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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】中空異形捲縮長繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20221220BHJP
   D01D 5/092 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
D01F6/62 303G
D01F6/62 306P
D01D5/092 103
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018207303
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020070530
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 千秋
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095977(JP,A)
【文献】特開2013-023794(JP,A)
【文献】特開昭61-245327(JP,A)
【文献】特開2001-271228(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122673(WO,A1)
【文献】特開2001-254239(JP,A)
【文献】特開平11-081120(JP,A)
【文献】特開平11-302921(JP,A)
【文献】国際公開第2008/093654(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00- 6/92,
9/00- 9/04
D01D 1/00-13/02
D02G 1/00- 3/48
D02J 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成成分の90モル%以上がポリトリメチレンテレフタレートであり、繊維軸方向に対して直交する繊維横断面において、少なくとも1個の中空部を備えるコア部と、コア部外表面からコア部中心に対して放射状に突出したフィン部を有し、下記(1)~()を満たすことを特徴とする中空異型捲縮長繊維。
(1)フィン部が4枚以上8枚以下である。
(2)捲縮数が30個/25mm以上39個/25mm以下スパイラル状三次元捲縮である。
(3)下記式により算出した単糸断面の中空部潰れ比が1.0以上1.5以下である。
中空潰れ比 =a/b
a:コア部の長辺
b:コア部の短辺
(4)破断強度が1.6~2.6cN/dtexである。
【請求項2】
繊維軸方向に対して直交する繊維横断面において、以下の式を満足する請求項1に記載の中空異型捲縮長繊維。
フィン部の外接円直径 > フィン部の内接円直径 × 2.00
【請求項3】
下記式により算出したコア部の中空率が20~60%である、請求項1又は2のいずれかに記載の中空異型捲縮長繊維。
中空率(%)=SA/SB×100(%)
SA:単糸繊維軸の直交する断面におけるコア部の中空部の面積
SB:単糸繊維軸の直交する断面におけるコア部の外接円の面積
【請求項4】
下記式により算出した空隙率が40~70%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空異型捲縮長繊維。
空隙率(%)=((SC-SD)/SC)×100(%)
SC:繊維軸に直交する断面における放射状に突き出したフィン部の外接円の面積
SD:繊維軸に直交する断面における中実部の面積
【請求項5】
100℃、20分の沸水処理後の全捲縮率(TC)が5~40%である請求項1~4のいずれか1項に記載の中空異型捲縮長繊維。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の中空異形捲縮長繊維の製造方法であって、紡糸速度が1500~3500m/分であり、口金面の下から10~60mmの位置で、口金面と平行、かつ吐出ポリマー流を貫通するように一方向から風速0.5~5.0m/秒の空気を吹き付けて口金から吐出したポリマー流を異方冷却することを特徴とする中空異形捲縮長繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部を有する異型捲縮長繊維に関する。