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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】診断装置及び内燃機関の排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20221220BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20221220BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20221220BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F01N3/08 A
F01N3/08 B
F01N3/24 C
B01D53/94 222
B01D53/94 280
B01D53/94 245
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018247017
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020106002
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田辺 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 寿子
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 康彰
(72)【発明者】
【氏名】久柴 尚裕
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-105146(JP,A)
【文献】特開2016-79852(JP,A)
【文献】特開2011-220126(JP,A)
【文献】特開2006-125323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/08
F01N 3/24
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に上流側から順にNO吸蔵触媒とNO選択還元触媒とを備えた排気浄化装置における前記NO選択還元触媒の異常を診断する診断装置において、
前記NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路内のNO濃度の推定値である下流側NO濃度推定値を算出する下流側NO濃度推定部と、
前記NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNO濃度センサのセンサ値を取得するセンサ値検出部と、
前記NO 吸蔵触媒よりも下流側、かつ、前記NO 選択還元触媒よりも上流側の排気通路内のアンモニア濃度の推定値である上流側アンモニア濃度推定値を求める上流側アンモニア濃度推定部と、
前記上流側アンモニア濃度推定値、前記下流側NO濃度推定値及び前記センサ値に基づいて前記NO選択還元触媒の欠落又は劣化を判定する判定部と、
を備える、診断装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記上流側アンモニア濃度推定値の積算値、前記下流側NO濃度推定値の積算値及び前記センサ値の積算値を用いて、前記NO選択還元触媒の欠落及び劣化を判定する、請求項に記載の診断装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記NO吸蔵触媒からアンモニアが流出する期間における前記上流側アンモニア濃度推定値、前記下流側NO濃度推定値及び前記センサ値を用いて前記NO選択還元触媒の欠落及び劣化を判定する、請求項1又は2に記載の診断装置。
【請求項4】
内燃機関の排気通路に備えられたNO吸蔵触媒と、
前記NO吸蔵触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNO選択還元触媒と、
前記NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNO濃度センサと、
前記NO選択還元触媒の異常を診断する診断装置と、を備えた内燃機関の排気浄化装置において、
前記診断装置は、
前記NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路内のNO濃度の推定値である下流側NO濃度推定値を算出する下流側NO濃度推定部と、
前記NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNO濃度センサのセンサ値を取得するセンサ値検出部と、
前記NO 吸蔵触媒よりも下流側、かつ、前記NO 選択還元触媒よりも上流側の排気通路内のアンモニア濃度の推定値である上流側アンモニア濃度推定値を求める上流側アンモニア濃度推定部と、
