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特許7197400高圧ガスタンクおよび高圧ガスタンクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】高圧ガスタンクおよび高圧ガスタンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20221220BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019029228
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020133781
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 相根
(72)【発明者】
【氏名】三好 新二
【審査官】永田 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-155337(JP,A)
【文献】特開2013-160285(JP,A)
【文献】特開2011-106514(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0274006(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016220996(DE,A1)
【文献】特開2009-174700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガスタンクであって、
ガスを収容するための内部空間を有するライナと、
前記ライナ上に積層され、カーボン繊維と第1樹脂とを有する強化層と、
前記強化層上の少なくとも一部に積層される中間層と、
前記中間層上に積層され、ガラス繊維と第2樹脂とを有する保護層と、
を備え、
前記中間層は、前記強化層および前記保護層に比べてガス透過性が高く、前記中間層内において、ガスを、前記ライナの表面に平行な面方向と、前記中間層の厚み方向と、に拡散させ、
前記強化層には、前記面方向に垂直な積層方向に沿って延びて前記強化層を貫通するクラックが形成され、
前記保護層には、前記積層方向に沿って延びて前記保護層を貫通するクラックが形成されている、
高圧ガスタンク。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧ガスタンクであって、
前記ライナは、円筒状のシリンダ部と、前記シリンダ部の両端に配置された半球面形状の一対のドーム部と、を備え、
前記中間層は、前記シリンダ部に形成されている
高圧ガスタンク。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高圧ガスタンクであって、
前記中間層は、前記高圧ガスタンクの周方向全体に設けられている
高圧ガスタンク。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の高圧ガスタンクであって、
前記中間層は、前記ライナの全面を覆うように形成されている
高圧ガスタンク。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の高圧ガスタンクであって、
前記中間層は、不織布を備える
高圧ガスタンク。
【請求項6】
高圧ガスタンクの製造方法であって、
ガスを収容するための内部空間を有するライナを用意し、
前記ライナ上に、カーボン繊維と第1樹脂とを有する強化層を形成し、
前記強化層上の少なくとも一部に、中間層を形成し、
前記中間層上に、ガラス繊維と第2樹脂とを有する保護層を形成し、
前記強化層を構成する前記第1樹脂と、前記保護層を構成する前記第2樹脂とを硬化させて、プレタンクを形成し、
前記プレタンクに対して、前記高圧ガスタンクについて予め定められた使用時の上限圧力を超える圧力の流体を充填して前記プレタンク内を加圧して、前記高圧ガスタンクと成し、
加圧後の前記中間層は、前記強化層および前記保護層に比べてガス透過性が高く、加圧後の前記中間層内において、ガスを、前記ライナの表面に平行な面方向と、前記中間層の厚み方向と、に拡散させ、
加圧後の前記強化層には、前記面方向に垂直な積層方向に沿って延びて加圧後の前記強化層を貫通するクラックが形成され、
加圧後の前記保護層には、前記積層方向に沿って延びて加圧後の前記保護層を貫通するクラックが形成される、
高圧ガスタンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガスタンクおよび高圧ガスタンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧のガスを貯蔵・収容するためのタンクとして、ガスを貯蔵する空間を有するライナと、ライナを覆うように設けられてタンクの内圧に対する強度を確保する補強層と、を備えるタンクが知られている。特許文献1では、補強層であるシェル本体部とライナとの間に、繊維を巻き付けて形成される最内層を設ける構成が開示されている。このような構成では、ライナを透過したガスである水素を最内層に留めることによって、最内層よりも外側の補強層を水素が通過することを抑えて、ライナを透過した水素に起因する補強層の損傷を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-106514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、繊維を巻き付けて形成される最内層は、表面が平滑に形成されるライナに比べて、表面の凹凸がより大きい。表面の凹凸がライナより大きい最内層上に補強層を設けると、補強層を形成する際に、最内層表面の凹凸形状によって補強層の形状が変化して、補強層内で局所的な応力が発生し、当該応力の発生によって補強層の強度が低下するという新たな問題点を、本願発明者等は見出した。