さらに詳しくは、嵩高性やソフト感、ドライ感などの優れた風合いを有し、かつ軽量性、保温性にも優れた立体捲縮性を有する中空異形捲縮長繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、その優れた特性から一般衣料用分野をはじめ各種分野に広く利用されている。衣料用途では、特に嵩高感のある風合いを得るため、仮撚加工などの天然繊維を模した繊維への嵩高性の付与技術が種々検討されてきた。一方、布帛に対しより軽量感を付与する目的で、繊維を中空化して利用することが従来から行われている。しかしながら中空繊維に仮撚加工を施すと繊維断面が大きく変形し、それに伴い中空部が潰れてしまい、軽量感が損なわれる問題を有していた(特許文献1)。また、仮撚後も中空部を確保する方法として、芯部に易水溶解性ポリマーを配した芯鞘型複合繊維を用い、仮撚加工後に芯部を溶出する方法が提案されている(特許文献2)。
【0003】
しかし、この方法では工程が煩雑となり、中空となる芯部の変形も免れず本来の軽量感を得難いものであった。
【0004】
また、仮撚加工以外で繊維に捲縮を付与した繊維として、固有粘度の異なる二種類のポリエステルをサイドバイサイド型に配した中空繊維が提案されている(特許文献3)。この方法では、捲縮性は得られるものの、2種類のポリマーを使用するため工程性など製造面での制約が大きいという問題を有していた。
【0005】
さらに、中空繊維からなる微細捲縮繊維として乾熱時に自己伸長する繊維が提案されている(特許文献4)。しかし、この繊維は、微細捲縮を有するものの、繊維断面の異型度が低く嵩高性には劣る他、熱処理時に自己伸長するため混繊糸など用途が限定され汎用性に乏しいものであった。
【0006】
一方で、繊維に嵩高性を付与した中空部を有する捲縮糸として突起部を有する異型断面繊維が提案されている(特許文献5)。しかしながら、立体捲縮性を有する特殊嵩高糸の製糸方法として、紡糸時に異方冷却時に異方効果が発現されるような条件(風速、冷却位置、冷却長さ、風温など)を適宜選択するのみでは捲縮性能発現させるには限界があり、得られる立体捲縮性能は異なる為、より捲縮性、嵩高性、柔らかい風合い、ストレッチ性、且つ軽量化に優れた立体捲縮性を有する特殊嵩高糸が強く望まれていた。
【0007】
また、中空異型断面の中空率や空隙率などを規定し、嵩高性を付与した中空部を有する捲縮糸として突起部を有する異型断面繊維が提案されている(特許文献6)。しかしながらこの製糸方法では、時に中空潰れやフィン折れなどが生じ、中空部とフィン部の形成が不安定であり、伸長回復率は低くかつ捲縮形態(捲縮数)は粗く少ない場合、嵩高感や軽量感が失われており、より安定した中空とフィン形成、より捲縮形態(捲縮数)ある中空異形捲縮長繊維が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-249936号公報
【文献】特開2000-314036号公報
【文献】特開2003-183938号公報
【文献】特開平11-140721号公報
【文献】特開2000-212845号公報
【文献】特開2018-95977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術を背景になされたものであり、十分な捲縮性を有し、布帛とした際に優れた嵩高性と軽量感、さらには保温性をも具備するものを得ることが可能な立体捲縮性を有する中空潰れが少ない中空異形捲縮長繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、以下本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明は、
1.構成成分の90モル%以上がポリトリメチレンテレフタレートであり、繊維軸方向に対して直交する繊維横断面において、少なくとも1個の中空部を備えるコア部と、コア部外表面からコア部中心に対して放射状に突出したフィン部を有し、下記(1)~()を満たすことを特徴とする中空異型捲縮長繊維。
(1)フィン部が4枚以上8枚以下である。
(2)捲縮数が30個/25mm以上39個/25mm以下スパイラル状三次元捲縮である。
(3)下記式により算出した単糸断面の中空部潰れ比が1.0以上1.5以下である。
中空潰れ比 =a/b
a:コア部の長辺
b:コア部の短辺
(4)破断強度が1.6~2.6cN/dtexである。
そして、以下2~5に記載の発明が好ましい。
2.繊維軸方向に対して直交する繊維横断面において、以下の式を満足する前記1の中空異型捲縮長繊維。
フィン部の外接円直径 > フィン部の内接円直径 × 2.00
3.下記式により算出したコア部の中空率が20~60%である、前記1または2の中空異型捲縮長繊維。
