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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】研磨用組成物及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20221220BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20221220BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20221220BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622W
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09G1/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018559406
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2017046154
(87)【国際公開番号】W WO2018123875
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2016251609
(32)【優先日】2016-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石橋 智明
(72)【発明者】
【氏名】今 宏樹
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-025136(JP,A)
【文献】特表2008-502776(JP,A)
【文献】特開2002-110596(JP,A)
【文献】特開2011-110656(JP,A)
【文献】特開2004-336082(JP,A)
【文献】特開2015-165001(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187749(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、層状化合物(ただし、雲母およびタルクを除く)と、分散媒と、を含み、
前記層状化合物は層状ケイ酸塩化合物であり、
前記層状ケイ酸塩化合物の粒子径は、0.01μm以上5μm以下であり、
前記砥粒は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マンガン、金属炭化物、金属窒化物、および金属ホウ化物からなる群より選択される少なくとも1種である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記層状ケイ酸塩化合物は、ヘクトライトまたはベントナイトである、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒の平均二次粒子径が1.8μm以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物を、製造後10℃以上の温度で20日以上保管する工程と、
保管後の前記研磨用組成物を用いて半導体基板を研磨する工程と、
を含む、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にシリコンウェハ、炭化ケイ素などの半導体基板の研磨においては、半導体デバイスの高性能化および高集積密度化に伴う表面品質の向上はもちろんのこと、近年の需要増加に対応するための製造効率の向上が重要な課題とされている。この課題を解決するための技術として、たとえば特開2012-248569号公報には、酸化還元電位が0.5V以上の遷移金属を含む酸化剤と、平均二次粒子径が0.5μm以下の酸化セリウム粒子と、分散媒とを含有することを特徴とする研磨剤が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、上記特開2012-248569号公報に記載の研磨用組成物は、砥粒の分散性が悪いため、研磨性能が安定せず、また研磨用組成物の製造中や使用中に、配管やスラリー供給チューブ内に砥粒が沈降し、配管等を閉塞させてしまうという問題があった。さらに長期保存後の砥粒の再分散性も悪いという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、研磨性能を維持しつつ、砥粒の沈降を防止する手段を提供することにある。
【0005】
また、本発明の他の目的は、研磨性能を維持しつつ、砥粒の再分散性を向上させる手段を提供することにある。
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒、層状化合物、および分散媒を含む研磨用組成物を使用することで、上記課題が解決されうることを見出した。そして、上記知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、砥粒、層状塩化合物、および分散媒を含む、研磨用組成物である。かような構成を有する本発明の研磨用組成物は、高い研磨速度や研磨対象物の表面粗さの低減といった研磨性能を維持しつつ、砥粒の沈降を防止することができる。また、上記構成を有する本発明の研磨用組成物は、高い研磨速度や研磨対象物の表面粗さの低減といった研磨性能を維持しつつ、砥粒の再分散性を向上させることができる。
