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特許7197295飲料用分散油脂、及びそれを含有する飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】飲料用分散油脂、及びそれを含有する飲料
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/01 20060101AFI20221220BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20221220BHJP
   A23L 2/62 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
A23D7/01
A23L2/52
A23L2/00 L
A23L2/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018131217
(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公開番号】P2020005594
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】加登 博文
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/053252(WO,A1)
【文献】特開2008-119568(JP,A)
【文献】特開平10-165151(JP,A)
【文献】特開2019-206518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/01
A23L 2/52
A23L 2/62
A23F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と乳化剤とを含有し、該乳化剤として、ジグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレートとソルビタン脂肪酸エステルとを含有し、
前記ジグリセリン脂肪酸エステルの含量は1.5~4質量%であり、前記ポリグリセリン縮合リシノレートの含量は0.3~4質量%であり、前記ソルビタン脂肪酸エステルの含量は0.5~4質量%であることを特徴とする飲料用分散油脂。
【請求項2】
前記ソルビタン脂肪酸エステルは、ラウリン酸を構成脂肪酸として含有する、請求項1に記載の飲料用分散油脂。
【請求項3】
前記油脂は、MCTオイル、ココナッツ油、亜麻仁油、えごま油、オリーブ油、グレープシード油、こめ油、魚油、ゴマ油、アボカド油、アーモンド油、ピーナッツ油、マカダミアナッツ油から選ばれた1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の飲料用分散油脂。
【請求項4】
前記請求項1~のいずれか1項に記載の飲料用分散油脂を添加混合することを特徴とする飲料の製造方法
【請求項5】
前記飲料用分散油脂を、液体中に1~7質量%含有する請求項に記載の飲料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料に添加した際に飲料への分散性が良く、また、乳化安定性に優れた飲料用分散油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一部の油脂は健康に良いとして注目を集めている。例えば、MCT(Medium Chain Triglycerides:中鎖脂肪酸)オイルは、それに含まれる中鎖脂肪酸が速やかにエネルギー化されるため、十分に食事を摂ることが困難な高齢者や病中病後の患者に好適に使用されている。また、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を豊富に含むオイルは、高血圧や老化の防止に有効であることが報告され、健康食品として広く販売されている。
【0003】
しかし、油脂は、水への分散性が劣るため、飲料に添加して摂取しにくいという問題があった。
【0004】
この問題を解消するものとして、例えば、特許文献1には、不飽和ジグリセリン脂肪酸エステルを0.2重量%以上含むことを特徴とする食品用乳化油脂が記載されている。また、特許文献2には、油脂を12~30質量%、ゲル化剤、及び水を含有し、所定の硬さであるゼリー飲料であって、該油脂が中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む粉末油脂であり、該粉末油脂中に乳蛋白質を5~25質量%含有することを特徴とするゼリー飲料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-149950号公報
【文献】特許第6198995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2等に記載された油脂は、飲料に添加した際の分散性や、乳化安定性について十分に満足できるものではなかった。
【0007】
よって、本発明の目的は、飲料に添加した際の分散性が良く、また、乳化安定性に優れた飲料用分散油脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、油脂と乳化剤とを含有し、該乳化剤としてジグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレートとを含有する油脂とすることにより、飲料に添加して、必要に応じて簡便に攪拌した際に分散性が良く、また、乳化安定性に優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の1つは、油脂と乳化剤とを含有し、該乳化剤として、ジグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレートとを含有することを特徴とする飲料用分散油脂を提供するものである。本発明の飲料用分散油脂は、飲料に添加して、必要に応じて簡便に攪拌した際に分散性が良く、また、乳化安定性に優れたものとすることができる。