前記上流側アンモニア濃度推定値、前記下流側NO濃度推定値及び前記センサ値に基づいて前記NO選択還元触媒の欠落又は劣化を判定する判定部と、
を備える、内燃機関の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置及び内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関の排気中に含まれる窒素酸化物(NOX)を還元して排気を浄化する部材として、NOX吸蔵触媒及びNOX選択還元触媒が知られている。NOX吸蔵触媒は、内燃機関で燃焼される混合気が理論空燃比(ストイキ)に対して燃料希薄(リーン)状態のときに排気中のNOXを吸蔵し、混合気がストイキ状態又は燃料過濃(リッチ)状態のときにNOXを放出して、排気中の未燃炭化水素(HC:Hydrocarbon)と反応させることにより、NOXを窒素(N2)に還元する。NOX選択還元触媒は、NOXの還元成分としてのアンモニア(NH3)を吸着する機能を有し、流入する排気中のNOXをNH3と反応させることにより、NOXをN2に還元する。
【0003】
例えば、特許文献1には、内燃機関の排気を浄化する排気浄化装置の一態様として、NOX吸蔵触媒及びNOX選択還元触媒をともに備えた排気浄化装置が開示されている。具体的に、特許文献1に開示された排気浄化装置では、NOX吸蔵触媒とNOX選択還元触媒とがこの順に排気通路の上流側から順に配置されている。かかる排気浄化装置においては、NOX吸蔵触媒でのNOXとHCとの反応によりNH3が生成される場合に、NOX選択還元触媒が当該NH3を吸着する。そして、NOX吸蔵触媒からNOXが流出する場合に、NOX選択還元触媒はNH3を用いてNOXを還元する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2006-522257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に開示された排気浄化装置では、NOX選択還元触媒の劣化が進んだ場合やNOX選択還元触媒が欠落(未装着)している場合、大気中へのNOXやNH3の放出量が増大するおそれがある。このため、NOX選択還元触媒の欠落又は劣化を検出可能な診断機能があれば有意義である。
【0006】
例えば、NOX選択還元触媒が熱容量を持つことを利用して、NOX選択還元触媒よりも下流側に温度センサを設け、NOX選択還元触媒の熱容量を考慮して作成した温度モデルと温度センサによる検出温度とを比較することにより、NOX選択還元触媒の欠落を判定することが考えられる。
【0007】
しかしながら、温度モデルと検出温度とを比較する方法の場合、診断結果の精度を高めるには、排気の温度変化が比較的少ない運転状態で診断を実行する必要があり、診断を実行可能な運転状態が限定的となる。また、NOX選択還元触媒が劣化しても熱容量の変化は少ないことから、温度モデルと検出温度とを比較する方法の場合、NOX選択還元触媒の欠落を検出することができる一方、NOX選択還元触媒の劣化を検出することは困難である。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、NOX吸蔵触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNOX選択還元触媒の欠落や劣化等の異常の検出精度を向上可能な診断装置及び内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、内燃機関の排気通路に上流側から順にNO吸蔵触媒とNO選択還元触媒とを備えた排気浄化装置におけるNO選択還元触媒の異常を診断する診断装置において、NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路内のNO濃度の推定値である下流側NO濃度推定値を算出する下流側NO濃度推定部と、NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNO濃度センサのセンサ値を取得するセンサ値検出部と、NO 吸蔵触媒よりも下流側、かつ、NO 選択還元触媒よりも上流側の排気通路内のアンモニア濃度の推定値である上流側アンモニア濃度推定値を求める上流側アンモニア濃度推定部と、上流側アンモニア濃度推定値、下流側NO濃度推定値及びセンサ値に基づいてNO選択還元触媒の欠落又は劣化を判定する判定部と、を備える、診断装置が提供される。