(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】物体検知システム
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20221220BHJP
G01V 11/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B61L23/00 A
G01V11/00
(21)【出願番号】P 2018080036
(22)【出願日】2018-04-18
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇人
(72)【発明者】
【氏名】木村 章紘
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 誉之
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-224935(JP,A)
【文献】特開2010-202017(JP,A)
【文献】特開2018-059770(JP,A)
【文献】特開2016-052849(JP,A)
【文献】特開2016-088183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00 - 99/00
G01V 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
専用路を走行する車両に配置された
第1センサによって物体を検知した場合に、前記車両を基準とする前記物体の方向及び距離を特定し、前記方向及び前記距離により特定される前記物体の位置を含む前記車両の進行方向に垂直な平面上の枠であって、前記車両の通過領域を示す枠を特定し、前記物体の前記平面上の位置が前記枠の内側であるか否かを判定する
物体検知システムであって、
前記専用路は軌道であり、前記車両に配置された第2センサによって前記車両の前方の軌道を認識し、認識した軌道の前記平面上における位置から前記枠を特定し、
前記第1センサは、前方に電波を発射し、反射波を受信することにより前方にある物体を検知するセンサであり、
前記第2センサは、前方を撮影し、前方の画像を取得するセンサである
物体検知システム。
【請求項2】
前記車両の位置を特定し、車両の位置と枠とを対応付けて記憶している記憶装置から、特定した前記車両の位置に応じた枠を、前記通過領域を示す枠として読み出す
請求項
1に記載の物体検知システム。
【請求項3】
加速度センサにより前記車両の揺れ状態を測定し、車両の位置と揺れ状態とを対応付けて記憶している前記記憶装置から、特定した前記車両の位置に応じた揺れ状態を読み出し、読み出した当該揺れ状態に基づき前記物体の位置又は前記通過領域を示す枠を補正する
請求項
2に記載の物体検知システム。
【請求項4】
傾斜センサにより前記車両の傾斜状態を測定し、車両の位置と傾斜状態とを対応付けて記憶している前記記憶装置から、特定した前記車両の位置に応じた傾斜状態を読み出し、読み出した当該傾斜状態に基づき前記物体の位置又は前記通過領域を示す枠を補正する
請求項
2又は
3に記載の物体検知システム。
【請求項5】
前記車両に配置された
前記第2センサによって前記車両の前方の架線を認識し、認識した架線に連続する領域に位置する物体を検知する
請求項1に記載の物体検知システム。
【請求項6】
前記車両に配置された
前記第2センサによって前記車両の前方を撮影し、前記車両の位置を特定し、車両の位置と画像とを対応付けて記憶している記憶装置から、特定した前記車両の位置に応じた画像を読み出し、読み出した画像と撮像した画像との比較結果に基づき前記
第1センサによって検知した物体が異物であるか否かを判定する