そのため、ガスタンクの強度の低下を抑えつつ、ライナを透過した水素に起因する補強層の損傷を抑える技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の第1の形態の高圧ガスタンクは、ガスを収容するための内部空間を有するライナと、前記ライナ上に積層され、カーボン繊維と第1樹脂とを有する強化層と、前記強化層上の少なくとも一部に積層される中間層と、前記中間層上に積層され、ガラス繊維と第2樹脂とを有する保護層と、を備える。前記中間層は、前記強化層および前記保護層に比べてガス透過性が高く、前記中間層内において、ガスを、前記ライナの表面に平行な面方向と、前記中間層の厚み方向と、に拡散させる。前記強化層には、前記面方向に垂直な積層方向に沿って延びて前記強化層を貫通するクラックが形成され、前記保護層には、前記積層方向に沿って延びて前記保護層を貫通するクラックが形成されている。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、高圧ガスタンクが提供される。この高圧ガスタンクは、ガスを収容するための内部空間を有するライナと、前記ライナ上に積層され、カーボン繊維と第1樹脂とを有する強化層と、前記強化層上の少なくとも一部に積層される中間層と、前記中間層上に積層され、ガラス繊維と第2樹脂とを有する保護層と、を備え、前記中間層は、前記強化層および前記保護層に比べてガス透過性が高い。
この形態の高圧ガスタンクによれば、ライナを透過したガスを中間層内で面方向に広げることができ、強化層と保護層との間において局所的にガスが滞留することを抑える。そのため、ライナを透過したガスに起因する保護層の損傷を抑えることができる。さらに、中間層を強化層と保護層との間に設けるため、中間層を設けることに起因する高圧ガスタンクの強度低下を抑えることができる。
(2)上記形態の高圧ガスタンクにおいて、前記ライナは、円筒状のシリンダ部と、前記シリンダ部の両端に配置された半球面形状の一対のドーム部と、を備え、前記中間層は、前記シリンダ部に形成されていることとしてもよい。この形態の高圧ガスタンクによれば、ライナを透過したガスの保護層を介した高圧ガスタンク外への移動が比較的起こり難いシリンダ部に、中間層を設けることにより、強化層と保護層との間において局所的にガスが滞留することを抑え、保護層の損傷を抑えることができる。
(3)上記形態の高圧ガスタンクにおいて、前記中間層は、前記高圧ガスタンクの周方向全体に設けられていることとしてもよい。この形態の高圧ガスタンクによれば、ライナを透過して強化層内を通過したガスを、中間層によって周方向に広げることができるため、強化層と保護層との間において局所的にガスが滞留することを抑え、保護層の損傷を抑えることができる。
(4)上記形態の高圧ガスタンクにおいて、前記中間層は、前記ライナの全面を覆うように形成されていることとしてもよい。この形態の高圧ガスタンクによれば、強化層と保護層との間において局所的にガスが滞留することを抑える効果を、高圧ガスタンク全体で高めることができる。
(5)上記形態の高圧ガスタンクにおいて、前記中間層は、不織布を備えることとしてもよい。この形態の高圧ガスタンクによれば、不織布を備える中間層により、ライナを透過して強化層内を通過したガスを面方向に広げることができる。
本発明は、上記以外の種々の形態で実現することも可能であり、例えば、高圧ガスタンクの製造方法や、高圧ガスタンクを搭載する移動体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】高圧ガスタンクの断面模式図である。
図2】高圧ガスタンクの外壁の一部を拡大して示す断面模式図である。
図3】高圧ガスタンクの製造方法の概要を表わす工程図である。
図4】高圧ガスタンクの外壁の一部を拡大して示す断面模式図である。
図5】ガス拡散速度を測定するための測定装置の概略構成を表わす断面図である。
図6】ガス拡散速度の測定方法の概要を表わす工程図である。
図7】ガス拡散速度の求め方を示す説明図である。
図8】高圧ガスタンクの外壁の一部を拡大して示す断面模式図である。
図9】高圧ガスタンクのバースト試験の結果を表わす説明図である。
図10】高圧ガスタンクの概略構成を表わす説明図である。
図11】高圧ガスタンクの概略構成を表わす説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
(A-1)高圧ガスタンクの全体構成:
図1は、本発明の一実施形態としての高圧ガスタンク100の断面模式図である。高圧ガスタンク100は、高圧のガスを貯蔵するタンクである。本実施形態では、高圧ガスタンク100は、高圧ガスとして圧縮水素を貯蔵し、例えば、水素を燃料ガスとして用いる燃料電池を搭載する燃料電池車両に搭載される。高圧ガスタンク100は、ライナ10と、補強層70と、口金21,22と、を備える。
【0009】
ライナ10には、高圧ガスを収容ための空間を内部に有する。ライナ10は、軸線O方向に延びる円筒状に形成された部位であるシリンダ部16と、シリンダ部16に連続してシリンダ部16の両端に配置された略半球面形状の2つのドーム部17,18と、を備える。本実施形態のライナ10は、ポリアミド樹脂によって形成される。ライナ10を構成するポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12を挙げることができる。本実施形態では、ナイロン6によってライナ10を構成している。
【0010】
