(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】防火処理部の形成方法、及び処理材受具
(51)【国際特許分類】
F16L 5/04 20060101AFI20221220BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F16L5/04
E04B1/94 E
E04B1/94 F
(21)【出願番号】P 2019019562
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000243803
【氏名又は名称】未来工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】谷 真也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佳志
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-189954(JP,A)
【文献】特開2013-158382(JP,A)
【文献】特開2018-192268(JP,A)
【文献】特開2000-346248(JP,A)
【文献】特開2015-059338(JP,A)
【文献】特開2009-243552(JP,A)
【文献】特開2009-197479(JP,A)
【文献】特開平08-004952(JP,A)
【文献】実公平06-003630(JP,Y2)
【文献】実開昭60-071780(JP,U)
【文献】特表2011-530024(JP,A)
【文献】特開2004-257227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 5/00
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の防火区画体を貫通して形成された貫通孔と当該貫通孔を貫通する配線・配管材との隙間に防火処理材を充填して形成される防火処理部の形成方法であって、
前記防火区画体を前記貫通孔が貫通する方向を前記貫通孔の軸方向とし、
前記防火処理部を形成するために必要な前記防火処理材の量を充填量とするとともに、前記充填量の前記防火処理材を前記貫通孔の軸方向一端から充填するために必要とされる前記貫通孔の軸方向一端からの前記軸方向への寸法を充填深さとし、
前記隙間に充填される前記防火処理材を前記隙間内で受け止めるための処理材受具が用いられ、
前記貫通孔の軸方向一端から軸方向他端に向けて前記充填深さだけ控えた位置に前記処理材受具の軸方向における最先端となる端面が位置するように前記隙間に前記処理材受具を挿入する挿入工程と、
前記挿入工程の後に、前記貫通孔の軸方向一端から前記処理材受具の前記端面まで前記防火処理材の前記充填量を前記隙間に充填する充填工程と、
前記充填工程の後に、前記処理材受具を前記貫通孔の前記軸方向の他端から除去する除去工程と、を有することを特徴とする防火処理部の形成方法。
【請求項2】
前記処理材受具は、前記端面に、前記隙間に充填された前記防火処理材が接触したことを確認するための確認部を備え、前記除去工程の後に、前記確認部を確認する確認工程を有する請求項
1に記載の防火処理部の形成方法。
【請求項3】
前記挿入工程では、前記処理材受具は前記貫通孔の軸方向他端から前記隙間に挿入される請求項1
又は請求項
2に記載の防火処理部の形成方法。
【請求項4】
前記処理材受具は、前記貫通孔の軸方向他端からの前記隙間への前記処理材受具の挿入量を示す表示部を備え、前記挿入工程では、前記表示部を目安として前記処理材受具を前記隙間に挿入する請求項
3に記載の防火処理部の形成方法。
【請求項5】
前記処理材受具は、前記防火区画体における前記貫通孔の前記軸方向他端の周囲に掛止する掛止片を備え、前記挿入工程では、前記掛止片が前記防火区画体に掛止するまで前記処理材受具を前記隙間に挿入する請求項
3に記載の防火処理部の形成方法。
【請求項6】
前記処理材受具は、シート材を捲回又は折り曲げて構成されるとともに、前記シート材は、前記隙間への挿入必要量を残して折り曲げられ、前記挿入工程では、前記挿入必要量を前記隙間に挿入する請求項
3に記載の防火処理部の形成方法。
【請求項7】
建物の防火区画体を貫通して形成された貫通孔と当該貫通孔を貫通する配線・配管材との隙間に防火処理材を充填して形成される防火処理部を形成するとき、前記隙間に充填された前記防火処理材を前記隙間内で受け止めるための処理材受具であって、
前記防火区画体を前記貫通孔が貫通する方向を前記貫通孔の軸方向とし、
前記防火処理部を形成するために必要な前記防火処理材の量を充填量とするとともに、前記防火処理材を前記貫通孔の軸方向一端から充填するために必要とされる前記貫通孔の軸方向一端からの前記軸方向への寸法を充填深さとした場合、
前記処理材受具は、シート材を捲回又は折り曲げて構成され、前記シート材は、前記貫通孔の前記軸方向への寸法より長い幅を有し、
前記シート材の幅方向を前記軸方向に沿わせて前記シート材を前記隙間に挿入した際に、前記貫通孔の軸方向一端から軸方向他端に向けて前記充填深さだけ控えた位置に前記処理材受具の軸方向における最先端となる端面が位置するように、前記貫通孔の軸方向他端から前記隙間への前記処理材受具の挿入量を示す表示部が前記シート材に設けられていることを特徴とする処理材受具。
【請求項8】
前記シート材は、前記幅方向に延びる補強部を備える請求項
7に記載の処理材受具。
【請求項9】
前記シート材は、平板状の基板と、前記基板の一面から突出し、かつ前記基板の一面との間に前記幅方向全体に亘って延びる複数の中空部を区画する波形部とを有し、前記シート材は、前記幅方向に交差する方向に捲回又は折り曲げることができる請求項
7又は請求項