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、内燃機関の排気通路に備えられたNO吸蔵触媒と、NO吸蔵触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNO選択還元触媒と、NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNO濃度センサと、NO選択還元触媒の異常を診断する診断装置と、を備えた内燃機関の排気浄化装置において、診断装置は、NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路内のNO濃度の推定値である下流側NO濃度推定値を算出する下流側NO濃度推定部と、NO選択還元触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNO濃度センサのセンサ値を取得するセンサ値検出部と、NO 吸蔵触媒よりも下流側、かつ、NO 選択還元触媒よりも上流側の排気通路内のアンモニア濃度の推定値である上流側アンモニア濃度推定値を求める上流側アンモニア濃度推定部と、上流側アンモニア濃度推定値、下流側NO濃度推定値及びセンサ値に基づいてNO選択還元触媒の欠落又は劣化を判定する判定部と、を備える、内燃機関の排気浄化装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、NOX吸蔵触媒よりも下流側の排気通路に備えられたNOX選択還元触媒の欠落や劣化等の異常の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る排気浄化装置の構成例を示す模式図である。
図2】診断装置(制御装置)の構成例を示すブロック図である。
図3】下流側NOX濃度検出値の積算値の変化を示す説明図である。
図4】診断装置(制御装置)の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<1.内燃機関の排気浄化装置の全体構成>
本実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置の構成例について説明する。図1は、排気浄化装置10の構成例を示す模式図である。
【0015】
排気浄化装置10は、ディーゼルエンジン等に代表される内燃機関5の排気系に備えられる。本実施形態において、内燃機関5がディーゼルエンジンである例を説明する。内燃機関5は、各気筒に供給される燃料を噴射する燃料噴射システムを備える。燃料噴射システムは、例えば高圧の燃料を保持するコモンレールと、コモンレールに接続された複数の燃料噴射弁とを含むコモンレールシステムであってよい。ただし、内燃機関5は上記の構成例に限定されない。
【0016】
内燃機関5の運転状態は、制御装置100により制御される。内燃機関5では、燃焼される混合気の空燃比が、運転条件に応じてストイキ状態、燃料リーン状態又は燃料リッチ状態に切り換えられる。内燃機関5の排気には、NOX、粒子状物質(PM)、一酸化炭素(CO)又はHC等が含まれる。
【0017】
排気浄化装置10は、内燃機関5の排気管11に配設された酸化触媒19と、NOX吸蔵触媒15と、パティキュレートフィルタ17と、NOX選択還元触媒13と、NOX濃度センサ23とを備える。酸化触媒19、NOX吸蔵触媒15、パティキュレートフィルタ17及びNOX選択還元触媒13は、排気の流れの上流側からこの順に排気管11に配設されている。
【0018】
酸化触媒19は、排気中に含まれるHC、CO又はNO等を酸化する。例えば、HC、CO又はNOは、H2O、CO2又はNO2に酸化される。パティキュレートフィルタ17は、排気中のPMを捕集するフィルタである。パティキュレートフィルタ17に捕集されたPMは、適宜の時期に燃焼させられる。例えば内燃機関5の排気中に含まれる未燃のHCを増加させて酸化触媒19で当該HCが酸化する際に生じる酸化熱により排気温度を上昇させて、パティキュレートフィルタ17に捕集されたPMを燃焼させる。なお、パティキュレートフィルタ17に捕集されたPMを燃焼させる方法は、上記の例に限られない。
【0019】
NOX吸蔵触媒15は、排気中のNOXをHC及びCOと反応させることにより、NOXをN2に変換する。具体的に、NOX吸蔵触媒15は、内燃機関5が燃料リーン状態のときに排気中のNOXを吸蔵し、内燃機関5が燃料リッチ状態のときに吸蔵していたNOXを放出して排気中のHC及びCOによってNOXをN2へと変換する。NOX吸蔵触媒15におけるNOXの浄化時にはNH3も生成される。
【0020】
NOX選択還元触媒13は、排気中のNOXをNH3と反応させることにより、NOXをN2に還元する。具体的に、NOX選択還元触媒13は、NOX吸蔵触媒15で生成されたNH3を吸着し、流入する排気中のNOXをNH3によってN2へと還元する。NOX選択還元触媒13は、触媒温度が高いほどNH3の吸着可能量が減少する特性を有する。また、NOX選択還元触媒13は、NH3吸着量が多いほどNOXの還元効率が高くなる特性を有する。
【0021】
NOX濃度センサ23は、NOX選択還元触媒13よりも下流の排気管11に設けられ、主としてNOX選択還元触媒13から流出する排気中のNOX濃度を検出するために用いられる。NOX濃度センサ23のセンサ信号S_noxは、制御装置100に送信される。NOX濃度センサ23のセンサ信号S_noxの情報は、NOX選択還元触媒13の異常診断に用いられる。
【0022】
