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特許7197339コク味付与物質含有酵母の製造方法及びコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】コク味付与物質含有酵母の製造方法及びコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/16 20060101AFI20221220BHJP
   C12P 1/02 20060101ALI20221220BHJP
   A23L 31/15 20160101ALI20221220BHJP
   C12P 13/14 20060101ALI20221220BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C12N1/16 G
C12P1/02 Z
A23L31/15
C12P13/14 A
C12P13/14 Z
C12P21/02 Z
C12N1/19
C12P21/02 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018228125
(22)【出願日】2018-12-05
(65)【公開番号】P2020089301
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】715011078
【氏名又は名称】アサヒグループ食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】井野 智和
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/005378(WO,A1)
【文献】特表2013-524817(JP,A)
【文献】特開平06-261741(JP,A)
【文献】特開2007-252279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/16
C12P 1/02
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性の酵母を、イソロイシン及びバリンを含有する培地で培養し、増殖させる酵母増殖工程と、
前記培地中のイソロイシンの含有量が0.0361質量%以下のときに、バリンを前記培地に加えて前記酵母を培養し、コク味付与物質を生成させるコク味付与物質生成工程とを含み、
前記酵母が、グルタチオンの生成能が増強されるように改変された酵母であり、
前記コク味付与物質が、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの少なくともいずれかであることを特徴とするコク味付与物質含有酵母の製造方法。
【請求項2】
前記コク味付与物質生成工程において、更にスレオニンを前記培地に加える請求項1に記載のコク味付与物質含有酵母の製造方法。
【請求項3】
前記コク味付与物質含有酵母におけるコク味付与物質の含有量が、酵母乾燥菌体重量あたり0.3%以上である請求項1から2のいずれかに記載のコク味付与物質含有酵母の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のコク味付与物質含有酵母の製造方法で得られたコク味付与物質含有酵母から酵母エキスを調製することを特徴とするコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法。
【請求項5】
前記コク味付与物質含有酵母エキスにおけるコク味付与物質の含有量が、酵母エキス乾燥重量あたり1%超である請求項4に記載のコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの少なくともいずれかを含有するコク味付与物質含有酵母の製造方法、及び前記酵母を用いるコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母菌体から調製される酵母エキスは、食品に旨味やコク味などを付与する機能を有し、調味料等のような食品添加剤などとして食品分野で幅広く使用されている。近年の天然志向の高まりから、酵母エキスの需要は増加傾向にある。
【0003】
食品にコク味を付与する成分の1つとして、グルタミン酸、システイン、及びグリシンからなるトリペプチドであるグルタチオン(以下、「GSH」と称することがある。)が知られている。
これまでに、酵母菌体中のGSH含量を高めるための技術として、DOA1遺伝子の少なくとも一部及びMET30遺伝子の少なくとも一部を欠損又は変異させた酵母変異株とする技術(例えば、特許文献1参照)、変異型MET30遺伝子を有する酵母変異株に突然変異処理をし、グルタチオン含量が高い酵母変異株を2株以上得て、得られた酵母変異株を掛け合わせることにより、GSH含量がより高い酵母変異株を得る技術(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
また、食品にコク味を付与する成分としては、γ-Glu-X、γ-Glu-X-Gly(XはCys及びその誘導体を除くアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す。)も知られている(例えば、特許文献3参照)。
これまでに、前記コク味を付与する成分含有量を高めるための技術として、Abu(L-2-アミノ酪酸)及びγ-Glu-Abu(L-γ-グルタミル-L-2アミノ酪酸)を添加した培地で酵母を培養し、得られた菌体からγ-Glu-Abuを含む酵母エキスを調製する技術(例えば、特許文献4参照)、細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変し、酵母菌体内におけるAbu、γ-Glu-Abu、γ-Glu-Abu-Glyから選択される少なくとも1種の含有量を高める技術(例えば、特許文献5参照)などが提案されている。
【0005】
上記したように、食品にコク味を付与する成分の含量を高める技術について様々な検討が行われているものの、工業的規模での生産などを考慮した場合、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの少なくともいずれかの酵母又は酵母エキスにおける含量は未だ十分とは言えず、前記含量を更に高める技術の速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-29147号公報
【文献】特開2011-160739号公報
【文献】特許第5857973号公報
【文献】特許第5954178号公報
【文献】国際公開第2015/005378号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの少なくともいずれかを高含有するコク味付与物質含有酵母の製造方法及びコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性である酵母を増殖させ、培地中のイソロイシンの含有量が0.2質量%未満のときに、前記培地にバリンを加えて酵母を培養することで、前記酵母におけるγ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの少なくともいずれかの含有量を顕著に高めることができることを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性の酵母を、イソロイシン及びバリンを含有する培地で培養し、増殖させる酵母増殖工程と、
前記培地中のイソロイシンの含有量が0.2質量%未満のときに、バリンを前記培地に加えて前記酵母を培養し、コク味付与物質を生成させるコク味付与物質生成工程とを含み、
前記コク味付与物質が、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの少なくともいずれかであることを特徴とするコク味付与物質含有酵母の製造方法である。
<2> 前記酵母が、グルタチオンの生成能が増強されるように改変された酵母である前記<1>に記載のコク味付与物質含有酵母の製造方法である。
<3> 前記コク味付与物質生成工程において、更にスレオニンを前記培地に加える前記<1>から<2>のいずれかに記載のコク味付与物質含有酵母の製造方法である。
<4> 前記コク味付与物質含有酵母におけるコク味付与物質の含有量が、酵母乾燥菌体重量あたり0.3%以上である前記<1>から<3>のいずれかに記載のコク味付与物質含有酵母の製造方法である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載のコク味付与物質含有酵母の製造方法で得られたコク味付与物質含有酵母から酵母エキスを調製することを特徴とするコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法である。