8に記載の処理材受具。
【請求項10】
前記処理材受具は、前記防火区画体における前記貫通孔の前記軸方向他端の周囲に掛止する掛止片を備え、前記シート材は、前記幅方向に沿ってシート材の端面から途中まで延びるミシン目を備え、当該ミシン目に沿って前記シート材を切断し、折り曲げることで前記掛止片が形成され、前記シート材の折り曲げ起点が前記表示部である請求項
7~請求項
9のうちいずれか一項に記載の処理材受具
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火処理部の形成方法、及び処理材受具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の防火区画体に配線・配管材を貫通させる場合、この防火区画体には貫通孔が設けられ、該貫通孔に防火処理部が設けられる。
図11(a)又は
図11(b)に示すように、特許文献1に開示の防火処理部は、弾性弁を備えた2分割前の区画壁形成体90を用いて形成されている。2分割前の区画壁形成体90は半円筒状の本体部91と、この本体部91の一端の開口端面に形成されたフランジ状の係合部92と、本体部91の他端面を閉塞可能にして開閉する弾性弁93とを備える。弾性弁93は、扇形をした複数の弾性舌片94の集合体によって構成されている。
【0003】
区画壁形成体90を用いて防火処理部を形成する場合、防火区画壁95に貫通設置された壁貫通筒体96に管・ケーブル97を挿通した後に、壁貫通筒体96の両開口から、管・ケーブル97と壁貫通筒体96の内側との隙間に区画壁形成体90を2つずつ挿入する。各区画壁形成体90の係合部92を壁貫通筒体96の開口端に係合させ、壁貫通筒体96の開口端から適宜距離だけ奥方に入り込んだ位置に弾性舌片94が配置される。すると、壁貫通筒体96の両開口側に2分割前の区画壁形成体90が設置されるとともに弾性弁93が形成され、壁貫通筒体96の両開口側には、弾性弁93によって耐火剤98の充填空間99が形成される。そして、各充填空間99に、防火処理部を形成するために必要な量の耐火剤98が充填されることにより、防火区画壁95に防火処理部が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、防火処理部を形成するのに必要な量の耐火剤98を充填できるだけの空間、つまり充填空間99を壁貫通筒体96内に区画するには、壁貫通筒体96の開口端から必要な距離だけ奥方に入り込んだ位置に弾性弁93を配置する必要がある。
【0006】
しかし、特許文献1の防火処理部においては、管・ケーブル97と壁貫通筒体96の内側との隙間に、弾性舌片94側から区画壁形成体90を押し込み、弾性弁93を撓み変形させている。このため、隙間内で弾性弁93がどのように撓み変形しているかは確認しにくい。また、隙間が狭いほど、弾性弁93は壁貫通筒体96の開口側に近づくように撓み変形して充填空間99を狭めてしまい、壁貫通筒体96の開口端から必要な距離だけ奥方に入り込んだ位置に弾性弁93が配置されない場合がある。よって、特許文献1において、区画された充填空間99は、防火処理部を形成するために必要な量の耐火剤98を充填できるだけの空間を確保できていない虞があり、空間が狭い場合には耐火剤98の充填量が不足する虞がある。
【0007】
本発明の目的は、防火処理部を形成するために必要な量の防火処理材を充填する空間を適正に確保できる防火処理部の形成方法、及び処理材受具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するための防火処理部の形成方法は、建物の防火区画体を貫通して形成された貫通孔と当該貫通孔を貫通する配線・配管材との隙間に防火処理材を充填して形成される防火処理部の形成方法であって、前記防火区画体を前記貫通孔が貫通する方向を前記貫通孔の軸方向とし、前記防火処理部を形成するために必要な前記防火処理材の量を充填量とするとともに、前記充填量の前記防火処理材を前記貫通孔の軸方向一端から充填するために必要とされる前記貫通孔の軸方向一端からの前記軸方向への寸法を充填深さとし、前記隙間に充填される前記防火処理材を前記隙間内で受け止めるための処理材受具が用いられ、前記貫通孔の軸方向一端から軸方向他端に向けて前記充填深さだけ控えた位置に前記処理材受具の軸方向における最先端となる端面が位置するように前記隙間に前記処理材受具を挿入する挿入工程と、前記挿入工程の後に、前記貫通孔の軸方向一端から前記処理材受具の前記端面まで前記防火処理材の前記充填量を前記隙間に充填する充填工程と、を有することを要旨とする。
【0009】
また、防火処理部の形成方法について、前記充填工程の後に、前記処理材受具を前記貫通孔の前記軸方向の他端から除去する除去工程を有していてもよい。
また、防火処理部の形成方法について、前記処理材受具は、前記端面に、前記隙間に充填された前記防火処理材が接触したことを確認するための確認部を備え、前記除去工程の後に、前記確認部を確認する確認工程を有していてもよい。
【0010】
また、防火処理部の形成方法について、前記挿入工程では、前記処理材受具は前記貫通孔の軸方向他端から前記隙間に挿入されてもよい。
また、防火処理部の形成方法について、前記処理材受具は、前記貫通孔の軸方向他端からの前記隙間への前記処理材受具の挿入量を示す表示部を備え、前記挿入工程では、前記表示部を目安として前記処理材受具を前記隙間に挿入してもよい。
【0011】
また、防火処理部の形成方法について、前記処理材受具は、前記防火区画体における前記貫通孔の前記軸方向他端の周囲に掛止する掛止片を備え、前記挿入工程では、前記掛止片が前記防火区画体に掛止するまで前記処理材受具を前記隙間に挿入してもよい。
【0012】
