(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/00 20060101AFI20221220BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C12P13/00 ZNA
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2018171849
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 鏡士朗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史員
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】ENTSCH, Barrie et al.,para-Hydroxybenzoate hydroxylase containing 6-hydroxy-FAD is an effective enzyme with modified react,The Journal of Biological Chemistry,1987年05月05日,Vol.262, No.13,p.6060-6068
【文献】Biochemistry,1996年,vol.35, p.567-578
【文献】Biotechnol. Bioeng.,2017年,vol.114, p.2571-2580
【文献】'p-hydroxybenzoate hydroxylase [Caulobacter vibrioides CB15]', GenBank [online], 2014年1月31日, Accession No.AAK24375.1, インターネット<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/AAK24375.1/>,2014年01月31日
【文献】'4-hydroxybenzoate 3-monooxygenase [Novosphingobium aromaticvorans DSM 12444]', GenBank [online], 2014年1月28日, Accession No.ABD26872.1, インターネット<https://www.ncbi.nlm.nih.bov/protein/ABD26872.1/>,2014年01月28日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-アミノ安息香酸類を、下記の(A)又は(B)のポリペプチドを産生する微生物と接触させる工程を含む、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の製造方法。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド
(B)配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号
6で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド
【請求項2】
微生物が、下記の(a)又は(b)のポリヌクレオチドを発現可能な状態で含む、請求項1記載の方法。
(a)配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号5で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号5で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
【請求項3】
微生物が、大腸菌又はコリネバクテリウム属菌である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
4-アミノ安息香酸類が、下記の一般式(1):
【化1】
〔式中、R
1は水素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、アミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、カルボキシ基、メチル基、エチル基を示し、R
2は水素原子又はヒドロキシ基、メトキシ基、アミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、カルボキシ基、メチル基、又はエチル基を示す。〕
で示される4-アミノ安息香酸誘導体であり、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類が下記の一般式(2):
【化2】
〔式中、R
1及びR
2は前記と同じものを示し、Xは、一方が水素原子で他方がヒドロキシ基を示す。〕
で示される3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸誘導体である請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物を用いた3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンズオキサゾール(PBO)は耐熱性や力学強度に優れたエンジニアリングプラスチックとして知られており、繊維材料及び半導体素子の絶縁膜等に利用される(非特許文献1)。
【0003】
ベンズオキサゾール骨格はo-アミノフェノール骨格とカルボン酸との縮合により生成される。そのため、これらの官能基を分子内に有する3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸(HABA)類はPBOモノマーとして有用であると期待される。実際に、HABAを用いたポリベンズオキサゾールの合成と物性評価が検討されている(非特許文献2)。
【0004】
近年、地球環境負荷軽減等に向けて再生可能資源を原料とした微生物発酵による化合物の製造方法が注目されている。例えば、HABAと類似した構造を有する3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸(AHBA)の微生物による生産とポリマー化の検討が行われている(特許文献1)。
【0005】
HABAの製造に関してはこれまで化学的にニトロ芳香族を還元し合成する方法等が知られている(特許文献2)。微生物法によるHABA発酵生産を可能にする方策としては、微生物内での生合成が可能な4-アミノ安息香酸(ABA)の3位を水酸化することが考えられるが、このような反応に関しては、一部の4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素がわずかに活性を有することが報告されているのみであった(非特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5445453号公報