【0010】
本発明の飲料用分散油脂においては、前記乳化剤として、更にソルビタン脂肪酸エステルを含有するものであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の飲料用分散油脂においては、前記ジグリセリン脂肪酸エステルの含量は1.5~4質量%であり、前記ポリグリセリン縮合リシノレートの含量は0.3~4質量%であることが好ましい。
【0012】
更に、本発明の飲料用分散油脂においては、前記ソルビタン脂肪酸エステルの含量は0.5~4質量%であることが好ましい。
【0013】
更に、本発明の飲料用分散油脂においては、前記ソルビタン脂肪酸エステルは、ラウリン酸を構成脂肪酸として含有することが好ましい。
【0014】
更に、本発明の飲料用分散油脂においては、前記油脂は、MCTオイル、ココナッツ油、亜麻仁油、えごま油、オリーブ油、グレープシード油、こめ油、魚油、ゴマ油、アボカド油、アーモンド油、ピーナッツ油、マカダミアナッツ油から選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のもう1つは、上記飲料用分散油脂を含有することを特徴とする飲料を提供するものである。本発明の飲料は、油脂が良好に分散され、また、優れた乳化安定性を有するものとなる。
【0016】
本発明の飲料においては、前記飲料用分散油脂を、液体中に1~7質量%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の飲料用分散油脂は、飲料に添加し、及び/又は簡便に攪拌した際に分散性が良く、また、乳化安定性に優れたものとすることができる。
【0018】
本発明の飲料は、油脂が良好に分散され、また、優れた乳化安定性を有するものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の飲料用分散油脂は、油脂と乳化剤とを含有する。
【0020】
本発明に用いる油脂としては、食用油脂を使用することができる。具体的には例えば、パーム油、パーム核油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、鯨油、MCTオイル(中鎖脂肪酸油)、ココナッツ油、亜麻仁油、えごま油、オリーブ油、グレープシード油、こめ油、魚油、ゴマ油、アボカド油、アーモンド油、ピーナッツ油、マカダミアナッツ油等の各種植物油脂や動物油脂等から得られる1種または2種以上の油脂を混合して使用することができ、また、これらを水素添加、分別処理、エステル交換して得られる油脂も使用することができる。これらの中でも、特に健康に良いとされている油脂であるMCTオイル(中鎖脂肪酸トリグリセリド油)、ココナッツ油、亜麻仁油、えごま油、オリーブ油、グレープシード油、こめ油、魚油、ゴマ油、アボカド油、アーモンド油、ピーナッツ油、マカダミアナッツ油を使用することが好ましい。
【0021】
本発明の飲料用分散油脂中の油脂含量は、90~97.5質量%であることが好ましく、92~96質量%であることがより好ましい。油脂含量が、90質量%未満であると、飲料に添加した場合に油脂を効率的に摂取することができなくなる傾向になり、97.5質量%を超えると、相対的に乳化剤含量が減ってしまうため、本発明の効果が得られなくなる傾向がある。
【0022】
本発明の飲料用分散油脂は、乳化剤として、ジグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレートとを含有する。ジグリセリン脂肪酸エステルを含有し、ポリグリセリン縮合リシノレートを含有しないと、飲料に添加した際の油分散性が良いものとはならない。
【0023】
ジグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な脂肪酸であれば特に制限はないが、例えば、炭素数8~24の飽和脂肪酸(例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)、又は炭素数8~24の不飽和脂肪酸(例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が挙げられ、これらの脂肪酸は、1種又は2種以上の脂肪酸の混合物であってもよい。
【0024】
本発明に用いるジグリセリン脂肪酸エステルにおいては、HLBが6.5~8.5であるものを含有することが好ましく、7.0~8.0であるものを含有することがより好ましい。これにより、飲料に添加した際に、分散性が更に良いものとなり、また、乳化安定性に更に優れたものとなる。
【0025】
本発明の飲料用分散油脂中のジグリセリン脂肪酸エステル含量は、1.5~4質量%であることが好ましく、2~3質量%であることがより好ましい。ジグリセリン脂肪酸エステル含量が1.5質量%未満であると、飲料に添加した際に、分散性が不十分となる傾向があり、4質量%を超えると、風味が悪くなる傾向がある。
【0026】
本発明の飲料用分散油脂中のポリグリセリン縮合リシノレート含量は、0.3~4質量%であることが好ましく、0.5~3質量%であることがより好ましい。ポリグリセリン縮合リシノレート含量が0.3質量%未満であると、飲料に添加した際に、飲料への分散性が不十分となる傾向があり、4質量%を超えると、油脂が粒状に凝集する傾向がある。
【0027】
本発明の飲料用分散油脂は、乳化剤として、更に、ソルビタン脂肪酸エステルを含有する。これにより、飲料に添加した際に、分散性が更に良いものとなり、また、乳化安定性に更に優れたものとなる。
【0028】
