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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】キャパシタおよびキャパシタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20221220BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01G4/30 544
H01G4/30 547
H01G4/33 102
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018164923
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020038891
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】青柳 善雄
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-072290(JP,A)
【文献】特開2002-373945(JP,A)
【文献】特開2011-124539(JP,A)
【文献】特開2012-142367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
H01L 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に設けられ、50nm以上の厚さを有する、TiNから成る第1電極層と、
前記第1電極層の上に設けられた立方晶系のジルコニアを主成分とする誘電体層と、
前記誘電体層の上に設けられた第2電極層と、
を備え、
前記第1電極層のCuKα線によるX線回折パターンにおいて、回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度は、回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度よりも大きい、
キャパシタ。
【請求項2】
前記誘電体層は、前記ジルコニアと第2成分との固溶体であり、前記固溶体における前記第2成分の含有量が3mol%未満である、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項3】
前記誘電体層は、前記ジルコニアと第2成分との固溶体であり、前記固溶体における前記第2成分の含有量が1mol%未満である、
請求項2に記載のキャパシタ。
【請求項4】
前記第1電極層のCuKα線によるX線回折において、回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度が、回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度の2倍以上である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項5】
前記第1電極層のCuKα線によるX線回折において、回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度が、回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度の10倍以上である、
請求項4に記載のキャパシタ。
【請求項6】
前記基材は、その上面にトレンチが設けられており、
前記第1電極層、前記誘電体層、及び前記第2電極層の各々は、前記トレンチに少なくともその一部が埋め込まれている、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項7】
前記第2電極層は、TiNを主成分とする、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項8】
前記第1電極層と電気的に接続される第1外部電極と、
前記第2電極層と電気的に接続される第2外部電極と、
を備える、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項9】
前記第1電極層の厚さは、1000nm以下である、
請求項1からのいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項10】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載のキャパシタを備える回路基板。
【請求項11】
請求項10に記載の回路基板を備える電子機器。
【請求項12】
基材を準備する工程と、
前記基材上にTiNから成る第1電極層を50nm以上の厚さに成膜する工程と、
前記第1電極層上に立方晶系のジルコニアを主成分とする誘電体層を成膜する工程と、
前記誘電体層上に第2電極層を成膜する工程と、
を備え、
前記第1電極層のCuKα線によるX線回折パターンにおいて、回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度は、回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度よりも大きい、
キャパシタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタおよび当該キャパシタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャパシタの一種として薄膜キャパシタが知られている。薄膜キャパシタは、薄膜プロセスにより形成されたMIM構造体を備え、このMIM構造体により容量を発生させる薄膜キャパシタが知られている。薄膜キャパシタにおいては、小型化又は高容量化のために、単位面積あたりの発生容量を向上させることが求められている。
【0003】
単位面積あたりの発生容量を向上させることが可能な薄膜キャパシタとして、トレンチキャパシタが知られている。トレンチキャパシタは、トレンチと呼ばれる凹凸構造が多数形成された基材と、その一部がトレンチに沿って延伸するように設けられたMIM構造体と、を備えている。トレンチキャパシタにおいては、基材の厚さ方向に伸びるトレンチ内にもMIM構造体が設けられるため、単位面積あたりの容量を向上させることができる。
【0004】
トレンチキャパシタ等の薄膜キャパシタにおいて発生容量のさらなる増加を図るためには、MIM構造体の誘電体層を誘電率の高い材料から形成する必要がある。他方、一般的に、誘電率の高い材料は、絶縁耐性が低いという問題がある(非特許文献1参照)。このため、トレンチキャパシタ等の薄膜キャパシタの誘電体層用の材料としては、誘電率と絶縁耐性とのバランスを考慮して、Al23、ZrO2、HfO2、Y23、La23がよく用いられている。これらの誘電体層用の材料については、特開2011-165683号公報(特許文献1)に記載されている。同公報では、前記の材料に加えて、ZrAlO、ZrSiO、HfAlOなども薄膜キャパシタの誘電体層の材料として用いられ得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-165683号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】P. Jain et al., IEEE Trans. Adv. Packaging, 25, 454(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来の誘電材料の誘電率は、10~25程度である。誘電体層の材料として、さらに高い誘電率を有する材料を用いることが望まれる。
【0008】
本発明は、絶縁耐性が高く高誘電率を有する誘電体層を備えるキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ジルコニア(ZrO2)は、晶系によって異なる誘電率を有することが知られている。「The dielectric properties of zirconia」(D.P.Yhompson et al. Journal Of Materials Science 27 (1992) 2267)に記載されているように、ジルコニアの単斜晶系の誘電率は概ね20であり、立方晶系の誘電率は概ね35である。そこで、誘電体層の主成分としてジルコニアを採用する場合には、立方晶系の結晶構造を有するジルコニアを用いることが望ましい。同文献に記載されているように、常温で立方晶系のジルコニアを得るためには、イットリウムなどの添加成分をドープすることが必要と考えられている。
【0010】
しかしながら、イットリウムなどの添加成分を含む誘電体層は、かかる添加成分を含まない誘電体層と比較してtanδが大きくなるという問題がある。また、キャパシタが薄膜キャパシタである場合には、誘電体層は一般的にスパッタリング法、CVD(化学気相成長)法、MOD(金属有機化合物分解)法、ALD(原子層堆積)法などで成膜される。その中でも凹凸被覆性や膜厚均一性を重視した場合にはALD法を選択する場合が多い。ALDで誘電体層を成膜する場合には、イットリウムなどの添加成分をドープするためには成膜工程が複雑化するという問題がある。
【0011】
以上に鑑みて、本発明者は、イットリウム、カルシウム、ハフニウムなどの添加成分をドープせずに立方晶系のジルコニアを主成分とする誘電体層を形成する手法を検討した。そして、(111)面配向性が高いTiN膜の上にジルコニア膜を成膜することにより、当該ジルコニア膜の晶系が立方晶系となることを発見した。(111)面配向性が高いTiN膜の上に立方晶系のジルコニア膜が成膜される理由は、以下のように考えられる。一般的なALD法により、(111)面配向性が高いTiN膜の上にジルコニア膜を成膜する場合、当該TiN膜が高い結晶性と高い(111)面配向性を持つことから、TiN膜上に最初に成膜されるレイヤーは、当該TiN膜と同じ結晶構造(空間群:Fm-3m)を持つ周期的なZr-N結合を有するZrN層となる。このZrN層の空間群は立方晶系のジルコニアの結晶構造と同じであり、また、当該ZrN層におけるZr-Zr間距離は、立方晶系のジルコニアのZr-Zr間距離と近くなる。ZrNと立方晶系のジルコニアの構造データをまとめると以下の表1のようになる。
【表1】
【0012】
このように、TiN上に最初に成膜されるZrN層は、立方晶系のジルコニアと似た結晶構造を有している。よって、ZrN層の上に形成されるジルコニア層(ZrO2層)も立方晶系の構造となると考えられる。
【0013】
また、立方晶系のジルコニアは、誘電材料の中で比較的優れた絶縁耐性を有している。よって、立方晶系のジルコニアによって誘電体層を形成することにより、絶縁耐性に優れた高誘電率の誘電体層を得ることができる。