本実施形態では、ライナ10は、複数の部材を接合することによって構成されている。具体的には、ライナ10は、ライナ部材11,12,13を備え、この順で軸線O方向に配置されている。ライナ部材11とライナ部材12との間、および、ライナ部材12とライナ部材13との間は、例えば、赤外溶着、レーザ溶着、熱板溶着、振動溶着、あるいは超音波溶着等の方法により接合することができる。なお、ライナ10は、3以外の複数の部材によって構成してもよく、また、ライナ10全体を一体形成する等、複数の部材を接合する方法とは異なる方法により形成してもよい。また、ライナ10のドーム部17,18の各々の頂上には、口金21,22が配置されている。口金21,22は、例えば、インサート成形によって、ライナ部材11あるいはライナ部材12に接合される。
【0011】
補強層70は、ライナ10の外表面を覆うように形成されており、ライナ10を補強して、高圧ガスタンク100の強度、具体的には主としてタンク内圧に対する強度を、向上させる。補強層70は、CFRP層74と、ガス拡散層73と、GFRP層72と、樹脂層71と、を備える。本実施形態の高圧ガスタンク100は、補強層70において、CFRP層74とGFRP層72との間にガス拡散層73が設けられることに特徴がある。以下では、補強層70について、さらに詳しく説明する。
【0012】
図2は、高圧ガスタンク100の外壁の一部を拡大して示す断面模式図である。補強層70は、CFRP層74と、ガス拡散層73と、GFRP層72と、樹脂層71とが、ライナ10側からタンク外周側に向かってこの順で積層されることにより形成される。CFRP層74およびGFRP層72は、ライナ10の外表面上で巻回されている繊維と、この繊維に含浸される樹脂とを、構成材料として有する繊維強化プラスチック(FRP)によって形成される層である。具体的には、樹脂を含浸させた長繊維を、フィラメントワインディング法(以下、「FW法」と呼ぶ)によりライナ10の表面に巻回し、その後、樹脂を硬化させた層である。なお、補強層70には、後述するように、微細なクラック等が形成されているが、図2では上記クラック等は省略して表わしている。
【0013】
CFRP層74は、カーボン繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)を備える層である。補強層70における高圧ガスタンク100の強度(タンク内圧に対する強度)を確保する機能は、主としてCFRP層74が果たしている。本実施形態のCFRP層74は、樹脂を含浸するカーボン繊維をライナ10の表面に巻回した層として、上記繊維をフープ巻きしたフープ層と、上記繊維をヘリカル巻きしたヘリカル層と、を備える。「フープ巻き」とは、軸線O方向に対する繊維の巻き角度を略垂直とする巻き方であり、ライナ10のシリンダ部16の外周を被覆するために用いられる。「ヘリカル巻き」とは、軸線O方向に対する繊維の巻き角度を、フープ巻きよりも傾いた角度とする巻き方であり、ライナ10のシリンダ部16の外周に加えて、ドーム部17,18の外周を被覆するために用いられる。CFRP層74を構成するフープ層およびヘリカル層の数および積層の順序は、種々変更することが可能である。CFRP層74は、ライナ10の表面の全面を覆うように形成されている。CFRP層74は、「強化層」とも呼ばれる。
【0014】
GFRP層72は、ガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastics:GFRP)を備える層である。GFRP層72は、主として、タンク表面に対して外部から加えられる物理的あるいは化学的刺激からタンク内部を保護する機能を果たす。すなわち、GFRP層72は、CFRP層74等の下側の層が物理的に傷つけられることや、何らかの化学物質等が補強層70内部に浸入することを抑える。GFRP層72もCFRP層74と同様に、樹脂を含浸するガラス繊維がフープ巻きされたフープ層と、樹脂を含浸するガラス繊維がヘリカル巻きされたヘリカル層とを、任意の順序で任意の数を積層して形成することができる。本実施形態では、GFRP層72の最外層をフープ層にすることにより、ライナ10上でガラス繊維を巻き付ける際の張力の確保を容易にすると共に、GFRP層72の表面を平滑化している。GFRP層72は、ライナ10の表面の全面を覆うように形成されている。GFRP層72は、「保護層」とも呼ばれる。
【0015】
CFRP層74およびGFRP層72を構成する各層が備える樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。CFRP層74が備える樹脂を第1樹脂とも呼び、GFRP層72が備える樹脂を第2樹脂とも呼ぶ。本実施形態では、第1樹脂及び第2樹脂として、エポキシ樹脂を用いている。第1樹脂と第2樹脂とは、同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。第1樹脂と第2樹脂とが同じ種類である場合には、硬化促進剤や強化剤の有無、あるいは、硬化促進剤や強化剤を加える場合にはその種類や添加量を異ならせることにより、樹脂の性質を異ならせてもよい。
【0016】
ガス拡散層73は、CFRP層74およびGFRP層72に比べてガス透過性が高い層である。特に、本実施形態では、ガス拡散層73は、CFRP層74およびGFRP層72に比べて、ライナ10の表面に平行な方向(以下、面方向とも呼ぶ)のガス拡散速度が大きく、上記面方向のガス拡散速度が100Pa/s以上となっている。ガス拡散層73は、その厚み方向にもガスが拡散するが、CFRP層74とGFRP層72との間において面方向にガスを広げる程度を表わす指標として、本実施形態では、面方向のガス拡散速度を用いている。補強層70を構成する各層のガス拡散速度、および、ガス拡散速度の測定方法については、後に詳しく説明する。
【0017】
CFRP層74およびGFRP層72のようなFRP層においては、ガス透過性が高いほど、FRP層としての強度が低下する傾向があると共に、ガスを含む種々の物質を通し易くなる。そのため、既述したように高圧ガスタンク100の強度を主として確保するCFRP層74、および、CFRP層74を保護するためにCFRP層74よりも緻密に形成されるGFRP層72として、従来、面方向のガス拡散速度が100Pa/s以上の層を用いることはなかった。