NOX濃度センサ23は、NOXだけでなくNH3にも反応することが知られている。ただし、NOX選択還元触媒13が正常に機能している場合、NOX選択還元触媒13よりも下流側へのNH3の流出はほぼゼロか極めて少量となる。このため、本実施形態に係る排気浄化装置10では、NOX濃度センサ23のセンサ信号S_noxは基本的に排気ガス中のNOX濃度を示すものとして構築されている。
【0023】
この他、排気管11の適宜の位置に、排気温度を検出する一つ又は複数の排気温度センサが備えられていてもよい。排気温度センサのセンサ信号S_tgは制御装置100に送信される。排気温度センサが設けられた位置での排気温度の情報は、NOX吸蔵触媒15又はNOX選択還元触媒13の温度の推定に用いることができる。
【0024】
<2.診断装置(制御装置)>
次に、本実施形態に係る診断装置として機能する制御装置100の構成例について説明する。図2は、制御装置100の構成例を示すブロック図である。図示した制御装置100は、内燃機関5の運転状態を制御する制御装置100である。なお、制御装置100は、1つの制御装置から構成されていてもよく、あるいは、複数の制御装置が互いに通信可能に接続されて構成されていてもよい。
【0025】
制御装置100はそれぞれCPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサと電気回路等を備えて構成され、プロセッサがコンピュータプログラムを実行することにより種々の機能が実現される装置であってよい。なお、制御装置100の一部又は全部は、例えば、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよく、また、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0026】
制御装置100は、上流側NOX濃度取得部112と、上流側アンモニア濃度推定部113と、下流側NOX濃度推定部114と、センサ値検出部116と、判定部118とを備えている。これらの各部は、プロセッサによるコンピュータプログラムの実行により実現される機能であってよい。また、制御装置100は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の1つ又は複数の記憶素子を含む図示しない記憶部を備えている。記憶部は、プロセッサにより実行されるコンピュータプログラム、演算に用いられる制御パラメータ、プロセッサによる演算結果、及び取得したセンサ値等を記憶する。記憶部は、HDD(Hard Disk Drive)やストレージ装置等を含んでいてもよい。
【0027】
(上流側NOX濃度取得部)
上流側NOX濃度取得部112は、NOX吸蔵触媒15よりも下流側、かつ、NOX選択還元触媒13よりも上流側の排気通路内のNOX濃度の推定値(上流側NOX濃度推定値)N_us_modを算出する。NOX選択還元触媒13よりも上流側の排気に含まれるNOXは、NOX吸蔵触媒15において浄化されずに流出したNOXである。
【0028】
NOXの変換効率は、NOX吸蔵触媒15の温度や排気ガスの状態によって変動し得る。このため、上流側NOX濃度取得部112は、例えばあらかじめ記憶部に格納されたマップを参照し、NOX吸蔵触媒15の温度や内燃機関5の運転条件に基づいて、計算に用いるNOX吸蔵触媒15におけるNOXの変換効率を設定する。NOX吸蔵触媒15の温度は、例えば排気温度に基づいて推定することができる。
【0029】
具体的に、上流側NOX濃度取得部112は、NOX吸蔵触媒15の温度、内燃機関5が燃料リッチ状態に切り換えられたときのNOX吸蔵触媒15におけるNOX吸蔵量、内燃機関5の燃料リッチ状態でのリッチ度合(空燃比)、及び内燃機関5のリッチ燃焼時間等の情報に基づいて上流側NOX濃度N_us_modを算出する。内燃機関5の燃料リッチ状態におけるNOX吸蔵量、リッチ度合、及びリッチ燃焼時間は、内燃機関5の運転条件に基づいて推定することができる。
【0030】
なお、NOX吸蔵触媒15よりも下流側、かつ、NOX選択還元触媒13よりも上流側の排気通路内のNOX濃度を検出するNOX濃度センサを備える場合、上流側NOX濃度取得部112は、当該NOX濃度センサのセンサ信号に基づいて上流側NOX濃度N_us_modを取得してもよい。
【0031】
(上流側アンモニア濃度推定部)
上流側アンモニア濃度推定部113は、NOX吸蔵触媒15よりも下流側、かつ、NOX選択還元触媒13よりも上流側の排気通路内のNH3濃度の推定値(上流側NH3濃度推定値)NH3_us_modを算出する。
【0032】
NOX選択還元触媒13よりも上流側の排気に含まれるNH3は、NOX吸蔵触媒15において生成されたNH3である。NOX吸蔵触媒15では、下記反応式(1)にしたがってNH3が生成される。
3.5H2+NO2→NH3+2H2O … (1)
【0033】
例えば、上流側アンモニア濃度推定部113は、NOX吸蔵触媒15の温度、内燃機関5がリッチ燃焼状態に切り換えられたときのNOX吸蔵量、内燃機関5のリッチ燃焼状態でのリッチ度合(空燃比)及び内燃機関5のリッチ燃焼時間等の情報に基づいて上流側NH3濃度NH3_us_modを算出する。NOX吸蔵触媒15の温度は、例えば排気温度に基づいて推定することができる。内燃機関5のリッチ燃焼状態におけるNOX吸蔵量、リッチ度合、及びリッチ燃焼時間は、例えば内燃機関5の運転条件に基づいて推定することができる。
