(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】バキュームポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 29/12 20060101AFI20221220BHJP
F04C 29/06 20060101ALI20221220BHJP
F04C 18/344 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F04C29/12 A
F04C29/06 B
F04C18/344 351Q
(21)【出願番号】P 2018208673
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-08-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小倉 崇寛
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/198367(WO,A1)
【文献】特開2013-113233(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0201671(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/12
F04C 29/06
F04C 18/344
F04C 25/02
F04B 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室と、前記ポンプ室から吐出された気体が通る第1消音室と、前記第1消音室を通った前記気体を外部に排出するための排気口と、を形成するポンプケーシングと、
前記ポンプ室への気体の吸込及び前記ポンプ室からの気体の吐出を行うための可動部と、
を備え、
前記ポンプケーシングは、前記第1消音室内において上方に向けて突出する筒状部を含むとともに、前記ポンプ室から吐出された気体を前記筒状部の内部空間を通って前記第1消音室に流入させるように構成され、
前記第1消音室の底面は、
第1底面部と、
前記第1底面部に隣接し、前記第1底面部よりも高い位置かつ前記第1消音室内にて締結部材の座面として形成された第2底面部と、
を含む、バキュームポンプ。
【請求項2】
前記ポンプケーシングは、
前記可動部を収容するための前記ポンプ室を形成するポンプケーシング本体と、
前記ポンプケーシング本体に締結され、前記ポンプ室の上側開口を塞ぐように前記可動部の上側を覆うとともに前記第1消音室の底面を構成するポンプカバーと、
を含み、
前記ポンプカバーは、前記第1消音室内において前記第1消音室の前記底面から上方に向けて突出する
前記筒状部と前記排気口とを含むとともに
、前記第1消音室
に流入した前記気体を前記排気口から排出するように構成された、
請求項1に記載のバキュームポンプ。
【請求項3】
前記筒状部の上端は、前記排気口の上端より高い位置にある、請求項
2に記載のバキュームポンプ。
【請求項4】
前記ポンプカバーは、前記筒状部と同一材料で一体的に構成された、請求項
2又は3に記載のバキュームポンプ。
【請求項5】
前記ポンプケーシングは、前記ポンプ室から吐出された気体が通過する第2消音室であって、前記第1消音室の下方に設けられた第2消音室を形成し、
前記第2消音室の底面は、前記ポンプ室の底面より下方に設けられており、
前記第1消音室と前記第2消音室とは、前記筒状部の内部空間を介して連通するように構成された、請求項
2乃至4の何れか1項に記載のバキュームポンプ。
【請求項6】
前記第1消音室の底面は、前記排気口に近づくにつれて下方に向かうように傾斜したテーパ面を含む、請求項1乃至
5の何れか1項に記載のバキュームポンプ。
【請求項7】
前記可動部は、
前記ポンプ室に配置され、外周面に複数のスリットが形成されたロータと、
前記複数のスリットにそれぞれ配置された複数のベーンと、
を含む、請求項1乃至6の何れか1項に記載のバキュームポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バキュームポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されるように、自動車等の車両におけるブレーキブースターの負圧室内を負圧にするために、バキュームポンプが用いられる場合がある。バキュームポンプは、ポンプ室と、ポンプ室への気体の吸込及びポンプ室からの気体の吐出を行うための可動部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のバキュームポンプは、タイヤの後方や地面から近い場所等、搭載される場所によっては、車両の走行中等に水しぶき等の液体が排気口から侵入することがある。排気口から侵入した液体がポンプ室に流入すると、可動部が正常に動作できなくなり、ポンプ作用を発揮できなくなる恐れがある。
この点、特許文献1には、バキュームポンプの排気口から侵入した液体が可動部の動作に与える影響及びその対策に関する知見は開示されていない。
【0005】
本発明の少なくとも一実施形態は、上述したような従来の課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、排気口から侵入した液体が可動部の動作に影響を与えることを抑制できるバキュームポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るバキュームポンプは、
ポンプ室と、ポンプ室から吐出された気体が通る第1消音室と、第1消音室を通った気体を外部に排出するための排気口と、を形成するポンプケーシングと、
ポンプ室への気体の吸込及びポンプ室からの気体の吐出を行うための可動部と、
を備え、
ポンプケーシングは、第1消音室内において上方に向けて突出する筒状部を含むとともに、ポンプ室から吐出された気体を筒状部の内部空間を通って第1消音室に流入させるように構成される。