コア部の中空率(%)=SA/SB×100(%)
SA:単糸繊維軸の直交する断面におけるコア部の中空部の面積
SB:単糸繊維軸の直交する断面におけるコア部の外接円の面積
4.下記式により算出した空隙率が40~70%である、前記1~3のいずれかの中空異型捲縮長繊維。
空隙率(%)=((SC-SD)/SC)×100(%)
SC:繊維軸に直交する断面における放射状に突き出したフィン部の外接円の面積
SD:繊維軸に直交する断面における中実部の面積
5.100℃、20分の沸水処理後の全捲縮率(TC)が5~40%である前記1~4のいずれかの中空異型捲縮長繊維。
【0012】
そして、別の発明として、
6.前記1~5のいずれかの中空異形捲縮長繊維の製造方法であって、紡糸速度が1500~3500m/分であり、口金面の下から10~60mmの位置で、口金面と平行、かつ吐出ポリマー流を貫通するように一方向から風速0.5~5.0m/秒の空気を吹き付けて口金から吐出したポリマー流を異方冷却することを特徴とする中空異形捲縮長繊維の製造方法。
である。
【発明の効果】
【0013】
中空潰れが少ない中空異形捲縮長繊維によって嵩高性や軽量性、保温性に優れた繊維・布帛を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の立体捲縮性を有する中空異型捲縮長繊維の断面模式図の一例。
図2】本発明の立体捲縮性を有する中空異型捲縮長繊維の断面模式図の一例。
図3】本発明の中空異型捲縮糸を製造する紡糸口金の吐出孔の断面模式図。
図4】本発明の中空潰れの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
(立体捲縮)
本発明の中空異形捲縮長繊維は立体捲縮を付与されているが、この立体捲縮はスパイラル状三次元捲縮および/またはサインカーブ状捲縮であることが好ましい。これらの立体捲縮であることで、平面的な機械捲縮より高い嵩高感を得ることができる。なお、スパイラル状三次元捲縮とは、繊維軸方向に対して糸条が「らせん状」に旋回している形態の捲縮である。また、サインカーブ状捲縮とは、繊維軸の直角方向に対し一定の振幅を有する2次元の波形様屈曲形が発現している形態の捲縮である。この3次元捲縮の径および単位繊維長当たりの捲縮数は異方冷却されることで決まるといってよく、冷却効果が大きいほど捲縮数が小さく、単位繊維長あたりの捲縮数は多くなる。要求される捲縮捲縮は、捲縮径が小さく、単位繊維長さ当たりの捲縮数が多い(伸長特性に優れ、見映えが良い)、捲縮の耐ヘタリ性が良い(伸長回復に応じた捲縮のヘタリ量が小さく、ストレッチ保持性に優れる)、さらには捲縮の伸長回復時におけるヒステリシスロスが小さい(弾発性に優れ、フィット感がよい)等である。
【0017】
また、フィラメント糸条の長さ方向に形成される捲縮の位相は、糸条を構成させる全単繊維の捲縮位相が揃った場合、一本のフィラメント糸条は一本のバネ状の糸条となる。この糸条を用いた編地はふくらみを持ったソフト感を有し、嵩高感あるトータルバランスに優れた中空異型捲縮長繊維となる。この糸条を用いた編地の要求物性を満足するためには25mm当たりの捲縮数が重要であり、捲縮数は30~40個/25mm以上、好ましくは40個以上/25mm以上である。このとき、捲縮数が30個/25mm未満である場合、細かなシボやソフト感などを満足することが難しい。
【0018】
(強度)
本発明の中空異形捲縮長繊維は、破断強度が1.6~2.6cN/dtex以上であることが必要であり、好ましくは1.8~2.4cN/dtex以上である。破断強度が1.6cN/dtex未満であると、中空潰れやフィン折れなどが生じ、中空部とフィン部の形成が不安定となり、嵩高感や軽量感が失われて実用に適したものとならない。また破断強度が2.6cN/dtexを超えると、ソフト感、風合いの欠けるものとなる。
【0019】
(コア部)
本発明の中空異形捲縮長繊維を構成する単糸は、繊維軸方向に対して直交する繊維横断面において、少なくとも1個の中空部を備えるコア部と、コア部外表面から突出するフィン部から構成される。コア部は中空部を有する。コア部にある中空部の形状は、例えば、丸形、四角形または四角形以外の多角形とすることができ、なかでも丸形あるいは四角形が好ましい。
コア部に中空部を備えることで、軽量な嵩高糸とすることができ、中空部の形状を丸形あるいは四角形とすることで、図3に例示するような紡糸口金の各吐出スリットにおいて吐出ポリマー同士を良好に貼り合わせることができ、単糸の中空部を有する断面形状を安定して得ることができる。