請求項1に記載の物体検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の運転の自動化のために、走行時の前方の障害物検知を行う技術が検討されている。線路周辺に監視装置を設置する地上監視と、鉄道車両にて監視を行う車上監視が考えられる。特許文献1には、車上監視として、鉄道車両にカメラを搭載して障害物検知を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車上監視にカメラを用いる場合、霧の発生時や逆光等の条件においては、物体の検知あるいは車両の通過領域の特定が困難となる場合がある。上記の背景に鑑み、本発明は、物体の検知および車両の通過領域を容易に特定可能とする手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、専用路を走行する車両に配置された第1センサによって物体を検知した場合に、前記車両を基準とする前記物体の方向及び距離を特定し、前記方向及び前記距離により特定される前記物体の位置を含む前記車両の進行方向に垂直な平面上の枠であって、前記車両の通過領域を示す枠を特定し、前記物体の前記平面上の位置が前記枠の内側であるか否かを判定する物体検知システムであって、前記専用路は軌道であり、前記車両に配置された第2センサによって前記車両の前方の軌道を認識し、認識した軌道の前記平面上における位置から前記枠を特定し、前記第1センサは、前方に電波を発射し、反射波を受信することにより前方にある物体を検知するセンサであり、
前記第2センサは、前方を撮影し、前方の画像を取得するセンサである物体検知システムを第1の態様として提供する。
【0006】
第1の態様の物体検知システムによれば、センサによる物体の検知と車両の通過領域を示す枠の特定を容易に行うことができる。
【0008】
また、第1の態様の物体検知システムによれば、第2センサによって車両の前方の軌道を認識できるので、車両の通過領域を示す枠の特定を高い精度で行うことができる。
【0010】
また、第1の態様の物体検知システムによれば、第1センサが光学センサとは異なる方式であるので、霧の発生時や逆光等の条件においても、容易に物体の検知ができる。
【0011】
第1の態様の物体検知システムにおいて、前記車両の位置を特定し、車両の位置と枠とを対応付けて記憶している記憶装置から、特定した前記車両の位置に応じた枠を、前記通過領域を示す枠として読み出す、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0012】
第2の態様の物体検知システムによれば、車両の通過領域を示す枠の特定を容易に行うことができる。
【0013】
第2の態様の物体検知システムにおいて、加速度センサにより前記車両の揺れ状態を測定し、車両の位置と揺れ状態とを対応付けて記憶している前記記憶装置から、特定した前記車両の位置に応じた揺れ状態を読み出し、読み出した当該揺れ状態に基づき前記物体の位置又は前記通過領域を示す枠を補正する、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0014】
第3の態様の物体検知システムによれば、検知された物体が通過領域を示す枠の内側であるか否かの判定において、車両の揺れの影響が考慮される。
【0015】
第2又は第3の態様の物体検知システムにおいて、傾斜センサにより前記車両の傾斜状態を測定し、車両の位置と傾斜状態とを対応付けて記憶している前記記憶装置から、特定した前記車両の位置に応じた傾斜状態を読み出し、読み出した当該傾斜状態に基づき前記物体の位置又は前記通過領域を示す枠を補正する、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0016】
第4の態様の物体検知システムによれば、検知された物体が通過領域を示す枠の内側であるか否かの判定において、車両の傾きの影響が考慮される。
【0017】
第1の態様の物体検知システムにおいて、前記車両に配置された前記第2センサによって前記車両の前方の架線を認識し、認識した架線に連続する領域に位置する物体を検知する、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0018】
第5の態様の物体検知システムによれば、架線に付着している付着物等を検知することができる。
【0019】
第1の態様の物体検知システムにおいて、前記車両に配置された前記第2センサによって前記車両の前方を撮影し、前記車両の位置を特定し、車両の位置と画像とを対応付けて記憶している記憶装置から、特定した前記車両の位置に応じた画像を読み出し、読み出した画像と撮像した画像との比較結果に基づき前記第1センサによって検知した物体が異物であるか否かを判定する、という構成が第6の態様として採用されてもよい。
【0020】