【0007】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のバキュームポンプにおいて、
筒状部の上端は、排気口の上端より高い位置にあってもよい。
【0008】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載のバキュームポンプにおいて、
ポンプケーシングは、第1消音室の底面を構成する第1部材を含み、
筒状部は、第1消音室の底面から上方に向けて突出し、
筒状部と第1部材とは同一材料で一体的に構成されてもよい。
【0009】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかに記載のバキュームポンプにおいて、
ポンプケーシングは、ポンプ室から吐出された気体が通過する第2消音室であって、第1消音室の下方に設けられた第2消音室を形成し、
第2消音室の底面は、ポンプ室の底面より下方に設けられており、
第1消音室と第2消音室とは、筒状部の内部空間を介して連通するように構成されてもよい。
【0010】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかに記載のバキュームポンプにおいて、
第1消音室の底面は、排気口に近づくにつれて下方に向かうように傾斜したテーパ面を含んでもよい。
【0011】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかに記載のバキュームポンプにおいて、
第1消音室の底面は、
第1底面部と、
第1底面部に隣接し、第1底面部よりも高い位置にて締結部材の座面として形成された第2底面部と、
を含んでもよい。
【0012】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載のバキュームポンプにおいて、
可動部は、
ポンプ室に配置され、外周面に複数のスリットが形成されたロータと、
複数のスリットにそれぞれ配置された複数のベーンと、
を含んでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、排気口から侵入した液体が可動部の動作に影響を与えることを抑制できるバキュームポンプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係るバキュームポンプ2の概略的な一部切り欠き断面図である。
【
図2】バキュームポンプ2が部分的に浸水した状態を示す概略的な部分断面図である。
【
図3】バキュームポンプ2が全体的に浸水した状態を示す概略的な部分断面図である。
【
図4】バキュームポンプ2の消音室12の底面22の形状を説明するための概略的な一部切り欠き断面図である。
【
図5】
図4に示した消音室12の底面22の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0016】
図1は、一実施形態に係るバキュームポンプ2の概略的な一部切り欠き断面図である。図示する例示的なバキュームポンプ2は、自動車等の車両におけるブレーキブースター(マスターバック)の負圧室内を負圧にするための電動バキュームポンプである。以下において「上」及び「下」とは、バキュームポンプ2が車両に設置された状態における「上」及び「下」を意味する。
【0017】
図1に示すように、バキュームポンプ2は、気体を移送するための可動部4と、可動部4を収容するポンプケーシング10とを含む。ポンプケーシング10は、可動部4が配置されるポンプ室5と、気体をポンプ室5に導くための吸気通路6と、気体をポンプ室5から外部に導くための排気通路8と、を形成する。可動部4は、駆動装置としてのモータ66によって駆動されてポンプ室5への気体の吸込及びポンプ室5からの気体の吐出を行うように構成されている。
【0018】
排気通路8は、ポンプ室5から吐出された気体が通る拡張型吸音器としての消音室12(第1消音室)と、消音室12を通った気体を外部に排出するための大気開放された排気口14と、を含む。消音室12は、ポンプ室5の上方に配置されている。ポンプケーシング10は、消音室12内において上方に向けて突出する筒状部44を含み、ポンプ室5から吐出された気体を筒状部44の内部空間46を通って消音室12に流入させるように構成される。
【0019】
図示する例示的形態では、ポンプケーシング10は、拡張型吸音器としての消音室24(第2消音室)を消音室12の下方に更に含み、消音室24と消音室12とは、煙突形状の筒状部44の内部空間46を介して連通する。筒状部44の外周面及び内周面の断面形状は、例えば円形に形成される。ポンプ室5から吐出された気体は、消音室24を通った後、筒状部44の内部空間46を通って消音室12に流入し、排気口14から排出される。
【0020】
かかる構成によれば、
図2に示すように、排気口14から消音室12内に液体が侵入しても、消音室12内において筒状部44の上端48に液面S1が到達するまでは、消音室12内に液体を留めて筒状部44の内部空間46への液体の流入を抑制することができる。したがって、排気口14から侵入した液体が消音室12からポンプ室5側(図示する形態では消音室24側)へ流れることを抑制し、該液体が可動部4の動作に影響を与えることを抑制することができる。このため、バキュームポンプ2のサイズに影響を与えることなく、排気口14から侵入する液体に対して耐性を向上することができる。また、消音室12内に留まった液体は、バキュームポンプ2の作動時の排圧により、排気口14から排出されるため、当該液体が可動部4の動作に影響を与えることを効果的に抑制することができる。
【0021】
幾つかの実施形態では、例えば
図1に示すように、可動部4は、ポンプ室5に配置されて外周面39に複数のスリット36が形成されたロータ38と、複数のスリット36にそれぞれ配置された複数のベーン40と、を含む。ポンプ室5は、ロータ38の外周面39と対向するカム面42を含む。