<6> 前記コク味付与物質含有酵母エキスにおけるコク味付与物質の含有量が、酵母エキス乾燥重量あたり1%超である前記<5>に記載のコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの少なくともいずれかを高含有するコク味付与物質含有酵母の製造方法及びコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、試験例1の本培養における培養上清中のイソロイシンの含有量を測定した結果を示す図である。
図1B図1Bは、試験例1の本培養における培養上清中のバリンの含有量を測定した結果を示す図である。
図1C図1Cは、試験例1の本培養における酵母乾燥菌体重量を測定した結果を示す図である。
図1D図1Dは、試験例1の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abuの量を測定した結果を示す図である。
図1E図1Eは、試験例1の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abu-Glyの量を測定した結果を示す図である。
図1F図1Fは、試験例1の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのAbuの量を測定した結果を示す図である。
図2A図2Aは、試験例2の本培養における培養上清中のイソロイシンの含有量を測定した結果を示す図である。
図2B図2Bは、試験例2の本培養における培養上清中のバリンの含有量を測定した結果を示す図である。
図2C図2Cは、試験例2の本培養における酵母乾燥菌体重量を測定した結果を示す図である。
図2D図2Dは、試験例2の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abuの量を測定した結果を示す図である。
図2E図2Eは、試験例2の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abu-Glyの量を測定した結果を示す図である。
図2F図2Fは、試験例2の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのAbuの量を測定した結果を示す図である。
図3A図3Aは、試験例3の本培養における培養上清中のイソロイシンの含有量を測定した結果を示す図である。
図3B図3Bは、試験例3の本培養における培養上清中のバリンの含有量を測定した結果を示す図である。
図3C図3Cは、試験例3の本培養における酵母乾燥菌体重量を測定した結果を示す図である。
図3D図3Dは、試験例3の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abuの量を測定した結果を示す図である。
図3E図3Eは、試験例3の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abu-Glyの量を測定した結果を示す図である。
図3F図3Fは、試験例3の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのAbuの量を測定した結果を示す図である。
図4A図4Aは、試験例5の本培養における培養上清中のイソロイシンの含有量を測定した結果を示す図-1である。
図4B図4Bは、試験例5の本培養における培養上清中のバリンの含有量を測定した結果を示す図-1である。
図4C図4Cは、試験例5の本培養における酵母乾燥菌体重量を測定した結果を示す図-1である。
図4D図4Dは、試験例5の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abuの量を測定した結果を示す図-1である。
図4E図4Eは、試験例5の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abu-Glyの量を測定した結果を示す図-1である。
図4F図4Fは、試験例5の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのAbuの量を測定した結果を示す図-1である。
図4G図4Gは、試験例5の本培養における培養上清中のイソロイシンの含有量を測定した結果を示す図-2である。
図4H図4Hは、試験例5の本培養における培養上清中のバリンの含有量を測定した結果を示す図-2である。
図4I図4Iは、試験例5の本培養における酵母乾燥菌体重量を測定した結果を示す図-2である。
図4J図4Jは、試験例5の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abuの量を測定した結果を示す図-2である。
図4K図4Kは、試験例5の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのγ-Glu-Abu-Glyの量を測定した結果を示す図-2である。
図4L図4Lは、試験例5の本培養における酵母乾燥菌体重量あたりのAbuの量を測定した結果を示す図-2である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(コク味付与物質含有酵母の製造方法)
本発明のコク味付与物質含有酵母の製造方法は、増殖工程と、コク味付与物質生成工程とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
本発明におけるコク味付与物質とは、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの少なくともいずれかをいう。なお、本発明において、Abu及びGluはL体である。
【0013】
<増殖工程>
前記増殖工程は、細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性の酵母を、イソロイシン及びバリンを含有する培地で培養し、増殖させる工程である。
【0014】
-酵母-
前記酵母は、細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性である。
【0015】
前記酵母は、出芽酵母であってもよいし、分裂酵母であってもよい。
前記出芽酵母としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス属、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)等のキャンディダ属、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)等のピヒア属、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等のハンゼヌラ属等に属する酵母などが挙げられる。
前記分裂酵母としては、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロミセス属等に属する酵母などが挙げられる。
これらの中でも、酵母エキスの生産によく用いられているサッカロミセス・セレビシエやキャンディダ・ユティリスが好ましい。
前記酵母は、1倍体でもよいし、2倍性またはそれ以上の倍数性を有するものであってもよい。
【0016】
前記細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性の酵母は、酵母菌体内におけるAbu、γ-Glu-Abu、γ-Glu-Abu-Glyから選択される少なくとも1種を高含有することが知られている(国際公開第2015/005378号参照)。
前記細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性の酵母は、改変等により作製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0017】
前記アセト乳酸シンターゼとは、ピルビン酸及びα-ケト酪酸(α-KB)からα-アセトヒドロキシ酪酸及びCOを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 2.2.1.6)。また、同活性を「アセト乳酸シンターゼ活性」ともいう。本発明において、アセト乳酸シンターゼは、2分子のピルビン酸からアセト乳酸及びCOを生成する反応を触媒する活性を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0018】