第6の態様の物体検知システムによれば、専用路の周辺に障害物ではない物体が定常的に配置されている場合、当該物体を誤って障害物と検知する不都合が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る物体検知システムの全体構成を示した図。
【
図2】一実施形態に係るデータ処理装置のハードウェア構成を示した図。
【
図3】一実施形態に係るデータ処理装置に格納される通過領域枠DBの構成を示した図。
【
図4】一実施形態に係るデータ処理装置の機能的構成を示した図。
【
図5】一実施形態に係る物体検知システムにおける通過領域枠の特定を説明するための図。
【
図6】一実施形態に係るデータ処理装置における通過領域枠の特定処理のフローを示した図。
【
図7】一実施形態に係る物体検知システムにおける障害物の検知を説明するための図。
【
図8】一実施形態に係るデータ処理装置における障害物の検知処理のフローを示した図。
【
図9】一実施形態に係る物体検知システムにおける架線の監視を示した図。
【
図10】変形例に係るデータ処理装置における通過領域枠の特定処理および障害物の検知処理のフローを示した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施形態]
以下に本発明の一実施形態に係る物体検知システム1を説明する。
図1は、物体検知システム1の全体構成を模式的に示した図である。なお、ここでの物体は、車や人、落石や動物のようにある程度以上の大きさの、障害物となり得る物体である。
【0023】
図1に示される鉄道車両11は、専用路である軌道12上を走行する。鉄道車両11には、物体検知システム1を動作させるためのデータ処理装置21が搭載されている。鉄道車両11の走行方向の前側には、カメラ22とレーダ23が設けられている。カメラ22は、走行中に前方を連続して撮影し、走行位置ごとの前方の画像を取得する。レーダ23は、前方に電波を発射し、反射波を受信することにより、前方にある物体OBを検知する。
【0024】
鉄道車両11には、傾きセンサ24、加速度センサ25、GNSS(Global Navigation Satellite System)26が設けられている。傾きセンサ24は、鉄道車両11の走行中における傾きを測定する。加速度センサ25は、鉄道車両11の走行中における揺れを測定する。GNSS26は、鉄道車両11の現在の走行位置(緯度経度)を測定する。
【0025】
架線13は、軌道12の上方に軌道12に沿って架け渡された電線であり、鉄道車両11への送電のために設けられている。
【0026】
図2は、データ処理装置21のハードウェア構成を示したブロック図である。データ処理装置21のハードウェアはコンピュータであり、プロセッサ211と、メモリ212と、インタフェース213とを備える。
【0027】
プロセッサ211は、メモリ212に記憶されているプログラムに従った処理を実行することによって、データ処理装置21の各部の動作を制御する。メモリ212は各種データを記憶する。インタフェース213は、カメラ22、レーダ23、傾きセンサ24、加速度センサ25、GNSS26、及びブレーキ制御部27と接続されており、これらの装置とプロセッサ211との間のデータの受け渡しを行う。
【0028】
メモリ212には、鉄道車両11の走行位置に応じた鉄道車両11の通過領域を示す通過領域枠の情報を格納するデータベースである通過領域枠DBが記憶されている。
【0029】
図3は、通過領域枠DBのデータ構成を例示した図である。通過領域枠DBは、走行位置に応じた通過領域枠に関するデータテーブルの集まりである。各々のデータテーブルには、鉄道車両11の走行位置、鉄道車両11の傾き(ピッチ、ヨー、ロール)と揺れ(上下、左右、前後)の測定値、及び、一定距離間隔毎の建築限界枠を示す角度(左側、右側)を含むデータレコードが格納されている。
【0030】
建築限界枠とは、軌道12周辺の構造物を設置してはならない範囲を示している。本実施形態では、障害物の検知は、建築限界枠内において可能であればよいものとし、建築限界枠を通過領域枠としている。
【0031】
図4は、データ処理装置21の機能的構成を示したブロック図である。データ処理装置21のハードウェアであるコンピュータは、本実施形態に係るプログラムに従うデータ処理を行うことによって、画像取得部221、軌道検出部222、通過領域枠特定部223、記憶部224、車両状態取得部225、物体情報取得部226、判定部227、及び架線監視部228を備える装置として機能する。以下に、データ処理装置21が備える機能的構成を説明する。