【0022】
この種のベーン式バキュームポンプは、モータ66の不図示のシャフトに連結されたロータ38をモータ66によって回転させることで、ロータ38のスリット36に沿ってベーン40が遠心力でロータ38の径方向外側に向けて移動し、ベーン40の先端部13がカム面42上を摺動する。このため、排気口14を介してポンプ室5内に液体が侵入した場合、ベーン40の表面に液体が付着するとベーン40がスリット36に沿ってスムーズに移動しにくくなり、ポンプ作用を安定的に発揮できなくなってしまう。
【0023】
この点、バキュームポンプ2によれば、上記のように排気口14から侵入した液体がポンプ室5へ流入することを抑制できるため、ベーン式バキュームポンプの安定的な運転を効果的に実現することができる。
【0024】
幾つかの実施形態では、例えば
図1に示すように、ポンプケーシング10は、可動部4を収容するポンプケーシング本体16と、ポンプケーシング本体16とは別体で設けられて可動部4の上側を覆うように構成されたポンプカバー18とを含む。ポンプカバー18の上面は消音室12の底面22を形成し、ポンプカバー18は消音室12の底面22を構成する第1部材として機能する。筒状部44は、消音室12の底面22から上方に向けて突出しており、筒状部44とポンプカバー18とは同一材料で一体的に構成されている。すなわち、筒状部44とポンプカバー18とは分離不能な一部品として同一材料で構成されている。
【0025】
かかる構成によれば、消音室12の底面22を構成するポンプカバー18と筒状部44とが同一材料で一体的に構成されているため、排気口14からの液体侵入対策の専用部品を設ける場合と比較して部品点数の増大を抑制しつつ、排気口14から侵入した液体が可動部4の動作に影響を与えることを抑制できる。
【0026】
幾つかの実施形態では、例えば
図2に示すように、筒状部44の上端48は、排気口14の上端20より高い位置にある。これにより、排気口14から消音室12内に侵入した液体が筒状部44の内部空間46に流入することを効果的に抑制することができる。
【0027】
幾つかの実施形態では、例えば
図2に示すように、消音室24は、消音室12の下方に設けられており、消音室の24の底面26は、ポンプ室5の底面27(
図1参照)より下方に設けられている。
【0028】
かかる構成によれば、
図3に示すように、仮にバキュームポンプ2全体が液体に沈んだ場合、排気口14から消音室12に侵入した液体は、筒状部44の上端48に液面S1が達するまで消音室12内に留まり、その後筒状部44の内部に流入して消音室24内に溜まり始める。ここで、消音室24の底面26はポンプ室5の底面27より下方に設けられているため、消音室24の液面S2がポンプ室5の底面27よりも上方に到達するまでは、ポンプ室5の内部への液体の流入を抑制することができる。したがって、バキュームポンプ2全体が液体に沈んだとしても、ある程度時間が経過するまでは、ポンプ室5の内部への液体の流入を抑制して可動部4の動作に影響を与えることを抑制することができる。
【0029】
幾つかの実施形態では、例えば
図4に示すように、消音室12の底面22は、排気口14に近づくにつれて下方に向かうように傾斜したテーパ面28を含む。
かかる構成によれば、テーパ面28の傾斜によって消音室12内の液体が排気口14側に流れるため、消音室12内の液体の排気口14からの排出を促進することができる。これにより、消音室12内での液面の上昇を抑制することができる。したがって、筒状部44の内部空間46への液体の流入を抑制し、排気口14から侵入した液体が可動部4の動作に影響を与えることを抑制することができる。
【0030】
幾つかの実施形態では、例えば
図5に示すように、消音室12の底面22は、第1底面部30と、第1底面部30に段差面31を介して隣接し、第1底面部30よりも高い位置にてスクリュー32(締結部材)の座面として形成された第2底面部34と、を含む。なお、図示する例示的形態では、スクリュー32はポンプカバー18をポンプケーシング本体16に締結するように構成されている。
【0031】
かかる構成によれば、スクリュー32の座面として形成された第2底面部34が第1底面部30よりも高い位置にあるため、スクリュー32が浸水しにくくなり、スクリュー32の腐食を抑制することができる。
【0032】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0033】
例えば、上述した実施形態では、消音室を2つ含むバキュームポンプを例示したが、消音室の数はこれに限らず例えば1つでもよい。
【0034】
また、筒状部の数は1つに限らず、2つ以上であってもよい。例えば上述した実施形態に関して、消音室12の底面22から突出する2つ以上の筒状部44を備え、消音室12と消音室24とが筒状部44の各々を介して連通していてもよい。
【0035】
また、筒状部44の内周面及び外周面の断面形状は、円形でなくてもよい。また、筒状部44の外周面は、第1消音室12の側壁に接続していてもよい。
【0036】
また、上述した実施形態では、バキュームポンプの一例として回転式のベーンポンプについて説明したが、バキュームポンプは、例えばピストン式のポンプであってもよいし、ダイヤフラム式のポンプであってもよい。また、バキュームポンプがベーンポンプである場合には、平衡型ベーンポンプであってもよいし、非平衡型ベーンポンプであってもよい。
【符号の説明】
【0037】
2 バキュームポンプ
4 可動部
5 ポンプ室
10 ポンプケーシング
12 消音室(第1消音室)
14 排気口
18 ポンプカバー(第1部材)
20 上端
22 底面
24 消音室
26 底面
28 テーパ面
30 第1底面部
32 スクリュー(締結部材)
34 第2底面部
36 スリット
38 ロータ
39 外周面
40 ベーン
44 筒状部
46 内部空間
48 上端