【文献】特許第3821350号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】村瀬浩貴,SENI GAKKAISHI(繊維と工業), Vol.66, No.6 (2010)
【文献】Lon J. Mathias et al., Macromolecules, Vol.18, No.4, pp.616-622 (1985)
【文献】Barrie Entsch et al., The Journal of Biological Chemistry, Vol.262, No.13, pp.6060-6068 (1987)
【文献】Domenico L. Gatti et al., Biochemistry, Vol.35, No.2, pp.567-578 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微生物を用いた3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素を産生する微生物を用いることにより、4-アミノ安息香酸(ABA)類の3位を効率よく水酸化できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下に係るものである。
4-アミノ安息香酸類を、下記の(A)又は(B)のポリペプチドを産生する微生物と接触させる工程を含む、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の製造方法。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド
(B)配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ4
-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)定義
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYCS Ver.12のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0013】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性をいう。
【0014】
本明細書における「1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列」とは、1個以上10個以下、好ましくは1個以上8個以下、より好ましくは1個以上5個以下、さらに好ましくは1個以上3個以下のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列をいう。また本明細書における「1又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列」とは、1個以上30個以下、好ましくは1個以上24個以下、より好ましくは1個以上15個以下、さらにより好ましくは1個以上9個以下のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列をいう。本明細書において、アミノ酸又はヌクレオチドの「付加」には、配列の一末端及び両末端へのアミノ酸又はヌクレオチドの付加が含まれる。
【0015】
本明細書において、制御領域と遺伝子との「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0016】
本明細書において、細胞の機能や性状、形質に対して使用する用語「本来」とは、当該機能や性状、形質が当該細胞の野生型に存在していることを表すために使用される。対照的に、用語「外来」とは、当該細胞に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や性状、形質を表すために使用される。例えば、「外来」遺伝子又はポリヌクレオチドとは、細胞に外部から導入された遺伝子又はポリヌクレオチドである。外来遺伝子又はポリヌクレオチドは、それが導入された細胞と同種の生物由来であっても、異種の生物由来(すなわち異種遺伝子又はポリヌクレオチド)であってもよい。
【0017】
(2)3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の製造
本発明の方法は、微生物を用いて、4-アミノ安息香酸類から3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類を製造する方法である。
【0018】
4-アミノ安息香酸類としては、具体的には下記の一般式(1):
【0019】
【0020】
〔式中、R1は水素原子、ヒドロキシ基(-OH)、メトキシ基(-OCH3)、アミノ基(-NH2)、フッ素原子(-F)、塩素原子(-Cl)、臭素原子(-Br)、ヨウ素原子(-I)、カルボキシ基(-COOH)、メチル基(-CH3)、エチル基(-CH2CH3)を示し、R2は水素原子、ヒドロキシ基(-OH)、メトキシ基(-OCH3)、アミノ基(-NH2)、フッ素原子(-F)、塩素原子(-Cl)、臭素原子(-Br)、ヨウ素原子(-I)、カルボキシ基(-COOH)、メチル基(-CH3)又はエチル基(-CH2CH3)を示す。〕
で示される4-アミノ安息香酸誘導体が挙げられ、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類としては、下記の一般式(2):
【0021】
【0022】
〔式中、R1及びR2は前記と同じものを示し、Xは、一方が水素原子で他方がヒドロキシ基を示す。〕
で示される3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸誘導体が挙げられる。
【0023】
R1で示される官能基としては、水素原子、ヒドロキシ基(-OH)、メトキシ基(-OCH3)、フッ素原子(-F)又はメチル基(-CH3)が好ましい。
【0024】
R2で示される官能基としては、水素原子、ヒドロキシ基(-OH)、メトキシ基(-OCH3)、フッ素原子(-F)又はメチル基(-CH3)が好ましい。
【0025】
R1及びR2は、共に水素原子であるのがより好ましい。
【0026】
本発明において用いられる微生物は、下記の(A)又は(B)のポリペプチド(以下、「本発明のポリペプチド」とも称する)を産生する微生物である。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド
(B)配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド
【0027】
ここで、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(「HFM122」とも称する)、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(「HFM689」とも称する)は、4-ヒドロキシ安息香酸-3-モノオキシゲナーゼ(EC1.14.13.2)として知られている。
配列番号2又は6で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列の例としては、配列番号2又は6で示されるアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0028】
「4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性」とは、4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素が示す触媒活性を意味し、4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素とは4-ヒドロキシ安息香酸の水酸化を触媒する酵素、好ましくは4-ヒドロキシ安息香酸の3位を水酸化して、プロトカテク酸を生成する反応とその逆反応のいずれかまたは両方を促進する触媒活性を有する4-ヒドロキシ安息香酸-3-モノオキシゲナーゼを意味する。
4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性は、たとえば公知の方法(Yan Huang et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,78,75-83(2008).)等により決定することができる。
【0029】
アミノ酸配列に対してアミノ酸の欠失、置換、付加、又は挿入等の変異を導入する方法としては、例えば、該アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に対してヌクレオチドの欠失、置換、付加、又は挿入等の変異を導入する方法が挙げられる。ヌクレオチド配列への変異導入の手法としては、例えば、エチルメタンスルホネート、N-メチル-N-ニトロソグアニジン、亜硝酸等の化学的変異原又は紫外線、X線、ガンマ線、イオンビーム等の物理的変異原による突然変異誘発、部位特異的変異導入法、Dieffenbachら(Cold Spring Harbar Laboratory Press,New York,581-621,1995)に記載の方法、等が挙げられる。部位特異的変異導入の手法としては、Splicing overlap extension(SOE)PCR(Horton et al.,Gene 77,61-68,1989)を利用した方法、ODA法(Hashimoto-Gotoh et al.,Gene,152,271-276,1995)、Kunkel法(Kunkel,T.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1985,82,488)等が挙げられる。あるいは、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、TransformerTM Site-Directed Mutagenesisキット(Clonetech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販の部位特異的変異導入用キットを利用することもできる。
【0030】
本発明の「ポリペプチドを産生する微生物」において、そのポリペプチドは外来のものに限られず、当該微生物が本来有しているものも含むが、当該ポリペプチドの発現に必要なポリヌクレオチドを発現可能な状態で含むものであればよく、好ましくは、当該ポリヌクレオチドが発現可能なように導入された微生物、当該ポリヌクレオチドの発現が強化された微生物、すなわち遺伝子組換え微生物である。
ここで、ポリヌクレオチドとしては、下記の(a)又は(b)のポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド」とも称する)が挙げられる。
(a)配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号5で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号5で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
【0031】
配列番号1又は5で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列の例としては、配列番号1又は5で示されるヌクレオチド配列に対して1又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列が挙げられる。ヌクレオチド配列にヌクレオチドの欠失、置換、付加、又は挿入等の変異を導入する方法は、上述したとおりである。上記ポリヌクレオチドは、1本鎖若しくは2本鎖の形態であり得、又はDNAであってもRNAであってもよい。該DNAは、cDNA、化学合成DNA等の人工DNAであり得る。
【0032】
上記ポリヌクレオチドは、ベクターに組み込まれていてもよい。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドを含有するベクターは、発現ベクターである。また好ましくは、該ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを宿主微生物に導入することができ、かつ宿主微生物内で該ポリヌクレオチドを発現することができる発現ベクターである。好ましくは、該ベクターは、本発明のポリヌクレオチド、及びこれと作動可能に連結された制御領域を含む。該ベクターは、プラスミド等の染色体外で自立増殖及び複製可能なベクターであってもよく、又は染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
【0033】