細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性となるように酵母を改変する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、国際公開第2015/005378号に記載されている方法などが挙げられる。
具体的には、例えば、アセト乳酸シンターゼの活性サブユニットをコードするILV2遺伝子を破壊することにより、細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下し、イソロイシン及びバリン要求性となる。
前記ILV2遺伝子の塩基配列情報は、公共のデータベースなどから取得することができ、例えば、サッカロミセス・セレビシエのILV2遺伝子の塩基配列は、Saccharomyces Genome Database(http://www.yeastgenome.org/)に開示されている。
前記ILV2遺伝子を破壊する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0019】
アセト乳酸シンターゼ活性が低下したことは、例えば、改変前の酵母と改変後の酵母よりそれぞれ粗酵素液を調製し、そのアセト乳酸シンターゼ活性を比較することにより、確認できる。アセト乳酸シンターゼ活性は、例えば、公知の方法(F.C. Stormer and H.E. Umbarger, Biochem. Biophys. Res. Commun., 17, 5, 587-592(1964))により測定できる。
【0020】
前記酵母は、細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性という性質以外にも、必要に応じて更にその他の性質を有していてもよい。
前記その他の性質としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、グルタチオンの生成能が増強されていることが好ましく、更にスレオニン耐性を有することがより好ましい。
【0021】
前記酵母のグルタチオンの生成能を増強する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グルタチオンの生成能が増強されるように改変された酵母と、前記細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性の酵母とを公知の方法により掛け合わせることで、細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性であり、かつ、グルタチオンの生成能が増強された酵母を選抜することができる。
【0022】
前記グルタチオンの生成能が増強されるように改変された酵母は、改変等により作製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0023】
グルタチオンの生成能が増強されるように酵母を改変する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、特開2010-29147号公報(特許第5496480号公報)に記載されているようなDOA1遺伝子の少なくとも一部及びMET30遺伝子の少なくとも一部を欠損又は変異させる方法、特開2011-160739号公報(特許第5667365号公報)に記載されているような変異型MET30遺伝子を有する酵母変異株に突然変異処理をし、グルタチオン含量が高い酵母変異株を2株以上得て、得られた酵母変異株を掛け合わせることにより、グルタチオン含量がより高い酵母変異株を得る方法などが挙げられる。
【0024】
グルタチオンの生成能が増強されたことは、例えば、改変前の酵母と改変後の酵母における総グルタチオン量をTitzeらの方法(Analytical Biochemistry, Vol.27、p502、1969)に従って測定し、その総グルタチオン量を比較することにより、確認できる。
【0025】
前記スレオニン耐性を有する酵母を取得する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、培地にスレオニンを添加し、生育した酵母を選抜する方法などが挙げられる。
【0026】
-培地-
前記増殖工程に用いる培地としては、イソロイシン及びバリンを少なくとも含み、前記酵母が増殖できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
前記増殖工程に用いる培地におけるイソロイシンの含有量としては、前記酵母が増殖することができる限り、特に制限はなく、目的とする酵母の量などに応じて適宜選択することができるが、0.01質量%~2.0質量%が好ましく、0.1質量%~1.0質量%がより好ましい。
【0028】
前記増殖工程に用いる培地におけるバリンの含有量としては、前記酵母が増殖することができる限り、特に制限はなく、目的とする酵母の量などに応じて適宜選択することができるが、0.01質量%~2.0質量%が好ましく、0.1質量%~1.0質量%がより好ましい。
【0029】
前記増殖工程に用いる培地におけるイソロイシン及びバリン以外の成分及びその量としては、特に制限はなく、酵母などの微生物の培養に利用されているものを適宜選択することができる。
例えば、炭素源としては、グルコース、蔗糖、酢酸、エタノール、糖蜜、亜硫酸パルプ廃液などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩、コーンスティプリカー、カゼイン、酵母エキス、ペプトン等の含窒素有機物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、過リン酸石灰、リン安等のリン酸成分、塩化カリウム、水酸化カリウム等のカリウム成分、硫酸マグネシウム、塩酸マグネシウム等のマグネシウム成分、亜鉛、銅、マンガン、鉄イオン等の無機塩、ビタミンなどを培地に添加してもよい。
【0030】
-培養-
前記増殖工程における前記酵母の培養形式としては、特に制限はなく、一般的な酵母の培養形式を適宜選択することができ、例えば、回分培養、流加培養、連続培養などが挙げられる。これらの中でも、工業的規模で生産する観点からは、流加培養、連続培養が好ましい。
【0031】
前記増殖工程における前記酵母の培養条件としては、特に制限はなく、一般的な酵母の培養条件を適宜選択することができる。
例えば、温度としては、20℃~40℃が好ましく、25℃~35℃がより好ましい。
pHとしては、3.5~7.5が好ましく、4.0~6.9がより好ましい。
また、前記培養は、好気的条件で行うことが好ましく、通気又は撹拌を行いながら培養することがより好ましい。前記通気の量と撹拌の条件としては、特に制限はなく、培養の容量や時間、菌の初発濃度などを考慮して適宜選択することができ、例えば、通気は、0.2V.V.M.(Volume per volume per minutes)~2V.V.M程度、撹拌は、50rpm~900rpm程度で行うことができる。
培養時間としては、特に制限はなく、目的とする酵母の量に応じて適宜選択することができる。
【0032】
前記増殖工程後の培養物中の酵母の量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酵母乾燥菌体重量として、0.5%~6%程度などが挙げられる。
前記酵母乾燥菌体重量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0033】
<コク味付与物質生成工程>
前記コク味付与物質生成工程は、前記培地中のイソロイシンの含有量が0.2質量%未満のときに、バリンを前記培地に加えて前記酵母を培養し、コク味付与物質を生成させる工程である。
【0034】
-バリンを加えるときの培地中のイソロイシンの量-
前記コク味付与物質生成工程においてバリンを培地に加えるときの培地中のイソロイシンの含有量としては、0.2質量%未満であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が特に好ましい。
前記培地中のイソロイシンの量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、後述する実施例の項目に記載の方法などが挙げられる。
【0035】
-バリンを加えるときの培地中のバリンの量-
前記コク味付与物質生成工程においてバリンを培地に加えるときの培地中のバリンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が特に好ましい。