【0014】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。本発明の一実施形態によるキャパシタは、基材と、前記基材に設けられたTiNから成る第1電極層と、前記第1電極層の上に設けられた立方晶系のジルコニアを主成分とする誘電体層と、前記誘電体層の上に設けられた第2電極層と、を備える。当該第1電極層は、CuKα線によるX線回折パターンにおいて回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度が回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度よりも大きい。
【0015】
上記実施形態によれば、誘電体層が立方晶系のジルコニアを主成分としているため、絶縁耐性に優れた高誘電率の誘電体層を得ることができる。また、第1電極は、(111)面に強い配向性を有しているので、等価直列抵抗(ESR)を低くすることができる。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記誘電体層は、前記ジルコニアと第2成分との固溶体であり、前記固溶体における前記第2成分の含有量が3mol%未満である。本発明の別の一実施形態において、前記誘電体層は、前記ジルコニアと第2成分との固溶体であり、前記固溶体における前記第2成分の含有量が1mol%未満である。
【0017】
上記実施形態によれば、誘電体層中におけるZrイオン以外の陽イオンの含有量が少ないかZrイオン以外の陽イオンは存在しないため、外部電場の変動に対する応答が瞬時に行われる。このため、上記実施形態においては、イットリウム等の添加成分を含有させることで形成された立方晶系のジルコニアと比べて、誘電体層のtanδを低減することができる。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記第1電極は、CuKα線によるX線回折において、回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度が、回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度の2倍以上である。本発明の別の一実施形態において、前記第1電極は、CuKα線によるX線回折において、回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度が、回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度の10倍以上である。
【0019】
上記実施形態によれば、第1電極の(111)面配向性を高くすることができる。これにより、当該第1電極の上に成膜されるジルコニアの結晶構造をより確実に立方晶系とすることができる。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記基材は、その上面にトレンチが設けられており、前記第1電極層、前記誘電体層、及び前記第2電極層の各々は、前記トレンチに少なくともその一部が埋め込まれている。
【0021】
上記のキャパシタにおいては、第1電極層、誘電体層、及び第2電極層から成るMIM構造体により容量が発生する。上記実施形態によれば、基材の厚さ方向に伸びるトレンチ内にもMIM構造体が設けられるため、単位面積あたりの容量を向上させることができる。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記第2電極層は、TiNを主成分とする。
【0023】
本発明の一実施形態によるキャパシタは、前記第1電極層と電気的に接続される第1外部電極と、前記第2電極層と電気的に接続される第2外部電極と、を備える。
【0024】
本発明の一実施形態は、上記のキャパシタを備える回路基板に関する。
【0025】
本発明の一実施形態は、上記回路基板を備える電子機器に関する。
【0026】
本発明の一実施形態は、キャパシタの製造方法に関する。本発明の一実施形態によるキャパシタの製造方法は、基材を準備する工程と、前記基材上にTiNから成る第1電極層を成膜する工程と、前記第1電極層上に立方晶系のジルコニアを主成分とする誘電体層を成膜する工程と、前記誘電体層上に第2電極層を成膜する工程と、を備える。当該第1電極層のCuKα線によるX線回折パターンにおいて、回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度は、回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度よりも大きい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の実施形態によれば、絶縁耐性が高く高誘電率を有する誘電体層を備えるキャパシタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】一実施形態による薄膜キャパシタの平面図である。
図2図1の薄膜キャパシタをI-I線で切断したYZ断面を模式的に示す断面図である。
図3】試料1(実施例)について検出されたXRDの回折パターンを示す。
図4】試料2(比較例)について検出されたXRDの回折パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0030】