【0020】
コア部に備える中空部の個数は、少なくとも1個は必要である。軽量感など、中空繊維による特徴が発現しやすいことから1個であることが好ましい。
【0021】
(中空潰れ)
本発明の中空異形捲縮長繊維のマルチフィラメントを構成する単糸のコア部の中空形状潰れ比(コア部の長辺/短辺の比)は1.5以下が必要である。好ましくは1.3以下、さらに好ましくは1.1であり、最も好ましくは1.0で中空潰れが無い真円の状態である。ここで中空潰れ比は下記式で定義される。
中空潰れ比 =a/b
a:コア部の長辺
b:コア部の短辺
また、中空潰れの模式図を図4に示す。中空潰れ比が1.5を超えると、空気を含む量が少なくなって保温性が低下したり、捲縮性能による嵩高性が発現できなくなる。
【0022】
(フィン部)
本発明の中空異形捲縮長繊維は、コア部外表面から、コア部中心点に対して放射状に突出したフィン部を有し、コア部の長さ方向に沿って延在する、フィン部は4枚以上が必要であり、好ましくは6枚以上、さらに好ましくは8枚以上である。
【0023】
フィン部がコア部の外表面から、コア部中心点に対して放射状に突出し、かつコア部の長さ方向に沿って延在することにより、捲縮加工によって均等に捲縮が発現するほか、マルチフィラメントでの単糸間の干渉により体積排除効果を得ることができ、高い空隙形成率を得ることができる。
【0024】
フィン部の枚数を少なくとも4枚とすることにより、単糸間の摩擦係数を低下させることができ、延伸時の毛羽や断糸の発生を低減することができる。フィン部の枚数に特に上限はないが、例えば12枚が生産面で有効である。
【0025】
本発明の中空異形捲縮長繊維の形状の例を図1図2に示す。図1図2で明らかなように、本発明の中空異形捲縮長繊維において、フィン部はコア部中心点に対して放射状となる形状で、コア部外表面から外側に向けて突出している形状をとる。
【0026】
さらに強度が低い場合、完全な中空潰れやフィン折れなどが生じ、中空部とフィン部の形成が不安定となり、嵩高感や軽量感が失われて実用に適したものとならない。
【0027】
(断面形状)
本発明の中空異形捲縮長繊維は、単糸の繊維軸に直交する断面において、フィン部の外接円直径が、フィン部の内接円直径の2.0倍を超えることが好ましい。フィン部の外接円直径がフィン部の内接円直径の2.0倍以下であると十分な捲縮を発現することが難しい。
【0028】
(中空)
本発明の中空異形捲縮長繊維のマルチフィラメントを構成する単糸のコア部の中空率は、好ましくは20~60%、より好ましくは25~55%、さらに好ましくは30~50%である。この範囲の中空率とすることで、軽量感および嵩高感を得つつ、安定した製糸ができる。
【0029】
ここで、コア部の中空率は、下記式で定義される。
中空率(%)=SA/SB×100
SA:単糸繊維軸に直交する断面におけるコア部の中空部の面積
SB:単糸繊維軸の直交する断面におけるコア部の外接円の面積
嵩高糸の中空率を上記の範囲にするには、図3に例示するような紡糸口金の吐出部スリットの短軸側をできるだけ細くし、スリットで囲われる面積をできるだけ大きくし、かつ、紡糸口金から吐出されたポリマーを口金面の下からなるべく短い距離で速やかに冷却するとよい。
【0030】
(空隙)
本発明の中空異形捲縮長繊維は、マルチフィラメントを構成する単糸の空隙率は40~70%であることが好ましい。ここで、単糸の空隙率は下記式で定義される。
空隙率(%)=((SC-SD)/SC)×100
SC:単糸繊維軸に直交する断面における放射状に突き出したフィン部の外接円の面積
SD:単糸繊維軸に直交する断面における中実部の面積
空隙率を上記の範囲にするには、コア部から放射状に突出し、単糸の繊維軸方向に沿って延在するフィン部を少なくとも4枚は有するようにし、フィン部の外接円の直径をフィン部の内接円の直径の2.0倍を超えるようにフィン部を設けるとよい。
【0031】
(繊維形成性熱可塑性ポリマー)
本発明において、ポリマーの種類としては特に限定されないが、なかでも、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸などのポリエステルや、第3成分を共重合させた共重合ポリエステルなどが好ましい。中でも、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略す)がソフト性や異方冷却で得られた立体捲縮性能の点で特に好ましい。
【0032】
PTTとしては、PTTホモポリマー、または、90モル%以上がPTTであり10モル%以下がその他のエステル繰り返し単位を含む共重合PTTや、10質量%以下がPTT以外のポリマーを混練されたポリマーであることが好ましい。