【0032】
画像取得部221は、カメラ22で連続的に撮影される画像を画像データとして取得する。軌道検出部222は、画像取得部221が取得した画像データの各々が示す画像より、軌道12の部分を抽出する。通過領域枠特定部223は、軌道検出部222で検出された軌道12の部分に基づいて、画像内の障害物検知対象の範囲である通過領域枠を特定する。記憶部224は、特定された通過領域枠を格納する通過領域枠DBに加え、データ処理装置21の他の構成部がデータ処理を行う際に生成する各種データを記憶する。
【0033】
車両状態取得部225は、傾きセンサ24、加速度センサ25、及びGNSS26の各々から、鉄道車両11の傾き、揺れ、及び走行位置のデータを取得する。これらのデータは、通過領域枠特定部223、及び判定部227で用いられる。
【0034】
物体情報取得部226は、レーダ23からの物体の検知情報を取得する。そして、レーダ23から物体までの距離と鉄道車両11の正面方向に対する物体の角度のデータを得る。判定部227は、車両状態取得部225で得た鉄道車両11の傾き、揺れ、及び走行位置のデータと、レーダ23で得た物体までの距離と角度のデータに基づいて、物体が通過領域枠内であるか否かを判定する。判定部227は、記憶部224に記憶されている通過領域枠DBから読み出した通過領域枠データが示す通過領域枠を用いる。判定部227は、物体が通過領域枠内にあると判定した場合は、ブレーキ制御部27に指示を出し、鉄道車両11を減速、停止させる。
【0035】
架線監視部228は、画像取得部221で得た画像データが示す画像より、架線13の部分を抽出し、架線13の部分における付着物等の有無を監視する。
【0036】
図5は、軌道検出部222、通過領域枠特定部223による通過領域枠の特定の手順を説明するための図である。
【0037】
軌道検出部222は、
図5(A)に示されるような画像取得部221で得た画像より、軌道12の画像、すなわち、左側のレール121と右側のレール122の画像を抽出する。そして、レール121とレール122の中間に位置する軌道中心123を求める。
【0038】
図5(B)は、軌道12を上方から見た図である。
図5(B)において、点L
1は、カメラ22の位置を示す点Sから前方の距離aの位置におけるレール121に対応する位置である。点R
1は、点Sから前方の距離aの位置におけるレール122に対応する位置である。点Cは、点Sから前方の距離aの位置における軌道中心123に対応する位置である。
【0039】
点L
2は、点Sから前方の距離aの位置における建築限界枠の左端に対応する位置である。点R
2は、点Sから前方の距離aの位置における建築限界枠の右端に対応する位置である。点Fは、
図5(B)において破線で示される点Sからの正面方向上の任意の点である。
【0040】
通過領域枠特定部223は、以下のようにして、建築限界枠(本実施形態における通過領域枠)の位置を特定する。
【0041】
図5(B)において破線で示される点Sからの正面方向は、画像の左右方向の中心を取ることにより特定される。距離aは、画像の下端からの縦方向の画素数によって特定される。点Sと点L
1との距離、点Sと点R
1との距離は、画像の横方向の画素数によって特定される。このように特定した距離から、角度∠FSL
1、角度∠FSC、及び角度∠FSR
1が特定される。さらに、角度∠FSL
1と角度∠FSCとから、角度∠CSL
1が特定され、角度∠FSR
1と角度∠FSCとから、角度∠CSR
1が特定される。
【0042】
点C(軌道中心123上の点)から点L1(レール121上の点)までの距離CL1と、点Cから点R1(レール122上の点)までの距離CR1は既知である。また、点Cから点L2(建築限界枠の左端上の点)までの距離CL2と、点Cから点R2(建築限界枠の右端上の点)までの距離CR2も既知である。
【0043】
なお、正確には、
図5(B)に示されるように、軌道12がカーブしている場合、距離CL
1、距離CR
1、距離CL
2、距離CR
2の各々の画像における長さは、軌道12が正面に真っ直ぐ延びている場合のそれらの長さと異なるが、それらの差異は誤差の範囲内と見なせる。
【0044】