図1及び図2を参照して、一実施形態によるキャパシタ1について説明する。これらの図に示されているキャパシタ1は、薄膜プロセスにより作製されたMIM構造体を有する薄膜キャパシタである。図1は、薄膜キャパシタ1の平面図であり、図2は、薄膜キャパシタ1をI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0031】
図示のように、一実施形態による薄膜キャパシタ1は、基材10と、基材10に設けられたMIM構造体20と、MIM構造体20を覆うように設けられた保護層40と、を備える。MIM構造体20と保護層40との間には、不図示のバリア層が設けられてもよい。保護層40の外側には、外部電極2及び外部電極3が設けられる。外部電極2及び外部電極3は、詳しくは後述するように、MIM構造体20を構成する電極層と電気的に接続される。
【0032】
薄膜キャパシタ1は、外部電極2及び外部電極3を回路基板に設けられたランドに接合することにより、当該回路基板に実装される。この回路基板は、様々な電子機器に搭載され得る。薄膜キャパシタ1が実装された回路基板を備える電子機器には、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、ゲームコンソール、及びこれら以外の薄膜キャパシタ1が実装された回路基板を備えることができる任意の電子機器が含まれる。
【0033】
図1及び図2には、互いに直交するX方向、Y方向、及びZ方向が示されている。本明細書においては、これらの図に示されているX方向、Y方向、及びZ方向を基準として薄膜キャパシタ1の構成部材の向きや配置を説明することがある。具体的には、文脈上別に解される場合を除き、薄膜キャパシタ1の「幅」方向、「長さ」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、図1のX軸に沿う方向、Y軸に沿う方向、及びZ軸に沿う方向とする。本明細書において薄膜キャパシタ1及びその構成部材の上下方向に言及する際には、図2の上下方向を基準とする。つまり、文脈上別に解される場合を除き、Z軸の正方向が薄膜キャパシタ1の上方向とされ、Z軸の負方向が薄膜キャパシタ1の下方向とされる。
【0034】
一実施形態において、基材10は、Siなどの絶縁材料から成る。一実施形態において、基材10は、概ね直方体の形状に形成されており、その幅方向(X軸方向)の寸法は例えば50μm~5000μmとされ、その長さ方向(Y軸方向)の寸法は例えば50μm~5000μmとされ、その厚さ方向(Z軸方向)の寸法は例えば5μm~500μmとされる。本明細書において具体的に示される基材10の寸法は例示に過ぎず、基材10は任意の寸法をとることができる。
【0035】
基材10には、その上面10aからZ軸方向に沿って延伸する複数のトレンチ11が形成されている。複数のトレンチ11の各々は、Z軸方向に所定の深さを有するように形成される。本明細書においては、Z軸方向をトレンチ11の深さ方向と呼ぶことがある。図1に示されているように、複数のトレンチ11の各々は、その平面視の形状が、X軸方向に沿って伸びる辺とY軸方向に沿って伸びる辺とで画定されるほぼ長方形となるように形成されている。図示の実施形態において、複数のトレンチ11の各々は、平面視において、X軸方向に沿って伸びる辺がY軸方向に沿って伸びる辺よりも短くなるように形成されている。
【0036】
一実施形態において、複数のトレンチ11の各々は、単位面積あたりの高容量化を実現するために、高アスペクト比を有するように形成される。つまり、複数のトレンチ11の各々は、その幅(例えば、X軸方向の辺の長さ)に対する深さ(Z軸方向の深さ)の比が大きくなるように形成される。複数のトレンチ11の各々の幅(X軸方向における寸法)は例えば0.1μm~5μmとされ、その深さ(Z軸方向における寸法)は例えば1μm~100μmとされる。本明細書において具体的に示されるトレンチ11の寸法は例示に過ぎず、トレンチ11は任意の寸法をとることができる。また、トレンチ11の平面視における形状は長方形形状に限られず、トレンチ11は任意の形状を取ることができる。一実施形態において、トレンチ11は、その深さ(Z軸方向における寸法)が40μmであり、その幅(X軸方向における寸法)が1.0μmとなるように構成される。
【0037】
トレンチ11は、例えばSi基板の表面にトレンチ11のパターンに対応する開口が形成されたマスクを形成した後、エッチングにより当該Si基板をエッチングすることで形成され得る。基板11のエッチング加工は、深掘りRIE(深掘り反応性エッチング)などの反応性イオンエッチング法により行われ得る。
【0038】
複数のトレンチ11のうち隣接するトレンチ11同士は側壁12によって隔てられている。言い換えると、側壁12は、基材10の一部であり、隣接するトレンチ11を互いから離隔させるように構成される。
【0039】
続いて、MIM構造体20について説明する。前述のように、基材10には、MIM構造体20が設けられる。MIM構造体20は、図示のように、その一部がトレンチ11の各々に埋め込まれるように、基材10に設けられている。
【0040】