【0033】
共重合成分の代表例としては、イソフタル酸や5-ナトリウムスルホイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸、アジピン酸やイタコン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸などが例示される。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等が例示される。これらの複数が共重合されていても良い。
【0034】
(単糸数)
本発明の中空異形捲縮長繊維は、その単糸数が5本以上であることが好ましい。単糸数が4本以下であると、突起部による体積排除効果が十分でなく、目的とする嵩高さ、軽量感を得ることが出来ない。また、単糸数が多くなりすぎると、繊維束としての繊度が大きくなり、繊維の曲げ剛性が高くなりすぎて、布帛におけるソフト感が低下し好ましくない。好ましくは、10~50本である。
【0035】
(全捲縮率)
本発明の中空異形捲縮長繊維は、100℃、20分の沸水処理後の全捲縮率(TC)が、好ましくは5~40%、より好ましくは10~35%、さらに好ましくは15~30%である。全捲縮率が5%未満あると十分な嵩高感が得られず、40%を超えると取り扱い性が低下する。
【0036】
全捲縮率(TC)を上記の範囲にするためには、繊維形成性熱可塑性ポリマーとしてポリエステルを用いて、紡糸工程において、異方冷却を行うことが必要である。異方冷却とは、具体的には、口金孔から吐出されたポリマー流を、口金面からできるだけ短い距離で、かつ、できるだけ大きい風速の冷却風を、口金面と平行かつ吐出ポリマー流を貫通するように一方向の冷却を行うことをいう。この冷却方法で紡糸して得られた未延伸糸は、断面方向の複屈折率分布が偏芯しており、未延伸糸を延伸した際にスパイラル状の三次元捲縮を発現する。なお、熱処理方法や延伸糸条の拘束状態によっては、サインカーブ状形態の捲縮を得ることができる。さらには、本発明のような中空と複数のフィン部を有する異型断面繊維は、フィン部による表面積の増大効果とコア部の中空部による断熱効果のために断面異方性を付与しやすく、異方冷却によって、より高度な断面異方性を付与することができる。
【0037】
(製造方法の一例)
本発明の中空異型捲縮長繊維は、次の方法で製造することができる。ポリエステル(特にポリトリメチレンテレフタレートが好ましい)のペレットを用いて適正な水分率(0.005~0.010%)となるように乾燥後、溶融押出機などで溶融して紡糸口金へ導入する。
【0038】
繊維軸方向に対して直交する繊維横断面において、少なくとも1個の中空部を備えるコア部と、コア部外表面からコア部中心に対して放射状に突出したフィン部を少なくとも4枚以上有した繊維断面を得るために、図3に例示するような紡糸口金を使用し、260~280℃の温度で口金の紡糸孔から吐出させ、口金面から10~60mm下で、10~40℃の範囲の冷却風を風速0.5~5.0m/秒で、口金面と平行かつ吐出ポリマー流を貫通するように一方向の冷却(異方冷却)を行ない、1500~3500m/分、好ましくは2000~3000m/分で巻き取る。この冷却方法、すなわち異方冷却で得られた未延伸糸を延伸工程に供給するまでの未延伸糸の保存環境は、雰囲気温度を10~30℃、相対湿度50~95%に保っておくことが好ましい。また、延伸機上の未延伸糸は、延伸中を通してこの温度、湿度に保持することが好ましい。
【0039】
延伸機上では、未延伸糸は、まず45~90℃に設定された供給ローラーで加熱される。供給ローラーの温度はより好ましくは60~80℃、更に好ましくは67~73℃である。次いで、供給ローラーと延伸ローラーとの周速度比を利用して所定の繊度まで延伸される。延伸倍率は1.3~2.0倍で好ましくは1.5~1.8倍である。また糸は延伸中に、140~180℃に設定されたホットプレートに非接触しながら走行し、緊張熱処理を受ける。延伸ローラーを出た糸は、スピンドルのトラベラーによって撚りをかけられながら、延伸糸パーンとして巻取られる。
【0040】
異方冷却の冷却風は、口金面から10~60mmの位置から付与することが必要で、20~50mmが更に好ましい。口金面からの冷却開始位置が10mm未満では口金面を冷却してしまい、ポリマー流が不均一となり、一方、60mmより大きいと、異方冷却が不十分で立体捲縮性が小さいものになってしまう。また、冷却風の風速は0.5~5.0m/秒であり、好ましくは風速1.0~3.0m/秒である。風速1.0m/秒未満では得られる立体捲縮性は小さく、一方、風速5.0m/秒を超えると、ポリマー流が固化する前に冷却風に吹き飛ばされ、紡糸断糸が多発する。冷却風の温度は低い方が立体捲縮が大きくなる傾向にあり、10~40℃とすることが必要である。好ましい範囲は15~30℃、更に好ましくは17~25℃である。