前記培地中のバリンの量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、後述する実施例の項目に記載の方法などが挙げられる。
【0036】
-培地に加えるバリンの量-
前記コク味付与物質生成工程において培地に加えるバリンの量としては、前記コク味付与物質を生成することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1回あたりの量(質量)として、酵母乾燥菌体重量あたり、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2.5%以上が特に好ましい。前記好ましい範囲内であると、前記コク味付与物質の生成量をより多くすることができる点で、有利である。
前記培地に加えるバリンの量の上限値としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1回あたりの量として、酵母乾燥菌体重量あたり5%などが挙げられる。
【0037】
前記コク味付与物質生成工程において培地にバリンを加える回数としては、1回であってもよいし、2回以上であってもよい。
【0038】
-培地に加えるスレオニンの量-
前記コク味付与物質生成工程では、更にスレオニンを培地に加えることが好ましい。
前記スレオニンは、前記バリンと同時期に培地に加えてもよいし、異なる時期に加えてもよいが、前記コク味付与物質の生成量をより多くすることができる点で、バリンと同時期に加えることが好ましい。
前記コク味付与物質生成工程において培地に加えるスレオニンの量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1回あたりの量(質量)として、酵母乾燥菌体重量あたり、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2.5%以上が特に好ましい。前記好ましい範囲内であると、前記コク味付与物質の生成量をより多くすることができる点で、有利である。
前記培地に加えるスレオニンの量の上限値としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1回あたりの量として、酵母乾燥菌体重量あたり10%などが挙げられる。
【0039】
前記コク味付与物質生成工程において培地にスレオニンを加える回数としては、1回であってもよいし、2回以上であってもよい。
【0040】
-培地-
前記コク味付与物質生成工程に用いる培地としては、上記したイソロイシン及びバリン、並びに必要に応じてスレオニンの量以外は、前記増殖工程に用いる培地と同様のものを用いることができる。
【0041】
-培養-
前記コク味付与物質生成工程における前記酵母の培養形式、培養条件としては、特に制限はなく、一般的な酵母の培養形式を適宜選択することができ、例えば、前記増殖工程と同様とすることができる。
【0042】
-コク味付与物質-
前記コク味付与物質生成工程で得られる酵母における前記コク味付与物質の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの合計量(質量)として、酵母乾燥菌体重量あたり、0.3%以上が好ましく、0.6%以上がより好ましく、1.0%以上が更に好ましく、1.3%以上が特に好ましい。
前記コク味付与物質生成工程で得られる酵母における前記コク味付与物質の含有量の上限値としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの合計量(質量)として、酵母乾燥菌体重量あたり5%などが挙げられる。
【0043】
前記γ-Glu-Abuと、前記γ-Glu-Abu-Glyとの含有量の比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
前記酵母中におけるコク味付与物質の量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、後述する実施例の項目に記載の方法などが挙げられる。
【0045】
なお、前記酵母は、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Gly以外のコク味の付与に寄与する成分を含んでいてもよい。
【0046】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記増殖工程に用いる酵母を調製する前培養工程などが挙げられる。
【0047】
前記前培養工程における前記酵母の培養方法、培養条件、及び培地としては、特に制限はなく、酵母などの微生物の培養に一般的に利用されている培養方法、培養条件、及び培地を目的に応じて適宜選択することができる。
【0048】
前記コク味付与物質生成工程で得られる酵母の培養物は、乾燥処理し、前記コク味付与物質の含有量が高い酵母乾燥菌体としてもよい。
前記乾燥処理の方法としては、特に制限はなく、酵母乾燥菌体を調製する際に通常行われている方法を適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライ法などが挙げられる。
また、得られた酵母乾燥菌体は、粉末状に加工してもよい。
【0049】
本発明のコク味付与物質含有酵母の製造方法によれば、前記コク味付与物質を高含有する酵母を製造することができ、工業的規模での生産にも適用可能である。
【0050】
(コク味付与物質含有酵母エキスの製造方法)
本発明のコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法は、上記した本発明のコク味付与物質含有酵母の製造方法で得られたコク味付与物質含有酵母から酵母エキスを調製する。
【0051】
前記酵母エキスを調製する方法としては、特に制限はなく、一般的な酵母エキスの調製方法を適宜選択することができ、例えば、酵母菌体内に本来あるタンパク質分解酵素等を利用して菌体を可溶化する自己消化法、微生物や植物由来の酵素製剤を添加して酵母を可溶化する酵素分解法、熱水中に一定時間浸漬することにより菌体を可溶化する熱水抽出法、種々の酸又はアルカリを添加して菌体を可溶化する酸・アルカリ分解法、凍結と融解を1回以上行うことにより菌体を破砕する凍結融解法、物理的な刺激により菌体を破砕する物理的破砕法などが挙げられる。
前記物理的刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、超音波処理、高圧下におけるホモジェナイズ、グラスビーズ等の固形物との混合による磨砕などが挙げられる。
【0052】
-コク味付与物質-
前記酵母エキスにおける前記コク味付与物質の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの合計量(質量)として、酵母エキス乾燥重量あたり、1%超が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上が特に好ましい。
前記酵母エキスにおける前記コク味付与物質の含有量の上限値としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの合計量(質量)として、酵母エキス乾燥重量あたり17%などが挙げられる。
【0053】
前記γ-Glu-Abuと、前記γ-Glu-Abu-Glyとの含有量の比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0054】
前記酵母エキス中におけるコク味付与物質の量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、上記した酵母中におけるコク味付与物質の量の測定方法と同様にして測定する方法などが挙げられる。
【0055】
なお、前記酵母エキスは、γ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Gly以外のコク味の付与に寄与する成分を含んでいてもよい。
【0056】
本発明のコク味付与物質含有酵母エキスの製造方法によれば、前記コク味付与物質を高含有する酵母エキスを製造することでき、工業的規模での生産にも適用可能である。
【0057】
本発明の製造方法により得られたコク味付与物質含有酵母及びコク味付与物質含有酵母エキスの用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種飲食品やサプリメントなどに用いることができる。
【実施例
【0058】
以下に調製例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの調製例及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0059】
