(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
F02M 61/16 20060101AFI20221220BHJP
F02M 61/10 20060101ALI20221220BHJP
F02M 51/06 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F02M61/16 X
F02M61/10 L
F02M51/06 A
(21)【出願番号】P 2019012076
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄太
(72)【発明者】
【氏名】藤野 友基
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-048066(JP,A)
【文献】特開2018-189002(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126284(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射装置であって、
燃料を内燃機関の燃焼室に噴射するための噴孔(30)が設けられたハウジング(20)と、
前記噴孔を開閉するように駆動される弁部材(40)と、
前記弁部材を開弁方向に駆動する可動コア(50,50A)と、
前記弁部材を閉弁方向に押し付けるスプリング(81)と、
前記可動コアを前記開弁方向に吸引する固定コア(60)と、
前記固定コアに吸引力を発生させる電磁気回路(70)と、を備え
前記可動コアと前記固定コアとの間に設けられたコア側ダンパ室(56)及び前記可動コアと前記ハウジングとの間に設けられたハウジング側ダンパ室(57)が設けられており、
前記可動コアは、前記固定コアとの間で前記コア側ダンパ室を形成するアッパコア部(51,51A)と、前記ハウジングとの間で前記ハウジング側ダンパ室を形成するロアコア部(52,52A)と、前記アッパコア部と前記ロアコア部との間に設けられているミドルコア部(53,53A)と、を有しており、
前記可動コアには、前記アッパコア部、前記ミドルコア部、及び前記ロアコア部を貫通し、前記コア側ダンパ室と前記ハウジング側ダンパ室とを繋ぎ、前記可動コアの運動エネルギを減衰させるように燃料を通過させるダンパ流路(54,55)が設けられて
おり、
前記ロアコア部の一部が前記ミドルコア部及び前記アッパコア部を貫通して前記固定コアに臨むように設けられ、
前記ロアコア部に対して前記ミドルコア部が隙間嵌めで取り付けられ、前記ロアコア部に対して前記アッパコア部が締り嵌めで取り付けられることで、前記ミドルコア部が前記ロアコア部と前記アッパコア部との間で保持されている、燃料噴射装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の燃料噴射装置であって、
前記ロアコア部は、前記ミドルコア部と密接状態となる密接面が形成された鍔部と、前記鍔部の中央側から前記アッパコア部側に延びる円筒部と、を有しており、
前記円筒部が前記ミドルコア部及び前記アッパコア部を貫通するように設けられ、前記円筒部に対して前記ミドルコア部が隙間嵌めで取り付けられ、前記円筒部に対して前記アッパコア部が締り嵌めで取り付けられている、燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の燃料噴射装置であって、
前記アッパコア部は軟磁性材料によって形成され、前記ロアコア部は高硬度材料によって形成されており、
前記円筒部が前記アッパコア部よりも前記固定コア側に突出している、燃料噴射装置。
【請求項4】
請求項
1から3のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記ミドルコア部は高硬度材料によって形成されている、燃料噴射装置。
【請求項5】
請求項
1から4のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記ダンパ流路は、前記可動コアが前記開弁方向に駆動される場合と前記可動コアが前記閉弁方向に駆動される場合とで減衰力を異ならせる、燃料噴射装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の燃料噴射装置であって、
前記ダンパ流路に、前記可動コアの前記開弁方向における燃料通過量と前記閉弁方向における燃料通過量とを異ならせる減衰力変更部が設けられている、燃料噴射装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の燃料噴射装置であって、
前記ダンパ流路は、オリフィスのみが設けられた定常ダンパ流路(54)と、オリフィスと前記減衰力変更部とが設けられた可変ダンパ流路(55)と、を有する、燃料噴射装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の燃料噴射装置であって、