図示のように、MIM構造体20は、基材10の上面10a及びトレンチ11に追従する形状を有するように構成される。MIM構造体20は、誘電体層と導体層とが交互に積層された積層体である。一実施形態におけるMIM構造体20は、下部電極層22と、当該下部電極層22の上に設けられた誘電体層21と、当該誘電体層21の上に設けられた上部電極層23と、を有する。本明細書においてMIM構造体20における上下方向に言及する場合には、下部電極及び上部電極という慣用されている名称と整合性をとるために、Z軸方向に沿う上下方向ではなく、基材10により近い側を「下」とし、基材10からより遠い側を「上」として説明がなされることがある。MIM構造体20は、2層以上のMIM層を含んでもよい。例えば、MIM構造体20が2層のMIM層を有する場合には、下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23から構成される第1層目のMIM層の上に第2層目のMIM層が形成される。例えば、第2層目のMIM層は、上部電極層23の上に設けられた誘電体層と、この誘電体層の上に設けられた電極層と、を備えることができる。この場合、上部電極層23は、第1層目のMIM層の上側の電極層としての機能と、第2層目のMIM層の下側の電極層としての機能を兼ねる。
【0041】
下部電極層22は、例えば、ALD(原子層堆積)法、スパッタ法、蒸着法、めっき法、又はこれら以外の公知の方法により形成される。下部電極層22は、基材上に設けられたTiNから成る薄膜である。TiNから成る下部電極層22は、主成分であるTiN以外に不純物を含んでもよい。不純物とは、下部電極層22の主成分以外の成分である。不純物は、微量だけ含まれる。例えば、下部電極層22に、0.1原子%未満含まれる元素は不純物とされてもよい。不純物は、キャパシタ1の特性、例えば、下部電極層22の結晶性を劣化させることがある。
【0042】
下部電極層22は、(111)面に高い配向性を有する。例えば、下部電極層22のCuKα線によるX線回折パターンにおいて、(111)面に由来する回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度は、(200)面に由来する回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度よりも大きくなる。
【0043】
下部電極層22は、その膜厚が例えば5nm~1000nmとなるように形成される。一実施形態において、下部電極層の膜厚は、(111)面配向性を高めるために20nm以上とされる。一実施形態において、下部電極層の膜厚は、(111)面配向性をさらに高めるために50nm以上とされる。下部電極層22の膜厚を厚くすることにより、成長の早い(111)面に他の結晶面が淘汰されるため、(111)面配向性を高めることができる。下部電極層22の膜厚が1000nmを越えると、大きな残留応力が生じるため、下部電極層22の厚さの上限を1000nmとする。
【0044】
一実施形態において、下部電極層22のCuKα線によるX線回折パターンにおいて、回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度が、回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度の2倍以上とされる。別の一実施形態において、下部電極層22のCuKα線によるX線回折パターンにおいて、回折角36.1°~37.1°の位置に現れるピークの強度が、回折角42.1°~43.1°に現れる回折ピークの強度の10倍以上とされる。
【0045】
誘電体層21は、立方晶系のジルコニア(ZrO2)を主成分とする。誘電体層21は、ジルコニアと第2成分(例えば、H,C,N,F,P,Clなどプリカーサ由来の不純物)との固溶体であってもよい。一実施形態において、この固溶体における当該第2成分の含有量は3mol%未満である。別の一実施形態において、この固溶体における当該第2成分の含有量は1mol%未満である。
【0046】
誘電体層21は、例えば、ALD(原子層堆積)法、スパッタ法、CVD法、又はこれら以外の公知の方法により形成される。一実施形態において、誘電体層21の膜厚は、絶縁耐性を確保するために10nm以上とされる。誘電体層21の膜厚が大きくなると、キャパシタ1の単位面積あたりの発生容量が低下してしまう。そこで、一実施形態において、誘電体層21の膜厚は、500nm以下とされる。
【0047】
上部電極層23は、窒化チタン(TiN)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、導電性シリコン、もしくはこれら以外の金属材料、これらの金属元素の一または複数を含む合金材料、及び前記金属元素の化合物を用いることができる。上部電極層23の材料は、本明細書で明示的に説明されたものには限定されない。
【0048】
上部電極層23は、例えば、ALD(原子層堆積)法、スパッタ法、蒸着法、めっき法、又はこれら以外の公知の方法により形成される。上部電極層23は、その膜厚が例えば5nm~1000nmとなるように形成される。上部電極層23の膜厚が1000nmを越えると、大きな残留応力が生じるため、下部電極層23の厚さの上限を1000nmとする。
【0049】