また、防火処理部の形成方法について、前記処理材受具は、シート材を捲回又は折り曲げて構成されるとともに、前記シート材は、前記隙間への挿入必要量を残して折り曲げられ、前記挿入工程では、前記挿入必要量を前記隙間に挿入してもよい。
【0013】
上記問題点を解決するための処理材受具は、建物の防火区画体を貫通して形成された貫通孔と当該貫通孔を貫通する配線・配管材との隙間に防火処理材を充填して形成される防火処理部を形成するとき、前記隙間に充填された前記防火処理材を前記隙間内で受け止めるための処理材受具であって、前記防火区画体を前記貫通孔が貫通する方向を前記貫通孔の軸方向とし、前記防火処理部を形成するために必要な前記防火処理材の量を充填量とするとともに、前記防火処理材を前記貫通孔の軸方向一端から充填するために必要とされる前記貫通孔の軸方向一端からの前記軸方向への寸法を充填深さとした場合、前記処理材受具は、シート材を捲回又は折り曲げて構成され、前記シート材は、前記貫通孔の前記軸方向への寸法より長い幅を有し、前記シート材の幅方向を前記軸方向に沿わせて前記シート材を前記隙間に挿入した際に、前記貫通孔の軸方向一端から軸方向他端に向けて前記充填深さだけ控えた位置に前記処理材受具の軸方向における最先端となる端面が位置するように、前記貫通孔の軸方向他端から前記隙間への前記処理材受具の挿入量を示す表示部が前記シート材に設けられていることを要旨とする。
【0014】
また、処理材受具について、前記シート材は、前記幅方向に延びる補強部を備えていてもよい。
また、処理材受具について、前記シート材は、平板状の基板と、前記基板の一面から突出し、かつ前記基板の一面との間に前記幅方向全体に亘って延びる複数の中空部を区画する波形部とを有し、前記シート材は、前記幅方向に交差する方向に捲回又は折り曲げることができる。
【0015】
また、処理材受具について、前記処理材受具は、前記防火区画体における前記貫通孔の前記軸方向他端の周囲に掛止する掛止片を備え、前記シート材は、前記幅方向に沿ってシート材の端面から途中まで延びるミシン目を備え、当該ミシン目に沿って前記シート材を切断し、折り曲げることで前記掛止片が形成され、前記シート材の折り曲げ起点が前記表示部であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、防火処理部を形成するために必要な量の防火処理材を充填する空間を適正に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態のコンクリート壁における防火処理部を示す断面図。
【
図4】(a)はシート材を捲回した状態を示す斜視図、(b)は掛止片を形成した状態を示す斜視図。
【
図5】貫通孔に電線管を貫通させた状態を示す部分断面図。
【
図6】隙間に処理材受具の筒状部を挿入した状態を示す部分断面図。
【
図8】防火処理材を充填した状態を示す部分断面図。
【
図9】防火処理材の充填後に処理材受具を除去した状態を示す部分断面図。
【
図10】受け面に防火処理材が付着した状態を示す部分斜視図。
【
図11】(a)及び(b)は背景技術を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、防火処理部の形成方法、処理材受具、及び防火処理構造を具体化した一実施形態を
図1~
図10にしたがって説明する。
まず、建物の防火区画体としてのコンクリート壁Wについて説明する。
図1に示すように、コンクリート壁Wはコンクリート製の中実状をなすとともに、コンクリート壁Wのうち、建物の基礎となる部分には、配線・配管材としての電線管Pをコンクリート壁Wの厚さ方向に貫通させるための円孔状の貫通孔Waが形成されている。なお、貫通孔Waの中心軸線Lがコンクリート壁Wを貫通する方向を貫通孔Waの軸方向Xとする。また、コンクリート壁Wの厚さ方向の一端面を表面Wbとし、他端面を裏面Wcとする。また、電線管Pは、当該電線管Pの外周面が貫通孔Waの内周面から離間する状態に敷設され、貫通孔Waの内周面と電線管Pの外周面との間には隙間Sが形成されている。
【0020】
コンクリート壁Wにおいて、貫通孔Waと電線管Pとの間の隙間Sには、表面Wb側から防火処理材Zが充填されて防火処理部11が構築されている。防火処理材Zは、熱膨張性を有し、300℃以上の熱を受けると体積が加熱前の2倍以上に膨張する膨張材(膨張黒鉛)よりなるものである。
【0021】
防火処理部11は、貫通孔Waの軸方向Xの一端側となる表面Wb側から隙間Sに防火処理材Zを充填して形成され、防火処理部11は、貫通孔Waと電線管Pとの隙間Sを閉鎖している。したがって、防火処理部11は、貫通孔Waの軸方向Xの一端側、つまり表面Wb側に設けられ、貫通孔Waの軸方向Xの他端側となる裏面Wc側では隙間Sは空洞になっている。
【0022】
次に、貫通孔Waと電線管Pとの隙間Sに防火処理材Zを充填して形成される防火処理部11の形成方法、及び防火処理部11を形成するための処理材受具20について説明する。
【0023】
まず、処理材受具20について説明する。
図2又は
図3に示すように、処理材受具20は、段ボール製のシート材21を備える。シート材21は、矩形シート状である。シート材21の幅方向である短手方向への寸法は200mmであり、シート材21の長手方向への寸法は500mmである。シート材21の幅方向への寸法、つまり短手方向への寸法は、貫通孔Waの軸方向Xへの寸法より長い。
【0024】
シート材21は、矩形状及び平板状の第1基板22と、矩形状及び平板状の第2基板23と、第1基板22と第2基板23の対向面それぞれに接合された補強部としての波形部24と、を有する。第1基板22及び第2基板23は、同じ形状である。このため、第1基板22と第2基板23の短手方向の寸法は同じあり、長手方向の寸法も同じである。
【0025】