前記減衰力変更部は、逆止弁(553,555)を含んでいる、燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に燃料噴射装置には好適な燃料の噴射が求められる。好適な燃料の噴射を妨げる要因としては、燃料噴射装置の開弁動作及び閉弁動作の際に弁部材が他の部材と衝突することによる弁部材の跳ね返りがある。弁部材の跳ね返りは、排気状態の悪化に繋がる噴射量のばらつきを招く可能性がある。
【0003】
弁部材が、開弁動作時に固定コアに衝突し、閉弁動作時には弁座に衝突することによって、固定コアや弁座へ衝撃荷重が加わることで発生した摩耗に起因する噴射量増加が生じる可能性もある。弁部材の跳ね返りは、弁部材が噴孔を開閉する際に衝突する他の部材に対して与える衝撃を低減することで抑制できる。
【0004】
弁部材の跳ね返りを抑制する従来技術として、燃料噴射装置内にダンパ室及びオリフィスを設け、弁部材を減速する技術がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術では、燃料噴射装置の本体部内にダンパ室及びオリフィスが設けられている。ダンパ室及びオリフィスを本体部内に設けると、その設けた分だけ燃料噴射装置の体格増になる。
【0007】
本開示は、体格を大きくすることなく、弁部材が開弁動作及び閉弁動作の際に周囲の部材に与える衝撃を低減する燃料噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、燃料噴射装置であって、燃料を内燃機関の燃焼室に噴射するための噴孔(30)が設けられたハウジング(20)と、噴孔を開閉するように駆動される弁部材(40)と、弁部材を開弁方向に駆動する可動コア(50,50A)と、弁部材を閉弁方向に押し付けるスプリング(81)と、可動コアを前記開弁方向に吸引する固定コア(60)と、固定コアに吸引力を発生させる電磁気回路(70)と、を備えている。燃料噴射装置には、可動コアと固定コアとの間に設けられたコア側ダンパ室(56)及び可動コアとハウジングとの間に設けられたハウジング側ダンパ室(57)が設けられている。可動コアは、固定コアとの間でコア側ダンパ室を形成するアッパコア部(51,51A)と、ハウジングとの間でハウジング側ダンパ室を形成するロアコア部(52,52A)と、アッパコア部とロアコア部との間に設けられているミドルコア部(53,53A)と、を有している。可動コアには、アッパコア部、ミドルコア部、及びロアコア部を貫通し、コア側ダンパ室とハウジング側ダンパ室とを繋ぎ、可動コアの運動エネルギを減衰させるように燃料を通過させるダンパ流路(54,55)が設けられている。
【0009】
可動コアにダンパ流路を設けているので、ダンパ流路を通過する燃料の作用によって可動コアの運動エネルギを直接的に減衰させることができ、燃料噴射装置の体格を大きくすることなく弁部材が周辺部材に与える衝撃を低減することができる。可動コアは、アッパコア部、ミドルコア部、及びロアコア部の3つの部分を含むように構成しているので、それぞれの部分に求められる特性に応じたものとすることができる。アッパコア部は、固定コアと相対すると共に固定コアとの間でコア側ダンパ室を形成するので、固定コアに吸引されやすいような特性とすることができる。ロアコア部は、ハウジングとの間でハウジング側ダンパ室を形成するので、ハウジング側ダンパ室を形成するのに適した特性とすることができる。ミドルコア部は、アッパコア部とロアコア部との間に配置されるので、アッパコア部及びロアコア部と密接しダンパ流路を形成するのに適した特性とすることができる。
【0010】
本開示では、ロアコア部の一部がミドルコア部及びアッパコア部を貫通して固定コアに臨むように設けられ、ロアコア部に対してミドルコア部が隙間嵌めで取り付けられ、ロアコア部に対してアッパコア部が締り嵌めで取り付けられることで、ミドルコア部がロアコア部とアッパコア部との間で保持されていることも好ましい。
【0011】
この好ましい態様では、ミドルコア部及びアッパコア部を貫通するようにロアコア部を形成しているので、他の締結部材といったものを用いずに可動コアを形成することができる。アッパコア部は、ロアコア部との間にミドルコア部を配置しつつ締り嵌めでロアコア部に取り付けられるので、圧入といった手法でロアコア部と一体化することができる。ミドルコア部は隙間嵌めで取り付けられるので、ロアコア部との間で共摺りといった手法で、密接度を高めることができる。ミドルコア部とアッパコア部とは、ロアコア部に取り付ける前に共摺りといった手法で密接度を高めることができる。結果、可動コアを構成する3つの部分相互の密接度を高め、ダンパ流路の途中から燃料が漏れてしまうことを低減することができ、ダンパ流路の性能を確保することができる。
【0012】
本開示では、ロアコア部は、ミドルコア部と密接状態となる密接面が形成された鍔部と、鍔部の中央側からアッパコア部側に延びる円筒部と、を有し、円筒部がミドルコア部及びアッパコア部を貫通するように設けられ、円筒部に対してミドルコア部が隙間嵌めで取り付けられ、円筒部に対してアッパコア部が締り嵌めで取り付けられることも好ましい。
【0013】