続いて、保護層40について説明する。保護層40は、外部環境からMIM構造体20を保護するために、MIM構造体20及び基材10を覆うように設けられる。保護層40は、例えば、外部から受ける衝撃などの機械的ダメージからMIM構造体20を保護するように設けられる。保護層40の材料として、ポリイミド等の樹脂材料、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、及びこれら以外の絶縁材料を用いることができる。保護層40は、例えば、スピンコート法により感光性ポリイミドを塗布し、この塗布されたポリイミドを露光、現像、及びキュアすることにより形成される。保護層40は、これ以外の任意の公知の方法により形成され得る。保護層40は、その膜厚が例えば200nm~5000nmとなるように形成される。一実施形態において、保護層40の膜厚は3000nmとされる。保護層40の材料及び膜厚は、本明細書で明示的に説明されたものには限定されない。
【0050】
保護層40とMIM構造体20(又は基材10)との間には、不図示のバリア層が設けられてもよい。バリア層は、薄膜キャパシタ1の耐候性を向上させるために、主にMIM構造体20の上に設けられる。一実施形態において、バリア層は、保護層40から放出される水分や大気中の水分がMIM構造体20に到達しないように、MIM構造体20と保護層40との間に設けられる。バリア層は、水素ガスバリア性に優れた薄膜であってもよい。バリア層の材料として、アルミナ(Al23)、酸化シリコン(SiO2)、酸窒化シリコン(SiON)、ジルコニア(ZrO2)、及びこれら以外の絶縁材料を用いることができる。バリア層は、例えば、スパッタ法、CVD法、又はこれら以外の公知の方法により形成される。バリア層は、その膜厚が例えば5nm~500nmとなるように形成される。一実施形態において、バリア層の膜厚は50nmとされる。バリア層の材料及び膜厚は、本明細書で明示的に説明されたものには限定されない。
【0051】
続いて、外部電極2及び外部電極3について説明する。外部電極2及び外部電極3は、保護層40の上側に、Y軸方向において互いから離間するように設けられる。外部電極2及び外部電極3は、保護層40の外側に、金属材料を含む導体ペーストを塗布することにより形成される。外部電極2及び外部電極3の材料として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、もしくはこれら以外の金属材料、または、これらの金属元素の一または複数を含む合金材料を用いることができる。外部電極2及び外部電極3には、必要に応じて、半田バリア層及び半田濡れ層の少なくとも一方が形成されてもよい。外部電極2は第1電極部の例であり、外部電極3は第2外部電極の例である。
【0052】
保護層40のY軸負方向の端の近くには溝41が設けられており、Y軸正方向の端の近くには溝42が設けられている。溝41及び溝42はいずれも、X軸方向に沿って延伸するとともに保護層40をZ軸方向に貫通するように設けられている。溝41には引出電極2aが設けられ、溝42には引出電極3aが設けられ。
【0053】
引出電極2aは、その上端が外部電極2に接続され、その下端がMIM構造体20の下部電極層22に接続される。引出電極3aは、その上端が外部電極3に接続され、その下端がMIM構造体20の上部電極層23に接続される。
【0054】
引出電極2a,2e,3d,3eの材料として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、もしくはこれら以外の金属材料、または、これらの金属元素の一または複数を含む合金材料を用いることができる。引出電極2a,2e,3d,3eは、蒸着法、スパッタ法、めっき法、又はこれら以外の公知の方法により形成される。
【0055】
続いて、一実施形態による薄膜キャパシタの製造方法について説明する。まず、Si基材を準備し、この基材の上面にトレンチのパターンに対応する開口が形成されたマスクを設ける。このマスクは、図1に示されているトレンチ11に対応する開口パターンを有する。当該マスクに形成されている複数の開口は、平面視において概ね長方形の形状に形成される。次に、このマスクが設けられた基材にエッチングを行うことにより、当該基材に複数のトレンチが形成される。このエッチングは、深掘りRIEにより行われても良い。このようにして複数のトレンチ11が形成された基材10が得られる。
【0056】
次に、基材10からマスクを除去した後、基材10の表面及びトレンチ11の内部に下部電極層22となるTiN膜を成膜する。このTiN膜は、(111)面に高い配向性を有する。TiN膜は、例えば、ALD法により成膜される。TiN膜の成膜のために、プリカーサとしてTiCl4を使用し、反応ガスとしてNH3を使用することができる。一実施形態において、成膜温度は、結晶化度及び結晶サイズを向上させるために400℃以上とされる。他の実施形態において、成膜温度は、塩素によるコンタミネーションを低下させるために、500℃以上とされる。プリカーサの基板への付着を妨げないようにするために、成膜温度は、700℃以下とされてもよい。
【0057】
次に、下部電極層22の上に誘電体層21となる立方晶系のジルコニア膜を成膜する。ジルコニア膜は、例えば、ALD法により成膜される。ジルコニア膜の成膜のために、プリカーサとしてTEMAZ(Tetrakis(ethylmethylamino)zirconium)を使用し、反応ガスとしてO3を使用することができる。一実施形態において、成膜温度は、100℃から350℃とされる。別の実施形態において、成膜温度は、150℃から275℃とされる。既述のように、このジルコニア膜は、(111)面配向性が高いTiN膜の上に成膜されるため、TiN膜上に最初に成膜される層は、当該TiN膜と同じ結晶構造(空間群:Fm-3m)を持つ周期的なZr-N結合を有するZrN層となる。ZrNと立方晶系のジルコニアとの構造的な類似性により、ZrN層の上に成膜されるジルコニア膜は立方晶系の構造となる。