【0018】
本実施形態では、ガス拡散層73は、ライナ10の表面の全面を覆うように形成されている。本実施形態のガス拡散層73は、不織布を用いて形成されている。上記不織布を構成する材料としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等の熱可塑性樹脂や、ポリウレタン、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、あるいはガラスを用いることができる。上記不織布を構成する材料は、補強層70の構成材料として十分な耐熱性や耐薬品性や強度を有していればよく、高圧ガスタンク100内にガス拡散層73として配置して用いられる環境下で安定であればよい。ガス拡散層73は、「中間層」とも呼ばれる。
【0019】
樹脂層71は、GFRP層72を構成する第2樹脂と同種の樹脂により形成されている。樹脂層71は、後述するように、高圧ガスタンク100の作製時にGFRP層72を構成する第2樹脂を硬化させる際に、溶融あるいは軟化した第2樹脂がGFRP層72の表面に浸み出すことにより形成される。樹脂層71は、GFRP層72と同様に、主として、タンク表面に対して外部から加えられる物理的あるいは化学的刺激からタンク内部を保護する機能を果たす。
【0020】
(A-2)高圧ガスタンクの製造方法:
図3は、高圧ガスタンク100の製造方法の概要を表わす工程図である。高圧ガスタンク100を製造する際には、まず、ライナ10を用意する(ステップS100)。そして、用意したライナ10上に、樹脂含浸カーボン繊維を用いてCFRP層74を形成する(ステップS110)。すなわち、第1樹脂を含浸させたカーボン繊維をFW法によりライナ10上に巻回する。その後、CFRP層74上に、ガス拡散層73を形成する(ステップS120)。本実施形態では、ポリエステル製の不織布を用いてガス拡散層73を形成している。具体的には、帯状のポリエステル不織布を、CFRP層74を形成したライナ10上に隙間無く巻き付けることによりガス拡散層73を形成する。その後、ガス拡散層73上に、GFRP層72を形成する(ステップS130)。すなわち、第2樹脂を含浸させたガラス繊維を、FW法により、ガス拡散層73を形成したライナ10上に巻回する。その後、CFRP層74およびGFRP層72を構成する樹脂を硬化させる(ステップS140)。樹脂の硬化は、例えば、加熱炉を用いた加熱や、高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いた誘導加熱手法により行なうことができる。ステップS140の硬化の工程により、ガス拡散層73を構成する不織布内形成される細孔の一部に、溶融あるいは軟化した第1樹脂および第2樹脂が侵入する。また、ステップS140の硬化の工程により、第2樹脂がGFRP層72の表面に浸み出して、樹脂層71が形成される。ステップS140の硬化の工程により得られるタンクを、プレタンクとも呼ぶ。
【0021】
ステップS140の後、ステップS140で得られたプレタンクについて耐圧試験を行ない(ステップS150)、高圧ガスタンク100を完成する。ステップS150の耐圧試験は、予め定められた試験圧力の流体をプレタンクに充填して、プレタンク内を加圧することによって、高圧ガスタンク100が上記試験圧力に耐えることを確認するための試験である。試験圧力は、高圧ガスタンク100について予め定められた使用時の上限圧力を超える圧力として、設定されている。本実施形態では、高圧ガスタンク100の使用時の上限圧力は、70MPaに設定されており、試験圧力は、105MPaに設定されている。また、耐圧試験時にプレタンクに充填する流体としては、水を用いている。試験圧力は、使用時の上限圧力よりも十分に高い圧力が設定されていればよく、高圧ガスタンク100に要求される耐圧性能等に応じて、適宜設定すればよい。また、耐圧試験時にプレタンクに充填する流体は、完成した高圧ガスタンク100に、高圧ガスタンク100に貯蔵すべきガス(本実施形態では水素)を充填する際に、タンク内から容易に除去することができ、高圧ガスタンク100内に充填される上記ガスの汚染を抑えることができるように、適宜選択すればよい。
【0022】
図4は、ステップS150の耐圧試験を経て完成された高圧ガスタンク100の外壁の一部を拡大して示す断面模式図である。ステップS150の耐圧試験の際には、高圧の流体の充填によりプレタンクが膨張し、その結果、補強層70内には微細なクラック等が生じる。図4では、ステップS150の耐圧試験により生じるクラック等を示している。図4に示すように、耐圧試験時のプレタンクの膨張により補強層70では、クラック等として、例えば層間剥離α、層内クラックβ、樹脂割れγが生じる。
【0023】
層間剥離αとは、ライナ10の表面に垂直な方向に積層される各層の間に形成されるクラックを指す。すなわち、層間剥離αは、面方向に沿って延びるように形成されるクラックである。層間剥離αは、例えば、GFRP層72と樹脂層71との間に形成される。あるいは、層間剥離αは、GFRP層72やCFRP層74が複数の層を積層して構成される場合に、GFRP層72内あるいはCFRP層74内において、GFRP層72やCFRP層74を構成する層間に形成される。
【0024】
層内クラックβとは、GFRP層72あるいはCFRP層74の内部において、面方向に垂直な方向(以下、積層方向とも呼ぶ)に沿って延びるように形成されるクラックである。GFRP層72は、ガス拡散層73側の表面から樹脂層71側の表面へと積層方向に沿って延びてGFRP層72内を貫通する層内クラックβを有する。CFRP層74は、ライナ10側の表面からガス拡散層73側の表面へと積層方向に沿って延びてCFRP層74内を貫通する層内クラックβを有する。
【0025】