具体的なベクターの例としては、例えば、pBluescript II SK(-)(Stratagene)、pUC18/19、pUC118/119等のpUC系ベクター(タカラバイオ)、pET系ベクター(タカラバイオ)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア)、pCold系ベクター(タカラバイオ)、pHY300PLK(タカラバイオ)、pUB110(Mckenzie,T.et al.,1986,Plasmid 15(2):93-103)、pBR322(タカラバイオ)、pRS403(Stratagene)、pMW218/219(ニッポンジーン)、pRI909/910等のpRI系ベクター(タカラバイオ)、pBI系ベクター(クロンテック)、IN3系ベクター(インプランタイノベーションズ)、pPTR1/2(タカラバイオ)、pDJB2(D.J.Ballance et al.,Gene,36,321-331,1985)、pAB4-1(van Hartingsveldt W et al.,Mol Gen Genet,206,71-75,1987)、pLeu4(M.I.G.Roncero et al.,Gene,84,335-343,1989)、pPyr225(C.D.Skory et al.,Mol Genet Genomics,268,397-406,2002)、pFG1(Gruber,F.et al.,Curr Genet,18,447-451,1990)等が挙げられる。
【0034】
また、上記ポリヌクレオチドは、これを含むDNA断片として構築されていてもよい。該DNA断片としては、例えば、PCR増幅DNA断片及び制限酵素切断DNA断片が挙げられる。好ましくは、該DNA断片は、本発明のポリヌクレオチド、及びこれと作動可能に連結された制御領域を含む発現カセットであり得る。
【0035】
上記ベクター又はDNA断片に含まれる制御領域は、該ベクター又はDNA断片が導入された宿主細胞内で本発明のポリヌクレオチドを発現させるための配列であり、例えばプロモーターやターミネーター等の発現調節領域、複製開始点等が挙げられる。該制御領域の種類は、ベクター又はDNA断片を導入する宿主微生物の種類に応じて適宜選択することができる。必要に応じて、該ベクター又はDNA断片はさらに、抗生物質耐性遺伝子、アミノ酸合成関連遺伝子等の選択マーカーを有していてもよい。
【0036】
宿主細胞に対して本発明のポリヌクレオチドを発現可能なように導入する、又は本発明のポリヌクレオチドの発現を強化する手段としては、例えば、制御領域、好ましくは強制御領域(野生型に比較し発現を強化できる制御領域)と作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを含有するベクター又はDNA断片を宿主微生物に導入すること、或いは宿主微生物のゲノム上で、強制御領域と本発明のポリヌクレオチドとを作動可能に連結して配置すること(例えば、親細胞のゲノム上の本発明のポリヌクレオチドの制御領域配列を強制御領域に置換すること)、等が挙げられる。
【0037】
宿主細胞としては、真菌、酵母、放線菌、大腸菌、枯草菌等、いずれを用いてもよいが、大腸菌、放線菌が好ましい。放線菌としては、コリネバクテリウム属菌、マイコバクテリウム属菌、ロドコッカス属菌、ストレプトマイセス属菌、プロピオニバクテリウム属菌等が挙げられ、好ましくはコリネバクテリウム属菌であり、より好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカムである。
【0038】
上記微生物へのベクター又はDNA断片の導入には、一般的な形質転換法、例えばエレクトロポレーション法、トランスフォーメーション法、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、パーティクル・ガン法、アグロバクテリウム法等を用いることができる。
【0039】
目的のベクター又はDNA断片が導入された微生物は、選択マーカーを利用して選択することができる。例えば、選択マーカーが抗生物質耐性遺伝子である場合、該抗生物質添加培地で培養することで、目的のベクター又はDNA断片が導入された微生物(形質転換体)を選択することができる。また例えば、選択マーカーがアミノ酸合成関連遺伝子である場合、該アミノ酸要求性の宿主微生物に遺伝子導入した後、該アミノ酸要求性の有無を指標に、目的のベクター又はDNA断片が導入された微生物を選択することができる。あるいは、PCR等によって形質転換体のDNA配列を調べることで目的のベクター又はDNA断片の導入を確認することもできる。
【0040】
また、強制御領域としては、公知の高発現プロモーターであるT7プロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター等が例示されるが、これらに特に限定されない。
【0041】
宿主微生物のゲノム上に存在する前記ポリヌクレオチドの制御領域を強制御領域に置換する方法としては、強制御領域と選択マーカーのポリヌクレオチド配列を含むDNA断片を宿主細胞に導入し、相同組換え又は非相同組換え等により形質転換された微生物を選択する方法等があげられる。
【0042】
このようにして調製した本発明のポリペプチドを産生する微生物を培養し、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の生産性を評価し、適切な組換体を選択することにより、有用な3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の生産株を得ることができる。生産物の測定方法は、後記参考例に記載の方法にしたがって行うことができる。
【0043】
本発明の3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の製造方法は、4-アミノ安息香酸類を、上記のポリペプチドを産生する微生物と接触させることにより実施される。微生物と4-アミノ安息香酸類との接触条件は、用いる微生物に応じ、適宜設計することができる。
すなわち、本発明の微生物を培養する培地は、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、当該微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、例えば、グルコース等の糖類、グリセリン等のポリオール類、エタノール等のアルコール類、またはピルビン酸、コハク酸もしくはクエン酸等の有機酸類を使用することができる。また、窒素源としては、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物、メチルアミン等のアルキルアミン類、またはアンモニアもしくはその塩等を使用することができる。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛等の塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミン、消泡剤等も必要に応じて使用してもよい。
【0044】