【0041】
中空異形捲縮長繊維を採取する為の未延伸糸の紡糸速度は、1500~3500m/分が必要とされ、好ましくは2000~3000m/分である。紡糸速度が低ければ、スパイラル状三次元捲縮および/またはサインカーブ状捲縮が発現しない。また紡糸速度が高ければ、断糸が多発し、紡糸工程が不調となる。
【0042】
また、延伸倍率は、1.3~2.0倍であり、好ましくは1.5~1.8倍である。1.3倍より低ければ、強度低目となり、完全な中空潰れやフィン折れなどが生じ、中空部とフィン部の形成が不安定となり、嵩高感や軽量感が失われて実用に適したものとならない。2.0倍より高ければ、延伸調子は著しく不調となり、かつ強度は高く風合いは適したものとならない。
【0043】
本発明の中空異形捲縮長繊維は、通常の仮撚法を用いて長繊維を機械的に撚り、熱セットして嵩高糸を得る仮撚加工糸に比べ、中空部を機械的に変形させないため、中空部の潰れが小さく、仮撚加工糸より更に嵩高い嵩高糸となるので、著しく嵩高で保温性や軽量感に富む織編物などの布帛を得ることができる。
【実施例
【0044】
次に、本発明を実施例によって本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例中の評価、測定は次のとおり実施した。
【0045】
(1)全捲縮率(TC)
試料繊維に44.15×10-3cN/dtex(50mg/de)の張力をかけて約3333dtex(3000de)となる迄巻き、カセを作成する。カセ作成後、176.6×10-3cN/dtex(200mg/de)相当の荷重を付与し、1分経過後の長さL0(cm)を測定する。L0測定後、176.6×10-3cN/dtex(200mg/de)相当荷重を除去し、1.77×10cN/dtex(2mg/de)相当の荷重を付与した状態で100℃沸水中で20分間処理する。沸水処理後、直ちに全荷重を除去し、24時間フリー状態で40℃以下で自然乾燥する。自然乾燥後のカセに再び1.77×10-3cN/dtex(200mg/de)相当の荷重を付与し1分間経過後の長さL1(cm)を測定する。L1測定後直ちに176.6×10-3cN/dtex(200mg/de)相当荷重を除去し、1分経過後の長さL2(cm)を測定し、下記算出式により全捲縮率(TC)を算出した。
全捲縮率(%)=(L1-L2)/L0×100
【0046】
(2)フィン部の外接円および内接円
紡糸捲取したマルチフィラメントのセクションを切り、単糸1本の繊維軸に直交する断面の写真(1500倍)を、SEM(走査電子顕微鏡)により撮影した。
断面写真において、フィン部の外接円と内接円を描き、それらの直径を測定してフィン部の外接円直径および内接円直径とした。
図1にフィン部の外接円および内接円の模式図を示す。図1のBがフィン部の内接円、Cがフィン部の外接円を表す。
外接円直径が内接円直径の2.0倍以上の条件を満足するもの「優」で、満足しないものを「不良」で評価した。
【0047】
(3)コア部の中空率(%)
上記(2)で得た断面の写真において、単糸1本の繊維軸の直交する断面におけるコア部の内接円の面積と、コア部の中空部の面積を算出し、以下の式により単糸の中空率を求めた。
中空率(%)=SA/SB×100(%)
SA:単糸繊維軸の直交する断面におけるコア部の中空部の面積
SB:単糸繊維軸の直交する断面におけるコア部の外接円の面積
この測定を単糸5本分行い、5本の中空率を平均して中空率(%)とした。
【0048】
(4)空隙率
上記(2)で得た断面の写真のフィン部の外接円の面積を算出して面積SCとした。
また、繊維軸に直交する断面の中実部の面積SD(図2のDで示す部分の面積)を、繊度およびポリマーの密度(ポリエステルの場合は1.38g/cm)から、以下の式により空隙率を算出した。
空隙率(%)=((SC-SD)/SC)×100(%)
SC:繊維軸に直交する断面における放射状に突き出したフィン部の外接円の面積
SD:繊維軸に直交する断面における中実部の面積
ここで、中実部の面積は、コア部およびフィン部のそれぞれの中実部の面積を含む。
この測定を単糸5本分行い、5本の空隙率を平均して空隙率(%)とした。
【0049】
(5)捲縮数