この好ましい態様では、鍔部を設けているので、円筒部にミドルコア部を挿入することでミドルコア部を鍔部と当接させて位置決めをすることができる。鍔部には密接面が形成されているので、ミドルコア部との密接状態を実現することができる。アッパコア部は、ミドルコア部を鍔部との間で挟み込むように円筒部に挿入され、円筒部とは締嵌めで取り付けられるので、ミドルコア部と密接状態を確保しながら確実に取り付けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、体格を大きくすることなく、弁部材が開弁動作及び閉弁動作の際に周囲の部材に与える衝撃を低減する燃料噴射装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施形態における燃料噴射装置の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される可動コアまわりの拡大図である。
【
図4】
図4は、変形例である燃料噴射装置における可動コアまわりの拡大図である。
【
図7】
図7は、
図4に示される可動コアをVII方向から見た図である。
【
図8】
図8は、燃料噴射装置の効果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0017】
本実施形態に係る燃料噴射装置1の構成について、
図1を参照しながら説明する。燃料噴射装置1は内燃機関の燃焼室に燃料を適切なタイミングで供給するための装置である。燃料噴射装置1は主な構成要素として、ハウジング20、弁部材40、可動コア50、固定コア60、コイル70、第1スプリング81、第2スプリング82、を備えている。
【0018】
ハウジング20は、第1筒部材21と、第2筒部材22と、第3筒部材23と、を有している。弁部材40は、小径部41と、大径部42と、を有している。小径部41には、シール部411と、燃料通路412と、孔413と、が設けられている。
【0019】
可動コア50は、アッパコア部51と、ロアコア部52と、ミドルコア部53と、を有している。固定コア60は、外側固定コア61と、内側固定コア62と、を有している。
【0020】
第1筒部材21は、一端の外径が他端に比べて大きくなるように形成されている。外径が小さいほうの端部には噴孔30が設けられている。第1筒部材21の中空部には、第1筒部材21の一端から他端にかけて、小径部41の一部が収容されている。噴孔30を囲むように、弁部材40が当接する弁座31が設けられている。
【0021】
第2筒部材22は、第1筒部材21の開弁方向側の端部にて第1筒部材21と当接するように形成されている。第2筒部材22の外径及び内径は、第1筒部材21の開弁方向側の端部における外径及び内径とおよそ同一になっている。
【0022】
第3筒部材23は第2筒部材22の開弁方向側の端部にて第2筒部材22と当接するように形成されている。第3筒部材23の外径及び内径は、第1筒部材21の開弁方向側の端部における外径及び内径とおよそ同一になっている。
【0023】
それぞれの部材の材料は、例えば、第1筒部材21及び第3筒部材23はフェライト系ステンレス等の磁性体、第2筒部材22はオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料である。
【0024】
弁部材40は噴孔30を開閉するように駆動される。噴孔30へ向かう方向に弁部材40が移動すると、弁部材40は噴孔30を閉じるように移動することから、弁部材40から噴孔30へと向かう方向を閉弁方向とする。閉弁方向とは反対の方向を開弁方向とする。 燃料噴射装置1の噴孔30とは反対の端部には燃料をとりこむための導入口14が設けられている。導入口14側を供給側とし、噴孔30側を噴出側とする。
【0025】
弁部材40において、小径部41は噴出側の端部に設けられている。弁部材40において、大径部42は供給側の端部に設けられている。
【0026】
シール部411は、弁座31と当接する部分である。燃料通路412は、小径部41の内部を供給側から噴出側に至るように形成される内部空間である。燃料通路412の噴出側端部に孔44が設けられている。燃料通路412を通った燃料は、孔44を通って噴孔30に向かうように構成されている。
【0027】
可動コア50について、
図2、
図3を併せて参照しながら説明する。アッパコア部51は略円筒状の部材である。ロアコア部52は、鍔部521と、円筒部522と、を有している。鍔部521は、円筒部522の外周面が径方向に拡大されるように形成されている部分である。円筒部522は、鍔部521の中央側からアッパコア部51側に延びるように設けられている。ミドルコア部53は略円筒状の部材である。
【0028】
ミドルコア部53は、円筒部522に対して隙間嵌めで取り付けられるように形成されている。ミドルコア部53は、円筒部522の外周面と摺動可能なように配置される。
【0029】
アッパコア部51は、円筒部522に対して締嵌めで取り付けられるように形成されている。アッパコア部51は、円筒部522に対して圧入される。アッパコア部51が円筒部522に取り付けられる態様は、圧入に限られず、いわゆる焼き嵌めや冷やし嵌めといった手法を用いてもよい。また、締嵌めではなく隙間嵌めとした上で、アッパコア部51を円筒部522に対して溶接等で取り付けてもよい。