【0034】
なお、NOX吸蔵触媒15よりも下流側、かつ、NOX選択還元触媒13よりも上流側の排気通路内のNH3濃度を検出するアンモニア濃度センサを備える場合、上流側アンモニア濃度推定部113は、当該アンモニア濃度センサのセンサ信号に基づいて上流側NH3濃度NH3_us_modを取得してもよい。
【0035】
(下流側NOX濃度推定部)
下流側NOX濃度推定部114は、NOX選択還元触媒13よりも下流側の排気通路内のNOX濃度の推定値(下流側NOX濃度推定値)N_ds_modを算出する。NOX選択還元触媒13よりも下流側の排気に含まれるNOXは、NOX吸蔵触媒15で浄化されずに流出したNOXのうち、さらにNOX選択還元触媒13においても還元されずに流出したNOXである。NOX選択還元触媒13が正常に機能している場合、NOX選択還元触媒13から流出するNOXは極僅かである。このため、下流側NOX濃度推定値N_ds_modは比較的小さい値となる。
【0036】
上述のとおり、NOX選択還元触媒13におけるNH3の最大吸着量は、NOX選択還元触媒13の温度が高いほど減少する。また、NOX選択還元触媒13におけるNOXの還元効率は、上記吸着率が高いほど高くなる。このため、下流側NOX濃度推定部114は、例えばあらかじめ記憶部に格納されたマップを参照し、NOX選択還元触媒13の温度やNH3の吸着率に基づいて、計算に用いるNOX選択還元触媒13におけるNOXの還元効率を設定する。NOX選択還元触媒13の温度は、例えば排気温度に基づいて推定することができる。NH3の吸着率は、上流側NOX濃度N_us_mod、上流側NH3濃度NH3_us_mod、排気流量及びNOX選択還元触媒13の温度に基づいて推定することができる。
【0037】
NH3の吸着率は、例えば以下のように推定することができる。
NOX選択還元触媒13では、下記反応式(2)にしたがってNOXの還元反応が生じる。
4NH3+3NO2→3.5N2+6H2O … (2)
下流側NOX濃度推定部114は、NOX選択還元触媒13に流入するNOX量及びNH3量と、NOX選択還元触媒13の温度とを用いてNOX選択還元触媒13におけるNH3の吸着量を算出することができる。
【0038】
NOX選択還元触媒に流入するNOX量及びNH3量は、それぞれ上流側NOX濃度N_us_mod及び上流側アンモニア濃度NH3_usに排気流量をかけることで求めることができる。下流側NOX濃度推定部114は、所定の演算サイクルごとに、各演算サイクル中にNOX選択還元触媒13に流入するNOX量及びNH3量を算出する。そして、下流側NOX濃度推定部114は、算出したNOX量のNOXを還元するために必要なNH3量を、算出したNH3量から引き、得られた値を演算サイクルごとに積算し続ける。これにより、下流側NOX濃度推定部114は、NOX選択還元触媒13におけるNH3の吸着量の変化を見ることができる。
【0039】
このようにしてNH3の吸着量が算出されると、NOX選択還元触媒13の温度に応じた最大吸着量に対するNH3の吸着率が求められる。下流側NOX濃度推定部114は、NH3の吸着率に応じたNOX選択還元触媒13におけるNOXの還元効率を上流側NOX濃度N_us_modにかけることで、下流側NOX濃度推定値N_ds_modを算出することができる。
【0040】
(センサ値検出部)
センサ値検出部116は、NOX濃度センサ23のセンサ信号S_noxに基づいて、センサ値としての下流側NOX濃度(下流側NOX濃度検出値)N_ds_detを検出する。この下流側NOX濃度検出値N_ds_detは、基本的にはNOX濃度の値を示すが、NOX選択還元触媒13の下流側にNH3が流出している状態ではNH3濃度の値を示すことになる。
【0041】
(判定部)
判定部118は、少なくとも下流側NOX濃度推定値N_ds_mod及び下流側NOX濃度検出値N_ds_detに基づいてNOX選択還元触媒13の異常を判定する。本実施形態では、判定部118は、上流側NOX濃度N_us_mod、上流側NH3濃度NH3_us_mod、下流側NOX濃度推定値N_ds_mod及び下流側NOX濃度検出値N_ds_detに基づいて、NOX選択還元触媒13の欠落及び劣化を判定する。
【0042】
NOX選択還元触媒13に欠落や劣化等の異常がない場合、NOX濃度センサ23のセンサ信号S_noxに基づいて得られる下流側NOX濃度検出値N_ds_detは、下流側NOX濃度推定部114で推定される下流側NOX濃度推定値N_ds_modに近似する。一方、NOX選択還元触媒13に欠落や劣化等の異常が生じている場合、NOX選択還元触媒13におけるNH3の最大吸着量は減少するために、NOX選択還元触媒13の下流側へのNH3の流出量が増加する。
【0043】