ソルビタン脂肪酸エステルにおいては、ラウリン酸を構成脂肪酸として含有することが好ましく、ラウリン酸を構成脂肪酸中に30質量%以上含有することがより好ましく、40質量%以上含有することがさらに好ましく、50質量%以上含有することが最も好ましい。
【0029】
また、ソルビタン脂肪酸エステルはHLBが4.0~9.0であるものを含有することが好ましく、6.5~8.5であるものを含有することがより好ましい。これにより、飲料に添加した際に、分散性が更に良いものとなり、また、乳化安定性に更に優れたものとなる。
【0030】
本発明の飲料用分散油脂中のソルビタン脂肪酸エステル含量は、0.5~4質量%であることが好ましく、1~3質量%であることがより好ましい。ソルビタン脂肪酸エステル含量が0.5質量%未満であると、これを更に含んだことで得られる効果が乏しくなる傾向にあり、4質量%を超えると、本発明の飲料用分散油脂を飲料へ分散させたとき、油脂が細かく凝集し、飲料の表面がやや白濁する。
【0031】
上記の乳化剤は既知の方法により合成して用いることができ、また、市販されているものを用いることができる。
【0032】
本発明の飲料用分散油脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の乳化剤、糖類、調味料等の呈味成分、香料、着色料、ビタミン、酸化防止剤、保存料、pH調整剤等の他の成分を含有させることができる。その他の乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、有機酸モノグリセリド等が例示できる。
【0033】
本発明の飲料用分散油脂は、飲料への分散性が良く、また乳化安定性に優れるので、飲料に添加し、及び/又は簡便に攪拌することで油脂を摂取することができる。飲料に添加する際には、飲料用分散油脂を直接飲料に添加してもよく、水に希釈してエマルションとしたものを添加してもよい。更に、添加した後に、飲料用分散油脂と飲料とを攪拌させてもよい。
【0034】
本発明の飲料用分散油脂を添加する飲料としては、特に制限はないが、例えば、コーヒー飲料、茶飲料(緑茶飲料、ブレンド茶飲料、紅茶飲料、烏龍茶飲料等)、果実・野菜飲料、清涼飲料、炭酸飲料、乳飲料、乳性飲料、スポーツドリンク、果汁入り清涼飲料、果実または野菜入り飲料、ビール、発泡酒、ビールテイスト飲料、チューハイ、カクテル、ウイスキー、ブランデー、リキュール、スピリッツ、焼酎、マッコリ、ワイン、梅酒、その他アルコール飲料、ビールテイストのノンアルコール飲料、カクテル・チューハイテイストのノンアルコール飲料、梅酒テイストのノンアル-ルコール飲料、ノンアルコールソーダ、ニアウォーター、ニアウォーターフレーバー飲料、天然水、ミネラルウォーター、スパークリングウォーター、天然水加工飲料、栄養補助食品としての飲料やその他の栄養飲料、健康飲料、各種の健康茶、その他の飲料等が挙げられる。
【0035】
飲料に対する飲料用分散油脂の添加量は、飲料全体中に1~7質量%であることが好ましく、2~5質量%であることがより好ましい。この範囲とすることで、油脂の分散性が良く、また乳化安定性に優れた飲料となる傾向にある。
【実施例
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0037】
<試験例1>
(1)飲料用分散油脂の製造
表1に示す配合で飲料用分散油脂を製造した。具体的には、60℃以上に加温した油脂に乳化剤を添加撹拌して完全に溶解した
表1中、MCTオイルはMASESTER E6000(輸入販売元:中央化成株式会社)、ポエムDO100V(HLB:7.4)、L300(HLB:8.0)、及びポエムO80V(HLB:4.9)は理研ビタミン株式会社製、サンソフトNo.818Rは太陽化学株式会社製のものであり、いずれも商品名である。
【0038】
【表1】
【0039】
(2)飲料の調製
透明ビンに約50℃の紅茶飲料を入れ、上記(1)で製造した各飲料用分散油脂を紅茶飲料に5質量%添加し、スプーンにて4回攪拌した。その後、室温で10分間静置したものを、下記評価に供した。
【0040】
(3)評価方法
・油分散性試験
調製した各飲料を目視で確認し、液全体が白濁していたものを〇、やや白濁していたもの、又は油と液体がやや分離していたものを△、油と液体が分離していたもの(白濁していないもの)を×とした。
【0041】
・透過率(乳化安定性)試験
デジタル比色計(商品名:mini photo 518R、タイテック株式会社製)を用い、飲料用分散油脂を添加していない紅茶飲料をブランク(100%)とし、調製した各飲料の透過率(%)を測定した。
【0042】
(4)評価
表2に示すように、乳化剤としてジグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレートを添加した飲料(実施例1~9)は、分散性に優れ、透過率が良く、更に乳化剤としてソルビタン脂肪酸エステルを添加した飲料(実施例6~9)では、分散性がより優れ、透過率もより良かった。
【0043】
なお風味は実施例1~9のすべてにおいて飲料に適していたが、ジグリセリン脂肪酸エステルの量が4%の時は若干異味を感じた。
【0044】
【表2】
【0045】
<試験例2>
(1)飲料用分散油脂の製造
表3に示す配合で、上記試験例1と同様に飲料用分散油脂を製造した。
【0046】
表3中、えごま油は株式会社創健社製、グレープシード油は日清オイリオグループ株式会社製、オリーブ油は株式会社Jオイルミルズ製、ココナッツ油は日清オイリオグループ株式会社製のものである。なお、ココナッツ油は固形のため、MCTオイルと併用混合した。
【0047】
【表3】
【0048】
(2)評価
上記試験例1と同様に飲料を調製し、油分散性試験と透過率試験を行った。表4に示すように、乳化剤としてジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート、及びソルビタン脂肪酸エステルを添加した飲料(実施例10~13)は、分散性に優れ、透過率が良かった。
【0049】
【表4】