樹脂割れγとは、樹脂層71の内部において、積層方向に沿って延びるように形成されるクラックである。耐圧試験により形成されるこれらのクラックは極めて微小であるため、高圧ガスタンク100の強度に対する影響は、無視することができる。あるいは、クラック等による高圧ガスタンク100の強度に対する影響が無視できない場合には、高圧ガスタンク100において所望の強度が得られるように、予め、CFRP層74等の厚み等を設定すればよい。これらの微小なクラックは、高圧ガスタンク100内に充填される水素がライナ10外に透過したときには、透過した水素を高圧ガスタンク100外に導くことができる。図4では、ライナ10を水素が透過する様子を、矢印にて表わしている。ステップS150でプレタンク内を加圧した後は、上記のようにクラック等が形成されることにより各層のガス透過性が高まる。このような加圧後であっても、ガス拡散層73は、CFRP層74およびGFRP層72に比べてガス透過性が高い。
【0026】
(A-3)ガス拡散速度について:
本実施形態の高圧ガスタンク100は、既述したように、ガス拡散層73を備えており、このガス拡散層73は、CFRP層74およびGFRP層72に比べてガス透過性が高い。高圧ガスタンク100は、このようなガス拡散層73を備えることで、ライナ10を透過してCFRP層74内を移動した水素を、ガス拡散層73内で拡散させることができる。既述したように、本実施形態のガス拡散層73は、CFRP層74およびGFRP層72に比べて面方向のガス拡散速度が大きく、面方向のガス拡散速度が100Pa/s以上となっている。以下では、高圧ガスタンク100の補強層70が備える各層の面方向のガス拡散速度の測定方法について説明する。
【0027】
図5は、ガス拡散速度を測定するための測定装置30の概略構成を表わす断面図であり、図6は、ガス拡散速度の測定方法の概要を表わす工程図である。図5に示すように、測定装置30は、外筒部31とプランジャ部32とを備え、外筒部31内には、プランジャ部32を押圧することにより加圧される加圧室34が形成されている。測定装置30には、加圧室34に連通する箇所に圧力センサ36が設けられており、加圧室34内の圧力を検出可能となっている。外筒部31には、サンプルを取り付けるためのコネクタ35が取り付けられており、コネクタ35の先端には、加圧室34と連通する開口部37が形成されている。ガス拡散速度を測定する際には、上記開口部37を塞ぐように、ガス拡散速度の測定対象となるサンプルが取り付けられる。また、加圧室34におけるコネクタ35との接続部である出口部には、図示しない開閉バルブが設けられている。本実施形態では、加圧室34の容積は、50cmである。上記加圧室34の容積には、加圧室34と圧力センサ36とを連通させる空間が含まれる。また、本実施形態では、加圧室34の出口部の開閉バルブから、サンプルが取り付けられる箇所までの空間、すなわち、コネクタ35内の空間の容積は、上記加圧室34の容積に比べて、無視できる程度に小さい。
【0028】
補強層70を構成する各層の面方向のガス拡散速度を測定する際には、まず、測定に用いるサンプルを調製する(ステップS200)。サンプルの調製は、以下のように行なう。最初に、高圧ガスタンク100の外壁の一部を、積層方向に貫通するように切り取る。高圧ガスタンク100の外壁の一部を切り取ると、切り取った外壁片において、ライナ10と補強層70とは、容易に分離することができる。その後、ライナ10から分離された補強層70において、高圧ガスタンク100の積層方向の外側寄りの層から順に、各層を研磨により削り取り、測定対象の層を、サンプルとして得る。測定対象のサンプルは、縦横の長さがそれぞれ20mmの矩形である。
【0029】
測定対象のサンプルを得ると、次に、測定対象のサンプルにおいて、面方向に平行な一対の面(図5に示す第1面S1および第2面S2)を、シール部38によって被覆する(ステップS210)。このとき、上記一対の面のうちの一方である第1面S1の中央に、シール部38によって被覆されない領域として、直径4mmの加圧領域を設ける。すなわち、上記シール部38は、加圧領域以外の第1面S1の部分、および、第2面S2に設ける。シール部38は、例えば、サンプルの表面に接着剤を塗布することによって形成することができる。接着剤としては、例えば、エポキシ系の接着剤や、シリコーン系の接着剤を用いることができる。
【0030】
サンプル表面にシール部38を形成すると、次に、サンプルの第1面S1に設けた加圧領域と、コネクタ35の先端の開口部37とが重なるように、コネクタ35の先端に対してサンプルを接着剤で気密に固定する(ステップS220)。そして、サンプルを固定した後、加圧室34の出口部の開閉バルブを閉じた状態で、測定装置30のプランジャ部32を押圧することによって、加圧室34内を、0.1MPaに加圧する(ステップS230)。その後、上記開閉バルブを開いて、開閉バルブを開いたときからの経過時間を測定すると共に、圧力センサ36を用いて加圧室34内の圧力を測定する。開閉バルブを開くことにより、加圧室34内の圧縮された空気は、コネクタ35の先端の開口部37から、サンプルの第1面S1の加圧領域を介して、サンプル内に流入する。このとき、サンプルの表面には上記したようにシール部38が設けられているため、サンプルに流入した空気は、サンプル内を面方向に流れ、サンプルの側面からサンプル外部に排出される。これに伴い、加圧室34内の圧力は低下する。その後、測定した上記経過時間および加圧室34内の圧力を用いてサンプルの面方向のガス拡散速度を算出する(ステップS240)。以下に、ガス拡散速度の算出方法を具体的に説明する。
【0031】