距離CL1と距離CL2と角度∠CSL1は既知であるので、これらから角度∠CSL2が特定される。また、距離CR1と距離CR2と角度∠CSR1は既知であるので、これらから角度∠CSR2が特定される。
【0045】
角度∠FSCが特定されると、角度∠CSL2、角度∠CSR2に対して角度∠FSCを減算あるいは加算することにより、角度∠FSL2、角度∠FSR2が特定される。
【0046】
角度∠FSL2と角度∠FSR2は建築限界枠の左右方向における範囲を示す。建築限界枠の左右方向の長さと上下方向の長さの比率は既知であるため、角度∠FSL2と角度∠FSR2により、建築限界枠の上下方向の範囲も特定される。その結果、建築限界枠、すなわち通過領域枠が特定されることになる。
【0047】
通過領域枠特定部223は、距離aを変化させながら、上述した手順により距離aにおける通過領域枠を特定する。
図5(C)は、
図5(A)に示した画像上に、通過領域枠特定部223が特定した複数の通過領域枠SF
1、SF
2、SF
3を表示させた状態を示している。これらの通過領域枠はいずれも、カメラ22の現在の正面方向に対して垂直な平面である。
【0048】
図6は、データ処理装置21における通過領域枠を特定する処理のフローを示した図である。まず、画像取得部221は、カメラ22から1フレームの画像を取得する(ステップS501)。続いて、車両状態取得部225は、傾きセンサ24、加速度センサ25、GNSS26より測定値、すなわち、鉄道車両11の傾き、揺れ、位置の情報を取得する(ステップS502)。
【0049】
続いて、軌道検出部222は、
図5(A)で説明したように、画像取得部221で取得した画像においてレール121、レール122、軌道中心123を特定する(ステップS503)。
【0050】
続いて、通過領域枠特定部223は、予め定められた複数の所定の距離aの中から、例えば値が小さい順に1つ、距離aを選択する(ステップS504)。続いて、通過領域枠特定部223は、
図5(B)で説明したように、選択した距離aにおける角度∠FSL
2と角度∠FSR
2を特定する(ステップS505)。これらの角度の特定により、通過領域枠の範囲が特定されたことになる。
【0051】
続いて、通過領域枠特定部223は、角度∠FSL2と角度∠FSR2の特定を行っていない距離aの有無を判定する(ステップS506)。角度∠FSL2と角度∠FSR2の特定を行っていない距離aが有れば(ステップS506;Yes)、通過領域枠特定部223は処理をステップS504に戻し、角度∠FSL2と角度∠FSR2が未特定の距離aを選択した後、ステップS505以降の処理を繰り返す。
【0052】
全ての距離aに関し角度∠FSL
2と角度∠FSR
2の特定が行われている場合(ステップS506;No)、通過領域枠特定部223は通過領域枠DB(
図3参照)に新たなデータテーブルを作成し、ステップS502において取得した鉄道車両11の走行位置、傾き(ピッチ、ヨー、ロール)、揺れ(上下、左右、前後)を示すデータと、複数の距離aの各々に関しステップS505において特定した角度∠FSL
2及び角度∠FSR
2を示すデータを、新たに作成したデータテーブルに格納する(ステップS507)。
【0053】
データ処理装置21は、カメラ22により新たなフレームの画像を生成される毎に、
図6の処理を繰り返す。
【0054】
図6の処理は、この後に説明する障害物の検知処理のために通過領域枠DBのデータテーブルを作成するための処理である。これらの処理はカメラ22を用いて行うため、霧の発生時や逆行等の条件においては良好な画像が得られず、通過領域枠を示す角度∠FSL
2及び角度∠FSR
2の正確な特定が困難な場合がある。したがって、
図6の処理は、天候が良好な時に行われることが好ましい。
【0055】
図7は、判定部227による、障害物の検知処理(障害物が通過領域枠の内側にあるか否かを判定する処理)の手順を説明するための図である。
図7(A)及び
図7(B)は鉄道車両11と軌道12を上から見た図を示している。
図7(A)及び
図7(B)は、鉄道車両11が走行位置Pにいる時に、レーダ23により、正面方向から角度θの方向の距離b
1の位置に物体OBが検知された場合を示している。
【0056】