(調製例1:酵母の調製)
以下のようにして、細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性であり、グルタチオンの生成能が増強され、スレオニン耐性を有する酵母株を調製した。
【0060】
<親株(1倍体:a型)>
細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性である株として、ILV2変異株であるNCYC868株(a型)(National Collection of Yeast Culturesより入手)を用いた。
【0061】
<親株(1倍体:α型)>
グルタチオンの生成能が増強されるように改変された株として、特開2011-160739号公報(特許第5667365号公報)に記載のサッカロマイセス・セレビシエABYC1588株(受託番号FERM BP-10924、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1)に寄託された株であり、受託日は2007年10月19日である。)を用い、常法により、1倍体(α型)を入手した。
【0062】
<選抜-1>
前記1倍体(a型)と、前記1倍体(α型)とを常法により接合し、以下のようにして培養した。
-前培養-
5mLのYPD培地に1白金耳のコロニーを植菌し、30℃で一晩培養したものを前培養液とした。
【0063】
-本培養-
下記組成の糖蜜尿素培地を200mLバッフル付き三角フラスコに準備し、前記前培養液を全量接種し、30℃、撹拌数200rpmで48時間培養した。
--糖蜜尿素培地--
・ 糖蜜(全糖換算) ・・・ 8.0質量%
・ 尿素 ・・・ 0.3質量%
・ 硫酸アンモニウム ・・・ 0.08質量%
・ リン酸水素2アンモニウム ・・・ 0.04質量%
・ YNB w/o AA AS(Difco社製) ・・・ 0.17質量%
・ アデニン硫酸塩 ・・・ 0.005質量%
・ L-リシン ・・・ 0.01質量%
・ L-チロシン ・・・ 0.01質量%
・ L-イソロイシン ・・・ 0.02質量%
・ L-バリン ・・・ 0.02質量%
・ グリシン ・・・ 0.1質量%
【0064】
前記本培養後の酵母乾燥菌体重量(以下、「DCW」と称することがある。)を常法により測定した。また、Titzeらの方法(Analytical Biochemistry, Vol.27、p502、1969)に従って、前記本培養後の酵母中の総グルタチオン量(以下、「GSH含量」と称することがある。)を測定した。
前記測定したDCWとGSH含量とを指標として、優れた2倍体株を複数選抜した。
【0065】
<選抜-2>
前記<選抜-1>で選抜した2倍体株に対し、Tetrad分離を行った。分離した菌を以下の培地に塗布し、(iv)イソロイシン及びバリンを含有するSD培地のみで生育した株(イソロイシン及びバリン同時要求性株)を単離した。
-培地-
(i) SD培地
(ii) イソロイシン0.01質量%を含有するSD培地
(iii) バリン0.01質量%を含有するSD培地
(iv) イソロイシン0.01質量%及びバリン0.01質量%を含有するSD培地
【0066】
前記単離した株について、前記<選抜-1>に記載の培養と同様にして、前培養及び本培養を行った。
【0067】
前記培養後の酵母乾燥菌体重量を常法により測定した。また、前記培養後の酵母中のコク味付与物質であるγ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyと、その前駆体であるAbuの含有量を以下のようにして測定した。
【0068】
-コク味付与物質等の測定-
ペプチドを6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC)を用いて蛍光誘導体化し、LC-MS/MSにより検出することより行った。
具体的には、適当な濃度に希釈したサンプル2.5μL又は、1μMのAbu、γ-Glu-Abu、及びγ-Glu-Abu-Glyを含む標準液2.5μLに、MillQ水2.5μL、5μM内部標準物質溶液(3-methyl-His-d2(シグマ社)、Gly-d2(シグマ社)。いずれも安定同位体で標識されている。)5μL、硼酸緩衝液(日本ウォーターズ社製AccQ-Fluor(登録商標)試薬キット付属品)30μLを添加した。
前記混合物に、AQC試薬溶液(上記試薬キットの試薬粉末をアセトニトリル1mL中に溶解することにより調製)10μLを添加した。得られた混合物を10分間、55℃で加熱後、0.1%のギ酸水溶液100μLを加え、分析サンプルとした。
【0069】
次に前述のように調製した分析サンプルを、下記逆相の液体クロマトグラフィーで分離後に、質量分析装置に導入した。分離条件は下記の通りとした。
--分離条件--
(1) HPLC : Agilent 1200シリーズ
(2) 分離カラム : Unison UK-Phenyl(内径2.0mm、長さ100mm、粒子径3μm(Imtakt社製))
(3) カラム温度 : 40℃
(4) 移動相A : 25mMギ酸水溶液をアンモニア水でpH6.0に調整した水溶液
(5) 移動相B : メタノール
(6) 流速 : 0.25mL/分間
(7) 溶出条件 : 溶出は、移動相A及び移動相Bの混合液を用いて行った。混合液に対する移動相Bの比率は以下の通り。0分(5%)、0分~17分(5%~40%)、17分~17.1分(40%~80%)、17.1分~19分(80%)、19分~19.1分(80%~5%)、19.1分~27分(5%)。
【0070】
その後、前述の分離条件によって溶出されたAbu、γ-Glu-Abu、及びγ-Glu-Abu-Glyの誘導体化物を質量分析計に導入してマスクロマトグラムにより定量を行った。分析条件は下記の通りとした。
--分析条件--
(1) 質量分析装置 : AB Sciex API3200 QTRAP
(2) 検出モード : Selected Ion Monitoring(ポジティブイオンモード)
(3) 選択イオン : 下記表1参照
【0071】
【表1】
【0072】
Abu、γ-Glu-Abu、及びγ-Glu-Abu-Glyの誘導体化物の定量は、解析ソフトAnalyst ver 1.4.2(AB Sciex)を用いて行った。定量を行うための内部標準物質として、Abuの誘導体化物の場合は3-methyl-His-d2の誘導体化物を、γ-Glu-Abu又はγ-Glu-Abu-Glyの誘導体化物の場合はGly-d2の誘導体化物を、各々用いた。
なお、γ-Glu-Abuの定量の際に、極まれにサンプルによって夾雑ピークが見られた場合は、第2のマスアナライザーでの選択イオンを、145.2、或いは、104.1を用いて定量した。
【0073】
前記測定したコク味付与物質の含有量と酵母乾燥菌体重量とを指標として、優れた1倍体株を選抜した。
【0074】
<2倍体の取得>
前記<選抜-2>で得られた1倍体の株をa型とα型とに選別し、常法により交配を実施し、2倍体株を複数取得した。
【0075】
<選抜-3>
前記<2倍体の取得>で得られた株をフラスコ又はジャーを用い、以下のようにして流加培養を実施した。
-培養(フラスコ)-
前記<選抜-1>に記載の培養と同様にして、前培養及び本培養を行った。
【0076】
-培養(ジャー)-
--前培養--
下記組成の培地を容量3,000mLで2本作製した(丸菱バイオエンジジャーファーメンタ)。前記培地は、混合後、121℃で15分間、オートクレーブ滅菌した。
[培地]
・ 糖蜜(全糖換算) ・・・ 8.0質量%
・ 尿素 ・・・ 0.3質量%
・ 硫酸アンモニウム ・・・ 0.08質量%
・ リン酸水素2アンモニウム ・・・ 0.04質量%
・ アデニン硫酸塩 ・・・ 0.005質量%
・ L-リシン ・・・ 0.01質量%
・ L-チロシン ・・・ 0.01質量%
・ L-イソロイシン ・・・ 0.02質量%
・ L-バリン ・・・ 0.02質量%
・ グリシン ・・・ 0.1質量%
【0077】
前記組成の前培養用培地に、YPD平板培地で生育させた前記<2倍体の取得>で得られた株を1白金耳植菌し、以下の培養条件で培養した。
培養終了後、遠心分離(3,000g×5分間)で菌体を全量回収し、等量の滅菌水で菌体を洗浄した。その後、再度遠心分離を行って菌体を回収し、滅菌水で懸濁し、固形分濃度が10質量%~20質量%になるように調整し、これを前培養菌体液とした。
[培養条件]
・ 培養温度 : 30℃
・ 振とう : 400rpm
・ 培養時間 : 24時間
・ 通気量 : 3L/分間(1V.V.M.)