図7は、ガス拡散速度の求め方を示す説明図である。図7では、加圧室34内の圧力を0.1MPaに昇圧させた後に、既述した開閉バルブを開いた時間(タイミング)を、時間taとして示している。そして、時間taから120秒経過した後の時間を、時間tbとして示している。時間taから120秒の間に、サンプルを面方向に空気が透過することにより加圧室34内の圧力はPbまで低下する。図7では、時間taから時間tbまでの経過時間を「Δt=120s」として示し、0.1MPaからPbまでの加圧室34内の圧力低下を「ΔP」として示している。面方向のガス拡散速度(単位はPa/s)とは、上記ΔPをΔtで除することにより算出される値である。すなわち、加圧室34内の圧力を0.1MPaにしてガスの透過を開始して、120秒後の加圧室34の圧力低下量から求められる、1秒当たりの加圧室34の圧力低下量を指す。面方向にガスを通しやすいサンプルほど、加圧室34内の圧力は速やかに低下するため、ガス拡散速度の値は大きくなる。
【0032】
以上のように構成された本実施形態の高圧ガスタンク100によれば、補強層70内において、CFRP層74およびGFRP層72よりもガス透過性が高いガス拡散層73を設けることにより、ライナ10を透過した水素をガス拡散層73内で広げて、CFRP層74とGFRP層72との間で局所的に水素が滞留することを抑え、GFRP層72の損傷を抑えることができる。そして、本実施形態によれば、ガス拡散層73をCFRP層74上に設けるため、ガス拡散層73を設けることに起因する高圧ガスタンク100の強度低下を抑えることができる。以下では、上記の効果について、さらに説明する。
【0033】
まず、GFRP層72の損傷を抑える効果について説明する。ライナを透過した水素は、補強層70内をタンク外周側へと移動する。ライナ側に設けられたCFRP層74と、外周側に設けられたGFRP層72と、を備える高圧ガスタンクにおいて、保護層であるGFRP層72は、一般に、ガス透過性が比較的低い緻密な層として形成される。そのため、本実施形態のようにCFRP層74とGFRP層72との間にガス拡散層73を設けない場合には、ライナ10を透過してCFRP層74内を通過した水素は、CFRP層74とGFRP層72との境界に溜まり易くなる。そして、ライナ10における水素の透過や、CFRP層74内における積層方向の水素の移動は、各層内で均一に進行するわけではない。そのため、CFRP層74内では、水素の移動量に偏りが生じ、より多くの水素が移動した部位では、GFRP層72との境界において水素がより溜まり易くなる。既述したように、耐圧試験によって、GFRP層72には層間剥離αや層内クラックβが形成され、樹脂層71には樹脂割れγが生じる。これらのクラック等では水素が通過し易いが、これらのクラック等と、CFRP層74において水素の移動量が多い部位とが離間していると、CFRP層74とGFRP層72との境界に溜まった水素を補強層70外に十分に移動させることができない。
【0034】
このようにCFRP層74とGFRP層72との境界において局所的に水素が滞留すると、高圧ガスタンクの使用時にタンク内に水素が充填されたときに、上記滞留した水素の圧力が上昇する。その結果、GFRP層72および樹脂層71において、水素が滞留する箇所では亀裂(破れ)等の損傷が生じ得る。このような損傷は微小であり、また、高圧ガスタンクの強度は主としてCFRP層74によって確保されるため、上記損傷が生じても、高圧ガスタンクの強度が低下することはない。しかしながら、上記損傷が生じるときには、GFRP層72や樹脂層71の損傷に伴って異音が発生するという問題を生じる。
【0035】
本実施形態によれば、GFRP層72とCFRP層74との間にガス透過性が高いガス拡散層73を設けるため、CFRP層74を通過した水素は、CFRP層74とGFRP層72との間において局所的に滞留することなく、ガス拡散層73内を面方向に移動することができる。このように、CFRP層74とGFRP層72との間における水素の局所的な滞留を抑えることにより、上記したGFRP層72および樹脂層71の損傷、および、この損傷に伴う異音の発生を抑えることができる。本実施形態では、ガス拡散層73内を面方向に移動した水素は、ガス拡散層73内の広い範囲で保持されるだけでなく、GFRP層72において層間剥離αや層内クラックβ等が形成される箇所に到達すると、このような箇所において、効率良く補強層70外に導かれる。
【0036】
次に、ガス拡散層73を設けることに起因する高圧ガスタンク100の強度低下を抑える効果について説明する。
【0037】
図8は、比較例として、ライナ10とCFRP層74との間にガス拡散層73を設けた高圧ガスタンクの外壁の構成を、図4と同様にして示す断面模式図である。ライナ10とCFRP層74との間にガス拡散層73を設ける場合であっても、ライナ10を透過した水素をガス拡散層73内で面方向に移動させることにより、水素の局所的な滞留を抑えることができ、実施形態と同様に、GFRP層72および樹脂層71の損傷、および、この損傷に伴う異音の発生を抑える効果が得られる。しかしながら、この場合には、ライナ10とCFRP層74との間にガス拡散層73を設けることにより、高圧ガスタンクの強度が低下し得ることを、本願発明者等は見出した。
【0038】
図9は、高圧ガスタンクのバースト試験の結果を模式的に表わす説明図である。バースト試験とは、高圧ガスタンクに水を充填して行なう試験であり、高圧ガスタンクが破裂するまで充填する水の圧力を高め、高圧ガスタンクが破裂するときの水の圧力、すなわちバースト圧によって、高圧ガスタンクの強度を評価する試験である。図9では、「中間層無し」と「ライナ上に中間層有り」の2種類の高圧ガスタンクについて、バースト試験を行なった結果を示す。「中間層無し」とは、補強層70において、図2に示すCFRP層74、GFRP層72および樹脂層71は有するが、ガス拡散層73を有しない高圧ガスタンクを指す。「ライナ上に中間層有り」とは、図8に示す高圧ガスタンクであって、ライナ10とCFRP層74との間にガス拡散層73を設けた高圧ガスタンクを指す。
【0039】