判定部227は、レーダ23により検知された角度θと距離b1から、正面方向における点Sから物体OBまでの距離b2を特定する。続いて、判定部227は、通過領域枠DBに含まれる走行位置Pに応じたデータテーブルから、距離b2に対応する通過領域枠(建築限界枠)の範囲を示す2つの角度(角度∠FSL2及び角度∠FSR2)を示すデータを読み出す。
【0057】
図7(B)は、通過領域枠DBから読み出された距離b
2に対応する通過領域枠の左端位置である点L
2と、距離b
2に対応する通過領域枠の右端位置である点R
2と、物体OBの位置関係を示した図である。
【0058】
図7(B)において、物体OBは線分L
2R
2の上に無いため、判定部227は、物体OBは通過領域枠の外側にあり、鉄道車両11の走行における障害物ではないと判定する。一方、物体OBが線分L
2R
2の上にある場合、判定部227は、物体OBは通過領域枠の内側にあり、鉄道車両11の走行における障害物であると判定し、ブレーキ制御部27に鉄道車両11を停止させるための動作を指示する。
【0059】
図8は、データ処理装置21における障害物の検知処理のフローを示した図である。まず、判定部227は、鉄道車両11の障害物となる物体OBが連続して検知された回数をカウントするためのカウンタに初期値「0」を代入する(ステップS600)。その後、判定部227は物体情報取得部226によりレーダ23から物体検知情報が取得されるまで待機する。
【0060】
その後、物体情報取得部226がレーダ23から物体検知情報を取得する(ステップS601)。物体検知情報には、鉄道車両11から物体OBまでの距離b1と、鉄道車両11の正面方向と物体OBに向かう方向との間の角度θが含まれる。
【0061】
続いて、判定部227は、距離b1と角度θから、鉄道車両11の正面方向における鉄道車両11から物体OBまでの距離b2を特定する(ステップS602)。
【0062】
続いて、車両状態取得部225は、傾きセンサ24、加速度センサ25、及びGNSS26より測定値を取得する(ステップS603)。
【0063】
続いて、判定部227は、通過領域枠DBに含まれるデータテーブルのうち、GNSS26より車両状態取得部225が取得した測定値が示す鉄道車両11の走行位置に対応するデータテーブルから、距離b2に応じた通過領域枠の範囲を示す2つの角度と、鉄道車両11の傾き及び揺れを示すデータを読み出す(ステップS604)。
【0064】
続いて、判定部227は、ステップS604において読み出したデータが示す鉄道車両11の傾き及び揺れ(通過領域枠DBのデータテーブルの作成時における鉄道車両11の傾き及び揺れ)と、ステップS603において傾きセンサ24及び加速度センサ25から取得した測定値が示す鉄道車両11の傾き及び揺れ(物体OBの検知時における鉄道車両11の傾き及び揺れ)に基づき、正面方向と物体OBに向かう方向とがなす角度θ(すなわち、物体OBの位置)の補正を行う(ステップS605)。以下、角度θを補正した角度を角度θ1とする。
【0065】
続いて、判定部227は、角度θ1が、ステップS604で読み出した通過領域枠の範囲を示す2つの角度の内側であるか否かを判定する(ステップS606)。
【0066】
角度θ1が通過領域枠の範囲を示す2つの角度の内側でなければ(ステップS606;No)、データ処理装置21は処理をステップS600に戻し、ステップS600以降の処理を繰り返す。一方、角度θ1が通過領域枠の範囲を示す2つの角度の内側であれば(ステップS606;Yes)、判定部227はカウンタの値を「1」だけ増加する(ステップS607)。続いて、判定部227は、カウンタの値が所定数に達したか否かを判定する(ステップS608)。
【0067】
カウンタの値が所定数に達していなければ(ステップS608;No)、データ処理装置21は処理をステップS601に戻し、ステップS601以降の処理を繰り返す。一方、カウンタの値が所定数に達していれば(ステップS608;Yes)、判定部227は物体OBが鉄道車両11の走行における障害物であると判定し、ブレーキ制御部27に鉄道車両11を停車させるための動作を指示する(ステップS609)。
【0068】
上述したデータ処理装置21の検知処理において検知される物体OBは、地上に配置された物体である。データ処理装置21は、地上に配置された物体の検知と並行して、架線13に付着している物体の検知も行う。架線監視部228は、鉄道車両11の走行中に前方の架線13を監視し、架線13に付着している物体を検知する。
【0069】