【0078】
--本培養--
下記組成の培地を用い、下記培養条件で、流加培養により、前記株を培養した。
[培地]
・ 前培養菌体液 ・・・ 150mL
・ 水 ・・・ 2,000mL
・ 硫酸アンモニウム(97%) ・・・ 1.33mL
・ 糖蜜(糖度36%) ・・・ 6.7mL
・ リン酸水素2アンモニウム ・・・ 0.06質量%
・ L-イソロイシン ・・・ 0.4質量%
・ L-バリン ・・・ 0.35質量%
[培養条件]
・ 培養温度 : 30℃
・ 培養条件 : 18時間
・ pH : 下限5.5、上限6.7となるように、25%苛性ソーダ又は47%硫酸で制御。
・ 撹拌 : 600rpm~800rpm
・ 流加培地 : 糖蜜(糖度36%) 870mL~1,000mL
アンモニア水(10%) 100mL~200mL
リン酸(85%) 5g~20g
【0079】
前記本培養後の酵母乾燥菌体重量を常法により測定した。また、前記本培養後の酵母中のコク味付与物質の含有量を、前記<選抜-2>の項目中に記載した方法と同様にして測定した。
前記測定したコク味付与物質の含有量と酵母乾燥菌体重量とを指標として、優れた2倍体株(以下、「K16株」と称することがある。)を選抜した。
前記K16株は、細胞内のアセト乳酸シンターゼ活性が低下するように改変され、イソロイシン及びバリン要求性であり、グルタチオンの生成能が増強された株である。
【0080】
<選抜-4>
YPD培地にスレオニンを2質量%添加した培地に、前記<選抜-3>で得られたK16株を塗布し、30℃で培養し、生育したコロニーを2つ(以下、「K16-1株」、「K16-2株」と称することがある。)取得した。
前記各コロニーについて、前記<選抜-1>に記載の培養と同様にして、前培養及び本培養を行った。
【0081】
前記本培養後の酵母乾燥菌体重量を常法により測定した。また、前記本培養後の酵母中のコク味付与物質等の含有量を、前記<選抜-2>の項目中に記載した方法と同様にして測定した。
その結果、酵母乾燥菌体重量あたりのコク味付与物質の含有量は、γ-Glu-Abuについては、K16-1株では0.43%、K16-2株では0.52%であり、γ-Glu-Abu-Glyについては、K16-1株では0.46%、K16-2株では0.70%であった。なお、酵母乾燥菌体重量あたりのAbuの含有量は、K16-1株及びK16-2株共に、0.53%であった。
【0082】
なお、前記<選抜-3>で得られたK16株についても同様にして培養し、酵母乾燥菌体重量及びコク味付与物質等の含有量を測定したところ、酵母乾燥菌体重量あたりのコク味付与物質の含有量は、γ-Glu-Abuは0.08%、γ-Glu-Abu-Glyは0.10%であった。また、酵母乾燥菌体重量あたりのAbuの含有量は、0.06%であった。
【0083】
以上の結果から、酵母にスレオニン耐性を付与することで、コク味付与物質の含有量が高まり、また、コク味付与物質前駆体の含有量も高まることがわかった。
【0084】
(試験例1)
前記調製例1で得られたK16-2株を用い、下記<試験例1-1>及び<試験例1-2>の項目に記載の条件で培養を行った以外は、前記調製例1の<選抜-3>におけるジャーを用いた場合と同様にして、前培養及び本培養を行った。
【0085】
<試験例1-1>
前記本培養において、開始から7時間後に、バリンを培地に1,000ppm添加(酵母乾燥菌体重量あたり2.9%)し、本培養を続けた。
なお、前記バリン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、118ppm(0.0118質量%)であり、バリンの含有量は、363ppm(0.0363質量%)であった。また、前記バリン添加直前の培地中の酵母の量は、酵母乾燥菌体重量で3.45%であった。
【0086】
<試験例1-2>
前記本培養において、開始から6時間後に、イソロイシンを培地に2,000ppm添加し、また、7時間後に、バリンを培地に1,000ppm添加(酵母乾燥菌体重量あたり2.9%)し、本培養を続けた。
なお、前記バリン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、1,973ppm(0.1973質量%)であり、バリンの含有量は、899ppm(0.0899質量%)であった。また、前記バリン添加直前の培地中の酵母の量は、酵母乾燥菌体重量で3.36%であった。
【0087】
<測定>
-培養上清中のイソロイシン及びバリンの含有量の測定-
前記本培養開始時、4時間後、6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、12時間後、14時間後、及び16時間後の培養上清中のイソロイシン及びバリンの含有量を以下のようにして、測定した。
結果を図1A(イソロイシン)、図1B(バリン)に示す。なお、図1A~1B中、「●、実線」は試験例1-1、「□、点線」は試験例1-2の結果を示す。
--イソロイシン及びバリンの含有量の測定--
バリン及びイソロイシンの含有量は、ウオーターズ社(米国)製「Acquity UPLC」分析装置を用いて、アキュタグウルトラ(AccQ-Tag Ultra)ラベル化法により測定した。
【0088】
-酵母乾燥菌体重量の測定-
前記本培養開始時、2時間後、4時間後、6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、13時間後、14時間後、16時間後、及び18時間後の酵母乾燥菌体重量(以下、「DCW」と称することがある。)を常法により測定した。
結果を図1Cに示す。なお、図1C中、「●、実線」は試験例1-1、「□、点線」は試験例1-2の結果を示す。
【0089】
-コク味付与物質等の測定-
前記本培養開始6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、13時間後、14時間後、及び16時間後に酵母を回収し、コク味付与物質であるγ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyと、その前駆体であるAbuの酵母中の含有量(酵母乾燥菌体重量あたりの量)を、前記(調製例1)の<選抜-2>の項目中に記載した方法と同様にして測定した。
結果を図1D(γ-Glu-Abu)、図1E(γ-Glu-Abu-Gly)、及び図1F(Abu)に示す。なお、図1D~1F中、「●、実線」は試験例1-1、「□、点線」は試験例1-2の結果を示す。
【0090】
図1A~1Fに示したように、前記本培養において、培養上清中のイソロイシンの含有量が0.2質量%未満のときにバリンを添加して酵母を培養した試験例1-1では、コク味付与物質であるγ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyが生成され、また、コク味付与物質の前駆体であるAbuの生成も認められた。一方、培養上清中のイソロイシンの含有量が0.2質量%のときにバリンを添加して酵母を培養した試験例1-1では、コク味付与物質及びその前駆体の生成が非常に少なかった。