【0058】
次に、誘電体層21の上に上部電極層23となるTiN膜を成膜する。この上部電極層23となるTiN膜は、例えば、ALD法により成膜される。上部電極層23となるTiN膜は、(111)面に高い配向性を有する必要がない。TiN膜は、例えば、ALD法により成膜される。TiN膜の成膜のために、プリカーサとしてTiCl4を使用し、反応ガスとしてNH3を使用することができる。一実施形態において、成膜温度は、100℃から400℃とされる。
【0059】
このようにして、下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23が積層されたMIM構造体20が基材10に設けられる。
【0060】
次に、MIM構造体20の上に保護層40が形成される。次に、保護層40のY軸方向の両端の各々の近くに溝41,42がそれぞれ設けられる。溝41,42は、例えば、エッチングにより形成される。
【0061】
次に、めっき法により溝41,42の内部に引出電極2a,3aがそれぞれ形成され、保護層40の表面に外部電極2及び外部電極3が形成される。以上により、薄膜キャパシタ1が得られる。
【実施例
【0062】
Si基材を準備し、このSi基材の上に、ALD法によりTiN膜を成膜し、このTiN膜上にジルコニア膜を成膜した。具体的には、以下の条件で成膜処理を行った。Si基板が載置されたチャンバー内に、プリカーサ、反応ガス、及びパージガスを供給した。プリカーサとしてTiCl4を使用し、反応ガスとしてNH3を使用し、パージガスとしてN2を使用した。プリカーサ及び反応ガスの供給時間は0.1~0.5秒、パージガスの供給時間は5~10秒とした。成膜温度は、450~550℃とし、チャンバー内圧力を0.5~2Torrとした。以上の成膜条件において、4000サイクルの成膜処理を実施して、Si基板上にTiN膜を成膜した。次に、TiN膜が成膜されたSi基板が載置されたチャンバー内に、ジルコニア膜を成膜するためのプリカーサ、反応ガス、及びパージガスを供給した。プリカーサとしてTEMAZを使用し、反応ガスとしてO3を使用し、パージガスとしてN2を使用した。プリカーサ及び反応ガスの供給時間は0.1~0.5秒、パージガスの供給時間は5~10秒とした。成膜温度は、200~250℃とし、チャンバー内圧力を0.5~2Torrとした。以上の成膜条件において、1000サイクルの成膜処理を実施して、TiN膜上にジルコニア膜を成膜した。このようにして得られたSi基材上にTiN膜及びジルコニア膜が形成された構造体を試料1とする。
【0063】
次に、試料1の作成時の成膜条件から成膜温度のみを変更した条件で、試料2を作成した。試料2の作成時には、成膜温度を200~250℃とした。
【0064】
このようにして得られた試料1及び試料2について、CuKα線によるX線回折法(XRD)によりピーク強度を検出した。この検出結果であるXRDの回折パターンを図3及び図4に示す。図3は、試料1について検出されたXRDの回折パターンを示し、図4は試料2について検出されたXRDの回折パターンを示す。
【0065】
図3から理解されるように、試料1においては、回折角36.6°の位置に現れている(111)面に由来するピークの強度が、回折角42.6°の位置に現れている(200)面に由来するピークの強度よりも10倍程度大きくなっている。これにより、試料1のTiN膜は、高い(111)面配向性を有していることが分かる。また、図3からは、試料1のジルコニア膜が立方晶系をとっていることも分かる。(111)面に由来するピークは、回折角36.6°±0.5°の位置に現れ、(200)面に由来するピークは、回折角42.6°±0.5°の位置に現れる。
【0066】
図4から理解されるように、試料2のTiN膜は結晶性が低く、また、(111)面に由来するピークの強度が(200)面に由来するピークの強度と同程度であることから、(111)面配向性も低いことが分かる。試料2のジルコニア膜は、晶系が判別できないほど結晶性が悪く、立方晶系はとっていないことがわかる。
【0067】
試料1と試料2との比較から、TiN膜のXRD回折パターンにおいて、(111)面に由来するピークの強度が回折角42.6°の位置に現れている(200)面に由来するピークの強度よりも大きいときに、その上に成膜されるジルコニア膜が立方晶系を取ることが分かる。
【0068】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0069】
本明細書において、一の物体が他の物体の「上」、「上面」、「下」、又は「下面」に設けられると説明される場合には、当該一の物体は当該他の物体と直接接していても良く、別の層や膜を介して間接的に接していても良い。例えば、保護層40がMIM構造体20の上に設けられると説明される場合には、当該保護層40は、MIM構造体20の上に直接(MIM構造体に接するように)設けられても良いし、他の層(例えば、バリア層)を介してMIM構造体の上に間接的に設けられても良い。
【符号の説明】
【0070】
1 薄膜キャパシタ
2,3 外部電極
10 基材
11 トレンチ
20 MIM構造体
21 誘電体層
22 下部電極層
23 上部電極層
40 保護層
図1
図2
図3
図4