第1基板22は一面に第2基板23との対向面22aを備え、第2基板23は一面に第1基板22との対向面23aを備える。対向面22a,23aそれぞれには、波形部24が接合されている。シート材21を短手方向の一端側から見た側面視では、波形部24は、シート材21の長手方向に沿って波形状に延びる。また、波形部24は、波の頂点に第1基板22の対向面22aに接合する第1接合部24a及び第2基板23の対向面23aに接合する第2接合部24bを備える。第1接合部24a及び第2接合部24bは、シート材21の短手方向の全体に亘って延びるとともに、シート材21の長手方向に沿って交互に存在する。
【0026】
シート材21は、第1基板22と第2基板23と波形部24とで囲まれた中空部25を長手方向に複数備える。中空部25は、シート材21の短手方向の全体に亘って延びる。また、各中空部25は、シート材21の短手方向の両端に開口する。上記構成のシート材21は、短手方向、つまり幅方向に対し交差する方向に捲回又は折り曲げることができる。
【0027】
シート材21は、長手方向に延びる一対の端面のうちの一方の端面として第1端面21aを備え、他方の端面として第2端面21bを備える。第1端面21a及び第2端面21bは、それぞれ第1基板22、第2基板23、及び波形部24の短手方向の両端によって形成されている。処理材受具20は、シート材21の第1端面21aが隙間S内に位置するように使用され、処理材受具20の使用状態では、シート材21の第2端面21b側は、コンクリート壁Wの裏面Wc側から突出する。
【0028】
シート材21は、第2端面21bから第1端面21aに向けて短手方向へ延びる第1ミシン目27a、第2ミシン目27b、及び第3ミシン目27cをそれぞれ複数備える。第1~第3ミシン目27a~27cは、それぞれシート材21の短手方向へ直線状に延びる。第1~第3ミシン目27a~27cのうち、第1ミシン目27aが、シート材21の短手方向への寸法が最も長く、第2ミシン目27bが、シート材21の短手方向への寸法が2番目に長い。そして、第3ミシン目27cが、シート材21の短手方向への寸法が最も短い。第1~第3ミシン目27a~27cは、シート材21の長手方向の一端から他端に向けて、第1ミシン目27a、第2ミシン目27b、及び第3ミシン目27cの順番で並ぶとともに、その第1ミシン目27a、第2ミシン目27b及び第3ミシン目27cを一組として長手方向に複数設けられている。
【0029】
第1~第3ミシン目27a~27cにおいて、第1端面21aに近い端は表示部28を構成している。以下、表示部28について説明する。コンクリート壁Wに設けられる防火処理部11は、コンクリート壁Wの表面Wbから軸方向Xに沿って約75mm控えた位置まで設けられている。つまり、防火処理材Zは、コンクリート壁Wの表面Wbから75mmの深さまで充填されている。
【0030】
ここで、
図1に示すように、防火処理部11を形成するために必要な防火処理材Zの量を充填量とするとともに、この充填量の防火処理材Zをコンクリート壁Wの表面Wb側から隙間Sに充填するために必要とされる軸方向Xへの貫通孔Waの寸法を充填深さFとする。本実施形態では、充填深さFは75mmである。そして、処理材受具20は、コンクリート壁Wの表面Wbから充填深さFとなる位置に処理材受具20の軸方向の最先端となる端面が位置するように隙間Sに挿入される。表示部28は、この処理材受具20の挿入量を表示するためにシート材21に設けられている。
【0031】
図2に示すように、シート材21の短手方向に沿った第1端面21aから第1ミシン目27aの表示部28までの寸法は75mmであり、第2端面21bから表示部28までの寸法は125mmである。第1ミシン目27aにおける表示部28は、150mmの厚さのコンクリート壁Wに防火処理材Zを充填するときの目安として用いられる。つまり、第1ミシン目27aの表示部28を、厚さ150mmのコンクリート壁Wの裏面Wcに一致させることで、シート材21の第1端面21aを表面Wbから75mm控えた位置に位置させることができる。よって、第1ミシン目27aの表示部28は、処理材受具20を貫通孔Waの軸方向X他端側、つまりコンクリート壁Wの裏面Wc側から隙間Sに挿入するときの挿入量を表示していると言える。
【0032】
また、シート材21の短手方向に沿った第1端面21aから第2ミシン目27bの表示部28までの寸法は105mmであり、第2端面21bから表示部28までの寸法は95mmである。第2ミシン目27bにおける表示部28は、180mmの厚さのコンクリート壁Wに防火処理材Zを充填するときの目安として用いられる。つまり、第2ミシン目27bの表示部28を、コンクリート壁Wの裏面Wcに一致させることで、シート材21の第1端面21aを表面Wbから75mm控えた位置に位置させることができる。よって、第2ミシン目27bの表示部28は、処理材受具20を貫通孔Waの軸方向X他端側、つまりコンクリート壁Wの裏面Wc側から隙間Sに挿入するときの挿入量を表示していると言える。
【0033】
シート材21の短手方向に沿った第1端面21aから第3ミシン目27cの表示部28までの寸法は125mmであり、第2端面21bから表示部28までの寸法は75mmである。第3ミシン目27cにおける表示部28は、200mmの厚さのコンクリート壁Wに防火処理材Zを充填するときの目安として用いられる。つまり、第3ミシン目27cの表示部28を、コンクリート壁Wの裏面Wcに一致させることで、シート材21の第1端面21aを表面Wbから75mm控えた位置に位置させることができる。よって、第3ミシン目27cの表示部28は、処理材受具20を貫通孔Waの軸方向X他端側、つまりコンクリート壁Wの裏面Wc側から隙間Sに挿入するときの挿入量を表示していると言える。
【0034】
次に、上記構成のシート材21より形成される処理材受具20について製造方法とともに説明する。