このため、NOX選択還元触媒13の異常時において、NOX濃度センサ23を用いて検出される下流側NOX濃度検出値N_ds_detは、下流側NOX濃度推定値N_ds_modよりも大きい値となる。このような現象を利用して、判定部118は、下流側NOX濃度検出値N_ds_detと下流側NOX濃度推定値N_ds_modとを比較することにより、NOX選択還元触媒13の異常の有無を判定することができる。
【0044】
また、NOX選択還元触媒13が欠落している場合と劣化している場合とでは、下流側NOX濃度検出値N_ds_detの値に差が生じる。本実施形態において、判定部118は、NOX選択還元触媒13の劣化又は欠落を判別する。具体的に、NOX選択還元触媒13が欠落している場合、NOX選択還元触媒13に吸着されるNH3の量はゼロであり、すべてのNH3がNOX濃度センサ23の設置位置に到達する。一方、NOX選択還元触媒13が劣化している場合、NOX選択還元触媒13に流入するNH3の一部はNOX選択還元触媒13に吸着され、又はNOXの還元反応に用いられる。
【0045】
したがって、NOX選択還元触媒13の欠落時にNOX濃度センサ23を用いて検出される下流側NOX濃度検出値N_ds_detは、NOX選択還元触媒13の劣化時に検出される下流側NOX濃度検出値N_ds_detに比べて大きい値になる。判定部118は、NOX選択還元触媒13の異常時に、下流側NOX濃度推定値N_ds_modに対する下流側NOX濃度検出値N_ds_detのずれ幅に基づいて、NOX選択還元触媒13の欠落又は劣化を判定することができる。
【0046】
このとき判定部118は、所定期間における下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値と、下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値とを比較してもよい。それぞれの積算値を比較することにより、下流側NOX濃度検出値N_ds_detと、下流側NOX濃度推定値N_ds_modとのずれ幅がより判別しやすくなる。
【0047】
図3は、NOX選択還元触媒13の正常時、欠落時、及び劣化時における下流側NOX濃度検出値N_ds_detの違いを示す説明図である。図3は、時刻t1から時刻t2までの期間における下流側NOX濃度検出値N_ds_det及び下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値の例を示している。
【0048】
NOX選択還元触媒13が正常に機能している場合、下流側NOX濃度検出値N_ds_detは下流側NOX濃度推定値NH3_ds_modに近似する。このため、NOX選択還元触媒13の正常時において、下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値は、下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値とほぼ同じように推移する。
【0049】
一方、NOX選択還元触媒13が欠落している場合、NOX吸蔵触媒15で生成されたNH3がNOX濃度センサ23により検出されるため、下流側NOX濃度検出値N_ds_detは、下流側NOX濃度推定値N_ds_modに比べて大きい値になる。このため、NOX選択還元触媒13の欠落時において、下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値は、下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値を大きく上回りながら推移する。
【0050】
また、NOX選択還元触媒13が劣化している場合、NOX吸蔵触媒15で生成されたNH3の一部がNOX選択還元触媒13の下流側に流出するために、下流側NOX濃度検出値N_ds_detは、下流側NOX濃度推定値N_ds_modに比べて大きい値になる。ただし、このときの下流側NOX濃度検出値N_ds_detは、NOX選択還元触媒13の欠落時の値に比べて小さい値になる。このため、NOX選択還元触媒13の劣化時において、下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値は、NOX選択還元触媒13の正常時の積算値と欠落時の積算値との間を推移する。
【0051】
このように、判定部118は、時刻t2における下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値と下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値との差が小さい場合には、NOX選択還元触媒13が正常に機能していると判定することができる。また、時刻t2における下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値と下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値との差が大きい場合には、判定部118は、NOX選択還元触媒13が異常であると判定する。