培養は、通常、10℃~40℃で、6時間~72時間、好ましくは9時間~60時間、より好ましくは12時間~48時間、必要に応じ撹拌又は振とうしながら行うことができる。また、培養中は必要に応じてアンピシリンやカナマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0045】
培養物(培養液、培養上清、培養菌体、菌体の破砕物等が包含される)と4-アミノ安息香酸類との接触方法は、特に制限されず、微生物の培養中に接触させてもよく、培養後に別途接触させても良い。また4-アミノ安息香酸類は、培養中に菌体内で生合成されたものであってもよく、外部から添加されたものであってもよい。接触条件は特に制限されないが、通常20℃~50℃で、5分~72時間、好ましくは1時間~60時間、より好ましくは1時間~24時間、必要に応じ撹拌又は振とうしながら行うことができる。
培養物と4-アミノ安息香酸類との接触後、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類が菌体内に生産される場合には、通常知られている方法、例えば、菌体を機械的方法、リゾチーム等を用いた酵素的方法または界面活性剤等を用いた化学的処理によって破壊することにより3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類を抽出できる。また、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類が菌体外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体が除去される。
【0046】
培養物からの3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の採取及び単離方法は特に制限されない。すなわち、周知のイオン交換樹脂法、沈澱法、晶析法、再結晶法、濃縮法その他の方法を組み合わせることにより実施できる。例えば、菌体を遠心分離等で除去した後、カチオン及びアニオン交換樹脂でイオン性の物質を除き、濃縮すれば3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類を取得することができる。培養物中に蓄積された3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類は、そのまま単離することなく用いてもよい。
【0047】
上述した実施形態に関し、本発明においては更に以下の態様が開示される。
<1>4-アミノ安息香酸類を、下記の(A)又は(B)のポリペプチドを産生する微生物と接触させる工程を含む、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類の製造方法。
(A)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド
(B)配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド
<2>微生物が、下記の(a)又は(b)のポリヌクレオチドを発現可能な状態で含む、<1>に記載の方法。
(a)配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号1で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号5で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号5で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
<3>微生物が、大腸菌又はコリネバクテリウム属菌である<1>又は<2>に記載の方法。
<4>4-アミノ安息香酸類が、下記の一般式(1):
【0048】
【0049】
〔式中、R1は水素原子、ヒドロキシ基(-OH)、メトキシ基(-OCH3)、アミノ基(-NH2)、フッ素原子(-F)、塩素原子(-Cl)、臭素原子(-Br)、ヨウ素原子(-I)、カルボキシ基(-COOH)、メチル基(-CH3)、エチル基(-CH2CH3)を示し、R2は水素原子、ヒドロキシ基(-OH)、メトキシ基(-OCH3)、アミノ基(-NH2)、フッ素原子(-F)、塩素原子(-Cl)、臭素原子(-Br)、ヨウ素原子(-I)、カルボキシ基(-COOH)、メチル基(-CH3)、又はエチル基(-CH2CH3)を示す。〕
で示される4-アミノ安息香酸誘導体であり、3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸類が下記の一般式(2):
【0050】
【0051】
〔式中、R1及びR2は前記と同じものを示し、Xは、一方が水素原子で他方がヒドロキシ基を示す。〕
で示される3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸誘導体である<1>~<3>のいずれかに記載の方法。
<5>式(1)で示される4-アミノ安息香酸誘導体及び式(2)で示される3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸誘導体において、R1が、好ましくは水素原子、ヒドロキシ基(-OH)、メトキシ基(-OCH3)、フッ素原子(-F)又はメチル基(-CH3)である<4>に記載の方法。
<6>式(1)で示される4-アミノ安息香酸誘導体及び式(2)で示される3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸誘導体において、R2が、好ましくは水素原子、ヒドロキシ基(-OH)、メトキシ基(-OCH3)、フッ素原子(-F)、又はメチル基(-CH3)である<4>又は<5>に記載の方法。
<7>式(1)で示される4-アミノ安息香酸誘導体及び式(2)で示される3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸誘導体において、R1及びR2が、共に水素原子である<4>に記載の方法。
<8>4-アミノ安息香酸類と微生物の接触が、微生物の菌体破砕液と4-アミノ安息香酸類を20℃~50℃で、5分~72時間、好ましくは1時間~60時間、より好ましくは1時間~24時間接触させる、<1>~<7>記載の方法。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1 形質転換株の作製
本実施例で用いたPCRプライマーを表1に示す。
【0053】
【0054】
<プラスミドベクターの作製>