図4(a)に示すように、第1~第3ミシン目27a~27cのいずれかを、シート材21の切断始点となる第2端面21bから切断し、終点となる表示部28までシート材21を切断する。本実施形態では、第1ミシン目27aに沿ってシート材21を切断している。すると、シート材21における第2端面21b寄りの部分が、シート材21の長手方向へ複数に分割される。次に、シート材21を長手方向に沿って捲回し、筒状にする。次に、
図4(b)に示すように、シート材21を切断して形成された複数の分割片を、第1ミシン目27aの切断終点となる表示部28を折り曲げ基点として外側に向けて折り曲げて掛止片29を形成すると、処理材受具20が完成する。なお、処理材受具20の製造順序は適宜変更してもよく、例えば、シート材21を捲回した後に、第1~第3ミシン目27a~27cのいずれかを切断し、折り曲げて掛止片29を形成して処理材受具20を製造してもよいし、シート材21に掛止片29を形成した後に捲回して処理材受具20を製造してもよい。
【0035】
処理材受具20は、シート材21のうち、筒状に捲回された部分から構成される筒状部31と、シート材21のうち、筒状部31の外周面から外方へ突出するように折り曲げられた部分から構成される複数の掛止片29とを備える。筒状部31は、コンクリート壁Wの裏面Wc側から貫通孔Waと電線管Pとの隙間Sに詰め込みながら挿入される。筒状部31の軸線は、シート材21の短手方向に延びるため、筒状部31は、シート材21の短手方向、つまり幅方向が貫通孔Waの軸方向Xに一致するように隙間Sに挿入される。筒状部31は、隙間Sに挿入するために筒状部31の内側に向けて変形できる。処理材受具20は、筒状部31の軸方向における最先端となる端面に受け面31aを備える。受け面31aは、シート材21の第1端面21aによって形成される。受け面31aは、コンクリート壁Wの表面Wb側から隙間Sに充填される防火処理材Zを受け止め、コンクリート壁Wの裏面Wc側への防火処理材Zが充填されることを規制する。
【0036】
受け面31aに防火処理材Zが接触し、受け面31aによって防火処理材Zが受け止められると、段ボール製の受け面31aは濡れて変色したり、軟化する。したがって、防火処理材Zの充填が完了した後、処理材受具20を隙間Sから抜き出し、受け面31aを確認したとき、受け面31aが濡れて変色したり、軟化していることを確認できれば、受け面31aに至るまで防火処理材Zが充填されたことが確認できる。よって、受け面31aは確認部として機能する。
【0037】
次に、処理材受具20を用いた防火処理部11の形成方法及び防火処理構造を作用とともに説明する。なお、厚さ150mmのコンクリート壁Wに防火処理部11を形成する場合に具体化して説明する。なお、
図5に示すように、コンクリート壁Wの貫通孔Waには、既に敷設された電線管Pが挿通され、電線管Pの外周面と貫通孔Waの内周面との間に隙間Sが区画されている。
【0038】
防火処理部11の形成方法は、処理材受具20を隙間Sに挿入する挿入工程K1と、挿入工程K1の後に行われ、隙間Sに防火処理材Zを充填する充填工程K2とを有する。また、防火処理部11の形成方法は、充填工程K2の後に行われ、隙間Sから処理材受具20を除去する除去工程K3と、除去工程K3の後に行われ、隙間Sから除去された処理材受具20の受け面31aを確認する確認工程K4と、を有する。
【0039】
挿入工程K1は、貫通孔Waの軸方向X一端から軸方向X他端に向けて充填深さFだけ控えた位置に処理材受具20の受け面31aが位置するように隙間Sに処理材受具20を挿入する工程である。まず、
図6に示すように、処理材受具20の筒状部31を、受け面31a側から貫通孔Waの軸方向X他端の隙間Sに挿入する。このとき、筒状部31を縮径方向に変形させて隙間Sに押し込み、筒状部31を変形させながら隙間Sに詰め込む。第1ミシン目27aの表示部28がコンクリート壁Wの裏面Wcに一致し、かつ各掛止片29がコンクリート壁Wの裏面Wcに掛止するまで筒状部31を隙間Sに押し込む。本実施形態では、掛止片29が裏面Wcに掛止するまで、隙間Sに対する筒状部31の挿入量を調節することになる。
【0040】
その結果、挿入工程K1が完了するとともに、防火処理構造40が完成する。
図7に示すように、防火処理構造40においては、筒状部31の内面が電線管Pの外面に圧接するとともに、筒状部31の外面が貫通孔Waの内面に圧接した状態になる。このため、筒状部31の内面と電線管Pの外面との摩擦、及び筒状部31の外面と貫通孔Waの内面との摩擦により、軸方向Xへの処理材受具20の移動が抑制された状態になる。また、隙間S内では、処理材受具20の受け面31aが、コンクリート壁Wの表面Wbから75mm控えた位置に配置される。
【0041】
さらに、縮径方向へ変形させて隙間Sに詰め込まれた筒状部31により、電線管Pの外周面を貫通孔Waの内周面から離間させた状態に維持でき、電線管Pの周りに隙間Sを区画した状態を維持できる。そして、隙間Sに筒状部31が詰め込まれることにより、貫通孔Wa内では、貫通孔Waの軸方向に沿って電線管Pの一部が筒状部31によって支持されるとともに、電線管Pを貫通孔Waの中心軸線Lに寄せた状態にできる。
【0042】
図6に示すように、防火処理構造40において、貫通孔Waの軸方向X一端側には、貫通孔Waの内周面と、電線管Pの外周面と、受け面31aとで囲まれた充填空間41が区画される。充填空間41は、コンクリート壁Wの表面Wbから外部に開放されている。充填空間41において、軸方向Xに沿った表面Wbから受け面31aまでの寸法は75mmであり、75mmの充填深さFを有する。充填空間41は、貫通孔Wa内において防火処理部11を形成するために必要な量の防火処理材Zを充填するための空間である。したがって、処理材受具20を用いることで、防火処理部11を形成するために必要な量の防火処理材Zを充填するための空間、つまり充填空間41を簡単かつ適正に形成できる。