【0008】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、半導体基板である。半導体基板の例としては、たとえば単結晶シリコン基板(シリコンウェハ)、単結晶ゲルマニウム基板、単結晶シリコンゲルマニウム基板などの第14族元素からなる単結晶半導体基板;SiC基板、SiGe基板、ZnS基板、ZnSe基板、InP基板、AlN基板、GaAs基板、GaN基板、AlGaAs基板、InGaAs基板、GaP基板、ZnTe基板、CdTd基板等の化合物半導体基板;等が挙げられる。これらの中でも、化合物半導体基板が好ましく、SiC基板がより好ましい。
【0009】
次に、本発明の研磨用組成物の構成について、詳細に説明する。
【0010】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含む。砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有する。
【0011】
本発明で用いられる砥粒の具体的な例としては、たとえば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化セリウム(セリア)、酸化ジルコニウム、酸化チタン(チタニア)、酸化マンガン等の金属酸化物、炭化ケイ素、炭化チタン等の金属炭化物、窒化ケイ素、窒化チタン等の金属窒化物、ホウ化チタン、ホウ化タングステン等の金属ホウ化物などが挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0012】
これら砥粒の中でも、様々な粒子径を有するものが容易に入手でき、優れた研磨速度が得られるという観点から、金属酸化物および金属炭化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、酸化アルミニウムがより好ましい。
【0013】
砥粒の平均二次粒子径の下限は、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましく、0.2μm以上が特に好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨対象物の研磨速度が向上する。また、砥粒の平均二次粒子径の上限は、10.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがさらに好ましく、1.8μm以下であることが一層好ましく、1.5μm以下であることがより一層好ましく、1.0μm以下が特に好ましく、0.5μm以下が最も好ましい。砥粒の体積平均粒子径が小さくなるにつれて、低欠陥で粗度の小さな表面を得ることが容易となる。上記より、砥粒の平均二次粒子径は、0.1μm以上3.0μm以下であることがさらに好ましく、0.2μm以上1.0μm以下が特に好ましい。
【0014】
なお、本明細書における砥粒の平均二次粒子径は、特記しない限り、レーザー回析散乱法に基づき測定される。測定は、具体的には、株式会社堀場製作所製のレーザー回析/散乱式粒度分布測定装置(商品名「LA-950」)を用いて行うことができる。
【0015】
研磨用組成物中の砥粒の含有量の下限は、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨速度が上昇する。
【0016】
また、研磨用組成物中の砥粒の含有量の上限は、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の製造コストが低減するのに加えて、研磨用組成物を用いた研磨により傷等の欠陥が少ない表面を得ることが容易となる。
【0017】
[層状化合物]
本発明の研磨用組成物において、層状化合物は、砥粒との分子間力や静電的な作用等により、砥粒粒子と引き合いながら弱い結合を形成し、砥粒粒子間に立体障害となるような状態で存在しうる。これにより、砥粒の凝集が抑えられるため、研磨性能を維持しつつ沈降を防止させたりや再分散性を向上させたりする本発明の効果が得られると考えられる。
【0018】
また、研磨用組成物を調整後、所定温度で所定期間保管することにより、上記の層状化合物と砥粒粒子との結合の形成等の相互作用が促進され、砥粒の沈降防止の効果や再分散性向上の効果がさらに向上すると考えられる。
【0019】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0020】
本発明で用いられる層状化合物としては、上記の効果を発現するものであれば特に限定されないが、たとえば、層状ケイ酸塩化合物に代表される粘土鉱物、NbO八面体ユニットから成る二次元シート状構造を有する層状ニオブ酸塩化合物、TiOの三角両錐体が平面的につながった層構造やTiO八面体ユニットから成る二次元シート状構造を有する層状チタン酸塩化合物、層間にリン酸のOH基が存在している金属リン酸塩、2価と3価の金属イオンを含む水酸化物層と層間に陰イオンが存在している層状複水酸化物、金属原子を正八面体型または三角プリズム型にカルコゲン原子が囲んだ構造を有する金属カルコゲン化合物、強く結合した原子層が積層した構造の窒化ホウ素、天然グラファイト、人工グラファイト等のグラファイト等が挙げられる。
【0021】
より具体的には、たとえば、層状ニオブ酸塩化合物としてはKNb17、KNb、HNb、NaNbO、LiNbO、CsNb17等、層状チタン酸塩化合物としてはNaTi、KTi、KTi、CsTi11、CsTi13等、金属リン酸塩としてはα-Zr(HPO、γ-ZrPO・HPO等の層状リン酸ジルコニウム、層状複水酸化物としてはハイドロタルサイト等、金属カルコゲン化合物としてはMoS、WS、TaS、NbS等が挙げられる。これら層状化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。 上記の層状化合物の中でも、本発明の効果が安定的に且つ効率よく得られるという観点から、層状ケイ酸塩化合物が好ましい。以下、層状ケイ酸塩化合物について説明する。
【0022】
(層状ケイ酸塩化合物)