【0030】
鍔部521には、ミドルコア部53と密接状態で接する密接面523が設けられている。ミドルコア部53には、鍔部521と密接状態で接する密接面531が設けられている。ミドルコア部53には、アッパコア部51と密接状態で接する密接面532が設けられている。密接面531と密接面532とは、円盤状であるミドルコア部53のそれぞれ反対側の面として形成されている。アッパコア部51には、ミドルコア部53と密接状態で接する密接面511が設けられている。
【0031】
可動コア50を組み立てるにあたって、密接面511と密接面532とが密接状態となるように、共摺りといった手法でアッパコア部51及びミドルコア部53に対して平面度を上げる加工を行う。同様に、密接面531と密接面523とが密接状態となるように、共摺りといった手法でミドルコア部53及びロアコア部52に対して平面度を上げる加工を行う。
【0032】
平面度を上げる加工を行った後、ロアコア部52の円筒部522にミドルコア部53を挿入する。円筒部522にミドルコア部53を挿入した後、円筒部522にアッパコア部51を圧入する。
【0033】
可動コア50には、アッパコア部51、ミドルコア部53、及びロアコア部52を貫通するようにダンパ流路54が設けられている。ダンパ流路54は、連通路541と、連通路542と、オリフィス部543と、を有している。
【0034】
連通路541は、アッパコア部51に設けられている。連通路541は、アッパコア部51の供給側と噴出側とを繋ぐように貫通している。
【0035】
連通路542は、ロアコア部52に設けられている。連通路542は、ロアコア部52の鍔部521の供給側と噴出側とを繋ぐように貫通している。
【0036】
オリフィス部543は、ミドルコア部53に設けられている。オリフィス部543は、ミドルコア部53の供給側と噴出側とを繋ぐように貫通している。オリフィス部543は、流路の途中が狭窄されており、燃料の流動抵抗を高めて減衰力を発生するように形成されている。
【0037】
連通路541と、オリフィス部543と、連通路542とは、互いに連通するように配置され、ダンパ流路54を形成している。
図2及び
図3では、1つのダンパ流路54を例示しているが、ダンパ流路54の設置数に特に制限は無く、求められる減衰力といった設計要件によって設置数が定められる。
【0038】
本実施形態では、ミドルコア部53にオリフィス部543を設けているが、設置場所はミドルコア部53に限られるものではない。オリフィス部543は、アッパコア部51やロアコア部52の鍔部521に設けてもよい。
【0039】
アッパコア部51、ミドルコア部53はフェライト系ステンレス等の軟磁性材料で形成されている。ロアコア部52は、マルテンサイト系ステンレス等の金属材料で形成されている。ロアコア部52には硬度を調整するために焼き入れ処理を施している。
【0040】
固定コア60は、略円筒状に形成されている。固定コア60は、外側固定コア61及び内側固定コア62を有する。外側固定コア61は第3筒部材23と溶接され、ハウジング20の内側に固定されている。
【0041】
内側固定コア62は、外側固定コア61に対して閉弁方向側から圧入されている。内側固定コア62の内側面の一部の内径は、弁部材40の大径部42の外径よりも大きくなっており、弁部材40が摺動可能なように構成されている。内側固定コア62の開弁方向側の端部から、アジャスティングパイプ11が圧入されている。
【0042】
外側固定コア61は、フェライト系ステンレス等の軟磁性材料で形成されている。内側固定コア62は、マルテンサイト系ステンレス等の金属材料で形成されている。内側固定コア62は、所定の硬度を有するよう焼き入れ処理が施されている。内側固定コア62の、ロアコア部52における円筒部522と衝突する部位には窒化処理が施されている。
【0043】
外側固定コア61とアッパコア部51との間には、コア側ダンパ室56が設けられている。第1筒部材21とロアコア部52の鍔部521との間には、ハウジング側ダンパ室57が設けられている。
【0044】
コイル70がボビン71に巻き付けられ、電磁気回路を形成している。コイル70を覆うように、ホルダ15が設けられている。第3筒部材23とホルダ15の間にはカバー16が設けられている。ホルダ15とカバー16は、フェライト系ステンレス等の磁性体材料によって形成され、電磁気回路の一部をなす。
【0045】
導入口14から噴射側に向かって、燃料導入パイプ12が設けられている。燃料導入パイプ12の噴射側の端部には、燃料中の異物を捕集するためのフィルタ13が設けられている。フィルタ13はアジャスティングパイプ11と当接する。
【0046】
第1スプリング81は、一端が弁部材40の大径部42に当接し、他端がアジャスティングパイプ11の一端に当接している。第1スプリング81は、弁部材40に、閉弁方向に押し付ける力を加える。第2スプリング82は、一端がロアコア部52の噴射側端面に当接し、他端は第1筒部材21の内側段差面に当接している。第2スプリング82は、可動コア50に、開弁方向に押し付ける力を加える。
【0047】