【0043】
図8に示すように、挿入工程K1の後、充填工程K2が行われる。充填工程K2は、貫通孔Waの軸方向X一端側から処理材受具20の受け面31aまで防火処理材Zの充填量を隙間Sに充填する工程である。充填量の防火処理材Zが隙間Sに充填されると、防火処理材Zが筒状部31の受け面31aまで達し、受け面31aに接触する。また、防火処理材Zは、電線管Pを周方向の全体に亘って取り囲むように隙間Sに充填される。
【0044】
防火処理材Zの充填時、貫通孔Waの内面及び電線管Pの外面に圧接した筒状部31は、摩擦によって軸方向X他端に向けた移動が規制され、受け面31aによって防火処理材Zの充填圧が受け止められる。このため、充填工程K2では、コンクリート壁Wの表面Wbから75mm控えた位置まで防火処理材Zが充填されるとともに、75mmよりも軸方向X他端側へ防火処理材Zが充填されることが抑制される。
【0045】
図9に示すように、充填工程K2の後、除去工程K3が行われる。除去工程K3は、処理材受具20を貫通孔Waの軸方向X他端側から抜き取り、処理材受具20を隙間Sから除去する工程である。処理材受具20は、貫通孔Waの軸方向Xのうち、充填された防火処理材Zとは反対側から抜き取られる。
【0046】
図10に示すように、除去工程K3の後、確認工程K4が行われる。確認工程K4は、隙間Sから抜き取った処理材受具20の受け面31aの状態を確認する工程である。
図10のドットハッチングに示すように、受け面31aに防火処理材Zが付着していたり、中空部25に防火処理材Zの一部が入り込んでいれば、受け面31aに防火処理材Zが接触していたことになるため、表面Wbから75mm控えた位置まで防火処理材Zが充填されたことを確認できる。
【0047】
そして、隙間Sから処理材受具20が除去されると、コンクリート壁Wの裏面Wc側には、処理材受具20の掛止片29は無くなり、隙間Sの空洞だけが残る状態となり、コンクリート壁Wに防火処理部11が形成される。
【0048】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)防火処理部11の形成方法において、挿入工程K1では、処理材受具20を隙間Sに挿入し、その挿入量を調節して処理材受具20の受け面31aを表面Wbから充填深さFだけ控えた位置に位置させる。このため、処理材受具20によって区画された充填空間41には、処理材受具20を挿入する過程で処理材受具20そのものが変形して入り込んでしまうことは無く、処理材受具20によって充填空間41が狭められることがない。その結果として、防火処理部11を形成するために必要な量の防火処理材Zを充填する空間を充填空間41として適正に確保でき、充填空間41に充填される防火処理材Zの量に不足が生じることを抑制できる。
【0049】
(2)防火処理部11の形成方法では、処理材受具20の受け面31aが表面Wbから充填深さFだけ控えた位置に位置するように裏面Wc側に処理材受具20を配置した。このため、防火処理部11の形成時、防火処理材Zが充填される側となるコンクリート壁Wの表面Wb側に処理材受具20が露出せず、見栄えが悪化しない。
【0050】
(3)充填される防火処理材Zを受け止める従来の治具として、半円筒状の部材を2つ組付けて円筒状に形成されるものがある。従来の治具は、円筒状の部材の内周面から突出する複数の弾性舌片よりなる弾性弁を有する。この治具は、貫通孔Waに電線管Pが挿通された後、貫通孔Waと電線管Pとの隙間に挿入されて使用される。従来の治具は、隙間Sに半円筒状の部材を挿入するとき、弾性片が電線管Pに接触して挿入性が低い。しかし、本実施形態の処理材受具20は、段ボール製のシート材21を変形させて形成され、弾性片を備えないため、隙間Sへの挿入が行いやすく、防火処理部11の形成作業が行いやすい。
【0051】
また、処理材受具20は、断ボール製であり、従来の治具の弾性弁と比べると変形しにくい。このため、電線管Pの自重によって処理材受具20の筒状部31が変形することが抑制される。特に従来の治具は、電線管Pの自重によって下がることで電線管Pとその上側の弾性弁との間に隙間ができてしまい、防火処理材Zが弾性弁よりも奥方まで進入してしまうが、本実施形態の処理材受具20は、隙間Sに詰め込まれており、電線管Pより上側において筒状部31の外面と貫通孔Waの内面との間に隙間が形成されることを抑制できる。その結果として、充填された防火処理材Zが受け面31aより奥へ充填されることが抑制され、無駄な防火処理材Zの消費を抑制できる。
【0052】
また、処理材受具20の受け面31aは、貫通孔Waの軸方向Xに軸が延びる筒状部31の端面によって形成され、従来の治具の弾性弁と比べて剛性が高く、変形しにくく、受け面31aの変形に伴う防火処理材Zの充填量の変化が小さい。
【0053】
(4)防火処理部11の形成方法では、充填工程K2の後に除去工程K3を行い、処理材受具20を貫通孔Waの他端側から除去する。このため、防火処理部11には処理材受具20が存在しないことになる。よって、処理材受具20を難燃材や不燃材で形成する必要がなく、処理材受具20を断ボールといった可燃材で作ることができ、処理材受具20を安価に製造できる。
【0054】
(5)除去工程K3の後に行う確認工程K4では、処理材受具20の受け面31aを確認する。確認工程K4により、受け面31aに達するまで防火処理材Zが充填されたか否かを確認できる。よって、受け面31aを確認して、受け面31aに達するまで防火処理材Zが充填されていなければ、防火処理材Zを充填し直すことで、防火処理材Zの充填不足が発生することを回避できる。
【0055】