層状ケイ酸塩化合物は、ケイ酸四面体が平面的につながっている構造が基本となり、単位構造の中にケイ酸四面体シート1枚または2枚と、アルミナまたはマグネシア八面体シート1枚とを含むことを特徴とする構造体である。その層間(単位構造間)においては、ナトリウム、カリウム、カルシウム等の陽イオンが存在する。また、該層状ケイ酸塩化合物は、結晶が薄く剥がれる性質を有する物質である。
【0023】
本発明で用いられる層状ケイ酸塩化合物は、天然物であってもよく、合成品であってもよく、市販品であってもよく、これらの混合物であってもよい。層状ケイ酸塩化合物の合成方法としては、たとえば、水熱合成反応法、固相反応法、溶融合成法等が挙げられる。
【0024】
該層状ケイ酸塩化合物の具体的な例としては、タルク、パイロフィライト、スメクタイト(サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト等)、バーミキュライト、雲母(金雲母、黒雲母、チンワルド雲母、白雲母、パラゴナイト、セラドナイト、海緑石等)、緑泥石(クリノクロア、シャモサイト、ニマイト、ペナンタイト、スドーアイト、ドンバサイト等)、脆雲母(クリントナイト、マーガライト等)、スーライト、蛇紋石(アンチゴライト、リザーダイト、クリソタイル、アメサイト、クロンステダイト、バーチェリン、グリーナライト、ガーニエライト等)、カオリン(カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト等)等が挙げられる。
【0025】
これら層状ケイ酸塩化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。中でも、チキソ性や膨潤性に優れており、砥粒の沈降防止性や再分散性をより向上させやすいという観点から、ベントナイト(ナトリウムベントナイト)、ヘクトライト(ナトリウムヘクトライト)、雲母(ナトリウム四ケイ素雲母)が好ましく、ベントナイト(ナトリウムベントナイト)がより好ましい。
【0026】
層状ケイ酸塩化合物の粒子径の下限は、0.01μm以上であることが好ましく、0.02μm以上であることがより好ましく、0.05μm以上であることがさらに好ましい。層状ケイ酸塩化合物の粒子径が大きくなるにつれて、砥粒の沈降防止性や再分散性が向上する。また、層状ケイ酸塩化合物の粒子径の上限は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。層状ケイ酸塩化合物の粒子径が小さくなるにつれて、面精度が向上する。
【0027】
なお、本明細書において、層状ケイ酸塩化合物の粒子径は、電子顕微鏡を用いて求めた値と定義する。より具体的には、層状ケイ酸塩化合物の粒子径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
研磨用組成物中の層状化合物の含有量の下限は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、研磨用組成物中の層状化合物の含有量の上限は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、上記本発明の効果が効率よく得られる。
【0029】
[分散媒]
本発明に係る研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含む。分散媒としては水が好ましい。他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0030】
[研磨用組成物のpH]
本発明の研磨用組成物のpHの下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましく、7.0以上が最も好ましい。また、pHの上限は、特に制限されないが、13.0以下であることが好ましく、12.0以下であることがより好ましく、11.0以下であることがさらに好ましく、10.0以下であることが特に好ましい。
【0031】
研磨用組成物のpHは、下記で説明する酸またはその塩や、塩基またはその塩の添加により調整することができる。
【0032】
[酸またはその塩]
本発明の研磨用組成物は、酸またはその塩を含むことが好ましい。酸またはその塩は、研磨用組成物のpHを調整する役割を果たす。
【0033】
酸としては、無機酸および有機酸のいずれも用いることができる。無機酸の例としては、たとえば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等が挙げられる。また、有機酸としては、たとえば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、スルホコハク酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、フェニルホスホン酸、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸等が挙げられる。さらに、塩としては、1族元素塩、2族元素塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、および第四級アンモニウム塩等が挙げられる。これら酸またはその塩は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これらの中でも、硝酸、硫酸が好ましい。
【0034】
研磨用組成物中の酸またはその塩の含有量は、上記のpHの範囲となるように適宜調整すればよい。
【0035】
[塩基またはその塩]
上記pHの範囲に調整するために、塩基またはその塩を用いてもよい。塩基またはその塩の例としては、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン、水酸化第四アンモニウムなどの有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の第2族元素の水酸化物、およびアンモニア等が挙げられる。