続いて、燃料噴射装置1の動作について説明する。燃料噴射装置1によって噴射される燃料は、燃料導入パイプ12の導入口14から流入し、フィルタ13、アジャスティングパイプ11を通り、固定コア60の中空部、弁部材40の燃料通路43、第1筒部材21と弁部材40との間を流通する。燃料噴射装置1の作動時には、コア側ダンパ室56、ハウジング側ダンパ室57は燃料で満たされた状態となる。
【0048】
弁部材40が、弁座31から離隔する状態が開弁状態、弁座31と当接する状態が閉弁状態である。弁部材40が、開弁方向に駆動され閉弁状態から開弁状態へと遷移し、開弁方向への移動を終えるまでの動作を開弁動作とする。弁部材40が、閉弁方向に駆動され開弁状態から閉弁状態へと遷移し、閉弁方向への移動を終えるまでの動作を閉弁動作とする。
【0049】
弁部材40は、内側固定コア62の開弁方向側の端面と当接する位置まで移動することができる。弁部材40が内側固定コア62の開弁方向側の端面と当接するまで移動した状態を、フルリフトと称する。
【0050】
弁部材40が閉弁状態にある時,第1スプリング81が弁部材40を閉弁方向へ押し付けることにより、弁部材40のシール部411と弁座31が当接し、噴孔30は閉じられた状態となっている。
【0051】
コイル70に電力が供給されると、コイル70に磁力が生じる。コイル70に磁力が生じると、外側固定コア61、アッパコア部51、第1筒部材21、及び第3筒部材23に磁気回路が形成される。これにより、外側固定コア61とアッパコア部51との間に、磁気吸引力が発生し、アッパコア部51は開弁方向へと移動する。
【0052】
アッパコア部51の移動によって、ロアコア部52及びミドルコア部53も開弁方向へ移動する。ロアコア部52の円筒部522は弁部材40の大径部42と当接しているため、ロアコア部52の移動に伴って弁部材40は開弁方向へと移動する。
【0053】
閉弁状態においては、ロアコア部52の鍔部521とハウジング20の第1筒部材21とが当接しているため、ハウジング側ダンパ室57から燃料が押し出された状態になっている。一方、アッパコア部51と外側固定コア61とは離隔しているため、コア側ダンパ室56には燃料が満たされた状態となっている。
【0054】
弁部材40の開弁方向への移動時には、コア側ダンパ室56にある燃料が、ダンパ流路54を通ってハウジング側ダンパ室57へと流れる。ダンパ流路54を通過する燃料が受ける抵抗が、減衰力として可動コア50に加わる。可動コア50は、移動方向とは反対方向へ向かう力を受けるので減速する。可動コア50が減速されることで、可動コア50の運動エネルギは減衰する。
【0055】
開弁動作時には、弁部材40は第1スプリング81を圧縮しつつ、内側固定コア62と摺動しながら移動する。弁部材40の開弁方向への移動によって、開弁状態となり、噴孔30から燃料噴射装置1内部の燃料が噴射される。可動コア50の運動エネルギがダンパ流路54によって減衰するため、弁部材40の運動エネルギも減衰する。
【0056】
弁部材40は内側固定コア62と衝突するまで開弁方向へと移動し、フルリフトとなり、移動を停止する。弁部材40の運動エネルギは減衰されているので、弁部材40が内側固定コア62に衝突する際の衝撃力は減衰される。弁部材40がフルリフトとなることで開弁動作が終了する。
【0057】
閉弁動作時は、コイル70への通電が停止され、コイル70による磁気吸引力の発生が停止している。弁部材40は、第1スプリング81による閉弁方向への力を受けて閉弁方向へ移動する。弁部材40は、内側固定コア62と摺動しつつ、ロアコア部52を閉弁方向へと押し付けることで、ロアコア部52を閉弁方向へと移動させる。ロアコア部52の移動によって、可動コア50は閉弁方向へ移動する。
【0058】
可動コア50が閉弁方向へ移動すると、ハウジング側ダンパ室57にある燃料が、ダンパ流路54を通ってコア側ダンパ室56へと流れる。ダンパ流路54を通過する燃料が受ける抵抗が、減衰力として可動コア50に加わる。可動コア50は、移動方向とは反対方向へ向かう力を受けるので減速する。可動コア50が減速されることで、可動コア50の運動エネルギは減衰する。
【0059】
可動コア50が減速することで、弁部材40は減速する。弁部材40の運動エネルギも減衰する。減速されつつ移動する弁部材40は、シール部411が弁座31に着座すると、閉弁方向への移動を終える。弁部材40の運動エネルギの減衰によって、弁部材40が弁座31に衝突する際の衝撃力は減衰される。弁座31への着座により噴孔30が閉じられ、閉弁状態となる。
【0060】
本実施形態では、開弁動作時と閉弁動作時のいずれの場合においても、可動コア内に設けた連通路541とオリフィス部543を有するダンパ流路54によって、可動コアの運動エネルギを減衰させることが可能となる。可動コアの運動エネルギの減衰によって、弁部材40の運動エネルギが減衰する。
【0061】
弁部材40の運動エネルギが減衰するため、開弁動作時に弁部材40が内側固定コア62に衝突する際の衝撃を低減することができる。同様に閉弁動作時には弁部材40が弁座31に衝突する際の衝撃を低減することができる。
【0062】