【0052】
さらに、判定部118は、例えば時刻t2における下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値(X)に対する下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値(Y)の比(Y/X)が、あらかじめ設定した閾値βを超える場合に、NOX選択還元触媒13が欠落していると判定してもよい。閾値βは、例えば、下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値(X)に対する上流側NH3濃度推定値NH3_us_modの積算値(Z)の比(Z/X)とすることができる。
【0053】
NOX選択還元触媒13が欠落している場合、NOX濃度センサ23の設置位置には、NOX吸蔵触媒15で生成されたNH3と併せてNOX吸蔵触媒15から流出したNOXが到達する。このため、NOX選択還元触媒13の欠落時のNOX濃度センサ23の検出値(下流側NOX濃度検出値N_ds_mod)は、少なくとも上流側NH3濃度推定値NH3_us_modを上回る。したがって、閾値βを、下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値(X)に対する上流側NH3濃度推定値NH3_us_modの積算値(Z)の比(Z/X)とすることで、NOX選択還元触媒13の欠落を判別することができる。
【0054】
NOX選択還元触媒13の欠落時には、NOX選択還元触媒13が意図的に除去されていることも考えられるため、判定部118は、例えば内燃機関5を強制的に停止させる処置を取るようにしてもよい。また、NOX選択還元触媒13の劣化時には、判定部118は、例えば警告ランプを点灯させたり警報を鳴らしたりすることで、運転者等にNOX選択還元触媒13の交換を促すようにしてもよい。
【0055】
<3.診断装置の動作例>
次に、図4のフローチャートを参照して、診断装置として機能する制御装置100の動作例を説明する。
【0056】
まず、制御装置100の上流側アンモニア濃度推定部113、下流側NOX濃度推定部114及びセンサ値検出部116は、上流側NH3濃度推定値NH3_us_mod、下流側NOX濃度推定値N_ds_mod、及び下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算を開始する(ステップS11)。例えば、各部は、内燃機関5が燃料リーン状態から燃料リッチ状態に切り換えられたときに上記積算を開始してもよい。これにより、NOX吸蔵触媒15でNH3が生成される期間を利用した診断を行うことができ、診断結果の信頼性を向上させることができる。
【0057】
次いで、上流側アンモニア濃度推定部113及び下流側NOX濃度推定部114は、それぞれ上流側NH3濃度推定値NH3_us_mod及び下流側NOX濃度推定値N_ds_modを算出し、センサ値検出部116は下流側NOX濃度検出値N_ds_detを検出する(ステップS13)。
【0058】
次いで、上流側アンモニア濃度推定部113、下流側NOX濃度推定部114及びセンサ値検出部116は、それぞれステップS13で得られた上流側NH3濃度推定値NH3_us_mod、下流側NOX濃度推定値N_ds_mod及び下流側NOX濃度検出値N_ds_detを積算する(ステップS15)。
【0059】
次いで、上流側アンモニア濃度推定部113、下流側NOX濃度推定部114及びセンサ値検出部116は、積算を開始してからの経過時間が、あらかじめ設定された所定時間を経過したか否かを判別する(ステップS17)。所定時間は、診断結果の信頼性の許容範囲等を考慮して、適宜の時間に設定されてよい。
【0060】
経過時間が所定時間を経過していない場合(S17/No)、上流側アンモニア濃度推定部113、下流側NOX濃度推定部114及びセンサ値検出部116は、ステップS13に戻って、上流側NH3濃度推定値NH3_us_mod、下流側NOX濃度推定値N_ds_mod及び下流側NOX濃度検出値N_ds_detの算出あるいは検出、及び積算を繰り返す。
【0061】
一方、経過時間が所定時間を経過した場合(S17/Yes)、制御装置100の判定部118は、下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値∫N_ds_detと下流側NOX濃度推定値NH3_ds_modの積算値∫NH3_ds_modとの差が閾値αを超えているか否かを判別する(ステップS19)。閾値αは、下流側NOX濃度推定値N_ds_modの誤差や、積算を行う所定時間の長さ等を考慮して、適切な値に設定することができる。
【0062】