図9に示すように、「ライナ上に中間層有り」の高圧ガスタンクは、「中間層無し」の高圧ガスタンクに比べて、バースト圧が低下して強度が低くなる。図9では、「ライナ上に中間層有り」の場合には「中間層無し」の場合に比べて約2.5%バースト圧が低くなる結果を示している。これは、「ライナ上に中間層有り」の高圧ガスタンクでは、CFRP層74をガス拡散層73上に形成することにより、CFRP層74が形状変化するためと考えられる。すなわち、ガス拡散層73は、ライナ10に比べて表面の凹凸の程度が大きく、このようガス拡散層73上にCFRP層74を設ける場合には、CFRP層74は、ガス拡散層73の表面の凹凸形状を反映しつつ形成されることにより、平坦面上にCFRP層74を形成する場合に比べて形状変化する。その結果、バースト試験時に高圧ガスタンクが膨張するときには、表面が平滑なライナ10上に形成したCFRP層74に比べて、CFRP層74内で、より大きな応力が発生すると考えられる。そして、CFRP層74は、高圧ガスタンクの強度を主として確保する層であるため、CFRP層74内でより大きな応力が発生すると、高圧ガスタンクの強度が低下して、バースト圧が低下すると考えられる。このように、ライナ10とCFRP層74との間にガス拡散層73を形成する場合には、ガス拡散層73内で水素が拡散することにより、既述したGFRP層72の損傷を抑える効果は得られるものの、高圧ガスタンクの強度が低下する。そして、高圧ガスタンクの強度を確保するためには、CFRP層74をより厚く形成する必要が生じる等の不都合が生じ得る。
【0040】
本実施形態の高圧ガスタンク100によれば、CFRP層74とGFRP層72との間にガス拡散層73を設けている。このように、表面が平滑なライナ10上にCFRP層74を設けるため、ガス拡散層73の形状に起因してCFRP層74が形状変化することがない。そのため、CFRP層74において、高圧ガスタンク100の強度低下を引き起こすような局所的な応力の発生が抑えられる。したがって、本実施形態の高圧ガスタンク100によれば、ライナ10上にCFRP層74を形成した図9の「中間層無し」のタンクと同様に、バースト圧を確保し、ガス拡散層73を設けることに起因する高圧ガスタンク100の強度低下を抑える効果が得られる。
【0041】
また、図8に示す比較例の高圧ガスタンクでは、CFRP層74よりもライナ10側にガス拡散層73を設けるため、ガス拡散層73において水素が面方向に広がっても、CFRP層74における水素の透過に偏りがあると、やがて、ガス透過性がより低いGFRP層72とCFRP層74との間で局所的に水素が滞留する可能性がある。本実施形態によれば、CFRP層74とGFRP層72との間にガス拡散層73を設けるため、CFRP層74における水素の透過に偏りがあっても、GFRP層72におけるライナ10側の面上で、局所的に水素が滞留することを抑えることができる。その結果、GFRP層72の損傷を抑え、GFRP層72の損傷に起因する異音の発生を抑えることができる。
【0042】
B.第2実施形態:
図10は、第2実施形態の高圧ガスタンク200の概略構成を模式的に表わす説明図である。第2実施形態の高圧ガスタンク200は、ガス拡散層73が設けられる範囲が異なること以外は、第1実施形態の高圧ガスタンク100と同様の構成を有している。第2実施形態の高圧ガスタンク200では、シリンダ部16には、CFRP層74とGFRP層72との間にガス拡散層73が設けられているが、ドーム部17,18にはガス拡散層73が設けられていない。ドーム部17,18は、GFRP層72においてヘリカル層のみが形成されてフープ層を有しないため、表面にフープ層を有するシリンダ部16に比べて、補強層70の表面の凹凸がより大きくなる。そのため、耐圧試験時に高圧ガスタンク100が膨張する際に、樹脂層71およびGFRP層72を含む補強層70の表面部分では、ドーム部17,18においてシリンダ部16よりも大きな応力が発生し、クラック等が、より多く発生する。クラック等がより多く発生する箇所では、上記補強層70の表面部分を介して、ライナ10を透過した水素が高圧ガスタンク100外に移動し易いため、CFRP層74とGFRP層72との境界に水素が局所的に滞留し難くなる。第2実施形態では、上記表面部分におけるクラック等の発生が比較的少ないシリンダ部16においてガス拡散層73を設けることにより、ドーム部17,18にガス拡散層73を設けない場合であっても、CFRP層74とGFRP層72との界面における水素の局所的な滞留を抑える既述した効果を得ることができる。
【0043】
C.第3実施形態:
図11は、第3実施形態の高圧ガスタンク300の概略構成を模式的に表わす説明図である。第3実施形態の高圧ガスタンク300は、ガス拡散層73が設けられる範囲が異なること以外は、第1実施形態の高圧ガスタンク100と同様の構成を有している。第3実施形態の高圧ガスタンク300では、GFRP層72におけるガラス繊維の巻き終わりの箇所である巻き終わり端部375が形成される領域は、ガス拡散層73が設けられておらず、上記巻き終わり端部375が形成される領域以外の領域において、CFRP層74とGFRP層72との間にガス拡散層73が設けられている。
【0044】
巻き終わり端部375は、例えば、樹脂を含浸したガラス繊維を、ライナ10の周方向に沿って1周させた後に、1周させる前のガラス繊維に絡めて交差させることにより、形成することができる。あるいは、上記周方向に1周させた箇所とは異なる箇所において、ガラス繊維を当該ガラス繊維に絡めて交差させることにより、巻き終わり端部375を形成してもよい。巻き終わり端部375をGFRP層72の表面に固定する動作は、巻き終わり端部375が備える樹脂をGFRP層72の表面で硬化させることにより行なうことができる。上記巻き終わり端部375の固定は、補強層70全体の硬化と同時であってもよく、補強層70全体の硬化に先立って行なってもよい。第3実施形態では、このような巻き終わり端部375を設ける箇所を予め定めておき、ステップS120では、上記巻き終わり端部375を設ける箇所を含まない領域に、ガス拡散層73を形成する。