本実施形態における燃料噴射装置1は、燃料を内燃機関の燃焼室に噴射するための噴孔30が設けられたハウジング20と、噴孔30を開閉するように駆動される弁部材40と、弁部材40を開弁方向に駆動する可動コア50と、弁部材40を閉弁方向に押し付ける第1スプリング81と、可動コア50を開弁方向に吸引する固定コア60と、固定コア60に吸引力を発生させる電磁気回路を構成するコイル70と、を備えている。燃料噴射装置1には、可動コア50と固定コア60との間に設けられたコア側ダンパ室56及び可動コア50とハウジング20との間に設けられたハウジング側ダンパ室57が設けられている。可動コア50は、固定コア60との間でコア側ダンパ室を形成するアッパコア部51と、ハウジング20との間でハウジング側ダンパ室57を形成するロアコア部52と、アッパコア部51とロアコア部52との間に設けられているミドルコア部53と、を有している。可動コア50には、アッパコア部51、ミドルコア部53、及びロアコア部52を貫通し、コア側ダンパ室56とハウジング側ダンパ室57とを繋ぎ、可動コア50の運動エネルギを減衰させるように燃料を通過させるダンパ流路54が設けられている。
【0063】
可動コア50にダンパ流路54を設けているので、ダンパ流路54を通過する燃料の作用によって可動コア50の運動エネルギを直接的に減衰させることができ、燃料噴射装置1の体格を大きくすることなく弁部材40が周辺部材に与える衝撃を低減することができる。可動コア50は、アッパコア部51、ミドルコア部53、及びロアコア部52の3つの部分を含むように構成しているので、それぞれの部分に求められる特性に応じたものとすることができる。アッパコア部51は、固定コア60と相対すると共に固定コア60との間でコア側ダンパ室56を形成するので、固定コア60に吸引されやすいような特性とすることができる。ロアコア部52は、ハウジング20との間でハウジング側ダンパ室57を形成するので、ハウジング側ダンパ室57を形成するのに適した特性とすることができる。ミドルコア部53は、アッパコア部51とロアコア部52との間に配置されるので、アッパコア部51及びロアコア部52と密接しダンパ流路54を形成するのに適した特性とすることができる。
【0064】
本実施形態では、ロアコア部52の一部がミドルコア部53及びアッパコア部51を貫通して固定コア60に臨むように設けられ、ロアコア部52に対してミドルコア部53が隙間嵌めで取り付けられ、ロアコア部52に対してアッパコア部51が締り嵌めで取り付けられることで、ミドルコア部53がロアコア部52とアッパコア部51との間で保持されている。
【0065】
ミドルコア部53及びアッパコア部51を貫通するようにロアコア部52を形成しているので、他の締結部材といったものを用いずに可動コア50を形成することができる。アッパコア部51は、ロアコア部52との間にミドルコア部53を配置しつつ締り嵌めでロアコア部52に取り付けられるので、圧入といった手法でロアコア部52と一体化することができる。ミドルコア部53は隙間嵌めで取り付けられるので、ロアコア部52との間で共摺りといった手法で、密接度を高めることができる。ミドルコア部53とアッパコア部51とは、ロアコア部52に取り付ける前に共摺りといった手法で密接度を高めることができる。結果、可動コア50を構成する3つの部分相互の密接度を高め、ダンパ流路54の途中から燃料が漏れてしまうことを低減することができ、ダンパ流路54の性能を確保することができる。
【0066】
本実施形態では、ロアコア部52は、ミドルコア部53と密接状態となる密接面511が形成された鍔部521と、鍔部521の中央側からアッパコア部51側に延びる円筒部522と、を有している。円筒部522がミドルコア部53及びアッパコア部51を貫通するように設けられ、円筒部522に対してミドルコア部53が隙間嵌めで取り付けられ、円筒部522に対してアッパコア部51が締り嵌めで取り付けられている。
【0067】
鍔部521を設けているので、円筒部522にミドルコア部53を挿入することでミドルコア部53を鍔部521と当接させて位置決めをすることができる。鍔部521には密接面523が形成されているので、ミドルコア部53との密接状態を実現することができる。アッパコア部51は、ミドルコア部53を鍔部521との間で挟み込むように円筒部522に挿入され、円筒部522とは締嵌めで取り付けられるので、ミドルコア部53と密接状態を確保しながら確実に取り付けることができる。
【0068】
本実施形態では、アッパコア部51は軟磁性材料によって形成され、ロアコア部52は高硬度材料によって形成されており、円筒部522がアッパコア部51よりも固定コア60側に突出している。
【0069】
アッパコア部51を軟磁性材料で形成することで、固定コア60に引き付けられやすくすることができ、可動コア50の可動性能が向上する。高硬度材料によって形成されている円筒部522がアッパコア部51を貫通して固定コア60側に突出するように構成することで、可動コア50が固定コア60に引き付けられた場合に、円筒部522を固定コア60に当て、軟磁性材料によって形成されているアッパコア部51を保護することができる。
【0070】
本実施形態では、ミドルコア部53は高硬度材料によって形成されていることも好ましい。
【0071】