フラビンモノオキシゲナーゼの中から選択された3種の4-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素(HFM122,HFM300及びHFM689)をコードする遺伝子(配列番号1,3,5)を含むプラスミドを人工遺伝子合成により作製し、これを鋳型としてプライマーpET HFM122 F(配列番号7),pET HFM122 R(配列番号8),pET PHHYart_Pa F(配列番号9),pET PHHYart_Pa R(配列番号10),pET HFM689art F(配列番号11),pET HFM689art R(配列番号12)を用いたPCRにてインサート用DNA断片を合成した。次に、プラスミドpET21aを鋳型に、プライマーpET21a vec R(配列番号13)及びpET21a vec F(配列番号14)を用いたPCRにてベクター用DNA断片を増幅した。以上の断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いてそれぞれ連結しプラスミドベクターpET-HFM122,pET-HFM300,pET-HFM689を構築した。
【0055】
<プラスミドベクターの増幅>
上記で作製したプラスミドベクターpET-HFM122, pET-HFM300, pET-HFM689を用いて、大腸菌DH5α株(ニッポンジーン)をコンピテントセル形質転換法により形質転換した。得られた形質転換細胞液をLBamp寒天培地(Bacto Trypton 1%、Yeast Extract 0.5%、NaCl 1%,アンピシリンナトリウム50μg/mL、寒天 1.5%)に塗布した後37℃で一晩静置し、得られたコロニーに対しSapphire Amp(TAKARA)及びプライマーforCPCR pET21a F(配列番号15)、forCPCR pET21a R(配列番号16)を用いたPCR反応を行い、目的DNA断片の導入が確認された菌株を形質転換株として選抜した。形質転換株をLBamp液体培地(Bacto Trypton 1%、Yeast Extract 0.5%、NaCl 1%,アンピシリンナトリウム50μg/mL)1mLに接種し、37℃で一晩培養した。この培養液よりハイピュアプラスミドアイソレーションキット(ロシュライフサイエンス)を用いて各プラスミドベクターの精製を行った。
【0056】
<プラスミドベクターの宿主細胞への導入>
上記で得られたプラスミドベクターpET-HFM122,pET-HFM300,pET-HFM689を用いて、大腸菌BL21(DE3)株(ニッポンジーン)をコンピテントセル形質転換法により形質転換した。得られた形質転換細胞液をLBamp寒天培地に塗布した後37℃で一晩静置し、得られたコロニーを形質転換株(HFM122株、HFM300株、HFM689株)とした。
【0057】
実施例2 形質転換株を用いた3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸の生産
<形質転換株の培養>
上記で得られたHFM122株、HFM300株、HFM689株をそれぞれLBamp液体培地(Bacto Trypton 1%、Yeast Extract 0.5%、NaCl 1%,アンピシリンナトリウム50μg/mL)1mLに接種し、37℃で一晩培養した。得られた培養液100μLをOvernight Express培地(Merck)10mLに接種し、37℃で約24時間培養した後、遠心分離により菌体を回収した。
【0058】
<菌体破砕液の調製>
上記で得られたHFM122株、HFM300株、HFM689株の菌体をBugbuster Protein Extraction Reagent(Merck)1mLを用いて懸濁し30℃で20分間振盪した後、遠心分離により不溶分を除去したものを菌体破砕液とした。
【0059】
<3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸の生産能>
上記で得られたHFM122株、HFM300株、HFM689株の菌体破砕液を80μL添加した96穴アッセイプレート(イワキ)に、100mM リン酸バッファー(pH7.0)80μL,100mM NADPH 20μL,20mM 4-アミノ安息香酸 20μLを加え、1時間静置した後、後述する参考例1に記載の手順にて3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸の定量を行った。
菌体破砕液の総タンパク量をバイオ・ラッドプロテインアッセイ(Bio-rad)を用いて定量し、下記式に従いHFM122株及びHFM689株における3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸の生産能とその向上率を算出した。
【0060】
3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸生産能
=(反応後の3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸濃度/総タンパク量)
【0061】
生産能向上率(%)
=(HFM122株及びHFM689株の3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸生産能/HFM300株の3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸生産能)×100-100
【0062】
結果を表2に示す。非特許文献3、4に示唆のあるHFM300株と比較して、HFM122株及びHFM689株では、それぞれ46%及び114%の生産能の向上が観察された。
【0063】
【0064】
参考例1 3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸の定量
反応後の3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸の定量はHPLCにより行った。HPLC分析に供する反応液を0.1%リン酸にて適宜希釈した後、アクロプレップ96フィルタープレート(0.2μmGHP膜、日本ポール)を用いて不溶物の除去を行なった。
【0065】
HPLCの装置は、LaChrom Elite(日立ハイテクノロジーズ)を用いた。分析カラムには、L-カラム ODS(4.6mm I.D.×50cm、化学物質評価研究機構)を用い、溶離液Aを0.1%リン酸、溶離液Bを70%メタノールとし、流速1.0mL/分、カラム温度40℃の条件にてグラジエント溶出を行なった。3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸の検出には、UV検出器(検出波長280nm)を用いた。標準試料〔3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸(販売元コードA1194、東京化成工業)〕を用いて濃度検量線を作成し、濃度検量線に基づいて3-ヒドロキシ-4-アミノ安息香酸の定量を行なった。
【配列表】