【0045】
GFRP層72におけるガラス繊維の巻き終わり端部375の近傍は、繊維が交差するなどにより、他の領域に比べて補強層70の表面の凹凸が大きくなっている。そのため、耐圧試験時に高圧ガスタンク100が膨張する際に、樹脂層71およびGFRP層72を含む補強層70の表面部分では、上記巻き終わり端部375が形成される領域において他の領域よりも大きな応力が発生し、クラック等が、より多く発生する。クラック等がより多く発生する箇所では、上記補強層70の表面部分を介して、ライナ10を透過した水素が高圧ガスタンク100外に移動し易いため、CFRP層74とGFRP層72との境界に水素が局所的に滞留し難くなる。第3実施形態では、巻き終わり端部375が形成される領域とは異なる領域にガス拡散層73を設けることにより、上記巻き終わり端部375が形成される領域にガス拡散層73を設けない場合であっても、CFRP層74とGFRP層72との界面における水素の局所的な滞留を抑える既述した効果を得ることができる。
【0046】
既述した耐圧試験(ステップS150)においてGFRP層72および樹脂層71に生じるクラック等(層間剥離α、層内クラックβ、樹脂割れγ等)が比較的多い箇所であれば、第2および第3実施例とは異なる箇所に、ガス拡散層73を設けない領域を設けてもよい。また、例えば、第2実施形態のようにシリンダ部16にガス拡散層73を設ける場合であっても、シリンダ部16において、第3実施形態の巻き終わり端部375のように補強層70の表面部分でクラック等が生じ易い箇所がある場合には、当該箇所にはガス拡散層73を設けないこととしてもよい。また、上記各実施形態では、ガス拡散層73を高圧ガスタンク100の周方向全体に連続して設けたが、異なる構成としてもよい。補強層70の表面部分でクラック等が生じ難い箇所が、高圧ガスタンク100の周方向全体に連続して形成されていない場合には、ガス拡散層73は、上記クラック等が生じ難い箇所のみに形成することとしてもよい。
【0047】
D.他の実施形態:
上記各実施形態では、中間層であるガス拡散層73は、不織布を用いて形成されているが、異なる構成としてもよい。また、上記各実施形態では、面方向のガス拡散速度が100Pa/s以上のガス拡散層73を用いたが、ガス拡散層73の面方向のガス拡散速度は、異なる値としてもよい。ガス拡散層73は、強化層であるCFRP層74および保護層であるGFRP層72に比べて、ガス透過性が高ければよい。ガス拡散層73のガス拡散性が高く、また、面方向のガス拡散速度が大きいほど、CFRP層74野下でガスが滞留することを抑える効果を高めることができる。
【0048】
ガス拡散層73は、不織布の他、例えば、発泡体や、繊維強化プラスチック層(FRP層)によって形成することができる。ガス拡散層73をFRP層によって形成する場合には、繊維としてカーボン繊維を用いてCFRP層74に連続して形成してもよく、繊維としてガラス繊維を用いてGFRP層72に連続して形成してもよい。あるいは、繊維として、例えばアラミド繊維等、カーボン繊維およびガラス繊維とは異なる繊維を用いて、ガス拡散層73としてのFRP層を形成してもよい。ガス拡散層73をFRP層によって形成する場合であって、繊維としてカーボン繊維やガラス繊維を用いる場合には、ガス拡散層73とCFRP層74の間、あるいはガス拡散層73とGFRP層72との間で、構成材料である繊維を共通化することができる。また、ガス拡散層73の製造時と、CFRP層74あるいはGFRP層72の製造時とにおいて、製造装置を共通化することが可能になる。その結果、製造コストの低減が可能になる。
【0049】
FRP層によってガス拡散層73を形成する場合には、用いる繊維の種類、FRP層に含まれる樹脂の硬化前の接触角(すなわち、硬化後の樹脂と繊維との間の接着強度)、FRP層における繊維の巻き方、FRP層を形成するために繊維を巻き付ける工程において繊維が樹脂を含浸しているか否か、等によって、得られるガス拡散層73のガス透過性を調節することが可能である。例えば、硬化後の樹脂と繊維との間の接着強度を低くすることで、耐圧試験時においてガス拡散層73内により多くのクラック等が形成されるようになり、ガス拡散層73におけるガス透過性を高めることが可能になる。また、繊維の巻き角度、すなわち、高圧ガスタンクの軸線方向と繊維の角度が大きく、フープ巻きに近い程、ガス拡散層73における面方向のガス拡散速度が小さくなる。また、繊維を巻回する際に、巻回する繊維間の距離を大きくするほど、得られるガス拡散層73における面方向のガス拡散速度を高めることができる。あるいは、ガス拡散層73を形成するためにFW法により繊維を巻き付ける際に、ガス拡散層73が備える樹脂量を低減することにより、ガス拡散層73のガス透過性を高めることができる。例えば、ガス拡散層73を形成するための繊維の巻回時には、樹脂を含浸していない繊維を用い、ガス拡散層73は、樹脂の硬化時にCFRP層74から浸み出した第1樹脂およびGFRP層72から浸み出した第2樹脂のみを備えることとしてもよい。この場合には、樹脂を含浸した繊維を用いてガス拡散層73を形成する場合に比べて、ガス拡散層73のガス透過性を高めることができる。
【0050】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10…ライナ、11,12,13…ライナ部材、16…シリンダ部、17,18…ドーム部、21,22…口金、30…測定装置、31…外筒部、32…プランジャ部、34…加圧室、35…コネクタ、36…圧力センサ、37…開口部、38…シール部、70…補強層、71…樹脂層、72…GFRP層、73…ガス拡散層、74…CFRP層、100,200,300…高圧ガスタンク、375…巻き終わり端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11