高い圧縮強度を発現できる。そのため硬化体20bは、張コンクリート33に高強度で定着する。アンカーボルト45の基端部の雄ねじ45bにナット46が螺合して支柱48が固定されている。リブ45aのアンカー効果によってアンカーボルト45は、硬化体20bからの引抜強度を向上させている。
【実施例
【0087】
本発明のアンカー素子定着カプセルを適用した実施例、及び本発明を適用外の従来のアンカー素子定着カプセルである比較例を以下に示す。
【0088】
(実施例1)
パルプの60質量%と、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル繊維(融点220℃)の40質量%とが混紡され、18g/mの坪量を有する透水性不織シート10aを用意した。この透水性不織シート10aの縦目15方向及び横目16方向の引張強さを測定したところ、縦目15方向が10.8N/15mmであり、横目16方向が4.9N/15mmであった。透水性不織シート10aを、それの縦目15方向に沿って丸めて両端に開口を有する筒を形成し、外側面10aの一端と内側面10aの一端とを重ねてヒートシールにより熱融着して、縦目15に沿った幅3mmの接合部位14を形成した(封筒貼り)。筒の下端部13を潰して開口を閉じ、それにより形成された下端縁13cの両端同士が向い合うように下端部13を折り曲げた。さらに下端縁13cを上端部12に向かって複数回巻きながら折り返し、それにより重なった下端部13の一部をヒートシールによって熱融着して下端閉塞部13aを形成し、筒状容器10を得た。
【0089】
筒状容器10の上端部12の開口から、アンカー素子定着剤20であるドライモルタルの50gを、筒状容器10に充填した。最後に下端部13を形成するのと同様に操作して、上端閉塞部12aを形成し、アンカー素子定着剤20を詰め込んだ実施例のアンカー素子定着カプセル1を得た。このアンカー素子定着カプセル1の径Dは10.8mmであり、長さLは80mmであった。筒状容器10内はアンカー素子定着剤20で満たされ、アンカー素子定着カプセル1を傾けたり振ったりしてもアンカー素子定着剤20は流動せず、アンカー素子定着カプセル1の外形は変化しなかった。
【0090】
(比較例1)
パルプの70質量%と、ポリプロピレン繊維(融点160℃)の30質量%とが混紡され、30g/mの坪量を有する繊維布91を用意した。この繊維布91の縦目方向及び横目方向の引張強さを測定したところ、縦目方向が24.5N/15mmであり、横目方向が9.7N/15mmであった。繊維布91を、それの縦目方向に沿って丸めて両端に開口を有する筒を形成し、繊維布91の一端で内面91a同士を重ね合わせ、そこを縦目方向に沿いつつ糸92で縫製し、幅5mmの重合せ部91cを形成した(合掌貼り)。一方の開口部を折り畳んで塞ぎ、金属製ステープラ93で留め、筒状部91cを有する袋体94を得た。未閉塞の開口から実施例と同種で同質量のアンカー素子定着剤95を袋体94に充填し、この開口部を折り畳んで塞いでから金属製ステープラ93で留めて、比較例である従来のアンカー素子定着カプセル90を得た。重合せ部91cが筒状部91bの一部で外方へ向かって突き出ていた。従来のアンカー素子定着カプセル90の筒状部91bの長さは80mm、長径は13mm、及び短径は8mmであった。従来のアンカー素子定着カプセル90を傾けたり振ったりしたところ、アンカー素子定着剤95が筒状部91b内で流動し、その都度従来のアンカー素子定着カプセル90の外形が変化した。
【0091】
(吸水性試験)
実施例1のアンカー素子定着カプセル1と比較例1のアンカー素子定着カプセル90とを夫々9本ずつ用意して、すべてについて重量を測定した。次いでそれらすべてを温度20℃の水に浸漬して吸水させ、浸漬開始から0.5分後に取り出し質量を計測した。吸水後質量に対する吸水前質量の比から吸水率を求めた。さらに吸水時間を、1、2、3、5、8、10、12、及び14分間としたものについても同様にして吸水率を求めた。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示すように、実施例1のアンカー素子定着カプセル1は吸水時間1~14分間で吸水率が一定であるのに対し、比較例1のアンカー素子定着カプセルは吸水時間が長くなるにつれて吸水が進行し、吸水率が上昇した。実施例1のアンカー素子定着カプセル1は、水に浸漬するだけで所望の水量を内容物に吸収させることができるものであった。
【0094】
(比較例2)