JIS L 1015 7.12に記載の方法により、25mmあたりの捲縮数を計測した。
【0050】
(6)捲縮形状
スパイラル三次元捲縮の場合は、繊維長さ25mm当たりの「らせん」の個数(らせん1個につき捲縮2個とする)、サインカーブ状捲縮の場合は繊維長さ25mm当たりの山の個数を数え、30個以上を優、30個未満を不良と判定した。
尚、捲縮形状としては、スパイラル状三次元捲縮をSp、サインカーブ状捲縮をSiと略称することがある。
【0051】
(7)破断強度
JIS-L-1013に基づいて測定した。
【0052】
(8)風合い(嵩高感と軽量感)
得られた繊維を用いて筒編を作成し、編地の触感について、嵩高感および軽量感のそれぞれを4段階(◎(優)、○(良)、△(やや不足)、×(不良))で官能評価した。
【0053】
(9)布帛の嵩高さ
まず、JIS L 1018 8.5にしたがい布帛の厚さT(mm)を測定した。つぎに、JIS L 1018 8.4.2にしたがい布帛の目付けW(g/m)を測定した。これら布帛の厚さT(mm)および布帛の目付けW(g/m)から、下記式で布帛の嵩高さを算出した。
嵩高さ(cm/g)=1000×(T/W)
【0054】
(10)布帛の通気度
JIS L 1018 8.33.1にしたがい通気度(cc/cm/秒)を測定した。
【0055】
(11)布帛の保温性
JIS L 1018 8.34.1にしたがい保温性(%)を測定した。
【0056】
(12)中空潰れ比
延伸後の単糸1本の繊維軸に直交する断面の写真(1500倍)を、SEM(走査電子顕微鏡)により撮影した。繊維軸に直交する断面におけるコア部の長辺aとコア部の短辺bを測定し、以下の式により中空潰れ比を算出した。前記a,bは図4に示す。
中空潰れ比=a/b
この測定を単糸5本分行い、5本分の中空潰れ比を平均して中空潰れ比とした。
【0057】
(13)単糸数
長繊維を構成する単糸の本数を示す。(実施例、比較例では、紡糸口金の吐出孔の数と等しい。)
【0058】
[実施例1]
固有粘度(35℃、オルソクロロフェノール中)が1.00dl/gのポリトリメチレンテレフタレートを265℃で溶融し、図2に示す吐出孔を12個有する紡糸口金より吐出した。吐出された糸条は、吐出直下40mmにて風速2.00m/秒の冷風(約20℃)にて糸条走行方向に直交して一方向からのみ冷却し、オイリングノズルにて油剤を付与し2,000m/分の速度にて巻き取った。得られた未延伸糸を温度70℃で1.7倍に延伸し、次いで温度180℃のスリットヒータにて定長下で熱セットを施し、90dtex、破断強度2.05cN/dtex、捲縮率(TC)25.7%、捲縮数 39個/25mm,中空潰れ比1.02の中空異形捲縮長繊維を得た。
【0059】
次いで、28G、90インチのトリコット経編機(独カールマイヤー社製KS4SU)を使用し、ハーフ組織のトリコット経編物を編成した。得られた編物を130℃にて高圧染色を行い、編物表面を常法により起毛処理を行ったのち、最終セットとして180℃の乾熱セット行った。
【0060】
得られた編物において、厚さ3.5mm、目付け181g/m、嵩高さ19.3cm/g、通気度は380cc/cm/秒、保温性は21.1%と、嵩高性、通気性、保温性に優れたものであった。かかる編物を用いてスポーツウエアを縫製し、着用したところ、非常に軽量で通気性、嵩高性、保温性に優れ、着用快適性に優れていた「良好」。得られた評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例2]
紡糸速度2500m/minで得た未延伸糸を、延伸倍率1.5倍に延伸で実施した以外は、実施例1と同様に中空異形捲縮長繊維を得た。次いで28G、90インチのトリコット経編機(独カールマイヤー社製KS4SU)を使用し、ハーフ組織のトリコット経編物を編成した。得られた編物を130℃にて高圧染色を行い、編物表面を常法により起毛処理を行ったのち、最終セットとして180℃の乾熱セット行った。得られた編物において、厚さ3.1mm、目付け180g/m、嵩高さ17.2cm/g、通気度は326cc/cm/秒、保温性は19.1%と、軽量性、嵩高性、通気性、保温性に優れたものであった。
【0062】
かかる編物を用いてスポーツウエアを縫製し、着用したところ、非常に軽量で通気性、嵩高性、保温性に優れ、着用快適性に優れていた「良好」。得られた評価結果を表1に示す。
【0063】
[比較例1]
未延伸糸を1000m/minで捲取した他は実施例1と同様にして繊維を得た。得られた繊維の強度が低く、中空潰れが多く見られた。中空率、空隙率、捲縮率も低かった。
【0064】