図9は、架線監視部228が行う架線13の監視の動作を説明するための図である。架線監視部228は、カメラ22から取得した画像に基づいて架線13の監視を行う。
図9(A)と
図9(B)は、画像取得部221がカメラ22から取得した異なるタイミングの画像の例を示している。
図9(A)及び
図9(B)の画像には、レール121とレール122の画像の上方に、架線13の画像が含まれている。
【0070】
架線監視部228は、まず、画像からレール121とレール122を認識する。次に、架線監視部228は、画像から、レール121とレール122の上方に位置する線状の物体を架線13として認識する。
【0071】
続いて、架線監視部228は、認識した架線13に連続する領域に位置する物体を検知する。架線監視部228は、
図9(A)に関しては、架線13と連続する領域に物体を検知しない。この場合、架線監視部228は何もしない。一方、架線監視部228は、
図9(B)に関しては、架線13と連続する領域に物体DPを検知する。この場合、架線監視部228はブレーキ制御部27に鉄道車両11を停車させるための動作を指示する。
【0072】
[変形例]
上述した実施形態は様々に変形することができる。以下にそれらの変形の例を示す。なお、上述した実施形態および以下に示す変形例は適宜組み合わされてもよい。
【0073】
(1)上述の実施形態において、物体検知システム1は鉄道車両11の走行における障害物を検知するために用いられるものとした。物体検知システム1の利用対象は鉄道車両に限られず、専用路を走行する車両であれば他の種別の車両の走行における障害物の検知のために物体検知システム1が用いられてもよい。
【0074】
例えば、物体検知システム1が、バス・ラピッド・トランジット(BRT)のような専用路を走行する自動車の走行における障害物の検知のために用いられてもよい。この場合、データ処理装置21は、カメラ22から取得する画像から、軌道12に代えて、車線境界線等を抽出し用いればよい。
【0075】
また、ライト・レール・トランジット(LRT)のように、部分的に専用軌道でない軌道を走行する軽量車両の走行における障害物の検知のために、物体検知システム1が用いられてもよい。
【0076】
(2)通過領域枠DBの準備のための走行時に、走行位置毎にカメラ22によって鉄道車両11の前方を撮影した画像を格納しておき、通常の走行時に、レーダ23によって物体OBを検知した際に、判定部227が、その時点の鉄道車両11の走行位置に対応する画像を通過領域枠DBから読み出し、その時点でカメラ22によって鉄道車両11の前方を撮影した画像と、通過領域枠DBから読み出した画像との比較結果に基づき、物体OBが異物(定常的に存在する物体ではなく、障害物の候補である物体)か否かを判定してもよい。
【0077】
この場合、判定部227は、物体OBが異物ではなく、定常的に存在する物体であると判定した場合、物体OBを障害物ではないと判定する。一方、判定部227は、物体OBが異物であると判定した場合、物体OBの位置が通過領域枠の内側であるか否かに基づき、物体OBが障害物であるか否かを判定する。この変形例によれば、軌道12の近傍に定常的に配置されている物体が誤って障害物と判定される可能性が低減される。
【0078】
(3)上述の実施形態において、データ処理装置21は、鉄道車両11の通常の走行中にレーダ23を用いて物体検知をする前に、予め鉄道車両11を走行させ、通過領域枠DBの生成を行うものとした。これに代えて、データ処理装置21が、走行中に通過領域枠のデータを生成しながら生成した通過領域枠を用いて物体検知を行ってもよい。
【0079】
図10は、この変形例に係るデータ処理装置21における通過領域枠の特定処理および障害物の検知処理のフローを示した図である。なお、
図10におけるステップに付された番号は、
図6及び
図8の対応するステップの番号である。
【0080】
まず、判定部227は、鉄道車両11の障害物となる物体OBが連続して検知された回数をカウントするためのカウンタに初期値「0」を代入する(ステップS600)。その後、判定部227は物体情報取得部226によりレーダ23から物体検知情報が取得されるまで待機する。
【0081】
その後、物体情報取得部226がレーダ23から物体検知情報を取得する(ステップS601)。物体検知情報には、鉄道車両11から物体OBまでの距離b1と、鉄道車両11の正面方向と物体OBに向かう方向との間の角度θが含まれる。