パルプの60質量%と、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル繊維(融点220℃)の40質量%とが混紡され、5g/mの坪量を有する透水性不織シートを用意した。この透水性不織シートの縦目方向及び横目方向の引張強さを測定したところ、縦目方向が3N/15mmであり、横目方向が0.9N/15mmであった。この透水性不織シートを用いて、実施例1と同様に操作して筒状容器を作製した。この筒状容器を用いて、実施例1と同様に操作して比較例2のアンカー素子定着カプセルを得た。比較例2のアンカー素子定着カプセルを傾けたり振ったりしてもアンカー素子定着剤は流動せず、アンカー素子定着カプセルの外形は変化しなかった。
【0095】
(施工試験)
奥行(穿孔長)80mmで径12mmである複数の削孔を、ハンマードリルを用いて立方体形をなしたコンクリート塊の上面からそれの下面に向かって垂直に開けた。実施例1並びに比較例1及び2のアンカー素子定着カプセルを、夫々20℃の水に2分間浸漬してアンカー素子定着剤に吸水させた後に削孔に挿入し、そこへアンカー素子であるアンカー筋(全ネジボルトM8、寸切りカット)を振動ドリルによって打ち込んだ。
【0096】
このときのアンカー素子定着カプセル挿入作業性、アンカー筋打設性、及び削孔充填性について評価した。アンカー素子定着カプセル挿入性作業について、アンカー素子定着カプセルをスムーズに挿入できたものを○、挿入時にアンカー素子定着カプセルが削孔の開口や内壁面に干渉したものを×とした。アンカー筋設性について、アンカー筋をスムーズに打込みできたものを〇、打込みできたが時間を要したものを△、打込み不可能であったものを×とした。削孔充填性について、削孔の開口から目視によって確認した。アンカー筋と削孔の内壁面との間に隙間が見られなかったものを〇、見られたものを×とした。結果を表2に示す。
【0097】
(引抜き試験)
施工試験を行い、アンカー素子定着剤を20℃で7日間養生した後、実施例及び比較例のアンカー素子定着カプセルを用いて定着させた各27本のアンカー筋を、0.2mm/分の引張速度で引き抜いた。各27本中、アンカー筋が破断した本数、及びこれが抜けた本数を確認した。結果を表2に示す。なお、破断した本数が多いほどアンカー筋の定着力が強く、補強効果が高いことを示している。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示すように、実施例のアンカー素子定着カプセル1は、比較例1の従来のアンカー素子定着カプセル90に比較して、施工時の作業性に優れるとともに、アンカー素子であるアンカー筋をコンクリート躯体へ確りと定着できるものであった。一方、比較例2のアンカー素子定着カプセルの筒状容器は、透水性不織シートの坪量並びに縦目及び横目引張強さが不足していたため、水に浸漬後、水中で破れてアンカー素子定着剤が流出してしまった。比較例2のアンカー素子定着カプセルを用いた施工試験、及び引抜試験を実施できなかった。
【0100】
(実施例2~4)
透水性不織シート10aとして、坪量並びに縦目引張強さ及び横目引張強さを表3に示すように変更した実施例2~4のアンカー素子定着カプセル1を、実施例1と同様に操作して作製した。
【0101】
次いで、新たなコンクリート塊を用意し、削孔の奥行(穿孔長)を50mmに変更したこと、実施例1のアンカー素子定着カプセル1に加えて実施例2~4のアンカー素子定着カプセル1を用いたこと、アンカー筋の本数を各アンカー素子定着カプセル1に対して夫々1本としたこと以外は、上記の施工試験と同様に操作した。さらに、実施例1~4のアンカー素子定着カプセル1を用いて定着させたアンカー筋について、アンカー筋の引張荷重を測定ながら上記と同様に操作して引抜き試験を行い、その時の引抜荷重(kN)のピークを記録した。結果を表3に示す。なお削孔の奥行が短く、アンカー筋の定着長が短いため、アンカー筋はすべて抜けた。
【0102】
【表3】
【0103】
表3に示すように、透水性不織シート10aの坪量並びに縦目及び横目引張強さが小さいほど、高い引抜荷重を示した。
【0104】
(実施例5)
実施例1で用いた透水性不織シート10aを赤色油性インキで染色したこと以外は、実施例1と同様に操作して実施例5のアンカー素子定着カプセル1を作製した。
【0105】
(比較例3)
比較例1で用いた繊維布91を赤色油性インキで染色したこと以外は、比較例1と同様に操作して比較例3のアンカー素子定着カプセル90を作製した。
【0106】
(アンカー筋打設時挙動確認試験)
奥行80mmで径12mmの透明な樹脂製円筒管を用意した。この円筒管を上記の施工試験においてコンクリート躯体に開けた削孔に代えて用いたこと以外は、上記の施工試験と同様に操作して、実施例5のアンカー素子定着カプセル1を用いたアンカー筋打設を行った。このとき、アンカー筋打設前、アンカー筋の40mm挿入時である打設中、及びアンカー筋の80mm挿入時である打設後の夫々について、円筒管内における筒状容器10及びアンカー素子定着剤20の挙動を、撮影して記録した。なお撮影は筒状容器10の接合部位14に対向する位置から行った。比較例3についても、実施例5と同様に操作してアンカー筋打設時挙動確認試験を行った。このとき、撮影は重合せ部91cに対向する位置から行った。結果を図9に示す。