また、得られた編物において、厚さ0.52mm、目付け180g/m、嵩高さ2.9cm/g、通気度は181cc/cm/秒、保温性は9.1%と、嵩高性、保温性に欠けるものであった。
【0065】
かかる編物を用いてスポーツウェアを縫製し、着用したところ、ボリューム感や保温性がなく着用快適性に欠けていた「不良」。得られた評価結果を表1に示す。
【0066】
[比較例2]
紡糸時の冷風吹き出し位置を100mm下方、冷風速度 0.4m/秒とした他は実施例1と同様にして繊維を得た。
【0067】
また、得られた編物において、厚さ0.67mm、目付け180g/m、嵩高さ3.7cm/g、通気度は232cc/cm/秒、保温性は12.1%と、嵩高性、保温性に欠けるものであった。
【0068】
かかる編物を用いてスポーツウェアを縫製し、着用したところ、ボリューム感や保温性がなく着用快適性に欠けていた「不良」。得られた評価結果を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
突起部を有さない中空口金を用いた以外は、実施例1と同様の方法で繊維を得た。
また、得られた編物において、厚さ0.56mm、目付け180g/m、嵩高さ3.1cm/g、通気度は154cc/cm/秒、保温性は9.8%と、嵩高性、保温性に欠けるものであった。
【0070】
かかる編物を用いてスポーツウエアを縫製し、着用したところ、ボリューム感や保温性がなく着用快適性に欠けていた「不良」。得られた評価結果を表1に示す。
【0071】
[比較例4]
延伸倍率を1.1倍で捲取した他は実施例1と同様にして繊維を得た。得られた繊維の物性は強度が低く、中空潰れが多く見られた。
【0072】
また、得られた編物において、厚さ0.62mm、目付け180g/m、嵩高さ3.4cm/g、通気度は181cc/cm/秒、保温性は10.3%と、嵩高性、保温性に欠けるものであった。
【0073】
かかる編物を用いてスポーツウエアを縫製し、着用したところ、ボリューム感や保温性がなく着用快適性に欠けていた「不良」。得られた繊維の物性、評価結果を表1に示す。
【0074】
[比較例5]
単糸数を4本として捲取した他は、実施例1と同様にして得た繊維を比較例5として繊維の物性、評価結果を表1に示す。得られた編物において、厚さ0.66mm、目付け180g/m、嵩高さ3.7cm/g、通気度は192cc/cm/秒、保温性は11.0%と、嵩高性、保温性に欠けるものであった。
【0075】
かかる編物を用いてスポーツウエアを縫製し、着用したところ、ボリューム感や保温性がなく着用快適性に欠けていた「不良」。得られた繊維の物性、評価結果を表1に示す。
【0076】
[比較例6]
ポリマーをポリエチレンテレフタレート(PET)とした他は、実施例1と同様にして繊維を得た。得られた編物において、厚さ0.48mm、目付け180g/m、嵩高さ2.7cm/g、通気度は120cc/cm/秒、保温性は8.3%と、嵩高性、保温性に欠けるものであった。
【0077】
かかる編物を用いてスポーツウエアを縫製し、着用したところ、ボリューム感や保温性がなく着用快適性に欠けていた「不良」。得られた繊維の物性、評価結果を表1に示す。
表1に示すとおり、本発明の範囲内で得られたPTT繊維は良好な捲縮性を示し、布帛としても嵩高感、軽量感に優れるものであった。それに対し、十分な捲縮性を示さない比較例1、2、3、4、5、6は布帛としての嵩高感、軽量感が不足していた。突起部を有さない比較例3においても同様に嵩高感、軽量感が不十分なものであり、ポリマーにPETを使用した場合も、十分な捲縮性、軽量感、嵩高感は得られなかった。得られた繊維の物性、評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
*)表1において、捲縮形状としては、スパイラル状三次元捲縮をSp、サインカーブ状捲縮をSiとした。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、立体捲縮性を有する中空異形捲縮長繊維で捲縮性を発現することができ、単糸間の空間も良好に維持することが可能であり、嵩高性、軽量性、保温性に優れているので、トレーニングウェア、ウィンドブレーカーなどのスポーツ衣料、一般衣料、衣料用中綿、布団用詰め綿、シート生地などの用途に有用である。
【符号の説明】
【0081】
A;中空部
B;フィン部の内接円
C;放射状に突き出したフィン部の外接円
D;繊維横断面のポリマー部の面積
E;フィン部の外接円の直径
F;フィン部の内接円の直径
a;コア部の長辺
b;コア部の短辺
図1
図2
図3
図4