【0036】
研磨用組成物中の塩基またはその塩の含有量は、上記のpHの範囲となるように適宜調整すればよい。
【0037】
[他の成分]
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、研磨対象物の表面を酸化させる酸化剤、研磨対象物の表面や砥粒表面に作用する水溶性高分子、研磨対象物の腐食を抑制する防食剤やキレート剤、その他の機能を有する防腐剤、防黴剤等の他の成分をさらに含んでもよい。
【0038】
酸化剤の例としては、過酸化水素、過酸化尿素等の過酸化物;過酢酸等の過酸;過炭酸ナトリウム等の過炭酸塩;硝酸、その塩である硝酸鉄、硝酸銀、硝酸アルミニウム、その錯体である硝酸セリウムアンモニウム等の硝酸化合物;ペルオキソ一硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸等の過硫酸、その塩である過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸化合物;塩素酸やその塩、過塩素酸、その塩である過塩素酸カリウム等の塩素化合物;臭素酸、その塩である臭素酸カリウム等の臭素化合物;ヨウ素酸、その塩であるヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸、その塩である過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム等のヨウ素化合物;鉄酸、その塩である鉄酸カリウム等の鉄酸類;過マンガン酸、その塩である過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸類;クロム酸、その塩であるクロム酸カリウム、ニクロム酸カリウム等のクロム酸類;バナジン酸、その塩であるバナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム等のバナジン酸類;過ルテニウム酸またはその塩等のルテニウム酸類;モリブデン酸、その塩であるモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸二ナトリウム等のモリブデン酸類;過レニウムまたはその塩等のレニウム酸類;タングステン酸、その塩であるタングステン酸二ナトリウム等のタングステン酸類;が挙げられる。これら酸化剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。なかでも、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、鉄酸またはその塩が好ましく、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムがより好ましい。
【0039】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量の下限は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、研磨用組成物中の酸化剤の含有量の上限は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
水溶性高分子の例としては、ポリアクリル酸などのポリカルボン酸、ポリホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸などのポリスルホン酸、キタンサンガム、アルギン酸ナトリウムなどの多糖類、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンモノオレエート、単一種または複数種のオキシアルキレン単位を有するオキシアルキレン系重合体等が挙げられる。また、上記の化合物の塩も水溶性高分子として好適に用いることができる。
【0041】
防食剤の例としては、アミン類、ピリジン類、テトラフェニルホスホニウム塩、ベンゾトリアゾール類、トリアゾール類、テトラゾール類、安息香酸等が挙げられる。キレート剤の例としては、グルコン酸等のカルボン酸系キレート剤、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリメチルテトラアミンなどのアミン系キレート剤、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸などのポリアミノポリカルボン系キレート剤、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸などの有機ホスホン酸系キレート剤、フェノール誘導体、1,3-ジケトン等が挙げられる。
【0042】
防腐剤の例としては、次亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。防黴剤の例としてはオキサゾリジン-2,5-ジオンなどのオキサゾリン等が挙げられる。
【0043】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、たとえば、砥粒、層状化合物、および必要に応じて他の成分を、分散媒中で攪拌混合することにより得ることができる。
【0044】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0045】
[研磨方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、半導体基板の研磨に好適に用いられる。
【0046】