(6)挿入工程K1では、処理材受具20は、貫通孔Waの軸方向X他端から隙間Sに挿入される。このため、防火処理材Zの充填側となる貫通孔Waの軸方向X一端側から処理材受具20を挿入する場合よりも、処理材受具20の挿入量、つまり、貫通孔Wa内で処理材受具20を移動させる量が少なく済み、挿入工程K1に要する時間を短くできる。
【0056】
(7)処理材受具20は、隙間Sへの処理材受具20の挿入量を示す表示部28を備える。このため、挿入工程K1では、表示部28が裏面Wcに一致するまで処理材受具20を挿入する作業を表示部28を視認しながら行うことができ、処理材受具20の挿入量の調節が容易となるとともに、防火処理材Zを充填する位置、つまり充填深さFに受け面31aが位置するように処理材受具20を隙間Sに挿入できる。よって、充填深さFに受け面31aが位置しているか否かの作業を目視や測定器を用いて確認する場合と比べて挿入工程K1を容易に行うことができる。
【0057】
(8)処理材受具20は複数の掛止片29を備える。挿入工程K1では、掛止片29がコンクリート壁Wの裏面Wcにおける貫通孔Waの周囲に掛止するまで処理材受具20を隙間Sに挿入する。掛止片29がコンクリート壁Wに掛止することで、処理材受具20の全てが隙間Sに入り込んでしまうことを抑制できるとともに、隙間Sに対する処理材受具20の挿入量の調節が容易となる。さらに、受け面31aが表面Wbに近づいて、充填空間41が狭くなることを抑制できる。
【0058】
(9)掛止片29は、第1ミシン目27aの表示部28を起点としてシート材21を折り曲げて形成される。このため、掛止片29をコンクリート壁Wの裏面Wcに掛止させることで、処理材受具20の隙間Sへの入り込みを抑制しつつ、受け面31aを表面Wbから充填深さF控えた位置に配置できる。したがって、掛止片29を形成しながらも、表示部28も視認しやすくなり、処理材受具20の使用勝手が良くなる。
【0059】
(10)掛止片29は、シート材21を折り曲げて形成される。このため、処理材受具20の隙間Sへの入り込みを抑制する掛止片29を簡単に形成できる。
(11)処理材受具20を構成するシート材21は、第1基板22と第2基板23と波形部24とを備え、波形部24は、シート材21に中空部25を形成する。そして、受け面31aには、中空部25が開口している。このため、充填深さFまで防火処理材Zが充填されると、中空部25に防火処理材Zが入り込むため、確認工程K4での確認が行いやすい。
【0060】
(12)処理材受具20を構成するシート材21は、第1基板22と第2基板23と波形部24とを備え、波形部24によってシート材21は幅方向である短手方向に補強されている。よって、処理材受具20が、短手方向と貫通孔Waの軸方向Xとが一致するように隙間Sに挿入されることで、防火処理材Zの充填圧によって処理材受具20の筒状部31が変形することが抑制され、充填深さFに受け面31aを位置させた状態に維持できる。
【0061】
(13)隙間Sに対する処理材受具20の挿入量を調節して挿入工程K1を行うと、貫通孔Wa内には、貫通孔Waと電線管Pと処理材受具20の受け面31aで囲まれた充填空間41が区画される。充填空間41は、貫通孔Waの軸方向X一端側から開放され、かつ充填深さFだけ控えた位置に区画される。よって、充填空間41に防火処理材Zを充填するだけで防火処理部11を形成できる。
【0062】
(14)シート材21は第1~第3ミシン目27a~27cの3種類を備える。このため、コンクリート壁Wの厚さに応じて切断するミシン目を選択することで、コンクリート壁Wの表面Wbから充填深さF控えた位置に受け面31aを配置できる。
【0063】
(15)挿入工程K1では、隙間Sに処理材受具20を詰め込むため、詰め込んだ処理材受具20により、電線管Pを貫通孔Waの内周面から離間した状態に維持できる。このため、処理材受具20を詰め込むことで隙間Sを維持でき、電線管Pを周方向全体に亘って取り囲むように防火処理材Zを充填できる。
【0064】
(16)充填工程K2では、貫通孔Waの内面及び電線管Pの外面に圧接した筒状部31は、軸方向X他端に向けた移動が規制される。このため、受け面31aによって防火処理材Zの充填圧が受け止められ、防火処理材Zが充填深さFとなる位置よりも奥へ進入することを抑制できる。
【0065】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 実施形態では、一つの処理材受具20を隙間Sに挿入したが、二つ以上の処理材受具20を隙間Sに挿入してもよい。この場合、二つ以上の処理材受具20は、シート材21を折り曲げつつ重ねて使用してもよいし、二つ以上のシート材21によって電線管Pの周方向全体を径方向外側から覆うようにして使用してもよい。さらには、シート材21を一つずつ丸めて(捲回して)棒状とし、棒状としたシート材21を複数隙間Sに詰め込んでもよい。なお、重ねたり、丸めたりしたシート材21は、重ねたシート材21同士の間や、丸めたシート材21そのものの端面、さらには、丸めたシート材21同士の間に空間があってもよい。
【0066】
○ 処理材受具20は、筒状部31の軸方向の最先端となる端面付近に弾性弁を備えていてもよい。この場合、防火処理材Zの充填側とは反対側から、弾性弁側から処理材受具20を隙間Sに挿入する。すると、弾性弁は、充填空間41とは反対側、つまり防火処理材Zの充填側とは反対側に撓むため、弾性弁によって区画された充填空間41が狭くなることがなく、充填空間41には、防火処理部11を形成するために必要な量の防火処理材Zを充填できる。
【0067】
○ 実施形態では、筒状部31が貫通孔Waの内面及び電線管Pの外面に圧接することで、充填圧による移動を規制したが、貫通孔Waの内面及び電線管Pの外面に対する筒状部31の圧接力を弱め、充填圧で処理材受具20が移動するようにしてもよい。このように構成すると、防火処理材Zが受け面31aに達すると、充填圧により処理材受具20が軸方向Xの他端側へ移動する。この処理材受具20の移動を確認することで防火処理材Zが充填量だけ充填されたことを確認してもよい。