【0082】
続いて、車両状態取得部225は、傾きセンサ24、加速度センサ25、GNSS26より測定値、すなわち、鉄道車両11の傾き、揺れ、位置の情報を取得する(ステップS603)。
【0083】
続いて、画像取得部221は、カメラ22から画像を取得する(ステップS501)。続いて、軌道検出部222は、画像取得部221で取得した画像においてレール121、レール122、軌道中心123を特定する(ステップS503)。
【0084】
ステップS501及びステップS503の処理と並行して、判定部227は、ステップS601において物体情報取得部226が取得した物体検知情報に含まれる距離b1と角度θから、鉄道車両11の正面方向における鉄道車両11から物体OBまでの距離b2を特定する(ステップS602)。
【0085】
続いて、通過領域枠特定部223は、ステップS602において特定した距離b2における角度∠FSL2と角度∠FSR2を特定する(ステップS505)。続いて、判定部227は、ステップS603において傾きセンサ24及び加速度センサ25から取得した測定値が示す鉄道車両11の傾き及び揺れに基づき、正面方向と物体OBに向かう方向とがなす角度θの補正を行う(ステップS605)。以下、角度θを補正した角度を角度θ1とする。
【0086】
続いて、判定部227は、角度θ1が、ステップS505において特定した通過領域枠の範囲を示す角度∠FSL2と角度∠FSR2の内側であるか否かを判定する(ステップS606)。
【0087】
角度θ1が通過領域枠の範囲を示す2つの角度の内側でなければ(ステップS606;No)、データ処理装置21は処理をステップS600に戻し、ステップS600以降の処理を繰り返す。一方、角度θ1が通過領域枠の範囲を示す2つの角度の内側であれば(ステップS606;Yes)、判定部227はカウンタの値を「1」だけ増加する(ステップS607)。続いて、判定部227は、カウンタの値が所定数に達したか否かを判定する(ステップS608)。
【0088】
カウンタの値が所定数に達していなければ(ステップS608;No)、データ処理装置21は処理をステップS601に戻し、ステップS601以降の処理を繰り返す。一方、カウンタの値が所定数に達していれば(ステップS608;Yes)、判定部227は物体OBが鉄道車両11の走行における障害物であると判定し、ブレーキ制御部27に鉄道車両11を停車させるための動作を指示する(ステップS609)。
【0089】
(4)上述の実施形態においては、物体の検知はレーダにより行われるものとしたが、カメラ、レーザセンサ、3次元距離画像センサ等の他の種類のセンサにより物体の検知が行われてもよい。
【0090】
(5)上述の実施形態においては、車両の前方の物体(軌道等)を認識するための画像がカメラにより生成されるものとしたが、3次元距離画像センサ等の他の種類の光学センサがカメラに代えて用いられてもよい。
【0091】
(6)上述の実施形態においては、通過領域枠として建築限界枠を用いるものとしたが、通過領域枠は建築限界枠に限られず、例えば車両限界枠又は建築限界枠を外側に所定距離だけ拡張した枠等が通過領域枠として用いられてもよい。
【0092】
(7)上述の実施形態においては、物体OBの位置が鉄道車両11の傾き及び揺れに基づき補正されるものとしたが、物体OBの位置が鉄道車両11の傾き及び揺れのいずれか一方にのみ基づいて補正されてもよい。また、鉄道車両11の傾き又は揺れに基づく物体OBの位置の補正が行われなくてもよい。
【0093】
(8)上述の実施形態においては、障害物の検知における鉄道車両11の傾き及び揺れの影響を考慮するために、物体OBの位置が補正されるものとしたが、物体OBの位置に代えて、傾き及び揺れに基づき、通過領域枠が補正されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…物体検知システム、11…鉄道車両、12…軌道、13…架線、21…データ処理装置、22…カメラ、23…レーダ、24…傾きセンサ、25…加速度センサ、26…GPS、27…ブレーキ制御部、211…プロセッサ、212…メモリ、213…インタフェース、221…画像取得部、222…軌道検出部、223…通過領域枠特定部、224…記憶部、225…車両状態取得部、226…物体情報取得部、227…判定部、OB…物体、DP…物体。