本発明の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する際には、通常の研磨に用いられる装置や条件を用いて行うことができる。一般的な研磨装置としては、片面研磨装置や、両面研磨装置があり、片面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物(好ましくは基板状の研磨対象物)を保持し、研磨用組成物を供給しながら研磨対象物の片面に研磨布を貼付した定盤を押しつけて定盤を回転させることにより、研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方より研磨用組成物を供給しながら、研磨対象物の対向面に研磨布が貼付された定盤を押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を研磨する。このとき、研磨パッドおよび研磨用組成物と、研磨対象物との摩擦による物理的作用と、研磨用組成物が研磨対象物にもたらす化学的作用とによって研磨される。
【0047】
本発明の研磨用組成物を用いた研磨方法で使用される研磨パッドは、たとえばポリウレタンタイプ、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の材質の違いの他、その硬度や厚みなどの物性の違い、さらに砥粒を含むもの、砥粒を含まないものなど種々あるが、これらを制限なく使用することができる。
【0048】
上記したように、層状化合物と砥粒粒子との弱い相互作用の形成を促進させて、砥粒の沈降をさらに抑制し、砥粒の再分散性をさらに向上させるという観点から、本発明の研磨用組成物を製造した後、所定温度で所定期間保管し、この保管後の研磨用組成物を用いて研磨対象物である半導体基板を研磨することが好ましい。
【0049】
すなわち本発明は、本発明の研磨用組成物を製造後、10℃以上の温度で20日以上保管する工程と、保管後の前記研磨用組成物を用いて半導体基板を研磨する工程と、を含む、研磨方法をも提供する。
【0050】
具体的には、保管温度の下限は10℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。また、保管温度の上限は特に制限されないが、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0051】
さらに、保管期間の下限は20日以上が好ましく、60日以上がより好ましい。また、保管期間の上限は特に制限されない。
【0052】
本発明の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する際には、一度研磨に使用された研磨用組成物を回収し、再度研磨に使用することができる。研磨用組成物の再使用する方法の一例として、研磨装置から排出された研磨用組成物をタンク内に回収し、再度研磨装置内へ循環させて使用する方法が挙げられる。研磨用組成物を循環使用することは、廃液として排出される研磨用組成物の量を減らすことで環境負荷が低減できる点と、使用する研磨用組成物の量を減らすことで研磨対象物の研磨にかかる製造コストを抑制できる点で有用である。
【0053】
本発明の研磨用組成物を循環使用する際には、研磨により消費・損失された砥粒、層状化合物、およびその他の添加剤の一部または全部を組成物調整剤として循環使用中に添加することができる。この場合、組成物調整剤としては、砥粒、層状化合物、およびその他の添加剤の一部または全部を任意の混合比率で混合したものとしてもよい。組成物調整剤を追加で添加することにより、研磨用組成物が再利用されるのに好適な組成物に調整され、研磨が好適に維持される。組成物調整剤に含有される砥粒、層状化合物、およびその他の添加剤の濃度は任意であり、特に限定されないが、循環タンクの大きさや研磨条件に応じて適宜調整されるのが好ましい。
【0054】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、たとえば、10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【実施例
【0055】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0056】
[実施例1~6、比較例1~3]
(研磨用組成物の調製)
砥粒(平均二次粒子径0.4μm)が6質量%の含有量となるように水で希釈し、層状ケイ酸塩化合物またはそれに代わる他の化合物を下記表1に示す含有量となるように加え、さらに過マンガン酸カリウムを1質量%の含有量となるように加えて室温(25℃)で攪拌し、分散液を調製した。次いで、前記の分散液に塩基として水酸化カリウム水溶液を加え、pHメーターにより確認しながら、pH9.0に調整し、実施例1~6および比較例1~3の研磨用組成物を得た。
【0057】
<砥粒>
酸化アルミニウム(アルミナ):平均二次粒子径は、株式会社堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-950を用いて測定した。
【0058】
<層状ケイ酸塩化合物>
ベントナイト:粒子径1.3μm
ヘクトライト:粒子径4.0μm、または0.15μm
なお層状ケイ酸塩化合物の粒子径は、以下の測定により求めたものである。すなわち、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡“SU8000”を用いて100個の層状ケイ酸塩化合物粒子を観察し、それぞれの粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、粒子画像に対して描かれたそれぞれの長方形について、その長辺の長さを測定し、それを平均した値を層状ケイ酸塩化合物の粒子径とした。
【0059】
(砥粒の沈降防止性の評価)