【0107】
図9に示すように、打設前、即ち円筒管36に挿入された直後の状態で、実施例5のアンカー素子定着カプセル1の接合部位14は目立たず、一見して視認し難い。それに対し比較例3のアンカー素子定着カプセル90おいて、筒状部91bの一部で突き出た筋条の重合せ部91cが円筒管36の内壁面に接触していた。
【0108】
アンカー筋の打設中、図9の上方から下方に向かって挿し込まれたアンカー筋によって実施例5のアンカー素子定着カプセル1の筒状容器10は細かく破砕し、収容されていた定着剤ペースト20aが円筒管36で流動しながら円筒管36の下端から中程にわたって広がっていた。比較例3のアンカー素子定着カプセル90は、アンカー筋の挿入時の力の集中を受け易い重合せ部91cに沿って上から下へと一直線に裂けるため、定着剤ペースト20aが袋体94から流出し難く、円筒管36の下方へと流動していなかった。そのため、円筒管36と未だ形状を維持している袋体94との間に隙間を生じていた。
【0109】
アンカー筋の打設後、実施例5のアンカー素子定着カプセル1の筒状容器10はすべて粉々に破砕されて、定着剤ペースト20aが円筒管36内でほぼ均一に広がっていた。それにより、円筒管36の内空は定着剤ペースト20aで満たされていた。一方比較例3は、重合せ部91cからのみ流出した定着剤ペースト20aが、円筒管36の下方へ流動していた。しかもアンカー筋打設後もなお形状を維持したまま残存する袋体94や重合せ部91cに、定着剤ペースト20aの流出や流動が妨げられて、定着剤ペースト20aが円筒管36内に広がっていなかった。また、アンカー筋の打設中に円筒管36の下方で生じた円筒管36と袋体94との隙間が、アンカー筋打設後も維持されていた。比較例3のアンカー素子定着カプセル90を用いた場合、アンカー筋の打設中とそれの打設後とにおいて、円筒管36内の様子にほとんど変化がなかった。
【0110】
図9に示すように、本発明を適用する実施例5のアンカー素子定着カプセル1によれば、定着剤ペースト20aが削孔内(円筒管36内)で均一に流動し、削孔の内壁面とアンカー素子との間に隙間なく充填されるので、アンカー素子をコンクリートへ高強度で定着させることができる。一方本発明の適用外である比較例3のアンカー素子定着カプセル90は、定着剤ペースト20aを削孔内に充填させることができないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のアンカー素子定着カプセル及びアンカー素子定着方法は、カルバート、ダム堤体、トンネル、建物のようなコンクリート製人工構造物や岩盤、自然崖のような地盤の補強工事や、あと施工アンカー工法に用いられる。
【符号の説明】
【0112】
1,2はアンカー定着カプセル、10は筒状容器、10a,10bは透水性不織シート、10aは外側面、10aは内側面、10bは不織シート、10bは外側面、10bは内側面、10cは水溶性樹脂シート、11は筒状胴部、12は上端部、12aは上端閉塞部、12bは上端湾曲部、13は下端部、13aは下端閉塞部、13bは下端湾曲部、13cは下端縁、13dは下端折込み部、14は接合部位、14aは接合縁、15は縦目、16は横目、20はアンカー素子定着剤、20aは定着剤ペースト、20bは硬化体、31はコンクリート躯体、31aは表面、32は削孔、33は張コンクリート、33aは表面、34は法面、35は削孔、36は円筒管、41はコアボーリングマシン、42はコアドリル、43は補強鉄筋、44は振動ドリル、45はアンカーボルト、45aはリブ、45bは雄ねじ、46はナット、47は手、48は支柱、51は水、52はトレイ、53は気泡、54はボトル、60はシリンダカートリッジ、61は筒先、61aはキャップ、61bはノズル、61cは注入チューブ、61dは留め具、62は筒体、63は開口、64は蓋体、70は撹拌機、71は回転工具、72は回転ロッド、73は撹拌羽、73aは開口部、73bは板部、73cは舌片部、73dは突出部、80は注入ガン、81は先端側支持部、82は筒体支持部、83はピストン、84は操作部、84aはトリガー、84bは把持部、85は基端部、86は送出しロッド、90は従来のアンカー定着カプセル、91は繊維布、91aは内面、91bは筒状部、91cは重合せ部、91dは端部、92は糸、93は金属製ステープラ、94は袋体、95はアンカー素子定着剤、Lは長さ、Dは径、Wは幅である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10