したがって、本発明の方法により、コク味付与物質の生成量を顕著に高めることができることが確認された。
【0091】
(試験例2)
前記調製例1で得られたK16-2株を用い、下記<試験例2-1>~<試験例2-3>の項目に記載の条件で培養を行った以外は、前記調製例1の<選抜-3>におけるジャーを用いた場合と同様にして、前培養及び本培養を行った。
【0092】
<試験例2-1>
前記本培養において、開始から6時間後に、バリンを培地に1,000ppm添加(酵母乾燥菌体重量あたり3.3%)し、本培養を続けた。
なお、前記バリン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、361ppm(0.0361質量%)であり、バリンの含有量は、911ppm(0.0911質量%)であった。また、前記バリン添加直前の培地中の酵母の量は、酵母乾燥菌体重量で2.98%であった。
【0093】
<試験例2-2>
前記本培養において、開始から7時間後に、バリンを培地に1,000ppm添加(酵母乾燥菌体重量あたり2.9%)し、本培養を続けた。
なお、前記バリン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、118ppm(0.0118質量%)であり、バリンの含有量は、363ppm(0.0363質量%)であった。また、前記バリン添加直前の培地中の酵母の量は、酵母乾燥菌体重量で3.45%であった。
【0094】
<試験例2-3>
前記本培養において、開始から8時間後に、バリンを培地に1,000ppm添加(酵母乾燥菌体重量あたり2.5%)し、本培養を続けた。
なお、前記バリン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、14.9ppm(0.00149質量%)であり、バリンの含有量は、18.6ppm(0.00186質量%)であった。また、前記バリン添加直前の培地中の酵母の量は、酵母乾燥菌体重量で4.01%であった。
【0095】
<測定>
-培養上清中のイソロイシン及びバリンの含有量の測定-
前記本培養開始時、4時間後、6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、12時間後、14時間後、及び16時間後の培養上清中のイソロイシン及びバリンの含有量を前記試験例1と同様にして測定した。
結果を図2A(イソロイシン)、図2B(バリン)に示す。なお、図2A~2B中、「△、実線」は試験例2-1、「●、実線」は試験例2-2、「◇、実線」は試験例2-3の結果を示す。
【0096】
-酵母乾燥菌体重量の測定-
前記本培養開始時、2時間後、4時間後、6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、13時間後、14時間後、16時間後、及び18時間後の酵母乾燥菌体重量を前記試験例1と同様にして測定した。
結果を図2Cに示す。なお、図2C中、「△、実線」は試験例2-1、「●、実線」は試験例2-2、「◇、実線」は試験例2-3の結果を示す。
【0097】
-コク味付与物質等の測定-
前記本培養開始6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、13時間後、14時間後、及び16時間後に酵母を回収し、コク味付与物質であるγ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyと、その前駆体であるAbuの酵母中の含有量(酵母乾燥菌体重量あたりの量)を、前記(調製例1)の<選抜-2>の項目中に記載した方法と同様にして測定した。
結果を図2D(γ-Glu-Abu)、図2E(γ-Glu-Abu-Gly)、及び図2F(Abu)に示す。なお、図2D~2F中、「△、実線」は試験例2-1、「●、実線」は試験例2-2、「◇、実線」は試験例2-3の結果を示す。
【0098】
図2A~2Fに示したように、前記本培養においてバリンを添加するときの培養上清中のイソロイシン及びバリンの含有量が少ないほど、より多くのコク味付与物質及びその前駆体が生成されていた。
【0099】
(試験例3)
前記調製例1で得られたK16-2株を用い、下記<試験例3-1>及び<試験例3-2>の項目に記載の条件で培養を行った以外は、前記調製例1の<選抜-3>におけるジャーを用いた場合と同様にして、前培養及び本培養を行った。
【0100】
<試験例3-1>
前記本培養において、開始から8時間後に、バリンを培地に1,000ppm添加(酵母乾燥菌体重量あたり2.5%)し、本培養を続けた。
なお、前記バリン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、14.9ppm(0.00149質量%)であり、バリンの含有量は、18.6ppm(0.00186質量%)であった。また、前記バリン添加直前の培地中の酵母の量は、酵母乾燥菌体重量で4.01%であった。
【0101】
<試験例3-2>
前記本培養において、開始から8時間後に、バリン1,000ppm(酵母乾燥菌体重量あたり2.6%)、及びスレオニン2,000ppm(酵母乾燥菌体重量あたり5.2%)を培地に添加し、本培養を続けた。
なお、前記バリン及びスレオニン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、14.5ppm(0.00145質量%)であり、バリンの含有量は、18.3ppm(0.00183質量%)であった。また、前記バリン添加直前の培地中の酵母の量は、酵母乾燥菌体重量で3.86%であった。
【0102】
<測定>
-培養上清中のイソロイシン及びバリンの含有量の測定-
前記本培養開始時、4時間後、6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、12時間後、14時間後、及び16時間後の培養上清中のイソロイシン及びバリンの含有量を前記試験例1と同様にして測定した。
結果を図3A(イソロイシン)、図3B(バリン)に示す。なお、図3A~3B中、「◇、実線」は試験例3-1、「●、一点鎖線」は試験例3-2の結果を示す。
【0103】
-酵母乾燥菌体重量の測定-
前記本培養開始時、2時間後、4時間後、6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、13時間後、14時間後、16時間後、及び18時間後の酵母乾燥菌体重量を前記試験例1と同様にして測定した。
結果を図3Cに示す。なお、図3C中、「◇、実線」は試験例3-1、「●、一点鎖線」は試験例3-2の結果を示す。
【0104】
-コク味付与物質等の測定-