調製した後に、25℃で1~2日保管した後の研磨用組成物を用いて、容量100mlの比色管(アズワン株式会社製)に研磨用組成物を100mlの目盛りまで入れてから2時間静置した。静置後に、砥粒層と上澄み液との界面の嵩の目盛りを読み取り、下記基準により判定した。評価C以上が合格である:
AAA:80mlより多い
AA:60mlより多く80ml以下
A:40mlより多く60ml以下
B:30mlより多く40ml以下
C:20mlより多く30ml以下
D:20ml以下。
【0060】
(砥粒の再分散性の評価)
調製した後に、25℃で1~2日保管した後の研磨用組成物を用いて、容量1000mlのPP容器(アズワン株式会社製)に、研磨用組成物を800mlの目盛りまで入れ、72時間静置した。静置後、PP容器を上下に振り混ぜ、砥粒の沈殿が再分散してなくなるまでの回数を測定し、下記基準により判定した。評価A~Cが合格である:
A:1~3回
B:4~6回
C:7~9回
D:10回以上。
【0061】
(研磨の評価)
調製した後に、25℃で1~2日保管した後の研磨用組成物を用いて、下記の研磨条件で研磨を行い、研磨速度を求めた。また、研磨後の各研磨対象物の表面粗さを下記方法により測定した:
<研磨条件>
研磨装置:EJ-380IN(日本エンギス株式会社製)
研磨パッド:SUBA800(ニッタハース株式会社製)
研磨荷重:300g/cm
定盤回転数:80rpm
研磨時間:30min
<研磨対象物>
SiC基板:2インチN型 4H-SiC 4°off。
【0062】
<研磨速度>
研磨前後の研磨対象物の質量の差から研磨速度を算出した。
【0063】
<表面粗さRa>
研磨後の研磨対象物の表面粗さRaを、原子間力顕微鏡(パークシステムズ社製、NX-HDM)を用いて測定した。なお、表面粗さRaは、粗さ曲線の高さ方向の振幅の平均を示すパラメーターであって、一定視野内での研磨対象物表面の高さの算術平均を示す。
【0064】
実施例1~6および比較例1~3の研磨用組成物の組成および評価結果を、下記表1に示す。なお、下記表1中の「-」は、その成分を添加しなかったことを表す。
【0065】
【表1】
【0066】
上記表1から明らかなように、層状化合物を含む実施例の研磨用組成物を用いた場合、砥粒の沈降防止性および再分散性、ならびに研磨性能において良好な結果が得られた。特に、層状化合物を添加していない比較例1と比べて、研磨速度やRa等の研磨性能を維持しつつ、砥粒の沈降防止性および再分散性が向上することが分かった。また、他の分散剤を用いた比較例2、3と比べて、研磨速度やRa等の研磨性能を維持しつつ、砥粒の再分散性が向上することがわかった。
【0067】
[実施例7~12、比較例4:保管条件の検討]
上記の実施例2で調製した研磨用組成物について、下記表2に示すような保管温度および保管日数で保管した後の研磨用組成物を用いて、上記の(砥粒の沈降防止性の評価)、(砥粒の再分散性の評価)、および(研磨の評価)を行った。
【0068】
また、保管後の研磨用組成物の粘度の測定および砥粒の凝集硬化抑制能の評価を下記に従い実施した。
【0069】
(粘度の測定)
各実施例で調製した研磨用組成物を東機産業株式会社製のB型粘度計TVB-10に装填し、測定温度25℃、回転数100rpmの条件で粘度を測定した。測定において使用したローターの種類はH3である。
【0070】
(砥粒の凝集硬化抑制能の評価)
各実施例で調製した研磨用組成物を用いて、容量1000mlのポリプロピレン容器(アズワン株式会社製)に研磨用組成物を800mlの目盛りまで入れてから72時間静置した。静置後に、ポリプロピレン容器を静かに横に倒し、容器下部の状態を目視し、下記基準により判定した。評価AおよびBが合格である:
A:容器底部及び壁部に沈殿が全く残っていない
B:容器底部に沈殿は残らないが、容器壁部に残留物が見られる
C:容器底部に沈殿が残っている。
【0071】
実施例7~12の評価結果を、実施例2の結果とともに下記表2に示す。
【0072】
また、上記の比較例1で調製した研磨用組成物について、下記表2に示すような保管温度および保管日数で保管した後の研磨用組成物を用いて、(砥粒の沈降防止性の評価)、(砥粒の再分散性の評価)、(研磨の評価)、(粘度の測定)、および(砥粒の凝集硬化抑制能の評価)の評価を行った。その結果を下記表2の比較例4に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
上記表2から明らかなように、研磨用組成物の製造後に、25℃以上の温度で20日以上保管した後の研磨用組成物を用いた場合、実施例2と比較して、砥粒の凝集硬化抑制能がさらに向上することが分かった。
【0075】
また、実施例9および実施例12の研磨用組成物の粘度は、実施例2の研磨用組成物の粘度よりも高くなることが分かった。これは、砥粒の凝集が抑制され、砥粒と溶媒との隙間が増え、砥粒と溶媒との接触面積が増えることにより、せん断粘度が増加したことを示唆していると考えられる。これにより、実施例7~12の研磨用組成物に含まれる砥粒の分散性はより向上していると考えられる。
【0076】
層状化合物を含まない比較例4の研磨用組成物では、保管日数を延ばしても、砥粒沈降防止性、砥粒再分散性、および砥粒凝集硬化抑制能のいずれもが、実施例7~12と比較して低下していることが分かった。また、比較例4の研磨用組成物の粘度は、実施例2の研磨用組成物の粘度よりもさらに低くなることが分かった。これは、砥粒の凝集が進み、砥粒と溶媒との隙間が減少し、砥粒と溶媒との接触面積が減ることにより、せん断粘度が低下したことを示唆していると考えられる。これにより、比較例4の研磨用組成物に含まれる砥粒の分散性は低下していると考えられる。
【0077】
なお、本出願は、2016年12月26日に出願された日本特許出願第2016-251609号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。