高硬度材料を用いることで、ミドルコア部53と、アッパコア部51及びロアコア部52との密接状態をより高めることができる。密接状態が高まることで、ダンパ流路54の気密性が高くなり、より確実にダンパ効果を得ることができる。
【0072】
図1から
図3を参照しながら説明した燃料噴射装置1は、開弁動作時と閉弁動作時とでダンパ流路54が発生する減衰力が変わらないため、開弁動作時に可動コア50に作用する減衰力と閉弁動作時に可動コア50に作用する減衰力とが変わらないものである。
図4から
図7を参照しながら、開弁動作時に可動コアに作用する減衰力と閉弁動作時に可動コアに作用する減衰力が異なる態様について説明する。
【0073】
図4から
図7は、開弁動作時に可動コアに作用する減衰力と閉弁動作時に可動コアに作用する減衰力が異なる燃料噴射装置1Aを説明するための図である。燃料噴射装置1の変形例である燃料噴射装置1Aは、燃料噴射装置1にダンパ流路55を追加したものであるので、この点について主に説明する。
【0074】
燃料噴射装置1Aの可動コア50Aは、アッパコア部51Aと、ロアコア部52Aと、ミドルコア部53Aと、を有している。可動コア50Aは、可動コア50と同様のダンパ流路54に加えて、ダンパ流路55を有している。ダンパ流路55は、連通路551と、オリフィス部552と、逆止弁流路553と、溝部分554と、逆止弁体555と、を有している。
【0075】
図6に示されるように、連通路551は、アッパコア部51Aに2つ設けられている。連通路551は、アッパコア部51Aを開閉弁方向に貫通するように設けられている。連通路551は、コア側ダンパ室56とミドルコア部53Aとを繋ぐように設けられている。
【0076】
オリフィス部552は、ミドルコア部53Aに2つ設けられている。オリフィス部552は、ミドルコア部53Aを開閉弁方向に貫通するように設けられている。オリフィス部552は、連通路551との間で燃料を流通させることができるように、連通路551が設けられている位置に対応して配置されている。
【0077】
逆止弁流路553は、ロアコア部52Aに1つ設けられている。逆止弁流路553は、ロアコア部52Aを開閉弁方向に貫通するように設けられている。逆止弁流路553は、ハウジング側ダンパ室57とミドルコア部53Aとを繋ぐように設けられている。逆止弁流路553は、逆止弁体555が収まるように、ミドルコア部53A側が大径化された円錐形状をなしている。
【0078】
溝部分554は、ミドルコア部53Aにおいて、ロアコア部52Aに対向する面から後退するように設けられている。溝部分553は、2つのオリフィス部552と逆止弁流路553とを繋ぐように設けられている。
【0079】
逆止弁体555は、球状に形成されている。逆止弁体555は、ミドルコア部53Aとロアコア部52Aとの間に配置されている。逆止弁体555は、逆止弁流路553と溝部分554との間に配置されている。逆止弁体555は、開閉弁方向に移動可能なように配置されている。
【0080】
燃料噴射装置1Aの動作について説明する。弁部材40が開弁動作を行うとき、可動コア50Aは開弁方向へ移動する。可動コア50Aが移動するのに伴って、コア側ダンパ室56にある燃料が、ハウジング側ダンパ室57へと流れる。
【0081】
このように流れる燃料によって、逆止弁体555は閉弁方向へと押し付けられる。逆止弁体555が閉弁方向へと押し付けられ逆止弁流路553と当接することによって、ダンパ流路55を通る燃料の流通が制限される。燃料は、ダンパ流路54のみを通って可動コア50A内部を流れる。
【0082】
可動コア50Aは、ダンパ流路54から、閉弁方向へ向かう減衰力を受けることによって減速する。可動コア50Aが減速することで、弁部材40の運動エネルギが減衰する。弁部材40は、運動エネルギが減衰されつつ弁座31に衝突する。
【0083】
弁部材40が閉弁動作を行うとき、可動コア50Aは閉弁方向へ移動する。可動コア50Aが移動するのに伴って、ハウジング側ダンパ室57にある燃料が、コア側ダンパ室56へと流れる。
【0084】
このように流れる燃料によって、逆止弁体555は開弁方向へと押し付けられる。逆止弁体555が開弁方向へと移動すると、逆止弁流路553からは離隔して溝部分554に当接し、ダンパ流路55は燃料が通過可能な状態となる。燃料は、ダンパ流路54に加えて、ダンパ流路55も通って可動コア50A内部を流れる。
【0085】
可動コア50Aは、ダンパ流路54及びダンパ流路55から、開弁方向へ向かう減衰力を受けることによって減速する。可動コア50Aが減速することで、弁部材40の運動エネルギが減衰する。弁部材40は、運動エネルギが減衰されつつ内側固定コア62の端面に衝突する。
【0086】
燃料がダンパ流路54,55を通過する際に可動コア50Aから受ける抵抗の反作用が、弁部材40を減速させるように作用する力となる。ダンパ流路54,55が発生する減衰力は、可動コア50A内部の燃料通過量に応じて変化する。
【0087】
開弁動作では、ダンパ流路54にのみ燃料が流通可能であり、ダンパ流路55には燃料が流れない。閉弁動作では、ダンパ流路54及びダンパ流路55の双方に燃料が流通可能である。
【0088】