差|∫N_ds_det-∫N_ds_mod|が閾値α以下の場合(S19/No)、判定部118は、NOX選択還元触媒13が正常に機能している(異常無し)と判定し(ステップS27)、本ルーチンを終了する。一方、差|∫N_ds_det-∫N_ds_mod|が閾値αを超える場合(S19/Yes)、判定部118は、下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値∫N_ds_modに対する下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値∫N_ds_detの比が閾値βを超えているか否かを判別する(ステップS21)。閾値βは、例えば下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値∫N_ds_modに対する上流側NH3濃度推定値NH3_us_modの積算値∫NH3_us_modの比の値であってもよい。
【0063】
下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値∫N_ds_modに対する下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値∫N_ds_detの比が閾値βを超える場合(S21/Yes)、判定部118は、NOX選択還元触媒13が欠落していると判定し(ステップS23)、本ルーチンを終了する。一方、下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値∫N_ds_modに対する下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値∫N_us_detの比が閾値β以下の場合(S21/No)、判定部118は、NOX選択還元触媒13が劣化していると判定し(ステップS25)、本ルーチンを終了する。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る内燃機関5の排気浄化装置10は、排気通路の上流側から順にNOX吸蔵触媒15及びNOX選択還元触媒13を備えるとともに、NOX選択還元触媒13よりも下流側にNOX濃度センサ23を備えている。かかる排気浄化装置10のNOX選択還元触媒13の異常を診断する診断装置として機能する制御装置100は、下流側NOX濃度推定値N_ds_mod及び下流側NOX濃度検出値N_ds_detに基づいてNOX選択還元触媒13の異常の有無を判定する。したがって、制御装置100は、NOX選択還元触媒13が正常に機能していない異常状態を検知することができる。
【0065】
また、本実施形態において、制御装置100は、NOX選択還元触媒13の異常時に、さらに上流側NH3濃度推定値NH3_us_mod、下流側NOX濃度推定値N_ds_mod及び下流側NOX濃度検出値N_ds_detに基づいて、NOX選択還元触媒13の欠落又は劣化を判定する。したがって、制御装置100は、NOX選択還元触媒13の異常の状態に応じた処理を実行することができる。
【0066】
また、本実施形態において、制御装置100は、上流側NH3濃度推定値NH3_us_modの積算値∫NH3_us_mod、下流側NOX濃度推定値N_ds_modの積算値∫N_ds_mod及び下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算値∫N_ds_detを用いてNOX選択還元触媒13の異常を判定する。したがって、下流側NOX濃度検出値N_ds_detと、上流側NH3濃度推定値NH3_us_modあるいは下流側NOX濃度推定値N_ds_modとの差をより判別しやすくなって、NOX選択還元触媒13の異常診断結果の信頼性を向上させることができる。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0068】
例えば上記実施形態において、上流側NH3濃度推定値NH3_us_mod、下流側NOX濃度推定値N_ds_mod及び下流側NOX濃度検出値N_ds_detの積算は、必ずしも連続する期間において行われなくてもよい。上記積算は、内燃機関5が燃料リーン状態から燃料リッチ状態に切り換えられた後に行われ、途中燃料リーン状態に切り換えられたときに一旦中断されて、その後再び燃料リーン状態に切り換えられたときに再開されてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、制御装置100がNOX選択還元触媒13の異常の有無を判別するだけでなく、NOX選択還元触媒13の欠落又は劣化を判別するようになっていたが、本発明はかかる例に限定されない。制御装置100は、NOX選択還元触媒13の異常の有無のみを判別するようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0070】
5・・・内燃機関、10・・・排気浄化装置、11・・・排気管、13・・・NOX選択還元触媒、15・・・NOX吸蔵触媒、23・・・アンモニア濃度センサ、100・・・制御装置(診断装置)、112・・・上流側NOX濃度取得部、113・・・上流側アンモニア濃度推定部、114・・・下流側NOX濃度推定部、116・・・センサ値検出部、118・・・判定部
図1
図2
図3
図4