【0068】
○ 挿入工程K1では、貫通孔Waの軸方向Xの他端側から処理材受具20を挿入したが、貫通孔Waの軸方向Xの一端側から隙間Sに処理材受具20を挿入してもよい。この場合、処理材受具20は第2端面21b側から隙間Sに挿入される。そして、貫通孔Waの軸方向Xの他端側からシート材21の第2端面21b側を突出させ、表示部28が裏面Wcに一致するようにシート材21の突出量を調節することで、受け面31aを表面Wbから充填深さFだけ控えた位置に配置できる。
【0069】
○ シート材21の第1~第3ミシン目27a~27cは無くてもよい。この場合、表示部28はシート材21の長手方向に直線状に延びる直線や目印によって形成してもよい。
【0070】
○ 表示部28は無くてもよい。この場合、処理材受具20は、シート材21を捲回又は折り曲げて構成されるとともに、シート材21における隙間Sへの挿入必要量を残して折り曲げられる。例えば、厚さ150mmのコンクリート壁Wの隙間Sに処理材受具20を挿入する場合は、シート材21の短手方向に沿う寸法が75mmの筒状部31を形成し、その筒状部31によって挿入必要量を確保する。そして、筒状部31を残して掛止片29を形成するようにシート材21を折り曲げる。そして、挿入工程K1では、挿入必要量を確保した筒状部31を隙間Sに挿入する。
【0071】
○ シート材21の幅方向への寸法を、コンクリート壁Wの厚さから充填深さFを差し引いた値とし、シート材21の幅方向の他端面である第2端面21bを表示部としてもよい。この場合は、シート材21の第2端面21bがコンクリート壁Wの表面Wbに一致するように、処理材受具20を隙間Sに挿入する。
【0072】
○ 受け面31aに、防火処理材Zと接触すると変色する塗料を塗布しておき、確認工程K4では、塗料の変色の有無を確認して、受け面31aに防火処理材Zが達したか否かを確認してもよい。
【0073】
○ 掛止片29を形成せずに処理材受具20を使用してもよいし、シート材21に第1~第3ミシン目27a~27cを形成せず、掛止片29が形成されない構成であってもよい。
【0074】
○ シート材21は断ボール以外の材質であってもよい。例えば、可撓性を有する樹脂板等でシート材21が形成されていてもよい。
○ 処理材受具20を貫通孔Waに挿入した後、貫通孔Waに電線管Pを貫通させ、電線管Pを処理材受具20の内側を貫通させることで、貫通孔Waと電線管Pとの隙間Sに処理材受具20を挿入した状態としてもよい。
【0075】
○ 充填工程K2の後、除去工程K3を行わず、処理材受具20を隙間Sに挿入したままとしてもよい。この場合、処理材受具20は難燃性又は不燃性の材料で形成するのが好ましいし、確認工程K4は行わない。
【0076】
○ 実施形態では、配線・配管材を電線管Pに具体化したが、配線・配管材はケーブルやその他の管材に具体化してもよい。
○ 実施形態では、貫通孔Waを円孔状に形成したが、貫通孔Waは四角孔状等の多角孔状であっても良いし、楕円孔状であってもよい。
【0077】
○ 実施形態において、コンクリート壁Wに形成した孔にスリーブを設置し、該スリーブの内側を貫通孔としてもよい。なお、スリーブは、コンクリート壁Wの表面Wbや裏面Wcから突出するように設置してもよい。
【0078】
○ 防火処理材Zは、耐火性を有する発泡性材料であってもよいし、コーキング材であってもよい。
○ 処理材受具20のシート材21は、1枚の基板に波形部24が接合された構成であってもよい。
【0079】
○ シート材21において、波形部24の代わりに、第1基板22の対向面22aと第2基板23の対向面23aとを平板状に繋ぐリブを設け、リブを補強部としてもよいし、第1基板22又は第2基板23の外面にリブを設けて補強部としてもよい。
【0080】
○ 貫通孔Waを形成する部分はコンクリート壁Wの基礎部分以外でもよい。
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)建物の防火区画体を貫通して形成された貫通孔と当該貫通孔を貫通する配線・配管材との隙間に防火処理材を充填して防火処理部を形成する際に当該防火処理材を受け止めるための処理材受具を有する防火区画体の防火処理構造であって、
前記防火区画体を前記貫通孔が貫通する方向を前記貫通孔の軸方向とし、
前記防火処理部を形成するために必要な前記防火処理材の量を充填量とするとともに、前記充填量の前記防火処理材を前記貫通孔の軸方向一端から充填するために必要とされる前記貫通孔の軸方向一端からの前記軸方向への寸法を充填深さとし、
前記処理材受具は、前記貫通孔の軸方向一端から軸方向他端に向けて前記充填深さだけ控えた位置に前記処理材受具の軸方向における最先端となる端面が位置するように前記隙間に挿入されており、
前記貫通孔における軸方向一端に開放し、前記貫通孔と前記配線・配管材と前記処理材受具の端面とにより囲まれた充填空間が区画され、かつ前記処理材受具は、前記防火処理材の充填圧による移動が規制されていることを特徴とする防火区画体の防火処理構造。
【符号の説明】
【0081】
F…充填深さ、P…配線・配管材としての電線管、S…隙間、W…コンクリート壁、X…軸方向、Z…防火処理材、K1…挿入工程、K2…充填工程、K3…除去工程、K4…確認工程、Wa…貫通孔、11…防火処理部、20…処理材受具、21…シート材、22…第1基板、23…第2基板、24…補強部としての波形部、25…中空部、27a~27c…第1~第3ミシン目、28…表示部、29…掛止片、31a…端面及び確認部としての受け面、40…防火処理構造、41…充填空間。