開弁動作の場合、閉弁動作の場合に比較して流路断面積がダンパ流路55の分だけ小さくなるため、燃料が可動コア50Aから受ける抵抗は閉弁動作の場合よりも大きくなる。このため、閉弁動作の場合よりも開弁動作の場合のほうが、可動コア50Aが受ける減衰力は大きくなる。
【0089】
燃料噴射装置1Aと従来の燃料噴射装置との比較を行う。
図8(A)は駆動信号のオンオフを表している。
図8(B)はコイル70への通電状態を表している。
図8(C)は燃料の噴射率を表している。
図8(C)においては、燃料噴射装置1Aの燃料噴射率は実線で、従来の燃料噴射装置の燃料噴射率は破線で表している。
【0090】
噴射率波形は、弁部材40のリフト量により単位時間当たりの噴射量が決定されるため、弁部材40のリフト量の波形と同傾向となる。
【0091】
図9は、
図8(C)の領域Aを拡大して示す図であって、燃料噴射率の立ち上がりタイミングを合わせるようにし、弁部材40が開弁動作をするときの燃料噴射率を示すものである。燃料噴射装置1Aでは、燃料噴射率の増加が従来の燃料噴射装置の燃料噴射率の増加と比べて緩やかになっている。この燃料噴射率の変化は弁部材40のリフト量が緩やかに上昇していることに起因するので、弁部材40がダンパ流路54によって減速されていることがわかる。
【0092】
図10は、
図8(C)の領域Bを拡大して示す図であって、燃料噴射率の立ち下がりタイミングを合わせるようにし、弁部材40が閉弁動作をするときの燃料噴射率を示すものである。燃料噴射装置1Aでは、燃料噴射率の減少が従来の燃料噴射装置の燃料噴射率の減少と比べて緩やかになっている。この燃料噴射率の変化は弁部材40のリフト量が緩やかに減少していることに起因するので、弁部材40がダンパ流路54及びダンパ流路55によって減速されていることがわかる。
【0093】
図9及び
図10に示されるように、燃料噴射装置1Aの燃料噴射率と従来の燃料噴射装置の燃料噴射率との差異を比較すると、開弁動作時の差異のほうが大きくなっている。この差異は、開弁動作時にダンパ流路54が発生するダンパ効果は、閉弁動作時にダンパ流路54及びダンパ流路55が発生するダンパ効果よりも大きいことに起因する。
【0094】
燃料噴射装置1Aにおいて、ダンパ流路54,55は、可動コア50Aが開弁方向に駆動される場合と可動コア50Aが閉弁方向に駆動される場合とで減衰力を異ならせることができる。
【0095】
開弁方向と閉弁方向とで減衰力を異ならせることで、所望の開弁特性及び閉弁特性に合わせて可動コア50Aにおけるダンパ流路54,55を構成し、所望の開弁特性及び閉弁特性を得ることができる。本実施形態では、開弁方向の減衰力を閉弁方向の減衰力よりも高めるように構成したが、閉弁方向の減衰力を開弁方向の減衰力よりも高めるように構成することも可能である。
【0096】
燃料噴射装置1Aにおいては、ダンパ流路55に、可動コア50Aの開弁方向における燃料通過量と閉弁方向における燃料通過量とを異ならせる減衰力変更部を設けている。ダンパ流路55に減衰力変更部を設けることで、燃料を通過させながら可動コア50Aの挙動を所望のものとすることができる。
【0097】
燃料噴射装置1Aのダンパ流路は、オリフィスのみが設けられた定常ダンパ流路としてのダンパ流路54と、オリフィスと減衰力変更部とが設けられた可変ダンパ流路としてのダンパ流路55と、を有する。オリフィスによって燃料通過量を減少させるので、流路を狭窄するという簡便な手法で減衰力を得ることができる。定常ダンパ流路としてのダンパ流路54と、可変ダンパ流路としてのダンパ流路55とを併存させることで、ダンパ流路54側における燃料流通を常に確保することができ、減衰力の調整が容易なものとなる。
【0098】
燃料噴射装置1Aにおいては、逆止弁流路553と逆止弁体555とを設けることで、減衰力変更部として機能させている。逆止弁流路553に逆止弁体555が密接することでダンパ流路55に流れる燃料を実質的にゼロとし、逆止弁流路553から逆止弁体555が離隔することでダンパ流路55に流れる燃料を確保することで、方向性に応じた減衰力の調整を確実に行うことができる。
【0099】
尚、燃料噴射装置1Aでは、ダンパ流路55に逆止弁流路553及び逆止弁体555を設け、ダンパ流路54と併存させたが、可動コアの減衰力調整はこの態様に限られるものではない。例えば、逆止弁流路553に逆止弁体555が近づいたとしても燃料流通を完全に遮断するのではなく、逆止弁流路553から逆止弁体555が離隔した場合よりも燃料流通を減じるようにすることも可能である。このようにすれば、ダンパ流路54を併存させる必要がなく、ダンパ流路55のみ設けることも可能である。
【0100】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素及びその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0101】
20:ハウジング
40:弁部材
50,50A:可動コア
51,51A:アッパコア部
52,52A:ロアコア部
53,53A:ミドルコア部
54,55:ダンパ流路
60:固定コア
56:コア側ダンパ室
57:ハウジング側ダンパ室