前記本培養開始6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、13時間後、14時間後、及び16時間後に酵母を回収し、コク味付与物質であるγ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyと、その前駆体であるAbuの酵母中の含有量(酵母乾燥菌体重量あたりの量)を、前記(調製例1)の<選抜-2>の項目中に記載した方法と同様にして測定した。
結果を図3D(γ-Glu-Abu)、図3E(γ-Glu-Abu-Gly)、及び図3F(Abu)に示す。なお、図3D~3F中、「◇、実線」は試験例3-1、「●、一点鎖線」は試験例3-2の結果を示す。
【0105】
図3A~3Fに示したように、前記本培養においてバリンを添加するときにスレオニンも加えることで、より多くのコク味付与物質及びその前駆体が生成されていた。
【0106】
(試験例4)
前記試験例3-2の培養条件における本培養の培養時間をバリン及びスレオニンを添加した後、12時間に変更した以外は同様にして培養した後の培養物(即ち、本培養開始20時間後の培養物)を用い、以下のようにして酵母エキスを調製した。
まず、前記培養物を遠心分離処理することにより、培養物に含有されていた酵母を沈殿として回収し、蒸留水で洗浄した。その後、菌体濃度が10重量%~15重量%となるように適量の蒸留水を加えて酵母懸濁液を作製した。前記酵母懸濁液を85℃で70秒間加熱した後に急速冷却し、遠心分離することにより、エキス分を回収した。回収したエキス分を乾燥させて、酵母エキスとした。
【0107】
<<測定>>
-コク味付与物質の測定-
前記酵母エキス中におけるコク味付与物質であるγ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyの含有量(酵母エキス乾燥重量あたりの量)を、前記(調製例1)の<選抜-2>の項目中に記載した方法と同様にして測定した。その結果、γ-Glu-Abuの酵母エキス乾燥重量あたりの含有量は9.40%であり、γ-Glu-Abu-Glyの酵母エキス乾燥重量あたりの含有量は1.13%であった。したがって、本発明の方法により、酵母エキス乾燥重量あたりのコク味付与物質の含有量が10%を超える酵母エキスを製造することができることが確認された。
【0108】
(試験例5)
前記調製例1で得られたK16-2株を用い、下記<試験例5-1>~<試験例5-5>の項目に記載の条件で培養を行った以外は、前記調製例1の<選抜-3>におけるジャーを用いた場合と同様にして、前培養及び本培養を行った。
【0109】
<試験例5-1>
前記本培養において、バリン及びスレオニンの添加を行わずに、本培養を続けた(対照)。
【0110】
<試験例5-2>
前記本培養において、開始から7.5時間後に、バリン500ppm(酵母乾燥菌体重量あたり1.5%)を培地に添加し、本培養を続けた。
なお、前記バリン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、12.3ppm(0.00123質量%)であり、バリンの含有量は、16.0ppm(0.00160質量%)であった。
【0111】
<試験例5-3>
前記本培養において、開始から7.5時間後に、バリン1,000ppm(酵母乾燥菌体重量あたり3.0%)を培地に添加し、本培養を続けた。
なお、前記バリン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、0ppmであり、バリンの含有量は、0ppmであった。
【0112】
<試験例5-4>
前記本培養において、開始から7.5時間後に、バリン1,500ppm(酵母乾燥菌体重量あたり4.5%)を培地に添加し、本培養を続けた。
なお、前記バリン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、0ppmであり、バリンの含有量は、0ppmであった。
【0113】
<試験例5-5>
前記本培養において、開始から7.5時間後に、バリン1,000ppm(酵母乾燥菌体重量あたり3.0%)、及びスレオニン1,000ppm(酵母乾燥菌体重量あたり3.0%)を培地に添加し、本培養を続けた。
なお、前記バリン及びスレオニン添加直前の培養上清中のイソロイシンの含有量は、0ppmであり、バリンの含有量は、7.5ppm(0.00075質量%)であった。
【0114】
<測定>
-培養上清中のイソロイシン及びバリンの含有量の測定-
前記本培養開始時、2時間後、4時間後、6時間後、7.5時間後、8時間後、9時間後、10時間後、12時間後、及び14時間後の培養上清中のイソロイシン及びバリンの含有量を前記試験例1と同様にして測定した。
結果を図4A及び図4G(イソロイシン)、図4B及び図4H(バリン)に示す。なお、図4A、4B、4G、4H中、「△、点線」は試験例5-1、「○、実線」は試験例5-2、「■、一点鎖線」は試験例5-3、「□、実線」は試験例5-4、「◇、一点鎖線」は試験例5-5の結果を示す。
【0115】
-酵母乾燥菌体重量の測定-
前記本培養開始時、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、及び14時間後の酵母乾燥菌体重量を前記試験例1と同様にして測定した。
結果を図4C及び図4Iに示す。なお、を図4C及び図4I中、「△、点線」は試験例5-1、「○、実線」は試験例5-2、「■、一点鎖線」は試験例5-3、「□、実線」は試験例5-4、「◇、一点鎖線」は試験例5-5の結果を示す。
【0116】
-コク味付与物質等の測定-
前記本培養開始8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、及び14時間後に酵母を回収し、コク味付与物質であるγ-Glu-Abu及びγ-Glu-Abu-Glyと、その前駆体であるAbuの酵母中の含有量(酵母乾燥菌体重量あたりの量)を、前記(調製例1)の<選抜-2>の項目中に記載した方法と同様にして測定した。
結果を図4D及び図4J(γ-Glu-Abu)、図4E及び図4K(γ-Glu-Abu-Gly)、並びに図4F及び図4L(Abu)に示す。なお、図4D、4E、4F、4J、4K、4L中、「△、点線」は試験例5-1、「○、実線」は試験例5-2、「■、一点鎖線」は試験例5-3、「□、実線」は試験例5-4、「◇、一点鎖線」は試験例5-5の結果を示す。
【0117】
図4A~4Lに示したように、前記本培養において添加するバリンの量を増やすことで、より多くのコク味付与物質及びその前駆体が生成されていた。また、バリンを添加する際にスレオニンも加えることで、より多くのコク味付与物質及びその前駆体が生成されることが本試験例でも確認された。

図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図4I
図4J
図4K
図4L